説明

ポリアミドイミド樹脂組成物、その製造法、それを用いた硬化性樹脂組成物及び塗料

【課題】密着性が良好で、吸湿性が少なく、安定性が良好なポリアミドイミド樹脂組成物、その製造法、それを用いた硬化性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記(I)又は(II)の酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、下記(III)又は(IV)のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と有機溶媒を含むポリアミドイミド樹脂組成物であって、有機溶媒としてγ-ブチロラクトンを主成分とする、ポリアミドイミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂組成物、その製造法、それを用いた硬化性樹脂組成物及び塗料に関する。さらに詳しくは、耐熱性塗料、摺動部コーティング塗料、各種コーティング塗料に好適なポリアミドイミド樹脂組成物、その製造法、それを用いた硬化性樹脂組成物及び塗料関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は、耐熱性、耐薬品性及び耐溶剤性に優れているため、各種の基材のコート剤として広く使用され、例えば、エナメル線用ワニス、耐熱塗料などとして使用されている。しかし、これらのポリアミドイミド樹脂及び塗料は、通常N−メチル−2−ピロリドンを主溶媒として用いて合成されていた。しかし、N−メチル−2−ピロリドンは胎児に影響を与えるおそれのある溶剤であり、塗装を行う際の作業環境の管理が必要になってきている。この改善として、胎児に影響を与えなく、より吸湿性の少ないγ−ブチロラクトンで合成したワニスが作製された。この例としてはγ−ブチロラクトンを重合性溶媒とし、特定の組成のモノマを用いて製造される、機械的強度を改善したポリアミドイミド樹脂が知られている(特許文献1)。しかし、γ−ブチロラクトンで合成したこのポリアミドイミド樹脂は金属基材への密着性が不十分である等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−285660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、より安全な溶剤で合成したポリアミドイミド樹脂を含有し、金属基材への密着性が良好で、吸湿性が少なく、安定性が良好なポリアミドイミド樹脂組成物、その製造法、それを用いた硬化性樹脂組成物及び塗料に関する。そしてこれらは、耐熱性塗料、摺動部コーティング塗料などの各種コーティング塗料に好適なものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のものに関する。
1.酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と有機溶媒を含むポリアミドイミド樹脂組成物であって、
前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体として、下記(I)又は(II)のカルボン酸誘導体を用い、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、下記(III)又は(IV)の化合物と、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを用いており、そのポリアミドイミド樹脂の樹脂末端部位のうち、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物による末端部位は、上記(III)又は(IV)の化合物に起因する構造であり、
有機溶媒としてγ−ブチロラクトンを主成分とするものである、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0006】
【化1】

[式中、(I)及び(II)における芳香環上の水素原子は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基で置換されていてもよく、Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
2.前記の、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物が、下記(V)、(VI)又は(VII)から選ばれる少なくとも1種の化合物である前記1記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【0007】
【化2】

[式中、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
3.前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、前記(III)又は(IV)の化合物10〜90質量部と、前記(V)、(VI)又は(VII)の化合物90〜10質量部を、合計100質量部となるように用いてなる前記2記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
4.有機溶媒としてγ−ブチロラクトンのみを用いてなる前記1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
5.ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が9000〜50000である前記1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
6.酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と有機溶媒を含むポリアミドイミド樹脂組成物の製造法であって、
前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体として、下記(I)又は(II)のカルボン酸誘導体を用い、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、下記(III)又は(IV)の化合物と、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを用いており、反応溶媒としてγ−ブチロラクトンを使用し、前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、前記その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物を反応させ、その後、前記(III)又は(IV)の化合物を反応させることを特徴とするポリアミドイミド樹脂組成物の製造法。
【0008】
【化3】

[式中、(I)及び(II)における芳香環上の水素原子は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基で置換されていてもよく、Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
7. 前記1〜5の何れか記載のポリアミドイミド樹脂組成物又は前記6記載の製造法により得られるポリアミドイミド樹脂組成物に、さらに、多官能エポキシ樹脂化合物、ポリイソシアネート化合物及びメラミン化合物から選ばれる少なくとも1種を混合してなる硬化性樹脂組成物。
8.前記1〜5の何れか記載のポリアミドイミド樹脂組成物若しくは前記6記載の製造法により得られるポリアミドイミド樹脂組成物又は前記7記載の硬化性樹脂組成物から主としてなる塗料。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物は、安定性や密着性が良好であり、機械特性も優れている。さらに塗装作業性が良好で、低温での硬化が可能である。従って、これらを塗料として用いると、各種塗料性能、耐熱性及びフィルムの強度に優れ、耐熱性塗料、摺動部コーティング塗料などの各種コーティング塗料に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、一般に次の構造単位を主として有するものである。
【0011】
【化4】

