説明

ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線

【課題】良好な柔軟性を有し、耐プレス成形性に優れた絶縁皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】溶剤中でイソシアネート成分と酸成分とを合成反応させてなり、導体上にポリアミドイミド皮膜を形成するためのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記イソシアネート成分は、分子中に屈曲構造を有するイソシアネートが2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからなり、前記2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを5〜50モル%の範囲で含み、前記ポリアミドイミド皮膜の伸び率が71%以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性の優れた絶縁皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及び優れた耐プレス成形性を有する絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主にモータやトランスなどのコイルに用いられる絶縁電線、特に導体上に絶縁塗料を塗布、焼付けして絶縁皮膜を形成したエナメル線においては、コイルを形成するための巻回の際に過酷な加工ストレスを受ける。
【0003】
このようなエナメル線への加工ストレスを低減するために、エナメル線の表面の潤滑性を向上させる方法が用いられている。例えば、エナメル線表面にパラフィン及び脂肪酸エステルを主成分とした潤滑材料を単独あるいは絶縁塗料に添加して塗布または焼付する方法、絶縁塗料に安定化されたイソシアネート及び滑剤を配合したものを焼付する方法、あるいは、絶縁塗料にチタン酸エステルを配合したものを焼付する方法、といったことが知られている(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
特に近年の地球環境保全に対する意識の高まりにより、モータやトランスなどは小型で高効率であることが望まれている。
【0005】
例えば、モータにおいては、ハイブリッド自動車駆動用モータに代表されるような非常に小さなスペースに高出力のモータが組み込まれる場合が多くなっている。そのため、モータに対するエナメル線の占積率を向上させるべく、コイルを形成するエナメル線に対して、絶縁皮膜が圧縮変形するほどの加工ストレスを与えるプレス成形などが施されるケースが多くなってきた。
【0006】
このようなプレス成形が施されるエナメル線には、ポリアミドイミド樹脂をベース樹脂とした絶縁塗料からなる絶縁皮膜の耐摩耗性を他の汎用エナメル線よりも向上させたエナメル線が用いられるケースが多い。
【0007】
例えば、このポリアミドイミド樹脂をベース樹脂とした絶縁塗料において、ポリアミドイミド樹脂のイソシアネート成分に3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート(以下、TODI)を用いることでポリアミドイミド樹脂の樹脂骨格を剛直化させることにより、絶縁皮膜の耐摩耗性を向上させて、プレス成形の際に、絶縁皮膜に亀裂などの損傷が発生するのを防止する。つまり、耐プレス成形性を向上させることが知られている(例えば、特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−45143号公報
【特許文献2】特開平7−134912号公報
【特許文献3】特許第2936895号公報
【特許文献4】特開2007−270074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来のようなイソシアネート成分にTODIを用いたポリアミドイミド樹脂絶縁塗料では、イソシアネート成分にTODIを用いることによってポリアミドイミド樹脂の樹脂骨格を剛直化しているため、このポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜は柔軟性(伸び特性)が不十分となる。
【0010】
絶縁皮膜に大きな圧縮変形が生じるような加工ストレスが施される最近のより過酷なプレス成形方法においては、上述したような柔軟性が不十分な絶縁皮膜の場合に、圧縮変形に対して絶縁皮膜が追従できず、亀裂などの損傷が発生してしまう場合があるという危惧があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、良好な柔軟性を有し、耐プレス成形性に優れた絶縁皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、溶剤中でイソシアネート成分と酸成分とを合成反応させてなり、導体上にポリアミドイミド皮膜を形成するためのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、前記イソシアネート成分は、分子中に屈曲構造を有するイソシアネートが2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからなり、前記2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを5〜50モル%の範囲で含み、前記ポリアミドイミド皮膜の伸び率が71%以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。
【0013】
請求項2の発明は、前記イソシアネート成分は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートのうち少なくとも1種からなる請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料である。
【0014】
