説明

ポリアクリロニトリル系ポリマー粒子およびその製造方法

【課題】分散性および溶解性に優れたポリアクリロニトリル系ポリマー粒子およびその製造方法を実現する。
【解決手段】アクリロニトリル単位を95質量%以上、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含む単量体組成物を重合して得られ、嵩密度が0.25〜0.40g/cmであり、空孔率が20%未満である中心部と、該中心部を取り囲み、かつ空孔率が20%以上である外周部とから構成されたことを特徴とするポリアクリロニトリル系ポリマー粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアクリル系繊維の原料に好適なポリアクリロニトリル系ポリマー粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系繊維の原料となるポリアクリロニトリル系ポリマー粒子(以下、「ポリマー粒子」という。)は、水系析出重合または溶液重合によって製造されるのが一般的である。特に水系析出重合は、溶液重合に比べて短い反応時間(重合反応器内の滞在時間)で連続生産が可能で、しかも簡便な重合反応容器を使用するため、生産性に非常に優れる。水系析出重合によって製造されるポリマー粒子の溶剤への溶解性は、これを原料として製造されるアクリル系繊維などの製品の性能だけでなく、製造工程の安定性に対しても大きな影響を与えることが多い。特に、アクリルニトリル単位を95質量%以上含むポリマー粒子は、紡糸してアクリル系繊維を製造する際に用いる紡糸溶剤への分散条件や溶解条件が厳しいのが一般的である。
【0003】
そこで、紡糸溶剤等の溶剤に対する分散性や溶解性を向上させるために、ポリマー粒子の形状を改善する試みがなされている。
例えば特許文献1には、粉末粒子1個当りの重量が5×10−5mg以下である超高分子量重合体微粉末が開示されている。特許文献1によれば、ポリマー粒子1個当りの質量を小さくすることで、溶剤への分散性や溶解性を良好なものとしている。
また、特許文献2には、嵩密度が0.55g/cm以上のアクリロニトリル系重合体が開示されている。特許文献2によれば、ポリマー粒子の嵩密度を高くすることで、溶解性の向上を図っている。
【0004】
さらに、特許文献3には、粒子直径が20〜80ミクロン、空孔率が20%以上、この内独立気泡が10%以下のアクリロニトリル系ポリマー粉体が開示されている。特許文献3によれば、粒子直径や空孔率などを制御することで、溶解性を向上させている。
また、特許文献4には、重合体粉体嵩比重が0.30g/cm以下、細孔分布平均が200nm以上、X線回折測定による結晶化指数が0.78以上のポリアクリロニトリル系重合体粒子が開示されている。特許文献4によれば、嵩比重や細孔分布平均、結晶化指数などを制御することで、分散性や溶解性を向上させている。
【特許文献1】特開昭60−51726号公報
【特許文献2】特開平3−137106号公報
【特許文献3】特開平5−247226号公報
【特許文献4】特開平11−140131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のように、ポリマー粒子の質量、嵩密度、粒子直径、嵩比重などを制御する方法では、分散性や溶解性を向上させることは必ずしも十分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、分散性および溶解性に優れたポリアクリロニトリル系ポリマー粒子およびその製造方法の実現を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は鋭意検討した結果、ポリマー粒子を溶剤に分散した際の均一性が、後に溶液の均一性を支配すること、そしてポリマー粒子の分散性は、該ポリマー粒子の嵩密度を規定することで向上できることを見出した。さらに、ポリマー粒子の粒子構造を制御することが分散性および溶解性の向上に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のポリアクリロニトリル系ポリマー粒子は、アクリロニトリル単位を95質量%以上、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含む単量体組成物を重合して得られ、嵩密度が0.25〜0.40g/cmであり、空孔率が20%未満である中心部と、該中心部を取り囲み、かつ空孔率が20%以上である外周部とから構成されたことを特徴とする。
