説明

ポリアミド樹脂組成物およびその製造方法

【課題】長時間あるいは繰り返しの熱履歴を経過しても、黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供。
【解決手段】一般式A(Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4および0<Y<2である。)で示される金属化合物、およびアミノカーボネート化合物からなる金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合するポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、該金属化合物水溶液の金属化合物濃度が0.01〜10質量%でありかつアミノカーボネート化合物の含有量が金属化合物100質量部に対して10〜10000質量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な機械工業部品、電気電子部品などの産業用材料として好適な、熱安定性に優れたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、種々の熱履歴を受けた場合、熱劣化および酸化劣化が起こり、黄色度が増加したり、分子量が変化したり、靭性や耐久性などの機械物性が低下する。種々の熱履歴とは、重合、溶融混練、成形加工(射出、押出、ブロー、紡糸、フィルムなど)あるいは高温環境での使用などである。本発明者らは、該熱履歴での劣化の程度を減少させるために、一般式でAで表される金属化合物、例えば一般式AAlで表されるアルミン酸金属塩を配合したポリアミド樹脂を提案した(例えば特許文献1参照)。該特許文献1には、アルミン酸金属塩水溶液の溶解度の低下あるいは不溶性物質の析出を抑制するために、ヘキサメチレンジアミン等のアルカリ成分を添加することが開示されている。
【0003】
該技術に従い本発明者らが検討した結果、より具体的には、例えばヘキサメチレンジアミン等のアルカリ成分を加えPH9以上にしたアルミン酸金属塩を水溶液中とした場合、金属塩水溶液の安定性、すなわち溶解度の低下あるいは不溶性物質の析出の抑制は改良される傾向にあるが、該金属塩水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド重合工程内のポリアミド溶融物に配合すると、金属化合物が最大粒子径にして数百μmを超える非常大きな粒子として析出、凝集することがわかった。この大きな粒子は、ポリアミド重合工程内で沈降し生産に不具合を発生させるばかりか、得られるポリアミド樹脂の熱安定性の改良効果が低い、靭性などの機械物性が不十分などの問題を発生させる。
【特許文献1】特開2004−043812号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、様々な機械工業部品、電気電子部品などの産業用材料として好適な、熱安定性に優れたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。より詳細には、従来のポリアミド樹脂に比べ、熱履歴による黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記本発明課題を解決すべく鋭意検討した結果、アミノカーボネート化合物を加えた水溶液に一般式Aで示される特定金属化合物を溶解させた金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合しポリアミド樹脂組成物を製造する方法により、上記問題を解決できることを見出した。特に、金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出した金属化合物の体積平均粒子径が10μm以下、かつ最大粒子径が100μm以下とした場合に、その改良効果がより顕著であることを見出し本発明に到った。
【0006】
すなわち本発明は、
1.一般式A(Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4および0<Y<2である。)で示される金属化合物、およびアミノカーボネート化合物からなる金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合するポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、該金属化合物水溶液の金属化合物濃度が0.01〜10質量%でありかつアミノカーボネート化合物の含有量が金属化合物100質量部に対して10〜10000質量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法、
2.ポリアミド100質量部に対して、金属化合物の含有量が0.0001〜1質量部であることを特徴とする上記1記載のポリアミド樹脂の製造方法、
3.金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の体積平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする上記1または2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
4.金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の最大粒子径が100μm以下であることを特徴とする上記1または2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
