説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形体

【課題】優れた機械的特性や耐熱性に加えて、成形性に優れ、さらに白色度や反射率を向上させたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部、繊維状強化材10〜80質量部および白色顔料10〜60質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、ジアミン成分の主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であり、前記ポリアミドの示差走査熱量計で測定される過冷却度が40℃以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色度、反射率に優れたポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED)は、新しい光源として、低消費電力、長寿命の観点から、照明や表示素子として需要が急速に拡大しており、LEDの大型化、ハイパワー化が進んでいる。LEDは光を効率的に利用するため、ハウジングを兼ねたリフレクタが重要である。リフレクタに用いる樹脂材料としては、白色度や反射率に加えて、電子基板への実装時の半田付けに耐えられる耐熱性が求められている。特に近年はリフロー方式の半田付けがおこなわれることが多いことから、樹脂材料には、リフロー半田温度の260℃に耐える耐熱性が必要とされている。
【0003】
このような樹脂材料として、液晶ポリマー(LCP)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、半芳香族ポリアミドが用いられている。しかしながら、LCPは溶融流動性や精密成形加工性に優れるが、白色度や耐久性の面で問題があり、PPSは成形性や機械的強度に問題があった。また、半芳香族ポリアミドのうちポリヘキサメチレンテレフタルアミド(PA6T)は、単独では融点が高すぎ、共重合成分が多く導入されているため、結晶性が低いという問題があった。そのため、成形時の金型での結晶化時間が長く、成形サイクルが長かった。また、PA6Tは吸水率が高いため、リフロ−半田工程でブリスターが発生するという問題があった。
【0004】
そこで、半芳香族ポリアミドのうち、ポリノナメチレンテレフタルアミド(PA9T)系樹脂を用いることが検討されている。例えば、特許文献1では、PA9Tに酸化チタンを用いた樹脂組成物が開示されている。また、実施例には、前記樹脂組成物にさらに強化材、光安定剤、離型剤を含有させた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−75994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のポリアミド樹脂組成物も、用いるポリアミドのジアミン成分に、1,9−ノナンジアミンのほかに、2−メチル−1,8−オクタンジアミンが共重合されている。そのため、特許文献1のポリアミド樹脂組成物は、成形時の金型での結晶化時間が長く、成形サイクルが長くなるという問題があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するものであって、優れた白色度、反射率、機械的特性、耐熱性に加えて、成形性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部、繊維状強化材10〜80質量部および白色顔料10〜60質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、ジアミン成分の主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であり、前記ポリアミドの示差走査熱量計で測定される過冷却度が40℃以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする(1)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)ポリアミド中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)繊維状強化材が、ガラス繊維であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)白色顔料が、酸化チタンであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)ポリアミド100質量部あたりに、さらに板状強化材を40質量部以下含有することを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(7)ポリアミド100質量部あたりに、さらに酸化防止剤を0.1〜5質量部含有することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(8)酸化防止剤がリン系酸化防止剤であることを特徴とする(7)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(9)ポリアミド100質量部あたりに、さらに光安定剤を0.1〜5質量部含有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる反射板。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来の半芳香族ポリアミドが有する優れた白色度、反射率、機械的特性、耐熱性に加えて、成形サイクルが短いポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いるポリアミドは、ジカルボン酸成分とジアミン成分とから構成される。本発明においては、高結晶性の点から、特定の化学構造を有するジカルボン酸成分とジアミン成分とを用いることが必要である。
