説明

ポリ−グリセロールリン酸をベースにした抗グラム陽性細菌ワクチン

本発明は、ブドウ球菌感染を治療及び/または予防するための、ポリグリセロールリン酸(PGP)を含む免疫原性組成物を提供する。いくつかの実施態様においては、PGPは、T細胞依存性抗原にコンジュゲーションされる。本発明は、ブドウ球菌感染を治療及び/または予防するために、本発明の組成物を使用する方法も提供する。本発明は、PGPを合成するための方法も提供する。本発明は、PGPをT細胞依存性抗原にコンジュゲーションするための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する記載
本発明は、一部、米国政府からの支援によりなされた。したがって、政府は、本発明において一定の権利を有し得る。
【0002】
本発明の分野
本発明は、免疫原性組成物およびワクチンの分野、それらの製造、ならびにグラム陽性細菌感染の治療および/または予防のためのそれらの使用に関する。より詳細には、本発明は、PGP抗原を含むワクチン組成物に関する。このような組成物を調製および使用するための方法も提供される。
【背景技術】
【0003】
ヒトにおけるほとんどの病原性細菌は、グラム陽性生物体である。グラム陽性細菌の例には、ブドウ球菌、連鎖球菌、コリネバクテリウム、リステリア、桿菌、およびクロストリジウムが挙げられる。ブドウ球菌は通常、ヒトおよび他の動物の皮膚および粘膜に存在しかつコロニー形成する。細菌を保有する皮膚または粘膜が手術または他の外傷の間に損傷を受けた場合、ブドウ球菌は、感染の原因となる内部組織への接近を獲得し得る。ブドウ球菌が局所的に増殖するかまたはリンパ系もしくは血液系に入ると、重度の感染合併症が結果として生じ得る。ブドウ球菌は、米国において、菌血症、手術創感染、および人工器官材料の感染の主要因であり、他の病院内(院内)感染症の第二の主要因である。ブドウ球菌感染と関連した合併症には、敗血症ショック、心内膜炎、関節炎、骨髄炎、肺炎、および種々の臓器における膿瘍が挙げられる。
【0004】
ブドウ球菌は、コアグラーゼ陽性(CoPS)またはコアグラーゼ陰性(CoNS)のいずれかとして分類される。黄色ブドウ球菌は、ブドウ球菌の最も一般的なコアグラーゼ陽性型である。黄色ブドウ球菌は、地域病院における手術部位感染(SSI)の主要因であり、米国において、毎年300,000〜500,000のSSIを生じる。全体として、黄色ブドウ球菌誘発性SSIは、年間医療費の10億ドル〜100億ドルを占める。抗生物質メチシリンに対して耐性のある黄色ブドウ球菌株(MRSA株)は、米国における院内ブドウ球菌感染の40%〜60%の原因である。MRSA株は、1992年〜2002年の間で9%から49%に増大した。2001年から2003年まで、米国における皮膚および軟組織の感染について、1160万の外来治療訪問があり、そのうちの多くまたはほとんどは、MSRA株によるものであると考えられるものであった。地域感染型のMRSA感染のこの発生は、微生物についての懸念を高め、ブドウ球菌の蔓延を制御する努力に対する新たな緊急度を与えた。
【0005】
コアグラーゼ陰性ブドウ球菌は、院内菌血症の最も一般的な要因である(すべての症例の30〜40%)。およそ250,000症例のCoNS菌血症は毎年、米国においてかなりの罹患率、1〜2%から25%にまで及ぶ死亡率、エピソードあたり25,000ドルの平均追加経費、少なくとも7日間の入院の延長を伴って生じる。表皮ブドウ球菌は、ブドウ球菌の最も一般的に単離されるコアグラーゼ陰性型であり、留置型医用デバイスに用いられる事実上すべての生体材料において増殖するその能力に大きく起因して、臨床的に重要な感染の主要因である。一旦確立されると、これらの感染は、抗菌剤に対して不応となる傾向にあり、しばしば、感染したデバイスの除去を必要とする。
【0006】
ブドウ球菌感染は、典型的には抗生物質を用いて治療される。しかしながら、抗生物質に対して広いスペクトルの耐性を呈するブドウ球菌株の割合は、ますます広まっており、抗菌剤療法の有効性を低下させる。新たな抗菌剤が研究下にあるが、細菌は究極的には、これらの新たな抗生物質を回避するための耐性機序を工夫することが予期される。したがって、ブドウ球菌感染を予防および/または治療するための非抗菌剤アプローチに対する緊急の必要性がある。
【0007】
細胞外グラム陽性細菌病原体に対するヒト免疫は主として、表面多糖類に特異的な抗体を介するオプソニン殺作用によって仲介される(Skurnik D. et al., J. Clin. Invest., 120(9):3220−33 (2010))。黄色ブドウ球菌は、2つの以下のような抗原、すなわち莢膜多糖(CP)およびポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)を発現する。莢膜多糖類は、細菌細胞に対するワクチン誘発性免疫のための最良に確立された標的である(Skurnik D. et al., J. Clin. Invest., 120(9):3220−33 (2010))。しかしながら、ブドウ球菌感染に対する防御性ヒト免疫を構成するものが何であるかについての知識がなかったので、好適なワクチンを開発するための合理的なアプローチを用いることが困難であった。例えば、黄色ブドウ球菌は、外見的には重複した機能を有する種々の分子を産生し、1つが除去される(またはワクチンによって標的にされる)と、他の細菌産物が機能の損失を補償し得る。加えて、ブドウ球菌は、ヒト自然免疫を回避する多くの多様な戦略を発達させた(Schaffer A.C. et al., Infect. Dis. Clin., 23:153−71 (2009))。
【0008】
受動免疫療法におけるブドウ球菌抗原に対する抗体を用いるアプローチは、いくつかの予備的な成功を伴って研究されてきた。例えば、黄色ブドウ球菌莢膜多糖類血清型5(CP5)および血清型8(CP8)(すなわち、Altastaph)、クランピング因子A(ClfA)(すなわち、Aurexis)、ATP結合カセット(ABC)(すなわち、Aurograb)、ならびにリポテイコ酸(LTA)(すなわち、パギバキシマブ(Pagibaximab))に対する抗体を用いた第2相および第3相試験が完了した(Schaffer A.C. et al., Infect. Dis. Clin., 23:153−71 (2009))。しかしながら、フィブリノーゲンおよびフィブリンを結合するブドウ球菌アドへシン(黄色ブドウ球菌ClfAおよび表皮ブドウ球菌SdrG)に対して高い抗体力価を有するドナー由来のプールされたヒト免疫グロブリン調製物(すなわちVeronate)を用いた第3相試験は失敗した。この失敗は、特に失望するものであり、なぜなら、抗体カクテルは、ClfAおよびSdrGに対する抗体について選択したが、多くの他のブドウ球菌抗原に対する抗体を含んでいたようであり、多成分性受動免疫療法における試みの失敗を表すからである(Schaffer A.C. et al., Infect. Dis. Clin., 23:153−71 (2009))。
【0009】
今日まで、ブドウ球菌抗原の投与を包含する2つだけの能動免疫化アプローチが第2相および第3相試験において試験された。結合型(conjugate)ワクチンの形態の黄色ブドウ球菌莢膜多糖類CP5およびCP8に基づいた1つのアプローチ(すなわち、StaphVax)は、第3相段階で失敗した。ワクチンは、血液透析患者に投与されると、有意な保護を与え損ねた。この試験の失敗は、研究者に有効なブドウ球菌ワクチンを開発することが可能かどうかを問いかけさせた(Schaffer A.C. et al., Infect. Dis. Clin., 23:153−71 (2009))。実際、黄色ブドウ球菌感染からの回復は、その後の感染に対する免疫を与えるようには見えず、ブドウ球菌感染に対する免疫が生じないかもしれないことを示唆する。それにもかかわらず、鉄を制限する条件下でのみ発現する、黄色ブドウ球菌細胞壁に固定されるタンパク質IsdBをベースにした別のワクチン(すなわち、V710)は近年、第2/3相試験に入った。しかしながら、目下、臨床用途における抗ブドウ球菌ワクチンも、ワクチンに含まれる場合にどの細菌成分が保護を与えるかを予想する方法も、存在しない。
【0010】
リポテイコ酸(LTA)は、細菌細胞壁に突出するすべてのグラム陽性細菌細胞膜の主要構成成分であり、細菌機能について必須であるように見える(Deininger S. et al., J. Immunol., 170:4134−38 (2003))。LTAが免疫刺激性であるという証拠も増加している。例えば、LTAは、免疫化後の防御性抗菌効果を惹起することが示された(Yokoyama Y. et al., Int J Pediatr Otorhinolaryngol, 63:235−241 (2002)、Caldwell J. et al., J Med Microbiol., 15:339−350 (1982))。しかしながら、米国特許出願公開第2005/0169941号において、発明者らのうちの1名は、天然の精製済みLTAおよび脱アシル化した天然の精製済みLTA(deAcLTA)が、マウスにおいて乏しい免疫原性しかないことを示した。免疫原性を改良するために、deAcLTAを、マレイミドにより誘導体化した破傷風トキソイド(TT)に結合させた。deAcLTA−TT結合型ワクチンは、高レベルの抗LTA IgG抗体を誘導した。加えて、応答は、追加免疫可能であり、T細胞非依存性抗原からT細胞依存性抗原へのdeAcLTAの変換を示した。deAcLTA−TTによって誘導された抗体は、無処置のLTAと交差反応し、血清は、表皮ブドウ球菌細菌に対するオプソニン化貪食作用アッセイにおいて非常に防御性であった。deAcLTA−TTを用いて免疫化したマウスは、脾臓および腎臓における細菌の顕著な減少によって明らかにされるように、生きた黄色ブドウ球菌による静脈内(i.v.)感染に対しても耐性があった。
【0011】
本発明者らは、その他の発明者らとともに、黄色ブドウ球菌LTAに対するマウス/ヒトキメラ型モノクローナル抗体(Pagibaximab)が、表皮ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌に対してインビトロでオプソニン性であり(すなわち、食作用を亢進し)、黄色ブドウ球菌に対してインビボで防御性であることも示した。パギバキシマブ抗体は、マウスを全ブドウ球菌で免疫化し、結果として生じるモノクローナル抗体を、ブドウ球菌のオプソニン作用を誘導する能力に基づいて脾臓細胞の融合物から選択することによって開発された。パギバキシマブは、細菌に対する最高の結合活性を有し、高レベルのオプソニン作用を誘導した(Weisman L. E. et al., Int Immunopharmacol., 9:639−644 (2009)、およびWeisman L. E. et al., Antimicrob Agents Chemother., 53:2879−2886 (2009))。しかしながら、LTAの投与は、炎症反応を惹起し、能動型ワクチンにおける使用のための候補としては望ましくない(例えば、Deininger S. et al., Clin. Vaccine Immunol., 14(12):1629−33 (2007)、Morath S. et al., J. Endotoxin Res., 11(6):348−56 (2005)、Deininger S. et al., J. Immunol., 170(8):4134−38 (2003)、およびMorath S. et al., J. Exp. Med., 195(12):1635−40 (2002)を参照されたい)。
【0012】
したがって、グラム陽性細菌感染の治療および/または予防のための免疫原性組成物およびワクチンを提供することによって前記分野における需要に取り組むことが、本発明の主要目的である。このような組成物を調製および使用するための方法も提供される。
【発明の概要】
【0013】
本発明は、ブドウ球菌感染に対する防御性エピトープであることがこれまで公知ではなかった部分であるポリ−グリセロールリン酸(PGP)を含む免疫原性組成物を提供する。
