ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG/dPNAG)結合ペプチドおよびその使用方法
【課題】選択的にポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG/dPNAG)と結合し、PNAG/dPNAG結合CDRのアミノ酸配列を含む単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体を含有する組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、アセチル化、部分的にアセチル化および/または完全に脱アセチル化された形態で、PNAG、例えば、ブドウ球菌PNAGなどと特異的に結合するペプチド、特にヒトモノクローナル抗体に関する。本発明はさらに、PNAGを発現する細菌による感染の診断、予防および治療において、これらのペプチドを使用するための方法を提供する。本発明のいくつかの抗体は、オプソニン食作用傷害作用、およびインビボにおけるPNAGを発現する細菌に対する保護を向上させる。また、薬学的組成物を含め、これらのペプチドの組成物もまた、このようなペプチドの機能的に等価な改変体として提供される。
【解決手段】本発明は、アセチル化、部分的にアセチル化および/または完全に脱アセチル化された形態で、PNAG、例えば、ブドウ球菌PNAGなどと特異的に結合するペプチド、特にヒトモノクローナル抗体に関する。本発明はさらに、PNAGを発現する細菌による感染の診断、予防および治療において、これらのペプチドを使用するための方法を提供する。本発明のいくつかの抗体は、オプソニン食作用傷害作用、およびインビボにおけるPNAGを発現する細菌に対する保護を向上させる。また、薬学的組成物を含め、これらのペプチドの組成物もまた、このようなペプチドの機能的に等価な改変体として提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府支援)
本研究は、一部の資金を、国立衛生研究所からの助成金番号AI46706により提供された。したがって、米国政府は、この発明に対する一定の権利を有し得る。
【0002】
(関連出願)
本出願は、2004年4月21日出願の米国仮出願番号第60/564,105号に対する優先権を主張し、この仮特許出願の全内容は、本明細書において参考として援用される。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、概して、ブドウ球菌などの細菌のポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)および脱アセチル化されたPNAG(dPNAG)と結合するペプチド、ならびにブドウ球菌感染および他のPNAG発現性細菌への感染の診断および処置におけるそれらペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
ブドウ球菌は、ヒトの皮膚および粘膜に常在してコロニーを作るグラム陽性細菌である。この皮膚または粘膜が、外科的処置または他の外傷により損傷を受けると、このブドウ球菌が、内部組織へのアクセスを得て感染を顕出させ得る。ブドウ球菌が局所的に繁殖するか、またはリンパ系もしくは血液系に入ると、ブドウ球菌菌血症に関連する合併症など深刻な感染合併症を引き起こし得る。ブドウ球菌菌血症に関連する合併症としては、敗血症性ショック、心内膜炎、関節炎、骨髄炎、肺炎、および種々の臓器における膿瘍が挙げられる。
【0005】
ブドウ球菌には、遊離コアグラーゼを産生するコアグラーゼ陽性生物、およびこの遊離コアグラーゼを産生しないコアグラーゼ陰性生物の両方が含まれる。Staphylococcus aureusは、ブドウ球菌の最も一般的なコアグラーゼ陽性形態である。S.aureusは、通常、血管外または血管内の局所部位における感染を引き起こし、最終的に、菌血症を引き起こし得る。S.aureusはまた、急性骨髄炎の主要原因でもあり、ブドウ球菌性肺炎感染の原因となる。加えて、S.aureusは、細菌性髄膜炎の症例のうち約1〜9%、および脳膿瘍の症例のうち約10〜15%の原因である。
【0006】
少なくとも21種のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が知られており、S.epidermidis、S.saprophyticus、S.hominis、S.warneri、S.haemolyticus、S.saprophiticus、S.cohnii、S.xylosus、S.simulans、およびS.capitisが挙げられる。S.epidermidisは、静脈内アクセスデバイスに関連する最も感染原因となる頻度の高い因子であり、主要な病院内の菌血症において最も頻度の高い分離株でもある。S.epidermidisはまた、人工弁心内膜炎に関連する。
【0007】
ブドウ球菌はまた、動物の共通細菌感染源でもある。例えば、ブドウ球菌性乳腺炎は、ウシ、ヒツジ、およびヤギを含む反芻動物に共通する問題である。この疾患は、一般に、抗生物質で処置して感染を減少させているが、この処置は費用がかかる方法である上、乳汁産生に損失をもたらす。現在までに同定された家畜に対して最も有効なワクチンは、皮下に投与されるS.aureusのインタクトな生ワクチンである。しかしながら、生ワクチンの投与には、感染のリスクおよび中毒性反応を伴う。このため、多くの研究者らが、S.aureusの不活化ワクチンの産生、および/またはS.aureusに対する免疫を誘発する莢膜多糖類もしくは細胞壁成分の分離を試みてきた。しかしながら、これらの試みは、いずれも成功していない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、概して、ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)(例えば、ブドウ球菌ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG))、および不完全にアセチル化されたPNAGまたは脱アセチル化されたPNAG(本明細書において、この2つをまとめてdPNAGと呼ぶ)と結合するペプチドの同定および使用に関する。これらのペプチドを、本明細書においてはPNAG/dPNAG結合ペプチドと呼ぶ。このようなペプチドの例としては、本明細書において記載される抗体、または受託番号PTA−5931(F598)、PTA−5932(F628)およびPTA−5933(F630)として、2004年4月21日にATCCに寄託されたハイブリドーマから産生された抗体の相補性決定領域(CDR)または可変領域に由来するアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。これらのペプチドとしては、ポリペプチド、モノクローナル抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体)および抗体フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において開示されるペプチドの共通する特徴は、特異的にブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGを認識し、これらと結合するするそれらの能力である。他の細菌株により発現されるPNAGおよび/またはdPNAGもまた、本発明のペプチドによって認識され、これらと結合し得る。本発明により提供される抗体および抗体フラグメントのうちのいくつかが有する重要な特性は、PNAGを発現する細菌株(例えば、ブドウ球菌種)のオプソニン作用および食菌作用(すなわち、オプソニン食菌作用)を向上させるそれらの能力である。
【0009】
したがって、本発明の一局面において、選択的にブドウ球菌ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG/dPNAG)と結合し、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、または機能的に等価なそれらの改変体を含有する組成物を提供する。
【0010】
種々の実施形態が、本発明のこの局面および他の局面との間で共有されている。これらの実施形態は、1度説明するが、これらが本発明のすべての局面に等しく適用されるということが理解されるべきである。
【0011】
一実施形態において、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3である。このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3は、配列番号9、配列番号15、および配列番号21からなる群から選択されるH鎖CDR3のアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR3のアミノ酸配列を含み得る。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3は、配列番号12、配列番号18、および配列番号24からなる群から選択されるL鎖CDR3のアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖CDR3のアミノ酸配列を含み得る。
【0012】
別の実施形態において、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2である。このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2は、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR2のアミノ酸配列を含み得る。
【0013】
別の実施形態において、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1である。このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1は、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR1のアミノ酸配列を含み得る。
【0014】
一実施形態において、単離ペプチドは、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0015】
別の実施形態において、単離ペプチドは、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0016】
一実施形態において、単離ペプチドは、単離抗体または単離抗体フラグメント、例えば、インタクトな、好ましくは可溶性の単離モノクローナル抗体(ただし、これに限定されない)、または単離モノクローナル抗体フラグメント、例えば、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメント(ただし、これらに限定されない)である。この単離抗体は、ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマから産生される抗体、またはその抗体フラグメントであり得る。
【0017】
一実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントは、PNAGを発現する細菌株(例えば限定されないが、S.aureusまたはS.epidermidisなどのブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる。
【0018】
一実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントは、H鎖可変領域を含み、かつ配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、ならびにL鎖可変領域を含み、かつ配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントは、ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域を含むアミノ酸配列、およびATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む。
【0019】
単離抗体または単離抗体フラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列および配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号3のアミノ酸配列および配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号5のアミノ酸配列および配列番号6のアミノ酸配列を含み得る。
【0020】
単離抗体または単離抗体フラグメントは、受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を有するアミノ酸配列、または受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を有するアミノ酸配列、または受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0021】
一実施形態において、単離ペプチドに、検出可能な標識に結合体化される。この検出可能な標識は、インビボまたはインビトロにおいて検出可能な標識であり得る。
【0022】
一実施形態において、組成物はさらに、薬学的に受容可能なキャリアを含有する。他の実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントなどの単離ペプチドは、PNAGを発現している細菌株による感染(例えば、ブドウ球菌感染)を阻害するための有効量、またはPNAGを発現している細菌株(例えば、ブドウ球菌)を検出するための有効量で被験体中のサンプルもしくは被験体からのサンプル中に存在する。
【0023】
一実施形態において、単離ペプチドは、選択的にブドウ球菌PNAGと結合する。別の実施形態において、この単離ペプチドは、選択的にブドウ球菌dPNAGと結合する。
【0024】
さらに別の実施形態において、本発明は、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRをコードしているヌクレオチド配列を含む単離核酸分子を提供する。
【0025】
一実施形態において、ヌクレオチド配列は、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、および配列番号24からなる群から選択される。別の実施形態において、このヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6からなる群から選択される。
【0026】
一実施形態において、核酸は、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖可変領域核酸分子である。別の実施形態において、この核酸は、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖可変領域核酸分子である。さらに別の実施形態において、この核酸は、受託番号PTA−5931、PTA−5932、もしくはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖CDR核酸分子であるか、または受託番号PTA−5931、PTA−5932、もしくはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖CDR核酸分子である。
【0027】
本発明はさらに、他の局面において、プロモーターに作動可能に連結された前記単離核酸分子を含有する発現ベクター、およびこの発現ベクターを用いて形質転換または遺伝子導入を施した細胞を提供する。
【0028】
他の局面において、本発明は、抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体(F598)を産生し、ATCC受託番号PTA−5931を有する単離細胞、抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体(F628)を産生し、ATCC受託番号PTA−5932を有する単離細胞、および抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体(F630)を産生し、ATCC受託番号PTA−5933有する単離細胞を提供する。本発明はさらに、さらなる局面において、前記寄託された単離細胞により産生された単離モノクローナル抗体、またはその抗体フラグメントを提供する。この抗体フラグメントは、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、またはFabフラグメントであり得るが、これらに限定されない。関連する実施形態において、このフラグメントは、PNAGを発現している細菌株(例えば限定されないが、S.aureusまたはS.epidermidisなどのブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる。
【0029】
別の局面において、本発明は、被験体中または被験体からのサンプル中でPNAGを発現している細菌株(例えば、ブドウ球菌)を検出するための方法を提供する。この方法は、単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体と、被験体中または被験体からのサンプルとの結合の検査レベルを判定する工程、およびこの結合検査レベルを対照と比較する工程を包含し、ここで、単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体は、選択的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含有する。またここで、対照よりも結合検査レベルが大きければ、サンプル中に細菌株(例えば、ブドウ球菌)が存在することを示している。検出される細菌は、ブドウ球菌、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaであり得る。本発明はまた、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)などPNAGを発現する細菌による植物感染を検出するための方法、および処置するための方法を提供する。
【0030】
一実施形態において、試験結合レベルは、インビボにおいて測定される。
【0031】
別の局面において、本発明は、PNAGを発現している細菌株に感染している被験体(例えば、ブドウ球菌感染)、または感染を顕出させる危険性のある被験体を処置するための方法を提供する。この方法は、そのような処置が必要な被験体に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含有する単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体を、感染を阻害するための有効量で投与する工程を包含する。別の実施形態において、単離ペプチドは、細胞毒性の因子に結合体化している。
【0032】
一実施形態において、被験体はブドウ球菌感染(例えば限定されないが、S.aureus感染、またはS.epidermidis感染)に罹っているか、またはこれらを顕出する危険性がある。別の実施形態において、被験体は、E.coli感染、Yersinia pestis(Y.pestis)感染、Y.entercolitica感染、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)感染、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)感染、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)感染、A.pleuropneumoniae感染、Bordetella pertussis(B.pertussis)感染、B.parapertussis感染、もしくはB.bronchiseptica感染に罹っているか、またはこれらを顕出する危険性がある。
【0033】
上述の細菌感染は、胃腸炎、尿路感染症、ペスト、百日咳(whopping cough)、血流感染症、および歯性感染症(歯周炎)などの状態の根底にある。本発明は、根底にある細菌感染を処置することにより、これら後者の状態を処置することを意図する。本明細書において提供される検出方法および処置方法は、これらの感染に罹っているか、またはこれらを顕出する危険性のあるヒトおよび非ヒトの被験体に適している。非ヒトの被験体としては、ウシおよびブタなどの畜産動物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)は、PNAGを発現している別の細菌であるが、動物に対する病原体というよりも、むしろ植物に対する病原体と考えられている。本発明は、本明細書において提供される結合ペプチド、好ましくは、検出可能な標識または細胞毒性の標識(方法により選択)と結合体化しているペプチドを使用した、これに感染している植物種の検出および処置を企図する。
【0035】
さらに別の局面において、本発明は、PNAGを発現する細菌株による感染(例えば、ブドウ球菌感染)を処置するための方法を提供する。この方法は、PNAGを発現する細菌への曝露後少なくとも4時以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも50%減少させるPNAG/dPNAG結合ペプチドを、処置を必要としている被験体に対し、感染処置有効量を投与する工程を包含する。
【0036】
一実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、単離抗体または単離抗体フラグメントである。一実施形態において、感染は、ブドウ球菌感染である。一実施形態において、ブドウ球菌感染は、S.aureus感染、またはS.epidermidis感染である。別の実施形態において、感染は、E.coli感染、Yersinia pestis(Y.pestis)感染、Y.entercolitica感染、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)感染、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens),Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans),A.pleuropneumoniae感染、Bordetella pertussis(B.pertussis)感染、B.parapertussis感染、またはB.bronchiseptica感染である。Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)感染は、動物というよりもむしろ植物に影響を及ぼすのであるが、この感染についても本発明は考慮している。別の実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露前、例えばこれに限定されないが、細菌への曝露の少なくとも24時間前に投与される。
【0037】
一実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露から少なくとも4時間以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも60%減少させる。別の実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露から少なくとも2時間以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも50%減少させる。さらに別の実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露から2時間以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも60%減少させる。PNAGを発現する細菌には、これらに限定されないが、動物に影響を及ぼすブドウ球菌、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchiseptica、ならびに植物に影響を及ぼすRalstonia solanacearum(R.solanacearum)が挙げられる。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
組成物であって、
ブドウ球菌ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG/dPNAG)と選択的に結合し、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、または機能的に等価なその改変体を含む、組成物。
(項目2)
項目1に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3である、組成物。
(項目3)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号9、配列番号15、および配列番号21からなる群から選択されるH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目4)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目5)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号12、配列番号18、および配列番号24からなる群から選択されるL鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目6)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目7)
項目1に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2である、組成物。
(項目8)
項目7に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、組成物。
(項目9)
項目7に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR2のアミノ酸配列番号を含む、組成物。
(項目10)
項目1に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1である、組成物。
(項目11)
項目10に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、組成物。
(項目12)
項目10に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR1のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目13)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目14)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目15)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目16)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列含む、組成物。
(項目17)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、単離抗体または抗体フラグメントである、組成物。
(項目18)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来する、組成物。
(項目19)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、インタクトな可溶性モノクローナル抗体である、組成物。
(項目20)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメントからなる群から選択される単離抗体フラグメントである、組成物。
(項目21)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、PNAG発現細菌株のオプソニン食菌作用を向上させる、組成物。
(項目22)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、PNAG発現ブドウ球菌のオプソニン食菌作用を向上させる、組成物。
(項目23)
項目22に記載の組成物であって、前記PNAG発現ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、組成物。
(項目24)
項目21に記載の組成物であって、前記PNAG発現細菌株が、PNAG発現E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaである、組成物。
(項目25)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、
H鎖CDRを含み、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、ならびに
L鎖CDRを含み、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列
を含む、組成物。
(項目26)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体および抗体フラグメントが、
受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域を含むアミノ酸配列、ならびに
受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列
を含む、組成物。
(項目27)
項目25に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号1のアミノ酸配列、および配列番号2のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目28)
項目25に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号3のアミノ酸配列、および配列番号4のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目29)
項目25に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号5のアミノ酸配列、および配列番号6のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目30)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目31)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目32)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目33)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、検出可能な標識と結合体化している、組成物。
(項目34)
項目31に記載の組成物であって、前記検出可能な標識が、インビボで検出可能な標識である、組成物。
(項目35)
項目1に記載の組成物であって、さらに薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
(項目36)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、PNAG発現細菌株によって感染を阻害するための有効量で存在する、組成物。
(項目37)
項目36に記載の組成物であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、組成物。
(項目38)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、ブドウ球菌感染を阻害するための有効量で存在する、組成物。
(項目39)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、被験体中のサンプル中、または被験体からのサンプル中のPNAG発現細菌株を検出するための有効量で存在する、組成物。
(項目40)
項目39に記載の組成物であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、組成物。
(項目41)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、被験体中のサンプル中、または被験体からのサンプル中のブドウ球菌を検出するための有効量で存在する、組成物。
(項目42)
項目41に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、組成物。
(項目43)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、ブドウ球菌PNAGと選択的に結合する、組成物。
(項目44)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、ブドウ球菌dPNAGと選択的に結合する、組成物。
(項目45)
被験体におけるPNAG発現細菌株を検出するための方法であって、
単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体の、被験体中のサンプルまたは被験体からのサンプルへの結合の試験レベルを決定する工程、ならびに
該結合の試験レベルを対照と比較する工程であって、
該単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体が、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含み、そして
該対照よりも大きな結合の試験レベルが、サンプル中のPNAG発現細菌株の存在を示す、工程
を包含する、方法。
(項目46)
項目45に記載の方法であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、方法。
(項目47)
項目46に記載の方法であって、前記方法が被験体におけるブドウ球菌を検出するための方法であり、
単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体の、被験体中のサンプル、または被験体からのサンプルへの結合の試験レベルを決定する工程、ならびに
該結合の試験レベルを対照と比較する工程であって、
該単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体が、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含み、そして
該対照よりも大きな結合の試験レベルが、サンプル中のブドウ球菌の存在を示す、工程を包含する、方法。
(項目48)
項目47に記載の方法であって、前記ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、方法。
(項目49)
項目46または項目47に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、検出可能な標識と結合体化している、方法。
(項目50)
項目49に記載の方法であって、前記検出可能な標識が、インビボで検出可能な標識である、方法。
(項目51)
項目46または項目47に記載の方法であって、前記結合の試験レベルが、インビトロで測定される、方法。
(項目52)
PNAG発現細菌株に感染しているか、またはPNAG発現細菌株による感染を顕出する危険性のある被験体を処置する方法であって、
該処置を必要としている被験体に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含む単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体を、該感染を阻害するための有効量で投与する工程
を包含する、方法。
(項目53)
項目52に記載の方法であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、方法。
(項目54)
項目52に記載の方法であって、前記方法が、ブドウ球菌に感染しているか、またはブドウ球菌感染を顕出する危険性のある被験体を処置するための方法であり、
該処置を必要としている被験体に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含む単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体を、ブドウ球菌感染を阻害するための有効量で投与する工程
を包含する、方法。
(項目55)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3である、方法。
(項目56)
項目55に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号9、配列番号15、および配列番号21からなる群から選択されるH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目57)
項目55に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号12、配列番号18、および配列番号24からなる群から選択されるL鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目58)
項目55に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目59)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2である、方法。
(項目60)
項目59に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、方法。
(項目61)
項目59に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR2のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目62)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1である、方法。
(項目63)
項目62に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、方法。
(項目64)
項目62に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR1のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目65)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法。
(項目66)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目67)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法。
(項目68)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目69)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、単離抗体または抗体フラグメントである、方法。
(項目70)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマから産生される、方法。
(項目71)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、インタクトな可溶性モノクローナル抗体である、方法。
(項目72)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメントからなる群から選択される単離抗体フラグメントである、方法。
(項目73)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、
H鎖CDRを含み、かつ配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、ならびに
L鎖CDRを含み、かつ配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列
を含む、方法。
(項目74)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、
受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域を含むアミノ酸配列、および
受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列
を含む、方法。
(項目75)
項目73に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号1のアミノ酸配列、および配列番号2のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目76)
項目73に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号3のアミノ酸配列、および配列番号4のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目77)
項目73に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号5のアミノ酸配列、および配列番号6のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目78)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む、方法。
(項目79)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む、方法。
(項目80)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む、方法。
(項目81)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記被験体が、ブドウ球菌感染を顕出する危険性のある、方法。
(項目82)
項目81に記載の方法であって、前記ブドウ球菌感染が、S.aureus感染またはS.epidermidis感染である、方法。
(項目83)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記被験体が、E.coli感染、Yersinia pestis(Y.pestis)感染、Y.entercolitica感染、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)感染、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)感染、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)感染、A.pleuropneumoniae感染、Bordetella pertussis(B.pertussis)感染、B.parapertussis感染、またはB.bronchiseptica感染を顕出する危険性のある、方法。
(項目84)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、細胞毒性因子と結合体化している、方法。
(項目85)
ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRをコードしているヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子。
(項目86)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記ヌクレオチド配列が、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、および配列番号24からなる群から選択される、単離核酸分子。
(項目87)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記ヌクレオチド配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6からなる群から選択される、単離核酸分子。
(項目88)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖可変領域の核酸分子である、単離核酸分子。
(項目89)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖可変領域の核酸分子である、単離核酸分子。
(項目90)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖CDRの核酸分子である、単離核酸分子。
(項目91)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖CDRの核酸分子である、単離核酸分子。
(項目92)
項目85〜90または91に記載される単離核酸分子を含み、プロモーターと作動可能に結合している、発現ベクター。
(項目93)
項目92に記載の発現ベクターで形質転換または形質導入される、宿主細胞。
(項目94)
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体を産生し、かつATCC受託番号PTA−5931を有する、単離細胞。
(項目95)
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体を産生し、かつATCC受託番号PTA−5932を有する、単離細胞。
(項目96)
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体を産生し、かつATCC受託番号PTA−5933を有する、単離細胞。
(項目97)
項目94に記載の細胞によって産生される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目98)
項目95に記載の細胞によって産生される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目99)
項目96に記載の細胞によって産生される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目100)
項目97、98または99に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体、またはそのフラグメントであって、該フラグメントが、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメントからなる群から選択される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目101)
項目97、98または99に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体、またはそのフラグメントであって、該フラグメントが、PNAG発現細菌株のオプソニン食菌作用を向上させる、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目102)
項目97、98または99に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、該フラグメントが、PNAG発現ブドウ球菌のオプソニン食菌作用を向上させる、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目103)
項目102に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、前記PNAG発現ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目104)
項目101に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、前記PNAG発現細菌が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaである、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目105)
PNAGを発現する細菌株の感染を処置するための方法であって、
PNAGを発現する細菌への曝露から少なくとも4時間以内に被験体における細菌負荷を少なくとも50%減少させるPNAG/dPNAG結合ペプチドを、該感染を処置するための有効量で治療を必要とする被験体に投与する工程
を含む、方法。
(項目106)
項目105に記載の方法であって、前記PNAGを発現する細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaである、方法。
(項目107)
項目105に記載の方法であって、前記方法がブドウ球菌感染を処置するための方法であり、
ブドウ球菌細菌に曝露してから少なくとも4時間以内に、被験体における細菌負荷を少なくとも50%減少させるPNAG/dPNAG結合ペプチドを、該感染を治療するための有効量でブドウ球菌感染の処置を必要とする被験体に投与する工程を包含する、方法。
(項目108)
項目107に記載の方法であって、前記ブドウ球菌感染がS.aureus感染である、方法。
(項目109)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露前に投与される、方法。
(項目110)
項目109に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露の少なくとも4時間前に投与される、方法。
(項目111)
項目109に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露の少なくとも24時間前に投与される、方法。
(項目112)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露の少なくとも4時間以内に、被験体の細菌負荷を少なくとも60%減少させる、方法。
(項目113)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露後2時間以内に、被験体の細菌負荷を少なくとも50%減少させる、方法。
(項目114)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露後2時間以内に、被験体の細菌負荷を少なくとも60%減少させる、方法。
(項目115)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが単離抗体または抗体フラグメントである、方法。
【0038】
本発明のこれらおよび他の実施形態が、本明細書においてさらに詳細に記載される。
【0039】
(配列表の簡単な説明)
配列番号1は、抗体F598H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0040】
配列番号2は、抗体F598L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0041】
配列番号3は、抗体F628H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0042】
