説明

ポリアクリロニトリルグラフトコポリマーによって形成されるファウリング抵抗性を有する膜

【課題】液体ろ過用膜の製造において用いることができる、ポリアクリロニトリル(PAN)ベースの両親媒性グラフトコポリマーを提供する。
【解決手段】本発明は、ポリアクリロニトリル主鎖とポリエチレンオキシドを含む複数の親水性側鎖とを含む両親媒性グラフトコポリマーを含む液体ろ過用膜を提供し、該親水性側鎖が、鎖の一端に重合性アクリレート基を有し、かつ親水性反復単位としてエチレンオキシドを有する共重合化マクロモノマーによって提供され、該グラフトコポリマーが微小相分離しており、該親水性側鎖が主鎖のポリアクリロニトリルを含む疎水性ドメインと相互散在したナノメートル規模のドメイン内に凝集されており、そして、該両親媒性グラフトコポリマーが、対応するポリアクリロニトリルポリマーによって吸着されるタンパク質の約20%未満を吸着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ろ過用の膜の製造に用いることができるポリアクリロニトリル(PAN)ベースの両親媒性グラフトコポリマーを一般的に対象とする。一態様において、本発明は、その選択層が微小相分離PANベース両親媒性グラフトコポリマーを含み、高流束、ファウリング抵抗性(fouling resistant)及び/又は例えば、ナノメートル以下の長さ規模での分子分別(溶液からの2つ又はそれを超える化学種の分離)能力を示すナノろ過(NF)膜の調製を対象とする。他の態様において、本発明は、膜に不可逆的ファウリングに対する抵抗性を付与することができる、限外ろ過(UF)及び/又は精密ろ過(MF)膜の注型における添加物としてのPANベース両親媒性グラフトコポリマーの混入を対象とする。
【背景技術】
【0002】
膜は、それと接触する化学種の透過を調節する不連続の薄い境界面である。水ろ過膜は、標的種の浸透を防ぐと同時に、水が膜に浸透することを可能にする。コロイド、細菌、ウイルス、油、タンパク質、塩又は他の種などの溶質を膜を用いて除去することができる。ポリマーろ過膜は、浸漬析出法により調製される膜の選択層の多孔性を基準として、多孔膜と非多孔膜に分類される。多孔膜においては、もたらされる輸送バリアは、透過種と非透過種のサイズの差に基づいている。逆浸透に用いるような非多孔質膜においては、種は膜材料中の相対溶解度及び/又は拡散率により分離される。ナノろ過用非多孔性膜及び多孔膜については、膜材料と膜材料を通る浸透物、例えば、水との不十分な化学親和力が浸透物の浸透性を抑制する可能性がある。液体ろ過用の良い膜を特徴づけることができる重要なパラメータは、所望のサイズ範囲における高流束、ファウリング抵抗性及び/又は選択性などである。これらの特性の改善は、膜の性能の改善につながり得る。
【0003】
高流束を示す膜は、溶液を膜を経て送出するためのエネルギーの費用を低減する可能性があり、これが方法を経済的にすることがあり得る。より均一な孔径を示す膜は、より高い選択性及び/又はより高い効率を有することができる。
【0004】
膜ファウリングは、膜産業におけるより重要な問題の1つである。膜ファウリングは、膜を通過する供給溶液中の成分によって引き起こされる時間の経過に伴う膜流束の低下によって一般的に特徴づけられる。これは、細孔壁上への分子の吸着、細孔の閉塞又は膜表面上のケーキの形成に起因して起り得る。流束の低下は、一般的により高いエネルギーの要求につながり、これを改善するためには頻繁な洗浄が通常必要である。これは一時的な解決にすぎず、ファウリングは、一般的に最終的には膜の寿命を短くする。ファウリングは、しばしば膜表面への生体分子の吸着を伴うので、生物医学適用分野における膜の生体適合性も低減し得る。
【0005】
特に限外ろ過(UF)及び精密ろ過(MF)に用いられるようなより大きい孔径を有する膜において、親水性膜表面はファウリングがより少ないことが観察されている。より大きい湿潤性が溶液中に存在する種の膜表面上への吸着を減少させる可能性がある。表面を親水性にする1つの方法は、材料の表面上のヒドロキシル及びカルボン酸基のような親水基を発生させる、酸素プラズマ処理を用いることである。しかし、この方法は、膜の上面を官能基化するにすぎず、したがって、内部の細孔のファウリングは防止されない。
【0006】
膜表面上の親水基のグラフト重合は、膜のファウリング抵抗性を増大させる最も一般的な方法である。天然有機物(NOM)及びタンパク質によるファウリングを抑えるために、様々な親水性モノマーが種々の合成膜上にグラフトされている。これらの表面修飾法の重要な欠点は、グラフト重合を開始するために高エネルギーガンマ放射線又はプラズマを使用することである。これらのアプローチは、膜の製作費用を著しく増大させ、制御性が不十分である。望ましくない副反応としては、使用中に表面から除去されやすい、非グラフト鎖の重合などがある。そのような表面グラフト重合層も、細孔を閉塞させ、流束を低下させることがあり得る。
【0007】
他の方法は、膜の注型時の反応性基を含む添加剤の混入とその後のこれらの反応性基による親水性かつ好ましくは生体適合性ポリマーの化学吸着を含む。同様な方法は、注型ポリマー膜の表面上の基(例えば、ポリアクリロニトリルにおけるニトリル基)の一部の試薬による活性化とその後の表面グラフトをもたらす親水性ポリマーのカップリングを含む。膜の注型の後、ニトリル基の一部を中間反応性部位に変換させた後、ポリ(エチレングリコール)鎖のカップリングにより表面上にグラフトを形成させることができる。これらの方法はすべて、反応性部位の活性化及びカップリングのためのいくつかの追加の工程を含み、したがって、比較的費用がかかる可能性がある。
【0008】
親水性表面を作る他の方法は、浸漬析出による膜注型時のポリマー添加物の表面偏析である。そのような方法は、膜作製における重要な追加処理工程を必要とせず、費用を限り、既存の膜注型法との容易な統合を可能にする。比較的親水性のホモポリマーを用いる、或いは親水性及び疎水性ブロックを含むブロックコポリマーを用いるそのような方法が提案されている。
【0009】
他は、以前にタンパク質ファウリングに抵抗する限外ろ過膜を製造するためのポリ(オキシエチレン)メタクリレート、POEM、すなわちポリ(フッ化ビニリデン)−g−POEM及びポリ(メチルメタクリレート−ran−POEM)を含む2つのグラフトコポリマー添加物を以前に用いた。それにもかかわらず、製造された限外ろ過膜は、ファウリングを完全には阻止せず、タンパク質を含む供給溶液を用いた試験においてある程度の不可逆性な流束損失が認められた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、例えば、液体ろ過用膜の製造において用いることができる、ポリアクリロニトリル(PAN)ベースの両親媒性グラフトコポリマーを一般的に対象とする。本発明の主題は、場合によって、相互関係のある製品、特定の問題に対する代替解決策、及び/又は1つ若しくは複数のシステム及び/又は物品の複数の異なる使用を含む。
【0011】
一態様において、本発明は、孔径を所望の適用例に対して容易に調整することができる高流束のファウリング抵抗性ナノろ過膜を調製するためのシステム及び方法を提供する。本発明は、この態様において、ポリアクリロニトリル(PAN)を含む主鎖及び親水性側鎖を含むグラフトコポリマーの微小相分離を利用する。主鎖及び側鎖成分が微小相分離して、例えば、二元連続ネットワーク構造を形成することができる限り、グラフトコポリマーにおける主鎖及び側鎖の量は、任意に選択することができる。主鎖と側鎖との適切な比は、例えば、少なくとも約10重量%の親水性側鎖、少なくとも約20重量%、少なくとも約30重量%又は少なくとも約40重量%を用いることができる。親水性側鎖材料は、例えば、該材料のサンプルを調製し、その水との接触角を測定することによって特定することができる(一般的に、該材料は0度の後退接触角を有するが、疎水性材料は60°を超える接触角を有する)。
【0012】
微小相分離、すなわち、約10nm又はそれ未満、例えば、約3nm又はそれ未満又は約2nm又はそれ未満の長さ規模で第1の相と不和合性の第2の相への微小相分離は、主鎖と側鎖との間の反発(例えば、親水性の差に起因する)及び/又は側鎖と凝析浴との選択的相互作用(凝析浴を用いて膜を析出させる)により誘発することができる。主鎖と側鎖は、別個に凝集して、本発明の特定の実施形態において微小相分離される、疎水性ドメインと親水性ドメインを形成し、例えば、ドメインは相互散在した状態になることがある。いくつかの実施形態において、親水性ドメインは側鎖によってもたらされる。すなわち、結果として得られる複数の親水性側鎖が凝集して、主鎖を含む疎水性ドメインと相互散在した親水性ドメインを形成することができる。ドメインのサイズは、側鎖の大きさ及び主鎖に沿った間隔により決定され、これらの値が知られているならば、当業者が決定することができる。一実施形態において、親水性ドメインは、約3nm未満又は約2nm未満の平均直径を有する。ドメインサイズ/周期性は、例えば、透過型電子顕微鏡/小角X線又は中性子散乱により測定することができる。
