説明

ポリアミド樹脂組成物及び成形品

【課題】本発明は、椅子、特に格子形状を有する椅子を射出成形するのに好適な樹脂混合物であって、ポリアミド樹脂の持つ機械的特性を保持しつつ、格子形状の良好な外観、ウエルド部伸度及び実使用時の剛性を得ることができる樹脂混合物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、粘度数が180〜200の範囲であるポリアミド粒状体(A)100質量部と、無機充填材を30〜50質量%含有するポリアミド組成物粒状体(B)10〜100質量部と、を含むポリアミド樹脂混合物であり、該ポリアミド樹脂混合物中の無機充填材濃度が5〜15質量%であるポリアミド樹脂混合物を提供するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド樹脂混合物及びそれを成形して得られるポリアミド樹脂成形品に関する。詳しくは、成形品外観に優れ、吸湿しても剛性の低下が少なく、ウエルド伸度にも優れ、椅子の部品として好適なポリアミド樹脂混合物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂組成物は、その優れた機械物性とガラス繊維等の無機充填剤で補強した際の高い補強効果発現性により、自動車分野や電気、電子分野や工業部品等に多く用いられている。オフィス家具用途において、例えば特許文献1、特許文献2では、ナイロン66樹脂とナイロン6樹脂及びガラス繊維よりなる樹脂組成物が強度と外観に優れ、椅子の脚等に適していることが記載されている。
【0003】
しかしながら、着座時のフィーリングを高めるため背もたれ部にメッシュや格子形状を用いて背中にフィットするタイプの椅子は、射出成形する場合、流動経路が複雑であるため、溶融樹脂が固化し易く、従来の発明による組成物を用いても外観、ウエルド部の伸度及び実使用時の剛性が不十分である。また、樹脂成分の溶融粘度が低いと大型の成形品の場合、成形する際に射出成形機のノズルに設けられた逆流防止リングの作動が期待されたように作動しなく、クッションが取れないまま成形することになり、成形品に十分な圧力を加えた成形がし難くなり、このような樹脂製椅子部品に適したポリアミド樹脂材料が求められていた。
【特許文献1】特開平1−193359号公報
【特許文献2】特開平4−50260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、椅子、特に格子形状を有する椅子を射出成形するのに好適な樹脂混合物であって、ポリアミド樹脂の持つ機械的特性を保持しつつ、格子形状の良好な外観、ウエルド部伸度及び実使用時の剛性を得ることができる樹脂混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定の粘度数のポリアミド粒状体と、無機充填材を含有するポリアミド組成物粒状体の混合物によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は、
〔1〕粘度数が180〜200の範囲であるポリアミド粒状体(A)100質量部と、無機充填材を30〜50質量%含有するポリアミド組成物粒状体(B)10〜100質量部と、を含むポリアミド樹脂混合物であり、該ポリアミド樹脂混合物中の無機充填材濃度が5〜15質量%であるポリアミド樹脂混合物;
〔2〕前記ポリアミド粒状体(A)の結晶化温度(Tc)が210℃以下である、上記〔1〕に記載のポリアミド樹脂混合物;
〔3〕前記ポリアミド粒状体(A)が、ポリアミド66/6共重合体、ポリアミド66/6I共重合体、及びポリアミド66/6I/6共重合体からなる群より選択される一種以上の共重合体、又は、前記群より選択される一種以上の共重合体とポリアミド6若しくはポリアド66/6I共重合体との混合物である、上記〔1〕又は〔2〕に記載のポリアミド樹脂混合物;
〔4〕前記ポリアミド組成物粒状体(B)の無機充填材が、焼成カオリン及び/又はワラストナイトである、上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂混合物;
〔5〕前記ポリアミド組成物粒状体(B)のポリアミドが、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、及びメタキシレンジアミンから選ばれるジアミンと、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸から選ばれるジカルボン酸との重縮合物、及び/又はε−カプロラクタムの重縮合物を含む、上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂混合物;
〔6〕更に高級脂肪酸金属塩(C)が、ポリアミド粒状体(A)100質量部に対して0.05〜0.5質量部の割合で混合物全体に配合されている、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂混合物;
