説明

ポリアミド樹脂の組成物

【課題】強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れる摺動部品用のポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)架橋シリコーンゴムあるいはシリコーン化合物によってグラフト化されたポリオレフィン系樹脂のいずれかを1〜40重量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂の相対粘度(RV)が60〜300であるポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な機械工業分野、電気・電子分野における部品、特に摺動部品として、優れた成形流動性を有し、好適な強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れるポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は優れた強度、剛性、靭性、耐熱性、耐薬品性のため、様々な機械工業部品や電気・電子部品の摺動部品に利用されている。例えば、円筒状の金属製芯金の外径面にクロスローレット加工を施してその外周に予め形成した円筒状のポリアミド樹脂成形物を嵌め込んで溶着したものを一定寸法に切断し、その樹脂成形物の外周部を切削加工したギアが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また自動車関連部品では、エンジン内部の樹脂製チェーンガイド用シューが開示されている(例えば、特許文献2参照)。近年、ポリアミド樹脂製の摺動部品の使用環境は熱的または力学的に厳しさを増し、摺動特性のほかにも強度や靭性、耐熱性、耐熱エージング特性をさらに向上させ、かつ高耐久の摺動部品の要求がある。これらの要求を満たすために、従来技術では、ポリアミド樹脂に、無機フィラーを添加する方法、シリコーン樹脂やオレフィン樹脂などさまざまな有機系の摺動性改良剤を添加する方法、さらにはこれらを併用して用いる方法が知られている(例えば特許文献3参照)。
【0003】
しかしながら、本発明者らの検討によると、従来の無機フィラーを添加すると、成形時の金型や摺動部品の相手材を磨耗させる問題点があり必ずしも好ましい方法とはいえなかった。さらに摺動部品用にギアの形に切削する際、切削工具の摩耗が著しいという問題もあった。またリワーク性が悪いためにリサイクルの観点から上記方法は必ずしも好ましい手段とはいえなかった。一方、従来のシリコーン樹脂やオレフィン樹脂の摺動性改良剤を利用すると、ポリアミド樹脂とのなみじが十分でなく、高荷重の環境下では亀裂の原因となる場合があり、また高温環境下での耐熱エージング特性が十分でないなど耐久性に問題がある場合があった。さらに、上記従来技術では成形流動性が低下する傾向にあり、成形時の残留応力やひずみが残り、摺動性部品としてギアの寸法が変化し、嵌合に不具合を生じる場合や、モジュール化された複雑な形状の摺動部品を成形する際に適さない場合があった。以上のような問題から、優れた成形流動性を有し、好適な強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れる摺動部品用のポリアミド樹脂組成物が望まれていた。
【0004】
【特許文献1】特公昭58−22336号公報
【特許文献2】特開2001−141005号公報
【特許文献3】特許第2872713号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記の問題点を解決しうる強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れる摺動部品に好適に用いることのできるポリアミド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の範囲の相対粘度を有するポリアミド樹脂と特定のシリコーン化合物からなるポリアミド樹脂組成物により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
[1] (A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)シリコーン化合物によってグラフト化されたポリオレフィン系樹脂または架橋シリコーンゴムを1〜40重量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂の相対粘度(RV)が60〜300であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物、
[2] (A)ポリアミド樹脂が銅化合物を含有し、該銅化合物の含有量が、銅元素として1〜500ppmであることを特徴とする[1]の記載のポリアミド樹脂組成物、
[3] [1]または[2]記載のポリアミド樹脂組成物からなる摺動部品、
である。
【発明の効果】
【0007】
強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、優れた成形流動性を有し、好適な強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れる摺動部品に好適に用いることのできるポリアミド樹脂に関するものである。
本発明の(A)ポリアミド樹脂は、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されないが、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、およびこれらのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分を含むポリアミド共重合体、およびこれらの混合物などである。
【0009】
本発明の(A)ポリアミド樹脂は、耐熱エージング特性や摺動性の観点から、銅化合物を含有することが好ましい。その含有量は、好ましくは銅元素として1〜500ppm、さらに好ましくは20〜250ppm、最も好ましくは30〜120ppmである。前記銅元素の量は高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析を用いて求めることができる。銅化合物の添加方法は、ポリアミド原料、ポリアミド重合中、あるいはポリアミド樹脂に、例えば銅のハロゲン化物、硫酸塩、酢酸塩、プロピオオン酸塩、安息香酸塩、アジピン酸塩、テレフタル酸塩、サルチル酸塩、ニコチン酸塩、ステアリン酸塩や、エチレンジアミン(en)、エチレンジアミン四酢酸等のキレート化合物など、あるいはこれらの混合物を添加する方法を用いる。この中でも、好ましい銅化合物は、ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅、酢酸銅を挙げることができる。また、ハロゲンと元素周期律表の1Aあるいは2A金属元素との塩を添加してもかまわない。好ましいものとしては、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウムなど、あるいはこれらの混合物を挙げることができ、中でも最も好ましいものとしては、ヨウ化カリウムを挙げることができる。銅化合物、及びハロゲンと元素周期律表の1Aあるいは2A金属元素との塩と併用することにより、耐熱エージング特性や摺動性はより改良される傾向にある。
