説明

ポリアミドモノフィラメントおよび工業用織物

【課題】MXD6を構成素材として含有するポリアミドモノフィラメントの耐熱性を改善し、さらには優れた線径精度および高い屈曲耐久性能を実現するとともに、曲げ剛性に優れるポリアミドモノフィラメントとなすことで、工業用織物の構成素材として好適に使用し得るポリアミドモノフィラメントおよびこれを使用した工業用織物を提供する。
【解決手段】メタキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分と、アジピン酸を主体とするジカルボン酸成分の重縮合反応によって得られるポリアミドAおよびその他のポリアミドBとからなり、前記ポリアミドAと前記ポリアミドBとの硫酸相対粘度差が1.2以内で、かつ前記ポリアミドA90〜55重量%と、前記ポリアミドB10〜45重量%との合計100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.01〜5重量部を含有するポリアミド組成物からなるポリアミドモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐熱性および線径精度を有するとともに、優れた屈曲耐久性能をも兼ね備えた工業用織物用資材として有用なポリアミドモノフィラメント、およびこのポリアミドモノフィラメントを少なくとも一部に使用した工業用織物、特に抄紙用織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドモノフィラメントは、抄紙ワイヤー、ドライヤーカンバスなどの抄紙用織物、コンベヤベルトや脱水ベルトなどのベルト用織物、および各種ベルトプレス用フィルターなどのフィルター用織物などの各種工業用織物の素材として広く用いられている。
【0003】
また、これら工業用織物は、実際に使用される場合に、いずれも走行中の駆動ロールや制御ロールなどに接触して摩耗を受けることから、織物用途に使用されるモノフィラメントには、優れた耐摩耗性が要求されている。
【0004】
例えば、製紙業界においては、従来から酸性紙が主として製造されていたが、紙の経日劣化の問題が顕著となるにしたがい、中性紙への転換が盛んに行われるようになってきており、この酸性製紙から中性製紙への転換にともない、填料と呼ばれる紙への充填剤が、タルクから炭酸カルシウムに変更されたが、炭酸カルシウム粒子はタルク粒子に比較して硬いため、抄紙工程において使用される抄紙ワイヤーの摩耗がはやく、係る用途で従来から一般的に使用されてきたポリエステルモノフィラメントからなる織物などでは、寿命が短いという欠点があった。
【0005】
そこで、ポリエステルモノフィラメントと、それよりも耐摩耗性に優れたナイロン6などのポリアミドモノフィラメントとを交織することによる工業用織物の摩耗寿命の改良が図られてきた。
【0006】
ここで、一般的な製紙用織物においては、使用中の織物の安定性と、使用寿命延長の観点から、走行面の織物経糸が耐摩耗性向上の課題となっていた。つまり、経糸が摩耗すると織物の寸法変化が生じ、さらに経糸が摩耗切断すると織物自体が直接切断してしまうため、織物としての寿命が短くなるからである。
【0007】
したがって、このような耐摩耗性を改良するために、経糸にポリエステルモノフィラメントを用い、緯糸の全部または一部に耐摩耗性の優れたポリアミドモノフィラメントを用いて交織することにより、経糸が摩耗しないように工夫していたのである。
【0008】
さらに昨今の製紙業界では、抄紙速度の高速化が進んできているが、こうした抄紙速度の高速化に伴う抄紙機稼動時のエネルギー損失改善を目的として、抄紙用織物の軽量化による抄紙機稼動時の省エネ化が進められており、こうした背景から、これら抄紙用織物に用いられる各種モノフィラメントに代表される繊維製品に対しても、織物の軽量化を図る手段として、その構成素材として用いられる繊維製品の細径化が求められるようになってきている。
【0009】
係る実状に応じて、これら高速抄紙に用いられる抄紙用織物の構成素材となるポリアミドモノフィラメントについても、従来に比べ細径のモノフィラメントが用いられるようになってきているが、ポリアミドモノフィラメントは、樹脂素材の特徴として耐摩耗性能には富むものの、一方で柔軟であるという特徴を有することから、ポリエステル系モノフィラメントと比較し、寸法安定性や織物剛性、また織物の経糸と緯糸が交差する所謂ナックル部の目ズレなどの安定度に欠けるなどの不具合があることから、細径のポリアミドモノフィラメントの使用に際しては、特に、モノフィラメントの曲げに対する剛性が不足することになるため、その使用が躊躇される場合があった。
【0010】
さらに、ポリアミドモノフィラメントは、ポリエステル系モノフィラメントに比べて、耐熱性能が劣るため、織物製織後の熱セット加工時に熱により糸質が低下するという問題を抱えているばかりか、熱によってポリアミド樹脂が脆化してしまい、耐摩耗性が悪化し耐久寿命が短くなること、また、熱の影響によりモノフィラメントが割れて通気性が落ちるため、織物としての機能が低下することなどの問題があるため、高速抄紙にも耐え得る抄紙用織物に用いることができ、従来のポリアミドモノフィラメントよりも曲げ剛性に優れるとともに、高い耐熱性をも有する細径のポリアミドモノフィラメントの開発が強く求められていた。
【0011】
