説明

ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体

【課題】流動性、機械的特性、難燃性に加えて、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】半芳香族ポリアミド樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含むポリアミド樹脂50〜95質量部および難燃剤5〜50質量部を合計100質量部含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであるポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性、機械的特性に加えて、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド6T、ポリアミド9Tに代表される半芳香族ポリアミドは、耐熱性、機械特性に加え、低吸水性に優れ、多くの電気・電子部品、自動車のエンジン周りの部品として使用されている。
一方、ポリイミド、液晶ポリエステルに代表される高耐熱材料は、電気、電子部品の基板材料として用いられている。しかしながら、このような材料は、性能面で非常に優れるものの、非常に高価であり加工適性に劣るため、前記半芳香族ポリアミドをこのような用途で用いることが検討されている。
ポリアミド6Tは、そのホモポリマーの融点が370℃と高すぎるため、溶融加工時のポリアミド6Tの熱分解を抑制することができなくなってしまう。そのため、ポリアミド6Tは、共重合成分を多く導入することにより、融点を十分に下げた状態で使用されている。しかし、このような共重合されたポリアミド6Tは、結晶性が損なわれ、結晶化を速めることはできなかった。
【0003】
また、難燃化が要求される電気・電子部品では、部品の高密度実装や、半田付け工程の効率などの目的で、表面実装方式(SMT)と呼ばれる実装方法が浸透している。特に最近では、環境規制の問題から融点の高い鉛レスハンダが主流になっており、SMT用途に求められる耐熱性の水準が一層高くなっている。さらに、部品の小型化、薄肉化が進んでおり、高い流動性、成形性も求められるようになっている。
【0004】
特許文献1には、ポリアミド9T、ポリフェニレンエーテルをマトリックス樹脂とし、難燃剤を含有するポリアミド樹脂組成物の開示がある。このような材料は、流動性、難燃性を高めることができたが、成形サイクルが長い、離型性が悪い等の成形時の問題があった。
特許文献2には、ポリアミド10T/6T、難燃剤を含有するポリアミド樹脂組成物の開示がある。このような材料は、耐熱性、機械特性、難燃性を向上することができたが、成形サイクルが長い等成形時の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−46781号公報
【特許文献2】特開2008−274288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、流動性、機械的特性、難燃性に加えて、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0009】
(1)半芳香族ポリアミド樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含むポリアミド樹脂50〜95質量部および難燃剤5〜50質量部を合計100質量部含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであるポリアミド樹脂組成物。
(2)半芳香族ポリアミド樹脂(A)のDSCを用いて測定される過冷却度△Tが40℃以下であることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物。
(3)半芳香族ポリアミド樹脂(A)のジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物。
(4)半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする(1)〜(3)のポリアミド樹脂組成物。
(5)脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46であることを特徴とする(1)〜(4)のポリアミド樹脂組成物。
(6)難燃剤が臭素含有難燃剤、窒素含有難燃剤、リン含有難燃剤から選ばれる1種以上の難燃剤であることを特徴とする(1)〜(5)のポリアミド樹脂組成物。
(7)リン含有難燃剤がホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩であることを特徴とする(1)〜(6)のポリアミド樹脂組成物。
(8)ホスフィン酸塩が下記一般式(I)であり、ジホスフィン酸塩が下記一般式(II)であることを特徴とする(7)のポリアミド樹脂組成物。
【化1】

