ポリアニオン系化合物の合成方法
【課題】均一性の高いLi2MSiO4を合成する。(Mは遷移金属)
【解決手段】Si源としてコロイダルシリカを用い、リチウム源及び遷移金属源として水溶液にできる塩を用いて固相反応法により得る。
【解決手段】Si源としてコロイダルシリカを用い、リチウム源及び遷移金属源として水溶液にできる塩を用いて固相反応法により得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料として利用可能なLi2MSiO4の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極材料の一つとして、オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系のLiMPO4や、オリビン型でポリアニオン系のLi2MSiO4(非特許文献1)、オリビンに類似するポリアニオン系のLi2MSiO4が提案されている(非特許文献2,なお、MはMn、Feなどの遷移金属元素を示す)。特に、2電子反応が可能な組成式を持つポリアニオン系化合物のLi2MSiO4は、主な構成元素であるFe又はMnと、Siとが地殻内に豊富に存在することから、実用化した後の有用性が高いと考えられる。この化合物の製造方法例としては、例えば非特許文献2のような合成方法の提案がされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Is it possible to prepare olivine−type LiFeSiO4? A joint computational and experimental investigation (SOLID STATE IONICS 179(2008)1758−1762)
【非特許文献2】Microwave−Solvothermal Synthesis of Nanostructured Li2MSiO4/C (M=Mn and Fe) Cathodes for Lithium−Ion Batteries (Chem. Mater., 2010, 22 (20), pp 5754-5761)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Li2MSiO4はその製造段階で、Li2SiO3やM2SiO4などの結晶を副生することが多く、試料の均一性を十分に確保することが難しかった。これは特に、MがFeの場合に顕著であり、Li2FeSiO4を高い均一性で得ることはむずかしかった。
【0005】
そこでこの発明は、Li2MSiO4の合成にあたり、得られる化合物の均一性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、コロイダルシリカをSi源として用いることで、上記の課題を解決したのである。コロイダルシリカを用いることにより、リチウム及び遷移金属元素との混合が進みやすくなり、焼成して得られるLi2MSiO4の相の均一性を向上させることができる。これに合わせて、リチウム源、及び遷移金属源は、水溶液として混合するのに十分な水溶性を有するものを用いるとよく、水溶液として混合した上で、コロイダルシリカと混合することにより、コロイダルシリカを用いることによる効果を十分に発揮させることができる。コロイダルシリカはSiO2の粒径が極めて小さいため、他の成分と混合しやすく、得られる化合物の均一性を向上させやすくなるが、他の成分も水溶性にすることでさらに均一性は向上する。
【0007】
また、この上記の焼成にあたって、炉内に粉体の炭素源を共存させておくと、好適な脱酸素効果及び還元効果を発揮して、焼成して得られるLi2MSiO4の相の均一性をさらに向上させることが出来る。この粉体の炭素源は焼成する材料の出来るだけ近くに置くことが望ましく、場合によっては接触させておいてもよい。
【0008】
さらに、用いるコロイダルシリカは、製造時に混入するNa成分を出来るだけ低減除去させておくことが望ましい。Na成分が多いと、不純物となり相の均一性が低下するだけでなく、Li2MSiO4が生成できなくなる場合もある。
【0009】
さらにまた、上記焼成の前に材料を混合した状態で、全体を凍結乾燥させると、材料を構成する個々の粒子を効率良く均等に微細化することができ、その後の焼成反応を進みやすくして副生物の生成率を抑え、得られるLi2MSiO4の相の均一性をより高めることができる。
【0010】
なお、Li2MSiO4は、Li:M:Si=2:1:1の量比に完全に一致する場合に限らず、同様の製造方法で焼成して得ることができる範囲で、量比が前後していてもよい。Liは1〜2当量の間で前後させることが可能であり、MとSiとは1:1ではなく、0.5〜1.5程度の範囲でいずれかに偏っていてもよい。すなわち、Li2−xM1−ySi1+yO4について、0≦x≦1、−0.5≦y≦0.5程度の範囲で拡張が可能である。その際、製造に用いるリチウム源、遷移金属源、コロイダルシリカの当量を、製造する材料の量比に合わせて調整する。
【0011】
なお、上記のコロイダルシリカの代わりに、粒径1μm以下の溶融シリカを用いても、コロイダルシリカに近い混合性を確保することが可能であり、得られるLi2MSiO4の均一性を向上させることができる。通常の溶融シリカであれば粒径が10μm前後以上であるため、十分に混合できないが、極端に粒径を細かくしたものであれば、十分な混合が可能である。
【発明の効果】
【0012】
この発明により、均一性が高く、充放電反応において安定した出力を発揮する正極材料を得ることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1にかかる低Naコロイダルシリカを用いたLi2FeSiO4の500〜700℃で焼成したXRDデータ
【図2】実施例2にかかる低Naコロイダルシリカを用いたLi2FeSiO4の焼成時間を1〜24時間に変更したXRDデータ
【図3】参考例1にかかる低Naコロイダルシリカを用い、アルゴン雰囲気下で焼成したXRDデータ
【図4】実施例3aにかかる、前駆体法でアルゴン雰囲気下にて焼成したLi2FeSiO4のXRDデータ
【図5】実施例3bにかかる、前駆体法で還元雰囲気下にて焼成したLi2FeSiO4のXRDデータ
【図6】実施例4にかかる、低Naコロイダルシリカを用いてLi2MnSiO4の500〜800℃で還元雰囲気下にて焼成したXRDデータ
【図7】実施例5にかかる、低Naコロイダルシリカを用いてLi2MnSiO4の600℃で雰囲気を変更して焼成したXRDデータの比較図
【図8】実施例6にかかるNa含有コロイダルシリカを用いたLi2FeSiO4の500〜800℃で焼成したXRDデータ
【図9】実施例7にかかるNa多コロイダルシリカを用いたものと実施例4にかかるNa少コロイダルシリカを用いたものとのLi2MnSiO4XRDデータ
【図10】実施例8にかかるXRDデータ
【図11】実施例9にかかるXRDデータ
【図12】実施例10にかかるXRDデータ
【図13】実施例11にかかるXRDデータ
【図14】実施例12にかかるXRDデータ
【図15】実施例13の前駆体及び焼成体の拡大写真
【図16】実施例14の前駆体及び焼成体の拡大写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明にかかる実施形態を詳細に説明する。
この発明は、Li2MSiO4の製造にあたり、リチウム源と遷移金属源とコロイダルシリカとを攪拌混合した後、熱処理する製造方法である。ここで、Mは周期律表第四周期の遷移金属を表す。Li2MSiO4は、オリビンに類似した結晶構造を有するポリアニオン系シリケート化合物である。
【0015】
上記コロイダルシリカとは、液中にSiO2の粒子がコロイド状に分散している分散液である。この発明で用いるコロイダルシリカの液中におけるSiO2の重量平均粒子径は、1nm以上であると好ましく、4nm以上であるとより好ましい。重量平均粒子径が1nm未満となることは現実的ではなく、そのような材料を得ること自体が困難である。一方で10nm以下であると好ましく、6nm以下であるとより好ましい。10nmを超えるコロイダルシリカでは、含まれるSiO2粒子が十分に他の成分の溶質と混合されず、均一な相が得られにくくなってしまう。
【0016】
