説明

ポリアニリン付加プレポリマー及びその製造、ポリアニリングラフトポリマー及びその製造、架橋物、並びに塗料

【課題】種々の溶媒への分散又は溶解が長期的に安定で且つ塗膜や自立性のフィルムを形成することが可能なポリアニリングラフトポリマーを得ることを目的とする。
【解決手段】グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンを付加させてポリアニリン付加プレポリマーとする工程と、得られたたポリアニリン付加プレポリマーと、他の不飽和基含有モノマーを互いにその2重結合において付加共重合させる工程とにより、グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンが付加したポリアニリン付加プレポリマーと、他の不飽和基含有モノマーが互いにその2重結合において付加共重合した重量平均分子量が1,000〜100,000であるポリアニリングラフトポリマーを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリアニリン付加プレポリマー及びその製造方法に関する。また、本発明は、該ポリアニリン付加プレポリマーを付加重合して得られるポリアニリングラフトポリマー及びその製造方法に関する。また、本発明は、ポリアニリングラフトポリマーの3次元架橋物に関する。さらに、本発明は、該ポリアニリングラフトポリマーやその3次元架橋物を塗膜成分として含有する塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアニリン(Pani: polyaniline)は、アニリンブラックとも呼ばれ、アニリンが酸化的化学重合又は電気化学重合した黒色粉末状の高分子物質である。ポリアニリンは、導電性高分子であることから、近年、新しい電子材料、導電材料として、電池の電極材料、帯電防止材料、電磁波遮蔽材料、光電子変換素子、光メモリー、各種センサー等の機能素子、表示素子、各種ハイブリッド材料、透明導電体、各種端末機器等の広い分野への応用が検討されている。
【0003】
しかしながら、一般にポリアニリンは、π共役系が高度に発達しているため高分子主鎖が剛直で分子鎖間の相互作用が強く、また分子鎖間に強固な水素結合が数多く存在するため殆どの有機溶剤に不溶である。また、加熱によっても溶融しないので成形性に乏しく、フィルム化等の加工ができないという大きな欠点も有している。それ故、従来は、例えば、所望の形状をした高分子材料の繊維、多孔質体等の基材にモノマーを含浸させた後、このモノマーを適当な重合触媒と接触させることによって、電解酸化により重合させることによって、或いは、熱可塑性重合体粉末の存在下でモノマーを重合させることによって、導電性複合材料を得ていた。
【0004】
下記非特許文献1には、重合触媒と反応温度の工夫により合成される、N-メチル-2-ピロリドンに可溶なポリアニリンが記載されている。しかしながら、このポリアニリンもその他の汎用有機溶剤には殆ど溶けず、適応範囲が限られている。また、様々なアニリンの誘導体を利用して有機溶剤に可溶なポリアニリン誘導体を合成することも行われているが、充分な可撓性を有するフィルムを形成することはできていない。さらに、アルキル鎖等の置換基の導入も検討されているが、その場合は同時に耐熱性の低下を招くという問題があった。
【0005】
下記特許文献1には、ポリアニリンを、末端にアミノ基と反応する基を有するポリシロキサンと反応させることにより、有機溶剤で溶解又は膨潤可能であり、かつ可撓性のある耐熱性に優れた自立性フィルムやファイバーを形成することができるグラフト構造を有するポリアニリン誘導体が開示されている。しかし、このポリアニリン誘導体は、キノジイミン構造単位及びイミノ−1,4−フェニレン構造単位のいずれか一方又は両者と、N-ポリシロキサングラフト−イミノ-1,4-フェニレン構造単位がランダムに結合してなるものであり、製造方法が複雑である上に、塗料等に用いた時に必要となる溶媒分散性や長期分散安定性を有するものではなかった。
【0006】
一方、ポリアニリンには鉄表面を不動態化する機能があり、その機能に着目して防錆塗料への適用も検討されている。しかし、前述の通りポリアニリンは難溶性のポリマーであり、一部の溶剤(N-メチル-2-ピロリドン等)を除いて、基本的に溶媒には溶解しない。そこで、防錆塗料に適用するときには、高分子の塊を物理的に粉砕することによって粒径を小さくし、塗料に混ぜるという手法が主に用いられている。しかし、物理的粉砕によって粒径を小さくするのには限界がある。そのため、塗料内でポリアニリンの安定性が低下し、結果的に粒子が沈降して、塗料と分離してしまうという問題があった。さらに塗膜内におけるポリアニリンの分散性も十分ではないという問題もある。
【0007】
