説明

ポリアミド樹脂組成物の製造方法、およびポリアミド樹脂組成物

【課題】繊維状粘土鉱物が用いられていても、粘度の過剰な増大を抑え、かつ煩雑な工程を経ることなくポリアミド樹脂組成物を工業的に有利に製造しうる、ポリアミド樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は以下の工程(i)および(ii)をこの順に含むことを特徴とする。
工程(i):ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーを、その融点以上の温度で加熱溶融し、攪拌しながら、繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を配合することにより分散液を得る工程であって、ポリアミド樹脂(A)および繊維状粘土鉱物(B)の配合割合(A)/(B)が50/50〜95/5であり、さらに粘度調整剤(C)の使用量が、繊維状粘土鉱物(B)100質量部に対して0.5〜100質量部である工程。
工程(ii):工程(i)で得られた分散液を重合させ、ポリアミド樹脂(A)と繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を含む樹脂組成物を得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物の製造方法、およびポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド樹脂の機械的強度などを強化する方法として、ガラス繊維や炭素繊維などの繊維や、炭酸カルシウムなどの無機充填材を強化材として配合し、樹脂組成物とすることが既に広く知られている。これら強化材の一般的な配合方法は、二軸押出機等を用い、ポリマーへ混合・混練する方法である。
【0003】
しかしながら、粘土鉱物のような微細な粒子を強化材として用いた場合は、単にポリマーへ混合・混練するだけでは、該ポリマー中に十分に分散しないため、満足すべき特性を有する樹脂組成物が得られないという問題がある。加えて、ポリアミド樹脂を構成するモノマーが、強化されたポリアミド樹脂組成物を得るための出発原料であると考えると、上述のような一般的な配合方法においては、モノマーを重合させてポリマーを得る工程と、重合により得られたポリマーと強化材とを混合する工程の、2段階の工程が必要となる。そのため、製造工程の簡略化という観点からは、工業的に不利であるという問題点があった。
【0004】
上記の問題点を解決する試みとして、モンモリロナイトや雲母などに代表される層状珪酸塩粘土鉱物を、ポリアミド樹脂を構成するモノマーに配合した状態で重合を行い、ポリアミド樹脂組成物を得る方法が提案されている。このような方法によれば、ポリアミド鎖を層状珪酸塩粘土鉱物の層間に侵入させることによって、ポリアミド樹脂と層状珪酸塩粘土鉱物とが、微細にかつ均一に分散した樹脂組成物を得ることができる。
【0005】
例えば、特許文献1および特許文献2には、ポリアミド樹脂とモンモリロナイトなどの層状珪酸塩粘土鉱物を含有する樹脂組成物、および該樹脂組成物の製造方法が記載されている。また、特許文献3および特許文献4には、ポリアミド樹脂と層状珪酸塩粘土鉱物であるフッ素雲母系鉱物を含有する樹脂組成物、および該樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1〜4に記載されているような層状珪酸塩粘土鉱物は、劈開(結合力が小さいことにより発生する結晶の特定方向に沿った割れ)を起こしやすい。そのため、特許文献1〜4においては、層状珪酸塩粘土鉱物の添加量が少量であっても、得られるポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が、顕著に増加してしまう。その結果、重合終了後において、反応容器からのポリアミド樹脂組成物の払い出しが困難となる。そのため、ポリアミド樹脂組成物を反応容器から高収率で回収するためには、実質的に、ポリアミド樹脂組成物中に層状珪酸塩粘土鉱物を数質量%しか配合できないという問題点があった。
【0007】
一方、特許文献5には、ポリアミド樹脂に、有機処理をほどこした層状珪酸塩粘土鉱物を溶融混練することにより、ポリアミド樹脂組成物を得る方法が記載されている。特許文献5において得られるポリアミド樹脂組成物は、高濃度で層状珪酸塩粘土鉱物を含有しうるものである。しかしながら、特許文献5の場合は、得られる樹脂組成物の溶融粘度は依然として高いままであった。また、ポリアミドモノマーを重合させてポリアミド樹脂を得る工程と、重合により得られたポリアミド樹脂と層状珪酸塩粘土鉱物とを混合する工程の、2段階の工程が必要である。そのため、製造工程の簡略化という観点からは、工業的に不利であるという問題があった。
【0008】
このような問題を解決するため、層状ではない粘土鉱物(例えば、繊維状粘土鉱物)を用いたポリアミド樹脂組成物が検討されている。層状ではない粘土鉱物をポリアミド樹脂の重合時に添加すると、溶融粘度が増加しすぎることが抑制されるため、得られる樹脂組成物中に該粘土鉱物が高濃度で含有されうるものである。
【0009】
ポリアミド樹脂と繊維状粘土鉱物とを含有する樹脂組成物の製造方法の一例として、製造工程の簡略化の観点から、モノマー溶液に繊維状粘土鉱物を予め分散させ、その分散液を重合する方法が挙げられる。しかしながら、この方法においては、繊維状粘土鉱物の配合量が一定割合以上であると、溶液粘度が急激に増大してしまい、次工程の重合に移行できず、操業性に劣るという問題がある。
