説明

ポリアミド化合物及びその成形品

【課題】耐熱性が高く成形性も良好な植物由来成分を含むポリアミド化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示される化合物であり、重量平均分子量が5000以上200000以下であることを特徴とする、ポリアミド化合物。


(式(1)において、mは、2又は3である。また、ポリマーの末端は水酸基又は水素である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド化合物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年地球環境に配慮した資源循環型社会への転換の担い手として、植物を原料としたプラスチック(以下、バイオプラスチック)への期待が高まっている。ここでバイオプラスチックは、再生可能な資源から製造されるので、化石資源の消費の削減と、大気中の二酸化炭素濃度の上昇の抑制が可能になる。
【0003】
ここで、現在実用化されているバイオプラスチックとしてポリ乳酸がある。ポリ乳酸は、とうもろこし等のでんぷんを発酵させて得られる乳酸を重合して得られる脂肪属系ポリエステル樹脂である。近年ではポリ乳酸を含む樹脂組成物が複写機、パーソナルコンピューター、携帯電話等の外装体等の材料として使用され始めた。しかしポリ乳酸は、PETやPC等の石油由来の芳香族系ポリエステル樹脂と比較して、耐熱性や機械的強度に劣という課題がある。そのため、複写機やレーザービームプリンター内部の定着部材のように発熱を伴う部品の近傍には使用できなかった。
【0004】
そこでバイオプラスチックが有する耐熱性や機械的強度を改良するために、さまざまな提案がなされている。一例として、非特許文献1には、植物由来のフランジカルボン酸と芳香族ジアミンとから全芳香族ポリアミドを合成する方法が提案されている。また、非特許文献2及び3には、フランジカルボン酸と、炭素数4、6又は8の脂肪族ジアミンとからポリアミドを合成する方法が提案されている。一方、ひまし油から得られるひまし脂肪酸メチルから合成されるアミノ−11−ウンデカン酸を縮合することにより、ポリアミド(商品名、PA11)が得られることが非特許文献4にて知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Polymer Communications,1985年,26巻,246−249頁
【非特許文献2】Progress in Polymer Science,1997年,22巻6号,1238−1239頁
【非特許文献3】Delft Progress Report,1974年,A1巻,59−63頁
【非特許文献4】アルケマ社「環境に優しいエンジニアリングプラスチックス」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、非特許文献1にて提案されている全芳香族ポリアミドは融点がないため成形が困難である。また非特許文献2及び非特許文献3にて提案されているポリアミドはやわらかく機械的強度が期待できない上、耐熱性の目安となるTg(ガラス転移点温度)に関する記載もない。さらに非特許文献4にて開示されているポリアミドは、Tgが37℃であり、160℃以上のTgが求められる定着器近傍の部品としては使用できない。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、耐熱性が高く成形性も良好な植物由来成分を含むポリアミド化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリアミド化合物は、下記一般式(1)で示される化合物であり、
重量平均分子量が5000以上200000以下であることを特徴とする。
【0009】
【化1】

(式(1)において、mは、2又は3である。またポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性が高く成形性も良好な植物由来成分を含むポリアミド化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】比較例1で使用したポリアミド化合物の製造装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。本発明のポリアミド化合物は、下記一般式(1)で示される化合物であり、重量平均分子量が5000以上200000以下である。
【0013】
【化2】

【0014】
式(1)において、mは、2又は3である。また式(1)に示されるポリマーの末端は水酸基又は水素である。
【0015】
本発明において、生成物たるポリアミド化合物の重量平均分子量を、5000以上とすることにより耐熱性に優れるポリアミド化合物を得ることができる。尚、ポリアミドの合成や生成物の加工のし易さを考慮すると、生成物たるポリアミド化合物の重量平均分子量を、200000以下とすることが望ましい。
【0016】
また本発明のポリアミド化合物は、好ましくは、そのガラス転移点(Tg)が160℃以上350℃以下である。尚、Tgは、ポリアミド化合物の分子量が大きければ、相対的に高くなる傾向にある。
【0017】
本発明のポリアミド化合物は、下記反応式に示すように、2,5−フランジカルボン酸(以下、FDCAと略すことがある。)又はその誘導体と、エチレンジアミン又は1,3−トリメチレンジアミンとの重縮合により得ることができる。
【0018】
【化3】

