説明

ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線

【課題】耐熱性、機械的特性、耐油性等を維持したまま低誘電率化を図り、部分放電開始電圧の高いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】分子鎖中にハロゲン元素を含まないポリアミドイミド樹脂を極性溶媒に溶解してなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、モノマーとして3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)のみからなるアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)及び芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)からなる酸成分とを含有している芳香族イミドプレポリマーに、2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)を混合して反応させてなり、前記ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子量(M)と、アミド基及びイミド基の平均個数(N)との比率M/Nが200以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドイミド樹脂絶縁塗料に係り、特に3つ以上のベンゼン環を含む比較的高分子量のモノマーから得られる低誘電率のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネを背景にハイブリッド自動車が普及し始め、燃費改善や動力性能向上のため、駆動モータはインバータ駆動され、小型、軽量化、高耐熱化、高電圧駆動化が急速に進んでいる。
【0003】
現在このモータコイルに使用されるエナメル線は、小型、軽量化、高耐熱化というモータ性能の要求に応えるため、優れた耐熱性や過酷なコイル成形に耐えうる機械的特性、あるいは耐ミッションオイル性等を兼ね備えたポリアミドイミドエナメル線が不可欠となっている。但し、耐ミッションオイル性についてはオイル添加剤の種類や量によって絶縁保持性に大きく影響するが、オイル添加剤の影響を除けば含水による加水分解性が耐ミッションオイル性に直結する。
【0004】
高電圧駆動化に対しては、インバータサージの重畳とあいまって、部分放電が発生するリスクが高まり、インバータサージ絶縁の対応が困難になってきている。
【0005】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、一般にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)やN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)等の極性溶媒中にて4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とトリメリット酸無水物(TMA)との主に2成分による脱炭酸反応により、アミド基とイミド基がほぼ半々の比率で生成され、耐熱性と機械的特性、耐加水分解性などに優れた特性を示す耐熱高分子樹脂である。
【0006】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の製造は、例えばイソシアネート法や酸クロライド法などが知られているが、製造生産性の観点から、一般的にはイソシアネート法が用いられている。ポリアミドイミド樹脂の例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、酸成分としてトリメリット酸無水物(TMA)との主に2成分の合成反応によるものが最も良く知られている。
【0007】
またポリアミドイミド樹脂の特性改質を行うために、芳香族ジアミンと芳香族トリカルボン酸無水物とを50/100〜80/100の酸過剰下で反応させた後、ジイソシアネート成分でポリアミドイミド樹脂を合成する方法がある(特許文献1参照)。
【0008】
一方、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる皮膜の欠点の一つに、誘電率が高いことが上げられ、樹脂構造的にはアミド基とイミド基の存在が最も誘電率上昇の影響を与えている。
【0009】
絶縁電線、特にモータコイルに用いられるエナメル線において、高効率化のためインバータ駆動されることが多くなっており、過大な電圧(インバータサージ)の発生により、部分放電劣化を起こし、絶縁破壊に至るケースが多くなっている。また、モータ駆動電圧も上昇する傾向があり、部分放電が発生するリスクは更に高くなってきている。
【0010】
この部分放電に対する課電寿命を向上させる手法として、オルガノシリカゾルを樹脂溶液中に分散させて得た耐部分放電性樹脂塗料を導体上に塗布して製造した耐部分放電性エナメル線が開示されている(例えば特許文献2,3参照)。
【0011】
もう一つの手法として、線間の電界(線間に存在する空気層に加わる電界)を緩和して部分放電を発生しにくくし、課電寿命を向上させる方法がある。
【0012】
その方法として電線表面に導電性あるいは半導電性を帯びさせることにより電界緩和する方法と、絶縁皮膜の誘電率を低下させて、電界緩和する方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第2897186号公報
【特許文献2】特許第3496636号公報
【特許文献3】特開2004−204187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
絶縁電線の表面に導電性あるいは半導電性を帯びさせる方法では、コイル巻き加工時の傷発生が起こり易く絶縁特性が低下してしまうことや端末部に絶縁処理を施さなければならないなど問題が多く、実用性は低い。一方、絶縁被膜の誘電率を低下させる方法では、低誘電率化が樹脂構造に依存することから、耐熱性や機械的特性などに弊害をもたらすことが一般的であり、いずれの手法でも大幅な改善は困難であった。
【0015】
また特許文献1の方法では、第1段目の2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)とトリメリット酸無水物(TMA)とを50/100の酸過剰下で反応させると、配合比が適切であるため、アミノ基との反応はカルボン酸より無水酸の方が優先的に反応し、更に合成反応を進めると脱水イミド化し、両末端がカルボン酸のビストリメリティックイミドが形成される。
【0016】
しかし、BAPPが50より多い場合、アミノ基とTMAのカルボン酸の反応は非常に進みにくいため、NMPなどの沸点付近である200℃で合成反応を行なっても、アミノ基が残存し、第2段目の合成反応時にアミノ基とイソシアネート基が尿素結合を形成してしまい、特性悪化する欠点があった。
【0017】
また50未満の場合では第1段目反応時に無水酸が残存して、イミド化反応に伴う水が系内に残り、無水酸がカルボン酸となり、著しく反応性を低下させる欠点があった。
【0018】
これらの特性悪化は、これらの官能基の配合バランスが適正でないことに問題がある。
【0019】
従って、誘電率の低いポリアミドイミドが出来れば、高電圧駆動化にも対応ができる優れたエナメル線が提供できることになる。
【0020】
