説明

ポストコンディショニング臓器保護作用を増強する治療補助薬

本発明は、虚血により傷害を受けた臓器または組織の再灌流を、ポストコンディショニング(事後条件付け)の効果を増強する1種以上の組織保護剤の投与と組合わせて、ポストコンディショニングする方法を提供する。さらに、心臓再灌流後の心臓への障害を予防するために、ポストコンディショニングの効果を増強する1種以上の組織保護剤の投与と組合わせて、対象の心筋梗塞を処置する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2004年12月22日に出願した米国仮出願番号60/638,461に対する優先権を主張する。上記出願はその全文を参照により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は虚血によって傷害を受けた臓器および組織の処置に関する。とりわけ、本発明は虚血事象を経た臓器および組織における再灌流傷害を予防することに関する。
【背景技術】
【0003】
心臓病はアメリカ人労働者の早発性永久的障害の主要原因であり、社会保障制度障害支払いの略20%を占める。約2000万人のアメリカ人が心臓病の影響下に生活し、600万を超える人々が毎年心臓発作を起こしている。毎年、初めての心臓発作を起こした患者の略50%が、心筋梗塞のために死亡する。
【0004】
心臓は正常かつ持続的な機能のために、恒常的な途切れることのない血液の供給を必要とする。患者が心臓発作を起こした場合、心臓部分への血流が停止し、虚血を起こす。心臓はその機能的能力を喪失し、心臓の虚血部分が死への危機状態となり、心臓組織の集中的壊死を起こす。心臓発作は経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)によるか、またはより侵襲的手法である冠動脈バイパス移植手術(CABG)により処置することができる。どちらの手法も、遮断された血管(冠動脈)を押し開いて心臓筋肉への血液供給を復旧させることが可能であり、この方法を再灌流と呼称する。血栓溶解療法、PTCA、またはCABGによる虚血心筋層の早い段階での再灌流の有益な効果が、現在、確立されているが、増大する研究数によると、再灌流は虚血性の心臓筋肉にさらに傷害をもたらすこと、例えば、心筋壊死の拡大、すなわち、梗塞サイズ拡張および収縮機能と代謝の損傷などを誘発する。再灌流傷害は急激に拡がるばかりでなく、心臓発作後、数日にわたって拡大し得る。
【0005】
ポストコンディショニング(事後条件付け)は、全体が、または略全体がすでに虚血状態となっている臓器または組織に対する再灌流傷害を有意に減少させる処置方法であるが、その場合の灌流(血流)条件は、再灌流の開始に際し改変される。ポストコンディショニングは開始時点で適用される冠動脈の動脈再灌流における一連の短い反復性の断絶を特徴とする。再流のバーストと引き続く閉塞性断絶は、大型動物モデルにおける30秒間隔から、小型のげっ歯類モデルにおける10秒間隔までの範囲の秒単位で持続する[50、51]。ヒトでの予備的研究では、1分間隔の再灌流とそれに続く血流の断絶を、カテーテルによる経皮的冠状介入(PCI)に際し、使用した[52]。
【0006】
この技術において必要とされるものは、全体が、または略全体が虚血となっている臓器または組織における再灌流傷害をさらに減少させるポストコンディショニングの有益な効果を増強する方法である。従って、本明細書にて提供される方法は、ポストコンディショニングの有益な効果を増強する方法であって、1種以上の組織保護剤の有効量をポストコンディショニングとの組み合わせで投与することからなる方法である。
【発明の開示】
【0007】
本発明は、虚血事象後の臓器または組織への再灌流の前、その間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を予防する方法であって:a)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を停止すること;b)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を再開すること;c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;d)臓器または組織の灌流を中断させないこと;およびe)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法を提供する。
【0008】
また、心臓の虚血事象と診断された対象の心臓への傷害を予防する方法であって:
a)冠状動脈の内腔の障害物を取り除くこと;b)約5秒ないし約5分間、心臓を灌流すること;c)約5秒ないし約5分間、心臓の灌流を停止すること;d)処置b)およびc)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;e)心臓の灌流を中断させないこと;およびf)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の心臓に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法が提供される。
【0009】
本発明は、虚血事象後の臓器または組織への再灌流の前、その間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を予防する方法であって:a)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を減少させること;b)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を再開すること;c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;d)臓器または組織の灌流を中断させないこと;およびe)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法を提供する。
【0010】
また、心臓の虚血事象と診断された対象の心臓への傷害を予防する方法であって:
a)冠状動脈の内腔の障害物を取り除くこと;
b)約5秒ないし約5分間、心臓を灌流すること;
c)約5秒ないし約5分間、心臓の灌流を減少させること;
d)処置b)およびc)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;
e)心臓の灌流を中断させないこと;および
f)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の心臓に対する傷害を予防すること;
を特徴とする方法が提供される。
【0011】
図面の簡単な説明
図1は虚血(I)および再灌流(R)後の心筋層に対するポストコンディショニングにおける一つの可能な変動の影響を決定するために使用した実験プロトコールを示す。対照群(n=10);ポスト−コン(n=10);プレ−コン(n=9);虚血プレコンディショニングは、左前下降冠状動脈(LAD)閉塞の60分前、5分間の冠状閉塞と、引き続く10分間の再灌流により誘発した;また、ポストコンディショニングは、3時間の再灌流の前、それぞれ3サイクルの30秒間の再灌流と、引き続く30秒間の閉塞とした。ポスト−コンはポストコンディショニング;プレ−コンはプレコンディショニングである。
【0012】
図2はプレコンディショニング染色に対比して、塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)により決定した虚血ポストコンディショニングによる心筋梗塞サイズの縮小を示す棒グラフである。左心室(LV)マスに比例するリスク(AAR)の範囲(AAR/LV)と壊死の範囲(AN)をAARのパーセント(AN/AAR)として表した。虚血ポストコンディショニングは、対照群と比較してAN/AARを48%有意に低下させ、従って、虚血プレコンディショニングに対し、心臓保護が等能力であることを示した。対照群に対し、P<0.05。値は群平均±S.E.M.である。
【0013】
図3は虚血ポストコンディショニングによるLAD灌流心筋層における心筋浮腫の縮小を示す棒グラフである。正常:非虚血ゾーン;Isch−epi:虚血心外膜下;Isch−endo:虚血心内膜下。虚血ポストコンディショニングは、対照群と比較して組織含水量を有意に低下させた。正常ゾーンに対し、P<0.05。対照群に対し、†P<0.01。値は群平均±S.E.M.である。
【0014】