【0012】
ジカルボン酸成分は、主成分としてテレフタル酸を用いる必要があり、ジアミン成分は、主成分として、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンの群から選ばれた1種以上のジアミンを用いる必要がある。テレフタル酸は芳香族ジカルボン酸の中でも化学構造の対称性が高く、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンは、直鎖脂肪族ジアミンであり、化学構造の対称性が高いため、これらのモノマーを用いることで、高い結晶性を有するポリアミドを得ることができる。
【0013】
ジアミン成分の主成分のジアミンの炭素数は、偶数であることが必要である。一般的に、ポリアミドにおいては、いわゆる偶奇効果が発現し、用いられるジアミン成分のモノマー単位の炭素数が偶数である場合の方が、炭素数が奇数である場合よりも、より安定な結晶構造をとり、結晶性が向上するためである。
【0014】
ジアミン成分の主成分のジアミンの炭素数は、8、10、12である必要がある。ジアミンの炭素数が8未満の場合、得られるポリアミドの融点が340℃を超え、アミド結合の分解温度を上回るため好ましくない。一方、ジアミンの炭素数が12を超える場合、得られるポリアミドの耐熱性が不足するため好ましくない。なお、偶奇効果により、ジアミンの炭素数が9、11であるポリアミドは、ジアミンの炭素数が8、10、12であるポリアミドよりも結晶性が低い。
【0015】
本発明で用いるポリアミドには、主成分となるテレフタル酸成分以外の他のジカルボン酸成分、および/または炭素数が8、10または12である直鎖脂肪族ジアミン成分以外の種類の他のジアミン成分(以下、「共重合成分」と略称する場合がある。)が共重合されていてもよい。共重合成分は、原料モノマーの総モル数に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に共重合成分を含まないことがより好ましい。共重合成分を5モル%以下とすることで、高い結晶性を付与することができる。
【0016】
他のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0017】
他のジアミン成分としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、2-メチル−1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン等の脂肪族ジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。なお、上記に列挙された1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−オクタンジアミンのいずれかは、本発明のポリアミドに必須のジアミン成分である。1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかを必須のジアミン成分として用いた場合には、それ以外のジアミン成分が共重合成分として用いられる。例えば、1,8−オクタンジアミンを必須のジアミン成分として用いる場合には、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンが共重合成分として用いられる。
【0018】
ポリアミドには、必要に応じて、カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸や11−アミノウンデカン酸等のω−アミノカルボン酸を共重合させてもよい。
【0019】
ポリアミドの重量平均分子量は、15000〜50000であることが好ましく、20000〜50000であることがより好ましく、26000〜50000であることがさらに好ましい。ポリアミドの重量平均分子量を15000〜50000とすることで、射出成形時の流動性を維持しつつも、機械的特性を向上させることができる。
【0020】
本発明で用いるポリアミドは、トリアミン量が十分に低減されていることが好ましい。ポリアミドは、重合時におけるジアミン同士の縮合反応により、トリアミン構造が副生し易い。トリアミン量が多いと、分子鎖中に架橋構造が生成し、その架橋構造は分子鎖の動きや配列を束縛するため、結晶性が低下する。また、トリアミン量が多いと、ゲルが多く発生するため、得られる成形体の表面にフィッシュアイやブツとして存在し、表面外観を損ねる原因となることがある。そのため、ポリアミド中に含まれるトリアミン単位は、ジアミン単位の0.3モル%以下であることが好ましく、0.15モル%以下であることがより好ましく、0.12モル%以下であることがさらに好ましく、0.10モル%以下であることが特に好ましい。ポリアミド中のトリアミン構造がジアミン単位の0.3モル%を超える場合には、結晶性が低下したり、ゲルが発生して得られる成形体の表面平滑性を損ねたり、色調が低下することがある。
【0021】
トリアミン単位をジアミン単位の0.3モル%以下とするためには、テレフタル酸成分とジアミン成分とから塩を生成する際、水や有機溶剤の添加量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部未満とすることがより好ましく、全く使用しないことがさらに好ましい。
【0022】