このように、ポリアニリンは、塗料として用いるにはその取り扱いが困難な材料であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6-100691号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1989, 1736
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記問題点を解決するために種々の溶媒への分散又は溶解が長期的に安定で且つ塗膜や自立性のフィルムを形成することが可能なポリアニリングラフトポリマーを得ることを目的とする。また、これら性質を生かした該ポリアニリングラフトポリマーを塗膜成分として含有する塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、新規なポリアニリン付加プレポリマーを中間体として、特定構造を有するポリアニリングラフトポリマーを製造することによって前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、新規なポリアニリン付加プレポリマー及びその製造方法、該ポリアニリン付加プレポリマーを付加重合して得られるポリアニリングラフトポリマー及びその製造方法、並びに、該ポリアニリングラフトポリマーを塗膜成分として含有する塗料の発明である。
【0013】
第1に、本発明は、グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンが付加したポリアニリン付加プレポリマーである。
【0014】
本発明で出発物質として用いるグリシジル基含有(メタ)アクリレートとして、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましく例示される。又、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートとして、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートが好ましく例示される。
【0015】
第2に、本発明は、前記のポリアニリン付加プレポリマーの製造方法であり、グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンを付加させてポリアニリン付加プレポリマーを製造する。
【0016】
出発物質として用いるグリシジル基含有(メタ)アクリレートとして、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましく例示され、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートとして、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートが好ましく例示されることは、上述の通りである。
【0017】
第3に、本発明は、前記本発明のポリアニリン付加プレポリマーと、他の不飽和基含有モノマーが互いにその2重結合において付加共重合したポリアニリングラフトポリマーである。
【0018】
本発明のポリアニリングラフトポリマーは、重量平均分子量が1,000〜100,000であることが好ましい。
【0019】
出発物質として用いるグリシジル基含有(メタ)アクリレートとして、グリシジル(メタ)アクリレートが好ましく例示され、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートとして、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートが好ましく例示されることは、上述の通りである。
【0020】
共重合体のポリアニリングラフトポリマーにおいて共モノマーとして各種他の不飽和基含有モノマー、例えば、(メタ)アクリル系モノマーが例示され、、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HE(M)A)、メチル(メタ)アクリレート(M(M)A)、ブチル(メタ)アクリレート(B(M)A)、アクリル酸(AA)が好ましく例示される。
【0021】
第4に、本発明は、前記のポリアニリングラフトポリマーの製造方法であり、前記本発明のポリアニリン付加プレポリマーを合成により製造する工程と、得られたポリアニリン付加プレポリマーと、他の不飽和基含有モノマーを互いにその2重結合において付加共重合させる工程とを含むポリアニリングラフトポリマーの製造方法である。
【0022】
他の不飽和基含有モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル系モノマーが例示され、特に2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アクリル酸が好ましく例示される。
