説明

ポリアミド樹脂組成物、および成形体

【課題】曲げ特性および耐熱性を維持しつつ、軽量性、ブロー成形性および表面平滑性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、繊維状粘土鉱物(B)およびカップリング剤(C)を含有し、各成分の質量比率が下記式(I)および(II)を満足するものであり、かつダイスウェル指数が1.1以上、ドローダウン指数が1.5以下であることを特徴とする。
(A)/(B)=75/25〜95/5 (I)
(C)/{(A)+(B)}=0.5/100〜8/100 (II)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関するものである。さらに、該ポリアミド樹脂組成物を含有する成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は優れた機械的特性(曲げ特性)や耐熱性を有しており、自動車部品などの用途をはじめ、様々な成形体に使用されている。自動車部品用途における各種成形体の中でも、例えばダクト類やタンク類には、加工性および成形後の製品強度に優れる観点から、ブロー成形体が好適に使用されている。
【0003】
ポリアミド樹脂は一般的に溶融粘度が低いため、ブロー成形に適した材料にするための、様々な方法が検討されている。例えば、高粘度ポリアミド樹脂およびガラス繊維を含有するブロー成形用ポリアミド樹脂組成物(特許文献1)や、高粘度ポリアミド樹脂および高粘度の耐衝撃材を含有するブロー成形用材料(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−132908号公報
【特許文献2】特開2007−126591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にて得られたガラス繊維を含有するポリアミド樹脂組成物は、高温環境下での剛性が高いという利点があり、耐熱性が必要とされる用途において好適に用いられるものである。しかしながら、特許文献1の場合には、ガラス繊維の配合に起因して、溶融樹脂自体が硬くなり、つまり、変形させ難い樹脂組成物となってしまう。その結果、複雑な形状の成形体を得ることが難しいという問題がある。また、ガラス繊維は、成形体の表面においてフィラー浮きの原因となりやすく、特に、ブロー成形においては、金型と接しない成形体の内壁側での表面荒れが顕著に発現する。その結果、ブロー成形によりダクト類を得る場合には、成形体の表面(内表面)が平滑でないため通気抵抗が大きくなってしまい、吸気効率が低下してしまうという問題があった。加えて、ガラス繊維の密度が高いため軽量性に劣り、用途が限定されてしまうという問題があった。
【0006】
さらに、特許文献2にて得られたブロー成形用材料は、ブロー成形性は良好であるが、耐衝撃材の配合により樹脂組成物の剛性や熱変形温度が低下してしまい、高温環境下では使用できないという問題があった。
【0007】
したがって、本発明の課題は、上記のような問題点を解決しうる、曲げ特性、軽量性、ブロー成形性(つまり、破損がなく均一な肉厚のブロー成形体を得ることができるという性質)および内表面平滑性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリアミド樹脂(A)、繊維状粘土鉱物(B)、カップリング剤(C)を特定の割合で含有し、かつダイスウェル指数が1.1以上、ドローダウン指数が1.5以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物は、上記目的を達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
(1)ポリアミド樹脂(A)、繊維状粘土鉱物(B)およびカップリング剤(C)を含有し、各成分の質量比率が下記式(I)および(II)を満足するものであり、かつダイスウェル指数が1.1以上、ドローダウン指数が1.5以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(A)/(B)=75/25〜95/5 (I)
(C)/{(A)+(B)}=0.5/100〜8/100 (II)
(2)繊維状粘土鉱物(B)がセピオライトおよび/またはパリゴルスカイトであることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)カップリング剤(C)が、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1つ以上の官能基を含有することを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物。
(4)結晶化遅延剤(D)を含有し、その質量比率が下記式(III)を満足することを特徴とする(1)〜(3)いずれかのポリアミド樹脂組成物。
(D)/{(A)+(B)}=0.01/100〜25/100 (III)
(5)結晶化遅延剤がニグロシンであることを特徴とする(4)のポリアミド樹脂組成物。
(6)合成フッ素雲母および/またはヘクトライトから選ばれる層状ケイ酸塩(E)を含有し、その質量比率が下記式(IV)を満足することを特徴とする(1)〜(5)いずれかのポリアミド樹脂組成物。
(E)/{(A)+(B)}=0.1/100〜10/100 (IV)
(7)水分率が2000ppm以下であることを特徴とする(1)〜(6)いずれかのポリアミド樹脂組成物。
(8)(1)〜(7)いずれかのポリアミド樹脂組成物を含むことを特徴とするブロー成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、曲げ特性および耐熱性を維持しつつ、従来の強化材で強化されたポリアミド樹脂と比較して、軽量性、ブロー成形性および内表面平滑性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)は、ポリアミド樹脂(A)[以下、単に「成分(A)」と称する場合がある]、繊維状粘土鉱物(B)[以下、単に「成分(B)」と称する場合がある]およびカップリング剤(C)[以下、単に「成分(C)」と称する場合がある]を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ダイスウェル指数が1.1以上であり、ドローダウン指数が1.5以下であることを必須とする。なお、ダイスウェル指数およびドローダウン指数の定義および求め方については、後述する。