【0010】
このような繊維状粘土鉱物を配合する際の操業性を改善する方法として、例えば、特許文献6には、ポリアミド樹脂と繊維状粘土鉱物を配合する際に、有機カルボン酸塩および/または有機スルホン酸塩を配合する方法が記載されている。しかしながら、特許文献6においても、繊維状粘土鉱物に起因する樹脂組成物の粘度増大が十分に抑制できないため、繊維状粘土鉱物の配合量を多くできないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−74957号公報
【特許文献2】特許第2747019号公報
【特許文献3】特許第2941159号公報
【特許文献4】特許第3409921号公報
【特許文献5】国際公開第2006/006716号パンフレット
【特許文献6】特開平8−3363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明の課題は、繊維状粘土鉱物が用いられていても、粘度の過剰な増大を抑え、かつ煩雑な工程を経ることなくポリアミド樹脂組成物を工業的に有利に製造しうる、ポリアミド樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
(1)ポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、以下の工程(i)および(ii)をこの順に含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
工程(i):ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーを、その融点以上の温度で加熱溶融し、攪拌しながら、繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を配合することにより分散液を得る工程であって、ポリアミド樹脂(A)および繊維状粘土鉱物(B)の配合割合(A)/(B)が50/50〜95/5であり、さらに粘度調整剤(C)の使用量が、繊維状粘土鉱物(B)100質量部に対して0.5〜100質量部である工程。
工程(ii):工程(i)で得られた分散液を重合させ、ポリアミド樹脂(A)と繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を含む樹脂組成物を得る工程。
(2)繊維状粘土鉱物(B)として、セピオライトおよび/またはパリゴルスカイトを用いることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(3)粘度調整剤として、有機カルボン酸アミン塩、ポリエーテルリン酸エステルまたはそのアミン塩を用いることを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(4)用いられる粘度調整剤(C)の熱重量減少率が5質量%となる温度Xが工程(ii)における重合温度未満であることを特徴とする(1)から(3)のいずれかのポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(5)工程(i)において、80℃、0.3rpmの環境下、B型粘度計で測定した分散液の回転粘度が0.01〜300Pa・sとなるように攪拌することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかのポリアミド樹脂組成物の製造方法。
(6)ポリアミド樹脂(A)、繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を含有し、(A)/(B)の質量比率が50/50〜95/5であり、さらに粘度調整剤(C)の含有量が、繊維状粘土鉱物(B)100質量部に対して0.0001〜10質量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法によれば、有機カルボン酸アミン塩を用いることで、繊維状粘土鉱物に起因する粘度増加を抑制しつつ、工業的に有利に、ポリアミド樹脂組成物を得ることができる。さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法によれば、原料となる成分を含有する分散液を得、該分散液を重合に付することにより、煩雑な工程を経ることなく、工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」と称する場合がある)の製造方法は、以下の工程(i)および(ii)をこの順に含むものである。
【0016】
工程(i):ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーを、その融点以上の温度で加熱溶融し、攪拌しながら、繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を配合することにより分散液を得る工程であって、ポリアミド樹脂(A)および繊維状粘土鉱物(B)の配合割合(A)/(B)が50/50〜95/5であり、さらに粘度調整剤(C)の使用量が、繊維状粘土鉱物(B)100質量部に対して0.5〜100質量部である工程。
【0017】
工程(ii):工程(i)で得られた分散液を重合させ、ポリアミド樹脂(A)と繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を含む樹脂組成物を得る工程。
【0018】