【化2】

(式中、R、RおよびR、Rはそれぞれ直鎖あるいは分岐鎖のC〜C16アルキルを表し、RとRおよびRとRは互いに環を形成してもよい;Rは直鎖あるいは分岐鎖のC〜C10アルキレンを表す;Mはカルシウムまたはアルミニウムイオンを表す;mは2または3である;nは1または3である;xは1または2である;式(II)ではmx=2nである。)
(9)ポリアミド樹脂および難燃剤の合計100質量部に対し、さらに繊維状強化材5〜200質量部を含有してなる(1)〜(8)のポリアミド樹脂組成物。
(10)繊維状強化材がガラス繊維、炭素繊維、金属繊維から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(9)のポリアミド樹脂組成物。
(11)(1)〜(10)のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性、機械的特性、難燃性に加えて、成形性を向上させたポリアミド樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。 本発明で用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、高結晶性の観点から、テレフタル酸成分と特定の脂肪族ジアミン成分とを用いることが必要である。
テレフタル酸は、芳香族ジカルボン酸の中でも化学構造の対称性が高く、高い結晶性を有する半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得る上で最も好ましいからである。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する脂肪族ジアミン成分は、1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかである。上記直鎖脂肪族ジアミンは、化学構造の対称性が高いため、高い結晶性を有する半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得る上で好ましい。
【0012】
用いられるジアミンの炭素数が、偶数であることが必要である理由について以下に述べる。一般的に、ポリアミドにおいてはいわゆる偶奇効果が発現する。すなわち、用いられるジアミン成分のモノマー単位の炭素数が偶数である場合には、奇数である場合と比較して、より安定な結晶構造をとるため、結晶性が向上するという効果が発現する。従って、高結晶性の観点から、直鎖脂肪族ジアミンの炭素数は偶数である必要がある。
【0013】
ジアミンの炭素数が8未満の場合には、得られる半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点が340℃を超えて分解温度を上回るため、好ましくない。一方、ジアミンの炭素数が12を超える場合には、得られる半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点が280℃未満となり、実用に供する際に、耐熱性が不足してしまうため好ましくない。炭素数9、11のジアミンでは、ポリアミドの偶奇効果により、結晶性が不足する。
【0014】
本発明で用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)には、主成分となるテレフタル酸成分以外のジカルボン酸成分、および/または炭素数が8、10または12である直鎖脂肪族ジアミン成分以外の種類のジアミン成分(以下、「共重合成分」と称する場合がある)が共重合されていてもよい。共重合成分は、原料モノマーの総モル数(100モル%)に対し、5モル%以下とすることが好ましく、実質的に共重合成分を含まないことがより好ましい。なぜなら、高結晶性の観点からは、化学構造の不規則な共重合体よりも、規則性の高いホモポリマーに近い構造を有することが好ましいからである。つまり、共重合成分が5モル%を超えると、結晶性が低下し、高結晶性を有する半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得ることができない場合がある。
【0015】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の共重合成分として用いることが可能なテレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0016】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の共重合成分として用いることが可能な他のジアミン成分としては、1,2−エタンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンなどの脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミンなどの脂環式ジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミンが挙げられる。なお、上記に列挙された1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−オクタンジアミンのいずれかは、本発明のポリアミド樹脂に必須のジアミン成分である。1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかを必須のジアミン成分として用いた場合には、それ以外のジアミン成分が共重合成分として用いられる。例えば、1,8−オクタンジアミンを必須のジアミン成分として用いる場合には、1,10−デカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンが共重合成分として用いられる。
【0017】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)には、必要に応じて、カプロラクタム等のラクタム類を共重合させてもよい。
【0018】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量は、15,000〜50,000であることが好ましく、20,000〜50,000であることがより好ましく、26,000〜50,000であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量が15,000未満であると得られる半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶化は速くなるものの、剛性が低下する。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量が50,000を超えると結晶化は遅くなり、射出成形時の流動性が低下する。
【0019】
本発明で用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、トリアミン量が十分に低減されていることが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、重合時におけるジアミン同士の縮合反応により、トリアミン構造が副生し易い。トリアミン量が多いと、分子鎖中に架橋構造が生成し、その架橋構造は分子鎖の動きや配列を束縛するため、結晶性が低下する。また、トリアミン量が多いと、ゲルが多く発生するため、得られる成形体の表面にフィッシュアイやブツとして存在し、表面外観を損ねる原因となることがある。
【0020】
そのため、半芳香族ポリアミド樹脂(A)中に含まれるトリアミン単位は、ジアミン単位の0.3モル%以下であることが必要であり、0.2モル%以下であることが好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のトリアミン構造がジアミン単位の0.3モル%を超える場合には、結晶性が低下したり、ゲルが発生して得られる成形体の表面平滑性を損ねたり、色調が低下するという問題が発現することがある。また、結晶性が低下すると、燃焼時の燃焼カロリーが低くなるため、燃えやすくなり、トリアミン量が少ないものと比較すると、難燃剤を多く添加しないと、同じ難燃レベルにならない。
【0021】
上記のトリアミン単位をジアミン単位の0.3モル%以下とするためには、テレフタル酸成分とジアミン成分とから塩を生成するに際し、水や有機溶剤の配合量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが好ましい。
【0022】
一般的に、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の加熱重合反応を均一的に進行させるために、水の共存下、原料を混合し、加熱して脱水反応を進行させる方法が用いられている。しかしながら、このような方法においては、重合時の水と有機溶剤の合計量が、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部を超えて多くなると、重合度の上昇が抑制されるという問題がある。その場合、アミン末端が多い状態での重合装置中の滞留時間が長くなり、ジアミン同士の縮合反応により副生成するトリアミン量が増加する。その結果、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の一部が架橋構造をとり、ゲル化が促進されたり、色調が低下したりする。ゲル化は半芳香族ポリアミド樹脂(A)の結晶性の低下や、結晶化速度を遅延させる原因となる。そして、本発明のような半芳香族ポリアミドでは、トリアミンの生成が脂肪族ポリアミドより顕著である。従って、本発明のように、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下である半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得るためには、水や有機溶剤の配合量を、原料モノマーの合計100質量部に対して5質量部以下とすることが必要であり、実質的に水を配合させないことがより好ましい。
【0023】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、結晶化を速め、成形性を向上させることを目的としているので、結晶化速度が特定の範囲に制御されていることが好ましい。本発明における結晶化速度は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定した過冷却度ΔTを指標とすることができる。本発明において、ΔTは40℃以下であることが好ましく、35℃以下であることがより好ましい。ΔTが40℃を超えると、結晶性を十分に高めることができず、成形サイクルを短縮することができなかったり、金型からの離型が困難となるため、成形時の連続生産性が低下することがある。
【0024】
なお、本発明においては、下記式のように、過冷却度ΔTは、当該半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点(以下、Tmと略称する場合がある)と降温結晶化温度(以下、Tccと略称する場合がある)との差と定義される。
ΔT=Tm−Tcc
上記式においては、示差走査熱量計(DSC)を用いて、不活性ガス雰囲気下、当該半芳香族ポリアミド樹脂(A)を溶融状態から20℃/分の降温速度で25℃まで降温した後、20℃/分の昇温速度で昇温した場合に現れる吸熱ピークの温度を融点(Tm)と定義する。また、同様に溶融状態から20℃/分の降温速度で25℃まで降温した場合に現れる発熱ピークの温度を降温結晶化温度(Tcc)と定義する。このΔTが小さい程、ポリマー溶融状態からの結晶化が速いことを示す。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、骨格にフタル酸由来の芳香環を有し、また、結晶性が高いものであるため、燃焼カロリーが高くなり、燃焼しにくい性質となる。また、ΔTが40℃以下の範囲を満たすことで、成形時の金型温度、シリンダー温度などに依存せず、得られる成形体の結晶性を高めることができるため、難燃剤の含有量を少なくしても必要な難燃性が発現する。
【0026】
また、結晶化が速いため、射出成形時の固化が速くなり、冷却時間を短時間にすることが可能である。さらに、無機強化材を含有させることで、無機強化材による成形体の補強効果と相まって、射出成形時の金型からの取出し時の成形体の剛性が高まるため、無機強化材を含有しないポリアミド樹脂成形体に比べ、さらに冷却時間を短くしても金型内からの成形体の取出しが可能となる。したがって、射出成形によって成形体1個を成形するために要する時間(以下、成形サイクルという)を短縮することができる。このことは、成形体の生産効率を向上させるばかりでなく、特に連続して射出成形を行う場合、射出成形機のシリンダー内に滞留する樹脂の滞留時間の短縮も図れるため、樹脂の劣化、難燃剤の分解ガスの発生を抑制し、成形体への前記劣化物、分解ガスの混入、金型汚れを抑制し、成形体の品質向上を図ることができる。金型汚れの抑制は、金型からの取出し時の離型を良好にし、しかも良好な離型性能を継続して維持することができるため、生産ライン等で自動成形を行う場合の離型不良による運転停止を起こすことなく、長時間の連続成形が可能な連続生産性を向上させることができる。
【0027】
また、本発明で用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)のように、融点が高く、成形体を得るための樹脂溶融温度が高く、樹脂が長時間にわたって成形機シリンダー内に滞留する場合には、前記樹脂の劣化、分解ガスの発生は著しくなるため、成形サイクルを短くし、溶融樹脂の成形機シリンダー内への滞留を極力抑制することは、本発明のポリアミド樹脂組成物を成形して耐熱性に優れた成形体を得るための成形体品質面、成形ハンドリング面において好ましいことである。
