説明

ポテトフライ

【課題】食用油脂を用いたフライ方法を用いて、比表面積の大きい形状のポテトフライでありながら、歯応えのあるポテトフライを効率的かつ安価に製造する方法を提供すること。
【解決手段】ジャガイモをフライしてポテトフライを製造する方法において、ジャガイモをフライする前に、少なくともジャガイモの皮がついていない部分に多価陽イオンを接触させることを特徴とする方法。多価陽イオンとしてカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジャガイモをフライしたポテトフライの製造方法に関し、詳しくは、歯応えのあるポテトフライを効率的かつ安価に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポテトフライの製造においては、水分が約75〜85重量%である原料ジャガイモを、水洗、剥皮等の後、食用油脂を用いてフライする。常温での保存・流通を可能とするには、フライしたポテトをさらに、その水分が4.0重量%以下になるよう、焦がすことなく乾燥しなければならない。この乾燥を効率良く実施するためには、ジャガイモを比表面積の大きい平薄な形状等に整形する必要がある。しかし比表面積の大きい形状のポテトフライは、その薄さのため食感が軟らかいものに限られてしまう。
【0003】
一方、比表面積が大きくないポテトフライであれば、低温でフライすることにより、歯応えのあるポテトフライを製造することは可能であるが、フライ時間が長く必要であり、著しく生産効率が低いために生産コストが高いか、もしくはフライ時間を長く確保できる巨大な設備およびそれを設置するための大きなスペースが必要であり、消費者にとって割高なポテトフライになってしまうという欠点があった。
【0004】
したがって、比表面積の大きい形状のポテトフライでありながら、歯応えのあるポテトフライを効率的かつ安価に得ることができる製造方法の開発が待ち望まれていた。
【0005】
特許文献1〜3には、カルシウム塩やマグネシウム塩の水溶液と、ジャガイモを接触させることによって、ジャガイモを硬化するジャガイモ加工品の製造方法が開示されている。
しかし、これらはいずれも水溶液中でのジャガイモの煮崩れに対応しようとするものであり、フライしたポテトを歯応えのある食感に変えるものではなかった。
【特許文献1】特開平1−124364号公報
【特許文献2】特開2005−58002号公報
【特許文献3】特開2007−89422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、食用油脂を用いたフライ方法を用いて、比表面積の大きい形状のポテトフライでありながら、歯応えのあるポテトフライ、およびそれを効率的かつ安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題解決を目的として、本発明者らは鋭意研究した結果、ジャガイモをフライする前に、予め少なくともジャガイモの皮のついていない部分と多価陽イオンと接触させたのち、食用油脂を用いてフライすると、歯応えのあるポテトフライが得られることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は下記に示すものである。
(1) ジャガイモをフライしてポテトフライを製造する方法において、ジャガイモをフライする前に、少なくともジャガイモの皮がついていない部分に多価陽イオンを接触させることを特徴とする、方法。
(2) 多価陽イオンとしてカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを用いる(1)に記載の方法。
(3)カルシウムイオン給源が塩化カルシウムまたは乳酸カルシウムであり、マグネシウムイオン給源が塩化マグネシウムである(1)または(2)に記載の方法。
(4)カルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度の合計が0.007〜4モル/リットルの範囲にある水溶液と、ジャガイモとを接触させる、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)多価陽イオンとジャガイモとの接触温度が20〜90℃である(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法で製造されたポテトフライ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、食用油脂によるフライ方法を用いて、比表面積の大きい形状のポテトフライでありながら、歯応えのあるポテトフライを効率的かつ安価に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(定義)
ジャガイモ
本発明においてジャガイモの品種は特に限定されず、適宜種類を選択することが可能である。
【0010】
