説明

ポリアミド樹脂組成物成形体、およびその製造方法

【課題】ガラス繊維と層状珪酸塩を併用したポリアミド樹脂組成物を用いて、曲げ弾性率を維持したまま引張強度の向上したポリアミド樹脂組成物成形体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂100質量部に対し、層状珪酸塩0.1〜20質量部、繊維状補強材1〜60質量部含有させてなるポリアミド樹脂組成物の成形体であって、引張強度が145MPa以上であり、かつ曲げ弾性率が9.0GPa以上であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂、層状珪酸塩および繊維状補強材を含有するポリアミド樹脂組成物成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、層状珪酸塩をポリアミド樹脂中にナノ分散させたポリアミド樹脂組成物が知られている(特許文献1)。このようなポリアミド樹脂組成物は、比重を大きく増加させることなく剛性を高めることができるが、その反面、高度な機械的特性が要求される用途では引張強度が不足した。層状珪酸塩に加えガラス繊維を配合することで引張強度の向上を図ることができるが、従来有する剛性に加え引張強度を高めることは難しかった。
【0003】
ポリアミド樹脂の強化材として、層状珪酸塩とガラス繊維を併用する方法としては、層状珪酸塩の層間に脂肪族第1級アミンを挿入する方法(特許文献2)、ポリアミド樹脂組成物中に、1分子中に2個以上の官能基を有する有機化合物を配合する方法(特許文献3)が知られている。いずれの方法も、ポリアミド樹脂と、強化材としての層状珪酸塩とガラス繊維との相互の密着性、接着性を改善して、各種機械的強度の向上を図ることを目的としているが、ポリアミド樹脂の層状珪酸塩の配合による剛性向上の効果に加え、ガラス繊維配合によるさらなる引張強度向上の効果を十分に引き出すためには、特許文献1、2による方法を用いたとしても不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−248176号公報
【特許文献2】特開2009−7483号公報
【特許文献3】特開2009−35592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガラス繊維と層状珪酸塩を併用したポリアミド樹脂組成物を用いて、曲げ弾性率を維持したまま引張強度の向上したポリアミド樹脂組成物成形体、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、層状珪酸塩および繊維状補強材で強化されたポリアミド樹脂を特定の温度に維持した金型を用いて射出成形することで、この課題が解決されることを見出し、本発明に達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
【0007】
(1)ポリアミド樹脂100質量部に対し、層状珪酸塩0.1〜20質量部、繊維状補強材1〜60質量部含有させてなるポリアミド樹脂組成物の成形体であって、引張強度が145MPa以上であり、かつ曲げ弾性率が9.0GPa以上であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体。
(2)繊維状補強材がガラス繊維、炭素繊維、金属繊維のいずれか1種以上からなることを特徴とする(1)のポリアミド樹脂組成物成形体。
(3)繊維状補強材の繊維径D(μm)と、層状珪酸塩の初期粒子径t(μm)の関係が次式を満たすことを特徴とする(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物成形体。
1<D/t<20
(4)(1)〜(3)のポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法であって、ポリアミド樹脂100質量部に対し、層状珪酸塩0.1〜20質量部、繊維状補強材1〜60質量部含有させてなるポリアミド樹脂組成物を射出成形するにあたり、金型温度をポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度未満に保持することを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明のポリアミド樹脂組成物成形体は、ポリアミド樹脂、層状珪酸塩および繊維状補強材を含有するポリアミド樹脂組成物成形体である。
【0010】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、アミノカルボン酸、ラクタムあるいはジアミンとジカルボン酸(それらの一対の塩も含まれる)を主たる原料とするアミド結合を主鎖内に有する重合体である。その原料の具体例としては、アミノカルボン酸としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等がある。またラクタムとしてはε−カプロラクタム、ω−ウンデカノラクタム、ω−ラウロラクタム等がある。ジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン等が挙げられる。またジカルボン酸としては、アジピン酸、スべリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等がある。またこれらジアミンとジカルボン酸は一対の塩として用いることもできる。
【0011】