ここで、前記外周部の平均厚さが10μm以下であることが好ましい。
【0009】
また、本発明のポリアクリロニトリル系ポリマー粒子の製造方法は、還元剤および酸化剤を用い、アクリロニトリル単位を95質量%以上、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含む単量体組成物をレドックス水系懸濁重合するポリアクリロニトリル系ポリマー粒子の製造方法において、水と前記単量体組成物との質量比(水/単量体組成物)が2.5〜4.0、前記還元剤と前記酸化剤との質量比(還元剤/酸化剤)が1.0〜2.5であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアクリロニトリル系ポリマー粒子は、分散性および溶解性に優れる。
また、本発明のポリアクリロニトリル系ポリマー粒子の製造方法によれば、分散性および溶解性に優れたポリアクリロニトリル系ポリマー粒子が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアクリロニトリル系ポリマー粒子(以下、「ポリマー粒子」という。)は、アクリロニトリル単位およびアクリルアミド単位を含む単量体組成物を重合して得られる。
アクリロニトリル単位の含有量は、単量体組成物100質量%中、95質量%以上であり、95〜99質量%が好ましい。アクリロニトリル単位を95質量%以上含有することで、例えばポリマー粒子を紡糸した繊維を焼成して炭素繊維を製造する場合に、前駆体繊維に対する炭素繊維の収率が高くなるので、生産性の点で好ましい。
【0012】
一方、アクリルアミド単位は、ポリマー粒子を紡糸する際の凝固過程において、凝固を緩慢にさせることができる。その結果、緻密な繊維構造が形成されやすくなるので、例えば炭素繊維などの前駆体繊維を製造する場合に好適である。アクリルアミド単位の含有量は、単量体組成物100質量%中、0.5質量%以上であり、1.0〜4.0質量%が好ましい。アクリルアミド単位を0.5質量%以上含有すれば、凝固過程における凝固を十分に緩慢できる。
【0013】
また、本発明においては、単量体組成物中に他のビニル単量体を含有させてもよい。他のビニル単量体としては、前記アクリロニトリル単位と共重合可能なものであれば特に制限されないが、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類及びそれらの塩類;マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそれらの塩類などが挙げられる。
【0014】
他のビニル単量体の含有量は、単量体組成物100質量%中、0〜4.5質量%が好ましく、0.5〜4.0質量%がより好ましい。他のビニル単量体の含有量が4.5質量%以下であれば、例えば炭素繊維を製造するための前駆体繊維に用いた場合に、炭素繊維の収率を向上できる他、炭化反応速度を好適に制御できるようになる。
【0015】
ポリマー粒子の分散性および溶解性を向上させるには、嵩密度、粒子径、粒子構造などのポリマー粒子の特性を制御することが重要となる。特に、粒子構造を制御することで、分散性および溶解性により優れたポリマー粒子が得られる。
【0016】
本発明のポリマー粒子は、嵩密度が0.25〜0.40g/cmである。ポリマー粒子は、嵩密度が小さくなるに連れて空隙の割合が多い疎な構造になりやすく、嵩密度が大きくなるに連れて空隙の割合が少ない密な構造になりやすい。