多価陽イオン
2価以上の陽イオンが利用できるが、好ましくはカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンである。本発明において使用できるカルシウムイオン給源およびマグネシウムイオン給源は、無害なものであれば特に制限はなく、カルシウム塩としては塩化カルシウム、乳酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等を用いることができる。また、マグネシウム塩は、塩化マグネシウム、L−グルタミン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等を用いることができる。カルシウムイオン給源として好ましくは、塩化カルシウム水溶液、乳酸カルシウム水溶液があり、またマグネシウムイオン給源として好ましくは塩化マグネシウム水溶液がある。これらは水溶液の形態が扱いやすいが、カルシウム塩やマグネシウム塩を直接ジャガイモの皮のついていない部分に接触させることも可能である。
【0011】
フライ
本願においてフライとは、食用油脂で加熱する、いわゆる“揚げる”工程をいう。
【0012】
製法
本発明の製法としては、まず原料のジャガイモを洗浄する。そして、水もしくはお湯に浸漬した後、薄くスライス状もしくは短冊状などの比表面積が大きい形状に切断する。
【0013】
次に、切断済みのジャガイモについて、多価陽イオンとの接触処理を行なう。接触処理は、ジャガイモの皮がついていない表面が多価陽イオンと接触した状態となるようにすることをいい、例えば、これらイオンを含む水溶液にジャガイモを浸漬するか、あるいはジャガイモの表面にこれらイオンを含む水溶液を噴霧する方法等を採用することができる。またあるいは、ジャガイモの表面に直接、これらイオンの給源となる塩を適度な濃度で接触させてもよい。
【0014】
多価陽イオンとの接触処理は、一般に水溶液への浸漬によっておこなわれる。接触処理にカルシウムイオンやマグネシウムイオン水溶液を用いる場合、ジャガイモと接触させる水溶液のカルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度の合計が、0.007〜4モル/リットル、好ましくは0.01〜1モル/リットルとなるように用いることが好ましい。カルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度の合計が、0.007モル/リットル未満では、本発明の効果が十分に発揮されず、4モル/リットルを超える高濃度の水溶液を使用すると、ジャガイモ表面が黒変したり、ジャガイモが苦くなって味に悪影響を及ぼす。
【0015】
接触時間は、浸漬する水溶液のカルシウムイオン濃度およびマグネシウムイオン濃度の合計を考慮して決定され、高濃度水溶液を使用する場合には短時間でよく、低濃度水溶液を使用する場合には接触時間を長くする必要がある。浸漬は、通常1分〜90分間、好ましくは2分〜45分間おこなう。接触処理時間が短すぎる場合は、食感が軟らかい傾向にあり、また、長すぎると巨大な設備およびそれを設置するための大きなスペースが必要となり、消費者にとって割高なポテトフライになるため、本発明の目的が果たせない。多価陽イオンとジャガイモとの接触温度は20〜90℃、好ましくは60〜80℃である。
【0016】
浸漬中はジャガイモ表面に多価陽イオンが均一に接触するように撹拌を行ってもよい。
なお接触処理後は、接触させた多価陽イオンを洗い流し過ぎない程度に適宜表面洗浄をおこなってもよい。また70℃前後の水に浸すなどして、ブランチングをおこなってもよい。
【0017】
次に、接触処理済みのジャガイモを食用油脂中でフライする。適切なフライ温度とフライ時間は、互いに関連しており、さらにジャガイモのサイズも考慮して適宜決定される。生産効率やポテトフライの品質を考慮して、通常120〜200℃でフライする。好ましくは約140〜180℃で5〜15分間程度行なえばよい。
次に、実施例を挙げて本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0018】
ジャガイモの接触処理時間が、ポテトフライの食感に与える影響について調べるために次の試験を行った。
【0019】
(試験例1)
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.38重量%塩化カルシウム水溶液(カルシウムイオン濃度 0.034モル/リットル)中に浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。フライして得られたポテトフライの食感を官能評価した。結果を表1に示す。比較のため、塩化カルシウム水溶液ではなく、60℃の水で浸漬処理したジャガイモを同様にフライして、得られたポテトフライの食感を官能評価し、結果を対照として示した。
なお官能評価は、以下共通して下記の基準でおこなった。