【0012】
本発明における成分(A)とは、アミノカルボン酸、ラクタム、またはジアミンとジカルボン酸を主たる原料とし、アミド結合を主鎖内に有する重合体である。
アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等が挙げられる。
【0013】
ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等が挙げられる。ジカルボン酸としては、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。なお、これらのジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
【0014】
成分(A)の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカアミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)およびこれらの混合物、あるいはこれらの重合体等が挙げられる。上記の中でも、耐熱性に優れ、成形加工が容易である観点から、ナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0015】
本発明における成分(B)は、繊維状の含水マグネシウム珪酸塩鉱物であることが好ましい。なかでも、ポリアミド樹脂中への分散の容易性、得られたポリアミド樹脂組成物の溶融粘土の上昇を抑制しやすい観点から、特に、セピオライト、パリゴルスカイトが好ましく用いられる。
【0016】
セピオライト、パリゴルスカイトに代表される成分(B)の基本的な構造を以下に説明する。
成分(B)は、八面体の酸化マグネシウム層を中心層として、その両側に正四面体の珪酸塩層が配された三層構造を有するものである。この三層構造はX軸方向(繊維長方向)に沿って伸びているため、成分(B)の結晶は繊維状(繊維状結晶)となる。また複数の繊維状結晶が繊維方向に沿って凝集することもある。
また、正四面体の珪酸塩層は数単位ごとにZ軸上で反転して結合しているため、八面体の酸化マグネシウム層は不連続層となり、繊維断面にゼオライト孔を形成する。また、成分(B)は、X軸方向に沿って、多数のシラノール基(Si−OH基)を有している。そのため、前記ゼオライト孔と粒子間の空隙には水などの極性の高い物質が浸入しやすいという性質を有する。
【0017】
上記のように、本発明における成分(B)は、他の粘土鉱物と比較して繊維状でありながらも、多孔性である。そのため、嵩高い反面、ポリアミド樹脂との親和性に優れ、高密度となることなく樹脂組成物中に配合することができ、効果的に曲げ特性を向上させることができる。すなわち、成分(B)が成分(A)中に十分に分散することにより、本発明の樹脂組成物は、密度が低く軽量性に優れ、かつ曲げ特性に優れるものとなる。
【0018】
本発明の樹脂組成物において、成分(A)と成分(B)の含有比率は、質量比で、(A)/(B)=75/25〜95/5であることが必要であり、80/20〜90/10であることが好ましい。成分(B)の配合量が5質量部未満であると、成分(A)の強化効果が不十分となることや、粘度が低くなり過ぎることに起因して、後述するドローダウン指数が大きくなり過ぎてしまうという問題がある。一方、25質量部を超えると、得られた樹脂組成物が脆くなったり、粘度が高くなり過ぎることに起因して、後述するダイスウェル指数が小さくなり過ぎてしまったりするという問題がある。
【0019】
本発明において、成分(C)とは、成分(A)および成分(B)と親和性または反応性を有する官能基を含有する化合物である。成分(C)によって、成分(A)と成分(B)との密着性を高め、曲げ特性などの機械特性を向上させることができる。
【0020】
加えて、成分(C)を含有させることにより、成分(A)と成分(B)が化学的に結合され、得られる樹脂組成物の溶融粘度が増大する。特に、セピオライト、パリゴルスカイトに代表される成分(B)はその表面にSi−OHが多く存在しているため、他の無機充填材に比べて溶融粘度の増大効果が非常に大きい。そのため、成分(C)との相乗効果により、溶融粘度を効果的に増大させることが可能となる。溶融粘度が増大することによって、後述するダイスウェル指数とドローダウン指数が改善し、ブロー成形に適した樹脂組成物となり得る。
【0021】
さらに、成分(C)を含有させることにより、得られる樹脂組成物の結晶化速度を遅くすることができ、ブロー成形性をより向上させることが可能となる。
【0022】
成分(C)として用いることのできる化合物としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤が挙げられる。なかでも、成分(B)との反応性の観点からシランカップリング剤が好ましい。さらに、成分(B)との反応性の観点からアルコキシシラン化合物が好ましい。
【0023】
このようなアルコキシシラン化合物の具体例としては、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリルーN−(1,3−ジメチルーブチリデン)プロピルアミン、N−フェニルー3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有アルコキシシラン化合物、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどのアクリロキシ基含有アルコキシシラン化合物、3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0024】
また、上述の親和性または反応性を有する官能基としては、成分(A)との反応性に優れる観点から、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1つ以上であることが好ましい。
【0025】
つまり、成分(C)としては、成分(A)との反応性の観点からエポキシ基含有アルコキシシラン、アミノ基含有アルコキシシラン、ウレイド基含有アルコキシシラン、イソシアネート基含有アルコキシシランであることが特に好ましい。
