説明

ポリアミド樹脂組成物及びポリアミド樹脂組成物の製造法

【課題】ポリアミド樹脂中にセルロース繊維と層状珪酸塩が凝集することなく均一に分散され、機械的特性や耐熱性が向上したポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物の製造法を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維0.01〜50質量部と層状珪酸塩0.01〜100質量部とを含有するポリアミド樹脂組成物。また、セルロース繊維の平均繊維径が10μm以下である、前記したポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的特性、耐熱性が向上したポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物の製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂をガラス繊維、炭素繊維などの無機充填剤で強化した樹脂組成物は広く知られている。しかしこれらの強化材は、多量に配合しないと機械的特性や耐熱性が改善しないという問題点や、比重が高いために、得られる樹脂組成物の質量が大きくなるという問題点があった。また、ポリアミドとの親和性に乏しいという面があった。
【0003】
また、強化材としてガラス繊維、炭素繊維等を用いて得られた樹脂組成物からなる成形体は、そりが大きくなるという問題点があった。
【0004】
近年、樹脂材料の強化材としてセルロースが用いられている。セルロースには、樹木から得られるものや、稲、綿、ケナフ、麻などの非木材資源から得られるものや、微生物が生産するバクテリアセルロースなどがあり、セルロースは地球上に非常に多量に存在する。セルロースは機械的特性に優れており、これを樹脂中に含有させることにより、樹脂組成物の特性を向上させる効果が期待される。
【0005】
熱可塑性樹脂中にセルロースを含有させる方法としては、樹脂とセルロースとを溶融混合する方法が一般的である。しかしながら、この方法ではセルロースが凝集した状態のまま樹脂中に混合され、セルロースが均一に分散された樹脂組成物を得ることはできない。このため、樹脂組成物の特性を十分に向上させることができない。
【0006】
例えば、特許文献1には、熱可塑性プラスチック内にセルロースパルプ繊維を含む複合材が開示されており、熱可塑性プラスチックとしてポリアミド樹脂も記載されている。この発明においては、セルロースパルプ繊維をポリマー材料と混合しやすくするために、回転ナイフカッター等を用いて粒状とすることも記載されている。しかしながら、特許文献1には、粒状とすることにより繊維長が短くなると、セルロースパルプ繊維を添加することによる強化力は低下すると記載され、したがって、セルロースパルプ繊維の平均長は0.1〜6mmが好ましいことが記載されている。
【0007】
さらに、引用文献1記載の発明では、セルロースパルプ繊維を熱可塑性プラスチック中に多量に混合しており、実施例においてはセルロースパルプ繊維を30質量%もの多量に添加している。
そして、引用文献1記載の発明では、セルロースパルプ繊維をポリマー材料と混合する際には、セルロースパルプ繊維を乾燥させた後、溶融混合を行っている。
以上のことから、引用文献1記載の発明では、セルロースパルプ繊維の凝集の問題は解決されておらず、また、セルロースパルプ繊維の添加量が多量のため、射出成形時において230〜240℃の温度となると、セルロースの分解による着色の問題も生じていた。
【0008】
また、特許文献2には、プラスチック100重量部にセルロース繊維0.01〜20重量部を含有する熱可塑性プラスチックが記載されている。そしてセルロース繊維は、ビスコース繊維であり、50μm〜5mmの繊維長さ又は1〜500μmの繊維直径を有するものが好ましいことが記載されている。特許文献2記載の発明においては、特許文献1記載の発明よりもセルロース繊維の含有量が少量ではあるが、セルロース繊維の繊維長や繊維直径は大きいものであり、また、セルロース繊維を含有させる方法として、溶融混合する方法が示されているのみである。
したがって、特許文献2記載の発明においても、上記したようなセルロース繊維の凝集の問題は解決されていなかった。
【0009】
また、特許文献3には繊維状のフィラーと薄片状無機質材料を含む複合体組成物が記載されている。また、複合体組成物には、他の構成成分として熱可塑性樹脂を含有していてもよいことが記載されている。
しかしながら、引用文献3記載の発明においては、繊維状のフィラーと薄片状無機質材料のみからなる複合体組成物の具体例しか示されておらず、熱可塑性樹脂を含有する場合の複合体組成物については製造方法、特性値ともに全く開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2002−527536号公報
【特許文献2】特表平9−505329号公報
【特許文献3】特開2010−285573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の問題点を解決するものであり、ポリアミド樹脂中にセルロース繊維と層状珪酸塩が凝集することなく均一に分散され、機械的特性や耐熱性が向上したポリアミド樹脂組成物及び該樹脂組成物の製造法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維0.01〜50質量部と層状珪酸塩0.01〜100質量部とを含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)セルロース繊維の平均繊維径が10μm以下である、(1)記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)層状珪酸塩が膨潤性フッ素雲母である、(1)又は(2)に記載のポリアミド樹脂組成物。
