説明

ポリアミドイミドの製造方法、ポリアミドイミド及び絶縁電線

【課題】短時間で製造可能であり、製造コストを低減できるポリアミドイミドの製造方法を提供すること。また上記のポリアミドイミドを用いて形成された樹脂層を有することで、製造コストを低減できる絶縁電線を提供すること。
【解決手段】芳香族ジイソシアネートを含むイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物を含む酸成分とを反応させるポリアミドイミドの製造方法であって、前記イソシアネート成分、前記酸成分、及び溶媒を混合し、マイクロ波を照射して反応させるポリアミドイミドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドイミドの製造方法に関し、特に絶縁電線の絶縁皮膜として好適に用いることができるポリアミドイミド、及びこの製造方法によって得られるポリアミドイミド並びにそれを用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
モータ等のコイル用巻線として用いられる絶縁電線において、導体を被覆する絶縁層(絶縁皮膜)には、優れた絶縁性、導体に対する密着性、耐熱性、機械的強度等が求められている。ポリアミドイミドはこのような特性を満たすため、絶縁電線の絶縁層として汎用されている。
【0003】
特許文献1には、イソシアネート成分と酸成分とを原料とするポリアミドイミド系塗料の塗布、焼付けにより形成された絶縁被膜を有する絶縁電線が開示されている。イソシアネート成分として芳香族ジイソシアネート化合物を使用し、酸成分としてはトリメリット酸、トリメリット酸無水物等が使用されており、これらの原料と溶媒とを混合した後、加熱してポリアミドイミドを合成している。例えば特許文献1の実施例では、ポリアミドイミドの原料であるトリメリット酸無水物(TMA)、トリメリット酸(ETM)及びジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)を混合した後溶媒を加え、80℃で3時間加熱した後さらに3時間かけて140℃まで昇温した後、140℃で1時間加熱してポリアミドイミドを合成している。
【0004】
また特許文献2には、高濃度のポリアミドイミド塗料が得られるポリアミドイミドの製造方法が開示されている。特許文献2では、カプロラクタム化合物の存在下で、トリメリット酸を含有する酸成分と芳香族ジイソシアネートを含有するイソシアネート成分とを反応させている。特許文献1と同様これらの原料を混合した後溶媒を加え、80℃で各成分を溶解させた後4時間かけて130℃まで昇温した後、130℃で2時間加熱してポリアミドイミドを合成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−21849号公報
【特許文献2】特開2009−149757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載されているように、ポリアミドイミドの合成を行う際には数時間かけて反応温度を130℃〜140℃まで昇温した後数時間反応させる必要があり、反応に時間がかかることからポリアミドイミドワニスのコストを上げる要因となっている。反応時間を短縮するためには短い時間で反応温度まで昇温することや高温で短時間反応させることが考えられる。しかしイソシアネート成分は反応性が高く、急激に温度を上昇させたり高温で反応させると反応が進みすぎて高分子量化し、高粘度となりゲル化する可能性がある。また反応温度を上げすぎると各モノマーと溶媒との副反応が起こる可能性もある。
【0007】
特許文献2に記載されているように、カプロラクタム化合物の存在下で反応を行うことである程度イソシアネート成分の反応性を制御できる。しかしこの方法でも合成反応に要する時間を短縮することはできず、ポリアミドイミドワニスの更なる低コスト化のためには短時間で合成できるポリアミドイミドの製造方法が求められている。
【0008】
そこで本発明は、短時間で製造可能であり、製造コストを低減できるポリアミドイミドの製造方法を提供することを課題とする。また上記のポリアミドイミドを用いて形成された樹脂層を有することで、製造コストを低減できる絶縁電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、芳香族ジイソシアネートを含むイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物を含む酸成分とを反応させるポリアミドイミドの製造方法であって、前記イソシアネート成分、前記酸成分、及び溶媒を混合し、マイクロ波を照射して反応させるポリアミドイミドの製造方法である(請求項1)。
【0010】
従来のポリアミドイミドの合成反応では、オイルバス等を用いて熱伝導によりイソシアネート成分、酸成分、溶媒を加熱している。これに対し本発明ではマイクロ波を照射して各成分を加熱する。このような方法で反応させることで、短時間で温度が上昇しても副反応が起こりにくく良好に反応が進み、短時間で反応を終了させることができる。
【0011】
マイクロ波は波長100μm〜1m、周波数300MHz〜3THzの電磁波である。マイクロ波の周波数には特に限定はないが、電子レンジや工業用マイクロ波加熱装置では水が吸収しやすい周波数2.45GHzのマイクロ波が使用されることが多く、マイクロ波照射装置の入手も容易である。従ってマイクロ波の周波数は2.45GHzとすることが好ましい(請求項2)。
【0012】