5.金属化合物がAAlで(Aは周期律表第1族金属元素である。また0.8≦X/Y≦2.85)あることを特徴とする上記1から4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
6.アミノカーボネート化合物がエチレンジアミン四酢酸であることを特徴とする上記1から4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法、
7.上記1から6のいずれかに記載の製造法から得られるポリアミド樹脂組成物、
である。
【発明の効果】
【0007】
長時間あるいは繰り返しの熱履歴を経過しても、黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供するものであり、多くの成形用途(自動車部品、工業用途部品、電気電子部品、ギアなど)や押出用途(チューブ、棒、フィラメント、フィルム、ブローなど)において好適に利用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリアミドは、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されない。本発明の課題を達成するための好ましいポリアミドは、主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体であれば特に限定されないが、例えばポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカラクタム(ナイロン11)、ポリドデカラクタム(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリノナンメチレンテレフタルアミド(9T)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(6T)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))、およびこれらのうち少なくとも2種類の異なるポリアミド成分を含むポリアミド共重合体あるいはこれらの混合物などである。アミド結合の有無は、赤外吸収スペクトル(IR)で確認することができる。
【0009】
本発明のポリアミド原料は、上記記載の主鎖中にアミド結合(−NHCO−)を有する重合体を製造するために用いられている周知の原料であれば特に限定されないが、重合可能なアミノ酸、重合可能なラクタム、あるいは重合可能なジアミンとジカルボン酸との塩あるいは混合物、および重合可能なオリゴマーを挙げることができる。これら原料は、原料そのもので用いてもかまわないし、水溶液として用いてもかまわない。
本発明のポリアミドの分子量は、本発明の課題を達成するという観点から、JIS−K6810に従って測定した98%硫酸中濃度1%、25℃の相対粘度が、好ましくは1.5〜6.5、より好ましくは1.7〜6.0、更に好ましくは2.0〜5.5である。該範囲を外れると、成形品を作成する場合、成形できないなどの不具合を生じやすい。
【0010】
本発明の金属化合物は、下記一般式(1)で示される。
(1)
但し、Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4および0<Y<2である。これら化合物は、例えば、「第4版、化学実験講座16、無機化合物、社団法人日本化学会著(平成5年、丸善株式会社発行)」の323〜336頁に記載されている金属化合物である。中でも本発明の改良効果が高い傾向にあるという観点から、好ましい金属化合物は、上記一般式(1)中のAが周期律表第1族金属元素であり、Bがアルミニウム(Al)である下記一般式(2)で表されるアルミン酸金属塩である。
Al(2)
但し、Aは周期律表第1族金属元素である。また、好ましくは0.8≦X/Y≦2.85、より好ましくは1≦X/Y≦2.5、最も好ましくは1.1≦X/Y≦2.0である。この範囲にすると、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加の抑制や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
【0011】
本発明の金属化合物水溶液中の金属化合物の濃度は0.01〜10質量%であり、好ましくは0.05〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜1質量%である。この範囲にすることにより、金属化合物の析出を抑制でき、また得られるポリアミド樹脂の黄色度や靭性等の機械物性の改良効果が高くなる。
本発明のポリアミドに分散する金属化合物の含有量は、ポリアミド100質量部に対して、金属化合物が好ましくは0.0001〜1質量部、より好ましくは0.0005〜0.5質量部であり、更に好ましくは0.001〜0.1質量部である。上記範囲にすることにより、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
【0012】
本発明のポリアミドに分散する金属化合物の体積平均粒子径が好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下、更に好ましくは5μm以下である。また、析出し分散している金属化合物の最大粒子径は好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下、更に好ましくは50μm以下、最も好ましくは10μmである。ポリアミド中に析出した金属化合物の体積平均粒子径や最大粒子径の測定は、ポリアミド樹脂組成物を純水、アルコール類あるいは蟻酸等の酸溶媒に分散させ、レーザ回折式粒度分布装置で測定することができる。ポリアミド中に析出した金属化合物の体積平均粒子径や最大粒子径を上記範囲にすることにより、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
