説明

ポリアニリン含有組成物およびその製造方法

【課題】ポリアニリン類が水や水可溶性溶剤に均一に分散されていて、成膜した際に高い導電性を示し、さらに、塗膜の耐水性や強度・柔軟性も十分なポリアニリン含有組成物を提供することを課題としている。
【解決手段】ポリアニリン類と、エマルジョン重合体を含有する組成物であって、該エマルジョン重合体は、一般式(1)で表される単量体を構成単量体全量中15質量%以上使用して重合したものであることを特徴とするポリアニリン含有組成物。
【化1】


(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基または、RとRとが結合して炭素数1〜12のアルキレン基、オキシアルキレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアニリン類が水や水可溶性溶剤に均一に分散されたポリアニリン含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な導電性ポリマーのうち、ポリアニリンは空気中での安定性が良好であり、種々の分野での応用が検討されている。代表的な応用例としては、二次電池の正極、固体電解質コンデンサー、帯電防止材、透明導電膜、電磁波シールド材等が挙げられる。
【0003】
これらの用途の多くにおいて、ポリアニリンは種々の材料にコーティングして使用される。この場合、コーティングされた塗膜に要求される性能としては、ポリアニリン由来の特性である導電性に加えて、塗膜としての成膜性、強度・柔軟性等が求められる。
【0004】
しかしながら、一般にポリアニリンは水や水可溶性溶剤に対する溶解性や分散性が著しく低いため、コーティング剤として用いる場合に、ポリアニリンの含有量が少ないものしか調製できずに導電性が不十分であったり、強制的にポリアニリンを分散させた場合には、その分散状態が悪いため、均一な塗膜としての成膜性が悪かったり、塗膜自体の強度・柔軟性が不足するという問題があった。
【0005】
これらの問題を解決するために、エマルジョン重合体の存在下でアニリンモノマーを酸化重合することにより分散性にすぐれたポリアニリン含有組成物を得る方法やドープ状態のポリアニリンとエマルジョン重合体を混合する方法が提案されている。(例えば、特許文献1、2参照)
しかし、上記の方法の場合、重合体エマルジョンの存在下でのアニリンの酸化重合は非常に遅く、低い分子量のポリアニリンしか得られないために、成膜した際に導電性が不十分であったり、エマルジョン重合体と安定な混合物を形成するドープ状態のポリアニリンを調製するのためには多量のドーパントが必要であり、ポリアニリン含有組成物からなる塗膜の耐水性が低下したりする問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭64−69621号公報。
【0007】
【特許文献2】特開平2000−256617号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明では、ポリアニリン類が水や水可溶性溶剤に均一に分散されていて、成膜した際に高い導電性を示し、さらに、塗膜の耐水性や強度・柔軟性も十分なポリアニリン含有組成物を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは、ポリアニリン含有組成物について鋭意検討を重ねた結果、ポリアニリン類と、エマルジョン重合体を含有する組成物において、該エマルジョン重合体が、一般式(1)で表される単量体を構成単量体全量中15質量%以上使用して重合したものであることにより、ポリアニリン類がエマルジョン重合体ともに水や水可溶性溶剤中に均一に分散された分散体が得られることを見いだした。そして、このような組成物より得られる塗膜は高い導電性を示し、しかも、耐水性や強度・柔軟性にも優れることを見いだし、上記課題をみごと解決できることに想倒し、本発明を到達したものである。
【0010】
すなわち、本発明にかかるポリアニリン含有組成物は、ポリアニリン類と、エマルジョン重合体を含有する組成物であって、該エマルジョン重合体は、一般式(1)で表される単量体を構成単量体全量中15質量%以上使用して重合したものであるポリアニリン含有組成物である。
【0011】
また、上記一般式(1)で表される単量体が、アクロイルモルホリンであることが、水や水可溶性溶剤中でのポリアニリン類の分散性が高くなることから好ましい実施態様である。
【0012】
さらに、本発明には、ポリアニリン類を、一般式(1)で表される単量体を必須成分とする単量体混合物に溶解あるいは分散させた後、該単量体混合物を乳化重合するポリアニリン含有組成物の製造方法も含まれる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の光半導体封止用樹脂組成物は、上述の構成よりなるので、ポリアニリン類が水や水可溶性溶剤に均一に分散されていて、成膜した際に高い導電性を示し、さらに、耐水性や強度・柔軟性に優れた塗膜を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者等は、ポリアニリン含有組成物について鋭意検討を重ねた結果、ポリアニリン類と、エマルジョン重合体を含有する組成物において、該エマルジョン重合体が、一般式(1)で表される単量体を構成単量体全量中15質量%以上使用して重合したものであることにより、ポリアニリン類がエマルジョン重合体ともに水や水可溶性溶剤中に均一に分散された分散体が得られることを見いだし、上記の課題をみごとに解決できることに想倒した。
