説明

ポリアセタール物品の表面処理

以下の量および比率で以下の4つの酸および水を含有する混合酸浴中に、25〜35℃の範囲の温度で60分までの間、物品を浸漬することによる、後の処理、特にめっきおよび塗装のための表面を調製するためにポリアセタール物品がエッチングされる:28〜39重量%の硫酸、および25〜32重量%のリン酸、但し、硫酸のリン酸に対する重量比が0.9〜1.5の範囲であるもの、3〜10重量%の塩酸、および3〜14重量の酢酸、但し、塩酸の酢酸に対する重量比が0.25〜3.0の範囲であるもの、および5〜41重量%の水。このエッチング方法は、従来技術の方法よりも広い処理領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっきおよび塗装などの後の処理のための表面を調製するためのエッチングによるポリアセタール物品の表面処理に関する。
【0002】
本出願は、2002年12月20日に出願された欧州特許出願公開第02406122.8号明細書の利益を主張し、この記載内容全体を本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
ポリアセタール(アセタール樹脂と呼ばれる場合もある)は、たとえば、米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2)、および米国特許公報(特許文献3)に記載されているポリオキシメチレン組成物の一種である。ポリアセタール樹脂は、特に、本願特許出願人によって商標デルリン(DELRIN)(登録商標)で市販されている。
【0004】
ポリオキシメチレン組成物(ポリアセタール)は、ホルムアルデヒドのホモポリマー、またはトリオキサンなどのホルムアルデヒド環状オリゴマーのホモポリマーであって、末端基がエステル化またはエーテル化によってエンドキャップされているホモポリマー、ならびに、ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒド環状オリゴマーと、主鎖に少なくとも2つの隣接する炭素原子を有するオキシアルキレン基とのコポリマーであって、末端基がヒドロキシル末端を有することができるし、あるいはエステル化またはエーテル化によってエンドキャップすることもできるコポリマーを主成分とする組成物を含むものと一般に理解されている。
【0005】
ポリオキシメチレンは、ホモポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物であってよい。
【0006】
比較的高分子量、たとえば20,000〜100,000のポリオキシメチレンを主成分とする組成物は、熱可塑性材料とともに一般に使用されるあらゆる技術、たとえば、圧縮成形、射出成形、押出成形、ブロー成形、回転成形、溶融紡糸、スタンピング、および熱成形などによる半完成および完成物品の製造に有用である。このような組成物から製造された完成品は、高い剛性、強度、化学安定性、および耐溶剤性などの非常に望ましい物理的性質を有する。
【0007】
本発明に使用されるポリアセタールとしては、種々の組成を有するポリアセタールホモポリマーおよびコポリマー、ならびに添加剤などの種々の化合物を含有するブレンド、たとえばTPUを含有するブレンド(米国特許公報(特許文献3))、TPUと、スチレン系樹脂、ポリアミド、ポリアリーレート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、およびアクリルから選択される非晶質熱可塑性ポリマーとを含有するブレンド(米国特許公報(特許文献1))、TPUと、ポリアミド、ポリプロピレン、およびポリアルキレンテレフタレートなどの熱可塑性結晶性ポリマーとを含有するブレンド(米国特許公報(特許文献2))が挙げられる。ポリアセタールは通常、少なくとも45重量%がブレンドで構成され、多くの用途では80重量%または90重量%以上がブレンドで構成される。
【0008】
非常に化学的に安定であり結晶性であるポリアセタールからできている成形物品は、他の成形プラスチック材料よりも装飾、オーバーモールディング、およびより詳細には金属化(真空蒸着による)またはめっき(無電界めっきまたは電気めっき)または塗装が困難であることが知られている。
【0009】
ポリアセタール物品の金属化が困難であることは、たとえば(特許文献4)に記載されており、これによると、たとえば、30〜60重量%の硫酸、5〜30重量%の塩酸、および65〜10重量%の水;または20〜50重量%の硫酸、30〜50重量%のリン酸、および50〜0重量%の水の混合物を使用する酸エッチングによる予備的表面処理が提案されている。有機酸および無機酸の混合物も想定されていた。酸エッチング後、物品は、中和溶液中に浸漬され、ウレタン塗料でアンダーコートされ、陰極スパッタで金属化され、アクリルウレタン塗料またはアクリルエステル塗料系のトップコートが塗装される。