図4は冠状閉塞と再灌流の過程での血漿クレアチン・キナーゼ(CK)活性を示すグラフである。血漿CK活性は、ベースラインと虚血後の2群間で同等であった。梗塞サイズの減少と矛盾なく、虚血ポストコンディショニングは対照群値に比例して、再灌流2時間目からCK活性を有意に低下させた。値は平均±S.E.M.である。対照群に対し、P<0.05。ベースラインとIsch値に対し、P<0.01。対照群に対し、p<0.05。
【0015】
図5は、虚血−再灌流心筋層における局所性経壁心筋血流を示す線グラフである。ベースラインでの値および虚血の間の値は、2群間で同等であった。15分間の再灌流に際しての充血が、虚血性プレ−およびポストコンディショニングにより有意に阻害された。値は平均±S.E.M.である。虚血に対し、P<0.05=対照群に対し、†P<0.05。
【0016】
図6は、非虚血左回旋冠状動脈(LCX)冠状動脈輪および虚血−再灌流(LAD)冠状動脈輪の虚血後−再灌流内皮機能を示す線グラフであり、臓器チェンバー中のアセチルコリンの増大する濃度への応答として評価したものである。再灌流時のアセチルコリンに対する応答は、非虚血性LCX冠状動脈輪の応答に対して、有意に鈍かった。虚血ポストコンディショニングにおける応答は有意に上昇したが、このことはポストコンディショニングよるより良好な内皮機能と虚血−再灌流傷害の回避を示唆している。値は、イヌ5匹からの少なくとも12の輪の平均±S.E.M.である。虚血ポスト−およびプレ−コンディショニングに対する対照群のLADP<0.05。
【0017】
図7は、血管平滑筋拡張剤ニトロプルシドに対する非虚血LCX冠状輪の応答と、虚血−再灌流(LAD)冠状輪の応答を示す線グラフである。群間の差はすべての群において検出されなかったが、このことは血管平滑筋の機能が正常であり、群間で同等であったことを示唆している。
【0018】
図8は、プレコンディショニングに対し、虚血ポストコンディショニングによる冠状内皮への未刺激蛍光標識好中球の付着の阻害を示す棒グラフである。付着の程度は、冠状動脈内皮が受けた傷害の程度と相関し、一酸化窒素またはアデノシンの基礎的生成の喪失に関係する。LCX:非虚血左回旋冠状動脈;LAD:虚血/再灌流左前下降冠状動脈;Post−LAD:虚血ポストコンディショニング群のLAD;Pre−LAD:虚血プレコンディショニング群のLAD。虚血プレコンディショニングによる保護と同様の強さで、虚血ポストコンディショニングは、対照群と比較して、冠状内皮への好中球付着を阻害した。値は群平均±S.E.M.である。LCXに対し、P<0.05;対照群におけるLADに対し、HP<0.01。
【0019】
図9は、LAD虚血および再灌流後の異なる実験群における非虚血(正常)ゾーンおよび虚血ゾーンでの好中球蓄積のマーカーとしての組織ミエロペルオキシダーゼ(デルタ吸光度Δ単位/分(abs/min.)でのMPO)活性を示す。上昇したMPO活性は、対照AARにおける再灌流の終点で見られた。虚血ポストコンディショニングは対照群と比較して、MPO活性を有意に低下させ、プレコンディショニング群と同等であった。棒グラフの高さは平均±SEMを表す。正常組織に対して、P<0.05;対照群に対してのポスト−コンおよびプレ−コン群、†P<0.05。
【0020】
図10は虚血−再灌流のラットモデルにおける研究プロトコールの説明図を示す。斜交平行線付きの棒グラフ=ナトリウム−水素交換インヒビターのカリポリドを静脈内投与した時点。垂直平行線棒グラフ=ポストコンディショニング・アルゴリズム。対照(n=8);左冠状動脈(LCA)を閉塞し、次いで3時間再灌流した(白色棒グラフ)。ポスト−コン(n=8):10秒間の完全再灌流(R、白色棒グラフ)および10秒間の再閉塞虚血(I、暗色棒グラフ)を3サイクル繰り返した。NHE(1)(n=8);カリポリド(1mg/kg)を再灌流前5分に注射し、次いで、抑制のないRとした。NHE(1)+ポスト−コン(n=8);カリポリド、次いでポスト−コン。遅延(D)−NHE(1)(n=8):1分間の完全に抑制のない再灌流後の5分間にカリポリドを注射した。ポスト−コン+D−NHE(1)(n=8);ポスト−コン、次いで5分間カリポリド注射。ポスト−コン=ポストコンディショニング、NHE(1)=1mg/kgカリポリド。
【0021】
図11は、左心室(LV)のパーセントで表したリスク範囲(AAR)とAARのパーセントで表した壊死の範囲(AN)を示す。梗塞サイズはANとAARのパーセントで表す。すべての群において、梗塞サイズは対照に比較し、縮小していた。ポスト−コン+D−NHE(1)群に観察される梗塞サイズの縮小は、ポストコンディショニング単独よりも有意に大きかった。対照に対し、p<0.05、対照に対し、p<0.001。ポスト−コン=ポストコンディショニング。値は平均±SEMである。
【0022】
発明の詳細な説明
留意すべき点は、本明細書および添付の請求項にて使用する場合、単数の不定冠詞、定冠詞は、その文脈が特に明瞭に指示しない限り、複数の指示対象をも包含することである。従って、例えば、「1薬剤」という場合はその薬剤の複数のコピーを含み、1種以上の特定の薬剤をも包含する。
【0023】
経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)および/または冠状動脈バイパス移植手術(CABG)と関連する虚血性心疾患の処置に適用する場合の、保護作用を提供することによる虚血/再灌流した心臓筋肉の障害を最少とする方法が、本明細書にて提供される。本方法(ポストコンディショニング)は、1種以上の組織保護剤の投与と組合わせて、他の臨床状況、例えば、提供者の臓器が一過性の虚血、腎臓血管形成術、および脳または脳周囲の血栓剥離を受けたことのある場合の臓器移植後の状況に適用することができる。さらに、ポストコンディショニングは薬理学的治療法と関連させて適用し得るし、あるいはポストコンディショニングに関係するメカニズムのメディエーターを利用する薬理学的治療法により擬似化することができる。本明細書にて使用する場合、「ポストコンディショニング再灌流」とは、以前に虚血の影響を受けたことのある臓器または組織について、灌流を停止または減少させ、次いで灌流を再開する繰り返しサイクルを適用することを意味する。本明細書にて使用する場合、「灌流」および「灌流する」とは、臓器または組織を通しての、またはそれら内での血流を意味する。本明細書にて使用する場合、「再灌流」とは臓器または組織への、またはその通過、または内部の血流が一時期中断した後に、臓器または組織への、またはその通過、または内部の血流が復元すること、または回復することを意味する。
【0024】
本明細書にて使用する場合、「傷害」とは、例えば、浮腫(膨潤)、白血球による臓器または組織の機能喪失および/または浸潤、壊死および/またはアポトーシスなどにより証明されるような、臓器または組織の傷害または潜在的傷害または機能不全を意味する。傷害は、例えば、臓器または組織を構成する細胞の殆ど知覚できない程小さい腫脹であり得る。さらに、傷害は虚血期間(虚血事象)の間および/またはその後、または再灌流期間(再灌流傷害)後に生じる臓器または組織への損傷を含み得る。本明細書にて使用する場合、「傷害を受けた」または「標的の」臓器または組織とは、虚血または再灌流からのある種の潜在的な損傷を有したことのある、または有し得る臓器または組織である。「白血球」は好中球、リンパ球、単球、マクロファージ、好塩基球または好酸球であり得る。本明細書にて使用する場合、「虚血」とは臓器または組織への中断された血液供給を意味し、例えば、動脈の機械的な閉塞(すなわち、血栓症または塞栓)、動脈の外部からの圧迫、血管痙攣を原因とする動脈の狭窄、動脈から臓器への血流を医原的に遮断すること(例えば、一対象から外科的に取り出し、続いて別の対象に移植するべき臓器)、および/または低血圧(低血液圧力)などを原因とするものである。低血圧は心臓の不整脈、血管拡張と引き続く下肢での血液滞留を惹き起こす神経原性反射(例えば、血管迷走神経反射)、対象による不適切な体液取込、または外傷性創傷後の対象の失血を原因とする血液量減少症(すなわち、血管内液量の減少)などから生じ得る。
【0025】
従って、「虚血性傷害」とは、臓器または組織への血流の中断(すなわち、虚血事象)から生じる臓器または組織に対する損傷または潜在的損傷を意味する。本明細書にて使用する場合、「再灌流傷害」とは虚血事象に際しての、またはその後の臓器または組織への血流の回復から生じる臓器または組織に対する損傷または潜在的損傷である。「虚血事象」とは臓器または組織への血液供給の中断である。本明細書にて使用する場合、「完全な」虚血事象とは、臓器または組織への血液供給の完全な中断である。本明細書にて使用する場合、「略完全な」虚血事象とは、臓器または組織への血液供給の不完全な中断である。虚血事象の対象となり得る、および/または虚血性傷害を受け得る臓器または組織の例は、限定されるものではないが、心臓、脳、眼、腎臓、腸、膵臓、肝臓、肺および骨格筋である。