【0014】
一態様において、PGPは、T細胞依存性抗原に共有結合する。さらに別の態様において、T細胞依存性抗原は、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、遺伝子的に解毒したジフテリア毒素、百日咳トキソイド(PT)、組換え細胞外タンパク質(exoprotein)A(rEPA)、外膜タンパク質複合体(OMPC)、またはPan DRヘルパーT細胞エピトープ(PADRE)ペプチドである。さらに別の態様において、PADREペプチドは、配列AKXVAAWTLKAAAを含み、この中で、Xは、シクロヘキシルアラニンである。さらに別の態様において、遺伝子的に解毒したジフテリア毒素はCRM197である。
【0015】
別の態様において、PGPとT細胞依存性抗原とのモル比は、約5:1〜50:1である。さらに別の態様において、モル比は10:1である。
【0016】
別の態様において、PGPは、T細胞依存性抗原に直接結合する。さらに別の態様において、PGPは、リンカーを通じて、T細胞依存性抗原に結合する。
【0017】
別の態様において、PGPは、チオール基、チオール−エーテル基、アシル−ヒドラゾン基、ヒドラジド基、ヒドラジン基、ヒドラゾン、特にビス−アリールヒドラゾン基、またはオキシム基を用いて、T細胞依存性抗原に共有結合する。さらに別の態様において、チオール求核基は、例えば、スクシニミジル6−[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノアート(SPDP)、またはN−スクシニミジル−S−アセチルチオアセタート(SATA)を用いて組み込まれる。さらに別の態様において、ヒドラジド求核基は、E−マレイミドカプロン酸ヒドラジド−HCl(EMCH)、またはヒドラジンもしくはアジピン酸ジヒドラジド(ADH)および1−エチル−3−ジメチルアミノプロピル)カルバジイミドヒドロクロリド(EDC)を用いて付加され、ならびにアリールヒドラジン基は、スクシニミジルヒドラジノニコチナートアセトンヒドラゾン(S−HyNic, Solulink Biosciences, San Diego, CA)を用いて付加される。
【0018】
別の態様において、PGPは合成物である。さらに別の態様において、PGPは、置換ホスホラミダイトモノマーを調製することと、標準的な固相核酸技法を用いてモノマーを徐々に伸長させることとによって製造される。
【0019】
別の態様において、PGPは、約5〜20のグリセロールリン酸モノマーを含む。さらに別の態様において、PGPは、約10〜12のグリセロールリン酸モノマーを含む。さらに別の態様において、PGPは、約10のグリセロールリン酸モノマーを含む。
【0020】
本発明は、PGP部分を発現する細菌による感染を治療するための方法、PGP部分を発現する細菌に対して対象にワクチン接種するための方法、および有効量の本発明の免疫原性組成物を投与することを含む、PGP部分を発現する細菌に対して防御性抗体を生成するための方法も提供する。
【0021】
一態様において、細菌は、ブドウ球菌である。別の態様において、細菌は、黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌である。
【0022】
一態様において、免疫原性組成物は、非経口的に投与される。別の態様において、免疫原性組成物は、別の活性剤とともに投与される。さらに別の態様において、他の活性剤は、抗生物質、細菌性抗原、または抗細菌抗体である。
【0023】
本発明は、保護および活性化されたホスホラミダイトモノマーを調製することと、モノマーを徐々に伸長させることとによって、ポリ−グリセロールリン酸(PGP)を合成するための新規の方法も提供する。一態様において、伸長は、標準的な固相オリゴヌクレオチド合成技法を含む。別の態様において、伸長は、DNA合成装置において実施される。さらに別の態様において、結合基は、伸長の間にPGPに組み込まれる。さらに別の態様において、結合基は、伸長の間に固体支持体によって組み込まれる。さらに別の態様において、モノマーは、結合基または結合基の前駆体を含む。さらに別の態様において、結合基はアミノ基である。
【0024】
一態様において、モノマーは、(a)1つの末端のヒドロキシル基上の酸不安定保護基、(b)2−OH上の塩基不安定基、および/または(c)他方の末端のヒドロキシル上の活性化型リン基、を含むグリセロール分子である。別の態様において、モノマーは、(a)1つの末端のヒドロキシル基上の酸不安定保護基を用いてグリセロール分子を保護すること、(b)2−OH上の塩基不安定基を用いてグリセロールを保護すること、および/または(c)他方の末端のヒドロキシル上の活性化型リン基を用いてグリセロールを保護すること、によって調製される。
【0025】
さらに別の態様において、グリセロールはキラル的に純粋である。別の態様において、活性化型リン基は、結合基または結合基の前駆体を含む。さらに別の態様において、結合基はアミノ基である。さらに別の態様において、(b)の塩基不安定基は、酸脱保護条件に対して安定である。さらに別の態様において、伸長は、固相支持体を用いる標準的な固相オリゴヌクレオチド合成技法を含み、この中で、(b)の上記塩基不安定基は、固相支持体からのPGPの切断の間に除去される。さらに別の態様において、グリセロール分子は、まず、酸不安定保護基を用いて保護され、および次に、塩基不安定基を用いて保護される。
【0026】
さらに別の態様において、モノマーは、(a)レブリン酸エステルをイソプロピリデングリセロール分子から調製すること、(b)上記イソプロピリデン保護基を除去すること、(c)酸不安定基を用いて遊離末端アルコールを保護すること、(d)塩基不安定基を用いて2−OHを保護すること、(e)上記レブリン酸エステルを脱保護して、遊離末端ヒドロキシルを提供すること、および(f)遊離末端アルコールをホスファイト化すること、によって調製される。一態様において、イソプロピリデングリセロール分子は、キラル的に純粋である。別の態様において、レブリン酸エステルは、ヒドラジンによって除去される。
【0027】
本発明は、本発明の方法によって製造される合成ポリ−グリセロールリン酸(PGP)分子も提供する。本発明は、リンカーを含む合成ポリ−グリセロールリン酸(PGP)分子も提供する。一態様において、合成PGPは、リンカー基を含む。別の態様において、リンカー基は、チオール、アミン、アミノオキシ、アルデヒド、ヒドラジド、ヒドラジン、マレイミド、カルボキシル、またはハロアシルを含む。
【0028】
本発明の追加的な目的および利点は、以下の説明において一部示され、および一部、説明から明らかであり、または本発明の実施によって学ばれ得る。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲に特に指摘された要素および組み合わせによって具現化および達成される。
【0029】
以上の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方が、例示的かつ説明的であるに過ぎず、主張されるように、本発明を制限するものではない。説明において引用される文書はいずれも、引用により本明細書に組み込まれる。
【0030】
本明細書に組み込まれおよびその一部を構成する添付の図面は、本発明の例示的な実施態様を例証し、前記説明とともに、本発明の原理を説明するよう機能する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、黄色ブドウ球菌リポテイコ酸(LTA)およびそのポリ(グリセロールリン酸)(PGP)成分の構造を示す。
【図2】図2は、保護されたグリセロールリン酸ホスホラミダイトを用いてPGPを調製するために使用される合成スキームである。
【図3】図3は、TTとの組み合わせ(deAcLTA+TT)およびTT結合型deAcLTA(deAcLTA−TT)におけるdeAcLTAの免疫原性を示す。20個体のBALB/cマウスの群を0、14、および28日後に、TTと混合した、またはTTに結合した5μgのLTA、およびRibiアジュバントを用いて免疫化した。個々の血清(28日後)をELISAによって抗LTA IgGについてアッセイした。
【図4】図4は、PGP−TTを用いて免疫化されたBALB/cマウスが、黄色ブドウ球菌による感染に対して特異的に保護されることを示す。BALB/cマウス(1群あたり5個体)を、25μgの刺激性CpG含有オリゴデオキシヌクレオチド(CpG−ODN)と混合した13mgのミョウバン上に吸着されたPGP−TTまたはPPS14−TT(1μg/個体)を用いて免疫化し、14日後に同様に追加免疫した。36日後に、マウスに1.7×107CFUの生きた黄色ブドウ球菌を腹腔内感染させた。血液を尾静脈から1、2、および3日後に、黄色ブドウ球菌コロニー計数の決定のために得た。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の詳細な説明
本発明は、ブドウ球菌感染についての防御性エピトープであることがこれまで公知ではなかった部分であるPGP抗原を含む免疫原性組成物およびワクチンに関する。PGP部分を発現するグラム陽性細菌による感染の治療および/または予防のためのこのような組成物を調製および使用する方法も提供される。
【0033】
PGP抗原
リポテイコ酸(LTA)の構造は、細菌間で異なるが、典型的にはポリ−グリセロールリン酸(PGP)(図1)またはポリ−リビトールリン酸(PRP)のコア鎖および糖脂質尾部を含む。PGP鎖は、グリセロール上にペンダント糖およびD−アラニンエステルを有する。PGPを含むブドウ球菌には、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌が含まれる。PGPを欠くブドウ球菌には、S.シトレウスが含まれる。
【0034】
本発明者らは、黄色ブドウ球菌LTAに対するマウス/ヒトキメラ型モノクローナル抗体であるパギバキシマブが、黄色ブドウ球菌由来のLTAおよび合成PGPに等しく十分に結合することをここに決定し(実施例2を参照のこと)、これらの抗体がPGPに対して特異的であることを示唆した。これらの新たな結果は、PGPが、ブドウ球菌感染の防御および/または治療のための標的抗原として機能し得ることを示唆する。
【0035】
したがって、一態様において、本発明は、PGPを含む免疫原性組成物に関する。別の態様において、PGPは合成物である。さらに別の態様において、PGPは、CD4+ヘルパーT細胞を動員することのできる免疫原性タンパク質に共有結合する(すなわちコンジュゲーションする)。
【0036】
多価抗原
PGPなどの多価抗原は、少価(paucivalent)抗原よりもB細胞受容体のシグナル伝達およびB細胞の活性化のより強力な刺激因子であることが示された。例えば、免疫原性であるために、2型T細胞非依存性(TI−2)Ag DNP−ポリアクリルアミドは、100,000Daの閾値分子質量および20の閾値ハプテン結合価を超過すべきであることが発見された(Dintzis R.Z. et al., J. Immunol., 131:2196−203 (1983))。特定の多価抗原の免疫原性とその分子量(すなわち、反復単位数)の間の関連性は、抗原特異的免疫グロブリンの誘導についての釣り鐘形曲線を呈する(Dintzis R.Z. et al., J. Immunol., 143:1239−44 (1989))。歴史的に、約1〜20の反復単位を含む多価抗原は、非常に免疫原性であることが発見されており、有効なワクチン抗原として機能する。
【0037】
したがって、本発明の一態様において、PGPは、約1〜20のグリセロールリン酸モノマーを含む。別の態様において、PGPは、約5〜10のグリセロールリン酸モノマーを含む。さらに別の態様において、PGPは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20のグリセロールリン酸モノマーを含む。
【0038】
PGP合成
