説明

ポリアミド樹脂組成物、該ポリアミド樹脂組成物の製造方法

【課題】機械的特性を向上させつつ、射出成形時の成形機の磨耗を抑制したポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂(A)、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)を含有してなるポリアミド樹脂組成物であって、(A)、(B)、(C)および(D)の含有率(質量比)が、下記(i)式および(ii)式を同時に満たすことを特徴とするポリアミド樹脂組成物。(A)/((B)+(C)+(D))=30/70〜40/60(i)(D)/((A)+(B)+(C))=40/60〜60/40(ii)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性を向上させつつ、射出成形時の成形機の磨耗を抑制したポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂の引張強度や曲げ弾性率等の向上を目的とし、従来より、安価で補強効果の高いガラス繊維を含有した強化ポリアミド樹脂組成物が知られている。ガラス繊維を多量に含有することで引張強度や曲げ弾性率は向上するが、射出成形加工時の射出成形機スクリューやシリンダーの摩耗が大きくなるという問題があった。また、繊維強化材として炭素繊維を用いることで、ガラス繊維に比べ含有量を少なくして、高強度かつ高弾性率の材料が得られることも知られているが、コストが大幅に向上してしまう問題があった。このような問題に対し、ガラス繊維の一部を粘土鉱物に置換え、補強効果を損なわず、成形機に対する負荷を低減することが試みられている。
特許文献1には、層状珪酸塩とガラス繊維を含有したポリアミド樹脂組成物の開示がある。このようなポリアミド樹脂組成物は、成形機に対する負荷を低減したが、相対的にガラス繊維の含有を少なくしているため、得られる引張強度等の機械的特性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2528164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、機械的特性を向上させつつ、射出成形時の成形機の磨耗を抑制したポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0007】
(1)ポリアミド樹脂(A)、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)を含有してなるポリアミド樹脂組成物であって、(A)、(B)、(C)および(D)の含有率(質量比)が、下記(i)式および(ii)式を同時に満たすことを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(A)/((B)+(C)+(D))=30/70〜40/60 (i)
(D)/((A)+(B)+(C))=40/60〜60/40 (ii)
(2)繊維状粘土鉱物(C)がセピオライトおよび/またはパリゴルスカイトであることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)ポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー、アミノ基を有する化合物および無機酸を混合して加熱溶融をし、次いでヘクトライト(B)、さらに繊維状粘土鉱物(C)を混合し、前記モノマーを重合に付して得られたポリアミド樹脂に対し、ガラス繊維(D)を溶融混練することを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(4)(1)または(2)のポリアミド樹脂を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械的特性を向上させつつ、射出成形時の成形機の磨耗を抑制したポリアミド樹脂組成物が得られる。このようなポリアミド樹脂組成物は、相対的にガラス繊維の含有量を減らしているため、低比重でありながら、引張強度、曲げ弾性率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)を特定比率で含有するものである。
【0010】
本発明で用いるポリアミド樹脂(A)は、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸、それらの一対の塩を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。ポリアミド樹脂の原料の具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸;ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等のジアミン;アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等のジカルボン酸などが挙げられる。
【0011】