【0026】
さらに、臓器または組織移植の事例において、対象が供給者から臓器または組織を受容する場合、ここに開示した方法は、移植臓器が受容者に移植され、血管付加物が完全となった後に使用し得る。ポストコンディショニングにより処置し得る臓器の例は、限定されるものではないが、肺、肝臓、膵臓、心臓および腎臓である。
【0027】
従って、提供される方法は、虚血事象後の臓器または組織への再灌流の間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を予防する方法であって:a)約5秒ないし約5分間、臓器または組織の灌流を停止すること;b)約5秒ないし約5分間、臓器または組織の灌流を再開すること;c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;そしてd)臓器または組織の灌流の停止を終了すること、それによって該対象の虚血事象後の再灌流の間の、またはその後の対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法である。
【0028】
また、本発明は虚血事象後の臓器または組織への再灌流の前、その間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を予防する方法であって:a)約5秒ないし約5分間、臓器または組織の灌流を減少させること;b)約5秒ないし約5分間、臓器または組織の灌流を再開すること;c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;そしてd)臓器または組織の灌流の減少を終了すること、それによって該対象の虚血事象後の再灌流の間の、またはその後の対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法を提供する。本明細書にて使用する場合、「灌流を減少させる」とは、血液または他の液体での灌流量を減少させ、臓器または組織に対する傷害を予防することを意味する。例えば、予測される血流の約20%、15%、10%または5%に灌流を減少させることが考えられる。また、単一の手法において灌流を停止および減少させることの組み合わせも考えられる。
【0029】
本明細書にて使用する場合、対象は飼育動物、例えば、ネコ、イヌなど、家畜類(例:ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなど)、実験室動物(例:マウス、ウサギ、ラット、モルモットなど)および鳥類である。好ましくは、該対象は霊長類などの哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0030】
本明細書にて提供されるように、再灌流を確立した後、虚血を受ける臓器または組織に対する傷害は、臓器または組織の灌流を繰り返し停止または減少させ、次いで臓器または組織の灌流を回復することにより、予防することができる。灌流の停止または減少および灌流の回復のサイクルは、約2回から約50回繰り返すことができる。臓器または組織の灌流の停止または減少は、約5秒ないし約5分間持続させ、次いで、臓器または組織の灌流を回復させ、それを約5秒ないし約5分間持続させることができる。血流の停止時間は手法実施の間に増減することができる;すなわち、再灌流の第一サイクルは30秒持続し、停止は30秒であるが、続くサイクルは10秒間の再灌流、次いで40秒間の停止、次のサイクルは10秒間の再灌流、次いで50秒間の虚血である。あるいは、停止の時間はサイクルの進行につれて、短縮することができる。灌流の停止または減少および開始の最終サイクルの後、血流を衰えさせずに回復するか、またはある程度の制御下に置くことができる。例えば、最終の再灌流−停止のサイクルの後、血流をゆっくりと開始し、正常な血流に達するまで、次第に増加させることができる。当業者は技術上既知のアルゴリズムを用いて、血流が再開する速度を決定することができる。
【0031】
当業者は、臓器または組織に血液を供給する血管の内腔に、血管内の血流を一時的に遮断するために使用し得る機械装置を導入することにより、臓器または組織の灌流を停止または減少させることができる。選択した時間経過後、臓器または組織の灌流を回復するために該装置の操作をすることができる。選択したサイクル数の灌流の停止または減少および臓器または組織の灌流の回復を実施した後、当業者は血管の内腔から装置を取り除き、再灌流(すなわち、臓器または組織への血流)を回復することができる。血管は動脈でも静脈でもよく、好ましくは動脈である。
【0032】
ポストコンディショニング再灌流に使用し得る機械装置の一例は、傷害を受けた臓器または組織への血流を遮断するために、血管内腔内で膨らむことができ、障害を受けた臓器または組織に血流を回復させるたに、しぼむことの可能な医療用バルーンを装着したカテーテルである。カテーテル/バルーン装置は、対象の血管に、手術手技の際に、経皮的または直接に血管に導入し得る。カテーテル/バルーンを血管腔内に配置した後、当業者は周知の方法に従って、エックス線制御下に、それを特定の動脈に誘導することができる。
【0033】
別の側面において、陥凹型カテーテルを対象の血管に導入し得る。カテーテル内腔の直径は、血液、液体または血液/液体組み合わせが標的とする臓器または組織へそれを経由して流れるように、十分な大きさのあるものである。該カテーテルは対象の外部にあるポンプに接続することができる。該ポンプは標的とする臓器または組織にカテーテルを通して、血液、晶質液または晶質液中の血液の組み合わせをポンプで送るために活動させ得るものであり、また標的とする臓器または組織への血流を停止または減少させるために止め得るものである。虚血傷害を受けたことのある臓器または組織の再灌流が確立された後、当業者は標的とする臓器または組織の灌流を停止または減少させるために、ポンプを止めることができる。選択した時間、例えば、約5秒ないし約5分間の経過後、当業者はポンプを活動させ、標的とする臓器の灌流を、約5秒ないし約5分間、開始することができる。ポンプは標的とする臓器または組織の灌流を約2サイクルないし約50サイクル、停止または減少、および開始させるために使用し得る。カテーテル灌流技法によるポストコンディショニングが終了した後、カテーテルは対象から取り除くことができる。これはポンプを用いて心臓麻痺溶液または他の外科手術溶液を送達するポンプ使用の外科手術に際して、またはいずれかの臓器、すなわち、肝臓、肺、膵臓、または腎臓の移植に際しても適用し得る。
【0034】
別の側面においては、再灌流が確立された後、医師は血管の外部からの圧迫により、虚血によって損傷した臓器または組織への血流を停止または減少させることができる。医師は、傷害を受けた臓器または組織への血管を通る血流を一時的に停止または減少させるために、手袋を着けた手、結紮糸、外部ポンプ、または外科手術器具、例えば、クランプまたは止血鉗子を使用することができる。血管を通る血流を、選択した時間停止または減少させた後、医師は手、結紮、外部ポンプ、または外科手術器具を血管から除き、それによって傷害を受けた臓器または組織への血流の中断を除去し得る。傷害を受けた臓器または組織の灌流を、選択したサイクル数、一時的に停止または減少させ、そして回復させた後、医師はさらに干渉することなく、臓器または組織への血流を回復させることができる。この処置の適用例はポンプなしの心臓外科手術であり、その場合、外科医はポストコンディショニングの形態としてのバイパス手術を受けた標的血管上の結紮をゆるめ、次いで締め付ける。これはポンプ使用の外科手術に際し、またはいずれかの臓器、すなわち、肝臓、肺、膵臓、または腎臓の移植に際しても適用し得る。
【0035】
以前に虚血症に罹患した臓器または組織のポストコンディショニング再灌流の前、その間、またはその後に、医師は対象に、臓器または組織に対する傷害をさらに予防することの可能な医薬的に許容される担体中の組織保護剤の有効量を投与することができる。従って、本発明は、虚血事象後の臓器または組織への再灌流の前、その間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を予防する方法であって:a)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を停止すること;b)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を再開すること;c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;d)臓器または組織の灌流を中断させないこと;およびe)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法が提供される。