【0010】
(特許文献5)には、30体積%の硫酸(96/98%の純度)、20体積%のリン酸(85%の純度)、5体積%の塩酸(35/37%の純度)、および45体積%の水の量の硫酸、リン酸、および塩酸の混合酸浴でエッチングを行うことによる、めっきの準備のためのポリアセタール物品の予備的表面処理が記載されている。26〜35℃の範囲の温度で操作した場合にこの方法によって、ある許容される結果が得られ、他の従来技術に対して改善が見られる。しかし、この方法は、均一なエッチングを得ることができる操作領域が狭いため、無視できない比率で不良品が生じ、蒸気の発生、および成形物品表面上の塩の形成という問題も発生する。さらに、この方法は、ポリアセタールコポリマーでできている物品のめっきは小規模では適度に成功しているが、工業規模での実施は上記の制約のために不十分であった。さらに、装飾用塗料をポリアセタール物品に直接適用するためのこの方法の使用には問題があった。
【0011】
【特許文献1】米国特許5,318,813号明細書
【特許文献2】米国特許5,344,882号明細書
【特許文献3】米国特許5,286,807号明細書
【特許文献4】GB−A 2 091 274号明細書
【特許文献5】FR−A−2,703,074号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
これまで問題が発生しているにもかかわらず、特に表面の外観が重要となる用途では、ポリアセタール物品の表面処理が非常に望ましく、したがって、後の処理のためのポリアセタール物品表面を調製するための改善された方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
以下の量および比率で以下の4つの酸および水を含有する混合酸浴中に物品を浸漬することによる、無電界めっき、電気めっき、金属化、塗装、およびオーバーモールディングなどの後の処理のための表面を調製するためのポリアセタール物品の表面をエッチングする方法を提供する:
28〜39重量%の硫酸、および25〜32重量%のリン酸、但し、硫酸のリン酸に対する重量比が0.9〜1.5の範囲にあるもの、
3〜10重量%の塩酸、および3〜14重量の酢酸、但し、塩酸の酢酸に対する重量比が0.25〜3.0の範囲であるもの、および
5〜41重量%の水。
【0014】
通常、この方法は、めっきまたは塗装などの最終用途に依存して、20〜40℃の範囲の温度において、60分の最長持続時間で実施され、好ましくは25〜35℃の範囲の温度において5〜40分または10〜30分の持続時間で実施される。
【0015】
上記の量は所与の酸の通常の工業グレードに対応しており、すなわち、硫酸は95/98%の純度、密度約1.83g/cmであり;リン酸は約85%の純度、密度約1.70g/cmであり;塩酸は約32/36%の純度、密度約1.17g/cmであり;酢酸は約98%の純度、密度約1.05g/cmである。したがって、異なる純度/密度の酸を使用する場合、その品質に対応する調整を計算することができる。
【0016】
本発明によるエッチング浴の混合酸組成は、ポリアセタールコポリマーおよび同様にホモポリマーから成形された物品に首尾良く使用される。本発明の方法は、従来の浴よりもはるかに広い処理「領域」を有し、そのためエッチング作用がさらに促進され、不良品が実質的に減少する。処理領域の拡大によって、エッチングの均一性が維持される期間が長くなり、従ってより厳密な制御が行えるため、わずかな不良品の発生で本発明の方法を、異なるポリアセタール組成、および異なる規則的または複雑な形状の種々の部品の均一なエッチングを行うために使用することができる。さらに、本発明の新規方法は特に、均一なエッチングを得るために、従来技術の浴よりも低温および/または長時間で穏やかに操作することができるため、蒸気発生の問題が大きく軽減される。さらに、本発明の新規方法は、無電界めっきおよび電気めっきのため、ならびにめっき/金属化を伴わない塗料の適用のための前処理として首尾用利用される。つまり、本発明の新規方法は、予想外に性能が優れており、汎用性が高いため用途が広範囲にわたり、環境に対して適合性である。
【0017】
好ましくは、本発明の混合酸浴は、32〜36重量%の硫酸、27〜30重量%のリン酸、4〜6重量%の塩酸、6〜10重量%の酢酸、および18〜31重量%の水を含有する。硫酸のリン酸に対する比率は好ましくは1.0〜1.4の範囲であり、さらにより好ましくは1.1〜1.3の範囲であり、塩酸の酢酸に対する比率は好ましくは0.4〜1.0の範囲であり、さらにより好ましくは0.5〜0.6の範囲である。