(4)MD方向の線膨張係数(20〜150℃の領域での平均値を算出するもの)が45×10-6(1/℃)以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(5)ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩を混合し、重合反応を行うことにより得られたものである、(1)〜(4)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩とを混合し、重合反応を行うことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造法。
(7)(1)〜(5)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩を混合し、pKaが0〜6の酸を、ポリアミド樹脂を構成するモノマーに対して0.001〜5モル%存在させた状態で重合反応を行うことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維と層状珪酸塩を含有し、樹脂組成物中に該セルロース繊維及び層状珪酸塩が凝集することなく均一に分散されているため、強度、弾性率、線膨張係数等の機械的特性や耐熱性が向上したものである。このため、本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、発泡成形等の成形法により各種の成形体を得ることが可能となり、様々な用途に使用することが可能となる。
また、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法により、セルロース繊維および層状珪酸塩が凝集状態のままポリアミド樹脂中に含有されることがないため、セルロース繊維と層状珪酸塩が均一に分散された本発明のポリアミド樹脂組成物を得ることができる。このため、セルロース繊維と層状珪酸塩の含有量が比較的少量であっても、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性や耐熱性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるポリアミド樹脂は、アミノ酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸とから形成されるアミド結合を有する重合体をいうものである。
【0015】
このようなポリアミド樹脂を形成するモノマーの例として、アミノ酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などが挙げられる。
ラクタムとしては、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどが挙げられる。
【0016】
ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナンメチレンジアミン、デカンメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,4−ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどが挙げられる。
【0017】
ジカルボン酸としてはアジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸などが挙げられる。
【0018】
より具体的には、本発明で用いるポリアミド樹脂としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロンTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタル/イソフタルアミド(ナイロン6T/6I)、ポリビス(4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンPACM12)、ポリビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ナイロンジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ナイロン11T(H))が挙げられ、これらの共重合体や混合物であってもよい。中でも特に好ましいポリアミド樹脂は、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、およびこれらの共重合体や混合物である。
【0019】
次に、本発明におけるセルロース繊維について説明する。セルロース繊維としては、木材、稲、綿、麻、ケナフ、アバカ、バガスなどに由来するものの他にバクテリアセルロース、バロニアセルロース、ホヤセルロースなど生物由来のものも含まれる。また、再生セルロース、セルロース誘導体なども含まれる。
【0020】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維を含有することによって、強度、線膨張係数等の機械的特性や耐熱性が向上したものとなる。樹脂組成物の機械的特性や耐熱性を十分に向上させるには、セルロース繊維を凝集させることなく、樹脂中に均一に分散させることが必要である。そのためにはポリアミド樹脂に対するセルロース繊維の分散性や、ポリアミド樹脂とセルロース繊維の親和性が重要である。また、セルロース繊維が有する水酸基などの性質をできるだけ発揮させるためには、セルロース繊維の表面積を増やすことが重要である。このため、できるだけ微細化されたセルロース繊維を使用することが好ましい。
【0021】