固相核酸合成による伸長に好適な適切に保護されたグリセロールアミダイトの調製は、活性化型モノマーが、1つの末端上で酸不安定アルコール保護基を、酸脱保護条件に対して安定である2−OH上で塩基不安定基を、および伸長のために活性型ホスホラミダイトを組み込まなければならないので、困難である。本明細書で使用する場合、用語「活性型」および「活性化型」は、化学的実体上の少なくとも1つの部分が、例えば1つ以上の共有結合を通じて別の分子と相互作用することができるようにされたことを意味する。
【0039】
一態様において、酸不安定基はジメトキシトリチルである。酸不安定基は、トリクロロ酢酸またはジクロロ酢酸を用いて除去され得る。別の態様において、塩基不安定基はレブリン酸エステル基である。塩基不安定基は、例えばヒドラジンによって除去され得る。さらに別の態様において、活性型ホスホラミダイト基は、3−(((ジイソプロピルアミノ)ホスフィノ)オキシ)プロパンニトリル基であり得る。
【0040】
(S)−(+)立体配置を保有するキラル的に純粋なグリセロールモノマーは、市販の適切なモノマーへの合成経路を見出す困難さを増大させる。好適な経路を見出す困難さは、(a)いかなる他の保護にも影響せずに除去できる3つのヒドロキシル保護基が発見されなければならず、(b)ヒドロキシル基が互いに対してアルファであり、そのことが、一定の条件下で保護基の迅速な移動を可能にするので、好適な保護基の選択が制限されるものとして、当業者によって理解され得る。
【0041】
このことを踏まえ、本発明者らは、PGPを合成する複数の経路を評価し、図2および実施例1における一般的な概略において提供されるように、PGPを多量に合成するための信頼できる方法を開発した。したがって、ホスホラミダイトは、(a)そのレブリン酸エステルとしての3−OH基の保護、(b)イソプロピリデン保護基の酸脱保護、(c)1−OHにおけるジメトキシトリチル(DMTr)基の組み込み、(d)ベンゾアートとしての2−OHの保護、(e)3−O−レブリン酸エステル基の除去、および(f)3−OHのホスファイト化を含む6つの工程において、(S)−(+)−1,2−イソプロピリデングリセロールから合成され得る。上記の特異的な保護基は高い収量をもたらし得るのに対し、他の酸および塩基不安定基は、いかなる他の保護にも影響せずに、かつ移動における問題を苦慮せずに除去することができる限り、用いられ得る。
【0042】
本発明の別の態様において、伸長は、例えば、DNA合成装置における標準的な固相核酸合成プロトコールの使用を通じて生じ得る。別の態様において、ホスホラミダイト、例えば、1−O−ジメトキシトリチル基−2−(S)−(+)−ベンザオアート(benzaoate)−3−ホホスホラミダイト(phophosphoramidite)グリセロールは、DNA合成装置を用いて伸長される。反応は、例えば、所望のPGPポリマーを生じるための標準的なカップリング条件ならびに標準的な切断および脱保護条件を採用する複数サイクルを用いて実施されることができる。当業者は、アミノ基などの「3’」または「5’」結合基が、3’−アミノ固体支持体または5’−アミノホスホラミダイトを用いることによって、PGPポリマーに組み込まれることができることも理解する。
【0043】
結合型ワクチン
ワクチン調製物は、免疫原性であるべきであり、すなわち、調製物は、免疫応答を誘導することができるべきである。しかしながら、外来の薬剤を単に注射することによって、対象における抗体形成を刺激することが必ずしも常に可能であるとは限らない。特定の薬剤は、免疫応答を生得的に惹起することができ、かつ修飾せずにワクチン中で投与され得るのに対し、他の重要な薬剤は、免疫原性ではなく、かつ薬剤が免疫応答を誘導することができる前に免疫原性の分子もしくは構築物へと変換されなければならない。
【0044】
免疫応答は、以下の通り一般的に説明されることのできる複雑な一連の反応である:(1)抗原は身体に入り、抗原を加工して細胞表面上に抗原の断片を保持する抗原提示細胞と遭遇し、(2)抗原提示細胞上に保持される抗原断片は、B細胞に対する助力を提供するT細胞によって認識され、および(3)B細胞は刺激されて、増殖し、抗原に対する抗体を分泌する抗体形成細胞へと分裂する。
【0045】
ほとんどの抗原は、T細胞からの支援で抗体を誘発するだけであり、それゆえ、T依存性(TD)として公知である。タンパク質などのこれらの抗原は、抗原提示細胞によって加工され、したがって、先に説明したプロセスにおいてT細胞を活性化することができる。このようなT依存性抗原の例には、破傷風トキソイドおよびジフテリアトキソイドが挙げられる。
【0046】
多糖類などのいくつかの抗原は、抗原提示細胞によって適切に加工されることができず、T細胞によって認識されない。これらの抗原は、抗体形成を誘発するためにT細胞の助力を必要としないが、B細胞を直接活性化することができ、それゆえ、T非依存性抗原(TI)として公知である。PGPは、T非依存性抗原である。
【0047】
T依存性抗原は、いろいろな意味でT非依存性抗原とは相違する。最も顕著なことに、T依存性抗原は、免疫応答を非特異的に亢進させるアジュバントについての必要性において相違する。大部分の可溶性T依存性抗原は、アジュバントともに投与されない限り、低レベルの抗体応答しか惹起しない。凝集した形態へのTD抗原の不溶化は、アジュバントの不在下でさえ、抗原の免疫原性を高めることもできる。対照的に、T非依存性抗原は、アジュバントの不在下で投与される場合、抗体応答を刺激することができるが、応答は一般的に、より低い程度およびより短い持続時間である。
【0048】
T非依存性抗原とT依存性抗原の間の4つの他の差異は、以下のとおりである:(1)T依存性抗原は免疫応答を刺激することができ、それにより記憶応答は同じ抗原による二次的攻撃感染の際に惹起されることができるのに対し、T非依存性抗原は二次応答性について免疫系を刺激することができず、(2)抗原に対する抗体の親和性は、T依存性抗原を用いた免疫化後の時間とともに増大するが、T非依存性抗原では増大せず、(3)T依存性抗原は、T非依存性抗原よりも効果的に未熟なまたは新生の免疫系を刺激し、(4)T依存性抗原は通常、IgM、IgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgE抗体を刺激するのに対し、T非依存性抗原は主として、IgMおよびIgG3抗体を刺激する。
【0049】
T非依存性抗原に対する免疫応答を高めるための1つのアプローチは、抗原を1つ以上のT依存性抗原とコンジュゲーションさせることを包含する。この方法におけるT細胞の助力の動員は、高まった免疫性を提供することが示されている。CD4+ T細胞の助力を動員することのできる免疫原性「担体」タンパク質に共有結合したT細胞非依存性抗原を含む結合型ワクチンは、高力価の防御性IgG応答を惹起し、かつT非依存性抗原に対する免疫記憶を発生させることが示されている。
【0050】
担体タンパク質は、T細胞の助力を活性化および動員することのできる任意のウイルス性、細菌性、寄生虫性、動物性、または真菌性タンパク質/トキソイドであり得る。例示的な担体タンパク質には、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、遺伝子的に解毒したジフテリア毒素(例えば、CRM197)(DT)、百日咳トキソイド(PT)、組換え細胞外タンパク質A(rEPA)、組換えブドウ球菌エンテロトキシンC1(rSEC)、コレラ毒素B(CTB)、髄膜炎菌P64kタンパク質、組換えPorB(髄膜炎菌ポリン)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)外膜タンパク質CDおよびUspA、組換えバチルス・アンシラシス(Bacillus anthracis)防御性抗原、組換えニューモリシンPly、自己溶菌酵素(Aly)、クレブシエラ肺炎桿菌OmpAタンパク質、鞭毛、分類不可能なヘモフィルス属インフルエンザ外膜タンパク質P6、組換えクレブシエラ肺炎桿菌外膜40−kDaタンパク質(P40)、および髄膜炎菌由来の外膜タンパク質複合体(OMPC)が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、一連のpanHLA−DR結合ペプチド(Pan DRヘルパーT細胞エピトープ;PADRE)も担体タンパク質として用いられており、天然T細胞エピトープよりもおよそ1,000倍強力であることが発見された。歴史的に、約1:1〜50:1のTI:TDモル比を有する結合型ワクチンは、非常に免疫原性でありかつ有効なワクチン抗原として機能することが発見された。
【0051】
したがって、本発明の一態様において、PGPは、タンパク質、トキソイド、ペプチド、T細胞もしくはB細胞アジュバント、リポタンパク質、熱ショックタンパク質、T細胞スーパー抗原、および/または細菌性外膜タンパク質に共有結合する。別の態様において、PGPは、アルブミン、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、CRM197、rEPA、百日咳トキソイド(PT)、KLH、外膜タンパク質複合体(OMPC)、および/またはPan DRヘルパーT細胞エピトープ(PADRE)に共有結合する。本発明の一態様において、PGPと担体タンパク質とのモル比は、約1:1〜50:1である。本発明の別の態様において、PGPと担体タンパク質のモル比は、約1:1、5:1、10:1、15:1、20:1、25:1、30:1、35:1、40:1、45:1、または50:1である。
【0052】
T細胞依存性抗原をT細胞非依存性抗原にコンジュゲーションするための方法は、当該技術分野において公知である。担体化合物は、T細胞非依存性抗原に直接結合し得るか、またはリンカーを通じて結合され得る。一般に、少なくとも1つの部分は、他の分子に共有結合できるようにするよう「活性化され」なければならない。多くのコンジュゲーション法は、当該技術分野において公知である(例えば、Dick W. E. et al., Contrib. Microbiol. Immunol., 10:48−114 (1989)、Hermanson G.T., Bioconjugate Techniques, 2nd Ed. (2008)、ならびに米国特許第5,849,301号および同第5,955,079号を参照されたい)。結合体(コンジュゲート)は、例えば、米国特許第4,365,170号および同第4,673,547号に記載されるような、直接的な還元的アミノ化法によって調製されることができる。コンジュゲーション法はあるいは、シアン酸エステルを形成するための1−シアノ−4−ジメチルアミノピリジニウムテトラフロオロボラート(CDAP)を用いたT細胞非依存性抗原のヒドロキシル基の活性化に依存し得る。次に、活性化型抗原は、担体タンパク質上のアミノ基に直接的にまたは間接的に(リンカー基を介して)結合し得る。例えば、シアン酸エステルは、ヘキサンジアミンまたはアジピン酸ジヒドラジド(ADHまたはAH)とカップリングした後に、担体タンパク質上のカルボキシル基を介してカルボジイミド(例えば、EDACまたはEDC)化学作用を用いて、担体タンパク質にコンジュゲーションすることができる。このようなコンジュゲートは、国際公開第93/15760号、国際公開第95/08348号、および国際公開第96/29094号に記載される。
【0053】
一般に、タンパク質担体における以下の種類の化学基は、以下のカップリング/コンジュゲーションに用いられることができる:(1)カルボジイミド化学作用を用いてT非依存性部分における天然のまたは誘導体化されたアミノ基にコンジュゲーションし得るカルボキシル(例えば、アスパラギン酸またはグルタミン酸を介する)、(2)カルボジイミド化学作用を用いてT非依存性部分における天然のまたは誘導体化されたカルボキシル基にコンジュゲーションし得るアミノ基(例えば、リジンを介する)、(3)スルフヒドリル(例えば、システインを介する)、(4)ヒドロキシル基(例えば、チロシンを介する)、(5)イミダゾール基(例えば、ヒスチジンを介する)、(6)グアニドール基(例えば、アルギニンを介する)、および(7)インドリル基(例えば、トリプトファンを介する)。T細胞非依存性抗原において、以下の基、すなわちOH、COOH、またはNH2をカップリングに用いることができる。アルデヒド基は、過ヨウ素酸塩、酸加水分解、過酸化水素などを含む、当該技術分野で公知の異なる処理によって発生することができる。
