説明

ポリアセタール樹脂/カーボンナノチューブ導電性樹脂複合材料

【課題】POMの有する優れた物性を損ねることなく安定的に十分な量のCNTを配合し、所望の導電性を備えたPOM/CNT導電性樹脂複合材料を提供すること。
【解決手段】POM100質量部に対し、CNTを0.1質量部以上20質量部未満含有する樹脂複合材料であって、樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が400ppm以下である導電性樹脂複合材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混練時に母材樹脂の分解等が起きず良好に配合でき、また、優れた物理特性、耐疲労性、耐磨耗・摩擦性、耐薬品性、成形性、導電性、低発塵性等を示す、ポリアセタール樹脂とカーボンナノチューブとの導電性樹脂複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂(以下、POMと呼称)は、優れた機械的性質、耐疲労性、耐摩耗・摩擦性、耐薬品性および成形性を有し、自動車や電気・電子機器の種々の部品、また精密機械部品、建材・配管部材、生活・化粧用品、玩具、医療部品などの幅広い分野で、最も広く利用されている樹脂の一つである。こうした優れた樹脂物性を損なうこと無く導電性等の物性を付与し、さらに用途の拡大および多様化が図られることに大きな期待が寄せられている。
【0003】
一方、カーボンナノチューブ(以下、CNTと呼称)は、微細炭素繊維とも称され、従来の炭素繊維に比べてより細く、かつ優れた強度や弾性、熱・電気伝導性を有するという特徴から、近年用途の拡大が進んでいる素材である。特に、さまざまな樹脂にCNTを配合した場合、これまで使用されてきたカーボンブラックや金属粉末、イオン性導電剤に比べ、母材樹脂の物性を損なわない程度の低い含有率で所望の導電性を得ることができる。そのため、ポリカーボネート樹脂などにCNTを配合した導電性樹脂複合材料が、IT部品等の製造で用いる搬送用トレイの成形部材などで広範囲に使用されていることが開示されている(特許文献1〜11参照)。
【0004】
これまでいくつかの文献(特許文献12〜20)において、POMとCNTとの樹脂複合材料について報告されており、そのうち、特許文献13、14、15、16および20では、実施例としても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第04161428号公報
【特許文献2】特開2001−256621号公報
【特許文献3】特許第04239347号公報
【特許文献4】特許第04239348号公報
【特許文献5】特許第04239349号公報
【特許文献6】特許第04214654号公報
【特許文献7】特開2002−175723号公報
【特許文献8】特許第04324944号公報
【特許文献9】特開2006−312741号公報
【特許文献10】特開2009−184681号公報
【特許文献11】特開2010−108925号公報
【特許文献12】特開2002−129023号公報
【特許文献13】特開2003−34751号公報
【特許文献14】特開2003−346443号公報
【特許文献15】特許第4229838号公報
【特許文献16】WO2003/55054号公報
【特許文献17】特開2007−65494号公報
【特許文献18】特開2007−65495号公報
【特許文献19】特開2003−335871号公報
【特許文献20】特開2008−189891号公報
【特許文献21】特許第3776111号公報
【特許文献22】特許第3761561号公報
【特許文献23】特開2007−138341号公報
【特許文献24】特公表2009−533312号公報
【特許文献25】特公表2009−520673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、実際に従来技術によりPOMにCNTを配合しようとした場合、熔融状態のPOMにCNTが混合接触すると、CNTの配合量が多いほど該樹脂の分解によりホルムアルデヒドガスが発生し、押出機による混練ではストランドがうまく引けないなど、樹脂が脆弱化するという現象が生じた。前記の文献には、POMとCNTとの混練によってPOMが分解するという記載や示唆等は存在していない。また、CNTと同じ炭素系の素材であるカーボンブラックとPOMとの樹脂複合材料等は広く普及しているにもかかわらず、これまで産業上実用に供されたPOM/CNT導電性樹脂複合材料は一切なかった。さらに、該導電性樹脂複合材料を得たとする製造方法の実例についても、特許文献13、14、15、16および20に記載の実施例の他に報告されたことはなかった。
【0007】
