説明

ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線

【課題】部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を提供する。
【手段】ジアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)を含む酸成分と、を合成反応させて得られる組成物に、芳香族ジイソシアネート成分を反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)は、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が含有されているポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線に係り、特に、部分放電開始電圧が高い皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、回転電機や変圧器等の電気機器のコイルとして、絶縁電線(エナメル線)が、広く用いられている。このようなコイルに使用されているエナメル線は、小型、軽量化、高耐熱化というモータ性能の要求に応えるため、優れた耐熱性や過酷なコイル成形に耐えうる機械的特性を兼ね備えたポリアミドイミドエナメル線が不可欠となっている。
【0003】
また近年、回転電機や変圧器等の電気機器は、インバータ制御にて駆動されるようになってきており、このようなインバータ制御を用いた電気機器では、インバータ制御により高いインバータサージ電圧が発生することがある。このようにインバータサージ電圧が電気機器に発生した場合、このインバータサージ電圧に起因して、電気機器のコイルを構成する絶縁電線に部分放電が発生し、絶縁皮膜を劣化・損傷させることがある。
【0004】
このようなインバータサージ電圧に起因した部分放電による絶縁皮膜の劣化を防ぐために、3つ以上の芳香環を有するジアミン成分と、酸成分とを反応させた樹脂組成物に、ジイソシアネート成分を反応させて得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、導体上に塗布、焼付けして絶縁皮膜を形成した絶縁電線が知られている(特許文献1参照)。特許文献1では、上記の絶縁塗料を用いて絶縁皮膜を形成することにより、部分放電開始電圧を高くして、絶縁電線に部分放電を発生させないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−161683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在では、モータの信頼性向上や高性能化に伴い、絶縁電線の使用環境も従来に比べて過酷になっていることから、従来以上に高い部分放電開始電圧が必要になってきている。
【0007】
例えば、モータ内で発生する部分放電の量は、電気機器が置かれている環境因子(例えば、気圧など)の変化によって変化するため、電気機器の用途の拡大に伴って従来想定されていた量よりも多くの部分放電が発生する場合がある。この場合、使用される絶縁電線の絶縁皮膜の表面に発生する部分放電の量が増加し、絶縁皮膜の絶縁性能が低下してしまうおそれがある。また、モータなどを製造する際に、ステータスロット内の絶縁紙の挿入状態の違いによっても部分放電の発生状況が変化することもある。
【0008】
このように、絶縁電線を使用する環境の違いによって絶縁皮膜が劣化・損傷し易くなる場合があり、それに伴い絶縁電線の寿命も変化してしまう。このような部分放電の量の増大による絶縁皮膜の劣化・損傷に対する耐性に関し、従来の絶縁電線では不十分であった。
【0009】
そこで本発明の目的は、上記課題を解決し、部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために創案された本発明は、ジアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)を含む酸成分と、を合成反応させて得られる組成物に、芳香族ジイソシアネート成分を反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)は、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が含有されていることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。
【0011】
前記4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)に対してモル比率で(B−1)/(B)=20/100〜100/100の範囲で含有されているとよい。
【0012】
前記酸成分は、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)と芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)の配合比率がモル比率で(A)/(B)=20/80〜50/50であるとよい。
【0013】
前記4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物であるとよい。
【0014】
前記ジアミン成分は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンからなるとよい。
【0015】
また、本発明は、前記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて、導体の直上、あるいは前記導体上に設けられた他の皮膜上に形成された絶縁皮膜を有する絶縁電線である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、密着性などの特性を維持しつつ、部分放電開始電圧の高い皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料およびそれを用いた絶縁電線を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0018】
本発明者らは、ジアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物成分および芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を含む酸成分と、を合成反応させて得られる組成物に、芳香族ジイソシアネート成分を反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分として4つ以上の芳香環(ベンゼン環)を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を用いることで、形成される絶縁皮膜の誘電率を従来よりも効果的に低下させ、高い部分放電開始電圧を有する絶縁電線が得られることを見出した。
【0019】
すなわち、本発明は、ジアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)を含む酸成分と、を合成反応させて得られる組成物に、芳香族ジイソシアネート成分を反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)は、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が含有されていることを特徴とするものである。これら(A)〜(B)の配合比、各成分、合成反応などについて、個々に説明する。
【0020】
(配合比)
酸成分である、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)の配合比率(モル比率)は、密着性の観点から(A)/(B)=20/80〜50/50の範囲であれば特に制限はない。
【0021】
芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)として、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)に対してモル比率で「(B−1)/(B)=20/100〜100/100」であることが好ましい。つまり、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)を含む芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)のうち、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)のモル分率が20%以上100%以下であることが好ましい。
【0022】
(酸成分)
酸成分としては、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)としてTMA(トリメリット酸無水物)がある。その他ベンゾフェノントリカルボン酸無水物など芳香族トリカルボン酸無水物類も使用することは可能であるが、コストの面からTMAが最も好適である。
【0023】
芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)に関して、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)としては、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)、3,3''',4,4'''−p−クワテルフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'''',4,4''''−p−キンクフェニルテトラカルボン酸二無水物が例示できる。その他、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物も使用可能である。なお、高い部分放電開始電圧を得るためには4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)として重量平均分子量(Mw)の大きいモノマー(例えば重量平均分子量400以上)を使用することが好ましく、合成反応時の反応性や絶縁皮膜にした際の密着性や柔軟性などの特性を考慮するとBPADA(下記化学式1)が好ましい。
【0024】
【化1】

【0025】
また、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)は、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−2)として、3つ以下の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が含まれていてもよい。当該成分(B−2)としては、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、4,4’−(2,2−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)等が挙げられる。また必要に応じて上記芳香族テトラカルボン酸二無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物を併用しても良い。なお、脂肪族原料を使用すると低誘電率化し、高い部分放電開始電圧が期待できるが、耐熱性の低下を招く虞もあるため、配合量や配合の組み合わせには注意が必要である。
【0026】
(ジアミン成分)
ジアミン成分としては、例えば2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン(FDA)等、あるいはそれらの異性体から選択される少なくとも1つからなる3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンや、1,4−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ビス(4−アミノフェニル)スルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、あるいはそれらの異性体から選択される少なくとも1つからなる2つ以下の芳香環を有する芳香族ジアミンが例示することができる。これらの芳香族ジアミンを単独、または複数併用して用いることができる。
【0027】
ジアミン成分としては特に、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンを用いることが好ましい。これは特に分子量(重量平均分子量)の大きいモノマーである3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンと4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を用いることで、繰り返し最小単位の総分子量が大きくなり、誘電率上昇に最も影響を与えている極性基であるアミド基、イミド基のポリマー中の存在比率を低下させることができるからである。
【0028】
また、特に、部分放電開始電圧の向上と共に、可とう性向上を考慮すると、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンのうち、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンのような分子中にエーテル結合を有する芳香族ジアミンを用いることがよい。
【0029】
(芳香族ジイソシアネート成分)
芳香族ジイソシアネート成分としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,2’−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン(BIPP)、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート及び異性体が例示される。また必要に応じ、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、あるいは上記例示した芳香族ジイソシアネートを水添した脂環式ジイソシアネート類及び異性体も使用、併用しても良い。
【0030】
(共沸溶剤)
ジアミン成分と酸成分とを合成反応させるための一段目合成反応は、通常の溶媒、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等に加えて、共沸溶剤の存在下で行うことが望ましい。これは、合成反応に伴う水を除去し易くして、イミド化率等の合成反応の効率を上昇させるためである。これによって、最終的に得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、絶縁電線等における絶縁皮膜の形成に用いる場合、可とう性に優れた部分放電開始電圧の高い絶縁皮膜を得ることができる。共沸溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン等を挙げることができるが、中でも、危険・有害性の観点、及び本発明の特性をより効果的に発揮させる観点から、キシレンが好ましい。
【0031】
(合成反応)
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成は、ジアミン成分と酸成分とを反応させる一段目合成反応と、一段目合成反応により得られた組成物と芳香族ジイソシアネート成分とを反応させる二段目合成反応とで行う。ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成時においては、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良いが、塗料の安定性を阻害しないものが望ましい。合成反応停止時にはアルコールなどの封止剤を用いても良い。
【0032】
必要に応じて、本発明の目的が阻害されない範囲で、顔料、染料、無機または有機フィラー、潤滑剤、酸化防止剤、レベリング剤等の各種添加剤が含有されていてもよい。
