説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品

【課題】テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂と耐衝撃性改良材を主要構成成分とする、耐衝撃性、耐熱性、耐水性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体を重縮合して得られるポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)耐衝撃性改良材5〜100重量部を溶融混練して得られるポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂と耐衝撃性改良材を主要構成成分とする、耐衝撃性、耐熱性、耐水性に優れたポリアミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂の代表例であるナイロン6、ナイロン66、ナイロン46は、優れた耐熱性、成形性、剛性、強靭性などの特徴を有しているが、吸水し易く、それによって、材料剛性、耐熱性の低下、さらに寸法が変動することが課題となっている。一方、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610に代表される高級(炭素数が多いことを意味する)ナイロンは、低吸水で寸法安定性、耐薬品性に優れる反面、耐熱性、剛性の不足等から、用途が制限されている。
【0003】
一方、ポリアミド樹脂に耐衝撃性を付与する技術として、特許文献1、2には、ポリアミド樹脂と酸性オレフィン共重合体をブレンドすることにより得られる組成物が記載されている。ポリアミド樹脂としてナイロン66、ナイロン46を用いた場合には、酸性オレフィン共重合体をブレンドすることにより耐衝撃性は著しく向上する反面、吸水率が高いために実使用時(大気平衡吸水状態)の剛性、強度が低下することが課題となっていた。また、ナイロン610を用いた場合には、実使用時の吸水率は低い反面、材料本来の耐熱性、剛性が低いことが課題となっていた。
【0004】
さらには、テトラメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂として、特許文献3には、ナイロン48、410、412が開示されているが、耐衝撃性改良材との組成物についての記載はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭42−12546号公報
【特許文献2】特開昭62−179562号公報
【特許文献3】国際公開第2000/09586号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂と耐衝撃性改良材を主要構成成分とする、耐衝撃性、耐熱性、耐水性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂に耐衝撃性改良材を配合することにより、靭性の向上だけでなく、上記ポリアミド樹脂が高い結晶性を保持するために耐熱性に優れる組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、
(i)(A)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体を重縮合して得られるポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)耐衝撃性改良材5〜100重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物、
(ii)(B)耐衝撃性改良材のガラス転移温度が−20℃以下である(i)に記載のポリアミド樹脂組成物、
(iii)(B)耐衝撃性改良材が、グリシジル基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、酸無水物基から選ばれる少なくとも1種で変性されたオレフィン系重合体である(i)または(ii)に記載のポリアミド樹脂組成物、
(iv)(B)耐衝撃性改良材の分散粒子径が0.010μm〜1.0μmである(i)〜(iii)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(v)(A)ポリアミド樹脂中のピロリジン含有量が5.0×10−5mol/g以下である(i)〜(iv)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(vi)(A)ポリアミド樹脂中のアミノ末端基量が1.0×10−5〜7.0×10−5mol/gである(i)〜(v)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(vii)粘弾性測定におけるポリアミド樹脂のガラス転移温度に対応するtanδのピークトップの値が0.13以下である(i)〜(vi)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(viii)(A)ポリアミド樹脂が溶融重合により製造された(i)〜(vii)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(ix)(A)ポリアミド樹脂を構成する脂肪族ジカルボン酸成分がスベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である(i)〜(viii)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(x)さらに、無機充填材を配合してなる(i)〜(ix)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、および