なお、析出する化合物は、配合した金属化合物種であっても、その他の化学種に変化したとしてもかまわない。本発明者らの検討によれば、例えば金属化合物としてアルミン酸ナトリウムを選択した場合、析出する化合物は、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム等あるいはそれらの混合物であることがわかっている。また、析出する化合物が、金属化合物そのものであっても、他の化学種であっても、本発明の目的の効果が損なわれることはない。
【0013】
本発明の製造方法は金属化合物とアミノカーボネート化合物と含有する金属化合物水溶液を作成し、該水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合する方法である。好ましくは、金属化合物とアミノカーボネート化合物とからなる金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の体積平均粒子径が10μm以下となる製造方法である。より好ましく、金属化合物とアミノカーボネート化合物とからなる金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の体積平均粒子径が10μm以下であり、最大粒子径が100μm以下となる製造方法である。ここで、ポリアミド溶融物への配合は、ポリアミド重合工程内のポリアミド溶融物であってもかまわないし、溶融混練法などで溶融させたポリアミドであってもかまわない。
【0014】
本発明者らの検討によれば、上記引用文献1の従来技術すなわちアルミン酸金属ナトリウムなどの金属化合物をポリアミドに配合する技術の場合、たとえ金属化合物の組成が水に溶解する組成であったとしても、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれかの一つに配合した場合、金属化合物が微細かつ均一にポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物に分散せず、100μmを超える大きな粒子形態になることがわかった。しかしながら、その機能の詳細は不明であるが、アミノカーボネート化合物を含有する水溶液にアルミン酸ナトリウムなどの金属化合物を加え均一な水溶液とした後、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物に配合した場合、金属化合物は析出せず均一に分散する、あるいは金属化合物そのものとして析出あるいはその他の化学種として析出したとしても特定の粒子径以下に微分散しており、従来技術に比べ、飛躍的に熱履歴による黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物が得られることがわかった。
【0015】
本発明のアミノカーボネート化合物とは、アミノ基(−NH2)に少なくとも1つをカルボキシル基(−COOH)を有する構造で置換した化合物であれば特に限定されない。中でも好ましいアミノカーボネート化合物は、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミノ五酢酸等である。最も好ましい化合物は、エチレンジアミン四酢酸である。本発明では、これらアミノカーボネート化合物は1種で用いても良いし、2種類以上組み合わせて用いても良い。
本発明の金属化合物水溶液中のアミノカーボネート化合物の濃度は、金属化合物100質量部に対して10〜10000質量部であり、好ましくは50〜5000質量部、より好ましくは100〜1000質量部である。この範囲にすることにより、金属化合物の析出を抑制でき、またポリアミド重合速度の低下やポリアミド溶融物の分子量の低下を抑制できる。
【0016】
本発明においては、金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、その際に析出する金属化合物の体積平均粒子径が好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8μm以下である。また、析出する金属化合物の最大粒子径は好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下である。析出した金属化合物の体積平均分子量および最大粒子径は、純水、アルコール類あるいは蟻酸等に分散させ、レーザ回折式粒度分布装置で測定することができる。金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、析出した金属化合物の体積平均粒子径や最大粒子径を上記範囲にすることにより、本発明の目的である熱履歴による黄色度の増加や、靭性などがより高く達成できる傾向にある。
【0017】