【0028】
なお、炭素数が偶数個であるジアミン成分が用いられた半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、そもそも高結晶性を有するものである。さらなる高結晶性を達成するために、上述のように、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂(A)中の共重合成分を0〜5モル%とすることができる。さらなる高結晶性を達成するためには、上述のように、半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のジアミン単位に対するトリアミン単位を0.3モル%以下としてもよい。
【0029】
本発明で用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミドを製造する方法として従来から知られている加熱重合法や溶液重合法などの方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、溶融重合法、溶融押出法、固相重合法などが挙げられる。前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)は融点が280℃〜340℃と高く、分解温度に近い。よって、生成ポリマーの融点以上の温度で反応させる溶融重合法や溶融押出法は、製品の品質が低下する場合があるため、不適当な場合がある。そのため、生成ポリマーの融点未満の温度での固相重合法が好ましい。
【0030】
一般に、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の製造は、モノマーから反応物を得る工程(i)と、このような反応物を重合する工程(ii)からなることが多いが、本発明においては、トリアミン単位がジアミン単位の0.3モル%以下である半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得るために、工程(i)の段階を、重合系中の水分や溶媒が少ない条件、すなわち、ジカルボン酸とジアミンの合計100質量部に対して、水と有機溶剤の合計量が5質量部以下である水および/または有機溶剤の存在下で実施することが好ましい。
【0031】
工程(i)の具体例としては、たとえば、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸からなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンとの反応による塩の生成と、前記塩の重合による低重合体の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。このような反応物は通常塊状であるため、反応をさせながら破砕を行なうか、反応後に一旦取り出してから破砕を行うことで粉末状の反応物を得ることができる。
【0032】
工程(ii)の具体例としては、たとえば、工程(i)で得られた反応物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得る工程である。固相重合は、重合温度180〜270℃、反応時間0.5〜10時間で窒素などの不活性ガス気流中で行うことが好ましい。
【0033】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いたり、重合度の調整、熱分解や着色を抑制するため末端封止剤を用いることができる。
【0034】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩などが挙げられ、重合触媒の添加量としては、通常、ジカルボン酸とジアミンの総モルに対して、0〜2モル%で用いることが好ましい。
【0035】
末端封鎖剤としては、酢酸、ラウリン酸、安息香酸などのモノカルボン酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリンなどのモノアミンが挙げられ、これらいずれか一種、あるいはこれらを組み合わせて用いられる。末端封鎖剤の添加量としては、通常、テレフタル酸とジアミンの総モルに対して0〜5モル%で用いることが好ましい。
【0036】
本発明で用いる脂肪族ポリアミド樹脂(B)は主鎖中に芳香族成分を含まない重合体であり、例えば、ポリε-カプラミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカナミド(ポリアミド11)、ポリドデカナミド(ポリアミド12)およびこれらのうち少なくとも2種類の異なったポリアミド成分を含むポリアミド共重合体、あるいは、これらの混合物などがあげられる。中でもポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46が常温雰囲気下での振動疲労強度を向上させる観点から特に好ましい。
【0037】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)の配合比率は質量比で(A)/(B)=98/2〜87/13であることが好ましく、さらに97/3〜88/12であることが好ましく、96/4〜89/11であることがさらに好ましい。(A)が98質量%を超えると、すなわち(B)が2質量%未満であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性、成形体の靭性が低下する場合がある。一方、(A)が87質量%未満、すなわち(B)が13質量%を超えると、成形サイクルが長くなる等成形性が低下する場合がある。
ポリアミド樹脂組成物の流動性は、例えば、メルトフローレートを指標にすることができる。メルトフローレートの数値が大きいほど、流動性に優れると判断される。成形体の靭性は、例えば、曲げ強度、アイゾット衝撃強度等にて評価することができる。例えば、曲げ強度の数値が大きく、かつアイゾット衝撃強度の数値が大きい場合は靭性に優れるものと判断される。
半芳香族ポリアミド樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)を併用し、後述する繊維状強化材と組み合わせることによって、耐熱性と機械的特性を向上させ、優れた流動性、結晶性、難燃性を付与することができるため、成形サイクルを短縮し、成形性を高めたポリアミド樹脂組成物とすることができる。
【0038】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂(A)および脂肪族ポリアミド樹脂(B)の相対粘度は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易なポリアミド樹脂を得ようとすれば、相対粘度を1.9〜4.0の範囲のポリアミドが好適に用いられ、さらに好ましい相対粘度の範囲は2.0〜3.5である。相対粘度が1.9未満であれば成形品によっては靱性の不足し、機械的特性の低下を招く恐れがある。また、相対粘度が4.0を越えると成形加工が困難となり、外観も悪化する場合がある。
【0039】
本発明で用いる難燃剤は特に制限はなく、公知の難燃剤を用いることができる。
難燃剤の種類としては、臭素含有難燃剤、窒素含有難燃剤、リン含有難燃剤および窒素−リン含有難燃剤、水和金属系難燃剤が挙げられる。
【0040】
臭素含有難燃剤としては、臭素化ポリスチレン、ポリ臭素化スチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル等が挙げられる。臭素含有難燃剤の具体例としては、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモエチルベンゼン、ヘキサブロモビフェニル、デカブロモジフェニル、ヘキサブロモジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(ブロモエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールA−ビス(アリルエーテル)等のテトラブロモビスフェノールA誘導体、テトラブロモビスフェノールS及びテトラブロモビスフェノールS−ビス(ヒドロキシエチルエーテル)、テトラブロモビスフェノールS−ビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)等のテトラブロモビスフェノールS誘導体、テトラブロモ無水フタル酸、テトラブロモフタルイミド、エチレンビステトラブロモフタルイミド等のテトラブロモ無水フタル酸誘導体、エチレンビス(5,6−ジブロモノルボルナン−2,3−ジカルボキシイミド)、トリス−(2,3−ジブロモプロピル−1)−イソシアヌレート、ヘキサブロモシクロペンタジエンのディールスアルダー付加物、トリブロモフェニルグリシジルエーテル、トリブロモフェニルアクリレート、エチレンビストリブロモフェニルエーテル、エチレンビスペンタブロモフェニル、エチレンビスペンタブロモフェニルエーテル、テトラデカブロモジフェノキシベンゼン、臭素化ポリフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、オクタブロモナフタリン、ペンタブロモシクロヘキサン、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド、N−メチルヘキサブロモジフェニルアミン等が挙げられる。
中でも、難燃性の向上効果が高い点で、臭素を40〜80質量%含有するものが好ましく、50〜70質量%含有するものがより好ましい。本発明においては、高度な難燃性の付与が容易な点で、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールAが好ましく、ポリアミド樹脂との相溶性、ハンドリング面で臭素化ポリスチレン(例えば、ケムチュラ社製「Firemaster CP−44HF」等)を好ましく用いることができる。
【0041】
これらの臭素含有難燃剤は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酸化スズ(IV)、酸化鉄(III)、酸化亜鉛、ホウ酸亜鉛等の難燃助剤を併用することが好ましい。そのような場合において臭素含有難燃剤(A)と難燃助剤(B)との含有割合(A:B)は質量比で1:1〜8:1、特に2:1〜4:1であることがより好ましい。なお、本発明において、このような難燃助剤も難燃剤に含むものとする。
【0042】
窒素含有難燃剤としては、メラミン系化合物、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩、リン酸またはポリリン酸類とアンモニアまたはメラミン系化合物との塩等な挙げられる。
メラミン系化合物とは、メラミンをはじめ、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物、メラミンの縮合物等であり、具体的には、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、サクシノグアナミン、メラム、メレム、メトン、メロン等のトリアジン骨格を有する化合物、及びこれらの硫酸塩、メラミン樹脂等を挙げることができる。シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩とは、シアヌル酸類またはイソシアヌル酸類とメラミン系化合物との等モル反応物である。リン酸またはポリリン酸類とアンモニアまたはメラミン系化合物との塩としては、リン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン、ピロリン酸メラミン、ポリリン酸メラミンなどが挙げられる。
【0043】
リン含有難燃剤としては、リン酸エステル化合物、ホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩等が挙げられる。
リン酸エステル化合物は、モノマー、オリゴマー、ポリマー又はこれらの混合物であってもよい。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリナフチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、またはこれらの置換体、縮合物等を例示できる。これらの中でも、成形時の金型付着性、成形品の耐熱性、耐湿性等に優れるリン酸エステル化合物を好適に用いることができる。リン酸エステル化合物としては、例えば、大八化学工業株式会社製の各種リン酸エステル化合物を挙げることができ、TPP〔トリフェニルホスフェート〕、TXP〔トリキシレニルホスフェート〕、CR−733S〔レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)〕、PX200〔1,3−フェニレン−テスラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、PX201〔1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)リン酸エステル、PX202〔4,4’−ビフェニレン−テスラキス2,6−ジメチルフェニル〕リン酸エステル等から1種を選択、または、2種以上組合せて用いることができる。
【0044】
ホスフィン酸塩及びジホスフィン酸塩としては、それぞれ下記一般式(I)及び一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
【0045】
【化1】