〔7〕前記高級脂肪酸金属塩(C)の炭素数が24〜34の範囲である、上記〔6〕に記載のポリアミド樹脂混合物;
〔8〕上記〔1〕〜〔7〕に記載のポリアミド樹脂混合物を成形して得られるポリアミド樹脂成形品;
〔9〕前記成形品が椅子の部品である、上記〔8〕に記載のポリアミド樹脂成形品;
〔10〕前記成形品が椅子の背部である、上記〔9〕に記載のポリアミド樹脂成形品、に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、格子形状の椅子の背等に大型成形品の射出成形に用いた場合も外観が良好で、ウエルド部の伸度や実使用時の剛性に優れるポリアミド樹脂混合物及び成形品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の内容を詳細に説明する。
【0008】
本発明において、ポリアミド又はポリアミド組成物の「粒状体」とは、射出成形及び押出成形等に用いられる一般的な原料形状を示すのであって特定の形状に限定されるものではない。一般に、重合を完了し、所定の分子量に達したポリアミドをノズルによりロープ状に排出し、カッターによりカットしたものや、重合層よりフラッシュさせ、パウダー状に排出し冷却固化したもの等さまざまな方法により得られるものである。粒状体は、例えば、直径3mm、長さ3mmの円柱状のものや、直径3mmの球状のもの、平均粒径が300μmの粉体等を挙げられる。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂混合物に用いられるポリアミド粒状体(A)は、粘度数が180〜200である。粘度数がこの範囲であれば、特に制限はなく、ポリアミドと称せられているものを全て包含する。具体的には、ε−カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタムの重縮合物や、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メタキシレンジアミン等のジアミンと、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸との重縮合物から製造されるポリアミドである。ここで粘度数とはISO307で定められたポリアミドの溶液粘度を表す。ポリアミド粒状体(A)の粘度数をこの範囲とすることにより、椅子部品などの大型成形品の場合も、適正に射出成形機の逆流防止リングを作動させ、適正な圧力を加えた成形が可能となる。
【0010】
また、ポリアミド粒状体(A)の結晶化温度(Tc)についても特に制限はないが、210℃以下の結晶化温度を有するポリアミドが外観と金型内の流動性に優れることから好ましい。
【0011】
ポリアミド粒状体(A)としては、ポリアミド66/6共重合体、ポリアミド66/6I共重合体、ポリアミド66/6I/6共重合体からなる群より選択される一種以上の共重合体、又は前記群より選択される一種以上の共重合体とポリアミド6若しくはポリアミド66/6I共重合体との混合物が、結晶化温度と実使用時の剛性、耐熱性のバランスに優れることから好ましい。ここで、6Iはヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸から形成されたポリアミド成分のことを表す。
【0012】
このようなポリアミド粒状体(A)は、上述したジアミン、ジカルボンサン、ラクタム等の材料を含む水溶液を調製し、公知の方法で重合させることによって製造することができる。
【0013】
本発明で用いられる無機充填材を30〜50質量%含有するポリアミド組成物粒状体(B)は、例えば、二軸押出し機等の装置を用いてポリアミド樹脂に無機充填材を溶融混合し、押出し機先端部に設けられたノズルより溶融した樹脂組成物をロープ状に排出し、冷却し、ストランドカッターにより米粒状にカットすることにより粒状として得られるものである。
【0014】
無機充填材としては、一般にポリアミド樹脂に使用されるものを適用でき、非繊維状の無機充填材が良好な成形品外観を得る上で好ましい。具体的には、カオリン、焼成カオリン、ワラストナイト、タルク等を挙げることができるが、この中でも、焼成カオリン、ワラストナイトが成形品外観を良好にすることができる。
【0015】
焼成カオリンとは、カオリナイトを焼成して得られるX線的に非晶質なメタカオリンSiO2・Al23であり、その粒径が0.1〜3.0μmの範囲のものが好適である。
【0016】
ワラストナイトは、化学名がメタケイ酸カルシウムであり、白色針状結晶の鉱物である。通常、SiO2を40〜60重量%、CaOを40〜55重量%含有し、その他にFe23、Al23、MgO、Na2O、K2O等の成分を含有するものである。本発明のワラストナイトは、吸油量20〜50cc/100g、嵩比重が0.1〜1.0、繊維長が0.1〜1000μm、繊維径が0.1〜50μmのものを用いることができる。ワラストナイトの平均粒子径は、良好な成形品外観を得るために50μm以下が好ましく、さらに好ましくは5〜30μmである。
【0017】