上記コロイダルシリカに含まれるSiO2の含有量は、2質量%以上が好ましく、5質量%以上であるとより好ましい。少なすぎると乾燥時に時間が掛かりすぎてしまう。一方で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。30質量%を超えるとコロイドが十分に分散せずに凝集してしまうおそれがあり、リチウム源及び遷移金属源との混合も進みにくく、混合が不充分になって相の均一性が低下するおそれがある。
【0017】
上記コロイダルシリカのpHは2.0以上4.0以下であることが好ましい。この範囲から外れると、コロイドが安定せず、凝集を起こしたり、他の成分が混入したりして混合が十分に進まなくなるおそれがある。
【0018】
上記コロイダルシリカが含有するSiO2は、高純度であるほど好ましい。コロイダルシリカは通常、珪酸ナトリウムを原料として製造されるため、Naが残存することが多い。また、それ以外の製造手法では、アルカリ金属やアルカリ土類金属が混入するおそれがある。これらの残存するアルカリ金属やアルカリ土類金属は、得られるLi2FeSiO4の均一性を悪化させる原因となるため、含有量が低いほど望ましい。具体的には、上記コロイダルシリカに含まれるSiO2中の含有量が質量比で200ppm以下であると好ましく、100ppm以下であるとより好ましい。
【0019】
次に、この発明で用いるリチウム源は、リチウム塩化合物を用いることができる。特に、上記コロイダルシリカとの混合を進行させ易くするために、水溶液として使用できる水溶性であることが好ましく、易溶性であるとより好ましい。具体的には、常温における水への溶解度が、10g/100ml以上であると好ましい。このようなリチウム塩化合物としては、例えば酢酸リチウム2水和物、硝酸リチウム3水和物などが挙げられ、特に、混合のし易さと得られる物質の均一性から酢酸リチウム2水和物がもっとも好ましい。
【0020】
一方、遷移金属源も同様に、遷移金属の塩化合物を用いることができ、水溶性であると好ましく、易溶性であるとより好ましい。具体的には、常温における水への溶解度が、10g/100ml以上であると好ましい。この発明で好適にLi2MSiO4化合物を生成できる遷移金属元素Mとしては、第四周期の遷移金属元素の中でも特にFe、Mnが好適に挙げられる。Fe源としては、例えば硝酸鉄(III)9水和物が挙げられる。Mn源としては、例えば酢酸マンガン(II)4水和物が挙げられる。ただし、リチウム源として用いるリチウム塩化合物と混合した際に、不溶性の塩を生じないものであることが必要であり、上記リチウム塩化合物と同じ酸の塩であると好ましい。
【0021】
これらのリチウム源及び遷移金属源は、いずれも粒状のものを用いて粉体混合してもよいし、それぞれを水中に分散、溶解させてから混合させてもよい。特に、水中に溶解させた上で混合して混合溶液とすると、上記コロイダルシリカとの混合がし易いため望ましい。ただし、薄すぎると混合後の乾燥に時間がかかりすぎるため、それぞれの濃度が0.1mol/l以上であると好ましい。
【0022】
これらリチウム源、遷移金属源、及びコロイダルシリカを、基本的には化学量論比に従って混合する。すなわち、リチウム源を2当量、遷移金属源を1当量、コロイダルシリカを1当量となるように混合することが好ましい。ただし、得られる化合物に含まれるリチウム量は1当量以上2当量以下であれば以下の手順によって実用的な量のLi2−xMSiO4を生成することができる。また、遷移金属源とコロイダルシリカとの当量比は1:1からある程度ずれていても同様の結晶点群に属する化合物Li2−xM1−ySi1+yO4を製造可能である。ここで、0≦x≦1であり、−0.5≦y≦+0.5である。
【0023】
混合の順番としては、リチウム化合物水溶液と遷移金属化合物水溶液とを混合したのち、コロイダルシリカを混合することが好ましい。この混合を行った後、混合材料を乾燥させてから焼成するが、その前に、得られる焼成物の均一性を低下させない範囲で任意の手順を挟んでもよく、均一性を向上させるための任意の手順を挟むと好ましい。
【0024】
一つの手順として、混合後に単純乾燥して水を除去した後、100℃以上250℃以下で材料を一旦固めるための熱処理を行うとよい。この熱処理の時間は15分以上、1時間以下であるとよい。この熱処理を行わずに後述する焼成を行うと、残存するガス成分がガス化することによって、材料が飛散してしまい、回収できなくなるおそれがある。
【0025】
上記の熱処理を行った場合、熱処理により一旦固まった混合材料を、粉体の飛散を抑制できる程度の少量の水を加えつつ、一旦粉砕してから固め直してもよい。この粉砕は材料の固まり具合にもよるが、30分以上、2時間以下行えば、十分に粉砕できる。少量であれば乳鉢でもよいが、ボールミルなどで粉砕してもよい。粉砕しつつこねて固めた材料については、100℃前後で再乾燥させて水を飛ばすとよい。粉砕時に加えた水の量にもよるが、30分以上2時間程度でほとんどの水を除去できる。
【0026】
また別の手順として、上記の材料混合後に乾燥して水を除去するにあたって、混合したスラリー状の材料を凍結乾燥させてもよい。凍結乾燥させると、単純に空冷や加熱による乾燥よりも、材料粒子をより細かく粉砕することができ、最終的に得られる生成物の均一性を向上させることができる。ここで行う凍結乾燥は、減圧下で急冷することで水分を飛ばすことをいう。具体的な手法としては例えば、混合攪拌して得られたスラリーを、液体窒素温度に保持した容器内へ霧吹きするとともに、容器内を減圧し、十分に減圧しきるまで冷却を続けるといった方法が挙げられる。霧吹きされた材料は粉末状に凍結するが、この減圧冷却の間に、水分は気体として容器外へ排出されて粉末の乾燥が進む。通常の乾燥方法では水分の蒸発時に粉末間で起こる毛細管現象で凝集が進み凝集粉末が生成してしまうが、凍結乾燥ではこの凝集が起こらないために、乾燥して得られる粒子は通常の乾燥法による粒子よりも微細な状態を保持したものとなる。
【0027】
ただし、凍結乾燥により微細化した材料はそのままでは焼成に向いていないので、一旦圧力をかけて固める熱処理を行うとよい。この熱処理の望ましい条件は上記の条件と同一である。また、焼成前にペレットなどに成形しておいてもよい。
【0028】
乾燥から熱処理した後再乾燥させた混合材料、又は凍結乾燥後に熱処理して固めた混合材料、あるいは、これらに類する方法を組み合わせて十分に水分を除去して固めた混合材料を、アルゴン雰囲気下、又はアルゴン/水素雰囲気下で焼成する。この発明にかかる方法によると、還元雰囲気下で無くても均一性の高い材料を得ることができる。ただし、後述する炭素源を共存させる場合のように、条件次第で、還元雰囲気下である方がより均一性は高くなる場合がある。
【0029】
上記の焼成温度は600℃以上が好ましく、700℃以上であるとより好ましい。600℃未満では不均一な鉄が残存しやすい。一方で、900℃以下が好ましく、800℃以下であるとより好ましい。高温すぎると目的とするオリビン型構造を取り得なくなるおそれがあるためである。
【0030】
上記の焼成時間は6時間以上であると好ましく、10時間以上であると好ましい。6時間未満では相変化が不充分になるおそれが高くなる。一方で、20時間以下であると好ましく、15時間以下であるとより好ましい。長すぎるとその分負荷が大きいだけでなく、材料がオリビン型構造を取り得なくなるおそれがある。
【0031】
上記の焼成は、一般的な電気炉を用いるとよい。燃焼による加熱の場合、燃焼の際に生じるH2Oによる副反応が無視できなくなる場合がある。
【0032】
この焼成の際に、炉内に粉末状の炭素源を共存させておくと、生成するLi2MSiO4の均一性をさらに向上させることができる。これは、もともと炭素源表面に吸着されていたO2と、炭素源のCとが結合して生成するCOが、Fe3+やMn4+を還元させることで、Mが二価であるLi2MSiO4以外の化合物を生じにくくすると考えられる。また、単純に雰囲気中のO2を吸着することでも、酸化を防ぐ効果を生じる。これらの効果は特にアルゴン雰囲気下で好適に発揮される。水素も介在する場合は、O2を還元してH2Oを生成するものの、このH2Oも少なからずMを酸化させるため、酸化反応の同時進行を十分に抑制しきれないためと考えられる。
【0033】
