説明

ポリアセタール樹脂充填用炭素繊維

【目的】ポリアセタール樹脂に短繊維として20重量%程度充填して複合材を製造した場合、複合材の体積固有抵抗が105〜108Ωcmとなるような炭素繊維及びその製造方法を提供する。
【構成】炭素繊維をメルカプトシランとエポキシ樹脂を含む溶液で処理し、炭素繊維にメルカプトシランとエポキシ樹脂を保持させる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリアセタール樹脂充填用炭素繊維及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来技術】ポリアセタール樹脂に表面処理された炭素繊維を10〜30重量%複合する耐摩耗性成形材料の製造方法が知られている(例えば、特開昭49−40368号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ポリアセタール樹脂に短炭素繊維を充填し耐摩耗性、引張強度等を改良するためには、ポリアセタール樹脂に対して炭素繊維を20重量%程度充填することが必要である。この場合無処理の炭素繊維を使用すると、成形体の電気比抵抗(体積固有抵抗)は100〜102Ωcm程度となる。体積固有抵抗が100〜102Ωcm程度の材料は帯電した物質が接近した場合容易に放電するので静電気障害防止用の材料としては好ましくない場合がある。静電気障害の防止には体積固有抵抗が105〜108Ωcm程度の材料が適当な場合が多い。
【0004】本発明はポリアセタール樹脂に20重量%程度充填したとき得られる成形体の体積固有抵抗が105〜108Ωcmとなるような炭素繊維及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明においては、炭素繊維をメルカプトシランとエポキシ樹脂を含む溶液で処理してポリアセタール樹脂充填用炭素繊維とするものである。
【0006】上記処理は、炭素繊維をメルカプトシラン0.5〜10重量%、エポキシ樹脂0.5〜30重量%を含む溶液に接触させた後乾燥し、メルカプトシランとエポキシ樹脂の混合物を炭素繊維に対して1〜15重量%保持するようにする。
【0007】メルカプトシランとしてはγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、エポキシ樹脂としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂が好適である。
【0008】メルカプトシラン及びエポキシ樹脂を含む溶液(以後、処理液という)は有機溶媒系、水溶媒系どちらも使用可能であるが、作業環境の点から水溶媒系が好ましい。この場合エポキシ樹脂は変性ビスフェノールA型水溶性エポキシ樹脂を用いる。
【0009】処理液中にはメルカプトシランとエポキシ樹脂が共存することが必要である。メルカプトシラン単独又はエポキシ樹脂単独の場合は上記目的を達成することができない。メルカプトシランとエポキシ樹脂の両者の相乗作用によってはじめて上記目的を達成できるのである。
【0010】処理液中のメルカプトシランとエポキシ樹脂の割合は重量比でメルカプトシラン1に対してエポキシ樹脂0.2〜10の範囲が好ましい。この範囲外では目的とする体積固有抵抗及び強度を有する成形体の製造が困難となる。
【0011】メルカプトシラン及びエポキシ樹脂の濃度が0.5重量%以下では、炭素繊維に1〜15重量%保持させるために、処理液との接触−乾燥の操作を繰り返し行わなければならなくなるので好ましくない。また、メルカプトシラン10重量%以上、エポキシ樹脂30重量%以上では、炭素繊維表面に均一に付着しなくなるので好ましくない。
【0012】炭素繊維と処理液との接触は、炭素繊維を処理液に浸漬する方法、炭素繊維に処理液をスプレーする方法等によって行うことができる。炭素繊維と処理液を接触させた後乾燥し、炭素繊維にメルカプトシランとエポキシ樹脂を保持させる。メルカプトシランとエポキシ樹脂の炭素繊維に対する保持量は、処理前の炭素繊維の重量と処理液と接触後乾燥した炭素繊維の重量より求められる。その保持量は処理液の濃度及び処理液の炭素繊維への添着量によって制御することができる。保持量は1〜15重量%が好ましい。1重量%以下では本発明の目的を達成することができず、15重量%以上ではポリアセタール樹脂の本来の特性を損ねる恐れがある。
【0013】本発明の炭素繊維と複合されるポリアセタール樹脂は、オキシメチレンホモポリマー及びオキシメチレン基を主体とするコポリマーである。
