説明

ポリアミド樹脂成形体用洗浄液およびそれを用いた洗浄方法

【課題】異種材料が複合化されたポリアミド樹脂成形体より、ポリアミド以外の付着物や被覆物などを容易に分離、除去することが可能な、ポリアミド樹脂成形体用洗浄液、およびそれを用いた洗浄方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物と、アミンとが水に溶解されている。洗浄液100質量%中に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を3〜40質量%含み、かつアミンを0.5〜10質量%含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド樹脂成形体用洗浄液およびそれを用いた洗浄方法に関し、特に、ポリアミド樹脂成形体をマテリアルリサイクルするために、異種材料と複合化されたポリアミド樹脂成形体より、ポリアミド以外の成分を分離、除去するための、ポリアミド樹脂成形体用洗浄液およびそれを用いた洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は古くから工業用材料として使用されている。特にポリアミド6やポリアミド66は、繊維やフィルムなどの樹脂成形体の分野等で使用されている。このようなポリアミド樹脂の使用量の増加とともに、大量廃棄の問題も表面化している。このため、廃棄されたポリアミド樹脂成形体のリサイクルに関して、広く研究されるようになってきている。
【0003】
プラスチック製品のリサイクル方法としては、大別すると3種類ある。つまり、焼却により熱エネルギーを取り出すサーマルリサイクルと、原料モノマーにまで化学分解して再重合するケミカルリサイクルと、溶融して新たな製品に再び成形するマテリアルリサイクルとがある。
【0004】
ポリアミド樹脂の原料となる石油の枯渇が問題となっている昨今、資源の再利用という観点からは、ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルを行うことが望ましい。このうち、ポリマーをモノマー段階にまで分解して再利用するケミカルリサイクルは、大量のエネルギーを消費するため、よりエネルギー消費を抑制できるマテリアルリサイクルを行うことが最も望ましい。
【0005】
マテリアルリサイクルを行う場合には、リサイクルされた樹脂を高品位に保つために、投入するプラスチック製品の純度を高める必要がある。しかしながら、ポリアミド製品は、一般に各種添加剤の配合、表面処理、被覆などにより複合化されている。このため、多くのポリアミド単体を取り出してリサイクルに供することは容易でない。
【0006】
複合化されたポリアミド樹脂成形体をリサイクルする方法として、例えば特許文献1には、自動車のエアバッグのスクラップ布をアルカリ液に浸漬した後に脱水し、容器内で撹拌することで、スクラップ布表面のシリコンコーティング層を除去する方法が提案されている。特許文献2や特許文献3には、一種以上の樹脂成分を不純物として含むポリアミド6製品をアルカリ水溶液や有機溶媒中で加熱することで、その不純物を除去する方法が提案されている。
【0007】
しかし、特許文献1の方法は、実際にはスクラップ布表面からのシリコンコーティング層の剥離性能は低く、一度に大量のスクラップ布を処理することは困難である。特許文献2の方法は、不純物である布表面の樹脂成分をアルカリ水溶液中に溶出させてポリアミド6を洗浄する方法であるため、不純物によるアルカリ水溶液の汚染が問題である。さらに不純物としての樹脂成分がアルカリ水溶液に溶解するため、この成分の再利用は困難である。特許文献3の方法は、洗浄液の主成分が有機溶媒であることから、作業環境上好ましくなく、また有機溶剤の回収のためにコストがかかり過ぎる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−180413号公報
【特許文献2】特開2008−179816号公報
【特許文献3】特開2008−239985号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、異種材料が複合化されたポリアミド樹脂成形体より、ポリアミド以外の付着物や被覆物などを容易に分離、除去することが可能な、ポリアミド樹脂成形体用洗浄液、およびそれを用いた洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物と、特定のアミンと、必要に応じてスルホン酸ナトリウム系界面活性剤とを水に溶解させた洗浄液を用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
【0012】