【0026】
本発明において、成分(C)の含有量は、質量比で、(C)/{(A)+(B)}=0.5/100〜8/100であることが必要であり、好ましくは3.0/100〜7.5/100であり、より好ましくは5.2/100〜7.2/100である。上記の範囲においては、成分(C)の含有量が増加するとともに、得られる樹脂組成物の溶融粘度が増大し、それによってダイスウェル指数が増大し、またドローダウン指数が低減する傾向がある。
【0027】
成分(C)の配合量が0.5質量部未満であると、溶融粘度が十分に増大せず、粘度が低すぎることに起因して、得られる樹脂組成物のドローダウン指数が過大となり、パリソンのドローダウンが過度に起きてしまい、成形体が得られなかったり、得られたとしても厚みが均一でなかったりするという問題がある。一方、8質量部を超えると、溶融粘度の増大が顕著となり過ぎてしまうことに起因して、ダイスウェル指数が過小となり、成形体としたときに破れが生じてしまう。
【0028】
本発明の樹脂組成物には、成分(A)、成分(B)および成分(C)に加えて、さらに結晶化遅延剤(D)[以下、成分(D)]が含有されていることが好ましい。成分(D)を含有することにより、成分(A)の結晶化温度を低下させることができる。その結果、ブロー成形時のパリソン形成性が改善する。一般的に、ポリアミドは結晶化速度が速く、溶融状態からの固化が早い材料であるが、これにフィラーが配合されると、さらに固化が早くなってしまい、パリソンが金型に転写されるより前に固化してしまい、目的の形状の成形品が得られなくなるという問題がある。本発明では、成分(D)を配合することにより、パリソンの固化時間を長くすることができ、上記の問題を防ぐことができる。
【0029】
成分(D)としては、MXD−6(メタキシレンジアミンとアジピン酸から得られるポリアミド)、非晶性ポリアミド、ニグロシンなどが挙げられる。なかでも、ブロー成形体とした場合に、該成形体に容易に黒色を付与しうることができるため、顔料であるニグロシンが好ましく用いられる。加えて、成分(D)としてニグロシンを用いた場合には、成分(C)との相乗効果により、後述のダイスウェル指数、およびドローダウン指数を、容易に特定の数値範囲内にすることが可能になるという顕著な効果を奏することができる。
【0030】
成分(D)の含有量は、成分(A)と成分(B)との合計100質量部に対して、0.01〜25質量部であることが好ましく、0.1〜5質量部であることがより好ましい。成分(D)の含有量が0.01質量部未満であると、結晶化温度を低下させる効果が不十分となる場合がある。一方、20質量部を超えると、得られる樹脂組成物の曲げ特性や耐熱性が低下してしまう場合がある。
【0031】
本発明の樹脂組成物には、成分(E)として、層状ケイ酸塩である合成フッ素雲母および/またはヘクトライトが含有されていてもよい。成分(E)を配合することにより、得られる樹脂組成物のガスバリア性を高めることができる。
【0032】
成分(E)の含有量は、成分(A)と成分(B)との合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、1〜5質量部であることがより好ましい。成分(E)の含有量が0.1質量部未満であると、ガスバリア性向上の効果が不十分となる場合がある。一方、10質量部を超えると、溶融樹脂が固くなり、後述するダイスウェル指数が過小となってしまう。
【0033】
本発明におけるダイスウェル指数とドローダウン指数について、以下に説明する。
本発明におけるダイスウェル指数とドローダウン指数は、ともにブロー成形性を判断する指標である。本発明においては、樹脂組成物の組成を特定のものとしたり、混練条件を特定のものとしたりすることにより、架橋反応を十分に進行させることができ、その結果、ダイスウェル指数とドローダウン指数とを、特定の範囲に制御することができる。
【0034】
ダイスウェルとは、バラス効果とも呼ばれ、溶融樹脂がダイから押し出された直後に膨れ上がり、溶融樹脂の断面がダイ径よりも大きくなる現象のことをいう。ダイスウェルの性質を十分有する樹脂組成物は、溶融状態での粘りが強く、それゆえにブロー成形において、ガスを吹き込んだ際に複雑な金型に用いられても、金型に良好に追随することができ、金型表面をうまく転写することができる。
【0035】
本発明においては、ダイスウェル指数は1.1以上であることが必要であり、1.2以上であることが好ましい。溶融粘度が高くなり過ぎたり、不適なフィラーを配合した場合は、ダイスウェル指数が1.1未満となり、溶融された樹脂組成物が非常に硬い性質を有するものとなってしまう。その結果、ガスの吹き込みによる成形が困難となったり、複雑な形状の金型を用いて成形した場合、金型表面を十分転写することなく固化したり、成形体が途中で破れてしまったりするという問題がある。また、溶融粘度が低すぎる場合にも、ドローダウンが起こってしまい、結果的にダイスウェル指数が1.1未満となる場合があるが、この場合は、成形品の肉厚が不均一となりやすいという問題がある。
【0036】
本発明におけるダイスウェル指数とは、以下のようにして求められる。
直径2.09mmのオリフィスを設置したメルトインデクサーを用いて、樹脂組成物を275℃に加熱溶融させる。十分に予熱を行った後(通常は、6分程度の予熱をおこなう)、MVR(メルトボリュームレイト)が7.5cm/10分となるように荷重を調整し、メルトインデクサーから溶融樹脂のストランドを流出させる。ストランドの下端が基準点を通過した時間を0秒とし、基準点からの距離と、ストランドの下端が、基準点を起点として下記の所定距離を通過するまでの時間を記録し、下記式を用いてダイスウェル指数を求めることができる。
【0037】
(ダイスウェル指数)=t/t
なお、tはストランド下端が190mm点を通過する時間である。tはオリフィス径のままでストランド下端が190mm点を通過する時間であり、52.15秒の値を用いる。
【0038】
一方、ドローダウンとは、ダイから押し出された溶融樹脂が自重により下方へ引き延ばされて垂れ落ちる現象のことをいう。ドローダウンが起きると、パリソンの上部と下部で肉厚差が生じてしまい、均一な肉厚のブロー成形体を得ることが困難となる。また、ドローダウンが過度に生じる場合は、パリソンを維持することができないため、ブロー成形自体が不可能となる。
【0039】