そこで、本発明の目的は、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成に、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分を含有する高分子量モノマーを使用し、ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子中のアミド基、イミド基の個数を減らすことで耐熱性、機械的特性、耐油性等を維持したまま低誘電率化を図り、部分放電開始電圧の高いポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために請求項1の発明は、分子鎖中にハロゲン元素を含まないポリアミドイミド樹脂を極性溶媒に溶解してなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、モノマーとして3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)のみからなるアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)及び芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)からなる酸成分とを含有している芳香族イミドプレポリマーに、2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)を混合して反応させてなり、前記ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子量(M)と、アミド基及びイミド基の平均個数(N)との比率M/Nが200以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。
【0022】
請求項2の発明は、前記芳香族トリカルボン酸無水物(C)と、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)との配合比率が、C/D=95/5〜60/40(モル比)である請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体直上あるいは他の絶縁皮膜上に塗布、焼付してなる皮膜が形成されていることを特徴とする絶縁電線である。
【0024】
このように、本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、ポリアミドイミド樹脂のモノマーに3つ以上のベンゼン環を有している芳香族ジアミン成分(E)が含有され、ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子量(M)と、アミド基及びイミド基の平均個数(N)との比率M/Nが200以上とすることにより、誘電率上昇に最も影響を与えているアミド基とイミド基のポリマー中の存在比率を低下させることで誘電率を低減することができる。
【0025】
また、芳香族ジアミン(E)を用いた場合には、酸成分として芳香族トリカルボン酸無水物(C)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)を併用して合成することにより、特許文献1に記載された残存アミノ基とイソシアネート基との反応による尿素結合の形成を抑制することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いることにより、MDIとTMAとの合成からなる汎用的ポリアミドイミドエナメル線と同等の特性を維持しながら、低誘電率化により部分放電開始電圧を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明におけるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布してなる皮膜を有する絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明におけるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の好適な一実施の形態を詳述する。
【0029】
本発明は、分子鎖中にハロゲン元素を含まないポリアミドイミド樹脂を極性溶媒に溶解してなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、モノマーとして3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)又は芳香族ジアミン成分(E)を含有し、前記ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子量(M)と、アミド基及びイミド基の平均個数(N)との比率M/Nが200以上であるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料であり、また、ポリアミドイミド樹脂は、前記芳香族ジイソシアネート成分(A)と、2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)単独あるいは芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)とを併用してなる酸成分とを含有してなるもの、あるいは前記芳香族ジアミン成分(E)と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)及び芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)からなる酸成分とを含有している芳香族イミドプレポリマーに、2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)とを混合してなるものである。
【0030】
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の極性溶媒を主溶剤とし、溶液重合を行なう。
【0031】
溶剤としては、主溶媒であるNMPの他にγ−ブチロラクトンやN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルイミダゾリジノン(DMI)、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどのポリアミドイミド樹脂の合成反応を阻害しない溶剤を併用して合成しても良いし、希釈しても良い。
【0032】
また希釈用途として芳香族アルキルベンゼン類などを併用しても良い。但し、ポリアミドイミドの溶解性を低下させる恐れがある場合は考慮する必要がある。
【0033】
特性面やコストなどの観点から一般にエナメル線用途に最も用いられているポリアミドイミド樹脂はイソシアネート成分(B)として、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)と、酸成分(C)としてトリメリット酸無水物(TMA)との主に2成分が用いられる。
【0034】
一般にはMDIとTMAと等量で合成するが、イソシアネート成分は1〜1.05の範囲で若干過剰で合成されることもある。このイソシアネート微過剰配合は、本発明のイソシアネートを用いた反応では同様に行なっても良い。
【0035】
