説明

ポリアセタール樹脂組成物

【課題】耐熱性に優れたポリアセタール樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネートから得られるポリアミドイミド樹脂0.1〜5.0重量部、及びBET比表面積が20m2/g以下で、且つ平均粒子径が2μm以下である水酸化マグネシウム0.001〜5重量部を配合してなるポリアセタール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れたポリアセタール樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、機械的特性、熱的特性、電気的特性、摺動性、成形性などのバランスに優れ、構造材料や機構部品などとして電気機器、自動車部品、精密機械部品などに広く使用されている。しかしながら、耐衝撃性などの機械的特性や耐熱性が充分でない場合があり、用途によっては更に一層の改善を要する場合が多い。
【0003】
従来、耐熱性の向上のために水酸化マグネシウムを使用していたが(特許文献1参照)、更なる向上が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−323078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような課題を解決し、耐熱性に優れたポリアセタール樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネートから得られるポリアミドイミド樹脂0.1〜5.0重量部、及びBET比表面積が20m2/g以下で、且つ平均粒子径が2μm以下である水酸化マグネシウム0.001〜5重量部を配合してなるポリアセタール樹脂組成物が、上記の課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち本発明は、(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して、(B)芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネートから得られる下記一般式(1)で示されるポリアミドイミド樹脂0.05〜5.0重量部、
(C)BET比表面積が20m2/g以下で、且つ平均粒子径が2μm以下である水酸化マグネシウム0.001〜5重量部を配合してなることを特徴とするポリアセタール樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアセタール樹脂は、耐熱性が大きく改良されたものである。このような優れた性能を有すことから、自動車内装部品、家屋などの内装部品(熱水混合栓など)、衣料部品(ファスナー、ベルトバックルなど)や建材用途(配管・ポンプ部品など)、電気部品(歯車など)、燃料部品などに好適に使用することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における(A)ポリアセタール樹脂は、アセタール構造−(−O−CRH−)−(但しRは水素原子、有機基を示す。)を繰り返し構造に有する高分子であり、通常はRが水素原子であるオキシメチレン基(−CHO−)を主たる構成単位とするものである。本発明に用いるポリアセタール樹脂は、この繰り返し構造のみからなるアセタールホモポリマー以外に、前記オキシメチレン基以外の繰り返し構成単位を1種以上含むコポリマー(ブロックコポリマー)やターポリマー等も含み、更には線状構造のみならず分岐、架橋構造を有していてもよい。前記オキシメチレン基以外の構成単位としては例えば、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基(−CHCHCHO−)、オキシブチレン基(−CHCHCHCHO−)等の炭素数2以上10以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が挙げられ、中でも炭素数2以上4以下の、分岐していてもよいオキシアルキレン基が好ましく、特にオキシエチレン基が好ましい。またこの様な、オキシメチレン基以外のオキシアルキレン構造単位の含有量としては、ポリアセタール樹脂中において0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下である。
【0010】
本発明におけるポリアセタール樹脂の製造方法は任意であり、従来公知の任意の方法によって製造すればよい。例えば、オキシメチレン基と、炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を構成単位とするポリアセタール樹脂の製造方法としては、ホルムアルデヒドの3量体(トリオキサン)や4量体(テトラオキサン)等のオキシメチレン基の環状アセタールと、エチレンオキサイド、1,3−ジオキソラン、1,3,6−トリオキソカン、1,3−ジオキセパン等の炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基を含む環状アセタールとを共重合することによって製造することができる。中でも本発明に用いるポリアセタール樹脂としては、トリオキサンやテトラオキサン等の環状アセタールと、エチレンオキサイドまたは1,3−ジオキソランとの共重合体であることが好ましく、中でもトリオキサンと1,3−ジオキソランとの共重合体であることが好ましい。
【0011】
次に、本発明における(B)芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネートから得られる下記一般式(1)で示される構造を有するポリアミドイミド樹脂が挙げられる。
【化1】

【0012】
ポリアミドイミド樹脂を製造するために使用する芳香族トリカルボン酸無水物は、次の一般式で示される化合物である。
【0013】
【化2】

(式中のArは、少なくとも1つの炭素6員環を含む3価の芳香族基を示す。)
【0014】
Arの具体例としては、以下のものが例示されるが、2種以上の化合物を混合して使用することもできる。
【0015】
【化3】