【0018】
エッチングの後には通常中和ステップと洗浄が行われ、この後ポリアセタール物品は、めっき、塗装、オーバーモールディング、またはポリアセタールに対する良好な接着性が重要となる他の工程段階などのさらなる処理を行うことができる。
【0019】
本発明は、前述のように物品をエッチングするステップと、必要に応じてそれらの中和/洗浄を行うステップと、続いて、エッチングされた表面上、またはエッチングされた表面に適用された中間コーティング、たとえば無電界金属コーティングの上に直接めっきを適用するステップと、続いて電気的処理(galvanoprocess)を行うステップとを含むポリアセタール物品のめっき方法にも関する。
【0020】
本発明の別の態様は、前述のように物品をエッチングするステップと、続いて、エッチングされた表面上に有機塗料を直接適用するステップとを含むポリアセタール物品の塗装方法である。トップコートと呼ばれることも多いワニスは、特に塗料層の表面に適用すると、優れた光沢、可撓性、耐久性、UV抵抗性、耐薬品性などを得ることができる。
【0021】
本発明のさらに別の態様は、前述され以下にさらに説明される量および比率で所与の4つの酸および水を含有する、後の処理のための表面を調製するためのポリアセタール物品表面をエッチングするための混合酸エッチング浴である。
【0022】
添付の図面は、後述する一連の比較例の結果を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
前述したように、最終用途に依存して、通常20〜40℃の範囲の温度で、最長持続時間60分、好ましくは25〜35℃の範囲の温度で、5〜40分または10〜30分の持続時間で、指定の量および比率における所与の4つの酸および水を含有する混合酸浴中に物品を浸漬することによって、無電界めっき、電気めっき、金属化、塗装、およびオーバーモールディングなどの引き続く処理のための表面を調製するためにポリアセタール物品表面がエッチングされる。
【0024】
エッチング処理の温度および時間には相関がある。低い温度(20〜30℃)ではより長い処理時間に対応するが、成形におけるずれ、より詳細には、ポリアセタールの応力亀裂を引き起こしうる不十分な成形、溶融時の高温、強い剪断、配向、流れすじ、および/または成形物品のその他の欠陥によって生じるずれに対する許容範囲が広い。より高い温度(35℃よりわずかに低温またはそれより高温)では酢酸および塩酸が減少するので、必要な浴組成を維持するために補償する必要がある。より高い温度では、ポリアセタールの組成に依存して処理時間が20分以下と短くなるが、エッチングされるポリアセタール物品の応力亀裂の危険性が高まる。
【0025】
指定の処理時間は、エッチング浴中に浸漬する時間である。全処理時間は、導入時間、浸漬時間、棚上の物品を取り出す時間および排液時間、静的洗浄に移行するための時間、ならびに静的洗浄時間の合計からなる。しかし、より全体的にエッチングがより均一となる広い処理領域を提供することによって、本発明による方法が従来のエッチング方法よりも改善されているのは浸漬時間である。
【0026】
比較のため、本出願人の認識によれば、利用可能な最も優れた従来技術の(特許文献5)による混合酸エッチング浴は、硫酸をリン酸に対する体積比1.5(すなわち重量比1.62)で含有し、5体積%の塩酸(酢酸は含有せず)、および45体積%の水を含有する。このような従来技術の浴は、以下の比較例で示される本発明による方法による3分〜30分超と比較すると、均一なエッチングを行える処理領域がはるかに狭く、たとえば30℃で約2分〜10分未満である。
【0027】
本発明によるエッチング浴は、計算による比重が1.33〜1.48g/cmの範囲であり、比重の最適値は1.38〜1.42g/cmの範囲であり、特に約1.40g/cmである。比重の浴を25℃で使用すると、大部分のポリアセタールの処理時間は約20分程度となる。限界値の1.48g/cmに近づく高い比重では、工程の許容範囲が狭くなり、処理時間が短く、エッチング作用が強くなる。1.33g/cmに近づく低い比重では、処理時間が長くなり、許容できる短さの処理時間を維持するために処理温度が高くなる。低比重の浴では、ポリアセタール表面の濡れが少なくなり、ある種の成形物品ではエッチングが不可能となる。
【0028】
比較のため、(特許文献5)のエッチング浴は比重が約1.45〜1.47g/cmである。より好ましい比重範囲の1.38〜1.42g/cmの低い側の値は、ポリアセタール物品の浮力が小さくなることを意味し、このため、物品があまり束縛されずにエッチング浴中に浸漬される場合、たとえば物品が浴中に浸漬するためのかごに物品が入れられる場合に不良品の比率が低下する。