尚、本発明に用いる無機充填材には、その表面に公知のシラン系カップリング剤を付着させたものを用いることが外観、成形時の流動性、剛性のバランスに優れていることから好ましい。シランカップリング剤としては、例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが利用できる。
【0018】
本発明のポリアミド組成物粒状体(B)に用いられるポリアミド樹脂は、ポリアミド粒状体(A)のポリアミド樹脂と同じものでも異なるものでもよい。具体的には、ε−カプロラクタム等のラクタムの重縮合物、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、メタキシレンジアミン等のジアミンと、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸との重縮合物から製造されるポリアミドを挙げることができる。この中でも芳香環やシクロ環を含むポリアミドが吸水時の剛性を高める点で有利であり、特に好ましいのは、ポリアミド66/6I、ポリアミド66/6I/6である。
【0019】
ポリアミド組成物粒状体(B)に用いられるポリアミドの粘度数には特に制限はないが、無機充填材との溶融混練を効率よく行うためには粘度数100〜180のポリアミドを用いることが好ましい。また、結晶化温度は、良好な成形品外観を得るために210℃以下が好ましい。
【0020】
ポリアミド組成物粒状体(B)中の無機充填材の含有量は、溶融混練時の生産性、実使用時の剛性、ウエルド伸度の点から30〜50質量%であり、好ましくは35〜45質量%である。一方、本発明のポリアミド樹脂混合物における無機充填材の含有量は、溶融混練時の生産性、実使用時の剛性、ウエルド伸度の点から5〜15質量%であり、好ましくは8〜12質量%である。
【0021】
無機充填材をポリアミド中に溶融混合する方法としては、押出機やバンバリーミキサー等の溶融混合機を用いて配合する方法が一般的である。
【0022】
本発明のポリアミド樹脂は、成形時の離型性を改善するために、高級脂肪酸金属塩(C)を配合することも好ましい。中でも炭素数24〜34の高級脂肪酸金属塩は離型性に優れることから好ましい。炭素数24〜34の脂肪族カルボン酸の誘導体としては、例えば、リグノセリン酸、ヘキサコタン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラッセル酸、セロメリシン酸、ゲダ酸、エルカ酸、等の脂肪酸とカルシウム、リチウム、ナトリウム、亜鉛等からなる金属塩が挙げられる。
【0023】
高級脂肪酸金属塩の配合割合は、離型性と金型汚染のバランスのためポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05〜0.5質量部が好ましく、更に好ましくは、0.1〜0.3質量部であり、これらは混合物中全体に対して配合することが好ましい。
【0024】
高級脂肪酸金属塩は、ブレンドし、押出機内でポリアミドに溶融混練する、ペレット表面にブレンド添加する、高濃度のマスターバッチとして添加する等の公知の方法でポリアミド樹脂混合物に配合することができる。
【0025】
本発明のポリアミド樹脂混合物には、本発明の効果を著しく損なわない程度の範囲内において他のポリアミドや添加剤、即ち展着剤、帯電防止剤、着色剤、充填剤、補強剤、安定剤等を任意の段階で添加することができる。
【0026】
本発明のポリアミド樹脂混合物は、公知の混合技術で製造可能であり、ポリアミド粒状体(A)、ポリアミド組成物粒状体(B)、高級脂肪酸金属塩(C)その他添加物等を、ブレンダー、ヘンシェルミキサー等のバッチ式の混合機や複数の搬送ライン、定量フィーダー等の連続式混合機で混合することが可能である。
【0027】
ブレンダーやヘンシェルミキサーなどのバッチ式混合機を用いる場合は、予め複数の粒状体と添加剤等を所定量計量し、ブレンダーへ投入し混合してもよい。また、パウダー状の添加剤を混合する場合、粒状体の表面にポリエチレングリコール等の展着剤を予備混合し、粒状体表面にパウダーが展着するようにすることで添加剤の脱落を防止することができる。搬送ラインや定量フィーダー等の連続式混合機で混合する場合、予め、複数の粒状体及び添加剤等を流量制御する設備等を用いて所定の割合になるように混合することができる。
【0028】
上述のような本発明のポリアミド樹脂混合物によれば、大型成形品やメッシュや格子形状の成形品を製造する際にも好適に射出成形することができ、得られる成形品は外観、ウエルド部の伸度、使用時の剛性に優れている。従って、本発明のポリアミド樹脂は、椅子の座や背の製造に好ましく用いられる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例及び比較例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例に於いて、用いた原材料と試験項目は以下の方法で測定した。
[原材料]
[製造例1]ポリアミド66/6共重合粒状体