(xi)(i)〜(x)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、靭性、耐熱性、耐水性に優れたポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用する(A)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体を重縮合して得られるポリアミド樹脂とは、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸の総重量が、原料となる単量体の70重量%以上であるポリアミド樹脂である。より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上である。
【0011】
炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸としては、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。特に、結晶性、耐熱性の観点から、炭素数8以上12以下のものが好ましく、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸が好ましい。
【0012】
前記(A)ポリアミド樹脂は、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸に加え、他の単量体が共重合されたものでもよい。(A)ポリアミド樹脂を構成する、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸以外の共重合体単位としては、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられ、これらの少なくとも1種を、全構成成分に対して30重量%未満含有することができる。
【0013】
本発明で使用する(A)ポリアミド樹脂の製造方法としては、テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸、またはその塩を、加熱して低次縮合物を合成する工程を経て、固相重合または溶融重合により高重合度化する方法が挙げられる。この方法は、低次縮合物を一旦取り出して、固相重合または溶融重合する2段重合、低次縮合物の製造工程に続いて、同一反応容器内で固相重合または溶融重合する1段重合のどちらを用いてもよい。溶融重合により得られたポリアミド樹脂は、固相重合により得られたポリアミド樹脂と比較して、分子量分布が狭くなり、相対的に低分子量成分が少なくなるので、(B)耐衝撃性改良材による靭性改良効果が大きくなる傾向にある。ここで、低次縮合物とは、後述する硫酸相対粘度が1.05〜1.90のポリアミド樹脂と定義する。また、固相重合とは、100℃〜融点の温度範囲で、減圧下、あるいは不活性ガス中で加熱する工程、溶融重合とは、常圧、または減圧下で融点以上に加熱する工程を示す。
【0014】
上記特許文献1には、ポリアミド樹脂の反応性末端基(アミノ末端基、カルボキシル末端基)が、酸変性オレフィン共重合体と共有結合、イオン結合を形成し、両者の相溶性が改良されることが記載されている。本発明で使用する(A)ポリアミド樹脂の構成成分であるテトラメチレンジアミンの一部は、ポリアミド樹脂の製造過程において、環化反応によりピロリジンを副生し、これが末端封鎖剤として作用する。この場合、(A)ポリアミド樹脂中の反応性末端基が減少し、(B)耐衝撃性改良材との相溶性改良効果が低減するので、(A)ポリアミド樹脂に含まれるピロリジン含有量は少ない方が好ましい。本発明では、(A)ポリアミド樹脂中のピロリジン含有量が5.0×10−5mol/g以下であることが好ましい。より好ましくは3.0×10−5mol/g以下、さらに好ましくは、2.0×10−5mol/g以下、最も好ましくは1.5×10−5mol/g以下である。(A)ポリアミド樹脂中のピロリジン含有量をこの範囲にすることで、ポリアミド樹脂中に、耐衝撃性改良材と反応することができる反応性末端基が十分に残存し、耐衝撃性をより向上させることができる。ピロリジンの生成反応は、重合系内に存在する水量が増大するに伴い促進される傾向があるため、重合開始時の系内の水量を抑制して製造された(A)ポリアミド樹脂を使用することが好ましい。原料中の水の含有量は70重量%以下であることが好ましく、より好ましくは50重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。また、重合過程での最高到達圧力を制限することにより、ピロリジン含有量が少ない(A)ポリアミド樹脂を得ることができる。好ましくは20kg/cm以下、より好ましくは15kg/cm以下、さらに好ましくは10kg/cm以下、最も好ましくは5kg/cm以下である。
【0015】
ここで、ピロリジン含有量は、ガスクロマトグラフィーを用い、ピロリジン標準溶液から検量線を作成した後、ポリアミド樹脂を加水分解して得られた処理液を測定し、定量したものである。
【0016】
本発明で使用する(A)ポリアミド樹脂を製造する際には、テトラメチレンジアミン、およびその環化反応により生成するピロリジンが揮発したり、ピロリジンが末端封鎖剤となるなどの理由で、重合の進行に伴い、重合系内では全カルボキシル基量に対する全アミノ基量が少なくなり、重合速度が遅延する傾向がある。本発明では、テトラメチレンジアミンの揮発を抑制するためには、重合系内の圧力が高い方が好ましいが、反面、ピロリジンの生成反応が促進される傾向にあるため、本発明では重合系内の最高到達圧力を1〜20kg/cmとすることが好ましい。より好ましくは2〜20kg/cm、さらに好ましくは2〜15kg/cm、最も好ましくは3〜10kg/cmである。圧力が1kg/cm未満の場合には、テトラメチレンジアミンの揮発を十分に抑制することができず、アミノ基、カルボキシル基の等モル性が大きく崩れる傾向がある。また、圧力が20kg/cmを越える場合には、重縮合による水の脱離が抑制され、重合度が上昇しにくい傾向がある。
【0017】