一般的に、ポリアミドの加熱重合反応を均一的に進行させるために、水の共存下、原料を混合し、加熱して脱水反応を進行させる方法が用いられている。しかしながら、このような方法においては、重合時の水と有機溶剤の合計量が、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部を超えて多くなると、重合度の上昇が抑制されることがある。その場合、アミン末端が多い状態での重合装置中の滞留時間が長くなり、ジアミン同士の縮合反応により副生成するトリアミン量が増加する。その結果、ポリアミドの一部が架橋構造をとり、ゲル化が促進されたり、色調が低下したりする。ゲル化はポリアミドの結晶性の低下や、結晶化速度を遅延させる原因となる。そして、本発明のような半芳香族ポリアミドでは、トリアミンの生成が脂肪族ポリアミドより顕著である。従って、本発明のように、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下であるポリアミドを得るためには、水や有機溶剤の添加量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが必要であり、実質的に水を添加しないことがより好ましい。
【0023】
本発明に用いるポリアミドは、結晶化速度が速く、成形性が高い。本発明における結晶化速度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した過冷却度を指標とすることができる。本発明において、用いるポリアミドの過冷却度は40℃以下である必要があり、35℃以下であることが好ましい。用いるポリアミドの過冷却度が40℃を超える場合、成形サイクルを短縮することができなかったり、金型からの離型が困難となり成形時の連続生産性が低下したりすることがある。
【0024】
本発明で用いるポリアミドは、ポリアミドを製造する方法として従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0025】
加熱重合法としては、モノマーから反応物を得る工程(i)と、反応物を重合する工程(ii)からなる方法が挙げられる。本発明においては、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下であるポリアミドを得るために、工程(i)の段階を、重合系中の水分や溶媒が少ない条件、すなわち、ジカルボン酸とジアミンの合計100質量部に対して、水と有機溶剤の合計量が5質量部以下である水および/または有機溶剤の存在下で実施することが好ましい。
【0026】
工程(i)としては、例えば、ジカルボン酸粉末を予めジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、ジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度において、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンをジカルボン酸粉末に添加する方法が挙げられる。あるいは、別の方法としては、溶融状態のジアミンと固体のテレフタル酸からなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成するポリアミドの融点未満の温度で、テレフタル酸とジアミンとの反応による塩の生成と、前記塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(i)としては、反応物の形状の制御が容易な前者の方法の方が好ましい。
【0027】
工程(ii)としては、例えば、工程(i)で得られた反応物を、最終的に生成するポリアミドの融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、ポリアミドを得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0028】
ポリアミドの製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いたり、重合度の調整、熱分解や着色を抑制するため末端封止剤を用いたりすることができる。
【0029】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられ、重合触媒の添加量は、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モルに対して、2モル%以下で用いることが好ましい。
【0030】
末端封鎖剤としては、酢酸、ラウリン酸、安息香酸等のモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等のモノアミンが挙げられ、これらいずれか一種、あるいはこれらを組み合わせて用いられる。末端封鎖剤の添加量は、通常、ジカルボン酸成分とジアミン成分の合計に対して5モル%以下で用いることが好ましい。
【0031】
本発明で用いる繊維状強化材としては、例えば、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維、ジルコニア繊維、炭化ケイ素繊維、セラミックス繊維、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイトが挙げられる。中でも、用いるポリアミドの溶融温度において溶融せず、白色度を損ねないことから、ガラス繊維、チタン酸カリウム繊維、ワラストナイト、セピオライト、アタパルジャイトが好ましく、入手しやすいことから、ガラス繊維がより好ましい。
【0032】
ガラス繊維を用いる場合、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。また、シランカップリング剤は、集束剤に分散され、ガラス繊維を束ねるための集束剤として表面処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられるが、ポリアミドとガラス繊維との密着効果を得やすいことから、アミノシラン系が好ましい。
【0033】
