説明

ポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法とそのめっき製品

【課題】 ポリアセタール樹脂成形物へのめっき密着性をより向上させ、且つ前処理工程での樹脂自体の割れの発生を防ぎ、めっき強度に優れ且つ表面の滑り性に優れた、ポリアセタール樹脂成形物を得る。
【解決手段】 ポリアセタール樹脂成形物表面を前処理する前処理工程、化学めっきを行なう工程、複数回の電気めっきを行ない多層構造の電気めっき層を形成する工程を有し、第1段階で行なう化学めっきと第2段階で行なう電気めっきの2段階でめっきを行ない、前記化学めっきの次に行なう電気めっきは、導電性の高いCuめっきであり、以降はNiめっき、Crめっきとする。前処理工程において、樹脂成形物表面をバフ研磨後にめっき温度以上の温度で熱処理を行ない、その後ブラスト処理を行ない、且つブラスト処理後に脱脂処理を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り性・耐衝撃性等種々の表面物性の向上が可能となるポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法とそのめっき製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性に優れ、金属代替の成形加工工具や機械部品等に使用されるエンジニアリングプラスチックとして、種々の分野で利用されている。このポリアセタール樹脂の表面に金属めっきを施すことにより、さらに機械的特性、例えば耐衝撃性や滑り性の向上など、表面物性を変更させ、その特性を一段と向上させることが期待される。プラスチック成形物に金属めっきをするには、電気が導通するようにまず樹脂表面を金属化処理しなければならないため、通常ニッケル化学めっきを行なっているが、ポリアセタール樹脂は、表面活性が乏しいので金属密着性に欠け、前処理工程で樹脂表面をエッチング等で粗面化、あるいはその後脱脂処理して、ニッケル化学めっきでのニッケルの付着密度を高めるようにしている。従来、ポリアセタール樹脂のめっき方法として、種々提案されているが、未だ十分な成果が得られてなく、ポリアセタール樹脂のめっき技術は十分に確立されているとはいえない現状にある。
例えば、ポリアセタール樹脂のめっき方法における密着強度を向上させる方法として、ポリアセタール樹脂成形物をpH3.5〜5.5の酸性化学ニッケルめっき液に浸漬する方法(特許文献1)、pH8〜10のアンモニア性化学ニッケルめっき液に浸漬する方法(特許文献2)、ポリアセタール樹脂を成形型のキャビティ内に圧入して表面の樹脂結晶が十分成長しない状態で成形物を型から取り出し、不完全な結晶の層を成形物の表面に形成させることにより、エッチング液に侵食され易くして、めっき液が付着し易くするようにする方法(特許文献3)等が提案されている。さらに、ポリアセタール樹脂の表面をエッチングする方法として、リン酸と硫酸の混合液に耐酸性界面活性剤を添加したエッチング液に樹脂成形物を浸漬する方法(特許文献4)が提案されている。
【0003】
上記提案されているものは、表面活性を高めニッケルめっきの密着性を向上させるための提案であるが、上記提案によってたとえ密着性が得られてもめっき後に、図3の写真に示すように、樹脂製品自体に割れが生じることがあり、ポリアセタール樹脂の表面に割れが生じると表面の滑り性を阻害し、めっき製品の品質劣化を招くことになる。
【特許文献1】特開昭58−29834号公報
【特許文献2】特開昭58−29833号公報
【特許文献3】特許第3222244号公報