また、原料を仕込む段階で、あらかじめ特定量のテトラメチレンジアミンを過剰に添加して、重合系内のアミノ基量を制御することが、高分子量体の(A)ポリアミド樹脂を得るためには好ましい。原料として使用するテトラメチレンジアミンのモル数をX、炭素数7以上のジカルボン酸のモル数をYとしたとき、その比X/Yが1.005〜1.08となるように原料組成比を調整することが好ましく、より好ましくは1.006〜1.06、さらに好ましくは1.01〜1.05である。A/Bが1.005未満の場合には、重合系内の全アミノ基量が、全カルボキシル基量よりも極めて少なくなり、高分子量のポリマーが得られにくい傾向がある。一方、A/Bが1.08より大きい場合には、重合系内の全カルボキシル基量が、全アミノ基量よりも極めて少なくなり、高分子量のポリマーが得られにくい傾向がある。
【0018】
(A)ポリアミド樹脂中に存在するアミノ末端基、カルボキシル末端基等の反応性末端基は、グリシジル基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、酸無水物基などの反応性官能基で変性されたオレフィン系重合体に代表される(B)耐衝撃性改良材との相溶性を改良するための有効な官能基として作用する。アミノ末端基は、反応性官能基で変性されたオレフィン系重合体と強固な結合を形成するため、カルボキシル末端基よりも両成分の相溶性改良効果が高く、耐衝撃性を改良するためには有効である。本発明では、(A)ポリアミド樹脂中のアミノ末端基は、1.0×10−5〜7.0×10−5mol/gであることが好ましい。より好ましくは、2.0×10−5〜5.0×10−5mol/gである。アミノ末端基量が1.0×10−5mol/g以上であれば、(A)ポリアミド樹脂と(B)耐衝撃性改良材との相溶性改良効果が高く、耐衝撃性をより向上させることができる。7.0×10−5mol/gを超える場合には、ポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が高く、成形加工性に劣る傾向がある。
【0019】
ここで、アミノ末端基は、ポリアミド樹脂を、フェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5、体積比)に溶解し、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定した値である。
【0020】
本発明で使用する(A)ポリアミド樹脂の重合度は、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、2.0〜5.0であることが好ましい。より好ましくは2.2〜4.5、さらに好ましくは2.5〜4.0である。相対粘度が2.0以上であれば、耐衝撃性をより向上させることができる。相対粘度が5.0を超えると成形加工性に劣る傾向がある。
【0021】
本発明で使用する(A)ポリアミド樹脂には、必要に応じて、重合促進剤を添加することができる。重合促進剤としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などの無機系リン化合物が好ましく、特に亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸ナトリウムが好適に用いられる。重合促進剤は原料100重量部に対して、0.001〜1重量部の範囲で使用するのが好ましい。重合促進剤の使用量が0.001重量部に満たない場合には、その添加効果が殆ど認められず、また1重量部を越える場合には、重合度が上がり過ぎるため、(B)耐衝撃性改良材と均一に溶融混練することが困難となる傾向がある。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(B)耐衝撃性改良材を含有する。これにより、耐衝撃性を向上させることができる。(B)耐衝撃性改良材としては、オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物を重合して得られる(共)重合体などの変性ポリオレフィンが好ましく用いられる。
【0023】
上記(共)重合体としては、エチレン系共重合体、共役ジエン系重合体、共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体などが挙げられる。
【0024】
ここで、エチレン系共重合体とは、エチレンと他の単量体との共重合体および多元共重合体をさし、エチレンと共重合する他の単量体としては炭素数3以上のα−オレフィン、非共役ジエン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、α,β−不飽和カルボン酸およびその誘導体などの中から選択することができる。
【0025】
炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチルペンテン−1、オクタセン−1などが挙げられ、プロピレン、ブテン−1が好ましく使用できる。非共役系ジエンとしては5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−クロチル−2−ノルボルネン、5−(2−メチル−2−ブテニル)−2−ノルボルネン、5−(2−エチル−2−ブテニル)−2−ノルボルネン、5−メチル−5−ビニルノルボルネンなどのノルボルネン化合物、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、4,7,8,9−テトラヒドロインデン、1,5−シクロオクタジエン、1,4−ヘキサジエン、イソプレン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−トリデカジエンなどが挙げられ、好ましくは5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどである。α,β−不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸などが挙げられ、その誘導体としてはアルキルエステル、アリールエステル、グリシジルエステル、酸無水物、イミドを例として挙げることができる。