また、嵩密度が小さくなるほどポリマー粒子は疎な構造となるため、溶剤がポリマー粒子の内部に浸透しやすくなり、ポリマー粒子の一つ一つが溶解しやすい傾向にある。しかし、このような疎な構造のポリマー粒子では、ポリマー粒子を溶剤に分散させた直後から溶解し始めるので、分散液の濃度が上昇してポリマー粒子が不均一に分散した分散液となりやすく、結果、濃度ムラが生じやすくなる。さらに、部分的に溶解途中のポリマー粒子が凝集した、いわゆるママコができやすくなる。ママコは、分散液が昇温などにより溶解されてポリマー粒子が溶解した溶液となっても、未溶解の状態で溶液中に存在しやすい。そのため、溶液をろ過する際にママコ(未溶解物)がろ過されずにフィルターに捕捉され、フィルターが目詰まりしやすくなる。
【0017】
嵩密度が0.25g/cm以上であれば、ポリマー粒子が過度に疎な構造となるのを防げるので、ポリマー粒子の内部に浸透する溶剤の浸透速度が制御され、ポリマー粒子の一つ一つの溶解性を適度に抑制できる。そのため、ポリマー粒子を溶剤に分散させた直後は溶解しにくくなり、分散液の粘度の上昇を抑制して均一な分散液となりやすく、結果、濃度ムラが生じにくくなる。また、ママコもできにくくなる。従って、均一な状態の分散液を溶解すると、ポリマー粒子が均一に溶解した溶液が得られ、該溶液をろ過してもフィルターが目詰まりしにくい。
【0018】
一方、嵩密度が大きくなるほどポリマー粒子は空隙の割合が少なくなり、密な構造となる。その結果、溶剤がポリマー粒子の内部に極端に浸透しにくくなり、ポリマー粒子が分散した分散液を溶解させても、ポリマー粒子が溶け残りやすくなる。全てのポリマー粒子を溶解させるには、溶解時間を長くすればよいが、生産性が低下しやすくなる。
嵩密度が0.40g/cm以下であれば、ポリマー粒子が過度に密な構造となるのを防げるので、ポリマー粒子が分散した分散液を容易に溶解できる。
従って、ポリマー粒子の分散性と溶解性のバランスを良好にするには、嵩密度を上記範囲内とすればよいが、好ましい嵩密度は0.25〜0.35g/cmである。
【0019】
なお、本発明において溶剤とは、ポリマー粒子を紡糸する際に用いる紡糸溶剤のことである。具体的には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド、γ−ブチロラクトン、硝酸水溶液、チオ硫酸ナトリウム水溶液等が挙げられる。中でも、ポリマー粒子の溶解性が優れる観点、および紡糸時における凝固のしやすさの観点からジメチルアセトアミドが好ましい。
【0020】
ポリマー粒子の嵩密度の測定は、以下のようにして測定する。
予め嵩密度測定用容器の容積(A)と質量(B)を測定しておく。嵩密度測定用容器にポリマー粒子を溢れるまで入れ、嵩密度測定用容器と同じ形状で、かつ底に穴の開いた蓋を底が上になるように嵩密度測定用容器にかぶせる。蓋の穴を指で押さえ、嵩密度測定用容器を蓋と一緒に上下にゆっくり5回振る。その後、蓋を取り、ポリマー粒子の上面が容器の縁と同じ高さになるように棒で素早くすり切り、余分なポリマー粒子を除去する。ポリマー粒子の入った嵩密度測定用容器の質量(C)を測定し、下記式(1)により嵩密度を求める。上記操作を5回行い、その平均値をポリマー粒子の嵩密度(g/cm)とした。
ポリマー粒子の嵩密度(ρ)=(C−B)/A ・・・(1)
【0021】
ポリマー粒子は、平均粒子径が20〜40μmであることが好ましく、25〜35μmであることがより好ましい。
平均粒子径が小さくなるほど、単位質量あたりの粒子数が増加し、その結果、表面積が大きくなりポリマー粒子が溶剤と接触する割合が増える。溶剤と接触する割合が増えると、必然的にポリマー粒子が溶解する割合も増えるので、ポリマー粒子を溶剤に分散させた直後から溶解しやすくなる。そのため、分散液の粘度が上昇してポリマー粒子が不均一に分散した分散液となりやすく、結果、濃度ムラが生じやすくなる。
平均粒子径が20μm以上であれば、単位質量あたりの粒子数は適度な数となるので、ポリマー粒子が溶剤に接触する割合を制御できる。
【0022】