【0023】
第5に、本発明は、前記のポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させた架橋物である。本発明の架橋物はTHFなどに対する耐溶剤性が向上する。
【0024】
第6に、本発明は、前記のポリアニリングラフトポリマーやポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させた架橋物を塗膜形成成分の一部又は全部として含む塗料である。ポリアニリンが有する防錆性が発揮された塗料となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリアニリン付加プレポリマーによれば、本発明のポリアニリングラフトポリマーの製造において中間体としての合成材料を提供することができる。
【0026】
本発明のポリアニリングラフトポリマーによれば、種々の溶媒への分散又は溶解が可能であり、長期的に安定で且つ自立性のフィルムを形成することができる。それ故、特に、防錆塗料の塗膜成分として利用することができる。また、形成された塗膜やフィルムは、ドーピングにより、高い導電率を示すので、電子材料、導電材料等、種々の用途においても非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】Pani単独のNMRを示す。
【図2】GMA単独のNMRを示す。
【図3】Pani-GMA-7のNMRを示す。
【図4】Pani-GMA/HEMAのNMRを示す。
【図5】Pani-GMA/MMAのNMRを示す。
【図6】Pani-GMA/BMAのNMRを示す。
【図7】Pani-MOIのNMRを示す。
【図8】架橋剤にDN-981を用いた時の、反応前と反応後のIRを示す。
【図9】架橋剤にDN-980を用いた時の、反応前と反応後のIRを示す。
【図10】架橋剤にDN-750を用いた時の、反応前と反応後のIRを示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
1.ポリアニリン付加プレポリマー
一の実施形態で、本発明は、ポリアニリン付加プレポリマーである。本明細書において「ポリアニリン付加プレポリマー」とは、グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンを付加させた物質をいう。「付加させ」るとは、前記(メタ)アクリレートとポリアニリンとを共有結合によって化学的に連結させることをいう。具体的には、グリシジル基含有(メタ)アクリレートであれば、当該(メタ)アクリレートのグリシジル基とポリアニリンのアミノ基(NH2基)及び/又はイミノ基(-NH-基)との反応により連結させることをいう。またイソシアネート基含有(メタ)アクリレートであれば、当該(メタ)アクリレートのイソシアネート基とポリアニリンのアミノ基及び/又はイミノ基との反応により連結させることをいう。本発明のポリアニリン付加プレポリマーは、後述するポリアニリングラフトポリマーを合成するための中間体としての機能を果たし得る。
【0029】
前記「グリシジル基含有(メタ)アクリレート」としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート(G(M)A:glycidyl (meth)acrylate)が挙げられる。
【0030】
また、前記「イソシアネート基含有(メタ)アクリレート」としては、例えば、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレート(MOI:2-isocyanate ethyl (meth)acrylate/2-methacryloyloxyethyl isocyanate)が挙げられる。
【0031】
本発明のポリアニリン付加プレポリマーによれば、本発明のポリアニリングラフトポリマーの製造において中間体としての合成用材料を提供することができる。また、本発明のポリアニリン付加プレポリマーによれば、後述する実施例で示すように、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)又はジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させることができる。この効果によって加工が容易となり、後述する、ポリアニリングラフトポリマーと同様に、防錆用若しくは導電性の塗料の塗膜成分として利用することができる。
【0032】
2.ポリアニリン付加プレポリマーの製造方法
他の実施形態で、本発明は、ポリアニリン付加プレポリマーの製造方法である。
【0033】