以下、本発明においては、ポリアミド樹脂(A)を単に「成分(A)」と称し、繊維状粘土鉱物(B)を、単に「成分(B)」と称し、粘度調整剤(C)を単に「成分(C)」と称する場合がある。
【0019】
まず、工程(i)について説明する。
工程(i)は、成分(A)を構成するモノマーを加熱溶融して溶液状とし、次いで成分(B)、成分(C)および水を加え、攪拌することにより、分散液を得る工程である。
【0020】
成分(A)は、アミノカルボン酸、ラクタム、ジアミンとジカルボン酸、またはジアミンとジカルボン酸の一対の塩を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。
【0021】
成分(A)の具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、およびこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。
【0022】
上記の中でも、耐熱性に優れ、成形加工が容易である観点から、ナイロン6、ナイロン66を用いることが特に好ましい。
【0023】
成分(A)の原料となるモノマーの具体例としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸;ε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等のジアミン;アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等のジカルボン酸などが挙げられる。なお、これらのジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
【0024】
成分(A)の原料となるモノマーとしては、ε−カプロラクタム、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンが好ましい。
【0025】
本発明における成分(B)としては、繊維状の含水マグネシウム珪酸塩鉱物を用いることが好ましい。なかでも、成分(A)への分散の容易性から、特に、セピオライト、パリゴルスカイトを用いることが好ましい。
【0026】
セピオライトはMgSi1230(OH)(OH・8HOを主成分として含有する天然鉱物であり、パリゴルスカイトはMgSi20(OH)(OH・4HOを主成分として含有する天然鉱物である。なお、パリゴルスカイトにおいては、マグネシウムが鉄やアルミニウムによって置換されていてもよい。
【0027】
工程(i)において、成分(A)と成分(B)配合割合である(A)/(B)は、50/50〜95/5であることが必要であり、55/45〜90/10であることが好ましく、60/40〜85/15であることがより好ましい。成分(A)と成分(B)との質量の合計に対する成分(B)の配合量が、5質量%未満であると、得られる樹脂組成物は、曲げ特性に劣るものとなる。一方、成分(B)の配合量が50質量%を超えると、工程(i)にて得られる分散液の粘度が大きくなりすぎてしまい、ポリアミド樹脂組成物を得ることが困難になってしまう。
【0028】
本発明における成分(C)としては、有機カルボン酸アミン塩、ポリエーテルリン酸エステルまたはそのアミン塩を用いることができる。中でも、粘度調整効果が高く、上記工程(ii)における成分(C)の重合系外への排出がしやすい点で、有機カルボン酸アミン塩を好ましく用いることができる。
【0029】
本発明における成分(C)は、工程(i)にて得られる分散液の粘度を低下させる粘度調整剤として用いられるものである。通常、成分(B)を含有する樹脂組成物においては、成分(B)同士が静電気的結合を起こし、いわゆるカードハウス構造を形成するため、粘度が顕著に増大する。しかしながら、本発明においては、成分(C)を用いることにより、上記の電気的結合の発現を抑制することができ、その結果、成分(A)中に分散した成分(B)に起因する粘度の増大を効果的に低減させるという顕著な効果が奏される。なお、成分(C)以外の粘度調整剤を用いた場合は、分散液における粘度の増大が顕著となるため、その後の工程(ii)において、樹脂組成物を得ることが困難となる。
【0030】
有機カルボン酸アミン塩において、親油性基である有機カルボン酸は、ポリオールカルボン酸、ポリエーテルカルボン酸などが挙げられる。成分(C)中における親水性基であるアミン類は、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジメチルアミン、ジプロピルアミン、ジブリルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン又はこれらの混合物を挙げることができる。これらの中でも、分散液の増粘を抑制させ、得られる樹脂組成物の粘度を十分に低下させる効果に優れる面で、特に、ポリエーテルカルボン酸アミン塩が好ましい。
【0031】
本発明において、成分(C)として、空気中、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量減少率が5質量%となる温度(以下、この「温度X」と称する場合がある)が、100〜270℃であるものを用いることが好ましく、180〜250℃であるものを用いることがより好ましい。また、温度Xが、上記工程(ii)における重合温度未満であることが好ましい。
温度Xの求め方については、実施例において後述する。
【0032】
