説明

ポリアミドイミド樹脂、その製造方法、熱硬化性樹脂組成物、絶縁塗料及び絶縁電線

【課題】 比較的低分子量ではあるが、硬化後の耐熱性が優れ、また、有機溶剤溶解性が優れ、高濃度化が可能なポリアミドイミド樹脂を提供する。
【解決手段】 トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体、
【化1】


〔ただし、一般式(V)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Yはイソシアネート基またはアミノ基を示す。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物及び芳香族ジカルボン酸化合物(これらは非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい)を反応させて得られ、数平均分子量が5000〜18600で、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超えるように有するポリアミドイミド樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂、その製造方法、熱硬化性樹脂組成物、絶縁塗料及び絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
耐熱性、耐薬品性および耐加水分解性に優れるなどの理由で、ポリアミドイミド樹脂は、重要な絶縁材料として、種々の用途に使用されている。特に、自動車用モータ(ハイブリッド自動車用モータを含む)はトランスミッションオイル存在下に設置されることが多く、モータへ用いられる巻線への要求特性として、ミッションオイルに侵されないこと、また、オイル中の水分による加水分解を抑制することが必要であり、高温下での使用に耐える必要もある。このような観点から、ポリアミドイミド樹脂は、工業材料として、特に絶縁塗料分野にとって、欠かせないものとなっている。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂は耐熱性や良好な成膜性を持たせるために、数平均分子量15000を十分に超えるものが主として用いられる。このような特性上、ポリアミドイミド樹脂は高分子量のものを使用することになるが、数平均分子量15000〜19000程度の分子量では、耐熱性の更なる向上が求められる。
一方、ポリアミドイミド樹脂材料の運搬、厚塗り塗装若しくは少ない塗り回数等の取り扱い性等の観点からポリアミドイミド樹脂を高濃度に溶解した有機溶剤溶液が望まれ、一つの手法として、ポリアミドイミド樹脂の低分子量化が望まれる。この矛盾した内容(耐熱性の向上と低分子量化)をどの様に解決するかが重要な問題である。
一方で、樹脂合成においては攪拌効率などの制約から合成中は粘度の制限を受ける。従って、かかるポリアミドイミド樹脂の合成は一般的な極性溶媒を用いた場合、合成時の反応物濃度は10〜50重量%と低く、良溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いても合成時の反応物濃度はおおよそ50重量%が限界である(例えば特許文献1参照)。従って、高分子量のポリアミドイミド樹脂を合成する場合、このNMPを多量に使用せざるを得ずコストや環境上問題となっている。
【0004】
NMPの使用量を減少させ、高濃度で合成するためには、得られるポリアミドイミド樹脂溶液の低粘度化が必要である。この低粘度化のひとつの方法はポリアミドイミド樹脂の低分子量化であるが、この低分子量化、特に、塗料用ポリアミドイミド樹脂の低分子量化に伴って、硬化樹脂の特性、特に耐熱性が低下するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−14643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、第一に、比較的低分子量ではあるが、硬化後の耐熱性が優れるポリアミドイミド樹脂及びその製造方法を提供するものであって、第二に有機溶剤溶解性が優れ、高濃度化が可能なポリアミドイミド樹脂、また、有機溶剤中で高濃度の合成が可能なポリアミドイミド樹脂の製造方法を提供するものである。さらに、このようなポリアミドイミド樹脂を用いた熱硬化性樹脂組成物、絶縁塗料及び絶縁電線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、次のものに関する。
1. 数平均分子量が5000〜18600で、構造式(I)
【化1】

〔ただし、一般式(I)中、Xは酸無水物基1個及びカルボキシル基1個を有する化合物のその酸無水物基及びカルボキシル基を除いた3価の残基を示し、Xは一般式(II)
【化2】

(ただし、一般式(II)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は非イオン性で不活性な置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)で表される二価の基又は一般式(III)
【化3】

(ただし、一般式(III)中、Rは、一般式(II)に同じである。)で表される二価の基を示す。〕で表される繰り返し単位並びに構造式(IV)
【化4】

〔ただし、一般式(IV)中Xは一般式(I)に同じであり、Xは芳香環を含み、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい2価の基を示す。〕で表される繰り返し単位を、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超えるように有するポリアミドイミド樹脂。
2. 数平均分子量が5000〜18600でトリカルボン酸無水物若しくはその誘導体、一般式(V)
【化5】

〔ただし、一般式(V)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は非イオン性で不活性な置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Yはイソシアネート基またはアミノ基を示す。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物又は一般式(VI)
【化6】

〔ただし、一般式(VI)中、R及びYは一般式(V)に同じである。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物並びに一般式(VII)
【化7】