POM/CNT導電性樹脂複合材料の用途としては、例えばハードディスクドライブ用ランプなどが考えられる。この用途では、主にCNTを含有しないポリアセタール樹脂成形品が使用されてきたが、非導電性であるために帯電が生じ易いという欠点があり、近年のハードディスクの高容量化、高密度化にともない、ランプの帯電による磁気ヘッドへのダメージが問題となってきている。
【0008】
しかし、ランプの成形材料として、ポリアセタール樹脂にカーボンブラックや炭素繊維などの導電性フィラー材を添加した導電性樹脂複合材料を用いると、サスペンションアームとの摩擦摺動によって、導電性フィラー材が脱落してパーティクルや摩耗粉が発生し、これにより磁気ヘッドや磁気ディスクが破壊するという問題が生じる。また、炭素繊維(一般に繊維径7〜12μm、繊維長50〜500μm)を充填した場合には、サスペンションの傷付きの問題もある。
【0009】
本発明者らは、POMにCNTを配合しようとする前記課題を解決するために鋭意検討した結果、一般的に入手できるCNTを加熱熔融状態のPOMと混練すると、該CNTに含まれる不純物の一種である酸化アルミニウム(Al、アルミナ)が、POMを分解してホルムアルデヒドガスを発生させ、POMにCNTを安定に混合分散させることを妨げる原因となることを突き止めた。本発明は、POMの有する優れた物性を損ねることなく安定して十分な量のCNTを配合し、所望の導電性を備えたPOM/CNT導電性樹脂複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、酸化アルミニウムを含まない、あるいは酸化アルミニウム含有量の低いCNTを調製し、POMと混練することで、酸化アルミニウムの実用的な許容含有率を検討し、POM/CNT導電性樹脂複合材料を得ることを可能とした。また、このPOM/CNT導電性樹脂複合材料が、優れた導電性を示すことを突き止め、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、以下に示すPOM/CNT導電性樹脂複合材料に関する。
【0011】
1.ポリアセタール樹脂およびカーボンナノチューブからなる樹脂複合材料であって、該ポリアセタール樹脂100質量部に対し該カーボンナノチューブを0.1質量部以上20質量部未満含有し、かつ該樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が400ppm以下であることを特徴とする導電性樹脂複合材料。
【0012】
2.ポリアセタール樹脂およびカーボンナノチューブからなる樹脂複合材料であって、該ポリアセタール樹脂100質量部に対し該カーボンナノチューブを0.1質量部以上20質量部未満含有し、かつ該樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が100ppm以下であることを特徴とする導電性樹脂複合材料。
【0013】
3.ポリアセタール樹脂およびカーボンナノチューブからなる樹脂複合材料であって、該ポリアセタール樹脂100質量部に対し該カーボンナノチューブを0.1質量部以上20質量部未満含有し、かつ該樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が25ppm以下であることを特徴とする導電性樹脂複合材料。
【0014】
4.前記カーボンナノチューブの平均繊維外径が10nm以上300nm以下であることを特徴とする、前記1〜3のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【0015】
5.前記カーボンナノチューブの平均繊維外径が60nm以上140nm未満であることを特徴とする、前記4に記載の導電性樹脂複合材料。
【0016】
6.前記カーボンナノチューブが、三次元ネットワーク構造を有し、繊維の分岐部に該繊維よりも外径の大きい粒状部を有し、かつ該粒状部より複数の繊維が延出する態様を有することを特徴とする、前記1〜5のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【0017】
7.前記ポリアセタール樹脂と前記カーボンナノチューブとを、該ポリアセタール樹脂が熔融状態となる条件下で配合することを特徴とする、前記1〜6のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【0018】
8.前記カーボンナノチューブが、気相成長法で生成されることを特徴とする、前記1〜7のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【0019】