繊維状強化材の繊維長は、0.1〜7mmとすることが好ましく、0.5〜6mmとすることがより好ましい。また、繊維径は3〜20μmとすることが好ましく、5〜13μmとすることがより好ましい。繊維長を0.1〜7mmとし、繊維径を3〜20μmとすることで、成形性に悪影響を及ぼすことなく、効率よく補強することができる。繊維状強化材の断面形状は、曲げ強度や曲げ弾性率が向上するので、扁平断面であることが好ましい。
【0034】
繊維状強化材の含有量は、ポリアミド100質量部に対し、10〜80質量部とする必要があり、15〜60質量部とすることが好ましく、20〜50質量部とすることがより好ましい。繊維状強化材の含有量が10質量部未満の場合、機械的強度の向上が低いので好ましくない。一方、含有量が80質量部を超える場合、機械的強度の補強効率が低下するばかりでなく、溶融混練時の作業性が低下し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることが難しくなるので好ましくない。
【0035】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、ポリアミドの過冷却度が40℃以下であるため、繊維状強化材による成形体の補強効果と相まって、射出成形時の金型からの取出し時の成形体の剛性が高まる。そのため、繊維状強化材を含有しないポリアミド樹脂成形体に比べ、冷却時間を短くしても金型内からの成形体の取出しが可能となる。したがって、射出成形によって成形体1個を成形するために要する時間(以下、「成形サイクル」と略称する。)を短縮することができる。このことは、成形体の生産効率を向上させるばかりでなく、特に連続して射出成形を行う場合、射出成形機のシリンダー内に滞留する樹脂の滞留時間の短縮も図れるため、樹脂の劣化、分解ガスの発生を抑制し、成形体への前記劣化物、分解ガスの混入、金型汚れを抑制し、成形体の品質向上を図ることができる。金型汚れの抑制は、金型からの取出し時の離型を良好にし、しかも良好な離型性能を継続して維持することができるため、生産ライン等で自動成形を行う場合の離型不良による運転停止を起こすことなく、長時間の連続成形が可能な連続生産性を向上させることができる。
【0036】
繊維状強化材を含有させる方法は、その補強効果が損なわれなければ特に限定されないが、二軸混練機を用いた溶融混練が好適に用いられる。混練温度はポリアミドの融点以上とする必要があり、(融点+80℃)未満とすることが好ましい。混練温度が融点未満では混練機が過負荷となり、ベントアップ等の不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、ポリアミドの分解、黄変が起こる場合がある。
【0037】
本発明で用いる白色顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化アルミナが挙げられ、中でも、酸化チタンが好ましい。白色顔料として酸化チタンを用いることにより、反射率、隠蔽性といった光学特性が向上する。酸化チタンは、屈折率が高く光安定性の良いルチル型が好ましい。酸化チタンの粒子径は、0.05〜2.0μmとすることが好ましく、0.05〜0.5μmとすることがより好ましい。酸化チタンは、表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の金属酸化物、ステアリン酸等の有機酸、シランカップリング剤やチタンカップリング剤が挙げられる。白色顔料は2種以上を併用してもよい。
【0038】
白色顔料の含有量は、ポリアミド100質量部に対し、10〜60質量部とすることが必要であり、15〜50質量部とすることが好ましく、20〜40質量部とすることがさらに好ましい。
【0039】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、さらに板状強化材を含有させてもよい。板状強化材としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、カオリン、合成雲母、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ラポナイト、ヘクトライト、セリサイト、ドロマイト、膨潤性マイカが挙げられる。
【0040】
板状強化材の含有量は、ポリアミド100質量部に対し、40質量部以下とすることが好ましい。樹脂組成物に板状強化材を含有させることで、寸法安定性を向上させることができる。
【0041】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、さらに酸化防止剤を添加してもよい。酸化防止剤としては、例えば、リン系酸化防止剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、トリアジン系化合物、硫黄系化合物が挙げられ、中でも、リン系酸化防止剤が好ましい。繊維状強化材を含有するポリアミド樹脂組成物は、高温のシリンダー内に長時間滞留した場合、繊維状強化材の表面処理剤が熱分解し、機械的強度の低下を引き起こす場合がある。しかしながら、本発明においては、シリンダー内で長時間樹脂組成物を滞溜させた場合、すなわち、射出成形時において成形サイクルが長い場合や射出量が少なくシリンダー内に樹脂が長く滞留する場合でも、酸化防止剤を含有することにより、前記樹脂組成物の引張強度の低下を抑制することができる。なお、酸化防止剤は、通常、ポリアミドの分子量低下や色の退化を目的に含有させるものである。本発明においては、これらの効果に加えて、樹脂組成物の滞留安定性を向上させることができる。酸化防止剤の添加量は、ポリアミド100質量部あたり、0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.2〜5質量部とすることがさらに好ましい。
【0042】
