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ポリアニオン性多糖類と疎水性生物吸収ポリマーを含む組成物
説明

ポリアニオン性多糖類と疎水性生物吸収ポリマーを含む組成物

【課題】生体において分解し、生体に親和性を有する組成物を提供する。
【解決手段】疎水性生物吸収ポリマーに結合したポリアニオン性多糖類を含む生体親和性組成物を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一種以上の、化学的に修飾されたポリアニオン性多糖類から生成される、水不溶性の生体親和性組成物に関するもので、さらに限定すれば、これらの化学的に修飾されたポリアニオン性多糖類と疎水性生物吸収ポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニオン性多糖類とは、グリカンともいう多糖類で、1以上の負電荷を帯びた基(例えば、pH値が4.0以上のカルボキシル基)を有するものをいう。また、これらは何千何百の基本的繰り返し単位をもつ長鎖構造からなっている。これらの分子には、繰り返し単位の繰り返し方、糖鎖の長さや枝分かれの程度などに相違がある。ポリアニオン性多糖類には主に2つの型がある。即ち、単一型の単量単位のみからなるホモ多糖類と二つ以上の型の単量単位からなるヘテロ多糖類である。
【0003】
多糖類は身体の様々な組織で自然に生成され、場合によっては、タンパク質と結合して複合的な巨大分子構造を作る。実例としては、ゼリー様の基質や、殆どの組織の細胞間隙を埋めている細胞外基質の中に見出されるプロテオグリカンがある。プロテオグリカンは、また、軟骨や腱、皮膚、滑液の中にも存在する。同様に、グリコサミノグリカンも、結合組織の基質の中に見出される、水溶性の多糖で、(AB)n という一般化学式で表される、高い電荷をもつ直鎖のポリアニオンである。ただし、ここでAはウロン酸を、Bはヘキソサミンを表す。
【0004】
ヒアルロン酸(HA)とその塩であるヒアルロン酸ナトリウムが、自然界に存在するグルコサミノグリカン、あるいは、普遍的細胞外基質成分であるムコ多糖類の一例である。HAは人体のどこにでもあり、滑液や硝子体液、血管壁、心膜、臍帯などの様々な組織に様々な形状で存在する。
【0005】
化学的に修飾された(「誘導された」)形状のヒアルロン酸は、手術後に体組織が癒合ないし癒着するのを防ぐための外科用補助薬として有用である(例えば、合衆国特許第5,017,229号;特許文献1)。ゲル状ないし膜状に誘導されたHAを、癒合形成を妨げるために、損傷を受けた組織の上か間に置く。この効果を上げるためには、ゲルや膜を組織同士が接触しないようにしたままに置く。すると、やがてゲルは粉々になり、組織が再び接触するようになるが、この頃にはもう組織同士が癒合する虞れはなくなっている。
【0006】
また、化学的に修飾されたHAは、制御的に薬剤を運搬して放出させるのにも役に立つ。「Balazsら、1986年、米国特許第4,582,865号;特許文献2」は、「HAを架橋したゲルは、ゲル中に拡散している低分子で、ゲルをつくる巨大分子と共有結合していない物質の移動を遅らせる。」と述べている。「Sparerら、1983年、6章,107-119頁、Rosemanら、Marcel Dekker, Inc., New York、制御された運搬放出システム;非特許文献1」は、直接の、あるいはアラニン架橋を中間的な結合基とするエステル複合体として、エステル結合によってヒアルロン酸と共有結合したクロラムフェニコールは、持続的に放出されると述べている。
【0007】
「Danishefskyら、1971年、CarbohydrateRes., 16巻, 199-205頁;非特許文献2」は、水溶液中、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)存在下でムコ多糖類をアミノ酸エステルと反応させることによって、ムコ多糖類のカルボキシル基をアミド基に置換してムコ多糖類を修飾することについて述べている。彼らは、グリシン・メチルエステルを、HAなどの様々な多糖類と反応させた。その結果できる化合物は水溶性であって、水や体組織の間隙でみられるような水様液環境の中に速やかに拡散して行く。
【0008】
HA組成物の可溶性を低下させるための工夫として、HAを架橋するというものがある。「R.V.Sparerら、6章, 107-119頁, T.J.Rosemanら、Marcel Dekker,Inc., New York, 制御された運搬放出システム;非特許文献1」は、アミド結合によって、システイン残基をHAに結合してから、このシステインで修飾されたHAのシステイン残基間にジスルフィド結合を形成させて架橋することにより、HAを修飾すると述べている。システインで修飾されたHAそれ自体は水溶性であったが、酸化によってジスルフィド結合体を形成し、架橋したときだけ不溶性になった。
【0009】
「De Belderら、国際公開 WO 86/00912号;特許文献3」は、外科手術後に組織が癒着するのを防ぐために、カルボキシル基を持つ多糖類を二価あるいは多価性のエポキシドで架橋して調製する、徐々に崩壊していくゲルについて述べている。水溶性を低下させた、HAの架橋ゲルを調製するための、他の二価性あるいは多価性反応試薬には、50℃のアルカリ溶媒中の1、2、3、4-ジエポキシブタン「Laurentら、1964年、Acta Chem. Scand., 18巻, 274頁;非特許文献3」、アルカリ溶媒中のジビニルスルホン「Balazsら、米国特許第4,582,865号(1986年);特許文献2」などがあり、その他にも、ホルムアミド、ジメチロールウレア、ジメチロールエチレンウレア、エチレンオキシド、ポリアジリジン、ポリイソシアネートなどがある(Balazsら、英国特許第8420560号 (1984);特許文献4)。「Malsonら、1986年、PCT 国際公開 WO 86/00079;特許文献5」は、HAの架橋ゲルを、二価性あるいは多価性エポキシドのような二価性あるいは多価性の架橋試薬と反応させることによって、硝子液の代用物質として利用するための調製法について述べている。「Malsonら、1986年、欧州特許公開 193 510号;特許文献6」は、架橋したHAゲルを真空乾燥したり圧縮したりして成形したものの調製について述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】合衆国特許第5,017,229号
【特許文献2】Balazsら、1986年、米国特許第4,582,865号
【特許文献3】De Belderら、国際公開 WO 86/00912号
【特許文献4】Balazsら、英国特許第8420560号 (1984)
【特許文献5】Malsonら、1986年、PCT 国際公開 WO 86/00079