上述したような課題を解決するために、従来から種々の提案がなされてきた。
【0012】
例えば、ポリアミドモノフィラメントの耐熱性改善については、耐熱性の丸断面モノフィラメントにおいて、ナイロン66を75〜85重量%およびナイロン6を15〜25重量%の割合で混合紡糸し、かつ液体中で直ちに冷却するに際し、ナイロン66中に少なくとも30ppmのCuを添加して耐熱化する方法(例えば、特許文献1参照)が提案されているが、この技術で得られるポリアミドモノフィラメントの耐熱性は、相応の効果は発揮するものの、Cuの添加によって、ポリアミドモノフィラメントが銅イオンの影響で経時的に青黒く変色すること、およびCuの影響で紡糸中に糸切れが生じることなどの問題があった。
【0013】
また、ポリアミド樹脂100重量部に対し、ヒドロキシフェニルプロピオン酸エステルとヒドロキシ基を有する環状亜リン酸エステルとの合計量0.005〜1重量部を含有させたポリアミド樹脂組成物から得られるフィルムやモノフィラメント(例えば、特許文献2参照)が提案されている。しかしながら、この技術はポリアミド樹脂組成物からなるモノフィラメントの耐熱性改善に関する技術では有あるものの、その目的とするところは、溶融紡糸時のポリアミド樹脂組成物の熱安定性向上にあって、また、当該技術で得られる製品は、熱水中や水蒸気中での耐熱性を意図していることから、抄紙用織物の製造工程における熱セット温度である160℃を越すような高い温度での耐熱性能の点からは、依然として不十分なものであった。
【0014】
さらに、ポリアミドモノフィラメントの耐熱性改善に関する技術として、カプロアミド単位(ナイロン6単位)とヘキサメチレンアジパミド単位(ナイロン66単位)とからなるナイロン6/66共重合体100重量部に対し、ヒンダードフェノール系化合物0.05〜1重量部およびビスアミド系化合物0.1〜0.5重量部を添加した組成物からなる、耐熱性および耐摩耗性を改善したポリアミドモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、この技術によれば、耐熱性に優れるポリアミドモノフィラメントの実現は可能となるものの、高速抄紙機に用いられる抄紙用織物用途のポリアミドモノフィラメントとしては、その構成素材がナイロン6/66共重合体であるために柔軟であり過ぎ、剛性の不足した織物しか得られないため、昨今求められている曲げ剛性に優れるポリアミドモノフィラメントとしては不十分なものとなってしまうのが実情であった。
【0015】
一方、ポリアミド樹脂の持つ耐摩耗性能を活かしつつ、曲げ剛性を改善したポリアミドフィラメントの技術としては、メタキシレンジアミンとアジピン酸の重縮合反応から得られた結晶性のポリアミド(A)5〜50重量%と、その他のポリアミド(B)95〜50重量%とを配合してなるポリアミド樹脂組成物からなるフィラメントであって、定長状態で加熱後80℃以下での降温領域で熱収縮応力が低下しない工業用織物用のポリアミド樹脂フィラメント(例えば、特許文献4参照)が提案されている。この技術で得られるポリアミドフィラメントは、従来からあるポリアミド系フィラメントと比較して、曲げ剛性の観点からは優れた技術であるといえるが、抄紙用織物などに求められる耐熱性の向上については全く勘案されていないばかりか、工業用織物の表面平滑性を左右する優れた線径精度を有するフィラメントを実現する技術としては、未だ不十分な技術であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特公表2001−518152号公報
【特許文献2】特開2002−121380号公報
【特許文献3】特開2002−69748号公報
【特許文献4】特開2006−144144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、以上のような状況を鑑み、従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、その目的とするところは、ポリアミドモノフィラメントの耐熱性を改善し、高温の乾熱条件下で熱履歴を受けた場合でも、熱劣化による強度低下が極めて少なく、また、優れた線径精度ならびに屈曲耐久性能の実現により、工業用織物の構成素材として好適に使用し得る、従来からあるポリアミドモノフィラメントよりも曲げ剛性の優れるポリアミドモノフィラメントおよびこれを使用した工業用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため本発明によれば、メタキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分と、アジピン酸を主体とするジカルボン酸成分の重縮合反応によって得られるポリアミドAおよびその他のポリアミドBとからなり、前記ポリアミドAと前記ポリアミドBとの硫酸相対粘度差が1.2以内で、かつ前記ポリアミドA90〜55重量%と、前記ポリアミドB10〜45重量%との合計100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.01〜5重量部を含有するポリアミド組成物からなるポリアミドモノフィラメントであって、180℃の乾熱雰囲気下で4時間の処理をした際のポリアミドモノフィラメントの強力保持率が未処理のポリアミドモノフィラメントの強力に対し70%以上、繊維軸方向に測定したモノフィラメントの平均直径に対する直径変動率が10%以下、屈曲疲労破断回数が5000回以上、屈曲摩耗破断回数が10000回以上の特性を同時に満足することを特徴とするポリアミドモノフィラメントが提供される。