【0013】
場合によって、微小相分離は、下で述べるように、ガラス転移測定又は同様なものにより測定することができる。自己集合により、親水性側鎖は、膜にその透過選択特性及び/又は抗ファウリング特性を付与することができる、例えば、約1〜10nmの調整することができる幅のナノチャンネルを形成することができる。場合によって、ポリアクリロニトリル主鎖は、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、加水分解ポリ(t−ブチルメタクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリスルホプロピルアクリレート及びそのコポリマーと共重合していてもよい。
【0014】
他の態様において、本発明は、ファウリングを起こす従来技術の膜と異なり、ファウリング抵抗性精密ろ過及び限外ろ過膜の調製の技術を提供する。ファウリングは、タンパク質などの生体分子、細胞又は微生物などの他のより大きい生物学的種の沈着によって生じ得る。一実施形態において、該物品は、該物品が主鎖を構成する対応する親ポリマーにより吸着されるタンパク質の約90%未満、及び対応する親ポリマーにより吸着されるタンパク質の好ましくは約50%、約20%、約10%又は約5%未満を吸着するように細胞及びタンパク質吸着に対して抵抗性である。一般的に、主鎖を構成する対応する親ポリマーは、疎水性であり、タンパク質又は他の生体分子の沈着を可能にする。膜が生体分子ファウリングに対して抵抗性である程度は、ろ過試験によって測定することができる。ファウリングを測定するためのろ過試験の例(モデルタンパク質としてウシ血清アルブミンを用いる)を下で述べる。この技術は、場合によって、例えば、限外ろ過膜の浸漬析出注型において添加物としてグラフトコポリマーを利用する。添加物は、例えば、親水性側鎖と凝析浴との間の好都合の相互作用により、膜の外及び/又は細孔表面に偏析することができ、これが供給溶液中の生物学的分子又は同様なものによる低ファウリングを示す表面を作ることができる。
【0015】
他の態様において、本発明は、液体ろ過用の膜を対象とする。1組の実施形態において、膜は、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数のオリゴマー親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含む。
【0016】
他の態様において、本発明は、水ろ過の方法を対象とする。該方法は、1組の実施形態によれば、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数のオリゴマー親水側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含み、水が膜を通過することを可能にする膜を準備する行為を含む。
【0017】
本発明は、他の態様によれば、分子の分別の方法を対象とする。1組の実施形態において、該方法は、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数のオリゴマー親水性側鎖を含む微小相分離グラフトコポリマーを含む選択層を含む膜を準備し、サイズに基づいて分子を選択的に通すための膜選択層を通して分子溶液をろ過する行為を含む。
【0018】
一態様において、本発明は、液体ろ過の方法を対象とする。一実施形態において、膜は、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含み、該グラフトコポリマーが微小相分離している。場合によって、親水性側鎖は、凝集して、主鎖のポリアクリロニトリルに富むドメインと相互散在したナノメートル規模のドメインを形成している。
【0019】
膜は、他の組の実施形態において、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含む。場合によって、親水性側鎖は、グラフトコポリマーの少なくとも約30重量%を含み、かつ/又は凝集して約3nm未満の有効サイズを有するナノメートル規模のドメインを形成している。ナノチャンネルの有効サイズは、例えば、既知の大きさの分子色素のろ過により、当業者によって容易に測定することができる。一実施形態において、該ナノメートル規模のドメインは、主鎖のポリアクリロニトリルに富むドメインと相互散在している。場合によって、グラフトコポリマーは、微小相分離している。
【0020】
他の態様において、本発明は、水ろ過の方法を対象とする。該方法は、1組の実施形態において、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含み、グラフトコポリマーが微小相分離している膜を準備し、膜を通して水を通過させる行為を含む。
【0021】
本発明は、他の態様において、分子の分別の方法である。1組の実施形態において、該方法は、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む微小相分離グラフトコポリマーを含む選択層を含む膜を準備し、サイズに基づいて分子を選択的に通すための膜選択層を通して分子溶液をろ過する行為を含む。
【0022】
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含み、該グラフトコポリマーが微小相分離しており、該親水性側鎖が凝集して主鎖のポリアクリロニトリルに富むドメインと相互散在したナノメートル規模のドメインを形成している、
液体ろ過用膜。
(項目2)
前記グラフトコポリマーが水に不溶性である、項目1に記載の膜。
(項目3)
前記親水性側鎖がポリエチレンオキシドを含む、項目1に記載の膜。
(項目4)
前記側鎖が少なくとも約350g/モルの数平均分子量を有する、項目3に記載の膜。
(項目5)
前記親水性側鎖が、ポリエチレンオキシド、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルメタクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(メチルスルホニルエチルメタクリレート)及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、項目1に記載の膜。
(項目6)
前記親水性側鎖が前記グラフトコポリマーの少なくとも約30重量%を形成する、項目1に記載の膜。
(項目7)
前記親水性ドメインが水の輸送経路を定めている、項目1に記載の膜。
(項目8)
前記微小相分離グラフトコポリマーが限外ろ過又は精密ろ過ベース膜上のコーティングを構成する、項目1に記載の膜。
(項目9)
前記親水性ドメインが約3nm未満の有効孔径を有する、項目1に記載の膜。
(項目10)
前記ベース膜がポリアクリロニトリルである、項目8に記載の膜。
(項目11)
前記膜が少なくとも約50L/m.時間.MPaである純水流束を有する、項目8に記載の膜。
(項目12)
1000mg/Lウシ血清アルブミン溶液の24時間全量ろ過及び脱イオン水によるすすぎの後に前記膜が約2%未満である不可逆的な純水流束損失を有する、項目8に記載の膜。
(項目13)
前記ベース膜が、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリプロピレン及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、項目8に記載の膜。
(項目14)
前記膜が液浸析出により作製され、前記微小相分離グラフトコポリマーが該膜表面における選択層を形成している、項目1に記載の膜。
(項目15)
前記膜が表面と本体を有し、該膜が第1のポリマー成分と第2のポリマー成分との絡み合った混合物を含み、該第2のポリマー成分がポリアクリロニトリル主鎖と複数の親水性側鎖を含むグラフトコポリマーであり、該グラフトコポリマーが、該膜の本体における第2のポリマー成分と第1のポリマー成分との比より大きい第2のポリマー成分と第1のポリマー成分との比で膜の表面に存在する、項目1に記載の膜。
(項目16)
前記第1のポリマーがポリアクリロニトリルである、項目15に記載の膜。
(項目17)
前記第1のポリマー成分が、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリプロピレン及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、項目15に記載の膜。
(項目18)
浸漬析出により作製される、項目15に記載の膜。
(項目19)
前記微小相分離グラフトコポリマーが膜表面における選択層を含み、該膜の選択層が多孔性である、項目18に記載の膜。
(項目20)
前記第2のポリマー成分が混合物の少なくとも約20重量%である、項目15に記載の膜。
(項目21)
前記グラフトコポリマーの親水性側鎖が、少なくとも約350g/モルの数平均分子量を有するポリエチレンオキシドである、項目15に記載の膜。
(項目22)