【特許文献4】特公昭60−39151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、製缶ラインにおいて、近年金属板表面にPETフィルム等の合成樹脂フィルムをラミネートした缶材で缶胴を形成することが実用化され、成形された缶胴表面に美麗な印刷を行なう方法として、缶胴表面にベースコートとして紫外線硬化ホワイト塗料を塗布して、その上に水なしオフセット多色印刷で画像を印刷することが行なわれている。図1は、そのための缶胴ベースコート装置1を示し、2が缶胴を搬送する搬送ターレットであり、その周囲に2組の塗布ローラ3、4が配置され、搬送ターレット2のポケット部5に嵌合した缶胴の外周面に紫外線硬化ホワイト塗料を塗布する。紫外線硬化ホワイト塗料を塗布された缶胴を搬送ターレットで搬送中に缶胴に紫外線を照射することにより、缶胴に塗布された塗料が硬化する。このような装置において、缶胴の搬送ターレットとして、缶胴が嵌合するポケット部5を図2の写真(該写真は金属めっき済みであり後述する本発明の実施例の搬送用ターレットのポケット部である。)に示すように合成樹脂で形成することによって、搬送ターレットを軽量化し、高速回転での慣性力を小さくしてエネルギー損失を抑えるように考案した。ポケット部を形成する合成樹脂材料として、結晶化度が高く強靭で摺動性や耐薬品性に優れているポリアセタール樹脂を採用した。しかしながら、その装置によって紫外線硬化ホワイト塗料を用いて缶胴のベースコートを行なった場合、缶胴の印刷工程で缶胴下部のホワイト塗膜が剥離し印刷不良が発生する現象が起こっている。この原因について種々分析した結果、ポケット表面のポリアセタール樹脂が紫外線光によって分解することが確認された。この分解物が印刷不良に影響を及ぼすものと推察して、ポケット表面に金属テープを貼り付けた状態で量産試験を行なった結果、印刷不良発生を防止できることが確認できた。しかしながら、金属テープは粘着剤が製品に混入することが懸念されるので、該ポリアセタール樹脂表面を金属めっきで表面処理することを着想したが、上述のようにポリアセタール樹脂はめっきが困難であり、しかも樹脂表面の活性化を高めるための前処理工程後やめっき処理後に表面割れや微細ひびが発生することがあり、ポリアセタール樹脂成形物に密着性・耐衝撃性に優れかつ滑り性に優れためっき層を形成するめっき技術が確立されておらず、上記問題の解決に至っていない。
【0005】
そこで本発明は、上記実情に鑑み創案されたものであって、ポリアセタール樹脂成形物のめっき密着性をより向上させ、且つ前処理工程での樹脂自体の割れの発生を防ぎ、良好に均一にめっきでき、めっき強度に優れ且つ表面の滑り性に優れた、ポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法及び搬送ターレットのポケット等のポリアセタール樹脂成形物のめっき製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点を解決するために種々研究を重ねた結果、前処理工程を工夫すること、めっき層の構成は化学めっきと電気めっきの組み合わせるものとし、化学めっきを第一段階で行い、電気めっきを第二段階で行い、電気めっきは多層構造として複数回の電気めっきを行ない、化学めっきの次に行う電気めっきは導通性の高いものを採用することによって、密着性に優れたポリアセタール樹脂を得ることができ、そして、ニッケルめっき層の下層に銅めっき層を形成することによって、ニッケルの伸びを吸収できてめっき層のひび割れを防止でき、且つ樹脂成形品自体を前処理工程でめっき処理温度以上の温度で熱処理を施すことによって樹脂自体のひび割れを防止できることを見出し本発明に到達したものである。また、めっき後のひび割れ発生の原因について種々研究した結果、アセタール樹脂をそのままめっき処理するとめっき浴温度で加熱されたアセタール樹脂内部から水素ガスが発生し、それが抜けない前にめっきを施すことによって、割れが生じることを知見し、それを防ぐにはめっき前の前処理行程でめっき温度以上の温度で熱処理することによって、樹脂内部からの水素ガスの抜けを促進してから、めっき処理を行うことによってめっきのひび割れを防止できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明のポリアセタール樹脂成形物のめっき方法は、ポリアセタール樹脂成形物の表面を粗面化する前処理工程、化学めっきを行なう化学めっき工程、多層構造の電気めっき層を形成する複数回の電気めっき工程を有し、前記前処理工程の開始前又は途中の何れかにおいて、前記ポリアセタール樹脂成形物をめっき処理温度以上の温度で熱処理を行なうことを特徴とするものである。このように前処理工程で熱処理することによって、樹脂の応力が緩和され前処理工程での樹脂自体のひび割れの発生を防ぐことができると共に、アセタール樹脂内部からの水素ガスの抜けを促進し、めっき後のめっきのひび割れを防止することができる。