2つ以下のベンゼン環を有するジイソシアネート成分(B)としては、上記の4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の他、汎用的に使用されるトリレンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビフェニルジイソシアネート、ジフェニルスルホンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート及び異性体、多量体が例示される。また必要に応じ、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシシレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、或いは上記例示した芳香族ジイソシアネートを水添した脂環式ジイソシアネート類及び異性体も使用、併用しても良い。
【0036】
3つ以上のベンゼン環を有している芳香族ジイソシアネート成分(A)としては、2,2−ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]プロパン(BIPP)、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]スルホン(BIPS)、ビス[4−(4−イソシアネートフェノキシ)フェニル]エーテル(BIPE)、フルオレンジイソシアネート(FDI)、4,4’−ビス(4−イソシアネートフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−イソシアネートフェノキシ)ベンゼン等があり、これらの異性体も含まれる。これらは下記に例示する3つ以上のベンゼン環を有している芳香族ジアミン成分を用いて芳香族ジイソシアネートが製造される。その製造方法については特に限定されるものはないが、ホスゲンを用いた方法が工業的に最も適当であり、望ましい。
【0037】
3つ以上のベンゼン環を有している芳香族ジアミン成分(E)としては、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAIPP)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、フルオレンジアミン(FDA)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン等があり、これらの異性体も含まれる。
【0038】
酸成分の芳香族トリカルボン酸無水物(C)としてトリメリット酸無水物(TMA)がある。その他ベンゾフェノントリカルボン酸無水物などの芳香族トリカルボン酸無水物類も使用することは可能であるが、TMAが最も好適である。
【0039】
3つ以上のベンゼン環を有している芳香族ジアミン(E)を用いて合成する場合には、芳香族トリカルボン酸無水物類(C)とテトラカルボン酸二無水物類(D)とを併用することが望ましい。
【0040】
テトラカルボン酸二無水物(D)としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、3,3’4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等が例示され、また必要に応じ、ブタンテトラカルボン酸二無水物や5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、或いは上記例示した芳香族テトラカルボン酸二無水物を水添した脂環式テトラカルボン酸二無水物類等を併用しても良い。
【0041】
脂環構造原料を併用すると誘電率低減や樹脂組成物の透明性向上に効果が期待されるため、必要に応じ併用しても良いが、耐熱性低下を招く恐れがあるため、配合量や化学構造には配慮が必要である。
【0042】
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)及び芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)の配合比率は、A/(C+D)=50/100〜70/100(モル比)が望ましい。
【0043】
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)及び芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)の配合比率は、E/(C+D)=51/100〜70/100(モル比)が望ましい。芳香族ジイソシアネート成分(A)が50未満、芳香族ジアミン成分(E)が51未満では第1段目反応時に無水酸が残存して、イミド化反応に伴う水が系内に残り、無水酸がカルボン酸となり、著しく反応性を低下させるので好ましくない。70より多いと芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)の配合比が必然的に増加し、イミド基が大幅に増加し、アミド基に起因するポリアミドイミド樹脂の機械的特性など優れた特性が悪化してしまい、好ましくない。
【0044】
芳香族トリカルボン酸無水物(C)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)の比率についてもC/D=100/0〜60/40が望ましい。
【0045】
ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子量(M=重量平均分子量Mw)と、アミド基及びイミド基の合計個数(N)との比率M/Nは、200以上が望ましい。
【0046】
比誘電率は、低いほど望ましいが、インバータサージ絶縁に有効性を発揮するためには、3.5以下が望ましい。
【0047】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成時においては、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良いが、塗料の安定性を阻害しないものが望ましい。合成反応停止時にはアルコールなどの封止剤を用いても良い。
【実施例】
【0048】
参考例1〜7及び比較例1〜3及び7は、ポリアミドイミド樹脂のモノマーにジイソシアネート成分(A)を用いたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成であり、通常のポリアミドイミド樹脂塗料の合成と同様に下記のように実施した。
【0049】
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えたフラスコに実施例1〜7及び比較例1〜3に示す原料及び溶剤を一度に投入し、窒素雰囲気中で撹拌しながら約1時間で140℃まで加熱し、還元粘度が約0.5dl/gのポリアミドイミド樹脂溶液が得られるように、この温度で2時間反応させて作製した。
【0050】
実施例1〜7及び比較例4〜6は、ポリアミドイミド樹脂のモノマーにジアミン成分(E)を用いたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成であり、下記のように2段階の合成を実施した。
【0051】
撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えたフラスコを用意し、第1段目の合成反応として、実施例1〜7及び比較例4〜6に示すジアミン成分(E)と、酸成分の芳香族トリカルボン酸無水物(C)と芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)、及び溶剤の約50〜80%を投入し、窒素雰囲気中で撹拌しながら約1時間で180℃まで加熱し、脱水反応により生成された水を系外に出しながら、この温度で4時間反応させた。窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、ジイソシアネート成分(B)と残りの溶剤を投入し、第2段目の合成反応として、窒素雰囲気中で撹拌しながら約1時間で140℃まで加熱し、還元粘度が約0.5dl/gのポリアミドイミド樹脂溶液が得られるように、この温度で2時間反応させて作製した。