【0015】
本発明のポリアニリン含有組成物はポリアニリン類と、エマルジョン重合体とを必須成分とする混合物であり、ポリアニリン類とエマルジョン重合体とが一体となって分散した混合物である。
【0016】
本発明のポリアニリン含有組成物におけるポリアニリン類の含有量は、0.02質量%〜10質量%の範囲内が好ましい。該含有量が0.02質量%未満では、ポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の導電性が低くなるおそれがあり、10質量%を超えるとポリアニリン類の分散性が悪くなるため、ポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の強度・柔軟性が低くなるおそれがある。ポリアニリン類の含有量のより好ましい上限値は8質量%であり、6質量%が最も好ましい。また、上記含有量のより好ましい下限値は0.1質量%であり、0.3質量%が最も好ましい。
【0017】
本発明におけるポリアニリン類としては、一般的なエメラルジン型のポリアニリンが好ましく用いられる。このエメラルジン型のポリアニリンとは、還元型単位(フェニレンジアミン骨格)と酸化型単位(キノンイミン骨格)が1対1のモル比で存在する基本骨格を繰り返し単位として含有するものが挙げられる。
【0018】
本発明のポリアニリン類は公知の方法により製造されたものであっても、市販品をそのまま使用してもよい。
【0019】
本発明のポリアニリン類としては、上記エメラルジン型のポリアニリン以外に、ポリアニリン骨格中の芳香族環がo−、m−置換されたものも使用できる。該置換基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシル基、炭素数1〜20のカルボキシエステル基、シアノ基、アリール基、スルホン基、ハロゲン基等が挙げられる。
【0020】
本発明におけるポリアニリン類の重量平均分子量(Mw)は、GPCのポリエチレンオキサイド換算で、2,000以上のものが好ましい。重量平均分子量が2,000未満では、ポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の導電性が低くなるおそれがある。重量平均分子量が2,000未満では、組成物より得られた塗膜の導電性が低下するおそれがある。該重量平均分子量は3,000〜20万の範囲内がさらに好ましく、5,000〜10万の範囲内が最も好ましい。
【0021】
本発明のエマルジョン重合体は、一般式(1)で表される単量体を構成単量体全量中15質量%以上使用して重合した重合体である。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基または、RとRとが結合して炭素数1〜12のアルキレン基、オキシアルキレン基を表す。)
本発明のポリアニリン含有組成物におけるエマルジョン重合体の含有量は、10質量%〜60質量%の範囲内が好ましい。該含有量が10質量%未満では、ポリアニリン含有組成物の成膜性が悪くなり、均一な塗膜が得られないおそれがあり、60質量%を超えるとポリアニリン含有組成物の粘度が高くなり作業性が低下するおそれがある。エマルジョン重合体の含有量のより好ましい上限値は50質量%であり、40質量%が最も好ましい。また、上記含有量のより好ましい下限値は15質量%であり、20質量%が最も好ましい。
【0024】
上記の一般式(1)で表される単量体としては、重合反応中の安定性や組成物の保存安定性が優れることからRとRが架橋性の官能基でないことが好ましく、具体的には例えば、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−(1,1‘−ジメチル−2−フェニル)エチル(メタ)アクリルアミド、N−ジフェニルメチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−(1−メチルブチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。この中でもポリアニリン類の分散性が向上することからN,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンが好ましく、(メタ)アクリロイルモルホリンが最も好ましい。
【0025】
本発明のエマルジョン重合体において、一般式(1)で表される単量体の使用量は構成単量体全量中15質量%以上である。さらに、一般式(1)で表される単量体の使用量は15質量%〜80質量%の範囲内が好ましい。該使用量が15質量%未満では、ポリアニリン類の分散性が低くなるおそれがあり、80質量%を超えるとポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。該使用量は15質量%〜60質量%の範囲内がさらに好ましく。20質量%〜40質量%の範囲内が最も好ましい。
【0026】