かかるポリアミド樹脂の好ましい例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリウンデカミド(ナイロン11)、ポリカプロアミド/ポリウンデカミドコポリマー(ナイロン6/11)、ポリドデカミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリドデカミドコポリマー(ナイロン6/12)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)およびこれらの混合物ないし共重合体等が挙げられる。中でもナイロン6、ナイロン66が特に好ましい。
【0012】
本発明で用いる層状珪酸塩は、珪酸塩を主成分とする負に帯電した結晶層とその層間に介在するイオン交換能を有するカチオンとからなる構造を有するものであり、後述する方法で求めた陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g以上であることが望ましい。この陽イオン交換容量が50ミリ当量/100g未満のものでは、膨潤能が低いためにポリアミド複合材料の製造時に実質的に未劈開状態のままとなり、性能の向上が認められない。本発明においては陽イオン交換容量の値の上限に特に制限はなく、現実に調製可能な層状珪酸塩の中から適当なものを選べばよい。
【0013】
かかる層状珪酸塩としては、天然に産出するものでも人工的に合成あるいは変成されたものでもよく、例えばスメクタイト族(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、ソーコナイト等)、バーミキュライト族(バーミキュライト等)、雲母族(フッ素雲母、白雲母、パラゴナイト、金雲母、レピドライト等)、脆雲母族(マーガライト、クリントナイト、アナンダイト等)、緑泥石族(ドンバサイト、スドーアイト、クッケアイト、クリノクロア、シャモナイト、ニマイト等)が挙げられるが、本発明においてはNa型あるいはLi型膨潤性フッ素雲母やモンモリロナイトが特に好適に用いられる。
【0014】
本発明において好適に用いられる膨潤性フッ素雲母は一般的に次式(I)で示される構造式を有するものである。
α(MgLiβ)Si(I)
(式中で、Mはイオン交換性のカチオンを表し、具体的にはナトリウムやリチウムが挙げられる。また、α、β、X、YおよびZはそれぞれ係数を表し、0≦α≦1.0、0≦β≦1.0、2.5≦X≦4、10≦Y≦15、1.0≦Z≦2.0である)
このような膨潤性フッ素雲母の製造法としては、例えば酸化珪素、酸化マグネシウムおよび各種フッ化物とを混合し、その混合物を電気炉あるいはガス炉中で1400〜1500℃の温度範囲で完全に溶融し、その冷却過程で反応容器内に膨潤性フッ素雲母の結晶成長させる溶融法が挙げられる。
【0015】
一方、タルク〔MgSi10(OH)〕を出発物質として用い、これにアルカリ金属イオンをインターカレーションして膨潤性を付与し、膨潤性フッ素雲母を得る方法もある。この方法では、所定の配合比で混合したタルクと珪フッ化アルカリを、磁性ルツボ内で700〜1200℃の温度下に短時間加熱処理することによって、膨潤性フッ素雲母を得ることができる。
【0016】
この際、タルクと混合する珪フッ化アルカリの量は、混合物全体の10〜35質量%の範囲とすることが好ましい。この範囲をはずれる場合には膨潤性フッ素雲母の生成収率が低下する傾向にある。
【0017】
本発明で用いるモンモリロナイトは次式(II)で表されるもので、天然に産出するものを水ひ処理等を用いて、精製することにより得ることができる。
MaSi(Al−aMg)O10(OH)・nHO (II)
(式中で、Mはナトリウム等のカチオンを表し、0.25≦a≦0.7である。また層間のイオン交換性カチオンと結合している水分子の数はカチオン種や湿度等の条件によって様々に変わりうるので、式中ではnHOで表した)
またモンモリロナイトにはマグネシアンモンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、鉄マグネシアンモンモリロナイト等の同型イオン置換体の存在が知られており、これらを用いてもよい。
【0018】
本発明においては上記した層状珪酸塩の一次粒子径について10nm〜1000nmであることが好ましく、30nm〜500nmであることがより好ましく、50nm〜300nmであることが特に好ましい。ここで一次粒子径とは本発明において得られるポリアミド樹脂組成物中に分散した状態の粒子径である。層状珪酸塩の一次粒子径が10nm未満であると得られるポリアミド樹脂組成物の補強の効果が得られず、1000nmを超えると剛性や耐熱性を十分に向上させることができない。
【0019】
ここで、膨潤性フッ素雲母系鉱物をインターカレーション法により合成する場合には、原料であるタルクの粒子径を適切に選択することにより初期粒子径を変更することができる。ジェットミル等を用いた粉砕により、広い範囲で層状珪酸塩の初期粒子径を調節することができる。初期粒子径は、ポリアミド樹脂組成物中への分散後の一次粒子径にも関係するため、適宜調整することが好ましい。
【0020】
本発明で用いる繊維状補強材としては、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維などが挙げられる。これらの繊維状補強材は二種以上組み合わせて用いてもよい。特に、性能や入手しやすさからガラス繊維、炭素繊維および金属繊維が好適に用いられる。
【0021】
ガラス繊維、炭素繊維を用いる場合、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。また、シランカップリング剤は、集束剤に分散され、ガラス繊維を束ねるための集束剤として表面処理されていてもよい。シランカップリング剤としては、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系などが挙げられるが、