− 軟らかい
+ 歯応えがある
【0020】
【表1】

【0021】
ジャガイモの接触処理に使用するカルシウムイオンの濃度が、ポテトフライの食感に与える影響について調べるために次の試験を行った。
【0022】
(試験例2)
表2の濃度の塩化カルシウム水溶液を用意し、該水溶液を60℃に加温したのち、ジャガイモを水洗、剥皮してお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に切断したもの(厚さ2mm)を前記各塩化カルシウム水溶液に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。フライして得られたポテトフライの食感を官能評価した。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
ジャガイモの接触処理時間が、ポテトフライの食感に与える影響について調べるために次の試験を行った。
【0025】
(試験例3)
ジャガイモを水洗、剥皮してお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.38重量%塩化マグネシウム水溶液(マグネシウムイオン濃度 0.04モル/リットル)中に浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化マグネシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。フライして得られたポテトフライの食感を官能評価した。結果を表3に示す。比較のため、塩化マグネシウム水溶液ではなく、60℃の水で浸漬処理したジャガイモを同様にフライして、得られたポテトフライの食感を官能評価し、結果を対照として示した。
【0026】
【表3】

【実施例1】
【0027】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.044重量%塩化カルシウムと0.029重量%塩化マグネシウムを含む水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【実施例2】
【0028】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.22重量%塩化カルシウムと0.19重量%塩化マグネシウムを含む水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【実施例3】
【0029】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した22重量%塩化カルシウムと19重量%塩化マグネシウムを含む水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【実施例4】
【0030】
水洗したジャガイモを、皮を剥かずにお湯に浸漬した後、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.38重量%塩化カルシウム水溶液(カルシウムイオン濃度 0.034モル/リットル)中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【実施例5】
【0031】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、細棒状に(断面サイズ4mm×4mm)切断し、60℃に加温した0.38重量%塩化カルシウム水溶液(カルシウムイオン濃度 0.034モル/リットル)中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【実施例6】
【0032】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、短冊状に(縦50mm×横12mm×厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.38重量%塩化カルシウム水溶液(カルシウムイオン濃度 0.034モル/リットル)中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【実施例7】
【0033】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した3.1重量%乳酸カルシウム水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを乳酸カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯ごたえのある食感を示した。
【実施例8】
【0034】
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、80℃に加温した0.5重量%塩化カルシウム水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カルシウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは歯応えのある食感を示した。
【0035】
比較例1
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬したのち、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.58重量%塩化ナトリウム水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化ナトリウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは軟らかく、歯応えのある食感を示さなかった。
【0036】
比較例2
水洗、剥皮したジャガイモをお湯に浸漬し、薄くスライス状に(厚さ2mm)切断し、60℃に加温した0.75重量%塩化カリウム水溶液中に5分間浸漬した。浸漬処理したジャガイモを塩化カリウム水溶液から取り出し、水洗いしたのち、160℃のパーム油で、7分間フライした。得られたポテトフライは軟らかく、歯応えのある食感を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジャガイモをフライしてポテトフライを製造する方法において、ジャガイモをフライする前に、少なくともジャガイモの皮がついていない部分に多価陽イオンを接触させることを特徴とする、方法。
【請求項2】
多価陽イオンとしてカルシウムイオンまたはマグネシウムイオンを用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カルシウムイオン給源が塩化カルシウムまたは乳酸カルシウムであり、マグネシウムイオン給源が塩化マグネシウムである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
カルシウムイオン濃度とマグネシウムイオン濃度の合計が0.007〜4モル/リットルの範囲にある水溶液と、ジャガイモとを接触させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
多価陽イオンとジャガイモとの接触温度が20〜90℃である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法で製造されたポテトフライ。