【0036】
さらに提供される方法は、虚血事象後の臓器または組織への再灌流の間またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を防止する方法であって:a)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を減少させること;b)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を再開すること;c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;
d)臓器または組織の灌流を中断させないこと;およびe)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法が提供される。
【0037】
また、本発明は、心臓の虚血事象と診断された対象の心臓への傷害を予防する方法であって:a)冠状動脈の内腔の障害物を取り除くこと;b)約5秒ないし約5分間、心臓を灌流すること;c)約5秒ないし約5分間、心臓の灌流を停止すること;d)処置b)およびc)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;e)心臓の灌流を中断させないこと;およびf)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の心臓に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法を提供する。
【0038】
さらに本発明は、心臓の虚血事象と診断された対象の心臓への傷害を予防する方法であって:a)冠状動脈の内腔の障害物を取り除くこと;b)約5秒ないし約5分間、心臓を灌流すること;c)約5秒ないし約5分間、心臓の灌流を減少させること;d)処置b)およびc)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;e)心臓の灌流を中断させないこと;およびf)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の心臓に対する傷害を予防すること;を特徴とする方法を提供する。
【0039】
本明細書にて使用する場合、心臓の「虚血−再灌流事象」(心臓発作)とは、心臓の筋肉(心筋層)が必ず血流の回復(再灌流)を伴う血液供給の中断(虚血)を受けた場合に起こる事象である。虚血の間、筋肉は急速に機能を失い、そのエネルギー供給が枯渇し、炎症と目される変化を受ける。第二のより強力なまたは爆発的な傷害は、再灌流の開始時に起こり(すなわち、再灌流傷害)、炎症の増加、心臓領域における白血球細胞の活性化、組織の浮腫および腫脹、心臓発作に関係する領域での心臓筋肉を養う小血管への傷害、大量の心臓組織を巻き込む壊死(細胞死)の拡大、およびアポトーシスにより特徴づけられる。「心筋梗塞」とは心臓に対する虚血−再灌流傷害を意味し、心臓の心筋層部分が壊死またはアポトーシス(すなわち、プログラムされた細胞死)を受けている。従って、心臓発作に際しての心臓に対する傷害は、虚血と再灌流両者の間に起こる。
【0040】
心臓発作の進展は、虚血と再灌流両方の間の傷害の動的な性質を反映している。従って、虚血により開始されるか、または虚血が引き金となった傷害は、再灌流の開始後にも続いており、そこでの細胞機能はさらに劣化し、実際に死に向かう細胞の量が再灌流とともに増大する。虚血傷害と再灌流との間には明瞭な関連性があり、そこでは虚血事象が再灌流傷害の舞台を設定する。虚血事象が重篤な程、引き続く再灌流傷害が重篤になる。それ故、この2つの事象はしばしば虚血−再灌流傷害といわれ、2つの別個ではあるが、互いに関連する事象間のこの親密な連環を反映している。仲介は虚血傷害の低下または再灌流傷害の低下を目的とし得る。
【0041】
考慮されることは、心臓発作の兆候および症候を医療施設に提供する対象について、本明細書に教示した方法に従い処置すべきであること、適時に診断することができることである。もし対象の冠状動脈の血管造影試験に際し、冠状動脈が血栓、塞栓、コレステロールプラークまたは他の障害物により(部分的にまたは全体が)遮断されていると判断され、また遮断された動脈が経皮的経管的冠動脈形成術(PTCA)により開放し得ると判断されるならば、医師はバルーンカテーテルを経皮的に対象の大腿血管に挿入し、そのカテーテルを遮断された冠状動脈に誘導することができる。バルーンを冠状動脈の血流遮断部位またはその近辺に適切に位置させた後、医師はバルーンを操作し、および/または膨らませて、それによって血栓、塞栓、コレステロールプラークまたは他の障害物を血管壁に押し付け、内腔の障害物を取り除き、心筋層を再灌流する。
【0042】
再灌流を確立した後に、傷害を受けた心筋層への傷害および/または引き続く傷害を予防するために、ポストコンディショニングを実施し得る。具体的には、医師がバルーンカテーテルを適所に配置し、そのバルーンを約5秒ないし約5分間、再び膨らませ、傷害を受けた心筋層の灌流を停止または減少させることができる。選択した時間、灌流を停止または減少させた後、医師はバルーンをしぼませ、約5秒ないし約5分間、心筋層の灌流を回復させることができる。冠状動脈の内腔内にてバルーンを膨張および縮小させるこのサイクルは、例えば、約2回ないし約50回繰り返すことができる。最終回のバルーン縮小の後、医師はバルーンカテーテルを取り除く。
【0043】
別の側面において、虚血事象との診断を受け、PTCAを受けることのできない冠状動脈疾患を有すると判明した対象は、CABG外科手術で処置することができる。手術手技遂行の間、および罹患した冠状動脈にバイパス処置して心筋層に血流を回復した後、外科医は移植した血管を手袋を着けた手、結紮糸、外部ポンプによるか、または手術器具、例えば、クランプもしくは止血鉗子により圧迫して、傷害を受けた心筋層の灌流を停止または減少させることにより、ポストコンディショニング再灌流を実施することができる。灌流の停止または減少は、約5秒ないし約5分間、維持することができる。選択した時間が経過した後、外科医は手、結紮、外部ポンプ、または手術器具を血管から除き、それによって移植片を通して傷害を受けた心筋層への血流を回復することができる。傷害を受けた心筋層灌流は、約5秒ないし約5分間、持続することができる。傷害を受けた心筋層の灌流を停止または減少させ、そして回復するサイクルは、約2回ないし約50回繰り返すことができる。最終サイクルの終末点で、傷害を受けた心筋層の灌流を維持する。
【0044】
当業者は1種以上の組織保護剤の有効量を含有してなる化合物を、ポストコンディショニングと組合わせて投与することによりPTCAおよびCABGの効果を増強することができる。該化合物はポストコンディショニングの前に、その間に、またはその直後に投与することができる。選択肢として、該組織保護剤は、遮断された内腔の障害物を取り除く直前に投与することができる。本明細書にて使用する場合、「選択肢として」とは以下に記載する事象または状況が存在しても存在しなくてもよいことを意味し、またその記載は当該事象または状況が存在する場合の例およびそれが存在しない場合の例を包含することを意味する。
【0045】
本明細書にて使用する場合、本発明の組織保護剤の「有効量」とは、所望の結果または当業者既知の結果を達成するために必要な量を意味する。ポストコンディショニング再灌流について所望の結果を有し得る臓器または組織の一例は心臓であり、その場合、梗塞サイズの減少、心筋浮腫の縮小、クレアチン・キナーゼ放出の減弱、早期再灌流中の充血の阻害、内皮依存性血管弛緩の増大、虚血/再灌流冠状内皮層への好中球付着の減少、増大した収縮機能、および虚血心筋層での好中球蓄積の減少などがモニター可能であり、達成し得る。従って、開示した方法に従って処置した心臓は、全体としてより良好な機能、例えば、増大した心臓の排出量、心不全重篤度の低下によりより小さくなった心臓サイズ、略消失した不整脈およびより安定した心拍数などを示し得る。さらに、対象は試行に良好な耐性を示し、引き続く心臓発作に良好に耐え得る。
【0046】