50質量%のポリアミド66/6共重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩95質量%と、ε−カプロラクタム5質量%)の水溶液を20kg作製した。該ポリアミド成分を形成する重合成分の水溶液を、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。
【0030】
十分窒素で置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで上昇させた。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら加熱を約1時間続けた。その後、約1時間をかけ、圧力を大気圧まで降圧し、更に約270℃、大気圧で約1時間保持した後、撹拌を停止し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、共重合ポリアミド粒状体を得た。得られた共重合ポリアミド粒状体を400リットルの固相重合用回転ドラムに移し、系内を十分窒素置換後、ジャケットを加熱、回転させながら、内温が200℃になるまで昇温後、5時間その状態で保持し、内温が50℃以下になるまで冷却し、回転を停止した後、取り出した。取り出した共重合ポリアミド粒状体の後述の方法で測定した結晶化温度は、207℃であり、粘度数は187であった。
[製造例2]高粘度ポリアミド粒状体
固相重合の時間を8時間保持した以外は製造例1と同様に溶融重合、固相重合を行い、高粘度ポリアミド粒状体を得た。得られた高粘度粒状体の後述の方法で測定した結晶化温度は207℃であり、粘度数は209であった。
[製造例3]低粘度数ポリアミド粒状体
50質量%のポリアミド66/6共重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩95質量%と、ε−カプロラクタム5質量%)の水溶液を20kg作製した。該ポリアミド成分を形成する重合成分の水溶液を、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。
【0031】
十分窒素で置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら加熱を約1時間続けた。その後、約1時間をかけ、圧力を大気圧まで降圧し、更に約270℃、大気圧で約1時間保持した後、撹拌を停止し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、共重合ポリアミド粒状体を得た。得られた共重合ポリアミド粒状体の後述の方法で測定した結晶化温度は、207℃であり、粘度数は140であった。
[製造例4]ポリアミド66粒状体
50質量%のポリアミド66重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩)の水溶液を20kg作製した。該ポリアミド成分を形成する重合成分の水溶液を、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。
【0032】
十分窒素で置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら加熱を約1時間続けた。その後、約1時間をかけ、圧力を大気圧まで降圧し、更に約270℃、大気圧で約1時間保持した後、撹拌を停止し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、ポリアミド66粒状体を得た。得られたポリアミド粒状体を400リットルの固相重合用回転ドラムに移し、系内を十分窒素置換後、ジャケットを加熱、回転させながら、内温が200℃になるまで昇温後、5時間その状態で保持し、内温が50℃以下になるまで冷却、回転を停止した後、取り出した。取り出したポリアミド66粒状体の後述の方法で測定した結晶化温度は、220℃であり、粘度数は142であった。
[製造例5]焼成カオリン含有ポリアミド組成物粒状体
50質量%のポリアミド66/6I共重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩82質量%と、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸との等モル塩18質量%)の水溶液を20kg作製した。該ポリアミド成分を形成する重合成分の水溶液を、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。
【0033】
十分窒素で置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら加熱を約1時間続けた。その後、約1時間をかけ、圧力を大気圧まで降圧し、更に約270℃、大気圧で約1時間保持した後、撹拌を停止し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、共重合ポリアミド66/6I粒状体を得た。
【0034】
