説明

ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びその製造方法、絶縁電線、並びにコイル

【課題】耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びその製造方法、そのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁電線、並びにその絶縁電線を用いて形成されたコイルを提供する。
【解決手段】下記の一般式1(一般式1中のXは2価の有機基であり、R1はジアミン由来の2価の有機基である)で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有アミド化合物を含む、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を提供する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びその製造方法、絶縁電線、並びにコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線が知られている(例えば、特許文献1参照)。ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、アミド基とイミド基をほぼ半々の比率で含む、耐熱性、機械的特性、耐加水分解性等に優れた耐熱高分子樹脂である。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、一般にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等の極性溶媒中における、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とトリメリット酸無水物(TMA)との主に2成分による脱炭酸反応により生成される。
【0004】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造方法として、例えばイソシアネート法や酸クロライド法などが知られているが、製造生産性の観点から、一般的にはイソシアネート法が用いられている。
【0005】
また、ポリアミドイミド樹脂の特性を改質するために、芳香族ジアミンと芳香族トリカルボン酸無水物とを50/100〜80/100の酸過剰下で反応させた後、ジイソシアネート成分でポリアミドイミド樹脂を合成する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
一方、ポリアミドイミド樹脂の欠点の一つに、誘電率が高く、絶縁電線の絶縁皮膜の材料として用いた場合に部分放電が発生し易いことが挙げられる。この高い誘電率の要因は、ポリアミドイミド樹脂に含まれる極性の大きいアミド基とイミド基の存在にあるため、ポリアミドイミド樹脂の分子の繰り返し単位当たりのアミド基とイミド基の数を低減するために、ポリアミドイミド樹脂の原料として分子量の大きいモノマーを用いる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3496636号公報
【特許文献2】特許第2897186号公報
【特許文献3】特開2009−161683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ポリアミドイミド樹脂中の極性の大きいアミド基とイミド基の数を低減すると、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の溶剤への溶解性が低下し、樹脂の固化又は析出が発生し易くなる。ポリアミドイミド樹脂の固化又は析出が生じた場合、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の塗装作業性が大きく低下するおそれがある。
【0009】
この問題の対策として、ポリアミドイミド樹脂の不揮発成分濃度を小さくすることが考えられるが、樹脂の不揮発成分濃度を小さくしてしまうと、従来と同等の厚さの絶縁皮膜を得るためには塗料を塗装する回数を増やす必要があり、コストが増加してしまう。なお、大幅にコストが増加しない程度の不揮発成分濃度(20質量%以上)のポリアミドイミド樹脂を用いる場合は、温度30℃、湿度50%の環境下で少なくとも30分以上は樹脂の固化、析出を抑制しなければならない。
【0010】
したがって、本発明の目的の一つは、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びその製造方法、そのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁電線、並びにその絶縁電線を用いて形成されたコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、下記の一般式1(一般式1中のXは2価の有機基であり、R1はジアミン由来の2価の有機基である)で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有アミド化合物を含む、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が提供される。
【化1】

【0012】
(2)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記アミック酸含有アミド化合物が下記の一般式2(一般式2中のXは2価の有機基である)で表される構造を有するアミド化合物と、ジアミン成分(C)単独、又は前記ジアミン成分(C)及びテトラカルボン酸二無水物(D)と、からなることが好ましい。
【化2】

【0013】
(3)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記R1が前記ジアミン成分(C)及び前記テトラカルボン酸二無水物(D)を含む部位であることが好ましい。
【0014】
(4)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ジアミン成分(C)及び前記テトラカルボン酸二無水物(D)の全部又は一部が、3つ以上のベンゼン環を含む化合物であることが好ましい。
【0015】
(5)また、本発明の他の態様によれば、トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)を配合して、混合物を作製する工程と、前記混合物にジアミン成分(C)単独、又はジアミン成分(C)及びテトラカルボン酸二無水物(D)を加えて反応させ、上記の一般式1(一般式1中のXは2価の有機基であり、R1はジアミン由来の2価の有機基である)で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有化合物を作製する工程と、を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造方法が提供される。
【0016】
(6)上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造方法において、前記トリカルボン酸無水物(A)と前記ジイソシアネート成分(B)を配合して、混合物を作製する工程は、上記の一般式2(一般式2中のXは2価の有機基である)で表される構造を有するアミド化合物を作製することが好ましい。
【0017】
(7)また、本発明の他の態様によれば、導体と、前記導体上、又は前記導体上の他の皮膜上に、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜と、を含む絶縁電線が提供される。
【0018】
(8)また、本発明の他の態様によれば、上記(7)に記載の絶縁電線を用いて形成されたコイルが提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びその製造方法、そのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて形成された絶縁電線、並びにその絶縁電線を用いて形成されたコイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態]
本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、銅等の導体上、又は導体上の他の皮膜上に塗布、焼付けされることにより、絶縁電線の絶縁皮膜を形成することができる。
【0022】
絶縁電線の導体としては、丸線、平角線など多様な形状の導体を用いることができる。また、この絶縁皮膜の上下には密着性向上のための密着層など他の皮膜を用いてもよく、また絶縁皮膜の上に自己融着層を設けてもよい。
【0023】
また、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、フイルム、基板等の導線以外の部材の上に塗布、焼付けされた場合であっても絶縁皮膜を形成することができる。
【0024】
図1は、実施の形態に係る絶縁電線の断面の一例を表す。本実施の形態に係る絶縁電線1は、導体10と、導体10を被覆する絶縁皮膜11とを有する。
【0025】
本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、下記の一般式1で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有アミド化合物を含む。ここで、一般式1中のXは2価の有機基であり、R1はジアミン由来の2価の有機基であり、nは繰り返し単位数である。
【化3】