【化2】

【0046】
式中、R、RおよびR、Rはそれぞれ直鎖あるいは分岐鎖のC〜C16アルキル、好ましくはC〜Cアルキル、特にメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−オクチル、フェニル、より好ましくはエチルであり、RとRおよびRとRは互いに環を形成してもよい。Rは直鎖あるいは分岐鎖のC〜C10アルキレン、特にメチレン、エチレン、n−プロピレン、イソプロピレン、イソプロピリデン、n−ブチレン、tert−ブチレン、n−ペンチレン、n−オクチレン、n−ドデシレン;アリーレン、特にフェニレン、ナフチレン、アルキルアリーレン、特にメチルフェニレン、エチルフェニレン、tert−ブチルフェニレン、メチルナフチレン、エチルナフチレン、tert−ブチルナフチレン;アリールアルキレン、特にフェニルメチレン、フェニルエチレン、フェニルプロピレン、フェニルブチレンであり、Mはカルシウム、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、好ましくはアルミニウム、亜鉛、より好ましくはアルミニウムであり、mは2または3であり、nは1または3であり、xは1または2である。一般式(II)ではmx=2nである。
【0047】
ホスフィン酸塩とは、ホスフィン酸と金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水溶液中で製造され、本質的にモノマーとして存在するが、反応条件に依存して、縮合度が1〜3のポリマー性ホスフィン酸塩の形として存在する場合もある。金属成分としてはカルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、および/または、亜鉛イオンを含む金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物が挙げられる。
【0048】
ホスフィン酸塩の構成成分として適したホスフィン酸としては、ジメチルホスフィン酸、エチルメチルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、メチル−n−プロピルホスフィン酸、イソブチルメチルホスフィン酸、オクチルメチルホスフィン酸、メチルフェニルホスフィン酸及びジフェニルホスフィン酸等、好ましくはジエチルホスフィン酸)が挙げられる。
【0049】
上記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル−n−プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル−n−プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛等が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れるジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛を好ましく用いることができ、ジエチルホスフィン酸アルミニウムをより好ましく用いることができる。
【0050】
また、ジホスフィン酸塩の構成成分として適したジホスフィン酸としては、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)等が挙げられる。
【0051】
上記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン−1,4−ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れるメタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛を好ましく用いることができる。
【0052】
ホスフィン酸塩とジホスフィン酸塩は混合して用いることもでき、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛のようなホスフィン酸塩、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛のようなジホスフィン酸塩を混合したクラリアント社製「Exolit OP1230」、「Exolit OP1240」、「Exolit OP1311」、「Exolit OP1312」、「Exolit OP1314」は、ポリアミド樹脂との混合性に優れ、必要な難燃性の付与な容易な点で好適に用いることができる。
【0053】
ホスフィン酸塩とジホスフィン酸塩の混合物等のリン含有難燃剤は、窒素含有難燃剤と併用することが好ましい。併用して用いることができる窒素含有難燃剤としては、シアヌル酸メラミン、ポリリン酸メラミン、リン酸メラミンが挙げられ、中でも、ホスフィン酸塩とジホスフィン酸塩の混合物との併用効果の高い点でポリリン酸メラミンが好ましい。
そのような場合においてホスフィン酸塩とジホスフィン酸塩の混合物(A2)とポリリン酸メラミン(B2)との含有割合(A2:B2)は質量比で1:1〜8:1、特に2:1〜4:1であることがより好ましい。
【0054】
さらに、ホスフィン酸塩とジホスフィン酸塩の混合物を用いる場合は、ホスフィン酸塩
とジホスフィン酸塩の混合物100質量%に対して0.1〜5.0質量%の水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ベーマイトなどを加えることにより、腐食を効果的に防止することができる。用いる水酸化カルシウム、酸化カルシウム、ベーマイトとしては、特に制限はなく、一般的に流通しているものを使用することができるが、より好ましくは結晶化度が低いものである。結晶性が低いものを使用すると、少量添加で腐食防止がより効果的になるためである。
【0055】
窒素−リン含有難燃剤としては、メラミン又はその縮合生成物とリン酸とから形成される付加物(メラミン付加物)を挙げることができる。このメラミン付加物を構成するリン酸としては、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸等が挙げられる。
前記メラミン付加物の具体例としては、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メレムポリホスフェート、メラムポリホスフェート等が挙げられるが、これらの中で2より長い、特に10より長い鎖長を有するメラミンポリホスフェートが好適である。
【0056】
さらに、ホスファゼン化合物、例えば下記一般式(III)で表される環状ホスファゼン化合物が好ましく挙げられる。
【0057】
【化3】