【0054】
上記のように、TI部分とTD部分の間のコンジュゲーションは、間接的にまたは直接的にのいずれかで進行し得る。特定の場合において、TI部分とTD部分を組み合わせるプロセスは、望ましくない副作用をもたらし得る。例えば、直接的なカップリングは、互いに非常に近接してTI部分およびTD部分を配置して、この2つの部分間の過剰な架橋の形成を促進することができる。このような条件の極みにおいて結果として生じるコンジュゲート産物は、(例えば、ゲル化した状態で)不必要に粘度が高くなる可能性がある。
【0055】
過剰な架橋は、結果として生じるコンジュゲート産物の低下した免疫原性も結果的に生じうる。加えて、架橋は、外来エピトープのコンジュゲートへの導入を結果として生じるか、またはそれに代わるものとして、有用なワクチンの製造に有害である可能性がある。過剰の架橋の導入は、この問題を悪化させる。
【0056】
TI部分とTD部分の間の架橋の制御は、各々における活性基の数、基の濃度、反応のpH、緩衝液組成、温度、リンカーの使用、および当業者に周知の他の手段によって制御することができる(例えば、米国特許出願公開第2005/0169941号を参照されたい)。
【0057】
例えば、リンカーは、架橋の程度を制御するために、TI部分とTD部分の間に提供されてもよい。リンカーは、分子間の物理的分離を維持するのを助け、望ましくない架橋の数を制限するために用いられることができる。追加的な利点として、リンカーは、結果として生じるコンジュゲートの構造を制御するためにも用いられることができる。コンジュゲートが正確な構造を有さない場合、免疫原性に不利に影響を及ぼし得る問題が結果として生じ得る。あまりにも速すぎるかまたはあまりにも遅すぎるかのいずれかのカップリング速度は、結果として生じるコンジュゲート産物の全体的な収量、構造、および免疫原性に影響を及ぼす可能性がある(例えば、Schneerson et al., Journal of Experimental Medicine, 152: 361 (1980)を参照されたい)。
【0058】
これらの考慮を踏まえて、本発明者らは、実施例3および7に示すように、非常に免疫原性の高いPGPコンジュゲートを製造するコンジュゲーション法を開発した。一態様において、PGP分子は、リンカーを通じてTD部分に結合する。さらに別の態様において、リンカーは、TD部分へのカップリングの前にPGPに結合する。したがって、一態様において、本発明は、PGPのT細胞依存性抗原へのチオ−エーテルカップリングに関する。別の態様において、本発明は、PGPのT細胞依存性抗原へのカルボキシルカップリングに関する。さらに別の態様において、本発明は、PGPのT細胞依存性抗原へのコンジュゲーションのためのオキシム化学作用の使用に関する。
【0059】
免疫原性組成物
本発明は、本発明のPGP抗原を含む免疫原性組成物にも関する。本発明の組成物は、多くのインビボおよびインビトロでの目的に有用である。例えば、本発明の組成物は、ブドウ球菌感染およびPGPを含む他の種の細菌によって生じる感染を予防するためのヒトおよび動物の能動免疫化のためのワクチンとして、PGP部分を発現するグラム陽性細菌による感染を予防または治療するために他のヒトまたは動物に投与されることのできる抗PGP抗体を製造するためのヒトまたは動物の免疫化のためのワクチンとして、このような細菌による感染を予防することのできるモノクローナル抗体、抗体を作製することに関与する遺伝子のライブラリー、またはペプチド模倣薬など、重要な生物製剤についてスクリーニングするための抗原として、ブドウ球菌感染およびPGPを含む他の種の細菌によって生じる感染のための診断試薬として、ならびにブドウ球菌感染およびPGPを含む他の種の細菌によって生じる感染に対するヒトまたは動物の感受性に関して、ヒトまたは動物の免疫学的状態を決定するための診断試薬として、抗体応答を生じるのに有用である。
【0060】
本発明の組成物は、抗原に対する免疫応答を誘発することのできる任意の対象に投与され得るが、免疫応答を生じることができ、かつブドウ球菌感染症を発症する危険がある対象におけるブドウ球菌により生じる全身感染に対する能動免疫を誘導するのに特に適している。「免疫応答を生じることができかつブドウ球菌感染症を発症する危険がある対象」は、環境中のブドウ球菌またはPGP部分を発現する他のグラム陽性細菌に曝露される危険がある免疫系を保有する哺乳類である。例えば、入院患者は、病院環境における細菌への曝露の結果として感染症を発症する危険がある。黄色ブドウ球菌による感染症を発症することについての高リスク集団には、例えば、透析中の腎疾患患者、および高リスクの手術を受けている個体が挙げられる。表皮ブドウ球菌による感染症を発症させることについての高リスク集団には、例えば、留置型医用デバイスを有する患者が挙げられる。いくつかの実施態様において、対象は、医用デバイスインプラントを受容したことのある対象であり、他の実施態様において、対象は、医用デバイスインプラントを受容したことがないものである。
【0061】
本発明の組成物は、抗体応答を誘導するための有効量で対象に投与される。「抗体応答を誘導するための有効量」は、本明細書で使用する場合、例えば、(1)対象における抗PGP抗体の産生を誘導すること、記憶細胞の産生を誘導すること、および細胞毒性リンパ球反応をおそらく誘導することなどによって、対象自体の免疫保護を生じる上で対象を支援し、および/または(2)PGP部分を発現するグラム陽性細菌に曝露された対象において感染が生じるのを予防するのに十分なPGPの量である。当業者は、当該技術分野で公知の常規の方法によって、PGPの量が能動免疫を誘導するのに十分であるかどうかを評価することができる。
【0062】
一般に、治療目的のために投与される場合、本発明の製剤は、医薬として許容し得る溶液において適用される。このような調製物は、医薬として許容し得る濃度の塩、緩衝剤、保存料、適合性のある担体、アジュバント、および/または他の治療成分を常規的に含んでもよい。本発明の組成物を製剤するのに好適な担体媒体には、リン酸ナトリウム緩衝生理食塩水および他の慣用媒体が挙げられる。好適な緩衝剤には、酢酸および塩(1〜2%(w/v))、クエン酸および塩(1〜3%(w/v))、ホウ酸および塩(0.5〜2.5%(w/v))、ならびにリン酸および塩(0.8〜2%(w/v))が挙げられる。好適な保存料には、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%(w/v))、クロロブタノール(0.3〜0.9%(w/v))、パラベン(0.01〜0.25%(w/v))、およびチメロサール(0.004〜0.02%(w/v))が挙げられる。一般的に、本発明の組成物は、約5〜約100μgの抗原を含む。他の実施態様において、本発明の組成物は、約10〜50μgの抗原を含む。
【0063】
本発明の組成物には、アジュバントも含んでもよい。用語「アジュバント」には、本発明のPGPに組み込まれるかまたはPGPと同時に投与され、対象における免疫応答を増強する任意の物質が含まれる。アジュバントには、アルミニウム化合物(例えば、水酸化アルミニウムおよびリン酸アルミニウム)、およびフロイント完全または不完全アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。アジュバント特性を有する他の材料には、TLRリガンド(例えば、TLR9アゴニストCpG−ODN)、BCG(弱毒化ヒト型結核菌)、リン酸カルシウム、レバミソール、イソプリノシン、多価陰イオン(例えば、ポリA:U)、レンチナン、百日咳毒素、リピドA、サポニン、QS−21、およびペプチド(例えば、ムラミルジペプチド)が挙げられる。レアアース塩(例えば、ランタン及びセリウム)もアジュバントとして使用されうる。アジュバントの量は、過度の実験をせずに、当業者によって容易に決定されることができる。
【0064】
本発明は、本発明のPGPを1つ以上の医薬として許容し得る担体および任意に他の治療成分とともに含む、医療用途のための医薬組成物を提供する。用語「医薬として許容し得る担体」は、本明細書で使用する場合、およびより完全に下記に説明されるように、1つ以上の適合性のある固体または液体の充填剤、希釈剤、またはヒトもしくは他の動物への投与に好適な封入物質を意味する。
【0065】
非経口投与に好適な組成物は簡便に、レシピエントの血液と等張性であることができるPGPの滅菌水性調製物を含む。採用され得る許容し得るビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル液、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌固定油は、溶媒または懸濁媒として従来どおり採用される。この目的のために、合成モノまたはジ−グリセリドを含む任意の無刺激性固定油が採用され得る。加えて、オレイン酸などの脂肪酸が、注射液の調製において利用される。皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内等の投与に好適な担体製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Easton, Paにおいて見出され得る。
【0066】
本発明の調製物は、有効量で投与される。有効量は、先に論議されたように、単独でまたはさらなる用量とともに、能動免疫を誘導するPGP抗原の量である。投与の様式に応じて、1ナノグラム/キログラム〜100ミリグラム/キログラムの薬用量範囲が有効であろうと考えられる。一実施態様において、薬用量範囲は、500ナノグラム〜500マイクログラム/キログラムである。別の実施態様において、薬用量範囲は、1マイクログラム〜100マイクログラム/キログラムである。絶対量は、投与が、細菌に感染していない高リスク対象に関して、または感染をすでに有している対象に関して実施されたかどうか、併用治療、投薬回数、ならびに年齢、健康状態、大きさ、および体重を含む個々の患者のパラメータを含む種々の因子によるであろう。これらは、当業者に周知の因子であり、常規の実験のみを用いて取り扱える。一般的に、信頼できる医学的判断に従って最高安全用量である最大用量が用いられるべきである。
【0067】
複数用量の本発明の医薬組成物が熟慮される。一般的に、複数用量の免疫化スキームは、高用量の抗原に続いて、数週間の待機期間の後、その後のより低用量の抗原の投与を包含する。さらなる用量は、同様に投与されてもよい。細菌感染に対する免疫応答および/または感染からのその後の防御を結果として生じる任意の治療方式を用いてもよい。複数用量の送達のための所望の時間間隔は、常規の実験のみを採用する当業者によって決定されることができる。
【0068】
種々の投与経路が利用可能である。選択される特定の様式は、治療途中の特定の容態および治療効能に必要な薬用量に依存するであろう。本発明の方法は、一般的にいえば、医学的に許容し得る任意の投与様式を用いて実施され得、有効レベルの免疫応答を、臨床的に許容し得ない有害な効果を生じずに引き起こす任意の様式を意味する。一実施態様において、投与様式は非経口的である。用語「非経口的」には、皮下注射、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内注射、または輸注技術が含まれる。他の経路には、経口、鼻内、皮膚、舌下、および局所が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
組成物は、単位薬用量形態で簡便に提示され得、薬学の分野において周知の方法のいずれかによって調製され得る。他の送達系には、時間放出、遅延放出、または持続放出送達系が含まれることができる。多くの種類の放出送達系が、利用可能であり、および当業者に公知である。放出送達系には、ポリ乳酸およびポリグリコール酸、ポリ無水物、ならびにポリカプロラクトンなどのポリマーベースの系、コレステロール、コレステロールエステルなどのステロールと、ならびに脂肪酸またはモノ−、ジ−、およびトリグリセリドなどの中性脂肪とを含む脂質である非ポリマー系、ヒドロゲル放出系、シラスティック系、ペプチドベースの系、ワックス被膜、従来の結合剤および賦形剤を用いた圧縮錠剤、部分的に融合したインプラントなどが挙げられる。
