説明

ポリアクリロニトリル系共重合体、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維、および炭素繊維の製造方法

【課題】高温・短時間で耐炎化処理でき、かつ焼け斑や構造斑が抑制された耐炎化繊維を製造でき、炭素繊維の安定生産に適した、緻密性および均質性を有する炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得ることができるポリアクリロニトリル系共重合体、該共重合体を紡糸した炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維、および該前駆体繊維を用いた炭素繊維の製造方法の提供。
【解決手段】アクリロニトリル単位を95モル%以上99モル%以下、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位を1モル%以上5モル%以下、含有するポリアクリロニトリル系共重合体。前記ポリアクリロニトリル系共重合体を溶解して得られる紡糸原液を紡糸して得られる炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維。前記炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を酸化性雰囲気下250〜300℃で耐炎化処理する工程を含む炭素繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリロニトリル系共重合体、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維、および炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアクリロニトリル系共重合体からなるアクリル繊維は、炭素繊維用前駆体繊維(以下、単に「前駆体繊維」という。)として用いられている。前駆体繊維を焼成して得られる炭素繊維は、機械的特性に優れ、複合材料用補強材として幅広く用途展開されている。
【0003】
前駆体繊維から炭素繊維を得る一般的な製造方法には、数千〜数万本の単繊維の集合体である前駆体繊維を、200〜300℃の酸化性雰囲気中にて加熱処理(耐炎化処理)して耐炎化繊維とする耐炎化工程と、300〜2500℃の不活性雰囲気にて前記耐炎化繊維を加熱処理(炭素化処理)して炭素繊維にする炭素化工程が含まれる。
【0004】
しかし、このようにして得られる炭素繊維は、物性や品質には優れるものの、価格が高いため、コストを重視する産業用途分野での多用化は十分に実現できていない。
【0005】
炭素繊維の低コスト化には、製造工程中の処理時間が最も長い耐炎化工程の生産性を向上することが重要である。
【0006】
しかし、耐炎化工程では、前駆体繊維の酸化反応による激しい発熱があるため前駆体繊維内部に蓄熱が起こりやすい。そのため、処理温度に対して前駆体繊維内部の温度が極端に高くなり、スモークが発生する場合があるなどの課題があった。従って、耐炎化工程では処理温度を下げて生産することが求められ、十分に耐炎化の進行した耐炎化繊維を得るのに時間を要していた。
【0007】
従来、耐炎化反応開始温度の低温化には、例えばカルボン酸基のようなニトリル基の環化縮合反応を促進する官能基を、ポリアクリロニトリル系共重合体に導入することが有効であることが知られている。耐炎化工程では、前駆体繊維を構成する高分子鎖に結合したニトリル基の環化反応と、環化した構造が酸化されナフチリジン環とアクリドン環が縮合した構造に変わる反応が起こり、前駆体繊維が耐炎化繊維に転換される。よって、環化縮合反応を促進する官能基を重合体に導入することで耐炎化反応が進行しやすくなり、耐炎化反応の開始温度が低温化し、耐炎化時間が短縮される。
【0008】
ところで、耐炎化工程では、単繊維の表面から断面中心方向へ酸素が時間とともに拡散して耐炎化反応が進行するが、この酸素の拡散具合により耐炎化繊維の構造(耐炎化構造)が変化しやすい。耐炎化繊維には、炭素化工程に耐え得る熱的に安定な焼け斑のない耐炎化構造を形成していることが求められる。従って、耐炎化工程では耐炎化時間の短縮に加え、単繊維の内部にまで酸素が十分に拡散されることも要求される。
【0009】
耐炎化時間の短縮としては、上述した環化縮合反応を促進する官能基を導入する方法の他にも、例えば高温・短時間で耐炎化を行う方法が挙げられる。こちらは、従来のニトリル基の環化縮合反応を促進する官能基を、ポリアクリロニトリル系重合体に導入するよりもはるかに短い時間での耐炎化が期待出来る。しかし、高温・短時間で耐炎化を行う方法は、単繊維内への酸素の拡散の観点から以下のような現象が起こることがあった。
【0010】
短時間で耐炎化を行うと、酸素の拡散可能時間も短縮されるので耐炎化反応が十分に進行しない場合があり、焼け斑が発生する場合があった。
【0011】
また、高温で耐炎化を行うと、同一単繊維内において表面層のみに酸素が拡散されやすくなり、表面層は十分に酸化されるが、内部は十分に酸化されないといった、構造に斑のある耐炎化繊維となることがあった。なお、このような構造を、単繊維断面において内層と外層での構造差、すなわち内外構造差を有することから断面二重構造と呼ぶ。断面二重構造を有する耐炎化繊維は、酸化が不十分な部分の耐熱性が低いため、炭素化工程において毛羽や糸切れが発生しやすくなり、炭素繊維を安定に製造することが困難となることがある。
【0012】
更に、従来のカルボン酸基を導入したポリマーでは、耐炎化反応が爆発的に進行する傾向があるため、発熱に対して除熱が間に合わず、スモークが発生する場合があった。
【0013】
一方で、生産量を増大することにより低コスト化を達成する手段として、単繊維数を増加させたり、単繊維1本1本の太さを太くしたりして繊維束を太くし、口金1個あたりの吐出量を増加させる方法が知られている。このように繊維束を太くすれば、生産量が増大する一方で、設備費の増加は最低限に抑えられるため、同時にコストダウンにも繋がることから、ポリエステルやナイロンなどの主要な産業用繊維においても広く用いられている。しかし、炭素繊維においては、単繊維繊度を太くすると強度や弾性率などの力学特性が低下する、という特徴があることが広く知られており、単繊維繊度を一定以上に太くすることは難しかった。
【0014】
さらに、現在広く用いられているポリアクリロニトリルを原料とする炭素繊維においては紡糸工程における賦形性を保つため、原料となるポリアクリロニトリル自体の耐熱性は焼成工程を通過するには十分でない場合があり、紡糸後に耐炎化を焼成工程の前に行うことが求められる。しかし、この耐炎化工程は空気中の酸素を利用した発熱反応であるため、前駆体繊維の太さが太い場合には繊維束内部に熱が蓄積してしまい、反応条件をマイルドにして反応速度を落とすことが求められ、結果として生産性が向上しない場合があった。また、この耐炎化工程において求められる酸素の繊維内部への透過性が低い傾向があることから、単繊維の太さを太くすると炭素繊維の物性が大きく低下してしまう傾向があった。
【0015】
これまで、このような焼け斑や構造斑を抑制するための検討がなされてきた。例えば、用いる重合体の共重合成分に嵩高い側鎖を有するモノマーを導入することにより、前駆体繊維の酸素透過性を向上させ、耐炎化繊維内の酸素濃度分布を均一に制御し、得られる炭素繊維の引張強度および引張弾性率を向上させる技術が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0016】