【0008】
前記化学めっきはニッケル化学めっきであり、前記複数の電気めっき工程は、化学めっき後に行なう銅電解めっき工程、光沢ニッケル電気めっき工程、光沢クロムめっき工程からなることが望ましい。その場合、前記電気めっき工程の各めっき工程は、めっき浴に通電した状態でポリアセタール樹脂成形物を浸漬して行なうのが望ましい。また、ニッケルめっきと銅めっき間は、めっき密着性が悪いため、それを改良するために前記ニッケル化学めっき工程後及び銅電解めっき工程後に、それぞれ表面処理工程及びニッケルストライクめっき工程を設けることが望ましい。さらに前記各めっき工程の前後で研磨処理を行なうことにより、めっき密着性の向上、及び最外層表面を滑らかに仕上げることができて望ましい。
【0009】
本発明のポリアセタール樹脂めっき製品は、ポリアセタール樹脂成形物表面から順にニッケルめっき層0.1〜5μm、銅めっき層8〜50μm、ニッケルめっき層10〜20μm、クロムめっき層0.1〜0.5μmが形成され、表面粗さが3μm以下であることを特徴とするものである。前記ポリアセタール樹脂成形物は、前記めっき層を形成する前処理工程開始前又は途中の何れかにおいて熱処理されたものであることが望ましく、熱処理されたポリアセタール樹脂成形物に前記各めっき層を形成することによって、ひび割れ等のない、良好に均一でめっき強度に優れ、且つ表面滑り性に優れたポリアセタール樹脂めっき製品を得ることができる。前記ポリアセタール樹脂めっき製品は、種々の部材に適用可能であるが、例えば缶等の搬送用ターレットのポケットに採用することによって、軽量でしかも金属製と同様に平滑性・耐衝撃性に優れ、且つ高速回転でのエネルギー損失を抑制することができる搬送ターレットを得ることができる。そして、めっき全体の層厚は、18〜76μmの範囲が望ましく、18μm以下であるとめっきの効果が十分でなく、76μmを超えるとめっきの剥がれやひび割れが生じやすい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法によれば、従来表面活性に乏しいため十分なめっき密着性が得られなかったポリアセタール樹脂成形物のめっき密着性を向上させ、且つひび割れの発生を防ぎ、そして、化学めっきと電気めっきを組み合わせ、かつ電気めっきを多層構造にすることによって、ポリアセタール樹脂成形物の滑り性・耐衝撃性等の様々な表面物性を向上させることができる。そして請求項1の発明の前処理工程により、ポリアセタール樹脂成形物の表面を効果的に粗面化でき従来困難であった該表面への化学めっきの密着性を一段と向上させることができる。さらに、ポリアセタール樹脂成形物をめっき処理温度以上の温度で熱処理を行うことによって、樹脂の応力が緩和され、ポリアセタール樹脂自体のひび割れを防止することができると共にめっきのひび割れを防止することができる。
【0011】
請求項2の発明において、銅電解めっきを設けることによって、ポリアセタール樹脂成形物とニッケルめっきの熱膨張率の相違を吸収し、めっき層のひび割れを防止することができる。そして、最外層にクロムめっき層を形成することができ、耐衝撃性、耐磨耗性に優れかつ表面滑り性に優れたポリアセタール樹脂めっき成形物を得ることができる。請求項3の発明によれば、より均一に且つ効率よく電気めっきができる。請求項4の発明によれば、ニッケルめっきと銅めっきの密着性を改善し、ニッケルめっき層表面への銅めっき及銅めっき層表面へのニッケルめっきを可能する。請求項5の発明によれば、各めっき層間のめっき密着性のより向上、及び最外層表面をより滑らかに仕上げることができる。請求項6及び請求項7の発明によれば、めっき密着性に優れ、樹脂自体及びめっき層のひび割れもなく、そして、耐衝撃性・耐磨耗性および表面滑り性に優れたポリアセタール樹脂めっき製品を得ることができる。