【0070】
本発明のPGP抗原は、他の活性剤とともに送達されてもよい。例えば、PGPは、1つ以上の抗生物質、細菌抗原などの1つ以上の他の抗原、および/または1つ以上の抗細菌性抗体とともに送達されてもよい。このような薬剤は当業者に公知である。PGPおよび他の活性剤は、同じ組成物中で併合されてもよく、または別個の組成物において投与されてもよい。別個の組成物において投与される場合、PGP組成物は、他の組成物と同時に投与されてもよいかまたは、他の組成物と連続して投与されてもよい。
【0071】
本発明の他の実施態様は、本明細書に開示される本発明の明細および実施に関する考慮から当業者に明らかであろう。明細および実施例が、例示的としてのみ考慮されるべきであること、それとともに本発明の真の範囲および精神が、以下の特許請求の範囲によって示されるべきであることは意図される。
【実施例】
【0072】
実施例
実施例1.PGPの合成
PGPにおける反復単位がホスホグリセロールであるので、反復するポリマーが、適切な置換ホスホラミダイトモノマーを調製し、それをDNA合成装置において徐々に伸長させることによって合成され得ることが仮定された。その目的のために、ホスホラミダイトシントンを必要とした。ホスホラミダイトを設計し、この中で、2−OHを、固相合成の間の樹脂からのポリマーの切断の間に、水酸化アンモニウムを用いて脱保護されるであろうベンゾイルエステルとして保護した。2−OHが保護されたホスホラミダイトを製造するための合成スキームを図2に示す。
【0073】
簡潔には、ホスホラミダイトを合成するために、C−2で所望のキラリティを維持しながら、直角に切断可能な保護基を、キラル的に純粋なアセトニドから出発するグリセロールのアルコールにおいて調製した。図2のスキームは、多様な保護スキームを試験した後に開発した、成功裏の経路を示す。化合物1のアルコール基をそのレブリン酸エステルとして保護した後、水性酢酸によりアセトニドを脱保護した。レブリン酸エステル3の第一級アルコールを、DNA合成装置に必要とされるように、そのジメチオキシトリチルとして保護した。2−OHをそのベンゾイルエステルとして保護し、レブリン酸エステルをピリジン緩衝ヒドラジンにより切断した。アルコール6をホスフィン7と組み合わせて、クロリドを用いる標準的なホスファイト化条件下で、所望のホスホラミダイト8を得た。すべての工程の収率は、70%超であった。
【0074】
図2に示される合成スキームに関するさらなる詳細を下記に示す:
【0075】
(S)−(+)−1,2−イソプロピリデン−グリセロ−3−イルレブリン酸エステル2:ジクロロメタン(200mL)中の(S)−(+)−1,2−イソプロピリデングリセロール1(15.00g、0.114モル、SigmaAldrich, St. Lous, MO)の溶液に、レブリン酸(13.2g、1.114モル、SigmaAldrich)およびDMAP(2.78g、0.023モル、SigmaAldrich)を添加した。撹拌した溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC、26.15g、0.114モル、SigmaAldrich)の溶液を滴下して添加した。反応物を4時間撹拌し、沈殿したDCUを濾過により除去した。反応は、TLC(ヘキサン/酢酸エチル(1/1)、PMA発色)によって完了していることが示された。反応混合物を飽和重炭酸ナトリウム溶液および鹹水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、2(25.7g、98.2%収率)を無色の油として生じた。
【0076】
(S)−(+)−グリセロ−3−イルレブリン酸エステル3:溶液AcOH/H2O(3/1、120mL)にアセトニド2(25.0g)を添加した。反応混合物を50℃の油浴において16時間加熱した。反応混合物を粘性のある油に濃縮し、キシレンから2回共蒸発させた。粗製物の画分(16g)を、ヘキサン/酢酸エチル(1/2)を溶離剤としてまず用いた後、100%の酢酸エチルを用いるシリカゲル上でのフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。生成物を含む画分をプールし、濃縮して3(10.2g)を生じた。
【0077】
(S)−(+)−1−DMT−グリセロ−3−イルレブリン酸エステル4:無水ピリジン(200mL)中のジオール3(7.35g、38.6mmol)の溶液に、塩化ジメトキシトリチル(13.1g、38.6mmol、SigmaAldrich)の溶液を滴下して添加した。室温で2時間撹拌した後、反応は、TLC(ヘキサン/酢酸エチル(1/2)、紫外線および酸発色)によって完了していることが示された。溶媒をロータリーエバポレータにおいて除去し、ジクロロメタンに溶解し、飽和重炭酸ナトリウムおよび鹹水で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、淡黄色を与えた。粗生成物をキシレンから共蒸発させた(2回)。生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。
【0078】
(S)−(+)−1−DMT−2−ベンゾアート−グリセロ−3−イルレブリン酸エステル5:無水ピリジン中の4(11.60g、23.6mmol)の溶液に、無水ピリジン(6mL)中の塩化ベンゾイル(4.15g、2.95mmol)の溶液を添加した。反応混合物を室温で1.5時間撹拌した。TLC(ヘキサン/酢酸エチル(1/1))は、生成物への優れた変換を示した。溶媒をロータリーエバポレータにおいて除去し、ジクロロメタンに溶解し、飽和重炭酸ナトリウムおよび鹹水で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、淡黄色を与えた。粗生成物をキシレンから共蒸発させた(2回)。生成物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製して、6.5gの5を粘性のある油として生じた。
【0079】
(S)−(+)−1−DMT−2−ベンゾアート−グリセロール6:ピリジン/AcOH(3/2、20mL)中の1Mヒドラジン水和物の溶液(1.21mL;2.01mmol)。ピリジン中の5(6.00g、10.1mmol)の溶液に、ヒドラジン/ピリジン/AcOH溶液を添加し、反応混合物を室温で1.5時間撹拌した。TLCは、出発材料5の完全な消費を示した(出発材料5のRfは、生成物よりもわずかに低い)。溶媒をロータリーエバポレータにおいて除去し、残渣をジクロロメタンに溶解し、飽和重炭酸ナトリウム(2回)、5%LiCl、および鹹水で洗浄した。有機相を無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、および濃縮して、粘性のある油を与えた。生成物を、ヘキサン中の5%トリエチルアミン、ヘキサン、およびヘキサン/酢酸エチル(3/1)で連続してあらかじめ平衡化したシリカゲルカラム上でのフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。粗生成物をカラムに適用し、ヘキサン/酢酸エチル(3/1)でまず溶出して、高いRfの不純物を除去した後、ヘキサン/酢酸エチル(2/1)で溶出した。生成物を含む画分をプールし、濃縮して、6(4.0g)を粘性のある油として生じた。
【0080】
アミダイト8:無水条件下で、無水DCM(30mL)中のアルコール6(3.80g、7.62mmol)およびN,N−ジイソプロピルエチルアミン(1.1等価物)の溶液に、3−((クロロ(ジイソプロピルアミノ)ホスフィノ)オキシ)プロパンニトリル(2.25g、2.0mL、Chemgenes, Wilmington, MA)を注射器によって滴下して添加した。反応混合物を室温で30分間撹拌し、反応は、TLC(ヘキサン/酢酸エチル/TEA(67/33/2)、紫外線および酸発色)によって完了していることが示された。MeOH(1mL)を反応混合物に添加し、反応混合物を5分間撹拌した後、ロータリーエバポレータにおいて濃縮乾固させた。残渣をジクロロメタンに溶解し、飽和重炭酸ナトリウム(2回)および鹹水で洗浄し、無水硫酸ナトリウム上で乾燥させ、濾過し、濃縮して、無色の油を与えた。生成物を、ヘキサン中の5%トリエチルアミン、ヘキサン、およびヘキサン/酢酸エチル(2/1)で連続してあらかじめ平衡化しておいたシリカゲルカラム上でのフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。粗生成物をカラムに適用し、ヘキサン/酢酸エチル(3/1)でまず溶出して、高いRfの不純物を除去した後、ヘキサン/酢酸エチル(2/1)で溶出した。生成物を含む画分をプールし、濃縮して、8(4.2g、78.9%)を粘性のある油となるまで濃縮した。
【0081】
ホスファートPGP−12−マー−ヘキシルアミノ合成:1つの末端にアミノ基を、そして、他の末端にホスファートを組み込んだPGPの合成を、GeneMachineのPolyPlex Oligo合成装置および3’−Amino−Modifier C7 CPG支持体(Allele Biotechnology)を用いるAllele Biotechnology (www.allelebiotech.com)における標準的な固体支持体DNA合成法を用いて達成した。各サイクルにおいて、アミダイト8(35〜40当量)を用いた。12サイクルの後、ポリマーを脱保護し、標準的な水酸化アンモニウム開裂条件、すなわち、55℃での水性水酸化アンモニウムを用いて開裂させた。生成物を粘性のある油として単離し、凍結乾燥した。凍結乾燥した生成物を、水中に再懸濁し、コンジュゲーションのために3K透析カセットを用いて脱塩した。
【0082】
実施例2.パギバキシマブによるPGPの認識
ELISAプレート(96ウェル)を4mg/mLのパギバキシマブ(抗LTA)、Zantibody(抗ペプチドグリカン)、またはシナジス(Synagis)(抗RSV)(これらはすべてキメラIgG1抗体である)を用いて一晩被覆した。PGPを、実施例1において先に説明した通り調製し、LTAを黄色ブドウ球菌から抽出した。両分子をビオチン化した後、ELISAプレートに、表1に示される濃度で1時間添加した。次に、プレートを、セイヨウワサビペルオキシダーゼを用いて30分間発色させた。表1は、各ウェルから得られた光学密度測定値を表す。これらの実験は、PGPが、LTAに特異的なモノクローナル抗体(mAb)(パギバキシマブ)によって認識されたことを示し、PGPが、PGPを含むグラム陽性細菌のための潜在的なワクチン標的であることを示唆する。
【0083】
【表1】

【0084】
別個の実験において、ELISAプレート(96−ウェル)を4mg/mLのパギバキシマブを用いて一晩被覆した。LTAをビオチン−PTPまたはビオチン−LTAに2時間添加した後、混合物をパギバキシマブで被覆したウェルに添加した。60分後、プレートを洗浄し、セイヨウワサビペルオキシダーゼをさらに30分間、添加した。表2は、過剰のLTAの存在下でのパギバキシマブ被覆したウェルに対するLTAまたはPGPの結合のパーセント阻害を示す。これらの結果は、LTAが、パギバキシマブへのPGP結合を阻害することができることを示す。
【0085】
【表2】

【0086】
実施例3.PGPのT細胞依存性担体へのコンジュゲーション