本発明のポリアニリン付加プレポリマーの製造において、出発物質として用いるポリアニリンは、公知の方法によって得ることができる。例えば、過硫酸アンモニウム等を酸化剤として用いて、アニリンを低温、例えば、−20〜50℃の範囲の温度で酸化重合することによって得てもよい。
【0034】
また、本発明のポリアニリン付加プレポリマーの製造において、グリシジル基含有(メタ)アクリレートへのポリアニリンの付加は、グリシジル基含有(メタ)アクリレートのグリシジル基とポリアニリンのアミノ基及び/又はイミノ基を反応させることによって達成することができる。本反応において、グリシジル基含有(メタ)アクリレートは、ポリアニリンに対して過剰量添加させることが好ましい。両化合物の具体的な混合モル比は、例えば、グリシジル基含有(メタ)アクリレート:ポリアニリンが、好ましくは500〜2500:1、より好ましくは1000〜2000:1又は1500〜1800:1である。反応温度は、好ましくは80℃〜120℃、より好ましくは90℃〜110℃、さらに好ましくは95℃〜100℃である。また、反応時間は、好ましくは1時間〜6時間、より好ましくは2時間〜5時間である。その後、析出物を回収し、アルコール類(メタノール、エタノール)等に投入して半日〜1週間静置する。これによって、析出物中に混在する過剰なグリシジル基含有(メタ)アクリレートを除去する。その後、通常20℃〜70℃、好ましくは30℃〜60℃で乾燥させてポリアニリン付加プレポリマーを回収することができる。
【0035】
下記反応化学式で、本発明のポリアニリン付加プレポリマーの製造スキームの一例を示す。
【0036】
【化1】

【0037】
前記は、グリシジル基含有(メタ)アクリレートとして、グリシジルメタクリレート(GMA)を使用し、それにポリアニリン(Pani)を付加させて、ポリアニリン付加プレポリマーであるポリアニリン付加グリシジルメタクリレート(Pani−GMA)を合成する反応化学式を示している。
【0038】
また、本発明のポリアニリン付加プレポリマーの製造において、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートへのポリアニリンの付加は、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートのイソシアネート基とポリアニリンのアミノ基及び/又はイミノ基を反応させることによって達成することができる。本反応において、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートは、ポリアニリンに対して過剰量添加させることが好ましい。両化合物の具体的な混合モル比は、例えば、イソシアネート基含有(メタ)アクリレート:ポリアニリンが、好ましくは1000〜2000:1、より好ましくは1200〜1800:1、さらに好ましくは1300〜1700:1である。反応温度は、好ましくは80℃〜120℃、より好ましくは90℃〜110℃、さらに好ましくは95℃〜100℃である。また、反応時間は、好ましくは1時間〜6時間、より好ましくは2時間〜5時間である。
【0039】
下記反応式で、本発明のポリアニリン付加プレポリマーの製造スキームの他の一例を示す。
【0040】
【化2】

【0041】
前記は、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートとして、2−イソシアネートエチルメタクリレート(MOI)を使用し、それにポリアニリン(Pani)を付加させて、ポリアニリン付加プレポリマーであるポリアニリン付加2−イソシアネートエチルメタクリレート(Pani−MOI)を合成する反応化学式を示している。
【0042】
3.ポリアニリングラフトポリマー
他の実施形態で、本発明は、ポリアニリングラフトポリマーである。本明細書において「ポリアニリングラフトポリマー」とは、本発明のポリアニリン付加プレポリマーと他の不飽和基含有モノマーが、それぞれ含有する2重結合において付加共重合した化合物(共重合体)をいう。したがって、本発明のポリアニリングラフトポリマーは、通常、炭素を主たる構成成分とする直鎖状の主鎖から、ポリアニリン付加プレポリマー由来のポリアニリンを含む側鎖及び他の不飽和基含有モノマー由来の側鎖が枝分かれした構造を有する。
【0043】
本発明で、前記「他の不飽和基含有モノマー」は、不飽和結合、すなわち、二重結合若しくは三重結合を含有する化合物であれば特に限定はしない。例えば、不飽和炭化水素基(例えば、ビニル基、アリル基(2−プロペニル基)、イソプロペニル基)等を含有する化合物が該当する。具体的には、アクリル系の不飽和基含有モノマーが挙げられる。中でも、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アクリル酸が特に好ましい。また、他の不飽和基含有モノマーにおいて、不飽和結合は、複数存在していてもよい。
【0044】