具体的な粉末状の炭素源としてはカーボンブラックが挙げられる。その中でもアセチレンブラックを用いると、表面積が高いためにCOを生じやすくかつO2を吸着しやすいので特に好ましい。この炭素源を焼成させる材料と共存させる具体的な配置としては、少なくとも雰囲気を同じくする炉内に材料とともに存在させる必要があり、かつ焼成物に取り込まれないようにすることが望ましい。焼成物内に取り込まれると、Li2MSiO4の比率を低下させる副生反応を起こすおそれがあるためである。MがFeの場合、成形した試料上に、粉末状の炭素源を直接接触させて焼成することで、試料と混合させることなく至近距離で還元させることができるので望ましい。ここで接触とは、表面に粉状の炭素源をまぶしたりする圧力をかけない状態でかつ混合しない状態で密接していることをいい、それと混合しないように試料自体は予め圧力をかけて成形しておく必要がある。一方、MがMnの場合は、試料から1〜4cm離れた位置に粉末状の炭素源を配置すると好ましい。相手がMnの場合、接触していると還元効果が強すぎて、他の相を生じてしまうおそれがあるためである。
【0034】
その他の製造手順としては、一旦遷移金属化合物の水溶液とコロイダルシリカを混合し、一旦400〜600℃程度で焼成した後、焼成物を粉砕してから、リチウム化合物水溶液と混合し、再度乾燥した後、600〜900℃で焼成する前駆体法が挙げられる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げてこの発明をより具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
リチウム源として、酢酸リチウム2水和物(関東化学(株)製:24114−00、純度>99.0%、分子量102.02)0.03334molを常温の水25mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して1.3336mol/lの酢酸リチウム水溶液を得た。
【0037】
一方、遷移金属源として、硝酸鉄(III)9水和物(ナカライテスク(株)製:19513−65、純度>99%、分子量404.0)0.01667molを常温の水25mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して0.6668mol/lの硝酸鉄水溶液を得た。
【0038】
次に、これらの酢酸リチウム水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合し、セラミックホットスターラー(アズワン(株)製:CHPS−250DN)で30分間混合した。
【0039】
次に、コロイダルシリカとして日産化学工業(株)製:スノーテックスOXS(20質量%:重量平均粒子径4〜6nm、pH3.0、Na含有量:83μg/g)5gを、上記の混合溶液に投下して、マグネチックスターラーで10分間攪拌混合した。なお、このコロイダルシリカの量は5g×20wt%=1g、すなわち1g/(28.1+16.0×2)=1/60.1=0.01664molであり、硝酸鉄と同当量である。
【0040】
混合した溶液を100℃の環境下で4時間静置して乾燥させた後、200℃の環境下に30分間置いて、固形物を得た。この固形物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下にて1時間置いて水を飛ばした後、500℃、600℃、700℃にそれぞれ設定した炉(いすゞ製作所(株)製:管状炉)中にて12時間かけて焼成した。雰囲気はアルゴン/4%水素下で行った。
【0041】
焼成後、冷却した材料を粉砕し、X線回折分析機((株)リガク製:試料水平型多目的X線回折装置Ultima IV)にて分析した。その結果を図1に示す。なお、以下の一覧で特に記載の無い最下段はLi2FeSiO4のJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードのスペクトルである。600℃以上でLi2FeSiO4のピークが高い比率で検出された。
【0042】
(実施例2)
実施例1の600℃における焼成について、焼成時間を1時間、3時間、6時間、12時間、24時間としてそれぞれ試料を得て、同様に分析した。その結果を図2に示す。全ての時間でLi2FeSiO4のピークははっきりと示されたが、特に12時間の場合に、副生成物であるLi2SiO3のピークが低く、均一性が高いものとなった。
【0043】
(参考例1)
実施例2において、雰囲気をアルゴンのみで行った。その結果を図3に示す。600℃でアルゴンの環境下ではLi2FeSiO4が得られなかった。
【0044】
<Fe−Si化合物前駆体法>
(実施例3a、3b)
実施例1で用いたのと同量の硝酸鉄(III)9水和物を水に溶かして水溶液とし、実施例1で用いたのと同じコロイダルシリカと混合し、マグネチックスターラーで30分間混合した。次に、マグネチックスターラーで10分間混合攪拌した後、マグネチックスターラーとともに超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)製:VCX−500)を用いて10分間攪拌する、という工程を三回繰り返した。その後、100℃で6時間かけて試料を乾燥させ、500℃で焼成した。焼成時の気体をアルゴンのみとしたものを実施例3a、アルゴンに4%の水素ガスを混合させたものを用いたものを実施例3bとする。
【0045】
こうして得られたFe−Si前駆体化合物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。一方、実施例1で用いたものと同じ酢酸リチウム2水和物の水溶液を用意し、粉砕混合したFe−Si前駆体化合物と混合して、マグネチックスターラーにて30分掛けて混合攪拌した。次に、マグネチックスターラーで10分間混合攪拌した後、マグネチックスターラーとともに超音波ホモジナイザー(同上)を用いて10分間攪拌する、という工程を三回繰り返した。その後、10mlの水を加えながら乳鉢で60分間かけて粉砕した。これを100℃で1時間かけて乾燥した。この乾燥物を、500℃、600℃、700℃、800℃とした実施例1の管状炉で、アルゴン/4%水素ガス環境下にて、12時間かけて焼成した。この焼成物について同様にXRDを行った。前駆体生成時にアルゴンのみとした実施例3aの結果を図4に示す。実施例3aでは、最後の焼成を600℃とした試料でLi2FeSiO4が高い比率で得られた。ただし、700℃以上では構造不明の副生物の割合が増加した。また、前駆体生成時にアルゴン/4%水素混合ガスとした実施例3bの結果を図5に示す。実施例3bでは、最後の焼成を600℃と800℃とした試料でLi2FeSiO4が高い比率で得られた。700℃で焼成した試料は比率が低かったが、その原因は不明であった。
【0046】
(実施例4)
遷移金属源として、酢酸マンガン(II)四水和物(ナカライテスク(株)製:21203−55、純度>99%、分子量245.09)0.01667molを用いたこと以外は実施例1と同様の手順によりLi2MnSiO4の作製を試みた。そのX線回折分析の結果を図6に示す。なお、最下段はLi2MnSiO4のJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードのスペクトルである。700℃の焼成でほぼ単相に近いLi2MnSiO4が得られ、800℃でも僅かにLi2SiO3が検出されるだけで単相に近いLi2MnSiO4が得られた。
【0047】
(実施例5)
実施例4において、600℃で焼成する際の雰囲気を、アルゴン/4%水素混合ガスから、アルゴンのみに変更した以外は同様の手順により焼成物を得た。その結果を図7に示す。アルゴンに変更することで、不純物の含有量を低減することができた。
【0048】
(実施例6)
実施例1において、コロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製:スノーテックスXS(Na含有量:3100μg/g)を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により試料を作製した。そのXRDの結果を図8に示す。Li2FeSiO4が高い比率で得られたものの、Na含有量の少ないコロイダルシリカを用いた図1と比べると、焼成温度600〜700℃でLi2SiO3の含有量が増加した。ただし、800℃で焼成すると、高い比率でLi2FeSiO4が得られた。
【0049】
(実施例7)