アミノリンカーを含むおよそ1.5mgの粗合成PGP10マーを300μLの水に可溶化し、2kDaカットオフを有する透析カセット(Pierce)を用いて水に対して透析した。透析した材料をpH7.3にし、過剰のGMBSを用いて標識した。1時間後、遊離試薬を一晩の透析によって除去した。6mgの破傷風トキソイド(Serum Institute of Indiaから得た)をpH8にし、およそ50倍モル過剰量のSPDPで標識した。一晩の反応後、溶液をpH6.8に調整し、約25mM DTTにした。約30分後、溶液を、PBS+5mM EDTA、pH6.8で平衡化した1×15cmのG25カラムで脱塩した。Amicon Ultra4、30kDaカットオフデバイスを用いて、タンパク質画分を約64mgの最終濃度に濃縮した。次に、タンパク質を10PGP/TTのおよその比でマレイミド−PGPと併合した。4時間後、溶液をN−エチルマレイミド中、約10mMにし、pHを8に調整した。遊離試薬をAmiconデバイスを用いて、0.1Mホウ酸ナトリウム、pH9の反復した洗浄により除去した。タンパク質濃度をその吸光度から決定し、溶液をホスファートについてアッセイし、PGP含有量を決定した。最終的なコンジュゲートは、およそ10モルのPGP/1モルのTTを有することが見出された。
【0087】
実施例4.PGP−結合型ワクチンを用いたマウスの免疫化
10のグリセロールリン酸モノマーを含む合成PGP分子(PGP10)を、実施例1において先に説明した方法を用いて製造した。次に、実施例3において先に説明したように、PGPにおけるヘキシルアミンリンカーを用いて、TT分子あたり約6のPGPの比において、PGP10を破傷風トキソイド(TT)に共有結合させた。マウスを13μgのミョウバンおよび75μgのCpG−ODN中の1μgのコンジュゲートで免疫化した(1群あたり7個体)。14日後、マウスを追加的な1μgの結合型ワクチンで追加免疫した。アジュバント分子ミョウバンおよびCpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)の存在下でのPGP−TTを腹腔内で(i.p.)用いたBALB/cマウスの免疫化および追加免疫は、PGP特異的なELISAによって測定されるように、高い力価の血清IgG抗PGP抗体を誘発した(図3)。血液を1、2、および3日後に尾静脈から得、コロニー計数をアガープレートにおいて実施した。この様式で免疫化したマウスは、TTに共有結合した肺炎球菌莢膜多糖14型(PPS14)(PPS14−TT)を含む結合型ワクチンを用いて類似の様式で免疫化したマウスと比較して、腹腔内感染後に血液から生きた黄色ブドウ球菌を迅速に除去した(図4)。
【0088】
これらのデータは、PGPベースの結合型ワクチンが、複数種のブドウ球菌、およびPGP含有LTAを発現する他のグラム陽性細菌による感染に対する能動的な防御を提供することを示唆する。
【0089】
実施例5.グリセロールリン酸モノマーの数の関数としてのPGP−コンジュゲートの免疫原性の最適化
本発明のPGP−コンジュゲートの免疫原性は、グリセロールリン酸モノマーの数の関数として最適化されることができる。この目的のために、例えば、5、10、15、および20のグリセロールリン酸モノマーを含む一連のPGP分子を、実施例1において先に説明した通り合成することができる。PGP分子は、リンカー部分を用いたその後の修飾のために、C6アミノ基で終止されることができる。生成物は、質量スペクトル分析によって特徴づけられることができる。これらのPGP分子は次に、実施例3において先に説明した通り、GMPワクチン等級のTTに共有結合することができる。
【0090】
コンジュゲートを用いて、雌BALB/cマウス(5週齢)(1群あたり7個体)を免疫化することができる。BALB/cマウスは、他の株よりも黄色ブドウ球菌による感染に対してより感受性があることが発見され、より若齢のマウスは、より老齢のマウスよりも感受性がある。マウスに、13μgのミョウバン(Allhydrogel 2%)に吸着されたPGP−TTコンジュゲート(0.2、1.0、5.0、または25μg/個体)を腹腔内注射して、14日後に類似の様式で追加免疫することができる。PGP特異的IgGの力価を、尾静脈を通じて0、7、14(一次)、21、および28(二次)日後に得られた血液から得られた血清試料から、ELISAアッセイを利用して決定することができる。簡潔には、ELISAプレートを、アビジンに続いてビオチン−PGPの添加で被覆することができる。プレートを次に、PBS+1%BSAでブロッキングすることができる。次に、PBS+1%BSA中の1/50希釈血清で出発する血清試料の3倍希釈物を添加することができる。次に、アルカリホスファターゼ結合型ポリクローナルヤギ抗マウスIgM、IgG、IgG3、IgG1、IgG2b、またはIgG2a抗体を、続いて、発色のために基質(p−ニトロフェニルホスファート、二ナトリウム)を添加することができる。色相をMultiskan Ascent ELISA読み取り装置における405nmの吸光度で読み取ることができる。
【0091】
複数の実験由来のデータを直接比較するために、PGP特異的マウスIgG1モノクローナル抗体(クローンM110)を用いて標準曲線を作成することができる。血清はさらに、地域感染のメチシリン耐性(MRSA)NRS123黄色ブドウ球菌(USA400)、莢膜5型メチシリン感受性(MSSA)黄色ブドウ球菌(ATCC49521)、および表皮ブドウ球菌(Hay株)をいずれも用いて、インビトロでのオプソニン化貪食作用活性について試験することができる。これらの株は、公知の臨床的関連性を有する。黄色ブドウ球菌は、表皮ブドウ球菌よりも強毒であり、そのため、インビボでの感染モデルにおける使用により適しており、なぜなら、後者は、感染性について極度に高い用量を必要とするからである。しかしながら、表皮ブドウ球菌に対するインビボでの防御は、インビトロでのオプソニン化貪食作用アッセイ単独を通じて強く暗示されることができ、特に、これらのパラメータが黄色ブドウ球菌を用いて相関する場合、そうである。血清抗原特異的IgG力価およびオプソニン化貪食作用は、インビボでの宿主保護とよく相関することが期待される。
【0092】
黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌は、標準的な増殖プロトコールを用いて対数増殖期中期まで増殖することができる。細菌数は、血液アガープレートにおけるコロニー計数によって決定されることができる。黄色ブドウ球菌は、非致死量だが感染量である可変量(5×106、1×107、および2×107CFU/個体)で静脈内注射することができる。細菌コロニー計数のための血液は、1、2、および3日後に得ることができ、脾臓、肝臓、および腎臓からのコロニー計数は、7日後に決定することができる。
【0093】
オプソニン化貪食作用アッセイは、すでに説明した通り実施することができる(Romero−Steiner S. et al., Clin Diagn Lab Immunol., 4:415−422 (1997))。簡潔には、N,N−ジメチルホルムアミドを用いて好中球に分化させたHL−60細胞(ヒト前骨髄球性白血病)(40μL体積中、4×105個の細胞)を用いて、血清を黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌に対するオプソニン化貪食作用活性(力価)について試験することができる。400/1のエフェクター[好中球]/標的[細菌]比を用いることができる。免疫血清の存在下または不在下でのHL−60細胞培養物における細菌コロニー計数をスコア化して、抗LTA mAb(パギバキシマブ)をポジティブコントロールとして用いて力価を算出することができる。オプソニン化貪食作用力価は、対照ウェルにおける増殖と比較して、50%超の殺滅を示す血清希釈倍率の逆数である。言い換えれば、免疫化していないマウス由来の血清と比較して、播種した細菌の50%超の殺滅をもたらす血清希釈を、「血清希釈倍率の逆数」として用いる。したがって、1/100よりも希釈した血清が50%超の細胞を殺滅しないのに対し、1/100の血清希釈が殺滅する場合、用いられる数は100である(すなわち、1/100の逆数)。
【0094】
インビトロでPGP特異的IgGおよび/またはオプソニン化貪食作用活性の最高血清力価を生じる各コンジュゲートの最低用量を、最初の3日間の間の菌血症のレベルならびに7日後に脾臓、肝臓、および腎臓から得られる黄色ブドウ球菌のコロニー計測数によって反映される、生きたMRSAおよびMSSA黄色ブドウ球菌による静脈内攻撃感染に対する宿主防御を与えるコンジュゲートの能力を直接比較するために選択することができる。3つの非致死量の細菌(5×106、1×107、および2×107 CFU/個体)を、二次免疫化の2週間後に、1群あたり7個体のBALB/cマウスへと静脈内注射することができる。細菌に感染していないいくつかの追加的なマウス由来の血液試料を、ネガティブコントロールとして用いることができる。免疫していないかまたは無関係な肺炎球菌ワクチンで免疫化したかのいずれかである感染したマウスを、ポジティブコントロールとして用いることができる。
【0095】
より長いポリマー長は、PGP特異的IgGのより高い血清力価と相関すると期待される。より高い血清力価は、生細菌を用いた、より高いレベルのインビトロでのオプソニン化貪食作用活性およびより良好な宿主防御を生じるようである。
【0096】
実施例6.PGP:担体タンパク質の比の関数としてのPGP−コンジュゲートの免疫原性の最適化
本発明のPGP−コンジュゲートの免疫原性を、PGPの担体タンパク質に対する比の関数として測定することができる。この目的のために、一連のPGP−TTコンジュゲートを、実施例5において先に決定した最適なポリマー長のPGP、および実施例3に示したおよそ10、20、および30のPGP:TT比のコンジュゲーションプロトコールを用いて合成することができる。これは、N−[γ−マレイミドブチリルオキシ]スクシニミドエステル(GMBS)のTTタンパク質に対するモル比を変動させて、反応部位の数を増加させることによって達成されることができる。免疫化および防御性PGP特異的IgG応答の分析を、実施例5において先に論議された通り実施することができる。
【0097】
より高いPGP:TTモル比は、PGP特異的IgGのより高い血清力価と相関すると期待される。より高い血清力価は、生細菌を用いた、インビトロでのより高いレベルのオプソニン化貪食作用活性およびより良好な宿主防御を生じるようである。
【0098】
実施例7.代替的なコンジュゲーション化学作用
PGPは、実施例3において先に説明したヘキシルアミンに加えて、アルデヒドリンカーを用いて、およびカルボキシルリンカーを用いて、合成されることができる。TTは、ヒドラジドまたはアミノ−オキシ基を用いて官能化することができる(例えば、WO/2005/072778およびLopez−Acosta et al., Vaccine, 24:716 (2006)を参照されたい)。PGPおよびTTは、下記に示される化学作用のうちの1つを用いてカップリングすることができる。
【0099】
タンパク質アミンに対するチオ−エーテルカップリング。PGP−NH2を、0.1M HEPES、5mM EDTA、pH8中で10mg/mLで可溶化することができる。2倍モル過剰量のスルホ−LC−SPDPを固体として、撹拌しながら添加することができる。1時間後、pHをpH5に低下させることができ、溶液を25mMのDTTにすることができる。30分後、溶液を、10mMの酢酸ナトリウム、5mMのEDTA、pH5で平衡化しておいたG10脱塩カラムにおいて脱塩することができる。ボイド容量をプールし、DTNBアッセイ(Ellman G. L. 1959. Arch Biochem Biophys 82:70−77)を用いてチオールについて、およびホスファートについてアッセイすることができる。脱気した緩衝液を用いることができ、チオール化PGPをアルゴン下で維持することができる。タンパク質を0.1M HEPES、pH8中で10mg/mLに可溶化することができ、0〜50モル/モルタンパク質でNHSブロモ酢酸を用いて、可変レベルまでブロモアセチル化することができる。4℃で2時間後、各々を、Amicon Ultra 15デバイス(TTおよびCRM197についてそれぞれ30 kDaおよび10 kDaカットオフ)を用いて繰り返し洗浄することによって、同じ緩衝液へと脱塩することができる。残余のアミンを、TNBSを用いてアッセイすることができ(Vidal J. et al., J Immunol Methods, 86:155−156 (1986))、誘導体化の程度を、天然タンパク質由来の遊離アミンの減少から決定することができる。タンパク質の最終濃度を10mg/mLにすることができ、溶液をアルゴンで徐々に脱気することができる。PGH−SHおよびブロモアセチル化したタンパク質を、ブロモアセチル基に対して1.5:1のモル過剰量のPGPで併合し、pHを8に調整し、反応混合物をアルゴン下で4℃で撹拌することができる。コンジュゲーション速度を、周期的なサンプリング、メルカプトエタノールによって一定分量をクエンチングすること、およびSDS PAGEによって評価することによって決定することができる。残余の活性基をメルカプトエタノールでクエンチングし、そして、HEPESで平衡化しておいたS100HRカラムにおけるサイズ排除クロマトグラフィーによって、コンジュゲーションしていないPGPを除去することができる。PGPを有さない対照コンジュゲートを、ブロモアセチル化したタンパク質をメルカプトエタノールとともにインキュベートすることによって生成することができる。