【0019】
ここで、本発明のポリアミドモノフィラメントにおいては、前記ポリアミドBが、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、およびナイロン6/66共重合体から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することにより、一層優れた耐熱性および優れた線径精度を有するとともに、屈曲耐久性に優れるポリアミドモノフィラメントの取得を可能とする。
【0020】
また、本発明の工業用織物は、上記ポリアミドモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、本発明のポリエアミドモノフィラメントの優れた耐熱性や線径精度ならびに屈曲耐久性などの特性を十分に発揮することにおいて、細径のポリアミドモノフィラメントとした場合においても、従来のポリアミド系モノフィラメントよりも十分な曲げ剛性の達成が可能となることから、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、抄紙プレスフェルトもしくはフィルターなどの工業用織物の軽量化が実現でき、優れた耐熱性および耐久性を有する工業用織物の取得を可能にすることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、以下に説明する通り、種々のポリアミド樹脂を構成素材とする従来からあるポリアミドモノフィラメントに比較して、極めて優れた耐熱性を有するばかりか、優れた線径精度や屈曲耐久性をも兼ね備えるポリアミドモノフィラメントが得られる。したがって、本発明のポリアミドモノフィラメントは、工業用織物、中でも特に抄紙用織物の構成素材として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0023】
本発明のポリアミドモノフィラメントは、メタキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分と、アジピン酸を主体とするジカルボン酸成分の重縮合反応によって得られるポリアミドAおよびその他のポリアミドBを、ポリアミドA:90〜55重量%と、その他のポリアミドB:10〜45重量%の割合で混合し、その合計100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤を0.01〜5重量部含有させたポリアミド組成物からなることを特徴とする。
【0024】
また、本発明のポリアミドモノフィラメントを構成するポリアミドAとポリアミドBについては、測定した硫酸相対粘度の差が1.2以下であることが必須であり、これら特性と同時に、180℃の乾熱雰囲気下で4時間の処理をした際のポリアミドモノフィラメントの強力保持率が未処理のポリアミドモノフィラメントの強力に対し70%以上、繊維軸方向に測定したモノフィラメントの平均直径に対する直径変動率が10%以下、さらに屈曲疲労破断回数が5000回以上、屈曲摩耗破断回数が10000回以上であることを特徴とする。
【0025】
ここで、本発明のポリアミド組成物を構成するポリアミドAとは、メタキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分と、アジピン酸を主体とするジカルボン酸成分の重縮合反応によって得られる芳香族ポリアミド樹脂であり、一般には、ポリアミドMXD6樹脂と呼ばれるポリアミド樹脂のことである(以下、メタキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分と、アジピン酸を主体とするジカルボン酸成分の重縮合反応で得られる芳香族ポリアミド樹脂をMXD6という)。
【0026】
本発明のポリアミドAを構成するMXD6は、ジアミン成分のメタキシリレンジアミンが60モル%以上で構成されるものが好ましく、また、ジカルボン酸成分としては、アジピン酸を主体とするが、その他のジカルボン酸成分として、セバシン酸、ドデカン酸、スベリン酸、ウンデカン酸などを用い、重縮合反応して得られたMXD6であっても好ましく使用可能である。
【0027】
また、本発明で用いるポリアミドBは、例えば、各種ラクタム類の開環重合、各種ジアミン類と各種ジカルボン酸類との重縮合および各種アミノカルボン酸類の重縮合によって得られる各種ポリアミド類、およびこれらの重縮合と開環重合とを組み合わせた共重合ポリアミド類であり、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6/12共重合体(ε−カプロラクタムとラウロラクタムとの共重合体)およびナイロン6/ナイロン66共重合体(ε−カプロラクタムとヘキサメチレンジアミン・アジピン酸のナイロン塩との共重合体)などを挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではなく、また、これらのポリアミドを2種類以上混合してポリアミドBとして使用することも可能である。
【0028】