加熱熔融したPOMに対し酸化アルミニウムが作用してこれを分解し、ホルムアルデヒドガスが発生するメカニズムの詳細は不明である。しかし、アルミニウムが両性金属であることから、加熱状況下にて酸成分として働き、POMの解重合を引き起こすものと推測される。特許文献22、23に記載されている浮遊触媒気相成長法では、酸化アルミニウム、またはその原料となる金属アルミニウム等は、原料や触媒、あるいは設備機器等から原則混入しない。しかし、CNTの一般的な製造方法である基板触媒気相成長法においては、鉄などの触媒を担持させる基板として酸化アルミニウムが広く用いられているため、製造されたCNTに必然的に酸化アルミニウムが含まれる。この酸化アルミニウムは、製造時の温度から考慮して、ほとんどがγ−アルミナの形態であると考えられる。
【0020】
本発明の導電性樹脂複合材料は、POMの有する優れた特性を損なうことなく、CNTを含有したことにより得られる特性を発揮することができる。そのため、本発明の導電性樹脂複合材料を用いて得られた成形物は、POMとCNTを組み合わせたことにより、十分な体積電気抵抗値または表面電気抵抗値を得ることができ、さらに、発塵性がわずかで、摺動性に優れるという特性を持つことも見込まれる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、POMの優れた物性を損ねることなく安定して十分な量のCNTを配合し、所望の導電性を備えたPOM/CNT導電性樹脂複合材料を提供することができる。
【0022】
本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料は、上記説明した酸化アルミニウム含量の低いCNTをPOMに配合することにより、優れた導電性を有する導電性樹脂複合材料とすることができる。POMとCNTを組み合わせたことで、CNTが脱落しにくい特性を有するようになり、該導電性樹脂複合材料は幅広い成形条件に対応し、かつその成形物は低発塵性であることから、摺動時に安定した低い接触電気抵抗の要求される電気接点部材、特に優れた導電性・摺動性が要求される画像形成装置内の感光体フランジやプロセスカートリッジ部品、軸受け部材等幅広い用途に適用可能な導電性材料が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明参考例1のTGの測定結果を示した図である。
【図2】本発明参考例1のDTAの測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について説明する。
本発明におけるPOMとしては、オキシメチレン基(−OCH−)を主たる構成単位とする高分子化合物であって、実質的にオキシメチレン単位の繰返しのみからなるポリアセタールホモポリマーまたはポリオキシメチレン、オキシメチレン単位以外に、他のコモノマー単位を少なくとも一種含有するポリアセタールコポリマーなどが代表的なものとして挙げられる。さらにPOMとして、慣用のポリアセタール樹脂、例えば、分岐形成成分や架橋形成成分を共重合することにより分岐構造や架橋構造が導入された共重合体、更には、オキシメチレン基の繰返しを構成単位として有するブロック共重合体やグラフト共重合体なども含まれる。これらの樹脂は、単独でまたは二種以上を組み合わせて、本発明のPOMとして使用できる。
【0025】
前記のポリアセタールコポリマーに含有されるコモノマーとしては、環状ホルマールやエーテルが用いられる。例えば、1,3−ジオキソラン、2−エチル−1,3−ジオキソラン、2−プロピル−1,3−ジオキソラン、2−ブチル−1,3−ジオキソラン、2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−フェニル−2−メチル−1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、2,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2−エチル−4−メチル−1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、4,5−ジメチル−1,3−ジオキソラン、2,2,4−トリメチル−1,3−ジオキソラン、4−ヒドロキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−ブチルオキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−フェノキシメチル−1,3−ジオキソラン、4−クロルメチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキカビシクロ[3.4.0]ノナン、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、エピクロルヒドリン、スチレンオキシド、オキシタン、3,3−ビス(クロロメチル)オキセタン、テトラヒドロフラン、およびオキセパン等が挙げられる。これらの中でも1,3−ジオキソランが特に好ましい。