配列番号4は、抗体F628L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0043】
配列番号5は、抗体F630H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0044】
配列番号6は、抗体F630L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0045】
配列番号7は、抗体F598H鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0046】
配列番号8は、抗体F598H鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0047】
配列番号9は、抗体F598H鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0048】
配列番号10は、抗体F598L鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0049】
配列番号11は、抗体F598L鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0050】
配列番号12は、抗体F598L鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0051】
配列番号13は、抗体F628H鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0052】
配列番号14は、抗体F628H鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0053】
配列番号15は、抗体F628H鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0054】
配列番号16は、抗体F628L鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0055】
配列番号17は、抗体F628L鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0056】
配列番号18は、抗体F628L鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0057】
配列番号19は、抗体F630H鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0058】
配列番号20は、抗体F630H鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0059】
配列番号21は、抗体F630H鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0060】
配列番号22は、抗体F630L鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0061】
配列番号23は、抗体F630L鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0062】
配列番号24は、抗体F630L鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0063】
配列番号25は、抗体F598H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0064】
配列番号26は、抗体F598L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0065】
配列番号27は、抗体F628H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0066】
配列番号28は、抗体F628L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0067】
配列番号29は、抗体F630H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0068】
配列番号30は、抗体F630L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0069】
配列番号31は、抗体F598H鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0070】
配列番号32は、抗体F598H鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0071】
配列番号33は、抗体F598H鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0072】
配列番号34は、抗体F598L鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0073】
配列番号35は、抗体F598L鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0074】
配列番号36は、抗体F598L鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0075】
配列番号37は、抗体F628H鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0076】
配列番号38は、抗体F628H鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0077】
配列番号39は、抗体F628H鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0078】
配列番号40は、抗体F628L鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0079】
配列番号41は、抗体F628L鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0080】
配列番号42は、抗体F628L鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0081】
配列番号43は、抗体F630H鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0082】
配列番号44は、抗体F630H鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0083】
配列番号45は、抗体F630H鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0084】
配列番号46は、抗体F630L鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0085】
配列番号47は、抗体F630L鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0086】
配列番号48は、抗体F630L鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0087】
配列番号49は、プライマーλ定常のヌクレオチド配列である。
【0088】
配列番号50は、プライマーHuλsig5のヌクレオチド配列である。
【0089】
配列番号51は、プライマーH鎖定常のヌクレオチド配列である。
【0090】
配列番号52は、プライマーVH7LDRHUのヌクレオチド配列である。
【0091】
配列番号53は、プライマーHuλsig1のヌクレオチド配列である。
【0092】
配列番号54は、プライマーVH1LDRHUのヌクレオチド配列である。
【0093】
配列番号55は、いくつかの定常領域配列を含む、F598H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0094】
配列番号56は、いくつかの定常領域配列を含む、F598H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0095】
配列番号57は、いくつかの定常領域配列を含む、F598L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0096】
配列番号58は、いくつかの定常領域配列を含む、F628H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0097】
配列番号59は、いくつかの定常領域配列を含む、F628H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0098】
配列番号60は、いくつかの定常領域配列を含む、F630L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号61は、いくつかの定常領域配列を含む、F630L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
以下の図面は、本発明を実施可能にするためには必要とされないということが、理解されるべきである。
【図1】図1は、天然PNAGに対するモノクローナル抗体(MAb)(IgG2形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。P.aeruginosa MEPに対するMAbを、負の対照として使用する。
【図2】図2は、dPNAGに対するMAb(IgG2形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。
【図3】図3は、PNAGならびにMAb(IgG2形態の)F598、F628、およびF630を使用した競合ELISAの結果を示すグラフである。
【図4】図4は、天然PNAGに対するMAb(IgG1形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。
【図5】図5は、dPNAGに対するMAb(IgG1形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。
【図6】図6は、PNAGに対するIgG1およびIgG2の両形態におけるMAb F598、F628、およびF630の補体固定活性を示すグラフである。P.aeruginosa MEPに対するMAbを、負の対照として使用する。
【図7】図7は、IgG1およびIgG2の形態におけるMAb F598、F628、およびF630の、S.aureus菌株Mn8に対するオプソニン食菌作用活性を示すグラフである。
【図8A】図8Aは、P.aeruginosaアルギナートに対する対照のヒトIgG1 MAbか、または(IgG1形態)PNAG/dPNAGに対して特異的なMAbF598が与えられた、マウス(1群あたり8匹)血液中のブドウ球菌レベルを比較した平均結果を示す棒グラフであり、MAb F598が、S.aureusのチャレンジに対して受動的保護を提供し得ることを示している。
【図8B】図8Bは、個々のマウスにおけるS.aureusのチャレンジに対する保護の結果を示すグラフであり、P.aeruginosaアルギナートに対する対照ヒトIgG1 MAb、およびPNAG/dPNAGに対して特有の(IgG1形態の)MAb F598を投与後の、血液1ml当たりのCFUを報告している。
【図8C】図8Cは、MAb F598およびP.aeruginosa MEPに対する対照MAbを使用した個々のFVBマウスにおける、S.aureusのチャレンジに対する保護の結果を示すグラフである。
【図9】図9は、D〜Uの標識を有するE.coli UTI菌株によるPNAG発現を示す免疫ブロット図であり、E.coli pgaを過剰に発現している分離株を含む(右上角)。
【図10】図10は、S.aureus dPNAGに対して生じたポリクローナル抗血清を使用したE.coli分離株の、傷害レベルを示す棒グラフである。
【図11】図11Aおよび図11Bはそれぞれ、dPNAGおよびPNAGに対して生じたポリクローナル抗血清を使用した、相対的に高レベルのPNAGを発現するE.coli分離株(U菌株)、および中間レベルのPNAGを発現するE.coli分離株(P菌株)の、傷害レベルを示すグラフである。
【図12】図12は、F598、F628、およびF630を使用した異なるPNAG発現性細菌株からのCFUの減少を示す棒グラフである。
【図13】icaB遺伝子が存在するために生じる作用、またはicaB遺伝子が不在のために生じる作用として、F598およびF628によって傷害されたS.aureus細菌の割合を示すグラフである。
【図14】図14は、icaB遺伝子の過剰発現の作用として、F598およびF628によって傷害されたS.aureus細菌の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0100】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)を発現する細菌株による感染に対して、特にヒトおよび動物の免疫化、ならびにそのような病原体の検出にとって有用な組成物および方法を提供する。このような細菌株としては、限定されないが、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌およびコアグラーゼ陽性ブドウ球菌(例えば、S.aureusおよびS.epidermis)が挙げられる。本発明はさらに、いくつかの細菌株により発現される種々の形態のPNAGと結合するペプチドを提供する。
【0101】
本発明は、一部、様々な形態のPNAG(下記のような、高度にアセチル化された形態、不十分にアセチル化された形態、および脱アセチル化された形態を含む)と結合する多数のヒトモノクローナル抗体の発見、単離および特徴付けに基づいている。これらの抗体は、ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として、2004年4月21日に、ブダペスト特許条約に従ってATCCに委託したハイブリドーマによって産生される。これらのハイブリドーマ、およびこれらが産生する抗体は、F598、F628、およびF630と指定されている。これらのハイブリドーマは、本明細書において繰り返し言及される。ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有するハイブリドーマ(またはハイブリドーマにより産生された抗体)に対する言及は、前記のハイブリドーマを意味することが理解されるべきである。この寄託されたハイブリドーマは、ブドウ球菌感染から回復したヒト被験体から採取したB細胞から産生された。このB細胞は、エプスタイン−バーウィルスで形質転換され、次いでヒトマウス骨髄腫細胞株HMMA2.5と融合され、寄託されたハイブリドーマを産生した。
【0102】
PNAGは様々な形態で天然に存在し、その形態は、アセテートの置換の程度によりことなる。アセテートの置換は、0〜100%の範囲に及び得る。本明細書中で使用される場合、PNAGは、天然に存在する前記の範囲でアセテートに置換されたPNAGの混合物に対応する「天然PNAG」のことをいう。不十分にアセチル化されたPNAGは、PNAG多糖類の亜種であり、グルコサミンの50%未満のアミノ基がアセテートで置換されている。本明細書中で使用される場合、用語dPNAGは、不完全にアセチル化されたPNAGおよび完全に脱アセチル化されたPNAGの両方を包含する(すなわち、dPNAGは、0〜50%未満のアセテート置換基を含むPNAG多糖類のサブセットのことをいう)。
【0103】
PNAGは、以下の構造を有し:
【0104】
【化1】
ここで、nは2〜300以上の範囲の整数であり、Rは−NH−CO−CH3および−NH2からなる群から選択される。PNAGは、ベータ(β)1−6結合(すなわちPNAGは、ベータ(β)1−6結合により互いに結合しているグルコサミンモノマー単位からなる)。
【0105】
PNAGは、ホモポリマーであり得る。ホモポリマーは、グルコサミン残基のR基が同一であるホモポリマーである。このホモポリマーは、単独の非置換R基(すなわち、R=NH2)を含み得る。PNAGはまた、Rの位置において−NH2基と−NH−CO−CH3基との混合物を有するヘテロポリマーであり得る。dPNAGは、50%未満のR基が−NH−CO−CH3であることを除き、PNAGと同一の構造を有する。
【0106】
PNAGおよびdPNAGは、天然に存在し得るし、また、この遺伝子座によってコードされた生合成酵素を産生して、PNAGまたはdPNAGを合成するためにこれらの酵素を使用し、ica遺伝子座(またはpga遺伝子座などの相同遺伝子座)を有する任意の細菌株からも調製され得る。PNAGを発現する細菌としては、ブドウ球菌(例えば、S.aureusおよびS.epidermidis)、E.coli(例えば、E.coli O157株:H7株およびCFT073株)、Yersinia pestis、Yersinia entercolitica、Xanthomonas axonopodis、Pseudomonas fluorescens(これらは全て、完全なpgaABCD遺伝子座を有する配列が決定された種である)、ならびにActinobacillus actinomycetemcomitans(AA)、Actinobacillus pleuropneumoniae(Ap)、Ralstonia solanacearum(例えば、メガプラスミド型)、Bordetella pertussis、Bordetella parapertussis、およびBordetella bronchiseptica(これらは全て、pgaABC遺伝子を含有するが、明らかにpgaDホモログは持っていない)が挙げられる。pgaABCがコードするAAおよびAp(前述)などの種がPNAGを作るので、pgaDは、PNAGの発現に必要ではないようだ。
【0107】
PNAGを発現する細菌は、ica遺伝子座または相同遺伝子座(例えば、pga遺伝子座)を有する細菌である。例えば、PNAG発現ブドウ球菌は、ica遺伝子座を有するブドウ球菌である。PNAG発現性細菌株には、dPNAG発現性細菌株が含まれる。例えば、PNAG発現ブドウ球菌には、dPNAG発現ブドウ球菌が含まれる。これらの菌株としては、S.epidermisおよびS.aureus、さらにica遺伝子座または相同遺伝子座(例えば、pga遺伝子座)において遺伝子により形質転換される他の菌株(例えば、S.carnosus)が挙げられるが、これらに限定されない。特に、PNAGは、S.epidermis RP62A(ATCC番号35984)、S.epidermis RP12(ATCC番号35983)、S.epidermis M187、S.carnosus TM300(pCN27)、S.aureus RN4220(pCN27)、S.aureus MN8ムコイド、E.coli O157、およびE.coli CFT073を含む特定の菌株から調製され得る。dPNAGはまた、新たに合成され得るし、天然PNAGを改変することによっても合成され得る。PNAGおよびdPNAGは、Maira−Litranら、Infect Immun.(2002年8月);70(8):4433、および2003年11月12日出願の米国特許出願公開第10/713,790号に記載されている方法に従って調製され得る。
【0108】
PNAGはまた、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaを含む他の細菌によっても発現されるが、これらに限定されない。実施例に記載されるとおり、18の尿路感染症E.coli分離株のうち、17の分離株がpga遺伝子座を有した。これらのうち、約3分の1が相対的に高レベルのPNAGを発現し、約3分の1が相対的に中間レベルのPNAGを発現し、そして、残りの3分の1が相対的に低レベルのPNAGを発現した。上記分析は、S.aureus PNAGに対して作られた抗血清を使用して免疫ブロットにより実施された。これは、1種からのPNAGが、PNAGを発現する他種に対する抗体(および、それに応じて結合するペプチド)を生じさせるために使用され得る証拠である。
【0109】
したがって、一局面において、本発明は、結合ペプチドおよび抗体を提供する。本発明の抗体は、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、PNAGを合成する種のオプソニン食菌作用を向上させる(すなわち、ブドウ球菌PNAG/dPNAGに対して特異的なオプソニン食菌作用性ヒトモノクローナル抗体)。この抗体は、本明細書において、抗ブドウ球菌PNAG/dPNAG抗体についていう。しかしながら、これらの抗体は、供給源に関係なくPNAG/dPNAGと結合することができるということが理解されるべきである。したがって、例えばブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、例えばブドウ球菌種のオプソニン食菌作用を検出および/または向上し得ると定義される本発明の抗体はまた、PNAGを発現するブドウ球菌以外の細菌のオプソニン食菌作用も検出および/または向上し得る。
【0110】
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAG抗体は、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合する抗体、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しない抗体、またはc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しない抗体である。好ましい抗体は、dPNAGと結合する抗体である。
【0111】
抗体F598、F628、およびF630はすべて、天然PNAGと結合し得、中にはdPNAGと結合し得るものもある。任意のメカニズムまたは理論によって縛られることは意図しないが、dPNAGを認識する抗体は、アセテート置換などの置換基を含んでいる分子の一部に結合するよりも、むしろアセテート基を含まないPNAG分子の一部に特異的に結合する可能性が高いと考えられている。例えば、dPNAGと結合する抗体は、アセテート置換基よりも、むしろPNAGのバックボーンを認識し、それに結合し得る。これらの抗体は、感染したヒト被験体からのPNAG発現性細菌(例えば限定されないが、ブドウ球菌分離株またはE.coli分離株)のオプソニン食菌作用傷害(opsonophagocytic killing)を媒介し得る。ブドウ球菌感染のネズミモデルにおいてインビボで使用される場合、抗体は、ブドウ球菌抗原投与に対する保護を提供する。各モノクローナル抗体が保護を提供する条件は変化し得る。これらおよび他の知見が、実施例においてより詳細に記載される。
【0112】
いかなる特定の理論にも拘束されることは意図しないが、PNAG発現性細菌による感染(例えば、ブドウ球菌感染)の進行は、病原体を排除する適切な免疫応答を生成できないためであると考えられている。具体的にいうと、欠点のうちの1つは、PNAG(例えば、ブドウ球菌により産生されるPNAG)に対して特異的なオプソニン食菌作用性抗体を産生できないことである。
【0113】
オプソニン食菌作用性抗体は、補体系の成分のさらなる沈着物を補充する能力の有無にかかわらず、抗原または細菌に沈着し、食菌作用性細胞(例えば、マクロファージおよび樹状細胞など、抗原提示細胞)、または多形核の好中球による抗原もしくは細菌の食菌作用を促進する抗体である。食菌作用は、抗原または細菌に結合する抗体のみを必要とするFcの媒介様式で進行し得る。食菌作用はまた、食細胞に補体レセプターを結合させて、抗体を沈着させた細菌表面上のオプソニンを補完することによっても進行し得る。食細胞はまた、これら2つのメカニズムの組み合わせによっても進行し得る。感染部位にオプソニン食菌作用性抗体を提供する能力は、したがって、これまで可能であったよりもさらに効果的に感染の撲滅に寄与するはずである。
【0114】
PNAGおよびdPNAGは共に、インビボにおいて高い免疫原性を示し、オプソニン傷害作用および感染からの保護を媒介する抗体を顕在化させ得、dPNAGは、優先的に、オプソニン傷害作用および感染からの保護を媒介する抗体を顕在化させると仮定される。dPNAG多糖類は、したがって、特に、PNAG発現性細菌株(例えば限定されないが、ブドウ球菌)に対する免疫応答(抗体依存性免疫応答を含む)の誘発に有用である。dPNAGの投与後に顕在化させられた抗体はdPNAGを認識し、重要な実施形態においては、高度にアセチル化された形態のPNAGも認識する。
【0115】
したがって、本発明は、PNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチドの同定および使用に関する。ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチドは、本明細書においてPNAG/dPNAG結合ペプチドとして言及される。また、このような結合ペプチドは、供給源に関わらず、PNAG/dPNAGと結合し得ることが理解されるべきである。PNAG/dPNAG結合ペプチドとしては、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合するペプチド、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しないペプチド(本明細書において、PNAG結合ペプチドと呼ぶ)、ならびにc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しないペプチド(本明細書において、dPNAG結合ペプチドと呼ぶ)が挙げられる。好ましい実施形態において、これらのペプチドは、少なくともdPNAGと結合する(これにより、前述の区分(a)および(c)を包含する)。
【0116】
本発明のペプチドは、PNAG/dPNAGと結合する領域(すなわち、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域)を最小限度に包含する。本明細書中で使用される場合、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域は、PNAG/dPNAGの供給源に関わらず、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合する領域、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しない領域(本明細書において、PNAG結合領域と呼ぶ)、またはc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しない領域(本明細書において、dPNAG結合領域と呼ぶ)である。好ましくは、PNAG/dPNAGが結合する領域は、少なくともdPNAGと結合する領域である(したがって、区分(a)および(b)を包含する)。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域は、本発明の抗体のPNAG/dPNAG結合領域に由来するか、あるいは、機能的に等価なこれら領域の改変体である。
【0117】
したがって、2つの特に重要なクラスの抗体に由来するPNAG/dPNAG結合領域は、本明細書において記載される抗体またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として、2004年4月21日にATCCに寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体の、可変領域およびCDRである。CDRおよび可変領域の核酸は、抗体を産生する細胞(例えば、実施例に記載されるように寄託した細胞)からクローン化され得る。
【0118】
当該技術分野において周知の抗体は、ジスルフィド架橋により結合されるポリペプチド鎖の集合である。2つの成分アミノ酸鎖は、L鎖およびH鎖と呼ばれ、抗体のすべての主要な構造アイソタイプを構成する。H鎖およびL鎖の両鎖は、可変領域および定常領域と呼ばれる亜領域へとさらに分割される。ときに、ペプチドは、前記抗体の、抗体H鎖およびL鎖の可変領域を包含する。H鎖可変領域は、一般に、100〜150アミノ酸長の範囲に及ぶペプチドである。L鎖可変領域は、一般に、80〜130アミノ酸長の範囲に及ぶペプチドである。
【0119】
さらに当該技術分野において周知であるように、抗体のCDRは、所与の抗原または抗原エピトープに対する抗体の結合特異性に大きく関与する抗体可変領域の一部である。これらのCDRは、抗原のエピトープと直接的に相互作用する(全般的に、Clark、1986年;Roitt、1991年を参照)。IgG免疫グロブリンのH鎖およびL鎖の両鎖の可変領域には、4つのフレームワーク領域(FR1〜FR4)があり、それぞれ3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)により区分されている。このフレームワーク領域(FR)は、抗原または抗原エピトープとの相互作用に関与する抗体の部分であるパラトープの三次構造を維持する。CDR、特にCDR3、さらに具体的にはH鎖のCDR3が、抗体特異性に実質的に寄与する。CDRは、特にCDR3は、大部分の抗原特異性を抗体に与えるので、これらの領域は、他の抗体またはペプチドに組み込まれ、同一の抗原特異性をその抗体またはペプチドに与え得る。
【0120】
好ましくは、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、本明細書において記載されるCDR、または寄託されたハイブリドーマに由来し得るCDR(すなわち、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR)から、最小限度に、少なくとも1つのCDRを包含する。本明細書中で使用される場合、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、本明細書において記載されるCDRであるか、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマに由来するCDRである。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRとしては、PNAG/dPNAGの供給源に関係なく、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合するCDR、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しないCDR(本明細書において、PNAG結合CDRと呼ぶ)、およびc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しないCDR(本明細書において、dPNAG結合CDRと呼ぶ)が挙げられる。これらのペプチドは、好ましくは、少なくとも1つのブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含む。
【0121】
このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域は、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2、またはブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3であり得、これらはすべて、本明細書において開示される抗体および抗体の変異鎖に由来する。
【0122】
本明細書中で使用される場合、「ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1」は、好ましくは特異的に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合するCDR1であり、本明細書において記載される抗体、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される抗体のH鎖もしくはL鎖の各々の可変領域に由来する。CDR1は、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し得る。それぞれ同様の定義が、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2およびCDR3に適用される。
【0123】
「ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2」は、好ましくは、特異的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合するCDR2であり、本明細書において記載される抗体、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される抗体のH鎖もしくはL鎖の各々の可変領域に由来する。CDR2は、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0124】
「ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3」は、好ましくは、特異的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合するCDR3であり、本明細書において記載される抗体、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される抗体のH鎖もしくはL鎖の各々の可変領域に由来する。CDR3は、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0125】
上記配列に加えて、本発明は、下記により詳細に記載するとおり、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のいずれかにおける保存的置換改変体を含むこれらの配列の機能的に等価な改変体を包含することを意図する。
【0126】
本明細書において検討されるオプソニン食菌性抗体(ただし、これに限定されない)を含む本発明のペプチドは、とりわけ、被験体中のサンプルまたは被験体からのサンプル中の、PNAG/dPNAG抗原またはPNAG発現細菌(例えば限定されないが、PNAGを発現するブドウ球菌細菌)を検出することを目的とした診断方法において有用である。最低限、これらの方法において有用なペプチドに必要とされるのは、これらペプチドがまた、オプソニン作用および食菌作用を向上させるかどうかに関わらず、PNAG/dPNAG(例えば、ブドウ球菌PNAG/dPNAG)を認識し、それらと結合することである。重要な実施形態において、抗体およびそれらのフラグメントは、PNAG/dPNAGと選択的に結合する。したがって、抗体およびそれらのフラグメントは、本明細書において記載される抗体クローンに由来するCDR、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として寄託されるハイブリドーマによって産生されるCDRを1つ以上所有することのみを必要とする。好ましい実施形態において、ペプチドは、PNAG/dPNAG結合CDR3を含み、より好ましくは、ペプチドは、H鎖PNAG/dPNAG結合CDR3を含む。必ずしも全てのCDRが、PNAG/dPNAGに対する結合をもたらすために必要とされるわけではないことが、理解されるべきである。しかしながら、いくつかの実施形態において、ペプチドは、本明細書において開示される所与の抗体クローンまたはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される所与の抗体クローンの全てのCDRを含む。
【0127】
加えて、本発明はまた、本明細書において提供される可変領域間におけるCDRの交換を包含することが理解されるべきである。好ましくは、H鎖CDRは、別のH鎖可変領域CDRと交換され、同様に、L鎖CDRは、別のL鎖可変領域CDRと交換される。
【0128】
本発明において開示される可変鎖のCDRのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【0129】
【数1】
本発明において開示される可変鎖のCDRのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
【0130】
【数2】
これらのペプチドはまた、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合可変領域を含み得る。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合可変領域は、PNAG/dPNAGの供給源に関わらず、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合する可変領域、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しない可変領域(本明細書においてPNAG結合可変領域と呼ぶ)、またはc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しない可変領域(本明細書においてdPNAG結合可変領域と呼ぶ)であり、好ましくは、本明細書において記載されるような抗体可変領域またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマに由来するような抗体可変領域である。
【0131】
本発明は、少なくとも6つの異なる可変領域を提供するが、そのうち少なくとも3つがH鎖可変領域であり、少なくとも3つがL鎖可変領域である。配列番号1および配列番号25は、抗体クローンF598に由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号2および配列番号26は、抗体クローンF598に由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号3および配列番号27は、抗体クローンF628に由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号4および配列番号28は、抗体クローンF628に由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号5および配列番号29は、抗体クローンF630に由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号6および配列番号30は、抗体クローンF630に由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。
【0132】
本発明の核酸またはペプチドは、本明細書において提供される配列または寄託されたハイブリドーマに由来し得るということが、理解されるべきである。これらの配列は、全長の可変領域または全長の可変領域のフラグメントに対応するペプチド、および可変領域を含む抗体を産生するために(例えば、PCRによって)クローンされ、ベクターおよび/または細胞に挿入され得る。したがって、L鎖可変領域およびH鎖可変領域の組み合わせを含む抗体またはそれらのフラグメントを、生じさせることが可能である。例えば、本発明の抗体は、MAb F598からの(または寄託されたF598ハイブリドーマによって産生された抗体からの)H鎖可変領域、およびF630の(または寄託されたF630ハイブリドーマによって産生された抗体からの)L鎖可変領域を含み得る。H鎖およびL鎖の(本明細書において開示されるような、またはATCC当力番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されるハイブリドーマによって産生される抗体に含まれるような)可変領域の組み合せはいずれも、本発明による抗体または抗体フラグメントの合成に使用され得る。
【0133】
したがって、本発明は、以下の可変領域の組み合わせからなる抗体または抗体フラグメントを包含する:配列番号1および配列番号2;配列番号1および配列番号4;配列番号1および配列番号6;配列番号3および配列番号2;配列番号3および配列番号4;配列番号3および配列番号6;配列番号5および配列番号2;配列番号5および配列番号4;ならびに配列番号5および配列番号6。
【0134】
同様に、本発明は、以下の可変領域の組合せからなる抗体または抗体フラグメントを包含する:
1.ATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのL鎖可変領域;
2.ATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのL鎖可変領域;
3.ATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのL鎖可変領域;
4.ATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのL鎖可変領域;
5.ATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのL鎖可変領域;
6.ATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのL鎖可変領域;
7.ATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのL鎖可変領域;
8.ATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのL鎖可変領域;ならびに
9.ATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのL鎖可変領域。
【0135】
本発明は、種々のアイソタイプの抗体および抗体フラグメントを捕捉することを意図する。寄託されたハイブリドーマは、IgG2アイソタイプ抗体を産生する。しかしながら、組み換えられた免疫グロブリン(Ig)遺伝子、特に可変領域遺伝子は、実施例において記載されるように寄託されたハイブリドーマから単離され、H鎖およびL鎖の両方のヒトIg定常領域遺伝子をコードするIg組み換えベクターにクローンされ得る。この技術を使用して、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、それによりPNAG発現細菌(例えば、ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させるIgG1アイソタイプ抗体が同定され、合成され、そして単離された。
【0136】
この抗体は、IgG1アイソタイプ、IgG2アイソタイプ、IgG3アイソタイプ、IgG4アイソタイプ、IgDアイソタイプ、IgEアイソタイプ、IgMアイソタイプ、IgA1アイソタイプ、IgA2アイソタイプ、またはsIgAアイソタイプであり得る。本発明はまた、非ヒトの種、例えば限定されないが、鳥類およびサメ類のIgYにおいて見出されるアイソタイプを捕捉することを意図する。種々のアイソタイプの定常領域をコードするベクターは公知であり、以前に記載されている(例えば、Prestonら、Production and characterization of a set of mouse−human chimeric immunoglobulin G(IgG)subclass and IgA monoclonal antibodies with identical variable regions specific for P.aeruginosa serogroup O6 lipopolysaccharide.Infect Immun.1998年9月;66(9):4137−42;Colomaら、Novel vectors for the expression of antibody molecules using variable regions generated by polymerase chain reaction.J Immunol Methods.1992年7月、31;152(1):89−104;Guttieriら、Cassette vectors for conversion of Fab fragments into full−length human IgG1 monoclonal antibodies by expression in stably transformed insect cells.Hybrid Hybridomics.2003年6月;22(3):135−45;McLeanら、Human and murine immunoglobulin expression vector cassettes.Mol Immunol.2000年10月;37(14):837−45;Wallsら、Vectors for the expression of PCR−amplified immunoglobulin variable domains with human constant regions.Nucleic Acids Res.1993年6月25日;21(12):2921−9;Norderhaugら、Versatile vectors for transient and stable expression of recombinant antibody molecules in mammalian cells.J Immunol Methods.1997年5月12日;204(1):77−87.を参照)。
【0137】
本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」は、モノクローナル抗体、機能的に活性かつ/または機能的に等価な抗体フラグメント、および機能的に活性かつ/または機能的に等価なペプチドおよびポリペプチドを含む。
【0138】
本発明のペプチドは、単離ペプチドである。本明細書中で使用される場合、用語「単離ペプチド」は、そのペプチドが実質的に純粋であり、それらのペプチドと共に天然または意図される使用に実用的かつ適切な程度にインビボ系において見受けられ得る他の物質を、本質的に含んでいないことを意味する。具体的にはこのペプチドは、例えば、薬学的調整物の製造または配列決定に有用であるために十分な程度純粋であり、それらの宿主細胞の他の生物学的成分を含んでいない。本発明の単離ペプチドは、薬剤調製段階で薬学的に受容可能なキャリアと混合され得るため、このペプチドは、その調整物のわずかな重量パーセントのみを構成し得る。それでもなお、生物系において結合し得る物質から実質的に分離されたという点で、このペプチドは実質的に純粋である。
【0139】
本発明のペプチドは、PNAGおよび/またはdPNAGと、好ましくは選択的な様式で結合する。本明細書中で使用される場合、用語「選択的な結合」および「特異的な結合」は、相互交換可能に使用され、PNAG以外に由来する化合物と結合するより大きな親和力でPNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチドおよびそのフラグメントの能力のことをいう。つまり、PNAGおよび/またはdPNAGと選択的に結合するペプチドおよびそれらのフラグメントは、PNAGおよび/またはdPNAGと結合するときと同程度にかつ同じ親和力で、PNAG以外に由来する化合物と結合しない。ただし、PNAG/dPNAGの模倣物となるために作製された交差反応性抗原もしくは分子(例えば、炭水化物のペプチドの模倣物)、またはPNAG/dPNAGと同じ様式でPNAG/dPNAG結合ペプチドと結合する抗イディオタイプ抗体の可変領域は例外である。選択的にPNAGと結合する抗体は、dPNAGと結合するより大きな親和力でPNAGと結合する。dPNAGと結合する抗体もまた、PNAGと結合するより小さなもしくは大きな親和力で、またはそれと同等の親和力でdPNAGと結合し得る。好ましい実施形態において、本発明のペプチドおよびそのフラグメントは、PNAGおよび/またはdPNAGと単独で結合するが、少なくともdPNAGと結合することがより好ましい。本明細書中で使用される場合、選択的にまたは特異的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合する結合ペプチドはまた、他の供給源からのPNAG/dPNAGとも結合し得、PNAG/dPNAG以外に由来する化合物と(あったとしても)より小さな親和力で結合する。より小さな親和力は、少なくとも10%小さい、20%小さい、30%小さい、40%小さい、50%小さい、60%小さい、70%小さい、80%小さい、90%小さい、または95%小さい親和力を含み得る。したがって、この意味において「選択的な」は、PNAG/dPNAGのブドウ球菌由来の形態と結合するというよりもむしろPNAG/dPNAGと結合することをいう。
【0140】
既に述べたように、本発明は、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチド(例えば、抗体または抗体フラグメント)を提供する。そのような抗体は、好ましくは、PNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン作用および食菌作用(すなわち、オプソニン食菌作用)を向上させ、結果として、被験体におけるいくつかの形態の細菌感染の予防および治療に有用である。オプソニン作用とは、食菌作用がオプソニン(例えば、抗体および/あるいはC4bもしくはC3bなどのオプソニン補体因子またはオプソニン食菌作用を促進し得る任意の他の因子)が抗原に沈着することよって促進されるプロセスのことをいう。食菌作用およびオプソニン食菌作用とは、食菌細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞、および多形核球(PMNL))が物質を摂取して、細胞質における液胞(例えば、食胞)内にそれを閉じ込めるプロセスのことをいう。したがって、細菌をオプソニン化して食菌作用を向上させる抗体または抗体フラグメントは、抗原を認識してその抗原に沈着し、そうすることで食菌細胞による抗原(および抗原を含んだ物質、例えばブドウ球菌細菌)の摂取および包含を促進する抗体または抗体フラグメントである。一般に、食菌作用およびオプソニン作用を向上させるために、抗体はFcドメインまたは領域を含む。このFcドメインは、Fcレセプターを含んだ細胞(例えば、マクロファージなどといった抗原提示細胞、またはPMNL)によって認識される。本明細書中で使用される場合、「オプソニン食菌作用を向上させること」は、抗体沈着により、抗原または抗原を含んだ基質が、食菌細胞によって認識されて包含される可能性が高まることを意味する。この向上は、インビボにおける細菌負荷の低減、または下記のインビトロの方法を使用するインビトロにおける細菌細胞傷害によって測定され得る。
【0141】
オプソニン作用アッセイは、当該技術分野において広く知られている。一般に、このアッセイは、抗体、(標的細菌細胞で発現される)抗原、補体および食菌細胞の存在下における細菌傷害の量を測定する。動物またはヒトのいずれかの血清は、補体の供給源として一般に使用され、動物またはヒトの多形核細胞は、食菌細胞の供給源として一般に使用される。オプソニン食菌作用傷害の標的細胞は、どの細胞種が抗原を発現するかによって、(本発明と同様に)原核生物か、または真核生物のものであり得る。細胞傷害は、反応成分のインキュベーション前後の生存細胞数によって測定され得る。あるいは、細胞傷害は、反応混合物の上清中の細胞含量(例えば、放射性クロムの放出または乳酸デヒドロゲナーゼなどの細胞内酵素の放出)を測定することによって定量化され得る。ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合する抗体または抗体フラグメントが、さらにオプソニン作用および食菌作用を刺激するかどうかを決定するのに有用である他のアッセイが、本明細書を読まれた当業者には明らかである。
【0142】
本発明は、とりわけ、PNAG発現細菌(例えば限定されないが、ブドウ球菌)のオプソニン傷害作用を向上させる、PNAG/dPNAG特異的ヒトモノクローナル抗体を提供する。これらの抗体は、F598、F628、およびF630と呼ばれる。ヒトにおいてインビボで使用されるとき、ヒトモノクローナル抗体が免疫原性である可能性は(別の種からの抗体と比較して)非常に小さい。結果としてこれらの抗体は、ワクチンおよびPNAGを発現する細菌株(例えば限定されないが、ブドウ球菌)を標的とする受動免疫療法の設計において有用な新規の因子に相当する。