そして、上記ポリアミド樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体のいずれか1種または2種以上の混合物が、得られるポリアミドモノフィラメントの破断強度や屈曲耐久性の点から好ましく用いられ、これらの中でも特に、ナイロン6、ナイロン66やナイロン6/66共重合体が、高強度かつ高い引掛強度ならびに優れた屈曲耐久性の実現の上から望ましい。
【0029】
ここで、本発明のポリアミドモノフィラメントは、前記ポリアミドAとポリアミドBの混合比率が、ポリアミドA:ポリアミドB=90〜55重量%:10〜45重量%の範囲で混合してなることが肝要であり、さらにポリアミドA:ポリアミドB=80〜70重量%:20〜30重量%、より好ましくは、ポリアミドA:ポリアミドB=70〜60重量%:30〜40重量%の範囲とした場合、得られるポリアミドモノフィラメントの耐久性向上がより一層顕著となるため好ましい。
【0030】
なお、本発明でいう耐久性とは、JIS P−8115に準じた、MIT屈曲疲労試験機により測定したポリアミドモノフィラメントの切断までに要する屈曲疲労破断回数や、JIS2008 L1095 9.10.2 B法に準じた屈曲摩耗特性試験機によって測定したポリアミドモノフィラメントの屈曲摩耗破断回数などによって評価した特性であり、本発明のポリアミドモノフィラメントにおいては、屈曲疲労破断回数が5000回以上、屈曲摩耗破断回数10000回以上の特性を同時に満足することを特徴とし、これら屈曲耐久性を同時に満たすことによって、工業用織物として用いた場合、優れた織物耐久性を発揮することに繋がる。
【0031】
本発明のポリアミドモノフィラメントは、前述したポリアミドAおよびポリアミドBの合計100重量部に対し、フェノール系抗酸化剤を0.01%〜5重量部含有することを特徴とする。
【0032】
ここで、本発明で使用可能なフェノール系酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードタイプ、セミヒンダードタイプ、また、レスヒンダードタイプの化合物などがあるが、中でもフェノールの−OH基の両側のオルト位に−C(CH基が2個付いたヒンダードフェノール系酸化防止剤の使用が好ましい。
【0033】
このヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル・テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルフォスフォネート−ジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウム、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノールおよび2,6−ジ−t−ブチル−P−クレゾールなどが挙げられ、特にN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)であるイルガノックス1098(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製、登録商標)は、容易に入手が可能であることからも、特に好ましく使用することができ、本発明では、これらフェノール系酸化防止剤をポリアミドAおよびポリアミドBの合計100重量部に対し0.01〜5重量部含有させることで、飛躍的な耐熱性向上効果が発現し、本発明の特徴である180℃の乾熱雰囲気下で4時間処理した後のポリアミドモノフィラメントの強力保持率が、未処理のポリアミドモノフィラメントの強力に対し70%以上の優れた耐熱性を発現することに繋がる。
【0034】
なおここで、フェノール系酸化防止剤の含有率を0.05〜3重量部、さらには0.1〜2重量部とした場合には、モノフィラメントの強度低下の抑制や線径精度のさらなる向上などのより好ましい効果の発現に繋がるが、フェノール系酸化防止剤の含有率が本発明の範囲外となる0.01%未満では、所望とする耐熱性の発現効果が小さく、耐熱性の不足するポリアミドモノフィラメントしか得られない。また、含有率が高すぎる場合は、ポリアミドモノフィラメントの線径精度の低下を招くばかりか、溶融紡糸を行う際に、原料の押出し特性が不安定となり溶融ポリマの吐出不能状態となったり、添加率が多すぎるフェノール系酸化防止剤の影響で、溶融ポリマが変色を来たしやすくなったりするなどの不具合を招くことに繋がる。
【0035】
本発明のポリアミド組成物を構成するポリアミドAおよびポリアミドBは、JIS K6810に準じ、2.5gのポリアミド系樹脂試料を2.5ccの98%硫酸に溶解、温度25℃の条件下でオストワルド粘度計を使用して測定した硫酸相対粘度(以下、単に相対粘度とう)が2〜5程度のものが好ましく使用できるが、本発明で使用するポリアミドAとポリアミドBとの相対粘度差は、1.2以下であることが重要である。
【0036】
すなわち、本発明のポリアミドモノフィラメントは、繊維軸方向に測定したモノフィラメントの平均直径に対する直径変動率が10%以下であることを特徴とするが、ここで、ポリアミドAとポリアミドBの相対粘度差が1.2以上と大きい場合には、相対粘度差の大きいポリアミド樹脂の溶融紡糸を行うエクストルダーなどの紡糸機に供給し溶融混練後、紡糸機先端に設けた口金ノズルから押出す際に、紡糸機内において溶融混練状態が均一化せずに、口金ノズルから押出す溶融ポリマの吐出状態が極めて不安定となり、優れた線径精度を有するポリアミドモノフィラメントの製造が困難となるばかりか、溶融ポリマの押出し状態が極度に悪化する結果、太細状態での吐出状態となることに起因する溶融ポリマの引き取り不能状態や延伸切れなどの操業性不良を来たす結果を招いたり、所望とするモノフィラメントの平均直径に対して、繊維軸方向の極短い長さで直径増大変動異常部(以下、コブ糸という)が多数発生する結果を招いたりするなど、極めて好ましくない結果に繋がるからである。