これらのうち、芳香族トリカルボン酸無水物としては無水トリメリット酸が好ましい。
【0016】
ジイソシアネート化合物とは下記一般式で示される化合物である。
【0017】
O=C=N−R−N=C=O
(式中、Rは、2価の芳香族及び/又は脂肪族基)
【0018】
その具体例としては、以下のものが挙げられるが、2種以上の化合物を混合して用いることもできる。
【0019】
【化4】

【化5】

【化6】

【0020】
特に好ましいものとして、m−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート及びメチレンジ(4−フェニルイソシアネート)を挙げることが出来る。
【0021】
このポリアミドイミド樹脂の配合量は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.05〜5.0重量部であり、好ましくは0.1〜1.0重量部である。
【0022】
本発明における(C)水酸化マグネシムは、BET比表面積が20m2/g以下で、且つ平均粒子径が2μm以下であることが好ましく、更に好ましくはBET比表面積が10m2/g以下で、且つ平均粒子径が1.5μm以下である。本発明における水酸化マグネシウムは未処理のものでも使用できるが、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などで表面処理された水酸化マグネシウムを使用する方が好ましい。
【0023】
脂肪酸は、RCOOH、脂肪酸金属塩はM(OOCR)nで表されるものである。尚、Rはアルキル基又はアルケン基、MはIA、IIB、IIIA属金属、nは自然数である。
シランカップリング剤としては、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β―メトキシエトキシ)シラン等が挙げられる。
チタネートカップリング剤としては、イソプロピル−トリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、チタニウムジ(オクチルホスフェート)オクシアセテート等が挙げられる。
【0024】
(C)水酸化マグネシムの配合量は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.001〜5.0重量部であり、好ましくは0.005〜3.0重量部であり、特に好ましくは0.01〜2.0重量部である。(C)水酸化マグネシウムの配合量が0.001重量部よりも少ないと耐熱性が低下し、5.0重量部より多いと耐衝撃性と耐熱性が低下する。
【0025】
本発明における(D)窒素含有化合物は、アミノ置換トリアジン化合物、ヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。(D)窒素含有化合物の配合量は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して0.01〜5.0重量部、好ましくは0.01〜3.0重量部、特に好ましくは0.02〜2.0重量部である。
【0026】
アミノ置換トリアジン化合物は、グアナミン、メラミン、N−ブチルメラミン、N−フェニルメラミン、N,N−ジフェニルメラミン、N,N−ジアリルメラミン、N,N’,N”−トリフェニルメラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミン、ベンゾグアナミン、2,4−ジアミノ−6−メチル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブチル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ベンジルオキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−ブトキシ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−シクロヘキシル−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−クロロ−sym−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−メルカプト−sym−トリアジン、アメリン(N,N,N’,N’−テトラシアノエチルベンゾグアナミン)などが挙げられ、メラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミン、ベンゾグアナミンおよび水溶性メラミンーホルムアルデヒド樹脂が好ましい。
【0027】
ヒンダードアミン系光安定剤は、N,N’,N”,N’”−テトラキス−(4,6−ビス−(ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ)−トリアジン−2−イル)−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5−トリアジン・N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル−1,6−ヘキサメチレンジアミンとN−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル}イミノ)ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールの重合物、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドリキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートおよびビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、1−[2−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]−4−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンが挙げられ、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケートおよびビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートが好ましい。
【0028】
本発明における(E)ポリエチレングリコールは、エチレンオキサイドを開環重合させて得られるものであり、末端にヒドロキシル基を有する分子量が10,000以上のものであれば良く、通常10,000〜30,000の範囲のものが使用される。本発明におけるポリエチレングリコールは線状でも分岐状のものでもよい。本発明における(E)ポリエチレングリコールの添加量は、ポリアセタール樹脂100重量部に対して、0.01〜5.0重量部であり、好ましくは0.01〜3重量部、特に好ましくは0.02〜2.0重量部である。
【0029】
また、本願発明を実施するとき、本願発明のポリアセタール樹脂組成物には、本来の目的を損なわない範囲内で、各種の酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、核剤、充填剤、顔料、界面活性剤、帯電防止剤などを添加することができる。
【0030】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、公知のポリアセタール樹脂の成形加工法に従って、成形加工することができる。本発明のポリアセタール樹脂組成物からなる成形体としては、ペレット、丸棒、厚板等の素材、シート、チューブ、各種容器、機械、電気、自動車、建材その他の各種部品等のポリアセタール樹脂の用途として知られる種々の製品が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
〈ポリアミドイミド樹脂の製造方法〉
水分含有量15ppmのN―メチルピロリドン3リットルを、5リットルの攪拌機、温度計、先端に塩化カルシウムを充填した乾燥管を、装着した還流冷却器を備えた反応器に仕込んだ。ここに無水トリメリット酸555g(50mol%)、次いで2,4−トリレンジイソイアネート503g(50mol%、イソシアネート基として100mol%)を加えた。無水トリメリット酸添加時の系内水分量は、30ppmであった。最初、室温から20分を要して内容物温度を90℃とし、この温度で重合を行いながら2,4−トリレンジイソイアネートのイソシアネート基の減少量とイミド基の生成量を測定した。方法は、少量の反応液を注射器でサンプリングし、赤外分光法でイソシアネート基の2276cm−1 の吸収とイミド基の1780cm−1 の吸収を定量することによって行った。50分間重合を行ったところでイソシアネート基の量は、50mol%に減少した。この時、イミド基の吸収は全く認められなかった。これによりイミド化反応が起こる以前にアミド化反応が終了したことを確認した。この後10分を要して、115℃に昇温した。この温度に保ったままで重合を4時間継続した。この時点でイソシアネート基の吸収はすべて消滅し、イミド基の理論吸収量が認められた。重合終了後ポリマー溶液を、N−メチルピロリドンを加えて2倍に希釈し、これをN−メチルピロリドンの2倍容のメタノール中に、強力な攪拌下に滴下した。析出したポリマーを吸引ろ過し、さらにメタノール中に再分散させてよく洗浄後、ろ別し200℃で減圧乾燥を行い、ポリアミドイミド樹脂粉末を得た。ジメチルホルムアミド溶液(濃度1.0g/dl)で、このものの30℃における還元粘度を測定したところ0.3g/dlであった。
【0033】
<加熱重量減少率>
ペレット2gを、試験管に入れ、窒素置換後10Torr減圧下で240℃、1時間加熱した場合の重量減少率を示す。熱安定性が高いほど、この熱重量減少率は小さくなる。

