説明

ポリアクリルアミド系吸水性ポリマー及びその製造方法

【課題】水を吸収して水性ゲルを形成することができる吸水性ポリマー、特に水溶液中の塩濃度の変動に対しても、吸水量の変動の少ない吸水性ポリマー及びその製造方法を提供する。更には汚泥を沈降できるカチオン系沈降剤及びその製造方法を提供する。
【課題の解決手段】ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合してなるポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアクリルアミド系吸水性ポリマーとその製造方法及びそれを含有してなる汚泥沈降剤に関する。
【背景技術】
【0002】
吸水性ポリマーは衛生用品、土壌保水材等各種用途に使用されている。それらの主成分はアクリル酸及びその塩の重合体を架橋したものである。一方、吸収する媒体は水溶液であるが、生理食塩水と言われる0.9%食塩水より、純水に至るまで、塩濃度の異なる水溶液が対象になる。アクリル酸及びその塩の重合体を架橋してなる吸水性ポリマーは水溶液の塩濃度に応じて、吸水量は大幅に変化する。例えば、生理食塩水では自重の40倍程度であるが、蒸留水中では自重の1000倍に達するものもあるといわれている。そのように吸水量が大幅に変化することは、使用及びその後の処理で不都合な点になっている。
【0003】
生理食塩水中での吸水量がアクリル酸系とほぼ同等で、水溶液の塩濃度に対して、吸水量の変動の少ない、吸水性ポリマーは知られていない。
また、ポリアクリルアミド、アクリルアミドとアクリル酸中和物やジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩などとの共重合体、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの塩化メチル4級塩などのカチオン性単量体の重合体、アクリル酸中和物などアニオン性単量体の重合体等に代表されるノニオン、アニオン、カチオンあるいは両性の水溶性重合体は、凝集剤、凝結剤などの工業用薬剤として各種産業で広く使用されている。基本的にそれら重合体は水溶性であり、土砂排水及び下水処理場、し尿処理場などの公共の排水汚泥処理施設から排出される排水や、印刷工場、化学工場、半導体工場、食品工場、紙・パルプ工場などの一般工場から排出される工場排水に含まれる懸濁物質に添加され、凝集処理されている。
【0004】
それらの中でも、カチオンあるいは両性の水溶性重合体は各種汚泥の脱水用途に使用されている。近年、汚泥にただ単に凝集剤を添加しただけでは、凝集フロックが弱く、脱水が困難な難脱水性汚泥と呼称される汚泥が排水処理方法の多様化により増加している。
特許文献1では硫酸バンド等の無機凝結剤を汚泥に添加したのち、両性重合体を添加する処理方法が提案されている。
【0005】
この方法では、多量の無機凝結剤を使用するので、汚泥中に多量の無機系スラッジが生成してしまい、結果的に汚泥量更にはそれらを焼却処理した場合焼却廃棄物が増加してしまい、大きな問題となっている。
【0006】
また、一方凝集剤の分子構造そのものを変えることにより、凝集性能を向上させる試みもなされている。例えば、特許文献2に架橋剤を添加重合して架橋水性ゲルを形成させ、該ゲルを細断して可溶化して、架橋分岐構造の凝集剤を製造する試みもなされているが、細断により、低分子量化してしまう問題がある。
【0007】
このように難脱水性汚泥に対して、単独で有効に作用する高性能カチオン性凝集剤は知られていない。
【0008】
近年、凝集処理に加えて、排水中のCOD除去などを目的に水溶性でないカチオン性重合体を凝集剤の代わりに或いは凝集剤とともに使用する検討が行われている。
【0009】
特許文献3には、でんぷん含有水の処理に水膨潤性カチオン重合体粒子を添加する例が、特許文献4には、分離膜のよる排水処理の前処理として、水に溶解しないカチオン性ポリマーからなる粒子を被処理液に添加する例が、特許文献5には水に溶解しないカチオン性ポリマー微粒子を排水に添加する時、該粒子を含む液をホモジナイザーでの処理を30秒以上行って添加する例が開示されている。上記特許に開示されている粒子は小さい粒子ザイズを製造できる逆相エマルションより製造されており、比表面積を大きくするため、粒子サイズは出来るだけ小さくなるよう工夫されている。但し、そのように粒子サイズが小さいと、処理液と粒子を分離することが困難になってくる。このように後処理が容易な汚泥沈降剤は知られていない。
【0010】
一方、上記したカチオン性粒子は何れもカチオン性単量体と架橋性単量体との共重合により製造されている。特許文献6にポリアミンの存在下に特定構造のカチオン性単量体を重合して有機凝結剤を製造する例が開示されている。しかし、固有粘度が1〜5(dl/g)と低分子量で溶解性に富むものであり、重合物がゲル状体になるとの開示はない。
【0011】
特許文献7にはポリアクリル酸架橋物からなる高吸水性ポリマー表面にポリアミンを吸着させて熱処理する例が開示されている。樹脂表面の改質を目的としたものであり、樹脂の構造そのものを変化させるものではない。
【0012】
以上のようにポリアクリルアミド系吸水性ポリマーとその製造方法及びそれを含有してなる汚泥沈降剤は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭63−158200
【特許文献2】WO2006/126674
【特許文献3】特公平7−83869号公報
【特許文献4】特開2009−56454号公報
【特許文献5】特開2008−246372号公報
【特許文献6】特開2005−230739号公報
【特許文献7】特開昭62−1820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、水を吸収して水性ゲルを形成することができる吸水性ポリマー、特に水溶液中の塩濃度の変動に対しても、吸水量の変動の少ない吸水性ポリマー及びその製造方法を提供することである。
【0015】