かかるポリアミド樹脂(A)の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でも、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)の分散性に優れ、ヘクトライト(B)による引張強度、曲げ弾性率の向上効果を十分に引き出すことができる観点から、ナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0012】
ポリアミド樹脂(A)の相対粘度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易なポリアミド樹脂を得ようとすれば、相対粘度を1.9〜4.0の範囲のポリアミドが好適に用いられ、さらに好ましい相対粘度の範囲は2.0〜3.5である。相対粘度が1.9未満であれば成形品によっては靱性が不足し、優れた機械的特性を得ることができない。また、相対粘度が4.0を越えると成形加工が困難となるばかりか、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)の分散性が損なわれ、引張強度、曲げ弾性率をバランスよく兼ね備えたポリアミド樹脂組成物とすることができない。
【0013】
本発明で用いるヘクトライト(B)は珪酸塩を主成分とする負に帯電した珪酸塩層とその層間に介在するイオン交換能を有するカチオンとからなる構造を有するものであり、天然に得られるものであってもよいし、合成により得られるものであってもよい。ヘクトライトの組成は、一般的には、Na0.66(Mg5.34Li0.66)Si20(OH)・nHOで表される。
【0014】
ヘクトライト(B)は、陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g以上であることが好ましく、60ミリ当量/100g以上であることがより好ましい。この陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g未満のものでは、膨潤能が低いために、ポリアミド樹脂組成物中においては、実質的に未劈開状態のままとなる。加えて、ポリアミド樹脂組成物中において、良好に分散することができない。そのため、ガラス繊維による引張強度の向上効果に加え、さらに引張強度を向上、また引張強度、曲げ弾性率をバランスよく兼ね備えたポリアミド樹脂組成物とすることができない。この陽イオン交換容量の値の上限に特に制限はなく、現実に調製可能なヘクトライトの中から適宜選択できる。
【0015】
なお、上記ヘクトライト(B)の陽イオン交換容量は、日本ベントナイト工業会標準試験方法によるベントナイト(粉状)の陽イオン交換容量測定方法(JBAS−106−77)などにより求められる。具体的には、浸出液容器、浸出管および受器を縦方向に連結した装置を用いて、まず初めに、ヘクトライトをpH=7に調製した1N酢酸アンモニウム水溶液により、その層間のイオン交換性カチオンの全てをNH4+に交換する。その後、水とエチルアルコールを用いて十分に洗浄してから、前記したNH4+型のヘクトライトを10質量%の塩化カリウム水溶液中に浸し、試料中のNH4+をKへと交換する。引き続いて、前記したイオン交換反応に伴い浸出したNH4+を0.1N水酸化ナトリウム水溶液を用いて中和滴定することにより、原料であるヘクトライトの陽イオン交換容量を求めることができる。
【0016】
本発明においては、ポリアミド樹脂組成物中のヘクトライトのサイズが、ポリアミド樹脂組成物の各種物性、特に引張強度に影響を及ぼすが、任意サイズのヘクトライトを用いることができ、ヘクトライトの原料としてのサイズは特に制限されない。なお、ヘクトライトのサイズを調整するための方法として、ジェットミル等の公知の装置で粉砕することなど挙げられる。
【0017】
本発明で用いる繊維状粘土鉱物(C)は、繊維状の含水マグネシウム珪酸塩鉱物であり、八面体の酸化マグネシウム層を中心層として、その両側に正四面体の珪酸塩層が配された三層構造を有するものである。この三層構造はX軸方向(繊維長方向)に沿って伸びているため、繊維状粘土鉱物(C)の結晶は繊維状となり、つまり繊維状結晶となる。繊維状粘土鉱物(C)においては、複数の繊維状結晶が繊維方向に沿って凝集することもある。
【0018】
繊維状粘土鉱物(C)において、正四面体の珪酸塩層は、数単位ごとにZ軸上で反転して結合している。そのため、八面体の酸化マグネシウム層は不連続層となり、繊維断面にゼオライト孔を形成するものとなる。また、繊維状粘土鉱物(C)は、X軸方向に沿って、多数のシラノール基(Si−OH基)を有している。そのため、前記ゼオライト孔には、水などの極性の高い物質が浸入しやすいという性質を有する。
【0019】
このように、繊維状粘土鉱物(C)は、他の粘土鉱物と比較して繊維状でありながらも、多孔性である。そのため、嵩高い反面、ポリアミド樹脂(A)中における分散性に優れるという利点がある。その結果、ポリアミド樹脂組成物中に含有されると、少量で効果的に曲げ弾性率の改善を図ることができる。
【0020】
繊維状粘土鉱物(C)としては、市販され、容易に入手可能なセピオライト、パリゴルスカイトなどを用いることができる。
【0021】
セピオライトはMg(SiO11)・3HOを主成分として含有する天然鉱物であり、パリゴルスカイトはMgAlSi20(OH)・8HOを主成分として含有する天然鉱物である。なお、パリゴルスカイトにおいては、マグネシウムが鉄やアルミニウムによって置換されていてもよい。
【0022】