【0026】
また、共役ジエン系重合体とは少なくとも1種以上の共役ジエンを構成成分とする重合体であり、例えば1,3−ブタジエンの如き単独重合体や1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンから選ばれる1種以上の単量体の共重合体などが挙げられる。これらの重合体の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されているものも好ましく使用できる。
【0027】
共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体とは共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素からなるブロック共重合体またはランダム共重合体であり、これを構成する共役ジエンの例としては前記の単量体が挙げられ、特に1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。芳香族ビニル炭化水素の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましく使用できる。また、共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体の芳香環以外の二重結合以外の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されているものも好ましく使用できる。
【0028】
また、ポリアミド系エラストマーやポリエステル系エラストマーを用いることもできる。これらの耐衝撃性改良材は2種以上併用することも可能である。
【0029】
本発明では、(A)ポリアミド樹脂との相溶性を向上させ、効果的に耐衝撃性を改良するために、上記単量体から構成されるポリオレフィン系(共)重合体に、反応性官能基であるグリシジル基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、酸無水物基の少なくとも一種が共重合、あるいはグラフトされたものが好ましく用いられる。(B)耐衝撃性改良材に含まれるこれら反応性官能基は、耐衝撃性改良材を100重量%とした場合に、0.1〜7重量%であることが好ましい。より好ましくは、0.4〜3重量%である。0.1重量%以上であれば、(A)ポリアミド樹脂との相溶性がより向上し、耐衝撃性改良効果をより高めることができる。7.0重量%を超える場合には、ポリアミド樹脂との反応が過剰に進行して溶融粘度が上昇し、成形加工性に劣る傾向がある。
【0030】
(B)耐衝撃性改良材の具体例としては、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン−1共重合体、エチレン/ヘキセン−1共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン共重合体、エチレン/プロピレン/5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体、未水添または水添スチレン/イソプレン/スチレントリブロック共重合体、未水添または水添スチレン/ブタジエン/スチレントリブロック共重合体、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/アクリル酸メチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体、エチレン/メタクリル酸エチル共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−無水マレイン酸共重合体、(「g」はグラフトを表わす、以下同じ)、エチレン/メタクリル酸メチル−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−マレイミド共重合体、エチレン/アクリル酸エチル−g−N−フェニルマレイミド共重合体およびこれら共重合体の部分ケン化物、エチレン/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/ビニルアセテート/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/メタクリル酸メチル/グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン/グリシジルアクリレート共重合体、エチレン/ビニルアセテート/グリシジルアクリレート共重合体、エチレン/グリシジルエーテル共重合体、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン/2,5−ノルボルナジエン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−N−フェニルマレイミド共重合体、エチレン/ブテン−1−g−N−フェニルマレイミド共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/イソプレン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン/1,4−ヘキサジエン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、ナイロン12/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ナイロン12/ポリトリメチレングリコール共重合体、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリブチレンテレフタレート/ポリトリメチレングリコール共重合体などを挙げることができる。この中で、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体、水添スチレン/ブタジエン/スチレン−g−無水マレイン酸共重合体がさらに好ましく、エチレン/メタクリル酸共重合体およびこれら共重合体中のカルボン酸部分の一部または全てをナトリウム、リチウム、カリウム、亜鉛、カルシウムとの塩としたもの、エチレン/プロピレン−g−無水マレイン酸共重合体、エチレン/ブテン−1−g−無水マレイン酸共重合体が特に好ましい。