用いられる成分(C)の温度Xが上記の範囲であることが好ましい理由について、以下に述べる。重合により得られたポリアミド樹脂組成物中に、成分(C)が大量に残っていると、残存する成分(C)の作用により、ポリアミド樹脂組成物が柔軟となるため、曲げ特性に顕著に劣るものとなる。そのような問題を解決するには、重合中に、成分(C)が重合系外へ排出される必要がある。本発明においては、温度Xを100〜270℃とし、さらに工程(ii)における重合温度を後述の範囲とした場合は、工程(ii)における重合反応中に、成分(C)が効果的に揮発または熱分解され、容易に重合系外へ排出されうるものとなる。ここで、温度Xが270℃を超えると、成分(C)の重合系外への排出が困難となる場合があり、得られるポリアミド樹脂組成物の曲げ特性に劣るものとなる場合がある。一方、温度Xが100℃未満であると、分散液を得る際に成分(C)の分解が起こる場合がある。そのため、成分(C)が安定して存在することができなくなり、成分(B)に起因する増粘を抑制する効果が低減してしまう場合がある。さらに、温度Xが、上記工程(ii)における重合温度を超えると、重合中に、成分(C)の重合系外への排出が不十分となり、得られるポリアミド樹脂組成物の曲げ特性を低下させる傾向がある。
【0033】
工程(i)において、成分(C)の使用量は、成分(B)100質量部に対して0.5〜100質量部であることが必要であり、1〜50質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。成分(C)の使用量が、成分(B)100質量部に対して0.5質量%未満であると、成分(A)に分散した成分(B)による増粘を抑制する効果が不十分となる。一方、100質量部を超えると、得られるポリアミド樹脂組成物の曲げ特性に劣ってしまい、加えて、経済的でないという問題がある。
【0034】
工程(i)における攪拌方法は、各々の成分が均一に混合されるものであれば特に限定されないが、加熱攪拌しながら溶融混合させる方法などが挙げられる。その場合の攪拌翼の形状や回転数などは、特に限定されるものではない。
【0035】
工程(i)において、80℃、0.3rpmの環境下、B型粘度計で測定した分散液の回転粘度は、0.01〜300Pa・sであることが好ましく、1〜200Pa・sであることがより好ましく、3〜150Pa・sであることが特に好ましい。回転粘度が0.01Pa・s未満であると、成分(B)の分散性が悪いため、曲げ特性の向上効果が不十分となる。一方、300Pa・sを超えると、もはや分散液の回転粘度が高過ぎ、後の工程(ii)における重合装置への分散液の払い出しが困難になる場合がある。
【0036】
工程(i)において、分散液の送液性を示す指標である分散液残留率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。分散液残留率が15%を超えると、分散液を工程(ii)へ送液する際の送液性が悪くなるため、生産性の低下につながり、また収率が低くなる場合がある。なお、分散液残留率の求め方は、実施例において後述する。
【0037】
工程(i)において、成分(A)を構成するモノマー、成分(B)および成分(C)の添加量は、最終的に本発明のポリアミド樹脂組成物を得た場合に、各々の含有量が上記の範囲となるような量であることが必要である。また、必要に応じて、さらに水を添加することができる。水を添加することで、成分(A)中の成分(B)の分散が促進される場合がある。水の添加量は、成分(A)を構成するモノマー、成分(B)および成分(C)が均一に混合されるものであれば、特に限定されない。
【0038】
次に、工程(ii)について説明する。
工程(ii)は、工程(i)で得られた分散液を重合させ、成分(A)、成分(B)および成分(C)を含有する樹脂組成物を得る工程である。
【0039】
工程(ii)において、強化材として、従来の層状珪酸塩を用いた場合は、重合工程中で分散が起こるため、ポリマーの粘度が顕著に増大するという問題があった。そのため、強化材の添加量を増やすことができず、補強効果を十分発現することができないため、得られる樹脂組成物の曲げ特性が十分に向上しないという問題があった。
【0040】
しかしながら、本発明においては、強化材として、層状珪酸塩ではなく繊維状粘土鉱物(B)を用いている。そのため、重合工程中の溶融粘度の増加を抑制することができ、つまり、溶融粘度を好ましい範囲に制御することができる。従って、繊維状粘土鉱物の樹脂組成物への添加量を多くすることができ、曲げ特性の向上効果を十分に発現させることが可能である。加えて、成分(C)を用いることにより、分散液の溶融粘度の増大を抑制することができる。つまり、本発明においては、成分(B)と成分(C)との相乗効果により、曲げ特性の向上効果が十分に発現されたポリアミド樹脂組成物を、生産性よく得ることができるのである。
【0041】
なお、工程(ii)における溶融粘度は、250℃の温度、かつ10−3−1のせん断速度において、250000Pa・s以下であることが好ましく、50000Pa・s以下であることがより好ましい。
【0042】
工程(ii)における重合温度は、200〜300℃であることが好ましく、230〜270℃であることがより好ましい。重合温度が200℃未満であると、成分(C)が容易に分解されず、重合系外への排出が困難となる場合がある。その結果、成分(C)の含有量が高いままのポリアミド樹脂組成物が得られるため、曲げ特性に劣るものとなる。また、重合反応自体が、良好に進行しないという問題がある。一方、重合温度が300℃を超えると、ポリアミド樹脂の分解反応が促進されるため、高分子量体のポリアミド樹脂を含有させることが困難となる場合がある。