更には汚泥を沈降できるカチオン系沈降剤及びその製造方法を提供することである。詳しくは、各種の汚泥を単独で沈降脱水でき、かつ汚泥を沈降後、分離が容易となる吸水性ポリマー及びその製造方法並びにそれを含有してなる汚泥沈降剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、ポリアミンの存在下に水溶液中でアクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体を重合させることにより、ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合してなるポリアクリルアミド系吸水性ポリマーを製造できることを見出した。そして、このようにして得られるポリアクリルアミド系吸水性ポリマーの一つの用途は吸水材として水溶液中の塩濃度の変動に対して、吸水量の変化が少ないという特徴を見出し、また別の用途は一液で凝集沈殿でき、かつ汚泥を沈降後、分離が容易となる汚泥沈降剤として機能することを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明は以下に記載するものである。
(1)ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合してなるポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。
(2)ポリアミンがアミンとエピクロルヒドリンとの反応により製造されることを特徴とする(1)に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。
(3)ポリアミンがポリアミドポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により製造されることを特徴とする(1)に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。
(4)ポリアミンの存在下に水溶液中でアクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体を重合することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーの製造方法。
(5)共重合可能な単量体がアニオン性単量体であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーの製造方法。
(6)ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合してなる(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーよりなる汚泥沈降剤。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーは構造を最適化することにより、水溶液を吸収する吸収材として、また凝集沈殿用の汚泥沈降剤として機能することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーは、ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合したポリマーであり、ポリアミンとアクリルアミド系重合体は、共有結合及び/またはイオン結合の有機結合で結合したものである。
【0020】
本発明のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーは、例えばポリアミンの存在下に水溶液中でアクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体を重合させることによって製造することができる。
【0021】
以下出発原料について説明する。
(ポリアミン)
本発明に用いられるポリアミンは水溶性カチオン性高分子と同義であり、水溶性であり、かつカチオン性を示す高分子である。
【0022】
例えば、ジアルキルアミンとエピクロルヒドリンとの反応物、ポリアミドポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応物、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドの重合体、ポリエチレンイミン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩、又はこれらにハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等を反応させて得られる四級塩の重合体が挙げられる。これらを2種以上併用しても良い。
【0023】
以下に詳述する。
ジアルキルアミンとエピクロルヒドリンとの反応物としては、ジメチルアミン、ジエチルアミンのような低級のジアルキルアミンとエピクロルヒドリンとの反応物が好ましい。更に、分子量を増大させるために、ジアルキルアミンに、エチレンジアミン等の低級アルキレンジアミンや、ジエチレントリアミン等のポリアルキレンポリアミンを加えてエピクロルヒドリンと反応させても良い。これらの多くは凝結剤として、水溶液の形で市場に供給されている。
【0024】
ポリアミドポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応物は、以下のように製造される。先ず、ポリアルキレンポリアミンと脂肪族ジカルボン酸とを脱水縮合して、ポリアミドポリアミンを製造する。ポリアルキレンポリアミンとしてはジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等の低級ポリアルキレンポリアミンが例示される。脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸等の低級飽和脂肪族ジカルボン酸が例示される。次いで、このポリアミドポリアミンとエピクロルヒドリンとを反応させる。これらの反応物の多くは湿潤紙力増強剤として、水溶液の形で市場に供給されている。
【0025】
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド(以下、「DADMAC」と略記する。)の重合体とは、DADMACの単独重合体、又は、DADMACとアクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体との共重合体、更には二酸化硫黄との共重合体も含む。
DADMACの重合体は、凝結剤として、粉末品、水溶液品の形で市場に供給されているが、何れも使用可能である。
【0026】
ポリエチレンイミンとはエチレンイミンを開環重合したもので、一部分岐構造を形成しており、凝結剤或いは歩留り向上剤として多くは水溶液の形で市場に供給されている。