また、本発明においては、金属化合物水溶液に、アミノカーボネート化合物以外にシュウ酸等のジカルボン酸を併用して用いてもかまわない。アミノカーボネート化合物とジカルボン酸とを併用する場合、金属化合物水溶液中のジカルボン酸の濃度は、金属化合物100質量部に対して、好ましくは10〜10000質量部、より好ましくは50〜5000質量部、最も好ましくは100〜1000質量部である。金属化合物100質量部に対して、ジカルボン酸が10質量部未満の場合には、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物のいずれか一つに配合した場合、金属化合物が大きな粒子径で析出しやすい傾向にあるため注意を要する。また、10000質量部を超えた場合には、ポリアミド重合速度の低下やポリアミド溶融物の分子量の低下が懸念される。アミノカーボネート化合物とシュウ酸等のジカルボン酸を併用することにより、金属化合物の析出をより顕著に抑制できる傾向にある。
【0018】
本発明においては、金属化合物水溶液を配合したポリアミド原料を重合する方法は、周知の方法を用いることができる。例えば、ε−カプロラクタムなどのラクタム類をポリアミド原料とする開環重縮合法、ヘキサメチレンアジパミドなどのジアミン・ジカルボン酸塩あるいはその混合物を原料とする熱溶融法などを用いることができる。また、ポリアミド原料の固体塩あるいはポリアミドの融点以下の温度で行う固相重合法、ジカルボン酸ハライド成分とジアミン成分を用いた溶液法なども用いることができる。これらの方法は必要に応じて組み合わせてもかまわない。中でも熱溶融法、熱溶融法と固相重合を組み合わせた方法が最も効率的である。
【0019】
また、重合形態としては、バッチ式でも連続式でもかまわない。また、重合装置も特に制限されるものではなく、公知の装置、例えば、オートクレーブ型の反応器、タンブラー型反応器、ニーダーなどの押出機型反応器などを用いることができる。これら重合方法、重合形態あるいは重合装置を用いて重合しているいずれかの工程のポリアミド溶融物に金属化合物水溶液を配合してもかまわない。
また、本発明においては、金属化合物水溶液を溶融混練法を用いて配合する場合は、溶融混練を行う装置は一般に実用されている混練機が適用できる。例えば一軸または多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサーなどを用いれば良い。中でも、減圧装置、およびサイドフィーダー設備を装備した2軸押出機が最も好ましい。溶融混練の方法は、全成分を同時に混練する方法、あらかじめ予備混練して金属化合物を配合した組成物を作成し更に他のポリアミドと混練する方法、更に押出機の途中から逐次、各成分をフィードし混練する方法などいずれを用いてもかまわない。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない程度で、ポリアミドに慣用的に用いられる添加剤例えば顔料および染料、難燃剤、潤滑剤、蛍光漂白剤、可塑化剤、有機酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、核剤、ゴム、並びに強化剤を含有することもできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、高温での成形、繰り返しの溶融工程、長時間の熱滞留において、黄色度の増加の抑制、熱分解が抑制されかつ靭性などの機械物性に優れるため、周知の成形方法、例えばプレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形、溶融紡糸などを用いて各種成形品を得ることができる。また、得られた成形品は、多くの成形用途(自動車部品、工業用途部品、電子部品、ギアなど)や押出用途(チューブ、棒、フィラメント、フィルム、ブローなど)において有用である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例、比較例において記載した物性評価は、以下のように行った。
1.金属化合物水溶液の安定性
金属水溶液を作成後、1ヶ月静置し析出物の確認を目視にて実施した。
2.析出する金属化合物の体積平均で換算した平均粒子径及び最大粒子径
(2−1)ポリアミド原料中で析出した金属化合物の粒子径:50質量%のポリアミド66原料水溶液を50℃の温浴につけ、無攪拌の状態で金属化合物水溶液を一気に加え1時間静置する。その後、該水溶液を用いて、レーザ回折式粒度分布測定装置で測定した。なお粒子径測定におけるブランクは、50℃の50質量%のポリアミド66原料水溶液とした。
(2−2)ポリアミド中の析出した金属化合物の粒子径:ポリアミド5gを90質量%蟻酸40ccに十分に溶解する。その後、該蟻酸溶液を用いて、レーザ回折式粒度分布測定装置で測定した。なお粒子径測定におけるブランクは、90質量%蟻酸とした。
(2−1)及び(2−2)体積平均粒子径、最大粒子径の測定は、レーザ回折式粒度分布測定装置、より具体的には島津製作所(株)製SALD−7000を用いた。屈折率は金属化合物に最適な値を選択した。例えば、アルミン酸ナトリウムの場合、1.60−1.00iとした。粒子径は、装置に付帯したソフトを用いて、粒子径分布を体積換算で測定し、該分布からメディアン径を算出し体積平均粒子径とした。また、該分布から体積換算での最大粒子径を求めた。該測定において、ブランク状態と表示されたものは粒子が検出できないと判定し、検出限界以下(0.01μm以下)とした。
【0022】
3.ポリアミド樹脂組成物の特性
(3−1)相対粘度
JIS−K6810に準じて実施した。具体的には、98%硫酸を用いて、1%の濃度の溶解液((ポリアミド樹脂1g)/(98%硫酸100ml)の割合)を作成し、25℃の温度条件下で測定した。
(3−2)黄色度
測色器として日本電色社製色差計ND−300Aを用い、反射測定でb値を測定し、黄色度を評価した。b値が大きいほど黄色度が大きいことを示す。
色調は、重合し得られたポリアミド樹脂組成物のペレット、及び該ペレットを280℃の温度条件下で二軸押出機で溶融混練して、冷却・カッティングし得られたペレットを測定した。溶融混練して得られたペレットの色調により、繰り返しの熱履歴を受けた場合の性能を評価することができる。