本発明のポリアニリングラフトポリマーは、2種以上の本発明のポリアニリン付加プレポリマーと2種以上の他の不飽和基含有モノマーが、それぞれ含有する2重結合において付加共重合した化合物であってもよい。具体的には、本発明のポリアニリン付加グリシジル(メタ)アクリレート(Pani−G(M)A)と、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及びメチル(メタ)アクリレートを共重合した場合が該当する。
【0045】
本発明のポリアニリングラフトポリマーは、重量平均分子量が1,000〜100,000の範囲内にあることが好ましい。重量平均分子量が1,000以上であれば溶媒への長期的な分散性に優れ、また100,000以下であれば粘度も低く、同様に溶媒への分散性に優れているためである。
【0046】
本発明のポリアニリングラフトポリマーによれば、種々の有機溶剤での可溶又は膨潤が可能となる。本発明のポリアニリングラフトポリマーによれば、ポリアニリンが塗料用樹脂にグラフト化された状態、若しくはポリアニリングラフトポリマーが塗料用樹脂化合物と架橋した状態で塗料又は塗膜中に存在することができる。それ故、従来のポリアニリンが有していた様々な問題(汎用有機溶剤に不溶、及び成形が困難、溶媒中での分散性や塗膜中での長期分散安定性に欠ける等)を解決することができる。したがって、例えば、従来のポリアニリン化合物では製造ができないか若しくはできても極めて困難であった、耐熱性に優れ、長期的に安定で、且つ自立性を有した可撓性のある高分子フィルムを容易に形成することが可能となる。
【0047】
特に、前記溶媒分散性や長期分散安定性から、本発明のポリアニリングラフトポリマーは、防錆塗料の塗膜成分として非常に有用である。また、本発明のポリアニリングラフトポリマーによって形成された塗膜やフィルムは、ドーピングにより、高い導電率を示すことから、電子材料、導電材料等、種々の用途においても有用である。
【0048】
4.ポリアニリングラフトポリマーの製造方法
他の実施形態で、本発明は、ポリアニリングラフトポリマーの製造方法である。本製造方法は、(1)ポリアニリン付加プレポリマー合成工程、及び(2)ポリアニリン付加プレポリマー付加重合工程を含む。以下、それぞれの工程について説明をする。
【0049】
(1)ポリアニリン付加プレポリマー合成工程
ポリアニリン付加プレポリマー合成工程とは、グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンを付加させてポリアニリン付加プレポリマーを合成する工程である。本工程は、前記ポリアニリン付加プレポリマーの製造方法に準ずることから、ここではその説明を省略する。
【0050】
(2)ポリアニリン付加プレポリマー付加重合工程
ポリアニリン付加プレポリマー付加重合工程とは、前記(1)の工程において得られたポリアニリン付加プレポリマーを他の不飽和基含有モノマーを互いにその2重結合において付加共重合させる工程をいう。本工程では、まず、本発明のポリアニリン付加プレポリマーと他の不飽和基含有モノマーを溶媒に適当量加える。他の不飽和基含有モノマーは、上述のポリアニリングラフトポリマーの項で説明したように不飽和結合を含有する化合物であれば特に限定はしない。好ましくは、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、及び/又はブチル(メタ)アクリレート及び/又はアクリル酸である。2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。また、前記溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)のような有機溶剤を使用すればよい。ポリアニリン付加プレポリマー、他の不飽和基含有モノマー、及び溶媒の混合比は、特に限定はしないが、例えば、重量比で、好ましくはそれぞれ1〜5、5〜15、及び20〜100、より好ましくはそれぞれ1〜3、7〜12、及び30〜60である。続いて、重合開始剤(ラジカル開始剤)は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が利用できる。重合開始剤を前記他の不飽和基含有モノマーのモル%濃度に対して、通常0.5〜5mol%、好ましくは1〜3mol%となるように加えるとよい。反応温度は、好ましくは50℃〜100℃、より好ましくは60℃〜90℃、さらに好ましくは65℃〜80℃である。また、反応時間は、好ましくは5時間〜24時間、より好ましくは8時間〜20時間、さらに好ましくは10時間〜15時間である。
【0051】
下記反応式で、本発明のポリアニリングラフトポリマーの製造スキームの一例を示す。
【化3】

【0052】