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩、又はこれらにハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等を反応させて得られる四級塩の重合体とは、それらの単独重合体や、それらとアクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体との共重合体である。これらは凝結剤または凝集剤として、粉末品、水溶液品および逆相エマルション品の形で市場に供給されているが、何れも使用可能である。
【0027】
上記のポリアミンは、pH4でのカチオン化度が0.2〜20.0 meq/gであることが好ましく、0.5〜15.0 meq/gであることがより好ましい。
pH4でのカチオン化度は、以下の方法により測定できる。
【0028】
先ず、水溶性カチオン性高分子を希釈又は溶解して、0.10質量%水溶液を調製し、酸又はアルカリにより、pHを4に調整する。この水溶液をポリビニル硫酸カリウムの滴定液で滴定する。この滴定量からカチオン化度を測定することが出来る。終点は、トルイジンブルーを使用する変色法又は粒子電荷測定装置(PCD)を使用する電荷測定法の何れでも確認できる。
【0029】
ポリアミンの0.5%塩粘度(後述)は、1.0〜20.0 mPa・sであることが好ましく、2.0〜15.0 mPa・sであることがより好ましい。0.5%塩粘度が20.0 mPa・sを超える水溶性カチオン性高分子では、重合液の粘度が上がり製造に不都合をきたす。
【0030】
0.5%塩粘度とは、ポリアミンの0.50質量%水溶液を調整し、そこに水溶液の食塩濃度が1 mol/Lになるように、食塩を添加して溶解させた水溶液の25℃における粘度である。粘度測定法として、特に限定はないが、一般的には回転粘度計が使用される。
【0031】
水溶性カチオン性高分子の分子量を測定することが出来れば明確になるが、現時点では水溶性カチオン性高分子の分子量を直接的に測定する手法は確立されていない。そのため、本発明では0.5%塩粘度を水溶性カチオン性高分子の分子の大きさの指標として用いる。0.5%塩粘度が1〜20 mPa・sの水溶性カチオン性高分子は、分子量が大略1万〜700万と考えられる。
【0032】
上記の中でも、ジアルキルアミンとエピクロルヒドリンとの反応物及びポリアミドポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応物が好ましい。
【0033】
(アクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体)
アクリルアミドは銅触媒法で製造したもの及び酵素触媒で製造したもの何れも使用できる。また、水溶液に溶解した液状品及び結晶品の何れも使用できる。
【0034】
共重合可能な単量体として、水溶性単量体が好ましい。
水溶性単量体としては、二重結合を1個の単官能単量体と二重結合を複数個有する架橋性単量体を使用でき、それらを併用してもよい。
【0035】
単官能単量体として、例えばノニオン性単量体として、アクリルアミド、メタクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド、N、N−ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ヒドロキシエチルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等があげられる。
【0036】
アニオン性単量体として、アクリル酸およびその中和塩、メタクリル酸およびその中和塩、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその中和塩、イタコン酸およびその中和塩、マレイン酸およびその中和塩、フマル酸およびその中和塩、アリルスルホン酸又はメタリルスルホン酸およびその中和塩等があげられる。
【0037】
カチオン性単量体として、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートあるいはジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの三級塩あるいはハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸、ベンジルハライド等による四級塩、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド等があげられる。
これらは単独で用いても、2種以上を組合せて用いても良い。
【0038】
得られる重合体の水溶性或いは吸水性を損ねない程度であれば、他の単量体、例えば、スチレン、アクリルニトリル、(メタ)アクリル酸エステルを配合しても良い。
上記に中でも、ノニオン性単量体及び/またはアニオン性単量体及びそれらの混合物が好ましい。
【0039】
架橋性単量体としては、メチレンビスアクリルアミド、エチレンまたはポリエチレンジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の、アルキレンビス(メタ)アクリルアミド、モノ及びポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリメチロールアルカンポリ(メタ)アクリレートが例示される。これらは単独で用いても、2種以上を組合わせて用いても良い。
【0040】
上記した水溶性単量体組成物はアクリルアミドを主成分とすることが好ましい。水溶性単量体組成物におけるアクリルアミドの含有量は10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上である。
【0041】
ポリアミンの上記したアクリルアミドを主成分とする水溶性単量体(以下、これをアクリルアミド系単量体と略す)に対する比率は単量体組成物100重量部に対して、1〜400質量部である。1質量部以下では、ポリアミン添加の効果が発現せず、一方400質量部以上では重合に支障をきたす。
【0042】
ポリアミン存在下での重合は、以下に説明する水溶液重合やエマルション重合、及び懸濁重合により行われる。
【0043】
(ポリアクリルアミド系吸収性ポリマーの製造方法)
本発明の吸収性ポリマーの製造方法は特に限定はないが、たとえば以下の方法により製造することができる。
【0044】
(水溶液重合法)