1000mg/Lウシ血清アルブミン溶液の24時間全量ろ過及び脱イオン水によるすすぎの後に膜が約2%未満である不可逆的な流束損失を有する、項目19に記載の膜。
(項目23)
前記親水性側鎖が、ポリエチレンオキシド、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルメタクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(メチルスルホニルエチルメタクリレート)及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、項目15に記載の膜。
(項目24)
前記グラフトコポリマー主鎖がアクリロニトリル及び第2の荷電モノマーの反復単位を含む、項目1に記載の膜。
(項目25)
ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含み、該グラフトコポリマーが微小相分離している膜を準備すること、及び
該膜に水を通すこと
を含む、水をろ過する方法。
(項目26)
ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む微小相分離グラフトコポリマーを含む選択層を含む膜を準備すること、及び
分子溶液を、サイズに基づいて分子を選択的に通すための膜選択層を通してろ過すること
を含む、分子を分別する方法。
(項目27)
ポリアクリロニトリル主鎖及び複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含み、該親水性側鎖が該グラフトコポリマーの少なくとも約30重量%を含み、凝集して約3nm未満の有効サイズを有するナノメートル規模のドメインを形成しており、該ナノメートル規模のドメインが主鎖のポリアクリロニトリルに富むドメインと相互散在し、そして該グラフトコポリマーが微小相分離している、
液体ろ過用の膜。
(項目28)
前記グラフトコポリマーが水に不溶性である、項目27に記載の膜。
(項目29)
前記親水性側鎖がポリエチレンオキシドを含む、項目27に記載の膜。
本発明の他の有利かつ新規な特徴は、添付図とともに考慮するとき、本発明の種々の非限定的実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。本明細書及び参照により組み込まれる文書が矛盾しかつ/又は相反する開示を含む場合、本明細書が支配するものとする。2つ以上の参照により組み込まれる文書が互いに矛盾しかつ/又は相反する開示を含む場合、より後の発効日を有する文書が支配するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明の非限定的実施形態は、概略であり、縮尺により描くことを意図しない添付図を参照しつつ実施例により説明するものとする。図において、例示されている各同一又はほぼ同一の構成要素は、一般的に単一の数によって示す。明瞭の目的のために、当業者に本発明を理解させるのに例示が必要でない場合、すべての構成要素をすべての図において表示するわけでなく、また本発明の各実施形態のすべての構成要素を示すわけでない。
【図1】本発明の一実施形態によるポリアクリロニトリル−グラフト−ポリエチレンオキシド、すなわち、PAN−g−PEOの代表的な合成スキームを示す図である。
【図2】本発明の他の実施形態におけるナノろ過膜の選択層における水透過性ナノチャンネルを形成する両親媒性PANベースグラフトコポリマーの微小相分離の概略図である。
【図3】本発明の他の実施形態によるUF又はMF膜の浸漬析出注型時の両親媒性PANベースグラフトコポリマー添加物の表面偏析の概略図である。
【図4】イソプロパノール中で析出させた実施例2に記載のPAN−g−PEO試料の変調示差走査熱量測定(MDSC)トレースを示す図である。
【図5】風乾した実施例1に記載のPAN−g−PEO試料の変調示差走査熱量測定(MDSC)トレースを示す図である。
【図6A】本発明の一実施形態により製造した非被覆膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図6B】本発明の一実施形態により製造した被覆膜の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図7A】本発明の他の実施形態によるPANフィルムの接触角測定を示す図である。
【図7B】本発明の他の実施形態によるPAN−g−PEOフィルムの接触角測定を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態におけるPAN−g−PEO被覆ナノろ過膜を通してのウシ血清アルブミン(BSA)の全量ろ過(透過物質がフィルターに導かれ、溶液からの非透過物質を除去する機構を有さない)を示す図である。供給溶液は、リン酸緩衝生理食塩水中1g/Lウシ血清アルブミンであった。◆(ダイヤモンド)はBSAであり、■(正方形)はMilli−Q脱イオン水である。
【図9】市販のSepro PAN400ベースUF膜を通してのBSAの全量ろ過を示す図である。供給溶液は、リン酸緩衝生理食塩水中1g/Lウシ血清アルブミンであった。◆(ダイヤモンド)はBSAであり、■(正方形)はMilli−Q脱イオン水である。
【図10】本発明の他の実施形態におけるPAN−g−PEO被覆NF膜による分子色素保持を示す図である。計算分子色素サイズを示す。すべての色素が負電荷を示した。
【図11】本発明の一実施形態によるPAN−g−PEO被覆ナノろ過膜の分別能力の実証を示す図である。コンゴレッド及びエチルオレンジ分子色素の分別を示す。
【図12A】本発明の一実施形態において製造された注型PAN−g−PEO/PAN配合限外ろ過膜の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図12B】本発明の一実施形態において製造された注型PAN−g−PEO/PAN配合限外ろ過膜の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図12C】本発明の一実施形態において製造された注型PAN−g−PEO/PAN配合限外ろ過膜の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図12D】本発明の一実施形態において製造された注型PAN−g−PEO/PAN配合限外ろ過膜の横断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【図13】本発明の他の実施形態によるPAN−g−PEO/PAN配合UF膜を通してのBSAの全量ろ過を示す図である。供給溶液は、リン酸緩衝生理食塩水中1g/Lウシ血清アルブミンであった。◆(ダイヤモンド)はBSAであり、■(正方形)はMilli−Q脱イオン水である。
【図14】本発明の一実施形態による注型PAN UF膜を通してのBSAの全量ろ過を示す図である。供給溶液は、リン酸緩衝生理食塩水中1g/Lウシ血清アルブミンであった。◆(ダイヤモンド)はBSAであり、■(正方形)はMilli−Q脱イオン水である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、ポリアクリロニトロルを含む主鎖及び親水性側鎖を含むグラフトコポリマーの使用を一般的に対象とする。該コポリマーは、例えば、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)及び又はナノろ過(NF)適用のための膜の製造に用いることができる。精密ろ過適用は、一般的にマイクロメートル未満の大きさを有する粒子又は種のより大きいものからの分離に関係するものであり、分離は、精密ろ過膜については一般的に0.1〜10マイクロメートルの、膜における細孔のサイズにより制御される。同様に、ナノろ過における孔径はナノメートルの大きさ、例えば、1〜10nm程度であるが、限外ろ過における孔径は中間サイズ、例えば、0.1マイクロメートルから数ナノメートルである。
【0025】
本発明の膜は、非修飾膜と比較してファウリング抵抗性を示す可能性がある。いくつかの実施形態において、そのようなグラフトコポリマーを用いて調製されるNF膜も現在の市販のNF膜より実質的に高いバルク流束、及び/又はサブナノメートル範囲において調整可能かつ選択性である水透過性チャンネルを示す。
【0026】
本発明の一態様は、グラフトコポリマーの主鎖及び側鎖の自己組織化特性に基づいている。場合によって、グラフトコポリマーは、両親媒性、すなわち、親水性及び疎水性領域を有する。主鎖は、1組の実施形態において、ポリアクリロニトリル(PAN)を含む。側鎖は、主鎖より親水性、例えば、PANより親水性が高いポリマーを含む(物質の親水性は、先に述べたように、その後退水接触角に基づいて測定することができ、疎水性がより高い物質は親水性がより高い物質より大きい後退接触角を有する)。側鎖は、例えば、少なくとも約150g/モル、少なくとも約250g/モル、少なくとも約350g/モル、少なくとも約500g/モル等の適切な分子量(数平均)を有していてよい。一実施形態においいて、側鎖は、任意の適切な数の反復単位を有するポリエチレンオキシド(PEO)を含む。本発明の種々の実施形態において潜在的に有用な側鎖の他の非限定的な例としては、ポリ(エチレングリコール)、ポリヒドロキシメタクリレート、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルメタクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(メチルスルホニルエチルメタクリレート)、及びそのコポリマーなどがある。