【0143】
これらのモノクローナル抗体の合成は、実施例において記載されている。簡潔に述べると、これらの抗体は次のとおり誘導された:B細胞を、ブドウ球菌感染から回復した個体から採取した。採取されたB細胞を、エプスタイン・バーウィルスを使用して形質転換させ、増殖期およびPNAG/dPNAGに対する抗体分泌についてのスクリーニング期間後、HMMA2.5と呼ばれる不死化ヒト−マウス骨髄腫細胞株パートナーと融合させた。融合細胞の最初の増殖期後、クローンを産生する単一抗体が単離して育て、そして結合アッセイ(例えば、ELISA)を使用して個別に分析した。3つのハイブリドーマを、それらが分泌した抗体の、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合する能力に基づいて選択した。3つの抗体は全て、IgG2アイソタイプの抗体であり、IgG2アイソタイプの抗体の供給源として使用した。可変領域は,上記のとおりPCRによってハイブリドーマからクローンした。
【0144】
抗体のH鎖およびL鎖に対する可変領域の核酸は、H鎖についてはIgG1(γ1)定常領域コード配列、およびL鎖についてはλ定常領域を含んでいるヒトIg発現ベクター(すなわち、TCAE6)にクローンされた(例えば、Prestonら、Production and characterization of a set of mouse−human chimeric immunoglobulin G(IgG) subclass and IgA monoclonal antibodies with identical variable regions specific for P.aeruginosa serogroup O6 lipopolysaccharide.Infect Immun.1998年9月;66(9):4137−42を参照)。可変領域は、定常領域コード配列をコードするいずれのベクターにおいても置かれ得る。例えば、ヒトIgG2、IgG3、IgG4、およびIgAのH鎖定常領域の遺伝子のゲノムクローンを含有し、可変領域遺伝子を欠くヒトIgH鎖定常領域の発現ベクターが、Colomaら、1992年、J.Immunol.Methods、152:89−104に記載されている。
【0145】
次いで、これらの発現ベクターを細胞(例えば、CHO DG44細胞)に形質導入し、この細胞をインビトロにおいて育て、続いて上清からIgG1を採取した。結果として生じる抗体は、ヒト可変領域、ヒトIgG1定常領域、およびλ定常領域を有した。これらの抗体の、PNAGおよび/またはdPNAGと結合し、PNAG発現細菌(例えば、ブドウ球菌)のオプソニン作用および食菌作用を向上させる能力は、本明細書において記載される、結合アッセイおよびオプソニン食菌傷害アッセイを使用して評価された。
【0146】
本明細書において使用される「単離抗体」は、実質的に他の細胞物質から、または本発明の診断方法もしくは治療方法におけるそれらの使用を妨げる他の物質から物理的に分離される(例えば、抗体を産生する細胞から分離される)抗体のことをいう。好ましくは、この単離抗体は、抗体の同質の集団(例えば、モノクローナル抗体の集団)中に存在する。しかしながら、単離抗体の組成物は、他の成分(例えば限定されないが、薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントなど)と合わせられ得る。
【0147】
単離ハイブリドーマおよび単離組み換え細胞(例えば、本明細書において記載される単離ハイブリドーマおよび単離組み換え細胞)を含む「単離抗体産生細胞」は、本明細書中で使用される場合、実質的に他の細胞、他の身体物質(例えば、腹水組織および腹水)、および例えば単離されていて好ましくは同質の抗体集団の産生におけるそれらの使用を妨げる他の物質から、物理的に分離されている抗体産生細胞のことをいう。ブダペスト条約の下でATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として、2004年4月21日にATCCに寄託されたハイブリドーマが、単離抗体産生細胞およびより特異的に単離されるハイブリドーマの例であると考えられる。
【0148】
したがって、一実施形態において本発明のペプチドは、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGに対して特異的な、単離されたインタクトな可溶性モノクローナル抗体である。本明細書中で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」は、同一のエピトープ(すなわち、抗原決定基)と特異的に結合する免疫グロブリンの同質の集団のことをいう。一実施形態において本発明のペプチドは、例えば配列番号1、配列番号3、または配列番号5のアミノ酸配列を有するH鎖可変領域を有するモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、配列番号2、配列番号4、または配列番号6のアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を有し得る。L鎖可変領域およびH鎖可変領域の任意の組み合わせを有するモノクローナル抗体が、本発明によって包含される。
【0149】
本発明は、本明細書において記載されるモノクローナル抗体の結合特性を有するという条件で、例えばクローンF598、F628およびF630以外の抗体を包含することを意図する。必要に応じ、これらのさらなる抗体もまた、PNAG発現細菌株(例えば限定されないが、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる。当業者は、本明細書において詳細に記載されるスクリーニングおよび結合アッセイを使用して、これらのモノクローナル抗体の機能的特性(例えば、結合特性、オプソニン作用特性、および食菌作用特性)を有する抗体を容易に同定し得る。
【0150】
他の実施形態において、ペプチドは、抗体フラグメントである。当該分野において周知のとおり、抗体分子の僅かな部分でしかないパラトープは、その抗体分子のエピトープと抗体との結合に関与する(全般的に、Clark,W.R.(1986)The Experimental Foundations of Modern Immunology Wiley & Sons,Inc.,New York;Roitt,I.(1991)Essential Immunology,第7版,Blackwell Scientific Publications,Oxford;およびPier GB,Lyczak JB,Wetzler LM(編)Immunology,Infection and Immunity(2004)第1版,American Society for Microbiology Press, Washington D.C.を参照)。例えば、抗体のpFc’領域およびFc領域は、補体カスケードのエフェクターであり、食菌細胞上のFcレセプターとの結合を媒介し得るが、抗原の結合には関与しない。pFc’領域を酵素により切断した、またはpFc’領域を有さないように産生された抗体は、F(ab’)2フラグメントと呼ばれ、インタクトな抗体の両抗原結合部位を保持する。単離されたF(ab’)2フラグメントは、2つの抗原結合部位を有することから二価モノクローナルフラグメントと呼ばれる。同様に、Fc領域を酵素により切断した、またはFc領域を有さないように産生された抗体は、Fabフラグメントと呼ばれ、インタクトな抗体分子の抗原結合部位のうちの1つを保持する。さらには、共有結合している抗体のL鎖、および抗体のH鎖の一部からなるFabフラグメントは、Fd(H鎖可変領域)と示される。このFdフラグメントは、抗体特異性の主要な決定基であり(単一のFdフラグメントは抗体特異性を変更せずに10本までの異なるL鎖と会合し得る)、Fdフラグメントは単独でエピトープ結合能力を保持する。
【0151】
用語Fab、Fc、pFc’、F(ab’)2およびFvは、それぞれ標準的な免疫学的意味で使用される[Klein,Immunology(John Wiley,New York,NY,1982);Clark,W.R.(1986)The Experimental Foundations of Modern Immunology(Wiley & Sons,Inc.,New York);Roitt,I.(1991)Essential Immunology,第7版(Blackwell Scientific Publications,Oxford);およびPier GB,Lyczak JB,Wetzler LM(編)Immunology,Infection and Immunity(2004)第1版、American Society for Microbiology Press, Washington D.C.]。
【0152】
他の実施形態において、本発明の抗体のFc部分は、本明細書において記載されるモノクローナル抗体のCDR、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として寄託されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体のCDRの一部または全てを含んだヒトIgG抗体およびIgMを産生するために置換され得る。特に重要なのは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3領域、そしてそれほどまでに重要ではないにせよ、本明細書に記載されるモノクローナル抗体の他のCDRおよびフレームワーク領域の一部、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体の他のCDRおよびフレームワーク領域の一部とを含むことである。そのようなヒトの抗体は、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGを認識し、それ(ら)と好ましく選択的に結合するが、ヒトにおいて抗体自体に対する免疫応答を引き起こさないという点で、特有の臨床的有用性を有する。
【0153】
本発明はまた、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合ペプチドの機能的に等価な改変体を含むことを意図する。「機能的に等価な改変体」は、本発明のペプチドと同じ機能(すなわち、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合する能力、ならびにいくつかの実施形態においては、PNAG発現細菌株のオプソニン作用を促進する能力)を有する化合物である。機能的に等価な改変体は、天然に存在するペプチドであり得るが、これに限定されない。例えば、機能的に等価な改変体は、炭水化物、ペプチド模倣物などであり得る。重要な実施形態において、機能的に等価な改変体は、保存的置換を有する可変領域またはCDRのアミノ酸配列を有するペプチドであり、このペプチドは依然としてブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合し得る。クローンF598(すなわち、配列番号1)のH鎖可変領域からのブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3の機能的に等価な改変体の例には、配列番号1において保存的置換を有するペプチドであり、このペプチドは、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと好ましくは特異的に結合し、必要に応じてPNAG発現細菌株(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン作用を向上させる。本明細書中で使用される場合、「保存的置換」は、アミノ酸配列が起こるペプチドの相対的な電荷または大きさの特性を変更しないアミノ酸置換のことである。アミノ酸の保存的置換には、次の群を有するアミノ酸間でなされる置換が含まれる:(1)M、I、L、V;(2)F、Y、W;(3)K、R、H;(4)A、G;(5)S、T;(6)Q、N;および(7)E、D。
【0154】
機能的に等価な改変体は、本明細書において明確に記載されるペプチドとの同一性を有し得る。つまり、そのような改変体は、本明細書において提供されるアミノ酸配列との少なくとも99%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも94%の同一性、少なくとも93%の同一性、少なくとも92%の同一性、少なくとも91%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも65%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも55%の同一性、少なくとも50%の同一性、少なくとも45%の同一性、少なくとも40%の同一性、少なくとも35%の同一性、少なくとも30%の同一性、少なくとも25%の同一性、少なくとも20%の同一性、少なくとも10%の同一性、または少なくとも5%の同一性を有し得る。
【0155】
機能的等価性は、等価な活性(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/もしくはdPNAGと結合すること、またはPNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させること)についていうが、そういった活性のレベルのばらつきも包含する。例えば、機能的等価物は、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと、本明細書において記載されるモノクローナル抗体クローンより小さなもしくは大きな親和力、またはそれと等しい親和力で結合する改変体である。ただし、その改変体が、本発明において依然として有用である(すなわち、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合し、必要に応じてPNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる)ことが条件である。
【0156】
こういった置換は、当業者に公知の種々の方法によってなされ得る。例えば、アミノ酸置換は、Kunkelの方法(Kunkel,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.82:488−492,1985)に従う特定部位の突然変異誘発法であるPCR特異的突然変異によって、または特定のCDRをコードする遺伝子もしくは本明細書において記載されるCDRアミノ酸配列を含むペプチドの化学合成によってなされ得る。CDR含有ペプチドを改変するためのこれらの方法および他の方法は、当業者に公知であり、上記したような方法を編集する参考文献(例えば、SambrookまたはAusubel)において見出され得る。しかしながら、いくつかの実施形態においては、CDRの大きさのため、ペプチド合成機(例えば、市販のペプチド合成機)を使用して種々の改変体ペプチドを合成すると、より簡便であり得る。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRの機能的に等価な改変体の活性は、下記により詳細に検討される結合アッセイ、また場合によっては生物活性アッセイにより試験され得る。本明細書中で使用される場合、用語「機能的改変体」、「機能的に等価な改変体」および「機能的に活性な改変体」は、相互交換可能に使用される。
【0157】
本明細書中で使用される場合、用語「機能的に活性な抗体フラグメント」は、ブドウ球菌PNAG結合領域またはブドウ球菌dPNAG結合領域を含む本発明の抗体分子フラグメントであって、好ましくは特異的な様式で、それぞれブドウ球菌PNAGまたはdPNAGと結合する能力を保持するものを意味する。そのようなフラグメントは、インビトロおよびインビボの両方において使用され得る。特に、周知の機能的に活性な抗体フラグメントとしては、これらに限定されないが、抗体のF(ab’)2フラグメント、Fabフラグメント、FvフラグメントおよびFdフラグメントが挙げられる。インタクトな抗体のFcフラグメントを欠くこれらのフラグメントは、インタクトな抗体よりも素早く循環系から除去され、それよりも小さな非特異的組織結合性を有する(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))。別の例として、単鎖抗体は、Ladnerらによる米国特許第4,946,778号に記載される方法に従って構成され得る。そのような単鎖抗体は、可撓性のリンカー部分によって連結されるL鎖およびH鎖の可変領域を含む。単離された可変H鎖シングルドメインを含むシングルドメイン抗体(「Fd」)を入手するための方法もまた、報告されている(例えば、Wardら、Nature 341:644−646(1989)を参照。標的エピトープが単離形態で結合するのに十分な親和力を有する抗体H鎖可変領域(VHシングルドメイン抗体)を同定するスクリーニング法を開示している)。公知の抗体H鎖およびL鎖可変領域配列に基づく組み換えFvフラグメントを作製するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Mooreらによる米国特許第4,462,334号に記載されている。抗体フラグメントの使用および生成について記載している他の参考文献としては、例えば、Fabフラグメント(Tijssen,Practice and Theory of Enzyme Immunoassays(Elsevier,Amsterdam,1985年))、Fvフラグメント(Hochmanら、Biochemistry 12:1130(1973);Sharonら、Biochemistry 15:1591(1976);Ehrlichら、米国特許第4,355,023号)、および抗体分子の一部(Audilore−Hargreaves、米国特許第4,470,925号)が挙げられる。したがって、当業者はブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGに対する抗体の特異性を破壊することなく、インタクトな抗体の様々な部分から抗体フラグメントを構成し得る。
【0158】
本発明の重要な局面において、機能的に活性な抗体フラグメントはまた、PNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)をオプソニン化および食菌する能力を保持する。この後者の局面の場合、抗体フラグメントは、Fc領域およびエピトープを結合するドメイン含む。このFc領域により、抗体フラグメントがFcレセプター陽性細胞と結合し、続いて抗体のFab領域が結合したエピトープを食菌することを可能とする。
【0159】
加えて、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3領域を包含するペプチドを含む小ペプチドは、本発明のペプチドを産生するための組み換え方法によって容易に合成または産生され得る。そのような方法は、当業者に周知である。ペプチドは、例えば市販の自動ペプチド合成機を使用して合成され得る。これらのペプチドは、組み換え技術により、このペプチドを発現するDNAを発現ベクターに組み込み、発現ベクターで細胞をペプチドに形質転換し、ペプチドを賛成させることによって産生され得る。
【0160】
ペプチド(抗体を含む)は、当該技術分野において公知の標準的な結合アッセイを使用して、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合するそれらの能力について試験され得る。適切なアッセイの例としては、PNAGおよび/dPNAG(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAG)を(例えば、マルチウェルプレートのウェル中の)表面に固定し、次いで、標識ペプチドと接触させ得る。次いで、PNAGおよび/またはdPNAGと結合する(それにより、表面上に固定される)ペプチドの量は、特定のペプチドがPNAGおよび/またはdPNAGと結合するかどうかを決定するために定量され得る。あるいは、表面に結合しないペプチドの量もまた測定され得る。このアッセイを変形して、ペプチドは、インビトロにおいて成長したPNAG発現コロニーと直接的に結合する能力について試験され得る。
【0161】
ペプチド結合はまた、競合アッセイを使用して試験され得る。試験されるペプチド(抗体を含む)が、モノクローナル抗体またはフラグメントの結合性の減少によって示されるように、本明細書において記載されるモノクローナル抗体または抗体フラグメントと競合するのであれば、このペプチドおよびモノクローナル抗体は、同じかまたは少なくとも一部重複するエピトープと結合する可能性がある。このアッセイシステムにおいて、抗体または抗体フラグメントは標識が付けられ、PNAGおよび/またはdPNAGは、固体表面に固定される。これらのアッセイおよび他のアッセイは、本明細書においてより詳細に記載される。このようにして、競合抗体を含む競合ペプチドが同定され得る。本発明は、ペプチド、および特にPNAG/dPNAGとの結合について抗体F598、抗体F628または抗体F630と競合する抗体(すなわち、F598、F628またはF630と同じエピトープを認識してそれらと結合する抗体)(ならびにそれらのフラグメント)を含む。
【0162】
標準的結合アッセイは、当該技術分野において周知であり、多数の標準的結合アッセイ(ELISA、競合結合アッセイ(上記)、サンドイッチアッセイ、放射性標識ペプチドまたは放射性同位元素標識抗体を使用した放射性受容体アッセイ、免疫アッセイなどを含む)が、本発明に適している。アッセイの性質は、そのアッセイが少数のペプチドの結合を検出するのに十分敏感であるということを本質的に提供しない。
【0163】
種々の他の試薬もまた、結合混合物中に含まれ得る。これらの試薬には、塩類、緩衝剤、中和タンパク質(例えば、アルブミン)、洗浄剤などといった試薬が含まれ、最適な結合を促進するために使用され得る。そのような試薬はまた、反応成分の非特異的相互作用すなわちバックグラウンド相互作用を低減し得る。アッセイの効率を改善する他の試薬もまた、使用され得る。前述したアッセイ物質の混合物は、モノクローナル抗体が通常特異的にPNAGおよび/dPNAG(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAG)と結合する条件下でインキュベントされる。そのような条件は、好ましくは、生理的条件を模倣する。成分の添加順序、インキュベーション温度、インキュベーション時間、およびアッセイの他のパラメータは、容易に決定され得る。そのような実験は、アッセイの基本的な構成の最適化ではなく、単にアッセイのパラメータの最適化を必要とする。インキュベーション温度は、代表的には4℃と40℃との間である。インキュベーション時間は、好ましくは迅速な高スループットのスクリーニングを促進するために最短化され、代表的には0.1時間と10時間との間である。インキュベーション後、ペプチドとPNAGおよび/またはdPNAGとの間の特異的結合の有無が、使用者が使用可能な簡便な任意の方法によって検出される。
【0164】
代表的に、複数のアッセイ混合物を、異なるペプチドまたは異なるペプチド濃度で同時に実行し、様々な濃度に対する異なる応答を得る。これらの濃度の1つを、負の対照(すなわち、PNAGおよび/もしくはdPNAGのゼロ濃度において、またはアッセイ検出限界未満のPNAGおよび/もしくはdPNAG濃度において)に供する。
【0165】
分離工程は、しばしば結合していないペプチドまたは抗体から、結合しているペプチドまたは抗体を分離するために使用される。この分離工程は、種々の方法で成し遂げられ得る。好都合には、成分の少なくとも1つ(例えば、ペプチドまたは抗体)が、PNAGおよび/またはdPNAGとの結合によって固体基質に固定される。結合していない成分は、結合分画から容易に分離され得る。この固体基質は、多種多様な物質から作製され得、そして多種多様な形状であり得る(例えば、ポリアクリルアミド、アガロースまたはセファローズのカラムまたはゲル、マイクロタイタープレート、マイクロビーズ、樹脂粒子など)。この分離工程は、好ましくは複数回のリンスまたは洗浄を包含する。例えば、固形基質がマイクロタイタープレートである場合、ウェルは洗浄溶液で数回洗浄され得、この洗浄溶液は、代表的に特異的結合に関与しないインキュベーション混合物の成分(例えば、塩、緩衝剤、洗剤、非特異的タンパク質など)を含む。固形基質が磁気ビーズである場合は、これらのビーズは洗浄溶液で1回以上洗浄され、マグネットを使用して単離され得る。
【0166】
本明細書においてより詳細に記載されるように、ペプチドはそれだけで使用されるか、または他の分子(例えば、本発明の検出方法および処置方法における検出因子または細胞毒性因子)と結合した状態で使用され得る。
【0167】
代表的に、成分の1つは、通常、検出可能な標識を含むか、または検出可能な標識と結合もしくは結合体化している。検出可能な標識は、その存在が直接的または間接的に確認され得る部分である。一般的に、標識の検出は、標識によるエネルギーの放出を必要とする。この標識は、光量子または特定の波長の他の原子の粒子を放出かつ/または吸収するその標識の能力(例えば、放射能、ルミネセンス、光学濃度、または電子密度など)によって直接的に検出され得る。標識は、別の部分(例えば、FLAGエピトープなどのエピトープタグ、ホースラディシュペルオキシダーゼなどの酵素タグなど)と結合し、それを補充し、ときに切断する能力によって間接的に検出され得、この別の部分自体が、特定の波長の光を放出または吸収し得る。間接的な検出の例には、基質を切断して可視生成物にする第一酵素標識の使用がある。この標識は、化学的、ペプチド的、または核酸分子的性質であり得るが、これらに限定されない。他の検出可能な標識としては、放射性アイソトープ(例えば、P32またはH3)、発光マーカー(例えば、蛍光色素、光学濃度マーカー、もしくは電子密度マーカーなど)、またはエピトープタグ(例えば、FLAGエピトープまたはHAエピトープ)、ビオチン、アビジン、および酵素タグ(例えば、ホースラディシュペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなど)が挙げられる。この標識は、ペプチドの合成中または合成後にペプチドと結合され得る。当業者に公知の多数の異なる標識、および標識化方法がある。本発明において使用し得る標識の種類の例としては、酵素、放射性アイソトープ、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物、および生物発光化合物が挙げられる。当業者は、本明細書に記載されるペプチドに適した他の標識について既知であるか、または慣例的な実験法を使用してそのことを確認し得る。さらに、本発明のペプチドとこれらの標識とのカップリングまたは結合体化は、当業者には一般的である標準的な技術を使用して実施され得る。
【0168】
より高い感度をもたらし得る別の標識化技術は、ペプチドを低分子量のハプテンにカップリングさせることからなる。次いで、これらのハプテンは、第二反応によって特異的に改変し得る。例えば、ハプテン(例えば、アビジンと反応するビオチン、または特定の抗ハプテン抗体と反応し得るジニトロフェノール、ピリドキサルもしくはフルオレセイン)を使用することが一般的である。
【0169】
抗体またはそれらのフラグメントを含むペプチドと検出可能な標識との結合体化は、とりわけ、診断アッセイにおけるそういった因子の使用を容易する。検出可能な標識の別の区分としては、診断用標識および画像化用標識(これらは一般的に、インビボで検出可能な標識と呼ばれる)、例えば、磁気共鳴画像法(MRI):Gd(DOTA);核医学用:201Tl、γ放出放射性核種99mTc;陽子射出断層撮影法(PET)用:陽子射出アイソトープ、(18)F−フッ化デオキシグルコース((18)FDG)、(18)F−フッ化物、銅−64、ガドジアミド、およびPb(II)の放射性同位体(例えば、203Pb);111Inが挙げられる。
【0170】
本明細書において記載される結合体化または改変は、慣用的な化学作用を使用し、この化学作用は本発明の一部をなさず、化学分野の当業者に周知である。保護基および公知のリンカー(例えば、モノニ官能性リンカーおよびヘテロニ官能性リンカー)の使用が、文献において詳しく示されており、ここでは繰り返さない。
【0171】
本明細書中で使用される場合、「結合体化された」は、任意の生理化学的方法により、互いが安定的に結合している2つの実体を意味する。この結合の性質が、それぞれの実体の効果を実質的に損なわないようなものであるということが重要である。これらのパラメータを留意すると、当業者に公知の任意の共有結合または非共有結合の結合が使用され得る。いくつかの実施形態において、共有結合による結合が好ましい。非共有結合による結合体化としては、疎水性相互作用、イオン性相互作用、高親和性相互作用(例えば、ビオチン−アビジン、およびビオチン−ストレプトアビジン錯化)、ならびに他の親和性相互作用が挙げられる。結合のそのような手段および方法は、当業者に周知である。
【0172】
標識を検出するために、その標識および他のアッセイ成分の性質によって、種々の方法が使用され得る。例えばこの標識は、固体基質に結合している間、または個体基質からの分離後に検出され得る。標識は、光学濃度、電子密度、放射線放射、非放射性エネルギー輸送などを通して直接的に、または抗体結合体化、ストレプトアビジン−ビオチン結合体化などを用いて間接的に検出され得る。標識を検出するための方法は、当技術分野において周知である。
【0173】
本明細書において記載されるモノクローナル抗体はまた、本発明のモノクローナル抗体と同じ結合特異性を有する他の抗体を、スクリーニングして同定するために使用し得る抗イディオタイプ抗体を産生するために使用され得る。抗イディオタイプ抗体は、本発明のモノクローナル抗体に存在する特有の決定基を認識する抗体である。これらの決定基は、抗体の超可変領域にある。所与のエピトープと結合して、それにより抗体の特異性に関与するのはこの領域である。そのような抗イディオタイプ抗体は、周知のハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein,Nature,256:495,1975年)を使用して産生され得る。一例として、抗イディオタイプ抗体は、被験体にモノクローナル抗体を用いて免疫性を与えることにより調製され得る。免疫性を与えられた被験体は、その免疫性を与えているモノクローナル抗体のイディオタイプ決定基を認識してこれらに応答し、これらのイディオタイプ決定基に対する抗体を産生する。本発明のモノクローナル抗体に対して特異的である、免疫性が与えられた動物の抗イディオタイプ抗体を使用することによって、免疫化に使用されたモノクローナル抗体と同じイディオタイプを有する他のクローンを同定することが可能である。2つの細胞株のモノクローナル抗体間におけるイディオタイプの同一性は、2つのモノクローナル抗体が、同じエピトープ決定基の認識に関して同じであるということを示している。したがって、抗イディオタイプ抗体を使用することにより、同じエピトープ特異性を有するモノクローナル抗体を発現している他のハイブリドーマを同定することが可能である。本発明は、前記の抗体種のすべてを包含することを意図する。
【0174】
抗イディオタイプ抗体はまた、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生する抗イディオタイプ技術を使用することが可能であるので、能動免疫法に使用され得る(Herlynら、Science,232:100,1986年)。例えば、第一のモノクローナル抗体に対して作製された抗イディオタイプモノクローナル抗体は、その第一のモノクローナル抗体と結合したエピトープのイメージである超可変領域における結合ドメインを有する。したがって、抗イディオタイプモノクローナル抗体が結合しているドメインが抗原として効果的に作用するので、抗イディオタイプモノクローナル抗体は免疫化のために使用され得る。
【0175】
本発明はさらに、PNAG/dPNAGに対して特異的な第一の抗原結合ドメイン、および別の部分に対して特異的な第二の抗原結合ドメインを含んでいる二重特異性抗体を企図する。PNAG/dPNAGに対して特異的なこの第一の抗原結合ドメインは、任意のPNAG/dPNAG結合ペプチド(本明細書において記載される、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマから産生されるもしくはこれらに由来するCDR、可変領域、Fabフラグメントを含む)をも含み得る。第二の抗原結合ドメインは、細菌細胞または宿主細胞といった細胞上の部分に対して特異的であり得る。宿主細胞は、免疫系細胞、または感染した組織からの細胞であり得る。免疫系細胞によって発現される細胞表面分子、または種々の宿主組織細胞からの細胞表面分子に対する抗体は、SigmaまたはBD Biosciences Pharmingenといった供給源により一般に市販されている。当業者は、本明細書における教示および当技術分野における知識に基づいて、このような二重特異性抗体を生成し得る。同様に、本発明はまた、三重特異性抗体を企図する(例えば、二重特異性抗体の生成および三重特異性抗体の生成について、米国特許第5,945,311号、および米国特許第6,551,592号を参照)。
【0176】
本発明のモノクローナル抗体の、特異性に関与する配列が決定された。したがって、本発明に記載のペプチドは、組み換えDNA技術を使用して調整され得る。米国には、この職務を商業的に実施する存在、例えばThomas Jefferson University、およびthe Scripps Protein and Nucleic Acids Core Sequencing Facility(La Jolla,California)がある。例えば、可変領域cDNAは、寄託されたハイブリドーマRNAから、(アミノ酸配列に由来する)縮重プライマーまたは非縮重プライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応により調製され得る。このcDNAは、サブクローンされ、従来の配列決定反応または装置によって配列決定するのに十分な量の二本鎖DNAを産生し得る。
【0177】
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体のH鎖およびL鎖可変ドメインの核酸配列の知識を用いて、当業者は、この抗体をコードするか、または上記の種々の抗体フラグメント、ヒト化抗体、もしくはポリペプチドをコードする核酸を産生し得る。このような核酸は、本発明のペプチドのクローン化または発現のために組み換えベクターを形成している他の核酸と作動可能なように結合されることが企図される。本発明は、原核生物であろうと真核生物であろうと、その形質転換、形質導入、遺伝子治療についてのコード配列またはコード配列の一部を含んでいる任意の組み換えベクターも含む。そのようなベクターは、当業者に公知である通常の分子生物学的技術を使用して調製され得、CDR領域(および好ましくはCDR3領域)についての配列、および抗体またはその一部の特異性に寄与しているさらなる可変配列、さらに他の非特異的ペプチド配列についてのDNAコード配列、ならびに搬出または分泌についてのシグナル配列を有する適切なプロモーター(Whittleら、Protein Eng.1:499、1987年、およびBurtonら、Science 266:1024−1027、1994年)、または搬出もしくは分泌についてのシグナル配列を有さない適切なプロモーター(Marascoら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)90:7889、1993年、およびDuanら、Proc.Natl.Acad.Sci(USA)91:5075−5079、1994年)を含む。そのようなベクターは、当業者に公知の従来技術によって、原核細胞(Huseら、Science 246:1275、1989年、Wardら、Nature 341:644−646、1989年;Marksら、J.Mol.Biol.222:581、1991年、およびBarbasら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)88:7978、1991年)もしくは真核細胞(Whittleら、1987年、およびBurtonら、1994年)中に形質転換もしくは形質導入されるか、または遺伝子治療(Marascoら、1993年、およびDuanら、1994年)のために使用され得る。
【0178】
本明細書中で使用される場合「ベクター」は、異なる遺伝環境間の輸送または宿主細胞における発現に対する拘束およびライゲーションによって、所望の配列が挿入され得る多数の核酸のうちのいずれかであり得る。ベクターは、代表的にDNAからなるが、RNAベクターもまた利用可能である。ベクターとしては、これらに限定されないが、プラスミドおよびファージミドを含む。クローニングベクターは、宿主細胞において複製し得、1つ以上のエンドヌクレアーゼ制限部位によってさらに特徴づけられるベクターである。このベクターは、このエンドヌクレアーゼ制限部位において制御可能に切断され得、新たな組み換えベクターが宿主細胞中で複製する能力を保持するように、所望のDNA配列がこのエンドヌクレアーゼ制限部位にライゲーションされ得る。プラスミドの場合、所望の配列の複製は、プラスミドが宿主細菌内においてコピー数を増加させる場合は何度も起こり得、あるいは、宿主が有糸分裂によって繁殖する前に1つの宿主につき一度だけ起こり得る。ファージの場合、複製は、溶菌化段階においては活発に起こるか、または溶原化段階において非活発に起こり得る。発現ベクターは、所望のDNA配列が、調節塩基配列と作動可能に結合されるように拘束およびライゲーションによって挿入され、RNA転写物として発現され得るベクターである。ベクターはさらに、そのベクターで形質変換もしくは形質導入された細胞か、または形質変換もしくは形質導入されていない細胞の同定における使用に適切なマーカー配列を1つ以上含み得る。マーカーとしては、例えば、抗生物質または他の化合物に対する耐性または感受性を増加または減少させるタンパク質をコードしている遺伝子、当該技術分野において公知の標準的なアッセイよってその活性が検出可能な酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)をコードする遺伝子、および形質転換または形質導入された細胞、宿主、コロニーまたはプラークの表現型に明らかに影響する遺伝子が挙げられる。好ましいベクターは自律複製し得、かつベクターが作動可能に結合するDNAセグメントに存在する構造遺伝子産物を発現し得るベクターである。
【0179】
本発明の発現ベクターは、本発明のペプチドのうちの1つをコードするヌクレオチド配列と作動可能に結合した調節塩基性配列を含む。本明細書中で使用される場合、用語「調節塩基性配列」は、所望のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の転写に必要もしくは有益であり、かつ結果として生じる所望のポリペプチドへの転写物の翻訳に必要もしくは有益であるヌクレオチド配列、またはそのどちらかに必要もしくは有益なヌクレオチド配列を意味する。調節塩基性配列としては、これらに限定されないが、5’配列(例えば、オペレーター、プロモーター、およびリボソーム結合配列)、および3’配列(例えば、ポリアデニル化シグナル)が挙げられる。本発明のベクターは、必要に応じて、5’リーダー配列またはシグナル配列、タンパク質精製を助ける融合生成物をコードする5’配列または3’配列、および形質転換体の同定または選択を助ける種々のマーカーを含み得る。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および裁量の範囲内である。続くペプチドの精製は、当該技術分野において公知である種々の標準的な方法のうちのいずれかによって達成され得る。
【0180】
ペプチドのスクリーニングに好ましいベクターは、必ずしも本発明のペプチドの量産に好ましいわけではないが、ヌクレオチド配列を含んでいる組み換えDNA分子であり、このヌクレオチド配列は、融合ポリペプチドをコードし、融合ポリペプチドを発現し得、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に、(1)原核生物の分泌シグナルドメイン、(2)本発明のポリペプチド、および必要に応じて(3)融合タンパク質ドメインを含む。このベクターは、融合ポリペプチドを発現するためのDNA調節塩基性配列、好ましくは原核生物の調節塩基性配列を含む。そのようなベクターは、当業者によって構築され得、Smithら(Science 228:1315−1317、1985年)、Clacksonら(Nature 352:624−628、1991年);Kangら(「Methods:A Companion to Methods in Enzymology:第2巻」R.A.Lerner、およびD.R.Burton編、Academic Press,NY、pp111−118、1991年);Barbasら(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)88:7978−7982、1991年)、Robertsら(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)89:2429−2433、1992年)によって記載されている。
【0181】
融合ポリペプチドは、本発明のペプチドの精製に有用であり得る。例えば、融合ドメインは、市販のベクターであるpMAL(New England BioLabs,Beverly,MA)のNi+カラムまたはマルトース結合タンパク質を利用した精製を可能にするポリ−Hisテールを含む。決して必須ではないが、現在のところ好ましい融合ドメインは繊維状ファージ膜アンカーである。このドメインは、特にモノクローナル抗体のファージ提示ライブラリーのスクリーニングに有用であるが、抗体の量産に対しては有用性がそれより小さいこともあり得る。この繊維状ファージ膜アンカーは、好ましくは、繊維状ファージ粒子のマトリックスと会合し、それによって融合ポリペプチドをこのファージの表面に組み込んで、固相が特定の抗原またはエピトープと結合することを可能とし、それにより、ファージミドベクターによってコードされた特定の抗体またはフラグメントの濃縮および選定を可能とし得るcpIIIまたはcpVIIIコートタンパク質のドメインである。
【0182】
分泌シグナルは、宿主細胞のタンパク質膜(例えば、グラム陰性細菌のペリプラズム膜)を標的とするタンパク質のリーダーペプチドドメインである。E.coliに対する好ましい分泌シグナルは、pelB分泌シグナルである。pelB遺伝子が産生するErwinia carotovaからの2つの改変体に由来する分泌シグナルドメインの予測されるアミノ酸残基配列は、Leiらによる文献(Nature 381:543−546、1988年)に記載されている。pelBタンパク質のリーダー配列は、以前は融合タンパク質に対する分泌シグナルとして使用されていた(Betterら、Science 240:1041−1043、1988年;Sastryら、Proc.Natl.Acad.Sci(USA)86:5728−5732、1989年;およびMullinaxら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87:8095−8099、1990年)。本発明において有用なE.coliに由来する他の分泌シグナルポリペプチドドメインについてのアミノ酸残基配列は、Oliverによる文献(Neidhard,F.C.(編)Escherichia coli and Salmonella Typhimurium,American Society for Microbiology,Washington,D.C.,1:56−69,(1987))に見出され得る。
【0183】
E.coliにおいて高レベルな遺伝子発現を達成するためには、大量のmRNAを生じさせるための強力なプロモーターだけでなく、確実にmRNAが効率良く翻訳されるためのリボソーム結合部位も使用する必要がある。E.coliにおいて、リボソーム結合部位は、開始コドン(AUG)および開始コドンから3〜11ヌクレオチド上流側に位置する3〜9ヌクレオチドの長さの配列を含む(Shineら、Nature 254:34、1975年)。配列AGGAGGUはShine−Dalgarno(SD)配列と呼ばれ、E.coli 16S rRNAの3’末端を補完する。リボソームのmRNAおよびmRNAの3’末端における配列への結合は、いくつかの要因によって影響され得る:(i)SD配列と16S rRNAの3’末端との間の補完性の程度;(ii)SD配列とAUGとの間にあるスペーシングおよび場合によりDNA配列(Robertsら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:760.、1979a年:Robertsら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:5596、1979b年;Guarenteら、Sience 209:1428、1980年;およびGuarenteら、Cell 20:543、1980年)。最適化は、このスペーシングが体系的に改変されるプラスミド中の遺伝子の発現レベルを測定することによって達成される。異なるmRNAの比較は、位置−20から+13(ここで、AUGのAは位置0である)に統計的に好ましい配列があることが示している(Goldら、Annu.Rev.Microbiol.35:365、1981年)。リーダー配列は、目覚しく翻訳に影響を及ぼすことが示されている(Robertsら、1979a年および1979b年(前出));ならびに(iii)AUGに続き、リボソーム結合に影響するヌクレオチド配列(Taniguchiら、J.Mol.Biol.、118:533、1978年)。
【0184】
3’調節塩基性配列は、異種の融合ポリペプチドに作動可能に連結され、フレームにおいて少なくとも1つの終止(停止)コドンを規定する。
【0185】
原核生物の発現宿主を用いた好ましい実施形態は、使用されるベクターが、原核生物の複製起点またはレプリコン、すなわち、組み換えDNA分子で形質転換された原核生物宿主細胞(例えば、細菌宿主細胞)において、その組み換えDNA分子の自律複製および維持を染色体外に指示する能力を有するDNA配列を含む。そのような複製起点は、当該技術分野において周知である。好ましい複製起点は、宿主生物において有効な複製起点である。好ましい宿主細胞はE.coliである。E.coliにおけるベクターの使用にとって、好ましい複製起点は、pBR322および種々の他の一般的なプラスミドにおいて見受けられるColE1である。また、pACYCおよびその誘導体で見出されるp15A複製起点が好ましい。ColE1およびp15Aレプリコンは、分子生物学において広範に使用されており、種々のプラスミドにおいて利用可能であり、Sambrookらによる文献(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)に記載されている。
【0186】
加えて、原核生物レプリコンを含むような実施形態は、好ましくは、その発現が選択的有利性(例えば、薬剤耐性)をそれで形質転換された細菌宿主に与える遺伝子も含む。典型的な細菌性薬物耐性遺伝子は、アンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン/カナマイシン、またはクロラムフェニコールに対する耐性を与える遺伝子である。ベクターはまた、代表的に翻訳可能なDNA配列の挿入に好都合な制限部位を含んでいる。例示的なベクターは、プラスミドpUC18およびpUC19、ならびに誘導ベクター(例えば、Invitrogen(San Diego,CA)から入手可能なpcDNAII)である。
【0187】
本発明のペプチドがH鎖およびL鎖の両配列を含んでいる抗体である場合、これらの配列は、別個のベクターでコードされるか、またはより好都合には、単一のベクターによって発現され得る。H鎖およびL鎖は、翻訳後または分泌後に、天然の抗体分子のヘテロダイマー構造を形成し得る。このようなヘテロダイマー抗体は、H鎖とL鎖との間のジスルフィド結合によって安定化され得るかまたはされ得ない。
【0188】
ヘテロダイマー抗体の発現についてのベクター(例えば、本発明のインタクトな抗体、または本発明のF(ab’)2、FabもしくはFvフラグメント抗体)は、翻訳可能な第一および第二のDNA配列の受け取りおよび発現に適合している組み換えDNA分子である。つまり、ヘテロダイマー抗体を発現するためのDNA発現ベクターは、2つの翻訳可能DNA配列を、ベクターに存在する2つの別個のカセットへ独立的にクローンニング(挿入)するためのシステムを提供し、ヘテロダイマー抗体の第一および第二のポリペプチドを発現するための2つの別個のシストロンを形成する。2つのシストロンを発現するためのDNA発現ベクターは、ジシストロン(dicistronic)発現ベクターと呼ばれる。
【0189】
好ましくは、このベクターは、上流および下流DNA調節塩基性配列を含む第一のカセットを含み、指向性ライゲーションに適合するヌクレオチド配列を通じて挿入DNAと作動可動に連結される。この上流翻訳可能配列は、好ましくは、上記のように分泌シグナルをコードする。このカセットは、第一の抗体ポリペプチドを発現するためのDNA調節塩基性配列を含み、この第一の抗体ポリペプチドは、挿入翻訳可能DNA配列(挿入DNA)が、指向性ライゲージョンに適合するヌクレオチド配列により、カセットに指向性をもって挿入される場合に産生される。
【0190】
ジシストロン発現ベクターはまた、第二の抗体ポリペプチドを発現するための第二のカセットを含む。第二のカセットは、好ましくは上記のように分泌シグナルをコードする第二の翻訳可能DNA配列を含み、その3’末端において、指向性ライゲーションに適合するヌクレオチド配列を通し、カセットのリーディングフレーム中の少なくとも1つの終止コドンを代表的に規定するベクターの下流DNA配列と作動可能に連結している。第二の翻訳可能DNA配列は、その5’末端において、DNA調節塩基性配列と作動可能に連結し、5’エレメントを形成している。第二のカセットは、翻訳可能DNA配列(挿入DNA)の挿入の際に、ポリペプチドが挿入DNAによってコードされる、分泌シグナルを含む第二の融合ポリペプチドを発現し得る。
【0191】
本発明のペプチドはまた、真核生物細胞(例えば、CHO細胞、ヒトハイブリドーマ、不死化B−リンパ芽球様細胞など)によって産生され得る。この場合、真核生物の調節塩基性配列が、ペプチドをコードしているヌクレオチド配列と作動可能に連結しているベクターが構築される。適切な真核生物のベクターの設計および選択は、当業者の能力および裁量の範囲内である。続くペプチドの精製は、当該技術分野において公知である種々の標準的な方法のうちのいずれかによって達成され得る。
【0192】
別の実施形態において、本発明は、本発明のベクターで形質転換またはトランスフェクトされた、したがってそのベクターを含む原核生物および真核生物の両方の宿主細胞を提供する。
【0193】
核酸に関して本発明で使用されるとき、用語「単離された」は(i)インビトロにおいて、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅されたこと;(ii)クローニングによる組み換え的に産生されること;(iii)(例えば)切断およびゲル分離により精製されること;または(iv)例えば、化学合成によって合成されることを意味する。単離核酸は、当該技術分野において周知の組み換えDNA技術により容易に操作可能な核酸である。したがって、その中の5’および3’制限部位が知られているか、またはそれについてのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー配列が開示されているベクターに含まれているヌクレオチド配列は、単離していると考えられるが、天然の宿主において天然のままで存在する核酸配列は単離しているとは考えられない。単離核酸は、実質的に純粋である得るが、純粋である必要はない。例えば、クローニングベクターまたは発現ベクター内で単離されている核酸は、その核酸が存在する細胞内の物質の僅かな部分のみを含み得るという点で純粋ではない。しかしながら、核酸は当業者に公知の標準的な技術によって容易に操作可能であるため、単離核酸という用語が本明細書中で使用される場合、その核酸は単離されている。