重合に先立ち、ポリアミンをアクリルアミド系単量体水溶液に添加して、単量体水溶液を調製する。ポリアミンの添加方法は水溶液品であれば、そのまま、或いは粉末品であれば、予め水で溶解して添加してもよいし、直接にアクリルアミド系単量体水溶液に添加して溶解してもよい。次に、上記ポリアミンとアクリルアミド系単量体の水溶液での濃度は併せて、15〜80質量%水溶液を調製する(以下、これを「単量体調合液」ともいう)。
【0045】
本製造方法に使用する水は、水道水、イオン交換水、河川の表流水、地下水等が使用できる。イオン交換水以外の水は、溶解する重金属の捕捉用にキレート剤のような重金属捕捉剤を使用しても良い。また、単量体水溶液中に水溶性の低い単量体を配合する場合には、メタノール、エタノール、アセトン、ジオキサン等の水性有機溶剤を水と併用しても良い。
【0046】
単量体調合液には、重合反応後半の高温時における重合促進のため、アゾ系開始剤を添加しておいても良い。
【0047】
アゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシルエチル]−プロピオンアミド、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス[N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド]が例示される。これらは単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0048】
アゾ系開始剤の添加量は、アクリルアミド系単量体の質量に対して合計で100〜10000ppmが好ましい。
【0049】
水溶性のアゾ化合物は、直接単量体調合液に添加してもよいし、水溶液にしてから添加してもよい。アゾ化合物が非水溶性である場合には、メタノール等の極性有機溶剤に溶解して添加すればよい。
単量体調合液には、必要に応じて連鎖移動剤、pH調整剤を加えてもよい。
【0050】
単量体調合液のpHは3〜9であり、pH3.5〜8が好ましい。ポリアミンとして、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの重合体、または単量体として、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート系の単量体を使用する場合には、pHを酸性域に設定するのが好ましい。
【0051】
pHの調整は酸又はアルカリで行なえばよい。酸としては、塩酸、硫酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、アジピン酸、琥珀酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等有機酸が例示される。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の無機塩基性化合物、ジメチルアミン、トリメチルアミン、水酸化テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、ピリジン、アニリン、N,N−ジメチルアニリン等の有機塩基性化合物が例示される。
【0052】
重合を開始する前には、窒素ガス等を用いて単量体調合液の脱酸素処理を行うことが好ましい。
重合開始温度は −5〜30℃の範囲に設定することが好ましい。
【0053】
重合開始方法として、レドックス開始剤を使用する方法、光開始剤存在下において光照射する方法が知られており、本発明ではそのいずれを採用してもよい。
重合開始剤としては、酸化剤と還元剤との組合せからなるレドックス系開始剤、アゾ系開始剤、光重合開始剤が使用される。これらの開始剤は単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0054】
レドックス系開始剤は、公知の酸化剤と還元剤との組み合わせを用いることが出来る。酸化剤としては、無機系の過酸化物及び有機系の過酸化物を使用でき、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸カリ、過酸化水素、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイドが例示される。還元剤としては、硫酸第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、トリメチルアミンが例示される。レドックス系開始剤の添加量は、酸化剤、還元剤ともにアクリルアミド系単量体の質量に対し1〜200ppmが好ましい。酸化剤、還元剤の各水溶液を重合開始の直前に単量体調合液中で混合することにより容易に重合を開始させることができる。
アゾ系開始剤は前述したものを用いる。
【0055】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アンスラキノン、アシルホスフィンオキサイド化合物、アゾ化合物が例示される。光重合開始剤の添加量は、アクリルアミド系単量体の質量に対して200〜5000ppmである。光重合開始剤を単量体調合液に加え、光重合開始剤の最大吸収波長の光を含む光を照射することにより重合を開始させることができる。光源としては、高圧水銀灯、低圧水銀灯等が挙げられる。
【0056】
重合後の熱処理(後述)を効率的に行うためには、重合反応は断熱的に行うことが好ましい。断熱的重合法とは、重合反応中に外部からの人為的な加熱や除熱を行わずに、重合反応を進行させる方法である。重合容器が断熱処理されているか否か、又は重合容器が温度制御されているか否かを表すものではない。断熱的重合法においては、重合反応開始とともに反応熱により反応温度(反応液の温度)は上昇し、重合反応がほぼ完結するに伴い温度上昇は停止し最高温度に達する。この場合、通常、重合反応は重合開始後30分〜5時間で50〜100℃の最高温度に達してほぼ完結する。得られる重合体を含む水溶液は、ゲル状の物質になる(以下、これを「重合体ゲル」ともいう。)。
【0057】
重合反応は、適当な反応容器内で回分的に行うこともできるし、ベルトコンベア等の上に連続的に単量体調合液を流し込み、連続的に行うこともできる。
上記重合反応によって得られる重合体ゲルは残留するアクリルアミド等の単量体含有量の低減を目的として、熱処理を行ってもよい。熱処理は、反応容器内やベルトコンベア上で重合体ゲルを加熱する、又は重合体ゲルを適当な大きさに切断してビニル袋などに密着包装後、湯浴等の加熱浴中で加熱することにより行う。熱処理条件は70〜100℃で、1〜5時間が好ましい。