本発明においてガラス繊維(D)は、公知のものを用いることができる。ガラス繊維(D)の繊維長は、0.1〜7mmのものが好ましく、0.5〜6mmのものがさらに好ましい。繊維長が0.1mm未満であると補強効果に劣る場合があり、7mmを超えると成形性に悪影響を及ぼす場合がある。また、ガラス繊維(D)の繊維径は3〜20μmのものが好ましく、5〜13μmのものがさらに好ましい。繊維径が3μm未満であると溶融混練時に折損しやすく、20μmを超えると補強効果に劣る場合がある。また、断面形状として、円形断面であるガラス繊維を好ましく用いることができるが、必要に応じて、長方形、楕円、それ以外の異形断面であるガラス繊維を用いることができる。
【0023】
また、ガラス繊維(D)は、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。また、シランカップリング剤は、予めガラス繊維を束ねるための集束剤に分散させておき、表面処理に用いてもよい。シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系などが挙げられるが、ポリアミド樹脂(A)との密着性、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)との親和性がよい点で、アミノシラン系カップリング剤が特に好ましい。
【0024】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)の配合率(質量比)が、下記(i)式および(ii)式を同時に満たすことが必要である。
(A)/((B)+(C)+(D))=30/70〜40/60 (i)
(D)/((A)+(B)+(C))=40/60〜60/40 (ii)
【0025】
(i)式において、(A)、(B)、(C)、(D)の合計100質量部に対し、(A)の含有率が30質量部未満であると、ポリアミド樹脂組成物が剛直になりすぎて引張強度が低下する。また、(A)の含有率が40質量部を超えると、相対的に(B)、(C)、(D)の含有率が少なくなるため、曲げ弾性率が低下し十分な剛性を得ることができない。
【0026】
(ii)式において、(D)/((A)+(B)+(C))=45/55〜55/45(質量比)であることが好ましい。(A)、(B)、(C)、(D)の合計100質量部に対し、(D)の含有率が40質量部未満であると、引張強度と曲げ弾性率のいずれもが低下する。また、(D)の含有率が60質量部を超えると、ポリアミド樹脂組成物中に占めるガラス繊維の含有率が多すぎて射出成形時に成形機の摩耗が大きくなってしまう。
【0027】
(i)式および(ii)式に加え、下記(iii)式を満足することが好ましい。
【0028】
(D)/((B)+(C))=70/30〜85/15 (iii)
【0029】
(iii)式において、(B)、(C)、(D)の合計100質量部に対し、(D)の含有率が70質量部未満であると、引張強度と曲げ弾性率が低下することがある。また、(D)の含有率が85質量部を超えると、引張強度と曲げ弾性率のいずれかが低下したり、あるいは、射出成形時の成形機の摩耗が大きくなってしまうことがある。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法を以下に説明する。
本発明においては、ヘクトライト(B)および繊維状粘土鉱物(C)の添加方法は特に制限されず、重合または溶融混練の工程で添加され、十分に分散していればよい。ヘクトライト(B)および繊維状粘土鉱物(C)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物とした場合に、前記(i)式、(ii)式および(iii)式を同時に満たすようにすればよい。
【0031】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、上述のポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー、アミノ基を有する化合物および無機酸を混合して加熱溶融をする工程(以下、単に「モノマー調整工程」と称する場合がある)と、該モノマー調整工程を経た調整液に、次いでヘクトライト(B)、さらに繊維状粘土鉱物(C)を混合し、前記モノマーを重合に付する工程(以下、単に「重合工程」と称する場合がある)とからなる。また、得られたポリアミド樹脂組成物を溶融させ、ガラス繊維(D)を溶融混練する工程を経てもよい。
【0032】
まずモノマー調整について説明する。
モノマー調整工程における攪拌方法は、ポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー、アミノ基を有する化合物および無機酸を均一に混合させるため、加熱溶融することが好ましい。また、必要に応じて水を添加することもできる。
【0033】
モノマー調整工程の温度は、前記モノマーが溶融する温度であれば特に限定されるものではない。また、攪拌条件に関しても、攪拌翼の形状や回転数などは特に限定されるものではない。
【0034】
モノマー調整工程においては、アミノ基を有する化合物、無機酸を用いることが必要である。アミノ基を有する化合物は、無機酸と反応して4級アミンを形成するものである。4級アミンは、ヘクトライト(B)の層間に侵入することにより、層間を疎水性に変化させ、のちの重合工程においてヘクトライト(B)の劈開性を促進させることが可能である。
【0035】