【0026】
コモノマーの添加量は、ポリアセタール100質量部に対して0.2〜30質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜20質量部である。コモノマーの使用量がこれより多い場合は重合収率が低下し、少ない場合は熱安定性が低下する。
【0027】
本発明におけるCNTは、平均繊維径10nm〜300nmのものが好ましい。特に好ましいCNTは、平均繊維径60nm以上140nm未満のものである。平均繊維径が10nm未満のCNTでは、比表面積が大きいため繊維同士の凝集性が強く、POMに均質に混合分散させることが困難となる。平均繊維径が300nmを超えるCNTでは、質量当たりの総繊維長が短く、所望の導電性を得るために多量のCNTをPOMに配合する必要があり、導電性樹脂複合材料の物性が損なわれることや経済性の面で好ましくない。
【0028】
また、該CNTのアスペクト比は、10〜10000が好ましい。アスペクト比が10未満のCNTでは、導電経路の形成のために多量のCNTをPOMに混合する必要があり、発塵性が高まる。アスペクト比が10000を超えるCNTでは、繊維長が長すぎて混練中にCNTの凝集体がうまくほぐれず、分散性が低下する。
【0029】
ポリアセタール樹脂へのCNTの含有率は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.1質量部以上20質量部未満とすることが必要であり、好ましくは1質量部以上15質量部未満、より好ましくは2質量部以上10質量部未満である。CNTの含有率が0.1質量部を下回ると、適度な導電経路が樹脂複合材料内で形成されにくく、実用的な導電性が得られない。逆にCNTが20質量部以上になると、樹脂複合材料からのCNTの脱落が顕著になり発塵性が高まって、前記の機器損傷の原因等となるため実用的ではない。
【0030】
本発明に用いるCNTの形状としては、特に制限は無く、CNTとして入手できるものであれば、どのような形状のものでも使用できる。しかし、単純な直線構造のCNTよりも、直線構造と適度な屈曲性もしくは三次元的構造を併せ持つCNTが好ましい。屈曲性の著しいCNTでは、マトリックス中において、少量添加による効率的な導電経路の形成が得られない恐れがある。好ましい形状としては、CNT繊維の部分的な屈曲構造や同一繊維中の分岐構造、部分的・局所的な繊維径の肥大構造などが挙げられる。そうした構造のCNTは、POM中において、少量添加により効率的に導電経路を形成し、かつ構造に由来したアンカー効果が得られるため、直線性が高い、あるいは繊維径が均一であるCNTよりも、樹脂複合材料からの発塵性をより低く抑えることができる。特許文献21に開示されたCNTのように、繊維部よりも径の大きい粒状部と、該粒状部より複数の微細炭素繊維が延出する態様を有し、全体的に三次元ネットワーク構造を示すCNTなどが、導電性の発現と発塵性の低減の面でより好ましい。
【0031】
酸化アルミニウムの含有率は、より低いほうが、母材樹脂であるPOMがより分解しにくく安定し、酸化アルミニウムを含有しない場合に最も安定する。POM/CNT導電性樹脂複合材料を調製する際に、POMとCNTを合わせた質量に対する許容レベルとして、酸化アルミニウム含有率を400ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがより好ましく、さらに25ppm以下とすることが特に好ましい。
【0032】
したがって、本発明の導電性樹脂複合材料の部材に用いるCNTは、できるだけ酸化アルミニウムを含まないものが好ましい。そうしたCNTの調製方法としては、酸化アルミニウムの混入を防ぐことができる、あるいは混入量を好ましい低いレベルにコントロールできる調製方法であれば特に限定されるものではないが、その一例として、浮遊触媒気相成長法を挙げることができる。該調製方法は、特許文献22、23に開示されており、この方法によれば、原料、工程、製造設備において実質的に酸化アルミニウムが混入しないようにCNTを調製できる。
【0033】
また、市販のCNTも使用することができるが、POMと安定に混練できるレベルの酸化アルミニウム含有率となるよう、該CNTの酸化アルミニウム含量を把握して配合量を決定しなくてはならない。酸化アルミニウムを含むCNTを、酸化アルミニウムの許容含有率を超えるレベルで配合する必要がある場合には、該CNTを何らかの方法で精製し、含有する酸化アルミニウムを除去あるいはPOMの安定性に影響しないレベルにまで低減させる必要がある。