【0052】
また前記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚45μmの絶縁皮膜を有するエナメル線を得た。
【0053】
図1は本発明に係るポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布してなる絶縁電線を示す図である。
【0054】
導体1上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより導体1の周囲に絶縁体の皮膜2が得られる。
【0055】
なお、導体1直上に他の絶縁皮膜を形成し、その上に本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる皮膜2を形成してもよい。このとき、他の絶縁皮膜は、耐部分放電性あるいは一般特性を阻害しないものであれば特に限定されるものではない。
【0056】
実施例、参考例及び比較例における性状、得られたエナメル線の特性等については表1〜3に示す。
【0057】
なお、エナメル線の特性は、JISに準拠した方法で測定した。
【0058】
耐加水分解性は内容積400mLの耐熱ガラス管に0.4mLの水と対撚りしたエナメル線を投入した後、バーナー等で加熱溶融させ封じ、密封させたものを140℃の恒温槽中で1000h処理した後取り出し、絶縁破壊電圧を測定、未処理の絶縁破壊電圧に対する残率を算出した。
【0059】
比誘電率は、エナメル線表面に金属電極を蒸着し、導体と金属電極間の静電容量を測定し、電極長と皮膜厚の関係から比誘電率を算出した。静電容量の測定はインピーダンスアナライザを用いて、1kHzにて測定した。乾燥時の誘電率は100℃の恒温槽中に、吸湿時の誘電率は、25℃−50%RHの恒温恒湿槽中にて、50h放置した後、その槽内で測定を行なった。
【0060】
部分放電開始電圧は、25℃−50%RHの恒温恒温槽中にて、50h放置した後、50Hzにて検出感度10pCでの放電開始電圧を測定した。
【0061】
【表1】

【0062】
(参考例1)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として231.0g(0.5モル)のBIPP(Mw=462)と2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として125.0g(0.5モル)の4,4’−MDI(Mw=250)、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として192.0g(1.0モル)のTMA(Mw=192)及び溶剤として1600gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0063】
(参考例2)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として242.6g(0.525モル)のBIPPと2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として、118.8g(0.475モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として182.4g(0.95モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として10.9g(0.05モル)のPMDA(Mw=218)及び溶剤として1600gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0064】
(参考例3)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として338.8g(0.7モル)のBIPS(Mw=484)と2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として62.5gの4,4’−MDI(Mw=250)と12.5gの2,4’−MDI(Mw=250)の合計75.0g(0,3モル)のMDI、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として115.2g(0.6モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として143.2g(0.4モル)のDSDA(Mw=358)及び溶剤として2000gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0065】
(参考例4)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として239.8g(0.55モル)のBIPE(Mw=436)と2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として112.5g(0.45モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として172.8g(0.9モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として32.2g(0.1モル)のBTDA(Mw=322)及び溶剤として1600gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0066】
(参考例5)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として219.5g(0.475モル)のBIPP及び40.0g(0.1モル)のFDI(Mw=400)を併用し、2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として106.3g(0.425モル)の4,4’−MDl、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として163.2g(0.85モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として46.5g(0.15モル)のODPA(Mw=310)及び溶剤として1700gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0067】
(参考例6)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として138.6g(0.3モル)のBIPPと2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として175.0g(0.7モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1200gのNMPを投入し、140℃で合成を行った後、DMFを300g入れ希釈し、還元粘度が約05dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0068】