酸化防止剤の中でも、特にリン系酸化防止剤を用いることが好ましい。リン系酸化防止剤は、無機化合物でもよいし有機化合物でもよく、特に制限はないが、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン等の無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−36」)、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−8」)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(商品名「アデカスタブPEP−4C」)、テトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト(商品名「ホスタノックスP−EPQ」)が挙げられる。中でも、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトおよびテトラキス(2,4−ジt−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイトが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、さらに光安定剤を添加してもよい。特に、白色顔料として酸化チタンを用いる場合は、酸化チタンが光分解を促進する場合があるので、光安定剤を添加することが好ましい。光安定剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリシレート系化合物、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードフェノール系化合物が挙げられ、中でも、ヒンダードアミン系化合物が好ましい。
【0044】
光安定剤の添加量は、ポリアミド100質量部に対し、0.1〜5質量部とすることが好ましく、0.2〜5質量部とすることがさらに好ましい。光安定剤の添加量を、ポリアミド100質量部あたり、0.1〜5質量部とすることにより、リフレクタ等の用途に用いた場合の光安定性を向上させることができる。
【0045】
本発明において、酸化防止剤と光安定剤は併用してもよい。酸化防止剤と光安定剤を併用することにより、成形時の滞留安定性を向上させつつ、使用時の紫外線等による光劣化を効率的に防止することができる。
【0046】
なお、本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて他の添加剤を加えてもよい。他の添加剤としては、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ等の充填材、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤が挙げられる。白色顔料、板状強化材、熱安定剤、光安定剤および他の添加剤の添加方法は、その効果が損なわれなければ特に限定されないが、例えば、ポリアミドの重合時または溶融混練時に添加される。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法が挙げられ、中でも、本発明で用いるポリアミド樹脂組成物の機械的特性、成形性を十分に向上させることができる点から、射出成形法が好ましい。射出成形機としては、特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機、プランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂組成物の融点以上とする必要があり、(融点+100℃)未満とすることが好ましい。なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いるポリアミド樹脂組成物は十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物の水分率は、0.3質量%未満が好ましく、0.1質量%未満がより好ましい。
【0048】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、示差走査熱量計を用いて測定した過冷却度が40℃以下であるポリアミドを用いるため、結晶化速度が速く、成形体の加工時、特に射出成形において成形サイクルが短い。そのため、成形体の生産効率を向上させるばかりでなく、特に連続して射出成形をおこなう場合、射出成形機のシリンダー内に滞留する樹脂の滞留時間の短縮も図ることができる。また、樹脂の劣化、分解ガスの発生を抑制し、成形体への前記劣化物、分解ガスの混入、金型汚れを抑制し、成形体の品質向上を図ることができる。金型汚れの抑制は、金型からの取出し時の離型を良好にし、しかも良好な離型性能を継続して維持することができるため、生産ラインで自動成形を行う場合の離型不良による運転停止を起こすことなく、長時間の連続成形が可能な連続生産性を向上させることができる。
【0049】
また、本発明の樹脂組成物に用いるポリアミドは、ポリアミド6、ポリアミド66に比べ融点が高く、成形体を得るための溶融温度が高いため、樹脂が長時間にわたって成形機シリンダー内に滞留する場合、前記樹脂が劣化しやすく、分解ガスが発生しやすい。そのため、成形サイクルを短くし、溶融樹脂の成形機シリンダー内への滞留を極力抑制することは、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して耐熱性に優れた成形体を得るには好ましいことである。
【0050】
また、発明のポリアミド樹脂組成物は結晶性が高いため、従来の半芳香族ポリアミドに比べて白色度や反射率が高い。そのため、レフレクタ等の用途に用いた場合、本発明の樹脂組成物からなるレフレクタは光をほとんど吸収することなく、効率的に反射させることができる。