【0026】
一般式1で表される繰り返し単位には、アミド基の他に、加熱によりイミド化するアミック酸が含まれる。R1にジアミンを用いることで、アミド化合物中にアミック酸が形成される。アミック酸の存在により、アミド化合物の溶媒への溶解性が高い。そのため、本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に大気中の水分が吸収された場合、従来のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料と比較して、ポリアミドイミド樹脂の固化、析出が大きく抑制される。
【0027】
このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体10上へ塗布、焼付けし、アミック酸を脱水、イミド化させることにより、ポリアミドイミド樹脂の絶縁皮膜11を得ることができる。
【0028】
また、一般式1のR1は、例えば、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物を含むポリアミック酸からなる部位である。R1にこのようなアミック酸部位を導入することで、アミド化合物中のアミック酸成分濃度をより高くすることができる。
【0029】
そのため、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が水分を吸収する際のポリアミドイミド樹脂の固化、析出をより効果的に抑制することができる。また、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体10上へ塗布、焼付けした後の絶縁皮膜中のアミド成分濃度やイミド成分濃度が低くなり、かつその状況下で相対的にアミド成分濃度よりイミド成分濃度が高くなるため、絶縁電線の部分放電をより効果的に抑制することができる。
【0030】
ジアミン成分としては、1,4−ジアミノベンゼン(PPD)、1,3−ジアミノベンゼン(MPD)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(DAM)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m−TB)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(HFBAPP)等が用いられる。また、これらのジアミン成分の水添化合物、ハロゲン化物、異性体等を使用、又は併用してもよい。
【0031】
テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’4、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物(BPADA)等が用いられる。また、必要に応じ、ブタンテトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、又は上記のテトラカルボン酸二無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物類等を併用してもよい。
【0032】
また、例えば、一般式1のR1に用いられるジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物の全てまたは一部が、3個以上のベンゼン環を含む化合物である。この場合、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料から形成される絶縁皮膜中の極性の大きいアミド基やイミド基の濃度が低くなり、かつ相対的にアミド基の濃度よりイミド基の濃度が高くなるため、絶縁皮膜の誘電率が低減され、絶縁電線の部分放電がより効果的に抑制される。
【0033】
また、本実施の形態のアミック酸含有アミド化合物は、例えば、次のような方法で形成される。まず、トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)をモル比で概ね2:1で配合し、下記の一般式2で表される構造を有するアミド化合物を含む混合物の溶液を作製する。ここで、一般式2中のXは2価の有機基である。次に、この一般式2で表される構造を有するアミド化合物を含む混合物の溶液を50〜120℃で加熱した後に、ジアミン成分(C)単独、又はジアミン成分(C)及びテトラカルボン酸二無水物(D)を加えて反応させ、一般式1で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有アミド化合物を得る。
【化4】