一方、平均粒子径が大きくなるほど、溶剤がポリマーの内部にまで浸透しにくくなる傾向にあるため、分散液を溶解する際にポリマー粒子が溶け残りやすくなる。
平均粒子径が40μm以下であれば、溶剤がポリマー粒子の内部にまで浸透しやすくなるので、必要以上に溶解時間を長く設定しなくてもポリマー粒子が均一に溶解した溶液が得られやすくなる。
従って、ポリマー粒子の分散性と溶解性のバランスを良好にするには、平均粒子径を上記範囲内とするのが好ましい。
【0023】
ポリマー粒子の平均粒子径は、以下のようにして測定する。
レーザー回折散乱法を原理とした粒度分布測定機を用い、ポリマー粒子の粒度分布を屈折率1.330−0.01i、形状係数1.000にて測定し、体積平均から算出された50%正規分布の値を平均粒子径(μm)とした。
粒度分布測定機としては、例えばセイシン企業社製のSKレーザーマイクロンサイザー「LMS−350」などが挙げられる。
【0024】
本発明のポリマー粒子は、空孔率が20%未満である中心部と、該中心部を取り囲み、かつ空孔率が20%以上である外周部とから構成されている。空孔率が20%未満の中心部は空隙の割合が少なく密な構造となっている。一方、空孔率が20%以上の外周部は、空隙の割合が多い疎な構造となっている。
本発明のポリマー粒子が、密な中心部と疎な外周部とからなる二重構造であることにより、ポリマー粒子を溶剤に分散したときに粒子内部(中心部)への溶剤の浸透が抑制され、溶剤に分散させた直後は溶解せずにポリマー粒子が均一に分散した分散液が得られると共に、ママコができにくくなる。一方、ポリマー粒子は疎な外周部を有するので、分散液を溶解させる際は、溶剤が外周部に浸透して溶解しやすい。
このような二重構造であるポリマー粒子は、溶剤の浸透速度が適度に制御されるので、分散性と溶解性とのバランスが良好である。
【0025】
前記外周部は、平均厚さが10μm以下であることが好ましく、5〜10μmであることがより好ましい。平均厚さが10μm以下であれば、ポリマー粒子全体に対する中心部の割合(大きさ)を十分に確保できるので、分散性および溶解性の向上効果がより得られやすくなる。
【0026】
ポリマー粒子の空孔率は、以下のようにして測定する。
ポリマー粒子を乾燥させて乾燥粉とし、該乾燥粉をUV硬化型アクリル系樹脂で重合包埋した後、ダイヤモンドナイフを装着したミクロトームにより、0.5mm×0.5mmの大きさで約70nmの厚さの切片を切り出し、TEM観察用グリッド上に回収する(配置する)。
ついで、切片を載せたグリッドを酢酸イソアミルに浸して包埋樹脂(UV硬化型アクリル系樹脂)を溶解除去、乾燥して試験片とし、透過型電子顕微鏡により、加速電圧80kV、観察倍率3,000〜5,000倍の条件で観察する。
空孔率の計測には日本ローパー社製の画像解析ソフト「Image−Pro Plus」を用い、画像上で2μm×2μmの計測範囲を設定して、この範囲内にてポリマー粒子の半径線上で最表層から中心に向かって順次移動しながら、空孔が占める比率を計測して空孔率(%)を求める。このとき、ポリマー部分と空孔部分との区別は画像のコントラストに基づいて行うことができる。
1個のポリマー粒子について3方向から計測した平均値から、ポリマー粒子の表面からの距離と空孔率との関係を求める。また、1個の試験片について10個以上のポリマー粒子を計測する。
なお、上述した測定方法では、必ずしもポリマー粒子の中心を通る断面が得られているとは限らないが、1個の試験片の中でみかけの粒径の大きいものを計測することとする。このようにして、空孔率が20%以上の部分を外周部、20%未満の部分を中心部とし、外周部の厚さを測定し、その平均値を求めた。
【0027】
ポリマー粒子の嵩密度、平均粒子径、および粒子構造は、ポリマー粒子を製造する際の製造条件を調整することで制御できる。
ここで、本発明のポリマー粒子の製造方法の一例について具体的に説明する。
【0028】
ポリマー粒子は、上述した単量体組成物を水系懸濁法によるレドックス重合(レドックス水系懸濁重合)して製造される。レドックス水系懸濁重合には、レドックス触媒として還元剤と酸化剤を用いる。