実施例4において、実施例6のコロイダルシリカを用いたこと以外は実施例4と同様の手順により、焼成温度700℃、アルゴン雰囲気下にて、Li2MnSiO4の作製を試みた。そのXRDの結果を図9上段に示し(「Na多」と記載する。)、実施例4のコロイダルシリカを用いた同条件のXRDの結果を図9下段に示す(「Na少」と記載する。)。Naが少ない下のXRDの方が、Li2MnSiO4を示す▽以外のピークが明らかに少なく、実施例4は実施例6よりも高い均一性を有していることがわかった。
【0050】
(実施例8)
酢酸リチウム2水和物の1.0mol/l溶液25mlと、硝酸鉄(III)9水和物水溶液の0.5mol/l溶液25mlを実施例1と同様に調整し、それぞれ10分間攪拌した後、30分間かけて混合した。
【0051】
一方、平均粒径0.3〜0.8μmのSiO2粉末からなる溶融シリカ(電気化学工業(株):デンカ溶融シリカSFP−20M、粒径0.3〜0.8μm)を用い、水100ml中に0.123mol/lとなるように投下し、粉砕した。次にマグネチックスターラーで10分間混合攪拌した後、マグネチックスターラーとともに超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)製:VCX−500)を用いて10分間攪拌する、という工程を三回繰り返した。こうして得られた水分散溶融シリカをコロイダルシリカの代わりにSi源として用いた。
【0052】
次に、混合溶液に溶融シリカ分散液を混合して10分間攪拌した。このLiとFeとSiとの化学量論比が2:1:1となる。その後、100℃で24時間かけて乾燥させた後、200℃30分で熱処理した。これを少量の水とともに30分掛けて粉砕し、捏ねたものを、アルゴン/4%水素雰囲気中にて、500〜700℃で12時間かけて焼成した。その結果を図10に示す。600℃以上で、比較的均一性の高いLi2FeSiO4が得られた。
【0053】
(実施例9)
実施例8において、硝酸鉄(III)9水和物水溶液の代わりに、実施例4と同じ酢酸マンガン(II)四水和物の水溶液を、実施例8の硝酸鉄水溶液と同濃度同量用いて、同様の手順により、Li2MnSiO4の作製を試みた。焼成温度700℃の試料のXRDを図11に示す。
【0054】
(実施例10)
実施例9において、雰囲気をアルゴンに変更した以外は実施例9と同様の手順によりLi2MnSiO4の作製を試みた。そのXRDを図12に示す。実施例9に比べてやや不純物の量が増加した。
【0055】
<Mn−C共存法>
(実施例11)
リチウム源として、酢酸リチウム2水和物(実施例1と同じ)0.035molを常温の水15mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して2.336mol/lの酢酸リチウム水溶液を得た。一方、遷移金属源として酢酸マンガン(II)四水和物(実施例4と同じ)0.01667molを常温の水15mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して1.111mol/lの酢酸マンガン水溶液を得た。次に、これらの酢酸リチウム水溶液と酢酸マンガン水溶液とを混合し、マグネチックスターラーで1時間攪拌混合した。
【0056】
次に、コロイダルシリカ(実施例1で用いたものを半分の濃度である10wt%に薄めたもの)10gを上記の混合溶液に投下して、マグネチックスターラーで10分間攪拌混合した。これは酢酸マンガンの1当量にあたる。
【0057】
混合した溶液を100℃の環境下で静置して水を飛ばして4時間かけて乾燥させた後、その乾燥物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下に2時間置いて水を飛ばした後、炉(実施例1と同じ)内に入れた。加熱にあたり、試料の塊から3cm離れた箇所に、粉状アセチレンブラック(電気化学工業(株)社製)の山を設けた。この状態で炉を加熱して、12時間かけて焼成した。焼成温度は500℃、550℃、600℃、700℃、800℃の五通りについて行った。雰囲気はアルゴンガス下で行った。焼成後、冷却した試料を粉砕し、実施例1と同様に分析した。それぞれの結果をまとめて図13に示す。焼成温度500〜550℃ではLi2MnSiO4が生成せず、800℃では副生するLi2MnSiO4(空間群:Pn)が多く見られたが、600〜700℃でLi2MnSiO4(空間群:Pmn21)のピーク以外はほとんど観測されない、極めて均一性の高い単相試料を得ることができた。
【0058】
<Fe−C共存法>
(実施例12)
遷移金属源として硝酸鉄(III)9水和物(実施例1と同じ)を用い、実施例11と同様の配合比で酢酸リチウム及びコロイダルシリカと混合した溶液を得た。混合した溶液を100℃の環境下で攪拌しながら水を飛ばして4時間かけて乾燥させた後、250℃まで加熱した状態を30分間保つ熱処理を行った。空冷後、水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下に2時間置いて水を飛ばした後、ペレット成形機に入れてペレット化した。このペレットを炉内に入れた後、炉中のペレット上に粉状アセチレンブラックを振りかけた上で、アルゴンガス雰囲気下にて炉内を12時間に亘って加熱して、材料を焼成した。以上の工程を、焼成温度700℃と800℃とでそれぞれ実施して試料を得て、実施例1と同様にXRDを測定した。その結果を図14に示す。700℃では一部Li2SiO3が混じったが、800℃ではほぼ完全なLi2FeSiO4の単相試料が得られた。
【0059】
<凍結乾燥法の検証>
(実施例13)
リチウム源として酢酸リチウム2水和物(実施例1と同じ)0.035molを常温の水15mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して2.336mol/lの酢酸リチウム水溶液を得た。一方、遷移金属源として硝酸鉄(III)9水和物(実施例1と同じ)0.01667molを常温の水50mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して1.111mol/lの硝酸鉄水溶液を得た。次に、これらの酢酸リチウム水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合し、マグネチックスターラーで5分間攪拌混合した。次に、コロイダルシリカ(実施例1と同じ)10gを上記の混合溶液に投下して、マグネチックスターラーで10分間攪拌混合した。
【0060】
次に凍結乾燥工程として、上記の混合溶液を、液体窒素温度に保持されたなす型のフラスコ内に霧吹きし、容器内を10Paまで減圧した。十分に減圧した後、容器の冷却を止めた。その後、一晩静置して粉末が十分に凍結乾燥されるのを待った。
【0061】
次に、乾燥して得られた前駆体を加熱して60分間かけて250℃で熱処理して微細化した材料を集め、プレス成形機で成形した。得られたペレットを、炉(実施例1と同じ)内に入れ、粉状アセチレンブラックを振りかけた上で、アルゴン雰囲気下にて800℃で12時間かけて焼成した。冷却後、得られた試料の拡大写真をSEM(日本電子株式会社製:JSM5600)にて撮影した。この前駆体及び焼成体の拡大写真を図15に示す。
【0062】
(実施例14)
実施例13において、凍結乾燥工程の代わりに実施例1と同様の乾燥工程、すなわち、混合溶液を100℃の環境下で4時間静置して乾燥させた後、200℃の環境下に30分間置いて、固形物を得た。この固形物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下にて1時間置いて水を飛ばす手順により乾燥させて前駆体を得た以外は同様の手順により試料を得て拡大写真を撮影した。この前駆体及び焼成体の拡大写真を図16に示す。
【0063】
実施例13と14の焼成体の拡大写真を比較したところ、凍結乾燥した実施例13の試料の方が得られる粒子サイズが明らかに小さくなっていることが確認された。