【0034】
一般式2で表される構造を有するアミド化合物は、トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)とから得られ、末端に酸無水物を有する。トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)から末端に酸無水物を有するアミド化合物を得るためには、トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)を、ジイソシアネート成分(B)の配合モル量がトリカルボン酸無水物(A)の配合モル量よりも多くなるようなモル比で配合することがよく、例えば、ジイソシアネート成分(B):トリカルボン酸無水物(A)が2:0.81〜2:1.7の範囲のモル比で配合することが望ましい。また、ジイソシアネート成分(B)のイソシアネート基は水分により失活しやすいため、ジイソシアネート成分(B)をトリカルボン酸無水物(A)よりもやや過剰に配合するのがよく、ジイソシアネート成分(B):トリカルボン酸無水物(A)が2:1.05〜2:1.7の範囲のモル比で配合することがより好ましい。
【0035】
トリカルボン酸無水物(A)として、例えば、トリメリット酸無水物(TMA)が用いられる。その他、ベンゾフェノントリカルボン酸無水物などの芳香族トリカルボン酸無水物類、及びこれらの水添化合物を使用してもよいが、TMAがトリカルボン酸無水物(A)として最も好ましい。
【0036】
また、一般式1のXは、例えば、ジイソシアネート成分(B)由来の単独の骨格と、トリカルボン酸無水物とジイソシアネートがオリゴマとして重合した骨格とが混在した構造を有する。
【0037】
ジイソシアネート成分(B)としては、4、4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の他、汎用的に使用されているトリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート又はそれらの異性体、多量体が用いられる。また、必要に応じ、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロへキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、上記の芳香族ジイソシアネートを水添した脂環式ジイソシアネート類又はそれらの異性体を使用、又は併用してもよい。
【0038】
また、ジイソシアネート成分(B)として、例えば、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン(BIPP)、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン(BIPS)、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]エーテル(BIPE)、フルオレンジイソシアネート(FDI)、4,4’−ビス(4−イソシアネートフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−イソシアネートフェノキシ)ベンゼン、又はこれらの異性体が用いられる。これらの製造方法については特に限定されるものではないが、ホスゲンを用いた方法が工業的に最も適当であり、望ましい。
【0039】
なお、誘電率の低減や樹脂組成物の透明性の向上のため、必要に応じ脂環式原料を併用しても良いが、耐熱性の低下を招く恐れがあるため、配合量や化学構造には配慮が必要である。
【0040】
本実施の形態のアミド化合物を合成するために、ポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)や、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンを併用してもよい。また、これらの溶剤により溶液を希釈してもよい。希釈するために芳香族アルキルベンゼン類などを併用してもよい。但し、ポリアミドイミド樹脂の溶解性を低下させるおそれがある場合は、注意する必要がある。
【0041】
トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)は50〜120℃で反応させることが好ましい。50℃よりも低い場合は反応の進行が遅く、また120℃よりも高い場合はジイソシアネート成分(B)がトリカルボン酸無水物(A)のカルボン酸と酸無水物の両方と反応するため、末端に酸無水物を有するアミド化合物が含まれる割合が小さくなってしまう。
【0042】
(実施の形態の効果)
本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、上述の構造を有することにより、分子の繰り返し単位当たりのアミド基とイミド基の数が少ない場合であっても、水分を吸収したときの樹脂の固化及び析出が生じにくい。このため、特に夏季、雨季などの気温や湿度が高い時期などにおいても、樹脂の固化、析出を効果的に抑制することができ、温度や湿度を調整するための設備や手間も不要でコストの増加も抑えられる。すなわち、本実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を形成することができ、かつ塗装作業性及びコストパフォーマンスに優れる。
【0043】
また、このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いることにより、耐部分放電特性に優れた絶縁皮膜を有する絶縁電線を低コストで形成することができる。なお、このような絶縁電線は、例えばモータや発電機等の電気機器を構成するコイルを形成するのに用いることができる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例1〜5及び比較例1〜3に示す方法によりポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を作製し、その後、それぞれのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に対して水分吸収時の樹脂の固化のし易さを評価した。
【0045】
また、それぞれのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて絶縁電線の絶縁被膜を作製し、絶縁電線の部分放電開始電圧を測定した。
【0046】
〔ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の作製〕
以下の実施例1〜5においては、上記の実施の形態と同様に、第一段目の合成として、トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)を配合して混合物を作製し、第二段目の合成として、その混合物にジアミン成分(C)単独、又はジアミン成分(C)及びテトラカルボン酸二無水物(D)を加えて反応させ、アミック酸含有化合物を作製する方法を用いてポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を作製した。一方、比較例1〜3においては、この実施の形態の方法とは異なる工程によりポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を作製した。
【0047】
(実施例1)
第一段目の合成として、実施の形態のトリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を192g(1.0モル)、実施の形態のジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを175.2g(0.7モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを600gフラスコ中に投入して、80℃で2時間撹拌した後、100℃で1時間撹拌を行った。フラスコは、撹拌機、窒素流入管、及び温度計が取り付けられたものを用いた。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を室温まで冷却した。
【0048】
第二段目の合成として、実施の形態のジアミン成分(C)としての4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを100g(0.5モル)反応液に投入し、N−メチル−2−ピロリドンを801.6g加えて室温で撹拌し、アミック酸含有化合物を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0049】
(実施例2)
第一段目の合成として、実施の形態のトリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を192g(1.0モル)、実施の形態のジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを175.2g(0.7モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを600gフラスコ中に投入して、80℃で2時間撹拌した後、100℃で1時間撹拌を行った。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を室温まで冷却した。
【0050】
第二段目の合成として、実施の形態のジアミン成分(C)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを205.1g(0.5モル)反応液に投入し、N−メチル−2−ピロリドンを1116.9g加えて室温で撹拌し、アミック酸含有化合物を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0051】
(実施例3)
第一段目の合成として、実施の形態のトリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を192g(1.0モル)、実施の形態のジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを175.2g(0.7モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを600gフラスコ中に投入して、80℃で2時間撹拌した後、100℃で1時間撹拌を行った。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を室温まで冷却した。
【0052】
第二段目の合成として、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(D)としての4,4’−オキシジフタル酸二無水物を156g(0.5モル)、実施の形態のジアミン成分(C)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを410g(1.0モル)反応液に投入し、N−メチル−2−ピロリドンを2199.6g加えて室温で撹拌し、アミック酸含有化合物を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0053】