(上記式中、mは、2又は3である。また得られるポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【0019】
ここでFDCAは、下記に示すプロセス(A)乃至(B)により得られる植物由来のモノマーである。
(A)単糖類(フルクトース、グルコース)の脱水プロセス(5−ヒドロキシメチルフラール(5−HMF)の生成プロセス)
(B)5−HMFの酸化プロセス
上記プロセス(A)において、単糖類(フルクトース、グルコース)の脱水反応は、水又は非プロトン性双極性溶媒中、酸触媒下で行うのが望ましい。
【0020】
上記プロセス(B)の具体的な方法としては、金属触媒存在下における空気酸化が上げられる。具体的には、下記の(B1)及び(B2)が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない
(B1)5−HMFをアルカリ性水溶液中、白金等の貴金属触媒下で空気酸化する方法
(B2)5−HMFを酢酸溶媒中、コバルト、マンガン、臭素等の複合触媒存在下、高圧高温条件下で空気酸化する方法
【0021】
本発明のポリアミド化合物を合成する際には、FDCAをそのまま使用してもよいが、誘導体に変換した状態で使用してもよい。誘導体として、具体的には、FDCAの酸クロリド(FDCC)、FDCAジメチル、FDCAジエチル等のFDCAのエステル誘導体等が挙げられる。
【0022】
本発明のポリアミド化合物を合成する際に利用される重合方法としては、通常公知の方法を利用することができる。例えば、界面重合、溶液重合、塊状重合等が挙げられる。好ましくは、界面重合である。尚、重合方法は、成形品の種類により適宜選択される。また上記重合方法を利用する際の重合条件、即ち、重合温度、重合触媒、溶剤等の媒体等については、それぞれの重合方法に従って適宜設定することができる。
【0023】
ここで界面重合を利用した合成例を以下に説明する。界面重合を利用する場合には、以下の2工程を経て本発明のポリアミド化合物が合成される。
(第一工程):FDCC(酸クロリド)の合成工程
(第二工程):FDCCとジアミン(エチレンジアミン又は1,3−トリメチレンジアミン)との反応工程
【0024】
第一工程は、FDCAを塩素化剤により酸クロリド(FDCC)に転化する工程である。この工程で使用する塩素化剤としては、通常、公知のものを使用することができる。具体的には、塩化チオニル、塩化スルフリル、塩化ホスホリル、五塩化リン等が例示できるが、反応後の後処理工程において除去が容易である点で塩化チオニルが好ましい。
【0025】
第一工程において、これらの塩素化剤は、FDCAに対して2当量以上を用いるのが望ましい。2当量未満である場合は、塩素化反応後もカルボン酸が残存し、次の工程(重縮合工程)で分子量が5000未満の小さいポリマーが合成される原因になる。
【0026】
また塩素化反応は、塩素化剤の沸点以下で行うことが好ましい。例えば、塩素化剤として塩化チオニルを使用した場合は、50℃乃至85℃の範囲で行うことが好ましい。さらに塩素化反応の反応時間は通常30分から5時間程度とするのが望ましい。ここで、反応時間が30分未満の場合は、塩素化反応が十分に進行しない。
【0027】
上述した塩素化反応は、通常、無溶媒で行うが、塩素化反応に対して不活性であり、かつその沸点が反応温度よりも高い溶媒であれば、その溶媒中で行うこともできる。また塩素化反応は、不活性ガス雰囲気下で、かつ常圧の条件下で行うことが好ましいが、空気雰囲気下で行ってもよいし、減圧又は加圧の条件下で行ってもよい。
【0028】
また、塩素化反応は、通常無触媒でも進行するが、必要に応じて公知の触媒を加えても良い。例えば、塩素化剤として塩化チオニルを使用した場合は、ジメチルホルムアミドをFDCAに対して0.001当量乃至0.5当量の範囲で加えることが好ましい。
【0029】
以上に説明したように、塩素化反応により合成したFDCCは、通常、公知の方法により精製した後、次の工程(重縮合反応)で使用する。
【0030】
次に、第二工程(界面重合による重縮合)について説明する。この第二工程で使用されるジアミン(エチレンジアミン又は1,3−トリエチレンジアミン)は、FDCCに対して1当量以上使用するものであり、1.1当量乃至1.7当量の範囲で使用するのが特に好ましい。このようにジアミンがFDCCに対して十分に存在する場合には重縮合反応に影響はないが、ジアミンが1当量未満である場合は、重縮合反応後もFDCC又はその誘導体が残存し、生成物たるポリアミド化合物の物性低下の原因となる。
【0031】
ところで、界面重合を利用する場合は、ジアミンを水又は水溶液に溶解して調製した水層と、FDCCを水に混和しない有機溶媒に溶解して調製した有機層とをそれぞれ調製する。ここでFDCCを溶解する有機溶媒としては、クロロホルムが好ましい。
