説明

ポリアミド樹脂成形品

【課題】耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水速度が低減されるポリアミド樹脂成形品を提供する。
【解決手段】JIS K6920−2に従って、98%硫酸にて測定した相対粘度が2.7以下の低分子量ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物(B)1〜10質量部、粒子径が0.1〜20μmのタルク、窒化ホウ素から選ばれる少なくとも1種類以上の充填材(C)100〜5000ppm、リン系熱安定剤(D)0.01〜10質量部からなる樹脂組成物を、所望の形状に射出成形した後、照射架橋して得られる23℃、98%硫酸に実質的に不溶解である厚み10mm以下のポリアミド樹脂成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂成形品に関するものである。さらに詳しくは、耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水速度が低減された成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリアミド樹脂成形品は、機械的特性、耐衝撃性、および耐薬品性等が優れているため、エンジニヤリングプラスチックとして広範な用途分野で用いられている。なかでもガラス繊維を代表とする無機強化材を添加したポリアミド樹脂成形体は剛性、強度、耐熱性等が大幅に向上することが知られている。
近年電気・電子機器産業、自動車産業、航空機産業の発展に伴って耐熱性や寸法安定性のより優れたものが要求されるようになってきた。そこで、耐熱性の向上を図るために、他の耐熱性高分子をブレンドしたり、アロイ化する等の方法がとられており、更には分子中に芳香族成分を導入したり、さらに耐熱性や寸法安定性の両者の向上を図るために、分子間を架橋したりしてポリアミド自体を改質する方法も提案され、このポリアミド自体を改質する方法についても一部では実用化されている。
【0003】
例えば、ポリアミドを構成する成分として脂肪族成分を少なくとも一部含有し、且つ、融点が280℃以上の熱可塑性ポリアミドからなる成形品に、放射線を照射して架橋反応させる耐熱性ポリアミド成形品の製造法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、ポリアミドフィルムの乾熱収縮率の低減と寸法安定性を向上させることができる。
さらに、架橋助剤を配合したポリアミド樹脂を放射線照射により架橋せしめた架橋ポリアミド樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この方法によれば、ポリアミド樹脂の半田耐熱性を向上させることができる。しかし、該公報に具体的に開示されているのは、電子線またはγ線照射を行ったナイロン12の薄い押出フィルムだけであり、このフィルムを適度に照射架橋することにより、350℃の半田浴に5秒間浸漬した場合に形状変化がなかったという半田耐熱性が示されているだけである。
【0004】
また、結晶性熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂と架橋助剤さらにヒンダードフェノール系熱安定剤を含有する組成物から得られる成形体を電子線照射することによって、少なくとも表層部が架橋された成形体であって、該成形体表層部の架橋度が内層部および下層部の架橋度より高いポリアミド樹脂成形体が開示されている(例えば、特許文献3参照)。この方法によれば、ポリアミド樹脂成形体の全体に高い架橋度を持つと共に表層部では特に高い架橋度を持ち、内層部や下層部では架橋度が低くなる。試料全体の高い架橋度は高温でのクリープ特性等の高温材料特性を向上させるとともに、高度な耐アーク性や、350℃、30秒と言う高温のハンダ浴の処理をしても溶融や成形体の変形が起こらず、極めて優れた耐ハンダ特性を向上させることができる。
【0005】
しかしながら、上記従来技術でヒンダードフェノール系の熱安定剤を用いるのは、結晶性熱可塑性樹脂と架橋助剤および他の配合剤を混練するときに架橋助剤等の比較的熱安定性の悪い化合物の熱劣化を防止することを主目的に配合するものであり、混練時のガスの多さや電子線照射時の着色を抑えることを想定するものではなかった。
さらに、架橋助剤を配合した架橋前の数平均分子量が30000以下であるポリアミド樹脂の成形体からなり、かつ電子線架橋されている転がり軸受用プラスチック保持器が開示されている(例えば、特許文献4参照)。この方法では、ポリアミド樹脂成形品の強度と、これを組み込んだ転がり軸受は、高温・高速回転条件下でも長時間の使用に耐え得る耐久性を向上させることができる。
【0006】
しかしながら、上記従来技術では真空下で電子線を照射しており、混合した架橋助剤がポリアミド樹脂成形品より揮発し、十分な架橋度が得られない場合があった。