また、耐炎化処理温度の制御についても、様々な検討がなされてきた。例えば、耐炎化反応の開始点となるカルボン酸基量を調節することで、ポリアクリロニトリル系共重合体の耐炎化処理での熱酸化反応性を制御し、短時間での耐炎化処理を可能にする技術が提案されている(特許文献3参照)。
【0017】
さらに、ポリアクリロニトリル系共重合体中のカルボン酸をエステル化することで、エステル基が脱離する温度まで耐炎化反応を抑制する技術が提案されている(特許文献4参照)。
【0018】
一方で、単繊維1本1本の太さを太くすることで繊維束を太くし、低コスト化を図る検討もなされている。例えば、芳香族スルホン酸類またはそれらの塩のメチレン縮合体と溶媒を用いることによって耐炎化工程が必要ない共重合体が提案されている(特許文献5参照)。
【0019】
また、ポリアクリロニトリル系の前駆体繊維について、メッシュ状のローラー上で加熱空気を繊維束内に貫通させながら耐炎化を進行することで、繊維束内部への蓄熱を抑制する提案もなされている。
【0020】
更に、ポリアクリロニトリルと、ニトロ系やキノン系化合物などの酸化剤を用いて加熱処理することによって耐炎化工程を経る前に耐炎化がある程度進行した共重合体とすることで、単繊維繊度2dtex以上、フィラメント数36000以上の前駆体繊維の耐炎化処理を270℃で14分まで短縮出来る技術も提案されている(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平2−84505号公報
【特許文献2】特開2006−257580号公報
【特許文献3】特開2002−145939号公報
【特許文献4】特開2007−204880号公報
【特許文献5】特開平1−132832号公報
【特許文献6】特開2008−202207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、特許文献1、2に記載の技術では構造斑は改善されるものの、耐炎化時間の短縮には更なる改善の余地があった。また、重合体に用いられたイソブチルメタクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、のモノマーには、嵩高いアルキル基が導入されており、前駆体繊維の緻密性あるいは均質性が不十分な場合があった。
【0023】
また、特許文献3に記載の技術では、耐炎化工程に要する時間と得られる炭素繊維の性能とを考慮すると、熱酸化反応性の制御は必ずしも十分ではない場合があった。また、ポリアクリロニトリル系共重合体が水−有機溶媒の2成分系で重合されるため、操作が煩雑になることがあった。
【0024】
さらに、特許文献4に記載の技術は、共重合体を溶剤に溶解して得られる紡糸原液の熱安定性を向上させるのみに留まる場合があった。また、カルボン酸エステルのみをアクリロニトリルと共重合させただけでは、前駆体繊維の緻密性を確保することが困難な場合があり、得られる炭素繊維の性能が低下する場合があった。
【0025】
一方で、特許文献5に記載の技術は、耐炎化工程が必要なくなるものの、得られる炭素繊維の強度はポリアクリロニトリルを原料とするものに比較して著しく低い場合があり、市場の要求に応えられるものではない場合があった。
【0026】
さらに、特許文献6に記載の技術では、酸化剤による共重合体の耐炎化処理工程が増えること、また耐炎化処理にある程度の時間を要することなど、焼成工程における耐炎化時間は短縮されるものの、炭素繊維の製造工程自体が短縮されない場合があった。
【0027】
このように、炭素繊維においては低コスト化が強く求められているにもかかわらず、繊維束の単繊維繊度及び総繊度を上げ、更には製造工程を短縮することにより、生産性を改善しようとすると、実用面や、生産技術の面で課題が多く、コストダウンに関しては更に改善の余地があった。
【0028】
加えて、炭素繊維の製造において、耐炎化設備の設備費およびその維持費、さらに動力費は、炭素繊維の製造コストを上昇させる大きな要因であり、耐炎化時間の短縮による耐炎化設備のコンパクト化はコスト削減に非常に効果があるものと考えられる。
【0029】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、耐炎化処理を高温および短時間化し、かつ単繊維繊度および総繊度を上げても、焼け斑や構造斑が抑制された耐炎化繊維を製造でき、炭素繊維の安定生産に適した、緻密性および均質性を有する炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得ることができるポリアクリロニトリル系共重合体、この共重合体を紡糸した炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維、およびこの前駆体繊維を用いた炭素繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリル単位を95モル%以上99モル%以下、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位を1モル%以上5モル%以下、含有することを特徴とする。
【0031】
また、本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維は、前記ポリアクリロニトリル系共重合体を溶解して得られる紡糸原液を、紡糸して得られることを特徴とする。
また、本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維は、繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下であることが好ましい。
【0032】
また、本発明の炭素繊維の製造方法は、酸化性雰囲気下、前記炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を250〜300℃で耐炎化処理する工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、耐炎化処理を高温および短時間化し、かつ単繊維繊度および総繊度上げても、焼け斑や構造斑が抑制された耐炎化繊維を製造でき、炭素繊維の安定生産に適した、緻密性および均質性を有する炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得ることができるポリアクリロニトリル系共重合体、この共重合体を紡糸した炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維、およびこの前駆体繊維を用いた炭素繊維の製造方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施例5で得られた凝固糸断面の顕微鏡写真である。
【図2】比較例3で得られた凝固糸断面の顕微鏡写真である。
【図3】比較例4で得られた凝固糸断面の顕微鏡写真である。
【図4】(a)は実施例13で得られた耐炎化繊維断面の顕微鏡写真であり、(b)は実施例14で得られた耐炎化繊維断面の顕微鏡写真である。