〔ただし、一般式(VII)中、Xは芳香環を含み、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい2価の基を示す。〕で表される芳香族ジカルボン酸化合物を反応させて得られ、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超えるポリアミドイミド樹脂。
3. 数平均分子量が5000〜18600で、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超え、加熱硬化後の5%重量減少温度が450℃以上になるように硬化可能なポリアミドイミド樹脂。
4. アミド結合比が0.6以上0.75以下である項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
5. トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体、一般式(V)
【化8】

〔ただし、一般式(V)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は非イオン性で不活性な置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Yはイソシアネート基またはアミノ基を示す。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物又は一般式(VI)
【化9】

〔ただし、一般式(VI)中、R及びYは一般式(V)に同じである。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物並びに一般式(VII)
【化10】

〔ただし、一般式(VII)中、Xは芳香環を含み、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい2価の基を示す。〕で表される芳香族ジカルボン酸化合物を、得られるポリアミドイミド樹脂のアミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超え、数平均分子量5000〜18600になるように反応させることを特徴とするポリアミドイミド樹脂の製造方法。
6. 項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂を主成分として含有してなる熱硬化性樹脂組成物。
7. ポリアミドイミド樹脂が有機溶剤に溶解されている項6記載の熱硬化性樹脂組成物。
8. 項6又は項7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含有して成る絶縁塗料。
9. 項8に記載の絶縁塗料を導電体上に塗布、焼付けてなる絶縁電線。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、比較的低分子量であっても硬化後の耐熱性が優れる。本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、また、良好な電気絶縁性を示す。また、本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、比較的低分子量であり、さらに高い結晶性を持つイミド結合が減少し、アミド結合が増加するため、その硬化物は耐熱性が低下すると予想されるのに反し、本発明に係るポリアミドイミド樹脂のアミド結合は硬化時に架橋反応するので硬化物の耐熱性は向上する。
また、本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、そのなかで相対的に高分子量であっても、ワニス化した時に(熱硬化性樹脂組成物として)低粘度であるために、使用溶剤を減らすことができ、厚塗りや輸送に便利になるなど取り扱い性がよくなり、また、その製造に際しては、従来よりも高濃度での反応が可能になる。
本発明に係るポリアミドイミド樹脂を含む絶縁塗料は、高濃度化が可能であり、その取扱性が向上す、その硬化塗膜は耐熱性が優れる。また、本発明に係る絶縁電線は、焼き付け硬化してなる絶縁皮膜は、高架橋な被膜構造となるため、耐熱性が優れ、エナメル線としての絶縁特性が向上すると考えられる。
本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、塗料用、さらに絶縁塗料用として、特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は5,000〜18,600のものである。数平均分子量が小さすぎると、塗料としたときの成膜性が悪くなる傾向があり、数平均分子量が大きすぎると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向がある。このことから、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、低くなると塗膜がもろくなる傾向があるため9,900以上であることが好ましい。また、以上のような観点から、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、13,000〜17,000であることが特に好ましい。
なお、本明細書において、樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した値とする。
【0010】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、その末端官能基が封止剤(マスク剤)により封鎖されていてもよい。封止剤(マスク剤)としてはラクタム、アルコール、オキシム等がある。
【0011】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂のアミド結合比は、0.5を超えるものである。アミド結合比0.5以下であると、樹脂の溶解性が劣る。耐熱性の改善と樹脂の溶解性を考慮するとアミド結合比は、好ましくは、0.6以上0.8以下であり、特に好ましくは、0.6以上0.75以下である。
【0012】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、例えば、前記した一般式(I)で表される繰り返し単位を含むものであるが、さらに、構造式(VIII)
【化11】

(ただし、式中、Xは、2個の酸無水物基を有する有機化合物から2個の酸無水物基を除いた4価の残基であり、RはXに同じであるかジイソシアネート化合物若しくはジアミン化合物から2個のイソシアネート基又は2個のアミノ基を除いた2価の有機基であってX以外のものである)で表される繰り返し単位又は一般式(IX)
【化12】