【0100】
タンパク質カルボキシルへのカップリング。PGP−CO2Hを以下の通りカップリングすることができる。ヒドラジド−タンパク質(Hz−タンパク質)を、0.1M MES緩衝液、pH5中、5mg/mLおよびアジピン酸ジヒドラジド(ADH)中、0.25MのTTを併合することによって調製することができる。5mg/mLのEDCを添加することができ、pHを5.5に2時間維持することができる。溶液を酢酸ナトリウムpH5.5の添加によってクエンチングした後、MES緩衝液で平衡化しておいたG25カラムにおいて脱塩することができ、Amicon Ultra 15デバイスを用いて10mg/mLに濃縮することができる。誘導体化の程度を、TNBSを用いて決定することができる。PGP−CO2Hをタンパク質−ヒドラジド溶液に、50:1のモル比で添加することができ、溶液をカルボジイミド中で5mMとすることができる。一晩のインキュベーション後、pHを8に上昇させることができ、コンジュゲーションしていないPGPをサイズ排除クロマトグラフィーによって除去することができる。
【0101】
タンパク質アミンへのカップリングのための代替的な化学作用。PGP−Aldを、オキシム化学作用を用いてカップリングさせることができる。アミノ−オキシタンパク質(AO−タンパク質)をすでに説明した通り調製することができる(Lees A. et al., Vaccine, 24:716−729 (2006))。簡潔には、タンパク質を先に説明した通りブロモアセチル化した後、2倍過剰量のチオール−アミノオキシ試薬と反応させ、その後、pH5の酢酸緩衝液へと脱塩し、20mg/mLに濃縮することができる。0.1Mの酢酸ナトリウム+5mMのEDTA、pH5中の10mg/mLのPGP−Aldを、1.1:1のモル比でAO−タンパク質と併合することができ、5mMのシアノ水素化ホウ素ナトリウムを生成することができる。4時間後、反応溶液を5mMのアセトアルデヒドとすることができ、コンジュゲーションしていないPGPをサイズ排除クロマトグラフィーによって除去することができる。
【0102】
すべての場合において、官能化の程度を、天然タンパク質との差異から決定することができる。ヒドラジドまたはアミノオキシ基を、TNBSおよび、ADHまたはアミノオキシ酢酸のいずれかを標準物質として用いる550nmでの吸光度を用いて決定することができる。タンパク質濃度を、280nmの吸光度および励起係数から決定することができる。PGP濃度を、ホスファートアッセイを用いて決定することができる。PGPのモルを、PGPあたりのホスファートモル/反復基数から算出することができ、負荷をPGPモル/タンパク質モルから決定することができる。コンジュゲーションは、検出抗体として抗LTA mAbを用いるウェスタンブロットを用いて評価することができ、抗TTまたは抗CRM197を捕捉抗体として、および抗LTA mAbを検出抗体として用いる二重ELISAを用いてさらに確認することができる。凝集は免疫原性に影響を及ぼす可能性があるので、コンジュゲートは、Phenomenex BioSep G4000カラムを用いるSEC HPLCによって分析することができる。コンジュゲーションしていないPGPをサイズ排除クロマトグラフィーによって除去することができ、なぜなら、先行研究は、コンジュゲート調製物中の多量のコンジュゲーションしていない多糖が、コンジュゲート自体に対するPS特異的Ig応答を阻害しうることを示しているからである。
【0103】
免疫化および防御性PGP特異的IgG応答の分析を、実施例5において先に論議される通り実施することができる。
【0104】
実施例8.担体タンパク質およびアジュバントの関数としてのPGP−コンジュゲートの免疫原性の最適化
本発明のPGP−コンジュゲートの免疫原性を、用いられる担体タンパク質およびアジュバントの関数として測定することができる。TTおよびCRM197の両方は、臨床的用途において現在結合型ワクチンのために使用されている免疫原性タンパク質担体であり、したがって、有効であることが示されている。TTは、結合した標的抗原のための助力を生じるのに決定的なCD4+ T細胞の活性化に関して、CRM197よりも強力である。結合型ワクチンに対するIgG抗PS応答とIgG抗担体応答の間の有意な相関を観察することはできるが、これは必ずしも常にではなく、なぜなら、担体特異的B細胞に対するCD4+ T細胞による助力の過度の集中が、結合した標的抗原に応答するB細胞についてのこの同じ助力を低減させ得るからである。さらに、結合した標的抗原の性質は、担体に対するCD4+ T細胞応答のペプチド特異性に影響を及ぼすことができる。最後に、結合型ワクチンに対する低減した抗PS応答は、同じ担体タンパク質が異なるワクチン種類に用いられる場合に観察された。これらの観察は、防御性IgG抗PGP応答の誘導について異なる担体を試験することが役立つかもしれないことを示唆する。
【0105】
加えて、ミョウバンは、比較的最小の副作用を生じる、ヒトでの使用のための現に最も一般的に用いられるアジュバントであるが、比較的制限された免疫刺激特性を有する。この点において、ミョウバンよりもかなり高い抗体応答を誘発するTLRリガンドなどの他のアジュバント、およびより防御性のIgGアイソタイプ(例えば、マウスにおけるIgG2a)は、より顕著な副作用の可能性があるにもかかわらず、研究下にある。種々の臨床治験において有望性を示した1つのこのようなTLRリガンドは、TLR9アゴニストであるCpG−ODNである。したがって、アジュバント製剤中のミョウバンへのCpG−ODNの包含は、臨床有用性の可能性を有するデータを生じるようである。
【0106】
この目的のために、CRM197にまたはTTに結合したPGPのコンジュゲートは、実施例5において先に決定した最適なポリマー長のPGP、実施例6において決定した最適なPGP:担体比、および実施例7において決定した最適なコンジュゲーション化学作用を用いて合成され得る。マウスを、25μgの30マーCpG−ODNの存在下または不在下で、ミョウバン中の可変用量のコンジュゲートを用いて、実施例5において先に論議した通り免疫化することができ、血清を、PGP特異的IgGアイソタイプの力価およびオプソニン化貪食作用活性について試験することができる。加えて、異なる担体タンパク質を含むコンジュゲートの免疫原性も、BALB/c(MHC−IId)マウスに加えて、C57BL/6[MHC−IIb]、C3H(MHC−IIk)、およびA.SW(MHC−IIs)マウスにおいて測定することができる。これらの結果を、ヒトHLA−DR4についてトランスジェニックであるMHC−II−/−マウスの繁殖コロニーからの結果と比較することができる。
【0107】
防御性PGP特異的IgGの誘導のレベルは、CD4+ T細胞活性化のためのタンパク質担体の相対強度と直接相関するようであり、CpG−ODNのミョウバンへの添加は、ミョウバンのみを用いてみられるものを上回る防御性のPGP特異的IgG応答を亢進させるようである。
【0108】
加えて、PGP−PADREコンジュゲートも試験することができ、なぜなら、完全に合成の結合型ワクチンが、再現性、安全性、および費用対効果に関して、従来の結合型ワクチンを上回る潜在的な利点を有するからである。先に論議した通り、PADREは、天然T細胞エピトープよりもおよそ1,000倍強力であることが発見され、アジュバント中のPADRE−ペプチド構築物は、免疫原性であることが示された。PADREの肺炎連鎖球菌莢膜多糖類(PPS)への結合は、PADRE特異的CD4+ T細胞の動員を通じて、マウスにおけるインビボでの抗PPS応答を増強した。したがって、PADREは、CD4+ T細胞依存性PGP結合型ワクチンの製剤において、無処置の免疫原性担体タンパク質についてのより効率的な代替物となり得る。
【0109】
この目的のために、N末端システインを有する13のアミノ酸のPADREペプチド(AKXVAAWTLKAAA、式中、X=シクロヘキシルアラニン)を、標準的なペプチド化学作用を用いて合成することができる。実施例5において決定された最適化された鎖長を有するPGP−NH2は、pH8.0で2倍モル過剰量のNHSブロモ酢酸を用いてブロモアセチル化されることができ、G10脱塩カラムにおいて50mMのHEPES+5mM EDTAへと脱塩することができる。チオール−PADREペプチドを、1.5:1のモル比のPDRE:PGPで添加することができる。2時間後、コンジュゲートを、Pepdexサイズ排除カラム(GE Healthcare #17−5176−01)を用いて精製することができる。反応の進行および精製を、逆相HPLCを用いてモニターすることができる。PADRE濃度を、ペプチドの励起係数およびホスファートについてアッセイすることによって決定されたPGP濃度から決定することができる。
【0110】
最適な免疫原性を決定するためにPADREとPGPとのモル比が変動する、いくつかのコンジュゲートを調製することができる。マウスを、CpG−ODNを含むまたは含まないミョウバンの存在下で、先に説明した通り免疫化することができる。IgG抗PGPの一次および二次血清力価をELISAによって決定することができ、血清オプソニン活性を、オプソニン化貪食作用アッセイ(黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌)によって決定することができ、宿主防御を、黄色ブドウ球菌による感染によって決定することができる。生じたデータを、先に決定した最適化されたPGP−タンパク質天然担体コンジュゲートを用いて得られるものと比較することができる。最初の比較研究は、BALB/cマウスを利用することができるが、先に説明した通り、追加的なマウスMHC−IIバックグラウンドのマウス、およびHLA−DR4トランスジェニックマウスを用いることに拡張されることができる。
【0111】
最適化されたPGP−PADREコンジュゲートは、CD4+ T細胞の動員のより高い効率性により、免疫化に用いられるPGPの重量当たりで、対応するPGP−担体タンパク質コンジュゲートよりも高い防御性PGP特異的IgG応答(すなわち、血清PGP特異的力価、オプソニン化貪食作用、およびインビボでの宿主防御)を示すことが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞依存性抗原に共有結合したポリ−グリセロールリン酸(PGP)を含む免疫原性組成物。
【請求項2】
前記PGPは、置換ホスホラミダイトモノマーを調製することと、前記モノマーを徐々に伸長させることとによって製造される、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項3】