【図5】(a)は比較例7で得られた耐炎化繊維断面の顕微鏡写真であり、(b)は比較例8で得られた耐炎化繊維断面の顕微鏡写真である。
【図6】(a)は比較例9で得られた耐炎化繊維断面の顕微鏡写真であり、(b)は比較例10で得られた耐炎化繊維断面の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維は、高温および短時間で耐炎化処理でき、かつ焼け斑や構造斑が抑制された耐炎化繊維を製造できる。
【0036】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリルと、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルと、必要に応じて他のモノマーとの共重合体である。なお、この共重合体中のアクリロニトリル単位の含有率は、95モル%以上99モル%以下であり、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位の含有率は、1モル%以上5モル%以下である。アクリロニトリル単位の含有率が95モル%以上であれば、アクリロニトリル単位の共重合率の低下による炭素繊維性能の低下の影響を受けず、99モル%以下であれば、ポリアクリロニトリル系共重合体の紡糸原液(ポリアクリロニトリル系紡糸原液)に用いる溶媒への溶解性が良好となる。
【0037】
また、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位を1.1モル%以上含有することが好ましい。
【0038】
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(CH2=C(CH3)−COOCH2CH2OH)のカルボン酸2−ヒドロキシエチル基(−COOCH2CH2OH)は、250℃以上の高温で熱分解してカルボン酸基(−COOH)になる。ここで、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基がカルボン酸基になるとは、ポリアクリロニトリル系共重合体に含有されるカルボン酸2−ヒドロキシエチル基からアルケンが脱離して、ポリアクリロニトリル系共重合体にカルボン酸基が残る反応をいう。本検討におけるカルボン酸基は、アルケンが離脱した際にラジカルが残ったカルボン酸基(−COO・)と、水素と結合したカルボン酸基(−COOH)が想定され、いずれの構造をとっているかは定かではないが、本研究者らが鋭意検討した結果、水素と結合したカルボン酸基(−COOH)と推定される。
【0039】
従って、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体より得られる炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維(以下、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、単に「前駆体繊維」という。)を耐炎化処理する工程において、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基が熱分解してカルボン酸基になるまでの間、耐炎化反応の進行を抑制する。これにより、酸素が拡散するのに十分な時間を確保することができる。250℃以上の高温において、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基の熱分解が起こってカルボン酸基になると、250℃以上の高温から素早く耐炎化処理を行うことが可能になる。
【0040】
また、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基は比較的嵩高い官能基であり、耐炎化工程での酸素拡散性を改善する効果がある。これにより、耐炎化反応の進行が抑制されている間も単繊維の内部にまで十分に酸素が拡散されるので、高温から短時間で耐炎化処理を行っても、断面二重構造の形成が抑制された均一な耐炎化進行度の耐炎化繊維を得ることができる。
【0041】
さらに、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基は親水性基であるため、ポリアクリロニトリル系共重合体を紡糸する工程(紡糸工程)において、凝固時の繊維内部への水の拡散速度を緩やかにし、緻密で均質な前駆体繊維を得ることができる。
【0042】
一方で、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルは、アクリロニトリルに対する重合性、工業的な入手のしやすさ、および側鎖中に分岐が少ないことによる製糸時の延伸性向上などの観点からも好適である。
【0043】
ポリアクリロニトリル系共重合体中のメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位の含有量は、1モル%以上である。1モル%未満であると、紡糸工程における凝固時の繊維内部への水の拡散を緩やかにする効果が得られにくくなる。さらに、耐炎化工程においてメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基がカルボン酸基となった際に、耐炎化反応を促進する効果も得られにくくなる。
【0044】
なお、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位の含有量の上限は、耐炎化反応の暴走の抑制や、耐炎化工程でのヒドロキシエチル基の脱離に伴う炭素化収率の低下を抑える上で、5モル%以下とする。
【0045】
メタクリル酸2−ヒドロキシエチルは、アクリロニトリルに対する重合性、工業的な入手のしやすさの点で、ポリアクリロニトリル系共重合体の構成成分として好適である。さらに、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルは側鎖中に分岐が少ないので、製糸時の延伸性を向上させることができる。また、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルは、紡糸工程において親水性の確保に十分な親水性を有していること、耐炎化工程においてヒドロキシエチル基の脱離温度が250℃以上であること、酸素透過性の向上に十分な嵩高さを有していること、側鎖に分岐を有さないこと、ヒドロキシエチル基が脱離したときの質量の減少が少ないことなどの点で、ポリアクリロニトリル系共重合体の構成成分として好適である。
【0046】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、アクリロニトリル単位と、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位を含有するが、必要に応じて他のモノマー単位を含有してもよい。
【0047】
他のモノマー単位の含有量は、アクリロニトリル単位やメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位の含有量を考慮して、1.5モル%以下が好ましい。
【0048】