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン二次電池の正極材料として利用可能なLi2MSiO4の合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の正極材料の一つとして、オリビン型結晶構造を有するリン酸塩系のLiMPO4や、オリビン型でポリアニオン系のLi2MSiO4(非特許文献1)、オリビンに類似するポリアニオン系のLi2MSiO4が提案されている(非特許文献2,なお、MはMn、Feなどの遷移金属元素を示す)。特に、2電子反応が可能な組成式を持つポリアニオン系化合物のLi2MSiO4は、主な構成元素であるFe又はMnと、Siとが地殻内に豊富に存在することから、実用化した後の有用性が高いと考えられる。この化合物の製造方法例としては、例えば非特許文献2のような合成方法の提案がされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Is it possible to prepare olivine−type LiFeSiO4? A joint computational and experimental investigation (SOLID STATE IONICS 179(2008)1758−1762)
【非特許文献2】Microwave−Solvothermal Synthesis of Nanostructured Li2MSiO4/C (M=Mn and Fe) Cathodes for Lithium−Ion Batteries (Chem. Mater., 2010, 22 (20), pp 5754-5761)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Li2MSiO4はその製造段階で、Li2SiO3やM2SiO4などの結晶を副生することが多く、試料の均一性を十分に確保することが難しかった。これは特に、MがFeの場合に顕著であり、Li2FeSiO4を高い均一性で得ることはむずかしかった。
【0005】
そこでこの発明は、Li2MSiO4の合成にあたり、得られる化合物の均一性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、コロイダルシリカをSi源として用いることで、上記の課題を解決したのである。コロイダルシリカを用いることにより、リチウム及び遷移金属元素との混合が進みやすくなり、焼成して得られるLi2MSiO4の相の均一性を向上させることができる。これに合わせて、リチウム源、及び遷移金属源は、水溶液として混合するのに十分な水溶性を有するものを用いるとよく、水溶液として混合した上で、コロイダルシリカと混合することにより、コロイダルシリカを用いることによる効果を十分に発揮させることができる。コロイダルシリカはSiO2の粒径が極めて小さいため、他の成分と混合しやすく、得られる化合物の均一性を向上させやすくなるが、他の成分も水溶性にすることでさらに均一性は向上する。
【0007】
また、この上記の焼成にあたって、炉内に粉体の炭素源を共存させておくと、好適な脱酸素効果及び還元効果を発揮して、焼成して得られるLi2MSiO4の相の均一性をさらに向上させることが出来る。この粉体の炭素源は焼成する材料の出来るだけ近くに置くことが望ましく、場合によっては接触させておいてもよい。
【0008】
さらに、用いるコロイダルシリカは、製造時に混入するNa成分を出来るだけ低減除去させておくことが望ましい。Na成分が多いと、不純物となり相の均一性が低下するだけでなく、Li2MSiO4が生成できなくなる場合もある。
【0009】
さらにまた、上記焼成の前に材料を混合した状態で、全体を凍結乾燥させると、材料を構成する個々の粒子を効率良く均等に微細化することができ、その後の焼成反応を進みやすくして副生物の生成率を抑え、得られるLi2MSiO4の相の均一性をより高めることができる。
【0010】
なお、Li2MSiO4は、Li:M:Si=2:1:1の量比に完全に一致する場合に限らず、同様の製造方法で焼成して得ることができる範囲で、量比が前後していてもよい。Liは1〜2当量の間で前後させることが可能であり、MとSiとは1:1ではなく、0.5〜1.5程度の範囲でいずれかに偏っていてもよい。すなわち、Li2−xM1−ySi1+yO4について、0≦x≦1、−0.5≦y≦0.5程度の範囲で拡張が可能である。その際、製造に用いるリチウム源、遷移金属源、コロイダルシリカの当量を、製造する材料の量比に合わせて調整する。
【0011】
なお、上記のコロイダルシリカの代わりに、粒径1μm以下の溶融シリカを用いても、コロイダルシリカに近い混合性を確保することが可能であり、得られるLi2MSiO4の均一性を向上させることができる。通常の溶融シリカであれば粒径が10μm前後以上であるため、十分に混合できないが、極端に粒径を細かくしたものであれば、十分な混合が可能である。
【発明の効果】
【0012】
この発明により、均一性が高く、充放電反応において安定した出力を発揮する正極材料を得ることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1にかかる低Naコロイダルシリカを用いたLi2FeSiO4の500〜700℃で焼成したXRDデータ
【図2】実施例2にかかる低Naコロイダルシリカを用いたLi2FeSiO4の焼成時間を1〜24時間に変更したXRDデータ
【図3】参考例1にかかる低Naコロイダルシリカを用い、アルゴン雰囲気下で焼成したXRDデータ
【図4】実施例3aにかかる、前駆体法でアルゴン雰囲気下にて焼成したLi2FeSiO4のXRDデータ
【図5】実施例3bにかかる、前駆体法で還元雰囲気下にて焼成したLi2FeSiO4のXRDデータ
【図6】実施例4にかかる、低Naコロイダルシリカを用いてLi2MnSiO4の500〜800℃で還元雰囲気下にて焼成したXRDデータ
【図7】実施例5にかかる、低Naコロイダルシリカを用いてLi2MnSiO4の600℃で雰囲気を変更して焼成したXRDデータの比較図
【図8】実施例6にかかるNa含有コロイダルシリカを用いたLi2FeSiO4の500〜800℃で焼成したXRDデータ
【図9】実施例7にかかるNa多コロイダルシリカを用いたものと実施例4にかかるNa少コロイダルシリカを用いたものとのLi2MnSiO4XRDデータ
【図10】実施例8にかかるXRDデータ
【図11】実施例9にかかるXRDデータ
【図12】実施例10にかかるXRDデータ
【図13】実施例11にかかるXRDデータ
【図14】実施例12にかかるXRDデータ
【図15】実施例13の前駆体及び焼成体の拡大写真
【図16】実施例14の前駆体及び焼成体の拡大写真
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明にかかる実施形態を詳細に説明する。
この発明は、Li2MSiO4の製造にあたり、リチウム源と遷移金属源とコロイダルシリカとを攪拌混合した後、熱処理する製造方法である。ここで、Mは周期律表第四周期の遷移金属を表す。Li2MSiO4は、オリビンに類似した結晶構造を有するポリアニオン系シリケート化合物である。
【0015】
上記コロイダルシリカとは、液中にSiO2の粒子がコロイド状に分散している分散液である。この発明で用いるコロイダルシリカの液中におけるSiO2の重量平均粒子径は、1nm以上であると好ましく、4nm以上であるとより好ましい。重量平均粒子径が1nm未満となることは現実的ではなく、そのような材料を得ること自体が困難である。一方で10nm以下であると好ましく、6nm以下であるとより好ましい。10nmを超えるコロイダルシリカでは、含まれるSiO2粒子が十分に他の成分の溶質と混合されず、均一な相が得られにくくなってしまう。
【0016】
上記コロイダルシリカに含まれるSiO2の含有量は、2質量%以上が好ましく、5質量%以上であるとより好ましい。少なすぎると乾燥時に時間が掛かりすぎてしまう。一方で、30質量%以下が好ましく、20質量%以下であるとより好ましい。30質量%を超えるとコロイドが十分に分散せずに凝集してしまうおそれがあり、リチウム源及び遷移金属源との混合も進みにくく、混合が不充分になって相の均一性が低下するおそれがある。
【0017】
上記コロイダルシリカのpHは2.0以上4.0以下であることが好ましい。この範囲から外れると、コロイドが安定せず、凝集を起こしたり、他の成分が混入したりして混合が十分に進まなくなるおそれがある。
【0018】
上記コロイダルシリカが含有するSiO2は、高純度であるほど好ましい。コロイダルシリカは通常、珪酸ナトリウムを原料として製造されるため、Naが残存することが多い。また、それ以外の製造手法では、アルカリ金属やアルカリ土類金属が混入するおそれがある。これらの残存するアルカリ金属やアルカリ土類金属は、得られるLi2FeSiO4の均一性を悪化させる原因となるため、含有量が低いほど望ましい。具体的には、上記コロイダルシリカに含まれるSiO2中の含有量が質量比で200ppm以下であると好ましく、100ppm以下であるとより好ましい。