本発明において、ドローダウン指数は1.5以下であることが必要であり、1.4以下であることがより好ましい。溶融粘度が低くなり過ぎると、ドローダウン指数が1.5を超えるものとなり、ブロー成形時にパリソンのドローダウンが過度に起きてしまう。その結果、成形体が得られないか、または成形体が得られたとしても、該成形体の肉厚が均一なものとならず、偏肉を起こしてしまう。
【0040】
本発明におけるドローダウン指数とは、以下のようにして求められる。
上述したダイスウェル指数と同様な手法により、樹脂組成物のストランドを流出させ、ストランドの下端が基準点を通過した時間を0秒とし、基準点からの距離と、ストランドの下端が基準点を起点とし、下記の所定距離を通過するまでの時間を記録し、下記式を用いてドローダウン指数を求める。
【0041】
(ドローダウン指数)=T/T
なお、Tは、単位時間あたりに150mmから190mmまで、ストランド長を変化させた場合における変化率である。Tは、単位時間あたりに0mmから40mmまで、ストランド長を変化させた場合における変化率である。
【0042】
なお、TおよびTは、下記式により求められる。
Tx=40/t
ここで、tは所定距離間を通過するのに要した時間である。
【0043】
なお、本発明の樹脂組成物の溶融粘度特性は、メルトフローレイト(MFR)で評価することができる。本発明の樹脂組成物においては、上述のダイスウェル指数、およびドローダウン指数を適切な範囲に調整する観点から、275℃、5kgの荷重を用いて測定したMFRが0.1〜7g/10分であることが好ましく、0.3〜3g/10分であることがより好ましい。
【0044】
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。
本発明の樹脂組成物の製造方法は、以下の方法を用いることができる。
すなわち、ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーを、前記モノマーの融点以上の温度Tで溶融させた後、さらに繊維状粘土鉱物(B)を混合する工程(i)(つまり、混合工程)と、該工程(i)で得られた混合物を溶融重合する工程(ii)(つまり、溶融重合工程)とを含むものである。すなわち、成分(A)を構成するモノマーと、成分(B)の混合物を調製してスラリー状とし、該混合物を溶融重合に付する方法である。この製造方法によれば、繊維状粘土鉱物(B)を十分に分散させ、曲げ特性に優れた樹脂組成物が得られるという効果を奏することができる。
【0045】
なお、カップリング剤(C)は、工程(i)において、成分(A)を構成するモノマーおよび成分(B)とともに混合される。または、後述の工程(ii)の後において、成分(A)および成分(B)を含有する組成物に溶融混練される。
【0046】
まず、工程(i)について説明する。
工程(i)において、カップリング剤(C)を混合することによる利点を以下に説明する。工程(i)において、成分(C)を混合することにより、成分(A)および成分(B)の親和性または密着性を向上させることができ、成分(C)によって成分(A)と成分(B)の界面破壊が抑制され、溶融粘度が適切な範囲で増大する。特に(B)はその表面にSi−OHが多く存在しているため、他の無機充填材に比べて、非常に効率よく溶融粘度を向上させることができる。そのため、成分(B)と成分(C)との相乗効果により、効果的に、かつ適切な範囲で、得られる樹脂組成物の溶融粘度を増大させることができる。
【0047】
工程(i)で成分(C)を添加すると、成分(C)の配合量が少量でも溶融粘度の増大が十分見込め、さらには製造工程が簡略化できるために工業的に大いに有益である。しかしながら、後述の工程(ii)中に、溶融粘度が過度に増大してしまう場合があるため、注意が必要である。この場合、重合装置内を高圧にすることで重合装置から払い出すことができる。
【0048】
成分(B)を工程(i)で用いる際の形態は、成分(A)を構成するモノマー中における分散性を向上させることができれば特に制限されるものではない。粉末が凝集されて繊維状となったものであれば分散させやすいため、特に好ましい。
【0049】
工程(i)における混合方法は、成分(A)を構成するモノマー、成分(B)、および成分(C)を混合させる場合には成分(C)が均一に混合されるものであれば、特に限定されない。工程(i)としては、まず成分(A)を構成するモノマーを加熱攪拌しながら成分(A)を構成するモノマーを溶融状態にさせ、その後、成分(B)および成分(C)を混合することが好ましい。このように混合を行うことで、成分(B)の分散性がより向上する。
【0050】
なお、工程(i)の加熱温度は、成分(A)を構成するモノマーが溶融する温度、すなわち、成分(A)を構成するモノマーの融点以上の温度である必要がある。例えば、ポリアミド樹脂を構成するモノマーとして、ε−カプロラクタムを用いた場合は,加熱温度を69℃以上にして溶融させることが好ましい。また、アジピン酸/ヘキサメチレンジアミンの等モル塩を用いた場合は、加熱温度を202℃以上にして溶融させることが好ましい。また、工程(i)の攪拌条件に関する攪拌翼の形状や回転数などは特に限定されるものではない。
【0051】
工程(i)に用いる混合を行うための装置としては、公知の混合装置を用いることができる。そのような混合装置としては、プロペラミキサー、タービンミキサー、ホモミキサーのような攪拌機を用いることができる。なかでも、取扱いの点でホモミキサーを用いることが好ましい。
【0052】
工程(i)においては、後述の工程(ii)での重合反応を促進させることを目的として、リン酸や亜リン酸などの各種の有機酸が混合されてもよい。
【0053】
次に、工程(ii)について説明する。
工程(ii)は、工程(i)にて得られた混合物を、溶融重合する工程である。溶融重合の条件は、特に制限されないが、重合効率を向上させる観点から、重合温度240〜280℃で、重合時間0.5〜3時間とすることが好ましい。
【0054】
上記の工程(i)にてシランカップリング剤(C)を混合させることに代えて、上記の工程(ii)の後に、カップリング剤(C)を加えて溶融混練する工程(iii)(つまり、溶融混練工程)が設けてられてもよい。
【0055】