【0027】
「グラフトコポリマー」は、本明細書で用いているように、主鎖を含む親ポリマー及び複数の側鎖を含む第2のポリマーという規定を必要とする。親ポリマー由来のグラフトコポリマーは、親ポリマーの望ましい特性を保持しながら、特定の特性を有する材料の発生を可能にする。グラフトコポリマーは、様々な方法により合成することができる。グラフト反応の例は、参照により本明細書に組み込まれる2002年10月10日に米国特許出願公開第2002/0147282号として公表されたMayesらによる「Graft Copolymers, Methods for Grafting Hydrophilic Chains onto Hydrophobic Polymers, and Articles Thereof」と題する2001年9月12日に提出された米国特許出願第09/951,125号に述べられている。いくつかの実施形態において、グラフトコポリマーは、親モノマー、例えば、アクリロニトリルとマクロモノマー、例えば、ポリエチレンオキシドアクリレート、ポリオキシエチレンアクリレート、ポリ(エチレングリコール)アクリレート等とのフリーラジカル共重合により合成される。
【0028】
理論により拘束されることを望むことなく、主鎖−側鎖不和合性及び/又は側鎖と凝析浴との相互作用により、主鎖及び側鎖の微小相分離が起ると考えられる。そのような微小相分離は、少なくとも一部は、主鎖成分と側鎖との間の親水性の差に起因すると思われる。結果として得られるドメインの大きさの規模は、主鎖及び側鎖の化学及び相対容積比、側鎖の重合の程度、主鎖に沿った側鎖の分布及び/又は膜注型条件などのパラメータを用いて調整することができる。一般的に、所定の適用分野において所望の通りに結果として得られるポリマーの所望の特性を達成するためのそのような調整は、通常の実験及び最適化を超えることなく当業者によって達成することができる。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態において、上述のコポリマーは、膜に用いることができる。例えば、微小相分離層において、グラフトコポリマー側鎖は、本発明の特定の態様によれば、水透過性チャンネルとして働くことができるナノメートル規模の親水性ドメインのネットワークを形成する。場合によって、該チャンネルは、例えば、層の1つの側を他の側につなぐ、連続的ネットワークを形成する。これらのチャンネルのサイズは、得られるナノろ過膜の分離特性並びにチャンネルを定義する親水性側鎖の立体配座を決定する可能性がある。この方法によってもたらされるグラフトコポリマーの微小相分離及び親水性ナノチャンネルの非限定的な概略図を図2に示す。親水性ドメインのサイズの規模は、この例において適切に小さく(1〜10nmの範囲)、これは、例えば、溶液中のタンパク質又は同様なものの膜を用いた分子規模の分別を可能にする。
【0030】
本発明の一実施形態において、ナノろ過に有用な膜は、約10nm未満、約3nm未満、約2nm未満等の大きさを有する親水性ドメインを含む。本発明のこの実施形態の特徴は、親水性ドメインが水に対する化学親和力をもたらし、これが非透過物質に優先しての水の輸送を促進し、一方、PANに富むドメインが機械的、化学的、かつ/又は熱安定性をもたらすことである。PANドメインの架橋は、例えば、さらなる安定性をもたらすために完成した膜の熱処理により実現することができる。
【0031】
分子輸送のサイズ選択性は、NF膜ナノチャンネルの形態及び/又は親水性ドメインの大きさにより効果的に制御することができる。所定のろ過適用のための親水性ドメインのサイズ(例えば、1〜10nm)は、例えば、側鎖の長さ及び/又はグラフトコポリマー主鎖に沿った間隔、注型溶媒、及び/又は温度及び/又は組成などの凝析浴パラメータを変化させることによって達成することができる。NF膜の有効孔径は、例えば、分子プローブ色素又は既知の大きさのデンドリマー若しく球状タンパク質などの他の分子のろ過により評価することができる。
【0032】
ナノろ過膜の上の議論は具体例であって、限定するものではないと解釈すべきことに注意すべきである。ナノろ過膜は、便宜のためにこのように用いられる。しかし、本発明の他の実施形態において、膜は他の孔径を有していてもよく(例えば、膜が精密ろ過膜又は限外ろ過膜であった場合)、ナノチャンネル材料に関する上の記述も当てはまる。
【0033】
本発明の一実施形態は、膜の選択層が電気的に中性であるNF膜を提供する。膜の「選択層」は、一般的に分離を起こさせる膜の部分である。選択層は場合によって弱いことがあるので、機械的強度を持たせるために基材層又はベース膜を選択層に備えることができる(一般的に、それらが直接接触するように)。ベース膜の非限定的な例としては、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリプロピレン及びそのコポリマーなどがある。
【0034】
市販のナノろ過膜は、一般的に荷電選択膜を有するので、そのような膜により得られる分離は、溶媒和した種の電荷の影響を受ける。本発明のいくつかの実施形態において、分離は、分子サイズに基づいて起り、類似の荷電分子種の分別を可能にする。
【0035】
したがって、本発明の一実施形態において、PANグラフトコポリマーなどのポリマーを膜、例えば、ナノろ過(NF)膜の選択層として用いる。NF膜は、本明細書で述べたように、約10ナノメートルより小さい有効孔径を有する膜である。本発明の一実施形態において、ナノろ過膜は、精密ろ過又は限外ろ過膜をグラフトコポリマー溶液の層でコーティングした後、析出により調製する。析出は、例えば、被覆された膜を、グラフトコポリマーと和合性でない、また特に、グラフトコポリマーのPAN成分と和合性でない溶液中に浸漬することにより誘発することができる。ベース膜は、例えば、PANグラフトコポリマーが容易に付着するあらゆるMF又はUF膜であってよく、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)及び他の適切なフルオロポリマー、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)等、ポリ(メチルメタクリレート)、及び/又はポリオレフィン誘導体並びにそのコポリマーなどであってよい。
【0036】
本発明の他の態様は、良好な水湿潤性及び供給溶液中のタンパク質、炭水化物又はNOM(天然有機物)などの生体分子によるファウリングに対する抵抗性を有するNF膜を提供する。理論に拘束されることを望むことなく、そのような湿潤性及びファウリング抵抗性は、NF膜の選択層の表面における両親媒性PANグラフトコポリマーの親水性側鎖の局在化によりもたらされると考えられる。生物学的分子による不可逆的ファウリングを、多孔性MF又はUF膜等の形成における添加物として本発明のグラフトコポリマーを用いて実質的になくすことができることは、本発明のいくつかの実施形態の新規な態様である。
【0037】
膜を通しての流束は、例えば、本発明のナノろ過膜を通しての純水の流量を測定することによって求めることができる。流束は、膜表面上の大きい有効細孔面積をもたらす、選択性コポリマー層における親水性ドメインを構成する大きい容積に起因する。PEOドメインの高い親水性も高い流束の一因でもあると思われる。例として、本発明の一実施形態において、NF膜は、少なくとも約25L/m.時間.MPa、少なくとも約50L/m.時間.MPa、少なくとも約100L/m.時間.MPaである純水流束を示すことができる。
【0038】
例えば、本発明の一実施形態において、PANを含む主鎖及び親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを限外ろ過又は精密ろ過膜におけるポリマー添加物として用いる。該コポリマーは、ファウリング抵抗性、例えば、供給溶液中の生物学的分子による不可逆性ファウリングに対する抵抗性をもたらし得る。したがって、例えば、本発明の膜は、約2%未満である、1000mg/Lウシ血清アルブミン溶液の24時間の全量ろ過の後の不可逆的純水流束損失を示す。一実施形態において、グラフトコポリマーを限外ろ過(UF)又は精密ろ過(MF)膜等の浸漬析出注型用の溶液中のマトリックスポリマーと比較的に小さい分率で混合する。該方法の概略を図3に示す。浸漬析出法は、広範に記載されており、厚さが数100ミクロンのフィルムに注型し、水又は水に富む凝析浴中に浸漬するポリマー溶液の調製を必要とする。このポリマーは、析出して非対称性膜構造を形成する。本発明のグラフトコポリマーを第2のマトリックスポリマーの溶液に加え、混合物を析出させると、グラフトコポリマーは、エンタルピー及び/又はエントロピー推進力により水界面に偏析する。そのような系の例は、膜が表面と本体(bulk)を有し、膜が第1のポリマー成分と第2のポリマー成分の絡み合った混合物を含むものである。第2のポリマー成分は、ポリアクリロニトリル主鎖及び複数のオリゴマー親水性側鎖を含むグラフトコポリマーを定義し、該グラフトコポリマーが、膜の本体における第2のポリマー成分と第1のポリマー成分との比より大きい第2のポリマー成分と第1のポリマー成分との比で膜の表面に存在してよい。