(ただし、一般式(IX)中、Xは、カルボキシル基1個と酸無水物基1個を有する有機化合物からカルボキシル基及び酸無水物基を除いた3価の基を示し、Rは、炭素数2〜36の2価の脂肪族基を示す)で表される繰り返し単位を分子中に有していてもよいが、これらが分子中に占める割合は、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の特性を著しく損なわない範囲とされる。
【0013】
また、本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、十分良好な耐熱性を得るために、加熱硬化後の5%重量減少温度が450℃以上になるように硬化可能であるものが好ましい。また、そのように硬化させた硬化塗膜等の硬化物が好ましい。本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、比較的低分子量であるにかかわらず、耐熱性が優れる。これは、アミド結合比が0.5を超えることにより、架橋反応が起こるためと考えられるが、この現象は、本発明において発見されたものである。
【0014】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、前記したように、トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物およびジカルボン酸化合物を反応させて得ることができる。
【0015】
上記トリカルボン酸無水物としては、下記一般式(X)又は(XI)で示される酸無水物基を有する3価のカルボン酸無水物があるが、イソシアネート基又はアミノ基と反応する酸無水物基及びカルボキシル基を有する化合物であれば、その誘導体を含め特に制限はない。耐熱性を考慮すると芳香族基を有するものが好ましく、耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。これらは、目的に応じて単独又は混合して用いられる。
【0016】
【化13】

〔ただし、一般式(X)中、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。〕
【0017】
【化14】

【0018】
また、酸成分の一部に、必要に応じて、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−スルホニルジフタル酸二無水物、m−ターフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等)などのテトラカルボン酸二無水物などを使用することができる。
【0019】
また、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、下記一般式(V)又は(VI)で示される二価のアミノ基又はイソシアネート基を有する芳香族化合物が使用できる。
【0020】
一般式(V)又は(VI)で示される芳香族ジイソシアネート化合物又は芳香族ジアミノ化合物として、例えば、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン、4,4′−ジイソシアナトビフェニル、3,3′−ジイソシアナトビフェニル、3,4′−ジイソシアナトビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−3,3′−ジメトキシビフェニル、4,4′−ジイソシアナト−2,2′−ジメトキシビフェニル、1,5−ジイソシアナトナフタレン、2,6−ジイソシアナトナフタレン、4,4′−ジアミノジフェニルメタン、4,4′−ジアミノビフェニル、3,3′−ジアミノビフェニル、3,4′−ジアミノビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジエチルビフェニル、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメトキシビフェニル、4,4′−ジアミノ−2,2′−ジメトキシビフェニル、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン等があり、これらを単独でも、また、組み合わせても使用することができる。
【0021】
また、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、その他の芳香族ジイソシアネート化合物又は芳香族ジアミノ化合物、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジイソシアナトジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4′−イソシアナトフェノキシ)フェニル]プロパン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4′−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン等を使用することができる。
【0022】
ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジアミノイソホロン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、1,4−ジアミノトランスシクロヘキサン、水添m−キシリレンジアミン、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアナトイソホロン、ビス(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン、1,4−ジイソシアナトトランスシクロヘキサン、水添m−キシリレンジイソシアネート等の脂肪族若しくは脂環式イソシアネート化合物を使用することができるが、これらを使用するときは、前記した芳香族ジイソシアネート化合物又は芳香族ジアミノ化合物を併用することが好ましい。これらの使用量は、得られる樹脂の耐熱性等の観点から、ジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物若しくはジアミノ化合物全量の50モル%以下が好ましく、特に25モル%以下が好ましい。3官能以上のポリイソシアネート化合物を併用することもできる。
【0023】
本発明におけるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物は、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい。ここで、不活性な置換基とは、イソシアネート基若しくはアミノ基及びカルボキシル基と反応性でない置換基であり、従って、カルボキシル基、水酸基等を含まない。また、このような置換基は非イオン性であり、従って、
【化15】