溶媒は、酸成分及びイソシアネート成分を溶解可能なものであれば任意のものを使用可能である。マイクロ波の吸収しやすさを考慮すると極性溶媒が好ましく、誘電率が10以上の溶媒を使用することが好ましい(請求項3)。
【0013】
さらに、反応系にカプロラクタム化合物を存在させると、反応系中の固形分濃度を上げた場合でもイソシアネート成分の反応を制御することができ好ましい(請求項4)。反応系中の固形分濃度を上げたり、急激に温度上昇した場合、イソシアネート成分の反応性が高くなりすぎることでポリアミドイミドの分子量が上がりゲル化する可能性がある。反応系にカプロラクタム化合物、ケトオキシム、マレイン酸ジエチル、フェノール誘導体等の反応制御剤(イソシアネートブロック剤)を存在させるとイソシアネート成分の反応を制御可能となる。反応制御剤としてはカプロラクタム化合物が好ましく、特にε−カプロラクタムが好ましく使用できる。
【0014】
請求項5に記載の発明は、導体及び該導体を被覆する単層又は多層の絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、上記のポリアミドイミドの製造方法によって得られるポリアミドイミドを塗布、焼付けして形成された樹脂層を有する絶縁電線である。反応時間を短縮することでコストの低いポリアミドイミドを使用することで、絶縁電線のコストを低減できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短時間で製造可能であることで製造コストを低減できるポリアミドイミド及びそれを用いた絶縁電線が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ポリアミドイミドの材料として用いるイソシアネート成分は芳香族ジイソシアネートを必須とする。イソシアネート成分としてはジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニルー4,4’−ジイソシアネート、ナフタレンー1,5−ジイルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが使用できる。それぞれの材料を単独で使用しても良いし2種以上を組み合わせても良い。また芳香族ジイソシアネート以外のジイソシアネートを併用しても良い。
【0017】
ポリアミドイミドの材料として用いる酸成分としては、トリメリット酸無水物(TMA)、1,2,5−トリメリット酸(1,2,5−ETM)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−(2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が使用できる。このうちトリメリット酸無水物は必須とする。それぞれの材料を単独で使用しても良いし2種以上を組み合わせても良い。
【0018】
上記のイソシアネート成分と酸成分とを混合して反応させる。酸成分合計量(当量)と、イソシアネート成分の合計量(当量)の比率は約1:1とすると反応が良好に進行して好ましい。またイソシアネート成分の量を酸成分よりも若干多くすることで、温度が上昇してイソシアネート基と溶媒との副反応が起こった場合でも良好に反応が進行する。具体的には酸成分1当量あたりイソシアネート成分0.9〜1.2当量が好ましく、より好ましい範囲は0.95〜1.15当量である。
【0019】
さらにカプロラクタム化合物を反応系に加えても良い。カプロラクタム化合物としては、ε−カプロラクタム、3−アミノカプロラクタム、6−ヘキサンラクタムなどが挙げられる。これらの材料は単独でまたは2種以上を組み合わせて用いる。このなかでも特にε−カプロラクタムが、反応制御効果が高く好ましい。カプロラクタム化合物の量はイソシアネート成分1当量あたり0.1当量以上1.0当量以下、より好ましくは0.2当量以上0.5当量以下である。
【0020】
溶媒としては、誘電率が10以上の非プロトン性極性有機溶媒を用いることが好ましい。誘電率が高いほどマイクロ波の吸収効率が高くなり、低いエネルギーでも短時間で加熱可能となるからである。非プロトン性極性有機溶媒としてはN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、クレゾール等が例示される。なかでもN−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミドは誘電率が高く、またポリアミドイミドの溶解性に優れている。
【0021】
上記のイソシアネート成分、酸成分、及び溶媒を混合し、マイクロ波を照射して反応させる。マイクロ波の出力は、反応スケール(溶媒量、酸成分量、イソシアネート成分量)や反応温度により適宜選択可能であるが、数100W〜数100kW程度である。出力が高いほど短時間で温度を上昇でき好ましいが、温度が上がりすぎると副反応が起こる可能性があるため反応スケールによってマイクロ波の出力を調整する。反応スケールが小さい場合には200W程度の出力でも良好に温度を上げ、反応させることができる。マイクロ波照射装置としては、例えば電子レンジや工業用のマイクロ波加熱装置を使用可能である。また反応は窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0022】
反応温度は140℃〜220℃程度が好ましい。反応温度が140℃未満であると反応に長時間を要し、製造コストが高くなる。また反応温度が220℃を超えると副反応が起こりやすくなる。
【0023】
マイクロ波の出力Pは、次式を参考にして設定することができる。
P=1.16×10−3×Cm×M×ΔT/η (kW)