(参考例7)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として305.2g(0.7モル)のBIPEと2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として75.0g(0.3モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1350gのNMPを投入し、140℃で合成を行った後、DMFを350g入れ希釈し、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0069】
【表2】

【0070】
(実施例1)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として215.3g(0.525モル)のBAPP(Mw=410)、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として182.4g(0.95モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として10.9g(0.05モル)のPMDA及び溶剤として1000gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として118.8g(0.475モル)の4,4’−MDI及び溶剤として600gのNMPを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0071】
(実施例2)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として237.6g(0.55モル)のBAPS(Mw=432)、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として172.8g(0.9モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として32.2g(0.1モル)のBTDA及び溶剤として1000gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として78.3g(0.45モル)の2,4−TDI(Mw=174)及び溶剤として500gのNMPを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0072】
(実施例3)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として302.4g(0.7モル)のBAPS、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として115.2g(0.6モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として143.2g(0.4モル)のDSDA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として75.0g(0.3モル)の4,4’−MDI及び溶剤として700gのNMPを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0073】
(実施例4)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として220.8g(0.575モル)のBAPE(Mw=384)、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として163.2g(0.85モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として46.5g(0.15モル)のODPA及び溶剤として240gのNMPと860gのγ−ブチロラクトンを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として106.3g(0.425モル)の4,4’−MDI及び溶剤として500gのγ−ブチロラクトンを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0074】
(実施例5)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として194.8g(0.475モル)のBAPPと34.8g(0.1モル)のFDA(Mw=348)、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として163.2g(0.85モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として46.5g(0.15モル)のODPA及び溶剤として240gのNMPと860gのγ−ブチロラクトンを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として106.3g(0.425モル)の4,4’−MDI及び溶剤として500gのγ−ブチロラクトンを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0075】
(実施例6)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として225.5g(0.55モル)のBAPP、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として172.8g(0.9モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として32.2g(0.1モル)のBTDA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として112.5g(0.45モル)の4,4’−MDI及び溶剤として400gのγ−ブチロラクトンを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0076】
(実施例7)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として163.2g(0.425モル)のBAPEと34.8g(0.1モル)のFDA、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として182.4g(0.95モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として10.9g(0.05モル)のPMDA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として118.8g(0.475モル)の4,4’−MDI及び溶剤として350gのγ・ブチロラクトンを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0077】
【表3】

【0078】
(比較例1)
芳香族ジイソシアネート成分として(B)250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1300gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0079】
(比較例2)
芳香族ジイソシアネート成分(B)として250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として144.0g(0.75モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として89.5g(0.25モル)のDSDA及び溶剤として1450gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0080】