(式中、Arは三価の有機基であり、芳香環を含む基が好ましく、Rは二価の有機基であり、芳香環を含む基が好ましく、nは繰り返し数を示す自然数である。)
本発明のポリアミドイミド樹脂の製造に用いられる酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体としては、1つの酸無水物基と1つのカルボキシル基を有する芳香族化合物が好ましく、種々の芳香族トリカルボン酸一無水物が挙げられるが、一般式(I)又は(II)で示す化合物を使用すると得られるポリアミド樹脂の耐熱性等が優れるのでこれを必須として用いる。これらは全酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体の50質量%以上使用することが好ましく、70質量%以上使用することがより好ましく、100質量%使用することがさらに好ましい。中でも、耐熱性、コスト面等を考慮すれば、トリメリット酸無水物が特に好ましい。これらの酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体は、目的に応じて単独又は混合して用いられる。
【0012】
【化5】

(両式中、芳香環上の水素原子は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基で置換されていてもよく、Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示す。)
また、これらのほかに必要に応じて、テトラカルボン酸二無水物(ピロメリット酸二無水物、3,3′,4,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5,6−ピリジンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−スルホニルジフタル酸二無水物、m−タ−フェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物、4,4′−オキシジフタル酸二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス[4−(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−[2,2,2]−オクト−7−エン−2:3:5:6−テトラカルボン酸二無水物等)などを使用することができる。これらを用いるときは、酸成分(酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体との総量)に対して、30質量%以下であることが好ましい。
【0013】
上記酸成分と反応させるアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物としては、二価以上のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物が用いられ、前記二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物としては、下記(III)又は(IV)の化合物と、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを用いる。
【0014】
【化6】

[式中、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
ここで、Rで示される一価の有機基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基などが挙げられる。アルキル基又はアルコキシ基の炭素としては1〜10が好ましい。
【0015】
前記の、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物としては、下記(V)、(VI)又は(VII)の化合物が好ましい。
【0016】
【化7】