【0043】
上記のような製造方法で、本発明のポリアミド樹脂組成物を得ることができる。この樹脂組成物においては、成分(C)が揮発または分解されているため、その含有量は、配合された量と比較すると顕著に低減されている。成分(C)の含有量は、成分(B)100質量部に対して、0.0001〜10質量部であることが必要であり、0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0044】
本発明の製造方法にて製造されるポリアミド樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、任意の段階で、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、着色防止剤、耐候剤、難燃剤、可塑剤、結晶核剤、離型安定剤等が添加されてもよい。
【0045】
本発明の製造方法で得られる樹脂組成物には、必要に応じて他の重合体を配合することも可能である。このような重合体としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、塩素化ポリエチレンなどのエラストマー、およびこれらの無水マレイン酸などによる酸変性物、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−フェニルマレイミド共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、フェノキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0046】
本発明の製造方法で得られたポリアミド樹脂組成物は、通常の成形加工方法(例えば、射出成形、押出成形、吹き込み成形、焼結成形などの熱溶融成形法)に付することにより、目的の成形品とすることができる。また、本発明で得られたポリアミド樹脂組成物を有機溶媒溶液に溶解させ、流延法に付することにより、薄膜とすることもできる。
【0047】
本発明の樹脂組成物は、電気・電子機器分野や、自動車分野、あるいは機械分野などに好適に用いられる。
【実施例】
【0048】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0049】
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
1.原料
(1)ポリアミド樹脂を構成するモノマー
A−1:ε−カプロラクタム(宇部興産社製)
A−2:アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン等モル塩
【0050】
(2)繊維状粘土鉱物
B−1:セピオライト(TOLSA社製、商品名「PANGEL HV」)
B−2:パリゴルスカイト(昭和KDE社製、商品名「POLEISY」)
【0051】
(3)粘度調整剤
C−1:ポリエーテルカルボン酸アミン塩(温度X:240℃)
C−2:ポリエーテルリン酸エステルアミン塩(温度X:260℃)
C−3:ポリエーテルリン酸エステル(温度X:200℃)
【0052】
(4)上記(3)以外の粘度調整剤
D−1:テトラメチルアンモニウムクロライド(四級アンモニウム塩、温度X:230℃)
【0053】
以下に実施例および比較例で用いた評価方法を示す。なお、以下の評価方法のうち、(3)〜(5)については、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて射出成形した試験片を用いて評価を行った。
【0054】
2.試験方法
(1)空気中、10℃/分の昇温速度で測定した熱重量減少率が5質量%となる温度(温度X)
測定試料5mgをサンプル台に載せ、空気雰囲気下において昇温速度10℃/分で20℃から500℃まで加熱し、重量減少率が5質量%となったときの温度を、PERKIN ELMER社製の「TGA−7」により計測した。
【0055】
(2)回転粘度(Pa・s)
B型粘度計(東機産業社製)を用い、80℃、0.3rpmにおける回転粘度を測定した。なお、測定に際して、スピンドルNo.1を使用した。
【0056】
(3)曲げ強度(MPa)
射出成形により得られた長さ100mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片について、ISO178に従って、曲げ強度(MPa)を測定した。本発明においては、150MPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0057】
(4)曲げ弾性率(GPa)
射出成形により得られた長さ100mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片について、ISO178に従って、曲げ弾性率(GPa)を測定した。本発明においては、4GPa以上であるものを実用に耐えうるものとした。
【0058】
(5)分散液残留率(%)
下記の実施例および比較例において、重合させる前段階である分散液をオートクレーブに投入した際に、分散容器に残った分散液の質量を計量し、原料総量(質量)に対する比率を算出した。
【0059】
(6)得られた樹脂組成物における成分(C)の定量
工程(ii)により得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを核磁気共鳴分析装置(日本電子社製、商品名「JNM−ECA500」)を用い、測定周波数500MHzでH−NMR測定を行った。
【0060】