【0037】
なお、本発明のポリアミドモノフィラメントにおいては、その特性を阻害しない範囲であれば、種々の目的に応じて、酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、カーボンブラックなどの各種無機粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか、従来公知の金属イオン封鎖剤、イオン交換剤、着色防止剤、耐光剤、帯電防止剤、各種着色剤、ワックス類およびシリコーンオイルなどが添加されていてもよい。
【0038】
上記の構成からなる本発明のポリアミドモノフィラメントは、優れた耐熱性能を有すると共に、工業用織物をはじめ、抄紙工程に用いられる織物を構成するポリアミドモノフィラメントに求められる優れた線径精度を有することから、各種工業用繊維材料や織物に好適に利用できるものであり、さらに優れた屈曲耐久性能をも兼ね備えることから、特にこれを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した工業用織物は、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、抄紙プレスフェルトもしくはフィルターなどとして非常に好ましいものである。
【0039】
また、本発明のポリアミドモノフィラメントは、その用途や特性を満足させるため、繊維軸方向に垂直な断面の形状を円形、楕円形、扁平、正多角形および不定形な形状を含む多角形といかなる形状をも取り得るものであり、必要に応じて複合繊維であってもよい。
【0040】
なお、ここでいう扁平とは楕円もしくは長方形のことを意味するが、数学的に定義される正確な楕円、長方形以外に概ね楕円、長方形またはこれに類似した形状を含み、正多角形とは数学的に定義される正多角形以外に、概ねこれに類似した形状を含むものである。
【0041】
また、本発明のポリアミドモノフィラメントの直径は、その使用用途に合わせ適宜選択することができるが、通常は0.05〜5mm程度の範囲のものが好適に使用され、これらポリアミドモノフィラメントの引張破断強度としては2.5cN/dtex以上であれば、工業用織物用途のポリアミドモノフィラメントとして好ましい効果の発現が期待できる。
【0042】
次に、本発明のポリアミドモノフィラメントの製造方法としては、従来公知の方法にて製造が可能である。
【0043】
例えば、本発明のポリアミドAとポリアミドBを所望の混合比率で事前に計量混合したポリアミド混合物に対し、ポリアミドモノフィラメントの溶融紡糸工程で、フェノール系酸化防止剤を粉末状、スラリー状などの状態で添加する方法、溶融紡糸を行う紡糸機へ原料を供給する前に、自動計量混合機を用いポリアミドAおよびポリアミドBおよびフェノール系酸化防止剤を計量混合する方法などが挙げられる。
【0044】
その他、フェノール系酸化防止剤が、あらかじめ必要量ブレンド添加されたポリアミドAおよび/またはポリアミドBを用いる方法、フェノール系酸化防止剤をポリアミドAやポリアミドBに所望の配合比で事前に溶融混合したポリアミドAマスターバッチ(以下、マスターバッチはMBという)および/またはポリアミドB−MBとして添加する方法など、いかなる添加方法であっても、フェノール系酸化防止剤の配合率が本発明の範囲内になるように調整をすれば、必要十分な耐熱性向上効果の発揮が可能となる。
【0045】
なおここで、原料の取り扱いや生産効率の観点からは、フェノール系酸化防止剤をポリアミドAまたはポリアミドBに高濃度で配合させたポリアミドMBとして添加することがより好ましい。
【0046】
次いで、上記、ポリアミドA、ポリアミドBおよびフェノール系酸化防止剤を適宜所望の混合比で混合したポリアミド組成物を用い、エクストルダーなどの紡糸機で溶融混練後、溶融ポリアミドポリマを紡糸機先端に設けられた紡糸口金ノズルから押出し、公知の方法で冷却、延伸、熱セットを行なうことにより、本発明のポリアミドモノフィラメントを効率よく製造することができる。
【0047】
かくしてなる本発明のポリアミドモノフィラメントは、従来のポリアミドモノフィラメントにはない優れた耐熱性を有すると共に、優れた線径精度をも具備し、また、MXD6を構成素材とすることによって、細径のポリアミドモノフィラメントとした場合でも、従来のポリアミドモノフィラメントには無い十分な曲げ剛性を有することから、工業用織物用の構成素材として好適に利用することができ、中でも高い耐熱性や優れた線径精度に加え、優れた屈曲耐久性能を有することから、これを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用した工業用織物は、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、抄紙プレスフェルトもしくはフィルターなどとして極めて優れた特性を発揮するものであるといえる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明のポリアミドモノフィラメントの実施例に関しさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