具体的には、重合釜などに脱イオン交換水などの水と、アクリロニトリル単位およびアクリルアミド単位を含む単量体組成物とを投入し、さらに還元剤、酸化剤および重合開始剤を各々水に溶解させた各水溶液を重合釜に供給し、十分に攪拌を行ってポリマー水系分散液(重合スラリー)を調製する。また、重合反応の開始前に、重合釜内の重合反応液のpHが2.5〜3.5になるように、pH調製剤を添加するのが好ましい。重合の際の反応温度は30〜70℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。また、反応時間(重合釜内の滞在時間)は0.5〜10時間が好ましく、生産速度の観点から1〜2時間がより好ましい。
【0029】
重合釜から重合スラリーを取り出した後、該重合スラリーに、重合停止剤を水に溶解させた重合停止剤水溶液をpHが5.5〜6.0になるように添加し、オリバー型連続フィルターなどを用いて脱水処理する。ついで、脱水処理物を加熱洗浄処理した後、乾燥させてポリマー粒子とする。加熱洗浄処理の方法としては、例えば水を脱水処理物に加えて、50〜100℃で5〜30分間、ドラムフィルターなどを用いて連続洗浄する方法が挙げられる。
なお、乾燥工程でのポリマー粒子の取り扱いを容易にするために、乾燥前にペレット化してもよい。ただし、この場合は、乾燥後にハンマーミルなどの粉砕機にてペレットを粉砕してポリマー粒子とする。
【0030】
本発明者等は鋭意検討した結果、ポリマー粒子の分散性や溶解性の決め手となる粒子構造、すなわち上述したような中心部と外周部からなる二重構造のポリマー粒子は、重合体の成長速度と凝集構造の生成速度を制御することで容易に得られることを見出した。そして、重合体の成長速度と凝集構造の生成速度は、製造条件として重合反応に用いる媒体(水)と原料である単量体組成物の質量比と、レッドクス触媒である還元剤と酸化剤の質量比を調節することで制御できることを見出した。
【0031】
すなわち、本発明においては、水と単量体組成物の質量比X(水/単量体組成物)を2.5〜4.0に、還元剤と酸化剤との質量比Y(還元剤/酸化剤)を1.0〜2.5に調節する。
質量比Xが2.5以上であれば、撹拌による重合熱の除去が安定に行え、ポリマー粒子の粒度分布や重合系の粘度などが一定になりやすく、安定な重合が行える。一方、質量比Xが4.0以下であれば、生成したポリマー粒子の一次粒子の凝集性が増すので、嵩密度が0.25g/cm以上のポリマー粒子を形成しやすくなる。
また、質量比Yが1.0以上であれば、適度な重合転化率となるので、工業的に効率よくポリマー粒子を生産できる。一方、質量比Yが2.5以下であれば、生成したポリマー粒子の一次粒子の凝集性が増すので、嵩密度が0.25g/cm以上のポリマー粒子を形成しやすくなる。
【0032】
このように質量比Xおよび質量比Yを調節することで、中央部と外周部からなる二重構造のポリマー粒子が容易に得られるようになる。得られたポリマー粒子は、分散性および溶解性に優れる。
また、質量比Xおよび質量比Yを調節することで、ポリマー粒子の嵩密度および粒子径をも調整できる。従って、質量比Xおよび質量比Yが前記範囲内であれば、嵩密度や平均粒子径を上述した範囲内に容易に調整できるので、分散性および溶解性に優れたポリマー粒子が得られる。
質量比Xおよび質量比Yの好ましい範囲としては、質量比Xが2.5〜3.5であり、質量比Yが1.0〜2.0である。
【0033】
還元剤および酸化剤としては、公知のレドックス触媒を用いることができる。例えば、還元剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、アルキルメルカプタン類などが挙げられ、中でも亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウムが好ましい。一方、酸化剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、亜塩素酸ナトリウムが挙げられ、中でも過硫酸アンモニウムが好ましい。