[式中、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
ここで、Rで示される一価の有機基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基などが挙げられる。アルキル基又はアルコキシ基の炭素としては1〜10が好ましい。
前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、前記(III)又は(IV)の化合物10〜90質量部と、下記(V)、(VI)又は(VII)の化合物90〜10質量部とを、合計100質量部となるように用いてなることが、ワニスの安定性及び柔軟性の点から好ましく、前記(III)又は(IV)の化合物40〜80質量部と、下記(V)、(VI)又は(VII)の化合物60〜20質量部とを、合計100質量部となるように用いてなることが好ましい。
【0017】
上記各種の二価以上のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物としては、具体的には、二価の芳香族ポリイソシアネートが好ましいものとして、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート(2,4-体、2,6-体)、キシリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4′−[2,2−ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン]ジイソシアネート、ビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、ビフェニル−3,3′−ジイソシアネート、ビフェニル−3,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジエチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、3,3′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、2,2′−ジメトキシビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、ナフタレン−2,6−ジイソシアネート等を使用することができる。これらを単独でもこれらを組み合わせて使用することもできる。必要に応じて、この一部としてヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート等の二価の脂肪族、脂環式イソシアネート及び3官能以上のポリイソシアネートを使用することもできる。
中でも、(III)又は(IV)の化合物としては、トリレンジイソシアネート(2,4-体、2,6-体)が好ましく、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物としては、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。
前記アミノ基を有する化合物の具体例としては、前記イソシアナト基を有する例示化合物中のイソシアナト基の代わりにアミノ基を有する化合物が挙げられる。
【0018】
本発明においては、そのポリアミドイミド樹脂の樹脂末端部位のうち、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物による末端部位は、上記(III)又は(IV)の化合物に起因する構造である。(III)の化合物に起因する構造がより好ましい。
このような構造とするには、例えば、まず、前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、前記その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物を反応させ、その後、前記(III)又は(IV)の化合物を反応させることで行うことができる。
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、有機溶媒としてγ−ブチロラクトンを主成分とするものである。γ−ブチロラクトンは合成溶媒として用いることが好ましい。本発明のポリアミドイミド樹脂組成物においては、その他の有機溶媒を併用しても良いが、γ−ブチロラクトン80質量%以上が好ましく、γ−ブチロラクトンのみであることが最も好ましい。
【0019】
本発明におけるポリアミドイミド樹脂は、経日変化を避けるために必要な場合ブロック剤でイソシアナト基を安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としてはアルコール、フェノール、オキシム等があるが、特に制限はない。
【0020】
芳香族ポリイソシアネートの配合割合は、カルボキシル基及び酸無水物基の総数に対するイソシアネート基の総数の比が0.6〜1.4となるようにすることが好ましく、0.7〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.8〜1.2となるようにすることが特に好ましい。0.6未満又は1.4を超えると、樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向がある。
【0021】
本発明に用いられるポリアミドイミド樹脂は例えば次の製造法で得ることができる。
【0022】
(1)酸成分とイソシアネート成分とを一度に使用し、反応させてポリアミドイミド樹脂を得る方法。
(2)酸成分とイソシアネート成分(b)の過剰量とを反応させて末端にイソシアネート基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、酸成分を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を得る方法。
(3)酸成分の過剰量とイソシアネート成分を反応させて末端に酸又は酸無水物基を有するアミドイミドオリゴマーを合成した後、酸成分とイソシアネート成分の両方又は一方を追加し反応させてポリアミドイミド樹脂を得る方法。
前述したように、本発明の製造法においては、このうち(3)の方法が好ましく、まず、前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、前記その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物を反応させ、その後、前記(III)又は(IV)の化合物を反応させる方法が好ましい。
【0023】
このようにして得られるポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、9,000〜90,000のものであることが好ましく、9,000〜50,000であることがより好ましい。数平均分子量が9,000未満であると、塗料としたときの成膜性が悪くなる傾向があり、90,000を超えると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解したときに粘度が高くなり、塗装時の作業性が劣る傾向にあり、又、塗料やワニスが吸湿白化しやすく作業性に劣る傾向がある。なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプリングして、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理することができる。
【0024】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物は、上記ポリアミドイミド樹脂と共に、多官能エポキシ樹脂化合物、ポリイソシアネート化合物及びメラミン化合物の群より少なくとも1種類を含有させて、硬化性樹脂組成物とすることができる。配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対して、1〜40質量部とすることが好ましい。この量が1質量部未満となると、密着性向上効果が小さくなり、40質量部を超えると、塗膜の耐熱性が著しく低下する傾向にあり、さらに塗膜強度の低下を示す。多官能エポキシ樹脂化合物、ポリイソシアネート化合物及びメラミン化合物の配合量は、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、1〜40質量部とすることがより好ましく、5〜30質量部とすることが特に好ましい。