したがって、本発明においては、セルロース繊維として、平均繊維径が10μm以下のものを用いることが好ましく、中でも平均繊維径は500nm以下であることが好ましく、さらには、300nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下である。平均繊維径が10μmを超えるセルロース繊維では、セルロース繊維の表面積を増やすことができず、ポリアミド樹脂や、ポリアミド樹脂を形成するモノマーに対する分散性や親和性を向上させることが困難となる。平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、セルロース繊維の生産性を考慮すると4nm以上とすることが好ましい。
【0022】
このような平均繊維径が10μm以下のセルロース繊維(以下、セルロース繊維(A)と称することがある)としては、セルロース繊維を引き裂くことによってミクロフィブリル化したものが好ましい。ミクロフィブリル化する手段としては、ボールミル、石臼粉砕機、高圧ホモジナイザー、ミキサーなど各種粉砕装置を使用することができる。セルロース繊維としては、市販されているものとして、例えば、ダイセルファインケム社製の「セリッシュ」を用いることができる。
【0023】
また、セルロース繊維(A)として、セルロース繊維を使用した繊維製品の製造工程において、屑糸として出されたセルロース繊維の集合体を使用することもできる。繊維製品の製造工程とは紡績時、織布時、不織布製造時、そのほか繊維製品の加工時などが挙げられる。これらのセルロース繊維の集合体は、セルロース繊維がこれらの工程を経た後に屑糸となったものであるため、セルロース繊維が微細化したものとなっている。
【0024】
また、セルロース繊維(A)として、バクテリアが産出するバクテリアセルロースを使用することもでき、例えば、アセトバクター族の酢酸菌を生産菌として産出されたものを使用することができる。植物のセルロースは、セルロースの分子鎖が収束したもので、非常に細いミクロフィブリルが束になって形成されているものであるのに対し、酢酸菌より産出されたセルロースはもともと幅20〜50nmのリボン状であり、植物のセルロースと比較すると極めて細い網目状を形成している。
【0025】
本発明において、樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維の平均繊維径の測定方法は以下のとおりである。凍結ウルトラミクロトームを用いて樹脂組成物(または樹脂組成物からなる成形体)から厚さ100nmの切片を採取し、OsO(四酸化オスミウム)で切片染色を実施後、透過型電子顕微鏡(日本電子社製JEM−1230)を用いて観察を行う。電子顕微鏡画像からセルロース繊維(単繊維)の長手方向に対する垂直方向の長さを測定する。このとき、垂直方向の長さのうち最大のものを繊維径とする。同様にして10本のセルロース繊維(単繊維)の繊維径を測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維径とする。
なお、セルロース繊維の繊維径が大きいものについては、ミクロトームにて10μmの切片を切り出したものか、樹脂組成物(または樹脂組成物からなる成形体)をそのままの状態で、実体顕微鏡(OLYMPUS SZ−40)を用いて観察を行い、得られた画像から上記と同様にして繊維径を測定し、平均繊維径を求める。
【0026】
また、本発明における樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維の長さは、上記のようにして平均繊維径を測定する際に求めることができ、電子顕微鏡画像におけるセルロース繊維(単繊維)の長手方向の長さをいう。そして、繊維径と同様に、10本のセルロース繊維(単繊維)の長さを測定し、10本の平均値を算出したものを平均繊維長とする。
本発明におけるセルロース繊維は、上記した平均繊維径と平均繊維長との比であるアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)が10以上であることが好ましく、中でも50以上、さらには100以上であることが好ましい。アスペクト比が10以上であることにより、ポリアミド樹脂組成物の機械的特性が向上しやすく、より強度が高く、線膨張係数が低いものとすることができる。
なお、本発明のポリアミド樹脂組成物は、後述するような本発明の製造法により得ることにより、セルロース繊維(A)がアスペクト比100以上のものであっても、樹脂中に均一に分散させることが可能となる。
【0027】
そして、本発明のポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の含有量は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜50質量部であることが必要であり、中でも0.05〜30質量部であることが好ましく、さらには0.1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10質量部である。セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して0.01質量部未満である場合は、上記したようなセルロース繊維を含有する効果、すなわち機械的特性や耐熱性を向上する効果を奏することができない。
一方、セルロース繊維の含有量がポリアミド樹脂100質量部に対して50質量部を超える場合は、セルロース繊維を樹脂組成物中に含有させることが困難となったり、得られた樹脂組成物を射出成形等の成形時に高温で熱処理すると変色が生じることとなる。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物を、後述するような本発明の製造法で得ることにより、セルロース繊維の含有量が少量であっても、それがポリアミド樹脂中に均一に分散されるので、ポリアミド樹脂組成物は、十分な機械的特性や耐熱性の向上効果が得られる。つまり、セルロース繊維の含有量が、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲のものであっても、得られるポリアミド樹脂組成物は、強度が高く、線膨張係数が低く、機械的特性に優れるとともに耐熱性にも優れたものとなる。