【0034】
〈実施例1〜3、比較例1〉
(A)ポリアセタール樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社 ユピタールF20)100重量部に対して、(B)ポリアミドイミド樹脂、(C)水酸化マグネシウム、(D)窒素含有化合物、(E)ポリエチレングリコールを表1に示した割合で配合し、二軸押出機にて、210〜230℃の温度範囲で加熱溶融しながら21.3kPaの減圧下で脱揮した後、ペレットを調整し、前記評価法にて物性評価を行った。
尚、表1中の記号は、以下の通りである。

C:水酸化マグネシウム(平均粒子径1.1μm、BET比表面積5.2m2/g)
D:TINUVIN770(BASF社製)
E:PEG―20000P(三洋化成工業製)
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂100重量部に対して、(B)芳香族トリカルボン酸無水物とジイソシアネートから得られる下記一般式(1)で示される構造を有するポリアミドイミド樹脂0.05〜5.0重量部、
(C)BET比表面積が20m2/g以下で、且つ平均粒子径が2μm以下である水酸化マグネシウム0.001〜5重量部を配合してなることを特徴とするポリアセタール樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
更に、(D)窒素含有化合物0.01〜5.0重量部及び/又は(E)ポリエチレングリコール0.01〜5重量部を配合してなることを特徴とする請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
(D)窒素含有化合物が、アミノ置換トリアジン化合物及びヒンダードアミン系光安定剤から選ばれた少なくとも1種である請求項2記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
(E)ポリエチレングリコールの平均分子量が10,000〜30,000である請求項2記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
アミノ置換トリアジン化合物が、メラミン、N,N’,N”−トリメチロールメラミン、ベンゾグアナミン及び水溶性メラミンーホルムアルデヒド樹脂から選ばれた少なくとも1種である請求項3に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項6】
ヒンダードアミン系光安定剤が、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート又はビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートである請求項3に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6何れか1項記載のポリアセタール樹脂組成物からなる成形体。




【公開番号】特開2013−14649(P2013−14649A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146895(P2011−146895)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】