【0058】
熱処理後の重合体ゲルを、公知の方法で、乾燥、粉砕することにより、粉末状のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーを得ることができる。粉末の粒度が大きいと、吸水速度は遅くなるが、吸水ゲルのサイズは大きくなり、土壌などに混合するには好ましくなる。また、粉末の粒度が小さくなると、吸水速度は速くなるが、逆に吸水ゲルのサイズは小さくなる。使用する目的により、粒度は制御すればよい。汚泥沈降剤として使用する場合には細かい粒度が好ましい。
【0059】
(エマルション重合法)
以下、エマルション重合法による製造方法について説明する。
エマルション重合法とは、前述した単量体調合液とHLBが3〜6である疎水性界面活性剤を含む有機分散媒とを混合して乳化させた後、ラジカル重合触媒の存在下、温度30〜100℃で重合させる重合方法である。
【0060】
エマルション重合法においては、重合反応過程において反応液が細分されるため、重合熱の除去が容易である。そのため、単量体調合液の濃度を高濃度とすることも出来る。具体的には、単量体調合液の濃度を5.0〜90質量%とすることが出来る。単量体調合液には、連鎖移動剤、pH調整剤等を加えてもよい。
【0061】
有機分散媒としては、脂肪族、脂環族又は芳香族の炭化水素を単独又は併用して用いる。その添加量はエマルション総量に対して5.0〜50質量%であり、10〜40質量%が好ましい。5.0質量%未満の場合は、得られるエマルションが不安定となる。50質量%を超える場合は、得られるPAMの量が相対的に減少する。さらに、界面活性剤使用量が増加し、経済的に不利である。
【0062】
疎水性界面活性剤としては、HLBが3〜6であるソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコ−ルの脂肪酸エステル、高級アルコ−ルのEO付加物、グリセリン脂肪酸等の非イオン系界面活性剤が好ましい。疎水性界面活性剤の添加量は、エマルション総量に対して0.5〜5質量%で、1〜3質量%が好ましい。0.5質量%未満の場合は、乳化する単量体調合液の粒子の分散が不十分となる。5質量%を超える場合は、乳化する単量体調合液の粒子径が細かくなり過ぎるほか、経済性にも不利である。
【0063】
エマルション重合法により製造したPAM重合体のエマルションを水中に添加して使用する際は、予めPAM重合体のエマルションを油中水型から水中油型に転相しておく必要がある。そのため、単量体調合液に予め親水性界面活性剤を加えておく。又は、PAM重合体のエマルションの製造後に親水性界面活性剤を加える。
【0064】
親水性界面活性剤としてはHLBが10以上であるポリオキシエチレンアルキルエ−テル、ポリオキシエチレンアルキルフェノ−ルエ−テル等の非イオン系界面活性剤が好ましい。これらの中でも、ポリオキシエチレンラウリルエ−テル、ポリオキシエチレンノニルフェノ−ルエ−テルが好ましい。親水性界面活性剤の添加量は、エマルション総量に対して0.5〜5質量%であり、1〜3質量%が好ましい。添加量が0.5質量%未満の場合は、エマルションの転相が不十分になる。5質量%を超える場合は、エマルションの発泡が激しくなるほか、経済性にも不利である。
【0065】
上記の単量体調合液と有機分散媒及び界面活性剤とからなる混合液を、乳化機によりエマルションとし、必要に応じて脱気又は窒素ガス置換によって溶存酸素を除去した後、重合開始剤を添加して重合を開始する。
【0066】
重合温度は30〜100℃であり、35〜80℃が好ましい。30℃未満では重合反応が遅く生産効率が悪い。また、水溶性部分が多くなる。100℃超ではエマルションが不安定となる。
【0067】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤が用いられ、例えばレドックス系、アゾ系、有機及び無機過酸化物触媒があげられる。
重合時間は通常3〜6時間程度である。
【0068】
このようにして製造される重合体エマルションは平均粒子径10μm以下(アコースティック法による平均粒子径をいう、以下同じ。)で、安定でしかも低粘度であるためポンプ移送が容易となり、取り扱いが簡便になる。
【0069】
エマルション重合法においても、単量体調合液にポリアミンを共存させて、PAMの重合反応と、ポリアミンとの複合化とを一段階で行うことが出来る。それ以外の製造方法、製造条件は上記に準ずる。
【0070】
(懸濁重合)
以下、懸濁重合法による製造方法について具体的に説明する。
懸濁重合法とは、前記したエマルション重合法と重合そのものは同じで、重合後の粒子の粒径に相違がある。即ち、HLBが3〜6である疎水性界面活性剤を含む有機分散媒中に単量体/ポリアミン混合水溶液と分散させて重合し、球形状の粒子が得られる。有機分散媒としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等があり、製造工程上、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、n−ノナン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等が好ましい。
【0071】
また、HLBが3〜6である疎水性界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコ−ルの脂肪酸エステル、高級アルコ−ルのEO付加物、グリセリン脂肪酸等の非イオン系界面活性剤が好ましい。粒子の有機分散媒中での安定性を高めるための、分子量10000以上の高分子分散剤を併用してもよい。高分子分散剤として、例えばアルケンと不飽和多価カルボン酸無水物との共重合体、無水マレイン酸変性エチレン・酢酸ビニル共重合体等を使用できる。疎水性界面活性剤の添加量は有機分散媒に対して0.05〜10質量%で、0.1〜5質量%が好ましい。0.05質量%未満の場合は、単量体/ポリアミン混合水溶液の粒子の分散が不十分となる。10質量%を超える場合は、分散する単量体/ポリアミン混合水溶液の粒子径が細かくなり過ぎるほか、経済性にも不利である。
【0072】