【0029】
エッチング中、浴は、気泡が生じないように注意しながら、マグネチックスターラーを使用して機械的に撹拌されることが好ましい。このことは、物品の均一なエッチングに役立つ。
【0030】
特殊な組成物のため、本発明のエッチング浴は処理中に濾過する必要がない。ポリアセタールからの無機物および添加剤は、エッチングされた部分のくみ出しによって除去される。この理由のため、物品をエッチング浴から取り出した後の静的洗浄が推奨される。
【0031】
エッチングされる成形ポリアセタール物品は、棚上に取り付けられる、またはチタン製かごに入れられることが好ましい。この棚は不活性PVCコーティングで被覆することができ、ステンレス鋼製またはチタン製のクランプでこの棚に物品が取り付けられる。隠れたくぼみのない小さな物品は、チタン製かご中に束縛されないように入れることができる。ポリアセタール物品の密度は、浴の低比重に近いため、自由に浸漬している場合でさえも、このように束縛されない部品を首尾良くエッチングすることができる。チタン製かごまたはプラスチックが被覆されたステンレス鋼製のかごは、より大きなポリアセタール物品を保持するために使用することができる。
【0032】
ポリアセタール物品は、かごの連続した複数の層中で複数の列に並べることができ、これによって少ない浴体積で大きな表面積を処理することができる。このような束縛されない配置によって、エッチング中に個々の物品ホルダーが使用される場合と比較して、ポリアセタール物品に加わる機械的応力が軽減される。さらに、このような配置を使用することによって、電気分解(すなわち物品の無電界めっきの後に電気めっきが行われる場合)の前に、エッチングの欠陥のある物品の除去が容易になる。このような配置は、化学析出による物品の前処理のため、後の電気めっき、オーバーモールディング、または他の処理のために使用することもできる。
【0033】
本発明によるエッチング浴は、好適なバット中に収容すべきである。PVDF(ポリフッ化ビニリデン)で被覆された強化バットが推奨される。小容量の場合は高密度ポリプロピレンのバットを使用することができる。内部にチタンがコーティングされた強化バットも好適である。浴中に塩酸が存在するため、ステンレス鋼製バット単独は適していない。
【0034】
本発明によるエッチング浴は、安全に使用でき、環境に適合している。浴を操作可能な温度が低いためヒュームの発生が軽減される。静的洗浄によって除去される浴成分は、逆浸透、イオン交換法、または蒸発−濃縮法によって再利用することができる。この方法からの排液は、単純な化学的中和の後にフィルタープレス処理を行うことによって処理することができる。
【0035】
以下の実施例によって本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0036】
(混合酸エッチング浴の調製)
目および手の予防措置をして、所与の比率の各種酸を混合する。室温(20℃)において比重計で測定した最終溶液の比重は、1.334〜1.474g/cmの範囲であり、より好ましくは1.38〜1.42g/cmの範囲、場合により約1.40g/cmである。
【0037】
使用した酸は、以下の工業グレードである。濃硫酸、比重1.83g/cm、約95〜98%の純度;濃オルトリン酸、比重1.70g/cm、約85%の純度;濃塩酸、比重1.17g/cm、約32〜36%の純度;および濃酢酸、約98%の純度、結晶性グレード。
【0038】
例として、以下の組成の混合酸エッチング浴を、後述の比較試験用に調製した。硫酸34.5重量%、リン酸29.0重量%、塩酸4.5重量%、酢酸8.5重量%、および水23.5重量%。この例では、硫酸のリン酸に対する重量比は1.18であり、塩酸の酢酸に対する重量比は0.52である。
【0039】
(めっきのためのポリアセタール物品のエッチング)
めっきを行う成形ポリアセタール物品を、弱アルカリ性pHの界面活性剤(フランスのパリ(Paris)のシプリーSAS(Shipley SAS)より入手可能なPM 900など)を含有する洗浄剤浴に、最高50℃の温度で2〜3分間浸漬することで洗浄し、続いてエッチング前に水洗する。
【0040】
本発明による混合酸浴中のエッチングは、25〜35℃で10〜30分間行うと好都合である。より低温の条件では処理時間が長くなる。ポリアセタール表面のエッチングを均一にするために、この溶液を撹拌することができる。エッチング中、安全のためにヒュームを排気し、空気制御を行う。
【0041】