また、上記および下記に記載の本発明のポリアミドモノフィラメントにおける、ポリアミドの硫酸相対粘度、屈曲疲労特性試験、屈曲摩耗特性試験、直径変動率、乾熱処理後のポリアミドモノフィラメントの強力保持率および製糸性などの評価は以下の方法により測定、評価したものである。
【0050】
(1)硫酸相対粘度(ηr)
JIS K6810に準じて、2.5gのポリアミド系樹脂試料を2.5ccの98%硫酸に溶解し、温度25℃の条件下でオストワルド粘度計を使用して測定した。
【0051】
(2)屈曲疲労特性試験
JIS P−8115に準じ、東洋精機(株)製:MIT耐揉疲労試験機により、荷重2.2cN/dtex、折り曲げ回数175回/分、折り曲げ角度270度(左右に各約135度)およびモノフィラメントを挟む折り曲げコマにおける左右の折り曲げ面の曲率半径各々0.38±0.02mmの条件で、同一試料につき10本のモノフィラメントについて夫々切断するまでの往復折り曲げ回数を測定して平均値を求めた。
【0052】
(3)屈曲摩耗特性試験
JIS2008 L1095 9.10.2 B法に準じた屈曲摩耗特性試験機によって測定した。すなわち、固定された直径1.0mmの摩擦子(硬質鋼線(SWP−A))の上に接触させたモノフィラメントを該モノフィラメントが摩擦子の左右各55°の角度で屈曲するように設けられた2個のフリーローラー(2個のローラー間の距離100mm)の下に掛け、さらに別の1個のフリーローラーの上を介して、モノフィラメントの一端に0.196cN/dtexの荷重をかけてセットし、速度120往復/分かつ往復ストローク25mmでポリエステルモノフィラメントを摩擦子に往復接触させ、ポリアミドモノフィラメントが破断するまでの回数を測定した。
【0053】
(4)平均直径(mm)
モノフィラメントサンプルを50mの綛状に取り、試料長100cmにカット(50本)する。ここから任意に20本のサンプルを取りだし、アンリツ(株)レーザー外径測定機KL15Xシリーズ(検出部:KL151A、表示部:KL350A)を用いてポリアミドモノフィラメントの直径を各々計測、その平均値を平均直径とした。
【0054】
(5)モノフィラメント直径変動率(%)
アンリツ(株)レーザー外径測定機KL15Xシリーズ(検出部:KL151A、表示部:KL350A)を用い、モノフィラメントを50m/分の速度で走行させて10分間外径測定を行い、横河電気(株)製レコーダーLR4220にて線径チャート(直径斑)を記録した。この線径記録チャートから測定モノフィラメントサンプルの直径の最大値と最小値を求め、その差A(最大値−最小値:単位mm)を算出し、上記平均直径測定で求めたモノフィラメントの平均直径に対するバラツキを直径変動率とした。なお、直径変動率の算式は直径変動率(%)=(A÷平均直径)×100であり、直径変動率が少ないほど、均一な線径を有するモノフィラメントであることを示す。
【0055】
(6)乾熱処理後強力保持率(%)
50cmカットのモノフィラメントサンプルを束ね、タバイエスペック(株)製ギヤオーブンGPHH−101を用い、180℃の温度条件で4時間の乾熱処理を行なう。
【0056】
乾熱処理後のモノフィラメントサンプル10本について、JIS2008 L1013 8.5項に準じて(株)オリエンテック社製”テンシロン”UTM−4−100型引張試験機を用い、試長:250mm、引張速度:300mm/分の条件で引張強力を測定し平均値を算出した。同様の条件にて、乾熱処理前のサンプル10本の引張強力を測定し平均値を算出、これら平均値から乾熱処理前後のモノフィラメントの強力保持率を算出した。なお、算式は乾熱処理後強力保持率(%)=(乾熱処理後のモノフィラメントの強力÷乾熱処理前のモノフィラメントの強力)×100であり、強力保持率が高いほど、熱的に安定した、優れた耐乾熱性を有するモノフィラメントであることを示す。
【0057】
(7)製糸性(操業性)
24時間の連続紡糸を行い、以下の基準で判定した。
○(良好)…原料の噛込み不良や溶融押出し不良による製糸不能状態や製糸中の糸切れが全くない、また、モノフィラメント平均直径に対して、+10%を超えるようなコブ糸の発生が10回/トン未満であった。
なお、コブ糸の回数は、紡糸押出し総ポリマ重量(kg)/1000kg×コブ糸回数にて算出した。
×(不良)…原料の噛込み不良や溶融押出し不良による製糸不能状態になる、または製糸中に糸切れが発生する、またコブ糸が10回/トン以上発生した、の2基準で評価した。
【0058】
[実施例1]
ポリアミドAとして、相対粘度3.88のMXD6(三菱ガス化学(株)製ナイロンMXD6 S6121)を60重量%、ポリアミドBとして相対粘度4.46のナイロン6(東レ(株)製M1041)を40重量%の合計100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤としてN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(チバ・スペシャリティケミカルズ(株)社製 イルガノックス1098)を0.5重量部混合したポリアミド組成物を準備した。