還元剤の添加量は、単量体組成物100質量部に対して0.05〜2.0質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。
酸化剤の添加量は、単量体組成物100質量部に対して0.01〜1.0質量部が好ましく、0.05〜0.5質量部がより好ましい。
【0034】
このようにして得られるポリマー粒子は、粒子構造が上述した中心部と外周部からなる二重構造であり、嵩密度や粒子径といった特性が上述した範囲内であるため、溶剤中にポリマー粒子が均一に分散した状態でスラリー化でき、その後、昇温して分散液を溶解する過程で短時間に全てのポリマー粒子が溶解する。従って、本発明のポリマー粒子であれば、溶剤の溶解時間が5分以下になりやすく、全てのポリマー粒子を溶解させるために、必要以上に溶解温度を上げたり、溶解時間を長くしたりしなくても、短時間で溶剤に溶解でき、工業的に好適である。
【0035】
ポリマー粒子の溶解時間は、以下のようにして測定する。
−5℃に冷却したジメチルアセトアミド溶剤に、固形分が21質量%になるように均一にポリマー粒子を分散させた分散液をスライドグラスに挟み、LINKAM社製のホットステージにより10℃/分で昇温しながら、位相差顕微鏡像によって200倍の視野内のポリマー粒子の個数を計測する。溶解前(昇温前)のポリマー粒子の個数をn(0)個、昇温温度t℃のときのポリマー粒子の個数をn(t)個として、溶解進行率を下記式(2)より算出し、溶解開始から溶解終了(溶解進行率100%)までに要する時間を溶解時間(分)とする。
溶解進行率(%)=(1−n(t)/n(0))×100 ・・・(2)
【0036】
ところで、通常、アクリロニトリル単位を95質量%以上含有するポリマー粒子は、紡糸溶剤への分散条件や溶解条件が厳しい。
しかし、本発明のポリマー粒子であれば、嵩密度が特定の範囲内に制御され、かつ空孔率が20%未満の中心部と、空孔率が20%以上の外周部とからなる構成となっているので、ポリマー粒子に対する溶剤の浸透の度合いが適度なものとなる。従って、本発明によれば、分散性および溶解性に優れたポリマー粒子が得られるので、溶剤への分散条件や溶解条件の設定を緩和できる。
【0037】
また、本発明によれば、ポリマー粒子を溶剤に均一に分散させた後に、分散液を昇温して溶解させることができ、未溶解のポリマー粒子の割合が低減されやすい。そのため、溶液をろ過する際に、フィルターが目詰まりしにくくなるので、フィルターの交換頻度を軽減できると共に、紡糸した繊維の構造を均質化できる。
【0038】
また、本発明のポリマー粒子は、紡糸する際に用いる紡糸溶剤への溶解性に優れることから、特にアクリル系繊維の原料として特に好適である。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例における各測定方法については、下記の方法により実施した。
【0040】
<測定方法>
(ポリマー粒子の組成比の分析)
ジメチルスルホキシド−d6溶媒に、ポリマー粒子を5質量%溶解し、核磁気共鳴装置(日本電子社製、「EX−270型NMR」)により、積算回数40回、測定温度120℃で測定して、ケミカルシフトの積分比からポリマー粒子の共重合組成比を求めた。
なお、ポリマー粒子の共重合組成比は、単量体組成物中に含まれる各単量体単位の含有量とほぼ一致する。
【0041】
(ポリマー粒子の嵩密度の測定)
予め嵩密度測定用容器の容積(A)と質量(B)を測定した。嵩密度測定用容器にポリマー粒子を溢れるまで入れ、嵩密度測定用容器と同じ形状で、かつ底に穴の開いた蓋を底が上になるように嵩密度測定用容器にかぶせた。蓋の穴を指で押さえ、嵩密度測定用容器を蓋と一緒に上下にゆっくり5回振った。その後、蓋を取り、ポリマー粒子の上面が容器の縁と同じ高さになるように棒で素早くすり切り、余分なポリマー粒子を除去した。ポリマー粒子の入った嵩密度測定用容器の質量(C)を測定し、下記式(1)により嵩密度を求めた。上記操作を5回行い、その平均値をポリマー粒子の嵩密度(g/cm)とした。