のようなイオン性の基は含まれない。
非イオン性で不活性な置換基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシ基等がある。アルキル基及びアルコキシ基としては、それぞれ炭素数1〜4のものが好ましい。これらの炭素数が大きすぎると、反応を阻害することがあり、また、得られるポリアミドイミド樹脂の耐熱性に良い影響を与えない。
イオン性の基の存在は、電気絶縁性を阻害し、活性な基は、ポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害するので好ましくない。
【0024】
本発明におけるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物としては、耐熱性等の観点から芳香族ジイソシアネートが好ましく、溶解性、機械特性、コスト面等のバランスを考慮すれば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0025】
また、経日変化を避けるために必要な場合、ブロック剤でイソシアネート基を安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としてはアルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。
【0026】
ジカルボン酸としては、一般式(VII)で示される化合物が使用できる。一般式(VII)で示される芳香族ジカルボン酸化合物として、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等があり、これらを単独でも、また、組み合わせても使用することができる。脂肪族ジカルボン酸化合物としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸等があり、脂環式ジカルボン酸化合物としては、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等がある。脂肪族ジカルボン酸化合物又は脂環式ジカルボン酸化合物を使用するときは、前記した芳香族ジイソシアネート化合物を併用する。さらにこれらの脂肪族ジカルボン酸化合物及び脂環式ジカルボン酸は、ジカルボン酸のうち50モル%以下であることが好ましく、特に、25モル%以下であることが好ましく、本発明の効果を阻害しない程度の範囲で使用することができる。
【0027】
ジカルボン酸として、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸等の前記した一般式(XII)において、Xが前記したような芳香族基でないもの若しくは芳香族基を含まないものは、耐熱性を低下させるため、本発明の必須成分としては使用されない。また、従来から、ポリアミドイミド樹脂の合成に際し、原料としてε−カプロラクラム等のラクラム化合物を存在させることが知られているが、同様に耐熱性を低下させるため、本発明の必須成分としては使用されない。
これらの任意成分は、使用するとしても、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の特性を著しく損なわない範囲で使用される。
【0028】
本発明におけるジカルボン酸化合物は、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい。ここで、「非イオン性で不活性な置換基」の意味は、前記のジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物において説明した非イオン性で不活性な置換基と同じである。
【0029】
本発明におけるジカルボン酸化合物としては、耐熱性等の観点から芳香族ジカルボン酸化合物が好ましく、溶解性、機械特性、コスト面等のバランスを考慮すれば、イソフタル酸が特に好ましい。
【0030】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂及びその原料は、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい。そして、イオン性又は活性な置換基を有していないことが好ましい。ここで、「非イオン性で不活性な置換基」の意味は、前記のジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物において説明した非イオン性で不活性な置換基と同じである。
【0031】
(a)成分(ジカルボン酸化合物以外の前記酸成分を意味する)と(c)成分(ジカルボン酸化合物)の和と(b)成分(前記したジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物の成分を意味する)とは、酸成分(ジカルボン酸化合物を含む)のカルボキシル基及び酸無水物基の総数に対するジイソシアネート化合物のイソシアネート基の総数の比が0.6〜1.4となるようにすることが好ましく、0.7〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.8〜1.2となるようにすることが特に好ましい。この比が小さくなりすぎると樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向があり、この比が大きくなりすぎると、発泡反応が激しくなり、また、未反応成分の残存が多くなって樹脂の安定性が悪くなる傾向がある。
【0032】
また、本発明においては、ポリアミドイミド樹脂ワニスの粘度の低下と焼付け硬化後の耐熱性向上のために、ポリアミドイミド樹脂の合成に際しジカルボン酸化合物を必須成分として用いる。(a)成分と(b)成分及び(c)成分の重合では、(a)酸成分のカルボキシル基と(b)成分のカルボキシル基の総和がポリアミドイミド樹脂中のアミド結合の数を決定し、(a)成分の酸無水物基の総数がイミド結合の数を決定するのに貢献する。本発明においてアミド結合比は0.50を超え0.75以下であることが好ましく、銅との接着性の観点から最も好ましいのは0.60〜0.65である。アミド結合比が0.50以下では、硬化物の耐熱性が低下する傾向があり、0.75を越えると成膜性が低下する傾向がある。
【0033】
合成溶媒の反応時の使用量は、前記酸成分とジカルボン酸化合物およびジイソシアネート化合物またはジアミノ化合物、(a)成分と(b)成分および(c)成分の合計量100重量部にあたり、66〜300重量部とすることが好ましく、150〜250重量部とすることがより好ましい。合成溶媒の使用量が少なすぎると、発泡反応が起こりやすくなり、多すぎると合成時間が長くなる傾向があり、また、樹脂濃度が低くなるため、合成液を使用して塗料化した際に厚膜化しにくくなる傾向がある。合成溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン等の極性溶媒、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などが使用される。
【0034】
本発明おける合成溶媒としては、樹脂の溶解度の観点から極性溶媒が好ましく、コスト面等からN−メチル−2−ピロリドンとN,N’−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
合成時の原料濃度は、高濃度合成という観点からは、30〜70重量%であることが好ましい。
【0035】
このようにして得られたポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、5000〜18600であり、9,900〜18,600のものであることが好ましい。数平均分子量が小さすぎると、塗料としたときの成膜性が悪くなる傾向があり、数平均分子量が大きすぎると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、13,000〜17,000にすることが特に好ましい。
なお、本明細書において、樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した値とする。測定時、ポリアミドイミド樹脂は、分子末端が適当なマスク剤によりマスクされていてもよい。
上記範囲内への数平均分子量の調整は、適当な温度(好ましくは90〜150℃)で必要な時間、合成を継続するように管理することにより行うことができる。
【0036】
ポリアミドイミド樹脂の末端官能基封止剤(マスク剤)としてはラクタム、アルコール及びオキシムがある。例えば、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム、メタノール、エタノール、n−ブタノール、t−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルカルビトール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、ω−ハイドロ・パーフルオロアルコール等の炭素数が1〜10のアルコール、2−ブタノンオキシム、ホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシムが挙げられる。特に、イソシアネート末端はマスクすることが好ましい。
【0037】
本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、加熱(好ましくは260〜520℃に加熱する)により架橋反応して硬化する熱硬化性樹脂であり、有機溶剤に溶解して熱硬化性樹脂組成物とすることができる。また、この熱硬化性樹脂組成物には、さらに必要に応じて着色剤等の添加剤を添加することができる。このときの加熱条件は、硬化物の5%重量減少温度が450℃以上となるように温度と時間を設定することが好ましい。
上記の熱硬化性樹脂組成物は、絶縁塗料とすることができ、また、本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、前記の合成溶媒と同様の溶媒に溶解、または、該溶媒で希釈され、適当な粘度に調整して絶縁塗料とすることができる。このような絶縁塗料の作製には、本発明に係るポリアミドイミド樹脂の合成溶液を使用してもよい。