アミノ基を有する化合物としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸、デシルアミン、ステアリルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、ベンジルアミン、メチルドデシルアミン、メチルオクタデシルアミン、ジメチルドデシルアミン、ジメチルオクタデシルアミンなどの脂肪族アミン、ベンジルトリメチルアミン、ベンジルトリエチルアミン、ベンジルトリブチルアミン、ベンジルジメチルドデシルアミン、ベンジルジメチルオクタデシルアミンなどの芳香族アミン等が挙げられ、アミノ基以外の他の官能基を有するものであっても構わない。なかでも、(ヘクトライト層間へのイオン交換のしやすさと重合の起点となりうるモノマーであるという)の観点から、12−アミノドデカン酸が好ましい。
【0036】
無機酸としては、pKa(25℃、水中での値)が6以下である酸が好ましく、具体的には、リン酸、亜リン酸、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。なかでも、ヘクトライトのへき開のしやすさと設備へ腐食性が低いという観点から、亜リン酸が好ましい。
【0037】
アミノ基を有する化合物の使用量は、ポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー100質量部に対して、0.05〜5質量部であることが好ましく、0.1〜4質量部であることがより好ましい。アミノ基を有する化合物の使用量が0.05質量部未満であると、ヘクトライトの層間を十分に疎水化できず、ヘクトライト(B)の劈開性が低下する場合がある。一方、5質量部を超えると、アミノ基を有する化合物がポリアミドの末端に結合し、ポリアミド樹脂(A)の重合度が上がらない場合がある。
【0038】
酸の使用量は、ポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー100質量部に対して、0.05〜5質量部であることが好ましく、0.1〜4質量部であることがより好ましい。酸の使用量が0.05質量部未満であると、ヘクトライト(B)が十分に劈開しない場合がある。一方、5質量部を超えると、攪拌工程において操業性が低下する場合がある。
【0039】
次に重合工程について説明する。
ヘクトライト(B)は、他の膨潤性層状珪酸塩と比較すると、層間に水分子が入り込みやすく(すなわち、親水性が高く)、膨潤しやすいものである。そのため、カプロラクタムやアミノカルボン酸などのポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマーを前記したモノマー調整工程なしに、水およびヘクトライト(B)とともに攪拌・重合に付してポリアミド樹脂組成物を得る場合、急激に水を吸収して、該ポリアミド樹脂組成物の粘度が大きくなり、均一な攪拌が困難となる。加えて、得られる樹脂組成物の取扱性も悪化するという問題があった。従って、ヘクトライト(B)の配合量を増加させることができず、ポリアミド樹脂組成物の各種物性をバランスよく兼ね備えることが困難となる。
【0040】
本発明においては、好ましい態様として、まず、ポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー、アミノ基を有する化合物、無機酸をモノマー調整工程に付して、その後ヘクトライト(B)および繊維状粘土鉱物(C)を配合して重合工程に付している。そのため、ヘクトライト(B)の層間がアミノ基を有する化合物と無機酸が反応して形成される4級アミンに置換され、疎水性となって、水分子が入り込みにくくなり、その結果として膨潤しにくくなる。一方で、ヘクトライト(B)の層間には、ポリアミド樹脂(A)が入り込みやすくなり、ヘクトライト(B)が劈開し、均一分散される。その結果、ポリアミドスラリーの粘度増加を抑制することができ、取扱性の低下を防止しつつ、得られるポリアミド樹脂組成物の各種物性をバランスよく向上させることが可能となる。
【0041】
重合工程におけるヘクトライト(B)の形態は、ポリアミド樹脂を構成するモノマー中における分散性を向上させることができれば特に制限されるものではない。
【0042】
重合工程における重合温度は、230〜280℃であることが好ましく、245〜275℃であることがより好ましい。重合温度が230℃未満であると、重合度が上がり難かったり、ヘクトライト(B)および繊維状粘土鉱物(C)の分散性が低下したりするという問題がある。一方、重合温度が280℃を超えると、ポリアミド樹脂(A)が分解し、黄変する場合がある。
【0043】
重合工程における圧力は、0.1〜1.5MPaであることが好ましく、0.2〜1.0MPaであることがより好ましい。圧力が0.1MPa未満であると、ヘクトライト(B)が良好に分散しない場合があり、ひいては、引張強度、曲げ弾性率、寸法安定性、反り性が十分に発現しない。一方、圧力が1.5MPaを越えると、重合性、ヘクトライト(B)の分散性の向上が期待できる反面、耐圧能力の高い設備仕様としなくてはならず、経済面の負担が高くなる場合がある。
【0044】
また、重合工程において、重合時に酸を添加することもできる。酸としては、リン酸、亜リン酸、塩酸、硫酸などが使用できる。
【0045】