他のモノマーとしては、アクリロニトリルと共重合可能なビニル系モノマーが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル類、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル類、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸等の酸類及びそれらの塩類、マレイン酸イミド、フェニルマレイミド、(メタ)アクリルアミド、スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニルなどが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
ポリアクリロニトリル系共重合体の重合方法は特に限定されず、溶液重合、懸濁重合など公知の方法の何れをも採用することができる。また、重合の際に用いる重合開始剤、触媒は特に限定されず、アゾ系化合物、有機過酸化物、または過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸あるいはそれらのアンモニウム塩等のレドックス触媒が挙げられる。
【0050】
ポリアクリロニトリル系共重合体の重合方法としては、例えば、オーバーフロー式の重合容器に各モノマー、蒸留水、過硫酸アンモニウム、亜硫酸水素アンモニウム及び硫酸を連続的に一定量供給し、一定の温度に維持しながら攪拌を続け、オーバーフローしてきた重合スラリーを洗浄、乾燥してアクリロニトリル系共重合体を得る方法が挙げられる。
【0051】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体の比粘度は、紡糸延伸性を容易に確保できる0.05以上0.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1以上0.3以下である。比粘度が0.05以上の場合は、安定に紡糸を続けるための適度な曳糸性を容易に確保することができ、凝固浴での引き取りが困難になることを容易に防ぐことができる。また0.5以下であると、紡糸原液の粘度を紡糸最適範囲に保つために、原液中の共重合体濃度を低く保持することが必要となることを容易に防ぎ、炭素繊維(CF)性能の保持に必要な緻密性が容易に保持でき、紡糸工程の生産性が低下することを容易に防ぐことができる。
【0052】
本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、質量平均分子量が10万以上70万以下であることが好ましく、20万以上60万以下であることがより好ましい。一般にポリアクリロニトリル系共重合体を繊維に賦型する際に用いる紡糸原液は、安定に紡糸を続けるために最適な曳糸性を有することが求められる。曳糸性は、用いる共重合体の分子量と、紡糸原液の共重合体濃度に関連があり、一般に共重合体の分子量が低くなると紡糸原液中の共重合体濃度を高くすることが求められる。ところが、共重合体の分子量が10万以上の場合には、共重合体の分子量が10万未満の場合と比較して、以下の点を容易に防ぐことができる。即ち、濃度を高くしても曳糸性が発現しにくくなることや、更に紡糸原液中の共重合体濃度を高くすると均一に溶解することが急激に困難となってくることを容易に防ぐことができる。また、分子量が70万以下であると、分子量が70万未満の場合と比較して、以下の点を容易に防ぐことができる。即ち、溶剤に溶解しづらくなること、紡糸原液中の共重合体濃度を低く保持することが必要となること、CF性能の保持に必要な緻密性が保持できなくなること、および紡糸工程の生産性が低下することを容易に防ぐことができる。
【0053】
次に、本発明の前駆体繊維について説明する。
本発明の前駆体繊維は、上述したポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸原液を紡糸して得られるので、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位が1モル%以上含まれる。1モル%未満であると、紡糸工程における凝固時の繊維内部への水の拡散速度が増大して前駆体繊維の緻密性が低下し、焼成した場合に得られる炭素繊維の性能(強度、弾性率)が低下する。さらに、耐炎化工程においてメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基がカルボン酸基となった際に、耐炎化反応を促進する効果も得られにくくなる。
【0054】
なお、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位の含有量の上限は、耐炎化反応の暴走の抑制や、耐炎化工程でのヒドロキシエチル基の脱離に伴う炭素化収率の低下を抑える上で、5モル%以下とする。
【0055】
本発明の前駆体繊維は、例えば以下のようにして製造できる。
まず、上述した本発明のポリアクリロニトリル系共重合体を溶剤に溶解して、紡糸原液とする。すなわち、本発明に用いる紡糸原液は、ポリアクリロニトリル系共重合体と、溶剤とからなることができる。溶剤としては、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどの有機溶剤や、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を用いることができる。しかし、得られる前駆体繊維中に金属を含有せず、また、工程が簡略化される点で有機溶剤が好ましく、その中でも凝固糸及び湿熱延伸糸の緻密性が高いという点で、ジメチルアセトアミドを溶剤に用いることが好ましい。
【0056】
紡糸原液は、緻密な凝固糸を得るため、また、適正な粘度、流動性を有するために、ある程度以上の共重合体濃度を有することが好ましい。紡糸原液におけるポリアクリロニトリル系共重合体の濃度は、15質量%以上30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは18質量%以上25質量%以下である。
【0057】
続いて、その紡糸原液を紡糸して、凝固糸を得る。紡糸方法としては、公知の方法を採用でき、具体的には湿式紡糸法、乾湿式紡糸法、乾式紡糸法などが挙げられる。これらの中でも湿式紡糸法、乾湿式紡糸法が紡糸の生産性の観点、炭素繊維の強度発現性の観点から好ましく用いられる。
【0058】
なお、前駆体繊維の繊維構造の緻密性あるいは均質性が不十分な場合、焼成時に欠陥点となり、炭素繊維の性能を損なうことがある。緻密で均質な前駆体繊維を得るには、この凝固糸の性状が極めて重要であり、本発明において凝固糸には、マクロボイドが繊維1mm長中に1個未満であることが好ましい。
【0059】
ここで、マクロボイドとは、最大径が0.1〜数μmの大きさを有する球形、紡錘形、円筒形を有する空隙を総称したものである。
【0060】
本発明における凝固糸は、このようなマクロボイドがなく、十分に均一な凝固によって得られたものである。マクロボイドが多く存在すると、凝固糸は失透して白濁するが、本発明の凝固糸にはマクロボイドがほとんど存在しないため失透せず白濁しにくい。
マクロボイドの有無は、凝固糸を直接光学顕微鏡で観察するか、適切な方法で切断して断面を光学顕微鏡で観察することで容易に判断することができる。
【0061】
例えば、湿式紡糸法を採用した場合、上記紡糸原液を、紡糸口金を介して凝固浴中に吐出して紡糸することで、凝固糸を得る。
【0062】