請求項3の発明は、導体上に、溶剤中でイソシアネート成分と酸成分とを合成反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布して形成されたポリアミドイミド皮膜を有する絶縁皮膜が形成されている絶縁電線において、前記ポリアミドイミド皮膜は、分子中に屈曲構造を有するイソシアネートが2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからなり、前記2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを前記イソシアネート成分中5〜50モル%の範囲で含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなり、前記ポリアミドイミド皮膜の伸び率が71%以上であることを特徴とする絶縁電線である。
【0015】
請求項4の発明は、前記絶縁皮膜は、圧縮変形したとき外径の変形率が50%以下であるときに、変形前の絶縁破壊電圧の60%以上の絶縁破壊電圧を有する請求項3に記載の絶縁電線である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、良好な柔軟性を有し、耐プレス成形性に優れた絶縁皮膜が得られるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料及びそれを用いた絶縁電線を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の変形例に係る絶縁電線の断面図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の変形例に係る絶縁電線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。なお、本発明は、ここで取り上げた実施の形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で組合せや改良が適宜可能である。
【0019】
先ず図1〜図3により、本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼付して皮膜を形成してなるポリアミドイミド皮膜を有する絶縁電線10を説明する。
【0020】
図1は、導体1の直上に、本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼付して柔軟性に優れたポリアミドイミド皮膜2を形成した絶縁電線(耐プレス成形性絶縁電線)10としたものである。
【0021】
図2は、導体1の直上に他の絶縁皮膜(第1の絶縁皮膜)3を形成し、その絶縁皮膜3の上に本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けすることにより、柔軟性に優れたポリアミドイミド皮膜2を形成して絶縁電線(耐プレス成形性絶縁電線)20としたものである。
【0022】
図3は、図2の絶縁電線20におけるポリアミドイミド皮膜2の上に、他の絶縁皮膜(第2の絶縁皮膜)4を設けて絶縁電線(耐プレス成形性絶縁電線)30としたものである。
【0023】
絶縁皮膜3、4の材質は特に限定されるものではなく、エナメル線において汎用の絶縁塗料を用いることができる。例えば、ポリイミド樹脂絶縁塗料、ポリエステルイミド樹脂絶縁塗料、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料、H種ポリエステル樹脂絶縁塗料などが挙げられる。導体1直上の絶縁皮膜3と最上層の絶縁皮膜4の材質は、同じであっても異なっても良い。また導体1直上に本発明のポリアミドイミド皮膜2を形成し、その上に他の絶縁皮膜4を形成しても良い。最上層の絶縁皮膜4は自己潤滑層であっても良く、絶縁皮膜3は、導体1とポリアミド皮膜2との密着性を向上させる密着層であっても良い。
【0024】
以下に本発明におけるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を説明する。
【0025】
本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、原料である芳香族ジイソシアネート成分に、分子中に屈曲構造を有するイソシアネートとして、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’−MDI)を用いることにより、得られる絶縁皮膜(ポリアミドイミド皮膜)の柔軟性(伸び特性)を向上させるとともに、耐熱性などのポリアミドイミド皮膜の一般特性を従来と同等にしたことにある。
【0026】
具体的に、本発明は、上述のポリアミドイミド樹脂絶縁体塗料を用いて柔軟性に優れたポリアミドイミド皮膜を設けたことにより、絶縁電線をプレス成形し、その変形率が絶縁電線の外径(仕上外径)の50%になっても、プレス成形前の絶縁破壊電圧の60%以上の絶縁破壊電圧を維持できる絶縁電線とすることができる。
【0027】
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、イソシアネート成分の5〜50モル%に、分子構造中に屈曲構造を有する2,4’−MDIを使用する。またイソシアネート成分には、直鎖構造を有する4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’−MDI)を併用することが望ましい。一般のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の優れた特性を損なわずに柔軟性を向上させるために、2,4’−MDIが最も好適である。なお、4,4’−MDIの異性体として、3,4’−MDI、3,3’−MDI、2,3’−MDI、2,2’−MDIがあるが、これらを4,4’−MDIの替わりに用いても4,4’−MDIと併用しても良い。
【0028】
2,4’−MDIの配合比は5〜50モル%が望ましく、10〜40モル%の範囲がなお望ましい。5モル%未満ではポリアミドイミド皮膜の伸びを改善する効果が低く、50モル%以上では合成時の反応性が悪化し、特性の低下も伴うので、好ましくない。
【0029】