(1)ポリアミド樹脂成形体を洗浄するための洗浄液であって、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物と、アミンとが水に溶解されており、前記洗浄液100質量%中に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を3〜40質量%含み、かつアミンを0.5〜10質量%含むことを特徴とするポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【0013】
(2)さらにスルホン酸ナトリウム系界面活性剤が水に溶解されており、洗浄液100質量%中にスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を0.01〜5質量%含むことを特徴とする(1)のポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【0014】
(3)アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムであることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【0015】
(4)アミンが炭素数2〜8の脂肪族ジアミンであることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかのポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【0016】
(5)上記(1)から(4)までのいずれかのポリアミド樹脂成形体用洗浄液を用いることを特徴とするポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【0017】
(6)ポリアミド樹脂成形体用洗浄液を用いた洗浄の前に、溶媒に対しスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を溶解量が0.01〜5質量%となるように溶解させた前処理液を用いて、ポリアミド樹脂成形体に前処理を施すことを特徴とする(5)のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【0018】
(7)アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを用い、洗浄液の液温を60℃以下に保って洗浄することを特徴とする(5)または(6)のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【0019】
(8)アルカリ金属水酸化物として水酸化カリウムを用い、洗浄液の液温を100℃以下に保って洗浄することを特徴とする(5)または(6)のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【0020】
(9)ポリアミド樹脂成形体がポリアミド繊維を用いた布帛であることを特徴とする(5)から(8)までのいずれかのポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ポリアミド樹脂成形体のたとえば表面に付着した付着物や被覆物などを、容易に分離、除去することができる。したがって、ポリアミド樹脂成形体を簡便に洗浄することができる。さらに、付着物や被覆物などを洗浄液に完全に溶解させることなく回収することができ、このため洗浄液の汚染が少なく、これを繰り返し使用することができる。また単離されたポリアミド樹脂をリサイクルすることができるのみならず、付着物の再利用も容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でいうポリアミド樹脂成形体とは、ポリアミド6やポリアミド66等の一般的なポリアミド樹脂を溶融、成形することで得られる成形体を指す。ポリアミド樹脂の種類は特に限定されるものではない。代表的な成形方法として、押出成形、射出成形、圧延成形、カレンダー成形、ブロー成形、吹込成形等を挙げることができる。成形体の代表的な形態としては、フィルム、シート、繊維、織物、編物、不織布、ボトル、容器などを挙げることができる。
【0023】
本発明のポリアミド樹脂成形体用洗浄液によって洗浄が可能な、ポリアミド樹脂成形体への付着物や被覆物としては、例えばポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂などの樹脂成分が挙げられる。付着物や被覆物の形態としては、印刷、塗装、コーティング、被覆、ラッピングされた、印刷物、接着物、粘着物、積層物等を挙げることができる。その付着方法は特に限定されるものではなく、代表的な付着方法としては、ポリマー溶液やポリマー融液などのコーティングや、ポリマーシートの積層などが挙げられる。
【0024】
このような付着物や被覆物は、例えば包装用ポリアミドフィルム、雨具、釣り糸、防寒着、防水着、カーテン、ロープ、エアバッグ、各種電気電子材料部品、自動車エンジン周り部品、自動車内装部品等のポリアミド樹脂製品に、撥水性、防水性、ガスバリア性、耐摩耗性等の機能を付与する目的で用いられる場合が多い。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂成形体用洗浄液に用いられるアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物は、特に限定されるものではなく、水に容易に溶解し、得られる水溶液が塩基性を示すものであればよい。