【0034】
本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料は、POMとCNT以外に、目的とする導電性樹脂複合材料の物性を維持、発揮、変更あるいは調節等させるために第三の成分を含んでも問題ない。しかし、酸化アルミニウムについては、使用するCNT由来のものでなくてもPOMの分解の原因となり得るため、最終的に得られる導電性樹脂複合材料において、酸化アルミニウムの含有率が許容されるレベルとなるよう配慮しなくてはならない。
【0035】
前記の第三の成分に関しては次のものが例示できるが、これにより限定されるわけではなく、公知の材料を使用することができる。また、これらの成分は、本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料に対し、目的に応じて適宜適量を含有させることができる。
(1)PAN系またはPITCH系の炭素繊維
(2)カーボンブラック、金属、イオン性物質などの導電助剤
(3)染料、顔料などの着色剤
(4)熱可塑性ポリウレタンなどの可塑剤
(5)ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系化合物などの紫外線吸収剤
(6)ヒンダードアミン系化合物などの光安定化剤
(7)高密度ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレンなどの潤滑成分
【0036】
本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料は、通常の熱可塑性樹脂の加工方法により製造すればよい。POMとCNTを混合分散する機器としては、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、押出機、ニーダーなどが挙げられる。原料は、あらかじめ高速ミキサー等で十分攪拌混合した後、こうした機器を用いて熔融混練してもよいし、POMをあらかじめ加熱熔融させておき、CNT等を加え、混練してもよい。POMの融点は組成によっても異なるが、160℃〜180℃ほどなので、POMの加熱熔融は200℃前後で行えばよい。
【0037】
本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料は、さまざまな形に成形して用いることができる。該成形は、前記の製造工程で加熱熔融状態にあるPOM/CNT導電性樹脂複合材料を、そのまま成形型に入れて行うことができる。あるいは、該導電性樹脂複合材料をいったん冷却固化した後、再度加熱熔融して成形型に入れて成形することもできる。後者の場合、再度加熱熔融工程でさらにフィラーを添加し、あるいはPOMを追加してCNT濃度等を希釈調整することができる。
【0038】
本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料の各用途への好ましい適用形態は、以下のとおりである。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。なお、機器損傷の原因等となる発塵性は、純水300ml中に表面積100cmの該成形品を浸漬し、100kHzの超音波を60秒間印加した際に該成形品の表面から脱落する粒径0.5μm以上のパーティクルの数を測定し、この脱落した粒径0.5μm以上のパーティクルの数が成形品の単位表面積当たり5000個/cm以下である必要がある。5000個/cmを超えると発塵性が高まり、機器損傷の原因となるため、以下の用途には適さない。
【0039】
本発明のPOM/CNT導電性樹脂複合材料の用途としては、例えばパソコン、ノートパソコン、ゲーム機(家庭用ゲーム機、業務用ゲーム機、パチンコ、およびスロットマシーンなど)、ディスプレー装置(LCD、有機EL、電子ペーパー、プラズマディスプレー、およびプロジェクタなど)などの部品や筐体、送電部品(誘電コイル式送電装置のハウジングに代表される)が例示される。
【0040】
また、別の用途としては、例えばプリンター、コピー機、スキャナー、ファックスおよびこれらの複合機の部品(コピー機等のドラムフランジ、ドラムギア、チャージャーなど)や筐体が例示される。
【0041】
さらに別の用途としては、VTRカメラ、光学フィルム式カメラ、デジタルスチルカメラ、カメラ用レンズユニット、防犯装置、および携帯電話などの精密機器が例示される。特に本発明の樹脂組成物は、カメラ鏡筒、デジタルカメラの如きデジタル画像情報処理装置の筐体、カバー、および枠に好適に利用される。
【0042】