【0032】
重縮合反応を行う際は、常温で反応を行うことが好ましい。具体的な方法としては、反応器にまず有機層を入れた後で、この反応器に水層を注いだ上で反応(界面重縮合反応)させてもよい。ただし本発明においては、反応容器にまず水層を入れた後でこの反応容器に有機層を注いだ上で反応させることがより好ましい。また注いだ後の反応操作の具体的な手法として、好ましくは、静置法及びかき混ぜ法であり、これらの方法から適宜選択する。静置法で反応させる場合は、界面に生じた重合物が牽引されることで、界面に新たな重合物が生じるため、繊維状(ひも状)の生成物ができる。静置法を利用する場合に使用される反応容器としては、界面に生じた重合物の膜がそれ自体の重さで切れない程度の反応面積を有する容器が好ましい。また重合物を牽引する際には、等速度(例えば、直径8mmの棒を回転速度60rpmで回転させる)に設定した自動巻き取り器を使用して界面の重合物がなくなるまで牽引する。また静置法を利用する場合、重縮合反応の反応時間は1時間乃至6時間程度である。
【0033】
またかき混ぜ法を利用する場合では、かき混ぜることにより水層と有機層との界面が大きくなり、静置法と比較して反応を早く進めることができる。具体的には、30分から2時間程度の反応時間で反応することができる。ただし反応時間が30分未満の場合は、重縮合反応が十分に進行しない。かき混ぜ法で使用する反応容器は、内容量に適したものを選ぶことが好ましい。
【0034】
本発明者等は、バイオプラスチックでもある従来のポリアミド(例えば、PA11)のTgが低いのは、アミノアルキレンカルボン酸に含まれる炭素鎖が長いことによる生成したポリアミド中のアミド結合基密度の低さが原因であると考察した。これに対して本発明では、炭素数が2及び3の脂肪族ジアミンを用いることにより、生成したポリアミド中のアミド結合(−C(=O)−NH−)の含有率を高めることができる。
【0035】
以上説明したように、本発明のポリアミド化合物は、耐熱性が高く成形性も良好なバイオプラスチックである。このため本発明のポリアミド化合物を成形してなる成形品は、複写機又はプリンター用の内外装部品として使用することができる。具体的には、複写機、レーザービームプリンター内部の定着部材近傍の給紙ガイド等の部品及び外装体に好適に使用することができる。またこの成形品は、耐摩耗の要求される軸受、ブッシュ、歯車、強靱性と耐薬品性が求められるチューブ等の機械部品、自動車部品等にも好適に用いられる。
【0036】
また本発明のポリアミド化合物は、植物由来のモノマーであるFDCAを原材料の1つとする植物由来ポリアミドである。一方、エチレンジアミンや1,3−プロピレンジアミンといった脂肪族ジアミンは、通常、石油から製造される。このため、脂肪族ジアミンの炭素鎖が短いほどポリアミド化合物の植物度(植物由来原料使用率)が高くなる。またポリアミド化合物の植物度が高ければその分焼却時におけるCO2排出量も少なくなる。
【実施例】
【0037】
[測定・分析条件]
後述する実施例及び比較例にて合成したポリアミド化合物の測定・分析条件を以下に示す。
【0038】
(1)GPC分析
サンプル濃度:0.2%
分析機器 :Waters社製アライアンス2695
検出器 :wyatt社製示差屈折検出器
溶離液 :5mM Sodium Trifluoroacetate in HFIP
流量 :1.0ml/min
カラム :shodex GPC HFIP−806M×2+HFIP−803×1
カラム温度 :25℃
校正曲線 :PMMA換算
(2)ガラス転移温度(Tg)測定
装置名 :ティー・エイ・インスツルメント製示差走査熱量分析装置(DSC)
パン :アルミパン
試料重量 :2mg〜3mg
昇温開始温度:30℃
昇温速度 :1st;10℃/min、2nd;5℃/min
雰囲気 :窒素
(3)熱分解温度(Td)測定(注1)
装置名 :ティー・エイ・インスツルメント製熱重量測定装置(TGA)
パン :プラチナパン
試料重量 :3mg
昇温開始温度:30℃
測定モード :ダイナミックレート法(注2)
雰囲気 :窒素
(注1)10%重量減少が観測された温度をTdとした。
(注2)重量変化の度合いに従ってヒーティング速度をコントロールして、分解能が向上する測定モード
(4)1H−NMR
装置 :日本電子社製核磁気共鳴装置
溶媒 :CF3COOD
(5)FT−IR
装置名 :パーキンエルマー社製フーリエ変換赤外分光分析装置
測定分解能 :4cm-1
スキャン回数:20
測定は数範囲:4000cm-1乃至400cm-1
【0039】
[実施例1]ポリ(エチレン−2,5−フランジカルボンアミドの合成
下記に示す合成スキームに従い、ポリ(エチレン−2,5−フランジカルボンアミドの合成を行った。
【0040】
【化4】