(実施例4)
第一段目の合成として、実施の形態のトリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を19.2g(0.1モル)、実施の形態のジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを175.2g(0.07モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを200gフラスコ中に投入して、80℃で2時間撹拌した後、100℃で1時間撹拌を行った。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を室温まで冷却した。
【0054】
第二段目の合成として、実施の形態のテトラカルボン酸分(D)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物を234g(0.45モル)、実施の形態のジアミン成分(C)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを205.1g(0.5モル)反応液に投入し、N−メチル−2−ピロリドンを1227.4g加えて室温で撹拌し、アミック酸含有化合物を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0055】
(実施例5)
第一段目の合成として、実施の形態のトリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を19.2g(0.1モル)、実施の形態のジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを17.5g(0.07モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを199.6gフラスコ中に投入して、80℃で2時間撹拌した後、100℃で1時間撹拌を行った。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を室温まで冷却した。
【0056】
第二段目合成として、実施の形態のテトラカルボン酸二無水物(D)としての2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン酸二無水物を468.1g(0.9モル)反応液に投入し、実施の形態のジアミン成分(C)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを292.3g(0.713モル)、同じく実施の形態のジアミン成分(C)としての9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを82.7g(0.238モル)溶解させた。さらにN−メチル−2−ピロリドンを2042.5g加え、室温で撹拌し、アミック酸含有アミド化合物を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0057】
(比較例1)
トリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を192.1g(1.0モル)、ジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを250.0g(1.0モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを1300gフラスコ中に投入して、140℃で合成を行った。1時間後酸成分の約2%ベンジルアルコールを加えて30分撹拌し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0058】
(比較例2)
第一段目の合成として、ジアミン成分(C)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを215.4g(0.53モル)、トリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を182.5g(0.95モル)、テトラカルボン酸二無水物(D)としての4,4’−オキシジフタル酸二無水物を15.6g(0.05モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを853gフラスコ中に投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行った。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を60℃まで冷却した。
【0059】
第2段目合成として、ジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを118.9g(0.48モル)反応液に投入して、140℃で合成を行った。1時間後、酸成分の約2%のベンジルアルコールと366gのN−メチル−2−ピロリドンを加えて30分撹拌し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0060】
(比較例3)
第一段目の合成として、ジアミン成分(C)としての2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパンを291.1g(0.71モル)、トリカルボン酸無水物(A)としてのトリメリット酸無水物を111.4g(0.58モル)、テトラカルボン酸二無水物(D)としての3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を150.4g(0.42モル)、及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを1200gフラスコ中に投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行った。その後、窒素雰囲気を維持したまま反応液を60℃まで冷却した。
【0061】
第2段目合成として、ジイソシアネート成分(B)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを72.5g(0.29モル)反応液に投入して、140℃で合成を行った。1時間後、酸成分の約2%のベンジルアルコールと600gのN−メチル−2−ピロリドンを加えて30分撹拌し、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0062】
〔固化特性の評価〕
上記の実施例1〜5及び比較例1〜3に示す方法により作製したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料をそれぞれアルミパン上にのせ、30℃、50%RHの恒温恒湿槽の中で30分間保存した。その後、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料のそれぞれの固化の度合いを目視にて観察し、評価した。
【0063】
〔部分放電開始電圧の測定〕
それぞれのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を直径0.8mmの導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚40μmの絶縁皮膜を形成し、絶縁電線を得た。次に、絶縁電線を500mmに切り出し、ツイストペアの試料を作製した。得られたツイストペアの試料の端部から10mmの位置までの絶縁皮膜を剥離し、端末処理部を形成した。
【0064】
その後、温度25℃、湿度50%の恒温恒湿槽中に配置して端末処理部に電極を接続し、部分放電自動試験装置を用いて、50Hzの電圧を10〜30V/Sの割合で昇圧した。ツイストペアの試料に10pCの放電が1秒間に50回発生した電圧を測定した。これを3回繰り返し、それぞれの値の平均値を部分放電開始電圧とした。
【0065】
実施例1〜5の塗料についての評価及び測定の結果を表1に示し、比較例1〜3の塗料についての評価及び測定の結果を表2に示す。表1及び2の「固化試験の判定」の項目におけるマーク○は塗料が透明なままであった場合、マーク×は塗料が固化して白くなっていた場合を表す。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
表1は、実施の形態の例である実施例1〜5のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、水分吸収時の樹脂の固化が抑えられていることを示している。一方、表2は、比較例1〜3のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、水分吸収時に樹脂が固化することを示している。これは、比較例1〜3の塗料が、実施の形態と異なる工程により作製されたため、実施の形態のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料と異なる構造を有することによると考えられる。
【0069】
また、実施例1〜5及び比較例1〜3の塗料の極性を表すために、各塗料に含まれる極性の大きいアミド基とイミド基の濃度の合計を表1、2に示す。アミド基濃度、イミド基濃度の合計は、一般式1で表される繰り返し単位における、総分子量に対するアミド基(−CO−NH−、分子量=43)とイミド基(−CO−N−CO−、分子量=70)の合計の分子量の割合を百分率で表したものである。
【0070】
実施例1〜5の塗料、及び比較例1〜3の塗料は、ともにアミド基とイミド基の濃度が比較的低い。このため、比較例1〜3の塗料を用いて形成される絶縁電線は、実施例1〜5の塗料を用いて形成される絶縁電線と近い値の部分放電開始電圧を有する。しかし、比較例1〜3の塗料は水分吸収時に樹脂が固化しやすいため、導体への塗装作業性が悪く、十分な耐部分放電特性を絶縁電線に付与すると絶縁電線の製造コストが高くなる。
【0071】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0072】
1 絶縁電線
10 導体
11 絶縁皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式1(一般式1中のXは2価の有機基であり、R1はジアミン由来の2価の有機基である)で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有アミド化合物を含む、
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【化1】