また、高分子量のポリアミド樹脂と少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物を含有する樹脂組成物を、所望の形状に射出成形した後、照射架橋して得られる方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。より具体的には、この方法では、98%硫酸の1.0質量%濃度試料溶液を用いて25℃で測定した相対粘度ηrが2.2以上のポリアミド樹脂と少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物とを含有する樹脂組成物を、所望の形状に射出成形した後、照射架橋して得られ、さらに、25℃の98%硫酸に実質的に不溶解で、かつ、23℃で測定したアイゾット衝撃強度が、前記のポリアミド樹脂単体による成形品の衝撃強度以上で、かつ、60J/m以上であるポリアミド樹脂成形品が開示されている。この方法では、ポリアミド樹脂成形品の各種歯車や摺動部材に必要な特性である曲げ弾性率、耐衝撃性、ポリアミド樹脂ギアの耐久性さらに摺動性を向上させることができる。
【0007】
しかしながら、上記従来技術では成形流動性が低下する傾向にあり、成形時の残留応力やひずみが残り、摺動性部品としてギアの寸法が変化し、嵌合に不具合を生じる場合や、モジュール化された複雑な形状の摺動部品を成形する際に適さない場合があった。
以上のような問題から、優れた成形流動性を有し、好適な強度、剛性、耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水速度が低減されるポリアミド樹脂成形品が望まれていた。
【特許文献1】特開平3−64322号公報
【特許文献2】特開昭59−012936号公報
【特許文献3】国際公開第03/037968号パンフレット
【特許文献4】特開2004−28161号公報
【特許文献5】特開2002−146068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記の問題点を解決しうる耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水速度が低減されるポリアミド樹脂成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の範囲の相対粘度を有するポリアミド樹脂を選択して用い、そして、これに特定の架橋助剤と特定のタルク、窒化ホウ素から選ばれる、少なくとも1種以上の充填材、さらにリン系熱安定剤を配合した樹脂組成物を、厚さ10mm以下の所望の形状に射出成形した後、98%硫酸に実質的に不溶解となるまで照射架橋することにより、高温化での耐熱性が顕著に改善され、寸法安定性が極めて良好で、且つ、吸水速度が低減されたポリアミド樹脂成形品により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]JIS K6920−2に従って、98%硫酸にて測定した相対粘度が2.7以下の低分子量ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物(B)1〜10質量部、粒子径が0.1〜20μmのタルク、窒化ホウ素から選ばれる少なくとも1種類以上の充填材(C)100〜5000ppm、リン系熱安定剤(D)0.01〜10質量部からなる樹脂組成物を、所望の形状に射出成形した後、照射架橋して得られる23℃、98%硫酸に実質的に不溶解である厚み10mm以下のポリアミド樹脂成形品、
[2]所望の形状に射出成形した後、アニール処理(窒素雰囲気下180℃で4時間)後、照射架橋して得られるポリアミド樹脂成形品。
【発明の効果】
【0011】
耐熱性、寸法安定性に優れ、吸水速度の低減されたポリアミド樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂(A)は、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されないが、例えばポリカプロラクタム(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカラクタム(ポリアミド11)、ポリドデカラクタム(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))、およびこれらのうち少なくとも2種の異なったポリアミド形成成分を含むポリアミド共重合体、およびこれらの混合物などである。これらの中では、剛性、耐熱性の良好な点でポリアミド6およびポリアミド66が好ましく、ポリアミド66が特に好ましい。
【0013】
特にポリアミド66は、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12などと比べて、弾性率や機械的強度が高い一方、ポリアミド46、ポリアミド66/6Tなどと比べて成形温度が低いため、分解温度より充分に低い温度で成形することが可能であり、成形時の熱分解による分子量の低下が比較的少ない。また、ポリアミド66は、結晶化度がポリアミド46、ポリアミド66/6Tなどと比べて低いために、照射架橋しやすい特徴を有している。これらの特徴点もあって、ポリアミド66を用いて得られる照射架橋成形品は、耐熱性、寸法安定性が顕著に優れている。
本発明で使用するポリアミド樹脂(A)は、JIS K6920−2に従って、98%硫酸にて測定した相対粘度ηrが2.7以下の低分子量ポリアミドである。相対粘度がこの範囲にあるポリアミドを用いることで充填材が分散し易く、優れた成形流動性を有し、照射架橋によって寸法安定性と吸水性が顕著に優れたポリアミド樹脂成形品を得ることができる。 より好ましいポリアミド樹脂の相対粘度ηrは、2.6以下、更に好ましい相対粘度ηrは、2.5以下である。