【0026】
アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。これらのうち、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物が好ましく、なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが特に好ましい。
【0027】
洗浄液に配合されるアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物は、洗浄液100質量%中に3〜40質量%含まれることが必要がある。5〜30質量%含まれることが好ましく、10〜20質量%含まれることがさらに好ましい。3質量%未満であると、洗浄液による洗浄効果が極めて低い。反対に40質量%を超えると、成形体から取り出した付着物等を洗浄液中に溶解してしまう場合がある。すると、洗浄液が汚染してしまう。そのうえ、ポリアミド樹脂が加水分解により劣化してリサイクル性が低下してしまう。さらにはアルカリが高濃度となるために作業環境上非常に危険になる。
【0028】
アルカリ土類金属水酸化物を用いる場合は、アルカリ金属水酸化物を用いる場合に比べ、水に対する溶解度が低いため、高濃度のアルカリ水溶液とするには、加温する必要がある。このため、常温で高濃度のアルカリ水溶液とするためには、アルカリ金属水酸化物を高配合で用いることが好ましい。これに対し、アルカリ土類金属水酸化物を高配合で用いた洗浄液を使って洗浄作業を行う場合は、アルカリ金属水酸化物を高配合で用いた洗浄液を使う場合に比べ、洗浄液を適宜加温したり、また、洗浄時間を長めにしたりすることで、アルカリ金属水酸化物を高配合で用いた洗浄液での洗浄作業と同等の洗浄効果を得ることが出来る。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂成形体用洗浄液に用いられるアミンとしては、以下のような1級アミン、2級アミンを挙げることができる。
【0030】
1級アミンとしては、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2−ジメチル−1,5−ペンタンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジアミン等が挙げられる。
【0031】
2級アミンとしては、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、N−メチルアニリン、ピペリジン、ジフェニルアミン、N−ベンジルイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0032】
中でも、洗浄液と、ポリアミド樹脂または付着物との反応性のためには、1級アミンを用いることが好ましく、そのアミンが水溶性であることが好ましい。
1級アミンは、さらに、脂肪族1級アミンであることが好ましく、炭素数2〜8の脂肪族ジアミンであることがより好ましく、炭素数2〜8の直鎖脂肪族ジアミンであることが特に好ましい。炭素数2〜8の直鎖脂肪族ジアミンの具体例としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、へプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミンが挙げられる。中でも、ポリアミド樹脂との親和性の点で、ヘキサメチレンジアミンが好適である。
【0033】
アミンの働きについて説明する。本発明の洗浄液を用いてポリアミド樹脂成形体を洗浄する場合において、ポリアミド樹脂成形体と付着物や被覆物との界面に洗浄液が浸透したときには、洗浄液中のアミンが、ポリアミド樹脂成形体と付着物や被覆物との間の化学的結合力、物理的結合力を低下させる傾向がある。このため、ポリアミド樹脂成形体からの付着物や被覆物の分離、除去を容易に行うことができる。
【0034】
アミンの配合量は、洗浄液100質量%中に0.5〜10質量%であることが必要である。1〜8質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがさらに好ましい。0.5質量%未満、または10質量%を超えると、付着物の洗浄効果が低くなる。
【0035】
本発明の洗浄液には、必要に応じて、スルホン酸ナトリウム系界面活性剤を用いることが好ましい。洗浄液がスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を含むと、これを含まない場合に比べて、洗浄性能を高めたり、付着物回収率を高めたりすることができる。さらには、洗浄時間を短縮したり洗浄温度を下げたりすることが可能であるなどの効果を期待できる。