P:出力(kW)、Cm:被加熱物質の平均比熱(kcal/kg・℃)、
M:単位時間当たりの処理量(kg/h)、ΔT:温度上昇値(℃)、
η:マイクロ波処理効率
【0024】
例えば、比熱Cmが0.485kcal/kg・℃の溶剤DMFを一時間に10kg処理し、20℃から200℃まで温度上昇させる場合には、必要なマイクロ波の出力は1.45kWと算出できる(η=0.7として概算)。実際に反応を行う際に最適なマイクロ波の出力はモノマーの種類や反応容器等によって異なるため、上記式で求めた値を参考にして適宜出力を調整する。
【0025】
得られたポリアミドイミド溶液はそのまま、又は後述するようにイソシアネート末端封止処理やブロックイソシアネートと混合した後、樹脂ワニス(溶液)として使用する。樹脂ワニス中のポリアミドイミドの濃度が30%以上50%以下であると塗工性やコストの面で好ましい。
【0026】
イソシアネート末端封止処理は、合成反応終了後に残っているイソシアネート末端の反応を止めるために行う。末端封止処理をすることで、保存中の分子量増加による粘度上昇を抑えることができる。末端封止剤としてはメタノール、エタノール等のアルコール類が使用できる。例えば反応後のポリフェニレンエーテル変性ポリアミドイミド溶液に末端封止剤を混合し、約70℃で2時間程度攪拌することでイソシアネート末端封止処理ができる。
【0027】
さらに、生成した反応物にブロックイソシアネートを混合すると、焼付け時のポリアミドイミドの架橋度を上げて絶縁特性を向上できるため好ましい。ブロックイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、p−フェニレンジイソシアネート等のイソシアネートをブロック剤でブロックしたものが使用できる。
【0028】
ブロックイソシアネートはあらかじめ有機溶媒に溶解させておき、上記の反応生成物と混合する。ブロックイソシアネートの量は、酸成分1当量あたり0.1当量以上10当量以下、より好ましくは0.3当量以上5当量以下混合するのが好ましい。
【0029】
ポリアミドイミドの重量平均分子量は、酸成分およびイソシアネート成分の仕込み量、反応時間などを調整することによって制御することができる。重量平均分子量及び数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0030】
ポリアミドイミド溶液(樹脂ワニス)には顔料、染料、無機又は有機のフィラー、潤滑剤等の各種添加剤や反応性低分子、相溶化剤等を添加しても良い。さらに、本発明の趣旨を損ねない範囲で他の樹脂を混合して使用することもできる。
【0031】
ポリアミドイミドを含有する樹脂ワニスを導体上に直接又は他の層を介して塗布、焼き付けして絶縁層を形成する。塗布、焼付けは、通常の絶縁電線の製造と同様に行うことができる。例えば、導体に樹脂ワニスを塗布した後、設定温度を350〜500℃とした炉内を1パス当たり5〜10秒間通過させて焼付ける作業を数回繰り返して絶縁層を形成する。絶縁層の厚みは10μm〜150μmとする。
【0032】
導体としては、銅や銅合金、アルミ等を使用できる。導体の径やその断面形状は特に限定されないが、導体径が100μm〜5mmのものが一般に使用される。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明する。なお本発明の範囲はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
(ポリアミドイミドの作製)
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ中に、前記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、TMA(トリメリット酸無水物、三菱瓦斯化学(株)製)23.65g、ETM(トリメリット酸、松葉薬品(株)製)0.26g、MDI(メチレンジイソシアネート、三井武田ケミカル(株)製、商品名コスモネートPH)31.35gを投入し各成分が均一となるように混合した。なお、各成分の当量比はTMA0.985、ETM0.015、MDI1.002であり、酸成分とイソシアネート成分との比率(当量比)は1.0:1.0である。次いでN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を53.89g入れ、周波数2.45GHz、出力200Wのマイクロ波を1分間照射した。照射後の温度は約35℃であった。
【0035】
さらにマイクロ波を2分照射し攪拌した。照射後の温度は約90℃であった。さらに3.5分マイクロ波を照射した後攪拌した。照射後の温度は約200℃であり、この時点で反応が完了したと思われる。反応終了後、DMF35.93gを加えて希釈し、ポリアミドイミド溶液を得た。
【0036】
(ポリアミドイミドの評価)
得られたポリアミドイミドの重量平均分子量及び数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した。重量平均分子量Mw=16082、数平均分子量Mn=7938、Mw/Mn=2.0であった。
【0037】
(比較例1)
(ポリアミドイミドワニスの作製)