【請求項2】
前記アミック酸含有アミド化合物が下記の一般式2(一般式2中のXは2価の有機基である)で表される構造を有するアミド化合物と、ジアミン成分(C)単独、又は前記ジアミン成分(C)及びテトラカルボン酸二無水物(D)と、からなる、
請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【化2】

【請求項3】
前記R1が前記ジアミン成分(C)及び前記テトラカルボン酸二無水物(D)を含む部位である、
請求項1又は2に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項4】
前記ジアミン成分(C)及び前記テトラカルボン酸二無水物(D)の全部又は一部が、3つ以上のベンゼン環を含む化合物である、
請求項2又は3に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項5】
トリカルボン酸無水物(A)とジイソシアネート成分(B)を配合して、混合物を作製する工程と、
前記混合物にジアミン成分(C)単独、又はジアミン成分(C)及びテトラカルボン酸二無水物(D)を加えて反応させ、下記の一般式1(一般式1中のXは2価の有機基であり、R1はジアミン由来の2価の有機基である)で表される構造を繰り返し単位とするアミック酸含有化合物を作製する工程と、
を含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造方法。
【化3】

【請求項6】
前記トリカルボン酸無水物(A)と前記ジイソシアネート成分(B)を配合して、混合物を作製する工程は、下記の一般式2(一般式2中のXは2価の有機基である)で表される構造を有するアミド化合物を作製する、
請求項5に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造方法。
【化4】

【請求項7】
導体と、
前記導体上、又は前記導体上の他の皮膜上に、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜と、
を含む絶縁電線。
【請求項8】
請求項7に記載の絶縁電線を用いて形成されたコイル。

【図1】
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【公開番号】特開2013−49843(P2013−49843A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167918(P2012−167918)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】