エッチング浴から取り出した後、物品を水洗し、ここでくみ出された酸は、希望するなら逆浸透によって回収することができる。次に、物品は、20ml/lアンモニウム溶液または10g/l水酸化ナトリウム溶液のいずれかで中和する、どちらの場合も室温で撹拌しながら約1分間実施される。
【0042】
次に物品を水洗し、無電界めっきの前に、10%のHCl溶液中に室温で約1分間浸漬する。
【0043】
次に、50〜100ppmのパラジウムを含有する溶液中、シプリーSAS(Shipley SAS)より入手可能な触媒9Fなどのパラジウムコロイドを使用して、温度25〜28℃で1〜5分で表面を触媒反応させる。異なる触媒が使用される場合は、条件が調整される。たとえば、シプリーSAS(Shipley SAS)より入手可能な触媒DPの場合、処理は温度35〜40℃で行われる。この処理は、機械的なかき混ぜまたは撹拌を行いながら実施される。
【0044】
次に物品を再度水洗し、シプリーSAS(Shipley SAS)の配合物PM 964などの促進剤で処理して、第一スズ化合物を除去し、パラジウムの触媒能力を向上させる。この処理は40〜45℃で2〜4分、または必要に応じてより長時間行われ、続いてさらに水洗が行われる。
【0045】
次に物品をシプリーSAS(Shipley SAS)より入手可能な浴のPM 980などの無電界ニッケルめっき浴に浸漬し、このニッケル濃度は70%または2.4g/lであり温度は25〜35℃であり、アンモニア化合物を加えることによってpHを8.8〜9に維持する。8〜12分間で、0.25〜0.3μmのニッケル層が得られる。
【0046】
無電界ニッケル堆積の品質は、ルーペを使用して調べることができ、必要に応じて条件が調整される。
【0047】
無電界ニッケルめっきを有する物品は、従来のワット(Watts)浴を使用するニッケル、または従来の浴を使用するクロムによる電気めっきが行える状態になっている。
【0048】
あるいは、無電界ニッケルコーティングの代わりに無電界銅コーティングを行い、続いて、ニッケル、クロム、または他のあらゆる金属の電気めっきを行うこともできる。
【0049】
直接めっきを行う場合、前述の触媒および促進剤であらかじめ処理した試料を、5重量%の硫酸などの脱不動態化溶液に浸漬し、続いて、通常の電気めっきでコーティングする。
【0050】
長期間の操作中、たとえば毎日比重を測定することによって、エッチング浴を定期的に検査する。新しい濃酸を定期的に加えることで、「くみ出し」による損失を補償する。関連する治具(ステンレス鋼および銅またはニッケル)からの金属による浴の汚染を、定期的に、たとえば1か月ごとに測定する。
【0051】
(特許文献5)の従来技術のエッチング浴と比較すると、本発明によるエッチング浴は、より低い温度で同程度またはより長い処理時間で操作することができるため、工程のより高い汎用性/許容度(より広い処理領域)が得られ、および/または同じ温度で操作した場合に物品の制御がより十分に行える。
【0052】
(塗装のためのポリアセタール物品のエッチング)
後に塗装処理を行うため、本発明の方法を以下のように変更することができる。本発明による酸エッチングは、清浄化および洗浄の後、またはアニーリング、冷却、清浄化、および洗浄の後に行われる。エッチング後に、水洗、中和、低温洗浄、および高温洗浄が行われる。塗装されるエッチング部分は、次に乾燥され、塗装ライン上の支持体上に取り付けられ、必要に応じて有機塗料およびトップコートで塗装され、硬化され、続いて取り出されて検査が行われる。
【0053】
適用可能である典型的なペイント塗料は、水性、溶剤系、100%溶剤塗料系(たとえばUV硬化性)、および粉末コーティングである。これらの塗料は架橋させたり、架橋させなかったり、または部分的に架橋させたりすることができる(熱硬化性または熱可塑性)。塗料は、熱硬化させることができるし、または電子ビーム、UV、NIR、およびIRなどの放射線照射によって硬化/乾燥させたりすることができる。塗料中に使用されるバインダーの例は、アルキド樹脂、ポリエステル、アクリル、ビニル、酢酸酪酸セルロース、ニトロセルロース、エポキシ、ポリアミド、ポリアミン、およびポリウレタンである。使用される塗料架橋剤の例は、メラミンホルムアルデヒド、尿素ホルムアルデヒド、ベンゾグアナミンホルムアルデヒド系のもの、またはポリイソシアネートである。塗料系が溶剤系である場合、典型的な溶剤としては、アルコール、ケトン、エーテル、アセテート、芳香族、アミドが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