【0039】
いくつかの実施形態において、膜の表面並びにその細孔の内部の表面がグラフトコポリマーの親水性側鎖によって被覆されており、これがファウラント(foulants)の吸着を減少させる可能性がある。グラフトコポリマー添加物の表面被覆率は、例えば、より多くのコポリマーを表面に移動させるための水中での膜のアニーリングにより増大させることができる。
【0040】
本発明の他の態様は、本明細書に記載したポリマーのいずれかの調製又は合成を一般的に対象とする。グラフトコポリマーの合成は、当業者に知られている様々な方法により実現することができる。一実施形態において、グラフトコポリマーを、アクリロニトリルモノマーと親水性成分のマクロモノマーとのフリーラジカル共重合により合成する。マクロモノマーは、本明細書において鎖の一端に重合性官能基を有する反復単位のオリゴマー(親水性又は主鎖より少なくとも親水性が高いことがある)と定義する。いくつかの実施形態において、図1に示すように、親水性反復単位はエチレンオキシドであり、官能基はアクリレート基である。図1において、nは、エチレングリコール反復単位の任意の適切な数、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10又は場合によってより大きい数であってよい。親水性側鎖の他の特定の非限定的な例としては、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルアクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルメタクリレート)、加水分解ポリ(t−ブチルアクリレート)、ポリアクリルアミド、ポリ(N−ビニルピロリドン)、ポリビニルアルコール、ポリ(アミノスチレン)、ポリ(メチルスルホニルエチルメタクリレート)及び同様なもの、並びに上のいずれかを含むコポリマー及び同様なものが挙げられる。本発明の特定の実施形態において、側鎖及び/又は主鎖は、例えば、塩排除、pH調整可能排除能(pH tunable rejection capability)等を持たせるためのスルホネート、カルボン酸及び/又はアミノ基などの荷電側基を有するモノマーを組み込むことができる。
【0041】
上で述べたような本発明の特定の実施形態の重要な特徴は、記載した膜の製造の容易さである。コーティング工程は、当業者により広く用いられており、当産業界で知られている。したがって、記載した膜の製造は、本発明の特定の実施形態によれば、容易な適応及び低い製造費用の可能性を有する。
【0042】
他の組の実施形態において、膜を浸漬析出により注型する。浸漬析出は、一般的に副層の表面を覆う比較的高密度の0.1〜1マイクロメートルの表面層を有する非対称性構造を含む膜をもたらす。副層は、場合によって高度に多孔性であってもよい。比較的高い流束は膜体積の本体を構成する大きい細孔チャンネルを通して可能であるが、ろ過時の供給溶液中の化学種の分離は膜表面において達成することができるので、この非対称性構造は、本発明の特定の実施形態において有利である。一実施形態において、NF膜は、親水性ドメインを含む微小相分離グラフトコポリマーを含む又は本質的になる。しかし、他の実施形態において、膜は、両親媒性グラフトコポリマーと少なくとも1つの他のポリマーとの混合物を含むことができる。他のポリマーは、膜の形成に一般的に用いられるようなより疎水性のポリマーであってもよく、その例は、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)及び他の適切なフルオロポリマー、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)等、ポリ(メチルメタクリレート)及びポリオレフィン誘導体を含むが、これらに限定されない。混合物は、あらゆる割合のグラフトコポリマーを含むことができる。場合によって、作製される膜は、膜の密度の高い表面層における主成分としての微小相分離グラフトコポリマーを有する。特定の実施形態において、得られる膜の機械的特性は、液体ろ過工程の操作圧力に耐えるのに適している。浸漬析出による膜の作製時に両親媒性コポリマーは表面に優先的に局在化する能力があるため、多孔性膜副層における少数成分である場合でさえもグラフトコポリマーは膜の密度の高い表面層における主成分であることができることが本発明のいくつかの実施形態の特徴である。
【0043】
以下の文書は参照により本明細書に組み込まれる。すなわち、Mayesらによる「Fouling Resistant Membranes Formed with Polyacrylonitrile Graft Copolymers」と題する2006年4月11日に提出された米国仮特許出願第60/791,003号明細書、及び現在は2002年7月2日に発行された米国特許第6,413,621号であるMayesらによる「Polymer Articles, including Membranes, having Hydrophilic Surfaces and Method for their Preparation」と題する1999年2月26日に提出された米国特許出願第09/258,526号明細書。
【0044】
本発明のこれら及び他の実施形態の作用及び利点は、下の実施例から十分に理解されるであろう。以下の実施例は、本発明の利点を具体的に説明することを意図するものであって、本発明の全範囲を例示するものではない。
【実施例】
【0045】
(実施例1)
溶媒としてトルエンを用いたポリアクリロニトリル−グラフト−ポリ(エチレングリコール)(PAN−g−PEO)の合成
この実施例においては、本発明の特定の膜の調製に用いるPAN主鎖及びPEO側鎖を含むグラフトコポリマーを次のように合成した。アクリロニトリル(Aldrich)及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート(PEGA)(454g/モル、Aldrich)を塩基性活性アルミナ(VWR)のカラムに通して抑制剤を除去した。アクリロニトリル(10g、188mモル)、PEGA(10g、22mモル)及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)を丸底フラスコ中でトルエン(50ml)に溶解した。フラスコを密閉した。窒素を反応混合物に撹拌しながら20分間吹き込んだ。次いで、フラスコを撹拌しながら90℃に24時間維持した。次いで、析出したポリマーを含むことが認められた反応混合物をヘキサン中で析出させ、ヘキサンの2つの新たな部分を数時間撹拌することにより精製した後、真空オーブン中で一夜乾燥した。得られた白色ポリマーの組成は、総主鎖プロトン(1.5〜2.5ppm)とPEGAのCOOCHプロトン(4〜4.5ppm)との比を用いてH−NMRスペクトルから計算した。ポリマーは、45重量%PEOに相当する53重量%PEGAを含むと判断された。数平均分子量は、ポリスチレン標準品に基づいて93kg/モルと測定された。
【0046】
(実施例2)
溶媒としてジメチルホルムアミドを用いたポリアクリロニトリル−グラフト−ポリ(エチレングリコール)(PAN−g−PEO)の合成
この実施例においては、アクリロニトリル(Aldrich)及びポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート(PEGA)(454g/モル、Aldrich)を塩基性活性アルミナ(VWR)のカラムに通して抑制剤を除去した。アクリロニトリル(10g、188mmモル)、PEGA(10g、22mmモル)及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN、0.01g、Aldrich)を丸底フラスコ中でジメチルホルムアミド(DMF、50ml)に溶解した。フラスコを密閉した。窒素を反応混合物に撹拌しながら20分間吹き込んだ。次いで、フラスコを撹拌しながら60℃に24時間維持した。次いで、反応混合物をヘキサン及びエタノールの1:1混合物中で析出させ、ポリマーをDMFに再溶解し、1:1ヘキサン−エタノール混合物中で再析出させることにより精製した後、真空オーブン中で一夜乾燥した。得られた白色ポリマーの組成は、総主鎖プロトン(1.5〜2.5ppm)とPEGAのCOOCHプロトン(4〜4.5ppm)との比を用いてH−NMRスペクトルから計算した。ポリマーは、53重量%PEOに相当する60重量%PEGAを含むと判断された。ポリマーの数平均分子量は、DMFを溶媒として用いたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。数平均分子量は、ポリスチレン標準品に基づいて135kg/モルと測定された。