その他さらに本発明の導電性樹脂複合材料は、マッサージ機や高酸素治療器などの医療機器、画像・音響機器(VTR(Video Tape Recorder)、ビデオムービー、デジタルビデオカメラ、カメラ及び、デジタルカメラに代表されるカメラ、又はビデオ機器用部品、カセットプレイヤー、DAT、LD(Laser Disk)、MD(Mini Disk)、CD(Compact Disk:CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R(Recordable)、CD−RW(Rewritable)を含む)、DVD(Digital Video Disk:DVD−ROM、DVD−R、DVD+R、DVD−RW、DVD+RW、DVD−R DL、DVD+R DL、DVD−RAM(Random Access Memory)、DVD−Audioを含む)、Blu−ray Disc、HD−DVD、その他光ディスクドライブ)および電子楽器などの家庭電器製品;パチンコやスロットマシーンなどの遊技装置;並びに精密なセンサーを搭載する家庭用ロボットなどの部品にも好適なものである。
【0043】
また本発明の導電性樹脂複合材料は、各種の車両部品、電池、発電装置、回路基板、集積回路のモールド、光学ディスク基板、ディスクカートリッジ、光カード、ICメモリーカード、コネクター、ケーブルカプラー、電子部品の搬送用容器(ICマガジンケース、シリコンウエハー容器、ガラス基板収納容器、磁気ヘッドトレイ、およびキャリアテープなど)、帯電防止用または帯電除去部品(電子写真感光装置の帯電ロールなど)、並びに各種機構部品(ギア、ターンテーブル、ローター、ネジ、カム、スライダー、レバー、アーム、クラッチ、フェルトクラッチ、アイドラギアー、プーリー、ローラー、コロ、キーステム、キートップ、シャッター、リール、シャフト、関節、軸、軸受け、ガイド、メンブレンスイッチ、キースイッチなど。マイクロマシン用機構部品を含む)に利用可能である。
【0044】
また、本発明の導電性樹脂複合材料を用いた成形品としては自動車用の部品も挙げられ、例えば、ガソリンタンク、フュエルポンプモジュール、バルブ類、ガソリンタンクフランジ等に代表される燃料廻り部品、ドアロック、ドアハンドル、アシストグリップ・クリップ、ウインドウレギュレータ、スピーカーグリル、モーターギア部品等に代表されるドア廻り部品、シートアジャスタ部品、ランバー・サポート、シートベルト用スリップリング、プレスボタン等に代表されるシート・シートベルト周辺部品、ステアリング・コラム、ECUケース、カーテンエアバッグ・クリップ、コンビスイッチ部品、スイッチ類、及びクリップ類の部品が挙げられる。
【0045】
以下、本発明の実施の形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
<原料および機器>
本発明の実施例、参考例における原料は、POMとして、旭化成ケミカルズ(株)製のテナック9054を用いた。また、CNTとして、保土谷化学工業(株)製の多層カーボンナノチューブNT−7(繊維外径 65nm、アスペクト比850)(以下、CNT−Aと呼称)、CT−12(繊維外径110nm、アスペクト比300)(以下、CNT−Bと呼称)、特許文献24に基づいて調製したCNT(以下、CNT−Cと呼称)および特許文献25に基づいて調製したCNT(以下、CNT−Dと呼称)を用いた。なお、アスペクト比は、(株)堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA−950V2を用いて、15秒間超音波分散後のメジアン粒度をCNTの平均直径で割った値とした。
【0047】
POMとCNTとの混合分散は、(株)日本製鋼所製のベント式二軸押出機TEX−30XSST(スクリュー径30mm)を用いて行った。また、導電性樹脂複合材料中の酸化アルミニウムの含有率は、(株)リガク製の蛍光X線分析器ZSX miniを用いて測定したCNTに含まれる酸化アルミニウムの含有率と、POMとCNTの配合比率から算出した。
【0048】
<導電性樹脂複合材料の製造>
100質量部のPOMおよびPOMに対して3質量部のCNT−AをV型ブレンダーにて均一に混合した。前記二軸押出機を用いて、該混合物を最後部の第1投入口に供給した。該二軸押出機は、第1供給口から第2供給口の間にニーディングディスクによる混練ゾーンがあり、その直後に開放されたベント口が設けられていた。ベント口の長さはスクリュー径(D)に対して約2Dであった。かかるベント口の後にサイドフィーダーが設置され、サイドフィーダー以後に更にニーディングディスクによる混練ゾーンおよびそれに続くベント口が設けられていた。かかる部分のベント口の長さは約1.5Dであり、その部分では真空ポンプを使用し約3kPaの減圧度とした。押出は、シリンダー温度180℃(スクリュー根元のバレル〜ダイスまでほぼ均等に上昇)、スクリュー回転数180rpm、および時間当りの吐出量20kgの条件で10分間行った。押出されたストランドを水浴において冷却した後、ペレタイザーにより切断しペレットを作製した。作製した導電性樹脂複合材料の製造結果および評価結果を表1にまとめて示した。