【0058】
式中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基,aは3〜15の整数を示す。
【0059】
一般式(III)において、R及びRのうちの炭素数1〜10のアルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、炭素数6〜15のアリール基は環上にアルキル基、アリール基、アルコキシ基等の置換基が導入されていてもよいフェニル等が挙げられる。
及びRとしては、共にアリール基であることが好ましく、特に共にフェニル基であることが好ましい。さらに、nが3、4である6員環及び8員環を全ホスファゼン化合物中に80質量%以上含有する環状ホスファゼン化合物が好適である。
【0060】
無機系難燃剤としては、例えば水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、アルミン酸カルシウム等の金属水酸化物、硼酸亜鉛、硼酸亜鉛と他の亜鉛塩との混合物等の無機系難燃剤が挙げることができ、特に水酸化マグネシウム及び硼酸亜鉛とリン酸亜鉛との混合物が好適である。用いる水酸化マグネシウムは、粒状、板状、針状等のものを使用することができる。粒状又は板状のものを用いる場合には、その平均粒径は0.05〜10μmであるのが好ましく、0.1〜5μmであるのがより好ましい。また、針状のものを用いる場合には、その平均径は0.01〜10μmであるのが好ましく、0.1〜5μmであるのがより好ましく、平均長は5〜2000μmであるのが好ましく、10〜1000μmであるのがより好ましい。
【0061】
水酸化マグネシウムは、耐熱性の観点から、塩素、カルシウム、鉄、アルミニウム、イオウ等の不純物の含有量が少ないものが好ましい。さらに、水酸化マグネシウムの表面は、ポリアミド樹脂組成物中での分散性を高め、熱安定性の向上を図る目的で、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、脂肪酸及びその誘導体、その他の高分子又は低分子の表面処理剤、ニッケル等の金属の固溶体等で表面処理されていることが好ましい。
【0062】
ホウ酸亜鉛としては、2ZnO・3B、4ZnO・B・HO、2ZnO・3B・3.5HO等が挙げられる。また、他の亜鉛の塩としては、Zn(PO・ZnO等のリン酸亜鉛、ZnSn(OH)、ZnSnO等のスズ酸亜鉛、その他モリブデン酸カルシウム亜鉛等から選択することが可能である。ホウ酸亜鉛と併用する他の亜鉛の塩としてはリン酸亜鉛が好ましく、その際、ホウ酸亜鉛とリン酸亜鉛の質量基準の比は、好ましくは1:0.1〜1:5、より好ましくは1:2〜1:4、さらに好ましくは1:2.5〜1:3.5である。
【0063】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、用いる難燃剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、環境負荷を低減することが可能な非ハロゲン系である窒素含有難燃剤、リン含有難燃剤及び窒素−リン含有難燃剤を好適に用いることができる。
【0064】
ポリアミド樹脂組成物100質量部中の難燃剤の含有量は、5〜50質量部であることが必要であり、7.5〜40質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがより好ましい。難燃剤の含有量が5質量部未満では、必要とする難燃性の付与が難しく、50質量部を超えると、得られるポリアミド樹脂組成物成形体の機械的特性が不十分となる。本発明のポリアミド樹脂組成物は、上記範囲で難燃剤を含有させることにより、優れた難燃性、機械特性をバランス良く兼ね備える。さらに、用いるポリアミド樹脂の結晶性が優れているため、従来のポリアミド樹脂に比べ、難燃剤の含有量を減らして同等の難燃性の付与が可能となり、しかも、成形性に優れたポリアミド樹脂組成物とすることが可能となる。
【0065】
本発明のポリアミド樹脂組成物においては、さらに、繊維状強化材を添加することができる。用いる繊維状強化材としては特に制限はないが、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維などを挙げることができ、機械的特性の向上効果の高い点、ポリアミド樹脂との溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性、入手しやすさからガラス繊維、炭素繊維および金属繊維が好適に用いられる。これらの繊維状強化材は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0066】
ガラス繊維、炭素繊維を用いる場合、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。また、シランカップリング剤は、集束剤に分散され、ガラス繊維を束ねるための集束剤として表面処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系などが挙げられるが、
ポリアミド樹脂とガラス繊維または炭素繊維との密着効果を得やすい点で、アミノシラン系カップリング剤が特に好ましい。
【0067】
繊維状強化材の繊維長、粒子径は、特に制限はないが、繊維長は0.1〜7mmのものが好ましく、0.5〜6mmのものがさらに好ましい。繊維状強化材の繊維長が0.1mm未満であると、補強効果に劣る場合があり、一方、7mmを超えると、成形性に悪影響を及ぼす場合がある。また、繊維径は3〜20μmのものが好ましく、5〜13μmのものがさらに好ましい。繊維径が3μm未満であると、溶融混練時に折損しやすく、一方、20μmを超えると、補強効果に劣る場合がある。また、断面形状として、円形断面である繊維状強化材を好ましく用いることができるが、必要に応じて、長方形、楕円、それ以外の異形断面である繊維状強化材を用いることができる。
【0068】
繊維状強化材を用いる場合は、ポリアミド樹脂および難燃剤の合計100質量部に対し、繊維状強化材5〜200質量部であることが好ましく、10〜180質量部であることがより好ましく、20〜150質量部であることがさらに好ましく、30〜130質量部であることが最も好ましい。繊維状強化材の含有量が5質量部未満では、機械的特性の向上効果が少なく、200質量部を超える場合には、機械的特性の向上効果が飽和しそれ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、溶融混練時の作業性が低下し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることが難しくなる。
【0069】
難燃剤、繊維状強化材の配合方法は、その補強効果が損なわれなければ特に制限はないが、二軸混練機を用いた溶融混練が好適に用いられる。混練温度はポリアミド樹脂の融点(Tm)以上とする必要があり、(Tm+100℃)未満とすることが好ましい。混練温度がTm未満では混練機が過負荷となり、ベントアップなどの不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、ポリアミド樹脂、難燃剤の分解、黄変が起こる場合がある。得られたポリアミド樹脂組成物の採取方法は特に限定されるものではないが、その後の成形を考慮すると、ストランドを作製し、ペレット化することが好ましい。
【0070】
ポリアミド樹脂組成物の溶融時の粘度特性としては、340℃、1.20kgにおけるメルトフローレート(以下、MFRという)が、10〜100g/10分であることが好ましく、15〜95g/10分であることがより好ましく、20〜90g/10分であることがさらに好ましい。MFRを10〜100g/10分の範囲とすることで、ポリアミド樹脂組成物の射出性成形時の流動性と得られる成形体の機械的特性のバランスを図ることができる。さらに、ポリアミド樹脂組成物の結晶化を速くすることができるため好ましい。MFRが10g/10分未満であると流動性が不足し良好な外観が得られないため好ましくなく、MFRが100g/10分を超えると得られる成形体の機械的特性を向上させることが難しくなる。
【0071】
ポリアミド樹脂組成物を用いて成形を行う方法としては、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法等が挙げられるが、本発明で用いるポリアミド樹脂の機械特性、成形性を十分に向上させることができる点で、射出成形法を好ましく用いることができる。射出成形機としては、特に限定されるものではないが、たとえばスクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機などが挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド樹脂の融点(Tm)以上で加熱溶融する必要があり、(Tm+100℃)未満とすることが好ましい。なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いるポリアミド樹脂組成物ペレットは十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.3質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満である。
【0072】
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物を射出成形する場合、金型温度はポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)未満に保持する必要があり、(Tg−30℃)未満であることが好ましく、(Tg−50℃)未満であることがより好ましい。金型温度がポリアミド樹脂組成物のTgを超えると、ポリアミド樹脂の繊維状強化材配合による機械特性向上の効果を十分に引き出すことができない。なお、金型温度とは、金型分割表面の実温であり、この部位が上記温度範囲内になるよう、金型温度調節機を用いて調節する。必要に応じて、金型内に冷媒を循環してもよい。
【0073】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて他の充填材、安定剤などの添加剤を加えてもよい。添加の方法は、ポリアミドの重合時に添加する、または得られたポリアミド樹脂に溶融混練することが挙げられる。添加剤としては、タルク、膨潤性粘土鉱物、シリカ、アルミナ、ガラスビーズ、グラファイトのような充填材、酸化チタン、カーボンブラックなどのような顔料、そのほか、酸化防止剤、帯電防止剤など周知の添加剤が挙げられる。
【0074】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形用途において特に好ましく用いられ、成形体とされることができる。本発明のポリアミド樹脂組成物から成形体を製造するには、通常の成形加工方法が用いられる。成形加工方法としては、例えば、射出成形、押出成形、吹き込み成形、焼結成形などの熱溶融成形法が挙げられる。このような方法により、各種の成形体が得られる。
【0075】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定したΔTが40℃以下の範囲を満たし、結晶化速度が速いため、成形体の加工時、特に射出成形において成形サイクルを短縮することができ、成形コストの低減に寄与することができる。
成形サイクルとは、同じ射出条件で連続して成形した際、1ショット目の成形体の射出が開始してから、2ショット目の成形体の射出が開始するまでの時間をいう。すなわち、一つの成形体を成形するのに要する時間(射出時間+冷却時間+取出し時間の合計)をいう。成形サイクルの短縮とは、上記一つの成形体を成形するのに要する時間中、特に冷却時間の短縮を意味する。
【0076】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃性、機械的特性に加え、成形性に優れているため、自動車部品、電気電子部品、雑貨、土木建築用品等広範な用途に使用できる。
中でも、優れた難燃性の付与が可能であることから電気電子部品に好適に用いることができる。例えば、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、電磁開閉器、ホルダー、プラグ等の電気、電子、自動車用途の各種成形品、携帯用パソコンやワープロ等のOA機器に代表される電気機器の筐体部品、抵抗器、IC、LEDのハウジング等で好適に用いることができる。
これら電気電子部品は、主に射出成形、ブロー成形により成形されるため、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いた場合には、成形サイクルを短縮し、樹脂劣化物、分解ガスの混入を抑制し、外観に優れた成形体を得ることができる。また、成形サイクルを短縮しているため、量産性に優れ、品質を均一にして大量に生産を行うような部品の成形においては、顕著に優れた成形性を有する。
【実施例】
【0077】
1.測定方法
以下のような方法にしたがって、樹脂特性の測定、成形体の性能評価を行った。
【0078】
(1)半芳香族ポリアミド樹脂(A)および脂肪族ポリアミド樹脂(B)の相対粘度
96質量%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dL、25℃で測定した。
【0079】
(2)半芳香族ポリアミド樹脂(A)の重量平均分子量
東ソー社製ゲル浸透クロマトグラフィ装置を用い、下記条件で調製した試料溶液にてGPC分析を行った後、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量を求めた。
<試料調製>
ポリアミド樹脂5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mlを加えて溶解後、ディスクフィルターで濾過した。
<条件>
・検出器:示差屈折率検出器RI−8010型(東ソー社製)
・溶離液:10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール
・流速:0.4ml/min
・温度:40℃
【0080】
(3)半芳香族ポリアミド樹脂(A)の降温結晶化温度、融点、過冷却度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC−7型を用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温した際の発熱ピークのトップを与える温度を降温結晶化温度(Tcc)、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。融点と降温結晶化温度の差(Tm−Tcc)を過冷却度(ΔT)とした。