【0029】
次に、本発明における層状珪酸塩について説明する。本発明においては、層状珪酸塩をポリアミド樹脂中に含有することによって、強度、線膨張係数等の機械的特性や耐熱性が向上したものとなる。樹脂組成物の機械的特性や耐熱性を十分に向上させるには、層状珪酸塩を凝集させることなく、樹脂中に均一に分散させることが必要である。そのためにはポリアミド樹脂に対する層状珪酸塩の分散性や、ポリアミド樹脂と層状珪酸塩の親和性が重要である。
【0030】
本発明で用いられる層状珪酸塩としては、天然品のスメクタイト、バーミキュライト、及び合成品の膨潤性フッ素雲母等が挙げられる。中でもポリアミド樹脂中への分散性や親和性に優れるため、膨潤性フッ素雲母が好ましい。
スメクタイトの例としては、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイトが挙げられる。膨潤性フッ素雲母の例としては、Na型フッ素四ケイ素雲母、Na型テニオライト、Li型テニオライト等が挙げられる。
【0031】
上記したような膨潤性フッ素雲母は次式で示される。
αMF・β(aMgF2 ・bMgO)・γSiO2
ここで、Mはナトリウム又はリチウムを表し、α、β、γ、a及びbは各々係数を表し、0.1≦α≦2、2≦β≦3.5、3≦γ≦4、0≦a≦1、0≦b≦1、a+b=1である。
【0032】
また、本発明における膨潤性フッ素雲母は、タルクを出発物質として用い、これにアルカリイオンをインターカレーションして得られたものであることが好ましい。この方法ではタルクに珪フッ化アルカリあるいはフッ化アルカリを混合し、磁性ルツボ内で700〜1200℃、短時間加熱処理することによって膨潤性フッ素雲母を得るものである。本発明で用いる膨潤性フッ素雲母は特にこの方法で製造されたものが好ましい。
【0033】
タルクと混合する珪フッ化アルカリあるいはフッ化アルカリの量は、混合物の10〜35質量%となるようにすることが好ましく、この範囲を外れると膨潤性フッ素雲母の生成率が低下する。
【0034】
膨潤性フッ素雲母を得るためには、珪フッ化アルカリあるいはフッ化アルカリのアルカリ金属は、ナトリウム又はリチウムとすることが好ましい。これらのアルカリ金属は単独で用いてもよいし併用してもよい。アルカリ金属のうち、カリウムの場合には膨潤性フッ素雲母が得られないので好ましくないが、ナトリウム又はリチウムと併用し、かつ限定された量であれば膨潤性を調節する目的で用いることも可能である。
【0035】
本発明でいう膨潤性とは、フッ素雲母がアミノカルボン酸、ナイロン塩、水分子等の極性分子あるいは陽イオンを層間に吸収することにより、層間距離が拡がり、あるいはさらに膨潤へき開して、超微細粒子となる特性を意味し、前記の式で表されるフッ素雲母はこのような膨潤性を示すものである。
【0036】
また、膨潤性フッ素雲母は、ポリアミド樹脂中での分散性や親和性に優れることから、一辺が101μm以下、厚さが0.1μm以下で、X線粉末法で測定したC軸方向の層厚さが9〜20Åのものが好ましい。
【0037】
そして、本発明のポリアミド樹脂組成物中の層状珪酸塩は、ポリアミド樹脂100質量部に対して、0.01〜100質量部含有されていることが必要であり、中でも0.1〜20質量部、さらには1〜10質量部含有されていることが好ましい。
ポリアミド樹脂100質量部に対する含有量が0.01質量部未満であると、機械的特性や耐熱性を向上させる効果を奏することができない。一方、ポリアミド樹脂100質量部に対する含有量が100質量部を超えると、層状珪酸塩を添加して重合することが困難となり、樹脂組成物を得ることができない。また、ポリアミド樹脂に溶融混練することにより得られたとしても、得られる樹脂組成物は靭性の低下が大きいものとなる。
【0038】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維と層状珪酸塩を特定量含有するものであるため、セルロース繊維と層状珪酸塩のそれぞれが奏する効果がさらに相まって、強度、線膨張係数等の機械的特性や耐熱性がより向上したものとなる。
そして、本発明のポリアミド樹脂組成物は、数平均分子量が1万〜10万であることが好ましい。数平均分子量が1万未満である場合には、樹脂組成物の機械的特性が低くなるので好ましくない。一方、数平均分子量が10万を超える場合には、樹脂組成物の成形性が急速に低下するので好ましくない。なお、数平均分子量は、示差屈折率検出器を備えたゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)装置を用い、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶出液として40℃でPMMA換算にて求める値である。
【0039】
セルロース繊維は水との親和性が非常に高く、平均繊維径が小さいほど水に対して良好な分散状態を保つことができる。また、水を失うと水素結合により強固にセルロース繊維同士が凝集し、一旦凝集すると凝集前と同様の分散状態をとることが困難となる。特にセルロース繊維の平均繊維径が小さくなるほどこの傾向が顕著となる。
したがって、セルロース繊維は水を含んだ状態でポリアミド樹脂と複合化することが好ましい。
【0040】
また、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと層状珪酸塩とを存在させた状態でモノマーを重合することにより、膨潤性フッ素雲母がポリアミド中に十分細かく分散し、本発明の効果が顕著に発現する。
【0041】