(3−3)水分率
水分率の測定は水分気化装置(三菱化学(株)製VA−06型)を用いて、ポリアミド0.7gで電量滴定法(カール・フィッシャー法)により測定した。
(3−4)薄肉成形品での引張物性
射出成形機(日精樹脂(株)製PS−40E)を用いて、シリンダー温度320℃、金型温度80℃に設定し、射出8秒、冷却13秒の射出成形条件で2mm厚みの評価用試験片を得たのち、ASTMD638に準じて引張伸度の測定を行った。
【0023】
〔実施例1〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、エチレンジアミン四酢酸84.4g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
【0024】
〔実施例2〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.16Al0.95)10g、エチレンジアミン四酢酸84.4g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
【0025】
〔実施例3〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、エチレンジアミン四酢酸844g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
【0026】
〔実施例4〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、エチレンジアミン四酢酸28.1g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
【0027】
〔実施例5〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)100g、エチレンジアミン四酢酸844g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
【0028】
〔実施例6〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、エチレンジアミン四酢酸84.4g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.05質量部になるようにした。
【0029】
〔実施例7〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、エチレンジアミン四酢酸84.4g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.5質量部になるようにした。
【0030】
〔実施例8〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、エチレンジアミン四酢酸28.1g、シュウ酸二水和物12.2g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
以上の実施例1〜8で得られた混合水溶液について、析出する金属化合物の体積平均粒子径、最大粒子径を測定した。その結果を表1及び2に示す。
【0031】
〔比較例1〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
【0032】
〔比較例2〕
アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86)10g、ヘキサメチレンジアミン34g及び純水1270gからなる金属化合物水溶液を作成した。ポリアミド原料はポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を用いた。該原料を含有する50質量%水溶液に金属化合物水溶液を一気に加えた。このとき金属化合物水溶液は、ポリアミド原料100質量部に対して、アルミン酸ナトリウムが0.1質量部になるようにした。
以上の比較例1〜2で得られた混合水溶液について、析出する金属化合物の体積平均粒子径、最大粒子径を測定した。その結果を表3に示す。
【0033】
〔実施例9〕
実施例4と同様な組成の金属化合物水溶液(アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86):エチレンジアミン四酢酸:純水=10:28.1:1270の質量比)を作成した。該水溶液と30質量%の次亜リン酸ナトリウム水溶液をポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を含有する50質量%水溶液に混合した。該次亜リン酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムのそれぞれの配合量は、ポリアミド66原料に対して41ppm及び81ppmになるように実施した。該混合液を用いてポリアミドの連続重合を実施した。約3000Kg/hrの速度で濃縮槽/反応器に注入し、約90%まで濃縮した。次いでフラッシャーに排出し、圧力をゆっくり大気圧まで降圧した。次の容器に移送し、約280℃の温度、大気圧以下の条件下で保持した。次いで、ポリアミドは押し出されてストランドとなり、冷却、カッティングされペレットとなり、ポリアミド樹脂組成物を得た。この運転を1ヶ月連続したが、配管、槽および反応器には析出物がほとんどなかった。評価結果を表4に示す。
【0034】