【0081】
(4)半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のトリアミンの定量
ポリアミド樹脂10mgに47%臭化水素酸を3mL加え、130℃で20時間加熱後、蒸発乾固し、さらに80℃2時間減圧乾燥する。これにピリジン2mL、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド1mLを加え、90℃で30分加熱する。冷却後、メンブランフィルターでろ過した溶液を、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィー装置で分析した。別に測定した標準物質のジアミンとトリアミンにより得た検量線を用いてポリアミド樹脂中のジアミンとトリアミンを定量し、ジアミンに対するトリアミンのモル比を算出した。トリアミンの標準物質は、酸化パラジウムを触媒として用いて、オートクレーブ中にてジアミンを240℃で3時間加熱撹拌して反応させて得たトリアミン化合物を用いた。
【0082】
(5)ポリアミド樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)
JIS K7210に従い、ポリアミド樹脂組成物ペレットを用い、340℃、1.2kgfの荷重で測定した。単位はg/10分である。10g/10分以上であることが実用上好ましい。
【0083】
(6)ポリアミド樹脂組成物の曲げ強度、曲げ弾性率
ASTM D790に準拠して測定した。
【0084】
(7)ポリアミド樹脂組成物のアイゾッド衝撃強度
ASTM D256に準拠して測定した。90J/m以上であることが好ましい。
【0085】
(8)ポリアミド樹脂組成物の成形性
東芝機械社製射出成形機EC−100型を用いて、シリンダー温度を(融点+25℃)、金型温度を(融点−185℃)で設定した後、射出圧力100MPa、射出時間10秒、取出し時間5秒で、成形体(127mm×12.7mm×10mm)の成形を行った。
(8−1)成形サイクル
前記成形体を成形した。突出ピンで成形体に対し変形を与えないで容易に取出しが可能な最短の冷却時間を計測した。ここで成形サイクルとは、同じ射出条件で連続して成形した際、1ショット目の成形体の射出が開始してから、2ショット目の成形体の射出が開始するまでの時間をいう。すなわち、一つの成形体を成形するのに要する時間(射出時間+冷却時間+取出し時間の合計)をいう。この成形サイクルは、30秒以下が好ましく、25秒以下がより好ましい。
(8−2)連続生産性(離型性)
前記成形体を(8−1)で得られた成形サイクルにしたがって連続して成形した(最大で100個)。金型からの成形体取出し時、突出ピンによる成形体の変形を伴わないような円滑な取出しが連続何回までできるかを取出せた成形体の個数でカウントした。90個以上が好ましく、95個以上がより好ましい。
【0086】
(9)ポリアミド樹脂組成物の難燃性
ファナック社製射出成形機(α−100iA型)にて、樹脂温度280℃、金型温度100℃で試験片を成形し、表1に示すUL94(米国Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の評価基準に従って測定した。なお試験片の厚みは1/32インチ(約0.8mm)とした。ここではV−1以上を合格とした。また、難燃性の測定時の総残炎時間も示した。例えば、難燃レベルが同じV−0であったとしても、総残炎時間が短い方が、難燃性が優れていることを示す。
(10)ブリスター性
(8)で成形した成形品を50℃、95%RHの恒温恒湿機(ETAC社製FH14C型)に96時間放置し、リフロー試験機(日本パルス社製RF−330)に入れて、外観変化を確認した。リフロー試験機の温度条件は、プレヒート(150℃、70秒)、リフロー(220℃以上、50秒)、リフロー時の最大温度(260℃、10秒以内)にて制御した。外観に変化がないものを○、外観に気泡が発生したものを×とした。
【0087】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(A)ジカルボン酸成分
・テレフタル酸
・イソフタル酸
(B)ジアミン成分
・1,8−オクタンジアミン
・1,9−ノナンジアミン
・1,10−デカンジアミン
・1,12−ドデカンジアミン
(C)ナイロン6
・C−1:A1012 (ユニチカ社製ナイロン6)、相対粘度1.90
・C−2:A1030FR(ユニチカ社製ナイロン6)、相対粘度2.50
・C−3:101NC010(デュポン社製ナイロン66)、相対粘度2.70
・C−4:M1040(ユニチカ社製ナイロン6)、相対粘度4.88
(D)難燃剤
・D−1:ホスフィン酸塩とジホスフィン酸塩の混合物(クラリアント社製Exolit OP1230)
・D−2:ポリリン酸メラミン(BASF社製Melapur 200/70)
・D−3:臭素化ポリスチレン(ケムチュラ社製Firemaster CP−44HF)
・D−4:三酸化アンチモン(日本精鉱社製PATOX−M)
・D−5:ベーマイト(富田製薬社製トミタAD−220T)
(E)強化材
・E−1:ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製03JAFT692)、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm
・E−2:偏平ガラス繊維(日東紡社製CSG3PA820S)、長径28μm×短径7μm、平均繊維長3mm
・E−3:炭素繊維(東邦テナックス社製HTA−C6−NR)、平均繊維径7μm、平均繊維長6mm
・E−4:ステンレス繊維(日本精線社製ナスロンSUS304)、平均繊維径8μm、平均繊維長6mm
・E−5:ガラスビーズ(ポッターズ・バロティーニ社製EGB731)、平均粒径20μm
・E−6:タルク(日本タルク社製ミクロエースK−1)、平均粒子径8μm
【0088】
製造例1
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。原料モノマーのモル比は、1,10−デカンジアミン:テレフタル酸=50:50であった。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応と破砕を同時に行った。反応により生じた水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
【0089】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂(P−1)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(P−1)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、過冷却度△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
製造例2
[工程(i)]
体積平均粒径80μmのテレフタル酸粉末(4870質量部)、重合触媒としての次亜リン酸ナトリウム(6質量部)、末端封鎖剤としての安息香酸(72質量部)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素密閉下、ダブルヘリカル型の攪拌翼を用いて回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、100℃に加温したデカンジアミン(5050質量部、100質量%)を、28質量部/分の速度で、3時間かけて連続的(連続液注方式)にテレフタル酸粉末に添加し反応物を得た。
【0092】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、引き続き工程(i)で用いたリボンブレンダー式の反応装置内で、窒素気流下、230℃に昇温し、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂(P−2)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(P−2)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、過冷却度△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0093】
製造例3〜5および7
使用するモノマーの種類、製造条件を表1のように変更する以外は、実施例2と同様にして半芳香族ポリアミド樹脂(P−3)〜(P−5)および(P−7)を得、各特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0094】
製造例6
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水400質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、4質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応を行ないながら、得られた固形物を破砕した。水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
【0095】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂(P−6)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(P−6)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、過冷却度△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、半芳香族ポリアミド樹脂(P−6)を得るにあたり、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を4質量部用いて重合を行ったため、蒸留水の添加の有無以外が同条件である製造例1に比べ、重量平均分子量はやや低めであり、トリアミン量は多かった。
【0096】
製造例8
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水9200質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、92質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応を行ないながら、得られた固形物を破砕した。水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
【0097】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂(P−8)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(P−8)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、過冷却度△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、半芳香族ポリアミド樹脂(P−8)を得るにあたり、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を92質量部用いて重合を行ったため、蒸留水の添加の有無以外が同条件である製造例1に比べ、重量平均分子量は顕著に低めであり、トリアミン量は顕著に多かった。
【0098】
製造例9
[工程(i)]
ジアミン成分として1,10−デカンジアミン(5050質量部)、平均粒径80μmの粉末状テレフタル酸(4870質量部)、末端封鎖剤として安息香酸(72質量部)、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物(6質量部)、蒸留水600質量部(原料モノマーの合計量100質量部に対して、6質量部)をオートクレーブに入れ、100℃に加熱後、回転数28rpmで撹拌を開始し、1時間加熱した。この混合物を、回転数を28rpmに保ったまま230℃に昇温し、その後230℃で3時間加熱した。塩と低重合体の生成反応を行ないながら、得られた固形物を破砕した。水蒸気を放圧後、得られた反応物を取り出した。
【0099】
[工程(ii)]
工程(i)で得られた反応物を、乾燥機中、常圧窒素気流下、230℃で5時間加熱して重合し半芳香族ポリアミド樹脂(P−9)を得た。得られた半芳香族ポリアミド樹脂(P−9)について、相対粘度、重量平均分子量、融点、降温結晶化温度、過冷却度△T、トリアミン量の測定を行った。その結果を表1に示す。なお、半芳香族ポリアミド樹脂(P−9)を得るにあたり、原料モノマーの合計量100質量部に対して、蒸留水を6質量部用いて重合を行ったため、蒸留水の添加の有無以外が同条件である製造例1に比べ、重量平均分子量はやや低めであり、トリアミン量は多かった。
【0100】
製造例10、11
用いる末端封鎖剤の配合量を変更する以外は、実施例1と同様にして半芳香族ポリアミド樹脂(P−10)、(P−11)を得、各特性の測定を行った。その結果を表1に示す。
【0101】
実施例1
製造例1で得た半芳香族ポリアミド樹脂(P−1)71.5質量部、脂肪族ポリアミド(C−1)5質量部、難燃剤(D−1)20質量部、難燃剤(D−2)3質量部および難燃剤(D−5)0.5質量部をドライブレンドし、クボタ製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給し溶融混練を行った。次いで、溶融樹脂をダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、320℃〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/hとした。
【0102】
次いで射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃条件下、得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用い各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0103】
【表2】