前記は、ポリアニリン付加プレポリマーとしてポリアニリン付加グリシジルメタクリレート(Pani−GMA)を使用し、それと不飽和アクリル系モノマーである2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)を共重合させ、本発明のポリアニリングラフトポリマーであるPani−GMA-HEMAを合成する反応化学式を示している。
【0053】
(架橋物)
一の実施形態で、本発明は、本発明の前記ポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させた架橋物とすることができる。ジイソシアネート化合物は、例えば、イソシアヌレート型化合物(DIC製BURNOCK DN-980、及び/又はDN-981)、アダクト型化合物(D-750;DIC製BURNOCK DN-981)が利用できる。
【0054】
前記架橋反応は下記化学式によって示される。
【化4】

【0055】
本発明の架橋物によれば、ポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させることによって、耐溶剤性が向上し、塗膜物性が向上する。
【0056】
5.塗料
他の実施形態で、本発明は塗料である。本塗料は、上述した本発明のポリアニリングラフトポリマーを塗膜形成成分の一部又は全部として含む塗料、あるいは前記架橋物を塗膜形成成分の一部又は全部として含む塗料である。
【0057】
本発明のポリアニリングラフトポリマーは、N-メチル-2-ピロリドンあるいはN,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤、クロロホルム、ジクロロエタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶剤や、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤、ピリジン等のアミン系溶剤、ジメチルスルホキシド等の極性溶剤に溶解可能である。この溶液から、塗膜や自立性のフィルムを製造することが可能である。さらに、この塗膜やフィルムには、アクセプター性のドーパントでドープすることにより、10-3〜10S/cmの高い導電率を示すものになる。
【0058】
ここで使用されるドーパントは、特に制限されるものではなく、アニリン系導電性高分子のドープに際し、ドーパントとして使用されるものであれば、如何なるものでも使用することができる。具体例をあげれば、ヨウ素、臭素、塩素、三塩化ヨウ素等のハロゲン類、硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸、前記プロトン酸の各種塩、三塩化アルミニウム、三塩化鉄、塩化モリブデン、塩化アンチモン、五フッ化ヒ素等のルイス酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸等各種の化合物をあげることができる。
【0059】
これらの化合物をドープさせる方法については、特に制限はなく、公知のあらゆる方法が適用可能である。一般には、ポリアニリングラフトポリマーの塗膜又はフィルムとドーパント化合物とを接触させればよく、気相或いは液相中で行うことができる。あるいは、前記プロトン酸やその塩の溶液中で電気化学的にドープする方法を用いることもできる。
【0060】
本発明の塗料によれば、従来のポリアニリンを含有する塗料と異なり、防錆塗料として、また導電性塗膜形成塗料として、高い溶媒分散性や長期分散安定性を有する塗料を提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例によって説明するが、本実施例は、単なる例示であって、本発明の技術的範囲を何ら限定するものではない。
【0062】
<実施例1;PaniとGMAとのプレポリマー化>
前記反応式に示す合成手順でポリアニリンプレポリマーを製造した。
i)Pani及びGMAを所定量(表1参照)フラスコに投入
ii)溶媒(DMF,NMP)を所定量(表1参照)添加。溶媒がない場合はこの手順をスキップ
iii)表1の反応条件にて、反応させる
iv)析出物をメタノール3Lに投入し3日静置
v)50℃で24時間乾燥させる
【0063】
【表1】

【0064】
(評価)
H-NMRにて析出物を評価した(7ppm付近でベンゼン環のC=C結合、6ppm付近でC=C結合の確認を行った)。その結果、GMAの添加量が不足の場合、NMRでGMAの2重結合のピークは確認されなかったが、添加量増加により、GMAの2重結合が確認された。
【0065】