このときの凝固浴は、濃度40質量%以上70質量%以下、温度20℃以上45℃以下のジメチルアセトアミド水溶液を用いることが好ましい。濃度が40質量%以上の場合は、凝固速度が上昇することを容易に防ぎ、凝固糸が急激に収縮すること、および糸緻密性が低下することを容易に防ぐことができる。一方、濃度が70質量%以下の場合は、凝固速度が低下することを容易に防ぎ、得られる前駆体繊維束の単糸間の接着が発生しやすくなることを容易に防ぐことができる。
【0063】
また、温度が20℃以上の場合は、凝固張力が上昇することを容易に防ぎ、凝固浴中で単糸切れが発生しやすくなることを容易に防ぐことができる。一方、温度が45℃以下の場合は、前駆体繊維を焼成して得られる炭素繊維のストランド強度が低下することを容易に防ぐことができる。
【0064】
ジメチルアセトアミド水溶液の濃度は、50質量%以上68質量%以下がより好ましい。ジメチルアセトアミド水溶液の温度は、25℃以上40℃以下がより好ましい。
【0065】
本発明における前駆体繊維の単繊維繊度は、0.5dtex以上3.0dtex以下であることが好ましく、0.7dtex以上2.0dtex以下であることがより好ましい。単繊維繊度が0.5dtex以上であると、アクリロニトリル系前駆体繊維束を安定して紡糸することが容易となる。逆に単繊維繊度3.0dtex以下であると、耐炎化工程において断面二重構造を容易に防ぎ、均一な品質の炭素繊維を安定に生産することが容易となる。
【0066】
得られた凝固糸をその後の工程で脱溶剤処理、浴中延伸処理、油剤付着処理、乾燥処理等を行い、さらにはスチーム延伸あるいは乾熱延伸等の後延伸処理を施すことで、前駆体繊維を得ることができる。
各工程の処理方法としては、公知の方法を採用できる。
【0067】
次に、本発明の炭素繊維の製造方法について、説明する。
本発明の方法では、酸化性雰囲気下、上記前駆体繊維を250〜300℃で耐炎化処理を行い、耐炎化繊維を得る。
【0068】
なお、本発明において、「酸化性雰囲気下」とは、二酸化窒素、二酸化硫黄、酸素等の酸化性物質を含有する空気中のことである。
【0069】
耐炎化処理の温度が250℃未満であると、耐炎化反応の進行速度が遅くなり、短時間での耐炎化処理が難しくなるため、製造コストの削減が困難となる。また、前駆体繊維中のメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカルボン酸2−ヒドロキシエチル基が熱分解して(すなわち、ヒドロキシエステル基が脱離して)カルボン酸基にならないため、耐炎化反応が促進されにくくなる。一方、耐炎化処理温度が300℃を超えると、前駆体繊維中のポリアクリロニトリル系共重合体が熱分解を起こしてしまう。耐炎化処理の温度は、255〜290℃が好ましく、255〜280℃がより好ましい。
【0070】
本発明における耐炎化処理の時間は、10分以上90分以下が好ましく、20分以上60分以下がより好ましい。90分以下であると、耐炎化処理を適度な時間で容易に行うことができ、製造コストを容易に削減することができる。また、10分以上であると、耐炎化繊維の焼け斑や構造斑が大きくなることを容易に防ぎ、均一な構造の耐炎化繊維を容易に製造することが出来る。
【0071】
得られた耐炎化繊維を不活性ガス中、800〜2000℃で処理する炭素化工程を行って炭素繊維を製造できる。
【0072】
さらにこの炭素繊維を不活性ガス中、2500〜2800℃程度の高温で処理することによって、黒鉛繊維を製造することもできる。
【0073】
本発明によって得られる炭素繊維のストランド物性は、ストランド強度4200MPa以上かつ、ストランド弾性率が220GPa以上であれば、プリプレグとしてオートクレーブ成形、織物などのプリフォームとしてレジントランスファーモールディングで成形、およびフィラメントワインディングで成形するなど種々の成形法により、航空機部材、圧力容器部材、自動車部材、釣り竿およびゴルフシャフトなどのスポーツ部材として好適に用いることが出来る。
【0074】
以上説明したように、本発明の前駆体繊維は、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体を紡糸してなるので、緻密性および均質性を有すると共に、高温および短時間で耐炎化処理しても焼け斑や構造斑が抑制された耐炎化繊維を製造できる。
【0075】
また、本発明の前駆体繊維は、炭素化工程においても毛羽、糸傷み、糸切れなどが発生しにくいため、高品質で高品位な炭素繊維を得ることができる。加えて、耐炎化設備のコンパクト化が可能であるため、製造コストの大幅な削減が期待できる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例における各測定方法は以下の通りである。
【0077】
<ポリアクリロニトリル系共重合体の組成測定>
ポリアクリロニトリル系共重合体の組成(各単量体単位の比率(モル%))は、1H−NMR法により、以下のようにして測定した。
溶媒としてジメチルスルホキシド−d6溶媒を用い、ポリアクリロニトリル系共重合体を溶解させ、NMR測定装置(日本電子社製、商品名:GSZ−400型)により、積算回数40回、測定温度120℃の条件で測定し、ケミカルシフトの積分比から各単量体単位の比率を求めた。
【0078】
<ポリアクリロニトリル系共重合体の比粘度測定>
ポリアクリロニトリル系共重合体0.5gを100mlのジメチルホルムアミド中に分散し、75℃で40分間保持することで、アクリロニトリル系共重合体溶液を得る。このアクリロニトリル系共重合体溶液の粘度ηと溶媒の粘度η0から次式にて比粘度ηspを算出した。粘度測定はいずれもウベローデ型粘度計で、25℃において行った。
ηsp =((η−η0)/η0)/5
【0079】
<ポリアクリロニトリル系共重合体の分子量測定>
東ソー(株)製のGPCシステム HLC−8220(商品名)を使用し、カラムにはTOSHO製 商品名:Super HZM−Hを2本直列で用い、標準物質としてはポリスチレンを用いて、ポリマー粒子(ポリアクリロニトリル系共重合体)の質量平均分子量及び数平均分子量と、分子量分布を求めた。溶離液には0.01mol/l−LiClのDMF溶液を使用し、カラムへの流量は1.0ml/minとし、注入量は20μlの条件にて測定を行った。アクリロニトリル系ポリマーのサンプルは、ポリマーを室温12時間静置して溶解させることによって調整した。本明細書中における質量平均分子量はポリスチレン換算の値である。
【0080】
<凝固糸の断面観察>
ポリアクリロニトリル系共重合体を含む紡糸原液を凝固浴に吐出して得られた凝固糸を採取し、水洗した後、繊維方向に垂直な面で切断し、断面を光学顕微鏡(倍率:360倍)で観察した。
【0081】
<耐炎化繊維の断面観察>
長さ5cmに切断した耐炎化繊維をエポキシ樹脂(エポマウント主剤:エポマウント硬化剤=100:9(質量比))に包埋し、2cmに切断して横断面を露出させ、鏡面処理した後、蛍光顕微鏡(MICROFLEX AFX DX、倍率:250倍)で繊維断面の状態を観察した。
【0082】
<前駆体繊維、耐炎化繊維および炭素繊維の密度の測定>
前駆体繊維、耐炎化繊維および炭素繊維の密度は、密度勾配管法により測定した。
【0083】
<前駆体繊維の単繊維繊度>
単繊維繊度とは、繊維1本の10000m当りの重さである。前駆体繊維を1mずつ2本とり、各々の質量をフィラメント数(すなわち口金の孔数)で除した後、10000倍し、2本の平均値を単繊維繊度とした。