(尚、得られるポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【0041】
(1)FDCCの合成
窒素導入管、冷却管、温度計及び撹拌羽根を取り付けた50mLの三つ口フラスコ内に、下記に示す試薬、溶媒を投入した。
FDCA(自社製):15.6g(100ミリモル)
塩化チオニル(キシダ化学(株)社製):30.6ml(400ミリモル)
ジメチルホルムアミド(キシダ化学(株)社製)(:0.741ml(9.57ミリモル)
【0042】
次に、三つ口フラスコ内に窒素を導入しながら撹拌を開始すると共に、85℃に設定したオイルバスに三つ口フラスコを浸し、この状態を約2時間保持した。次に、オイルバスの温度を40℃に設定し、20kPa以下まで減圧した。次に、留出物がなくなるまで減圧を続けた後、圧力を常圧に開放した。次に、反応溶液を室温まで冷却した。次に、三つ口フラスコ内にヘキサン(1L)を投入し、反応生成物を溶解した。次に、反応生成物を溶解したヘキサン溶液を−20℃に冷却したときに析出した針状結晶をろ過した。以上により、FDCA塩化物(FDCC)を8.03g(収率41.6モル%)得た。
【0043】
(2)ポリアミド化合物の合成
まず200mlビーカー(水層用)、100mlコニカルビーカー(有機層用)及び重合物牽引用自動回転棒を用意した。
【0044】
次に、100mlコニカルビーカーに、下記に示す試薬、溶媒を投入し、マグネチックスターラーを用いて下記FDCCが溶解するまで溶液を撹拌することで、有機層溶液を調製した。
FDCC(上記(1)で得たもの):1.16g(6.01ミリモル)
クロロホルム(キシダ化学(株)社製、硫酸マグネシウムで脱水したものを使用):50ml
【0045】
次に、200mlビーカーに、下記に示す試薬、溶媒を投入し、溶液が均一になるまでガラス棒で撹拌することで水層溶液を調製した。
水酸化ナトリウム(キシダ化学(株)社製):0.502g(12.6ミリモル)
蒸留水:50ml
エチレンジアミン(キシダ化学(株)社製):0.496ml(7.33ミリモル)
【0046】
次に、水層用ビーカーに有機層溶液を投入した。このとき水層用ビーカーに入っている水層溶液が泡立たないように、素早く有機層を注ぎ入れた。次に、水層と有機層との界面に生じた重合物をピンセットで引き上げて、当該重合物の先端を自動回転棒に取り付けた。次に、回転速度を60rpmに設定して直径8mmの自動回転棒に重合物を巻きつけた。界面での反応が終了するまで速度を維持したまま約1時間反応させることで重合物を得た。次に、静置法での反応が終了した後、残りの反応液にマグネチックスターラーを入れ、回転速度1000rpmでかき混ぜたときに生じた重合物を回収した。次に、生成した重合物を、アセトンで十分に洗浄し、130℃の減圧乾燥条件下で1日乾燥した。乾燥後、重合物を0.861g(収率79.5モル%)得た。
【0047】
本実施例において得られたポリ(エチレン−2,5−フランジカルボンアミド)は、重量平均分子量が51000であり、Tgが206℃であった。
【0048】
また得られたポリマーについてFT−IRスペクトルを測定したところ、下記に示す吸収が観測された。
3300cm-1近傍(N−H伸縮振動)、3000cm-1近傍(脂肪族C−H伸縮振動)、1639cm-1(C=O伸縮振動)、1572cm-1(N−H変角振動)、1286cm-1(N−H変角振動及びC−N伸縮の相互作用)
【0049】
以上の赤外吸収から本実施例で得られたポリマーがポリアミドであることが明らかとなった。
【0050】
一方、得られたポリマーについて1H−NMRスペクトルを測定したところ、下記に示すピークが観測された。尚、N−Hのプロトンは溶媒ピーク(δ=11.6ppm)と重なって判別不能であった。また下記に示される(a)及び(b)は、それぞれ下記部分構造式の(a)及び(b)で示される水素原子に対応する。
δ=3.85ppm(b)、δ=7.28ppm(a)
【0051】
【化5】