【0047】
(実施例3)
種々の注型条件によるPAN−g−PEO試料の微小相分離特性
PAN−g−PEOの微小相分離特性を観察するために、この実施例における示差走査熱量測定(DSC)試験用の3種類の組の試料を調製した。DSCは、得られたデータから動力学的影響を除去することができ、可逆性熱流の分離によりガラス転移をより明瞭に観察できるように、変調DSC(MDSC)モードでTA Instruments Q100を用いて行った。
【0048】
第1の組の試料は、イソプロパノール中の膜注型の状態をシミュレートすることを目的とした。そのために、約0.3mlの溶液が1.5cm×3cmの範囲に広がるように、顕微鏡用スライドガラスにDMF中PAN−g−PEOの20重量%溶液の薄層を被覆した。次いで、スライドをイソプロパノールに30分間浸漬し、次いで、水に10分間浸漬した。回収透明フィルムをガラスから脱離させ、真空オーブン中で乾燥した。
【0049】
実施例2で述べたポリマーから調製したそのような試料に関するMDSCプロットを図4に示す。3つのガラス転移(Tg)が認められ、約−46℃における第1のものはPEOに富むドメインに対応し、−11℃における第2のものは混合相間領域に対応し、63℃における第3のものはPANに富むドメインに対応すると考えられた。3つのTgの存在は、イソプロパノール中で析出させたときにポリマーが微小相分離したことを示唆していた。
【0050】
第2の組の試料は、一般的溶媒の蒸発によって得た。試料は、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中20重量%PAN−g−PEO溶液の数滴をDSCパンに入れ、75℃で溶媒を蒸発させて調製した。
【0051】
実施例1で述べたコポリマーから調製したそのような試料に関するMDSCプロットを図5に示す。3つのガラス転移温度(Tg)が次のように位置していた。約−61℃における第1のものはPEOに富むドメインから、−2℃における第2のものは相間領域から、53における第3のものはPANに富むドメインから生じたと考えられた。3つのTgの存在は、イソプロパノール中で析出させたフィルムと同様に、ポリマーが微小相分離したことを示唆していた。
【0052】
(実施例4)
PAN−g−PEOからの薄層複合ナノろ過膜の調製
この実施例においては、実施例1で述べたグラフトコポリマーを用いてナノろ過膜を調製した。ポリマー(2g)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF、VWR、8ml)に約50℃で溶解した。ポリマー溶液を1マイクロメートルシリンジフィルター(Whatman)に通し、真空オーブン中で少なくとも2時間脱気した。Sepro Inc.(Oceanside、CA)から購入したPAN400限外ろ過膜をベース膜として用いた。膜は、制御コーティング機(Testing Machines Inc.、Ronkonkoma、NY)を用いてコーティングした。PAN400ベース膜をコーティング機上に固定し、コーティングバー(番号4、公称フィルム厚さ40マイクロメートル)を挿入した。コーティング溶液をベース膜上に注いで、コーティングバーから約0.5cmの箇所に細いラインを形成させ、コーティング機を用いて再現性のある一定の速度(機器上の速度レベル4)でバーを移動させた。5分間待った後、膜をイソプロパノールの浴に30分間浸漬した後、水浴に浸漬した。
【0053】
図6A〜6Bに、非被覆ベース膜(左)及び被覆膜(右)の走査型電子顕微鏡(SEM)像を同じ倍率で示す。コーティング層を観察することができる。コーティング厚さは、約2マイクロメートルであった。
【0054】
(実施例5)
PAN及びPAN−g−PEO表面の接触角
材料の親水性のインジケータとして、この実施例において、市販のPAN(Aldrich)及び実施例1のPAN−g−PEOの薄膜をスピンコーティングによりケイ素上に調製した。これらの試料について静滴(sessile drop)接触角測定を実施した。これらの実験からの画像を図7A〜7Bに示す。PAN表面(左)の接触角は約57°であったが、PAN−g−PEO(右)の接触角は約38°であると認められた。コポリマーの接触角がはるかに低いことから、コポリマー材料の親水性がより高いことが示唆された。
【0055】
(実施例6)
PAN−g−PEO被覆ナノろ過膜を通しての純水の流束
実施例4で述べた膜を通しての純水の流束を、この実施例において、16.9cmの有効ろ過面積及び300mLの液容量を有するSEPA ST撹拌全量ろ過セル(Osmonics)により直径49mmの膜を用いて測定した。セルを500rpmで撹拌し、試験を0.345MPa(50psi)で実施した。少なくとも1時間の安定化期間の後に、透過物の試料を10分間にわたり収集し、重量を測定した。得られた値を流束に変換した。PAN−g−PEO被覆膜について100L/m.時間.MPaの流束値が得られた。同様な実験において、Osmonics DS−5−DLナノろ過膜の純水流束は19.4L/m.時間.MPaと測定された。これにより、この実施例において、実施例5で述べたPAN−g−PEO被覆膜は代表的な市販のNF膜の約5倍の純水流束を有することがわかった。
【0056】
(実施例7)
用いたベース膜と比較したPAN−g−PEO被覆ナノろ過膜のタンパク質ファウリング抵抗性
この実施例においては、実施例4で述べたように調製したPAN−g−PEO被覆NF膜及び非被覆SEPRO PAN400ベースUF膜から直径25mmの円形断片を切り取った。ろ過実験を行う前に、膜を水で少なくとも1時間湿潤させた。ファウリング実験は、3.5L分配容器に取付けた10mLのセル容積及び4.1cmの有効ろ過面積を有するAmicon8010撹拌全量ろ過セル(Millipore)を用いて実施した。最初に、流束が安定化するまで、Milli−Q脱イオン水を膜に通して流した。次いで、供給溶液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Aldrich)中1000mg/Lウシ血清アルブミン(BSA、Aldrich)と交換した。数時間後に、容器及びろ過セルを空にし、Milli−Q水で5〜6回すすぎ、次いで、Milli−Q水を再び満たした。実験全体を通して、FRAC−100フラクションコレクタ(Pharmacia)を用いて一定の時間間隔で透過物を収集し、重量を測定して貫膜流束を求めた。
【0057】
被覆膜を通しての流束対時間を図8に示す。BSA溶液への24時間の曝露後に、流束のわずかな低下が認められた。タンパク質供給溶液を水に切り換え戻した後に、最初の純水流束が完全に回復した。すなわち、不可逆性ファウリングはここでは認められなかった。
【0058】
対照として、Sepro PAN400ベース膜のファウリング特性を試験した。この膜によるBSA保持率は、73%と測定された。この膜のろ過時間に伴う流束の変化を図9に示す。24時間のBSAろ過の後に、流束は最初の純水流束に約5%に減少した。純水供給に戻した後に、市販のPAN膜は、4770L/m.時間.MPaのその最初の純水流束の860L/m.時間.MPaへの82%の不可逆性損失を示した。
【0059】
(実施例8)
PAN−g−PEO被覆ナノろ過膜の孔径の測定
実施例4で述べたように調製した膜をこの実施例における実験に用いた。16.9cmの有効ろ過面積及び300mLの液容量を有するSEPA撹拌全量ろ過セル(Osmonics)を用いて直径49mmの膜について保持実験を実施した。セルを500rpmで撹拌して濃度の偏りを最小限にし、試験を0.345MPa(50psi)で実施した。Milli−Q水を膜を通して少なくとも1時間流して、平衡に到達させた。次いで、セルを空にし、Milli−Q水中プローブ色素の100mg/L溶液をセルに入れた。少なくとも1時間の平衡期間の後に、試料を採取した。セルをMilli−Q水で十分にすすぎ、新たなプローブ色素に切り換える前に、透過物が完全に透明になるまでMilli−Q水を膜を通して流した。
【0060】
述べた膜の有効孔径は、グラフトコポリマーの分子構造に基づいて1〜3nmの範囲内にあると推定された。図10に2つの膜による種々の負に荷電した色素の保持を示す。ChemSWによるMolecular Modeling Proソフトウエアにより得られた分子容量値を用いて色素の直径を計算した。膜のサイズカットオフは1.0nmと0.84nmとの間にあることがわかる。したがって、そのような膜はサブナノメートル規模の分離に使用し得る。
【0061】
(実施例9)
PAN−g−PEOナノろ過膜による2つの分子の分別の実証