【0049】
続いて、得られたペレットを120℃で5時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機を用いて、シリンダー温度180℃、金型温度80℃、射速20mm/sec、ならびに成形サイクル約60秒の条件で、試験片を作製した。得られた導電性樹脂複合材料の体積電気抵抗率および表面電気抵抗率を測定した。さらに、参考として発塵性(面積換算塵埃量)の測定も実施した。
【0050】
(1)体積電気抵抗率および表面電気抵抗率
射出成形した試験片(50×90×3mm)の表面抵抗を、(株)三菱化学アナリテック製のロレスタGP(MCP−T600型)およびハイレスタUP(MCP−HT450型)を用いて測定した。測定位置および測定方法はJIS K 7194(導電性プラスチックの4探針法による抵抗率試験方法)を参考にした。測定結果を表1に示した。
【0051】
(2)発塵性
純水で洗浄した500mLビーカーに、純水300mLを注加し、射出成形した表面積100cmの成形品を1枚浸漬させた。その後、本多電子(株)製の3周波マルチ超音波洗浄機サンパW−113 100kHzにより超音波を1分間印加した。その後、抽出した純水を液中パーティクルカウンター(リオン(株)製光散乱式自動粒子計数器:KL−20A、リオン(株)製ベローズサンプラー:K9904)で吸引し、塵埃粒子径0.5μm以上の発塵量を測定した。測定結果を表1に示した。
【実施例2】
【0052】
100質量部数のPOMおよびPOMに対して3.5質量部のCNT−Bを用いた以外は、実施例1と同様の条件でペレットを作製した。作製した導電性樹脂複合材料の製造結果および評価結果を表1にまとめて示した。また、得られたペレットから実施例1と同様の条件で、試験片を作製した。そして、実施例1と同様の方法にて、体積電気抵抗率および表面電気抵抗率、さらに、参考として発塵性の測定も実施した。測定結果を表1に示した。
【実施例3】
【0053】
100質量部数のPOMおよびPOMに対して3質量部のCNT−Cを用いた以外は、実施例1と同様の条件でペレットを作製した。作製した導電性樹脂複合材料の製造結果および評価結果を表1にまとめて示した。
【0054】
[比較例1]
比較のため、100質量部数のPOMおよびPOMに対して3.5質量部のCNT−Cを用いて、実施例1と同様の条件でペレットを作製した。作製した導電性樹脂複合材料の製造結果および評価結果を表1にまとめて示した。
【0055】
[比較例2]
比較のため、100質量部数のPOMおよびPOMに対して3質量部のCNT−Dを用いて、実施例1と同様の条件でペレットを作製した。作製した導電性樹脂複合材料の製造結果および評価結果を表1にまとめて示した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1に示すように、酸化アルミニウムを含まないCNTを用いた場合(実施例1、2)、POM/CNT導電性樹脂複合材料をなんら問題なく製造することができた。また、酸化アルミニウムを含むCNTを適量用いて酸化アルミニウム含量を400ppm以下とした場合(実施例3)、ホルムアルデヒドガスがやや発生したものの、導電性樹脂複合材料のストランドを引くことが出来た。一方、酸化アルミニウムが400ppmを超える場合(比較例1、2)においては、ホルムアルデヒドガスがかなり発生し、導電性樹脂複合材料のストランドを引くことは出来なかった。特に、酸化アルミニウム含量が約2200ppmである比較例2では、POMの分解が顕著であった。発塵性に関しては、CNT−Aを用いて作製した実施例1の面積換算塵埃量が、CNT−Bを用いて作製した実施例2と比較して、より少ないことがわかった。
【0058】
[参考例1]<POM加熱時に及ぼす酸化アルミニウムの影響>
次に、POM加熱時に及ぼす酸化アルミニウムの影響を調べるため、POMに酸化アルミニウムをそれぞれ1.3%(13000ppm)、9.3%(93000ppm)添加した試料を作製し、TG−DTA(マックサイエンス製のTG−DTA装置)を測定した。測定条件は以下の通りである。POMペレット1個(約12.5mg)をα−アルミナ製試料ホルダーに入れ、γ−アルミナを少量添加した後、空気気流下、10℃/分の速度で昇温し、測定を行った。γ−アルミナはUOP製擬ベーマイト粉Versal 250を800℃で焼成して作製したものを使用した。比較のため、POMのみでの測定も実施した。得られたTGの測定結果およびDTAの測定結果をそれぞれ図1および図2に示した。