(実施例1)
ε−カプロラクタム(A−1)90質量部を容器に入れ、80℃にて加熱しながら均一な融液にした。次いでホモミキサー(プライミクス社製、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII20」)を用いて、4000rpmの回転数で攪拌し、攪拌しながらセピオライト(B−1)10質量部と、10質量部のポリエーテルカルボン酸アミン塩[(C−1)100質量部のセピオライト(B−1)に対して100質量部]、を添加して攪拌を続け、分散液を得た。時間の経過とともに回転粘度は増大し、攪拌開始時の回転粘度は5Pa・sであったのが、4時間経過後の回転粘度は12Pa・sであった。
【0061】
次いで、得られた分散液をオートクレーブに投入したところ、分散液残留率は3%であった。オートクレーブを内温260℃で攪拌しながら、1時間重合させた。重合終了後、オートクレーブの底排弁よりストランド状に引き取った重合体を温浴槽にて冷却固化し、ペレタイザーでペレット状に切断した。得られたペレットを95℃の熱水で24時間精錬処理をして、未反応のモノマーおよびオリゴマーを除去した。その後、80℃で24時間乾燥させ、さらに、80℃で48時間真空乾燥してポリアミド樹脂組成物を得た。
【0062】
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製、商品名「EC−100」)を用いて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃で射出成形し、試験片を作製した。得られた成形品についての評価結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例2〜9)
表1に示すように、ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーの配合量、繊維状粘土鉱物(B)の種類と配合量、有機カルボン酸アミン塩(C)の配合量を変更し、実施例1と同様にして分散液およびポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形し成形品を得た。得られた成形品について評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0065】
(実施例10)
アジピン酸/ヘキサメチレンジアミン等モル塩(A−2)70質量部を容器に入れ、窒素雰囲気下205℃にて加熱しながら均一な溶液になるまで、ホモミキサー(プライミクス社製、商品名「T.K.ホモミクサーMARKII20」)を用いて、4000rpmの回転数で攪拌混合して、その後攪拌しながらセピオライト(B−1)30質量部と、10質量部のポリエーテルカルボン酸アミン塩[(C−1)100質量部のセピオライト(B−1)に対して33質量部]、を添加して攪拌を続け、分散液を得た。時間の経過とともに回転粘度は増大し、攪拌開始時の回転粘度は5Pa・sであったのが、4時間経過後の回転粘度は43Pa・sであった。
【0066】
次いで、得られた分散液をオートクレーブに投入したところ、分散液残留率は6%であった。オートクレーブを内温230℃で攪拌しながら、内圧が18MPaになるまで加熱し、その圧力に到達後、徐々に圧力を抜きつつ、加熱して280℃に達した時点で、常圧まで放圧し、2時間重合を行った。
【0067】
重合終了後、オートクレーブの底排弁よりストランド上に引き取った重合体を温浴槽にて冷却固化し、ペレタイザーでペレット状に切断した。その後、80℃で48時間真空乾燥させた。
【0068】
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットを、射出成形機(東芝機械社製、商品名「EC−100」)を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度80℃で射出成形し、試験片を作製した。得られた成形品についての評価結果を表1に示す。
【0069】
(実施例11)
オートクレーブの内温を220℃にして5時間重合した以外は、実施例2と同様にして分散液およびポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形し成形品を得た。得られた成形品について評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0070】
(実施例12)
オートクレーブの内温を290℃にして5時間重合した以外は、実施例2と同様にして分散液およびポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形し成形品を得た。得られた成形品について評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0071】
(実施例13)
粘度調整剤(C)として、ポリエーテルリン酸エステルアミン塩(C−2)を用いた以外は、実施例2と同様にして分散液およびポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形し成形品を得た。得られた成形品について評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0072】
(実施例14)
粘度調整剤(C)として、ポリエーテルリン酸エステル(C−3)を用いた以外は、実施例2と同様にして分散液およびポリアミド樹脂組成物を得、該ポリアミド樹脂組成物を射出成形し成形品を得た。得られた成形品について評価を実施した。評価結果を表1に示す。