さらに、請求項8の発明によれば、軽量でしかも金属製と同様に平滑性・耐衝撃性に優れ、且つ高速回転でのエネルギー損失を抑制することができるポリアセタール樹脂製のポケットを有する搬送ターレットを得ることができ、該搬送ターレットを缶胴の印刷ラインにおける缶供給ターレットに適用することによって、全体が金属製ターレットを使用した場合と同等に印刷抜けのない美麗な印刷が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明のポリアセタール樹脂成形物の表面へのめっき層の形成は、基本的にはポリアセタール樹脂成形物表面を前処理する前処理工程、化学めっきを行なう工程、複数回の電気めっきを行ない多層構造の電気めっき層を形成する工程を有し、めっきを第1段階で行なう化学めっきと第2段階で行なう電気めっきの2段階で行ない、前記化学めっきの次に行なう電気めっきは、導電性の高い金属めっきであることを特徴とするものである。以下、各工程毎に詳細に説明する。
【0013】
(1)前処理工程
前処理工程は、樹脂表面を粗面化し、最初に行なう化学めっきの付着密度を高めるために必要であり、樹脂表面をバフ研磨後にブラスト処理を行ない、且つブラスト処理後に脱脂処理を行なうのが望ましい。ブラスト処理は、後述する表面のエッチング等の化学処理のみでは十分な密着性が得られなかったのに鑑み、物理的衝撃により表面を粗す処理である。そのほかより効果的な前処理方法として、バフ研磨後、後述するめっき処理温度以上、望ましくは約温度80〜150℃で、より望ましくは90℃程度で熱処理を行ない、次いでブラスト処理して後脱脂処理を行ない、さらに塩酸と硫酸の混合液でエッチングを行なう。その後超音波洗浄し、水酸化ナトリウムで中和処理し、さらに表面調整後に触媒を付与する工程を採用することにより、化学めっきの付着密度をより高めることができる。前処理工程で樹脂製品自体の割れが生じることがあるが、前記のようにバフ研磨後にめっき温度以上の温度で熱処理を行なうことによって、前処理中の樹脂製品自体の割れを防止することができる。該熱処理は前処理工程の前に行なってもよい。熱処理時間は、被処理物の大きさや形状によって異なり、必ずしも一様でないが、上記温度で30〜120分程度、より望ましくは60分程度がよい。
【0014】
(2)第1段階の化学めっき工程
第1段階で行なう化学めっきは、一般にNi化学めっきが採用でき、めっき浴の温度は30℃〜50℃、望ましくは40℃程度の低温で行なうのが望ましい。また、化学めっきは1回に限らず繰り返し複数回(例えば2回)行うようにしてもよい。下地めっきとしてのNi化学めっき層の層厚は、0.1〜5μmが望ましく、より望ましく略1μm程度が望ましい。Ni化学めっきの層厚が、5μm以上であるとめっき層に割れが生じることがあり、0.1μm以下であると、下地めっきとしての効果が薄く、次の電解めっきが困難となる。
【0015】
(3)電気めっき工程
次に、電気めっきを行なうが、ニッケルめっきと銅めっき間は互いに密着性に乏しいので、電気めっきを行う前に化学めっきが終了した成形物の表面処理を行う必要がある。そこで行なう表面処理としては、表面研磨の後に、脱脂処理、酸活性処理を行ない、酸活性処理後にNiストライクめっきを行なうのが望ましい。前工程として酸活性処理後にNiストライクめっきを行なってから本めっきである銅めっきをすることによって、Niめっき層面への銅めっきの密着性を向上させ、Niめっき層へのCuめっきを可能とすることができる。同様に後述する銅めっき後に行なうNiめっき工程前にも前記の表面研磨、脱脂処理−酸活性処理−Niストライクめっきを行なう。
【0016】