【0014】
本発明で使用する少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物(B)としては、例えば、ポリマーの照射架橋の技術分野で一般に架橋助剤として知られている各種多官能モノマーを使用できる。その具体例としては、ジエチレングルコールなどのジアクリレート系化合物、エチレングリコールジメタクリレートなどのジメタクリレート系化合物、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのトリアクリレート系化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどのトリメタクリレート系化合物、トリアリルイソシアヌレートやトリアリルシアヌレートなどのトリアリルシアヌレート系化合物、ジアリルマレート、ジアリルフマレートなどが挙げられる。これらの中でも、架橋密度の高い成形品を得ることができ易い点で、トリアリルイソシアヌレートが特に好ましい。これらの有機化合物(B)は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0015】
少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物(B)の使用割合は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、1〜10質量部、好ましくは2〜5質量部である。有機化合物(B)をこの範囲にすることで耐熱性と生産時の負荷が低減できる。これらは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明で使用する充填材(C)は、タルク、窒化ホウ素から選ばれる少なくとも1種類以上の充填材であり、粒子径が0.1〜20μmである。より好ましい充填材の粒子径は1〜10μm、更に好ましい 粒子径は2〜8μmである。
充填材(C)の粒子径がこの範囲であることにより、ポリアミド樹脂成形品の機械的特性を損なわず、照射架橋によって寸法安定性と吸水性が顕著に良好となる。
【0016】
充填材(C)の使用割合は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、100〜5000ppmである。より好ましくは500〜2000ppm、更に好ましくは700〜1800ppmである。この範囲であれば、寸法変化が小さく、吸水速度が低減された成形品が得られる。
タルクは、4SiO・3MgO・HOの化学式で表され、含水ケイ酸マグネシウムと呼ばれる。通常はタルク鉱石をさまざまな手法で粉砕したものが使用される。
窒化ホウ素は、BNの化学式で表され、ボロンナイトライドと呼ばれる。通常、六方晶窒化ホウ素を用いることができる。
【0017】
本発明で使用するリン系熱安定剤(D)としては、一般的に樹脂に使われているものであれば特に制限はない。その具体例なリン系熱安定剤としては、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルージフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニルトリデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、テトラトリデシル−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)−ジホスファイト、4,4’−イソプロピリデン−ジフェノールアルキルホスファイト(但し、アリキルは炭素数12〜15程度)、4,4’−イソプロピリデンビス(2−t−ブチルフェノ−ル)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)1,1,3−トリス(2−メチル−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)ジホスファイト、テトラ(C1〜C15混合アルキル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、4’−イソプロピリデンビス(2−t−ブチルフェノール)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10−ジ−ヒドロ−9−オキサ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化−4,4’−イソプロピリデンジフェンールポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス(4,4’ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノ−ル))・1,6−ヘキサンオールジフォスファイト、ヘキサトリデシル−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェノール)ジホスファイト、トリス(4、4’−イソプロピリデンビス(2−t−ブチルフェノール))ホスファイト、トリス(1,3−ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2、2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2−メチレンビス(3−メチル−4,6−ジ−t−ブチルフェニル)2−エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイトおよびテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト 2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・フェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・メチル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2−エチルヘキシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・イソデシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ラウリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・イソトリデシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ステアリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・シクロヘキシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ベンジル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・エチルセロソルブ・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ブチルカルビトール・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・オクチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・ノニルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2,6−ジ−t−ブチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2,4−ジ−t−ブチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2,4−ジ−t−オクチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル・2−シクロヘキシルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル・フェニル・ペンタエリストリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−オクチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。中でも、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−t−アミル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2、6−ジ−t−オクチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが挙げられ、特にビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましい。
【0018】
上記リン系熱安定剤(D)は一種使用しても良いし、二種以上を組み合わせて使用しても良い。リン系熱安定剤の使用割合は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、更に好ましくは0.1〜1質量部である。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、これらの各成分を単軸混合機や2軸混合機などの通常の混合機を用いて混合することにより調製することができる。なお、必要に応じて、重合性官能基を有する有機化合物をポリアミド樹脂の主鎖に導入することにより、目的とする樹脂組成物を調製してもよい。
【0019】
以上、本発明のポリアミド樹脂組成物について詳述したが、本発明の目的を損わない範囲において、これら組成物にさらに他の樹脂ポリマー、無機充填剤、カーボンブラックやニグロシンなどの着色剤、核剤、酸化劣化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、難燃剤などを目的に応じて添加することができる。
その際、配合、混合、及び混練方法やそれらの順序には特に制限はなく、通常用いられる混合機、例えばヘンシェルミキサー、タンブラー、リボンブレンダー等で混合すればよい。混練機としては、通常、単軸又は2軸の押出機が用いられる。本発明の樹脂組成物を得るための混合順序に特に制限はない。溶融混練する方法としては各成分を一括して混練する方法、一部の成分を溶融混練後、更に残りの成分と溶融混練する方法等が挙げられる。また、一部の成分を溶融混練してペレットとし、残りの成分を溶融混練してペレットとし、それらをブレンドする方法も可能である。