本発明のエマルジョン重合体における構成単量体には、ポリアニリン類をドープして導電性等の性能を付与するために、酸基を有する単量体を一般式(1)で表される単量体と併用することが好ましい。
【0027】
上記酸基を有する単量体としては、カルボキシル基を有する単量体、スルホン基を有する単量体、リン酸基有する単量体が好ましく使用でき、具体的には、(メタ)アクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタリルスルホン酸、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0028】
上記構成単量体における、酸基を有する単量体の使用量は、0.5質量%〜30質量%の範囲内が好ましい。該使用量が1質量%未満では、ポリアニリンのドープ効率が低いためポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の導電性が低くなる恐れがあり、30質量%を超えるとポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。該使用量は1質量%〜20質量%の範囲内がさらに好ましく。2質量%〜10質量%の範囲内が最も好ましい。
【0029】
本発明のエマルジョン重合体における構成単量体には、効率的に乳化重合を行うために、非水溶性である単量体を一般式(1)で表される単量体や酸基を有する単量体と併用することが好ましい。なお、非水溶性である単量体とは、20℃で水溶性が10g/100ml未満である単量体である。
【0030】
上記の非水溶性である単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートや、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
【0031】
上記構成単量体における、非水溶性である単量体の使用量は、30質量%〜90質量%の範囲内が好ましい。該使用量が30質量%未満では、乳化重合が困難となりエマルジョン重合体が得られない恐れがあり、90質量%を超えるとポリアニリン類の分散性が低くなるおそれがある。該使用量は40質量%〜80質量%の範囲内がさらに好ましく。50質量%〜70質量%の範囲内が最も好ましい。
【0032】
本発明のエマルジョン重合体における構成単量体には、一般式(1)で表される単量体や酸基を有する単量体や非水溶性である単量体以外のその他の単量体を構成単量体として用いることができる。その他の単量体の種類と量はポリアニリン含有組成物よりなる塗膜に要求される物性によって適宜設定すればよい。
【0033】
上記その他の単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
本発明のポリアニリン含有組成物の調製方法としては、あらかじめ、ポリアニリン類を、一般式(1)で表される単量体を必須成分とするエマルジョン重合体の構成単量体混合物に溶解あるいは分散させた後、乳化重合する方法がポリアニリン類の分散性が向上してポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の導電性が高くなることから好ましい。
【0034】
ポリアニリン類を、一般式(1)で表される単量体を必須成分とするエマルジョン重合体の構成単量体の混合物に溶解あるいは分散させる際には、溶解あるいは分散前のポリアニリン類はあらかじめドーピングされていないアンドープのポリアニリン類を使用することがポリアニリンの分散性が向上するため好ましい。すなわち、ドーピングはポリアニリン類をエマルジョン重合体の構成単量体混合物に溶解あるいは分散させる際におこり、ポリアニリンは絶縁性から導電性に変化することになる。
【0035】
上記の溶解あるいは分散させる際の条件としては、ホモジナイサーやホモミキサー等の高速回転攪拌できる機器で攪拌しながら溶解あるいは分散させることが好ましい。
【0036】
本発明におけるエマルジョン重合体を得る乳化重合としては、一般に乳化重合で用いられる方法が適応でき、例えば、単量体一括添加法、単量体滴下法、プレエマルション法、パワーフィード法、シード法、単量体多段添加法等が挙げられる。
【0037】
上記重合反応の際の反応温度や反応時間等の反応条件は適宜設定すればよい。また、上記重合反応は、窒素雰囲気下で行うことが好ましく、さらに、平均分子量を調整するために、連鎖移動剤を添加して行うこともできる。
【0038】
本発明の乳化重合の際に用いる乳化剤としては、ミセルが安定に保てることからノニオン系の乳化剤が好ましく、さらに、ポリアニリン類との親和性が高いことから分子骨格中に芳香族環する乳化剤が好ましい。
【0039】
上記の乳化剤としては、例えば、ノニポールシリーズ、エレミノールSCZ−35、エレミノールSTN−6、STN−8、STN−13、STN−20、STN−45(以上、三洋化成社製)、エマルゲンA―60、A−66、A−90(以上、花王社製)、ノイゲンEA−157、EA−167、EA−177、アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50(以上、第一工業製薬社製)等が挙げられる