ガラス繊維(D)の配合方法については、特に限定はされないが、重合工程によって得られたポリアミド樹脂(A)、ヘクトライト(B)および繊維状粘土鉱物(C)の混合物に対し、さらにガラス繊維(D)を溶融混練、あるいはガラス繊維(D)とシランカップリング剤を同時に溶融混練する方法を用いることができる。
【0046】
前記溶融混練時に用いるシランカップリング剤は特に限定されず、ビニル系シランシランカップリング剤、アクリル系シランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤、アミノ系シランカップリング剤などが挙げられる。シランカップリング剤を用いることで、ポリアミド樹脂組成物の引張強度および曲げ弾性率をより向上させることが可能である。
【0047】
本発明で得られるポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損ねない範囲で、必要に応じ、他の重合体や添加剤を配合することも可能である。このような重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレンなどのエラストマー、およびこれらの無水マレイン酸などによる酸変性物、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−フェニルマレイミド共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられ、添加剤としては、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン類、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物のような熱安定剤または酸化防止剤、さらには、顔料、着色防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型安定剤などが挙げられる。なお、これらの他の重合体や添加剤配合は、任意の段階で行われる。
【0048】
本発明で得られたポリアミド樹脂組成物は通常の成形加工方法に付することにより、本発明の成形体を作製することができる。例えば、射出成形、押出成形、吹込成形、焼結成形などの熱溶融成形法を用いて、成形体とすることができる。なかでも、本発明のポリアミド樹脂組成物の特性である優れた引張強度、曲げ弾性率を最も効果的に用いることができるという観点から、射出成形により成形体とすることが好ましい。かかる場合の成形条件は、特に限定されないが、例えば、樹脂温度230〜290℃、金型温度80℃程度が好ましい。特に射出成形においては、成形機スクリュー、シリンダーの磨耗を効果的に抑制することができる。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、相対的にガラス繊維の含有量を減らしているため、低比重でありながら、引張強度、曲げ弾性率を向上させることができる。したがって、このような特性を活かして、自動車用部品、電気部品、家庭用品等に用いることができる。特に、自動車のトランスミッション周り、エンジン周りで使用される部品に用いる部品として使用できる。具体的には、自動車のトランスミッション周りとしては、シフトレバー、ギアボックス等の台座に用いるベースプレート、エンジン周りとしては、シリンダーヘッドカバー、エンジンマウント、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ウォーターポンプレンレット、ウォーターポンプアウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、タイミングベルトカバー、エンジンカバー等に好適に用いられる。
【実施例】
【0050】
以下本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例に用いた原料は次の通りである。
【0051】
1.評価方法
(1)引張強度
ISO527に従って測定した。なお、200MPa以上であるものが好ましい。
(2)曲げ弾性率
ISO178に従って測定した。曲げ弾性率は、18GPa以上のものが好ましい。
(3)成形機の摩耗性
得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、ニイガタマシンテクノ社製射出成形機CND15A−II型を使用し、小型試験片を連続的に射出成形した。シリンダー設定温度は基部から250℃(H3)、260℃(H2)、270℃(H1)、270℃(NH)、金型温度は80℃とした。シリンダーの逆止防止リングに焼付け無しのNAK80を使用した。2000ショット成形し、試験前後の逆止防止リングの重量差を摩耗量とした。逆止防止リングの形状は、外径17.99mm、内径13.40mm、長さが18.09mmの円筒状のリングである。なお、摩耗量が100mg未満のものを合格とした。
【0052】
2.原料
(A)ポリアミド樹脂の原料であるモノマー
・ε―カプロラクタム(宇部興産社製)
(B)ヘクトライト
・ヘクトライト(Elementis Specialities社製Bentone HC)、陽イオン交換量:80ミリ当量/100g
(C)繊維状粘土鉱物
・セピオライト(TOLSA社製PANGEL HV)
・パリゴルスカイト(昭和KDE社製POLEISY)
(D)ガラス繊維
・円形断面を有するガラス繊維(PPG社製HP3540)、平均繊維径10μm、平均長さ3mm