【特許文献6】Malsonら、1986年、欧州特許公開 193 510号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Sparerら、1983年、6章,107-119頁、Rosemanら、Marcel Dekker, Inc., New York、制御された運搬放出システム
【非特許文献2】Danishefskyら、1971年、CarbohydrateRes., 16巻, 199-205頁
【非特許文献3】Laurentら、1964年、Acta Chem. Scand., 18巻, 274頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一の局面において、本発明は、一以上の疎水性生物吸収ポリマーないし共ポリマーに結合した一種以上のポリアニオン性多糖類をもつ生体親和性組成物を特徴とする。
【0013】
好ましい態様において、ポリアニオン性多糖類はカルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルアミロース(CMA)、ヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン-6-硫酸、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン-6-硫酸である。好ましくは、ポリアニオン性多糖類はHA、CMC、あるいはCMAである。最も好ましくは、ポリアニオン性多糖類は水不溶性の誘導体である。また、好ましい態様において、生体親和性組成物は2種以上のポリアニオン性多糖類またはその水不溶性誘導体、例えば、ヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースあるいはヒアルロン酸とヘパリンを含む。
【0014】
疎水性生物吸収ポリマーは、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL)、ポリジオキサノン、ポリエステルカーボネート、ポリヒドロキシアルコネート、ポリカプロラクトン(ポリラクトン)及びこれらの共ポリマーの中から選ばれる。好ましくは、ポリグリコリドまたはポリラクチド、さもなくば、ポリグリコリドとポリラクチドの共ポリマー、あるいはポリラクチド−カプロラクトン、つまり、ポリラクチド−ポリカプロラクトンである。
【0015】
本発明の組成物は癒着予防用の組成物という形で供給することができる。例えば、膜、発泡体、フィルム、あるいは突き出して成形するのに適した組成物などである。組成物が水不溶性のポリアニオン性多糖類誘導体を含むとき、その組成物は繊維あるいは編んだり、織ったりした生地の形で生産することもできる。
【0016】
水不溶性のポリアニオン性多糖類誘導体を含む本発明の組成物は、また、細胞や組織の成長と増殖を支えるための合成基質として供給することもできる。例えば、本発明に係る水不溶性基質を細胞でコーティングしたり、充填したり、あるいは細胞を浸透させるために、必要とする細胞型を本発明の水不溶性組成物の存在下、生体外で培養できよう。好ましくは、細胞は哺乳類に由来するもので、もっとも好ましいのはヒトに由来するものである。一例において、線維芽細胞を浸透させた基質を皮膚の外傷部位(例えば、怪我や潰瘍)に置けば、傷の治癒を促進するであろう。本発明に係る基質の上で培養できる他の細胞型には、骨細胞、軟骨細胞、ケラチノサイトおよび腱細胞があるが、これらに限定されるわけではない。これらの細胞を充填した基質は、それぞれ骨、軟骨、皮膚、腱、および靱帯の治療を補助するために用いることができる。いくつかの細胞型を混合した基質を、例えば、必要な組織の細胞組成を模造するために作成することもできる。本発明の基質上には、移植されると特異的な組織型に分化することができる未分化の間葉細胞を接種することもでき、また、胎児または新生児の細胞で、必要な型のものを接種することもできる。生体内で、細胞基質として、水に不溶な組成物を用いることの利点は、この基質が完全に生体親和性であり、再び体内に吸収されるということにある。さらに、様々な細胞型を充填した基質は、生体外での診断に利用するのに役立つ。例えば、線維芽細胞を浸透させた基質は、様々な薬剤や化粧品の、効果や毒性を検定するのに用いることができる。
【0017】
本発明に係る組成物には、さらに薬剤輸送システムに用いられる薬剤も含まれるであろう。どの薬剤を用いるかは、組成物をどのように利用しようとするのかによって選択されるべきである。好ましい薬剤には、タンパク質(例えば、成長因子や酵素)、ステロイド類、非ステロイド系抗炎症剤、細胞毒性因子(例えば、抗腫瘍剤)、抗生物質、オリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンス)および生体高分子などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。細胞や組織の成長と増殖のためには、本発明の組成物に、さらに成長因子と細胞接着蛋白ないしペプチドを包含させる。
【0018】
第二の局面において、本発明は、生体親和性組成物を形成するのに適した条件下で1種以上のポリアニオン性多糖類を疎水性生物吸収ポリマーに結合させて生体親和性組成物を作製する方法に特徴がある。好ましくは、ポリアニオン性多糖類はフィルム状または発泡体であり、最も好ましくは、ポリアニオン性多糖類は水に不溶の誘導体の形状にあることである。
【0019】
本発明の本局面の好ましい態様において、疎水性生物吸収ポリマーとポリアニオン性多糖を結合する方法には、ポリアニオン性多糖類を疎水性生物吸収ポリマーでコーティングすることが含まれる。例えば、疎水性生物吸収ポリマー溶液をポリアニオン性多糖類に吹き付けるか、塗り付けるかしてコーティングしたり、疎水性生物吸収ポリマーのコーティングをポリアニオン性多糖類組成物の片側だけに施したり、疎水性生物吸収ポリマーをポリアニオン性多糖類組成物の溶液と混合したり、疎水性生物吸収ポリマー繊維をポリアニオン性多糖類組成物の溶液の中に拡散させたり、例えば、温度を次第に上げていく熱圧縮によって、疎水性生物吸収ポリマーがポリアニオン多糖類組成物の上に確実にかぶるようにするといった方法で、疎水性生物吸収ポリマーのフィルムでポリアニオン性多糖類組成物をおおったりする。ポリアニオン性多糖類の水不溶性誘導体が用いられるとき、本発明に係る方法は、不溶性組成物を疎水性生物吸収ポリマー溶液に浸して不溶性のポリアニオン性多糖類組成物の両面をコーティングすることも含まれる。疎水性生物吸収ポリマーで処理した後、溶媒を除去するために組成物を乾燥させれば、ポリアニオン性多糖類の疎水性生物吸収ポリマー基質が残る。
【0020】