そこで、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法としては、ポリアミド樹脂を重合反応により得る際に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩とを混合し、重合反応を行う方法を採用することが好ましい。このような製造法により、セルロース繊維と層状珪酸塩が凝集することなく均一に分散したポリアミド樹脂組成物を得ることが可能となり、特に機械的特性と耐熱性が向上した樹脂組成物とすることができる。そして、セルロース繊維と層状珪酸塩の含有量が少量であっても、それが十分に分散された状態でポリアミド樹脂中に均一に分散されるので、ポリアミド樹脂組成物には、十分な機械的特性や耐熱性の向上効果が得られる。つまり、セルロース繊維と層状珪酸塩の含有量(合計量)が、ポリアミド樹脂100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲のものであっても、ポリアミド樹脂組成物は、強度、弾性率、線膨張係数等の機械的特性に優れるとともに耐熱性にも優れたものとなる。
【0042】
このため、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩とを混合し、重合反応を行うことにより得られたものであることが好ましい。
【0043】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物が耐熱性に優れることを示す指標として、熱変形温度がある。本発明のポリアミド樹脂組成物は、荷重1.8MPa時の熱変形温度が150℃以上であることが好ましく、中でも155℃以上、さらには160℃以上であることが好ましい。荷重1.8MPa時の熱変形温度が150℃未満であると、十分な耐熱性を有しておらず、様々な用途に使用することが困難となる。
【0044】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、荷重0.45MPa時の熱変形温度が200℃以上であることが好ましく、中でも202℃以上、さらには204℃以上であることが好ましい。荷重0.45MPa時の熱変形温度が200℃未満であると、十分な耐熱性を有しておらず、様々な用途に使用することが困難となる。
【0045】
なお、本発明における熱変形温度は、後述する曲げ強度、曲げ弾性率を測定する際に作製する試験片と同様のものを用い、ASTM D648に基づいて測定するものである。このとき、荷重は1.8MPaと0.45MPaで測定する。
【0046】
本発明のポリアミド樹脂組成物は機械的特性にも優れる。機械的特性を示す指標として、線膨張係数や強度がある。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、MD方向における線膨張係数が、40×10−6(1/℃)以下であることが好ましく、中でも38×10−6(1/℃)以下であることが好ましく、さらには35×10−6(1/℃)以下であることが好ましい。MD方向における線膨張係数が、40×10−6(1/℃)を超えると、寸法安定性に劣るものとなりやすく、様々な用途に用いることが困難となる。
【0048】
なお、本発明における線膨張係数は、後述する曲げ強度、曲げ弾性率を測定する際に作製する試験片と同様のものを用い、JIS K7197に基づいて測定するものであり、20〜150℃の領域での平均値を算出する。また、成形時の樹脂の流れ方向をMD方向、流れと垂直な方向をTD方向とする。
【0049】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、曲げ強度が150MPa以上であることが好ましく、中でも155MPa以上、さらには160MPa以上であることが好ましい。曲げ強度が150MPa未満であると、十分な強度を有しておらず、様々な用途に使用することが困難となる。
【0050】
さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物は、曲げ弾性率が4.0GPa以上であることが好ましく、中でも4.5GPa以上であることが好ましく、さらには5.0GPa以上であることが好ましい。曲げ弾性率が4.0GPa未満であると、柔軟性に乏しく、剛性が強くなりすぎるため、曲げ強度が上記の範囲内のものであったとしても、汎用性に乏しく、実用上好ましくない。
【0051】
なお、本発明における曲げ強度、曲げ弾性率は、以下のような射出成形条件によって得た試験片を用い、ASTM D790に基づき、23℃で測定を行うものである。
(射出成形条件)
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機(東芝機械社製、IS−80G型)を用い、ASTM規格の1/8インチ3点曲げ試験片用金型を用いて成形を行い、長さ×幅×厚さ=127mm(5インチ)×12.7mm(1/2インチ)×3.2mm(1/8インチ)の試験片を得る。
【0052】
次に、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法について説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造法は、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩を混合し、重合反応を行うものである。そして、本発明の製造法におけるセルロース繊維の水分散液は、セルロース繊維を水に分散させたものであり、水分散液中のセルロース繊維の含有量は0.01〜50質量%とすることが好ましい。このような水分散液は、精製水とセルロース繊維とをミキサー等で攪拌することにより得ることができる。
【0053】