ポリアミド樹脂とガラス繊維との密着効果を得やすい点で、アミノシラン系カップリング剤が特に好ましい。
【0022】
繊維状補強材の繊維長は、0.1〜7mmのものが好ましく、0.5〜6mmのものがさらに好ましい。繊維状補強材の繊維長が0.1mm未満であると、補強効果に劣る場合があり、一方、7mmを超えると、成形性に悪影響を及ぼす場合がある。また、繊維径は3〜20μmのものが好ましく、5〜13μmのものがさらに好ましい。繊維径が3μm未満であると、溶融混練時に折損しやすく、一方、20μmを超えると、補強効果に劣る場合がある。また、繊維状補強材の断面形状は、丸形状、長方形、それ以外の異形断面であってもよい。
【0023】
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂100質量部に対し、層状珪酸塩0.1〜20質量部、繊維状補強材1〜60質量部含有させることが好ましい。層状珪酸塩の配合量0.1質量部未満では、機械強度の向上が少なく、配合量が20質量部を超える場合には、引張強度に対する補強効率が低下するので好ましくない。繊維状補強材の配合量が1質量部未満では、機械強度の向上が少なく、60質量部を超える場合には、引張強度に対する補強効率が低下するので好ましくない。
【0024】
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物の製造方法は、層状珪酸塩を含むポリアミド樹脂を予め作製し、それに繊維状補強材を配合してもよく、またポリアミド樹脂に層状珪酸塩と繊維状補強材を同時に混合してもよい。
【0025】
層状珪酸塩を含むポリアミド樹脂を製造する方法としては、ポリアミドを形成するモノマーに対して、層状珪酸塩を所定量存在させた状態でモノマ−を重合することができる。この場合には層状珪酸塩がポリアミド中に十分細かく分散し、層状珪酸塩によるポリアミド樹脂の補強効果が十分となる。
【0026】
また、予め膨潤化剤で処理した層状珪酸塩をポリアミド樹脂に溶融混練によって配合することもできる。
【0027】
繊維状補強材の配合方法は、その補強効果が損なわれなければ特に制限はないが、二軸混練機を用いた溶融混練が好適に用いられる。混練温度はポリアミド樹脂の融点以上、ポリアミド樹脂の(融点+100℃未満)の範囲が好ましい。混練温度がそれ以下では混練機が過負荷となり、ベントアップなどの不具合が生じる場合がある。また混練温度が高すぎると、ポリアミド樹脂の分解、黄変が起こる場合がある。得られたポリアミド樹脂組成物の採取方法は特に限定されるものではないが、その後の成形を考慮すると、ストランドを作製し、ペレット化することが好ましい。
【0028】
各成分の供給方法は、層状珪酸塩を含むポリアミド樹脂、もしくはポリアミド樹脂と膨潤化剤で処理した層状珪酸塩をドライブレンドし、またはそれぞれを個別のフィーダーを用いて基部から投入し、繊維状補強材を混練機の途中からサイドフィードすることが好ましい。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物成形体を製造方法では、射出成形法を用いて成形加工することができる。射出成形機としては、特に限定されるものではないが、たとえばスクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機などが挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミドの融点+100℃未満の温度に設定し、ポリアミド樹脂組成物を加熱溶融することができる。なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いるポリアミド樹脂組成物ペレットは十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量%中、好ましくは0.3質量%未満、より好ましくは0.1質量%未満である。
【0030】
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物を射出成形する場合、金型温度はポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度未満に保持する必要があり、(ガラス転移温度−30℃未満)であることが好ましく、(ガラス転移温度−50℃未満)であることがより好ましい。金型温度がポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度を超えると、ポリアミド樹脂の層状珪酸塩の配合による剛性向上の効果に加え、繊維状補強材配合によるさらなる引張強度向上の効果を十分に引き出すことができない。なお、金型温度とは、金型分割表面の実温であり、この部位が上記温度範囲内になるよう、金型温度調節機を用いて調節する。必要に応じて、金型内に冷媒を循環してもよい。
【0031】
この原因は明確ではないが、以下のように考えられる。
金型温度がポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度を超える場合、射出成形により加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、金型内で徐々に冷却される。この場合、ポリアミド樹脂組成物の結晶化が進行する。該ポリアミド樹脂組成物にはナノレベルに分散した層状珪酸塩が含まれており、この層状珪酸塩が結晶核剤となってポリアミド樹脂組成物の結晶化を促進させる。この時、繊維状補強材の表面付近では層状珪酸塩が繊維状補強材表面に沿って配向しており、それによってポリアミド樹脂が繊維状補強材の表面から遠ざかるように結晶化による体積収縮を起こす。これによりポリアミド樹脂と繊維状補強材との界面接着強度が低下する。よって、金型温度がポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度を超えると、得られる成形体の引張強度は十分に高くならない。