【0052】
FT−IRの測定結果及び1H−NMRスペクトルのピークの積分比(a:b=1:2)を考慮し、本実施例にて得られたポリマーが、ポリ(エチレン−2,5−フランジカルボンアミド)であることがわかった。
【0053】
[比較例1]
下記に示す合成スキームに従い、ポリ(エチレン−2,5−フランジカルボンアミドの合成を行った。
【0054】
【化6】

(尚、得られるポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【0055】
(1)ナイロン塩の合成
300mlビーカーに、下記に示す試薬、溶媒を投入した。
FDCA(自社製):31.2g(199ミリモル)
エチレンジアミン(キシダ化学(株)社製):12.3g(199ミリモル)
蒸留水:160ml
【0056】
次に、ビーカーを加熱し、反応溶液の温度を60℃にした後、この温度(60℃)で反応溶液を1時間マグネチックスターラーで撹拌した。次に、反応溶液を室温に戻した後、この反応溶液に活性炭(白鷺A(日本エンバイロケミカルズ(株)社製);3.01g)を投入してからこの反応溶液を1時間撹拌した。次に、反応溶液をろ過し、蒸留水でよく洗った。次に、ろ過後に得られた溶液をエタノール(キシダ化学(株)社製;350ml)の中にゆっくり注ぎ込み、ナイロン塩を再沈殿した。
【0057】
(2)ポリアミド化合物の合成
次に、図1に示される反応装置を使用してポリアミドを合成した。尚、図1の反応装置は、反応容器1と、この反応容器1に接続する冷却用コンデンサ2と、反応容器1内の圧力を調整する排圧バルブ3と、を有している。また図1の反応装置には、反応容器1に窒素を導入する窒素ラインが設けられており、この窒素ライン上には排圧バルブ3を通過した窒素中の酸素濃度を計測する酸素濃度計4が設けられている。
【0058】
まず撹拌機(不図示)を取りつけた反応容器1に、下記に示す試薬、溶媒を投入した。
ナイロン塩(上記(1)で得たもの):17.8g(82.3ミリモル)
蒸留水:7.6ml(30重量%)
【0059】
次に、反応容器1内に窒素を充填させながら、回転速度30rpmで反応混合物の撹拌を開始した。次に、反応容器内の温度を190℃に昇温し、反応容器内の圧力を1.3MPaに昇圧した後、この状態を継続しながら反応混合物の撹拌を5時間行った。
【0060】
次に、反応容器1から茶色の粘性溶液状のオリゴマーを取り出して、100mlのナスフラスコに移した後、このオリゴマーをメカニカルスターラーで撹拌しながら、210℃乃至240℃までの範囲で5時間かけて昇温した。反応終了後生成したオリゴマーをスポイトで取り出した。
【0061】
次に、得られたオリゴマーを100mlナスフラスコに移した後、210℃に温めた油浴中で、かつ減圧下でナスフラスコを加熱しながら、メカニカルスターラー(回転速度30rpm)で撹拌した。尚、ナスフラスコを加熱する際には、210℃から240℃まで10℃ずつ昇温させつつ、各温度(210℃、220℃、230℃、240℃)において1時間ずつ反応させた。ただし、ナスフラスコの内容物の粘度が高まり撹拌が困難になったところで反応を終了させた。反応終了後、ナスフラスコにHFIP溶液を入れ、ナスフラスコ内に生成した固体を溶解させた後、その溶液を蒸留水(300ml)を入れたビーカーの中に注ぎ入れ再沈殿を行うことによって、生成したポリマーを回収した。
【0062】
また得られたポリマーについて実施例1と同様の方法により測定を行ったところ、重量平均分子量は3700であり、Tgは159℃であった。
【0063】
[実施例2]ポリ(プロピレン−2,5−フランジカルボンアミド)の合成
下記に示す合成スキームに従い、ポリ(プロピレン−2,5−フランジカルボンアミド)の合成を行った。
【0064】
【化7】