【0036】
スルホン酸ナトリウム系界面活性剤としては、次式(1)で示される構造をもつスルホン酸塩を用いることができる。
R−SO3 Na (1)
(Rは、アルキル基、アルキルベンゼン、トルエン、ナフタレンなどを示す。)
【0037】
スルホン酸ナトリウム系界面活性剤の具体例としては、1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム、1−オクタンスルホン酸ナトリウム、1−デカンスルホン酸ナトリウム、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム、ペルフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム、クメンスルホン酸ナトリウム、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンジスルホン酸二ナトリウム、ナフタレントリスルホン酸三ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。中でも、洗浄液としての性能などから、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムやアルキルスルホン酸ナトリウムなどが好適に用いられる。
【0038】
また、この界面活性剤を水または灯油などの溶媒に溶解させたものを、前処理液として使用することもできる。本発明の洗浄を前処理液による予備洗浄と洗浄液による本洗浄との二つに分けて行うと、スルホン酸ナトリウム系界面活性剤による洗浄性能を高める効果や、付着物回収率を高める効果が更に高まるので、より好ましい。その詳細は後述する。
【0039】
本発明の洗浄液におけるスルホン酸ナトリウム系界面活性剤の配合量は、洗浄液100質量%中に0.01〜5質量%であることが好ましく、0.01〜2質量%であることがさらに好ましい。0.01質量%未満、または5質量%を超えると、ポリアミド樹脂成形体からの付着物の回収効率が低くなる。
【0040】
本発明の洗浄液は、特に、ポリアミド繊維からなる布帛に対し異種材料を被覆した複合成形体に好ましく用いることができる。つまり、ポリアミド繊維からなる布帛から、この布帛に被覆された異種材料を分離、除去するために好適に用いることができる。ここで異種材料とは、有機材料、無機材料を問わず、ポリアミド以外の材料を指す。付着物の分離、除去には、ポリアミド樹脂と付着物との界面への洗浄液の浸透が必要である。繊維または布帛であれば洗浄液が浸透しやすく、効率よく付着物の分離を行うことができる。布帛の用途としては、防寒着、防水着、カーテン、ロープ、エアバッグなどが挙げられる。
【0041】
次に、本発明のポリアミド樹脂成形体用洗浄液を用いた洗浄方法の一例について説明を行う。
まず、ポリアミド樹脂成形体は、作業性に応じて、元の大きさのままで、または適当な大きさに粉砕または裁断した後、たとえば本発明のポリアミド樹脂成形体用洗浄液中に投入し、浸漬させる。または、ポリアミド樹脂成形体に洗浄液を塗布あるいは散布することもでき、さらに他の手法を用いることもできる。浸漬させる場合に、ポリアミド樹脂成形体と洗浄液との比率は特に限定されるものではないが、洗浄液が十分にポリアミド樹脂成形体に浸透することが好ましく、洗浄液面からポリアミド樹脂成形体が浮き上がっているような状態は好ましくない。この浸漬させる場合は、例えばポリアミド樹脂成形体に対して洗浄液が4質量倍以上であれば、良好に浸透する。
【0042】
ポリアミド樹脂成形体を洗浄液中に浸漬させる際の洗浄液の温度は、常温から洗浄液の沸点の範囲とすることができる。しかし、用いるアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物の種類によって、好ましい温度範囲が異なる。水酸化ナトリウムを用いた場合は、洗浄液の温度を60℃以下に保つことが好ましく、また水酸化カリウムを用いた場合は、これを100℃以下に保つことが好ましい。これらの温度を超えると、ポリアミド樹脂が劣化したり、付着物が洗浄液へ過度に溶出して回収することが困難になったりする。水酸化ナトリウムと水酸化カリウムを混合して用いる場合は、洗浄液の温度を60℃以下に保つことが好ましい。
【0043】
洗浄液への成形体の浸漬時間は、0.5〜48時間であることが好ましい。0.5時間未満であると付着物の分離が十分になりにくく、反対に48時間を超えるとポリアミド樹脂の劣化や洗浄液への付着物の過度の溶出が起こりやすい。
【0044】
ポリアミド樹脂成形体を洗浄液に浸漬させる際の、洗浄液の温度と、付着物の分離に必要な洗浄時間との関係は、洗浄液の温度が高いほど、付着物の分離に必要な洗浄時間は短くて済むことになる。洗浄液に配合されるアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物の種類や配合量によっても異なるが、たとえばポリアミド樹脂成形体を洗浄液中に浸漬させる時間を48時間以内とするためには、ポリアミド樹脂成形体洗浄液の温度は20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましい。