工程(iii)において成分(C)を混合することで、成分(A)および成分(B)との親和性または密着性を向上させることができる。加えて、成分(C)によって成分(A)と成分(B)の界面破壊が抑制され、溶融粘度が増大する。特に(B)はその表面にSi−OHが多く存在しているため、他の無機充填材に比べて耐衝撃向上効果が非常に大きい。したがって、成分(B)と成分(C)との相乗効果により、効果的に、得られる樹脂組成物の溶融粘度を増大させることができる。さらに、工程(ii)で得られた成分(A)および成分(B)からなるポリマーに、成分(C)を工程(iii)によって添加すると、重合装置内を高圧にする必要がないため、大気圧下での取り扱いが可能である。また、溶融混練時に、成分(C)に加えて、他の添加剤も併用することができるという利点がある。
【0056】
工程(i)または工程(iii)で成分(C)を添加する場合における成分(C)の配合量は、成分(A)と成分(B)との合計100質量部に対して0、5〜8質量部であることが必要であり、好ましくは3.0〜7.5質量部であり、より好ましくは、5.2〜7.2質量部である。成分(C)の配合量が0.5質量部未満であると、得られる樹脂組成物の溶融粘度の増大が不十分となり、つまり溶融粘度が十分に増大せず、得られる樹脂組成物のドローダウン指数が過大となるため、パリソンのドローダウンが過度に起きてしまい、成形体が得られなかったり、得られたとしても厚みが均一でなかったりするという問題がある。一方、8質量部を超えると、溶融粘度の増大が顕著となり過ぎてしまい、樹脂組成物を得ることが困難になったり、また得られた樹脂組成物のダイスウェル指数が過小となり、成形体としたときに破れが生じてしまう。
【0057】
上述の製造方法において、従来の粘土鉱物(例えば、合成フッ素雲母やスメクタイトなど)を用いた場合は、工程(ii)中で分散が起こるため、ポリマーの溶融粘度が増大しすぎるという問題があった。そのため、粘土鉱物の添加量を増やすことができず、補強効果を十分発現することができなかった。
【0058】
しかしながら、本発明においては、特定の繊維状粘土鉱物を用いているため、工程(ii)における溶融粘度が過度に増大することを抑制することができ、かつ溶融粘度を好ましい範囲に制御することができるため、ドローダウン指数およびダイスウェル指数を特定の範囲とすることができる。従って、繊維状粘土鉱物の樹脂組成物への添加量を多くすることができ、曲げ特性向上効果とブロー成形性のいずれをも、十分に発現させることが可能である。
【0059】
本発明の樹脂組成物に、成分(D)を含有させる場合は、上記の工程(i)〜(iii)のうち、工程(iii)にて配合させることが好ましい。工程(iii)にて配合させることにより、成分(A)の重合反応を阻害させることがなく、また重合装置の汚染も防ぐことができるという利点がある。
【0060】
本発明の樹脂組成物に、成分(E)を含有させる場合は、上記の工程(i)〜(iii)のうち、工程(i)にて配合させることが好ましい。工程(i)にて配合させることにより、成分(E)の分散を高め、ガスバリア性の向上効果を最大限に発現させることができる。または、同様の効果を発現させるために、あらかじめ成分(E)を配合させた層状ケイ酸塩配合ポリアミド樹脂を作製し、該層状ケイ酸塩配合ポリアミド樹脂を上記工程(iii)にて配合することも可能である。
【0061】
本発明の樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、着色防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型安定剤等の添加剤を添加してもよい。
【0062】
本発明の樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、必要に応じて他の重合体を配合することも可能である。このような重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレンなどのエラストマー、およびこれらの無水マレイン酸などによる酸変性物、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−フェニルマレイミド共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0063】
本発明で得られた樹脂組成物をブロー成形加工方法に付することにより、本発明の成形体を得ることができる。
【0064】
本発明の樹脂組成物は、曲げ特性や耐熱性を維持しつつ、従来の繊維で強化されたポリアミド樹脂と比較して、密度が低く軽量であり、さらにはブロー成形性に優れるものである。加えて、成形体としたときの内表面平滑性にも優れる。そのため、自動車用部品、電気部品に用いることができ、自動車の吸排気ダクト等のダクト類や燃料タンクなどのタンク類として使用できる。
【実施例】
【0065】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0066】
1.原料
(1)ポリアミド樹脂を構成するモノマー成分
・A−1
ε−カプロラクタム(宇部興産社製;融点Tm:69℃)
・A−2
アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン等モル塩
【0067】
(2)繊維状粘土鉱物
・B−1
セピオライト(TOLSA社製、商品名「PANGEL HV」)
・B−2
パリゴルスカイト(昭和KDE社製、商品名「POLEISY」)
【0068】
(3)カップリング剤
・C−1
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−403」)
・C−2
3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBE−585」)
・C−3
3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBE−9007」)
・C−4
3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−903」)
・C−5
3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−503」)
・C−6
チタンカップリング剤 2−n−ブトキシカルボニルベンゾイルオキシトリブトキシチタン(日本曹達社製、商品名「S−181」)