(尚、得られるポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【0065】
実施例1(2)において、エチレンジアミンの代わりに、1,3−トリエチレンジアミン(0.611ml、7.33ミリモル)を使用した。これを除いては、実施例1と同様方法により、ポリ(プロピレン−2,5−フランジカルボンアミド)を0.957g(82.0モル%)得た。
【0066】
また得られたポリマーについて実施例1と同様の方法により測定を行ったところ、重量平均分子量は31000であり、Tgは179℃であった。
【0067】
また本実施例にて得られたポリマーについてFT−IRスペクトルを測定したところ、以下に示す吸収が見られた。
3300cm-1近傍(N−H伸縮振動)、3000cm-1近傍(脂肪族C−H伸縮振動)、1639cm-1(C=O伸縮振動)、1575cm-1(N−H変角振動)、1283cm-1(N−H変角振動及びC−N伸縮の相互作用)
【0068】
以上の赤外吸収から本実施例で得られたポリマーがポリアミドであることが明らかとなった。
【0069】
一方、得られたポリマーについて1H−NMRスペクトルを測定したところ、下記に示すピークが観測された。尚、N−Hのプロトンは溶媒ピーク(δ=11.6ppm)と重なって判別不能であった。また下記に示される(a)乃至(c)は、それぞれ下記部分構造式の(a)、(b)及び(c)で示される水素原子に対応する。
δ=2.08ppm(c)、δ=3.67ppm(b)、δ=7.35ppm(a)
【0070】
【化8】

【0071】
FT−IRの測定結果及び1H−NMRスペクトルのピークの積分比(a:b:c=1:2:1)を考慮し、本実施例にて得られたポリマーが、ポリ(プロピレン−2,5−フランジカルボンアミド)であることが明らかとなった。
【0072】
[比較例2]
【0073】
【化9】

(得られるポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【0074】
比較例1において、エチレンジアミンの代わりに、1,3−ジアミノプロパン(15g、0.2モル)を使用した。これを除いては、比較例1と同様方法により、ポリ(プロピレン−2,5−フランジカルボンアミド)を得た。
【0075】
得られたポリマーについて実施例1と同様の方法により測定を行ったところ、重量平均分子量は3200であり、Tgは150℃であった。
【0076】
各実施例及び各比較例の結果を下記表1に示す。
【0077】
【表1】

【符号の説明】
【0078】
1:反応容器、2:冷却用コンデンサ、3:排圧バルブ、4:酸素濃度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物であり、
重量平均分子量が5000以上200000以下であることを特徴とする、ポリアミド化合物。
【化1】

(式(1)において、mは、2又は3である。また、ポリマーの末端は水酸基又は水素である。)
【請求項2】
Tgが160℃以上350℃以下であることを特徴とする、請求項1に記載のポリアミド化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリアミド化合物を成形してなることを特徴とする、成形品。
【請求項4】
複写機又はプリンター用の内外装部品として使用されることを特徴とする、請求項3に記載の成形品。

【図1】
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【公開番号】特開2012−214679(P2012−214679A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219084(P2011−219084)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】