【0033】
上述したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を、銅などの導体上あるいは導体上に設けられた他の皮膜上に塗布、焼付けすることで絶縁皮膜を形成し、絶縁電線(エナメル線)を得ることができる。導体としては、丸線、平角線など多様な形状のものを用いることができる。
【0034】
また、本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜の上に、潤滑性を有する皮膜等を用いてもよい。さらに、絶縁皮膜と導体との間に、密着性を向上させるための皮膜を設けてもよい。あるいは、密着性を向上させるための皮膜は単独で設けてもよい。
【0035】
以上要するに、本発明によれば、ジアミン成分を用い、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)と芳香族ジイソシアネート成分を合成反応させることで、可とう性や導体との密着性などの特性が優れており、なおかつ、従来よりも薄い皮膜厚さであっても部分放電開始電圧の高い皮膜を形成可能なポリアミドイミド樹脂絶縁塗料が得られる。また、ジアミン成分として3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンを用いることで、ポリマー鎖中の繰り返し最小単位の総分子量をさらに大きくし、アミド基、イミド基の存在比率を低下させ、部分放電開始電圧をさらに向上させることができる。
【実施例】
【0036】
実施例1〜7及び比較例1,2について説明する。
【0037】
実施例1〜7、比較例1,2におけるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、共沸溶剤を用いた合成であり、下記のように二段階の合成を実施した。
【0038】
攪拌機、還流冷却管、窒素流入管、及び温度計を備えたフラスコに、第一段目の合成反応として、実施例1〜7及び比較例1,2に示す、芳香族ジアミン成分と、酸成分の芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)、および溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、共沸溶剤として、キシレンを添加した後、窒素雰囲気下、攪拌回転数180rpm、系内温度180℃で、4時間反応させた。脱水反応中に生成された水及びキシレンを随時系外に排出しながら行った。窒素雰囲気を維持したまま、90℃以下まで冷却した後、芳香族ジイソシアネート成分を配合し、攪拌回転数150rpm、系内温度140℃で、4時間反応させた。その後、封止剤、溶剤としてNMPを配合して停止反応を行い、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0039】
また、このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚0.040mmの絶縁皮膜を有する絶縁電線(エナメル線)を得た。
【0040】
実施例1〜7及び比較例1,2で使用した各成分やその配合比、得られたエナメル線の特性等を表1,2に示す。なお、表1,2中、「酸成分」の芳香族テトラカルボン酸二無水物(B−2)は、全芳香族テトラカルボン酸二無水物のうち、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(B−1)以外の芳香族テトラカルボン酸二無水物を指している。また、「配合割合」の(B)は、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(B−1)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(B−2)とで構成される全芳香族テトラカルボン酸二無水物を指している。
【0041】
エナメル線の特性(可とう性、密着性、部分放電開始電圧)は、次の手順で行い評価した。
【0042】
(可とう性試験)
可とう性試験は次のような手順で行った。まず、作製したエナメル線をJIS C 3003に準拠した方法により30%伸長した。次に、その30%伸長したエナメル線を、当該エナメル線の導体の外径(d)の1〜10倍の直径(nd:1≦n≦10)を有する巻き付け棒へJIS C 3003に準拠した方法によって巻き付け、光学顕微鏡を用いて絶縁皮膜に亀裂の発生が見られない最小の巻き付け棒の直径(nd)を測定した。結果は、絶縁皮膜に亀裂の発生が見られない最小の巻き付け棒の直径(nd)が2d以下であるものを合格とした。
【0043】
(密着性試験)
密着性試験は次のような手順で行った。直線状のエナメル線を同軸上の250mm離れた2つのクランプに固定し、サンプルの長さ方向に平行な2辺の絶縁皮膜を導体に達するまで取り除き、その後、JIS C 3003に準拠する方法によって一方のクランプを回転させ、絶縁皮膜が浮いた時点の回転回数(回数;360°を1回とする)を測定した。結果は、絶縁皮膜が浮いた時点の回転回数が85回以上のものを合格とした。
【0044】
(部分放電開始電圧測定)
エナメル線を500mmに切り出し、ツイストペアのエナメル線の試料を作製し、端部から10mmの位置まで絶縁皮膜を削って端末処理部を形成した。測定は、部分放電自動試験システム(総研電気(株)社製 DAC−PD−3)を用いて、端末処理部に電極を接続し、温度25℃、湿度50%の雰囲気で、50Hzの電圧を10〜30V/sの割合で昇圧させながら、ツイストペアのエナメル線に100pCの放電が50回/秒で発生したときの電圧を測定した。これを3回繰り返しそれぞれ測定した電圧の値の平均値を部分放電開始電圧とした。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例1)
ジアミン成分として、BAPPを307.7g(0.75モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを96.1g(0.5モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)として4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを260.0g(0.5モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを62.6g(0.25モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0047】
(実施例2)
ジアミン成分として、BAPPを369.2g(0.9モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを38.4g(0.2モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)として4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを416.1g(0.8モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを25.0g(0.1モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0048】
(実施例3)
ジアミン成分として、BAPPを369.2g(0.9モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを38.4g(0.2モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−2)としてODPAを199.7g(0.64モル)と4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを83.2g(0.16モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを25.0g(0.1モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0049】