【0069】
(4)結晶化遅延材
・D−1
ニグロシン(オリエント化学社製、商品名「Cramity81」)
・D−2
非晶性ポリアミド樹脂:イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ビス(3−メチル−4アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体(ユニチカ社製、商品名「CX−3000」)
【0070】
(5)その他添加材
・E
ヘクトライト(Elementis Specialities社製、商品名「BentoneHC」)
・F
ガラス繊維(オーウェンスコーニング社製、商品名「MAFT692」)
【0071】
以下に、実施例および比較例で用いた評価方法を示す。なお、以下のうち、(1)、(2)、(3)および(10)については、射出成形機(東芝機械社製、商品名「EC−100」)を用い、シリンダー温度270℃、金型温度80℃にて射出成形した試験片を用いて評価を行った。また、以下のうち、(5)、(6)、(7)および(9)においては、ブロー成形機(石川島播磨重工業社製、商品名「IPB−10」)を用い、シリンダー温度275℃、吐出量15kg/h、ダイ外形80mm、肉厚2mmでパリソンを押出し、金型温度80℃、ブロー空気圧8kgf/cmでブロー成形した試験片を用いて評価をおこなった。
【0072】
2.試験方法
(1)密度
射出成形により得られた試験片(長さ100mm、幅10mm、厚さ4mm)より、10mm角の切片を切り出し、ISO1183に準拠して測定した。
【0073】
(2)曲げ弾性率(GPa)
射出成形により得られた試験片(長さ100mm、幅10mm、厚さ4mm)について、ISO178に準拠して、曲げ弾性率(GPa)を測定した。本発明においては、4GPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0074】
(3)荷重たわみ温度(℃)
射出成形により得られた試験片を用い、ISO75にしたがって、曲げ応力1.80MPaの条件下において、フラットワイズ法で測定した。本発明においては、80℃以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0075】
(4)水分率
得られた樹脂組成物からペレットを作製した。該ペレットの水分率を、カールフィッシャー滴定法により、205℃の加熱条件で測定した。
【0076】
(5)内表面平滑性
ブロー成形により得られた直方体箱型の容器(幅50mm×奥行き50mm×高さ100mm、厚み:1.0〜1.5mm)を、高さ方向に切断した。得られた容器の内面について、任意の10点の表面粗さを、表面粗さ測定器(小坂研究所社製、「サーフコーダSE−3400」)を用いて測定し、該10点における平均粗さ(Rz)(μm)を求めた。本発明においては、平均粗さが10μm以下であることが望ましい。
【0077】
(6)成形品の破れ
ブロー成形により得られた直方体箱型容器(幅50mm×奥行き50mm×高さ100mm、厚み:1.0〜1.5mm)について、その外観を目視にて観察した。以下の基準で評価した。
○:容器にまったく破れがなかった。
×:容器の一部に、破れが見られた。
【0078】
(7)パリソンのドローダウン
ブロー成形に際し、パリソンを200mm押出した後、3秒経過後の自重による鉛直下向きへの変形量を測定した。以下の基準で評価した。
○:自重による鉛直下向きへの伸びが、+10mm未満であった。
×:自重による鉛直下向きへの伸びが、+10mm以上であった。
なお、ドローダウンの評価が○であると、得られる成形体においては、その肉厚が均一となる。
【0079】
(8)メルトフローレイト(MFR)
溶融粘度特性の指標として、JIS K7210にしたがって、275℃、5kgの条件にてメルトフローレイトを測定した。
【0080】
(9)パリソン固化時間
後述の実施例2、17、18、19および21について、パリソン固化時間を測定した。ブロー成形に際し、23℃の雰囲気下で、パリソンを押出した状態で成形を中断し、所定時間放置した後にブロー成形を再開した。成形不良が起きることなく良好にブロー成形ができる最長時間をパリソン固化時間とした。
【0081】
(10)ガスバリア性評価
後述の実施例2および実施例21について、ガスバリア性を評価した。射出成形で成形した試験片(縦60mm×横60mm×厚み1mm)から、φ50mm×厚み1mmの円板を切りだした。試験用容器として、密閉可能な円柱状アルミカップを用い、該アルミカップ内にイソオクタン/トルエン/エタノールの混合溶媒(イソオクタン/トルエン/エタノール=45/45/10)を10ml入れ、前記円板の試験片で上からふたをした。その際、円板試験片からの透過以外にガスの漏れがないよう、円板試験片をアルミカップにしっかりと固定させた。円板試験片でふたをしたアルミカップを65℃雰囲気下に静置し、一日あたりの重量変化をガス透過係数(g・mm/m・day)として算出した。
【0082】
(実施例1)
工程(i)
εーカプロラクタム(A−1)10kg、セピオライト(B−1)0.53kg、亜リン酸20gを同一容器に入れ、80℃にて加熱しながら均一な溶液になるまで、ホモミキサー(プライミクス社製、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII20」、攪拌翼直径44mm、クリアランス1mm)を用いて、4000rpmの回転数で攪拌混合して、混合物を作製した。
【0083】
工程(ii)
上記工程(i)により得られた混合物を重合に付するため、オートクレーブに投入し、内温260℃で攪拌しながら、1時間重合させた。重合終了後、オートクレーブの底排弁よりストランド状に引き取った重合体を温浴槽にて冷却固化し、ペレタイザーでペレット状に切断した。得られたペレットを95℃の熱水で24時間精錬処理をして、未反応のモノマーおよびオリゴマーを除去した。その後、80℃で24時間乾燥させ、さらに、80℃で48時間真空乾燥させた。
【0084】
工程(iii)
二軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37BS型」)を用い、乾燥後のペレット3kgとカップリング剤(C−1)30gをドライブレンドして押出機の根元供給口からトップフィードし、バレル温度250〜270℃、スクリュー回転数200rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。