その他併用可能なイソシアネート成分としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルエーテルジイソシアネート(EDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート(PDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ジフェニルスルホンジイソシアネート(SDI)、ビトリレンジイソシアネート(TODI)やジアニシジジイソシアネート(DADI)などの芳香族ジイソシアネート類やビフェニル構造を有するもの、及びそれらの異性体が好適であり、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H−MDI)、水添XDIなどの脂肪族ジイソシアネート類やまたトリフェニルメタントリイソシアネートなどの多官能イソシアネートやポリメリックイソシアネート、あるいはTDIなどの多量体なども必要に応じ併用することが可能である。
【0030】
酸成分としては、トリメリット酸無水物(TMA)を単独で用いるのが最も好適であるが、必要に応じ、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(S−BPDA)、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、オキシジフタル酸二無水物(ODPA)等の芳香族テトラカルボン酸二無水物及びその異性体類やブタンテトラカルボン酸二無水物や5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物等の脂環式テトラカルボン酸二無水物類、又はトリメシン酸やトリス(2−カルボキシエチル)イソシアヌレート(CIC酸)などのトリカルボン酸及びその異性体類などを併用しても良いが、耐熱性や伸び特性の改善を阻害しないものが望ましい。
【0031】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の合成時においては、アミン類やイミダゾール類、イミダゾリン類などの反応触媒を使用しても良いが、塗料の安定性を阻害しないものが望ましい。
【0032】
以下に本発明における絶縁電線の耐プレス成形性評価方法を説明する。
【0033】
耐プレス成形性を評価する方法は、特に限定はなく、絶縁電線を圧縮変形したときの変形(成形)量が把握できる方法であれば、どのような方法を用いても良い。例えば、ハードクロムメッキ及び鏡面研磨を施した金属プレートを2枚備えた成形治具をもちいて、絶縁電線を均一にプレス成形できるものが好適である。絶縁電線の変形量を規定できるようにハイトゲージを備えたものや金型が規定値以上にプレスできないような構造を備えたもの、あるいは、ギャップ調整用のプレートを備えたものであれば、なお良い。絶縁電線を所定の変形量となるようにプレス成形した後、この絶縁電線の絶縁破壊電圧を測定することで、耐プレス成形性を評価する。絶縁破壊電圧を測定する際の方法としては、例えば、プレス成形した絶縁電線同士を対よりして2線間で測定する方法やプレス成形した絶縁電線の単線における絶縁皮膜に電極を設けて、導体と電極間に電圧を印加させて測定する方法などがあるが、その方法においても特に限定されるものではない。電極においても、特に限定されるものはなく、電極の機能を果たせば良い。最も好適な用法としては、プレス成形した絶縁電線の単線を液体電極(水銀、低温溶融金属、食塩水、グリセリンと食塩水の混合溶液など)に浸漬させて行う方法が測定精度が高く良い。
【実施例】
【0034】
以下に実施例1〜10と比較例1〜8を説明する。
実施例1〜10、各比較例1〜8は、次のように行った。
【0035】
ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料は、以下の方法によって合成反応させて作製した。まず、撹拌機、還流冷却管、窒素流入管、温度計を備えたフラスコに表1(実施例1〜10)、表2(比較例1〜8)に示す原料を投入し、窒素雰囲気中で撹拌しながら約1時間で130℃まで加熱し、還元粘度が約0.5d1/gのポリアミドイミド樹脂溶液が得られるように、この温度で2時間反応させた後、ポリアミドイミド樹脂100質量部に対し、溶媒成分300質量部となるように溶剤希釈にて作製した。
【0036】
実施例1〜7は、図1で説明した絶縁電線10であって、導体1上に本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(表1に示した高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を塗布・焼き付けしてポリアミドイミド皮膜2(下層)を形成した絶縁電線としたものである。実施例8は、図3で説明した絶縁電線30であって、導体1上に絶縁皮膜3として高密着性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜3(下層)を形成し、その高密着性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜3上に、本発明のポリアミドイミド絶縁塗料(表1に示した高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を塗布・焼き付けしてポリアミドイミド皮膜2(中層)を形成し、さらにそのポリアミドイミド皮膜2上に自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼き付けし、絶縁皮膜4(上層)を形成して絶縁電線30としたものである。実施例9は、図2で説明した絶縁電線20であって、導体1上に高密着性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜3(下層)を形成し、その高密着性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜3上に本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(表1に示した高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を塗布・焼き付けし、ポリアミドイミド皮膜2(上層)を形成して絶縁電線20としたものである。実施例10は、導体1上に本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(表1に示した高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を塗布・焼き付けし、ポリアミドイミド皮膜(下層)を形成し、そのポリアミドイミド皮膜上にポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼き付けし、絶縁皮膜(上層)を形成して絶縁電線としたものである。