【0019】
次に、この発明で用いるリチウム源は、リチウム塩化合物を用いることができる。特に、上記コロイダルシリカとの混合を進行させ易くするために、水溶液として使用できる水溶性であることが好ましく、易溶性であるとより好ましい。具体的には、常温における水への溶解度が、10g/100ml以上であると好ましい。このようなリチウム塩化合物としては、例えば酢酸リチウム2水和物、硝酸リチウム3水和物などが挙げられ、特に、混合のし易さと得られる物質の均一性から酢酸リチウム2水和物がもっとも好ましい。
【0020】
一方、遷移金属源も同様に、遷移金属の塩化合物を用いることができ、水溶性であると好ましく、易溶性であるとより好ましい。具体的には、常温における水への溶解度が、10g/100ml以上であると好ましい。この発明で好適にLi2MSiO4化合物を生成できる遷移金属元素Mとしては、第四周期の遷移金属元素の中でも特にFe、Mnが好適に挙げられる。Fe源としては、例えば硝酸鉄(III)9水和物が挙げられる。Mn源としては、例えば酢酸マンガン(II)4水和物が挙げられる。ただし、リチウム源として用いるリチウム塩化合物と混合した際に、不溶性の塩を生じないものであることが必要であり、上記リチウム塩化合物と同じ酸の塩であると好ましい。
【0021】
これらのリチウム源及び遷移金属源は、いずれも粒状のものを用いて粉体混合してもよいし、それぞれを水中に分散、溶解させてから混合させてもよい。特に、水中に溶解させた上で混合して混合溶液とすると、上記コロイダルシリカとの混合がし易いため望ましい。ただし、薄すぎると混合後の乾燥に時間がかかりすぎるため、それぞれの濃度が0.1mol/l以上であると好ましい。
【0022】
これらリチウム源、遷移金属源、及びコロイダルシリカを、基本的には化学量論比に従って混合する。すなわち、リチウム源を2当量、遷移金属源を1当量、コロイダルシリカを1当量となるように混合することが好ましい。ただし、得られる化合物に含まれるリチウム量は1当量以上2当量以下であれば以下の手順によって実用的な量のLi2−xMSiO4を生成することができる。また、遷移金属源とコロイダルシリカとの当量比は1:1からある程度ずれていても同様の結晶点群に属する化合物Li2−xM1−ySi1+yO4を製造可能である。ここで、0≦x≦1であり、−0.5≦y≦+0.5である。
【0023】
混合の順番としては、リチウム化合物水溶液と遷移金属化合物水溶液とを混合したのち、コロイダルシリカを混合することが好ましい。この混合を行った後、混合材料を乾燥させてから焼成するが、その前に、得られる焼成物の均一性を低下させない範囲で任意の手順を挟んでもよく、均一性を向上させるための任意の手順を挟むと好ましい。
【0024】
一つの手順として、混合後に単純乾燥して水を除去した後、100℃以上250℃以下で材料を一旦固めるための熱処理を行うとよい。この熱処理の時間は15分以上、1時間以下であるとよい。この熱処理を行わずに後述する焼成を行うと、残存するガス成分がガス化することによって、材料が飛散してしまい、回収できなくなるおそれがある。
【0025】
上記の熱処理を行った場合、熱処理により一旦固まった混合材料を、粉体の飛散を抑制できる程度の少量の水を加えつつ、一旦粉砕してから固め直してもよい。この粉砕は材料の固まり具合にもよるが、30分以上、2時間以下行えば、十分に粉砕できる。少量であれば乳鉢でもよいが、ボールミルなどで粉砕してもよい。粉砕しつつこねて固めた材料については、100℃前後で再乾燥させて水を飛ばすとよい。粉砕時に加えた水の量にもよるが、30分以上2時間程度でほとんどの水を除去できる。
【0026】
また別の手順として、上記の材料混合後に乾燥して水を除去するにあたって、混合したスラリー状の材料を凍結乾燥させてもよい。凍結乾燥させると、単純に空冷や加熱による乾燥よりも、材料粒子をより細かく粉砕することができ、最終的に得られる生成物の均一性を向上させることができる。ここで行う凍結乾燥は、減圧下で急冷することで水分を飛ばすことをいう。具体的な手法としては例えば、混合攪拌して得られたスラリーを、液体窒素温度に保持した容器内へ霧吹きするとともに、容器内を減圧し、十分に減圧しきるまで冷却を続けるといった方法が挙げられる。霧吹きされた材料は粉末状に凍結するが、この減圧冷却の間に、水分は気体として容器外へ排出されて粉末の乾燥が進む。通常の乾燥方法では水分の蒸発時に粉末間で起こる毛細管現象で凝集が進み凝集粉末が生成してしまうが、凍結乾燥ではこの凝集が起こらないために、乾燥して得られる粒子は通常の乾燥法による粒子よりも微細な状態を保持したものとなる。
【0027】
ただし、凍結乾燥により微細化した材料はそのままでは焼成に向いていないので、一旦圧力をかけて固める熱処理を行うとよい。この熱処理の望ましい条件は上記の条件と同一である。また、焼成前にペレットなどに成形しておいてもよい。
【0028】
乾燥から熱処理した後再乾燥させた混合材料、又は凍結乾燥後に熱処理して固めた混合材料、あるいは、これらに類する方法を組み合わせて十分に水分を除去して固めた混合材料を、アルゴン雰囲気下、又はアルゴン/水素雰囲気下で焼成する。この発明にかかる方法によると、還元雰囲気下で無くても均一性の高い材料を得ることができる。ただし、後述する炭素源を共存させる場合のように、条件次第で、還元雰囲気下である方がより均一性は高くなる場合がある。
【0029】
上記の焼成温度は600℃以上が好ましく、700℃以上であるとより好ましい。600℃未満では不均一な鉄が残存しやすい。一方で、900℃以下が好ましく、800℃以下であるとより好ましい。高温すぎると目的とするオリビン型構造を取り得なくなるおそれがあるためである。
【0030】
上記の焼成時間は6時間以上であると好ましく、10時間以上であると好ましい。6時間未満では相変化が不充分になるおそれが高くなる。一方で、20時間以下であると好ましく、15時間以下であるとより好ましい。長すぎるとその分負荷が大きいだけでなく、材料がオリビン型構造を取り得なくなるおそれがある。
【0031】
上記の焼成は、一般的な電気炉を用いるとよい。燃焼による加熱の場合、燃焼の際に生じるH2Oによる副反応が無視できなくなる場合がある。
【0032】
この焼成の際に、炉内に粉末状の炭素源を共存させておくと、生成するLi2MSiO4の均一性をさらに向上させることができる。これは、もともと炭素源表面に吸着されていたO2と、炭素源のCとが結合して生成するCOが、Fe3+やMn4+を還元させることで、Mが二価であるLi2MSiO4以外の化合物を生じにくくすると考えられる。また、単純に雰囲気中のO2を吸着することでも、酸化を防ぐ効果を生じる。これらの効果は特にアルゴン雰囲気下で好適に発揮される。水素も介在する場合は、O2を還元してH2Oを生成するものの、このH2Oも少なからずMを酸化させるため、酸化反応の同時進行を十分に抑制しきれないためと考えられる。
【0033】
具体的な粉末状の炭素源としてはカーボンブラックが挙げられる。その中でもアセチレンブラックを用いると、表面積が高いためにCOを生じやすくかつO2を吸着しやすいので特に好ましい。この炭素源を焼成させる材料と共存させる具体的な配置としては、少なくとも雰囲気を同じくする炉内に材料とともに存在させる必要があり、かつ焼成物に取り込まれないようにすることが望ましい。焼成物内に取り込まれると、Li2MSiO4の比率を低下させる副生反応を起こすおそれがあるためである。MがFeの場合、成形した試料上に、粉末状の炭素源を直接接触させて焼成することで、試料と混合させることなく至近距離で還元させることができるので望ましい。ここで接触とは、表面に粉状の炭素源をまぶしたりする圧力をかけない状態でかつ混合しない状態で密接していることをいい、それと混合しないように試料自体は予め圧力をかけて成形しておく必要がある。一方、MがMnの場合は、試料から1〜4cm離れた位置に粉末状の炭素源を配置すると好ましい。相手がMnの場合、接触していると還元効果が強すぎて、他の相を生じてしまうおそれがあるためである。
【0034】
その他の製造手順としては、一旦遷移金属化合物の水溶液とコロイダルシリカを混合し、一旦400〜600℃程度で焼成した後、焼成物を粉砕してから、リチウム化合物水溶液と混合し、再度乾燥した後、600〜900℃で焼成する前駆体法が挙げられる。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げてこの発明をより具体的に説明する。