【0014】本発明の炭素繊維をポリアセタール樹脂と複合させて成形体を製造するには、本発明の炭素繊維をポリアセタール樹脂の粉末又はペレットとを押出機を用いて混練しながら押し出し、炭素繊維が均一に分散したペレットを製造した後、射出成形機等で成形し、成形体とすることが好ましい。
【0015】
【作用】メルカプトシランとエポキシ樹脂を含有する処理液で処理した炭素繊維をアセタール樹脂に充填すると、メルカプトシランとエポキシ樹脂の相乗作用により、炭素繊維表面とアセタール樹脂との親和性が向上し、複合材中に炭素繊維が均一に分散しするようになる。このような複合材では炭素繊維同士の直接的な接触が減少し、複合材の体積固有抵抗は無処理の炭素繊維を使用した場合等に比べて小さくならない。また炭素繊維と樹脂との接着性が向上しているため、炭素繊維の補強効果が充分発揮される。
【0016】
【発明の効果】本発明の炭素繊維をポリアセタール樹脂に20重量%程度充填すると、得られる成形体は、引張強度1000〜1300kg/cm2、体積固有抵抗106〜108Ωcmであり、強度が大きく耐摩耗性に優れ静電気障害防止用材料として好ましい体積固有抵抗の値の材料となる。
【0017】
【実施例】以下実施例をあげて、本発明を具体的に説明する。
【0018】炭素繊維を複合したポリアセタール樹脂成形体の特性は、下記の方法によって測定した。
【0019】1.引張強度:ASTM D6382.体積固有抵抗:ASTM D257実施例1γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン1.0重量%、化学的変性ビスフェノールA型水溶性エポキシ樹脂(ナガセ化成工業(株)、デナキャスト(商標) EM−101 エポキシ当量 260)1.0重量%を量含有する水溶液に、石油系等方性ピッチから製造され900℃で焼成された炭素繊維(繊維径9〜15μm)のトウを浸漬した後、処理液から引き上げ120℃で5分間乾燥してポリアセタール樹脂充填用炭素繊維を製造した。このようにして製造された炭素繊維の処理剤の保持量は1.6重量%であった(処理前の炭素繊維重量と処理・乾燥後の炭素繊維の重量より計算)。
【0020】次に、このようにして製造した炭素繊維を以下の方法でポリアセタール樹脂に充填し、複合材の特性を評価した。
【0021】ポリアセタール充填用炭素繊維を3mmに切断した後、押出機を用いアセタール・コポリマー(ポリプラスチック(株)、ジュラコン(商標) M90−02メルトインデックス 9)に20重量%混練してペッレトを製造した。このペレットを射出成形により成形し、引張試験用試験片と体積固有抵抗測定用試験片を作成した。引張強度及び体積固有抵抗の測定値を表1に示す。実施例2γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン5.0重量%、実施例1で使用した化学的変性ビスフェノールA型水溶性エポキシ樹脂10.0重量%とした以外は実施例1と同様に処理しポリアセタール樹脂充填用炭素繊維を製造した。この炭素繊維の処理剤の保持量は11.2重量%であった。
【0022】この炭素繊維を実施例1と同様にしてアセタール・コポリマーと複合成形し、複合材の引張強度及び体積固有抵抗を測定した。結果を表1に示す。
比較例1〜5表1記載の処理剤を含有する水溶液で処理した以外は実施例1と同様に処理した炭素繊維を、実施例1と同様の方法でアセタール・コポリマーと複合し複合材の特性を測定した。結果を表1に示す。
【0023】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】メルカプトシランとエポキシ樹脂を含む溶液で処理されたポリアセタール樹脂充填用炭素繊維。
【請求項2】メルカプトシラン0.5〜10重量%、エポキシ樹脂0.5〜30重量%を含む溶液で処理された、メルカプトシランとエポキシ樹脂の混合物を1〜15重量%保持するポリアセタール樹脂充填用炭素繊維。
【請求項3】メルカプトシランとエポキシ樹脂を含む溶液に炭素繊維を浸漬し、次いで乾燥することを特徴とするポリアセタール樹脂充填用炭素繊維の製造方法。
【請求項4】メルカプトシラン0.5〜10重量%、エポキシ樹脂0.5〜30重量%を含む溶液に炭素繊維を浸漬し、次いで乾燥し、該メルカプトシランとエポキシ樹脂の混合物を該炭素繊維に対し1〜15重量%保持させることを特徴とするポリアセタール樹脂充填用炭素繊維の製造方法。

【公開番号】特開平5−195440
【公開日】平成5年(1993)8月3日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−303858
【出願日】平成3年(1991)10月24日
【出願人】(000001100)呉羽化学工業株式会社 (477)