【0194】
本明細書中で使用される場合、コード配列と調節塩基性配列とが「作動可能に連結された」は、調節塩基性配列の影響および制御のもと、コード配列の発現または転写をもたらすためにそれらが共有結合している場合に言われる。コード配列が機能タンパク質へと翻訳されることが望まれる場合、2つのDNA配列は作動可能に連結されていると言うが、ただしそれは、それらの5’調節塩基性配列中のプロモーターの導入がコード配列の転写を引き起こし、2つのDNA配列間における結合の性質が、(1)フレームシフト突然変異の導入を引き起こさない、(2)コード配列の転写を命令するプロモーター領域の能力を妨げない、または(3)対応するRNA転写物の能力を妨げずにタンパク質へと翻訳する場合である。したがって、結果として生じる転写物が所望のタンパク質またはポリペプチドへと翻訳され得るように、プロモーター領域がそのDNA配列の転写を実施し得る場合、プロモーター領域は作動可能にコード配列と連結されている。
【0195】
遺伝子発現に必要とされる調節塩基性配列の正確な特徴は、種間または細胞型間で異なり得るが、一般には、それぞれ転写および翻訳の開始に関連する5’非転写配列および5’非翻訳配列(例えば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列など)を必要に応じて必ず含む。特に、そういった5’非転写調節塩基性配列は、作動可能に連結した遺伝子の転写制御についてのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。調節塩基性配列はまた、所望のとおり、エンハンサー配列または上流活性化配列を含み得る。
【0196】
本発明はまた、本明細書において記載されるペプチドの、インビボおよびインビトロ方法での使用を包含することを意図する。本発明の方法は、PNAG発現細菌による感染(例えば、ブドウ球菌感染)の診断および処置に有用である。「ブドウ球菌」は、本明細書中で使用される場合、PNAG抗原を発現する全てのブドウ球菌細菌種について言及する。ブドウ球菌として分類される細菌は、当該技術分野において周知であり、微生物学文献に記載されている。PNAG発現ブドウ球菌としては、これらに限定されないが、Staphylococcus epidermidis(RP62A(ATCC番号35984)、RP12(ATCC番号35983)およびM187を含む)、Staphylococcus aureus(RN4220(pCN27)およびMN8ムコイドを含む)、およびica遺伝子座の遺伝子で形質転換されたStaphylococcus carnosusなどの菌株(TM300(pCN27)を含む)が挙げられる。PNAGを発現する他の細菌株は生来、pga遺伝子座を有するか、またはpga遺伝子座で形質転換される。例としては、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis),Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis、Pseudomonas fluorescens(これらはすべて、完全なpgaABCD遺伝子座を有する配列決定された種である)、ならびにActinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(例えば、メガプラスミド型)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaが挙げられる。PNAGを発現する他の細菌株は、当業者によって容易に同定され得る。例えば、icaまたはpga遺伝子座を有する細菌は、PNAGを産生し得る。icaおよびpga遺伝子座の核酸配列は公知であるので、当業者はicaまたはpga遺伝子座に関連するmRNAまたはタンパク質の発現を容易にスクリーニングし得る(S.epidermidisについてはHeilmann,C.,O.Schweitzer,C.Gerke,N.Vanittanakom,D.MackおよびF.Gotz(1996)Molecular basis of intercellular adhesion in the biofilm−forming Staphylococcus epidermidis.Molec.Microbiol.20:1083、およびS.aureusについてはCramton SE,Gerke C,Schnell NF,Nichols WW,Gotz F.、The intercellular adhesion(ica)locus is present in Staphylococcus aureus and is required for biofilm formation.Infect Immun.1999年10月;67(10):5427−33;Blattner,F.R.,G.Plunkett III,C.A.Bloch,N.T.Perna,V.Burland,M.Riley,J.Collado−Vides,J.D.Glasner,C.K.Rode,G.F.Mayhew,J.Gregor,N.W.Davis,H.A.Kirkpatrick,M.A.Goeden,D.J.Rose,B.MauおよびY.Shao.1997年.The complete genome sequence of Escherichia coli K−12.Science 277:1453−1474に記載されており、Blattnerらに報告される遺伝子はycdSRQPと呼ばれ、Wangら、J.Bacteriology、2004年5月、p.2724−2734、第186巻、第9号においてpgaABCDと改名されている)。加えて、細菌株の莢膜は単離され、液体クロマトグラフィおよび質量分析を用いて分析され得る。
【0197】
本発明によって提供される検出または診断方法は、概して、本発明の1つ以上のペプチドを被験体中のサンプルまたは被験体からのサンプルと接触させる工程を含む。インビボ検出方法もまた構想されるが、第一にこのサンプルが被験体から採取されることが好ましい。このサンプルは、細菌のすみかとなっている可能性のあるどのような生体組織または体液も含み得る。例えば、ブドウ球菌感染は、本質的に人体のすべての組織、臓器および流体において起こり得るが、皮膚、骨、間接、肺、および血液に感染しているブドウ球菌感染が、最も一般的に見受けられる。E.coli感染は、例えば、尿生殖器道ならびに他の組織および位置において起こり得る。Y.pestis感染は、皮膚における腺ペストおよび肺における肺ペストの原因となる。B.pertussis感染は、気道において百日咳(whopping cough)の原因となる。本質的に体液、組織、または臓器(例えば、皮膚、骨、間接、肺、粘膜(例えば、痰)および血液)を、細菌の存在について試験され得る。
【0198】
本明細書中で使用される場合、用語「処置」は、医学的に望ましい利益を達成する目的でなされる被験体に対するペプチドの投与について言及する。したがって、「処置」には、「予防的」処置方法および「治療的」処置方法の両方を包含されることを意図する。予防的処置方法は、感染(例えば、ブドウ球菌感染)の診断に先立ち、被験体に投与される処置について言及する。つまり、この被験体は感染の恐れはあり得るが、感染(例えば、ブドウ球菌感染)の症状を呈していない。治療的処置方法は、感染(例えば、ブドウ球菌感染)の診断後に被験体に投与される処置について言及する。つまり、この被験体は、(例えば、ブドウ球菌に)感染していると診断されたか、あるいは、そのような感染に関連する症状を示し得る。
【0199】
本発明の抗PNAG/dPNAG抗体は、感染因子に対する曝露の危険性がある被験体において受動免疫を誘発し、全身性の感染および疾患の顕出を予防または制限するのに有用である。PNAG発現細菌(例えば、S.aureusといったブドウ球菌)による感染に対する受動免疫性を誘導するための方法は、被験体に有効量の抗PNAG/dPNAG抗体(例えば、S.aureusといったブドウ球菌のオプソニン作用を引き起こす抗PNAG/dPNAG抗体)を投与することによって実施される。「受動免疫性」は、本明細書中で使用される場合、被験体に対する抗体の投与を含み、これらの抗体が細菌の表面に付着し、細菌が食菌される原因となるように、(同じ種および異なる種の被験体を含む)異なる被験体において抗体が産生される。
【0200】
抗PNAG/dPNAG抗体は、PNAGを発現する細菌による感染(例えば、PNAG発現ブドウ球菌感染)を顕出する危険性のある任意の被験体に投与されて受動免疫性を誘導し得、いくつかの実施形態において、PNAGおよび/またはdPNAGに対する能動免疫を誘導し得ない被験体に特に適し得る。免疫応答を誘導し得ない被験体は、免疫無防備状態の被験体(例えば、化学療法を受けている患者、AIDS患者など)、または免疫系がまだ発達していない被験体(例えば、早産新生児)である。
【0201】
「被験体」は、本明細書中で使用される場合、温血哺乳動物であり、これらに限定されないが、ヒト、霊長類、畜産動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジおよびニワトリ)、およびペット(例えば、イヌおよびネコ)を含む。いくつかの実施形態において、この被験体は非齧歯類の被験体である。非齧歯類の被験体は、上記に定義される任意の被験体であるが、特にマウス、ラット、およびウサギといった齧歯類を除外する。いくつかの実施形態において、好ましい被験体はヒトである。ときに、この被験体は、股関節置換または膝置換といった人工器官を有するか、またはそういった人工器官を受ける予定である人となる。なぜなら、そのようなデバイスは、特に細菌による転移増殖の傾向があるためである。本明細書において記されるように、本発明のいくつかの局面は、植物における感染の検出および処置も提供する。
【0202】
本発明の抗PNAG/dPNAG抗体は、PNAG発現細菌(例えば、S.aureusなどのブドウ球菌)に対する免疫を誘導するための有効量で被験体に投与される。「PNAG発現細菌に対する免疫を誘導するための有効量」は、(i)そういった細菌による感染がその細菌に曝露される被験体において起こることを妨げる;(ii)感染の顕出を阻害する(すなわち、感染の顕出を阻止するかまたは遅らせる);および/または(iii)感染の影響を軽減する(すなわち、感染した被験体において、細菌負荷を軽減するかまたは細菌を完全に根絶する)のに十分な抗PNAG/dPNAG抗体の量である。例として、「ブドウ球菌に対する免疫性を誘導するための有効量」は、本明細書中で使用される場合、(i)ブドウ球菌による感染がブドウ球菌に曝露される被験体において起こることを妨げる;(ii)感染の顕出を阻害する(すなわち、感染の顕出を阻止するかまたは遅らせる);および/または(iii)感染の影響を軽減する(すなわち、感染した被験体において、細菌負荷を軽減するかまたは細菌を完全に根絶する)のに十分な抗PNAG/dPNAG抗体の量である。
【0203】
当業者に公知の慣例的な方法を使用して、抗体のオプソニン作用の程度を予測するインビトロオプソニン作用アッセイにより、抗PNAG/dPNAG抗体の量が、「感染に対する免疫性を誘発するための有効量」であるかどうかを決定し得る。PNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌細菌)をオプソニン化する抗体は、そのような細菌の試料に加えられたときに細菌の食菌作用を引き起こす抗体である。オプソニン作用アッセイは、比色定量アッセイ、化学発光アッセイ、蛍光または放射標識取り込みアッセイ、細胞媒介殺菌アッセイ、または物質のオプソニンポテンシャルを測定する他のアッセイであり得る。
【0204】
投与の形態により、1ng/kg〜100mg/kgの範囲におよぶ抗体用量が効果的である。好ましい範囲は、500ngと500μg/kgとの間であり、最も好ましくは、1〜100μg/kgの間であると考えられる。絶対量は、その投与が細菌にまだ感染していないが感染の危険性が高い被験体に対して実施されるのか、それとも既に感染している被験体に対して実施されるのかということ、並行処置、用量数、および患者それぞれのパラメータ(年齢、身体的状態、背格好、体重を含む)を含む種々の要因に依存する。これらは、当業者に周知の要因であり、慣例的な実験法でも取り組まれ得る。一般的には、最大用量、つまり健全な医学的判断に従う最大安全用量を使用することが好ましい。
【0205】
本発明の抗体の複数用量もまた企図される。一般的に免疫化スキームは、高用量の抗体投与後数週間の待機期間に続く低用量の抗体投与を必要とする。さらなる用量の投与もあり得る。受動免疫化のための投与スケジュールは、より頻繁な投与を必要とし得る。特定のPNAG/dPNAG抗体の複数用量の供給に望ましい時間間隔は、当業者により慣例的な実験法を使用すれば決定され得る。
【0206】
種々の投与経路が実施可能である。選択される特定の形態は、当然ながら、選択される特定の抗PNAG/dPNAG抗体、処置される特定の状態、および治療効力に必要とされる投与量に依存する。本発明の方法は、一般的に言うと、医学的に受容可能な投与形態、つまり、臨床的に受容不可能な副作用の原因とならない効果的なレベルの保護を生じる形態を使用して実施され得る。好ましい投与形態は、非経口経路である。用語「非経口の」は、皮下注射または注入技術、静脈内注射または注入技術、筋肉内注射または注入技術、腹腔内注射または注入技術、および胸骨内注射または注入技術を含む。他の経路としては、これらに限定されないが、口、鼻、皮膚、舌下、および局所が挙げられる。
【0207】
本発明の抗PNAG/dPNAG抗体は、他の抗細菌薬物(例えば、抗生物質)または他の抗細菌抗体と結合体化して与えられ得る。細菌感染の処置における抗体の使用は慣例的である。一般的な投与ビヒクル(例えば、錠剤、インプラント、注射可能溶液など)は、本発明の抗体ならびに抗細菌薬および/または抗体の両方を含み得る。あるいは、抗細菌薬物および/または抗体は、別個に投薬され得る。抗細菌薬物または抗体はまた、抗PNAG/dPNAG抗体と結合体化され得る。
【0208】
抗細菌薬は周知であり、ペニシリンG、ペニシリンV、アンピシリン、アモキシリン、バカンピシリン、シクラシリン(cyclacillin)、エピシリン、ヘタシリン、ピバンピシリン(pivampicillin)、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、カルベニシリン、チカルシリン、アブロシリン(avlocillin)、メズロシリン、ピペラシリン、アムジノシリン(amdinocillin)、セファレキシン、セフラジン、セファドロキシル(cefadoxi)、セファクロール、セファゾリン、セフロキシムアキセチル(cefuroxime axetil)、セファマンドール、セフォニシド、セフォキシチン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメノキシン、セフトリアキソン、モキサラクタム、セフォテタン、セフォペラゾン、セフタジジム(ceftazidme)、イミペネム、クラブラナート(clavulanate)、チメンチン(timentin)、スルバクタム、ネオマイシン、エリスロマイシン、メトロニダゾール、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、バンコマイシン、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、アミノグリコシド、キノロン、テトラサイクリンおよびリファンピン(GoodmanおよびGilmanによるPharmacological Basics of Therapeutics、第8版、1993年、McGraw Hill Inc.を参照)。
【0209】
本発明の方法によると、ペプチドは、薬学的組成物として投与され得る。一般に、薬学的組成物は、本発明のペプチドおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む。ペプチド、モノクローナル抗体、および抗体フラグメントに対する薬学的に受容可能なキャリアが当業者に周知である。本明細書中で使用される場合、薬学的に受容可能なキャリアは、活性成分の生物活性効果(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合し、必要に応じてオプソニン作用および食菌作用を向上させるペプチドの能力)を妨げない非毒性物質を意味する。
【0210】
薬学的に受容可能なキャリアとしては、希釈剤、充填剤、塩類、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、および当該技術分野において周知の他の物質が挙げられる。ペプチドに対する例示的な薬学的に受容可能なキャリアは、特に米国特許番号5,211,657号に記載される。そのような調製物は慣例的に、塩類、緩衝因子、保存剤、適合性キャリア、および必要に応じて他の治療因子を含み得る。医薬中に使用される場合、塩類は薬学的に受容可能であるべきだが、薬学的に受容不可能な塩類は、それらの薬学的に受容可能な塩類を調製するために好都合に使用され得、本発明の範囲から除外されない。そのような薬理学的かつ薬学的に受容可能な塩類としては、これらに限定されないが、次の酸から調製された塩類を含む:塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。また、薬学的に受容可能な塩類は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩)として調製され得る。
【0211】
本発明のペプチドは、固形、半固形、液状、ガス状の形態(例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、デポジット(depositories)、吸入剤および注射剤)および経口投与、非経口投与または外科的投与についての通常の方法での調製物へ処方され得る。本発明はまた、(例えば、インプラントによって)局所的投与のために処方される薬学的組成物を包含する。
【0212】
経口投与に適した組成物は、個別の単位、例えば、カプセル剤、錠剤、トローチ剤として与えられ得、所定量の活性因子をそれぞれ含んでいる。他の組成物としては、水性液体または非水性液体中の懸濁剤、例えば、シロップ剤、エリキシル剤、または乳剤が挙げられる。
【0213】
本明細書において記載される化合物(ペプチド改変体および非ペプチド改変体を含む)が治療に使用されるとき、特定の実施形態において、投与の望ましい経路は、肺用エアロゾルによってであり得る。化合物を含むエアロゾル送達システムを調製するための技術は、当業者に周知である。一般的に、そのようなシステムには、ペプチドの生物学的特性を著しく損なわない化合物を使用すべきである(例えば、SciarraおよびCutie 「Aerosols」Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、1990年、pp.1694−1712を参照;参考として援用される)。当業者は、過度な実験に頼ることなく、エアロゾルを産生するための種々のパラメータおよび条件を容易に決定し得る。
【0214】
本発明の方法はまた、潜在する細菌感染を処置するための従来治療と連結して本発明のペプチドを投与する工程を包含する。例えば本発明の方法は、従来処置(例えば、抗生物質治療)と同時に実施され得る。いくつかの実施形態において、このペプチドは、従来治療と実質的に同時に投与され得る。実質的に同時にとは、本発明のペプチドが、従来処置(例えば、抗生物質)の投与とほぼ同時期に被験体に投与され、それにより、2つの化合物が相加効果または相乗効果を発揮し得ることを意味する。ときに、ペプチドと従来処置の因子とは、互いに結合体化されている。そうでない場合、これらの化合物は、物理的に独立している。
【0215】
本発明のペプチドは、組織に直接的に投与され得る。好ましくは、この組織は細菌感染が存在する組織である。あるいは、この組織は感染が起こる可能性のある組織である。直接的な組織投与は、直接注射によって達成され得る。このペプチドは、1度投与されるか、あるいは複数回の投与で投与され得る。複数回で投与される場合、このペプチドは、異なる経路を通って投与され得る。例えば、最初の(または最初の数回の)投与は冒されている組織へ直接的になされ得、その後の投与は全身的であり得る。
【0216】
非経口投与の調製物は、滅菌水性または滅菌非水性の溶液、懸濁液、および乳濁液を含む。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、および注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)がある。水性キャリアとしては、水、アルコール/水溶液、乳濁液または懸濁液(生食水および緩衝媒質を含む)が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、塩化デキストロース、塩化ナトリウム、乳酸加リンガー油、または不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体および栄養補充液、電解質補充液(例えば、リンガーデキストロースに基づく補充液)などが挙げられる。保存薬および他の添加物(例えば、抗菌物質、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなど)も存在し得る。他形態の投与(例えば、静脈内投与)では、用量はそれより少ない。最初に与えられた用量で被験体における応答が不十分である場合には、より高用量(または異なるより局所化された送達経路により、効果的により高用量)が、患者の耐性が許す程度まで使用され得る。一日に複数の用量が、適切な全身レベルの化合物を達成するために企図されている。
【0217】
さらに他の実施形態において、好ましいビヒクルは、生物適合性微粒子または哺乳類のレシピエントへの移植に適したインプラントである。この方法に従って有用な例示的な生体内分解性インプラントが、PCT国際出願番号PCT/US/03307号(公開番号WO95/24929号:発明の名称「Polymeric Gene Delivery System」、1994年3月15日出願の米国特許出願番号213,668号に対する優先権を主張している)に記載されている。PCT/US/03307は、生物高分子を含むための生物適合性であって、好ましくは生分解性であるポリマーマトリクスについて記載している。ポリマーマトリクスは、被験体における薬剤の徐放を達成するために使用され得る。本発明の一局面に従い、本明細書において記載される因子は、PCT/US/03307において開示される生物適合性であって、好ましくは生分解性であるポリマーマトリクス内に被包されるかまたは分散され得る。このポリマーマトリクスは、好ましくはミクロスフェア(ここで因子が固形ポリマーマトリクス中に分散される)、またはミクロカプセル(ここで因子がポリマーシェルのコアに蓄えられる)といった微粒子の形態である。この因子を含むための他形態のポリマーマトリックスとしては、フィルム、コーティング、ゲル、インプラント、およびステントが挙げられる。ポリマーマトリックスデバイスの大きさおよび組成は、マトリックスデバイスが移植される組織中で好ましい放出速度になるように選択される。ポリマーマトリックスデバイスの大きさはさらに、使用される送達方法に従って選択され、代表的な送達方法は、組織内への注射、または鼻腔領域および/もしくは肺動脈弁区へのエアロゾルによる懸濁液の投与である。ポリマーマトリックスの組成は、好ましい分解速度を有し、かつ生体接着性の物質から形成され、デバイスが血管表面、肺表面または他の表面に投与される場合、移転の効力がさらに増すように選択され得る。マトリックスの組成はまた、分解するように選択されるのではなく、むしろ長時間にわたる拡散により放出するように選択され得る。
【0218】
非生分解性ポリマーマトリックスおよび生分解性ポリマーマトリックスの両方を、本発明の因子を被験体に送達するために使用され得る。生分解性マトリックスが好ましい。そのようなポリマーは、天然ポリマーかまたは合成ポリマーであり得る。合成ポリマーが好ましい。このポリマーは、放出が望まれる期間に基づき選択され、この期間は、一般的に約2、3時間から1年以上である。代表的に、2、3時間〜12ヶ月の範囲に及ぶ期間にわたる放出が最も望ましい。このポリマーは、必要に応じ、それ自体の重量の約90%まで水を吸収し得るヒドロゲルの形態であり、そしてさらに、必要に応じ、多価イオンまたは他のポリマーと架橋されている。
【0219】
一般に、本発明の因子は、生体内分解性のインプラントを使用して、分散によるかまたはより好ましくは、ポリマーマトリックスの分解により送達され得る。生分解性送達システムの形成に使用され得る例示的な合成ポリマーとしては;ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート(polyalkylene terepthalate)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリ−ビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびそのコポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリルエステルポリマー、メタクリルエステルポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、セルロース硫酸ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(テレフタル酸エチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ならびにポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0220】
非生分解性ポリマーの例としては、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、ならびにそれらのコポリマーおよび混合物が挙げられる。
【0221】
生分解性ポリマーの例としては、合成ポリマー(例えば、乳酸およびグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)(butic acid)、ポリ(吉草酸)、およびポリ(ラクチド−コカプロラクトン))、そして天然ポリマー(例えば、アルギナート、ならびにデキストランおよびセルロースを含む他のポリサッカライド、コラーゲン、それらの化学的誘導体(置換、化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者によって慣例的になされる他の修飾)、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミンおよび他の疎水性タンパク質)、ならびにそれらのコポリマーおよび混合物が挙げられる。一般に、これらの物質は、酵素加水分解またはインビボにおける水への曝露によって、表面侵食またはバルク侵食により分解する。
【0222】
特に興味深い生体接着性ポリマーは、H.S.Sawhney,C.P.PathakおよびJ.A.Hubellによる文献(Macromolecules,1993年、26、581−587)に記載されている生体内分解性ヒドロゲル(ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ無水物、ポリアクリル酸、アルギナート、キトサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(ブチルメタクリルレート)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、およびポリ(アクリル酸オクタデシル))を含み、この文献による教示は本明細書において援用される。
【0223】
他の送達システムは、徐放性放出送達システム、緩効性放出送達システム、または持続性放出送達システムを含み得る。そのようなシステムは、ペプチドの反復投与を避け得、被験体および医師にとっての好都合さを増す。多種類の放出送達システムが利用可能であり、当業者に公知である。それらには、例えば、ポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリ無水物といったポリマーベースのシステムが挙げられる。薬物を含んでいる前記ポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号において記載されている。送達システムとして、ステロール(例えば、コレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸)、または中性脂肪(例えば、モノ−グリセリド、ジ−グリセリド、およびトリ−グリセリド)を含む脂質;ヒドロゲル放出システム;シラスティックシステム;ペプチドベースのシステム;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用した圧縮錠剤;部分的に融合したインプラント;などである非ポリマーシステムもまた挙げられる。特異的な例としては、これらに限定されないが:(a)血小板を減少させる因子がマトリックス内にある形態で含まれている侵食システムであって、例えば、米国特許第4,452,775号、第4,675,189号、および第5,736,152号に記載されている侵食システム、ならびに(b)ポリマーから活性成分が制御された速度で透過する拡散システムであって、例えば、米国特許第3,854,480号、第5,133,974号、および第5,407,686号に記載される拡散システムが挙げられる。加えて、ポンプベースのハードウェア送達システムも使用され得、そのなかには移植に適合するものもある。
【0224】
長期徐放インプラントの使用は、感染(例えば、ブドウ球菌感染)を顕出する危険性のある被験体の予防的処置に特に適し得る。長期放出は、本明細書中で使用される場合、治療レベルの有効成分を少なくとも30日間、好ましくは60日間送達するように、インプラントを構築し、調整することを意味する。長期徐放インプラントは、当業者に周知であり、上記の放出システムのうちのいくつかを含む。
【0225】
次の実施例は、本発明の実施の特異的な例を例示するために提供されるのであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者には明らかなように、本発明は種々の組成物および方法における適用を見出す。
【実施例】
【0226】
S.aureusおよびS.epidermidisは、病院および地域社会で捕捉される広範な感染症と結び付けて考えられる。抗生物質耐性の上昇が、これらの感染症の処置および予防するための新療法の開発を促す。宿主組織または移植された補綴デバイスへの細菌の付着力が、ブドウ球菌感染の成立に対してしばしば重要となる。インビボにおいてブドウ球菌表面に発現され、防御抗体の標的であることがわかった接着分子の1つが、ポリ−Nアセチル−グルコサミン(PNAG)である。この接着分子は、これに限定されないが、E.coliなどの他の細菌によって発現され、使用される。
【0227】
(実験手順)
ハイブリドーマ:
S.aureus感染症の発症後の患者から血液を回収し、末梢血単核細胞(PBMC)をフィコールハイパーク沈殿法を使用して、その血液サンプルから単離した。Posnerらによって記載されるB95.8細胞株から産生されたエプスタイン−バーウィルス(EBV)(Posnerら、Epstein Barr virus transformation of peripheral blood B cells secreting antibodies reactive with cell surface antigens.Autoimmunity.1990年;8(2):149−58)に一晩曝露することによって、B細胞を刺激した。24時間後、これらの細胞を洗浄し、10%リンパ球調整培地(LyCM:48時間フィトヘマグルチニンで刺激したヒトPBMCから調製した)を含む増殖培地(20%FBSを補充したRPMI1640)100μl中1×106PBMC/ウェルの濃度で96ウェルプレート中に分散させた。5日後、10%LYCMを補充したさらなる増殖培地100μlを加えた。次いで、週に1度、100μlの使用済み培地を除去し、10%LyCMを補充した100μlの増殖培地を添加することによって、EBVに刺激された細胞を培養した。
【0228】
ウェルは高い密度で播種され(ウェル表面の底の80%を超える増殖、および細胞増殖を意味する培地のpH変化が生じることよって証拠付けられるように)、ELISAによるPNAG/dPNAGに対する特異的抗体の産生について、それらの培養物をスクリーニングした。次いで、抗体に対する陽性反応を与える単一の個々のウェルからの細胞を、組織培養プレートの48ウェルに分散し、増殖の7日後、PNAG/dPNAG抗原との反応性についてその上清を試験した。
【0229】
次いで、ELISAにより陽性試験を続けた培養物を、ヒト−マウス骨髄腫細胞株HMMA2.5と融合させ、以前に記載されているようなハイブリドーマ(Posnerら、The construction and use of a human−mouse myeloma analogue suitable for the routine production of hybridomas secreting human monoclonal antibodies.Hybridoma.1987年12月;6(6):611−25)を生じさせた。融合後、融合した細胞を選定するために、増殖培地(20%FBSおよびヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)およびオーバイン(oubain)を補充したRPMI 1640)を有するマイクロウェルプレート中で、細胞を培養した。これらの培養物は週に1度の間隔で養分を補給し、ELISAにより抗体産生についてスクリーニングした。
【0230】
ハイブリドーマを1細胞/ウェルの密度でクローニングし、正の成長を有するウェルをELISAにより特異的抗体についてスクリーニングし、陽性の抗体産生しているハイブリドーマを入れるウェルは、より大きな容積の組織培養プレート中のウェルに、次いでより大きな容積のフラスコへと拡大され、クローニングされた細胞株を得た。PNAG、dPNAGのいずれかまたはそれら両方に結合するヒトIgG2抗体を産生する3つのハイブリドーマ(F598、DF628、およびF630と呼ばれる)を回収した。
【0231】
PNAGの化学修飾:
N−置換基およびO置換基の大半を除去するために、精製されたPNAGを最終的濃度が0.5mg/mlになるまで5M NaOHに溶解させ、攪拌しながら37℃で18時間インキュベートした。次いで、強塩基性溶液を、最終pHが6と8との間になるように5N HClで中和し、24時間dH2Oと接して透析した。最終生成物を、試料を凍結乾燥させることによって得た。
【0232】
ELISA:
Immulon 4 マイクロタイタープレートを、感作緩衝液(0.2M NaH2PO4、0.2M Na2HPO4、0.02% アジド)中の最適結合濃度の各抗原100μl(天然PNAGに対しては0.6μl/ml、そしてdPNAGに対しては3μg/ml)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS/0.05% tweenで3度洗浄し、PBS中の5%スキムミルク200μlでブロックし、次いで4℃で一晩インキュベートした。このプレートを洗浄し、精製したMAbを種々の濃度で加え、PBS中の5%スキムミルク/0.05% tween(希釈緩衝液)で希釈した。次いで、このプレートを37℃で1時間インキュベートして洗浄した。100μlの二次抗体(抗ヒトIgG全分子−アルカリホスファターゼ(AP)と結合体化しており、ICNから得られる)を、希釈緩衝剤中に加えて1:1000の希釈溶液を作製した。このプレートを37℃で1時間インキュベートして洗浄した。1mg/mlの濃度の基質緩衝液(800mg NaHCO3、1.46g Na2CO3、10mg MgCl、500ml H2O中の20mg Na3N)中リン酸p−ニトロフェニル100μlを加え、このプレートを室温で30分間インキュベートした。このプレートを405nmで読取った。Sigma製の精製ヒトIgGを標準として使用して、抗ヒトIgGで感作されたプレート上のMAbを定量化した。
【0233】
補体沈積アッセイ:
マイクロタイタープレートを、ELISAアッセイのために調製した。MAbとのインキュベーションおよび洗浄後、3つの異なるS.aureus菌株を吸収させた正常なヒト血清を、希釈緩衝溶液中1:50となるように希釈し、これを補体の供給源として使用した。このプレートを37℃で15分間インキュイベートした。このプレートを洗浄後、ヤギ抗ヒトC3抗体を、1:2000の濃度で加え、37℃で1時間培養した。抗ヤギIgG−AP結合体を、1:2000で加え、37℃で1時間培養した。このプレートを、15分間の持続期間のみを除き、本質的にELISAアッセイについて発現させた。
【0234】
オプソニン食菌作用アッセイ:
オプソニン食菌傷害アッセイは、以前に記載されている(Amesら、Infection and Immunity 49:281−285、1985年、およびMaira−Litranら、Infect Immun.70(8):4433−4440、2002年を参照)。使用される標的菌株はMn8(S.aureus)である。標的菌株は、650nmの波長での光学密度(OD650)で0.4にまで育て、アッセイ用に1:100に希釈した。補体(Accurate Chemical And Scientific Corp.Westbury,New York 11590などの商業的供給源を通じて幼ウサギから得られ、1:15の希釈で使用される)を、1時間、S.aureusのMn8m株に吸収させた(1.0のOD650まで再懸濁した)。多形核白血球(PMN)を、ヘパリン/デキストラン(混合比1:1)を使用して、新たに採ったヒト血液から単離した。PMNを、5×106細胞/mlの濃度で使用した。種々の濃度でモノクローナル抗体を有する溶液を、抗体供給源として使用した。各成分(モノクローナル抗体溶液、PMN、補体、標的細菌)を、100μlずつ一緒に加え、次いで回転させながら37℃で1.5時間インキュベートした。上清を採り、希釈溶液を作製し、ついで、一般的に1:100および1:1000の上清希釈溶液を使用して、アリコートをトライピックダイズ寒天培地(TSA)に平板培養した。37℃で一晩のインキュベーション後、細菌コロニーを計数し、傷害レベルを算定した。
【0235】
抗体可変領域のクローニング:
各ハイブリドーマからのRNA抽出を、Qiagen製RNAeasy kitを使用して、約6×106個の細胞について実施した。総RNA1μgを、Qiagen製Omniscript kitを使用して、cDNAに逆転写した。1μgのcDNA産物を、PCR反応についてのテンプレートとして使用した。各反応は、50μlのInvitorogen製 Hi fi mix、100pモルの各ヌクレオチドプライマー、および1μlのcDNAテンプレートからなる。約30PCRサイクルを次のプロトコルで実施した:94℃で30秒間のサイクル:94℃で30秒間、65℃で30秒間、72℃で1分間、最終伸長72℃で5分間。NCBIデータベース上で利用可能な公知の生殖細胞系との比較で、IgBLASTプログラムを使用してPCR産物を配列決定し、調査した。
【0236】
2004年4月21日に受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933としてATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株からの抗体可変領域をクローンするために使用されるプライマーは、以下のとおりである:(制限部位には下線を引き、開始ATGを太字で示した5’−3’):
【0237】
【数3】
インビボ細菌チャレンジアッセイ:
マウスに、PNAGとdPNAGとの両方、または対照として受動免疫を誘発するためにP.aeruginosaアルギナートもしくはMEP(MAb F429と呼ばれる)をヒトIgG1 MAbと結合している非PNAG/dPNAGと結合するMAb F598を静脈(IV)投与した。24時間後、MAbと同じ投与経路によりS.aureus(5×107CFU/マウス)を用いてマウスのチャレンジを実施した。
【0238】
感染から2時間後の血液中のCFUレベルを、S.aureusに対する受動免疫を誘導するために投与されたMAbの効力測定基準として使用した。
【0239】
(結果)
MAb配列:
MabF598、F628、およびF630の可変領域およびCDRについてのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を以下に示す。CDR領域に下線を引き、定常領域は強調した。
【0240】
【数4】
【0241】
【数5】
【0242】
【数6】
【0243】
【数7】
【0244】
【数8】
【0245】
【数9】
【0246】
【数10】
【0247】
【数11】
【0248】
【数12】
【0249】
【数13】
IgG2 MAbの特徴付け:
ハイブリドーマは、対応する融合番号から:F598、F628およびF630と命名された。これらのハイブリドーマから産生された抗体は、すべてIgG2型でかつλ型であった。タンパク質Gカラムを使用した抗体の精製後、ELISAを使用してMAbのエピトープ特異性の違いを評価した。天然PNAGの化学修飾を、特定の置換基を除去するために実施した。強塩基処理(5M NaOH)により、N−アセチル基の多くが除去される。図1に見られるように、異なる結合曲線を有するが、MAbはすべて天然形態のPNAGとよく結合する。PNAGが5M NaOHで処理されてdPNAGを産生する場合、F598 MAbは最大活性で結合する(図2)。この結果により、F598はPNAGのバックボーンエピトープに対する特異性を有し、PNAGポリマーと結合するためにN−アセチル化基およびO−アセチル化基を必要としないということが示唆される。MAb F630およびMAb F628はdPNAGとうまく結合しないことから、これらMAbの特異性には、天然形態のPNAGに見出されるアセテートが必要であることが示唆される。
【0250】
競合ELISAを、MAbの相対結合活性を評価するために使用した。図3は、MAbの相対結合活性が:F598>F628>F630であることを示している。
【0251】
IgG1に転換されるMAbの生成および特徴付け:
ヒトIgG1アイソタイプ抗体は、IgG2アイソタイプよりもうまく補体を抗原表面に固定し得る。したがって、MAb可変領域のクローニング、およびIgG1アイソタイプの産生が実施された。IgG2定常領域に対するプライマー、およびオリジナルのハイブリドーマ中で同定された可変領域の5’末端に対して特異的なプライマー(本明細書における「抗体可変領域のクローニング」に提示したプラーマーの一覧を参照)を、オリジナルのIgG2ハイブリドーマ細胞株から単離したmRNAから作製されたcDNA調製物からPCR産物を入手するために使用された。PCR産物を配列決定して分析し、各抗体を生じる可能性が非常に高い生殖細胞系遺伝子を決定した。表1に示すように、ハイブリドーマがPNAGおよび/またはdPNAGを指向する抗体の作製に使用する、一般的な生殖細胞系遺伝子がある。示すように、MAb F598、MAb F628、およびMAb F630は、同じL鎖生殖細胞系遺伝子およびH鎖D領域を使用する。違いは、MAb F630のH鎖を産生するために使用されるV遺伝子、およびMAb F628のH鎖を産生するために使用されるJ遺伝子のみある;MAbのための残りの生殖細胞系遺伝子は同一である。
【0252】
【表1】
各MAb(F598、F628およびF630)のH鎖についてのV、JおよびDセグメント、ならびにL鎖についてのVおよびJセグメントを包含する全可変領域をコードするDNAを、κL鎖およびIgG1H鎖ヒト定常領域を含むTCAE6ベクターにクローンした。この最初の構築物は、オリジナルのハイブリドーマから得られたH鎖およびL鎖遺伝子のオリジナルのペアリングを維持した。そのそれぞれの構築物を含んでいるプラスミドDNAを、CHO細胞にトランスフェクトし、その結果として生じるIgG1 MAbを精製し、特徴付けた。図4および図5に見られるように、すべてのIgG1 MAbは、オリジナルのIgG2 MAbと比較した場合、PNAGと同一の結合曲線を有するが、MAb F628およびMAb F630のIgG1構築物は、dPNAGと結合する能力の一部を失った(例えば、図1および図2と比較されたい)。
【0253】
IgG1 MAbが、IgG2の親MAbよりも多くの活性を活性化している機能的補体を有するかどうかを試験するために、補体沈積アッセイを実施した。この補体沈積アッセイは本質的に、ヒト血清が反応混合物に加えられる場合の補体タンパク質C3の沈積を測定するELISAアッセイである。図6に示すとおり、すべてのIgG1 MAbは、親IgG2 MAbよりも、活性を固定しているより良い補体を有する。補体の固定が増す程度は、MAbに依存する。PNAGおよびdPNAGに対する最高の結合活性を有するMAb F598に関しては、IgG2アイソタイプに対するIgG1の活性の増加はほんの僅かであった。MAb F628およびF630に関しては、IgG1 MAbは、親IgG2 MAbの、少なくとも倍の補体沈積活性を有する。
【0254】
オプソニン食菌活性:
IgG1形およびIgG2形態の両方におけるモノクローナル抗体F598、F628およびF630(6μgのMAb)のオプソニン食菌活性を、S.aureus菌株Mn8に対して試験した。IgG1形態を使用した場合、モノクローナル抗体F598は、CFUにおいて最高レベルの減少(すなわち、傷害)を示した(図7)。
【0255】
感染に対する受動的保護:
PNAGおよびdPNAGの両方と結合するMAb F598のマウスへ投与してから24時間後、S.aureus菌株Mn8でチャレンジし、無関係な抗原であるP.aeruginosaアルギナートに対するMAb(有意確率P=0.002)を受容するマウスと比較すると、血液1ml中におけるCFUの数を感染後2時間で68%減少した(図8A)。図8Bは,対照MAbまたはMAb F598g1を与える各個体動物について血液1ml当たりのS.aureusのCFUを示す。FVBマウス1匹当たり800μgのMAb F598の投与から4時間後に5×108CFUのS.aureus(Mn8株)を用いた腹腔内(IP)チャレンジを実施した結果、対照MAb(P.aeruginosaに対して特異的なF429)を投与されたマウスと比較して生残が増加した。図8Cは、これらの実験の結果を示している。細菌チャレンジから5日後、F598を受けた全てのマウス、および対照MAbを受けたマウスのうちの約20%のみが生きていた(1グループ当たり8匹のマウス)。
【0256】
E.coli尿路感染症分離株:
18個のE.coli臨床尿路感染症(UTI)分離株を単離し、S.aureus PNAGに対して生じた抗血清を使用した免疫ブロット法により、PCRおよびPNAG発現によるpga遺伝子座の存在について試験した。臨床分離株を培養中で成長させ、一旦細胞が静止期に入ると、DNAをPCRにおける使用のための標準的な技術によって抽出するか、または細胞を(5分間沸騰させて)EDTA抽出にかけた。18個の分離株のうちの17個がpga遺伝子を有することが、PCRによって決定された。免疫ブロット法の結果に基づき、これら17個のうち、約3分の1が相対的に高レベルのPNAGを発現していると特徴づけられ、約3分の1が相対的に中間(または並)レベルのPNAGを発現していると特徴づけられ、そして残りの3分の1が相対的に低レベルのPNAGを発現していると特徴づけられた。加えて、pga遺伝子座の過剰発現は、PNAGの産生の増大をもたらした。図9は、この免疫ブロット法の結果を示している。菌株「H」は、検出不可能なレベルのPNAGを発現し、pga遺伝子座を有しない。右上角にあるスロットは、pgaを過剰発現しているE.coliの菌株を示している。
【0257】
図10は、S.aureus dPNAGに対して生じたポリクローン性抗血清を使用した、前述のE.coli臨床UTI分離株のオプソニン傷害レベルを示している。BWは野生型のE.coli菌株を示し、pga−はpga遺伝子座が削除されたE.coli菌株を示し、そしてpga++はpgaを過剰発現しているE.coliの菌株を示している。この傷害レベルは、おおよそであるが、E.coli分離株によるPNAGの発現レベルとの相互関係を示している。
【0258】
図11Aおよび図11Bは、高PNAG発現E.coli菌株(菌株U)および中間PNAG発現E.coli菌株(菌株P)のオプソニン傷害レベルを、dPNAGおよびPNAGに対して生じたポリクローナル抗血清によって示している。試験された全ての抗血清希釈溶液において、抗dPNAGは、抗PNAG抗血清よりも効果的に両菌株を傷害した。
【0259】
図12は、種々のブドウ球菌菌株およびE.coli菌株に対するMAb F598のオプソニン食菌活性を、MAb F598、MAb F628、およびMAb F630(各アッセイにつき6μg/mlのMAb)によって示している。
【0260】
ica遺伝子座変異:
図13および図14は、変異ica遺伝子座を有するS,aureus菌株のMAb F598およびMAb F628による傷害の結果を示している。図13で示されるように、S.aureus菌株10833は、ica遺伝子座(10833Δica)について削除し、次いでS.aureus Mn8m(pMuc、PNAG過剰生産体)から単離された野生型ica、またはicaB遺伝子が削除されたpMuc(pMucΔicaB)を有するプラスミドを用いて形質転換した。S.aureus菌株10833(野生型)および10833(picaB)が図14に示されている。菌株10833(picaB)は、S.aureus Mn8m(PNAG過剰生産体)のica遺伝子座からの構成的プロモーターを使用して、プラスミドからicaB遺伝子を過剰発現する。このicaB遺伝子は、PNAGの脱アセチル化に関与すると考えられている酵素である。icaB遺伝子の削除は、MAb F598による傷害に影響するが、MAb F628による傷害には影響しない。icaB遺伝子が存在しない状況で、MAb F598による傷害は減少する(図13)。icaB遺伝子の過剰発現は、MAb 628の傷害にほとんどまたは全く影響を及ぼさないMAb F598による傷害の増大をもたらす。
【0261】
(結論)
化学修飾したPNAGを使用したELISAは、天然形態のPNAGを指向する3つの完全なヒトMAbの特異性における違いを強調した。MAb F598はPNAGおよびdPNAGを認識することが見出されたことから、分子のバックボーンに対して特異的である。MAb F628およびMAb F630は、明らかにアセテート特異的エピトープを認識する。競合ELISAによるMAbの相対結合活性の評価は、F598が最大の結合活性を有し、次いでF628、F630が続くことを示す。可変領域のクローニングは、PNAGおよび/またはdPNAGに対する抗体を産生するための遺伝子限定用法があることを示す。MAbの定常領域をγ2からγ1に変更すると、PNAGと同一の結合となるが、dPNAGと結合した3つのMAbのうちの2つの能力を低下させた。最後に、定常領域をγ1に変換すると、MAbの能力を向上させて補体を固定させたが、この向上はMAb F628およびF630について最も劇的であり、これらはより低い結合活性を有した。MAb F598g1の保護的効力の評価により、S.aureus生菌株Mn8を用いたIVチャレンジの24時間前になされたマウスへのこの生成物の投与が、感染から2時間後の血液中のブドウ球菌レベルが68%減少したことが示された。S.aureus生菌株M8を用いたIPチャレンジの4時間前になされたマウスへのMAbF598の投与が、MAbで処置した対照マウスよりも大きな生残りの増加をもたらした。
【0262】
(等価物)
前記した明細書は、当業者が本発明を実施するのに十分であると考えられる。本明細書において開示された具体的な抗体およびペプチドは、本明細書において本発明の具体的な実施形態を単に実施可能に例示することを意図するのであって、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。したがって、本明細書において記載されたペプチド、抗体、および抗体フラグメントと機能的に等価ないずれのペプチド、抗体、および抗体フラグメントも、別添の特許請求の範囲の精神および範囲内のものである。確かに、本明細書において示され、記載された改変に加えて本発明の種々の改変が、前記から当業者には明らかであり、それらは別添の特許請求の範囲の範囲内にある。