疎水性生物吸収ポリマー溶液は、ポリマーや共ポリマーを揮発性溶媒に溶かして作製する。揮発性溶媒は、例えば、濃度0.1から50%(w/w)の塩化メチレンで、好ましくは0.5〜20%(w/w)、一層好ましくは0.5〜5%(w/w)、最も好ましくは1.0〜3.0%(w/w)の濃度のものである。
【0021】
別の局面において、本発明は、生体外での細胞の成長と増殖を促す方法を特徴とする。この局面において、その方法には、細胞のサンプルを得ることと次に、疎水性生物吸収ポリマーに結合したポリアニオン性多糖類の水不溶性誘導体を含む水不溶性生体親和性基質に、その細胞を混ぜること、さらに、この混合物を細胞の成長を促しかつ細胞が基質の中に浸透してゆくのに適切な条件下で培養することなどの各段階が含まれる。本発明の方法によって成長させ得る細胞には、生体外で培養できるあらゆる細胞型が含まれるが、好ましいのは、哺乳類の細胞で、最も好ましいのは、ヒトに由来する細胞である。
【0022】
さらに別の局面において、本発明には、生体内で、例えば哺乳類の、好ましくはヒトの傷害部位において細胞の成長と増殖を促す方法が含まれる。この方法には、怪我の治癒を促進する作用がある細胞のサンプルを得て、疎水性生物吸収ポリマーに結合したポリアニオン性多糖類の水不溶性誘導体を含む水不溶性生体親和性基質に細胞を混ぜ、この混合物を哺乳動物の傷害部位に置いて、当該部位における細胞の成長と増殖を促して、傷の治癒を助長するまでの各段階が含まれる。
【0023】
この局面における本発明の態様には、必要とする組織から、細胞のサンプルを直接得て、このサンプルを不溶性の生体親和性基質と混合すること、不溶性の生体親和性基質と混合する前に、まず、必要とする組織から細胞のサンプルを得て、生体外で培養すること、また、確立した細胞系から細胞サンプルを得て、水不溶性の生体親和性基質と混合することが含まれる。好ましくは、傷害部位に用いる前に、細胞の増殖を促進し、細胞が基質の中に浸透するのに適した条件の下で、細胞サンプルと水不溶性生体親和性基質との混合物を生体外で培養する。
【0024】
本発明のこの局面に関して、生体親和性基質と混合される細胞は、傷害部位における細胞の成長と増殖を助長し得るものであればいずれの細胞型であってもよい。例えば、細胞は哺乳動物とは異種の生物に由来することも可能であるが、好ましくは、同種異系のものであり、最も好ましくは、哺乳類と免疫学的に適合するものであることが望ましい。さらに、細胞を浸透させた基質は傷害部位にある細胞と同じ型の細胞(例えば、同じ組織からの)を含むものでもよいし、異なった細胞型を含む基質でも、生体内で細胞が成長するための足場となるべく細胞外基質成分を生体親和性基質に蓄積させるようなものはよい。
【0025】
本発明のこの局面の好ましい態様では、細胞が線維芽細胞のときは、細胞を浸透させた基質は皮膚の傷害部(怪我、火傷、外科切開、または皮膚潰瘍)の上に置き、細胞が骨細胞のときは、細胞を浸透させた基質を骨の損傷部に置き、細胞が軟骨細胞のときは、細胞を浸透させた基質を軟骨の傷害部に置き、細胞がケラチノサイトのときは、細胞を浸透させた基質を皮膚の傷害部に置き、細胞が腱細胞のときは、細胞を浸透させた基質は腱の損傷部位に置く。細胞は未分化の間葉細胞のこともある。
【0026】
さらに、本発明の方法において用いられる生体親和性基質には、一種以上の薬剤、例えば、細胞の成長を一層促進するために成長因子を、あるいは(また)、基質を置く部位が病原感染するのを防ぐために抗生物質を入れることもできる。
【0027】
ここで用いられる「免疫学的に適合する」という語句は、処置を受ける哺乳類の免疫系による拒絶反応の可能性を最小限に抑えるため、組織適合的な供与体から細胞を得ることを意味する。好ましくは、HLA表現型が同じか、適合的な個体から細胞を採取する。もっとも好ましくは、処置を受ける哺乳類から直接細胞を採取する。
【0028】
ここで用いられる「ポリアニオン性多糖類」(PAS)という語は、修飾されていないものも、その化学的誘導体も含めて、一つ以上の負に荷電した基(例えば、pHの値が約4.0より高いカルボキシル基)をもつ多糖類を意味し、その塩類、例えば、ナトリウム塩類、カリウム塩類、あるいはカルシウム塩やマグネシウム塩のようなアルカリ土類金属も含まれる。
【0029】
ここで用いられる「ポリアニオン性多糖類誘導体」という用語は、本来の形状を化学的に修飾した、一種以上のポリアニオン性多糖類(PAS)のことである。ここでいう修飾には、官能基の付加(例えば、置換されたアミド基、エステル結合、アミン基)や、PAS分子を共有結合的に重合して、PASの水不溶性を強化する反応、あるいは、ここで述べるような非共有結合的な相互作用によって、PASの水不溶性を強化する反応などがある。
【0030】
「修飾されていないポリアニオン性多糖類」とは、本来の化学構造のままのポリアニオン性多糖類を意味する。
【0031】
ここで用いられる「フィルム」という語は、発泡体を薄膜に圧縮したり、平らな鋳型に流し込み、それを乾燥させて薄膜にしたり、ゲルや繊維を圧縮したり、ゲルや繊維を脱水したりして作製した物質をいう。
【0032】
ここで用いられる「発泡体」という語は、例えば、ポリアニオン性多糖類の溶液や懸濁液、ゲル、繊維などを凍結乾燥してできる、多孔構造をもった物質を意味する。
【0033】
ここで用いられる「疎水性」という語は、水との親和性を欠く化合物ないし組成物を云う。
【0034】
ここで用いられる「生物吸収」という語は、組織親和性素材が、移植後体内で分解して毒性のない物質となり、排泄あるいは代謝されてしまう性質を指す(Barrows, "Synthetic Bioabsorbable Polymers",p.243, High Performance Biomaterials - A Comprehensive Guide to Medical and Pharmaceutical Applications, Michael Szycher, ed., Technomic Publishing: Lancaster, PA, 1991)。
【0035】
ここで用いられる「ポリマー」という語は、単体の小さな構造単位(例えば、単糖類、アミノ酸、核酸、アルケン類あるいは有機酸などの構造単位)が繰り返し、少なくとも2個、好ましくは2個以上連結してつくられる分子を指す。従って、共ポリマーという語は2種以上の、共重合した単体あるいは重合した化学種の組み合わせによってできるポリマーを指す。
【0036】
ここで用いられる「生体親和性」物質という語は、医学上認められないような毒物を持たず、また生物の機能を損なうような影響を与えることもない性質をも意味する。
【0037】