【0037】
比較例1〜5は、導体上に表2に示した組成のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼き付けし、絶縁皮膜(下層)を形成した絶縁電線である。比較例6は、高密着性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼き付けして絶縁皮膜(下層)を形成し、その皮膜上に表2に示したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布焼き付けし、ポリアミドイミド樹脂の絶縁皮膜(中層)を形成し、さらに自己潤滑性ポリアミドイミド樹脂を塗布・焼き付けして絶縁皮膜(上層)を形成した絶縁電線である。比較例7は、高密着性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布・焼き付けし、絶縁皮膜(下層)を形成し、その皮膜上に表2に示したポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布焼き付けしてポリアミドイミド樹脂の絶縁皮膜(上層)を形成した絶縁電線である。比較例8は、表2に示した組成のポリアミドイミド樹脂の絶縁皮膜(下層)を形成し、その皮膜上にポリアミドイミド樹脂を塗布・焼き付けして絶縁皮膜(上層)を形成した絶縁電線である。
【0038】
実施例1〜10及び比較例1〜8における、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の性状、ポリアミドイミド皮膜の伸び率、得られた絶縁電線の一般特性について、JISC 3003に準拠して評価した結果を表1、表2に示す。なお、ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料の性状、ポリアミドイミド皮膜の伸び率について、実施例1〜7、10、および比較例1〜5,8においては下層、実施例8、および比較例6においては中層、実施例9、および比較例7においては上層を評価した。
【0039】
また、絶縁電線の耐プレス成形性は、ハードクロムメッキ及び鏡面研磨を施した金属プレートを2枚備えた成形治具をもちいて、プレス機により絶縁電線のプレス成形を行った。そのプレス成形時の変形量は0.334mm(変形率40%)、0.430mm(変形率50%)、0.516mm(変形率60%)とした。その後、プレス成形した後の絶縁電線の絶縁破壊電圧を測定した。絶縁破壊電圧はプレス成形した絶縁電線をグリセリンと飽和食塩水の混合溶液中に浸漬し、商用周波数の電圧を印加し、500V/秒ずつ電圧を上昇させ、電流が10mAになったときを絶縁破壊とみなし、絶縁破壊電圧を測定した。
【0040】
(実施例1)
イソシアネート成分として12.5g(0.05モル)の2,4’−MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)と237.5g(0.95モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0041】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0042】
(実施例2)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと200.0g(0.80モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0043】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0044】
(実施例3)
イソシアネート成分として125.0g(0.50モル)の2,4’−MDIと125.0g(0.50モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0045】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚30μmのエナメル線を得た。
【0046】
(実施例4)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと139.2g(0.80モル)のTDI、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと21.8g(0.1モル)のPMDA及び溶剤として900gのNMPを投入し、合成を行った後、250gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0047】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0048】
(実施例5)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと150.0g(0.60モル)の4,4’−MDI、25.2g(0.10モル)のEDI、21.0g(0.10モル)のNDI、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと32.2g(0.1モル)のBTDA及び溶剤として1050gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0049】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚30μmのエナメル線を得た。
【0050】
(実施例6)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと200.0g(0.80モル)の4,4’−MDI、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと32.2g(0.1モル)のBTDA及び溶剤として1050gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0051】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0052】