【0263】
本出願において記載される全ての文献、特許および特許刊行物は、本明細書においてその全体が参考として援用される。
【0264】
【表2】
【技術分野】
【0001】
(政府支援)
本研究は、一部の資金を、国立衛生研究所からの助成金番号AI46706により提供された。したがって、米国政府は、この発明に対する一定の権利を有し得る。
【0002】
(関連出願)
本出願は、2004年4月21日出願の米国仮出願番号第60/564,105号に対する優先権を主張し、この仮特許出願の全内容は、本明細書において参考として援用される。
【0003】
(発明の分野)
本発明は、概して、ブドウ球菌などの細菌のポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)および脱アセチル化されたPNAG(dPNAG)と結合するペプチド、ならびにブドウ球菌感染および他のPNAG発現性細菌への感染の診断および処置におけるそれらペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
ブドウ球菌は、ヒトの皮膚および粘膜に常在してコロニーを作るグラム陽性細菌である。この皮膚または粘膜が、外科的処置または他の外傷により損傷を受けると、このブドウ球菌が、内部組織へのアクセスを得て感染を顕出させ得る。ブドウ球菌が局所的に繁殖するか、またはリンパ系もしくは血液系に入ると、ブドウ球菌菌血症に関連する合併症など深刻な感染合併症を引き起こし得る。ブドウ球菌菌血症に関連する合併症としては、敗血症性ショック、心内膜炎、関節炎、骨髄炎、肺炎、および種々の臓器における膿瘍が挙げられる。
【0005】
ブドウ球菌には、遊離コアグラーゼを産生するコアグラーゼ陽性生物、およびこの遊離コアグラーゼを産生しないコアグラーゼ陰性生物の両方が含まれる。Staphylococcus aureusは、ブドウ球菌の最も一般的なコアグラーゼ陽性形態である。S.aureusは、通常、血管外または血管内の局所部位における感染を引き起こし、最終的に、菌血症を引き起こし得る。S.aureusはまた、急性骨髄炎の主要原因でもあり、ブドウ球菌性肺炎感染の原因となる。加えて、S.aureusは、細菌性髄膜炎の症例のうち約1〜9%、および脳膿瘍の症例のうち約10〜15%の原因である。
【0006】
少なくとも21種のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌が知られており、S.epidermidis、S.saprophyticus、S.hominis、S.warneri、S.haemolyticus、S.saprophiticus、S.cohnii、S.xylosus、S.simulans、およびS.capitisが挙げられる。S.epidermidisは、静脈内アクセスデバイスに関連する最も感染原因となる頻度の高い因子であり、主要な病院内の菌血症において最も頻度の高い分離株でもある。S.epidermidisはまた、人工弁心内膜炎に関連する。
【0007】
ブドウ球菌はまた、動物の共通細菌感染源でもある。例えば、ブドウ球菌性乳腺炎は、ウシ、ヒツジ、およびヤギを含む反芻動物に共通する問題である。この疾患は、一般に、抗生物質で処置して感染を減少させているが、この処置は費用がかかる方法である上、乳汁産生に損失をもたらす。現在までに同定された家畜に対して最も有効なワクチンは、皮下に投与されるS.aureusのインタクトな生ワクチンである。しかしながら、生ワクチンの投与には、感染のリスクおよび中毒性反応を伴う。このため、多くの研究者らが、S.aureusの不活化ワクチンの産生、および/またはS.aureusに対する免疫を誘発する莢膜多糖類もしくは細胞壁成分の分離を試みてきた。しかしながら、これらの試みは、いずれも成功していない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、概して、ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)(例えば、ブドウ球菌ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG))、および不完全にアセチル化されたPNAGまたは脱アセチル化されたPNAG(本明細書において、この2つをまとめてdPNAGと呼ぶ)と結合するペプチドの同定および使用に関する。これらのペプチドを、本明細書においてはPNAG/dPNAG結合ペプチドと呼ぶ。このようなペプチドの例としては、本明細書において記載される抗体、または受託番号PTA−5931(F598)、PTA−5932(F628)およびPTA−5933(F630)として、2004年4月21日にATCCに寄託されたハイブリドーマから産生された抗体の相補性決定領域(CDR)または可変領域に由来するアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。これらのペプチドとしては、ポリペプチド、モノクローナル抗体(例えば、ヒトモノクローナル抗体)および抗体フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において開示されるペプチドの共通する特徴は、特異的にブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGを認識し、これらと結合するするそれらの能力である。他の細菌株により発現されるPNAGおよび/またはdPNAGもまた、本発明のペプチドによって認識され、これらと結合し得る。本発明により提供される抗体および抗体フラグメントのうちのいくつかが有する重要な特性は、PNAGを発現する細菌株(例えば、ブドウ球菌種)のオプソニン作用および食菌作用(すなわち、オプソニン食菌作用)を向上させるそれらの能力である。
【0009】
したがって、本発明の一局面において、選択的にブドウ球菌ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG/dPNAG)と結合し、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、または機能的に等価なそれらの改変体を含有する組成物を提供する。
【0010】
種々の実施形態が、本発明のこの局面および他の局面との間で共有されている。これらの実施形態は、1度説明するが、これらが本発明のすべての局面に等しく適用されるということが理解されるべきである。
【0011】
一実施形態において、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3である。このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3は、配列番号9、配列番号15、および配列番号21からなる群から選択されるH鎖CDR3のアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR3のアミノ酸配列を含み得る。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3は、配列番号12、配列番号18、および配列番号24からなる群から選択されるL鎖CDR3のアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖CDR3のアミノ酸配列を含み得る。
【0012】
別の実施形態において、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2である。このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2は、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR2のアミノ酸配列を含み得る。
【0013】
別の実施形態において、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1である。このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1は、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR1のアミノ酸配列を含み得る。
【0014】
一実施形態において、単離ペプチドは、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0015】
別の実施形態において、単離ペプチドは、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む。
【0016】
一実施形態において、単離ペプチドは、単離抗体または単離抗体フラグメント、例えば、インタクトな、好ましくは可溶性の単離モノクローナル抗体(ただし、これに限定されない)、または単離モノクローナル抗体フラグメント、例えば、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメント(ただし、これらに限定されない)である。この単離抗体は、ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマから産生される抗体、またはその抗体フラグメントであり得る。
【0017】
一実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントは、PNAGを発現する細菌株(例えば限定されないが、S.aureusまたはS.epidermidisなどのブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる。
【0018】
一実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントは、H鎖可変領域を含み、かつ配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、ならびにL鎖可変領域を含み、かつ配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。別の実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントは、ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域を含むアミノ酸配列、およびATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む。
【0019】
単離抗体または単離抗体フラグメントは、配列番号1のアミノ酸配列および配列番号2のアミノ酸配列、または配列番号3のアミノ酸配列および配列番号4のアミノ酸配列、または配列番号5のアミノ酸配列および配列番号6のアミノ酸配列を含み得る。
【0020】
単離抗体または単離抗体フラグメントは、受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を有するアミノ酸配列、または受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を有するアミノ酸配列、または受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を有するアミノ酸配列を含み得る。
【0021】
一実施形態において、単離ペプチドに、検出可能な標識に結合体化される。この検出可能な標識は、インビボまたはインビトロにおいて検出可能な標識であり得る。
【0022】
一実施形態において、組成物はさらに、薬学的に受容可能なキャリアを含有する。他の実施形態において、単離抗体または単離抗体フラグメントなどの単離ペプチドは、PNAGを発現している細菌株による感染(例えば、ブドウ球菌感染)を阻害するための有効量、またはPNAGを発現している細菌株(例えば、ブドウ球菌)を検出するための有効量で被験体中のサンプルもしくは被験体からのサンプル中に存在する。
【0023】
一実施形態において、単離ペプチドは、選択的にブドウ球菌PNAGと結合する。別の実施形態において、この単離ペプチドは、選択的にブドウ球菌dPNAGと結合する。
【0024】
さらに別の実施形態において、本発明は、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRをコードしているヌクレオチド配列を含む単離核酸分子を提供する。
【0025】
一実施形態において、ヌクレオチド配列は、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、および配列番号24からなる群から選択される。別の実施形態において、このヌクレオチド配列は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6からなる群から選択される。
【0026】
一実施形態において、核酸は、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖可変領域核酸分子である。別の実施形態において、この核酸は、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖可変領域核酸分子である。さらに別の実施形態において、この核酸は、受託番号PTA−5931、PTA−5932、もしくはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖CDR核酸分子であるか、または受託番号PTA−5931、PTA−5932、もしくはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖CDR核酸分子である。
【0027】
本発明はさらに、他の局面において、プロモーターに作動可能に連結された前記単離核酸分子を含有する発現ベクター、およびこの発現ベクターを用いて形質転換または遺伝子導入を施した細胞を提供する。
【0028】
他の局面において、本発明は、抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体(F598)を産生し、ATCC受託番号PTA−5931を有する単離細胞、抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体(F628)を産生し、ATCC受託番号PTA−5932を有する単離細胞、および抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体(F630)を産生し、ATCC受託番号PTA−5933有する単離細胞を提供する。本発明はさらに、さらなる局面において、前記寄託された単離細胞により産生された単離モノクローナル抗体、またはその抗体フラグメントを提供する。この抗体フラグメントは、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、またはFabフラグメントであり得るが、これらに限定されない。関連する実施形態において、このフラグメントは、PNAGを発現している細菌株(例えば限定されないが、S.aureusまたはS.epidermidisなどのブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる。
【0029】
別の局面において、本発明は、被験体中または被験体からのサンプル中でPNAGを発現している細菌株(例えば、ブドウ球菌)を検出するための方法を提供する。この方法は、単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体と、被験体中または被験体からのサンプルとの結合の検査レベルを判定する工程、およびこの結合検査レベルを対照と比較する工程を包含し、ここで、単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体は、選択的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含有する。またここで、対照よりも結合検査レベルが大きければ、サンプル中に細菌株(例えば、ブドウ球菌)が存在することを示している。検出される細菌は、ブドウ球菌、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaであり得る。本発明はまた、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)などPNAGを発現する細菌による植物感染を検出するための方法、および処置するための方法を提供する。
【0030】
一実施形態において、試験結合レベルは、インビボにおいて測定される。
【0031】
別の局面において、本発明は、PNAGを発現している細菌株に感染している被験体(例えば、ブドウ球菌感染)、または感染を顕出させる危険性のある被験体を処置するための方法を提供する。この方法は、そのような処置が必要な被験体に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含有する単離ペプチドまたは機能的に等価なそれらの改変体を、感染を阻害するための有効量で投与する工程を包含する。別の実施形態において、単離ペプチドは、細胞毒性の因子に結合体化している。
【0032】
一実施形態において、被験体はブドウ球菌感染(例えば限定されないが、S.aureus感染、またはS.epidermidis感染)に罹っているか、またはこれらを顕出する危険性がある。別の実施形態において、被験体は、E.coli感染、Yersinia pestis(Y.pestis)感染、Y.entercolitica感染、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)感染、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)感染、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)感染、A.pleuropneumoniae感染、Bordetella pertussis(B.pertussis)感染、B.parapertussis感染、もしくはB.bronchiseptica感染に罹っているか、またはこれらを顕出する危険性がある。
【0033】
上述の細菌感染は、胃腸炎、尿路感染症、ペスト、百日咳(whopping cough)、血流感染症、および歯性感染症(歯周炎)などの状態の根底にある。本発明は、根底にある細菌感染を処置することにより、これら後者の状態を処置することを意図する。本明細書において提供される検出方法および処置方法は、これらの感染に罹っているか、またはこれらを顕出する危険性のあるヒトおよび非ヒトの被験体に適している。非ヒトの被験体としては、ウシおよびブタなどの畜産動物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)は、PNAGを発現している別の細菌であるが、動物に対する病原体というよりも、むしろ植物に対する病原体と考えられている。本発明は、本明細書において提供される結合ペプチド、好ましくは、検出可能な標識または細胞毒性の標識(方法により選択)と結合体化しているペプチドを使用した、これに感染している植物種の検出および処置を企図する。
【0035】
さらに別の局面において、本発明は、PNAGを発現する細菌株による感染(例えば、ブドウ球菌感染)を処置するための方法を提供する。この方法は、PNAGを発現する細菌への曝露後少なくとも4時以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも50%減少させるPNAG/dPNAG結合ペプチドを、処置を必要としている被験体に対し、感染処置有効量を投与する工程を包含する。
【0036】
一実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、単離抗体または単離抗体フラグメントである。一実施形態において、感染は、ブドウ球菌感染である。一実施形態において、ブドウ球菌感染は、S.aureus感染、またはS.epidermidis感染である。別の実施形態において、感染は、E.coli感染、Yersinia pestis(Y.pestis)感染、Y.entercolitica感染、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)感染、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens),Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans),A.pleuropneumoniae感染、Bordetella pertussis(B.pertussis)感染、B.parapertussis感染、またはB.bronchiseptica感染である。Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)感染は、動物というよりもむしろ植物に影響を及ぼすのであるが、この感染についても本発明は考慮している。別の実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露前、例えばこれに限定されないが、細菌への曝露の少なくとも24時間前に投与される。
【0037】
一実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露から少なくとも4時間以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも60%減少させる。別の実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露から少なくとも2時間以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも50%減少させる。さらに別の実施形態において、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、細菌への曝露から2時間以内に、被験体中の細菌負荷を少なくとも60%減少させる。PNAGを発現する細菌には、これらに限定されないが、動物に影響を及ぼすブドウ球菌、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchiseptica、ならびに植物に影響を及ぼすRalstonia solanacearum(R.solanacearum)が挙げられる。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
組成物であって、
ブドウ球菌ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG/dPNAG)と選択的に結合し、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRのアミノ酸配列を含む単離ペプチド、または機能的に等価なその改変体を含む、組成物。
(項目2)
項目1に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3である、組成物。
(項目3)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号9、配列番号15、および配列番号21からなる群から選択されるH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目4)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目5)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号12、配列番号18、および配列番号24からなる群から選択されるL鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目6)
項目2に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目7)
項目1に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2である、組成物。
(項目8)
項目7に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、組成物。
(項目9)
項目7に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR2のアミノ酸配列番号を含む、組成物。
(項目10)
項目1に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1である、組成物。
(項目11)
項目10に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、組成物。
(項目12)
項目10に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するCDR1のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目13)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目14)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目15)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目16)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列含む、組成物。
(項目17)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、単離抗体または抗体フラグメントである、組成物。
(項目18)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来する、組成物。
(項目19)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、インタクトな可溶性モノクローナル抗体である、組成物。
(項目20)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメントからなる群から選択される単離抗体フラグメントである、組成物。
(項目21)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、PNAG発現細菌株のオプソニン食菌作用を向上させる、組成物。
(項目22)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、PNAG発現ブドウ球菌のオプソニン食菌作用を向上させる、組成物。
(項目23)
項目22に記載の組成物であって、前記PNAG発現ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、組成物。
(項目24)
項目21に記載の組成物であって、前記PNAG発現細菌株が、PNAG発現E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaである、組成物。
(項目25)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、
H鎖CDRを含み、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、ならびに
L鎖CDRを含み、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列
を含む、組成物。
(項目26)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体および抗体フラグメントが、
受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域を含むアミノ酸配列、ならびに
受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列
を含む、組成物。
(項目27)
項目25に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号1のアミノ酸配列、および配列番号2のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目28)
項目25に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号3のアミノ酸配列、および配列番号4のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目29)
項目25に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号5のアミノ酸配列、および配列番号6のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目30)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目31)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目32)
項目17に記載の組成物であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、組成物。
(項目33)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、検出可能な標識と結合体化している、組成物。
(項目34)
項目31に記載の組成物であって、前記検出可能な標識が、インビボで検出可能な標識である、組成物。
(項目35)
項目1に記載の組成物であって、さらに薬学的に受容可能なキャリアを含む、組成物。
(項目36)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、PNAG発現細菌株によって感染を阻害するための有効量で存在する、組成物。
(項目37)
項目36に記載の組成物であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、組成物。
(項目38)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、ブドウ球菌感染を阻害するための有効量で存在する、組成物。
(項目39)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、被験体中のサンプル中、または被験体からのサンプル中のPNAG発現細菌株を検出するための有効量で存在する、組成物。
(項目40)
項目39に記載の組成物であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、組成物。
(項目41)
項目35に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、被験体中のサンプル中、または被験体からのサンプル中のブドウ球菌を検出するための有効量で存在する、組成物。
(項目42)
項目41に記載の組成物であって、前記ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、組成物。
(項目43)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、ブドウ球菌PNAGと選択的に結合する、組成物。
(項目44)
項目1に記載の組成物であって、前記単離ペプチドが、ブドウ球菌dPNAGと選択的に結合する、組成物。
(項目45)
被験体におけるPNAG発現細菌株を検出するための方法であって、
単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体の、被験体中のサンプルまたは被験体からのサンプルへの結合の試験レベルを決定する工程、ならびに
該結合の試験レベルを対照と比較する工程であって、
該単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体が、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含み、そして
該対照よりも大きな結合の試験レベルが、サンプル中のPNAG発現細菌株の存在を示す、工程
を包含する、方法。
(項目46)
項目45に記載の方法であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、方法。
(項目47)
項目46に記載の方法であって、前記方法が被験体におけるブドウ球菌を検出するための方法であり、
単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体の、被験体中のサンプル、または被験体からのサンプルへの結合の試験レベルを決定する工程、ならびに
該結合の試験レベルを対照と比較する工程であって、
該単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体が、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含み、そして
該対照よりも大きな結合の試験レベルが、サンプル中のブドウ球菌の存在を示す、工程を包含する、方法。
(項目48)
項目47に記載の方法であって、前記ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、方法。
(項目49)
項目46または項目47に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、検出可能な標識と結合体化している、方法。
(項目50)
項目49に記載の方法であって、前記検出可能な標識が、インビボで検出可能な標識である、方法。
(項目51)
項目46または項目47に記載の方法であって、前記結合の試験レベルが、インビトロで測定される、方法。
(項目52)
PNAG発現細菌株に感染しているか、またはPNAG発現細菌株による感染を顕出する危険性のある被験体を処置する方法であって、
該処置を必要としている被験体に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含む単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体を、該感染を阻害するための有効量で投与する工程
を包含する、方法。
(項目53)
項目52に記載の方法であって、前記PNAG発現細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaからなる群から選択される、方法。
(項目54)
項目52に記載の方法であって、前記方法が、ブドウ球菌に感染しているか、またはブドウ球菌感染を顕出する危険性のある被験体を処置するための方法であり、
該処置を必要としている被験体に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと選択的に結合し、かつブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含む単離ペプチドまたは機能的に等価なその改変体を、ブドウ球菌感染を阻害するための有効量で投与する工程
を包含する、方法。
(項目55)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3である、方法。
(項目56)
項目55に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号9、配列番号15、および配列番号21からなる群から選択されるH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目57)
項目55に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、配列番号12、配列番号18、および配列番号24からなる群から選択されるL鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目58)
項目55に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR3のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目59)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2である、方法。
(項目60)
項目59に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、方法。
(項目61)
項目59に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR2のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目62)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRが、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1である、方法。
(項目63)
項目62に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、方法。
(項目64)
項目62に記載の方法であって、前記ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖CDR1のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目65)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法。
(項目66)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目67)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、方法。
(項目68)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目69)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、単離抗体または抗体フラグメントである、方法。
(項目70)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマから産生される、方法。
(項目71)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、インタクトな可溶性モノクローナル抗体である、方法。
(項目72)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメントからなる群から選択される単離抗体フラグメントである、方法。
(項目73)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、
H鎖CDRを含み、かつ配列番号1、配列番号3、および配列番号5からなる群から選択されるアミノ酸配列、ならびに
L鎖CDRを含み、かつ配列番号2、配列番号4、および配列番号6からなる群から選択されるアミノ酸配列
を含む、方法。
(項目74)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、
受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域を含むアミノ酸配列、および
受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列
を含む、方法。
(項目75)
項目73に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号1のアミノ酸配列、および配列番号2のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目76)
項目73に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号3のアミノ酸配列、および配列番号4のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目77)
項目73に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、配列番号5のアミノ酸配列、および配列番号6のアミノ酸配列を含む、方法。
(項目78)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5931(F598)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む、方法。
(項目79)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5932(F628)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む、方法。
(項目80)
項目69に記載の方法であって、前記単離抗体または抗体フラグメントが、受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列、および受託番号PTA−5933(F630)を有する寄託されたハイブリドーマに由来するL鎖可変領域を含むアミノ酸配列を含む、方法。
(項目81)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記被験体が、ブドウ球菌感染を顕出する危険性のある、方法。
(項目82)
項目81に記載の方法であって、前記ブドウ球菌感染が、S.aureus感染またはS.epidermidis感染である、方法。
(項目83)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記被験体が、E.coli感染、Yersinia pestis(Y.pestis)感染、Y.entercolitica感染、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)感染、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)感染、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)感染、A.pleuropneumoniae感染、Bordetella pertussis(B.pertussis)感染、B.parapertussis感染、またはB.bronchiseptica感染を顕出する危険性のある、方法。
(項目84)
項目52または項目54に記載の方法であって、前記単離ペプチドが、細胞毒性因子と結合体化している、方法。
(項目85)
ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRをコードしているヌクレオチド配列を含む、単離核酸分子。
(項目86)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記ヌクレオチド配列が、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、および配列番号24からなる群から選択される、単離核酸分子。
(項目87)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記ヌクレオチド配列が、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、および配列番号6からなる群から選択される、単離核酸分子。
(項目88)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖可変領域の核酸分子である、単離核酸分子。
(項目89)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖可変領域の核酸分子である、単離核酸分子。
(項目90)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するH鎖CDRの核酸分子である、単離核酸分子。
(項目91)
項目85に記載の単離核酸分子であって、前記核酸が、受託番号PTA−5931、PTA−5932、またはPTA−5933を有するハイブリドーマに由来するL鎖CDRの核酸分子である、単離核酸分子。
(項目92)
項目85〜90または91に記載される単離核酸分子を含み、プロモーターと作動可能に結合している、発現ベクター。
(項目93)
項目92に記載の発現ベクターで形質転換または形質導入される、宿主細胞。
(項目94)
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体を産生し、かつATCC受託番号PTA−5931を有する、単離細胞。
(項目95)
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体を産生し、かつATCC受託番号PTA−5932を有する、単離細胞。
(項目96)
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体を産生し、かつATCC受託番号PTA−5933を有する、単離細胞。
(項目97)
項目94に記載の細胞によって産生される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目98)
項目95に記載の細胞によって産生される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目99)
項目96に記載の細胞によって産生される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目100)
項目97、98または99に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体、またはそのフラグメントであって、該フラグメントが、F(ab’)2フラグメント、Fdフラグメント、およびFabフラグメントからなる群から選択される、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目101)
項目97、98または99に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体、またはそのフラグメントであって、該フラグメントが、PNAG発現細菌株のオプソニン食菌作用を向上させる、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目102)
項目97、98または99に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、該フラグメントが、PNAG発現ブドウ球菌のオプソニン食菌作用を向上させる、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目103)
項目102に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、前記PNAG発現ブドウ球菌が、S.aureusまたはS.epidermidisである、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目104)
項目101に記載の単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメントであって、前記PNAG発現細菌が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaである、単離抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体またはそのフラグメント。
(項目105)
PNAGを発現する細菌株の感染を処置するための方法であって、
PNAGを発現する細菌への曝露から少なくとも4時間以内に被験体における細菌負荷を少なくとも50%減少させるPNAG/dPNAG結合ペプチドを、該感染を処置するための有効量で治療を必要とする被験体に投与する工程
を含む、方法。
(項目106)
項目105に記載の方法であって、前記PNAGを発現する細菌株が、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、またはB.bronchisepticaである、方法。
(項目107)
項目105に記載の方法であって、前記方法がブドウ球菌感染を処置するための方法であり、
ブドウ球菌細菌に曝露してから少なくとも4時間以内に、被験体における細菌負荷を少なくとも50%減少させるPNAG/dPNAG結合ペプチドを、該感染を治療するための有効量でブドウ球菌感染の処置を必要とする被験体に投与する工程を包含する、方法。
(項目108)
項目107に記載の方法であって、前記ブドウ球菌感染がS.aureus感染である、方法。
(項目109)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露前に投与される、方法。
(項目110)
項目109に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露の少なくとも4時間前に投与される、方法。
(項目111)
項目109に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露の少なくとも24時間前に投与される、方法。
(項目112)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露の少なくとも4時間以内に、被験体の細菌負荷を少なくとも60%減少させる、方法。
(項目113)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露後2時間以内に、被験体の細菌負荷を少なくとも50%減少させる、方法。
(項目114)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが前記細菌への曝露後2時間以内に、被験体の細菌負荷を少なくとも60%減少させる、方法。
(項目115)
項目105または項目107に記載の方法であって、前記PNAG/dPNAG結合ペプチドが単離抗体または抗体フラグメントである、方法。
【0038】
本発明のこれらおよび他の実施形態が、本明細書においてさらに詳細に記載される。
【0039】
(配列表の簡単な説明)
配列番号1は、抗体F598H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0040】
配列番号2は、抗体F598L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0041】
配列番号3は、抗体F628H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0042】
配列番号4は、抗体F628L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0043】
配列番号5は、抗体F630H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0044】
配列番号6は、抗体F630L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0045】
配列番号7は、抗体F598H鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0046】
配列番号8は、抗体F598H鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0047】
配列番号9は、抗体F598H鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0048】