ここで用いられる「水溶性」フィルムまたは発泡体という語は、1%重量/重量("w/w")で、修飾を受けていないポリアニオン性多糖類の水溶液を乾燥させてできるフィルムまたは発泡体を指す。このフィルムは3 cm×3 cm×0.3 cmの大きさをもつが、ビーカー中、20℃に保温した50 mlの蒸留水に入れて、攪拌せずに放置しておくと、3分後には元のフィルムの構造を失い、20分以内に完全に消失してしまう。本発明において用いられる「水不溶性」フィルムというのは、ここでは、既成の用語のようにして用いられているが、これは、ポリアニオン性多糖類の1%水溶液から作られ、前述したようにして修飾されて、上述の物質と同じ大きさをもつが、ビーカー中、20℃に保温した50 mlの蒸留水に入れて、攪拌せずに放置すると、20分後でも、元の形のままで、24時間経過しても、フィルムの境目や縁がまだ目に見えるものを云う。
【0038】
本発明に係る発泡体やフィルム、その他の形状物は、反応液の中に染料を混ぜることによって、彩色を施した形で調製できる。このような色付きのフィルムやゲルは、置いてある場所が分かり、装着させる時にも、すぐにわかるので、手術を進めている間の取扱いが、無色のものに比べて容易である。
【0039】
一般的に、本発明の組成物は、以前からある化合物に較べて、生体親和性と物理的性質の点で改良されている。このため、本発明の組成物は、傷害を受けた組織同士の癒着を阻止するための方法のなかで特に有用である。一種以上の本発明の組成物を、治癒期間中、癒着を阻止するのに必要な量、癒着しそうな損傷組織(例えば、手術による切開部や外傷部)に装着させることができる。本組成物は、組織組織どうしを一時的に隔離するものとして働き、そのままの所に残り、しばらくすると組成物は再吸収されて組織どうしが接触するようになるが、その時にはもう、組織どうしが癒着する虞れはなくなっている。
【0040】
付加的な用途としては、神経が損傷を受けた後、神経腫が発生する危険を抑えながら、神経突起を誘導して、起始円錐の伸長を促すため、発泡体やフィルム、ゲルを管状あるいはマトリクス状に成形して神経誘導装置をデザインすることも含まれる。また、これらは細胞の増殖や移動のための足場としても有用である。例えば、腱や靱帯や軟骨の再生だけでなく皮膚の再生にも役立つ。また、生体親和性組成物は、その作製前か後に薬剤を取り込ませることができ、その放出を制御できるので、これらの物質は、薬剤輸送の媒体としても適している。
【0041】
疎水性生物吸収ポリマーに結合した、水不溶性のポリアニオン性多糖類組成物は、さらに、コーティングされていない、化学修飾されたあるいは非修飾のポリアニオン性多糖類に較べて、次のような点で優れている。即ち、構造的特性を改良したため、乾燥状態においても、液体中においても、その製品は丈夫で扱い易く、長い間生体内にとどめておくことができる。また、ポリアニオン性多糖類成分は水に溶けにくいため、組成物の接着性と装着性を保持できる。さらに、疎水性生物吸収ポリマー成分を加えることによって、外科手術後の癒着を防止する効果が向上した。本組成物は片面を組織に接着させるために親水性に、もう片面を非接着性の疎水性になるよう加工することもできる。疎水面があるために親水面が水和しにくくなり、また、疎水面によって、他の組織や手術器具、手袋などが組成物に癒着するのを防ぐ一方で、親水面は組織に接着する。
【0042】
その他の特徴や利点は以下に述べる説明と特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0043】
[発明の実施の形態]
ポリアニオン性多糖類とその塩類は様々な、一般の商業的製造業者から入手することができる。水不溶性ポリアニオン性多糖類ゲルやフィルムおよび発泡体は、本発明で用いる、いずれの方法によっても調製することができよう。ゲルは、前述したように、糖鎖分子間あるいは分子内に共有的交差結合を形成させることによって作製することができる(例えば、「Sparerら、上記; DeBelderら、上記;Balazsら、上記;Malsonら、上記; Prestwichら、欧州特許公開0416250号, 1991年」)。この他、「Hamiltonら、米国特許第4,937,270号; Burnsら、米国特許第5,017,229号, 米国出願番号(U.S.S.N.) 07/703,254と、07/833,973」(これらはこの点に関して参照とした)に述べられている方法を用いれば、ポリアニオン性多糖分子間の共有結合的な交差結合を持たない水不溶性ゲルを作製することもできよう。
【0044】
水溶性のポリアニオン性多糖類とその誘導体を含む、発泡体状またはフィルム状の組成物は、水溶液を凍結乾燥して作り出すことができる。
【0045】
水不溶性のポリアニオン性多糖類組成物を含む組成物も、必要ならばフィルムや発泡体、粉末あるいは繊維にして作製することができる。例えば、フィルム状にするには、一般的には、反応混合液を、必要な大きさと形を持つ、平らな容器に注ぎ込んで風乾させる。
【0046】
水不溶性ゲルを、水が流れ出るように工夫した上で、圧縮してフィルムを作ることもできる。例えば、水不溶性ゲルを2つの面の間に置き、少なくとも一方の面をすでに述べたような、多孔性の、例えば、欧州特許第193 510号に記載の膜にして圧縮する。
【0047】
また材料をシート状にする別の方法には、凍結乾燥するという方法がある。最終的な製品の孔の大きさは、凍結開始温度や乾燥条件を調節することで制御することができる。表面にカーブをつけたり、別の形にすることも、水不溶性ゲルを、表面の形の鋳型に流し込んで、すでに述べた方法で加工すれば、同じようにして生産することができる。乾燥させたシートは、必要ならば、例えば、カーヴァー型実験室用プレス機などで規定の厚さにプレスして、さらに加工できる。これは特に、解剖学的構造上限られた間隙に薄層フィルムを置くことが必要な場合や、構造上強度を付加する必要がある場合に有用である。
【0048】
発泡体や繊維、他の形状の製品を成形するのには、プラスチックや織物工業で公知の技術を用いることもできる。
【0049】
例えば、水不溶性の多糖類誘導体の発泡体は、当業者に公知の凍結乾燥加工によって、作製することができ、例えば、「Yannasら、(米国特許第4,280954号)と、Dagalakisら、(1980年, J. Biomed. Mater. Res.,14巻, p.511-528)」は、コラーゲンとムコ多糖類の混合物を凍結乾燥し、気孔の構造を制御する方法を記述している。典型的な条件は、気温−20℃以下で250 mTorr以下の真空状態である。
【0050】
水不溶性の多糖類誘導体の繊維は、当業者にはよく知られている湿式紡績加工によって作製することができる。例えば、「Rupprecht(1979, Acta Chem.Scand., 33巻, p.799-780)」はヒアルロン酸の水溶液をエタノール凝析槽中で繊維状にする湿式紡績について述べている。この他、疎水性生物吸収ポリマーの繊維を、当業者によく知られている、より一般的な液化紡績技術によって作ることができる。例えば、「Wassermanら、(米国特許第3,792,010号と、第3,839,297号)」は、ラクチド−グリコリド共ポリマーの単繊維と網目状のポリエステル縫合物の製造法を記述している。この繊維は、当業者に公知の編み物または織物技術によって、生地にすることができる。