【0084】
<炭素繊維のストランド強度およびストランド弾性率の測定>
炭素繊維の物性(ストランド強度およびストランド弾性率)は、JIS R 7601に記載の方法に準じて測定した。
【0085】
[実施例1]
<ポリアクリロニトリル系共重合体の調製>
予め、容量80リットルのタービン撹拌翼付きアルミニウム製重合釜(攪拌翼:240φ(直径:240mm)、55mm×57mmの2段4枚羽)に、脱イオン交換水が重合釜オーバーフロー口まで達するよう76.5リットル入れ、第一硫酸鉄(Fe2SO4 ・7H2O)を0.01g加え、反応液のpHが3.0になるように硫酸を用いて調節し、重合釜内の温度を57℃で保持した。
【0086】
次に、重合開始50分前から、表1に示した単量体(100モル%)に対してレドックス重合開始剤である過硫酸アンモニウムを0.10モル%、亜硫酸水素アンモニウムを0.35モル%、硫酸第一鉄(Fe2SO4 ・7H2O)を0.3質量ppm、硫酸を0.05モル%となるように、それぞれ脱イオン交換水に溶解して連続的に供給し、攪拌速度3S-1(180rpm)、攪拌動力1.2kW/m3にて撹拌を行い、重合釜内での単量体の平均滞在時間が70分になるように設定した。
【0087】
ついで、重合開始時に、表1に示した単量体供給組成比からなる単量体を、重合釜内の水と単量体の割合が、水/単量体=3(質量比)となるように、単量体の連続供給を開始した。その後、重合開始1時間後に重合反応温度を50℃まで下げて温度を保持し、重合釜オーバーフロー口より連続的に重合スラリーを取り出した。
【0088】
重合スラリーには、脱イオン水(100モル%)に対して、シュウ酸ナトリウム0.37×10-2モル%、重炭酸ナトリウム1.78×10-2モル%を脱イオン交換水に溶解した重合停止剤水溶液を、重合スラリーのpHが5.5〜6.0になるように加えた。この重合スラリーをオリバー型連続フィルターによって脱水処理した後、重合体に対して10倍量の脱イオン交換水(質量比)を加え、再び分散させた。再分散後の重合スラリーを再度オリバー型連続フィルターによって脱水処理し、ペレット成形して、80℃にて8時間、熱風循環型の乾燥機で乾燥後、ハンマーミルで粉砕し、ポリアクリロニトリル系共重合体(共重合体A)を得た。
【0089】
重合条件、および得られた共重合体Aの組成、比粘度及び、分子量を表1および2に示す。
【0090】
[実施例2〜4]
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアクリロニトリル系共重合体(共重合体B〜D)を得た。共重合体の組成、比粘度及び分子量を表2に示す。
【0091】
[比較例1]
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアクリロニトリル系共重合体(共重合体E)を得た。共重合体の組成、比粘度及び分子量を表2に示す。
【0092】
[比較例2]
重合条件を表1に記載したものに変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアクリロニトリル系共重合体(共重合体F)を得た。共重合体の組成、比粘度及び分子量を表2に示す。
【0093】
[実施例5]
<前駆体繊維束の製造>
共重合体Aを濃度が21.2質量%になるようにジメチルアセトアミドに溶解して紡糸原液とした。この紡糸原液を80℃に保持し、直径0.075mm、孔数6000の口金を用いて凝固浴(濃度67質量%、浴温38℃のジメチルアセトアミド水溶液)中に吐出し、透明な凝固糸を得た。
【0094】
得られた凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図1に示す。図1から明らかなように、凝固糸の断面は楕円型であり、かつマクロボイドは確認されなかった。
【0095】
ついで、得られた凝固糸を空気中で1.15倍、さらに温水中で3.0倍延伸しながら洗浄および脱溶剤した後、シリコン系油剤溶液中に浸漬し、180℃の加熱ローラーにて乾燥緻密化した。引き続いて、スチーム圧が220kPaのスチーム延伸機内で3.0倍延伸し、捲取速度50m/分にて前駆体繊維を得た。
【0096】
得られた前駆体繊維の密度、単繊維繊度及び、フィラメント数は、表3に示した通りであり、単繊維繊度が1.20dtex、前駆体繊維密度は1.179g/cm3であった。親水性基であるヒドロキシ基を有する共重合体Aより得られた前駆体繊維は、優れた緻密性を示した。
【0097】
[実施例6、7]
実施例1で得られた共重合体Aを用い、表3に記載したように単繊維繊度及び、フィラメント数を変更した以外は実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。
【0098】
[実施例8]
実施例2で得られた共重合体Bを用いた以外は実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の密度、単繊維繊度及び、フィラメント数は表3に示した通りであり、優れた緻密性を示した。
【0099】
[実施例9、10、11]
実施例3で得られた共重合体Cを用い、表3に記載したように単繊維繊度及び、フィラメント数を変更した以外は実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維は表3に示した通りであり、優れた緻密性を示した。
【0100】
[実施例12]
実施例4で得られた共重合体Dを用いた以外は実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の密度、単繊維繊度及び、フィラメント数は表3に示した通りであり、優れた緻密性を示した。
【0101】
[比較例3]
比較例1で得られた共重合体Eを用い、凝固浴の浴温を35℃に変更した以外は実施例5と同様にして紡糸原液を調製し、白色の凝固糸を得た。得られた凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図2に示す。図2から明らかなように得られた凝固糸の断面は楕円型であり、マクロボイドが多数見られた。
【0102】
更に、実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の密度、単繊維繊度は表4に示した通りであり、単繊維繊度が1.20dtex、前駆体繊維密度は1.170g/cm3であった。親水性基を持たない共重合体Eより得られた前駆体繊維は、実施例1の前駆体繊維に比べ密度が低く、緻密性が低下した。
【0103】
[比較例4]
比較例2で得られた共重合体Fを用いた以外は実施例5と同様にして紡糸原液を調製し、透明な凝固糸を得た。得られた凝固糸の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を図3に示す。図3から明らかなように得られた凝固糸の断面は実施例1で得られた共重合体Aと同様に楕円型であり、かつマクロボイドは確認されなかった。
更に、実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維の密度及び、単繊維繊度は表4に示した通りであり、単繊維繊度が1.20dtex、前駆体繊維の密度は1.180g/cm3であった。親水性基であるアミド基を有する共重合体Fより得られた前駆体繊維は、実施例1の前駆体繊維と同程度の緻密性を有していた。