「医薬的に許容される担体」とは、生物学的にまたはその他の理由で不適切とはならない物質を意味する;すなわち、該物質は実質的な有害な生物学的作用を惹き起こすことなく、または組成物のそこに含まれる他の成分のいずれとも有害な状況で相互作用することなしに、保護剤とともに個体に投与し得る。適当な担体とその製剤については文献(Remington: The Science and Practice of Pharmacy (19th ed.) ed. A.R. Gennaro, Mack Publishing Company, Easton, PA 1995)に記載されている。典型的には、適切な量の医薬的に許容される塩を製剤に用い、該製剤を等張とする。医薬的に許容される担体の例は、限定されるものではないが、食塩水、リンゲル溶液およびブドウ糖溶液である。該溶液のpHは約5ないし約8であり、例えば、約7ないし約7.5とすることができる。さらなる担体は持続性放出製剤、例えば、該薬剤を含有する固体の疎水性ポリマーの半透性マトリックスであり、該マトリックスは造形品の形状、例えば、フィルム、リポソームまたは微粒子の形状である。当業者にとって、ある種の担体が、例えば、投与経路および投与される組成物の濃度によっては、より好適であり得る。
【0047】
医薬用担体は当業者既知である。これらの最も代表的なものは、ヒトに薬物を投与するための標準的担体であり、生理的pHの無菌水、食塩水、および緩衝溶液である。該組成物は、静脈内、動脈内、筋肉内、皮下または腹腔内に投与し得る。他の化合物は当業者が使用する標準的手法に従って投与する。
【0048】
医薬組成物は選択した分子に加えて、担体、粘稠化剤、賦形剤、緩衝剤、保存剤、界面活性剤などを含有し得る。また、医薬組成物は1種類以上の有効成分、例えば、抗微生物剤、抗炎症剤、麻酔剤などを含有し得る。
【0049】
該組織保護剤を含有する医薬組成物は、局所処置が望ましいか、または全身処置が望ましいかによって、また処置すべき領域によって、多くの方法で投与することができる。投与は、経口、吸入、または非経口により、例えば、静脈内点滴、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内注射、または血管内注射/注入により実施し得る。経口投与用の組成物は、粉末または顆粒剤、水中もしくは非水媒体中の懸濁剤または溶液剤、カプセル剤、サシェ剤、または錠剤を包含する。粘稠化剤、芳香剤、賦形剤、懸濁化剤、分散剤または結合剤が望ましい。
【0050】
一側面において、組織保護剤はカテーテルを介して、血管が傷害を受けた臓器または組織に入る部位近辺の血管内腔(静脈内注射/注入)に投与するか、または非経口的に、すなわち、静脈内または動脈内に投与し得る。
【0051】
非経口投与用の製剤は、無菌の水性もしくは非水性溶液、懸濁液、およびエマルジョンなどである。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、および注射用有機エステル類(例えば、オレイン酸エチル)である。水性担体は、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液であり、食塩水および緩衝媒体を包含する。非経口用媒体は、塩化ナトリウム溶液、リンゲルブドウ糖液、ブドウ糖と塩化ナトリウムの溶液、乳酸加リンゲル液、または不揮発性油である。静脈用媒体は、体液栄養補給液、電解質補給液(リンゲルブドウ糖液に基づくものなど)などである。保存剤およびその他の添加物もまた存在し得る;例えば、抗微生物剤、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスなどである。
【0052】
開示した方法で使用し得る組織保護剤の例は、限定されるものではないが、ホスホジエステラーゼ−5インヒビター、cAMPまたはcGMPを増加させる薬剤、オピオイド、PKC刺激因子(取分け、PKCイプシロン(ε))、PAR2アゴニスト、ナトリウム/水素交換(NHE−1)インヒビター;抗炎症剤;抗酸化剤、プロテアーゼインヒビター;ナトリウムチャネル遮断剤;KATPチャネル調節剤;カルシウムチャネルアンタゴニストおよび調節剤;血栓調節剤;代謝増強剤;緩衝剤および調節剤;エンドセリン−1アンタゴニスト、インヒビターおよび調節剤;アポトーシスインヒビター;ミトコンドリア透過性転移穿孔インヒビター;シグナル伝達促進剤およびインヒビター;麻酔剤;およびスタチン類である。
【0053】
組織保護剤の投与量と経路は、使用する具体的薬剤に左右される。ポストコンディショニングと組合わせて投与し得る例示となる組織保護剤とそのそれぞれの用量のリストを、下記に開示する(表1)。当業者は開示された方法に従って、処置を必要とする対象に、1種以上の組織保護剤を含有してなる化合物を投与することができる。当業者は組織保護剤の適切な投与量と投与経路を承知しており、対象の年齢、体重、注射/注入の様式(筋肉内、血管内、局所、全身)、性別および全体症状に従い、本明細書に教示(参照例;Remington's Pharmaceutical Sciences, Martin, E.W. (ed.), latest edition. Mack Publishing Co., Easton, PA)した常套の実験手技のみを用いて、その用量を変更し得る。例えば、抗凝固剤である静脈内ヘパリンの用量は、約10単位から約10,000単位であり得る。
【0054】
開示した方法で使用し得る組織保護剤のさらなる例は、医薬的に許容される担体中のナトリウム/水素交換(NHE−1)インヒビターである。NHE−1インヒビターの例はカリポリド(cariporide)であり、このものは0.1〜15μMの濃度の血管内用溶液として、または3mg/Kgを静脈内ボーラスとして、または1日120mgを3回、または1mg/kg〜10mg/Kgを投与し得る。NHE−1インヒビターのもう一つの例は、エニポリド(eniporide)であり、このものは0.5〜15μMの濃度の血管内溶液として投与し得る。エニポリドは3mg/kgで、冠状動脈閉塞(虚血)の前に、または再灌流開始の直前またはそれと同時に投与し得る。エニポリドは1回のボーラスとして投与するか、または3mg/kg/時間の注入剤として1〜3時間継続し得る。エニポリドは10分間にわたる1〜200mgの静脈内注入剤として投与し得る。
【0055】
以下の実施例は、本明細書の請求項に記載した組成物および/または方法が如何になされ、評価されるかについて、完全な開示と記載を当業者に提供しようとするものであり、純粋に本発明を例示しようとするものであって、本発明者らが本発明とみなすものの範囲を限定しようとするものではない。数値(例えば、量、温度など)に関しては、正確を期すよう努力したが、いくらかの誤差および偏差も見込むべきである。本発明はより特定して以下の実施例に記載するが、その中の数値的な改変および変更は当業者に明らかであることから、これらは説明のみを意図するものである。
【実施例】
【0056】
実施例1
ポストコンディショニングの概念は、局所的な心筋梗塞および再灌流の開胸したイヌモデルにて試験した。動物はすべて無作為に以下の3つの群の一つに割り振った(図1):対照:左前下降冠状動脈(LAD)を逆に60分間閉塞し、次いで、虚血心筋層を3時間再灌流した;2)虚血ポストコンディショニング(ポスト−コン):60分のLAD閉塞の後、虚血心筋層を最初3サイクルの繰り返し適用した再灌流と、引き続く冠状動脈の再閉塞を用いて再灌流した;すなわち、30秒の再灌流と、続く30秒の閉塞を、連続3サイクル繰り返した;3)虚血プレコンディショニング(プレ−コン)(事前条件付け):60分間の心筋虚血の前に、5分間のLAD閉塞および10分間の再灌流を実施した。
【0057】
図1〜9は虚血/再灌流心臓に対するポストコンディショニングの有益な効果を示す。これらの効果は死後の生体染色(塩化トリフェニルテトラゾリウム)により[6]測定した梗塞サイズの縮小であり、動脈血血漿から分光光度法により測定したクレアチン・キナーゼの放出減少により確認された[6]。クレアチン・キナーゼは、細胞に対して重篤な致死的傷害のあるときにのみ、その細胞から漏れ出る細胞内巨大分子である。
【0058】
さらに、ポストコンディショニングは、組織乾燥により測定した場合、以前に虚血性であった心筋層の心筋浮腫減少と関連性がある。組織浮腫(水分増加)は微小血管系が著しく傷害を受け、血液流液を血管スペースに保持し得ないときに発生する。心筋層に漏出した流液は、これらの傷害を受けた毛細管を取り囲み、圧迫して、さらに心筋への血流を減少させる。この血管傷害は心筋層への不可逆的な傷害(例えば、壊死)と関連していた。
【0059】