〔実施例10〕
実施例8と同様な組成の金属化合物水溶液(アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86):エチレンジアミン四酢酸:シュウ酸二水和物:純水=10:28.1:12.2:1270の質量比)を作成した。該水溶液と30質量%の次亜リン酸ナトリウム水溶液をポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を含有する50質量%水溶液に混合した。該次亜リン酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムのそれぞれの配合量は、ポリアミド66原料に対して41ppm及び81ppmになるように実施した。該混合液を用いてポリアミドの連続重合を実施した。約3000Kg/hrの速度で濃縮槽/反応器に注入し、約90%まで濃縮した。次いでフラッシャーに排出し、圧力をゆっくり大気圧まで降圧した。次の容器に移送し、約280℃の温度、大気圧以下の条件下で保持した。次いで、ポリアミドは押し出されてストランドとなり、冷却、カッティングされペレットとなり、ポリアミド樹脂組成物を得た。この運転を1ヶ月連続したが、配管、槽および反応器には析出物がほとんどなかった。評価結果を表4に示す。
【0035】
〔比較例3〕
比較例2と同様な組成の金属化合物水溶液(アルミン酸ナトリウム(Na1.42Al0.86):ヘキサメチレンジアミン:純水=10:34:1270の質量比)を作成した。該水溶液と30質量%の次亜リン酸ナトリウム水溶液をポリアミド66原料(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)を含有する50質量%水溶液に混合した。該次亜リン酸ナトリウム及びアルミン酸ナトリウムのそれぞれの配合量は、ポリアミド66原料に対して41ppm及び81ppmになるように実施した。該混合液を用いてポリアミドの連続重合を実施した。約3000Kg/hrの速度で濃縮槽/反応器に注入し、約90%まで濃縮した。次いでフラッシャーに排出し、圧力をゆっくり大気圧まで降圧した。次の容器に移送し、約280℃の温度、大気圧以下の条件下で保持した。次いで、ポリアミドは押し出されてストランドとなり、冷却、カッティングされペレットとなり、ポリアミド樹脂組成物を得た。この運転を1ヶ月連続したが、配管、槽および反応器には析出物が非常に多く堆積し、運転を継続することができなくなった。評価結果を表4に示す。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0040】
長時間あるいは繰り返しの熱履歴を経過しても、黄色度の増加が抑制され、かつ靭性などの機械物性が優れたポリアミド樹脂組成物およびその製造方法を提供するものであり、多くの成形用途(自動車部品、工業用途部品、電気電子部品、ギアなど)や押出用途(チューブ、棒、フィラメント、フィルム、ブローなど)において好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A(Aは周期律表第1族金属元素あるいはCu、Ag、Ptのいずれかから選ばれる。BはAl、Fe、Te、Ti、Sc、In、Y、Ni、Co、Cr、Mn、Ga、Rhのいずれかから選ばれる。また0<X<4および0<Y<2である。)で示される金属化合物、およびアミノカーボネート化合物からなる金属化合物水溶液を、ポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合するポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、該金属化合物水溶液の金属化合物濃度が0.01〜10質量%でありかつアミノカーボネート化合物の含有量が金属化合物100質量部に対して10〜10000質量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
ポリアミド100質量部に対して、金属化合物の含有量が0.0001〜1質量部であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂の製造方法。
【請求項3】
金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の体積平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
金属化合物水溶液をポリアミド原料あるいはポリアミド溶融物の少なくとも一つに配合した後、析出する金属化合物の最大粒子径が100μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
金属化合物がAAlで(Aは周期律表第1族金属元素である。また0.8≦X/Y≦2.85)あることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
アミノカーボネート化合物がエチレンジアミン四酢酸であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の製造法から得られるポリアミド樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−246583(P2007−246583A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−68620(P2006−68620)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】