【0025】
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物は、γ―ブチロラクトンを含有し、好ましくはこの溶媒を用いてポリアミドイミド樹脂が合成されるが、粘度の調整としてN−メチル−2−ピロリドン、N,Nジメチルアセトアミド、N,N′−ジメチルホルムアミド及びキシレン、トルエン、N−エチル−2−ピロリドン等の芳香族炭化水素溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの溶媒に溶解され、適当な粘度に調整して塗料とすることができる。塗装中ゲル化抑制の点から、溶媒中のγ―ブチロラクトンの割合は30〜98質量%が好ましく、50〜100質量%がより好ましい。塗料とする場合、一般に固形分は10〜50質量%とされる。
【0026】
通常のポリアミドイミド樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物は、乾燥及び硬化のために熱処理され、少なくとも150℃以上で10分の加熱が必要である。これは、低温で硬化させると溶剤が残り、基材を保護する塗膜特性が劣る可能性がある。また、150℃未満の硬化では、塗膜の硬化が不十分で、極性溶媒に溶解又は膨じゅんする可能性がある。本発明のポリアミドイミド樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物は、150〜380℃で10分〜60分の乾燥・硬化することができる。加熱時間は10分未満であると塗膜に残存溶媒が残る傾向にあり、基材に塗布された塗膜の特性が劣ることがあり、60分を超えると、長期に熱を加えることにより、塗料として固体潤滑剤等を加えたときに副反応を起こすことがあり、塗膜の特性を劣化させることがある。
本発明のポリアミドイミド樹脂組成物及び硬化性樹脂組成物は、必要に応じ各種添加剤を配合して、エナメル線用ワニス、耐熱性塗料、摺動部コーティング塗料などの各種コーティング塗料に使用することができる。特に各種の塗料として好適である。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
(1)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート125.2g(0.5モル)、γ−ブチロラクトン822gを仕込み、170℃まで昇温し、約6時間反応させた。その後80℃まで冷却後トリレンジイソシアネート(2,4-体/2,6-体混合物)(TDIと略す場合もある。2,4/2,6=2/8)87.1g(0.5モル)を加え、165℃で3時間反応させ数平均分子量15300となったらγ−ブチロラクトン210gを仕込み、不揮発分33質量%で、TDIに起因する末端部位を有するポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0028】
(実施例2)
(2)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、3,3−ジメチル−4,4−ジイソシアネートビフェニル54.9g(0.2モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート75.1g(0.3モル)、γ−ブチロラクトン671gを仕込み170℃まで昇温し、約6時間反応させ、80℃まで冷却し、トリレンジイソシアネート(2,4-体/2,6-体混合物)(2,4/2,6=2/8)87.1g(0.5モル)を加え170℃で3時間反応させ、数平均分子量16600となったら温度を下げ、不揮発分38質量%で、TDIに起因する末端部位を有するポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0029】
(実施例3)
(3)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)3,3−ジメチル−4,4−ジイソシアネートビフェニル54.9g(0.2モル)γ−ブチロラクトン830gを仕込み、180℃まで昇温し、約6時間反応させ、その後80℃まで冷却しトリレンジイソシアネート(2,4-体/2,6-体混合物)(2,4/2,6=2/8)139.3g(0.8モル)を加え170℃で3時間反応させ、数平均分子量16000となったら反応温度を下げ、不揮発分32質量%で、TDIに起因する末端部位を有するポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0030】
(実施例4)
(3)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート150.2g(0.6モル)、γ−ブチロラクトン765gを仕込み、165℃まで昇温し、約6時間反応させ、その後80℃まで冷却し、トリレンジイソシアネート(2,4-体/2,6-体混合物)(2,4/2,6=2/8)69.7g(0.4モル)を加え175℃で4時間反応させ、数平均分子量15300となったらγ−ブチロラクトン196gを仕込み不揮発分30質量%で、TDIに起因する末端部位を有するポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0031】
(比較例1)
(1)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.00モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート250.3g(1.0モル)及びN−メチル−2−ピロリドン1043.9gを仕込み、120℃まで昇温し、7時間反応させて、数平均分子量20000の不揮発分30質量%のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0032】
(比較例2)
(1)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート125.2g(0.5モル)、トリレンジイソシアネート(2,4-体/2,6-体混合物)(2,4/2,6=2/8)87.1g(0.5モル)、γ−ブチロラクトン1023gを仕込み、130℃まで昇温し、4時間反応させ不揮発分28質量%のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネートに起因する末端部位を有するポリアミドイミド樹脂組成物であった。
【0033】
(比較例3)
(1)攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットル四つ口フラスコにトリメリット酸無水物192.1g(1.0モル)、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート250.3g(1.0モル)、γ−ブチロラクトン1023gを仕込み、130℃まで昇温し、4時間反応させ不揮発分30質量%のポリアミドイミド樹脂組成物を得た。
【0034】
試験例
実施例1〜4及びゲル化した比較例3を除く比較例1、2で得られたポリアミドイミド樹脂100質量部に対してビスフェノールA型エポキシ樹脂を15質量部加え、硬化性樹脂組成物とした。これを180℃で30分加熱処理を行い、各種試験を行った。
【0035】
実施例で示される評価は以下の方法で測定した。
(1)外観:目視により、ワニスの外観及び塗膜の濁り、表面の肌荒れを調べた。
(2)密着性(クロスカット試験):JIS D0202に準じて試験を行った。
(3)鉛筆硬度:旧JIS K 5400に準じて試験を行った。
(4)硬化性:ポリアミドイミド樹脂組成物にエポキシ樹脂を加えた硬化性樹脂組成物を20×50mmの鋼板上に膜厚が20μmになるように塗布した後、180℃で30分熱処理をした。これを、N−メチル−2−ピロリドン中に1時間浸漬した後に下記の式より抽出率を求めた。
抽出率=[1−(浸漬後の乾燥塗膜の質量/浸漬前の乾燥塗膜の質量)]×100%