懸濁重合法としては、例えば、有機分散媒および疎水性界面活性剤を重合槽に仕込み、必要に応じて加熱しながら所定の重合温度(通常30〜100℃、好ましくは35〜80℃)に調整した後、槽内を不活性ガス(例えば窒素)で十分置換する。一方、単量体/ポリアミン混合水溶液及びラジカル重合開始剤水溶液の混合液または別々の液を、不活性ガスで十分置換した後、撹拌下で重合槽内に投入し、懸濁させながら重合させる。水溶液の投入方法としては、一括投入または滴下のいずれでもよい。また、その際、別々に不活性ガスで十分置換した単量体/ポリアミン混合水溶液及びラジカル重合開始剤水溶液をスタティックミキサー等で混合しながら、滴下してもよい。
【0073】
重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤が用いられ、例えばレドックス系、アゾ系、有機及び無機過酸化物触媒があげられる。
重合時間は通常1〜6時間程度である。
【0074】
所定時間重合後、粒子径が比較的大きい場合には、重合懸濁液を濾別することにより、重合粒子を分離できる。分離された粒子は含水ゲル粒子であるが、さらに脱水、乾燥することによって固形粒子状の吸水性ポリマーを得ることができる。その際、含水ゲル粒子表面に無機物粉末或いは液状シリカを塗して乾燥、粉砕することにより、乾燥工程でのゲル同士の付着を防止でき、乾燥効率をアップできるとともに、吸水性ポリマーそのものの吸水性能を改善できる。具体的方法は前記した方法に従えばよい。
【0075】
また、濾別が困難なほど、粒径が小さい場合には、そのまま脱水、乾燥する。脱水方法としては、特に限定されないが、重合後、熱風乾燥、赤外線乾燥、真空乾燥等の乾燥方法により脱水する方法、有機分散媒中で共沸させて減圧脱水させる方法等がある。
【0076】
このようにして製造される懸濁重合粒子は平均粒子径0.01〜2mmであり、好ましくは、0.05〜1mmである。
【0077】
(ポリアクリルアミド系吸水性ポリマーの用途)
上記の方法で製造されるポリアクリルアミド系吸水性ポリマーはその構造により、大きく2種類の用途に分類される。一つが、吸水性ポリマーであり、他の一つは汚泥沈降剤である。
【0078】
(吸水性ポリマー)
本発明の吸水性ポリマーの製造において、架橋性単量体を存在させなくとも、ただ単に水溶性単量体とポリアミンとを共存させて、重合することにより、水に不溶の吸水性重合体を製造できる。これはポリアミンとのイオン的相互作用の起こらないノニオン性単量体であるアクリルアミドとポリアミンとの組み合わせでも、条件により水に不溶の吸水性重合体となる。これは重合を通してポリアミンがグラフト反応することにより、架橋剤と同様の作用をすることによる。その際、吸水性を発現するか否かは、ポリアミンの分子量に依存し、低分子量では水溶性となってしまうが、高分子量では吸水性となる。好ましい重量平均分子量は50000〜1000000であり、より好ましくは70000〜700000である。ポリアミンが高分子量ではグラフト点が複数になり吸水性が発現する。このことはポリアミンが水溶性単量体よりなる重合体連鎖に結合していることが示唆される。
【0079】
吸水性ポリマーの製造において、水溶性単量体としては、ノニオン性単量体、アニオン性単量体及びそれらの混合物であり、架橋性単量体は必ずしも必要でない。また、カチオン性単量体を併用してもよい。一方、ポリアミンは低分子量のものでも、高分子量のものでも使用できる。水溶性単量体100重量部当たり、ポリアミンの添加量は0.1〜50重量部であり、好ましくは0.5〜40重量部である。
【0080】
吸水性ポリマーの性能はその使用目的により、要求性能が変化する。吸水性ポリマーの用途としては、紙おむつ、生理用品等の衛生用品用途、砂漠での農業用保水剤、生鮮食品の保存・輸送用資材、医療材料、通信ケーブル、通信ケーブル、土木工事、人工雪等多岐にわたる。その中でも、紙おむつ用途は全体の90%以上を占め、主用途になっている。以下、その用途を対象に、吸水性能を詳述する。
【0081】
吸水性能につき、各種の測定法が提案されているが、JIS規格に規定されている吸水性ポリマーの2種の測定法[1]「高吸水性ポリマーの吸水量試験方法」 JIS K 7223及び[2]「高吸水性ポリマーの吸水速度試験方法」 JIS K 7224)を参考に平衡吸水量と吸水速度で吸水性能を評価できる。
【0082】
(平衡吸水量)
吸水性ポリマー1gがどれだけ吸水できるかという指標であり、吸水する水の性質により大きく変化する。水に溶解している溶解イオンの濃度の影響を受け、溶存イオンのない蒸留水で一般に平衡吸水量は最大になり、紙おむつの対象となる尿中の溶解イオン濃度を代表する生理食塩水(0.9%食塩が溶解)では大幅に低下する。実施例では、具体的測定法及び蒸留水と生理食塩水中での測定結果を示した。
【0083】
市販のポリアクリル酸系吸水性ポリマーの蒸留水における平衡吸水量は1000倍に達するものもあるとされている。一方、生理食塩中の平衡吸水量はその1/25の40倍前後になる。即ち、市販のポリアクリル酸系吸水性ポリマーは吸水する水中のイオン濃度の影響を強く受け、そのイオン濃度により、平衡吸水量は大きく変化する。使用後の吸水紙おむつ中の水中塩濃度は生理食塩水の0.9%であるが、その後の廃棄処理過程で雨水等の接すると、吸水ポリマーの吸水量が大きくなり、処理しにくくなる。
【0084】
一方、本発明の吸水性ポリマーはアクリルアミドを主体とする組成になっているので、ポリアクリル酸系吸水性ポリマーほど、蒸留水中と生理食塩中での平衡吸水量に差は大きくない。例えば、生理食塩中の平衡吸水量が40倍前後の場合、蒸留水中での平衡吸水量は最大でも400倍前後であり、100倍前後まで低下させることが可能である。このように、アクリルアミドを主体とする本発明の吸水性ポリマーはポリアクリル酸系吸水性ポリマーに比べると、吸水する水中のイオン濃度の影響は小さい。生理食塩中の平衡吸水量は吸水性ポリマー1g当たり、5〜200g/gであり、好ましくは、10〜100g/gである。
【0085】
(吸水速度)
吸水速度は吸収性ポリマーの粒径に依存する。当然、粒径が大きくなれば、吸水速度は低下する。実用的粒径と考えられる20〜60メッシュで、実施例に示すように、市販のポリアクリル酸系吸水性ポリマーと比較すると、ほぼ同等の結果である。
【0086】
(汚泥沈降剤)
汚泥沈降剤は、各種汚泥懸濁液の浄化等に使用されるものである。
汚泥沈降剤の製造において、水溶性単量体としては、ノニオン性単量体、アニオン性単量体及びそれらの混合物であり、架橋性単量体は必ずしも必要でない。また、カチオン性単量体を併用してもよい。一方、ポリアミンは低分子量のものでも、高分子量のものでも使用できる。水溶性単量体100重量部当たり、ポリアミンの添加量は5〜400重量部であり、好ましくは10〜300重量部である。