この実施例における実験は、実施例4で述べたNF膜試料を用いて、実施例8で述べたのと同様な方法で実施した。しかし、単一色素溶液の代わりに、供給溶液は各100mg/Lのコンゴレッド及びエチルオレンジ色素を含んでいた。2時間のろ過の後に透過物の試料を採取した。UV可視分光法により、透過物を測定したところ、UV可視分光法により測定された80mg/Lエチルオレンジを含み、コンゴレッドを含まなかった。図11に2つの単一色素及び透過物(吸光度が濃度に対して線形である範囲の濃度を得るために1/5に希釈した)のUV可視スペクトルを示す。これは、主としてサイズによる小分子の分別用のこれらの膜の能力を示している。
【0062】
(実施例10)
PAN/PAN−g−PEO配合UF膜の調製
この実施例においては、PAN−g−PEOを含むUF膜を上述のような浸漬析出法を用いて調製した。PAN(Aldrich、1.2g)をDMF(8.8ml)に約50℃で溶解した。別の容器中で、実施例2で述べたPAN−g−PEOコポリマー(1.2g)をDMF(8.8ml)に溶解した。8mlのPAN溶液を2mLのPAN−g−PEO溶液と合わせた。混合物を1マイクロメートルシリンジフィルターに通し、少なくとも2時間脱気した。膜の調製のために、制御コーティング機(Testing Machines Inc.、Ronkonkoma、NY)をマイクロメートル調整ドクターブレード付属品とともに用いた。平らなガラス床を制御コーティング機に入れ、マイクロメートル調整ブレードを200マイクロメートルに設定し、機器に取付けた。ブレードから約0.5cmの距離に、ポリマー混合溶液を注いで約6〜8mmの幅のラインを形成させた。コーティング機に電源を入れ、ブレードを再現性のある速度(設定4)で前方に移動させた。次いで、ブレードを除去し、ガラスを直ちに脱イオン水の浴に浸漬した。約10分後に、ガラスから脱離させた膜を他の水浴に移し、24時間保持した。膜を水浴中で90℃で4時間アニール(annealed)して表面偏析を増強した。
【0063】
図12にこの膜のSEM顕微鏡写真を示す。膜が高度に非対称性であり、その表面の下の微小空隙が高度に伸び、管状であったことを観察することができる。この形態は、膜のファウリング抵抗性に寄与していると思われ、非吸着タンパク質を排出させるか、又は別の仕方で、例えば、水の流れにより除去すると思われる。
【0064】
対照として、PANのみを用いて同様な膜を作製した。この場合、DMF(8.8ml)中PAN(1.2g)の溶液を注型溶液(casting solution)として用い、上の手順に従った。これらの膜は、アニールしなかった。
【0065】
(実施例11)
PAN−g−PEOを含むUF膜のファウリング抵抗性
この実施例においては、実施例10で述べたPAN/PAN−g−PEO配合UF膜をファウリングについて試験した。この試験の手順は、実施例7で述べたものであった。UV可視分光法により、膜によるBSAの保持が87%と測定された。このファウリング実験における流束対時間のプロットを図13に示す。供給溶液として純水に戻した後に膜を通しての純水流束が完全に回復したことを認めることができる。これらの結果は、PAN−g−PEO修飾膜の表面又は内部細孔に無視できる不可逆性ファウリングが起ったことを示していた。
【0066】
図9に示す市販のPAN膜を通してのBSAのろ過を対照として実施した。実施例10で述べたPANのみの膜を用いて第2の対照実験を実施した。この膜のファウリングデータを図14に示す。ニートPAN膜が24時間のファウリングの後に2500L/m.時間.MPaのその最初の流束の50%を不可逆的に失い、その最終純水流束が1250L/m.時間.MPaであったことを認めることができる。したがって、PAN−g−PEO修飾PAN UF膜は、流束の回復について両PAN対照膜より性能が優れていた。
【0067】
当業者は、本明細書で示したすべてのパラメータは例示的なものであることを意味するものであり、実際のパラメータは、本発明の方法及び装置が具体的に記載されている以外の方法で実施できる特定の適用例に依存することを容易に理解するであろう。したがって、本発明のいくつかの実施形態を本明細書に記載し、例示したが、当業者は本明細書に記載されている機能を発揮させ、かつ/又は結果かつ/又は1つ若しくは複数の優位点を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に構想するであろうし、また、そのような変形形態及び/又は修正形態のそれぞれは本発明の範囲内にあると考えられる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載されているすべてのパラメータ、寸法、材料及び構成は例示的なものであることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料及び/又は構成は本発明の教示が用いられる特定の適用例に依存することを容易に理解するであろう。当業者は、通常のものを超えない実験を用いて本明細書に記載されている本発明の特定の実施形態と多くの同等のものを認識し、又は確認することができるであろう。したがって、前述の実施形態は実施例のみとして示されており、添付する特許請求の範囲及びその同等のものの範囲内で、本発明を具体的に記載され、請求されている以外の方法で実施することができることを理解すべきである。本発明は、本明細書に記載されている個々の各特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法を対象とする。さらに、そのような特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法が相互に矛盾していない場合には、そのような特徴、システム、物品、材料、キット及び/又は方法の2つ又はそれを超える組合せは、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
本明細書において定義し、用いているすべての定義は、辞典の定義、参照により組み込まれる文書における定義、及び/又は定義される用語の通常の意味を超えて支配すると理解すべきである。
【0069】
不定冠詞「a」及び「an」は、本明細書及び特許請求の範囲において用いているように、そうでないと明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解すべきである。
【0070】
「及び/又は」という句は、本明細書及び特許請求の範囲において用いているように、そのように連結された要素の「いずれか又は両方」、すなわち、要素がある場合には連言的に存在し、他の場合には選言的に存在することを意味すると理解すべきである。「及び/又は」を用いて示された複数の要素は、同じ仕方で、すなわち、そのように連結された要素の「1つ又は複数」と解釈すべきである。「及び/又は」の句により具体的に特定されている要素以外の他の要素は、具体的に特定されている要素に関係するか、関係しないかに関わりなく、場合によって存在していてもよい。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」などの拡張可能な語とともに用いる場合、一実施形態において、Aのみ(B以外の要素を場合によって含む)に、他の実施形態において、Bのみ(A以外の要素を場合によって含む)に、他の実施形態において、A及びBの両方(他の要素を場合によって含む)に当てはめることができる。
【0071】
本明細書及び特許請求の範囲において用いているように、「又は」は、上で定義した「及び/又は」と同じ意味を持つと理解すべきである。例えば、一覧における項目を区別するとき、「又は」又は「及び/又は」は含まれる、すなわち、要素の数若しくは一覧の少なくとも1つを含むが、1つを超えるもの、また場合によっては、さらなる列挙されていない項目も含むと解釈するものとする。「のうちの1つのみ」又は「のうちの正確に1つ」、或いは特許請求の範囲において用いるときの「からなる」などの、そうでないと明確に示されている用語のみは、要素の数若しくは一覧のうちの正確に1つの要素を含むことを指す。一般的に、「又は」という用語は、本明細書で用いているように、「いずれか」、「のうちの1つ」、「のうちの1つのみ」又は「のうちの正確に1つ」などの排他性の用語が先行する場合には、排他的な選択肢(すなわち、1つ又は他のものであるが、両方ではない)を示すとのみ解釈するものとする。「から本質的になる」は、特許請求の範囲において用いるとき、特許法の分野で用いられているようなその通常の意味を持つものとする。
【0072】