得られた共重合ポリアミド66/6I粒状体は、東芝機械製TEM35BS押出し機を用いて、焼成カオリン(エンゲルハルト製:トランスリンク445)が粒状体に対してそれぞれ60質量%、40質量%、及び15質量%になるようにロス・イン・ウエイト式フィーダー2機で、押出し機最上流部のフィード口より供給し、途中のベント部から真空脱気しながらダイヘッドノズルから押出し、水冷バスにより冷却後、ペレタイザーにてカットし、焼成カオリン含有共重合ポリアミド66/6I粒状物を得た。
[その他の原材料]高級脂肪酸金属塩(C)
モンタン酸カルシウム(クラリアント製リコモントCaV102)
ステアリン酸カルシウム(日本油脂製ステアリン酸カルシウム)
[試験項目]
(1)粘度数
ISO307に準じて、粘度数を測定した。
(2)結晶化温度
パーキンエルマー製ダイヤモンドDSCを用いて、サンプルを1mm角以下に刻み、サンプル量10mg、昇温速度20℃/minにて40℃から300℃まで昇温、300℃で3分間滞留後に80℃まで降温速度−20℃/minで降温した際の発熱ピーク温度を結晶化温度とした。
(3)外観
表面光沢度は、130mm×130mm×3mm厚みの平板成形品を東芝機械IS150射出成形機、シリンダー温度290℃、金型温度80℃、射出/冷却時間13/25秒、射出圧力と射出速度を調整することで充填時間を3秒にて成形し、得られた成形品の表面を、堀場製ハンディ光沢計IG320を使いJISK7105に基づいて測定した。値が大きいほど、外観が優れる。
(4)ウエルド伸度
ISO527に準じて、ダンベル片を両サイドから射出成形し、中央部にウエルドを形成した成形品を作成し、測定を行った。
(5)吸水時の引張り弾性率
ISO527に準じて、ダンベル片を作成し、80℃温水中に試験片を浸漬後、取り出し23℃の室内で吸水率2.0%となるまで放置し、測定を行った。
(6)離型力
図1に示す離型力測定装置を取り付けた金型を用いて、射出成形機(日精樹脂製FN3000)でシリンダー温度290℃、金型温度80℃、射出圧力39MPaの条件下で溶融した樹脂を、スプルーランナー1を通じてカップ状成形品2に射出することで樹脂をカップ状成形品2に充填、固化させる。この後、金型を開くことでスプルーランナー1とカップ状成形品2が切離され、完全に金型が開いた状態でエジェクターロッド6がエジェクターピン3、エジェクタープレート4、圧力センサー5を介してカップ状成形品2を突き出す。金型から成形品を突き出す際の圧力センサー5にかかる応力を離型力として離型力記録計7にて記録し、その値を読み取り測定した。この値が小さいものほど離型性に優れるものとした。
(7)大型部品の成形性
大型成形品での成形を想定した条件を設定するため、(3)外観測定と同じ成形機、金型、シリンダー温度、金型温度で射出/冷却時間25/25秒で成形を行い、成形品の体積を充填した状態よりもスクリューの移動距離で15mm多く、可塑化計量を行い、正常に逆流防止リングが作動すれば15mm程度のクッションが取れる射出圧力と射出速度に設定し、射出成形を行った。
[実施例1]
ポリアミド粒状体(A)として製造例1で得られたポリアミド66/6共重合粒状体、ポリアミド組成物粒状体(B)として製造例5で得られた焼成カオリン含有ポリアミド66/6I共重合粒状体、及び高級脂肪酸金属塩(C)としてモンタン酸カルシウムを表1に記載の割合で計量し、ヘンシェルミキサーで3分間混合後、ポリアミド樹脂混合物を得た。得られたポリアミド樹脂混合物について、前記測定条件で外観(グロス値)、ウエルド伸度、引張り弾性率、離型力を測定した。得られた結果を表1に示す。
[比較例1]
ポリアミド66/6共重合粒状体の代わりに、製造例3で得られた低粘度数ポリアミド66/6共重合粒状体を用いた以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
[比較例2]
製造例1で得られたポリアミド66/6共重合粒状体を東芝機械製TEM35BS押出し機にて、押出し機最上流部のフィード口より1時間当たり30kg供給し、シリンダー温度290℃、スクリュー回転数250rpmで、途中のベント部から真空脱気しながらダイヘッドノズルから押出し、水冷バスにより冷却後、ペレタイザーにてカットし、押出し物を得た。得られた押出し物の粘度数を前記方法にて測定したところ粘度数が160であった。
【0035】
ポリアミド66/6共重合粒状体の代わりに、この押出し物を用いた以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
[比較例3]
ポリアミド66/6共重合粒状体の代わりに、製造例2で得られた高粘度数ポリアミド66/6共重合粒状体を用いた以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
[実施例2]
ポリアミド66/6共重合粒状体100質量部に対して、焼成カオリン含有ポリアミド66/6I共重合粒状体60質量部に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
[比較例4]