【0038】
本発明に係る絶縁塗料は、被塗物に塗装後、260〜520℃熱処理で乾燥・硬化させることができる。低温で硬化させると溶剤が残り、基材を保護する塗膜特性が劣る可能性がある。また、260℃未満の硬化では、塗膜の硬化が不十分で、極性溶媒に溶解又は膨じゅんする可能性がある。加熱時間は20分未満であると塗膜に残存溶媒がのこり、基材に塗布された塗膜の特性が劣ることがあり、60分を超えると、長期に熱を加えることにより、塗料として固体潤滑剤等を加えたときに副反応を起こすことがあり、塗膜の特性を劣化させることがある。
【0039】
前記被塗物としては、銅線等の金属線その他の絶縁性が付与されるものがある。金属線を使用した場合、耐薬品性、耐加水分解性、耐熱性、絶縁破壊電圧特性などに優れた高絶縁信頼性のエナメル線が得られる。金属線の断面形状は、円形であっても、正方形又は矩形状若しくは平角状であってもよい。
【0040】
また、前記した熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて難燃剤、充填剤等の各種添加剤を配合してもよい。
上記難燃剤としては特に制限はないが、臭素系、リン系、金属水酸化物等の難燃剤が好適に用いられる。より具体的には、臭素系難燃剤としては、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、臭素化フェノールノボラック型エポキシ樹脂等の臭素化エポキシ樹脂、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビス(ペンタブロモフェニル)、エチレンビステトラブロモフタルイミド、1,2−ジブロモ−4−(1,2−ジブロモエチル)シクロヘキサン、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、2,4,6−トリス(トリブロモフェノキシ)−1,3,5−トリアジン等の臭素化添加型難燃剤、トリブロモフェニルマレイミド、トリブロモフェニルアクリレート、トリブロモフェニルメタクリレート、テトラブロモビスフェノールA型ジメタクリレート、ペンタブロモベンジルアクリレート、臭素化スチレン等の不飽和二重結合含有の臭素化反応型難燃剤が挙げられる。
【0041】
リン系難燃剤しては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)等の芳香族系リン酸エステル、フェニルホスホン酸ジビニル、フェニルホスホン酸ジアリル、フェニルホスホン酸ビス(1−ブテニル)等のホスホン酸エステル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、ジフェニルホスフィン酸メチル、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキシド誘導体等のホスフィン酸エステル、ビス(2−アリルフェノキシ)ホスファゼン、ジクレジルホスファゼン等のホスファゼン化合物、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラム、ポリリン酸アンモニウム、赤リン等のリン系難燃剤を例示できる。また、金属水酸化物難燃剤としては水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウム等が挙げられる。
上述の難燃剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明になる熱硬化性樹脂組成物における上記難燃剤の配合割合は特に制限はないが、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、5〜150重量部とすることが好ましい。難燃剤の配合割合が5重量部未満では耐燃性が不十分となる傾向があり、150重量部を超えると硬化後の耐熱性が低下する傾向にある。
【0043】
上述の充填剤としては特に限定されるものではないが、通常無機充填剤が好適に用いられ、無機充填剤としては、例えば、アルミナ、酸化チタン、マイカ、シリカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー等のクレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの無機充填剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また充填剤の形状、粒径についても特に制限はなく、通常、粒径0.01μm〜50μmが好ましく、0.1μm〜15μmがより好ましい。
【0044】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0045】
〔アミド結合比が0.60のポリアミドイミド樹脂の合成〕
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び熱電対を備えた300ミリリットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物26.1g(0.14モル)、イソフタル酸5.7g(0.03モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(「MDI」という)43.0g(0.17モル)及びN−メチル−2−ピロリドン74.7gを仕込み110℃まで昇温し、約3時間撹拌下に反応させて加熱を停止した後、N,N−ジメチルアセトアミド64.5gを仕込みポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0046】
実施例1で用いた各化合物の配合量は、以下に示すとおりである。
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.14モル
イソフタル酸 0.03モル
MDI 0.17モル
N−メチル−2−ピロリドン(「NMP」という) 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド 不揮発分(Nv)35重量%に調整
【実施例2】
【0047】
〔アミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂の合成〕
各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0048】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.12モル
イソフタル酸 0.05モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【実施例3】
【0049】
〔アミド結合比が0.70のポリアミドイミド樹脂の合成〕
各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0050】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.10モル
イソフタル酸 0.07モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【実施例4】
【0051】
〔アミド結合比が0.75のポリアミドイミド樹脂の合成〕
各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0052】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.09モル
イソフタル酸 0.09モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【実施例5】
【0053】
〔アミド結合比が0.75のポリアミドイミド樹脂(相対的に高分子量タイプ)の合成〕
実施例1において、化合物の配合量を以下のようにし、110℃まで昇温し、約4時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込み、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0054】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.09モル
イソフタル酸 0.09モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【実施例6】
【0055】
〔アミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂の高濃度合成〕
実施例1において各化合物の配合量を以下のようにし、120℃まで昇温し、約4時間撹拌下に反応させて加熱を停止した後、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込み変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0056】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 2.27モル
イソフタル酸 0.97モル
MDI 3.28モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して66重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv45重量%に調整
【0057】
(比較例1)
〔ポリアミド樹脂の合成(アミド結合比1.00)〕
各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして行い、ポリアミド樹脂溶液を得た。
【0058】
化合物 配合量
イソフタル酸 0.17モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【0059】
得られたポリアミド樹脂溶液には、合成した翌日に析出物が生じていた。
【実施例7】