(実施例7)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと200.0g(0.80モル)の4,4’−MDI、酸成分として153.6g(0.8モル)のTMAと62.0g(0.2モル)のODPA及び溶剤として1050gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0053】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0054】
(実施例8)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと200.0g(0.80モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0055】
0.8mmの銅導体上に、各種ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、3層合計の皮膜厚が31μmのエナメル線を得た。構造は下層に高密着ポリアミドイミド皮膜、中間層に上記高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜、上層に自己潤滑性ポリアミドイミド皮膜とした。
【0056】
(実施例9)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MDIと200.0g(0.80モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0057】
0.8mmの銅導体上に、各種ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、2層合計の皮膜厚が30μmのエナメル線を得た。構造は下層に高密着ポリアミドイミド皮膜、上層に上記高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜とした。
【0058】
(実施例10)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の2,4’−MD1と200.0g(0.80モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料(高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料)を得た。
【0059】
0.8mmの銅導体上に、各種ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、2層合計の皮膜厚が30μmのエナメル線を得た。構造は下層に上記高柔軟性ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜、上層に一般的なポリアミドイミド皮膜とした。
【0060】
(比較例1)
イソシアネート成分として250.0g(1.00モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0061】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚
31μmのエナメル線を得た。
【0062】
(比較例2)
イソシアネート成分として5.0g(0.02モル)の2,4’−MDIと245.0g(0.98モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0063】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0064】
(比較例3)
イソシアネート成分として175.0g(0.70モル)の2,4’−MDIと75.0g(0.30モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMP、反応触媒としてジメチルイミダゾール2.2gを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0065】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚30μmのエナメル線を得た。
【0066】
(比較例4)
イソシアネート成分として50.0g(0.20モル)の4,4’−MDIと139.2g(0.80モル)のTDI、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと21.8g(0.1モル)のPMDA及び溶剤として900gのNMPを投入し、合成を行った後、250gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0067】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚30μmのエナメル線を得た。
【0068】
(比較例5)
イソシアネート成分として250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、酸成分として172.8g(0.9モル)のTMAと32.2g(0.1モル)のBTDA及び溶剤として1050gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0069】
上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を0.8mmの銅導体上に塗布、焼付けし、皮膜厚31μmのエナメル線を得た。
【0070】
(比較例6)
イソシアネート成分として250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0071】
0.8mmの銅導体上に、各種ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、3層合計の皮膜厚が31μmのエナメル線を得た。構造は下層に高密着ポリアミドイミド皮膜、中間層に上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜、上層に自己潤滑性ポリアミドイミド皮膜とした。
【0072】
(比較例7)