本明細書及び特許請求の範囲において用いているように、1つ又は複数の要素の一覧に関する「少なくとも1つ」という句は、要素の一覧におけるいずれか1つ又は複数の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、要素の一覧内に具体的に示されている各及びすべての要素のうちの1つを必ずしも含むわけではなく、要素の一覧における要素のいずれかの組合せを除外しないと理解すべきである。この定義は、具体的に特定されている要素に関係するか、又は無関係であるかに関わりなく、「少なくとも1つ」という句が言及する要素の一覧内に具体的に示されている要素以外の要素が場合によって存在することも可能にする。したがって、非限定的な例として、「A及びBのうちの少なくとも1つ」(或いは、換言すれば「A又はBのうちの少なくとも1つ」或いは、換言すれば「A及び/又はBのうちの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、少なくとも1つ、場合によっては複数のAを含み、Bは存在しない(及び場合によってはB以外の要素を含む)に、他の実施形態において、少なくとも1つ、場合によっては複数のBを含み、Aは存在しない(及び場合によってはA以外の要素を含む)に、他の実施形態において、少なくとも1つ、場合によっては複数のAを含み、かつ少なくとも1つ、場合によっては複数のBを含むこと(及び場合によっては他の要素を含む)等を指すことができる。
【0073】
そうでないと明確に示されていない限り、複数のステップ又は行為を含む本明細書で請求されているいずれかの方法において、該方法のステップ又は行為の順序は、該方法のステップ又は行為が示されている順序に必ずしも限定されないことも理解すべきである。
【0074】
特許請求の範囲並びに上の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「運ぶ」、「有する」、「含有する」、「含む(involving)」「保持する」、「から構成される」等のすべての転換句(transitional phrases)は、拡張可能である、すなわち、含むが、限定されないことを意味すると理解すべきである。「からなる」及び「から本質的になる」という転換句のみは、米国特許局特許審査手順マニュアル(United States Patent Office Manual of Patent Examining Procedures)の2111.03項に示されているように、それぞれ閉鎖(closed)又は半閉鎖(semi−closed)転換句であるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリロニトリル主鎖とポリエチレンオキシドを含む複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含む、液体ろ過用膜であって該親水性側鎖が、鎖の一端に重合性アクリレート基を有し、かつ、親水性反復単位としてエチレンオキシドを有する共重合性マクロモノマーによって提供され、該グラフトコポリマーが微小相分離しており、該親水性側鎖が該主鎖のポリアクリロニトリルを含む疎水性ドメインと相互散在したナノメートル規模のドメイン内で凝集しており、そして、該両親媒性グラフトコポリマーが、対応するポリアクリロニトリルポリマーによって吸着されるタンパク質の約20%未満を吸着する、
液体ろ過用膜。
【請求項2】
前記グラフトコポリマーが水に不溶性である、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記側鎖が少なくとも約350g/モルの数平均分子量を有する、請求項に記載の膜。
【請求項4】
前記親水性側鎖が前記グラフトコポリマーの少なくとも約30重量%を形成する、請求項1に記載の膜。
【請求項5】
前記親水性ドメインがが前記膜を通過するための輸送経路を定めている、請求項1に記載の膜。
【請求項6】
前記微小相分離グラフトコポリマーが限外ろ過又は精密ろ過ベース膜上のコーティングを構成する、請求項1に記載の膜。
【請求項7】
前記親水性ドメインが約3nm未満の平均直径を有する、請求項1に記載の膜。
【請求項8】
前記ベース膜がポリアクリロニトリル限外ろ過又は精密ろ過ベース膜である、請求項に記載の膜。
【請求項9】
前記膜が少なくとも約50L/m.時間.MPaである純水流束を有する、請求項に記載の膜。
【請求項10】
1000mg/Lウシ血清アルブミン溶液の24時間全量ろ過及び脱イオン水によるすすぎの後に前記膜が約2%未満である不可逆的な純水流束損失を有する、請求項1または6に記載の膜。
【請求項11】
前記ベース膜が、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリプロピレン及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項に記載の膜。
【請求項12】
前記膜が液浸析出により作製され、前記微小相分離グラフトコポリマーが該膜表面における選択層を形成している、請求項1に記載の膜。
【請求項13】
前記膜が表面と本体を有し、該膜が第1のポリマー成分と第2のポリマー成分との絡み合った混合物を含み、該第2のポリマー成分がポリアクリロニトリル主鎖と複数の親水性側鎖を含むグラフトコポリマーであり、該グラフトコポリマーが、該膜の本体における第2のポリマー成分と第1のポリマー成分との比より大きい第2のポリマー成分と第1のポリマー成分との比で膜の表面に存在する、請求項1に記載の膜。
【請求項14】
前記第1のポリマーがポリアクリロニトリルである、請求項13に記載の膜。
【請求項15】
前記第1のポリマー成分が、ポリアクリロニトリル、ポリ(フッ化ビニリデン)、ポリスルホン、ポリ(エーテルスルホン)、ポリ(アリールスルホン)、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリプロピレン及びそれらのコポリマーからなる群から選択される、請求項13に記載の膜。
【請求項16】
浸漬析出により作製される、請求項13に記載の膜。
【請求項17】
前記微小相分離グラフトコポリマーが前記膜表面における選択層を含み、該膜の選択層が多孔性である、請求項16に記載の膜。
【請求項18】
前記第2のポリマー成分が前記混合物の少なくとも約20重量%である、請求項13に記載の膜。
【請求項19】
前記グラフトコポリマーの親水性側鎖が、少なくとも約350g/モルの数平均分子量を有するポリエチレンオキシドを含む、請求項13に記載の膜。
【請求項20】
1000mg/Lウシ血清アルブミン溶液の24時間全量ろ過及び脱イオン水によるすすぎの後に膜が約2%未満である不可逆的な流束損失を有する、請求項17に記載の膜。
【請求項21】
前記グラフトコポリマー主鎖がアクリロニトリル及び第2の荷電モノマーの反復単位を含む、請求項1に記載の膜。
【請求項22】
請求項1において定義される膜を準備すること、及び
該膜に水を通すこと
を含む、水をろ過する方法。
【請求項23】
請求項1において定義される膜を準備すること、及び
分子溶液を、サイズに基づいて分子を選択的に通すための膜選択層を通してろ過すること
を含む、分子を分別する方法。
【請求項24】
ポリアクリロニトリル主鎖とポリエチレンオキシドを含む複数の親水性側鎖を含む両親媒性グラフトコポリマーを含む、液体ろ過用膜であって該親水性側鎖が、鎖の一端に重合性アクリレート基を有し、かつ、親水性反復単位としてエチレンオキシドを有する重合性マクロモノマーによって提供され、該親水性側鎖が該グラフトコポリマーの少なくとも約30重量%を構成し、凝集して約nm未満の有効サイズを有するナノメートル規模のドメインを形成しており、該ナノメートル規模のドメインが主鎖のポリアクリロニトリルに富むドメインと相互散在し、そして該グラフトコポリマーが微小相分離している、
液体ろ過用の膜。
【請求項25】
前記グラフトコポリマーが水に不溶性である、請求項24に記載の膜。
【請求項26】
前記両親媒性グラフトコポリマーが、対応するポリアクリロニトリルポリマーによって吸着されるタンパク質の約5%未満を吸着する、請求項1または13に記載の膜。
【請求項27】
前記両親媒性グラフトコポリマーが、アクリロニトリルと、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレートとの共重合を含むプロセスにおいて合成される、請求項1または13に記載の膜。
【請求項28】
前記膜が、対応するポリアクリロニトリルポリマーによって吸着されるタンパク質の約20%未満を吸着する、請求項13に記載の膜。
【請求項29】
前記両親媒性グラフトコポリマーが、アクリロニトリルと、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレートとのフリーラジカル共重合によって合成される、請求項1または13に記載の膜。
【請求項30】
前記膜が、液浸析出により注型され、該膜が、副層を覆う高密度の0.1〜1マイクロメートルの表面層を有する非対称性構造を含む、請求項1または13に記載の膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−143759(P2012−143759A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−93901(P2012−93901)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【分割の表示】特願2009−505425(P2009−505425)の分割
【原出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】