【0104】
[比較例5、6]
比較例2で得られた共重合体Fを用い、表4に記載したように単繊維繊度及び、フィラメント数を変更した以外は実施例5と同様にして前駆体繊維を得た。
【0105】
【表1】

【0106】
【表2】

【0107】
【表3】

【0108】
【表4】

【0109】
なお、表1中の略号は以下の通りである。
・AN:アクリロニトリル。
・HEMA:メタクリル酸2−ヒドロキシエチル。
・AAm:アクリルアミド。
・MAA:メタクリル酸。
・IBMA:メタクリル酸イソブチル。
【0110】
[実施例13、14]
<炭素繊維の製造>
実施例5で得られた前駆体繊維A−1を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、実施例13は、表5に示す耐炎化条件1により、実施例14は耐炎化条件3によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。得られた各耐炎化繊維の密度を測定した。結果を表6に示す。また、実施例13、14で得られた各耐炎化繊維の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を、それぞれ図4(a)、図4(b)に示す。
【0111】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表6に示す。
【0112】
表6より明らかなように、実施例13、14で得られた耐炎化繊維の密度は、耐炎化条件1では1.411g/cm3であり、耐炎化条件3では1.374g/cm3であった。また、図4(a)、図4(b)より明らかなように、前駆体繊維A−1より得られた実施例13、14の耐炎化繊維は、構造斑(断面二重構造)が明らかに抑制されていた。
【0113】
更に、実施例13、14で得られた炭素繊維は、耐炎化条件1では密度が1.769g/cm3、ストランド引張強度が4444MPa、ストランド弾性率が259GPaであり、耐炎化条件3では密度が1.787g/cm3、ストランド引張強度が4597MPa、ストランド弾性率が256GPaであった。高い緻密性を有する前駆体A−1より得られた炭素繊維は、優れた炭素繊維性能を示した。また、2−ヒドロキシエチル基の存在により、250℃以上の高温領域で耐炎化を行っても高性能の炭素繊維を得ることが出来た。更に耐炎化時間を30分に短縮しても得られる炭素繊維の性能が低下することは無かった。
【0114】
[実施例15、16]
実施例8で得られた前駆体繊維Bを用い、熱風循環式耐炎化炉にて、実施例15は、表5に示す耐炎化条件1により、実施例16は、耐炎化条件3によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。得られた各耐炎化繊維の密度を測定した。結果を表6に示す。
【0115】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表6に示す。高い緻密性を有する前駆体Bより得られた炭素繊維は、優れた炭素繊維性能を示した。また、2−ヒドロキシエチル基の存在により、250℃以上の高温領域で耐炎化を行っても高性能の炭素繊維を得ることが出来た。更に耐炎化時間を30分に短縮しても得られる炭素繊維の性能が低下することは無かった。
【0116】
[実施例17〜20]
実施例5、8、9、12で得られた前駆体繊維A−1、B、C−1、Dを用い、熱風循環式耐炎化炉にて、表5に示す耐炎化条件6によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。得られた耐炎化繊維の密度を測定した。結果を表6に示す。
【0117】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表6に示す。高い緻密性を有する前駆体A−1、B、C−1、Dより得られた炭素繊維は、更に最適化された250℃以上の高温領域において30分で耐炎化を行うことにより、高性能の炭素繊維を得ることが出来た。
【0118】
[比較例7、8]
比較例3で得られた前駆体繊維Eを用い、熱風循環式耐炎化炉にて、比較例7は、表5に示す耐炎化条件1により、比較例8は耐炎化条件3によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。得られた各耐炎化繊維の密度を測定した。結果を表6に示す。また、比較例7、8で得られた耐炎化繊維の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を、それぞれ図5(a)、図5(b)に示す。嵩高い官能基であるイソブチル基を有する比較例7、8の耐炎化繊維は、断面二重構造(構造斑)が抑制された。
【0119】
次に、得られた各耐炎化繊維を用いた以外は、実施例13、14と同様にして炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表6に示す。
【0120】
メタクリル酸のカルボキシ基がイソブチル化されることで、250℃以上の高温領域において耐炎化が可能であるが、親水性基を持たず高い緻密性が保持できない前駆体Eより得られた炭素繊維の性能は、前駆体A〜Dより得られた炭素繊維と比較して劣っていた。前駆体A〜Dでは、メタクリル酸のカルボキシ基が2−ヒドロキシエチル化されることで、250℃以上の高温領域において耐炎化が可能であり、なおかつ親水性基としての役割を有する。
【0121】
[比較例9、10]
比較例4で得られた前駆体繊維を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、比較例9は、表5に示す耐炎化条件1により、比較例10は、耐炎化条件3によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で耐炎化処理し、耐炎化繊維を得た。得られた各耐炎化繊維の密度を測定した。結果を表6に示す。また、比較例9、10で得られた耐炎化繊維の繊維軸に垂直な断面の顕微鏡写真を、それぞれ図6(a)、図6(b)に示す。耐炎化反応を促進するメタクリル酸のカルボキシ基がエステル化されていない前駆体F−1より得られた比較例9、10の耐炎化繊維は、顕著な断面二重構造が形成されていることが確認された。
【0122】
次に、得られた耐炎化繊維を用いた以外は、実施例13、14と同様にして炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表6に示す。
親水性基を有していることで高い緻密性は保持しているが、耐炎化反応を促進するメタクリル酸のカルボキシ基がエステル化されていない前駆体F−1より得られた炭素繊維の性能は、前駆体A〜Dより得られた炭素繊維と比較して劣っていた。なお、前駆体A〜Dでは、メタクリル酸のカルボキシ基が2−ヒドロキシエチル化されることで、250℃以上の高温領域において耐炎化が可能であり、なおかつ親水性基としての役割を有する。
【0123】
以上の結果より、本発明のポリアクリロニトリル系共重合体は、高温および短時間での耐炎化処理に適した共重合体であった。
【0124】
次に、本発明のメタクリル酸2−ヒドロキシエチルを1モル%以上5モル%以下有するポリアクリロニトリル共重合体を用いた炭素繊維の太繊度化による性能への影響について記載する。