【0031】
本発明における耐衝撃性改良材の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、5〜100重量部である。より好ましくは5〜50重量部、さらに好ましくは10〜40重量部、最も好ましくは10〜30重量部である。5重量部以上であれば、耐衝撃性の改良効果をより高めることができる。100重量部を上回る場合には、溶融粘度が高く成形加工性に劣る傾向がある。
【0032】
本発明は耐衝撃性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ようとするものであるので、ポリアミド樹脂組成物を、周波数1Hzで動的粘弾性測定した時に得られる(B)耐衝撃性改良材のガラス転移温度に対応するtanδのピーク温度が−20℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは−30℃以下、最も好ましくは−50℃以下である。
【0033】
ここで、tanδのピーク温度は、樹脂組成物の3mm厚の成形品から、長さ55mm、幅13mmの試験片を切り出し、粘弾性測定装置を用いて、曲げモードにて、周波数1Hz、チャック間距離20mm、昇温速度2℃/分、−150℃〜210℃で測定し、ポリアミド樹脂組成物中の耐衝撃性改良材に対応するtanδのピークトップの温度を求めた値である。
【0034】
さらに、ポリアミド樹脂組成物における(B)耐衝撃性改良材の分散粒子径は、0.010μm〜1.0μmであることが好ましい。分散粒子径が0.010μm未満の場合には、ポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が上昇し、成形加工性に劣る傾向がある1.0μmを以下であれば、耐衝撃性の改良効果をより高めることができる。(B)耐衝撃性改良材の分散粒子径は、本ポリアミド樹脂組成物の成形品から厚み0.1μm以下の薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で倍率1万倍にて観察して得られた写真から、任意の分散粒子100個について画像処理ソフト「Scion Image」(Scion Corporation 社製)を用いて、各々の粒子の最大径と最小径の平均値を分散粒子径とし、これら100個の数平均値を算出することにより求めることができる。
【0035】
さらに、本発明では、耐熱性に優れるポリアミド樹脂組成物を得ようとするものであるので、ポリアミド樹脂の結晶性は高い方が好ましい。ポリアミド樹脂組成物を周波数1Hzで動的粘弾性測定した時に得られるポリアミド樹脂のガラス転移温度に対応するtanδのピークトップの値は、結晶性が高いほど小さくなる傾向にあるので、本発明においては、その値が0.13以下であることが好ましい。より好ましくは0.12以下である。
【0036】
ここで、tanδのピークトップの値は、樹脂組成物の3mm厚の成形品から、長さ55mm、幅13mmの試験片を切り出し、粘弾性測定装置を用いて、曲げモードにて、周波数1Hz、チャック間距離20mm、昇温速度2℃/分、−50℃〜210℃で測定し、ポリアミド樹脂組成物中のポリアミド樹脂のガラス転移温度に対応するtanδのピークトップの値を読み取ることで測定できる。
【0037】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂と(B)耐衝撃性改良材を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給して溶融混練する方法による得ることができる。
【0038】
(A)ポリアミド樹脂に、(B)耐衝撃性改良材を均一に分散させる方法として、混練機のL/D(スクリュー長/スクリュー径)、ベントの有無、混練温度、滞留時間、それぞれの成分の添加位置、添加量をコントロールすることが有効である。一般に溶融混練機のL/Dを長く、滞留時間を長くすることは、(B)耐衝撃性改良材の均一分散を促進するため好ましい。
【0039】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲で各種添加剤、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ホスフィン酸金属塩などのリン系難燃剤、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、無機充填材(ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維、ワラストナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、合成雲母、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカ等)を任意の時点で添加することができる。無機充填材を配合する場合の配合量は、ポリアミド樹脂100重量部に対して、0.1〜200重量部が好ましく、より好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは5〜50重量部である。