別の装飾の場合、本発明の方法は以下のように変更することができる。本発明による酸エッチングは、清浄化および洗浄の後、またはアニーリング、冷却、清浄化、および洗浄の後に行われる。エッチング後に、水洗、中和、低温洗浄、および高温洗浄が行われる。装飾されるエッチング部分は次に乾燥され、有機塗料、好ましくはUV架橋性塗料系がコーティングされ、続いて、金属真空蒸着装置に入れられて、金属層、好ましくは厚さ約0.2μmのアルミニウム層が塗料上に蒸着される。最後に、トップコート、好ましくはUV架橋性塗料系が約5〜15μmの厚さで金属層の上に適用される。
【0055】
(比較試験)
ポリアセタール系樹脂(デルリン(Delrin)(登録商標)100BK、本願特許出願人より入手可能)製のスキーの締め具の形態の物品を、成形物品の劣化を回避するような加工条件設定で従来の射出成形機を使用して成形した。この試料を成形後少なくとも24時間静置した後、混合酸エッチング浴に浸漬する前にアニーリングを行った。
【0056】
前述のように(特許文献5)にしたがって1つの混合酸エッチング浴を調製した。本出願人はこれが最良の従来技術の混合酸エッチング浴であると考えている。本発明による別の混合酸エッチング浴は、前述の具体例に対応している。
【0057】
30℃の各混合酸エッチング浴に部品を5〜40分間浸漬し、5分後、10分後、20分後、30分後、および40分後に試験片を取り出して評価を行った。物品表面の代表的な領域を切り取り、SEM(二次電子顕微鏡検査)観察を行った。
【0058】
図1および2は、5分間のエッチング後の表面のSEM顕微鏡写真(倍率500倍)である。どちらの試料の表面にも同程度の大きさの孔を見ることができる(図1上の白い表示は、部分的に塩の形成による電子の帯電により発生している)。孔の大きさは5μm未満である。この段階では、両方の浴中のエッチングが均一である。
【0059】
図3および4は、20分間のエッチング後の表面のSEM顕微鏡写真(倍率500倍)である。従来技術の浴(図3)のエッチングを行った試料では大きく深い亀裂を見ることができる。孔および亀裂の推定の大きさは約100μmである。これと比較して、本発明による混合酸浴中でエッチングした物品の孔(図4)はあまり発展しておらず、なお5〜7μmであり、エッチングが依然として均一であることを示している。
【0060】
異なる試験片中の孔の推定寸法を、エッチング時間の関数として図5のグラフにプロットしている。従来技術のエッチングによる孔の寸法は「x」で示され、本発明によるエッチングによる孔は「●」で示されている。従来技術のエッチングでは10分で既に不均一となり、30分でひどい損傷が起こっていることが分かる。これと比較して、本発明によるエッチングは30分を超えても均一であり、40分後にわずかな亀裂しか見られない。このことは、本発明のエッチング方法が、この例では、垂直の破線で示されるように約3〜30分の広い処理領域を有し、一方従来技術のエッチングでは、垂直の実線で示される約2分から10分未満のはるかに狭い処理領域を有することを意味する。
【0061】
この広い処理領域によって、前述したような多くの利点が得られる。特に、本発明のエッチングおよびエッチング方法によって、ポリアセタール組成の異なる種々の物品、および種々の規則的または複雑な形状の種々の物品を、少ない欠陥で均一にエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】従来技術のエッチング浴中で5分間エッチングしたポリアセタール物品表面のSEM顕微鏡写真である。
【図2】本発明による混合酸エッチング浴中で5分間エッチングした同じポリアセタール物品表面の同様のSEM顕微鏡写真である。
【図3】従来技術のエッチング浴中で20分間エッチングしたポリアセタール物品表面のSEM顕微鏡写真である。
【図4】本発明による混合酸エッチング浴中で20分間エッチングした同じポリアセタール物品表面の同様のSEM顕微鏡写真である。
【図5】従来技術の浴および本発明による浴によるエッチングにより生じた孔の推定寸法対エッチング時間のグラフであり、それぞれの処理領域も示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の量および比率で以下の4つの酸および水を含有する混合酸浴中に物品を浸漬することによる、後の処理のための表面を調製するためのポリアセタール物品の表面をエッチングする方法:
28〜39重量%の硫酸、および25〜32重量%のリン酸、但し、硫酸のリン酸に対する重量比が0.9〜1.5の範囲にあるもの、
3〜10重量%の塩酸、および3〜14重量の酢酸、但し、塩酸の酢酸に対する重量比が0.25〜3.0の範囲であるもの、および
5〜41重量%の水。
【請求項2】