(実施例4)
ジアミン成分として、BAPEを345.6g(0.9モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを38.4g(0.2モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−2)としてODPAを124.8g(0.4モル)と4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを208.0g(0.4モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを25.0g(0.1モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0050】
(実施例5)
ジアミン成分として、BAPBを294.4g(0.8モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを76.8g(0.4モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)として、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを312.1g(0.6モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを50.0g(0.2モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0051】
(実施例6)
ジアミン成分として、BAPPを307.7g(0.75モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを96.1g(0.5モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)として、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを260.0g(0.5モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、BIPPを115.5g(0.25モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0052】
(実施例7)
ジアミン成分として、ODAを150.0g(0.75モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを96.1g(0.5モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)として、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)BPADAを260.0g(0.5モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを62.6g(0.25モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0053】
【表2】

【0054】
(比較例1)
ジアミン成分として、BAPPを307.7g(0.75モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを96.1g(0.5モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−2)としてODPAを156.0g(0.5モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを62.6g(0.25モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0055】
(比較例2)
ジアミン成分として、BAPPを307.7g(0.75モル)と酸成分として、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)TMAを96.1g(0.5モル)、芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−2)としてBTDAを162.0g(0.5モル)配合し、第一段反応を行った。次いで、MDIを62.6g(0.25モル)配合し反応させた。最後に停止反応を行いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。さらに、導体径0.80mmの銅導体上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を膜厚が0.040mmとなるように塗布、焼付けを繰り返して絶縁電線を得た。
【0056】
比較例1,2は、部分放電開始電圧が低い。これに対し、実施例1〜7のポリアミドイミドエナメル線は、部分放電開始電圧が向上していることが確認された。特に、従来よりも皮膜厚さが薄い絶縁皮膜(皮膜厚40μm)であっても980Vp以上の高い部分放電開始電圧が得られることが判った。また、実施例1〜7のポリアミドイミドエナメル線は、比較例1,2と比べ、密着性も良好な結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)および芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)を含む酸成分と、を合成反応させて得られる組成物に、芳香族ジイソシアネート成分を反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)は、4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が含有されていることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項2】
前記4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)は、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)に対してモル比率で(B−1)/(B)=20/100〜100/100の範囲で含有されている請求項1記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項3】
前記酸成分は、芳香族トリカルボン酸無水物成分(A)と芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B)の配合比率がモル比率で(A)/(B)=20/80〜50/50である請求項1又は2記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項4】
前記4つ以上の芳香環を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(B−1)が、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物である請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項5】
前記ジアミン成分は、3つ以上の芳香環を有する芳香族ジアミンからなる請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いて、導体の直上、あるいは前記導体上に設けられた他の皮膜上に形成された絶縁皮膜を有することを特徴とする絶縁電線。

【公開番号】特開2012−184416(P2012−184416A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−31210(P2012−31210)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】