【0040】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、自動車部品、機械部品などの樹脂成形品、繊維、フィルムなどに使用することができる。具体的な用途としては、自動車エンジン冷却水系部品、特にラジエタータンクのトップおよびベースなどのラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、バルブなどのウォーターポンプ部品など自動車エンジンルーム内で冷却水との接触下で使用される部品、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、ファスナー、バックル、ワイヤークリップ、自転車ホイール、キャスター、ヘルメット、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、スポイラー、キャニスター、ラジエタータンク、チャンバータンク、リザーバータンク、ヒューズボックス、エアークリーナーケース、エアコンファン、ターミナルのハウジング、ホイールカバー、吸排気パイプ、ベアリングリテーナー、シリンダーヘッドカバー、インテークマニホールド、ウォーターパイプインペラ、クラッチレリーズ、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイドなどに代表される電気・電子関連部品、自動車・車両関連部品、家電・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品、その他各種用途に有用である。
【実施例】
【0041】
(1)各実施例および比較例に用いたポリアミド樹脂の特性を以下の方法で評価した。
【0042】
[相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0043】
[融点(Tm)]
セイコーインスツル社製 ロボットDSCRDC220を用い、ポリアミド樹脂を約5mg精秤し、窒素雰囲気下、次の条件で測定した。融点+35℃に昇温して溶融状態とした後、20℃/分の降温速度で、30℃まで降温して3分間保持した後、20℃/分の昇温速度で融点+35℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークの温度(融点:Tm)を求めた。
【0044】
[アミノ末端基量]
ポリアミド樹脂約0.5gを精秤し、フェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5、体積比)25mlに溶解後、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定した。
【0045】
[ピロリジン含有量]
ポリアミド樹脂約0.06gを精秤し、臭化水素酸水溶液中、150℃で3時間加水分解を行った。得られた処理液に、40%水酸化ナトリウム水溶液、トルエンを加え、次いでクロロギ酸エチルを添加して撹拌した。上澄みのトルエン溶液を抽出し測定溶液とした。定量はピロリジン標準溶液を用いた。測定条件を以下に示した。
装置:島津GC−14A
カラム:NB−1(GLサイエンス社製)60m×0.25mm
検出器:FID(水素炎イオン化検出器)
オーブン温度:150℃から330℃まで10℃/分で昇温
試料注入部温度:250℃
検出部温度:330℃
キャリアガス:He
試料注入量:3.0μl。
【0046】
(2)各実施例および比較例で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、以下の方法で特性を評価した。
【0047】
[引張特性]
ASTM D638に従い、引張試験機テンシロンUTA2.5T(オリエンテック社製)を用い、厚さ1/8インチのASTM1号ダンベル試験片について、クロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、引張強度、引張破断伸度を求めた。
【0048】
[曲げ特性および吸水時曲げ特性]
ASTM D790に従い、曲げ試験機テンシロンRTA−1T(オリエンテック社製)を用い、厚さ1/4インチの棒状試験片について、クロスヘッド速度3mm/minで曲げ試験を行い、曲げ強度、曲げ弾性率を求めた。なお、吸水時曲げ特性は、60℃、相対湿度95%の雰囲気下で25時間処理した棒状試験片について、同様の測定を行った。
【0049】
[耐衝撃性]
ASTM D256に従い、23℃における1/8インチ厚ノッチ付き成形品のIzod衝撃強度を測定した。
【0050】
[耐熱性]
ASTM D648−82に従い、東洋精機社製HDT−TESTERを用いて、厚さ1/4インチの棒状試験片について、試験荷重18.6kgfでの荷重たわみ温度を測定した。
【0051】
[粘弾性]
3mm厚の成形品から、長さ55mm、幅13mmの試験片を切り出し、セイコーインスツル社製DMS6100を用い、曲げモードにて、周波数1Hz、チャック間距離20mm、昇温速度2℃/分、−150℃〜210℃で測定し、ポリアミド樹脂組成物中の耐衝撃性改良材、およびポリアミド樹脂のガラス転移温度に対応するtanδのピークトップの温度を求めた。なお、ポリアミド樹脂のガラス転移温度については、tanδのピークトップの値も示した。ただし、実施例6、比較例6において、(B)成分として使用した“ハイミラン”(登録商標)1706のガラス転移温度は、ポリアミド樹脂のそれと重なり、ポリアミド樹脂組成物の粘弾性測定からガラス転移温度を求めることができないため、(B)成分のガラス転移温度としては、“ハイミラン”1706単体で測定した値を示した。
【0052】
[(B)耐衝撃性改良材の分散粒子径]
射出成形により作製したASTM1号ダンベルから、厚み約80nmの薄片を切削し、透過型電子顕微鏡で倍率1万倍にて観察して得られた写真から、任意の分散粒子100個について画像処理ソフト「Scion Image」(Scion Corporation 社製)を用いて、各々の粒子の最大径と最小径の平均値を分散粒子径とし、これら100個の数平均値を算出した。
【0053】
参考例1(ナイロン410塩の作製)