【0051】
ポリアニオン性多糖類組成物のフィルムあるいは発泡体となった誘導体は、脱水加熱処理(DHT:6-24時間、200-760mmHgで95-105℃に置く)によって強化することができ、疎水性生物吸収ポリマーに結合させることができる。例えば、ポリグリコリド(PGA)、ポリラクチド(PLA),またはPGA/PLAの共ポリマーのような生物吸収ポリマーは、0.5-50.0%(w/w)の濃度の、好ましくは1%-3%(w/w)の範囲の濃度の塩化メチレンやアセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、n-メチル-ピロリドンのような揮発性溶剤に溶かす。PGAとPLAの混合比率は、100%PGA、85%PGA:15%PLA、50%PGA:50%PLA、100%PLAなど様々な比率で用いることができるが、1:1PGA:PLAが好ましい。さらに、ポリジオキサノンやポリオルソエステル、ポリエステルカーボネート、ポリラクトン(特に、ポリカプロラクトン)、ポリヒドロキシ酪酸/バレリン酸などの疎水性生物吸収ポリマーも単一であるいは共ポリマーとして用いることができ、特にPLAとポリカプロラクトンの共ポリマーが用いられる。そして、これらの溶液を、5-100%の重量を得るために、2-20 psiの圧縮空気かアルゴンガスを入れた小型のクロマトグラフィー・スプレー機などのスプレー用器具を用いて、ポリアニオン性多糖類を基質とする装置に、スプレーする。コーティングされた発泡体は、1-50 mmのスペーサーを持ったカーヴァー実験室用プレス機を使って1.0-5.0メートルトンで薄膜に圧縮することができるが、圧縮しないで厚い発泡体のまま利用することもできる。
【0052】
第一の別法においては、一定の形のポリマー(フィルム、発泡体、メッシュなど)を、ポリアニオン性多糖類の発泡体かフィルムの上に加熱プレスして、多糖類を基質にする材料と疎水性生物吸収ポリマーを貼り合わせる。貼り合わせの好ましい条件は、それぞれの疎水性ポリマーの熱に対する特性によるが、一般的には次の範囲に含まれるであろう、即ち、40-230℃で0-8メートルトンで0-5分間圧縮する。さらに、貼り合わせた後プラズマ処理すれば、疎水性ポリマーはより親水的になる。
【0053】
第二の別法においては、生物吸収ポリマー繊維を一定の長さに切断して、フィルムや発泡体に成形したり凍結乾燥したりする前に、多糖類溶液の中に拡散させて、多糖類を基質とする素材に取り込ませる。生物吸収ポリマー繊維をメッシュ状あるいはマット状の土台の上において、多糖類を基質とする溶液をその上に流し込んでもよい。
【0054】
第三の別法においては、上述したスプレーコーティング法以外の方法によって、多糖類を基質とするフィルムや発泡体を、疎水性ポリマーでコーティングする。例えば、PGA、PLA、または、共ポリマーのPGA/PLA、PLA/ポリカプロラクトンあるいはPGA/ポリカプロラクトンなどの生物吸収ポリマーは、濃度0.5-50%、好ましくは1.0-3.0%の有機溶媒に溶かすことができる。そして、このポリマー溶液をへらで延ばすか、多糖類を基質とするフィルムや発泡体の表面に流しかけて、乾燥させればよい。これに代わる方法として、水不溶性の多糖類を基質とする装置を、ポリマー溶液に浸漬してから、ポリマーを取り込ませるために風乾する方法がある。
【0055】
さらに別の方法として、水不溶性多糖類誘導体を核にして、疎水性生物吸収ポリマーでコーティングした合成繊維を作る方法がある。PGA/PLA、PLA/ポリカプロラクトンあるいはPGA/ポリカプロラクトンなどの生物吸収ポリマーを溶かし込んだ有機溶媒を入れた凝析槽の中に、紡糸口金あるいは注射針の先から、多糖類誘導体を含む水溶液を突き出す。水不溶性の多糖類を基質とする素材は、凝析層の中で沈澱すると同時に生物吸収ポリマーでコーティングされる。これに代わる方法として、湿式紡績加工の凝析段階の後、生物吸収性の疎水ポリマー溶液の中で多糖類誘導体繊維を紡ぎ取れば、水不溶性の多糖類を基質とする繊維を生物吸収性の疎水ポリマーでコーティングすることもできる。
【0056】
本発明については、以下に述べる実施例でさらに詳しく説明する。これらの実施例は、具体例を示して説明してあるが、請求の範囲で明示される場合を除いて、本発明に制限を加えるものではない。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
HA(5.5 g、13.7モル、分子量2,350,000)とCMC(2.5 g、9.7モル、分子量 250,000)の水(1L)溶液を0.1M HClでpH4.74に調整した後、1-(-3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(10.6 g 55.5モル)を加えた。0.1M HClを加えながら、溶液のpHを4.6-5.1の間に1時間維持した。この反応溶液を、チューブ型の膜(カットオフ分子量12-14,000)の中に入れ、pH4.0の脱イオン水に対して、24時間透析を行った。精製した、化学的修飾されたHA/CMC溶液をステンレス製の平型容器に注ぎ込んで、凍結乾燥して固形状の発泡体シートにした。生成物の温度を、厳密に0.1 ℃/minの速度で-20℃まで下げた。次に、乾燥過程は150 mTorrに設定した真空状態の下で、設定温度を0.1 ℃/minの速度で0℃まで上げた。そして、温度を0℃に900分間保った後、0.1 ℃/minの速度で27℃まで上げた。発泡体はその後、脱水加熱処理(24時間、105℃、200μmHg)を施して強化した。そして、この発泡体は、コーティングする前に重さを測ってからポリプロピレン製の枠に中に入れた。
【0058】
ラクチド/グリコリドの共ポリマー(2.0g、50%PGA:50%PLA、メディソーブ社)を塩化メチレン(100 ml)に溶かした。このコーティング溶液は、圧縮空気を入れた、小型のクロマトグラフィー・スプレー機で発泡体の上に5psiずつスプレーされた。泡の大きさとスプレーからの噴霧量を計算して、それぞれに噴霧継続時間を変えて、重量を10-15%増加させるようにした。スプレーした後すぐ覆いをして、塩化メチレン溶剤の蒸発を抑えた。乾燥させた後、発泡体を圧縮して(1メートルトンの圧力で15秒間、スペーサーの厚さは0.25 mm)薄層フィルムにし、切り出して包装し、2.5Mradでガンマ線を照射した。
【0059】