上記の乳化剤のHLB(Hydrophile−Lipophile Balanceの略)は13〜17の範囲内がポリアニリン含有組成物中のポリアニリン類の安定性が高まるため好ましい。該HLBのさらに好ましい範囲としては14〜17の範囲内であり、15〜17の範囲内が最も好ましい。このHLBとは、界面活性剤の親水性と親油性の度合いを示す指標であり、エチレンオキサイド系ノニオン系界面活性剤の場合は、HLB=(ポリオキシエチレン部分の重量分率)/5、多価アルコール系ノニオン系界面活性剤の場合は、HLB=20(1−(多価アルコールエステルのけん化価)/(脂肪酸の中和価))で表されるグリフィンの式により求められる。
【0040】
上記乳化剤の使用量は、構成単量体の混合物100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内が好ましい。該使用量が1質量部未満では、乳化重合中の安定性が不足するおそれがあり、20質量部を超えるとポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の耐水性が低下するおそれがある。該使用量は、3〜15質量部の範囲内がさらに好ましく、5〜15質量部の範囲内が最も好ましい。
【0041】
本発明の乳化重合の際に用いる重合開始剤としては、ポリアニリンが酸化されるおそれが少ないことから、アゾ系の重合開始剤が好ましい。該アゾ系の重合開始剤としては、例えば、2,2´-アゾビス(2−アミジノプロパン)ニ塩酸塩、4,4´-アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2´-アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ニ塩酸塩、2,2´-アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ニ硫酸塩ニ水和物、2,2´-アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミド〕、2,2´-アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}ジヒドロクロライド、2,2´-アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕等の水溶性アゾ化合物が挙げられる。
【0042】
上記の重合開始剤の使用量は、構成単量体混合物100質量部に対して、0.1〜5質量部の範囲内が好ましい。該使用量が0.1質量部未満では、乳化重合が進まず単量体が残存して、ポリアニリン含有組成物よりなる塗膜の強度・柔軟性が低下するおそれがあり、5質量部を超えると乳化重合中の安定性が不足するおそれがある。該使用量は、0.5〜3質量部の範囲内がさらに好ましく、0.7〜2質量部の範囲内が最も好ましい。
【0043】
本発明のポリアニリン含有組成物は、無機微粒子を配合することが好ましい。該無機微粒子を配合することにより、ポリアニリン類の自己凝集性が抑制され、保存安定性が向上する。
【0044】
本発明における無機微粒子としては、比表面積が50m/g以上が好ましい。無機粒子の比表面積が50m/g未満ではポリアニリン含有組成物中のポリアニリン類が経時で凝集し、保存安定性が低下するおそれがある。無機微粒子の比表面積は、100m/g以上が好ましく、150m/g以上が最も好ましい。
【0045】
上記無機微粒子の1次粒子の平均粒子径としては、50nm以下が好ましい。無機微粒子の1次粒子の平均粒子径が50nmを超えるとポリアニリン含有組成物中のポリアニリン類が経時で凝集し、保存安定性が低下するおそれがある。無機微粒子の平均粒子径、30nm以下が好ましく、20nm以下が最も好ましい。
【0046】
本発明における無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコン、酸化チタン、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、カーボン等が挙げられる。上記無機化合物の中でも、シリカ、アルミナ、ジルコン、酸化チタン等の無機酸化物が、ポリアニリン含有組成物中のポリアニリン類の安定性がより向上するため好ましく、シリカ粒子がより好ましい。
【0047】
該シリカ粒子としては、例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ等が挙げられ、具体的には、アエロジル(商品名、日本アエロジル社製)、レオロシール(商品名、トクヤマ社製)等が挙げられる。
【0048】
本発明のポリアニリン含有組成物においては、無機微粒子の配合量は、エマルジョン重合体の100質量部に対して、0.01質量部〜5質量部の範囲内が好ましい。該配合量が0.01質量部未満では、組成物中のポリアニリン類の凝集抑制が小さく、保存安定性が低下するおそれがあり、該配合量が5質量部を超えると、ポリアニリン含有組成物から得られた塗膜の強度・柔軟性が低下するおそれがある。無機微粒子の配合量のより好ましい範囲は0.1質量部〜3質量部であり、0.1質量部〜1質量部の範囲内が最も好ましい。
【0049】
本発明のポリアニリン含有組成物には、必要に応じて、その他の化合物や副資剤を含んでいてもよい。
【0050】