ポリアミド66/6共重合粒状体100質量部に対して、焼成カオリン含有ポリアミド66/6I共重合粒状体120質量部に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。混合物中における焼成カオリン配合量は20質量%であった。
[比較例5]
ポリアミド66/6共重合粒状体100質量部に対して、焼成カオリン含有ポリアミド66/6I共重合粒状体10質量部に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。混合物中における焼成カオリン配合量は4質量%であった。
[比較例6]
焼成カオリン含有ポリアミド66/6I共重合粒状体中の焼成カオリンの配合割合を15質量%に変更した以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。混合物中における焼成カオリン配合量は4質量%であった。
[比較例7]
焼成カオリン含有ポリアミド66/6I共重合粒状体中の焼成カオリンの配合割合を60質量%に変更した以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。混合物中における焼成カオリン配合量は15質量%であった。
[実施例3]
ポリアミド66/6共重合粒状体の代わりに、製造例4で得られたポリアミド66重合粒状体を用いた以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
[実施例4]
高級脂肪酸金属塩をステアリン酸カルシウムとした以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
[実施例5]
高級脂肪酸金属塩を添加しなかった以外は、実施例1と同様に造粒、成形、評価を実施した。
【0036】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】離型力の測定装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1…スプルーランナー、2…カップ状成形品、3…エジェクターピン、4…エジェクタープレート、5…圧力センサー、6…エジェクターロッド、7…離型力記録計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度数が180〜200の範囲であるポリアミド粒状体(A)100質量部と、
無機充填材を30〜50質量%含有するポリアミド組成物粒状体(B)10〜100質量部と、を含むポリアミド樹脂混合物であり、
該ポリアミド樹脂混合物中の無機充填材濃度が5〜15質量%であるポリアミド樹脂混合物。
【請求項2】
前記ポリアミド粒状体(A)の結晶化温度(Tc)が210℃以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂混合物。
【請求項3】
前記ポリアミド粒状体(A)が、ポリアミド66/6共重合体、ポリアミド66/6I共重合体、及びポリアミド66/6I/6共重合体からなる群より選択される一種以上の共重合体、又は、前記群より選択される一種以上の共重合体とポリアミド6若しくはポリアド66/6I共重合体との混合物である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂混合物。
【請求項4】
前記ポリアミド組成物粒状体(B)の無機充填材が、焼成カオリン及び/又はワラストナイトである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂混合物。
【請求項5】
前記ポリアミド組成物粒状体(B)のポリアミドが、ヘキサメチレンジアミン、ノナンジアミン、及びメタキシレンジアミンから選ばれるジアミンと、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及びシクロヘキサンジカルボン酸から選ばれるジカルボン酸との重縮合物、及び/又はε−カプロラクタムの重縮合物を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂混合物。
【請求項6】
更に高級脂肪酸金属塩(C)が、ポリアミド粒状体(A)100質量部に対して0.05〜0.5質量部の割合で混合物全体に配合されている、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂混合物。
【請求項7】
前記高級脂肪酸金属塩(C)の炭素数が24〜34の範囲である、請求項6に記載のポリアミド樹脂混合物。
【請求項8】
請求項1〜7に記載のポリアミド樹脂混合物を成形して得られるポリアミド樹脂成形品。
【請求項9】
前記成形品が椅子の部品である、請求項8に記載のポリアミド樹脂成形品。
【請求項10】
前記成形品が椅子の背部である、請求項9に記載のポリアミド樹脂成形品。

【図1】
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