電気めっきは、多層構造とし、本実施形態では、順にCu電解めっき、光沢Ni電気めっき、光沢Crめっきを行なった。しかしながら、必ずしもそれに限るものではなく、Ni化学めっき後に行なう電気めっきは導電性の高いものを採用することが望ましく、Cu電解めっきが好適に採用できるが、以後の電気めっきは最終段階で必要となる物性に応じて適宜選定すればよい。前記Cu電解めっきは、電流密度を可能な限り低く設定するのが望ましく、めっき浴を通電した状態で前記化学めっきが終了した製品を浸して行なうのが望ましい。銅めっきは、光沢硫酸銅などが採用でき、その層厚さは、8〜50μmより望ましくは15〜25μmの範囲が望ましい。添加剤は必要に応じて最も光沢が出るものを採用する。銅めっきを次に行なうNiめっきの下に施すことによって、ニッケルの伸びを吸収できて、ポリアセタール樹脂とNiとの熱膨張率の相違による樹脂又はめっき層のひび割れを防止することがきる。その効果を発揮するためには、Cu層の厚さは上記範囲が望ましい。また、電流密度は、以下の電気めっき工程に共通して電気めっきを均一にするために、低く設定することが好ましく、1〜3A/dmの範囲が望ましい。
【0017】
Cu電解めっき後、表面バフ研磨し、その後に前記した理由で脱脂処理−酸活性処理をして表面処理行ない、且つNiストライクめっきを行なう。銅めっき表面の表面活性化を目的として塩酸ニッケルにて1〜2μm程度処理することによって、Niストライクが付着しCu層表面にNiめっきが可能となる。Ni電気めっきは、光沢Ni電気めっきが望ましく、硫酸ニッケルを含むめっき浴で可能な限り電流密度を低く設定して行なう。添加剤も最も光沢の出るものが望ましい。光沢Ni電気めっき層の厚さは、10〜20μmの範囲が望ましい。その後表面研磨を行なう。表面研磨は種々の手段が採用可能であるが、バフ研磨が望ましい。次いで、最表面層として、電気クロムめっきを行なう。電気クロムめっきは、表面の耐衝撃性を向上させる効果があり、層厚は0.1〜0.5μmの範囲が望ましい。電気クロムめっきも電流密度を可能な限り低く設定して行ない、添加剤も最も光沢が出るものを採用することが望ましい。そして、最後に表面バフ研磨を行なう。
このような工程を経てポリアセタール樹脂成形品表面にめっき層総厚さ18〜76μmを形成することによって、従来良好なめっき形成が困難であったポリアセタール樹脂のめっき形成技術の問題点を克服でき、平均表面粗さが0.5μm以下の表面が滑らかで滑り性に優れ、且つ耐衝撃性・めっき剥離強度に優れ、且つひび割れの発生がないポリアセタール樹脂のめっき製品を得ることができる。
【実施例1】
【0018】
ポリアセタール樹脂で図2に示す缶搬送用ターレットのキャンポケット部を成形し、該ポリアセタール樹脂成形物に次のような工程でめっき層を形成した。
前処理工程
工程1.ポリアセタール樹脂成形物表面のバフ研磨
工程2.熱処理
熱処理は90℃雰囲気で、1時間保持して行なった。
工程3.ポリアセタール樹脂成形物表面の梨地処理
梨地処理はブラスト処理により行なった。
工程4.アルカリ脱脂
アルカリ脱脂は、50℃のアルカリ脱脂剤に10分間浸漬して行なった。
工程5.エッチング
pH3〜2.5、温度25℃の塩酸と硫酸の混液で20分間行なった。
工程6.超音波洗浄
工程7.中和
液温60℃水酸化ナトリウム液(100G/L)に浸漬して行なった。
工程8.表面調整
液温40℃のFRコンク液(商品名)(50ml/l)で5分間処理した。
工程9.触媒付与
センシタイザー−アクチベーター法により2回繰り返し行なった。
化学めっき工程
工程10.化学ニッケルめっき工程
浴組成: 化学ニッケルA 160ml/l
化学ニッケルB 160ml/l
浴温: 40℃
時間: 8分
めっき厚さ:1μm
中間表面処理工程1
工程11.脱脂
脱脂剤: エースクリーン70(商品名)
液温: 50℃、10分間浸漬
工程12.酸活性処理: 酸活性液に30秒浸漬
工程13.Niストライクめっき
電圧:3v 、 時間:4分
電気めっき工程1
工程14.光沢硫酸銅めっき
浴組成: 硫酸銅 160〜240g/l
硫酸 40〜80g/l
塩酸 30〜90mg/l
光沢剤A 2〜5ml/l
光沢剤B 0.3〜0.6ml/l
浴温: 20〜30℃
電流密度: 1.5A/dm
めっき厚さ: 16μm
中間表面処理工程2
工程15.バフ仕上げ
工程16〜18.(中間表面処理工程1の工程11〜13と同じ)
電気めっき工程2
工程19.光沢Niめっき
浴組成:硫酸ニッケル 240〜350g/l
塩化ニッケル 40〜55g/l
ほう酸 35〜45g/l
光沢剤A 7〜30ml/l
光沢剤B 0.7〜1.5ml/l