前記混合酸浴が、32〜36重量%の硫酸、27〜30重量%のリン酸、4〜6重量%の塩酸、6〜10重量%の酢酸、および18〜31重量%の水を含有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
硫酸のリン酸に対する前記比が1.0〜1.4の範囲であり、塩酸の酢酸に対する前記比が0.4〜1.0の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
硫酸のリン酸に対する前記比が1.1〜1.3の範囲であり、塩酸の酢酸に対する前記比が0.5〜0.6の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記混合酸浴が室温において1.33〜1.48g/cmの範囲の比重を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記混合酸浴が室温において1.38〜1.42g/cmの範囲の比重を有することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記物品が、20〜40℃の範囲の温度の前記混合酸浴中に60分までの間浸漬されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記物品が、25〜35℃の範囲の温度の前記混合酸浴中に5分〜40分間浸漬されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記エッチングの後で、中和ステップおよび洗浄が行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の物品のエッチングを行うステップと、続いて、エッチングされた表面に直接めっきを適用するステップとを含むことを特徴とするポリアセタール物品のめっき方法。
【請求項11】
請求項1に記載の物品のエッチングを行うステップと、エッチングされた表面に直接無電界めっきを適用するステップと、前記無電界めっき上に電気めっきを適用するステップとを含むことを特徴とするポリアセタール物品のめっき方法。
【請求項12】
請求項1に記載の物品のエッチングを行うステップと、続いて、エッチングされた表面上に有機塗料を直接適用するステップとを含むことを特徴とするポリアセタール物品の装飾方法。
【請求項13】
前記塗料の上にワニスのトップコートを適用するステップを含むことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属真空蒸着によって前記有機塗料の上に金属層を適用するステップが続くことを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
後の処理のための表面を調製するためのポリアセタール物品表面をエッチングするための混合酸エッチング浴であって、以下の量および比率で以下の4つの酸および水を含有する混合酸エッチング浴:
28〜39重量%の硫酸、および25〜32重量%のリン酸、但し、硫酸のリン酸に対する重量比が0.9〜1.5の範囲であるもの、
3〜10重量%の塩酸、および3〜14重量の酢酸、但し、塩酸の酢酸に対する重量比が0.25〜3.0の範囲であるもの、および
5〜41重量%の水。
【請求項16】
32〜36重量%の硫酸、27〜30重量%のリン酸、4〜6重量%の塩酸、6〜10重量%の酢酸、および18〜31重量%の水を含有することを特徴とする請求項15に記載の浴。
【請求項17】
硫酸のリン酸に対する前記比が1.0〜1.4の範囲であり、塩酸の酢酸に対する前記比が0.4〜1.0の範囲であることを特徴とする請求項15に記載の浴。
【請求項18】
硫酸のリン酸に対する前記比が1.1〜1.3の範囲であり、塩酸の酢酸に対する前記比が0.5〜0.6の範囲であることを特徴とする請求項17に記載の浴。
【請求項19】
室温において1.33〜1.48g/cmの範囲の比重を有することを特徴とする請求項15に記載の浴。
【請求項20】
室温において1.38〜1.42g/cmの範囲の比重を有することを特徴とする請求項19に記載の浴。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−511650(P2006−511650A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−563829(P2004−563829)
【出願日】平成15年12月17日(2003.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2003/040621
【国際公開番号】WO2004/058863
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】