(比較例3)
芳香族ジイソシアネート成分(B)として250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として115.2g(0.6モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として128.8g(0.4モル)のBTDA及び溶剤として1900gのNMPを投入し、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0081】
(比較例4)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として184.5g(0.45モル)のBAPP、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として137.5g(0.55モル)の4,4’−MDI及び溶剤として300gのNMPを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0082】
(比較例5)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として328.0g(0.8モル)のBAPP、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として50.0g(0.2モル)の4,4’−MDI及び溶剤として500gのNMPを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0083】
(比較例6)
第1段目の合成として、3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)として291.1g(0.71モル)のBAPP、芳香族トリカルボン酸無水物成分(C)として111.4g(0.58モル)のTMAと芳香族テトラカルボン酸二無水物成分(D)として150.4g(0.42モル)のDSDA及び溶剤として1200gのNMPを投入して、180℃で系外に水を出しながら合成を行い、窒素雰囲気を維持したまま60℃まで冷却した後、第2段目の合成として、芳香族ジイソシアネート成分(B)として72.5g(0.29モル)の4,4’−MDI及び溶剤として600gのγ−ブチロラクトンを投入して、140℃で合成を行い、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0084】
(比較例7)
3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(A)として87.2g(0.2モル)のBIPPと2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)として200.0g(0.8モル)の4,4’−MD1、芳香族トリカルボン酸無水物(C)として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1100gのNMPを投入し、140℃で合成を行った後、DMFを300g入れ希釈し、還元粘度が約0.5dl/g、樹脂分濃度が約25重量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0085】
比較例1は汎用的に用いられているポリアミドイミドエナメル線を示すものであるが、可とう性、耐摩耗性、耐熱性、耐加水分解性はいずれも良好であるが、比誘電率が高く、部分放電開始電圧が低い。
【0086】
これに対し実施例1〜7、参考例1〜7のポリアミドイミドエナメル線は乾燥時の誘電率が3.5以下と低く、部分放電開始電圧は70〜200V程度向上することが確認された。一般特性は良好で、遜色ないレベルであった。
【0087】
比較例2及び3は汎用的ポリアミドイミドに芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を併用して、イミド基数を増加したものであるが、比較例2では乾燥時の誘電率の低下は僅かであり、耐摩耗性が若干低下しており、主だった効果は得られなかった。比較例3はイミド基数が増大した為、溶解性が悪化し、塗料化の段階で析出してしまった。
【0088】
比較例4はBIPPの配合比率を45としたものであるが、塗料の還元粘度、すなわち分子量が上昇せず、エナメル皮膜でも高分子化が進まず、可とう性や耐摩耗性が著しく低下してしまった。TMAの余分な無水酸が系内の水によりカルボン酸となって反応性が低下したものと考えられる。
【0089】
比較例5はBIPPの配合比率を80としたものであるが、これも同様に一般特性は著しく悪化した。余分なアミノ基とイソシアネート基が反応し、尿素結合を多く含有するため、アミドイミドとしての特性を維持できなかったものと思われる。
【0090】
比較例6は芳香族テトラカルボン酸二無水物成分を併用して、余分な無水酸やアミノ基が無いような配合比率になっているが、BIPPの配合比率が70を超えた為、イミド比率が高くなり、剛直性が強くなりすぎて可とう性が悪化したものと考えられる。
【0091】
比較例7は1繰返し単位のポリアミドイミド樹脂の分子量(M)と、アミド基及びイミド基が合計個数(N)との比率M/Nが200未満となっており、乾燥時の誘電率は3.5を超えてしまった。
【符号の説明】
【0092】
1 導体
2 皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子鎖中にハロゲン元素を含まないポリアミドイミド樹脂を極性溶媒に溶解してなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記ポリアミドイミド樹脂は、モノマーとして3つ以上のベンゼン環を有する芳香族ジアミン成分(E)のみからなるアミン成分と、芳香族トリカルボン酸無水物(C)及び芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)からなる酸成分とを含有している芳香族イミドプレポリマーに、2つ以下のベンゼン環を有する芳香族ジイソシアネート成分(B)を混合して反応させてなり、前記ポリアミドイミド樹脂の繰返し単位当たりの分子量(M)と、アミド基及びイミド基の平均個数(N)との比率M/Nが200以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項2】
前記芳香族トリカルボン酸無水物(C)と、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(D)との配合比率が、C/D=95/5〜60/40(モル比)である請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を導体直上あるいは他の絶縁皮膜上に塗布、焼付してなる皮膜が形成されていることを特徴とする絶縁電線。

【図1】
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【公開番号】特開2012−251150(P2012−251150A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158259(P2012−158259)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2010−24032(P2010−24032)の分割
【原出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】