【0104】
実施例2〜10
脂肪族ポリアミドの配合量を変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表2に示す。
【0105】
実施例11〜20、比較例1、2
表3記載の半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド、難燃剤を用い、所定の配合でドライブレンドし、実施例1と同様に押出機に供給し溶融混練を行った。なお、比較例2については、難燃剤の配合量が上限値を超えたため、溶融混練時の作業性が低下し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができなかった。
溶融混練後、ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
【0106】
【表3】

【0107】
実施例21、22
表4記載の半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド、難燃剤を用い、所定の配合でドライブレンドし、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表4に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
実施例23
表4記載の半芳香族ポリアミド樹脂(P−1)71.5質量部、脂肪族ポリアミド(C−1)5質量部、難燃剤(D−1)20質量部、難燃剤(D−2)3質量部および難燃剤(D−5)0.5質量部をドライブレンドし、クボタ製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE−W−1を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS)の主供給口に供給し溶融混練を行った。途中、サイドフィーダーより強化材(E−1)をポリアミド樹脂組成物100質量部に対し、43質量部を供給し溶融混練を続けた。最後に、溶融樹脂をダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、320℃〜340℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量35kg/hとした。
【0110】
次いで射出成形機(東芝機械社製EC100)を用いて、シリンダー温度340℃、金型温度130℃条件下、得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを射出成形して試験片を得た。得られた試験片を用い各種評価試験を行った。その結果を表4に示す。
【0111】
実施例24〜35
表4記載の半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド、難燃剤、強化材を用い、実施例23と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表4に示す。
【0112】
実施例36〜48
表5記載の半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド、難燃剤、強化材を用い、実施例23と同様にしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た後、射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表5に示す。
【0113】
【表5】