配列番号10は、抗体F598L鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0049】
配列番号11は、抗体F598L鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0050】
配列番号12は、抗体F598L鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0051】
配列番号13は、抗体F628H鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0052】
配列番号14は、抗体F628H鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0053】
配列番号15は、抗体F628H鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0054】
配列番号16は、抗体F628L鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0055】
配列番号17は、抗体F628L鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0056】
配列番号18は、抗体F628L鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0057】
配列番号19は、抗体F630H鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0058】
配列番号20は、抗体F630H鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0059】
配列番号21は、抗体F630H鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0060】
配列番号22は、抗体F630L鎖CDR1のアミノ酸配列である。
【0061】
配列番号23は、抗体F630L鎖CDR2のアミノ酸配列である。
【0062】
配列番号24は、抗体F630L鎖CDR3のアミノ酸配列である。
【0063】
配列番号25は、抗体F598H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0064】
配列番号26は、抗体F598L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0065】
配列番号27は、抗体F628H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0066】
配列番号28は、抗体F628L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0067】
配列番号29は、抗体F630H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0068】
配列番号30は、抗体F630L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0069】
配列番号31は、抗体F598H鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0070】
配列番号32は、抗体F598H鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0071】
配列番号33は、抗体F598H鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0072】
配列番号34は、抗体F598L鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0073】
配列番号35は、抗体F598L鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0074】
配列番号36は、抗体F598L鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0075】
配列番号37は、抗体F628H鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0076】
配列番号38は、抗体F628H鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0077】
配列番号39は、抗体F628H鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0078】
配列番号40は、抗体F628L鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0079】
配列番号41は、抗体F628L鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0080】
配列番号42は、抗体F628L鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0081】
配列番号43は、抗体F630H鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0082】
配列番号44は、抗体F630H鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0083】
配列番号45は、抗体F630H鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0084】
配列番号46は、抗体F630L鎖CDR1のヌクレオチド配列である。
【0085】
配列番号47は、抗体F630L鎖CDR2のヌクレオチド配列である。
【0086】
配列番号48は、抗体F630L鎖CDR3のヌクレオチド配列である。
【0087】
配列番号49は、プライマーλ定常のヌクレオチド配列である。
【0088】
配列番号50は、プライマーHuλsig5のヌクレオチド配列である。
【0089】
配列番号51は、プライマーH鎖定常のヌクレオチド配列である。
【0090】
配列番号52は、プライマーVH7LDRHUのヌクレオチド配列である。
【0091】
配列番号53は、プライマーHuλsig1のヌクレオチド配列である。
【0092】
配列番号54は、プライマーVH1LDRHUのヌクレオチド配列である。
【0093】
配列番号55は、いくつかの定常領域配列を含む、F598H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0094】
配列番号56は、いくつかの定常領域配列を含む、F598H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0095】
配列番号57は、いくつかの定常領域配列を含む、F598L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0096】
配列番号58は、いくつかの定常領域配列を含む、F628H鎖可変領域のアミノ酸配列である。
【0097】
配列番号59は、いくつかの定常領域配列を含む、F628H鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【0098】
配列番号60は、いくつかの定常領域配列を含む、F630L鎖可変領域のアミノ酸配列である。
配列番号61は、いくつかの定常領域配列を含む、F630L鎖可変領域のヌクレオチド配列である。
【図面の簡単な説明】
【0099】
以下の図面は、本発明を実施可能にするためには必要とされないということが、理解されるべきである。
【図1】図1は、天然PNAGに対するモノクローナル抗体(MAb)(IgG2形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。P.aeruginosa MEPに対するMAbを、負の対照として使用する。
【図2】図2は、dPNAGに対するMAb(IgG2形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。
【図3】図3は、PNAGならびにMAb(IgG2形態の)F598、F628、およびF630を使用した競合ELISAの結果を示すグラフである。
【図4】図4は、天然PNAGに対するMAb(IgG1形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。
【図5】図5は、dPNAGに対するMAb(IgG1形態の)F598、F628、およびF630の結合親和性を示すグラフである。
【図6】図6は、PNAGに対するIgG1およびIgG2の両形態におけるMAb F598、F628、およびF630の補体固定活性を示すグラフである。P.aeruginosa MEPに対するMAbを、負の対照として使用する。
【図7】図7は、IgG1およびIgG2の形態におけるMAb F598、F628、およびF630の、S.aureus菌株Mn8に対するオプソニン食菌作用活性を示すグラフである。
【図8A】図8Aは、P.aeruginosaアルギナートに対する対照のヒトIgG1 MAbか、または(IgG1形態)PNAG/dPNAGに対して特異的なMAbF598が与えられた、マウス(1群あたり8匹)血液中のブドウ球菌レベルを比較した平均結果を示す棒グラフであり、MAb F598が、S.aureusのチャレンジに対して受動的保護を提供し得ることを示している。
【図8B】図8Bは、個々のマウスにおけるS.aureusのチャレンジに対する保護の結果を示すグラフであり、P.aeruginosaアルギナートに対する対照ヒトIgG1 MAb、およびPNAG/dPNAGに対して特有の(IgG1形態の)MAb F598を投与後の、血液1ml当たりのCFUを報告している。
【図8C】図8Cは、MAb F598およびP.aeruginosa MEPに対する対照MAbを使用した個々のFVBマウスにおける、S.aureusのチャレンジに対する保護の結果を示すグラフである。
【図9】図9は、D〜Uの標識を有するE.coli UTI菌株によるPNAG発現を示す免疫ブロット図であり、E.coli pgaを過剰に発現している分離株を含む(右上角)。
【図10】図10は、S.aureus dPNAGに対して生じたポリクローナル抗血清を使用したE.coli分離株の、傷害レベルを示す棒グラフである。
【図11】図11Aおよび図11Bはそれぞれ、dPNAGおよびPNAGに対して生じたポリクローナル抗血清を使用した、相対的に高レベルのPNAGを発現するE.coli分離株(U菌株)、および中間レベルのPNAGを発現するE.coli分離株(P菌株)の、傷害レベルを示すグラフである。
【図12】図12は、F598、F628、およびF630を使用した異なるPNAG発現性細菌株からのCFUの減少を示す棒グラフである。
【図13】icaB遺伝子が存在するために生じる作用、またはicaB遺伝子が不在のために生じる作用として、F598およびF628によって傷害されたS.aureus細菌の割合を示すグラフである。
【図14】図14は、icaB遺伝子の過剰発現の作用として、F598およびF628によって傷害されたS.aureus細菌の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0100】
(発明の詳細な説明)
本発明は、ポリ−N−アセチルグルコサミン(PNAG)を発現する細菌株による感染に対して、特にヒトおよび動物の免疫化、ならびにそのような病原体の検出にとって有用な組成物および方法を提供する。このような細菌株としては、限定されないが、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌およびコアグラーゼ陽性ブドウ球菌(例えば、S.aureusおよびS.epidermis)が挙げられる。本発明はさらに、いくつかの細菌株により発現される種々の形態のPNAGと結合するペプチドを提供する。
【0101】
本発明は、一部、様々な形態のPNAG(下記のような、高度にアセチル化された形態、不十分にアセチル化された形態、および脱アセチル化された形態を含む)と結合する多数のヒトモノクローナル抗体の発見、単離および特徴付けに基づいている。これらの抗体は、ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として、2004年4月21日に、ブダペスト特許条約に従ってATCCに委託したハイブリドーマによって産生される。これらのハイブリドーマ、およびこれらが産生する抗体は、F598、F628、およびF630と指定されている。これらのハイブリドーマは、本明細書において繰り返し言及される。ATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有するハイブリドーマ(またはハイブリドーマにより産生された抗体)に対する言及は、前記のハイブリドーマを意味することが理解されるべきである。この寄託されたハイブリドーマは、ブドウ球菌感染から回復したヒト被験体から採取したB細胞から産生された。このB細胞は、エプスタイン−バーウィルスで形質転換され、次いでヒトマウス骨髄腫細胞株HMMA2.5と融合され、寄託されたハイブリドーマを産生した。
【0102】
PNAGは様々な形態で天然に存在し、その形態は、アセテートの置換の程度によりことなる。アセテートの置換は、0〜100%の範囲に及び得る。本明細書中で使用される場合、PNAGは、天然に存在する前記の範囲でアセテートに置換されたPNAGの混合物に対応する「天然PNAG」のことをいう。不十分にアセチル化されたPNAGは、PNAG多糖類の亜種であり、グルコサミンの50%未満のアミノ基がアセテートで置換されている。本明細書中で使用される場合、用語dPNAGは、不完全にアセチル化されたPNAGおよび完全に脱アセチル化されたPNAGの両方を包含する(すなわち、dPNAGは、0〜50%未満のアセテート置換基を含むPNAG多糖類のサブセットのことをいう)。
【0103】
PNAGは、以下の構造を有し:
【0104】
【化1】
ここで、nは2〜300以上の範囲の整数であり、Rは−NH−CO−CH3および−NH2からなる群から選択される。PNAGは、ベータ(β)1−6結合(すなわちPNAGは、ベータ(β)1−6結合により互いに結合しているグルコサミンモノマー単位からなる)。
【0105】
PNAGは、ホモポリマーであり得る。ホモポリマーは、グルコサミン残基のR基が同一であるホモポリマーである。このホモポリマーは、単独の非置換R基(すなわち、R=NH2)を含み得る。PNAGはまた、Rの位置において−NH2基と−NH−CO−CH3基との混合物を有するヘテロポリマーであり得る。dPNAGは、50%未満のR基が−NH−CO−CH3であることを除き、PNAGと同一の構造を有する。
【0106】
PNAGおよびdPNAGは、天然に存在し得るし、また、この遺伝子座によってコードされた生合成酵素を産生して、PNAGまたはdPNAGを合成するためにこれらの酵素を使用し、ica遺伝子座(またはpga遺伝子座などの相同遺伝子座)を有する任意の細菌株からも調製され得る。PNAGを発現する細菌としては、ブドウ球菌(例えば、S.aureusおよびS.epidermidis)、E.coli(例えば、E.coli O157株:H7株およびCFT073株)、Yersinia pestis、Yersinia entercolitica、Xanthomonas axonopodis、Pseudomonas fluorescens(これらは全て、完全なpgaABCD遺伝子座を有する配列が決定された種である)、ならびにActinobacillus actinomycetemcomitans(AA)、Actinobacillus pleuropneumoniae(Ap)、Ralstonia solanacearum(例えば、メガプラスミド型)、Bordetella pertussis、Bordetella parapertussis、およびBordetella bronchiseptica(これらは全て、pgaABC遺伝子を含有するが、明らかにpgaDホモログは持っていない)が挙げられる。pgaABCがコードするAAおよびAp(前述)などの種がPNAGを作るので、pgaDは、PNAGの発現に必要ではないようだ。
【0107】
PNAGを発現する細菌は、ica遺伝子座または相同遺伝子座(例えば、pga遺伝子座)を有する細菌である。例えば、PNAG発現ブドウ球菌は、ica遺伝子座を有するブドウ球菌である。PNAG発現性細菌株には、dPNAG発現性細菌株が含まれる。例えば、PNAG発現ブドウ球菌には、dPNAG発現ブドウ球菌が含まれる。これらの菌株としては、S.epidermisおよびS.aureus、さらにica遺伝子座または相同遺伝子座(例えば、pga遺伝子座)において遺伝子により形質転換される他の菌株(例えば、S.carnosus)が挙げられるが、これらに限定されない。特に、PNAGは、S.epidermis RP62A(ATCC番号35984)、S.epidermis RP12(ATCC番号35983)、S.epidermis M187、S.carnosus TM300(pCN27)、S.aureus RN4220(pCN27)、S.aureus MN8ムコイド、E.coli O157、およびE.coli CFT073を含む特定の菌株から調製され得る。dPNAGはまた、新たに合成され得るし、天然PNAGを改変することによっても合成され得る。PNAGおよびdPNAGは、Maira−Litranら、Infect Immun.(2002年8月);70(8):4433、および2003年11月12日出願の米国特許出願公開第10/713,790号に記載されている方法に従って調製され得る。
【0108】
PNAGはまた、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis)、Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis(X.axonopodis)、Pseudomonas fluorescens(P.fluorescens)、Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(R.solanacearum)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaを含む他の細菌によっても発現されるが、これらに限定されない。実施例に記載されるとおり、18の尿路感染症E.coli分離株のうち、17の分離株がpga遺伝子座を有した。これらのうち、約3分の1が相対的に高レベルのPNAGを発現し、約3分の1が相対的に中間レベルのPNAGを発現し、そして、残りの3分の1が相対的に低レベルのPNAGを発現した。上記分析は、S.aureus PNAGに対して作られた抗血清を使用して免疫ブロットにより実施された。これは、1種からのPNAGが、PNAGを発現する他種に対する抗体(および、それに応じて結合するペプチド)を生じさせるために使用され得る証拠である。
【0109】
したがって、一局面において、本発明は、結合ペプチドおよび抗体を提供する。本発明の抗体は、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、PNAGを合成する種のオプソニン食菌作用を向上させる(すなわち、ブドウ球菌PNAG/dPNAGに対して特異的なオプソニン食菌作用性ヒトモノクローナル抗体)。この抗体は、本明細書において、抗ブドウ球菌PNAG/dPNAG抗体についていう。しかしながら、これらの抗体は、供給源に関係なくPNAG/dPNAGと結合することができるということが理解されるべきである。したがって、例えばブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、例えばブドウ球菌種のオプソニン食菌作用を検出および/または向上し得ると定義される本発明の抗体はまた、PNAGを発現するブドウ球菌以外の細菌のオプソニン食菌作用も検出および/または向上し得る。
【0110】
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAG抗体は、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合する抗体、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しない抗体、またはc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しない抗体である。好ましい抗体は、dPNAGと結合する抗体である。
【0111】
抗体F598、F628、およびF630はすべて、天然PNAGと結合し得、中にはdPNAGと結合し得るものもある。任意のメカニズムまたは理論によって縛られることは意図しないが、dPNAGを認識する抗体は、アセテート置換などの置換基を含んでいる分子の一部に結合するよりも、むしろアセテート基を含まないPNAG分子の一部に特異的に結合する可能性が高いと考えられている。例えば、dPNAGと結合する抗体は、アセテート置換基よりも、むしろPNAGのバックボーンを認識し、それに結合し得る。これらの抗体は、感染したヒト被験体からのPNAG発現性細菌(例えば限定されないが、ブドウ球菌分離株またはE.coli分離株)のオプソニン食菌作用傷害(opsonophagocytic killing)を媒介し得る。ブドウ球菌感染のネズミモデルにおいてインビボで使用される場合、抗体は、ブドウ球菌抗原投与に対する保護を提供する。各モノクローナル抗体が保護を提供する条件は変化し得る。これらおよび他の知見が、実施例においてより詳細に記載される。
【0112】
いかなる特定の理論にも拘束されることは意図しないが、PNAG発現性細菌による感染(例えば、ブドウ球菌感染)の進行は、病原体を排除する適切な免疫応答を生成できないためであると考えられている。具体的にいうと、欠点のうちの1つは、PNAG(例えば、ブドウ球菌により産生されるPNAG)に対して特異的なオプソニン食菌作用性抗体を産生できないことである。
【0113】
オプソニン食菌作用性抗体は、補体系の成分のさらなる沈着物を補充する能力の有無にかかわらず、抗原または細菌に沈着し、食菌作用性細胞(例えば、マクロファージおよび樹状細胞など、抗原提示細胞)、または多形核の好中球による抗原もしくは細菌の食菌作用を促進する抗体である。食菌作用は、抗原または細菌に結合する抗体のみを必要とするFcの媒介様式で進行し得る。食菌作用はまた、食細胞に補体レセプターを結合させて、抗体を沈着させた細菌表面上のオプソニンを補完することによっても進行し得る。食細胞はまた、これら2つのメカニズムの組み合わせによっても進行し得る。感染部位にオプソニン食菌作用性抗体を提供する能力は、したがって、これまで可能であったよりもさらに効果的に感染の撲滅に寄与するはずである。
【0114】
PNAGおよびdPNAGは共に、インビボにおいて高い免疫原性を示し、オプソニン傷害作用および感染からの保護を媒介する抗体を顕在化させ得、dPNAGは、優先的に、オプソニン傷害作用および感染からの保護を媒介する抗体を顕在化させると仮定される。dPNAG多糖類は、したがって、特に、PNAG発現性細菌株(例えば限定されないが、ブドウ球菌)に対する免疫応答(抗体依存性免疫応答を含む)の誘発に有用である。dPNAGの投与後に顕在化させられた抗体はdPNAGを認識し、重要な実施形態においては、高度にアセチル化された形態のPNAGも認識する。
【0115】
したがって、本発明は、PNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチドの同定および使用に関する。ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチドは、本明細書においてPNAG/dPNAG結合ペプチドとして言及される。また、このような結合ペプチドは、供給源に関わらず、PNAG/dPNAGと結合し得ることが理解されるべきである。PNAG/dPNAG結合ペプチドとしては、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合するペプチド、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しないペプチド(本明細書において、PNAG結合ペプチドと呼ぶ)、ならびにc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しないペプチド(本明細書において、dPNAG結合ペプチドと呼ぶ)が挙げられる。好ましい実施形態において、これらのペプチドは、少なくともdPNAGと結合する(これにより、前述の区分(a)および(c)を包含する)。
【0116】
本発明のペプチドは、PNAG/dPNAGと結合する領域(すなわち、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域)を最小限度に包含する。本明細書中で使用される場合、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域は、PNAG/dPNAGの供給源に関わらず、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合する領域、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しない領域(本明細書において、PNAG結合領域と呼ぶ)、またはc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しない領域(本明細書において、dPNAG結合領域と呼ぶ)である。好ましくは、PNAG/dPNAGが結合する領域は、少なくともdPNAGと結合する領域である(したがって、区分(a)および(b)を包含する)。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域は、本発明の抗体のPNAG/dPNAG結合領域に由来するか、あるいは、機能的に等価なこれら領域の改変体である。
【0117】
したがって、2つの特に重要なクラスの抗体に由来するPNAG/dPNAG結合領域は、本明細書において記載される抗体またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として、2004年4月21日にATCCに寄託されたハイブリドーマにより産生される抗体の、可変領域およびCDRである。CDRおよび可変領域の核酸は、抗体を産生する細胞(例えば、実施例に記載されるように寄託した細胞)からクローン化され得る。
【0118】
当該技術分野において周知の抗体は、ジスルフィド架橋により結合されるポリペプチド鎖の集合である。2つの成分アミノ酸鎖は、L鎖およびH鎖と呼ばれ、抗体のすべての主要な構造アイソタイプを構成する。H鎖およびL鎖の両鎖は、可変領域および定常領域と呼ばれる亜領域へとさらに分割される。ときに、ペプチドは、前記抗体の、抗体H鎖およびL鎖の可変領域を包含する。H鎖可変領域は、一般に、100〜150アミノ酸長の範囲に及ぶペプチドである。L鎖可変領域は、一般に、80〜130アミノ酸長の範囲に及ぶペプチドである。
【0119】
さらに当該技術分野において周知であるように、抗体のCDRは、所与の抗原または抗原エピトープに対する抗体の結合特異性に大きく関与する抗体可変領域の一部である。これらのCDRは、抗原のエピトープと直接的に相互作用する(全般的に、Clark、1986年;Roitt、1991年を参照)。IgG免疫グロブリンのH鎖およびL鎖の両鎖の可変領域には、4つのフレームワーク領域(FR1〜FR4)があり、それぞれ3つの相補性決定領域(CDR1、CDR2、およびCDR3)により区分されている。このフレームワーク領域(FR)は、抗原または抗原エピトープとの相互作用に関与する抗体の部分であるパラトープの三次構造を維持する。CDR、特にCDR3、さらに具体的にはH鎖のCDR3が、抗体特異性に実質的に寄与する。CDRは、特にCDR3は、大部分の抗原特異性を抗体に与えるので、これらの領域は、他の抗体またはペプチドに組み込まれ、同一の抗原特異性をその抗体またはペプチドに与え得る。
【0120】
好ましくは、PNAG/dPNAG結合ペプチドは、本明細書において記載されるCDR、または寄託されたハイブリドーマに由来し得るCDR(すなわち、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR)から、最小限度に、少なくとも1つのCDRを包含する。本明細書中で使用される場合、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRは、本明細書において記載されるCDRであるか、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマに由来するCDRである。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRとしては、PNAG/dPNAGの供給源に関係なく、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合するCDR、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しないCDR(本明細書において、PNAG結合CDRと呼ぶ)、およびc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しないCDR(本明細書において、dPNAG結合CDRと呼ぶ)が挙げられる。これらのペプチドは、好ましくは、少なくとも1つのブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRを含む。
【0121】
このブドウ球菌PNAG/dPNAG結合領域は、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2、またはブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3であり得、これらはすべて、本明細書において開示される抗体および抗体の変異鎖に由来する。
【0122】
本明細書中で使用される場合、「ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR1」は、好ましくは特異的に、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合するCDR1であり、本明細書において記載される抗体、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される抗体のH鎖もしくはL鎖の各々の可変領域に由来する。CDR1は、配列番号7、配列番号10、配列番号13、配列番号16、配列番号19、および配列番号22からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し得る。それぞれ同様の定義が、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2およびCDR3に適用される。
【0123】
「ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR2」は、好ましくは、特異的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合するCDR2であり、本明細書において記載される抗体、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される抗体のH鎖もしくはL鎖の各々の可変領域に由来する。CDR2は、配列番号8、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号20、および配列番号23からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0124】
「ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3」は、好ましくは、特異的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合するCDR3であり、本明細書において記載される抗体、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される抗体のH鎖もしくはL鎖の各々の可変領域に由来する。CDR3は、配列番号9、配列番号12、配列番号15、配列番号18、配列番号21、および配列番号24からなる群から選択されるアミノ酸配列を有し得る。
【0125】
上記配列に加えて、本発明は、下記により詳細に記載するとおり、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のいずれかにおける保存的置換改変体を含むこれらの配列の機能的に等価な改変体を包含することを意図する。
【0126】
本明細書において検討されるオプソニン食菌性抗体(ただし、これに限定されない)を含む本発明のペプチドは、とりわけ、被験体中のサンプルまたは被験体からのサンプル中の、PNAG/dPNAG抗原またはPNAG発現細菌(例えば限定されないが、PNAGを発現するブドウ球菌細菌)を検出することを目的とした診断方法において有用である。最低限、これらの方法において有用なペプチドに必要とされるのは、これらペプチドがまた、オプソニン作用および食菌作用を向上させるかどうかに関わらず、PNAG/dPNAG(例えば、ブドウ球菌PNAG/dPNAG)を認識し、それらと結合することである。重要な実施形態において、抗体およびそれらのフラグメントは、PNAG/dPNAGと選択的に結合する。したがって、抗体およびそれらのフラグメントは、本明細書において記載される抗体クローンに由来するCDR、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として寄託されるハイブリドーマによって産生されるCDRを1つ以上所有することのみを必要とする。好ましい実施形態において、ペプチドは、PNAG/dPNAG結合CDR3を含み、より好ましくは、ペプチドは、H鎖PNAG/dPNAG結合CDR3を含む。必ずしも全てのCDRが、PNAG/dPNAGに対する結合をもたらすために必要とされるわけではないことが、理解されるべきである。しかしながら、いくつかの実施形態において、ペプチドは、本明細書において開示される所与の抗体クローンまたはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生される所与の抗体クローンの全てのCDRを含む。
【0127】
加えて、本発明はまた、本明細書において提供される可変領域間におけるCDRの交換を包含することが理解されるべきである。好ましくは、H鎖CDRは、別のH鎖可変領域CDRと交換され、同様に、L鎖CDRは、別のL鎖可変領域CDRと交換される。
【0128】
本発明において開示される可変鎖のCDRのアミノ酸配列は、以下のとおりである。
【0129】
【数1】
本発明において開示される可変鎖のCDRのヌクレオチド配列は、以下のとおりである。
【0130】
【数2】
これらのペプチドはまた、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合可変領域を含み得る。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合可変領域は、PNAG/dPNAGの供給源に関わらず、a)PNAGおよびdPNAGの両方と結合する可変領域、b)PNAGとは結合するがdPNAGとは結合しない可変領域(本明細書においてPNAG結合可変領域と呼ぶ)、またはc)dPNAGとは結合するがPNAGとは結合しない可変領域(本明細書においてdPNAG結合可変領域と呼ぶ)であり、好ましくは、本明細書において記載されるような抗体可変領域またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマに由来するような抗体可変領域である。
【0131】
本発明は、少なくとも6つの異なる可変領域を提供するが、そのうち少なくとも3つがH鎖可変領域であり、少なくとも3つがL鎖可変領域である。配列番号1および配列番号25は、抗体クローンF598に由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号2および配列番号26は、抗体クローンF598に由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号3および配列番号27は、抗体クローンF628に由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号4および配列番号28は、抗体クローンF628に由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号5および配列番号29は、抗体クローンF630に由来するH鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。配列番号6および配列番号30は、抗体クローンF630に由来するL鎖可変領域のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列に対応する。
【0132】
本発明の核酸またはペプチドは、本明細書において提供される配列または寄託されたハイブリドーマに由来し得るということが、理解されるべきである。これらの配列は、全長の可変領域または全長の可変領域のフラグメントに対応するペプチド、および可変領域を含む抗体を産生するために(例えば、PCRによって)クローンされ、ベクターおよび/または細胞に挿入され得る。したがって、L鎖可変領域およびH鎖可変領域の組み合わせを含む抗体またはそれらのフラグメントを、生じさせることが可能である。例えば、本発明の抗体は、MAb F598からの(または寄託されたF598ハイブリドーマによって産生された抗体からの)H鎖可変領域、およびF630の(または寄託されたF630ハイブリドーマによって産生された抗体からの)L鎖可変領域を含み得る。H鎖およびL鎖の(本明細書において開示されるような、またはATCC当力番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されるハイブリドーマによって産生される抗体に含まれるような)可変領域の組み合せはいずれも、本発明による抗体または抗体フラグメントの合成に使用され得る。
【0133】
したがって、本発明は、以下の可変領域の組み合わせからなる抗体または抗体フラグメントを包含する:配列番号1および配列番号2;配列番号1および配列番号4;配列番号1および配列番号6;配列番号3および配列番号2;配列番号3および配列番号4;配列番号3および配列番号6;配列番号5および配列番号2;配列番号5および配列番号4;ならびに配列番号5および配列番号6。
【0134】
同様に、本発明は、以下の可変領域の組合せからなる抗体または抗体フラグメントを包含する:
1.ATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのL鎖可変領域;
2.ATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのL鎖可変領域;
3.ATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのL鎖可変領域;
4.ATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのL鎖可変領域;
5.ATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのL鎖可変領域;
6.ATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのL鎖可変領域;
7.ATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5931を有するハイブリドーマF598からのL鎖可変領域;
8.ATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5932を有するハイブリドーマF628からのL鎖可変領域;ならびに
9.ATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのH鎖可変領域、およびATCC受託番号PTA−5933を有するハイブリドーマF630からのL鎖可変領域。
【0135】
本発明は、種々のアイソタイプの抗体および抗体フラグメントを捕捉することを意図する。寄託されたハイブリドーマは、IgG2アイソタイプ抗体を産生する。しかしながら、組み換えられた免疫グロブリン(Ig)遺伝子、特に可変領域遺伝子は、実施例において記載されるように寄託されたハイブリドーマから単離され、H鎖およびL鎖の両方のヒトIg定常領域遺伝子をコードするIg組み換えベクターにクローンされ得る。この技術を使用して、ブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合し、それによりPNAG発現細菌(例えば、ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させるIgG1アイソタイプ抗体が同定され、合成され、そして単離された。
【0136】
この抗体は、IgG1アイソタイプ、IgG2アイソタイプ、IgG3アイソタイプ、IgG4アイソタイプ、IgDアイソタイプ、IgEアイソタイプ、IgMアイソタイプ、IgA1アイソタイプ、IgA2アイソタイプ、またはsIgAアイソタイプであり得る。本発明はまた、非ヒトの種、例えば限定されないが、鳥類およびサメ類のIgYにおいて見出されるアイソタイプを捕捉することを意図する。種々のアイソタイプの定常領域をコードするベクターは公知であり、以前に記載されている(例えば、Prestonら、Production and characterization of a set of mouse−human chimeric immunoglobulin G(IgG)subclass and IgA monoclonal antibodies with identical variable regions specific for P.aeruginosa serogroup O6 lipopolysaccharide.Infect Immun.1998年9月;66(9):4137−42;Colomaら、Novel vectors for the expression of antibody molecules using variable regions generated by polymerase chain reaction.J Immunol Methods.1992年7月、31;152(1):89−104;Guttieriら、Cassette vectors for conversion of Fab fragments into full−length human IgG1 monoclonal antibodies by expression in stably transformed insect cells.Hybrid Hybridomics.2003年6月;22(3):135−45;McLeanら、Human and murine immunoglobulin expression vector cassettes.Mol Immunol.2000年10月;37(14):837−45;Wallsら、Vectors for the expression of PCR−amplified immunoglobulin variable domains with human constant regions.Nucleic Acids Res.1993年6月25日;21(12):2921−9;Norderhaugら、Versatile vectors for transient and stable expression of recombinant antibody molecules in mammalian cells.J Immunol Methods.1997年5月12日;204(1):77−87.を参照)。
【0137】
本明細書中で使用される場合、用語「ペプチド」は、モノクローナル抗体、機能的に活性かつ/または機能的に等価な抗体フラグメント、および機能的に活性かつ/または機能的に等価なペプチドおよびポリペプチドを含む。
【0138】
本発明のペプチドは、単離ペプチドである。本明細書中で使用される場合、用語「単離ペプチド」は、そのペプチドが実質的に純粋であり、それらのペプチドと共に天然または意図される使用に実用的かつ適切な程度にインビボ系において見受けられ得る他の物質を、本質的に含んでいないことを意味する。具体的にはこのペプチドは、例えば、薬学的調整物の製造または配列決定に有用であるために十分な程度純粋であり、それらの宿主細胞の他の生物学的成分を含んでいない。本発明の単離ペプチドは、薬剤調製段階で薬学的に受容可能なキャリアと混合され得るため、このペプチドは、その調整物のわずかな重量パーセントのみを構成し得る。それでもなお、生物系において結合し得る物質から実質的に分離されたという点で、このペプチドは実質的に純粋である。
【0139】
本発明のペプチドは、PNAGおよび/またはdPNAGと、好ましくは選択的な様式で結合する。本明細書中で使用される場合、用語「選択的な結合」および「特異的な結合」は、相互交換可能に使用され、PNAG以外に由来する化合物と結合するより大きな親和力でPNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチドおよびそのフラグメントの能力のことをいう。つまり、PNAGおよび/またはdPNAGと選択的に結合するペプチドおよびそれらのフラグメントは、PNAGおよび/またはdPNAGと結合するときと同程度にかつ同じ親和力で、PNAG以外に由来する化合物と結合しない。ただし、PNAG/dPNAGの模倣物となるために作製された交差反応性抗原もしくは分子(例えば、炭水化物のペプチドの模倣物)、またはPNAG/dPNAGと同じ様式でPNAG/dPNAG結合ペプチドと結合する抗イディオタイプ抗体の可変領域は例外である。選択的にPNAGと結合する抗体は、dPNAGと結合するより大きな親和力でPNAGと結合する。dPNAGと結合する抗体もまた、PNAGと結合するより小さなもしくは大きな親和力で、またはそれと同等の親和力でdPNAGと結合し得る。好ましい実施形態において、本発明のペプチドおよびそのフラグメントは、PNAGおよび/またはdPNAGと単独で結合するが、少なくともdPNAGと結合することがより好ましい。本明細書中で使用される場合、選択的にまたは特異的にブドウ球菌PNAG/dPNAGと結合する結合ペプチドはまた、他の供給源からのPNAG/dPNAGとも結合し得、PNAG/dPNAG以外に由来する化合物と(あったとしても)より小さな親和力で結合する。より小さな親和力は、少なくとも10%小さい、20%小さい、30%小さい、40%小さい、50%小さい、60%小さい、70%小さい、80%小さい、90%小さい、または95%小さい親和力を含み得る。したがって、この意味において「選択的な」は、PNAG/dPNAGのブドウ球菌由来の形態と結合するというよりもむしろPNAG/dPNAGと結合することをいう。
【0140】
既に述べたように、本発明は、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合するペプチド(例えば、抗体または抗体フラグメント)を提供する。そのような抗体は、好ましくは、PNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン作用および食菌作用(すなわち、オプソニン食菌作用)を向上させ、結果として、被験体におけるいくつかの形態の細菌感染の予防および治療に有用である。オプソニン作用とは、食菌作用がオプソニン(例えば、抗体および/あるいはC4bもしくはC3bなどのオプソニン補体因子またはオプソニン食菌作用を促進し得る任意の他の因子)が抗原に沈着することよって促進されるプロセスのことをいう。食菌作用およびオプソニン食菌作用とは、食菌細胞(例えば、マクロファージ、樹状細胞、および多形核球(PMNL))が物質を摂取して、細胞質における液胞(例えば、食胞)内にそれを閉じ込めるプロセスのことをいう。したがって、細菌をオプソニン化して食菌作用を向上させる抗体または抗体フラグメントは、抗原を認識してその抗原に沈着し、そうすることで食菌細胞による抗原(および抗原を含んだ物質、例えばブドウ球菌細菌)の摂取および包含を促進する抗体または抗体フラグメントである。一般に、食菌作用およびオプソニン作用を向上させるために、抗体はFcドメインまたは領域を含む。このFcドメインは、Fcレセプターを含んだ細胞(例えば、マクロファージなどといった抗原提示細胞、またはPMNL)によって認識される。本明細書中で使用される場合、「オプソニン食菌作用を向上させること」は、抗体沈着により、抗原または抗原を含んだ基質が、食菌細胞によって認識されて包含される可能性が高まることを意味する。この向上は、インビボにおける細菌負荷の低減、または下記のインビトロの方法を使用するインビトロにおける細菌細胞傷害によって測定され得る。
【0141】
オプソニン作用アッセイは、当該技術分野において広く知られている。一般に、このアッセイは、抗体、(標的細菌細胞で発現される)抗原、補体および食菌細胞の存在下における細菌傷害の量を測定する。動物またはヒトのいずれかの血清は、補体の供給源として一般に使用され、動物またはヒトの多形核細胞は、食菌細胞の供給源として一般に使用される。オプソニン食菌作用傷害の標的細胞は、どの細胞種が抗原を発現するかによって、(本発明と同様に)原核生物か、または真核生物のものであり得る。細胞傷害は、反応成分のインキュベーション前後の生存細胞数によって測定され得る。あるいは、細胞傷害は、反応混合物の上清中の細胞含量(例えば、放射性クロムの放出または乳酸デヒドロゲナーゼなどの細胞内酵素の放出)を測定することによって定量化され得る。ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合する抗体または抗体フラグメントが、さらにオプソニン作用および食菌作用を刺激するかどうかを決定するのに有用である他のアッセイが、本明細書を読まれた当業者には明らかである。
【0142】
本発明は、とりわけ、PNAG発現細菌(例えば限定されないが、ブドウ球菌)のオプソニン傷害作用を向上させる、PNAG/dPNAG特異的ヒトモノクローナル抗体を提供する。これらの抗体は、F598、F628、およびF630と呼ばれる。ヒトにおいてインビボで使用されるとき、ヒトモノクローナル抗体が免疫原性である可能性は(別の種からの抗体と比較して)非常に小さい。結果としてこれらの抗体は、ワクチンおよびPNAGを発現する細菌株(例えば限定されないが、ブドウ球菌)を標的とする受動免疫療法の設計において有用な新規の因子に相当する。
【0143】
これらのモノクローナル抗体の合成は、実施例において記載されている。簡潔に述べると、これらの抗体は次のとおり誘導された:B細胞を、ブドウ球菌感染から回復した個体から採取した。採取されたB細胞を、エプスタイン・バーウィルスを使用して形質転換させ、増殖期およびPNAG/dPNAGに対する抗体分泌についてのスクリーニング期間後、HMMA2.5と呼ばれる不死化ヒト−マウス骨髄腫細胞株パートナーと融合させた。融合細胞の最初の増殖期後、クローンを産生する単一抗体が単離して育て、そして結合アッセイ(例えば、ELISA)を使用して個別に分析した。3つのハイブリドーマを、それらが分泌した抗体の、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合する能力に基づいて選択した。3つの抗体は全て、IgG2アイソタイプの抗体であり、IgG2アイソタイプの抗体の供給源として使用した。可変領域は,上記のとおりPCRによってハイブリドーマからクローンした。
【0144】