ポリマー粒子の嵩密度(ρ)=(C−B)/A ・・・(1)
【0042】
(ポリマー粒子の平均粒子径の測定)
レーザー回折散乱法を原理とした粒度分布測定機(セイシン企業社製、「SKレーザーマイクロンサイザー LMS−350」)を用い、ポリマー粒子の粒度分布を屈折率1.330−0.01i、形状係数1.000にて測定し、体積平均から算出された50%正規分布の値を平均粒子径(μm)とした。
【0043】
(粒子構造の分析)
ポリマー粒子を乾燥させて乾燥粉とし、該乾燥粉をUV硬化型アクリル系樹脂で重合包埋した後、ダイヤモンドナイフを装着したミクロトームにより、0.5mm×0.5mmの大きさで約70nmの厚さの切片を切り出し、TEM観察用グリッド上に回収した(配置した)。
ついで、切片を載せたグリッドを酢酸イソアミルに浸して包埋樹脂(UV硬化型アクリル系樹脂)を溶解除去、乾燥して試験片とし、透過型電子顕微鏡により、加速電圧80kV、観察倍率3,000〜5,000倍の条件で観察した。
空孔率の計測には日本ローパー社製の画像解析ソフト「Image−Pro Plus」を用い、画像上で2μm×2μmの計測範囲を設定して、この範囲内にてポリマー粒子の半径線上で最表層から中心に向かって順次移動しながら、空孔が占める比率を計測して空孔率(%)を求めた。
1個のポリマー粒子について3方向から計測した平均値から、ポリマー粒子の表面からの距離と空孔率との関係を求めた。また、1個の試験片について10個以上のポリマー粒子を計測した。その際、個の試験片の中でみかけの粒径の大きいものを計測した。このようにして、空孔率が20%以上の部分を外周部、20%未満の部分を中心部とし、二重構造の有無を確認した。
さらに、外周部の厚さを測定し、その平均値を求め、これを外周部の平均厚さとした。
また、ポリマー粒子の表面の空孔率の平均値を求め、これを表面空孔率とした。
【0044】
(ポリマー粒子の溶解性の評価)
−5℃に冷却したジメチルアセトアミド溶剤に、固形分が21質量%になるように均一にポリマー粒子を分散させた分散液をスライドグラスに挟み、LINKAM社製のホットステージにより10℃/分で昇温しながら、位相差顕微鏡像によって200倍の視野内のポリマー粒子の個数を計測した。溶解前(昇温前)のポリマー粒子の個数をn(0)個、昇温温度t℃のときのポリマー粒子の個数をn(t)個として、溶解進行率を下記式(2)より算出し、溶解開始から溶解終了(溶解進行率100%)までに要する時間を溶解時間(分)とした。
溶解進行率(%)=(1−n(t)/n(0))×100 ・・・(2)
【0045】
<実施例1>
容量80Lのステンレス製で、グラスライニングしたタービン撹拌翼付き重合釜に、脱イオン交換水57.4kgと、ポリマー粒子の組成比が表1に示す値になるように各単量体単位を含有した単量体組成物19.1kgとを投入し、単量体組成物に対して0.35質量%の過硫酸アンモニウム(酸化剤)と、0.5質量%の亜硫酸水素アンモニウム(還元剤)と、0.3ppmの硫酸第一鉄(FeSO・7HO、重合開始剤)と、0.1質量%の硫酸(pH調整剤)を各々脱イオン交換水に溶解した各水溶液を重合釜に供給した。この際、重合反応液のpHが3.0になるように、硫酸の供給量を調整した。ついで重合反応液の温度を50℃に保持しながら十分に攪拌を行い、平均滞在時間が70分になるようにして、重合釜オーバーフローにより連続的にポリマー水系分散液(重合スラリー)を取り出した。
【0046】
得られた重合スラリーに、単量体組成物に対して0.5質量%のシュウ酸ナトリウムおよび1.5質量%の重炭酸ナトリウム(重合停止剤)を水に溶解した重合停止剤水溶液を、重合スラリーのpHが5.5〜6.0になるように添加し、オリバー型連続フィルターで脱水処理した。
ついで、脱水処理物に、ポリマーに対して10倍量の脱イオン交換水(70℃に加温)を添加し、再度重合スラリーとした。ついで、この重合スラリーをオリバー型連続フィルターで脱水処理した。