図1〜3に、Pani単独、GMA単独、Pani-GMA-7のNMRを示す。図3の7ppm付近のベンゼン環のピークより、C=C 1個につき約13個のベンゼン環が付加している(51.61/4=12.7)。又、合成に用いたPaniは重量平均分子量5000のものであり、Pani 5000の中にはベンゼン環が約55個存在する(5000/91=54.9)。Pani分子が反応中に切断されていないことを前提とすると、NMRの結果から、Pani1分子につき、GMA約4分子が結合(54.9/12.7=4.32)していることが予想される。Paniの両末端にGMAのグリシジル基が反応しているのではなく、Paniの中間のイミノ基(-NH-)に反応、GMAがグラフトされた状態となっているのではないかと推測される。
【0066】
<実施例2;Pani-GMAとビニルモノマーとのコポリマー化>
前記反応式に示す合成手順でポリアニリングラフトポリマーを製造した。
合成手順
i)Pani-GMAを所定量(表2参照)フラスコに投入
ii)ビニルモノマー(HEMA,MMA,BMA,AA等)を所定量(表2参照)フラスコに投入
iii)溶媒(THF)を所定量(表2参照)添加
iv)AIBNを所定量(表2参照)添加・・・各ビニルモノマーに対し2mol%となるよう添加
v)表2の反応条件にて、反応させる
vi)析出物をメタノール3Lに投入し3日静置
【0067】
【表2】

【0068】
(評価)
H-NMRにて析出物を評価した(7ppm付近でベンゼン環のC=C結合、6ppm付近でC=C結合の確認を行った)。又、GPCにて析出物の分子量を測定した。
【0069】
AA以外は、NMRで2重結合のピークが消滅しており、2重結合が付加重合に使われたと推察される。添加量増加により、GMAの2重結合が確認された
図4〜6に、Pani-GMA/HEMA、Pani-GMA/MMA、Pani-GMA/BMAのNMRを示す。
【0070】
<実施例3;Paniと樹脂モノマー(2−イソシアネートエチルメタクリレート)とのプレポリマー化>
GMAの代わりとして、下記化学式で示される、末端にNCO基を持つ、2−イソシアネートエチルメタクリレート(カレンズMOI(登録商標))を用いて、プレポリマー化を試みた。
【0071】
【化5】

【0072】
下記の合成手順で行った。
i)Pani及びカレンツMOIを所定量(表3参照)フラスコに投入
ii)表3の反応条件にて、反応させる
iii)析出物をメタノール3Lに投入し3日静置(過剰なGMAの除去)
iv)50℃で24時間乾燥させる
【0073】
【表3】

【0074】
(評価)
H-NMRにて析出物を評価した(7ppm付近でベンゼン環のC=C結合、6ppm付近でC=C結合の確認を行った)。その結果、GMAと同様に、Paniのベンゼン環由来のC=C結合及び、MOIのC=C結合が確認された。
【0075】
図7に、Pani-MOIのNMRを示す。
図7の7ppm付近のベンゼン環のピークより、C=C 1分子につき約1個のベンゼン環が付加している(3.46/4=0.865)。合成に用いたPaniは重量平均分子量5000のものであり、Pani 5000の中にはベンゼン環が約55個存在する(5000/91=54.9)。Pani分子が反応中に切断されていないことを前提とすると、NMRの結果から、Pani1分子につき、GMA約63分子が結合(54.9/0.865=63.45)していることが予想される。Paniの両末端に加え、全てのPaniの中間のイミノ基(-NH-)に反応、MOIがグラフトされた状態となっているのではないかと推測される。
【0076】
前記のPani-GMA/HEMA、Pani-GMA/MMA、Pani-GMA/BMAやPani-MOIを塗料樹脂及び塗料作製工程に組み込むことで、ポリアニリンが塗料用樹脂にグラフト化された状態、若しくは、ポリアニリングラフトポリマーが塗料用樹脂と架橋した状態で、塗料・塗膜中に存在することができ、従来の課題であった、塗料中でのポリアニリンの安定性、塗膜中での分散性が飛躍的に改善される。
【0077】
<実施例4;Paniグラフトポリマーのジイソシアネート化合物による架橋>
前記式で示される架橋反応でポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させた。ジイソシアネート化合物としては、(1)イソシアヌレート型(DIC製BURNOCK DN-980;HDI系)、(2)イソシアヌレート型(DIC製BURNOCK DN-981;HDI系)、(3)アダクト型(DIC製BURNOCK DN-750;TDI系)を用いた。
【0078】
実際に、HEMAの-OHとジイソシアネートの-NCOが反応しているかどうかを、IRを用いて確認した。図8に、架橋剤にDN-981を用いた時の、反応前と反応後のIRを示す。この結果、-NCOの吸収が消滅し、HEMAの-OHとジイソシアネートの-NCOが反応したことが確認された。
【0079】