この方法で調製された素材は、次に、外科手術後の癒着阻害効果を、ラットの盲腸剥離モデル「Goldbergら、Gynecologic Surgery and Adhesion Prevention.Willey-liss, pp.191-204, 1993」を用いて評価した。HA/CMC膜または発泡体、Interceed TC7膜(ジョンソン・アンド・ジョンソン社)、および、PGA:PLAポリマーでコーティングしたHA/CMCフィルムまたは発泡体を、剥離手術したラットの盲腸の周りに置いて、無処理のコントロール(盲腸を剥離されたが、何の治療も受けないラット)と比較した。2つの実験の結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

これらの結果、PGA:PLAポリマーでコーティングしたフィルムまたは発泡体は、コントロール・グループ、Interceed TC7の処置を受けた動物、または、HA/CMCフィルムあるいは発泡体の処置を受けた動物のいずれと比較しても、すべて癒着形成を減少させていることが分かった。
[実施例2]
本実施例においては、米国特許4、937、270号の方法に従って作製された,修飾されたHA/CMCの粉末(4.5 g)を、高速ブレンダー(1000 rpmで20分間)で蒸留水(450 ml)に懸濁した。この懸濁液をテフロン(登録商標)でコーティングしたスチール製の平型容器に注ぎ入れ、凍結乾燥させて固形の発泡シートにした。凍結乾燥は、実施例1に示されるようにして行われた。
【0061】
ポリラクチドの共ポリマー(90%PLA-L:10%PLA-DL)の薄膜をメディソーブ社から購入した。そして、HA/CMC発泡体とポリラクチドフィルムを共に加熱プレスして薄層シートにした(155-165℃、15-30分間、1メートルトン、0.30 mmスペーサー)。組成物の湿潤伸展性を、500 gのおもりを備えたInstronTM Universal Testing System Model 4201によって測った。測定用のチャンバーは、サンプルを生理的に正常な条件下に置きつつ、その構造的特性を測定できるよう、特別に設計した。表2に示した結果、フィルムが破れる時にかかる荷重は、PLAを貼り付けたHA/CMCの発泡体において、かなり改良されていることが分かった。本実験では、生理的な環境(25℃でpH 7の緩衝食塩水)条件になるよう、チャンバーを特別に設計して、サンプルを検定した。ラミネートが剥がれ始めるのは、25 mmの所で、クロスヘッドの速度は5 mm/minである。
【0062】
【表2】

[実施例3]
本実施例において、修飾されたHA/CMCの粉末(4.5 g)を、高速ブレンダー(1000 rpmで20分間)を用いて、蒸留水(450 ml)に懸濁した。100%PGA膜の切片を、テフロンでコーティングしたステンレス製の平型容器の中に置いた。HA/CMCの懸濁液を平型容器に流し込んで、実施例1で述べた手順に従って、凍結乾燥して、固形の発泡シートにした。発泡体と膜組成物を圧縮して(1メートルトンの圧力で15秒間、スペーサーの厚さは0.25 mm)薄膜状にして、脱水加熱処理(100℃、6時間)して強化した。組成物の湿潤伸展性を評価して、表2に示した。組成物を濡らしたときの強度は、元の発泡体の強度よりずっと優れていた。
【0063】
実施例2と3の結果から、HA/CMC発泡体と疎水性生物吸収ポリマーの合成物は、加水条件(湿潤荷重)下で、疎水性生物吸収ポリマーなしのHA/CMC発泡体よりも、ずっと高い強度を持つことが示された。
[実施例4]
ヒアルロン酸(5.5 g、13.7モル、分子量2,350,000)とカルボキシメチルセルロース(2.5 g、9.7モル、分子量250,000)を1リットルの水に溶かし、溶液のpHを0.1 M HClで4.75に調整した。そして、1-(-3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド(10.6 g、55.5モル)を加えた溶液に、0.1 M HClを加えて、1時間、pHを4.6-5.1の間に維持した。次に、この反応溶液をpH 4.0の蒸留水に対して透析した(分子量12-14,000を除去)。精製した反応混合液は、ポリスチレン製の平型容器に2.2 g HA/CMC/ft2 の密度になるよう流し込んだ。
【0064】
デキソン縫合糸を切断してポリグリコール酸繊維を調製した。この繊維を水の中で超音波破砕して、繊維が高度に絡み合ったマット様素材を作製した。次に、この素材を塩化メチレンの中で水和させて、繊維を融合させ、その後この繊維を風乾した。その結果できたマット様素材を、成形されたHA/CMC反応混合物の上に、0.1 g/ft2 の密度になるように置いた。それから全組成物を風乾して、PGA繊維と修飾されたHA/CMCの2層膜を作製した。
[実施例5]
哺乳動物の細胞を、有形の基質に接種して育てる手順は、当業者には公知である。この基質の目的は、細胞を支持すること、細胞が基質を通って移動できるようにすること、細胞を移植するための取扱いを容易にすることと移植した細胞をその場所に固定するのに役立てることである。本発明に係る、新しいPAS合成物をこの目的に合った基質として利用することができる。一例として、実施例2で述べたところに従って作製された、PAS誘導体の疎水性生物吸収基質を細胞培養皿の大きさと形に切る。皮膚からトリプシン処理によって分離するか、標準的な細胞系として入手した(例えば、ATCCから入手可能である)哺乳類の線維芽細胞を、約95-100%の相対湿度で5%二酸化炭素を含む環境下、37℃で培養する。細胞が成長したところで、これらの線維芽細胞をトリプシン処理して培養器から取り出して、ウシ胎児血清を入れた培養液で洗浄する。細胞密度を約104から106細胞数/mlに調整する。
【0065】
培養皿の中に、基質の疎水面を下にして置き、この基質の上に細胞懸濁液を載せ、懸濁液が基質全面を覆ったことを確かめてから、この混合物を5%CO2、37℃でインキュベートする。細胞増殖が基質全体に起こるまで、この細胞を培養する。こうして線維芽細胞が浸透した基質を、皮膚の潰瘍部や火傷、傷害部に置き、怪我の治癒を助長したり、皮膚の代わりをしたりさせる。線維芽細胞の好ましい供給源は、自家組織である。しかし、自家組織を利用するのが不都合か、あるいは自家組織を利用するのが容易でないときは、同種のあるいは異種の線維芽細胞を用いることができる。同種のあるいは異種の細胞を含む生体親和性基質は、治癒過程で、自家細胞が移動し、定着するのを助長するための、細胞外の足場を提供するものとして有用である。必要ならば、非自家細胞を含む生体親和性基質を、標準的な免疫抑制剤(例えば、ステロイドやアザチオプリン、シクロスポリン)と同時に(例えば、基質を置くのと同時か、その直後に)投与することもできる。
【0066】
さらに、生体親和性基質には薬剤や成長因子を充填して、それぞれ、装着部位が感染するのを防いだり、細胞の成長を促したりすることができる。例えば、TGFβ2を含む線維芽細胞浸透基質は、特に表皮細胞の成長を促進するのに役に立つと期待される。
【0067】