【0036】
(実施例1)
リチウム源として、酢酸リチウム2水和物(関東化学(株)製:24114−00、純度>99.0%、分子量102.02)0.03334molを常温の水25mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して1.3336mol/lの酢酸リチウム水溶液を得た。
【0037】
一方、遷移金属源として、硝酸鉄(III)9水和物(ナカライテスク(株)製:19513−65、純度>99%、分子量404.0)0.01667molを常温の水25mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して0.6668mol/lの硝酸鉄水溶液を得た。
【0038】
次に、これらの酢酸リチウム水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合し、セラミックホットスターラー(アズワン(株)製:CHPS−250DN)で30分間混合した。
【0039】
次に、コロイダルシリカとして日産化学工業(株)製:スノーテックスOXS(20質量%:重量平均粒子径4〜6nm、pH3.0、Na含有量:83μg/g)5gを、上記の混合溶液に投下して、マグネチックスターラーで10分間攪拌混合した。なお、このコロイダルシリカの量は5g×20wt%=1g、すなわち1g/(28.1+16.0×2)=1/60.1=0.01664molであり、硝酸鉄と同当量である。
【0040】
混合した溶液を100℃の環境下で4時間静置して乾燥させた後、200℃の環境下に30分間置いて、固形物を得た。この固形物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下にて1時間置いて水を飛ばした後、500℃、600℃、700℃にそれぞれ設定した炉(いすゞ製作所(株)製:管状炉)中にて12時間かけて焼成した。雰囲気はアルゴン/4%水素下で行った。
【0041】
焼成後、冷却した材料を粉砕し、X線回折分析機((株)リガク製:試料水平型多目的X線回折装置Ultima IV)にて分析した。その結果を図1に示す。なお、以下の一覧で特に記載の無い最下段はLi2FeSiO4のJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードのスペクトルである。600℃以上でLi2FeSiO4のピークが高い比率で検出された。
【0042】
(実施例2)
実施例1の600℃における焼成について、焼成時間を1時間、3時間、6時間、12時間、24時間としてそれぞれ試料を得て、同様に分析した。その結果を図2に示す。全ての時間でLi2FeSiO4のピークははっきりと示されたが、特に12時間の場合に、副生成物であるLi2SiO3のピークが低く、均一性が高いものとなった。
【0043】
(参考例1)
実施例2において、雰囲気をアルゴンのみで行った。その結果を図3に示す。600℃でアルゴンの環境下ではLi2FeSiO4が得られなかった。
【0044】
<Fe−Si化合物前駆体法>
(実施例3a、3b)
実施例1で用いたのと同量の硝酸鉄(III)9水和物を水に溶かして水溶液とし、実施例1で用いたのと同じコロイダルシリカと混合し、マグネチックスターラーで30分間混合した。次に、マグネチックスターラーで10分間混合攪拌した後、マグネチックスターラーとともに超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)製:VCX−500)を用いて10分間攪拌する、という工程を三回繰り返した。その後、100℃で6時間かけて試料を乾燥させ、500℃で焼成した。焼成時の気体をアルゴンのみとしたものを実施例3a、アルゴンに4%の水素ガスを混合させたものを用いたものを実施例3bとする。
【0045】
こうして得られたFe−Si前駆体化合物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。一方、実施例1で用いたものと同じ酢酸リチウム2水和物の水溶液を用意し、粉砕混合したFe−Si前駆体化合物と混合して、マグネチックスターラーにて30分掛けて混合攪拌した。次に、マグネチックスターラーで10分間混合攪拌した後、マグネチックスターラーとともに超音波ホモジナイザー(同上)を用いて10分間攪拌する、という工程を三回繰り返した。その後、10mlの水を加えながら乳鉢で60分間かけて粉砕した。これを100℃で1時間かけて乾燥した。この乾燥物を、500℃、600℃、700℃、800℃とした実施例1の管状炉で、アルゴン/4%水素ガス環境下にて、12時間かけて焼成した。この焼成物について同様にXRDを行った。前駆体生成時にアルゴンのみとした実施例3aの結果を図4に示す。実施例3aでは、最後の焼成を600℃とした試料でLi2FeSiO4が高い比率で得られた。ただし、700℃以上では構造不明の副生物の割合が増加した。また、前駆体生成時にアルゴン/4%水素混合ガスとした実施例3bの結果を図5に示す。実施例3bでは、最後の焼成を600℃と800℃とした試料でLi2FeSiO4が高い比率で得られた。700℃で焼成した試料は比率が低かったが、その原因は不明であった。
【0046】
(実施例4)
遷移金属源として、酢酸マンガン(II)四水和物(ナカライテスク(株)製:21203−55、純度>99%、分子量245.09)0.01667molを用いたこと以外は実施例1と同様の手順によりLi2MnSiO4の作製を試みた。そのX線回折分析の結果を図6に示す。なお、最下段はLi2MnSiO4のJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)カードのスペクトルである。700℃の焼成でほぼ単相に近いLi2MnSiO4が得られ、800℃でも僅かにLi2SiO3が検出されるだけで単相に近いLi2MnSiO4が得られた。
【0047】
(実施例5)
実施例4において、600℃で焼成する際の雰囲気を、アルゴン/4%水素混合ガスから、アルゴンのみに変更した以外は同様の手順により焼成物を得た。その結果を図7に示す。アルゴンに変更することで、不純物の含有量を低減することができた。
【0048】
(実施例6)
実施例1において、コロイダルシリカとして、日産化学工業(株)製:スノーテックスXS(Na含有量:3100μg/g)を用いたこと以外は実施例1と同様の手順により試料を作製した。そのXRDの結果を図8に示す。Li2FeSiO4が高い比率で得られたものの、Na含有量の少ないコロイダルシリカを用いた図1と比べると、焼成温度600〜700℃でLi2SiO3の含有量が増加した。ただし、800℃で焼成すると、高い比率でLi2FeSiO4が得られた。
【0049】
(実施例7)
実施例4において、実施例6のコロイダルシリカを用いたこと以外は実施例4と同様の手順により、焼成温度700℃、アルゴン雰囲気下にて、Li2MnSiO4の作製を試みた。そのXRDの結果を図9上段に示し(「Na多」と記載する。)、実施例4のコロイダルシリカを用いた同条件のXRDの結果を図9下段に示す(「Na少」と記載する。)。Naが少ない下のXRDの方が、Li2MnSiO4を示す▽以外のピークが明らかに少なく、実施例4は実施例6よりも高い均一性を有していることがわかった。
【0050】
(実施例8)
酢酸リチウム2水和物の1.0mol/l溶液25mlと、硝酸鉄(III)9水和物水溶液の0.5mol/l溶液25mlを実施例1と同様に調整し、それぞれ10分間攪拌した後、30分間かけて混合した。
【0051】
一方、平均粒径0.3〜0.8μmのSiO2粉末からなる溶融シリカ(電気化学工業(株):デンカ溶融シリカSFP−20M、粒径0.3〜0.8μm)を用い、水100ml中に0.123mol/lとなるように投下し、粉砕した。次にマグネチックスターラーで10分間混合攪拌した後、マグネチックスターラーとともに超音波ホモジナイザー(家田貿易(株)製:VCX−500)を用いて10分間攪拌する、という工程を三回繰り返した。こうして得られた水分散溶融シリカをコロイダルシリカの代わりにSi源として用いた。
【0052】