【0053】
実施例1
ε−カプロラクタム100質量部、12−アミノドデカン酸1質量部、亜リン酸0.4質量部を配合して、80℃で、10分間加温しながら攪拌し、次いでヘクトライト10質量部を仕込み、10分間攪拌し、次いでセピオライト30質量部を仕込み、1時間攪拌した後、水を添加して、260℃、0.7MPa下で1時間攪拌し、次いで260℃、常圧で1時間攪拌し重合を行なった。得られたポリアミド重合体をクボタ製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給した。押出機のバレル温度設定は、270℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/hとして溶融混練を行い、サイドフィーダーよりガラス繊維を150質量部供給しさらに混練を行った。最後にダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0054】
次いで射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃条件下、得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用い、引張強度、曲げ弾性率の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例2〜6
表1記載のヘクトライト、セピオライトの配合量に従いポリアミド重合体を得た以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得て、引張強度、曲げ弾性率の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
実施例7
溶融混練時のガラスの配合量を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得て、引張強度、曲げ弾性率の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
実施例8
セピオライトに代えて、パリゴルスカイトを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得て、引張強度、曲げ弾性率の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0059】
比較例1〜7
表2記載のヘクトライト、セピオライト、ガラス繊維の配合に従い、ポリアミド樹脂組成物ペレットの作製を行った。なお、比較例7については、セピオライトの配合が過多であったため、重合時に溶融粘度が高くなりすぎ、反応容器からの払い出しを行うことができなかった。比較例1〜6について、得られたポリアミド樹脂組成物を用い、引張強度、曲げ弾性率の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
実施例1〜8については、所定の配合に従ったため、引張強度、曲げ弾性率に優れたポリアミド樹脂組成物とすることができた。また、射出成形時の成形機のシリンダーの逆止防止リングの磨耗量は少なかった。
【0062】
比較例1は、(i)式を満たさなかったため、ポリアミドの配合が過多となり、曲げ弾性率が劣った。
【0063】
比較例2は、(i)式、(ii)式を満たさなかったため、ポリアミドの配合が過多、ガラス繊維の配合が過少となり、引張強度、曲げ弾性率が劣った。
【0064】
比較例3は、(i)式、(ii)式を満たさなかったため、ポリアミドの配合が過少、ガラス繊維の配合が過多となり、摩耗量が多かった。
【0065】
比較例4は、繊維状粘土鉱物を配合していないため、曲げ弾性率が劣った。
【0066】
比較例5は、(i)式、(ii)式を満たさなかった。ガラス繊維を配合していないため、引張強度と曲げ弾性率が劣った。
【0067】
比較例6は、(ii)式を満たさなかった。補強材としてガラス繊維のみを用いたため、磨耗量が多かった。


































【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)、ヘクトライト(B)、繊維状粘土鉱物(C)、ガラス繊維(D)を含有してなるポリアミド樹脂組成物であって、(A)、(B)、(C)および(D)の含有率(質量比)が、下記(i)式および(ii)式を同時に満たすことを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(A)/((B)+(C)+(D))=30/70〜40/60 (i)
(D)/((A)+(B)+(C))=40/60〜60/40 (ii)
【請求項2】
繊維状粘土鉱物(C)がセピオライトおよび/またはパリゴルスカイトであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド樹脂(A)の原料であるモノマー、アミノ基を有する化合物および無機酸を混合して加熱溶融をし、次いでヘクトライト(B)、さらに繊維状粘土鉱物(C)を混合し、前記モノマーを重合に付して得られたポリアミド樹脂に対し、ガラス繊維(D)を溶融混練することを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のポリアミド樹脂を成形してなる成形体。