また、ポストコンディショニングは、標的の冠状動脈周囲に配置した電子血流プローブにより測定した場合、初期再灌流に際して虚血後の充血を阻害するが、このことはこれら短時間の断続的灌流の間にも、心筋エネルギーの要求を満足する十分な酸素の送達が存在することを示唆している。
【0060】
ポストコンディショニングは、インビトロの技法で測定した場合、アセチルコリンに対する有意により大きな内皮依存性血管弛緩応答と関連する。アセチルコリンは血管弛緩剤酸化窒素の内皮細胞特異的刺激剤である[7]。冠状動脈、細動脈および細静脈の内皮細胞は、細灌流傷害に異常なほど敏感であり、再灌流の最初のわずかな瞬間に閉塞を受け、その閉塞が再灌流開始後、数時間持続する。血管内皮のサルベージは、健常内皮細胞が血流調節の異常性を予防し、局在化した血管の炎症性応答を予防し、それによって以前の虚血地帯への好中球移動の引き金を引くことの予防、および動脈内血液塊形成の予防となるので、重要である。再灌流血管における血液凝集塊は第二の虚血を惹き起こし、最終的に心臓組織の死に導き得る。虚血/再灌流冠状内皮への好中球付着の減少は、蛍光顕微鏡測定した場合、ポストコンディショニングによる虚血後の内皮機能の改善を示すものでもある。
【0061】
さらに、ポストコンディショニングは、再灌流後の内皮からの組織サンプルをミエロペルオキシダーゼ(MPO)アッセイして測定した場合、虚血心筋層での好中球蓄積を減弱した。このことは、梗塞、収縮機能不全およびアポトーシスの病因と関連する虚血/再灌流への炎症性応答を、ポストコンディショニングが低下させたことを示唆する。
【0062】
実施例2
ポストコンディショニングは、アデノシンおよびオピオイドなどの近接メディエーターの保護作用を獲得する薬理学的手段により増強することができる。心筋梗塞のラットモデルでは、初期再灌流に際し、ナトリウム−水素交換(NHE−1)インヒビターの存在下に、ポストコンディショニングを適用することによる再灌流傷害を減弱する二相性法が、いずれの介在のみよりも、より大きな梗塞サイズ低減を達成すると示すことができる[48]。具体的には、麻酔したラットモデルにおいて、左冠状動脈(LCA)を30分間閉塞して虚血(I)とし、3時間再灌流した。ラットは無作為に6群(それぞれn=8)に分けた(図10):対照:再灌流時の介入なし;ポストコンディショニング:10秒の再灌流と、引き続く10秒の閉塞との3サイクルを再灌流の最初の1分間に適用した;NHE(1):カリポリド(1mg/kg)はポストコンディショニングとともに、または行わずに、再灌流の5分前に注入した;遅延(D)−NHE(1):ポストコンディショニング時間と等価の再灌流開始の1分後に、5分間のカリポリド注入を始めた;ポスト−コン+D−NHE(1):ポストコンディショニング完了に続き、直ちに5分間カリポリドを注入した。ポストコンディショニングによる梗塞サイズの縮小は、NHE(1)インヒビターのみで観察されたものに匹敵した(それぞれ42±2対43±2%)(図11)。NHE(1)が再灌流介入としてのポストコンディショニングに先行する場合、梗塞サイズはいずれの介入のみに比較しても、さらに縮小することはなかった(45±2%)。しかし、ポストコンディショニングが再灌流時にNHE(1)インヒビターに先行したときは、梗塞サイズのさらなる縮小が達成された(ポスト−コン+D−NHE(1)、34±2%)。このように、ポストコンディショニングによる梗塞サイズの縮小は、ポストコンディショニングがカリポリドの投与に先行するとき、再灌流時のNHE阻害により増強される。
【0063】
実施例3
アデノシンはポストコンディショニングの心臓保護のメディエーターである。摘出した灌流マウス心臓を、ポスト−コン(10秒のRおよび閉塞を6サイクル)ありとなしで、20分の全体虚血(I)と30分の再灌流に付した。冠状流出液中の血管内プリンをHPLCにより分析した。内在性のアデノシンがポストコンディショニングにおいて生理的役割を演じているのかどうかを判定するために、麻酔胸部切開ラットの左冠状動脈(LCA)を30分間閉塞し、3時間再灌流した。ラットは無作為に6群(それぞれn=8)に分けた:対照(介入なし);ポストコンディショニング(3時間のRの前に、10秒間のRと、引き続く10秒間のLCA Iとの3サイクル);8−SPT(サブタイプ非選択的アデノシン受容体アンタゴニスト、10mg/kg)、またはZW241385(A2a受容体アンタゴニスト、0.2mg/kg)を、ポストコンディショニングとともに、またはなしに、Rの5分前に投与した。
【0064】
マウスの心臓では、ポストコンディショニングが2分間のRで流出[アデノシン]を低下させ(58±5対155±16nM/分/g)、30分のRで持続した5分間のRで収縮機能(LV発生圧32±7対16±2mmHg)および拡張期終末血圧(27±3対36±3mmHg)を改善した。インビボラットでは、ポストコンディショニングが対照群に対比して、梗塞サイズ(TTC)を縮小させた(40±3.1%対52±2.2%)。ポストコンディショニングなしの8−SPT(51±2.5%)またはZM241385のみ(50±2.1%)では、梗塞サイズに影響がなかった。ポストコンディショニングの梗塞回避作用は8−SPTおよびZM241385(50±1.8%および49±2.6%)によって排除された。危険領域での好中球(PMN)蓄積(ミエロペルオキシダーゼ活性)は、対照に対比してポストコンディショニングで少なかった(1.0±0.2対2.2±0.4U/100gタンパク質);アデノシン受容体アンタゴニストはポストコンディショニングにおけるPMN蓄積の減少を阻止した(ポストコンディショニング+8−SPT2.1±0.2;ポストコンディショニング+ZM241385 1.6±0.2)。
【0065】
ポストコンディショニングは、初期Rでの内在性アデノシンの保持時間と血管内含量を増大させ、A2a受容体仲介メカニズムにより梗塞サイズを縮小することができる。対照に対してp<0.05。
【0066】
実施例4
ウサギの心筋梗塞モデルにおいては、20秒間(10秒ではない)のポストコンディショニング虚血が、対照(41±2%)と比較して、梗塞サイズを縮小した(左心室危険領域のそれぞれ20±3%および34±3%)。1.0(0.5ではない)最小肺胞濃度のイソフルラン(isoflurane)と接触させると、梗塞サイズが低下した(それぞれ21±2%および43±3%)。しかし、ポストコンディショニング(10秒)および0.5最小肺胞濃度のイソフルランの組合わせは、梗塞サイズを顕著に低下させた(17±5%)[49]。
【0067】
0.5MACイソフルラン(心臓保護作用のみを生じない本薬剤の濃度)を投与すると、ポストコンディショニングを生じるために必要な短い虚血刺激の時間閾値を低下させる;あるいは換言すると、ポストコンディショニング保護を増強する。従って、薬理学的ポストコンディショニングは再流の初期の瞬間に成功裏に適用し得る。
【0068】
実施例5
血管形成術およびステントの配置により急性の心筋梗塞に進展したために、経皮的冠状介入を受けている患者30名を、無作為に、それ以上の介入を受けない対照群、または血管形成術−ステント手法により再灌流を回復させた直後に、血管形成術バルーンを1分間しぼませ、次いで1分間再膨張させること、これを4間隔で繰り返したポストコンディショニング群に分けた。ポストコンディショニング群に不都合な事象はなかった。ポストコンディショニングは、院内で72時間のクレアチン・キナーゼ曲線の下の面積により評価すると、対照群に比較して有意に梗塞サイズを縮小した(208,984±26,576対326,095±48779任意活性単位、p<0.05)。また、ポストコンディショニングは濃染等級により評価した場合、達成された再灌流の程度を上昇させた(2.44±0.17対1.95±0.27、p<0.05)。従って、心臓病学カテーテル挿入研究室における経皮的冠状介入の設定において、ポストコンディショニングは安全かつ有効であった[52]。
【0069】
本出願全般にわたり、さまざまな出版物が参照される。これら出版物の開示はその全体を参照により本出願の一部とし、本出願が関連する技術の状態をより完全に記述する目的とする。開示された文献は、個々に、また特定して、該文献が依拠する文章中に考察され、そこに含まれる物質として、参照により本明細書の一部とする。
【0070】
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【0072】
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【0073】
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【0074】
【表1】