メタノール3Lにセバシン酸(小倉合成工業)300.0g(1.48mol)を添加し、60℃で溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(広栄化学工業)130.8g(1.48mol)をメタノール1Lに溶解した溶液を2時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、静置下で室温に放置し、析出した塩を沈降させた。その後、ろ過、メタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン410塩を得た。
【0054】
参考例2(ナイロン46塩の作製)
エタノール3Lにアジピン酸(東京化成)280.7g(1.92mol)を添加し、60℃で溶解させた。ここに、あらかじめ調製したテトラメチレンジアミン(広栄化学工業)169.3g(1.92mol)をエタノール1Lに溶解した溶液を2時間かけて滴下した。3時間撹拌を続けた後、静置下で室温に放置し、析出した塩を沈降させた。その後、ろ過、エタノール洗浄を行い、50℃で24時間真空乾燥して、ナイロン46塩を得た。
【0055】
参考例3(ナイロン410の溶融重合)
参考例1で作製したナイロン410塩700g、テトラメチレンジアミン2.12g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.3065gを、撹拌翼付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま、加熱を開始し、15.6kg/cmに到達した後、放圧を開始し、60分かけて缶内圧をゼロにした。その後、窒素雰囲気下、255〜270℃で2時間溶融重合した。圧力容器底部の吐出口から内容物をガット状にして取り出し、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.88のナイロン410を得た。
【0056】
参考例4(ナイロン410の溶融重合)
参考例1で作製したナイロン410塩750g、テトラメチレンジアミン11.4g、次亜リン酸ナトリウム0.329g、イオン交換水750gを、撹拌翼付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が3.0kg/cmに到達した後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を3.0kg/cmに保持した。缶内温度が245℃に到達した時点で放圧を開始し、5分間かけて缶内圧力をゼロにした。その後、窒素雰囲気下、250〜270℃で2時間溶融重合した。圧力容器底部の吐出口から内容物をガット状にして取り出し、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=3.07のナイロン410を得た。
【0057】
参考例5(ナイロン410の製造(溶融重合))
参考例1で作製したナイロン410塩700g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.3065gを、撹拌翼付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま、加熱を開始し、19.1kg/cmに到達した後、放圧を開始し、80分かけて缶内圧をゼロにした。その後、窒素雰囲気下、255〜270℃で4時間溶融重合した。圧力容器底部の吐出口から内容物をガット状にして取り出し、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.77のナイロン410を得た。
【0058】
参考例6(ナイロン410の製造(固相重合))
参考例1で作製したナイロン410塩700g、テトラメチレンジアミン4.25g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.3065g、イオン交換水70gを、撹拌翼付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま、加熱を開始し、内温223℃、15.0kg/cmに到達後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を15.0kg/cmで30分保持した。その後、反応容器から内容物をクーリングベルト上に吐出した。これを80℃で24時間真空乾燥して得られた低次縮合物を220℃、100Paで24時間固相重合し、ナイロン410(ηr=3.06)を得た。
【0059】
参考例7(ナイロン46の製造(固相重合))
参考例2で作製したナイロン46塩700g、テトラメチレンジアミン5.27g、次亜リン酸ナトリウム1水和物0.2962g、イオン交換水70gを、撹拌翼付きの内容積が3Lの圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。この圧力容器を密閉したまま、加熱を開始し、内温225℃、15.0kg/cmに到達後、水分を系外に放出させながら缶内圧力を15.0kg/cmで30分保持した。その後、反応容器から内容物をクーリングベルト上に吐出した。これを80℃で24時間真空乾燥して得られた低次縮合物を260℃、100Paで20時間固相重合し、ナイロン46(ηr=3.10)を得た。
【0060】
実施例1〜7、比較例1〜6
ポリアミド樹脂と耐衝撃性改良材を、表1〜2に示す組成となるように配合して、プリブレンドした。シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+20℃、スクリュー回転数:200rpmに設定した二軸押出機(池貝鉄鋼製PCM−30型)へ供給し溶融混練した。押出されたガットはペレタイズした後、80℃で24時間真空乾燥した。これを、射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度:ポリアミド樹脂の融点+20℃、金型温度:80℃に設定)して種々の試験片を作製し、機械物性を評価した。結果を表1〜2に示す。