【0020】
本発明による成形品は、押出機により、通常まず上記本発明の樹脂組成物からなるペレットを製造し、このペレットを圧縮成形、射出成形、押出成形等により任意の形状に成形して所望の樹脂製品とすることによって得られる。本発明は射出成形条件を特に限定するものではないが、成形温度が250℃〜310℃、金型温度が40℃〜120℃で成形することが好ましい。本発明では、射出成形により得られた射出成形品を照射架橋する。照射工程は、常温で実施することできるため、寸法変化の少ない成形品を得ることができる。さらに、本発明の成形品の厚みは10mm以下である。この範囲の厚みの成形品を用いることにより、電子線による損傷の少ない成形品を得ることができる。
【0021】
本発明による所望の形状に射出成形し得られたポリアミド樹脂成形品を、所定の条件(例えば、180℃×4時間)でアニール処理(熱処理)を行うことが好ましい。アニール処理によりポリアミド樹脂成形品の残留応力を取り除かれるとともに、結晶化度が高くなり、寸法安定性及び吸水性を向上させることが可能となる。
本発明の照射を行う方法としては、加速電子線、X線、α線、β線、イオン、コバルト60を線源とするγ線等を照射する方法が利用可能である。これらの中でも、電子線照射は、大気雰囲気下で、数秒単位の短時間で成形品の架橋をすることができるため、加工性に優れている。照射線量は、通常1〜1000kGy、より好ましくは10〜800kGy、更に好ましくは50〜500kGyである。
【0022】
本発明の成形品は、23℃、98%硫酸に実質的に不溶解である。ここで、実質的に不溶解であるとは、23℃、98%硫酸中に成形品を浸漬後、30分以上、元の形状を保っている状態をいう。
ポリアミド樹脂成形品の寸法安定性を飛躍的に向上させるためには、ポリアミド樹脂の分子鎖間が充分に架橋するまで照射することが必要であり98%硫酸に不溶解、すなわち相対粘度ηrが測定不能となるまで照射を行う。この電子線照射は、大気中で行うこともできるが、樹脂の劣化を考慮してアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で行うと更に好適である。また、真空下で行うことも可能である。照射線量が高すぎる場合には、ポリアミド樹脂の主鎖の分解が進行し、架橋分子間に形成される分子鎖の網目構造が小さくなるため、靭性が低下する。
【0023】
照射の際には、射出成形品が吸湿しないように乾燥状態を維持したままで照射することが、吸湿による寸法変化を抑制する上で望ましい。小規模生産の場合には、例えば、射出成形品をポリエチレン袋等に封入し、乾燥状態を維持したまま照射する方法がある。大規模生産の場合には、射出成形工程から照射工程の間を乾燥雰囲気に調整する方法が挙げられる。
このようにして得られるポリアミド樹脂成形品は、母材であるポリアミド樹脂が架橋されて高分子量化しており、従来よりも優れた耐熱性や寸法安定性を有し、さらには吸水速度が低減されている。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。物性等の測定法は、以下のとおりである。物性等の測定は、サンプルを乾燥状態(通常は、いわゆる絶乾状態)に維持して行った。
[1]原料
1)ポリアミド樹脂(A)
ポリアミド樹脂(a):ポリアミド66
硫酸相対粘度(JIS K6920−2 98%HSO)2.4
ポリアミド樹脂(b):ポリアミド66
硫酸相対粘度(JIS K6920−2 98%HSO)3.2
2)有機化合物(B)
有機化合物 :日本化成(株)製「TAIC」(トリアリルイソシアヌレート)
3)充填材(C)
タルク(a):日本タルク(株)製「ミクロエースL−1」平均粒子径:4.9μm
タルク(b):富士タルク(株)製「NK−48」平均粒子径:26μm
窒化ホウ素 :電気化学工業(株)製「デンカボロンナイトライドHGP」平均粒子径:8μm
4)リン系熱安定剤(D)
リン系熱安定剤 :旭電化工業(株)製「アデカスタブPEP−36」 ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)
【0025】
[2]測定
(1)試験片の作製
東芝機械IS150E射出成形機を使用して、樹脂温度280℃、金型温度80℃で、平板状成形片(65mm×90mm×3mm及び、65mm×90mm×15mm)をそれぞれ作製した。
日精樹脂製PS40E射出成形機を使用して、樹脂温度280℃、金型温度80℃の成形条件にて、厚さ3mmのASTMタイプ1を成形し、耐熱性測定用の成形片を作製した。
(2)相対粘度
JIS K6920−2に準拠し、98%硫酸を用いてポリアミド樹脂の1.0質量%濃度の試料溶液を作成し、25℃で相対粘度を測定した。具体的には、25℃で、試料溶液の粘度ηと、98%硫酸の粘度η0を測定し、次式により相対粘度ηrを求めた。
ηr=η/η0
【0026】
(3)耐熱性(Tg)
耐熱性は、ASTMタイプ1の短冊型成形片を用い、Rheometrics社製粘弾性測定装置:RDA−II(Rheometrics Dynamic Analiyzer)にて、温度範囲:0〜200℃、昇温速度:2.0℃/min、周波数:10Hzで測定し、tanδのピークトップをTgとして求めた。
(4)吸水寸法変化