【0051】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、機械的強度、耐熱性、成形性が高く、白色度、反射率に優れているため、自動車部品、電気電子部品等の広範な用途に使用できる。自動車部品としては、例えば、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケットの電装系部品が挙げられる。電気電子部品としては、例えば、LEDリフレクタ、ディスプレイ用反射板が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0053】
1.測定方法
(1)ポリアミドの相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0054】
(2)ポリアミドの重量平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ装置を用い、下記条件で調整した試料溶液にてGPC分析をおこなった後、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量を求めた。
<試料調製>
ポリアミド5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mlを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
・検出器:示差屈折率検出器RI−8010(東ソー社製)
・溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
・流速:0.4mL/分
・温度:40℃
【0055】
(3)ポリアミドの降温結晶化温度、融点、過冷却度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した際の発熱ピークのトップを与える温度を降温結晶化温度(Tcc)、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。融点と降温結晶化温度の差(Tm−Tcc)を過冷却度とした。過冷却度が小さいほど、結晶化が速いことを意味する。
【0056】
(4)ポリアミド中のトリアミン量
ポリアミド10mgに47%臭化水素酸を3mL加え、130℃で20時間加熱後、蒸発乾固し、さらに80℃2時間減圧乾燥した。これにピリジン2mL、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド1mLを加え、90℃で30分加熱した。冷却後、メンブランフィルターでろ過した溶液を、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィー装置で分析した。別に測定した標準物質のジアミンとトリアミンにより得た検量線を用いてポリアミド中のジアミンとトリアミンを定量し、ジアミンに対するトリアミンのモル比を算出した。トリアミンの標準物質は、酸化パラジウムを触媒として用いて、オートクレーブ中にてジアミンを240℃で3時間加熱撹拌して反応させて得たトリアミン化合物を用いた。
【0057】
(5)メルトフローレート(MFR)
ポリアミド樹脂組成物を用いて、JIS K7210に従って、340℃、1.2kgfの荷重で測定した。実用上、0.1〜50g/10分が好ましく、1〜40g/10分がより好ましい。
【0058】
(6)曲げ強度、曲げ弾性率
ポリアミド樹脂組成物を十分に乾燥した後、射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて射出成形をおこない、127mm×12.7mm×3.2mmの成形片を作製した。シリンダー温度(融点+25℃)、金型温度(融点−185℃)、射出圧力100MPa、射出時間10秒、取り出し時間5秒であった。
得られた成形片を用いて、ASTM D790に従って測定した。実用上、曲げ強度は100MPa以上が好ましく、曲げ弾性率は4GPa以上が好ましい。
【0059】
(7)白色度
(6)と同様にして100mm×40mm×2mmの成形片を作製した。得られた成形片を用いて、JIS Z8730に従って、ハンターの色差式による明度(L値)、赤色度(a値)および黄色度(b値)を求め、下記式により、白色度を算出した。
W=100−〔(100−L)+a+b1/2
実用上、90%以上が好ましい。
【0060】
(8)反射率
(7)で得られた成形片を用いて、日本電色製スペクトロフォトメーターSE6000により、470nmの波長の光線反射率を測定した。実用上、反射率は85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0061】
(9)反射率保持率
(8)の成形片を180℃の熱風乾燥機で14時間加熱し、加熱前後での光線反射率の保持率を算出した。反射率保持率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0062】
(10)半田耐熱性
(6)で得られた成形片を40℃、95%RH(相対湿度)の雰囲気中に100時間放置後、赤外線加熱炉中、150℃で1分間加熱した。次いで100℃/分の速度で265℃まで昇温し、10秒間保持した。成形片に変形や膨れが発生しなかった場合を○、発生した場合を×とした。
【0063】
(10)成形サイクル
(6)で成形体を成形する際、突出ピンで成形体に対し変形を与えないで容易に取出しが可能な最短の時間を計測した。ここで成形サイクルとは、同じ射出条件で連続して成形した際、1ショット目の成形体の射出が開始されてから、2ショット目の成形体の射出が開始されるまでの時間をいう。すなわち、一つの成形体を成形するのに要する時間(射出時間+冷却時間+取出し時間の合計)をいう。実用上、30秒以下が好ましく、25秒以下がより好ましい。
【0064】
(11)流動長