液温: 50〜60℃
電流密度: 5A/dm
PH: 4.4
めっき厚さ: 10μm
電気めっき工程3
工程20. Crめっき
浴組成: 無水クロム 180〜200g/l
硫酸 0.5〜1.5g/l
三価クロム 1〜3g/l
液温: 50〜54℃
電流密度: 23A/dm
めっき厚さ: 0.1〜0.5μm
【0019】
以上のような工程を経て図2に示すめっきされたポリアセタール樹脂製キャンポケット部を得た。得られためっき層の厚さは、平均して19μmであった。また、めっき表面の表面粗さは、最大表面表面粗さ3.5μmで、平均表面粗さが0.5μmであり、めっき表面の割れや剥がれは一切観察されなかった。そして、得られた樹脂上のめっきについて硬さ試験、耐衝撃試験、耐磨耗試験を行った結果、次のような結果が得られた。
(1)硬さ試験
試験方法:マイクロビッカース硬度計(MVK−H2V3/(株)アシカ製)による。
使用圧子:ダイヤモンド圧子
試験荷重:0.49N
荷重保持時間:10秒
試験結果:
試料表面を5個所測定した結果それぞれの個所における表面硬さ(Hv)は次の通 りであった。
369, 359, 373, 378, 378
(2)耐衝撃試験
試験方法:先端に一定の丸みをもつ撃ち型と、その丸みに合うくぼみを保つ受け台の 間に供試品を置き、おもりを一定の高さから落下させる。
試験機器:デュポン式衝撃試験機
撃ち型半径:3.175mm
おもり重量:4.9N
おもり落下高さ:50mm
試験結果:
衝撃による変形でめっきの割れ・剥がれは全くできなかった。
(3)耐磨耗試験
試供品:めっき前の前記樹脂製品、前記めっき後の樹脂製品
試験方法:研磨紙を貼りつけた摩擦輪と試供品との間に接触果汁を与えて往復運動摩 擦を行った(JIS H8503に準拠)
試験機器:往復運動磨耗試験機
試験荷重:4.9N
研磨紙粒度:#600
往復回数:100回
評価機器:蛍光X線膜厚計(樹脂上のめっき)
段差式精密膜厚測定装置(樹脂)
試験結果:
評価方法:樹脂上のめっきでは磨耗しためっき厚さ、樹脂では磨耗した樹脂厚さを 測定した。
磨耗厚さ:樹脂上のめっき 1.4μm
樹脂 14.0μm
以上の試験結果から、本実施例の方法によって得られたポリアセタール樹脂めっき製品は、何れもめっき表面のひび割れや剥がれは全く観察されず、表面が滑らかであり、且つめっき表面の硬さ、耐衝撃試験、耐磨耗試験の何れもめっきを施していないポリアセタール樹脂の表面に比べて特段に優れている結果が得られた。
【比較例】
【0020】
比較例として、同じくターレットのポケット部用に成形したポリアセタール樹脂成形物の表面に、従来の樹脂への金属めっき法で行うと同様に前処理工程として、成形品の表面をアルカリ脱脂液で脱脂し、水洗後硫酸と燐酸の混合液によるエッチング処理を行って表面活性化処理を行った後、アルカリ化学ニッケルめっき、電気めっきによる銅めっき、ニッケルめっき、クロムめっきを順に施してアセタール樹脂めっき製品を得た。このようにして得られたポリアセタール樹脂めっき製品は、図3の写真に示すように、表面にひび割れやめっきの膨れや剥がれが生じ、実用に耐え得るめっき製品は得られなかった。そのため、比較製品については、実施例について行なった上記硬さ試験、耐衝撃試験、耐摩耗試験は実施しなかった。
【実施例2】
【0021】
実施例1でめっきしたポリアセタール樹脂製キャンポケット部を、図1に示すようなUVホワイトコートした缶胴に水無しオフセット印刷で印刷する印刷ラインのキャンフィードターレットに適用して、印刷された缶胴の印刷抜け(バックトラッピング)の発生状況を観察した。また、比較例として、従来のめっきされてない状態のポリアセタール樹脂製ポケット部を使用した場合について観察した。