【0060】
〔アミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂(相対的に低分子量タイプ)の合成〕
各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0061】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.12モル
イソフタル酸 0.05モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して66重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv45重量%に調整
【実施例8】
【0062】
〔アミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂(相対的に低分子量タイプ)の合成〕
各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、実施例1と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0063】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.12モル
イソフタル酸 0.05モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して66重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv45重量%に調整
【実施例9】
【0064】
〔アミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂(高分子量タイプ)の合成〕
実施例1において各化合物の配合量を以下のようにし、110℃まで昇温し、約3.5時間撹拌下に反応させて加熱を停止した後、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込み、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0065】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.12モル
イソフタル酸 0.05モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して66重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv45重量%に調整
【実施例10】
【0066】
〔アミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂(相対的に高分子量タイプ)の合成〕
実施例1において各化合物の配合量を以下のようにし、120℃まで昇温し、約3.5時間撹拌下に反応させて加熱を停止した後、N,N−ジメチルアセトアミドを仕込み、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0067】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.12モル
イソフタル酸 0.05モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して66重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv45重量%に調整
【0068】
(比較例2)
〔アミド結合比が0.50のポリアミドイミド樹脂(低分子量タイプ)の合成〕
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び熱電対を備えた300ミリリットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物32.6g(0.17モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン42.9g(0.17モル)及びN−メチル−2−ピロリドン75.4gを仕込み110℃まで昇温し、約3時間撹拌下に反応させて加熱を停止した後、N,N−ジメチルアセトアミド61.3gを仕込み、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0069】
比較例2で用いた各化合物の配合量は、以下に示すとおりである。
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.17モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【0070】
(比較例3)
〔アミド結合比が0.50のポリアミドイミド樹脂の合成〕
比較例2において、110℃まで昇温し、約3時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0071】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.17モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【0072】
(比較例4)
〔アミド結合比が0.50のポリアミドイミド樹脂の高濃度合成〕
比較例2において各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、比較例21と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0073】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 0.17モル
MDI 0.17モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して66重量部
【0074】
その結果、系中の粘度が高くなり攪拌が困難になった。
【0075】
(比較例5)
〔アミド結合比が0.50のポリアミドイミド樹脂の大スケール合成〕
比較例2において各化合物の配合量を以下のようにしたこと以外は、比較例2と同様にして、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0076】
化合物 配合量
トリメリット酸無水物 2.27モル
MDI 2.27モル
NMP 上記原料合計量100重量部に対して100重量部
N,N−ジメチルアセトアミド Nv35重量%に調整
【0077】
(比較例6)
〔アジピン酸を用いたアミド結合比が0.65のポリアミドイミド樹脂の合成〕
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び熱電対を備えた300ミリリットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物30.5g(0.16モル)、4,4′−ジイソシアナトジフェニルメタン57.3g(0.23モル)、アジピン酸9.9g(0.07モル)及びNMP97.7gを仕込み110℃まで昇温し、約3時間撹拌下に反応させて加熱を停止し、N,N−ジメチルアセトアミド20.0gを仕込みポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0078】
(数平均分子量の測定)
実施例1〜10および比較例1〜6で得られたポリアミドイミド樹脂溶液又はポリアミド樹脂溶液を用いて、合成された樹脂の数平均分子量(Mn:ポリスチレン換算)を測定した。
測定カラムとしては、GL−S300MDT−5(日立化成工業(株)製)を2本直列させたものを用いた。溶離液としては、液体クロマトグラフィー用ジメチルホルムアミド1Lに、リチウムブロマイド一水和物0.03mol及びリン酸0.06molを加えて溶解させた後、更に液体クロマトグラフィー用テトラヒドロフラン1Lを加えたものを用いた。
【0079】
(耐熱性試験)
実施例1〜4及び比較例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液を、卓上塗工機(PI−1210 FILMCOATER、自動塗工装置I型、テスター産業製)を用いて表面が平滑な銅箔BHY−22B−T(日鉱マテリアルズ製、商品名)にアプリケータで塗工し、すぐに温風循環型防爆乾燥機(TABAI SAFETY OVEN SPH−200、TABAI ESPEC CORP.製)に入れて130℃で15分間乾燥し、溶媒を揮発させた。
その後、さらに180℃で1時間乾燥した。さらに高温乾燥機トランジャーオーブン(TRO−52型、カトー(株)製)に入れて250℃で1時間、さらに350℃で1時間加熱し、樹脂を硬化させた。これを過硫酸アンモニウム10重量%水溶液に浸漬し、銅箔をエッチング除去した。水洗後、100℃で1時間乾燥し、硬化膜を得た。
得られた硬化膜の5%重量減少温度を測定した。5%重量減少温度は、熱重量分析/示差走査熱分析により行い、マックサイエンス社製TG/DTA−2000型を用いて、窒素気流下で、室温から800℃まで昇温速度10℃/分で加熱しながら各硬化膜の重量変化を測定した。測定の結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
アミド結合比を増加させた実施例1〜4のポリアミドイミド樹脂は、比較例1のポリアミドイミド樹脂よりも耐熱性が向上していた。
【0082】
アミド結合は、イソシアネート基と反応してアミジン結合となることがある。上記実施例において、耐熱性が向上した理由は、焼付け硬化時にアミジン結合が生成してアミド結合部位で架橋構造または分岐構造となったためと考えられる。
【0083】
アジピン酸を用いた比較例6は耐熱性が悪かった。脂肪族は熱分解しやすいためである。
【0084】
(粘度の比較)
実施例5と比較例3で得たポリアミドイミド樹脂溶液の粘度を、東京計器(株)製のEMD型粘度計を用いて、30℃の条件で測定した。測定の結果を表2に示す。
【0085】
【表2】