ついで、脱水処理物をペレット状に成形し、80℃にて8時間、熱風循環型の乾燥機にて乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、ポリマー粒子を得た。
【0047】
脱イオン交換水と単量体組成物の質量比X(脱イオン交換水/単量体組成物)、および還元剤と酸化剤の質量比Y(還元剤/酸化剤)を表1に示す。
さらに、得られたポリマー粒子の物性を測定した。結果を表1に示す。
また、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定したポリマー粒子のTEM画像を図1に示す。
【0048】
<比較例1>
重合釜に投入する脱イオン交換水の量を63.8kg、単量体組成物の量を12.8kgに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粒子を調製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0049】
<比較例2>
重合釜に投入する脱イオン交換水の量を60.0kg、単量体組成物の量を15.0kg、単量体組成物に対する過硫酸アンモニウムの量を0.29質量%、亜硫酸水素アンモニウムの量を0.87質量%、硫酸第一鉄の量を5.0ppm、硫酸の量を0.7質量%に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリマー粒子を調製し、各測定を行った。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1および図1から明らかなように、実施例1で得られた、嵩密度が0.27g/cmであり、中心部と外周部とからなる二重構造のポリマー粒子は、溶解時間が4.9分と短く、溶解性に優れていた。
一方、比較例1および2で得られた、嵩密度が0.25g/cm未満であり、二重構造を有さないポリマー粒子は、溶解性の評価においてジメチルアセトアミド溶剤に溶解させたところ、実施例1に比べて多くのママコが発生した。その結果、溶解時間が比較例1では7.2分、比較例2では6.4分と、いずれも実施例1に比べて長く、溶解性が劣っていた。また、これらポリマー粒子は、その内部まで空孔率が20%以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1で得られたポリマー粒子のTEM画像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル単位を95質量%以上、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含む単量体組成物を重合して得られ、嵩密度が0.25〜0.40g/cmであり、
空孔率が20%未満である中心部と、該中心部を取り囲み、かつ空孔率が20%以上である外周部とから構成されたことを特徴とするポリアクリロニトリル系ポリマー粒子。
【請求項2】
前記外周部の平均厚さが10μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のポリアクリロニトリル系ポリマー粒子。
【請求項3】
還元剤および酸化剤を用い、アクリロニトリル単位を95質量%以上、アクリルアミド単位を0.5質量%以上含む単量体組成物をレドックス水系懸濁重合するポリアクリロニトリル系ポリマー粒子の製造方法において、
水と前記単量体組成物との質量比(水/単量体組成物)が2.5〜4.0、前記還元剤と前記酸化剤との質量比(還元剤/酸化剤)が1.0〜2.5であることを特徴とするポリアクリロニトリル系ポリマー粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−203317(P2009−203317A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−45944(P2008−45944)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】