【0059】
図1および図2に示すように、(1)POMのみの試料をTG−DTAにて測定した場合、180℃付近において吸熱ピークが見られるが(図2−(1))、重量減少はなく(図1−(1))、熔融に相当するものと考えられる。また、250℃以上にて熱分解が見られた。これに対し、(2)POMに酸化アルミニウムを1.3%添加した試料では、180℃付近においてわずかに重量減少が見られ(図1−(2))、分解開始温度はPOMのみの場合と比べ、低温側にシフトしていた(図1−(2)、図2−(2))。さらに(3)酸化アルミニウムを9.3%添加した試料においてはこの傾向が顕著であり、180℃付近の熔融とともに重量減少が始まっていた(図1−(3)、図2−(3))。
【0060】
上記TG−DTAの測定結果より、POMに含まれている酸化アルミニウムが、加熱時に樹脂の分解を促進することが示唆される。またこの結果は、酸化アルミニウムの含有量が400ppmを超える導電性樹脂複合材料を製造した際に、ホルムアルデヒドガスの発生により、導電性樹脂複合材料のストランドを引くことができなかった表1の比較例1、2の結果とよく一致するものである。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の導電性樹脂複合材料は、OA機器分野、電気電子機器分野などの各種工業用途に極めて有用であり、その奏する工業的効果は極めて大である。
【0062】
すなわち、かかる特性によって、該導電性樹脂複合材料は幅広い成形条件に対応し、かつその成形物は低発塵性であることから、摺動時に安定した低い接触電気抵抗の要求される電気接点部材、特に優れた導電性・摺動性が要求される画像形成装置内の感光体フランジやプロセスカートリッジ部品、軸受け部材等幅広い用途に適用可能な導電性材料が提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアセタール樹脂およびカーボンナノチューブからなる樹脂複合材料であって、該ポリアセタール樹脂100質量部に対し該カーボンナノチューブを0.1質量部以上20質量部未満含有し、かつ該樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が400ppm以下であることを特徴とする導電性樹脂複合材料。
【請求項2】
ポリアセタール樹脂およびカーボンナノチューブからなる樹脂複合材料であって、該ポリアセタール樹脂100質量部に対し該カーボンナノチューブを0.1質量部以上20質量部未満含有し、かつ該樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が100ppm以下であることを特徴とする導電性樹脂複合材料。
【請求項3】
ポリアセタール樹脂およびカーボンナノチューブからなる樹脂複合材料であって、該ポリアセタール樹脂100質量部に対し該カーボンナノチューブを0.1質量部以上20質量部未満含有し、かつ該樹脂複合材料の酸化アルミニウム含量が25ppm以下であることを特徴とする導電性樹脂複合材料。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの平均繊維外径が10nm以上300nm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの平均繊維外径が60nm以上140nm未満であることを特徴とする、請求項4に記載の導電性樹脂複合材料。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブが、三次元ネットワーク構造を有し、繊維の分岐部に該繊維よりも外径の大きい粒状部を有し、かつ該粒状部より複数の繊維が延出する態様を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【請求項7】
前記ポリアセタール樹脂と前記カーボンナノチューブとを、該ポリアセタール樹脂が熔融状態となる条件下で配合することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブが、気相成長法で生成されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の導電性樹脂複合材料。

【図1】
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【図2】
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