【0086】
アミド結合を増加させた実施例5は比較例3よりも低粘度化していた。
この結果より、アミド結合を増加させたポリアミドイミドは高濃度で合成できる。
【0087】
(エナメル線の製造例)
実施例6で得られたポリアミドイミド樹脂溶液で得られたポリアミドイミド樹脂溶液を用いて下記に示す焼付け条件に従って直径1.0mmの銅線に塗布し、焼付けを行い、エナメル線を製造した。
(焼付条件)
塗装回数:ダイス8回
焼付け炉:熱風式竪炉(炉長5m)
炉温:入口/出口=320℃/430℃
線速:16m/分
【0088】
得られたエナメル線皮膜は、いずれも外観上良好であった。このときの皮膜厚さは、0.035mmであった。また、可とう性(20%伸長)の評価は、「2×良」であった。
なお、エナメル線皮膜の特性は次の方法により試験した。
(1)外観:目視により、樹脂組成物ワニスの外観及び塗膜の濁り、表面の肌荒れを調べた。
(2)可とう性:JIS C3003.7.1(1)に準じて調べた。
【0089】
実施例1〜4で得られたポリアミドイミド樹脂溶液および比較例1で得られたポリアミド樹脂溶液を、それぞれ、35重量%溶液(希釈溶媒:ジメチルアセトアミド)に調整し樹脂の析出の有無を確認し、析出がない場合を「良好」、析出がある場合を「不良」と判定した。結果を表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3に示した結果から、比較例1で得られたポリアミド樹脂は実施例1〜4で得られたポリアミドイミド樹脂よりも溶解性が悪いことがわかった。
これは、また、一般に、ポリアミドイミド樹脂は、分子量が増加すると粘度が高くなるため高濃度における加工性が悪化する傾向にあるが、本発明に係るポリアミドイミド樹脂は、アミド結合の増加により低粘度であるため、高濃度での使用が可能になったことを示す。
【0092】
実施例2および6〜10で得られたポリアミドイミド樹脂溶液(ただし、実施例2についてはNvが45重量%になるように希釈溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミドで調整した溶液)を卓上塗工機(PI−1210 FILMCOATER、自動塗工装置I型、テスター産業製)を用いて表面が平滑な銅箔BHY−22B−T(日鉱マテリアルズ製、商品名)にアプリケータで塗工し、すぐに温風循環型防爆乾燥機(TABAI SAFETY OVEN SPH−200、TABAI ESPEC CORP.製)に入れて130℃で15分間乾燥し、溶媒を揮発させた。
【0093】
その後、さらに180℃で1時間乾燥した。さらに高温乾燥機トランジャーオーブン(TRO−52型、カトー(株)製)に入れて250℃で1時間、さらに350℃で1時間加熱し、樹脂を硬化させた。これを過硫酸アンモニウム10重量%水溶液に浸漬し、銅箔をエッチング除去した。水洗後、100℃で1時間乾燥し、硬化膜を得た。硬化膜の亀裂やボイドの有無を確認し、亀裂やボイドがない場合を「良好」、亀裂やボイドがある場合を「不良」と判定した。結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
実施例2、6、7、9で得られたポリアミドイミド樹脂の高濃度での成膜性は、いずれも良好であった。一方、実施例10で得られたポリアミドイミド樹脂は、高濃度では、均一に成膜できず一部樹脂が厚めになった部分にボイドが発生した。実施例8で得られたポリアミドイミド樹脂は、樹脂の分子量が小さいため十分な強度が得られずに亀裂が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数平均分子量が5000〜18600で、構造式(I)
【化1】