同様に、図9に、架橋剤にDN-980を用いた時の、反応前と反応後のIRを示す。この結果、-NCOの吸収が消滅し、HEMAの-OHとジイソシアネートの-NCOが反応したことが確認された。図10に、架橋剤にDN-750を用いた時の、反応前と反応後のIRを示す。この結果、-NCOの吸収が消滅し、HEMAの-OHとジイソシアネートの-NCOが反応したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の、ポリアニリン付加プレポリマーを付加重合して得られるポリアニリングラフトポリマーは、特に、防錆塗料の塗膜成分として好適である。又、形成された塗膜やフィルムが、ドーピングにより、高い導電率を示すので、電子材料、導電材料等、種々の用途に非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンが付加したポリアニリン付加プレポリマー。
【請求項2】
前記グリシジル基含有(メタ)アクリレートが、グリシジル(メタ)アクリレートである請求項1に記載のポリアニリン付加プレポリマー。
【請求項3】
前記イソシアネート基含有(メタ)アクリレートが、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートである請求項1に記載のポリアニリン付加プレポリマー。
【請求項4】
グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンを付加させるポリアニリン付加プレポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記グリシジル基含有(メタ)アクリレートが、グリシジル(メタ)アクリレートである請求項4に記載のポリアニリン付加プレポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記イソシアネート基含有(メタ)アクリレートが、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートである請求項4に記載のポリアニリン付加プレポリマーの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかに記載のポリアニリン付加プレポリマーと、他の不飽和基含有モノマーが互いにその2重結合において付加共重合したポリアニリングラフトポリマー。
【請求項8】
重量平均分子量が1,000〜100,000である請求項7に記載のポリアニリングラフトポリマー。
【請求項9】
前記他の不飽和基含有モノマーが、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート及びアクリル酸からなる群より選択される請求項7又は8に記載のポリアニリングラフトポリマー。
【請求項10】
グリシジル基又はイソシアネート基含有(メタ)アクリレートに、ポリアニリンを付加させてポリアニリン付加プレポリマーを合成する工程と、
得られたポリアニリン付加プレポリマーと、他の不飽和基含有モノマーを互いにその2重結合において付加共重合させる工程と
を含むポリアニリングラフトポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記グリシジル基含有(メタ)アクリレートが、グリシジル(メタ)アクリレートである請求項10に記載のポリアニリングラフトポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記イソシアネート基含有(メタ)アクリレートが、2−イソシアネートエチル(メタ)アクリレートである請求項10記載のポリアニリングラフトポリマーの製造方法。
【請求項13】
前記他の不飽和基含有モノマーが、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである請求項10乃至12のいずれかに記載のポリアニリングラフトポリマーの製造方法。
【請求項14】
請求項7乃至9のいずれかに記載のポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させた架橋物。
【請求項15】
請求項7乃至9のいずれかに記載のポリアニリングラフトポリマーを塗膜形成成分の一部又は全部として含む塗料。
【請求項16】
請求項14に記載のポリアニリングラフトポリマーをジイソシアネート化合物で架橋させた架橋物を塗膜形成成分の一部又は全部として含む塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−174147(P2010−174147A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18825(P2009−18825)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000134637)株式会社ナード研究所 (31)
【Fターム(参考)】