抗体のH鎖およびL鎖に対する可変領域の核酸は、H鎖についてはIgG1(γ1)定常領域コード配列、およびL鎖についてはλ定常領域を含んでいるヒトIg発現ベクター(すなわち、TCAE6)にクローンされた(例えば、Prestonら、Production and characterization of a set of mouse−human chimeric immunoglobulin G(IgG) subclass and IgA monoclonal antibodies with identical variable regions specific for P.aeruginosa serogroup O6 lipopolysaccharide.Infect Immun.1998年9月;66(9):4137−42を参照)。可変領域は、定常領域コード配列をコードするいずれのベクターにおいても置かれ得る。例えば、ヒトIgG2、IgG3、IgG4、およびIgAのH鎖定常領域の遺伝子のゲノムクローンを含有し、可変領域遺伝子を欠くヒトIgH鎖定常領域の発現ベクターが、Colomaら、1992年、J.Immunol.Methods、152:89−104に記載されている。
【0145】
次いで、これらの発現ベクターを細胞(例えば、CHO DG44細胞)に形質導入し、この細胞をインビトロにおいて育て、続いて上清からIgG1を採取した。結果として生じる抗体は、ヒト可変領域、ヒトIgG1定常領域、およびλ定常領域を有した。これらの抗体の、PNAGおよび/またはdPNAGと結合し、PNAG発現細菌(例えば、ブドウ球菌)のオプソニン作用および食菌作用を向上させる能力は、本明細書において記載される、結合アッセイおよびオプソニン食菌傷害アッセイを使用して評価された。
【0146】
本明細書において使用される「単離抗体」は、実質的に他の細胞物質から、または本発明の診断方法もしくは治療方法におけるそれらの使用を妨げる他の物質から物理的に分離される(例えば、抗体を産生する細胞から分離される)抗体のことをいう。好ましくは、この単離抗体は、抗体の同質の集団(例えば、モノクローナル抗体の集団)中に存在する。しかしながら、単離抗体の組成物は、他の成分(例えば限定されないが、薬学的に受容可能なキャリア、アジュバントなど)と合わせられ得る。
【0147】
単離ハイブリドーマおよび単離組み換え細胞(例えば、本明細書において記載される単離ハイブリドーマおよび単離組み換え細胞)を含む「単離抗体産生細胞」は、本明細書中で使用される場合、実質的に他の細胞、他の身体物質(例えば、腹水組織および腹水)、および例えば単離されていて好ましくは同質の抗体集団の産生におけるそれらの使用を妨げる他の物質から、物理的に分離されている抗体産生細胞のことをいう。ブダペスト条約の下でATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として、2004年4月21日にATCCに寄託されたハイブリドーマが、単離抗体産生細胞およびより特異的に単離されるハイブリドーマの例であると考えられる。
【0148】
したがって、一実施形態において本発明のペプチドは、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGに対して特異的な、単離されたインタクトな可溶性モノクローナル抗体である。本明細書中で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」は、同一のエピトープ(すなわち、抗原決定基)と特異的に結合する免疫グロブリンの同質の集団のことをいう。一実施形態において本発明のペプチドは、例えば配列番号1、配列番号3、または配列番号5のアミノ酸配列を有するH鎖可変領域を有するモノクローナル抗体である。モノクローナル抗体は、配列番号2、配列番号4、または配列番号6のアミノ酸配列を有するL鎖可変領域を有し得る。L鎖可変領域およびH鎖可変領域の任意の組み合わせを有するモノクローナル抗体が、本発明によって包含される。
【0149】
本発明は、本明細書において記載されるモノクローナル抗体の結合特性を有するという条件で、例えばクローンF598、F628およびF630以外の抗体を包含することを意図する。必要に応じ、これらのさらなる抗体もまた、PNAG発現細菌株(例えば限定されないが、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる。当業者は、本明細書において詳細に記載されるスクリーニングおよび結合アッセイを使用して、これらのモノクローナル抗体の機能的特性(例えば、結合特性、オプソニン作用特性、および食菌作用特性)を有する抗体を容易に同定し得る。
【0150】
他の実施形態において、ペプチドは、抗体フラグメントである。当該分野において周知のとおり、抗体分子の僅かな部分でしかないパラトープは、その抗体分子のエピトープと抗体との結合に関与する(全般的に、Clark,W.R.(1986)The Experimental Foundations of Modern Immunology Wiley & Sons,Inc.,New York;Roitt,I.(1991)Essential Immunology,第7版,Blackwell Scientific Publications,Oxford;およびPier GB,Lyczak JB,Wetzler LM(編)Immunology,Infection and Immunity(2004)第1版,American Society for Microbiology Press, Washington D.C.を参照)。例えば、抗体のpFc’領域およびFc領域は、補体カスケードのエフェクターであり、食菌細胞上のFcレセプターとの結合を媒介し得るが、抗原の結合には関与しない。pFc’領域を酵素により切断した、またはpFc’領域を有さないように産生された抗体は、F(ab’)2フラグメントと呼ばれ、インタクトな抗体の両抗原結合部位を保持する。単離されたF(ab’)2フラグメントは、2つの抗原結合部位を有することから二価モノクローナルフラグメントと呼ばれる。同様に、Fc領域を酵素により切断した、またはFc領域を有さないように産生された抗体は、Fabフラグメントと呼ばれ、インタクトな抗体分子の抗原結合部位のうちの1つを保持する。さらには、共有結合している抗体のL鎖、および抗体のH鎖の一部からなるFabフラグメントは、Fd(H鎖可変領域)と示される。このFdフラグメントは、抗体特異性の主要な決定基であり(単一のFdフラグメントは抗体特異性を変更せずに10本までの異なるL鎖と会合し得る)、Fdフラグメントは単独でエピトープ結合能力を保持する。
【0151】
用語Fab、Fc、pFc’、F(ab’)2およびFvは、それぞれ標準的な免疫学的意味で使用される[Klein,Immunology(John Wiley,New York,NY,1982);Clark,W.R.(1986)The Experimental Foundations of Modern Immunology(Wiley & Sons,Inc.,New York);Roitt,I.(1991)Essential Immunology,第7版(Blackwell Scientific Publications,Oxford);およびPier GB,Lyczak JB,Wetzler LM(編)Immunology,Infection and Immunity(2004)第1版、American Society for Microbiology Press, Washington D.C.]。
【0152】
他の実施形態において、本発明の抗体のFc部分は、本明細書において記載されるモノクローナル抗体のCDR、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933として寄託されるハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体のCDRの一部または全てを含んだヒトIgG抗体およびIgMを産生するために置換され得る。特に重要なのは、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3領域、そしてそれほどまでに重要ではないにせよ、本明細書に記載されるモノクローナル抗体の他のCDRおよびフレームワーク領域の一部、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933として寄託されたハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体の他のCDRおよびフレームワーク領域の一部とを含むことである。そのようなヒトの抗体は、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGを認識し、それ(ら)と好ましく選択的に結合するが、ヒトにおいて抗体自体に対する免疫応答を引き起こさないという点で、特有の臨床的有用性を有する。
【0153】
本発明はまた、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合ペプチドの機能的に等価な改変体を含むことを意図する。「機能的に等価な改変体」は、本発明のペプチドと同じ機能(すなわち、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合する能力、ならびにいくつかの実施形態においては、PNAG発現細菌株のオプソニン作用を促進する能力)を有する化合物である。機能的に等価な改変体は、天然に存在するペプチドであり得るが、これに限定されない。例えば、機能的に等価な改変体は、炭水化物、ペプチド模倣物などであり得る。重要な実施形態において、機能的に等価な改変体は、保存的置換を有する可変領域またはCDRのアミノ酸配列を有するペプチドであり、このペプチドは依然としてブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合し得る。クローンF598(すなわち、配列番号1)のH鎖可変領域からのブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3の機能的に等価な改変体の例には、配列番号1において保存的置換を有するペプチドであり、このペプチドは、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと好ましくは特異的に結合し、必要に応じてPNAG発現細菌株(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン作用を向上させる。本明細書中で使用される場合、「保存的置換」は、アミノ酸配列が起こるペプチドの相対的な電荷または大きさの特性を変更しないアミノ酸置換のことである。アミノ酸の保存的置換には、次の群を有するアミノ酸間でなされる置換が含まれる:(1)M、I、L、V;(2)F、Y、W;(3)K、R、H;(4)A、G;(5)S、T;(6)Q、N;および(7)E、D。
【0154】
機能的に等価な改変体は、本明細書において明確に記載されるペプチドとの同一性を有し得る。つまり、そのような改変体は、本明細書において提供されるアミノ酸配列との少なくとも99%の同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも97%の同一性、少なくとも96%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも94%の同一性、少なくとも93%の同一性、少なくとも92%の同一性、少なくとも91%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも80%の同一性、少なくとも75%の同一性、少なくとも70%の同一性、少なくとも65%の同一性、少なくとも60%の同一性、少なくとも55%の同一性、少なくとも50%の同一性、少なくとも45%の同一性、少なくとも40%の同一性、少なくとも35%の同一性、少なくとも30%の同一性、少なくとも25%の同一性、少なくとも20%の同一性、少なくとも10%の同一性、または少なくとも5%の同一性を有し得る。
【0155】
機能的等価性は、等価な活性(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/もしくはdPNAGと結合すること、またはPNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させること)についていうが、そういった活性のレベルのばらつきも包含する。例えば、機能的等価物は、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと、本明細書において記載されるモノクローナル抗体クローンより小さなもしくは大きな親和力、またはそれと等しい親和力で結合する改変体である。ただし、その改変体が、本発明において依然として有用である(すなわち、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合し、必要に応じてPNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)のオプソニン食菌作用を向上させる)ことが条件である。
【0156】
こういった置換は、当業者に公知の種々の方法によってなされ得る。例えば、アミノ酸置換は、Kunkelの方法(Kunkel,Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.82:488−492,1985)に従う特定部位の突然変異誘発法であるPCR特異的突然変異によって、または特定のCDRをコードする遺伝子もしくは本明細書において記載されるCDRアミノ酸配列を含むペプチドの化学合成によってなされ得る。CDR含有ペプチドを改変するためのこれらの方法および他の方法は、当業者に公知であり、上記したような方法を編集する参考文献(例えば、SambrookまたはAusubel)において見出され得る。しかしながら、いくつかの実施形態においては、CDRの大きさのため、ペプチド合成機(例えば、市販のペプチド合成機)を使用して種々の改変体ペプチドを合成すると、より簡便であり得る。ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDRの機能的に等価な改変体の活性は、下記により詳細に検討される結合アッセイ、また場合によっては生物活性アッセイにより試験され得る。本明細書中で使用される場合、用語「機能的改変体」、「機能的に等価な改変体」および「機能的に活性な改変体」は、相互交換可能に使用される。
【0157】
本明細書中で使用される場合、用語「機能的に活性な抗体フラグメント」は、ブドウ球菌PNAG結合領域またはブドウ球菌dPNAG結合領域を含む本発明の抗体分子フラグメントであって、好ましくは特異的な様式で、それぞれブドウ球菌PNAGまたはdPNAGと結合する能力を保持するものを意味する。そのようなフラグメントは、インビトロおよびインビボの両方において使用され得る。特に、周知の機能的に活性な抗体フラグメントとしては、これらに限定されないが、抗体のF(ab’)2フラグメント、Fabフラグメント、FvフラグメントおよびFdフラグメントが挙げられる。インタクトな抗体のFcフラグメントを欠くこれらのフラグメントは、インタクトな抗体よりも素早く循環系から除去され、それよりも小さな非特異的組織結合性を有する(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983))。別の例として、単鎖抗体は、Ladnerらによる米国特許第4,946,778号に記載される方法に従って構成され得る。そのような単鎖抗体は、可撓性のリンカー部分によって連結されるL鎖およびH鎖の可変領域を含む。単離された可変H鎖シングルドメインを含むシングルドメイン抗体(「Fd」)を入手するための方法もまた、報告されている(例えば、Wardら、Nature 341:644−646(1989)を参照。標的エピトープが単離形態で結合するのに十分な親和力を有する抗体H鎖可変領域(VHシングルドメイン抗体)を同定するスクリーニング法を開示している)。公知の抗体H鎖およびL鎖可変領域配列に基づく組み換えFvフラグメントを作製するための方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、Mooreらによる米国特許第4,462,334号に記載されている。抗体フラグメントの使用および生成について記載している他の参考文献としては、例えば、Fabフラグメント(Tijssen,Practice and Theory of Enzyme Immunoassays(Elsevier,Amsterdam,1985年))、Fvフラグメント(Hochmanら、Biochemistry 12:1130(1973);Sharonら、Biochemistry 15:1591(1976);Ehrlichら、米国特許第4,355,023号)、および抗体分子の一部(Audilore−Hargreaves、米国特許第4,470,925号)が挙げられる。したがって、当業者はブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGに対する抗体の特異性を破壊することなく、インタクトな抗体の様々な部分から抗体フラグメントを構成し得る。
【0158】
本発明の重要な局面において、機能的に活性な抗体フラグメントはまた、PNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌)をオプソニン化および食菌する能力を保持する。この後者の局面の場合、抗体フラグメントは、Fc領域およびエピトープを結合するドメイン含む。このFc領域により、抗体フラグメントがFcレセプター陽性細胞と結合し、続いて抗体のFab領域が結合したエピトープを食菌することを可能とする。
【0159】
加えて、ブドウ球菌PNAG/dPNAG結合CDR3領域を包含するペプチドを含む小ペプチドは、本発明のペプチドを産生するための組み換え方法によって容易に合成または産生され得る。そのような方法は、当業者に周知である。ペプチドは、例えば市販の自動ペプチド合成機を使用して合成され得る。これらのペプチドは、組み換え技術により、このペプチドを発現するDNAを発現ベクターに組み込み、発現ベクターで細胞をペプチドに形質転換し、ペプチドを賛成させることによって産生され得る。
【0160】
ペプチド(抗体を含む)は、当該技術分野において公知の標準的な結合アッセイを使用して、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合するそれらの能力について試験され得る。適切なアッセイの例としては、PNAGおよび/dPNAG(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAG)を(例えば、マルチウェルプレートのウェル中の)表面に固定し、次いで、標識ペプチドと接触させ得る。次いで、PNAGおよび/またはdPNAGと結合する(それにより、表面上に固定される)ペプチドの量は、特定のペプチドがPNAGおよび/またはdPNAGと結合するかどうかを決定するために定量され得る。あるいは、表面に結合しないペプチドの量もまた測定され得る。このアッセイを変形して、ペプチドは、インビトロにおいて成長したPNAG発現コロニーと直接的に結合する能力について試験され得る。
【0161】
ペプチド結合はまた、競合アッセイを使用して試験され得る。試験されるペプチド(抗体を含む)が、モノクローナル抗体またはフラグメントの結合性の減少によって示されるように、本明細書において記載されるモノクローナル抗体または抗体フラグメントと競合するのであれば、このペプチドおよびモノクローナル抗体は、同じかまたは少なくとも一部重複するエピトープと結合する可能性がある。このアッセイシステムにおいて、抗体または抗体フラグメントは標識が付けられ、PNAGおよび/またはdPNAGは、固体表面に固定される。これらのアッセイおよび他のアッセイは、本明細書においてより詳細に記載される。このようにして、競合抗体を含む競合ペプチドが同定され得る。本発明は、ペプチド、および特にPNAG/dPNAGとの結合について抗体F598、抗体F628または抗体F630と競合する抗体(すなわち、F598、F628またはF630と同じエピトープを認識してそれらと結合する抗体)(ならびにそれらのフラグメント)を含む。
【0162】
標準的結合アッセイは、当該技術分野において周知であり、多数の標準的結合アッセイ(ELISA、競合結合アッセイ(上記)、サンドイッチアッセイ、放射性標識ペプチドまたは放射性同位元素標識抗体を使用した放射性受容体アッセイ、免疫アッセイなどを含む)が、本発明に適している。アッセイの性質は、そのアッセイが少数のペプチドの結合を検出するのに十分敏感であるということを本質的に提供しない。
【0163】
種々の他の試薬もまた、結合混合物中に含まれ得る。これらの試薬には、塩類、緩衝剤、中和タンパク質(例えば、アルブミン)、洗浄剤などといった試薬が含まれ、最適な結合を促進するために使用され得る。そのような試薬はまた、反応成分の非特異的相互作用すなわちバックグラウンド相互作用を低減し得る。アッセイの効率を改善する他の試薬もまた、使用され得る。前述したアッセイ物質の混合物は、モノクローナル抗体が通常特異的にPNAGおよび/dPNAG(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAG)と結合する条件下でインキュベントされる。そのような条件は、好ましくは、生理的条件を模倣する。成分の添加順序、インキュベーション温度、インキュベーション時間、およびアッセイの他のパラメータは、容易に決定され得る。そのような実験は、アッセイの基本的な構成の最適化ではなく、単にアッセイのパラメータの最適化を必要とする。インキュベーション温度は、代表的には4℃と40℃との間である。インキュベーション時間は、好ましくは迅速な高スループットのスクリーニングを促進するために最短化され、代表的には0.1時間と10時間との間である。インキュベーション後、ペプチドとPNAGおよび/またはdPNAGとの間の特異的結合の有無が、使用者が使用可能な簡便な任意の方法によって検出される。
【0164】
代表的に、複数のアッセイ混合物を、異なるペプチドまたは異なるペプチド濃度で同時に実行し、様々な濃度に対する異なる応答を得る。これらの濃度の1つを、負の対照(すなわち、PNAGおよび/もしくはdPNAGのゼロ濃度において、またはアッセイ検出限界未満のPNAGおよび/もしくはdPNAG濃度において)に供する。
【0165】
分離工程は、しばしば結合していないペプチドまたは抗体から、結合しているペプチドまたは抗体を分離するために使用される。この分離工程は、種々の方法で成し遂げられ得る。好都合には、成分の少なくとも1つ(例えば、ペプチドまたは抗体)が、PNAGおよび/またはdPNAGとの結合によって固体基質に固定される。結合していない成分は、結合分画から容易に分離され得る。この固体基質は、多種多様な物質から作製され得、そして多種多様な形状であり得る(例えば、ポリアクリルアミド、アガロースまたはセファローズのカラムまたはゲル、マイクロタイタープレート、マイクロビーズ、樹脂粒子など)。この分離工程は、好ましくは複数回のリンスまたは洗浄を包含する。例えば、固形基質がマイクロタイタープレートである場合、ウェルは洗浄溶液で数回洗浄され得、この洗浄溶液は、代表的に特異的結合に関与しないインキュベーション混合物の成分(例えば、塩、緩衝剤、洗剤、非特異的タンパク質など)を含む。固形基質が磁気ビーズである場合は、これらのビーズは洗浄溶液で1回以上洗浄され、マグネットを使用して単離され得る。
【0166】
本明細書においてより詳細に記載されるように、ペプチドはそれだけで使用されるか、または他の分子(例えば、本発明の検出方法および処置方法における検出因子または細胞毒性因子)と結合した状態で使用され得る。
【0167】
代表的に、成分の1つは、通常、検出可能な標識を含むか、または検出可能な標識と結合もしくは結合体化している。検出可能な標識は、その存在が直接的または間接的に確認され得る部分である。一般的に、標識の検出は、標識によるエネルギーの放出を必要とする。この標識は、光量子または特定の波長の他の原子の粒子を放出かつ/または吸収するその標識の能力(例えば、放射能、ルミネセンス、光学濃度、または電子密度など)によって直接的に検出され得る。標識は、別の部分(例えば、FLAGエピトープなどのエピトープタグ、ホースラディシュペルオキシダーゼなどの酵素タグなど)と結合し、それを補充し、ときに切断する能力によって間接的に検出され得、この別の部分自体が、特定の波長の光を放出または吸収し得る。間接的な検出の例には、基質を切断して可視生成物にする第一酵素標識の使用がある。この標識は、化学的、ペプチド的、または核酸分子的性質であり得るが、これらに限定されない。他の検出可能な標識としては、放射性アイソトープ(例えば、P32またはH3)、発光マーカー(例えば、蛍光色素、光学濃度マーカー、もしくは電子密度マーカーなど)、またはエピトープタグ(例えば、FLAGエピトープまたはHAエピトープ)、ビオチン、アビジン、および酵素タグ(例えば、ホースラディシュペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなど)が挙げられる。この標識は、ペプチドの合成中または合成後にペプチドと結合され得る。当業者に公知の多数の異なる標識、および標識化方法がある。本発明において使用し得る標識の種類の例としては、酵素、放射性アイソトープ、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物、および生物発光化合物が挙げられる。当業者は、本明細書に記載されるペプチドに適した他の標識について既知であるか、または慣例的な実験法を使用してそのことを確認し得る。さらに、本発明のペプチドとこれらの標識とのカップリングまたは結合体化は、当業者には一般的である標準的な技術を使用して実施され得る。
【0168】
より高い感度をもたらし得る別の標識化技術は、ペプチドを低分子量のハプテンにカップリングさせることからなる。次いで、これらのハプテンは、第二反応によって特異的に改変し得る。例えば、ハプテン(例えば、アビジンと反応するビオチン、または特定の抗ハプテン抗体と反応し得るジニトロフェノール、ピリドキサルもしくはフルオレセイン)を使用することが一般的である。
【0169】
抗体またはそれらのフラグメントを含むペプチドと検出可能な標識との結合体化は、とりわけ、診断アッセイにおけるそういった因子の使用を容易する。検出可能な標識の別の区分としては、診断用標識および画像化用標識(これらは一般的に、インビボで検出可能な標識と呼ばれる)、例えば、磁気共鳴画像法(MRI):Gd(DOTA);核医学用:201Tl、γ放出放射性核種99mTc;陽子射出断層撮影法(PET)用:陽子射出アイソトープ、(18)F−フッ化デオキシグルコース((18)FDG)、(18)F−フッ化物、銅−64、ガドジアミド、およびPb(II)の放射性同位体(例えば、203Pb);111Inが挙げられる。
【0170】
本明細書において記載される結合体化または改変は、慣用的な化学作用を使用し、この化学作用は本発明の一部をなさず、化学分野の当業者に周知である。保護基および公知のリンカー(例えば、モノニ官能性リンカーおよびヘテロニ官能性リンカー)の使用が、文献において詳しく示されており、ここでは繰り返さない。
【0171】
本明細書中で使用される場合、「結合体化された」は、任意の生理化学的方法により、互いが安定的に結合している2つの実体を意味する。この結合の性質が、それぞれの実体の効果を実質的に損なわないようなものであるということが重要である。これらのパラメータを留意すると、当業者に公知の任意の共有結合または非共有結合の結合が使用され得る。いくつかの実施形態において、共有結合による結合が好ましい。非共有結合による結合体化としては、疎水性相互作用、イオン性相互作用、高親和性相互作用(例えば、ビオチン−アビジン、およびビオチン−ストレプトアビジン錯化)、ならびに他の親和性相互作用が挙げられる。結合のそのような手段および方法は、当業者に周知である。
【0172】
標識を検出するために、その標識および他のアッセイ成分の性質によって、種々の方法が使用され得る。例えばこの標識は、固体基質に結合している間、または個体基質からの分離後に検出され得る。標識は、光学濃度、電子密度、放射線放射、非放射性エネルギー輸送などを通して直接的に、または抗体結合体化、ストレプトアビジン−ビオチン結合体化などを用いて間接的に検出され得る。標識を検出するための方法は、当技術分野において周知である。
【0173】
本明細書において記載されるモノクローナル抗体はまた、本発明のモノクローナル抗体と同じ結合特異性を有する他の抗体を、スクリーニングして同定するために使用し得る抗イディオタイプ抗体を産生するために使用され得る。抗イディオタイプ抗体は、本発明のモノクローナル抗体に存在する特有の決定基を認識する抗体である。これらの決定基は、抗体の超可変領域にある。所与のエピトープと結合して、それにより抗体の特異性に関与するのはこの領域である。そのような抗イディオタイプ抗体は、周知のハイブリドーマ技術(Kohler and Milstein,Nature,256:495,1975年)を使用して産生され得る。一例として、抗イディオタイプ抗体は、被験体にモノクローナル抗体を用いて免疫性を与えることにより調製され得る。免疫性を与えられた被験体は、その免疫性を与えているモノクローナル抗体のイディオタイプ決定基を認識してこれらに応答し、これらのイディオタイプ決定基に対する抗体を産生する。本発明のモノクローナル抗体に対して特異的である、免疫性が与えられた動物の抗イディオタイプ抗体を使用することによって、免疫化に使用されたモノクローナル抗体と同じイディオタイプを有する他のクローンを同定することが可能である。2つの細胞株のモノクローナル抗体間におけるイディオタイプの同一性は、2つのモノクローナル抗体が、同じエピトープ決定基の認識に関して同じであるということを示している。したがって、抗イディオタイプ抗体を使用することにより、同じエピトープ特異性を有するモノクローナル抗体を発現している他のハイブリドーマを同定することが可能である。本発明は、前記の抗体種のすべてを包含することを意図する。
【0174】
抗イディオタイプ抗体はまた、エピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生する抗イディオタイプ技術を使用することが可能であるので、能動免疫法に使用され得る(Herlynら、Science,232:100,1986年)。例えば、第一のモノクローナル抗体に対して作製された抗イディオタイプモノクローナル抗体は、その第一のモノクローナル抗体と結合したエピトープのイメージである超可変領域における結合ドメインを有する。したがって、抗イディオタイプモノクローナル抗体が結合しているドメインが抗原として効果的に作用するので、抗イディオタイプモノクローナル抗体は免疫化のために使用され得る。
【0175】
本発明はさらに、PNAG/dPNAGに対して特異的な第一の抗原結合ドメイン、および別の部分に対して特異的な第二の抗原結合ドメインを含んでいる二重特異性抗体を企図する。PNAG/dPNAGに対して特異的なこの第一の抗原結合ドメインは、任意のPNAG/dPNAG結合ペプチド(本明細書において記載される、またはATCC受託番号PTA−5931、PTA−5932、およびPTA−5933を有する寄託されたハイブリドーマから産生されるもしくはこれらに由来するCDR、可変領域、Fabフラグメントを含む)をも含み得る。第二の抗原結合ドメインは、細菌細胞または宿主細胞といった細胞上の部分に対して特異的であり得る。宿主細胞は、免疫系細胞、または感染した組織からの細胞であり得る。免疫系細胞によって発現される細胞表面分子、または種々の宿主組織細胞からの細胞表面分子に対する抗体は、SigmaまたはBD Biosciences Pharmingenといった供給源により一般に市販されている。当業者は、本明細書における教示および当技術分野における知識に基づいて、このような二重特異性抗体を生成し得る。同様に、本発明はまた、三重特異性抗体を企図する(例えば、二重特異性抗体の生成および三重特異性抗体の生成について、米国特許第5,945,311号、および米国特許第6,551,592号を参照)。
【0176】
本発明のモノクローナル抗体の、特異性に関与する配列が決定された。したがって、本発明に記載のペプチドは、組み換えDNA技術を使用して調整され得る。米国には、この職務を商業的に実施する存在、例えばThomas Jefferson University、およびthe Scripps Protein and Nucleic Acids Core Sequencing Facility(La Jolla,California)がある。例えば、可変領域cDNAは、寄託されたハイブリドーマRNAから、(アミノ酸配列に由来する)縮重プライマーまたは非縮重プライマーを使用して、ポリメラーゼ連鎖反応により調製され得る。このcDNAは、サブクローンされ、従来の配列決定反応または装置によって配列決定するのに十分な量の二本鎖DNAを産生し得る。
【0177】
抗ブドウ球菌PNAG/dPNAGモノクローナル抗体のH鎖およびL鎖可変ドメインの核酸配列の知識を用いて、当業者は、この抗体をコードするか、または上記の種々の抗体フラグメント、ヒト化抗体、もしくはポリペプチドをコードする核酸を産生し得る。このような核酸は、本発明のペプチドのクローン化または発現のために組み換えベクターを形成している他の核酸と作動可能なように結合されることが企図される。本発明は、原核生物であろうと真核生物であろうと、その形質転換、形質導入、遺伝子治療についてのコード配列またはコード配列の一部を含んでいる任意の組み換えベクターも含む。そのようなベクターは、当業者に公知である通常の分子生物学的技術を使用して調製され得、CDR領域(および好ましくはCDR3領域)についての配列、および抗体またはその一部の特異性に寄与しているさらなる可変配列、さらに他の非特異的ペプチド配列についてのDNAコード配列、ならびに搬出または分泌についてのシグナル配列を有する適切なプロモーター(Whittleら、Protein Eng.1:499、1987年、およびBurtonら、Science 266:1024−1027、1994年)、または搬出もしくは分泌についてのシグナル配列を有さない適切なプロモーター(Marascoら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)90:7889、1993年、およびDuanら、Proc.Natl.Acad.Sci(USA)91:5075−5079、1994年)を含む。そのようなベクターは、当業者に公知の従来技術によって、原核細胞(Huseら、Science 246:1275、1989年、Wardら、Nature 341:644−646、1989年;Marksら、J.Mol.Biol.222:581、1991年、およびBarbasら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)88:7978、1991年)もしくは真核細胞(Whittleら、1987年、およびBurtonら、1994年)中に形質転換もしくは形質導入されるか、または遺伝子治療(Marascoら、1993年、およびDuanら、1994年)のために使用され得る。
【0178】
本明細書中で使用される場合「ベクター」は、異なる遺伝環境間の輸送または宿主細胞における発現に対する拘束およびライゲーションによって、所望の配列が挿入され得る多数の核酸のうちのいずれかであり得る。ベクターは、代表的にDNAからなるが、RNAベクターもまた利用可能である。ベクターとしては、これらに限定されないが、プラスミドおよびファージミドを含む。クローニングベクターは、宿主細胞において複製し得、1つ以上のエンドヌクレアーゼ制限部位によってさらに特徴づけられるベクターである。このベクターは、このエンドヌクレアーゼ制限部位において制御可能に切断され得、新たな組み換えベクターが宿主細胞中で複製する能力を保持するように、所望のDNA配列がこのエンドヌクレアーゼ制限部位にライゲーションされ得る。プラスミドの場合、所望の配列の複製は、プラスミドが宿主細菌内においてコピー数を増加させる場合は何度も起こり得、あるいは、宿主が有糸分裂によって繁殖する前に1つの宿主につき一度だけ起こり得る。ファージの場合、複製は、溶菌化段階においては活発に起こるか、または溶原化段階において非活発に起こり得る。発現ベクターは、所望のDNA配列が、調節塩基配列と作動可能に結合されるように拘束およびライゲーションによって挿入され、RNA転写物として発現され得るベクターである。ベクターはさらに、そのベクターで形質変換もしくは形質導入された細胞か、または形質変換もしくは形質導入されていない細胞の同定における使用に適切なマーカー配列を1つ以上含み得る。マーカーとしては、例えば、抗生物質または他の化合物に対する耐性または感受性を増加または減少させるタンパク質をコードしている遺伝子、当該技術分野において公知の標準的なアッセイよってその活性が検出可能な酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼまたはアルカリホスファターゼ)をコードする遺伝子、および形質転換または形質導入された細胞、宿主、コロニーまたはプラークの表現型に明らかに影響する遺伝子が挙げられる。好ましいベクターは自律複製し得、かつベクターが作動可能に結合するDNAセグメントに存在する構造遺伝子産物を発現し得るベクターである。
【0179】
本発明の発現ベクターは、本発明のペプチドのうちの1つをコードするヌクレオチド配列と作動可能に結合した調節塩基性配列を含む。本明細書中で使用される場合、用語「調節塩基性配列」は、所望のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の転写に必要もしくは有益であり、かつ結果として生じる所望のポリペプチドへの転写物の翻訳に必要もしくは有益であるヌクレオチド配列、またはそのどちらかに必要もしくは有益なヌクレオチド配列を意味する。調節塩基性配列としては、これらに限定されないが、5’配列(例えば、オペレーター、プロモーター、およびリボソーム結合配列)、および3’配列(例えば、ポリアデニル化シグナル)が挙げられる。本発明のベクターは、必要に応じて、5’リーダー配列またはシグナル配列、タンパク質精製を助ける融合生成物をコードする5’配列または3’配列、および形質転換体の同定または選択を助ける種々のマーカーを含み得る。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および裁量の範囲内である。続くペプチドの精製は、当該技術分野において公知である種々の標準的な方法のうちのいずれかによって達成され得る。
【0180】
ペプチドのスクリーニングに好ましいベクターは、必ずしも本発明のペプチドの量産に好ましいわけではないが、ヌクレオチド配列を含んでいる組み換えDNA分子であり、このヌクレオチド配列は、融合ポリペプチドをコードし、融合ポリペプチドを発現し得、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に、(1)原核生物の分泌シグナルドメイン、(2)本発明のポリペプチド、および必要に応じて(3)融合タンパク質ドメインを含む。このベクターは、融合ポリペプチドを発現するためのDNA調節塩基性配列、好ましくは原核生物の調節塩基性配列を含む。そのようなベクターは、当業者によって構築され得、Smithら(Science 228:1315−1317、1985年)、Clacksonら(Nature 352:624−628、1991年);Kangら(「Methods:A Companion to Methods in Enzymology:第2巻」R.A.Lerner、およびD.R.Burton編、Academic Press,NY、pp111−118、1991年);Barbasら(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)88:7978−7982、1991年)、Robertsら(Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)89:2429−2433、1992年)によって記載されている。
【0181】
融合ポリペプチドは、本発明のペプチドの精製に有用であり得る。例えば、融合ドメインは、市販のベクターであるpMAL(New England BioLabs,Beverly,MA)のNi+カラムまたはマルトース結合タンパク質を利用した精製を可能にするポリ−Hisテールを含む。決して必須ではないが、現在のところ好ましい融合ドメインは繊維状ファージ膜アンカーである。このドメインは、特にモノクローナル抗体のファージ提示ライブラリーのスクリーニングに有用であるが、抗体の量産に対しては有用性がそれより小さいこともあり得る。この繊維状ファージ膜アンカーは、好ましくは、繊維状ファージ粒子のマトリックスと会合し、それによって融合ポリペプチドをこのファージの表面に組み込んで、固相が特定の抗原またはエピトープと結合することを可能とし、それにより、ファージミドベクターによってコードされた特定の抗体またはフラグメントの濃縮および選定を可能とし得るcpIIIまたはcpVIIIコートタンパク質のドメインである。
【0182】
分泌シグナルは、宿主細胞のタンパク質膜(例えば、グラム陰性細菌のペリプラズム膜)を標的とするタンパク質のリーダーペプチドドメインである。E.coliに対する好ましい分泌シグナルは、pelB分泌シグナルである。pelB遺伝子が産生するErwinia carotovaからの2つの改変体に由来する分泌シグナルドメインの予測されるアミノ酸残基配列は、Leiらによる文献(Nature 381:543−546、1988年)に記載されている。pelBタンパク質のリーダー配列は、以前は融合タンパク質に対する分泌シグナルとして使用されていた(Betterら、Science 240:1041−1043、1988年;Sastryら、Proc.Natl.Acad.Sci(USA)86:5728−5732、1989年;およびMullinaxら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87:8095−8099、1990年)。本発明において有用なE.coliに由来する他の分泌シグナルポリペプチドドメインについてのアミノ酸残基配列は、Oliverによる文献(Neidhard,F.C.(編)Escherichia coli and Salmonella Typhimurium,American Society for Microbiology,Washington,D.C.,1:56−69,(1987))に見出され得る。
【0183】
E.coliにおいて高レベルな遺伝子発現を達成するためには、大量のmRNAを生じさせるための強力なプロモーターだけでなく、確実にmRNAが効率良く翻訳されるためのリボソーム結合部位も使用する必要がある。E.coliにおいて、リボソーム結合部位は、開始コドン(AUG)および開始コドンから3〜11ヌクレオチド上流側に位置する3〜9ヌクレオチドの長さの配列を含む(Shineら、Nature 254:34、1975年)。配列AGGAGGUはShine−Dalgarno(SD)配列と呼ばれ、E.coli 16S rRNAの3’末端を補完する。リボソームのmRNAおよびmRNAの3’末端における配列への結合は、いくつかの要因によって影響され得る:(i)SD配列と16S rRNAの3’末端との間の補完性の程度;(ii)SD配列とAUGとの間にあるスペーシングおよび場合によりDNA配列(Robertsら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:760.、1979a年:Robertsら、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)76:5596、1979b年;Guarenteら、Sience 209:1428、1980年;およびGuarenteら、Cell 20:543、1980年)。最適化は、このスペーシングが体系的に改変されるプラスミド中の遺伝子の発現レベルを測定することによって達成される。異なるmRNAの比較は、位置−20から+13(ここで、AUGのAは位置0である)に統計的に好ましい配列があることが示している(Goldら、Annu.Rev.Microbiol.35:365、1981年)。リーダー配列は、目覚しく翻訳に影響を及ぼすことが示されている(Robertsら、1979a年および1979b年(前出));ならびに(iii)AUGに続き、リボソーム結合に影響するヌクレオチド配列(Taniguchiら、J.Mol.Biol.、118:533、1978年)。
【0184】
3’調節塩基性配列は、異種の融合ポリペプチドに作動可能に連結され、フレームにおいて少なくとも1つの終止(停止)コドンを規定する。
【0185】
原核生物の発現宿主を用いた好ましい実施形態は、使用されるベクターが、原核生物の複製起点またはレプリコン、すなわち、組み換えDNA分子で形質転換された原核生物宿主細胞(例えば、細菌宿主細胞)において、その組み換えDNA分子の自律複製および維持を染色体外に指示する能力を有するDNA配列を含む。そのような複製起点は、当該技術分野において周知である。好ましい複製起点は、宿主生物において有効な複製起点である。好ましい宿主細胞はE.coliである。E.coliにおけるベクターの使用にとって、好ましい複製起点は、pBR322および種々の他の一般的なプラスミドにおいて見受けられるColE1である。また、pACYCおよびその誘導体で見出されるp15A複製起点が好ましい。ColE1およびp15Aレプリコンは、分子生物学において広範に使用されており、種々のプラスミドにおいて利用可能であり、Sambrookらによる文献(Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年)に記載されている。
【0186】
加えて、原核生物レプリコンを含むような実施形態は、好ましくは、その発現が選択的有利性(例えば、薬剤耐性)をそれで形質転換された細菌宿主に与える遺伝子も含む。典型的な細菌性薬物耐性遺伝子は、アンピシリン、テトラサイクリン、ネオマイシン/カナマイシン、またはクロラムフェニコールに対する耐性を与える遺伝子である。ベクターはまた、代表的に翻訳可能なDNA配列の挿入に好都合な制限部位を含んでいる。例示的なベクターは、プラスミドpUC18およびpUC19、ならびに誘導ベクター(例えば、Invitrogen(San Diego,CA)から入手可能なpcDNAII)である。
【0187】
本発明のペプチドがH鎖およびL鎖の両配列を含んでいる抗体である場合、これらの配列は、別個のベクターでコードされるか、またはより好都合には、単一のベクターによって発現され得る。H鎖およびL鎖は、翻訳後または分泌後に、天然の抗体分子のヘテロダイマー構造を形成し得る。このようなヘテロダイマー抗体は、H鎖とL鎖との間のジスルフィド結合によって安定化され得るかまたはされ得ない。
【0188】
ヘテロダイマー抗体の発現についてのベクター(例えば、本発明のインタクトな抗体、または本発明のF(ab’)2、FabもしくはFvフラグメント抗体)は、翻訳可能な第一および第二のDNA配列の受け取りおよび発現に適合している組み換えDNA分子である。つまり、ヘテロダイマー抗体を発現するためのDNA発現ベクターは、2つの翻訳可能DNA配列を、ベクターに存在する2つの別個のカセットへ独立的にクローンニング(挿入)するためのシステムを提供し、ヘテロダイマー抗体の第一および第二のポリペプチドを発現するための2つの別個のシストロンを形成する。2つのシストロンを発現するためのDNA発現ベクターは、ジシストロン(dicistronic)発現ベクターと呼ばれる。
【0189】
好ましくは、このベクターは、上流および下流DNA調節塩基性配列を含む第一のカセットを含み、指向性ライゲーションに適合するヌクレオチド配列を通じて挿入DNAと作動可動に連結される。この上流翻訳可能配列は、好ましくは、上記のように分泌シグナルをコードする。このカセットは、第一の抗体ポリペプチドを発現するためのDNA調節塩基性配列を含み、この第一の抗体ポリペプチドは、挿入翻訳可能DNA配列(挿入DNA)が、指向性ライゲージョンに適合するヌクレオチド配列により、カセットに指向性をもって挿入される場合に産生される。
【0190】
ジシストロン発現ベクターはまた、第二の抗体ポリペプチドを発現するための第二のカセットを含む。第二のカセットは、好ましくは上記のように分泌シグナルをコードする第二の翻訳可能DNA配列を含み、その3’末端において、指向性ライゲーションに適合するヌクレオチド配列を通し、カセットのリーディングフレーム中の少なくとも1つの終止コドンを代表的に規定するベクターの下流DNA配列と作動可能に連結している。第二の翻訳可能DNA配列は、その5’末端において、DNA調節塩基性配列と作動可能に連結し、5’エレメントを形成している。第二のカセットは、翻訳可能DNA配列(挿入DNA)の挿入の際に、ポリペプチドが挿入DNAによってコードされる、分泌シグナルを含む第二の融合ポリペプチドを発現し得る。
【0191】
本発明のペプチドはまた、真核生物細胞(例えば、CHO細胞、ヒトハイブリドーマ、不死化B−リンパ芽球様細胞など)によって産生され得る。この場合、真核生物の調節塩基性配列が、ペプチドをコードしているヌクレオチド配列と作動可能に連結しているベクターが構築される。適切な真核生物のベクターの設計および選択は、当業者の能力および裁量の範囲内である。続くペプチドの精製は、当該技術分野において公知である種々の標準的な方法のうちのいずれかによって達成され得る。
【0192】
別の実施形態において、本発明は、本発明のベクターで形質転換またはトランスフェクトされた、したがってそのベクターを含む原核生物および真核生物の両方の宿主細胞を提供する。
【0193】
核酸に関して本発明で使用されるとき、用語「単離された」は(i)インビトロにおいて、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって増幅されたこと;(ii)クローニングによる組み換え的に産生されること;(iii)(例えば)切断およびゲル分離により精製されること;または(iv)例えば、化学合成によって合成されることを意味する。単離核酸は、当該技術分野において周知の組み換えDNA技術により容易に操作可能な核酸である。したがって、その中の5’および3’制限部位が知られているか、またはそれについてのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プライマー配列が開示されているベクターに含まれているヌクレオチド配列は、単離していると考えられるが、天然の宿主において天然のままで存在する核酸配列は単離しているとは考えられない。単離核酸は、実質的に純粋である得るが、純粋である必要はない。例えば、クローニングベクターまたは発現ベクター内で単離されている核酸は、その核酸が存在する細胞内の物質の僅かな部分のみを含み得るという点で純粋ではない。しかしながら、核酸は当業者に公知の標準的な技術によって容易に操作可能であるため、単離核酸という用語が本明細書中で使用される場合、その核酸は単離されている。
【0194】
本明細書中で使用される場合、コード配列と調節塩基性配列とが「作動可能に連結された」は、調節塩基性配列の影響および制御のもと、コード配列の発現または転写をもたらすためにそれらが共有結合している場合に言われる。コード配列が機能タンパク質へと翻訳されることが望まれる場合、2つのDNA配列は作動可能に連結されていると言うが、ただしそれは、それらの5’調節塩基性配列中のプロモーターの導入がコード配列の転写を引き起こし、2つのDNA配列間における結合の性質が、(1)フレームシフト突然変異の導入を引き起こさない、(2)コード配列の転写を命令するプロモーター領域の能力を妨げない、または(3)対応するRNA転写物の能力を妨げずにタンパク質へと翻訳する場合である。したがって、結果として生じる転写物が所望のタンパク質またはポリペプチドへと翻訳され得るように、プロモーター領域がそのDNA配列の転写を実施し得る場合、プロモーター領域は作動可能にコード配列と連結されている。
【0195】
遺伝子発現に必要とされる調節塩基性配列の正確な特徴は、種間または細胞型間で異なり得るが、一般には、それぞれ転写および翻訳の開始に関連する5’非転写配列および5’非翻訳配列(例えば、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列など)を必要に応じて必ず含む。特に、そういった5’非転写調節塩基性配列は、作動可能に連結した遺伝子の転写制御についてのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。調節塩基性配列はまた、所望のとおり、エンハンサー配列または上流活性化配列を含み得る。