そして、セルロース繊維の水分散液と、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと層状珪酸塩を混合し、ミキサー等で攪拌することにより均一な分散液とする。その後、分散液を加熱し、150〜270℃まで昇温させて攪拌することにより重合反応させる。このとき、分散液を加熱する際に徐々に水蒸気を排出することにより、水分散液中の水分を排出することができる。そして、重合反応終了後は、得られた樹脂組成物を払い出した後、切断してペレットとすることが好ましい。
【0054】
セルロース繊維としてバクテリアセルロースを用いる場合においては、セルロース繊維の水分散液として、バクテリアセルロースを精製水に浸して溶媒置換したものを使用してもよい。バクテリアセルロースの溶媒置換したものを用いる際には、溶媒置換後、所定の濃度に調整した後、層状珪酸塩およびポリアミド樹脂を構成するモノマーと混合し、上記と同様に重合反応を進行させることが好ましい。
【0055】
このように、本発明の製造法では、セルロース繊維を水分散液のまま重合反応に供することで、分散性が良好な状態で重合反応に供されることとなる。さらに、重合反応に供されたセルロース繊維は、重合反応中のモノマーや水との相互作用により、また上記のような温度条件で攪拌することにより、分散性が向上し、繊維同士が凝集することがなく、平均繊維径が小さいセルロース繊維が良好に分散した樹脂組成物を得ることが可能となる。このように、本発明の製造法によれば、セルロース繊維の分散性が向上するため、重合反応前に添加したセルロース繊維の平均繊維径よりも、重合反応終了後に樹脂組成物中に含有されているセルロース繊維のほうが、平均繊維径や繊維長が小さいものとなることもある。
また、本発明の製造法では、セルロース繊維を乾燥させる工程が不要となり、微細なセルロース繊維の飛散が生じる工程を経ずに製造が可能であるため、操業性よくポリアミド樹脂組成物を得ることが可能となる。またモノマーと層状珪酸塩とセルロースを均一に分散させる目的として水を有機溶媒に置換する必要がないため、ハンドリングに優れるとともに製造工程中において化学物質の排出を抑制することが可能となる。
【0056】
さらに、本発明の製造方法において、重合反応時に、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩を混合し、pKaが0〜6の酸を、ポリアミド樹脂を構成するモノマーに対して0.001〜5モル%存在させた状態で重合反応を行うことが好ましい。これにより層状珪酸塩クレイに含まれるカチオンとモノマーとのイオン交換反応が行われ、ポリアミドへのナノ分散が促進されるという効果がある。
このとき、ポリアミドを構成するモノマーに層状珪酸塩と酸の水溶液(重合開始剤として用いる水に酸を溶解させて水溶液としたもの)を所定量添加し、通常のポリアミドの重合に準じた条件で重合すればよい。層状珪酸塩として膨潤性フッ素雲母を用いる場合は、膨潤化処理を前もって行う必要はなく、そのままモノマーに配合すればよい。重合時の圧力は、高圧にする必要がなく、制圧時の圧力は高くても10kg/cm程度でよい。
【0057】
本発明で用いる酸は、pKaが0〜6の範囲のものである。pKaが6を超える酸ではプロトン放出量が少ないため上記の効果が乏しくなる。一方、pKaが0未満の酸では、連続生産時の重合釜の腐食等の問題があり、不適当である。pKaが0〜6の範囲の酸としては、無機酸でも有機酸であってもよく、具体的には、安息香酸、セバシン酸、ぎ酸、酢酸、亜硝酸、リン酸、亜リン酸等及びこれらの酸として作用する誘導体、例えばクロル酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられる。
【0058】
酸の添加量は、ナイロンモノマーに対して0.001〜5モル%であり、中でも0.1〜2.0モル%であることが好ましい。0.001モル%未満であると上記の効果が乏しくなる。一方、酸の添加量が5モル%を超えると高重合度のポリマーを得ることが困難となる。
【0059】
なお、添加する酸のモル量は、系全体の酸の当量とアミンの当量の差を添加する酸の価数で除して求められるものである。
【0060】
本発明のポリアミド樹脂組成物中には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、耐衝撃剤、難燃剤、相溶化剤などが含有されていてもよい。
【0061】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物中には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、ポリアミド樹脂以外の他の重合体が含有されていてもよい。他の重合体としては、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)共重合体、液晶ポリマー、ポリアセタールなどが挙げられる。
【0062】
なお、本発明のポリアミド樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、発泡成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。すなわち、射出成形してなる成形体、あるいは、押出し成形してなるフィルム、シート、および、これらフィルム、シートから加工してなる成形体、あるいは、ブロー成形してなる中空体、および、この中空体から加工してなる成形体、溶融紡糸して得られる繊維などとすることができる。
【0063】
これらの成形体の具体例としては、パソコン筐体部品および筐体、携帯電話筐体部品および筐体、その他OA機器筐体部品、コネクター類等の電化製品用樹脂部品;バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品をはじめ、コンテナーや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;花壇用レンガ、植木鉢等の緑化材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー・雑貨用樹脂部品;ボールペン、定規、クリップ等の文房具用樹脂部品;繊維を製編織して得られる織編物や不織布等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値の測定法は以下のとおりである。