ファナック社製射出成形機S2000i−100Bを用いて、シリンダー温度を(融点+25℃)℃、金型温度を(融点−185℃)で設定した後、型締力100トン、射出圧力100MPa、射出速度50mm/秒、射出時間5秒で、シリンダー先端に片側1点ゲートの専用金型を取り付けて成形を行った。専用金型は、厚さ0.4mm、幅20mmのL字状の成形品が採取できる形状で、渦巻の中心にゲートを有するものであって、流動長は最大150mmである。
流動長が長いほど、流動性に優れていることを意味する。
【0065】
(12)滞留安定性
ファナック社製射出成形機S2000i−100B型を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃で設定した後、型締力100トン、射出圧力100MPa、射出速度50mm/秒、成形サイクル20秒で試験片(127mm×12.7mm×3.2mm)を成形した。得られた試験片について、ASTM D790に準拠して引張強度を測定した。この引張強度を、「通常引張強度」とする。
また、射出成形機のシリンダー内に樹脂を10分間滞留させて、同様に射出成形を行い、試験片を得た。この試験片の引張強度を「滞留後引張強度」とする。以下の式を用いて、引張強度保持率を求め、滞留安定性の指標とした。
引張強度保持率(%)=滞留後引張強度/通常引張強度×100
実用上、引張強度保持率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
【0066】
2.原料
(1)ジカルボン酸成分
・テレフタル酸
・イソフタル酸
【0067】
(2)ジアミン成分
・1,8−オクタンジアミン
・1,9−ノナンジアミン
・1,10−デカンジアミン
・1,12−ドデカンジアミン
【0068】
(3)末端封鎖剤
・安息香酸
【0069】
(4)繊維状強化材
・GF−1: 旭ファイバーグラス社製ガラス繊維、商品名「03JAFT692」、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm
・GF−2: 日本電気硝子社製ガラス繊維、商品名「ECS03T−786H」、平均繊維径10.5μm、平均繊維長3mm
・偏平GF: 日東紡社製偏平ガラス繊維、商品名「CSG3PA820S」、長径28μm×短径7μm、平均繊維長3mm
【0070】
(5)白色顔料
・酸化チタンA: 石原産業社製、商品名「タイペークCR−63」、平均粒径0.21μm
・酸化チタンB: 石原産業社製、商品名「タイペークCR−61」、平均粒径0.21μm
・酸化チタンC: 石原産業社製、商品名「タイペークPF−740」、平均粒径0.25μm
【0071】
(6)酸化防止剤
・IRG:BASF社製ヒンダードフェノール系化合物、商品名「Irganox1098」
・PA−1:クラリアントジャパン社製リン系酸化防止剤、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ビフェニリレンジフォスファイト、商品名「ホスタノックスP−EPQ」
・PA−2:アデカ社製リン系酸化防止剤、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、商品名「アデカスタブPEP−36」
・PA−3:アデカ社製リン系酸化防止剤、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、商品名「アデカスタブPEP−4C」
・HPA:チバスペシャリティケミカルズ社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド]、商品名「Irganox1098」
【0072】
(7)光安定剤
・CHI:BASF社製ヒンダードアミン系化合物、商品名「Chimassorb119FL」
【0073】
製造例1
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン成分として粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0074】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−1)を得た。
【0075】
製造例2
[工程(i)]
ジカルボン成分としてテレフタル酸粉末(4870質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム(6質量部)、末端封鎖剤としての安息香酸(72質量部)を、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したデカンジアミン(5050質量部)を、28質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にテレフタル酸粉末に添加し反応物を得た。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。
【0076】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−2)を得た。
【0077】
製造例3〜5および7
樹脂組成、製造条件を表1のように変更する以外は、製造例2と同様にしてポリアミドを得た。
【0078】
製造例6
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン成分として粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水400質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して4質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0079】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−6)を得た。