【0196】
本発明はまた、本明細書において記載されるペプチドの、インビボおよびインビトロ方法での使用を包含することを意図する。本発明の方法は、PNAG発現細菌による感染(例えば、ブドウ球菌感染)の診断および処置に有用である。「ブドウ球菌」は、本明細書中で使用される場合、PNAG抗原を発現する全てのブドウ球菌細菌種について言及する。ブドウ球菌として分類される細菌は、当該技術分野において周知であり、微生物学文献に記載されている。PNAG発現ブドウ球菌としては、これらに限定されないが、Staphylococcus epidermidis(RP62A(ATCC番号35984)、RP12(ATCC番号35983)およびM187を含む)、Staphylococcus aureus(RN4220(pCN27)およびMN8ムコイドを含む)、およびica遺伝子座の遺伝子で形質転換されたStaphylococcus carnosusなどの菌株(TM300(pCN27)を含む)が挙げられる。PNAGを発現する他の細菌株は生来、pga遺伝子座を有するか、またはpga遺伝子座で形質転換される。例としては、E.coli、Yersinia pestis(Y.pestis),Y.entercolitica、Xanthomonas axonopodis、Pseudomonas fluorescens(これらはすべて、完全なpgaABCD遺伝子座を有する配列決定された種である)、ならびにActinobacillus actinomycetemcomitans(A.actinomycetemcomitans)、A.pleuropneumoniae、Ralstonia solanacearum(例えば、メガプラスミド型)、Bordetella pertussis(B.pertussis)、B.parapertussis、およびB.bronchisepticaが挙げられる。PNAGを発現する他の細菌株は、当業者によって容易に同定され得る。例えば、icaまたはpga遺伝子座を有する細菌は、PNAGを産生し得る。icaおよびpga遺伝子座の核酸配列は公知であるので、当業者はicaまたはpga遺伝子座に関連するmRNAまたはタンパク質の発現を容易にスクリーニングし得る(S.epidermidisについてはHeilmann,C.,O.Schweitzer,C.Gerke,N.Vanittanakom,D.MackおよびF.Gotz(1996)Molecular basis of intercellular adhesion in the biofilm−forming Staphylococcus epidermidis.Molec.Microbiol.20:1083、およびS.aureusについてはCramton SE,Gerke C,Schnell NF,Nichols WW,Gotz F.、The intercellular adhesion(ica)locus is present in Staphylococcus aureus and is required for biofilm formation.Infect Immun.1999年10月;67(10):5427−33;Blattner,F.R.,G.Plunkett III,C.A.Bloch,N.T.Perna,V.Burland,M.Riley,J.Collado−Vides,J.D.Glasner,C.K.Rode,G.F.Mayhew,J.Gregor,N.W.Davis,H.A.Kirkpatrick,M.A.Goeden,D.J.Rose,B.MauおよびY.Shao.1997年.The complete genome sequence of Escherichia coli K−12.Science 277:1453−1474に記載されており、Blattnerらに報告される遺伝子はycdSRQPと呼ばれ、Wangら、J.Bacteriology、2004年5月、p.2724−2734、第186巻、第9号においてpgaABCDと改名されている)。加えて、細菌株の莢膜は単離され、液体クロマトグラフィおよび質量分析を用いて分析され得る。
【0197】
本発明によって提供される検出または診断方法は、概して、本発明の1つ以上のペプチドを被験体中のサンプルまたは被験体からのサンプルと接触させる工程を含む。インビボ検出方法もまた構想されるが、第一にこのサンプルが被験体から採取されることが好ましい。このサンプルは、細菌のすみかとなっている可能性のあるどのような生体組織または体液も含み得る。例えば、ブドウ球菌感染は、本質的に人体のすべての組織、臓器および流体において起こり得るが、皮膚、骨、間接、肺、および血液に感染しているブドウ球菌感染が、最も一般的に見受けられる。E.coli感染は、例えば、尿生殖器道ならびに他の組織および位置において起こり得る。Y.pestis感染は、皮膚における腺ペストおよび肺における肺ペストの原因となる。B.pertussis感染は、気道において百日咳(whopping cough)の原因となる。本質的に体液、組織、または臓器(例えば、皮膚、骨、間接、肺、粘膜(例えば、痰)および血液)を、細菌の存在について試験され得る。
【0198】
本明細書中で使用される場合、用語「処置」は、医学的に望ましい利益を達成する目的でなされる被験体に対するペプチドの投与について言及する。したがって、「処置」には、「予防的」処置方法および「治療的」処置方法の両方を包含されることを意図する。予防的処置方法は、感染(例えば、ブドウ球菌感染)の診断に先立ち、被験体に投与される処置について言及する。つまり、この被験体は感染の恐れはあり得るが、感染(例えば、ブドウ球菌感染)の症状を呈していない。治療的処置方法は、感染(例えば、ブドウ球菌感染)の診断後に被験体に投与される処置について言及する。つまり、この被験体は、(例えば、ブドウ球菌に)感染していると診断されたか、あるいは、そのような感染に関連する症状を示し得る。
【0199】
本発明の抗PNAG/dPNAG抗体は、感染因子に対する曝露の危険性がある被験体において受動免疫を誘発し、全身性の感染および疾患の顕出を予防または制限するのに有用である。PNAG発現細菌(例えば、S.aureusといったブドウ球菌)による感染に対する受動免疫性を誘導するための方法は、被験体に有効量の抗PNAG/dPNAG抗体(例えば、S.aureusといったブドウ球菌のオプソニン作用を引き起こす抗PNAG/dPNAG抗体)を投与することによって実施される。「受動免疫性」は、本明細書中で使用される場合、被験体に対する抗体の投与を含み、これらの抗体が細菌の表面に付着し、細菌が食菌される原因となるように、(同じ種および異なる種の被験体を含む)異なる被験体において抗体が産生される。
【0200】
抗PNAG/dPNAG抗体は、PNAGを発現する細菌による感染(例えば、PNAG発現ブドウ球菌感染)を顕出する危険性のある任意の被験体に投与されて受動免疫性を誘導し得、いくつかの実施形態において、PNAGおよび/またはdPNAGに対する能動免疫を誘導し得ない被験体に特に適し得る。免疫応答を誘導し得ない被験体は、免疫無防備状態の被験体(例えば、化学療法を受けている患者、AIDS患者など)、または免疫系がまだ発達していない被験体(例えば、早産新生児)である。
【0201】
「被験体」は、本明細書中で使用される場合、温血哺乳動物であり、これらに限定されないが、ヒト、霊長類、畜産動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジおよびニワトリ)、およびペット(例えば、イヌおよびネコ)を含む。いくつかの実施形態において、この被験体は非齧歯類の被験体である。非齧歯類の被験体は、上記に定義される任意の被験体であるが、特にマウス、ラット、およびウサギといった齧歯類を除外する。いくつかの実施形態において、好ましい被験体はヒトである。ときに、この被験体は、股関節置換または膝置換といった人工器官を有するか、またはそういった人工器官を受ける予定である人となる。なぜなら、そのようなデバイスは、特に細菌による転移増殖の傾向があるためである。本明細書において記されるように、本発明のいくつかの局面は、植物における感染の検出および処置も提供する。
【0202】
本発明の抗PNAG/dPNAG抗体は、PNAG発現細菌(例えば、S.aureusなどのブドウ球菌)に対する免疫を誘導するための有効量で被験体に投与される。「PNAG発現細菌に対する免疫を誘導するための有効量」は、(i)そういった細菌による感染がその細菌に曝露される被験体において起こることを妨げる;(ii)感染の顕出を阻害する(すなわち、感染の顕出を阻止するかまたは遅らせる);および/または(iii)感染の影響を軽減する(すなわち、感染した被験体において、細菌負荷を軽減するかまたは細菌を完全に根絶する)のに十分な抗PNAG/dPNAG抗体の量である。例として、「ブドウ球菌に対する免疫性を誘導するための有効量」は、本明細書中で使用される場合、(i)ブドウ球菌による感染がブドウ球菌に曝露される被験体において起こることを妨げる;(ii)感染の顕出を阻害する(すなわち、感染の顕出を阻止するかまたは遅らせる);および/または(iii)感染の影響を軽減する(すなわち、感染した被験体において、細菌負荷を軽減するかまたは細菌を完全に根絶する)のに十分な抗PNAG/dPNAG抗体の量である。
【0203】
当業者に公知の慣例的な方法を使用して、抗体のオプソニン作用の程度を予測するインビトロオプソニン作用アッセイにより、抗PNAG/dPNAG抗体の量が、「感染に対する免疫性を誘発するための有効量」であるかどうかを決定し得る。PNAG発現細菌(例えば、PNAG発現ブドウ球菌細菌)をオプソニン化する抗体は、そのような細菌の試料に加えられたときに細菌の食菌作用を引き起こす抗体である。オプソニン作用アッセイは、比色定量アッセイ、化学発光アッセイ、蛍光または放射標識取り込みアッセイ、細胞媒介殺菌アッセイ、または物質のオプソニンポテンシャルを測定する他のアッセイであり得る。
【0204】
投与の形態により、1ng/kg〜100mg/kgの範囲におよぶ抗体用量が効果的である。好ましい範囲は、500ngと500μg/kgとの間であり、最も好ましくは、1〜100μg/kgの間であると考えられる。絶対量は、その投与が細菌にまだ感染していないが感染の危険性が高い被験体に対して実施されるのか、それとも既に感染している被験体に対して実施されるのかということ、並行処置、用量数、および患者それぞれのパラメータ(年齢、身体的状態、背格好、体重を含む)を含む種々の要因に依存する。これらは、当業者に周知の要因であり、慣例的な実験法でも取り組まれ得る。一般的には、最大用量、つまり健全な医学的判断に従う最大安全用量を使用することが好ましい。
【0205】
本発明の抗体の複数用量もまた企図される。一般的に免疫化スキームは、高用量の抗体投与後数週間の待機期間に続く低用量の抗体投与を必要とする。さらなる用量の投与もあり得る。受動免疫化のための投与スケジュールは、より頻繁な投与を必要とし得る。特定のPNAG/dPNAG抗体の複数用量の供給に望ましい時間間隔は、当業者により慣例的な実験法を使用すれば決定され得る。
【0206】
種々の投与経路が実施可能である。選択される特定の形態は、当然ながら、選択される特定の抗PNAG/dPNAG抗体、処置される特定の状態、および治療効力に必要とされる投与量に依存する。本発明の方法は、一般的に言うと、医学的に受容可能な投与形態、つまり、臨床的に受容不可能な副作用の原因とならない効果的なレベルの保護を生じる形態を使用して実施され得る。好ましい投与形態は、非経口経路である。用語「非経口の」は、皮下注射または注入技術、静脈内注射または注入技術、筋肉内注射または注入技術、腹腔内注射または注入技術、および胸骨内注射または注入技術を含む。他の経路としては、これらに限定されないが、口、鼻、皮膚、舌下、および局所が挙げられる。
【0207】
本発明の抗PNAG/dPNAG抗体は、他の抗細菌薬物(例えば、抗生物質)または他の抗細菌抗体と結合体化して与えられ得る。細菌感染の処置における抗体の使用は慣例的である。一般的な投与ビヒクル(例えば、錠剤、インプラント、注射可能溶液など)は、本発明の抗体ならびに抗細菌薬および/または抗体の両方を含み得る。あるいは、抗細菌薬物および/または抗体は、別個に投薬され得る。抗細菌薬物または抗体はまた、抗PNAG/dPNAG抗体と結合体化され得る。
【0208】
抗細菌薬は周知であり、ペニシリンG、ペニシリンV、アンピシリン、アモキシリン、バカンピシリン、シクラシリン(cyclacillin)、エピシリン、ヘタシリン、ピバンピシリン(pivampicillin)、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、カルベニシリン、チカルシリン、アブロシリン(avlocillin)、メズロシリン、ピペラシリン、アムジノシリン(amdinocillin)、セファレキシン、セフラジン、セファドロキシル(cefadoxi)、セファクロール、セファゾリン、セフロキシムアキセチル(cefuroxime axetil)、セファマンドール、セフォニシド、セフォキシチン、セフォタキシム、セフチゾキシム、セフメノキシン、セフトリアキソン、モキサラクタム、セフォテタン、セフォペラゾン、セフタジジム(ceftazidme)、イミペネム、クラブラナート(clavulanate)、チメンチン(timentin)、スルバクタム、ネオマイシン、エリスロマイシン、メトロニダゾール、クロラムフェニコール、クリンダマイシン、リンコマイシン、バンコマイシン、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、アミノグリコシド、キノロン、テトラサイクリンおよびリファンピン(GoodmanおよびGilmanによるPharmacological Basics of Therapeutics、第8版、1993年、McGraw Hill Inc.を参照)。
【0209】
本発明の方法によると、ペプチドは、薬学的組成物として投与され得る。一般に、薬学的組成物は、本発明のペプチドおよび薬学的に受容可能なキャリアを含む。ペプチド、モノクローナル抗体、および抗体フラグメントに対する薬学的に受容可能なキャリアが当業者に周知である。本明細書中で使用される場合、薬学的に受容可能なキャリアは、活性成分の生物活性効果(例えば、ブドウ球菌PNAGおよび/またはdPNAGと結合し、必要に応じてオプソニン作用および食菌作用を向上させるペプチドの能力)を妨げない非毒性物質を意味する。
【0210】
薬学的に受容可能なキャリアとしては、希釈剤、充填剤、塩類、緩衝剤、安定剤、可溶化剤、および当該技術分野において周知の他の物質が挙げられる。ペプチドに対する例示的な薬学的に受容可能なキャリアは、特に米国特許番号5,211,657号に記載される。そのような調製物は慣例的に、塩類、緩衝因子、保存剤、適合性キャリア、および必要に応じて他の治療因子を含み得る。医薬中に使用される場合、塩類は薬学的に受容可能であるべきだが、薬学的に受容不可能な塩類は、それらの薬学的に受容可能な塩類を調製するために好都合に使用され得、本発明の範囲から除外されない。そのような薬理学的かつ薬学的に受容可能な塩類としては、これらに限定されないが、次の酸から調製された塩類を含む:塩化水素酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。また、薬学的に受容可能な塩類は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、またはカルシウム塩)として調製され得る。
【0211】
本発明のペプチドは、固形、半固形、液状、ガス状の形態(例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、軟膏剤、液剤、デポジット(depositories)、吸入剤および注射剤)および経口投与、非経口投与または外科的投与についての通常の方法での調製物へ処方され得る。本発明はまた、(例えば、インプラントによって)局所的投与のために処方される薬学的組成物を包含する。
【0212】
経口投与に適した組成物は、個別の単位、例えば、カプセル剤、錠剤、トローチ剤として与えられ得、所定量の活性因子をそれぞれ含んでいる。他の組成物としては、水性液体または非水性液体中の懸濁剤、例えば、シロップ剤、エリキシル剤、または乳剤が挙げられる。
【0213】
本明細書において記載される化合物(ペプチド改変体および非ペプチド改変体を含む)が治療に使用されるとき、特定の実施形態において、投与の望ましい経路は、肺用エアロゾルによってであり得る。化合物を含むエアロゾル送達システムを調製するための技術は、当業者に周知である。一般的に、そのようなシステムには、ペプチドの生物学的特性を著しく損なわない化合物を使用すべきである(例えば、SciarraおよびCutie 「Aerosols」Remington’s Pharmaceutical Sciences、第18版、1990年、pp.1694−1712を参照;参考として援用される)。当業者は、過度な実験に頼ることなく、エアロゾルを産生するための種々のパラメータおよび条件を容易に決定し得る。
【0214】
本発明の方法はまた、潜在する細菌感染を処置するための従来治療と連結して本発明のペプチドを投与する工程を包含する。例えば本発明の方法は、従来処置(例えば、抗生物質治療)と同時に実施され得る。いくつかの実施形態において、このペプチドは、従来治療と実質的に同時に投与され得る。実質的に同時にとは、本発明のペプチドが、従来処置(例えば、抗生物質)の投与とほぼ同時期に被験体に投与され、それにより、2つの化合物が相加効果または相乗効果を発揮し得ることを意味する。ときに、ペプチドと従来処置の因子とは、互いに結合体化されている。そうでない場合、これらの化合物は、物理的に独立している。
【0215】
本発明のペプチドは、組織に直接的に投与され得る。好ましくは、この組織は細菌感染が存在する組織である。あるいは、この組織は感染が起こる可能性のある組織である。直接的な組織投与は、直接注射によって達成され得る。このペプチドは、1度投与されるか、あるいは複数回の投与で投与され得る。複数回で投与される場合、このペプチドは、異なる経路を通って投与され得る。例えば、最初の(または最初の数回の)投与は冒されている組織へ直接的になされ得、その後の投与は全身的であり得る。
【0216】
非経口投与の調製物は、滅菌水性または滅菌非水性の溶液、懸濁液、および乳濁液を含む。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、および注射可能な有機エステル(例えば、オレイン酸エチル)がある。水性キャリアとしては、水、アルコール/水溶液、乳濁液または懸濁液(生食水および緩衝媒質を含む)が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、塩化デキストロース、塩化ナトリウム、乳酸加リンガー油、または不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、流体および栄養補充液、電解質補充液(例えば、リンガーデキストロースに基づく補充液)などが挙げられる。保存薬および他の添加物(例えば、抗菌物質、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなど)も存在し得る。他形態の投与(例えば、静脈内投与)では、用量はそれより少ない。最初に与えられた用量で被験体における応答が不十分である場合には、より高用量(または異なるより局所化された送達経路により、効果的により高用量)が、患者の耐性が許す程度まで使用され得る。一日に複数の用量が、適切な全身レベルの化合物を達成するために企図されている。
【0217】
さらに他の実施形態において、好ましいビヒクルは、生物適合性微粒子または哺乳類のレシピエントへの移植に適したインプラントである。この方法に従って有用な例示的な生体内分解性インプラントが、PCT国際出願番号PCT/US/03307号(公開番号WO95/24929号:発明の名称「Polymeric Gene Delivery System」、1994年3月15日出願の米国特許出願番号213,668号に対する優先権を主張している)に記載されている。PCT/US/03307は、生物高分子を含むための生物適合性であって、好ましくは生分解性であるポリマーマトリクスについて記載している。ポリマーマトリクスは、被験体における薬剤の徐放を達成するために使用され得る。本発明の一局面に従い、本明細書において記載される因子は、PCT/US/03307において開示される生物適合性であって、好ましくは生分解性であるポリマーマトリクス内に被包されるかまたは分散され得る。このポリマーマトリクスは、好ましくはミクロスフェア(ここで因子が固形ポリマーマトリクス中に分散される)、またはミクロカプセル(ここで因子がポリマーシェルのコアに蓄えられる)といった微粒子の形態である。この因子を含むための他形態のポリマーマトリックスとしては、フィルム、コーティング、ゲル、インプラント、およびステントが挙げられる。ポリマーマトリックスデバイスの大きさおよび組成は、マトリックスデバイスが移植される組織中で好ましい放出速度になるように選択される。ポリマーマトリックスデバイスの大きさはさらに、使用される送達方法に従って選択され、代表的な送達方法は、組織内への注射、または鼻腔領域および/もしくは肺動脈弁区へのエアロゾルによる懸濁液の投与である。ポリマーマトリックスの組成は、好ましい分解速度を有し、かつ生体接着性の物質から形成され、デバイスが血管表面、肺表面または他の表面に投与される場合、移転の効力がさらに増すように選択され得る。マトリックスの組成はまた、分解するように選択されるのではなく、むしろ長時間にわたる拡散により放出するように選択され得る。
【0218】
非生分解性ポリマーマトリックスおよび生分解性ポリマーマトリックスの両方を、本発明の因子を被験体に送達するために使用され得る。生分解性マトリックスが好ましい。そのようなポリマーは、天然ポリマーかまたは合成ポリマーであり得る。合成ポリマーが好ましい。このポリマーは、放出が望まれる期間に基づき選択され、この期間は、一般的に約2、3時間から1年以上である。代表的に、2、3時間〜12ヶ月の範囲に及ぶ期間にわたる放出が最も望ましい。このポリマーは、必要に応じ、それ自体の重量の約90%まで水を吸収し得るヒドロゲルの形態であり、そしてさらに、必要に応じ、多価イオンまたは他のポリマーと架橋されている。
【0219】
一般に、本発明の因子は、生体内分解性のインプラントを使用して、分散によるかまたはより好ましくは、ポリマーマトリックスの分解により送達され得る。生分解性送達システムの形成に使用され得る例示的な合成ポリマーとしては;ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアルキレン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシド、ポリアルキレンテレフタレート(polyalkylene terepthalate)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルエステル、ポリ−ビニルハライド、ポリビニルピロリドン、ポリグリコリド、ポリシロキサン、ポリウレタンおよびそのコポリマー、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、アクリルエステルポリマー、メタクリルエステルポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシ−プロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシルエチルセルロース、三酢酸セルロース、セルロース硫酸ナトリウム塩、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、ポリ(アクリル酸オクタデシル)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(テレフタル酸エチレン)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ならびにポリビニルピロリドンが挙げられる。
【0220】
非生分解性ポリマーの例としては、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアミド、ならびにそれらのコポリマーおよび混合物が挙げられる。
【0221】
生分解性ポリマーの例としては、合成ポリマー(例えば、乳酸およびグリコール酸のポリマー、ポリ無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)(butic acid)、ポリ(吉草酸)、およびポリ(ラクチド−コカプロラクトン))、そして天然ポリマー(例えば、アルギナート、ならびにデキストランおよびセルロースを含む他のポリサッカライド、コラーゲン、それらの化学的誘導体(置換、化学基(例えば、アルキル、アルキレン)の付加、ヒドロキシル化、酸化、および当業者によって慣例的になされる他の修飾)、アルブミンおよび他の親水性タンパク質、ゼインおよび他のプロラミンおよび他の疎水性タンパク質)、ならびにそれらのコポリマーおよび混合物が挙げられる。一般に、これらの物質は、酵素加水分解またはインビボにおける水への曝露によって、表面侵食またはバルク侵食により分解する。
【0222】
特に興味深い生体接着性ポリマーは、H.S.Sawhney,C.P.PathakおよびJ.A.Hubellによる文献(Macromolecules,1993年、26、581−587)に記載されている生体内分解性ヒドロゲル(ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ無水物、ポリアクリル酸、アルギナート、キトサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(ブチルメタクリルレート)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)、およびポリ(アクリル酸オクタデシル))を含み、この文献による教示は本明細書において援用される。
【0223】
他の送達システムは、徐放性放出送達システム、緩効性放出送達システム、または持続性放出送達システムを含み得る。そのようなシステムは、ペプチドの反復投与を避け得、被験体および医師にとっての好都合さを増す。多種類の放出送達システムが利用可能であり、当業者に公知である。それらには、例えば、ポリ(ラクチド−グリコリド)、コポリオキサレート、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、およびポリ無水物といったポリマーベースのシステムが挙げられる。薬物を含んでいる前記ポリマーのマイクロカプセルは、例えば、米国特許第5,075,109号において記載されている。送達システムとして、ステロール(例えば、コレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸)、または中性脂肪(例えば、モノ−グリセリド、ジ−グリセリド、およびトリ−グリセリド)を含む脂質;ヒドロゲル放出システム;シラスティックシステム;ペプチドベースのシステム;ワックスコーティング;従来の結合剤および賦形剤を使用した圧縮錠剤;部分的に融合したインプラント;などである非ポリマーシステムもまた挙げられる。特異的な例としては、これらに限定されないが:(a)血小板を減少させる因子がマトリックス内にある形態で含まれている侵食システムであって、例えば、米国特許第4,452,775号、第4,675,189号、および第5,736,152号に記載されている侵食システム、ならびに(b)ポリマーから活性成分が制御された速度で透過する拡散システムであって、例えば、米国特許第3,854,480号、第5,133,974号、および第5,407,686号に記載される拡散システムが挙げられる。加えて、ポンプベースのハードウェア送達システムも使用され得、そのなかには移植に適合するものもある。
【0224】
長期徐放インプラントの使用は、感染(例えば、ブドウ球菌感染)を顕出する危険性のある被験体の予防的処置に特に適し得る。長期放出は、本明細書中で使用される場合、治療レベルの有効成分を少なくとも30日間、好ましくは60日間送達するように、インプラントを構築し、調整することを意味する。長期徐放インプラントは、当業者に周知であり、上記の放出システムのうちのいくつかを含む。
【0225】
次の実施例は、本発明の実施の特異的な例を例示するために提供されるのであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。当業者には明らかなように、本発明は種々の組成物および方法における適用を見出す。
【実施例】
【0226】
S.aureusおよびS.epidermidisは、病院および地域社会で捕捉される広範な感染症と結び付けて考えられる。抗生物質耐性の上昇が、これらの感染症の処置および予防するための新療法の開発を促す。宿主組織または移植された補綴デバイスへの細菌の付着力が、ブドウ球菌感染の成立に対してしばしば重要となる。インビボにおいてブドウ球菌表面に発現され、防御抗体の標的であることがわかった接着分子の1つが、ポリ−Nアセチル−グルコサミン(PNAG)である。この接着分子は、これに限定されないが、E.coliなどの他の細菌によって発現され、使用される。
【0227】
(実験手順)
ハイブリドーマ:
S.aureus感染症の発症後の患者から血液を回収し、末梢血単核細胞(PBMC)をフィコールハイパーク沈殿法を使用して、その血液サンプルから単離した。Posnerらによって記載されるB95.8細胞株から産生されたエプスタイン−バーウィルス(EBV)(Posnerら、Epstein Barr virus transformation of peripheral blood B cells secreting antibodies reactive with cell surface antigens.Autoimmunity.1990年;8(2):149−58)に一晩曝露することによって、B細胞を刺激した。24時間後、これらの細胞を洗浄し、10%リンパ球調整培地(LyCM:48時間フィトヘマグルチニンで刺激したヒトPBMCから調製した)を含む増殖培地(20%FBSを補充したRPMI1640)100μl中1×106PBMC/ウェルの濃度で96ウェルプレート中に分散させた。5日後、10%LYCMを補充したさらなる増殖培地100μlを加えた。次いで、週に1度、100μlの使用済み培地を除去し、10%LyCMを補充した100μlの増殖培地を添加することによって、EBVに刺激された細胞を培養した。
【0228】
ウェルは高い密度で播種され(ウェル表面の底の80%を超える増殖、および細胞増殖を意味する培地のpH変化が生じることよって証拠付けられるように)、ELISAによるPNAG/dPNAGに対する特異的抗体の産生について、それらの培養物をスクリーニングした。次いで、抗体に対する陽性反応を与える単一の個々のウェルからの細胞を、組織培養プレートの48ウェルに分散し、増殖の7日後、PNAG/dPNAG抗原との反応性についてその上清を試験した。
【0229】
次いで、ELISAにより陽性試験を続けた培養物を、ヒト−マウス骨髄腫細胞株HMMA2.5と融合させ、以前に記載されているようなハイブリドーマ(Posnerら、The construction and use of a human−mouse myeloma analogue suitable for the routine production of hybridomas secreting human monoclonal antibodies.Hybridoma.1987年12月;6(6):611−25)を生じさせた。融合後、融合した細胞を選定するために、増殖培地(20%FBSおよびヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン(HAT)およびオーバイン(oubain)を補充したRPMI 1640)を有するマイクロウェルプレート中で、細胞を培養した。これらの培養物は週に1度の間隔で養分を補給し、ELISAにより抗体産生についてスクリーニングした。
【0230】
ハイブリドーマを1細胞/ウェルの密度でクローニングし、正の成長を有するウェルをELISAにより特異的抗体についてスクリーニングし、陽性の抗体産生しているハイブリドーマを入れるウェルは、より大きな容積の組織培養プレート中のウェルに、次いでより大きな容積のフラスコへと拡大され、クローニングされた細胞株を得た。PNAG、dPNAGのいずれかまたはそれら両方に結合するヒトIgG2抗体を産生する3つのハイブリドーマ(F598、DF628、およびF630と呼ばれる)を回収した。
【0231】
PNAGの化学修飾:
N−置換基およびO置換基の大半を除去するために、精製されたPNAGを最終的濃度が0.5mg/mlになるまで5M NaOHに溶解させ、攪拌しながら37℃で18時間インキュベートした。次いで、強塩基性溶液を、最終pHが6と8との間になるように5N HClで中和し、24時間dH2Oと接して透析した。最終生成物を、試料を凍結乾燥させることによって得た。
【0232】
ELISA:
Immulon 4 マイクロタイタープレートを、感作緩衝液(0.2M NaH2PO4、0.2M Na2HPO4、0.02% アジド)中の最適結合濃度の各抗原100μl(天然PNAGに対しては0.6μl/ml、そしてdPNAGに対しては3μg/ml)でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS/0.05% tweenで3度洗浄し、PBS中の5%スキムミルク200μlでブロックし、次いで4℃で一晩インキュベートした。このプレートを洗浄し、精製したMAbを種々の濃度で加え、PBS中の5%スキムミルク/0.05% tween(希釈緩衝液)で希釈した。次いで、このプレートを37℃で1時間インキュベートして洗浄した。100μlの二次抗体(抗ヒトIgG全分子−アルカリホスファターゼ(AP)と結合体化しており、ICNから得られる)を、希釈緩衝剤中に加えて1:1000の希釈溶液を作製した。このプレートを37℃で1時間インキュベートして洗浄した。1mg/mlの濃度の基質緩衝液(800mg NaHCO3、1.46g Na2CO3、10mg MgCl、500ml H2O中の20mg Na3N)中リン酸p−ニトロフェニル100μlを加え、このプレートを室温で30分間インキュベートした。このプレートを405nmで読取った。Sigma製の精製ヒトIgGを標準として使用して、抗ヒトIgGで感作されたプレート上のMAbを定量化した。
【0233】
補体沈積アッセイ:
マイクロタイタープレートを、ELISAアッセイのために調製した。MAbとのインキュベーションおよび洗浄後、3つの異なるS.aureus菌株を吸収させた正常なヒト血清を、希釈緩衝溶液中1:50となるように希釈し、これを補体の供給源として使用した。このプレートを37℃で15分間インキュイベートした。このプレートを洗浄後、ヤギ抗ヒトC3抗体を、1:2000の濃度で加え、37℃で1時間培養した。抗ヤギIgG−AP結合体を、1:2000で加え、37℃で1時間培養した。このプレートを、15分間の持続期間のみを除き、本質的にELISAアッセイについて発現させた。
【0234】
オプソニン食菌作用アッセイ:
オプソニン食菌傷害アッセイは、以前に記載されている(Amesら、Infection and Immunity 49:281−285、1985年、およびMaira−Litranら、Infect Immun.70(8):4433−4440、2002年を参照)。使用される標的菌株はMn8(S.aureus)である。標的菌株は、650nmの波長での光学密度(OD650)で0.4にまで育て、アッセイ用に1:100に希釈した。補体(Accurate Chemical And Scientific Corp.Westbury,New York 11590などの商業的供給源を通じて幼ウサギから得られ、1:15の希釈で使用される)を、1時間、S.aureusのMn8m株に吸収させた(1.0のOD650まで再懸濁した)。多形核白血球(PMN)を、ヘパリン/デキストラン(混合比1:1)を使用して、新たに採ったヒト血液から単離した。PMNを、5×106細胞/mlの濃度で使用した。種々の濃度でモノクローナル抗体を有する溶液を、抗体供給源として使用した。各成分(モノクローナル抗体溶液、PMN、補体、標的細菌)を、100μlずつ一緒に加え、次いで回転させながら37℃で1.5時間インキュベートした。上清を採り、希釈溶液を作製し、ついで、一般的に1:100および1:1000の上清希釈溶液を使用して、アリコートをトライピックダイズ寒天培地(TSA)に平板培養した。37℃で一晩のインキュベーション後、細菌コロニーを計数し、傷害レベルを算定した。
【0235】
抗体可変領域のクローニング:
各ハイブリドーマからのRNA抽出を、Qiagen製RNAeasy kitを使用して、約6×106個の細胞について実施した。総RNA1μgを、Qiagen製Omniscript kitを使用して、cDNAに逆転写した。1μgのcDNA産物を、PCR反応についてのテンプレートとして使用した。各反応は、50μlのInvitorogen製 Hi fi mix、100pモルの各ヌクレオチドプライマー、および1μlのcDNAテンプレートからなる。約30PCRサイクルを次のプロトコルで実施した:94℃で30秒間のサイクル:94℃で30秒間、65℃で30秒間、72℃で1分間、最終伸長72℃で5分間。NCBIデータベース上で利用可能な公知の生殖細胞系との比較で、IgBLASTプログラムを使用してPCR産物を配列決定し、調査した。
【0236】
2004年4月21日に受託番号PTA−5931、PTA−5932およびPTA−5933としてATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株からの抗体可変領域をクローンするために使用されるプライマーは、以下のとおりである:(制限部位には下線を引き、開始ATGを太字で示した5’−3’):
【0237】
【数3】
インビボ細菌チャレンジアッセイ:
マウスに、PNAGとdPNAGとの両方、または対照として受動免疫を誘発するためにP.aeruginosaアルギナートもしくはMEP(MAb F429と呼ばれる)をヒトIgG1 MAbと結合している非PNAG/dPNAGと結合するMAb F598を静脈(IV)投与した。24時間後、MAbと同じ投与経路によりS.aureus(5×107CFU/マウス)を用いてマウスのチャレンジを実施した。
【0238】
感染から2時間後の血液中のCFUレベルを、S.aureusに対する受動免疫を誘導するために投与されたMAbの効力測定基準として使用した。
【0239】
(結果)
MAb配列:
MabF598、F628、およびF630の可変領域およびCDRについてのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を以下に示す。CDR領域に下線を引き、定常領域は強調した。
【0240】
【数4】
【0241】
【数5】
【0242】
【数6】
【0243】
【数7】
【0244】
【数8】
【0245】
【数9】
【0246】
【数10】
【0247】
【数11】
【0248】
【数12】
【0249】
【数13】
IgG2 MAbの特徴付け:
ハイブリドーマは、対応する融合番号から:F598、F628およびF630と命名された。これらのハイブリドーマから産生された抗体は、すべてIgG2型でかつλ型であった。タンパク質Gカラムを使用した抗体の精製後、ELISAを使用してMAbのエピトープ特異性の違いを評価した。天然PNAGの化学修飾を、特定の置換基を除去するために実施した。強塩基処理(5M NaOH)により、N−アセチル基の多くが除去される。図1に見られるように、異なる結合曲線を有するが、MAbはすべて天然形態のPNAGとよく結合する。PNAGが5M NaOHで処理されてdPNAGを産生する場合、F598 MAbは最大活性で結合する(図2)。この結果により、F598はPNAGのバックボーンエピトープに対する特異性を有し、PNAGポリマーと結合するためにN−アセチル化基およびO−アセチル化基を必要としないということが示唆される。MAb F630およびMAb F628はdPNAGとうまく結合しないことから、これらMAbの特異性には、天然形態のPNAGに見出されるアセテートが必要であることが示唆される。
【0250】
競合ELISAを、MAbの相対結合活性を評価するために使用した。図3は、MAbの相対結合活性が:F598>F628>F630であることを示している。
【0251】
IgG1に転換されるMAbの生成および特徴付け:
ヒトIgG1アイソタイプ抗体は、IgG2アイソタイプよりもうまく補体を抗原表面に固定し得る。したがって、MAb可変領域のクローニング、およびIgG1アイソタイプの産生が実施された。IgG2定常領域に対するプライマー、およびオリジナルのハイブリドーマ中で同定された可変領域の5’末端に対して特異的なプライマー(本明細書における「抗体可変領域のクローニング」に提示したプラーマーの一覧を参照)を、オリジナルのIgG2ハイブリドーマ細胞株から単離したmRNAから作製されたcDNA調製物からPCR産物を入手するために使用された。PCR産物を配列決定して分析し、各抗体を生じる可能性が非常に高い生殖細胞系遺伝子を決定した。表1に示すように、ハイブリドーマがPNAGおよび/またはdPNAGを指向する抗体の作製に使用する、一般的な生殖細胞系遺伝子がある。示すように、MAb F598、MAb F628、およびMAb F630は、同じL鎖生殖細胞系遺伝子およびH鎖D領域を使用する。違いは、MAb F630のH鎖を産生するために使用されるV遺伝子、およびMAb F628のH鎖を産生するために使用されるJ遺伝子のみある;MAbのための残りの生殖細胞系遺伝子は同一である。
【0252】
【表1】
各MAb(F598、F628およびF630)のH鎖についてのV、JおよびDセグメント、ならびにL鎖についてのVおよびJセグメントを包含する全可変領域をコードするDNAを、κL鎖およびIgG1H鎖ヒト定常領域を含むTCAE6ベクターにクローンした。この最初の構築物は、オリジナルのハイブリドーマから得られたH鎖およびL鎖遺伝子のオリジナルのペアリングを維持した。そのそれぞれの構築物を含んでいるプラスミドDNAを、CHO細胞にトランスフェクトし、その結果として生じるIgG1 MAbを精製し、特徴付けた。図4および図5に見られるように、すべてのIgG1 MAbは、オリジナルのIgG2 MAbと比較した場合、PNAGと同一の結合曲線を有するが、MAb F628およびMAb F630のIgG1構築物は、dPNAGと結合する能力の一部を失った(例えば、図1および図2と比較されたい)。
【0253】
IgG1 MAbが、IgG2の親MAbよりも多くの活性を活性化している機能的補体を有するかどうかを試験するために、補体沈積アッセイを実施した。この補体沈積アッセイは本質的に、ヒト血清が反応混合物に加えられる場合の補体タンパク質C3の沈積を測定するELISAアッセイである。図6に示すとおり、すべてのIgG1 MAbは、親IgG2 MAbよりも、活性を固定しているより良い補体を有する。補体の固定が増す程度は、MAbに依存する。PNAGおよびdPNAGに対する最高の結合活性を有するMAb F598に関しては、IgG2アイソタイプに対するIgG1の活性の増加はほんの僅かであった。MAb F628およびF630に関しては、IgG1 MAbは、親IgG2 MAbの、少なくとも倍の補体沈積活性を有する。
【0254】
オプソニン食菌活性:
IgG1形およびIgG2形態の両方におけるモノクローナル抗体F598、F628およびF630(6μgのMAb)のオプソニン食菌活性を、S.aureus菌株Mn8に対して試験した。IgG1形態を使用した場合、モノクローナル抗体F598は、CFUにおいて最高レベルの減少(すなわち、傷害)を示した(図7)。
【0255】
感染に対する受動的保護:
PNAGおよびdPNAGの両方と結合するMAb F598のマウスへ投与してから24時間後、S.aureus菌株Mn8でチャレンジし、無関係な抗原であるP.aeruginosaアルギナートに対するMAb(有意確率P=0.002)を受容するマウスと比較すると、血液1ml中におけるCFUの数を感染後2時間で68%減少した(図8A)。図8Bは,対照MAbまたはMAb F598g1を与える各個体動物について血液1ml当たりのS.aureusのCFUを示す。FVBマウス1匹当たり800μgのMAb F598の投与から4時間後に5×108CFUのS.aureus(Mn8株)を用いた腹腔内(IP)チャレンジを実施した結果、対照MAb(P.aeruginosaに対して特異的なF429)を投与されたマウスと比較して生残が増加した。図8Cは、これらの実験の結果を示している。細菌チャレンジから5日後、F598を受けた全てのマウス、および対照MAbを受けたマウスのうちの約20%のみが生きていた(1グループ当たり8匹のマウス)。
【0256】
E.coli尿路感染症分離株:
18個のE.coli臨床尿路感染症(UTI)分離株を単離し、S.aureus PNAGに対して生じた抗血清を使用した免疫ブロット法により、PCRおよびPNAG発現によるpga遺伝子座の存在について試験した。臨床分離株を培養中で成長させ、一旦細胞が静止期に入ると、DNAをPCRにおける使用のための標準的な技術によって抽出するか、または細胞を(5分間沸騰させて)EDTA抽出にかけた。18個の分離株のうちの17個がpga遺伝子を有することが、PCRによって決定された。免疫ブロット法の結果に基づき、これら17個のうち、約3分の1が相対的に高レベルのPNAGを発現していると特徴づけられ、約3分の1が相対的に中間(または並)レベルのPNAGを発現していると特徴づけられ、そして残りの3分の1が相対的に低レベルのPNAGを発現していると特徴づけられた。加えて、pga遺伝子座の過剰発現は、PNAGの産生の増大をもたらした。図9は、この免疫ブロット法の結果を示している。菌株「H」は、検出不可能なレベルのPNAGを発現し、pga遺伝子座を有しない。右上角にあるスロットは、pgaを過剰発現しているE.coliの菌株を示している。
【0257】
図10は、S.aureus dPNAGに対して生じたポリクローン性抗血清を使用した、前述のE.coli臨床UTI分離株のオプソニン傷害レベルを示している。BWは野生型のE.coli菌株を示し、pga−はpga遺伝子座が削除されたE.coli菌株を示し、そしてpga++はpgaを過剰発現しているE.coliの菌株を示している。この傷害レベルは、おおよそであるが、E.coli分離株によるPNAGの発現レベルとの相互関係を示している。
【0258】
図11Aおよび図11Bは、高PNAG発現E.coli菌株(菌株U)および中間PNAG発現E.coli菌株(菌株P)のオプソニン傷害レベルを、dPNAGおよびPNAGに対して生じたポリクローナル抗血清によって示している。試験された全ての抗血清希釈溶液において、抗dPNAGは、抗PNAG抗血清よりも効果的に両菌株を傷害した。
【0259】
図12は、種々のブドウ球菌菌株およびE.coli菌株に対するMAb F598のオプソニン食菌活性を、MAb F598、MAb F628、およびMAb F630(各アッセイにつき6μg/mlのMAb)によって示している。
【0260】
ica遺伝子座変異:
図13および図14は、変異ica遺伝子座を有するS,aureus菌株のMAb F598およびMAb F628による傷害の結果を示している。図13で示されるように、S.aureus菌株10833は、ica遺伝子座(10833Δica)について削除し、次いでS.aureus Mn8m(pMuc、PNAG過剰生産体)から単離された野生型ica、またはicaB遺伝子が削除されたpMuc(pMucΔicaB)を有するプラスミドを用いて形質転換した。S.aureus菌株10833(野生型)および10833(picaB)が図14に示されている。菌株10833(picaB)は、S.aureus Mn8m(PNAG過剰生産体)のica遺伝子座からの構成的プロモーターを使用して、プラスミドからicaB遺伝子を過剰発現する。このicaB遺伝子は、PNAGの脱アセチル化に関与すると考えられている酵素である。icaB遺伝子の削除は、MAb F598による傷害に影響するが、MAb F628による傷害には影響しない。icaB遺伝子が存在しない状況で、MAb F598による傷害は減少する(図13)。icaB遺伝子の過剰発現は、MAb 628の傷害にほとんどまたは全く影響を及ぼさないMAb F598による傷害の増大をもたらす。
【0261】
(結論)
化学修飾したPNAGを使用したELISAは、天然形態のPNAGを指向する3つの完全なヒトMAbの特異性における違いを強調した。MAb F598はPNAGおよびdPNAGを認識することが見出されたことから、分子のバックボーンに対して特異的である。MAb F628およびMAb F630は、明らかにアセテート特異的エピトープを認識する。競合ELISAによるMAbの相対結合活性の評価は、F598が最大の結合活性を有し、次いでF628、F630が続くことを示す。可変領域のクローニングは、PNAGおよび/またはdPNAGに対する抗体を産生するための遺伝子限定用法があることを示す。MAbの定常領域をγ2からγ1に変更すると、PNAGと同一の結合となるが、dPNAGと結合した3つのMAbのうちの2つの能力を低下させた。最後に、定常領域をγ1に変換すると、MAbの能力を向上させて補体を固定させたが、この向上はMAb F628およびF630について最も劇的であり、これらはより低い結合活性を有した。MAb F598g1の保護的効力の評価により、S.aureus生菌株Mn8を用いたIVチャレンジの24時間前になされたマウスへのこの生成物の投与が、感染から2時間後の血液中のブドウ球菌レベルが68%減少したことが示された。S.aureus生菌株M8を用いたIPチャレンジの4時間前になされたマウスへのMAbF598の投与が、MAbで処置した対照マウスよりも大きな生残りの増加をもたらした。
【0262】
(等価物)
前記した明細書は、当業者が本発明を実施するのに十分であると考えられる。本明細書において開示された具体的な抗体およびペプチドは、本明細書において本発明の具体的な実施形態を単に実施可能に例示することを意図するのであって、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。したがって、本明細書において記載されたペプチド、抗体、および抗体フラグメントと機能的に等価ないずれのペプチド、抗体、および抗体フラグメントも、別添の特許請求の範囲の精神および範囲内のものである。確かに、本明細書において示され、記載された改変に加えて本発明の種々の改変が、前記から当業者には明らかであり、それらは別添の特許請求の範囲の範囲内にある。
【0263】
本出願において記載される全ての文献、特許および特許刊行物は、本明細書においてその全体が参考として援用される。
【0264】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−224023(P2011−224023A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−173372(P2011−173372)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2007−509650(P2007−509650)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【出願人】(307020338)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173372(P2011−173372)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【分割の表示】特願2007−509650(P2007−509650)の分割
【原出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【出願人】(307020338)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】
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