〔曲げ弾性率、曲げ強度〕
得られたポリアミド樹脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
〔熱変形温度(HDT)〕
得られたポリアミド樹脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
〔線膨張係数〕
得られたポリアミド樹脂組成物(ペレット)を用い、前記の方法により測定した。
〔セルロース繊維の平均繊維径〕
得られたポリアミド樹脂組成物中のセルロース繊維の平均繊維径は、前記の方法により測定し、算出した。
【0065】
実施例1
セルロース繊維の水分散液として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を使用し、これに精製水を加えてミキサーで攪拌し、セルロース繊維の含有量が3質量%の水分散液を調整した。
また、層状珪酸塩としては、膨潤性フッ素雲母(コープケミカルケミカル社製:ME-100)を使用した。
セルロース繊維の水分散液170質量部と、ε−カプロラクタム254質量部と、層状珪酸塩(膨潤性フッ素雲母)2.5質量部と亜リン酸0.25質量部(ε−カプロラクタムに対して0.14モル%)とを、均一な溶液となるまでミキサーで攪拌、混合した。続いて、この混合溶液を攪拌しながら240℃に加熱し、徐々に水蒸気を放出しつつ、0kgf/cmから7kgf/cmの圧力まで昇圧した。そののち大気圧まで放圧し、240℃で1時間重合反応を行った。重合が終了した時点で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットを95℃の熱水で処理し、精練を行い、乾燥させた。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、シリンダ温度260℃、金型温度80℃とした。
【0066】
実施例2
膨潤性フッ素雲母の添加量を5.1質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0067】
実施例3
膨潤性フッ素雲母の添加量を10.2質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0068】
実施例4
膨潤性フッ素雲母の添加量を2.5質量部、セルロース繊維の水分散液の添加量を425質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0069】
実施例5
膨潤性フッ素雲母の添加量を5.1質量部とした以外は、実施例4と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0070】
実施例6
セルロース繊維の水分散液の添加量を850質量部とした以外は、実施例2と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0071】
実施例7
セルロース繊維の水分散液の添加量を1700質量部とした以外は、実施例2と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0072】
実施例8
膨潤性フッ素雲母の添加量を25.5質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0073】
実施例9
膨潤性フッ素雲母の添加量を51質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0074】
実施例10
セルロース繊維として、セリッシュKY100G(ダイセルファインケム社製:平均繊維径が125nmのセルロース繊維が10質量%含有されたもの)を凍結乾燥後、粉砕処理を施し、粉末状セルロースとしたものを使用した。
ナイロン6(ユニチカ社製BRL 数平均分子量17000)100質量部に対して、得られた粉末状セルロース2質量部と層状珪酸塩〔膨潤性フッ素雲母(コープケミカルケミカル社製:ME-100)を使用した。〕1.0質量部をブレンドし、スクリュー径が30mm、平均溝深さが2.5mmの二軸押出機(池貝社製PCM−30)に供給し、バレル温度240℃、スクリュー回転数120rpm、滞留時間2.7分にて溶融混練した。溶融混練で得られた樹脂組成物を払い出し、これを切断してペレットとした。得られたペレットをそのまま成形し、各種物性測定を行った。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0075】
実施例11
膨潤性フッ素雲母の添加量を2.0質量部とした以外は、実施例10と同様にして溶融混練を行い、ペレットを得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0076】
実施例12
膨潤性フッ素雲母の添加量を4.0質量部とした以外は、実施例10と同様にして溶融混練を行い、ペレットを得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0077】
比較例1
層状珪酸塩、セルロース繊維の水分散液とも添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0078】
比較例2
層状珪酸塩を添加せず、セルロース繊維の水分散液の含有量を85質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0079】