【0061】
なお、ナイロン610、ナイロン66、ナイロン6、耐衝撃性改良材については以下に示した原料を使用した。
ナイロン610:ηr=2.70、アミノ末端基=3.51×10−5mol/g
ナイロン66:ηr=2.78、アミノ末端基=3.29×10−5mol/g
ナイロン6:ηr=2.75、アミノ末端基=5.90×10−5mol/g
耐衝撃性改良材:酸変性エチレン/ブテン−1共重合体(三井化学製“タフマー”(登録商標)MH5020)
耐衝撃性改良材:エチレン/ブテン−1共重合体(三井化学製“タフマー”(登録商標)TX−610)
耐衝撃性改良材:エチレン/メタクリル酸/メタクリル酸亜鉛塩共重合体(三井・デュポンポリケミカル製“ハイミラン”(登録商標)1706)
耐衝撃性改良材:グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体(住友化学製“ボンドファースト”(登録商標)BF−7L)
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
実施例1と比較例2の比較から、ナイロン410はナイロン66よりもポリマー中のアミド基濃度が小さいにもかかわらず、組成物における曲げ特性、耐衝撃性、荷重たわみ温度は同等であり、引張破断伸度、実使用時を想定した吸水時曲げ特性に優れる。
【0065】
実施例1と比較例3の比較から、ナイロン410はナイロン6よりもポリマー中のアミド基濃度が小さいにもかかわらず、組成物においては、荷重たわみ温度、引張破断伸度、吸水時曲げ特性に優れる。
【0066】
実施例1と比較例4の比較から、ナイロン410組成物は、ナイロン610組成物に対して、曲げ弾性率、曲げ強度、荷重たわみ温度に優れる。また、吸水率は多いにもかかわらず、絶乾時の曲げ特性が高いために、吸水時曲げ特性は優位である。
【0067】
実施例1と比較例5の比較から、ナイロン410組成物はナイロン46組成物に対して曲げ弾性率、曲げ強度に劣るものの、引張破断伸度、吸水時曲げ特性に優れる。
【0068】
実施例1と比較例2〜4の比較から、ナイロン410組成物は、ポリアミド樹脂のガラス転移に対応するtanδのピークトップの値が小さいことから、他のポリアミド樹脂組成物に比べて、結晶性に優れると推定される。
【0069】
実施例1〜3と実施例4の比較より、原料として、溶融重合により製造されたポリアミド樹脂を用いた方が、ポリアミド樹脂組成物の耐衝撃性に優れる。
【0070】
実施例1〜3の比較から、ピロリジン含有量が少なく、アミノ末端基量が多いほど、耐衝撃性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のポリアミド樹脂は、電気・電子関連部品、自動車・車両関連部品、家電・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品、繊維、フィルムなど各種用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)テトラメチレンジアミンと炭素数7以上の脂肪族ジカルボン酸を主要成分として含有する単量体を重縮合して得られるポリアミド樹脂100重量部に対して、(B)耐衝撃性改良材5〜100重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
(B)耐衝撃性改良材のガラス転移温度が−20℃以下である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)耐衝撃性改良材が、グリシジル基、カルボキシル基、カルボキシル基の金属塩、酸無水物基から選ばれる少なくとも1種で変性されたオレフィン系重合体である請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
(B)耐衝撃性改良材の分散粒子径が0.010μm〜1.0μmである請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
(A)ポリアミド樹脂中のピロリジン含有量が5.0×10−5mol/g以下である請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
(A)ポリアミド樹脂中のアミノ末端基量が1.0×10−5〜7.0×10−5mol/gである請求項1〜5いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
粘弾性測定におけるポリアミド樹脂のガラス転移温度に対応するtanδのピークトップの値が0.13以下である請求項1〜6いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
(A)ポリアミド樹脂が溶融重合により製造された請求項1〜7いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項9】
(A)ポリアミド樹脂を構成する脂肪族ジカルボン酸成分がスベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、およびドデカン二酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜8いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、無機充填材を配合してなる請求項1〜9いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2011−132519(P2011−132519A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263480(P2010−263480)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】