上記その他の化合物や副資剤としては、例えば、水、溶剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、可塑剤、レベリング剤、ハジキ防止剤、溶剤等が挙げられる。
【0051】
その他の化合物や副資剤の量は、発明の効果を損なわない範囲であれば良く、組成物中の0.01質量%〜90質量%の範囲内が好ましい。
【実施例】
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下ことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0053】
実施例1
ポリアニリン類として、ポリアニリン(エメラルジン ベース、商品名:PANIPOL PA、Panipol社製)2.0部を、一般式(1)で表される単量体として、アクリロイルモルホリン20部とスチレン5.0部の混合物に均一に溶解して、青紫色のポリアニリン溶液を得た。この溶液をスチレン20部、ブチルアクリレート15部、アクリル酸5.0部の混合液中に、ホモジナイザで攪拌しながら滴下して、ポリアニリンが均一に分散した濃緑色の単量体混合物を得た。
【0054】
続いて、温度計、冷却管、窒素導入管、滴下ロート、および攪拌機を備えた反応器に、イオン交換水140部、乳化剤としてノイゲンEA−167(商品名、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、HLB:14.8、第一工業製薬社製)3.0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌溶解した。滴下ロートに上記単量体混合物を入れ、その1/10を反応器に滴下した。続いて、2,2´-アゾビス(2−アミジノプロパン)ニ塩酸塩の10%水溶液6.0部を投入した。70℃で30分間重合反応後、残りの単量体混合物を4時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後同温度で1時間重合反応を行い、不揮発分32%、ポリアニリン含有量0.9%の本発明にかかるポリアニリン含有組成物(1)を得た。
【0055】
実施例2
実施例1と同様にして、ポリアニリン2.0部を、アクリロイルモルホリン10部とスチレン5.0部とイオン交換水1.5部の混合物に均一に溶解して、青紫色のポリアニリン溶液を得た。この溶液をスチレン10部、ブチルアクリレート10部、アクリル酸4.0部の混合液中に、ホモジナイザで攪拌しながら滴下して、ポリアニリンが均一に分散した濃緑色の単量体混合物を得た。
【0056】
続いて、実施例1と同様にしてイオン交換水140部、乳化剤としてノイゲンEA−177(商品名、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、HLB:15.6、第一工業製薬社製)3.0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌溶解した。滴下ロートに上記単量体混合物を入れ、その1/10を反応器に滴下した。続いて、2,2´-アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕ニ塩酸塩の10%水溶液6.0部を投入した。53℃で30分間重合反応後、残りの単量体混合物を4時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後同温度で1時間重合反応を行い、不揮発分24%、ポリアニリン含有量1.1%の本発明にかかるポリアニリン含有組成物(2)を得た。
【0057】
実施例3
実施例1と同様にして、ポリアニリン2.0部を、一般式(1)で表される単量体として、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド20部とスチレン5.0部の混合物に均一に溶解した。この溶液をスチレン20部、ブチルアクリレート15部、ライトエステルP−1M(商品名、2−(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、共栄社化学社社製)4.0部の混合液中に滴下して、ポリアニリンが均一に分散した濃緑色の単量体混合物を得た。実施例1と同様にして、該単量体混合物を用いて、重合反応を行い、不揮発分32%、ポリアニリン含有量0.9%の本発明にかかるポリアニリン含有組成物(3)を得た。
【0058】
実施例4
実施例1と同様にして、ポリアニリン2.0部を、アクリロイルモルホリン20部とスチレン5.0部の混合物に均一に溶解した。この溶液をスチレン20部、2−エチルヘキシルアクリレート15部、ライトエステルP−1M2.0部、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸2.0部の混合液中に滴下して、ポリアニリンが均一に分散した濃緑色の単量体混合物を得た。実施例1と同様にして、該単量体混合物を用いて、重合反応を行い、不揮発分32%、ポリアニリン含有量0.9%の本発明にかかるポリアニリン含有組成物(4)を得た。
【0059】
実施例5