我々は、これらの装置の操作性を向上させ、また、実験動物のモデルでは従来の製品に比べて、手術後に癒着が起こるのを、より効率的に阻止できることを示した。これらの実験で、HA/CMC装置、またはInterceed TC7フィルム(ジョンソン・アンド・ジョンソン社から癒着防止用に販売されている)で処置した動物や無処理の対照用動物と比較すると、HA/CMC:PGA/PLA組成物は、より効率的に癒着形成を抑制した。
【0068】
本発明の水不溶性組成物は、腹部手術や尿生殖路の手術、神経の手術、関節の手術、あるいは眼科手術で、癒着形成することなく組織をそのままの場所に置いておく必要があるときに用いることができる。また、それらはカテーテルや腸管吻合、内視鏡手術、血管移植、補てん装置などにおいて、潜在的な漏出部位をつなぎ合わせたり封鎖する必要があるときに吻合部位の封鎖剤として利用できる。つまり、新しい生体親和性繊維として、糸や紐、織ったあるいは不織の細幅布、布、マットに加工したり、傷口を閉じるための縫合糸にもなる。また、静脈瘤になった血管や腫瘍、動脈瘤を取り除くときの硬化剤としても利用でき、人工的細胞外基質の素材として、皮膚や腱、靱帯、骨、軟骨および、その他の組織や器官の細胞や組織の代替物として利用することもできる。
【0069】
癒着を有効に阻害するのに必要な時間的長さは、手術の種類や傷害によって異なる。一般的には、組織は少なくとも48時間は分離しておくべきであるが、好ましくは、その期間は少なくとも7日である。従って、組成物の親水性や疎水性の程度を変えたり、用いるポリアニオン性多糖の濃度を変化させたり、用いるフィルムや発泡体、ゲル、繊維などの厚さを変えたりして、個々の状況で用いられる組成物の拡散速度を様々に変えるようにする。これらの性質は、通例となった手順で変更することができ、手術や外傷によって、どのような性質が必要とされるかは、ここで述べた実施例を指針として、通例の実験によって決定することができる。
【0070】
さらに、本発明のフィルム、発泡体あるいはゲルを薬剤輸送に用いることができる。例えば、迅速で局所的な輸送が必要な場合には、本発明に含まれる可溶性組成物を用いることができる。これに対し、持続的な放出を必要とする薬剤輸送には、水不溶性のポリアニオン性多糖を含む組成物が有用である。輸送されるべき薬剤は、組成物の中に拡散させることができ、また、例えば、「R.V.Sparerら、1983年、6章,107-119頁, T.J.Rosemanら、制御された運搬放出システム、Mercel Dekker, Inc., New York」で述べられているように、発泡体やフィルムやゲルに共有結合させることもできる。そして、この発泡体やフィルムやゲルを、輸送が必要な部位に装着したり注入したりできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性生物吸収ポリマーに結合したポリアニオン性多糖類を含む、水不溶性生体親和性組成物。
【請求項2】
請求項1の組成物において、ポリアニオン性多糖類が水不溶性誘導体の形状で存在する組成物。
【請求項3】
請求項1または2の組成物において、ポリアニオン性多糖類が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸またはデルマタン硫酸の中から選択される組成物。
【請求項4】
請求項3の組成物において、カルボキシメチルアミロースがポリアニオン性多糖類である組成物。
【請求項5】
請求項3の組成物において、ポリアニオン性多糖類がカルボキシメチルセルロースである組成物。
【請求項6】
請求項3の組成物において、ヒアルロン酸がポリアニオン性多糖類である組成物。
【請求項7】
請求項2の組成物において、生体親和性組成物が2種以上のポリアニオン性多糖類を含む組成物。
【請求項8】
請求項7の組成物において、2種のポリアニオン性多糖類がヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースである組成物。
【請求項9】
請求項1または2の組成物において、疎水性生物吸収ポリマーがポリグリコリド、ポリラクチド、ポリジオキサノン類、ポリエステルカーボネート類、ポリヒドロキシアルコネート類、ポリラクトン類および、これらの共ポリマーの中から選択されたものである組成物。
【請求項10】
請求項9の組成物において、ポリグリコリドが疎水性生物吸収ポリマーである組成物。
【請求項11】
請求項9の組成物において、ポリラクチドが疎水性生物吸収ポリマーである組成物。
【請求項12】
請求項9の組成物において、ポリグリコリドとポリラクチドの共ポリマーが疎水性生物吸収ポリマーである組成物。
【請求項13】
請求項9の組成物において、ポリグリコリド/ポリカプロラクトンの共ポリマーが疎水性生物吸収ポリマーである組成物。
【請求項14】
請求項9の組成物において、ポリラクチド/ポリカプロラクトンの共ポリマーが疎水性生物吸収ポリマーである組成物。
【請求項15】
請求項1または2の組成物において、膜の形状をもつ組成物。
【請求項16】
請求項1または2の組成物において、発泡体の形状にある組成物。
【請求項17】
請求項2の組成物において、繊維の形状にある組成物。
【請求項18】
請求項1または2の組成物において、さらに薬剤を含む組成物。
【請求項19】
請求項18の組成物において、薬剤がタンパク質、生物ポリマー、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、細胞毒性因子、抗生物質またはオリゴヌクレオチドの中から選ばれたものである組成物。
【請求項20】
請求項7の組成物において、さらに薬剤を含む組成物。
【請求項21】
請求項20の組成物において、薬剤がタンパク質、生物ポリマー、ステロイド、非ステロイド系抗炎症剤、細胞毒性因子、抗生物質またはオリゴヌクレオチドの中から選ばれたものである組成物。
【請求項22】
請求項2の組成物において、さらに生物の細胞を含む組成物。
【請求項23】
請求項22の組成物において、細胞と混合された組成物。
【請求項24】
請求項22の組成物において、細胞を浸透させた組成物。
【請求項25】
請求項22の組成物において、細胞が哺乳類に由来する組成物。
【請求項26】
請求項25の組成物において、哺乳類がヒトである組成物。
【請求項27】
請求項22の組成物において、細胞が線維芽細胞を含む組成物。
【請求項28】
請求項22の組成物において、細胞が骨細胞を含む組成物。
【請求項29】
請求項22の組成物において、細胞が軟骨細胞を含む組成物。
【請求項30】
請求項22の組成物において、細胞がケラチノサイトを含む組成物。
【請求項31】
請求項22の組成物において、細胞が腱細胞を含む組成物。
【請求項32】
請求項22の組成物において、細胞が未分化の間葉細胞を含む組成物。
【請求項33】
請求項22の組成物において、細胞が2種以上の細胞型の混合物である組成物。
【請求項34】
請求項22の組成物において、さらに薬剤を含む組成物。
【請求項35】