(5)機械的特性:硬化性樹脂組成物をガラス板に塗布し、加熱して得られたフィルムを膜厚20μm、幅10mm、チャック間20mmに調整し、引張り速度5mm/minで引張り試験を行い、引張り強度、弾性率及び伸び率の測定を行った。
(6)安定性:面積約28cm金属シャーレにワニスを3.0g入れ、シャーレ全体にワニスを広げる。これを、水平な場所に気温25℃、湿度80%の場所に放置し、ゲル化物の発生時間を測定した。
【0036】
【表1】

【0037】
有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いた比較例1は、硬度、安定性に劣り、末端部位が(III)又は(IV)の化合物に起因する構造でない比較例2は、密着性、硬度、安定性が十分でなく、同様に末端部位が(III)又は(IV)の化合物に起因する構造でない比較例3では、ゲル化が生じた。
これに対し、末端部位が(III)又は(IV)の化合物に起因する構造で有機溶媒としてγ−ブチロラクトンを用いた実施例1〜4は、表1に示した結果から、安定性や密着性が比較例のものより良好になり、機械特性も優れている。よって、塗料として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と有機溶媒を含むポリアミドイミド樹脂組成物であって、
前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体として、下記(I)又は(II)のカルボン酸誘導体を用い、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、下記(III)又は(IV)の化合物と、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを用いており、そのポリアミドイミド樹脂の樹脂末端部位のうち、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物による末端部位は、上記(III)又は(IV)の化合物に起因する構造であり、
有機溶媒としてγ−ブチロラクトンを主成分とするものである、ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化1】

[式中、(I)及び(II)における芳香環上の水素原子は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基で置換されていてもよく、Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
【請求項2】
前記の、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物が、下記(V)、(VI)又は(VII)から選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【化2】

[式中、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
【請求項3】
前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、前記(III)又は(IV)の化合物10〜90質量部と、前記(V)、(VI)又は(VII)の化合物90〜10質量部を、合計100質量部となるように用いてなる請求項2記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項4】
有機溶媒としてγ−ブチロラクトンのみを用いてなる請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量が、9000〜50000である請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項6】
酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂と有機溶媒を含むポリアミドイミド樹脂組成物の製造法であって、
前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体として、下記(I)又は(II)のカルボン酸誘導体を用い、前記アミノ基又はイソシアナト基を有する化合物として、下記(III)又は(IV)の化合物と、その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物とを用いており、反応溶媒としてγ−ブチロラクトンを使用し、前記酸無水物基を有する3価のカルボン酸誘導体と、前記その他の二価のアミノ基又はイソシアナト基を有する化合物を反応させ、その後、前記(III)又は(IV)の化合物を反応させることを特徴とするポリアミドイミド樹脂組成物の製造法。
【化3】

[式中、(I)及び(II)における芳香環上の水素原子は、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基で置換されていてもよく、Yは−CH−、−CO−、−SO−又は−O−を示し、Rは水酸基又は一価の有機基であり、Rはアミノ基又はイソシアナト基である。]
【請求項7】
請求項1〜5の何れか記載のポリアミドイミド樹脂組成物又は請求項6記載の製造法により得られるポリアミドイミド樹脂組成物に、さらに、多官能エポキシ樹脂化合物、ポリイソシアネート化合物及びメラミン化合物から選ばれる少なくとも1種を混合してなる硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか記載のポリアミドイミド樹脂組成物若しくは請求項6記載の製造法により得られるポリアミドイミド樹脂組成物又は請求項7記載の硬化性樹脂組成物から主としてなる塗料。

【公開番号】特開2012−219107(P2012−219107A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82663(P2011−82663)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】