【0010】
本発明に用いられる(B)シリコーン化合物によってグラフト化されたポリオレフィン系樹脂または架橋シリコーンゴムは、ポリアミド樹脂100重量部に対して1〜40重量部、好ましくは2〜30重量である。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、(A)ポリアミド樹脂と(B)架橋シリコーンゴムまたはシリコーン化合物によってグラフト化されたポリオレフィン系樹脂とを配合する方法であれば特に限定されないが、好ましい配合方法は溶融混練法や(B)成分をマスターバッチで添加する方法等が好ましい。なお、溶融混練法で配合する場合、同時に減圧によりポリアミド樹脂の分子量を上げてもかまわない。また、溶融混練法で得られたポリアミド樹脂組成物をポリアミドの融点以下で固相重合しその分子量を上げてもかまわない。
【0011】
本発明のポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂の分子量は、本発明の課題を達成するという観点から、ASTMD789に準じて求まる相対粘度(RV)にして、好ましくは20〜500、より好ましくは30〜350、更に好ましくは60〜300である。分子量(RV)は、溶媒として90%ギ酸を用いて、3gサンプル/30mlギ酸の濃度で、25℃の温度条件下で行う。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、成形性改良剤を添加しても差し支えない。前記成形性改良剤は、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド化合物、ポリアルキレングリコール、あるいはその末端変性物、低分子量ポリエチレン、あるいは酸化低分子量ポリエチレン、置換ベンジリデンソルビトール、ポリシロキサン、カプロラクトン類、無機結晶核剤類からなる化合物類から選ばれる少なくとも1種の化合物である。また、着色剤を添加しても差し支えない。
【0012】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、各種成形加工性に優れるため、公知の成形方法、例えばプレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、発泡成形、溶融紡糸など、一般に知られているプラスチック成形方法を用いても、良好に成形加工ができる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、好適な強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れるため自動車分野、電気・電子分野、機械・工業分野、事務機器分野、航空・宇宙分野において、ギア、歯車、シュー、ガイドレール、カムなどの摺動部品への応用が期待される。
【実施例】
【0013】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において記載した評価は、以下の方法により実施した。
(1)相対粘度(RV)の測定
ASTMD789に準じて測定した。溶媒として90%ギ酸を用いて、3gサンプル/30mlギ酸の濃度で、25℃の温度条件下で測定した。
(2)摺動特性(摩擦係数、磨耗量の測定)
射出成形機(日精樹脂(株)製FN3000)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃に設定し、射出14秒、冷却15秒の射出成形条件で評価用プレート(a×b×c=90mm×60mm×3mm)を得て、試験を行った。ここで、ab面は金型面であり、試験はab面上で行った。ピンはSUS304、往復速度は60mm/s、往復距離は20mm、荷重は0.50MPa、温度は25℃、湿度50%の条件で実施した。摺動往復回数500回での摩擦係数を評価した。
【0014】
[実施例1]
(A)ポリアミド樹脂(銅元素96ppmを含有するRV=45)100重量部に対して、(B)シリコーン化合物によってグラフト化されたポリオレフィン系樹脂5重量部を配合し二軸押出機で約100mmHgの減圧下で溶融混練し、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂中のポリアミドのRVは65であり、摩擦係数は0.12であり良好であった。
【0015】
[実施例2]
(A)ポリアミド樹脂(銅元素96ppmを含有するRV=45)100重量部に対して、(B)架橋シリコーンゴム10重量部を配合し二軸押出機で約100mmHgの減圧下で溶融混練し、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂中のポリアミドのVRは65であり、摩擦係数は0.13であり良好であった。
【0016】
[比較例1]
(A)ポリアミド樹脂(銅元素96ppmを含有するRV=45)100重量部に対して、(B)シリコーン化合物5重量部を配合し二軸押出機で減圧なし溶融混練し、ポリアミド樹脂組成物を得られたポリアミド樹脂中のポリアミドのRVは40であり、摩擦係数は0.23であり不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、強度、剛性、低摩擦、低磨耗性かつ耐熱エージング特性に優れるため、摺動部品用として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)シリコーン化合物によってグラフト化されたポリオレフィン系樹脂または架橋シリコーンゴムを1〜40重量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂の相対粘度(RV)が60〜300であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)ポリアミド樹脂が銅化合物を含有し、該銅化合物の含有量が、銅元素として1〜500ppmであることを特徴とする請求項1の記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物からなる摺動部品。

【公開番号】特開2006−56984(P2006−56984A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−239926(P2004−239926)
【出願日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】