【0087】
以下、断熱重合で得られる粉末品を対象に特徴を示すが、乳化重合品でも、懸濁重合品でも同じ特徴を有する。
【0088】
汚泥沈降剤として使用する場合、粒径は細かいほうが好ましいが、粉末品では限界があり、概ね60メッシュ以下の細粉であればよい。
汚泥沈降剤の性質として、ポリアミンの添加量が多くなると吸水量が低下する。また、平衡吸水量の塩濃度への依存性もなくなり、生理食塩水中でも、蒸留水中でも、ほぼ同等であり、沈降性に優れるものほど、平衡吸水量は低下する。沈降性に優れる沈降剤の平衡膨潤量は50以下、好ましくは40以下である。このように平衡膨潤量が少ないことは、実際の使用に当って、扱いやすくなり、好都合である。
【0089】
本発明の汚泥沈降剤の別の特徴は上記したように、水中での膨潤量が小さいにも関わらず、コロイド滴定により、カチオン化度を測定するとほぼ仕込み計算値のカチオン化度に相当する結果になる。通常、膨潤ゲルでは表面電荷のみ測定され、ゲル内部の電荷は内包されて測定できなくなる。結果として、膨潤ゲルのカチオン化度はその膨潤状態及び粒径にもよるが、仕込み計算値のカチオン化度より低下する結果、通常の凝集剤に比べ、性能的に劣り、特殊な例を除き実用化されていないのが現状である。そのような意味で、本発明の汚泥沈降剤は極めて特異的なイオン発現機構を有し、従来のゲルにはない優れた特徴を有する。
【0090】
本発明のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーを汚泥沈降剤として使用する場合、用いる汚泥の処理は以下のように極めて簡単である。
【0091】
即ち、処理対象の汚泥懸濁液に汚泥沈降剤を粉末のまま添加して混合すればよい。一般に細粉を水中に添加すると継粉になってしまい、分散が困難になるのが一般的であるが、本発明の汚泥沈降剤は粉末のまま添加しても、継粉にならず、容易に分散できる。撹拌して分散状態を維持していると、汚泥沈降剤の表面に汚泥が吸着し、同時に上澄み液が透明になる。上澄み液が透明であることを確認した後、汚泥を濾別すれば、清澄な上澄み液を分離できる。
【0092】
上記の操作は従来の凝集沈殿に相当するものである。従来であれば、まず凝結剤と凝集剤の希釈液を別個に用意しておき、先ず、汚泥懸濁液に凝結剤溶液を添加して、汚泥を凝結させ、次いで凝集剤を添加して、凝集体を形成させ、それを濾別して、清澄な上澄み液を分離している。従来そのような2段にわたる操作を行う必要性は、下記二つの理由で凝結剤と凝集剤とを組合せないと汚泥を分離して清澄な上澄み液を得られないからである。 [1]凝結剤だけでは、上澄み液の清澄性は達成できるが、フロックが弱いため、分離が困難になる。
[2]凝集剤だけでは、強固なフロックが得られるが、上澄み液の清澄性が達成できない。
【0093】
更に、本発明の汚泥沈降剤は粉末のまま添加できるが、従来の凝結剤及び凝集剤は溶解或いは希釈しなければならず、それなりの装置と工数が必要となる。特に凝集剤は粘度が高くなり、溶解時には継粉になりやすいので操作に注意が必要であり、煩雑になる。一方、本発明に関する分離した汚泥はゲル状物に汚泥が吸着した形であるので、汚泥そのものに毒性等問題がなければ、含水した土壌保水剤として使用できるので、廃棄費用を大幅に削減できる。
【0094】
一方、廃棄物を出来るだけ減容化して従来のシステムで廃棄を行う場合には、汚泥沈降剤の粒径を出来るだけ小さくする必要があり、その場合には粒径を小さくした懸濁重合品或いは乳化重合品を使用すればよい。乳化重合品の場合には溶解槽で転相した後、汚泥懸濁液に添加すればよい。
【0095】
汚泥沈降剤の添加量は、汚泥の固形分質量に対し、汚泥沈降剤として0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜5質量部が特に好ましい。粒径を小さくすれば、添加量は少なくて済むし、一方土壌保水材のような使用後の再利用を想定した場合には添加量は比較的多くなる。
【0096】
本発明の汚泥沈降剤はその粒径を制御することにより、汚泥凝集物を土壌保水剤のような含水ゲル状態を保持したものから、通常の凝集体のようにスラッジとして廃棄する場合まで、各種の形態をとれるので、広範な用途に応用が可能である。具体的には、電力等のインフラの整備されていない地域において、人力で汚濁した表流水に本発明の汚泥沈降剤を添加することにより、除濁して清澄な浄水を得る方法とか、近年水資源確保のために注目されている膜分離技術への応用が可能である。具体的には、海水の逆浸透膜による淡水化、工場で一度使用された水の精密ろ過膜での夾雑物除去による再利用、MBRと呼称される活性汚泥処理槽に膜分離機を浸漬して汚泥と処理水を分離するシステムなどの各分野で膜分離システムが使用されている。何れも、それらに膜分離において、膜の目詰まりが最大の問題であり、それを如何に回避するかがシステムのポイントである。本発明の汚泥沈降剤はその前処理剤として極めて有効である。即ち、汚泥沈降剤により目詰まりを起こす被処理水中の懸濁物を吸着して、凝集体とできるので目詰まりが起こりにくくなる。この汚泥沈降剤の別の特徴は通常の凝集剤で凝集させると凝集体が粘性をおび、膜表面に粘着することがあるが、本発明の汚泥沈降剤は粘着性がなく、膜表面への付着が起こりにくいので、ろ過の前処理剤として優れた機能を有している。
【実施例】
【0097】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでない。
【0098】
(実施例1)<吸水性ポリマーの製造>
40質量%アクリルアミド(AAM)水溶液を956g採取して、AAM水溶液に水を加えて、単量体濃度が25.5質量%となるように調整した。この水溶液に表1記載のポリアミン[2]を34g添加し、20質量%水酸化ナトリウムを添加して、pHを6.0にした。
【0099】
次いで、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下、「V−50」と略記する。)を0.5g含む水溶液10gを単量体水溶液中に添加し、0℃まで冷却した。このV−50が添加されている単量体水溶液をステンレス製のジュワー瓶に投入した。その後、ジュワー瓶内の単量体水溶液に窒素を5 L/minの速度で導入して十分に脱酸素した。
【0100】