次に、混合溶液に溶融シリカ分散液を混合して10分間攪拌した。このLiとFeとSiとの化学量論比が2:1:1となる。その後、100℃で24時間かけて乾燥させた後、200℃30分で熱処理した。これを少量の水とともに30分掛けて粉砕し、捏ねたものを、アルゴン/4%水素雰囲気中にて、500〜700℃で12時間かけて焼成した。その結果を図10に示す。600℃以上で、比較的均一性の高いLi2FeSiO4が得られた。
【0053】
(実施例9)
実施例8において、硝酸鉄(III)9水和物水溶液の代わりに、実施例4と同じ酢酸マンガン(II)四水和物の水溶液を、実施例8の硝酸鉄水溶液と同濃度同量用いて、同様の手順により、Li2MnSiO4の作製を試みた。焼成温度700℃の試料のXRDを図11に示す。
【0054】
(実施例10)
実施例9において、雰囲気をアルゴンに変更した以外は実施例9と同様の手順によりLi2MnSiO4の作製を試みた。そのXRDを図12に示す。実施例9に比べてやや不純物の量が増加した。
【0055】
<Mn−C共存法>
(実施例11)
リチウム源として、酢酸リチウム2水和物(実施例1と同じ)0.035molを常温の水15mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して2.336mol/lの酢酸リチウム水溶液を得た。一方、遷移金属源として酢酸マンガン(II)四水和物(実施例4と同じ)0.01667molを常温の水15mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して1.111mol/lの酢酸マンガン水溶液を得た。次に、これらの酢酸リチウム水溶液と酢酸マンガン水溶液とを混合し、マグネチックスターラーで1時間攪拌混合した。
【0056】
次に、コロイダルシリカ(実施例1で用いたものを半分の濃度である10wt%に薄めたもの)10gを上記の混合溶液に投下して、マグネチックスターラーで10分間攪拌混合した。これは酢酸マンガンの1当量にあたる。
【0057】
混合した溶液を100℃の環境下で静置して水を飛ばして4時間かけて乾燥させた後、その乾燥物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下に2時間置いて水を飛ばした後、炉(実施例1と同じ)内に入れた。加熱にあたり、試料の塊から3cm離れた箇所に、粉状アセチレンブラック(電気化学工業(株)社製)の山を設けた。この状態で炉を加熱して、12時間かけて焼成した。焼成温度は500℃、550℃、600℃、700℃、800℃の五通りについて行った。雰囲気はアルゴンガス下で行った。焼成後、冷却した試料を粉砕し、実施例1と同様に分析した。それぞれの結果をまとめて図13に示す。焼成温度500〜550℃ではLi2MnSiO4が生成せず、800℃では副生するLi2MnSiO4(空間群:Pn)が多く見られたが、600〜700℃でLi2MnSiO4(空間群:Pmn21)のピーク以外はほとんど観測されない、極めて均一性の高い単相試料を得ることができた。
【0058】
<Fe−C共存法>
(実施例12)
遷移金属源として硝酸鉄(III)9水和物(実施例1と同じ)を用い、実施例11と同様の配合比で酢酸リチウム及びコロイダルシリカと混合した溶液を得た。混合した溶液を100℃の環境下で攪拌しながら水を飛ばして4時間かけて乾燥させた後、250℃まで加熱した状態を30分間保つ熱処理を行った。空冷後、水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下に2時間置いて水を飛ばした後、ペレット成形機に入れてペレット化した。このペレットを炉内に入れた後、炉中のペレット上に粉状アセチレンブラックを振りかけた上で、アルゴンガス雰囲気下にて炉内を12時間に亘って加熱して、材料を焼成した。以上の工程を、焼成温度700℃と800℃とでそれぞれ実施して試料を得て、実施例1と同様にXRDを測定した。その結果を図14に示す。700℃では一部Li2SiO3が混じったが、800℃ではほぼ完全なLi2FeSiO4の単相試料が得られた。
【0059】
<凍結乾燥法の検証>
(実施例13)
リチウム源として酢酸リチウム2水和物(実施例1と同じ)0.035molを常温の水15mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して2.336mol/lの酢酸リチウム水溶液を得た。一方、遷移金属源として硝酸鉄(III)9水和物(実施例1と同じ)0.01667molを常温の水50mlに投下し、マグネチックスターラーで10分間攪拌して1.111mol/lの硝酸鉄水溶液を得た。次に、これらの酢酸リチウム水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合し、マグネチックスターラーで5分間攪拌混合した。次に、コロイダルシリカ(実施例1と同じ)10gを上記の混合溶液に投下して、マグネチックスターラーで10分間攪拌混合した。
【0060】
次に凍結乾燥工程として、上記の混合溶液を、液体窒素温度に保持されたなす型のフラスコ内に霧吹きし、容器内を10Paまで減圧した。十分に減圧した後、容器の冷却を止めた。その後、一晩静置して粉末が十分に凍結乾燥されるのを待った。
【0061】
次に、乾燥して得られた前駆体を加熱して60分間かけて250℃で熱処理して微細化した材料を集め、プレス成形機で成形した。得られたペレットを、炉(実施例1と同じ)内に入れ、粉状アセチレンブラックを振りかけた上で、アルゴン雰囲気下にて800℃で12時間かけて焼成した。冷却後、得られた試料の拡大写真をSEM(日本電子株式会社製:JSM5600)にて撮影した。この前駆体及び焼成体の拡大写真を図15に示す。
【0062】
(実施例14)
実施例13において、凍結乾燥工程の代わりに実施例1と同様の乾燥工程、すなわち、混合溶液を100℃の環境下で4時間静置して乾燥させた後、200℃の環境下に30分間置いて、固形物を得た。この固形物に水10mlを加えながら乳鉢にて60分間かけて粉砕混合した。これを100℃下にて1時間置いて水を飛ばす手順により乾燥させて前駆体を得た以外は同様の手順により試料を得て拡大写真を撮影した。この前駆体及び焼成体の拡大写真を図16に示す。
【0063】
実施例13と14の焼成体の拡大写真を比較したところ、凍結乾燥した実施例13の試料の方が得られる粒子サイズが明らかに小さくなっていることが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩、遷移金属塩、及びコロイダルシリカを混合し焼成するLi2MSiO4の製造方法。
(ただし、MはFe又はMnを示す。)
【請求項2】
粉体の炭素源を炉内に共存させて上記焼成を行う請求項1に記載のLi2MSiO4の製造方法。
【請求項3】
上記コロイダルシリカが、その製造時に混入するNa成分の含有量を200ppm以下に低減したものである請求項1又は2に記載のLi2MSiO4の製造方法。
【請求項4】
上記混合した材料を凍結乾燥した後に上記焼成を行う請求項1乃至3のいずれかに記載のLi2MSiO4の製造方法。
【請求項5】
リチウム塩、遷移金属塩、及び粒径1μm以下の溶融シリカを混合し焼成するLi2MSiO4の製造方法。
(ただし、MはFe又はMnを示す。)
【請求項1】
リチウム塩、遷移金属塩、及びコロイダルシリカを混合し焼成するLi2MSiO4の製造方法。
(ただし、MはFe又はMnを示す。)
【請求項2】
粉体の炭素源を炉内に共存させて上記焼成を行う請求項1に記載のLi2MSiO4の製造方法。
【請求項3】
上記コロイダルシリカが、その製造時に混入するNa成分の含有量を200ppm以下に低減したものである請求項1又は2に記載のLi2MSiO4の製造方法。
【請求項4】
上記混合した材料を凍結乾燥した後に上記焼成を行う請求項1乃至3のいずれかに記載のLi2MSiO4の製造方法。
【請求項5】
リチウム塩、遷移金属塩、及び粒径1μm以下の溶融シリカを混合し焼成するLi2MSiO4の製造方法。
(ただし、MはFe又はMnを示す。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−14499(P2013−14499A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−116407(P2012−116407)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】
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