実施例1と同様にして、ポリアニリン2.0部を、アクリロイルモルホリン20部と2−ヒドロキシアクリレート5.0部の混合物に均一に溶解した。この溶液をスチレン20部、ブチルアクリレート15部、アクリル酸3.0部、ライトエステルP−1M2.0部の混合液中に滴下して、ポリアニリンが均一に分散した濃緑色の単量体混合物を得た。実施例1と同様にして、該単量体混合物を用いて、重合反応を行い、不揮発分32%、ポリアニリン含有量0.9%の本発明にかかるポリアニリン含有組成物(5)を得た。
【0060】
参考例1
実施例1と同様の反応器に、イオン交換水140部、ノイゲンEA−167の3.0部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら攪拌溶解した。滴下ロートにスチレン20部、ブチルアクリレート15部、アクリル酸5.0部の単量体混合物を入れ、その1/10を反応器に滴下した。続いて、2,2´-アゾビス(2−アミジノプロパン)ニ塩酸塩の10%水溶液6.0部を投入した。70℃で30分間重合反応後、残りの単量体混合物を4時間かけて滴下した。さらに、滴下終了後同温度で1時間重合反応を行い、不揮発分23%のエマルジョン組成物(1)を得た。
【0061】
比較例1
参考例1で合成したエマルジョン組成物(1)150部に12N塩酸10部、アニリン4.6部を溶解させた。続いて、過硫酸アンモニウム11.4部をイオン交換水100部に溶解した酸化剤水溶液を用意した。これら2つの溶液を、5℃まで冷却した後、混合し、8時間攪拌反応し、不揮発分14%、ポリアニリン含有量1.3%の比較のポリアニリン含有組成物(1)を得た。なお、この反応のアニリン酸化重合の反応率は80%であった。
【0062】
比較例2
p−トルエンスルホン酸10部をイオン交換水150部に溶解し、硫酸1.5部およびアニリン2.5部を加え、0℃に冷却した。過硫酸アンモニウム5.5部をイオン交換水50部に溶解した溶液をあらかじめ0℃に冷却しておき、15分間で滴下した。さらに、0℃で20時間攪拌した。限界濾過により濃縮して、不揮発分38%、ポリアニリン含有量5.0%のポリアニリン溶液を得た。
【0063】
さらに、このポリアニリン溶液100部と参考例1のエマルジョン組成物(1)100部を混合して、不揮発分32%、ポリアニリン含有量2.5%の比較のポリアニリン含有組成物(2)を得た。
【0064】
評価方法
実施例1〜5で得られたポリアニリン含有組成物(1)〜(5)および比較例1〜2で得られた比較のポリアニリン含有組成物(1)〜(2)を以下の方法により評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(a)表面抵抗値
ガラス基板にバーコーターで塗布後、乾燥して2μmの塗膜を形成し、JIS−K6911に準拠して、抵抗測定装置にて表面抵抗を測定した。
【0067】
(b)耐水性
化成処理を施したアルミ基板にバーコーターで塗布後、乾燥して2μmの塗膜を形成した。この試験板を25℃±3のイオン交換水に3日間浸漬し、目視により外観を評価した。
○…異常なし
△…部分的にふくれが見られる
×…塗膜にやぶれが見られる。
【0068】
(c)鉛筆硬度測定
化成処理を施したアルミ基板にバーコーターで塗布後、乾燥して2μmの塗膜を形成し、JIS−K6911に準拠して鉛筆硬度を測定した。
【0069】
表1から明らかなように、実施例1〜5のポリアニリン含有組成物は、ポリアニリンが均一に分散されているため、均一な成膜が可能であり、成膜した塗膜は高い導電性を示し、塗膜の耐水性や強度・柔軟性も十分な性能を保持するものであった。
【0070】
一方、比較例1のポリアニリン含有組成物がポリアニリンの分散状態が悪く、さらに、アニリンの重合度が低いことから、成膜した塗膜の導電性も低いものとなり、残存するアニリンモノマーの影響で塗膜の耐水性や強度・柔軟性も不十分であった。さらに、比較例2ではドーパントを多量に用いているため、塗膜の導電性は高いものの、塗膜の耐水性や強度・柔軟性が不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリアニリン含有組成物は、ポリアニリン類が水や水可溶性溶剤に均一に分散されていて、成膜した際に高い導電性を示し、さらに、塗膜の耐水性や強度・柔軟性も十分である。したがって、本発明のポリアニリン含有組成物は、二次電池の正極、固体電解質コンデンサー、帯電防止材、透明導電膜、電磁波シールド材用途に有効に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアニリン類と、エマルジョン重合体を含有する組成物であって、該エマルジョン重合体は、一般式(1)で表される単量体を構成単量体全量中15質量%以上使用して重合したものであることを特徴とするポリアニリン含有組成物。
【化1】

(式中、Rは水素原子またはメチル基を表し、RおよびRはそれぞれ独立して水素、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基または、RとRとが結合して炭素数1〜12のアルキレン基、オキシアルキレン基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される単量体が、アクリロイルモルホリンである請求項1記載のポリアニリン含有組成物。
【請求項3】
ポリアニリン類を、一般式(1)で表される単量体を必須成分とする単量体混合物に溶解あるいは分散させた後、該単量体混合物を乳化重合することを特徴とするポリアニリン含有組成物の製造方法。