【0059】
このポリアミド組成物をエクストルダー型紡糸機に供給し、290℃の温度で溶融混練、紡糸ノズルから押し出した後、直ちに50℃の温水中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0060】
引き続き、上記未延伸糸を常法に従って、トータル延伸倍率4.5倍に延伸、熱セットを行い、平均直径0.25mmのポリアミドモノフィラメントを得た。
【0061】
得られたポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回数、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表1に示す。
【0062】
[比較例1]
実施例1で用いたものと同一のポリアミドAのみ100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤を0.5重量部添加したポリアミド組成物を用いて得た平均直径0.25mmのポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回数、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表1に示す。
【0063】
[実施例2〜3および比較例2〜4]
実施例1と同一のポリアミドA、ポリアミドBおよびフェノール系酸化防止剤を用い、最終的なポリアミド組成物としての混合率のうち、ポリアミドAおよびポリアミドBの混合率のみを表1〜表3に示すように変更し、平均直径0.25mmのポリアミドモノフィラメントを得た。
【0064】
得られた、各ポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回数、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表1〜表3に示す。
【0065】
[実施例4および5]
ポリアミドAとして、相対粘度2.97のMXD6(三菱ガス化学(株)製ナイロンMXD6 S6007)、ポリアミドBとして相対粘度3.41のナイロン6(東レ(株)製M1021T)を、表1に示す混合率で合計100重量部とし、これにフェノール系酸化防止剤としてN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(チバ・スペシャリティケミカルズ(株)社製 イルガノックス1098)を0.5重量部混合したポリアミド組成物を準備し、実施例1と同一の条件にて紡糸して、0.25mmのポリアミドモノフィラメント得た。
【0066】
得られた各ポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表1に示す。
【0067】
[実施例6]
ポリアミドAとして、相対粘度2.32のMXD6(三菱ガス化学(株)製ナイロンMXD6 S6001)、ポリアミドBとして相対粘度3.41のナイロン6(東レ(株)製M1021T)を、表1に示す混合率で合計100重量部とし、これにフェノール系酸化防止剤としてN,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(チバ・スペシャリティケミカルズ(株)社製 イルガノックス1098)を0.5重量%混合したポリアミド組成物を準備し、実施例1と同一の条件にて紡糸して、0.25mmのポリアミドモノフィラメント得た。
【0068】
得られた、各ポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回数、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表1に示す。
【0069】
[実施例7〜9および比較例6〜7]
実施例1と同一のポリアミドA、ポリアミドBおよびフェノール系酸化防止剤を用い、最終的なポリアミド組成物としての混合率のうち、フェノール系酸化防止剤の混合率のみを表1〜3に示すように変更したポリアミド組成物を用い、実施例1と同一の条件にて紡糸して、0.25mmのポリアミドモノフィラメント得た。
【0070】
得られた各ポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回数、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表1〜表3に示す。
【0071】
[実施例10〜12および比較例5]
実施例1と同一のポリアミド組成物の混合率として、ポリアミドBの樹脂種と相対粘度を表2および表3に示すように変更して得た平均直径0.25mmのポリアミドモノフィラメントの乾熱処理後強力保持率、直径変動率、屈曲疲労破断回数、屈曲摩耗破断回数および製糸性などを評価した結果を表2および表3に示す。なお、実施例10〜12で用いたポリアミドBは、6/66共重合ナイロンは東レ(株)製M6151(相対粘度4.87)、ナイロン66は東レ(株)製M3001(相対粘度2.92)、ナイロン610は東レ(株)製M2001(相対粘度2.71)、比較例5で用いたナイロン6は東レ(株)製M1010(相対粘度2.63)である。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