過硫酸アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を単量体質量に対して20ppm量と、硫酸第一鉄アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を単量体質量に対して10ppm量とを、それぞれシリンジに取り、これらを同時にジュワー瓶に投入し、素早く攪拌して重合反応を開始させた。
【0101】
重合反応開始後、3時間放置して断熱的に重合反応を継続させた。これにより、ゲル状の高分子重合体を得た。その後、得られたゲル状の高分子重合体をジュワー瓶内から取り出し、ゲル状物をポリエチレン製の袋に内包密封して、95℃の湯浴に100分浸漬した。次いで、取り出したゲル状物の中心部を細断し、肉挽器を用いて約2〜3mm径の粒状に粉砕した。この粒状のゲル状物約50gをシャーレに取り、温風循環式乾燥機を用いて70℃で2時間乾燥させた。その後、高速回転刃式粉砕機を用いて1分間粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。この粉状物は篩を用いて分級し、20〜60メッシュサイズの粉状物を採取して物性測定用サンプルとした。
【0102】
(物性測定)
吸水量:サンプル1.0gを400mlの生理食塩水(NaCl 0.9%)または蒸留水に添加して、一夜放置した。翌日、吸水したサンプル懸濁液を150メッシュのステンレス製金網で濾別して、金網に残った吸水したサンプルの重量を測定し、1g当たりの吸水量を算出した。その結果を表3に示した。
吸水速度:サンプル1.0gに生理食塩水10gを添加して、薬匙で素早く撹拌して、サンプルに吸水させる。サンプルが吸水し終わるまでの時間を測定する。結果を表2に示した。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
(実施例2〜4)
実施例1と全く同様にして、表2に示す組成で、重合を行い、サンプルを得、物性測定を行った。結果を表2に示す。
(実施例5)<汚泥沈降剤の製造>
40質量%アクリルアミド水溶液を860g及び31質量%アクリル酸ナトリウム水溶液を123g採取して、更に水を加えて、単量体濃度が25.5質量%となるように調整した。この水溶液に表1記載のポリアミン[1]を344g添加し、20質量%水酸化ナトリウムを添加して、pHを6.0にした。
【0106】
次いで、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩(以下、「V−50」と略記する。)を0.5g含む水溶液10gを単量体水溶液中に添加し、0℃まで冷却した。このV−50が添加されている単量体水溶液をステンレス製のジュワー瓶に投入した。その後、ジュワー瓶内の単量体水溶液に窒素を5 L/minの速度で導入して十分に脱酸素した。
【0107】
過硫酸アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を単量体質量に対して20ppm量と、硫酸第一鉄アンモニウム(1質量%水溶液として用いた)を単量体質量に対して10ppm量とを、それぞれシリンジに取り、これらを同時にジュワー瓶に投入し、素早く攪拌して重合反応を開始させた。
【0108】
重合反応開始後、3時間放置して断熱的に重合反応を継続させた。これにより、ゲル状の高分子重合体を得た。その後、得られたゲル状の高分子重合体をジュワー瓶内から取り出し、ゲル状物をポリエチレン製の袋に内包密封して、95℃の湯浴に100分浸漬した。次いで、取り出したゲル状物の中心部を細断し、肉挽器を用いて約2〜3mm径の粒状に粉砕した。この粒状のゲル状物約50gをシャーレに取り、温風循環式乾燥機を用いて70℃で2時間乾燥させた。その後、高速回転刃式粉砕機を用いて1分間粉砕して高分子重合体の粉状物を得た。この粉状物は篩を用いて分級し、60メッシュサイズ以下の粉状物を採取して物性測定用サンプルとした。結果を表3に示す。
【0109】
【表3】

【0110】
(実施例6〜8、比較例1〜2)
実施例5と全く同様にして、表3に示す組成で、重合を行い、サンプルを得、物性測定を行った。結果を表3に示す。
【0111】
(評価例)
ベントナイト1質量%の懸濁液を調製した。懸濁液500mlをとり、200rpmで撹拌しながら、表4に示す添加量で、汚泥沈降剤を粉末のまま添加して、更に1分間撹拌を継続した。5分間放置後、上澄み液を長さ30cmの透明ガラス管に入れ、底部より、液を抜きながら、底部の×印を目視で確認できる位置を求めた。その時の底部寄りの長さを透視度として、結果を表4にまとめた。この数値が大きいほど、清澄性に優れる結果になる。
【0112】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合してなるポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。
【請求項2】
ポリアミンがアミンとエピクロルヒドリンとの反応により製造されることを特徴とする請求項1に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。
【請求項3】
ポリアミンがポリアミドポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により製造されることを特徴とする請求項1に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマー。
【請求項4】
ポリアミンの存在下に水溶液中でアクリルアミドまたは/および共重合可能な単量体を重合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーの製造方法。
【請求項5】
共重合可能な単量体がアニオン性単量体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーの製造方法。
【請求項6】
ポリアミンとポリアクリルアミド系重合体とが結合してなる請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアクリルアミド系吸水性ポリマーよりなる汚泥沈降剤。

【公開番号】特開2012−219173(P2012−219173A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85799(P2011−85799)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】