比較例3
層状珪酸塩を添加せず、セルロース繊維の水分散液の含有量を170質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0080】
比較例4
層状珪酸塩を添加せず、セルロース繊維の水分散液の含有量を340質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0081】
比較例5
セルロース繊維の水分散液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0082】
比較例6
セルロース繊維の水分散液を添加しなかった以外は、実施例2と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0083】
比較例7
セルロース繊維の水分散液を添加しなかった以外は、実施例3と同様にしてポリアミド樹脂組成物を得た。
なお、曲げ強度等の測定に使用する試験片を得る際の射出成形条件は、実施例1と同様であった。
【0084】
比較例8
セルロース繊維の水分散液の添加量を4250質量部、亜リン酸の添加量を4.25質量部(ε−カプロラクタムに対して0.14モル%)とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物の重合を試みたが、セルロースが凝集して攪拌が困難となり、白斑を目視で確認できるほどであり、重合ができなかった。
【0085】
比較例9
膨潤性フッ素雲母の添加量を267質量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリアミド樹脂組成物の重合を試みたが、攪拌が困難となり、重合できなかった。
【0086】
実施例1〜12、比較例1〜9で得られたポリアミド樹脂組成物の特性値を測定した結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
表1から明らかなように、実施例1〜9で得られたポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維と層状珪酸塩の水分散液とポリアミド樹脂を構成するモノマーを混合し、重合反応を行うことにより得られたものであったため、ポリアミド樹脂中に微細なセルロース繊維と層状珪酸塩が凝集することなく均一に分散されたものであった。このため、実施例1〜9で得られたポリアミド樹脂組成物は、いずれも耐熱性に優れ、曲げ弾性率、曲げ強度が高く、さらに、MD方向の線膨張係数は低く、機械的特性に優れたものであった。特に線膨張係数についてはそれぞれを単独で加える場合より重合時に併用することによりさらに高い効果が見られた。
また、実施例10〜12で得られたポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維と層状珪酸塩が溶融混練によりポリアミド樹脂中に含有されたものであるため、実施例1〜9で得られたポリアミド樹脂組成物に比べて、耐熱性、線膨張係数、曲げ強度、曲げ弾性率ともに劣るものであった。しかしながら、セルロース繊維を含有しない比較例5〜7で得られたポリアミド樹脂組成物よりもこれら全ての性能において優れていた。
一方、比較例1で得られたポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維と層状珪酸塩の両者を含有しないものであったため、耐熱性、線膨張係数、曲げ強度、曲げ弾性率ともに劣るものであった。また、比較例2〜7で得られたポリアミド樹脂組成物は、セルロース繊維と層状珪酸塩のいずれか一方のみ含有するものであったため、両者を含有する実施例の樹脂組成物に比べて、耐熱性、線膨張係数、曲げ弾性率、曲げ強度のいずれにも劣るものであった。また、比較例8〜9では、セルロース繊維又は層状珪酸塩の添加量が多すぎたため、粘度上昇が著しく、攪拌困難となり重合できなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対して、セルロース繊維0.01〜50質量部と層状珪酸塩0.01〜100質量部とを含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
セルロース繊維の平均繊維径が10μm以下である、請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
層状珪酸塩が膨潤性フッ素雲母である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
MD方向の線膨張係数(20〜150℃の領域での平均値を算出するもの)が45×10-6(1/℃)以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩を混合し、重合反応を行うことにより得られたものである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩とを混合し、重合反応を行うことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を製造するための方法であって、ポリアミド樹脂を構成するモノマーと、セルロース繊維の水分散液と層状珪酸塩を混合し、pKaが0〜6の酸を、ポリアミド樹脂を構成するモノマーに対して0.001〜5モル%存在させた状態で重合反応を行うことを特徴とするポリアミド樹脂組成物の製造法。


【公開番号】特開2013−79333(P2013−79333A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220131(P2011−220131)
【出願日】平成23年10月4日(2011.10.4)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】