表1および表2の結果から明らかなように、本発明によるポリアミドモノフィラメント(実施例1〜12)は、いずれも高い耐熱性と優れた線径精度を有するとともに、工業用織物として求められる高い屈曲耐久性能を兼ね備えていることがわかる。
【0076】
一方、本発明の要件を満たさないポリアミドモノフィラメントは、耐熱性が不十分であったり、屈曲疲労や屈曲摩耗などの屈曲耐久性が低かったり、また、工業用織物の表面平滑性を実現するために重要となるモノフィラメントの線径精度が低いなど、工業用織物を構成するポリアミドモノフィラメントしては、いずれも好ましくない特性となるばかりか、製糸性も不十分であることが明らかである。
【0077】
すなわち、ポリアミドBを含まない比較例1のポリアミドモノフィラメントは、耐熱性や線径精度は優れるものの、屈曲疲労や屈曲摩耗などの屈曲特性が極めて低いものとなった。さらに、ポリアミドBを含有するものの、その混合率が極めて少ない比較例2では、ポリアミドBを添加することによる耐久性改善効果が不十分であり、耐久性を満足し得ぬポリアミドモノフィラメントしか得られなかった。
【0078】
また、ポリアミドBの混合率が本発明の規定から外れた比較例3や比較例4では、口金ノズルから押出すポリマの吐出安定性が悪化してしまう状況となり、その結果、いずれも線径精度が低いポリアミドモノフィラメントしか得られないばかりか、コブ糸が10回/トン以上発生するなど、製糸性も悪い結果となった。特に、ポリアミドAであるMXD6よりもポリアミドBの混合率がより多い比較例4では、フェノール系酸化防止剤による効果も不十分となってしまい、製糸性や線径精度以外に耐熱性能も低いポリアミドモノフィラメントとなるなど、極めて好ましくない結果を招いた。
【0079】
ポリアミドAとポリアミドBの相対粘度差が本発明の規定から外れた比較例5では、エクストルダー型紡糸機などにて溶融混練する2種以上のポリアミド樹脂の粘度差が大きすぎるために、口金ノズルから溶融押出しするポリマが安定して吐出できず、線径精度が低いモノフィラメントとなり、さらにコブ糸も29回/トン発生するなど製糸性も悪化する結果を招いた。
【0080】
さらに、フェノール系酸化防止剤が本発明の規定から外れた比較例6および比較例7では、混合率が多すぎる比較例6の場合は、多量に混合し過ぎたフェノール系酸化防止剤の影響によって、エクストルダー型紡糸機のスクリューへの原料噛み込み特性が悪化し、吐出不能の状態になる不具合が散発したばかりか、5時間以上の連続製糸ができない状況となった。一方、フェノール系酸化防止剤の混合率が低すぎる比較例7の場合は、耐熱性が不足するポリアミドモノフィラメントしか得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明のポリアミドモノフィラメントは、耐熱性に優れ、高温の乾熱条件下で熱履歴を受けた場合でも、熱劣化による強度低下が極めて少なく、また、優れた線径精度ならびに屈曲耐久性能を備えると共に、MXD6特有の優れた曲げ剛性をも有することから、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、抄紙プレスフェルトもしくはフィルターなどの工業用織物の構成素材として好適に利用することがきる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分と、アジピン酸を主体とするジカルボン酸成分の重縮合反応によって得られるポリアミドAおよびその他のポリアミドBとからなり、前記ポリアミドAと前記ポリアミドBとの硫酸相対粘度差が1.2以内で、かつ前記ポリアミドA90〜55重量%と、前記ポリアミドB10〜45重量%との合計100重量部に対し、フェノール系酸化防止剤0.01〜5重量部を含有するポリアミド組成物からなるポリアミドモノフィラメントであって、180℃の乾熱雰囲気下で4時間の処理をした際のポリアミドモノフィラメントの強力保持率が未処理のポリアミドモノフィラメントの強力に対し70%以上、繊維軸方向に測定したモノフィラメントの平均直径に対する直径変動率が10%以下、屈曲疲労破断回数が5000回以上、屈曲摩耗破断回数が10000回以上の特性を同時に満足することを特徴とするポリアミドモノフィラメント。
【請求項2】
前記ポリアミドBが、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、およびナイロン6/66共重合体から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載のポリアミドモノフィラメント。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載のポリアミドモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする工業用織物。
【請求項4】
前記工業用織物が、抄紙ドライヤーカンバス、抄紙ワイヤー、抄紙プレスフェルトもしくはフィルターであることを特徴とする請求項3に記載の工業用織物。

【公開番号】特開2011−58144(P2011−58144A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211606(P2009−211606)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】