平衡吸水率および平衡吸水時の寸法変化率評価は平板状成形片(65mm×90mm×3mm)を使用した。吸水率および吸水時の寸法変化率:上記の方法で作製した試験片を、80℃の温水中に48時間浸漬した時の吸水率を下記の式(1)より、またその時の寸法変化率を下記の式(2)より求めた。
飽和吸水率(%)=〔(W1−W0)/W0〕×100 (1)
〔式中、W0は成形直後の質量を、W1は飽和吸水時の質量を表す。〕
飽和吸水時の寸法変化率(%)=〔(L1−L0)/L0〕×100(2)
〔式中、L0は成形直後の寸法(流動方向)を、L1は飽和吸水時の寸法(流動方向)を表す。〕
【0027】
(5)23℃、98%硫酸に対する溶解性
平板状成形片を用いて、電子線照射装置で電子線を照射した。この時の照射線量は、250kGyであり、具体的には、50kGyの線量にて5回照射した。その照射した試験片を用いて23℃、98%硫酸中に成形品を浸漬後、30分以上、元の形状を保っている場合を不溶解とし、溶媒を含み成形品が膨張した場合を膨潤とした。
(6)成形品の色調
成形品の色調を目視にて評価した。
○ : 成形品はほとんど着色せず白い。
△ : 成形品はやや着色しており、やや黄色い。
× : 成形品の着色がひどく、褐色である。
【0028】
[実施例1]
2軸押出機(東芝機械(株)製TEM35BS、L/D=47.6、設定温度:280℃、回転数:300rpm)を用いて押出し機最上流部に設けられたトップフィード口より表1に示した種類と配合量のポリアミド樹脂(A)、充填材(C)および、リン系熱安定剤(D)を事前にブレンド後供給し、押出し機下流側(トップフィード口より供給された樹脂が十分溶融している状態)より有機化合物(B)を液体の状態で供給し、ダイヘッドより押し出された溶融混練物をストランド状で冷却し、ペレタイズしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。得られたポリアミド組成物について、上記の方法で成形し、評価試験片の平板は電子線照射装置で電子線を照射した。ポリアミド樹脂組成物の組成及び評価した結果を表1に示す。
【0029】
[実施例2]
充填材(C)の種類を表1に示す種類に変更した以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
ポリアミド樹脂(A)の種類を表1に示す種類に変更した以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0031】
[比較例2]
有機化合物(B)を添加しなかった以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0032】
[比較例3]
充填材(C)を表1に示す種類に変更した以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0033】
[比較例4]
充填材(C)を添加しなかった以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0034】
[比較例5]
リン系熱安定剤(D)を添加しなかった以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0035】
[比較例6]
表1に示す厚み15mmのポリアミド樹脂成形品を使用した以外は実施例1と同様に組成物を得、評価を実施した。その組成および評価結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
表1から明らかなように、実施例の成形品は、いずれも照射架橋により耐熱性(Tg)、寸法安定性及び吸水性が大幅に向上しており、色調の変化も少ないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のポリアミド樹脂成形品は、耐熱性、寸法安定性、吸水性に優れ、更に色調の変化が少ない為、厳しい寸法精度や耐熱性が要求される電子・電気部品や自動車用部品に好適に利用されることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6920−2に従って、98%硫酸にて測定した相対粘度が2.7以下の低分子量ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、少なくとも2個の重合性官能基を有する有機化合物(B)1〜10質量部、粒子径が0.1〜20μmのタルク、窒化ホウ素から選ばれる少なくとも1種類以上の充填材(C)100〜5000ppm、リン系熱安定剤(D)0.01〜10質量部からなる樹脂組成物を、所望の形状に射出成形した後、照射架橋して得られる23℃、98%硫酸に実質的に不溶解である厚み10mm以下のポリアミド樹脂成形品。
【請求項2】
所望の形状に射出成形した後、アニール処理(窒素雰囲気下180℃で4時間)後、照射架橋して得られる請求項1に記載のポリアミド樹脂成形品。

【公開番号】特開2007−246561(P2007−246561A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68153(P2006−68153)
【出願日】平成18年3月13日(2006.3.13)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】