【0045】
洗浄液へのポリアミド樹脂成形体の浸漬中に、むやみに攪拌をすると、粉砕または裁断した成形体の屑が洗浄液へ分散してしまい、洗浄液の汚染や付着物への絡みつきが起きやすくなる。このため、攪拌を行わず静置することが好ましい。
【0046】
付着物が分離されたポリアミド樹脂成形体は、洗浄液から取り出した後、必要に応じて、塩酸水溶液、酢酸水溶液等の酸性水溶液で中和する。さらに水で数回洗浄する。これにより付着物や残存洗浄液を取り除いて、純度の高いポリアミド樹脂成形体を得ることができる。酸性水溶液は、ポリアミド樹脂を溶解しない範囲の濃度を適宜選択することが好ましい。
【0047】
得られた洗浄済みポリアミド樹脂成形体は、たとえば熱風乾燥機または真空乾燥機を用いて50℃〜120℃で乾燥することで、水分率を低下しておくことが好ましい。水分が多いと、その後の加工時にポリアミド樹脂の加水分解が起こってしまう。
【0048】
乾燥させた洗浄済みポリアミド樹脂成形体のリサイクル方法は、特に限定されるものではない。例えば、寸法の大きなポリアミド樹脂成形体の場合は、必要に応じて押出機に投入できる程度まで小さく裁断した後、一旦溶融させ、ペレット状にした後2次製品に再加工することができる。溶融、ペレット化の例として、たとえば、一軸または二軸の押出機を用い、ペレットを押出機の根元供給口からトップフィードし、バレル温度をポリアミド樹脂の融点±50℃として、ベントを効かせながら押出す。そして、押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、これを冷却水を満たしたバットを通過させることで冷却固化した後、ペレット状にカッティングすることにより、リサイクルポリアミド樹脂ペレットを得ることができる。
【0049】
本発明によれば、前述のように、スルホン酸ナトリウム系界面活性剤を水または灯油などの溶媒に溶解させて得られる処理液を用いて、洗浄のための前処理を行うこともできる。詳細には、洗浄液を用いた洗浄の前に、上記溶媒に対しスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を溶解量が0.01〜5質量%となるように溶解させた前処理液を用いて、この前処理液にポリアミド樹脂成形体を室温で0.5分以上浸漬させる。そして、その後に洗浄液で洗浄すると、前処理をしない場合よりも洗浄時間を短縮したり洗浄温度を下げたりすることが出来る。スルホン酸ナトリウム系界面活性剤を溶解量が0.01質量%未満の場合または5質量%を超える場合は、ポリアミド樹脂成形体からの付着物の回収効率が低くなる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例、比較例においては、ポリアミド樹脂成形体としてポリアミド布帛を用い、ポリアミド布帛の洗浄性能、付着物回収率は下記の方法で評価した。
【0051】
1.使用材料
ポリアミド布帛:ポリアミド66製の自動車用エアバッグ(布帛表面にメチルビニル系シリコン樹脂による塗膜あり;布帛100質量%に対し塗膜10質量%)。
【0052】
2.評価方法
(1)洗浄性能
洗浄後のポリアミド布帛表面におけるメチルビニル系シリコン樹脂の残存の有無を目視で判断し、完全に除去されている場合は「優秀(◎)」、表面に残存してはいるが、再度水洗するかまたはブラシで擦ると容易に除去できた場合は「良好(○)」、再度水洗してもまたはブラシで擦っても完全に除去できない場合は「不良(×)」と評価した。
【0053】
(2)付着物回収率
洗浄により分離したメチルビニル系シリコン樹脂を金網上に回収し、80℃で一晩熱風乾燥させた。乾燥後の質量を測定し、下記式で付着物回収率を算出した。なお、付着物回収率は70%以上であることが好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
【0054】
付着物回収率(%)={MS/(MF×0.1)}×100
ここで、MFは洗浄前のポリアミド布帛の質量、MSは洗浄、乾燥後の回収メチルビニル系シリコン樹脂の質量をそれぞれ示す。
【0055】
実施例1
200mlフラスコ中に、水酸化ナトリウム15gと、エチレンジアミン2gとを入れ、水83mlを加えることで、ポリアミド樹脂成形体洗浄液100gを作成した。そして、一辺約15mmの切片に裁断したポリアミド布帛5gを、上記の洗浄液の入ったフラスコ中に投入して、60℃で2時間加熱した。加熱中、ポリアミド布帛の攪拌は行わなかった。その後ポリアミド布帛をフラスコから取り出して別の容器内で水洗した。洗浄液におけるアルカリ金属水酸化物およびアミン種類と配合量、ポリアミド布帛の洗浄条件、およびその評価結果を表1に示す。
【0056】
実施例2〜39