温度計、冷却管、塩化カルシウム充填管、攪拌器、窒素吹き込み管を取り付けたフラスコ中に、前記窒素吹き込み管から毎分150mlの窒素ガスを流しながら、TMA(トリメリット酸無水物、三菱瓦斯化学(株)製)108.6g、MDI(メチレンジイソシアネート、三井武田ケミカル(株)製、商品名コスモネートPH)141.5gを投入した。なお、酸成分とイソシアネート成分との比率(当量比)は1.0:1.0である。次いでN−メチルピロリドン637gを入れ、攪拌器で攪拌しながら80℃で3時間加熱した。さらに約3時間かけて反応系の温度を140℃まで昇温した後140℃で1時間加熱した。1時間経過した段階で加熱を止め、放冷して不揮発分35%のポリアミドイミド樹脂ワニスとした。
【0038】
(ポリアミドイミドの評価)
得られたポリアミドイミドの重量平均分子量及び数平均分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した。重量平均分子量Mw=32763、数平均分子量Mn=9719、Mw/Mn=3.4であった。
【0039】
比較例では反応時間が合計4時間かかっているのに対し、本発明の実施例1では反応時間は約10分程度であり、反応時間を短縮することができた。また酸成分とイソシアネート成分との比率を同じにした実施例1と比較例1とを比べると、マイクロ波を照射して反応させることで分子量分布がシャープなポリアミドイミドが得られることがわかる。
【0040】
(絶縁電線の作製)
作成したポリアミドイミド容器を導体径(直径)約1mmの導線の表面に常法によって塗布、焼付けして絶縁層を形成し、実施例1〜3、比較例1の絶縁電線を作製した。導体径、仕上径、皮膜厚みを表1に示す。
【0041】
(可撓性の評価)
得られた絶縁電線に20%の予備伸長を加えた後、JIS C3003 7.1に基づいて可撓性試験を行った。評価は、絶縁電線を1.0mmの丸棒に10ターン巻き付けて皮膜割れを生じたターン数を数えた。
【0042】
(絶縁破壊電圧の測定)
得られた各絶縁電線について、JISC3003 10.2b(2個より法)に準じて絶縁破壊電圧を測定した。より具体的には、長さ約50cmの試験片10本を採り、その各々を2つに折り合わせ、15Nの張力を加えながら、約12cmの長さの部分を9回撚り合わせる。張力を織り去った後折り目部分を切って2個より試験片を作成する。この2個より絶縁電線の2本の導体間に50Hz又は60Hzの正弦波に近い波形を有する交流電圧を500V/sで昇圧しながら印加し、絶縁皮膜が破壊されて短絡が生じたときの電圧(kV)を10本の試験片について測定し平均値を求めた。
【0043】
(グリセリン中絶縁破壊電圧(GBDV)の測定)
得られた絶縁電線を30cm長さに切断してグリセリン:飽和食塩水=17:3の混合溶液に浸し、絶縁電線の導体とグリセリン/飽和食塩水混合溶液の間に、50Hz又は60Hzの正弦波に近い波形を有する交流電圧を加えて絶縁破壊電圧を測定した。なお交流電圧は500V/sで昇圧し、絶縁破壊の検出電流は5mAとした。10本のサンプルで測定し平均値を求めた。
【0044】
(実施例2、3)
酸成分とイソシアネート成分との比率(当量比)を表1に示すものに変更したこと以外は実施例1と同様にしてポリアミドイミドを合成し、評価した。
【0045】
【表1】

【0046】
マイクロ波を用いて合成したポリアミドイミド溶液を用いて作製した実施例1〜実施例3の絶縁電線は、絶縁破壊電圧、グリセリン中絶縁破壊電圧のいずれの評価においても、従来の方法で用いた比較例1の絶縁電線と同等の特性を示した。また実施例1の絶縁電線の可撓性は比較例1よりも良好であった。
【0047】
酸成分に対するイソシアネート成分の量(当量比)を増やした実施例2、実施例3の絶縁電線は、酸成分/イソシアネート成分の量を1:1とした実施例1の絶縁電線と比較して絶縁破壊電圧、グリセリン中絶縁破壊電圧の値が大きくなっている。このメカニズムは定かではないが、イソシアネート成分の量を増やして合成したポリアミドイミドは電気特性が向上することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジイソシアネートを含むイソシアネート成分と、トリメリット酸無水物を含む酸成分とを反応させるポリアミドイミドの製造方法であって、
前記イソシアネート成分、前記酸成分、及び溶媒を混合し、マイクロ波を照射して反応させるポリアミドイミドの製造方法。
【請求項2】
前記マイクロ波の周波数が2.45GHzである、請求項1に記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項3】
前記溶媒は、誘電率が10以上の非プロトン性極性溶媒である、請求項1又は2に記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項4】
さらに、反応系にカプロラクタム化合物を存在させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミドイミドの製造方法。
【請求項5】
導体及び該導体を被覆する単層又は多層の絶縁層を有する絶縁電線であって、前記絶縁層は、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミドイミドの製造方法によって得られるポリアミドイミドを塗布、焼付けして形成された樹脂層を有する、絶縁電線。

【公開番号】特開2011−225713(P2011−225713A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96593(P2010−96593)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(309019534)住友電工ウインテック株式会社 (67)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】