前記PGPは、約5〜20のグリセロールリン酸モノマーを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記PGPは、約10のグリセロールリン酸モノマーを含む、請求項3に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記T細胞依存性抗原は、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、遺伝子的に解毒したジフテリア毒素、百日咳トキソイド(PT)、組換え細胞外タンパク質A(rEPA)、外膜タンパク質複合体(OMPC)、またはPan DRヘルパーT細胞エピトープ(PADRE)ペプチドである、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記遺伝子的に解毒したジフテリア毒素はCRM197である、請求項5に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
前記T細胞依存性抗原はPADREペプチドである、請求項5に記載の免疫原性組成物。
【請求項8】
前記PADREペプチドは、配列AKXVAAWTLKAAAを含み、ここで、Xはシクロヘキシルアラニンである、請求項7に記載の免疫原性組成物。
【請求項9】
PGPと前記T細胞依存性抗原とのモル比は約5:1〜50:1である、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項10】
前記モル比は10:1である、請求項9に記載の免疫原性組成物。
【請求項11】
前記PGPは、前記T細胞依存性抗原に直接的に結合する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項12】
前記PGPは、前記T細胞依存性抗原にリンカーを通じて結合する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項13】
前記PGPは、チオール基、チオール−エーテル基、アシル−ヒドラゾン基、ヒドラジド基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、またはアミノオキシ基を用いて前記T細胞依存性抗原に共有結合する、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項14】
前記ヒドラゾン基はビス−アリールヒドラゾン基である、請求項13に記載の免疫原性組成物。
【請求項15】
前記チオール求核基は、スクシニミジル6−[3−(2−ピリジルジチオ)−プロピオンアミド]ヘキサノアート(SPDP)またはN−スクシニミジル−S−アセチルチオアセタート(SATA)である、請求項13に記載の免疫原性組成物。
【請求項16】
前記ヒドラジド求核基は、E−マレイミドカプロン酸ヒドラジド−HCl(EMCH)、またはヒドラジンもしくはアジピン酸ジヒドラジド(ADH)および1−エチル−3−ジメチルアミノプロピル)カルバジイミドヒドロクロリド(EDC)を用いて付加され、ならびに前記アリールヒドラジン基は、スクシニミジルヒドラジノニコチナートアセトンヒドラゾンを用いて付加される、請求項13に記載の免疫原性組成物。
【請求項17】
有効量の請求項1に記載の免疫原性組成物を投与することを含む、PGPを発現する細菌による感染を治療するための方法。
【請求項18】
前記細菌はブドウ球菌である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記細菌は、黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記免疫原性組成物は、非経口的に投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記免疫原性組成物は、他の活性剤とともに投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記他の活性剤は、抗生物質、細菌性抗原、または抗細菌抗体である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
有効量の請求項1に記載の免疫原性組成物を投与することを含む、PGPを発現する細菌に対して対象にワクチン接種するための方法。
【請求項24】
前記細菌はブドウ球菌である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記細菌は、黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫原性組成物は、非経口的に投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記免疫原性組成物は、他の活性剤とともに投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項28】
前記他の活性剤は、抗生物質、細菌性抗原、または抗細菌抗体である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
有効量の請求項1に記載の免疫原性組成物を投与することを含む、PGPを発現する細菌に対して防御性抗体を生成するための方法。
【請求項30】
前記細菌はブドウ球菌である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記細菌は、黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記免疫原性組成物は、非経口的に投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記免疫原性組成物は、他の活性剤とともに投与される、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
前記他の活性剤は、抗生物質、細菌性抗原、または抗細菌抗体である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
保護および活性化されたホスホラミダイトモノマーを調製することと、前記モノマーを徐々に伸長させることとを含む、ポリ−グリセロールリン酸(PGP)を合成するための方法。
【請求項36】
前記伸長は、標準的な固相オリゴヌクレオチド合成技法を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記伸長は、DNA合成装置において実施される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
結合基が、前記伸長の間に前記PGPに組み込まれる、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記結合基は、前記伸長の間に固体支持体によって組み込まれる、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記結合基はアミノ基である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記モノマーは、結合基または結合基の前駆体を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記結合基はアミノ基である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記モノマーは、
(a)1つの末端のヒドロキシル基上の酸不安定保護基、
(b)2−OH上の塩基不安定基、および/または
(c)他方の末端のヒドロキシル上の活性化型リン基、
を含むグリセロール分子である、請求項35に記載の方法。
【請求項44】
前記グリセロールは、キラル的に純粋である、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記活性化型リン基は、結合基または結合基の前駆体を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記結合基はアミノ基である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
(b)の前記塩基不安定基は、酸脱保護条件に対して安定である、請求項44に記載の方法。
【請求項48】
前記伸長は、固相支持体を用いる標準的な固相オリゴヌクレオチド合成技法を含み、ここで、(b)の前記塩基不安定基は、前記固相支持体からのPGPの切断の間に除去される、請求項44に記載の方法。
【請求項49】
前記モノマーは、
(a)1つの末端のヒドロキシル基上の酸不安定保護基を用いてグリセロール分子を保護すること、
(b)2−OH上の塩基不安定基を用いてグリセロールを保護すること、および/または
(c)他方の末端のヒドロキシル上の活性化型リン基を用いてグリセロールを保護すること
によって調製される、請求項35に記載の方法。
【請求項50】
前記グリセロール分子は、キラル的に純粋である、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記活性化型リン基は、結合基または結合基の前駆体を含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記結合基はアミノ基である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
(b)の前記塩基不安定基は、酸脱保護条件に対して安定である、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記伸長は、固相支持体を用いる標準的な固相オリゴヌクレオチド合成技法を含み、ここで、(b)の前記塩基不安定基は、前記固相支持体からのPGPの切断の間に除去される、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記グリセロール分子は、まず、前記酸不安定保護基を用いて保護され、および次に、前記塩基不安定基を用いて保護される、請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記モノマーは、
(a)レブリン酸エステルをイソプロピリデングリセロール分子から調製すること、
(b)前記イソプロピリデン保護基を除去すること、
(c)酸不安定基を用いて遊離末端アルコールを保護すること、
(d)塩基不安定基を用いて2−OH基を保護すること、
(e)前記レブリン酸エステルを脱保護して、遊離末端ヒドロキシを提供すること、および
(f)遊離末端アルコールをホスファイト化すること
によって調製される、請求項35に記載の方法。
【請求項57】
前記イソプロピリデングリセロール分子は、キラル的に純粋である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記レブリン酸エステルは、ヒドラジンによって除去される、請求項56に記載の方法。
【請求項59】
請求項37に記載の方法によって製造される合成ポリ−グリセロールリン酸(PGP)分子。
【請求項60】
前記リンカー基は、チオール、アミン、アミノオキシ、アルデヒド、ヒドラジド、ヒドラジン、マレイミド、カルボキシル、またはハロアシルを含む、請求項59に記載の合成PGP。
【請求項61】
リンカー基を含む合成ポリ−グリセロールリン酸(PGP)分子。
【請求項62】
前記リンカー基は、チオール、アミン、アミノオキシ、アルデヒド、ヒドラジド、ヒドラジン、マレイミド、カルボキシル、またはハロアシルを含む、請求項61に記載の合成PGP。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−510882(P2013−510882A)
【公表日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−539057(P2012−539057)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/056742
【国際公開番号】WO2011/060379
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(512125242)ザ ヘンリー エム.ジャクソン ファウンデイション フォー ザ アドバンスメント オブ ミリタリー メディスン,インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】