【0085】
押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化した後、ペレット状にカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。得られたペレットを、カールフィッシャーを用いて水分率を測定すると、水分率は800ppmであった。
【0086】
得られたペレットを、上記のような方法で射出成形またはブロー成形に付し、試験片を作製した。その組成と各評価結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
(実施例2〜9、11〜16、比較例1〜4)
表1、および表3の組成の通りにした以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形およびブロー成形し試験片を得た。得られた試験片について評価を実施した。その組成と評価結果を表1、表2および表3に示す。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
(実施例10)
工程(i)
アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン等モル塩(A−2)10kg、セピオライト(B−1)1.14kg、亜リン酸20gを同一容器に入れ、窒素雰囲気下205℃にて加熱しながら均一な溶液になるまで、ホモミキサー(プライミクス社製、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII20」)を用いて、4000rpmの回転数で攪拌混合し、その後攪拌しながらを添加して、均一な混合物を作製した。
【0092】
(工程ii)
上記工程(i)により得られた混合物を重合に付するため、オートクレーブに投入し、内温230℃で攪拌しながら、内圧が18MPaになるまで加熱し、その圧力に到達後、徐々に圧力を抜きつつ、加熱して280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、2時間重合を行った。重合終了後、オートクレーブの底排弁よりストランド状に引き取った重合体を温浴槽にて冷却固化し、ペレタイザーでペレット状に切断した。得られたペレットを95℃の熱水で24時間精錬処理をして、未反応のモノマーおよびオリゴマーを除去した。その後、80℃で24時間乾燥させ、さらに、80℃で48時間真空乾燥させた。
【0093】
これ以降、工程(iii)の二軸押出機のバレル温度を270〜290℃に変更し、および射出成形機のシリンダー温度を270℃に変更した以外は実施例1と同様にし、試験片を作製した。得られた試験片について評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0094】
(実施例17〜20)
工程(iii)において、表2に示すような種類と配合量で結晶化遅延剤を配合した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。該ポリアミド樹脂組成物を射出成形およびブロー成形し試験片を得た。得られた試験片について評価を実施した。その組成と評価結果を表2に示す。
【0095】
(実施例21)
工程(i)において、εーカプロラクタム(A−1)10kg、セピオライト(B−1)0.53kg、ヘクトライト(E)0.2kg、亜リン酸20gを同一容器に入れ、80℃にて加熱しながら均一な溶液になるまで、ホモミキサー(プライミクス社製、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII20」、攪拌翼直径44mm、クリアランス1mm)を用い、4000rpmの回転数で攪拌混合して、混合物を作製した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形およびブロー成形し試験片を得た。得られた試験片について評価を実施した。その組成と評価結果を表2に示す。
【0096】
(比較例5)
工程(ii)において、重合時間を10分にした以外は実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形およびブロー成形し試験片を得た。得られた試験片について評価を実施した。その組成と評価結果を表3に示す。
【0097】
(比較例6)
実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。これを23℃50%RH雰囲気下で2日間放置した。放置後の水分率を、カールフィッシャー水分計を用いて測定すると、水分率は4000ppmであった。
【0098】
これ以降は実施例1と同様にして射出成形およびブロー成形し試験片を得た。得られた試験片について評価を実施した。その組成と評価結果を表3に示す。
【0099】
(比較例7)
工程(i)
εーカプロラクタム(A−1)10kg、亜リン酸20gを同一容器に入れ、80℃にて加熱しながら均一な溶液になるまで、ホモミキサー(プライミクス社製、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII20」、攪拌翼直径44mm、クリアランス1mm)を用いて、4000rpmの回転数で攪拌混合して、混合物を作製した。
【0100】
工程(ii)
上記工程(i)により得られた混合物を重合に付するため、オートクレーブに投入し、内温260℃で攪拌しながら、5時間重合させた。重合終了後、オートクレーブの底排弁よりストランド状に引き取った重合体を温浴槽にて冷却固化し、ペレタイザーでペレット状に切断した。得られたペレットを95℃の熱水で24時間精錬処理をして、未反応のモノマーおよびオリゴマーを除去した。その後、80℃で24時間乾燥させ、さらに、80℃で48時間真空乾燥させた。
【0101】
二軸押出機(東芝機械社製、商品名「TEM37BS型」)を用い、乾燥後のペレット3kgを押出機の根元供給口からトップフィードし、さらにガラス繊維(D)0.75kgをサイドフィードして、バレル温度250〜270℃、スクリュー回転数200rpm、吐出15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化した後、ペレット状にカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0102】