実施例1と比べて、洗浄液におけるアルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物の種類と配合量、アミンの種類と配合量、ポリアミド布帛の洗浄条件を、表1および表2に示す通りに変更した。そして、それ以外は実施例1と同様として、ポリアミド布帛の洗浄作業を行った。その評価結果を表1および表2に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

比較例1〜9
【0059】
実施例1と比べて、洗浄液におけるアルカリ金属水酸化物の種類と配合量、アミンの配合量、ポリアミド布帛の洗浄条件を、表3に示す通りに変更した。そして、それ以外は実施例1と同様として、ポリアミド布帛の洗浄作業を行った。その評価結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
比較例10
市販のアルカリ洗浄剤(花王社製、住宅用アルカリ洗浄剤、商品名「マジックリン」;アルキルアミンオキサイド8%溶液)を原液で用いて、液温60℃で2時間洗浄作業を行った。しかしながら、ポリアミド布帛の洗浄効率は低く、付着物の回収ができなかった。
【0062】
実施例40
表4に示すように、実施例1に比べて、洗浄液に界面活性剤を配合した。そして、それ以外は実施例1と同様として、ポリアミド布帛の洗浄作業を行った。その評価結果を表4に示す。
【0063】
実施例41〜48、比較例11〜14
実施例40と比べて、洗浄液におけるアルカリ金属水酸化物とアミンと界面活性剤の種類と配合量、ポリアミド布帛の洗浄条件を、表4に示す通りに変更した。そして、それ以外は実施例40と同様として、ポリアミド布帛の洗浄作業を行った。その評価結果を表4に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
実施例49
前処理として、灯油に界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SA1)を配合してその配合量を0.5質量%とした溶液に、ポリアミド布帛を1分間浸漬した。その後、その溶液からポリアミド布帛を取り出した。この前処理したポリアミド布帛を実施例1と同様の洗浄液を用いて、実施例1と同様に60℃で2時間加熱し、洗浄作業を行った。その結果、洗浄性能は良好(◎)、付着物回収率は>98%であった。
実施例50
前処理として、灯油に界面活性剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SA1)を配合してその配合量を0.5質量%とした溶液に、ポリアミド布帛を1分間浸漬した。その後、その溶液からポリアミド布帛を取り出した。この前処理したポリアミド布帛を実施例12と同様の洗浄液を用いて、実施例12と同様に30℃で5時間加熱し、洗浄作業を行った。その結果、洗浄性能は良好(◎)、付着物回収率は90%であった。
【0066】
実施例1〜50では、本発明で規定した洗浄液を用いてポリアミド布帛の洗浄作業を行ったため、ポリアミド布帛の洗浄性能およびメチルビニル系シリコン樹脂の回収率が良好であった。洗浄作業後のポリアミド布帛は、残存する付着物が少ないため、不純物の混入が抑制され、ポリアミド66として再利用することが可能であった。洗浄液中のメチルビニル系シリコン樹脂は、金網を用いて濾別することで、効率よく回収でき、その再利用が可能であった。
【0067】
特に、実施例40〜48では、洗浄液へ界面活性剤を配合したため、界面活性剤を配合しなかった実施例1〜39に比べ、洗浄性能は向上し、また付着物回収率も高かった。詳細には、実施例40では界面活性剤を配合しなかった実施例1よりも付着物回収率が高まり、実施例41では界面活性剤を配合しなかった実施例6と比べて洗浄性能、付着物回収率ともに高まった。実施例42〜44では、何れの界面活性剤を用いた場合でも、界面活性剤を配合しなかった実施例12と比べて、洗浄性能、付着物回収率ともに高まった。実施例45〜48も同様な結果であった。
【0068】
実施例49、50は、界面活性剤を溶解させた前処理液を用いて前処理を行ったため、実施例1、12と比べて、洗浄性能は向上し、また付着物回収率も高かった。さらに、実施例49、50は、界面活性剤を配合した前処理液と、これを配合しない洗浄液との2液に分けたため、洗浄液に界面活性剤を配合した実施例40、41よりも付着物回収率が高まり、洗浄効率の向上を図ることができた。
【0069】
比較例1、2は、洗浄液にアミンを配合しなかったため、付着物は全く除去されなかった。
比較例3は、水酸化カリウムの配合量が多過ぎたために、付着物の分離性能は良好であったが、分離された付着物が洗浄液に溶解してしまって、付着物回収率が低かった。
【0070】
比較例4は、水酸化カリウムの配合量が少な過ぎたために、洗浄性能が悪く、また付着物を全く回収することができなかった。
比較例5は、アミンの配合量が少な過ぎたために、洗浄性能が悪く、また付着物回収率が低かった。
【0071】