【0073】
(比較例1)
本発明に規定される粘度調整剤(C)である有機カルボン酸アミン塩を用いなかった以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物および成形品を得、評価に付した。評価結果を表1に示す。
【0074】
(比較例2〜6)
表1に示すように、ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーの配合量、繊維状粘土鉱物(B)の配合量、粘度調整剤(C)の種類と配合量を変更するか、または成分(C)の代わりに(D−1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂組成物および成形品を得、評価に付した。評価結果を表1に示す。
【0075】
表1から明らかなように、実施例1〜14においては、分散液の粘度の増加を十分に低減させることができ、該分散液を重合させることにより、ポリアミド樹脂組成物を生産性よく製造することができた。さらに、得られたポリアミド樹脂組成物は、密度が低く、曲げ強度および曲げ弾性率ともに優れていた。
【0076】
比較例1では、本発明に規定される粘度調整剤(C)である有機カルボン酸アミン塩を配合しなかったため、得られた分散液の粘度が高く、分散液残留率が大きくなった。そのため、ポリアミド樹脂組成物を生産性よく製造することが不可能であった。
【0077】
比較例2では、繊維状粘土鉱物(B)の配合量が過少であったため、得られたポリアミド樹脂組成物の曲げ特性が不十分であった。
【0078】
比較例3では、繊維状粘土鉱物(B)の配合量が過多であったため、得られた分散液の回転粘度が高く、分散液残留率が大きくなった。そのため、ポリアミド樹脂組成物を生産性よく製造することが不可能であった。
【0079】
比較例4では、本発明に規定される粘度調整剤(C)である有機カルボン酸アミン塩の配合量が過少であったため、得られた分散液の回転粘度が高く、分散液残留率が大きくなった。そのため、ポリアミド樹脂組成物を生産性よく製造することが不可能であった。
【0080】
比較例5では、本発明に規定される粘度調整剤(C)である有機カルボン酸アミン塩の配合量が過多であったため、分散液の粘度は十分低かったが、得られたポリアミド樹脂組成物中に、多量の成分(C)が残存していた。そのため、得られたポリアミド樹脂組成物の曲げ特性が不十分なものとなった。
【0081】
比較例6では、所定の粘度調整剤を用いなかったため、得られた分散液の回転粘度が高く、分散液残留率が大きくなった。そのため、ポリアミド樹脂組成物を生産性よく製造することが不可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂組成物を製造する方法であって、以下の工程(i)および(ii)をこの順に含むことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造方法。
工程(i):ポリアミド樹脂(A)を構成するモノマーを、その融点以上の温度で加熱溶融し、攪拌しながら、繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を配合することにより分散液を得る工程であって、ポリアミド樹脂(A)および繊維状粘土鉱物(B)の配合割合(A)/(B)が50/50〜95/5であり、さらに粘度調整剤(C)の使用量が、繊維状粘土鉱物(B)100質量部に対して0.5〜100質量部である工程。
工程(ii):工程(i)で得られた分散液を重合させ、ポリアミド樹脂(A)と繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を含む樹脂組成物を得る工程。
【請求項2】
繊維状粘土鉱物(B)として、セピオライトおよび/またはパリゴルスカイトを用いることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
粘度調整剤として、有機カルボン酸アミン塩、ポリエーテルリン酸エステルまたはそのアミン塩を用いることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
用いられる粘度調整剤(C)の熱重量減少率が5質量%となる温度Xが工程(ii)における重合温度未満であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
工程(i)において、80℃、0.3rpmの環境下、B型粘度計で測定した分散液の回転粘度が0.01〜300Pa・sとなるように攪拌することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
ポリアミド樹脂(A)、繊維状粘土鉱物(B)および粘度調整剤(C)を含有し、(A)/(B)の質量比率が50/50〜95/5であり、さらに粘度調整剤(C)の含有量が、繊維状粘土鉱物(B)100質量部に対して0.0001〜10質量部であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。



【公開番号】特開2013−100391(P2013−100391A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244047(P2011−244047)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】