イソシアネート成分として250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0073】
0.8mmの銅導体上に、各種ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、2層合計の皮膜厚が30μmのエナメル線を得た。構造は下層に高密着ポリアミドイミド皮膜、上層に上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜とした。
【0074】
(比較例8)
イソシアネート成分として250.0g(1.0モル)の4,4’−MDI、酸成分として192.0g(1.0モル)のTMA及び溶剤として1000gのNMPを投入し、合成を行った後、300gのDMFで希釈し、樹脂分濃度25質量%のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を得た。
【0075】
0.8mmの銅導体上に、各種ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布、焼付けし、2層合計の皮膜厚が30μmのエナメル線を得た。構造は下層に上記ポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなる絶縁皮膜、上層に一般的なポリアミドイミド皮膜とした。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
表1に示されたように、実施例1〜実施例10で得られたエナメル線としての絶縁電線の特性はポリアミドイミド皮膜の伸び率が良好であり、耐プレス成形性も非常に良好であった。
【0079】
すなわち、実施例1〜10で得られた絶縁電線では、本発明のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなるポリアミドイミド絶縁皮膜が良好な柔軟性を有することによって耐プレス成形性に優れる結果となったと考えられる。
【0080】
これに対し、表2に示すように比較例1は、4,4’−MDI/TMAを等モルで合成した一般的なポリアミドイミド皮膜を有する絶縁電線であるが、ポリアミドイミド皮膜の伸び率、耐プレス成形性が実施例1〜10よりも劣っている。
【0081】
比較例2は、2,4’−MDIの配合量(0.02モル)が少なすぎるため、ポリアミドイミド皮膜の伸び率、耐プレス成形性の向上効果が出ておらず、2,4’−MDIの配合量(0.70モル)が多い比較例3は、反応触媒を使っても還元比粘度の上昇が少なく、分子量が上がっていないため、ポリアミドイミド皮膜の伸び率、耐プレス成形性の向上効果が少なかったと推測される。
【0082】
よって、イソシアネート成分として、屈曲構造を有する2,4’−MDIの配加量は、5〜50モル%がよい。
【0083】
その他の比較例4〜8は、屈曲構造を有する2,4’−MDIを使用しないためポリアミドイミド皮膜の伸び率、耐プレス成形性が悪い結果となっている。
【0084】
また、実施例1〜10において、比較例に示す従来のポリアミドイミド皮膜を有する絶縁電線(例えば、比較例1、4〜8)と比べて、可とう性、耐摩耗性、密着性、熱劣化性は同等の特性を有することが判る。
【0085】
特に可とう性においては、実施例1〜10の方が、伸長された場合であっても優れていることが判る。すなわち、実施例1〜10で得られた絶縁電線は、良好な柔軟性を有するものである。
【符号の説明】
【0086】
1 導体
2 ポリアミドイミド皮膜
10 絶縁電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤中でイソシアネート成分と酸成分とを合成反応させてなり、導体上にポリアミドイミド皮膜を形成するためのポリアミドイミド樹脂絶縁塗料において、
前記イソシアネート成分は、分子中に屈曲構造を有するイソシアネートが2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからなり、前記2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを5〜50モル%の範囲で含み、
前記ポリアミドイミド皮膜の伸び率が71%以上であることを特徴とするポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項2】
前記イソシアネート成分は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルエーテルジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートのうち少なくとも1種からなる請求項1に記載のポリアミドイミド樹脂絶縁塗料。
【請求項3】
導体上に、溶剤中でイソシアネート成分と酸成分とを合成反応させてなるポリアミドイミド樹脂絶縁塗料を塗布して形成されたポリアミドイミド皮膜を有する絶縁皮膜が形成されている絶縁電線において、
前記ポリアミドイミド皮膜は、分子中に屈曲構造を有するイソシアネートが2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートからなり、前記2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを前記イソシアネート成分中5〜50モル%の範囲で含むポリアミドイミド樹脂絶縁塗料からなり、
前記ポリアミドイミド皮膜の伸び率が71%以上であることを特徴とする絶縁電線。
【請求項4】
前記絶縁皮膜は、圧縮変形したときの外径の変形率が50%以下であるときに、変形前の絶縁破壊電圧の60%以上の絶縁破壊電圧を有する請求項3に記載の絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−251155(P2012−251155A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−167882(P2012−167882)
【出願日】平成24年7月30日(2012.7.30)
【分割の表示】特願2010−187762(P2010−187762)の分割
【原出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(591039997)日立マグネットワイヤ株式会社 (63)
【Fターム(参考)】