比較例6は、アミンの配合量が多過ぎたために、洗浄性能が悪く、また付着物回収率が低かった。
比較例7は、洗浄液において、アミンの配合は行わず、水酸化ナトリウムのみを過剰量配合したが、比較例1と同様に付着物は全く除去されなかった。
【0072】
比較例8、9は、洗浄液において、アルカリ金属の配合は行わず、エチレンジアミンのみを配合したため、洗浄性能が悪く、また付着物を全く回収することができなかった。
比較例10は、本発明の洗浄液を用いず、市販のアルカリ洗浄剤を原液で用いて洗浄作業を行ったが、上述のように、ポリアミド布帛の洗浄効率は低く、付着物の回収ができなかった。
【0073】
比較例11は、洗浄液において、アミンの配合は行わず、アルカリ金属水酸化物と界面活性剤だけを配合したため、洗浄性能が悪く、また付着物を全く回収することができなかった。
【0074】
比較例12は、洗浄液において、界面活性剤の配合量を過剰としたため、付着物の回収率は低くなってしまった。
比較例13は、洗浄液において、本発明にもとづくスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を用いず、代わりにカチオン系界面活性剤であるトリブチルベンジルアンモニウムクロライド(SA4)を配合した。このため、洗浄性能が悪く、また付着物を全く回収することができなかった。
【0075】
比較例14は、洗浄液において、本発明にもとづくスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を用いず、代わりにリン酸系界面活性剤であるラウリルリン酸カリウム(SA5)を配合した。このため、洗浄性能が悪く、また付着物を全く回収することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂成形体を洗浄するための洗浄液であって、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物と、アミンとが水に溶解されており、前記洗浄液100質量%中に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を3〜40質量%含み、かつアミンを0.5〜10質量%含むことを特徴とするポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【請求項2】
さらにスルホン酸ナトリウム系界面活性剤が水に溶解されており、洗浄液100質量%中にスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を0.01〜5質量%含むことを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムであることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【請求項4】
アミンが炭素数2〜8の脂肪族ジアミンであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載のポリアミド樹脂成形体用洗浄液。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか1項に記載のポリアミド樹脂成形体用洗浄液を用いることを特徴とするポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【請求項6】
ポリアミド樹脂成形体用洗浄液を用いた洗浄の前に、溶媒に対しスルホン酸ナトリウム系界面活性剤を溶解量が0.01〜5質量%となるように溶解させた前処理液を用いて、ポリアミド樹脂成形体に前処理を施すことを特徴とする請求項5記載のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【請求項7】
アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを用い、洗浄液の液温を60℃以下に保って洗浄することを特徴とする請求項5または6記載のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【請求項8】
アルカリ金属水酸化物として水酸化カリウムを用い、洗浄液の液温を100℃以下に保って洗浄することを特徴とする請求項5または6記載のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。
【請求項9】
ポリアミド樹脂成形体がポリアミド繊維を用いた布帛であることを特徴とする請求項5から8までのいずれか1項記載のポリアミド樹脂成形体の洗浄方法。

【公開番号】特開2011−26532(P2011−26532A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211171(P2009−211171)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】