請求項34の組成物において、薬剤が成長因子である組成物。
【請求項36】
請求項34の組成物において、薬剤が抗生物質である組成物。
【請求項37】
請求項7の組成物において、さらに生物の細胞を含む組成物。
【請求項38】
請求項37の組成物において、細胞と混合された組成物。
【請求項39】
請求項37の組成物において、細胞を浸透させた組成物。
【請求項40】
請求項37の組成物において、細胞が哺乳類に由来する組成物。
【請求項41】
請求項40の組成物において、哺乳類がヒトである組成物。
【請求項42】
請求項37の組成物において、細胞が線維芽細胞を含む組成物。
【請求項43】
請求項37の組成物において、細胞が骨細胞を含む組成物。
【請求項44】
請求項37の組成物において、細胞が軟骨細胞を含む組成物。
【請求項45】
請求項37の組成物において、細胞がケラチノサイトを含む組成物。
【請求項46】
請求項37の組成物において、細胞が腱細胞を含む組成物。
【請求項47】
請求項37の組成物において、細胞が未分化の間葉細胞を含む組成物。
【請求項48】
請求項37の組成物において、細胞が2種以上の細胞型の混合物を含む組成物。
【請求項49】
請求項37の組成物において、さらに薬剤を含む組成物。
【請求項50】
請求項49の組成物において、薬剤が成長因子である組成物。
【請求項51】
請求項49の組成物において、薬剤が抗生物質である組成物。
【請求項52】
組成物を形成するのに適した条件下で、ポリアニオン性多糖類を疎水性生物吸収ポリマーに結合することを含む、生体親和性組成物の製造方法。
【請求項53】
請求項52の方法において、ポリアニオン性多糖類がフィルムあるいは発泡体の形状である方法。
【請求項54】
請求項52の方法において、ポリアニオン性多糖類が水不溶性誘導体の形状である方法。
【請求項55】
請求項53または54の方法において、ポリアニオン性多糖類を疎水性生物吸収ポリマーでコーティングして結合させることを含む方法。
【請求項56】
請求項53または54の方法において、ポリアニオン性多糖類に疎水性生物吸収ポリマーをスプレーしてコーティングすることを含む方法。
【請求項57】
請求項54の方法において、水不溶性のポリアニオン性多糖類の誘導体に疎水性生物吸収ポリマーを塗ってコーティングすることを含む方法。
【請求項58】
請求項54の方法において、水不溶性のポリアニオン性多糖類誘導体を疎水性生物吸収ポリマーに浸漬してコーティングすることを含む方法。
【請求項59】
請求項53または54の方法において、水不溶性のポリアニオン性多糖類誘導体の片側だけにコーティングを施すことを含む方法。
【請求項60】
請求項52の方法において、疎水性生物吸収ポリマーの繊維をポリアニオン性多糖類の懸濁液に拡散させて結合させることを含む方法。
【請求項61】
請求項53または54の方法において、疎水性生物吸収ポリマーのフィルムをポリアニオン性多糖類上に圧縮して結合することを含む方法。
【請求項62】
生体外で細胞の成長と増殖を促す方法において、細胞のサンプルを得、該細胞を、疎水性生物吸収ポリマーに結合したポリアニオン性多糖の水不溶性誘導体を含む生体親和性基質と混合し、さらに該混合物を、細胞の成長を促進し細胞が基質に浸透するのに適した条件の下で培養することを含む方法。
【請求項63】
哺乳類の生体の傷害部位で細胞成長と増殖を促すための組成物において、当該傷害部位の治癒を促進することができ、疎水性生物吸収ポリマーに結合したポリアニオン性多糖類の水不溶性誘導体を含む生体親和性基質と混合した細胞のサンプルを含む組成物。
【請求項64】
請求項63の組成物において、哺乳類の傷害部位に用いる前に、当該混合物を、細胞の成長を促し、該細胞が基質に浸透して行くのに適した条件の下で培養した組成物。
【請求項65】
請求項63の組成物において、細胞が線維芽細胞を含む組成物。
【請求項66】
請求項63の組成物において、細胞が骨細胞を含む組成物。
【請求項67】
請求項63の組成物において、細胞が軟骨細胞を含む組成物。
【請求項68】
請求項63の組成物において、細胞がケラチノサイトを含む組成物。
【請求項69】
請求項63の組成物において、細胞が腱細胞を含む組成物。
【請求項70】
請求項63の組成物において、細胞が未分化の間葉細胞を含む組成物。
【請求項71】
請求項63の組成物において、さらに水不溶性基質に充填された薬剤を含む組成物。
【請求項72】
請求項71の組成物において、薬剤が、哺乳類の傷害部位における、細胞の成長と増殖を一層促進することができる成長因子である組成物。
【請求項73】
請求項72の組成物において、生長因子がTGF-β2である組成物。
【請求項74】
請求項71の組成物において、薬剤が抗生物質である組成物。
【請求項75】
請求項1の組成物において、ポリアニオン性多糖類が、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、ヒアルロン酸、コンドロイチン-6-硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸またはデルマタン硫酸の中から選択される組成物。
【請求項76】
請求項75の組成物において、ポリアニオン性多糖類がカルボキシメチルアミロースである組成物。
【請求項77】
請求項75の組成物において、ポリアニオン性多糖類がカルボキシメチルセルロースである組成物。
【請求項78】
請求項75の組成物において、ポリアニオン性多糖類がヒアルロン酸である組成物。
【請求項79】
請求項1の組成物において、生体親和性組成物が2種以上のポリアニオン性多糖類を含む組成物。
【請求項80】
請求項79の組成物において、2種以上のポリアニオン性多糖類がヒアルロン酸とカルボキシメチルセルロースである組成物。
【請求項81】
請求項1の組成物において、生物吸収性ポリマーが、ポリマーポリグリコリド、ポリラクチド、ポリジオキサノン、ポリエステルカーボネート、ポリヒドロキシアルコネート、ポリラクトンあるいはこれらの共ポリマーの中から選択される組成物。
【請求項82】
請求項1の組成物において、膜状である組成物。
【請求項83】
請求項1の組成物において、発泡体状である組成物。
【請求項84】
請求項1の組成物において、繊維状である組成物。
【請求項85】
請求項1の組成物において、さらに薬剤を含む組成物。

【公開番号】特開2012−205928(P2012−205928A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−164278(P2012−164278)
【出願日】平成24年7月25日(2012.7.25)
【分割の表示】特願2007−181599(P2007−181599)の分割
【原出願日】平成7年10月6日(1995.10.6)
【出願人】(500034653)ジェンザイム・コーポレーション (37)
【Fターム(参考)】