【0114】
比較例3〜7
表6記載の半芳香族ポリアミド樹脂、脂肪族ポリアミド、難燃剤、強化材を用い、実施例23と同様にして溶融混練を行った。なお、比較例2については、難燃剤の配合量が上限値を超えたため、溶融混練時の作業性が低下し、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができなかった。溶融混練後、ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。射出成形して試験片を得、各種評価試験を行った。その結果を表6に示す。
【0115】
【表6】

【0116】
実施例1〜48では、所定の配合によったため、流動性、機械的特性、成形性、難燃性に優れたポリアミド樹脂組成物を得ることができた。
【0117】
比較例1、5は、難燃剤の配合量が下限値未満であったので、実用的な難燃性を付与することができなかった。
【0118】
比較例3、4は、脂肪族ポリアミド樹脂を配合しなかったため、耐衝撃性と流動性が劣った。
【0119】
比較例7は、所定の半芳香族ポリアミド樹脂を用いなかったため、成形時の連続生産性は不十分であり、成形性を有さなかった。また、ブリスター性が低かった。





【特許請求の範囲】
【請求項1】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含むポリアミド樹脂50〜95質量部および難燃剤5〜50質量部を合計100質量部含有するポリアミド樹脂組成物であって、前記半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とし、ジアミン成分が1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれかであるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)のDSCを用いて測定される過冷却度△Tが40℃以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)のジアミン成分が、1,10−デカンジアミンであることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)中のジアミン単位に対するトリアミン単位が0.3モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)がポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
難燃剤が臭素含有難燃剤、窒素含有難燃剤、リン含有難燃剤から選ばれる1種以上の難燃剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
リン含有難燃剤がホスフィン酸塩および/またはジホスフィン酸塩であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項8】
ホスフィン酸塩が下記一般式(I)であり、ジホスフィン酸塩が下記一般式(II)であることを特徴とする請求項7記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】


【化2】


(式中、R、RおよびR、Rはそれぞれ直鎖あるいは分岐鎖のC〜C16アルキルを表し、RとRおよびRとRは互いに環を形成してもよい;Rは直鎖あるいは分岐鎖のC〜C10アルキレンを表す;Mはカルシウムまたはアルミニウムイオンを表す;mは2または3である;nは1または3である;xは1または2である;式(II)ではmx=2nである。)
【請求項9】
ポリアミド樹脂および難燃剤の合計100質量部に対し、さらに繊維状強化材5〜200質量部を含有してなる請求項1〜8のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項10】
繊維状強化材がガラス繊維、炭素繊維、金属繊維から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。




【公開番号】特開2013−64032(P2013−64032A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201918(P2011−201918)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】