その結果、実施例の場合は、印刷個数1000万缶に対し、外観不良の対象となるバックトラッピングの発生個数は0缶であり、バックトラッピングの発生率は0%であった。これにより、実施例で得られたポリアセタール樹脂製ポケット部は、バックトラッピングによる不良品の発生は従来の金属製のポケットと同様に全く見られず、実用ラインに適用可能であることが確認された。これに対し、めっき処理を施さないままのポリアセタール樹脂製ポケット部を使用した場合は、バックトラッピングの発生率は3〜7%であった。その結果、本発明の実施例によれば、バックトラッピングの発生率を大幅に減少もしくは皆無にすることができ、ポリアセタール樹脂表面にめっきされた金属めっきが有効に作用していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のポリアセタール樹脂成形物のめっき方法は、エンジニアリングプラスチックとして種々の分野で利用されている種々のポリアセタール樹脂成形物のめっきに適用でき、ポリアセタール樹脂成形物の表面を強靭な金属化層を形成することができ、ポリアセタール樹脂の用途をさらに拡大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ポリアセタール樹脂成形物が使用されている一例を示す缶胴の缶胴のUVコート装置の要部概略図である。
【図2】該装置に使用されている本発明のポリアセタール樹脂めっき製品の実施形態に係る搬送ターレット用ポケット部の写真である。
【図3】比較例として、従来のめっき法でめっき処理した場合のポリアセタール樹脂成形物の写真である。
【符号の説明】
【0024】
1 缶胴ベースコート装置
2 搬送ターレット
5 ポケット部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂成形物の表面を粗面化する前処理工程、化学めっきを行なう化学めっき工程、多層構造の電気めっき層を形成する複数回の電気めっき工程を有し、前記前処理工程の開始前又は途中の何れかにおいて、前記ポリアセタール樹脂成形物をめっき処理温度以上の温度で熱処理を行なうことを特徴とするポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法。
【請求項2】
前記化学めっきはニッケル化学めっきであり、前記複数の電気めっき工程は、化学めっき後に行なう銅電解めっき工程、光沢ニッケル電気めっき工程、光沢クロムめっき工程からなる請求項1に記載のポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法。
【請求項3】
前記電気めっき工程の各めっき工程は、めっき浴に通電した状態でポリアセタール樹脂成形物を浸漬して行なう請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂成形物の金属めっき方法。
【請求項4】
前記ニッケル化学めっき工程後及び銅電解めっき工程後に、表面処理工程及びニッケルストライクめっき工程を有する請求項2又は3に記載のポリアセタール樹脂製成形物の金属めっき方法。
【請求項5】
前記各めっき工程の前後で研磨処理を行なう請求項1〜4いずれかに記載のポリアセタール樹脂製成形物の金属めっき方法。
【請求項6】
ポリアセタール樹脂成形物表面から順にニッケルめっき層0.1〜5μm、銅めっき層8〜50μm、ニッケルめっき層10〜20μm、クロムめっき層0.1〜0.5μmが形成され、表面粗さが3μm以下であることを特徴とするポリアセタール樹脂めっき製品。
【請求項7】
前記ポリアセタール樹脂成形物は、前記めっき層を形成する前処理工程開始前又は途中の何れかにおいて熱処理されたものである請求項6に記載のポリアセタール樹脂めっき製品。
【請求項8】
前記ポリアセタール樹脂めっき製品が、搬送用ターレットのポケット部である請求項6又は7に記載のポリアセタール樹脂めっき製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−51334(P2007−51334A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−237337(P2005−237337)
【出願日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(599049864)三和メッキ工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】