【表2】

【0075】
【表3】

【表4】

【0076】
【表5】

【表6】

【0077】
【表7】

【表8】

【表9】

【0078】
【表10】

【表11】

【0079】
【表12】

【表13】

【0080】
これらの作用因子はポストコンディショニングを補足するために、単独で、またはポストコンディショニングとの何らかの組合せで、使用することができる。例えば、カリポリド(ナトリウム−水素交換インヒビター)はポストコンディショニングに加えて、アデノシンとともに使用することができる。該薬物はポストコンディショニングの手順の前、その間またはその後に投与し得る。該薬物は虚血後期間に必要とされるものとして補足し得るものであり、連続して注入投与するか、または所定の期間、所定の時間に複数回に分けて注入投与し得る。例えば、アデノシン130μg/kg/分をポストコンディショニング後、最初の再灌流時間、全身投与し、次いでボーラスとして投与するか、または130μg/kgでのゆっくりとした注入を再灌流開始後の6時間、12時間、24時間目に実施する。
【0081】
当業者には明白ではるが、本発明においては、その発明の範囲または精神から逸脱することなくさまざまな修飾と変更をなし得る。本発明の他の態様は、本明細書に開示された本発明の明細と実践を考察することによって、当業者に明らかとなろう。意図することは、該明細と実例は単なる例示であり、本発明の真の範囲と精神は添付の特許請求の範囲に記載されたものであると考えるべきであることである。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】図1は虚血(I)および再灌流(R)後の心筋層に対するポストコンディショニングにおける一つの可能な変動の影響を決定するために使用した実験プロトコールを示す。対照群(n=10);ポスト−コン(n=10);プレ−コン(n=9);虚血プレコンディショニングは、左前下降冠状動脈(LAD)閉塞の60分前、5分間の冠状閉塞と、引き続く10分間の再灌流により誘発した;また、ポストコンディショニングは、3時間の再灌流の前、それぞれ3サイクルの30秒間の再灌流と、引き続く30秒間の閉塞とした。ポスト−コンはポストコンディショニング;プレ−コンはプレコンディショニングである。
【0083】
【図2】図2はプレコンディショニング染色に対比して、塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC)により決定した虚血ポストコンディショニングによる心筋梗塞サイズの縮小を示す棒グラフである。左心室(LV)マスに比例するリスク(AAR)の範囲(AAR/LV)と壊死の範囲(AN)をAARのパーセント(AN/AAR)として表した。虚血ポストコンディショニングは、対照群と比較してAN/AARを48%有意に低下させ、従って、虚血プレコンディショニングに対し、心臓保護が等能力であることを示した。対照群に対し、P<0.05。値は群平均±S.E.M.である。
【0084】
【図3】図3は虚血ポストコンディショニングによるLAD灌流心筋層における心筋浮腫の縮小を示す棒グラフである。正常:非虚血ゾーン;Isch−epi:虚血心外膜下;Isch−endo:虚血心内膜下。虚血ポストコンディショニングは、対照群と比較して組織含水量を有意に低下させた。正常ゾーンに対し、P<0.05。対照群に対し、†P<0.01。値は群平均±S.E.M.である。
【0085】
【図4】図4は冠状閉塞と再灌流の過程での血漿クレアチン・キナーゼ(CK)活性を示すグラフである。血漿CK活性は、ベースラインと虚血後の2群間で同等であった。梗塞サイズの減少と矛盾なく、虚血ポストコンディショニングは対照群値に比例して、再灌流2時間目からCK活性を有意に低下させた。値は平均±S.E.M.である。対照群に対し、P<0.05。ベースラインとIsch値に対し、P<0.01。対照群に対し、p<0.05。
【0086】
【図5】図5は、虚血−再灌流心筋層における局所性経壁心筋血流を示す線グラフである。ベースラインでの値および虚血の間の値は、2群間で同等であった。15分間の再灌流に際しての充血が、虚血性プレ−およびポストコンディショニングにより有意に阻害された。値は平均±S.E.M.である。虚血に対し、P<0.05=対照群に対し、†P<0.05。
【0087】
【図6】図6は、非虚血左回旋冠状動脈(LCX)冠状動脈輪および虚血−再灌流(LAD)冠状動脈輪の虚血後−再灌流内皮機能を示す線グラフであり、臓器チェンバー中のアセチルコリンの増大する濃度への応答として評価したものである。再灌流時のアセチルコリンに対する応答は、非虚血性LCX冠状動脈輪の応答に対して、有意に鈍かった。虚血ポストコンディショニングにおける応答は有意に上昇したが、このことはポストコンディショニングよるより良好な内皮機能と虚血−再灌流傷害の回避を示唆している。値は、イヌ5匹からの少なくとも12の輪の平均±S.E.M.である。虚血ポスト−およびプレ−コンディショニングに対する対照群のLADP<0.05。
【0088】
【図7】図7は、血管平滑筋拡張剤ニトロプルシドに対する非虚血LCX冠状輪の応答と、虚血−再灌流(LAD)冠状輪の応答を示す線グラフである。群間の差はすべての群において検出されなかったが、このことは血管平滑筋の機能が正常であり、群間で同等であったことを示唆している。
【0089】
【図8】図8は、プレコンディショニングに対し、虚血ポストコンディショニングによる冠状内皮への未刺激蛍光標識好中球の付着の阻害を示す棒グラフである。付着の程度は、冠状動脈内皮が受けた傷害の程度と相関し、一酸化窒素またはアデノシンの基礎的生成の喪失に関係する。LCX:非虚血左回旋冠状動脈;LAD:虚血/再灌流左前下降冠状動脈;Post−LAD:虚血ポストコンディショニング群のLAD;Pre−LAD:虚血プレコンディショニング群のLAD。虚血プレコンディショニングによる保護と同様の強さで、虚血ポストコンディショニングは、対照群と比較して、冠状内皮への好中球付着を阻害した。値は群平均±S.E.M.である。LCXに対し、P<0.05;対照群におけるLADに対し、HP<0.01。
【0090】
【図9】図9は、LAD虚血および再灌流後の異なる実験群における非虚血(正常)ゾーンおよび虚血ゾーンでの好中球蓄積のマーカーとしての組織ミエロペルオキシダーゼ(デルタ吸光度Δ単位/分(abs/min.)でのMPO)活性を示す。上昇したMPO活性は、対照AARにおける再灌流の終点で見られた。虚血ポストコンディショニングは対照群と比較して、MPO活性を有意に低下させ、プレコンディショニング群と同等であった。棒グラフの高さは平均±SEMを表す。正常組織に対して、P<0.05;対照群に対してのポスト−コンおよびプレ−コン群、†P<0.05。
【0091】
【図10】図10は虚血−再灌流のラットモデルにおける研究プロトコールの説明図を示す。斜交平行線付きの棒グラフ=ナトリウム−水素交換インヒビターのカリポリドを静脈内投与した時点。垂直平行線棒グラフ=ポストコンディショニング・アルゴリズム。対照(n=8);左冠状動脈(LCA)を閉塞し、次いで3時間再灌流した(白色棒グラフ)。ポスト−コン(n=8):10秒間の完全再灌流(R、白色棒グラフ)および10秒間の再閉塞虚血(I、暗色棒グラフ)を3サイクル繰り返した。NHE(1)(n=8);カリポリド(1mg/kg)を再灌流前5分に注射し、次いで、抑制のないRとした。NHE(1)+ポスト−コン(n=8);カリポリド、次いでポスト−コン。遅延(D)−NHE(1)(n=8):1分間の完全に抑制のない再灌流後の5分間にカリポリドを注射した。ポスト−コン+D−NHE(1)(n=8);ポスト−コン、次いで5分間カリポリド注射。ポスト−コン=ポストコンディショニング、NHE(1)=1mg/kgカリポリド。
【0092】
【図11】図11は、左心室(LV)のパーセントで表したリスク範囲(AAR)とAARのパーセントで表した壊死の範囲(AN)を示す。梗塞サイズはANとAARのパーセントで表す。すべての群において、梗塞サイズは対照に比較し、縮小していた。ポスト−コン+D−NHE(1)群に観察される梗塞サイズの縮小は、ポストコンディショニング単独よりも有意に大きかった。対照に対し、p<0.05、対照に対し、p<0.001。ポスト−コン=ポストコンディショニング。値は平均±SEMである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血事象後の臓器または組織への再灌流の前、その間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を予防する方法であって:
a)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を停止すること;
b)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を再開すること;
c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;
d)臓器または組織の灌流を中断させないこと;および
e)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;
を特徴とする方法。
【請求項2】
該臓器または組織が、心臓、脳、眼、腎臓、腸、膵臓、肝臓、肺または骨格筋である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該対象が哺乳動物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