これ以降は実施例1と同様にして射出成形およびブロー成形し試験片を得た。得られた試験片について評価を実施した。その組成と評価結果を表3に示す。
【0103】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜21のポリアミド樹脂組成物は、曲げ特性および耐熱性を維持しつつ、密度が小さく軽量性に優れ、内表面平滑性、ブロー成形性に優れるものであった。
【0104】
実施例2、17、18、19および20について測定されたパリソン固化時間は、以下の通りであった。実施例2においては10秒、実施例17においては10秒、実施例18においては15秒、実施例19においては20秒、実施例20においては14秒であった。つまり、結晶化遅延剤を含有させると、ブロー成形性が向上していた。
【0105】
実施例2および実施例21について測定されたガス透過係数は、実施例2においては8.1g・mm/m・dayであり、実施例21においては、2.5g・mm/m・dayであった。つまり、繊維状粘土鉱物および層状ケイ酸塩が併用された本発明のポリアミド樹脂組成物は、ガスバリア性が向上していた。
【0106】
比較例1のポリアミド樹脂組成物は、繊維状粘土鉱物(B)の配合量が過少であったために、曲げ弾性率に劣るものであった。さらに、カップリング剤を配合しても溶融粘度が十分に増大せず、ドローダウン指数が大きくなった。その結果、実際のブロー成形においてもパリソンのドローダウンが起こってしまった。
【0107】
比較例2のポリアミド樹脂組成物は、繊維状粘土鉱物(B)の配合量が過多であったために、メルトフローレイトが低くなり過ぎ(つまり、溶融粘度が高くなりすぎ)、ダイスウェル指数が過小となった。これにより、実際のブロー成形においても、溶融樹脂の柔軟性がないために、成形品の破れが起こってしまった。
【0108】
比較例3のポリアミド樹脂組成物は、カップリング剤(C)の配合量が過少であったために、メルトフローレイトが高くなりすぎ(つまり、溶融粘度が十分に増大せず)、ドローダウン指数が過大となり、ダイスウェル指数が過小となった。これにより、実際のブロー成形においても、パリソンのドローダウンが起こってしまった。
【0109】
比較例4では、カップリング剤(C)の配合量が過多であったために、メルトフローレイトが低くなり過ぎ(つまり、溶融粘度の増大が過剰に起こってしまい)、ダイスウェル指数が過小となった。これにより、実際のブロー成形においても、成形品の破れが起こってしまった。
【0110】
比較例5においては、工程(ii)における重合時間が短かったため、工程(ii)で得られた樹脂の粘度は過小であると推測される。その結果、カップリング剤を配合してもメルトフローレイトが低くなり過ぎ(つまり、溶融粘度が十分に増大せず)、ドローダウン指数が過大となった。これにより、実際のブロー成形においてもパリソンのドローダウンが起こってしまった。
【0111】
比較例6は得られたポリアミド樹脂組成物の水分率が高かったため、樹脂組成物内の水分が可塑剤として作用したと推測される。その結果、ドローダウン指数が過大となった。これによって、実際のブロー成形においてもパリソンのドローダウンが起こってしまった。
【0112】
比較例7は繊維状粘土鉱物(B)の代わりにガラス繊維を用いたため、ダイスウェル指数が過小となった。これにより、実際のブロー成形においても、成形品の破れが起こってしまった。また、ガラス繊維によるフィラー浮きが成形品の内表面に顕著に現れ、内表面平滑性が損なわれる結果となった。このような樹脂組成物を実使用に供する際において、例えば、ガスが成形品内部を流通するダクト類に用いると、ガスの圧力損失が起こってしまうなどの問題が発生する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、繊維状粘土鉱物(B)およびカップリング剤(C)を含有し、各成分の質量比率が下記式(I)および(II)を満足するものであり、かつダイスウェル指数が1.1以上、ドローダウン指数が1.5以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(A)/(B)=75/25〜95/5 (I)
(C)/{(A)+(B)}=0.5/100〜8/100 (II)
【請求項2】
繊維状粘土鉱物(B)がセピオライトおよび/またはパリゴルスカイトであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
カップリング剤(C)が、エポキシ基、アミノ基、ウレイド基およびイソシアネート基からなる群より選ばれる1つ以上の官能基を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
結晶化遅延剤(D)を含有し、その質量比率が下記式(III)を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(D)/{(A)+(B)}=0.01/100〜25/100 (III)
【請求項5】
結晶化遅延剤がニグロシンであることを特徴とする請求項4に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
合成フッ素雲母および/またはヘクトライトから選ばれる層状ケイ酸塩(E)を含有し、その質量比率が下記式(IV)を満足することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(E)/{(A)+(B)}=0.1/100〜10/100 (IV)
【請求項7】
水分率が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含むことを特徴とするブロー成形体。

【公開番号】特開2013−71994(P2013−71994A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211701(P2011−211701)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】