【0125】
[実施例21、22]
実施例6で得られた前駆体繊維A−2を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、実施例21は、表5に示す耐炎化条件3により、実施例22は、耐炎化条件4によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で20〜30分間耐炎化処理し、耐炎化糸密度が1.37g/cm3前後の耐炎化繊維を得た。結果を表7に示す。
【0126】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表7に示す。
【0127】
[実施例23、24]
実施例10で得られた前駆体繊維C−2を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、実施例23は、表5に示す耐炎化条件6により、実施例24は、耐炎化条件7によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で20〜30分間耐炎化処理し、耐炎化糸密度が1.36g/cm3前後の耐炎化繊維を得た。結果を表7に示す。
【0128】
次に、得られた耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維を得た。得られた炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表7に示す。
【0129】
[比較例11、12]
比較例5で得られた前駆体繊維F−2を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、比較例11は、表5に示す耐炎化条件9により、比較例12は、耐炎化条件10により6%の伸張を付与しながら空気中で20〜30分間耐炎化処理し、耐炎化糸密度が1.36g/cm3前後の耐炎化繊維を得た。結果を表7に示す。
【0130】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表7に示す。
【0131】
親水性基を有していることで高い緻密性は保持しているが、耐炎化反応を促進するメタクリル酸のカルボキシ基がエステル化されていない前駆体F−2より得られた炭素繊維は、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを有する前駆体繊維A−2、C−2より得られた炭素繊維と比較して、単繊維繊度が1.5dtex前後の領域では、耐炎化時間を短縮するにつれてより顕著に性能が低下する傾向を示した。
【0132】
[実施例25、26]
実施例7で得られた前駆体繊維A−3を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、実施例25は、表5に示す耐炎化条件2により、実施例26は、耐炎化条件3によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で30〜40分間耐炎化処理し、耐炎化糸密度が1.37g/cm3前後の耐炎化繊維を得た。結果を表8に示す。
【0133】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表8に示す。
【0134】
[実施例27、28]
実施例11で得られた前駆体繊維C−3を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、実施例27は、表5に示す耐炎化条件5により、実施例28は耐炎化条件6によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で30〜40分間耐炎化処理し、耐炎化糸密度が1.36g/cm3前後の耐炎化繊維を得た。結果を表8に示す。
【0135】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表8に示す。
【0136】
[比較例13、14]
比較例6で得られた前駆体繊維F−3を用い、熱風循環式耐炎化炉にて、比較例13は、表5に示す耐炎化条件8により、比較例14は耐炎化条件9によりそれぞれ6%の伸張を付与しながら空気中で30〜40分間耐炎化処理し、耐炎化糸密度が1.36g/cm3前後の耐炎化繊維を得た。結果を表8に示す。
【0137】
次に、得られた各耐炎化繊維を、窒素雰囲気下、最高温度660℃、伸張率5%にて1.5分間低温熱処理し、さらに窒素雰囲気下、最高温度が1350℃の高温熱処理炉にて−4%の伸張の下、約1.5分処理し、炭素繊維をそれぞれ得た。得られた各炭素繊維の密度、およびストランド物性を測定した。結果を表8に示す。
【0138】
親水性基を有していることで高い緻密性は保持しているが、耐炎化反応を促進するメタクリル酸のカルボキシ基がエステル化されていない前駆体F−3より得られた炭素繊維は、メタクリル酸のカルボキシ基が2−ヒドロキシエチルを有する前駆体繊維A−3、C−3より得られた炭素繊維と比較して、単繊維繊度が2.0dtex前後の領域では、耐炎化時間を短縮するにつれてより顕著に性能が低下する傾向を示した。
【0139】
【表5】

【0140】
【表6】

【0141】
【表7】

【0142】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリロニトリル単位を95モル%以上99モル%以下、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位を1モル%以上5モル%以下、含有するポリアクリロニトリル系共重合体。
【請求項2】
請求項1に記載のポリアクリロニトリル系共重合体を溶解して得られる紡糸原液。
【請求項3】
請求項2に記載の紡糸原液を、紡糸して得られる、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維。
【請求項4】
前記炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の単繊維繊度が、0.5dtex以上3.0dtex以下である、請求項3記載の炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維。
【請求項5】
請求項2に記載の紡糸原液を紡糸する工程を有する、炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法。
【請求項6】
アクリロニトリル単位を95モル%以上99モル%以下、およびメタクリル酸2−ヒドロキシエチル単位を1モル%以上5モル%以下、含有するポリアクリロニトリル系共重合体を溶解して得られるポリアクリロニトリル系紡糸原液を、紡糸して得られる炭素繊維用ポリアクリロニトリル系前駆体繊維を、酸化性雰囲気下、250〜300℃で耐炎化処理する工程を含む炭素繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−46942(P2011−46942A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172359(P2010−172359)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】