〔ただし、一般式(I)中、Xは酸無水物基1個及びカルボキシル基1個を有する化合物のその酸無水物基とカルボキシル基を除いた3価の残基を表し、Xは一般式(II)
【化2】

(ただし、一般式(II)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は非イオン性で不活性な置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)で表される二価の基又は一般式(III)
【化3】

(ただし、一般式(III)中、Rは、一般式(II)に同じである。)で表される二価の基を示す。〕で表される繰り返し単位並びに構造式(IV)
【化4】

〔ただし、一般式(IV)中、Xは一般式(I)に同じであり、Xは芳香環を含み、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい2価の基を示す。〕で表される繰り返し単位を、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超えるように有するポリアミドイミド樹脂。
【請求項2】
数平均分子量が5000〜18600でトリカルボン酸無水物若しくはその誘導体、一般式(V)
【化5】

〔ただし、一般式(V)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は非イオン性で不活性な置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Yはイソシアネート基またはアミノ基を示す。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物又は一般式(VI)
【化6】

〔ただし、一般式(VI)中、R及びYは一般式(V)に同じである。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物並びに一般式(VII)
【化7】

〔ただし、一般式(VII)中、Xは芳香環を含み、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい2価の基を示す。〕で表される芳香族ジカルボン酸化合物を反応させて得られ、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超えるポリアミドイミド樹脂。
【請求項3】
数平均分子量が5000〜18600で、アミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超え、加熱硬化後の5%重量減少温度が450℃以上になるように硬化可能なポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
アミド結合比が0.6以上0.75以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項5】
トリカルボン酸無水物若しくはその誘導体、一般式(V)
【化8】

〔ただし、一般式(V)中、2個のRは、それぞれ独立に、水素又は非イオン性で不活性な置換基を示し、Rは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Yはイソシアネート基またはアミノ基を示す。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物又は一般式(VI)
【化9】

〔ただし、一般式(VI)中、R及びYは一般式(V)に同じである。〕で表されるジイソシアネート化合物若しくはジアミノ化合物並びに一般式(VII)
【化10】

〔ただし、一般式(VII)中、Xは芳香環を含み、非イオン性で不活性な置換基を有していてもよい2価の基を示す。〕で表される芳香族ジカルボン酸化合物を、得られるポリアミドイミド樹脂のアミド結合比〔(アミド結合)/(アミド結合+イミド結合)比(モル比)〕が0.5を超え、数平均分子量5000〜18600になるように反応させることを特徴とするポリアミドイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂を主成分として含有してなる熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミドイミド樹脂が有機溶剤に溶解されている請求項6記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項6又は7のいずれかに記載の熱硬化性樹脂組成物を含有してなる絶縁塗料。
【請求項9】
請求項8に記載の絶縁塗料を導電体上に塗布、焼付けてなる絶縁電線。

【公開番号】特開2012−224703(P2012−224703A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92000(P2011−92000)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】