【0080】
製造例8
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、ジカルボン酸成分として平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水9200質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、92質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、引き続き230℃で3時間加熱した。その際、塩と低重合体の生成反応と破砕は同時におこなった。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、反応物を得た。
【0081】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合しポリアミド(P−8)を得た。
【0082】
製造例8、9
末端封鎖剤の含有量を変更する以外は、製造例1と同様にしてポリアミドを得た。
【0083】
表1に、ポリアミドの樹脂組成、製造条件およびその特性値を示す。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1
ポリアミド(P−1)100質量部、酸化チタンA 25質量部をクボタ社製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給し、サイドフィーダーよりガラス繊維(GF)を30質量部供給し溶融混練をおこなった。320℃〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/時間であった。その後、ストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物を得た。
【0086】
実施例2〜27、比較例1〜3
表2に示すように、樹脂組成を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。なお、ガラス繊維はサイドフィーダーから、その他は主供給口から供給した。
【0087】
比較例4
実施例1と同様の操作をおこなったが、繊維状強化材の含有量が高かったため、ストランドが切断し、ポリアミド樹脂組成物を得ることができなかった。
【0088】
比較例5
実施例1と同様の操作をおこなったが、白色顔料の含有量が高かったため、ストランドが切断し、ポリアミド樹脂組成物を得ることができなかった。
【0089】
実施例と比較例で得られたポリアミド樹脂組成物の樹脂組成およびその特性値を表2、3に示す。
【0090】
【表2】

【表3】

【0091】
実施例1〜27は、曲げ強度や曲げ弾性率が優れ、半田耐熱性が高く、白色度や反射率に優れていた。また、用いたポリアミドの過冷却度が40℃以下であったため、射出成形時の成形サイクルが短かった。
実施例22〜26は、リン系酸化防止剤を用いたため、リン系酸化防止剤を含有していない実施例1と比較して、滞留安定性が向上していた。
【0092】
比較例1は、用いたポリアミドのジアミン成分が本発明で規定するモノマーでなかったため、白色度や反射率が低く、成形サイクルが長かった。
比較例2は、白色顔料の含有量が少なかったため、白色度や反射率が低かった。
比較例3は、繊維状強化材の含有量が少なかったため、曲げ強度や曲げ弾性率が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とジアミン成分とからなるポリアミド100質量部、繊維状強化材10〜80質量部および白色顔料10〜60質量部を含有するポリアミド樹脂組成物であって、ジカルボン酸成分の主成分がテレフタル酸であり、ジアミン成分の主成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれた1種以上であり、前記ポリアミドの示差走査熱量計で測定される過冷却度が40℃以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
ジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
ポリアミド中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
繊維状強化材が、ガラス繊維であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
白色顔料が、酸化チタンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
ポリアミド100質量部あたりに、さらに板状強化材を40質量部以下含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
ポリアミド100質量部あたりに、さらに酸化防止剤を0.1〜5質量部含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
酸化防止剤がリン系酸化防止剤であることを特徴とする請求項7に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミド100質量部あたりに、さらに光安定剤を0.1〜5質量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる反射板。

【公開番号】特開2013−67786(P2013−67786A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194460(P2012−194460)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】