該哺乳動物がヒトである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
灌流停止を、臓器または組織に血液を供給する血管の内腔内でバルーンにより実施する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該バルーンが膨張可能であり、また縮小可能である請求項5に記載の方法。
【請求項7】
灌流の停止を、臓器または組織に血液を供給する血管の外部からの圧迫により実施する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
組織保護剤が、ナトリウム/水素交換(NHE−1)インヒビター;抗炎症剤;抗酸化剤;プロテアーゼインヒビター;ナトリウムチャネル遮断剤;KATPチャネル調節剤;カルシウムチャネルアンタゴニストおよび調節剤;オピオイド;血栓調節剤;代謝増強剤;緩衝剤および調節剤;エンドセリン−1アンタゴニスト、インヒビターおよび調節剤;アポトーシスインヒビター;ミトコンドリア透過性転移穿孔インヒビター;シグナル伝達促進剤およびインヒビター;麻酔剤;およびスタチン;からなる群より選択される1種以上である請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該保護剤がナトリウム/水素交換インヒビターである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
該ナトリウム/水素交換インヒビターがカリポリドまたはエニポリドである請求項9に記載の方法。
【請求項11】
カリポリドの投与量が1日120mg3回である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
エニポリドの投与量が3mg/kgである請求項10に記載の方法。
【請求項13】
心臓の虚血事象と診断された対象の心臓への傷害を予防する方法であって:
a)冠状動脈の内腔の障害物を取り除くこと;
b)約5秒ないし約5分間、心臓を灌流すること;
c)約5秒ないし約5分間、心臓の灌流を停止すること;
d)処置b)およびc)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;
e)心臓の灌流を中断させないこと;および
f)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の心臓に対する傷害を予防すること;
を特徴とする方法。
【請求項14】
灌流停止を、冠状動脈の内腔内でバルーンにより実施する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該バルーンが膨張可能であり、また縮小可能である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
灌流の停止を、冠状動脈の外部からの圧迫により実施する請求項13に記載の方法。
【請求項17】
組織保護剤が、ナトリウム/水素交換(NHE−1)インヒビター;抗炎症剤;抗酸化剤;プロテアーゼインヒビター;ナトリウムチャネル遮断剤;KATPチャネル調節剤;カルシウムチャネルアンタゴニストおよび調節剤;オピオイド;血栓調節剤;代謝増強剤;緩衝剤および調節剤;エンドセリン−1アンタゴニスト、インヒビターおよび調節剤;アポトーシスインヒビター;ミトコンドリア透過性転移穿孔インヒビター;シグナル伝達促進剤およびインヒビター;麻酔剤;およびスタチン;からなる群より選択される1種以上である請求項13に記載の方法。
【請求項18】
該保護剤がナトリウム/水素交換インヒビターである請求項17に記載の方法。
【請求項19】
該ナトリウム/水素交換インヒビターがカリポリドまたはエニポリドである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
カリポリドの投与量が1日120mg3回である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
エニポリドの投与量が3mg/kgである請求項19に記載の方法。
【請求項22】
虚血事象後の臓器または組織への再灌流の前、その間、またはその後の、対象における臓器または組織に対する傷害を防止する方法であって:
a)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を減少させること;
b)約5秒ないし約5分間、臓器の灌流を再開すること;
c)処置a)およびb)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;
d)臓器または組織の灌流を中断させないこと;および
e)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の臓器または組織に対する傷害を予防すること;
を特徴とする方法。
【請求項23】
該臓器または組織が、心臓、脳、眼、腎臓、腸、膵臓、肝臓、肺または骨格筋である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該対象が哺乳動物である請求項22に記載の方法。
【請求項25】
該哺乳動物がヒトである請求項24に記載の方法。
【請求項26】
灌流減少を、臓器または組織に血液を供給する血管の内腔内でバルーンにより実施する請求項22に記載の方法。
【請求項27】
該バルーンが膨張可能であり、また縮小可能である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
灌流の減少を臓器または組織に血液を供給する血管の外部からの圧迫により実施する請求項22に記載の方法。
【請求項29】
組織保護剤が、ナトリウム/水素交換(NHE−1)インヒビター;抗炎症剤;抗酸化剤;プロテアーゼインヒビター;ナトリウムチャネル遮断剤;KATPチャネル調節剤;カルシウムチャネルアンタゴニストおよび調節剤;オピオイド;血栓調節剤;代謝増強剤;緩衝剤および調節剤;エンドセリン−1アンタゴニスト、インヒビターおよび調節剤;アポトーシスインヒビター;ミトコンドリア透過性転移穿孔インヒビター;シグナル伝達促進剤およびインヒビター;麻酔剤;およびスタチン;からなる群より選択される1種以上である請求項22に記載の方法。
【請求項30】
該保護剤がナトリウム/水素交換インヒビターである請求項29に記載の方法。
【請求項31】
該ナトリウム/水素交換インヒビターがカリポリドまたはエニポリドである請求項30に記載の方法。
【請求項32】
カリポリドの投与量が1日120mg3回である請求項31に記載の方法。
【請求項33】
エニポリドの投与量が3mg/kgである請求項31に記載の方法。
【請求項34】
心臓の虚血事象と診断された対象の心臓への傷害を予防する方法であって:
a)冠状動脈の内腔の障害物を取り除くこと;
b)約5秒ないし約5分間、心臓を灌流すること;
c)約5秒ないし約5分間、心臓の灌流を減少させること;
d)処置b)およびc)を約2回ないし約50回連続的に繰り返すこと;
e)心臓の灌流を中断させないこと;および
f)1種以上の組織保護剤の有効量を医薬的に許容される担体とともに対象に投与し、それによって該対象の心臓に対する傷害を予防すること;
を特徴とする方法。
【請求項35】
灌流の減少を、冠状動脈の内腔内でバルーンにより実施する請求項34に記載の方法。
【請求項36】
該バルーンが膨張可能であり、また縮小可能である請求項35に記載の方法。
【請求項37】
灌流の減少を、冠状動脈の外部からの圧迫により実施する請求項34に記載の方法。
【請求項38】
組織保護剤が、ナトリウム/水素交換(NHE−1)インヒビター;抗炎症剤;抗酸化剤;プロテアーゼインヒビター;ナトリウムチャネル遮断剤;KATPチャネル調節剤;カルシウムチャネルアンタゴニストおよび調節剤;オピオイド;血栓調節剤;代謝増強剤;緩衝剤および調節剤;エンドセリン−1アンタゴニスト、インヒビターおよび調節剤;アポトーシスインヒビター;ミトコンドリア透過性転移穿孔インヒビター;シグナル伝達促進剤およびインヒビター;麻酔剤;およびスタチン;からなる群より選択される1種以上である請求項34に記載の方法。
【請求項39】
該保護剤がナトリウム/水素交換インヒビターである請求項38に記載の方法。
【請求項40】
該ナトリウム/水素交換インヒビターがカリポリドまたはエニポリドである請求項39に記載の方法。
【請求項41】
カリポリドの投与量が1日120mg3回である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
エニポリドの投与量が3mg/kgである請求項40に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2008−525468(P2008−525468A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548436(P2007−548436)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/046417
【国際公開番号】WO2006/069170
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(598038968)エモリー・ユニバーシティ (19)
【Fターム(参考)】