【0032】
本発明のポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法によると、金型温度はポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度未満に保持されているため、上記結晶化による体積収縮は緩和され、得られる成形体の引張強度を十分に高めることができる。
【0033】
本発明のポリアミド樹脂組成物成形体は、引張強度が145MPa以上であり、かつ曲げ弾性率が9.0GPa以上であることが必要である。好ましくは、引張強度が140MPa以上であり、かつ曲げ弾性率8.5GPa以上であり、より好ましくは、引張強度が135MPa以上であり、かつ曲げ弾性率8.0GPa以上である。このような引張強度、曲げ弾性率を有することで、本発明のポリアミド樹脂組成物成形体は、高度な機械的特性が要求される用途での使用が可能になる。
【0034】
ここで、繊維状補強材の繊維径D(μm)と層状珪酸塩の初期粒子径t(μm)の関係は次式(III)を満たすことが好ましい。
1<D/t<20 (III)
このような関係を満たすことで、ポリアミド樹脂の層状珪酸塩の配合による引張強度と剛性向上の効果に加え、得られる成形体の表面外観が良好になるという効果がある。成形体の表面外観については、ポリアミド樹脂組成物中に分散する繊維状補強材周辺のポリアミド樹脂が体積収縮を起こすことで、繊維状補強材が成形体表面に浮き出て見えることで表面外観が低下する。ここで上記式を満たすことで、ポリアミド樹脂組成物中の繊維状補強材周辺に分散する層状珪酸塩が適度にポリアミド樹脂の体積収縮を抑制し、また同時にポリアミド樹脂と繊維状補強材との界面接着強度の低下も抑制する。D/tが1未満であると、ポリアミド樹脂組成物中に分散する層状珪酸塩の一次粒子径は大きくなる傾向にあり、補強効果が劣るばかりかポリアミド樹脂の体積収縮により、層状珪酸塩、繊維状補強材ともに成形体表面に浮き出て見えるため表面外観が低下し、D/tが20を超えると、ポリアミド樹脂の体積収縮が大きく、ポリアミド樹脂と繊維状補強材との界面接着強度が低下する。
【0035】
本発明で用いるポリアミド樹脂組成物を射出成形する場合、射出速度、射出圧力、保圧は十分な成形体が得られれば特に制限されるものではない。また金型保持時間に関しても、ポリアミド樹脂組成物からなる成形体が十分固化し、変形なく離型できれば特に限定されるものではない。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物成形体は、ポリアミド樹脂の層状珪酸塩の配合による剛性向上の効果に加え、繊維状補強材配合によるさらなる引張強度向上の効果を十分に引き出すことができるため、従来より用いられた、自動車部品、電気・電子部品、雑貨用途だけでなく、本発明の製造方法で得られるポリアミド樹脂組成物成形体の、高度な剛性と引張強度特性を生かした用途での使用が可能である。具体的には、自動車のトランスミッション周りの部品として、シフトレバー、ギアボックス等の台座に用いるベースプレート、エンジン周りの部品として、シリンダーヘッドカバー、エンジンマウント、エアインテークマニホールド、スロットルボディ、エアインテークパイプ、ラジエータタンク、ラジエータサポート、ラジエータホース、ウォーターポンプレンレット、ウォーターポンプアウトレット、サーモスタットハウジング、クーリングファン、ファンシュラウド、オイルパン、オイルフィルターハウジング、オイルフィルターキャップ、オイルレベルゲージ、タイミングベルトカバー、エンジンカバー等、ランプ周りの部品として、ランプリフレクタ、ランプハウジング、ランプエクステンション、ランプソケット等に好適に用いられる。また、電気・電子部品としては、コネクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、抵抗器、ICやLEDのハウジング等が挙げられる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に制限されるものではない。なお、実施例および比較例にでの評価方法、用いた原料は次の通りである。
【0038】
1.評価方法
(1)ガラス転移温度
パーキンエルマー社製示差走査型熱量計Diamond DSCを用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜280℃、昇温速度10℃/分で測定した。
(2)引張強度
ISO527−1に準拠して測定した。
(3)曲げ弾性率
ISO178に準拠して測定した。
(4)表面外観
50×90×2mmの板状成形体を用いて、村上色彩技術研究所社製グロスメータGM−3Gにて20度入射における光沢度を測定した。光沢度の数値が大きいほど光沢度が高いことを示し、以下のように判断した。
光沢度60%以上 : ◎
光沢度40〜60% : ○
光沢度40%未満 : ×
【0039】
2.原料
(1)層状珪酸塩
・M−1:膨潤性フッ素雲母(平均粒径4.0μm)
ボールミルにより平均粒子径が4.0μmとなるように粉砕したタルクに対し、平均粒子径が10μmの珪フッ化ナトリウムを全量の15質量%となるように混合した。これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより、陽イオン交換容量110meq/100gの膨潤性フッ素雲母(M−1)を得た。
・M−2:膨潤性フッ素雲母(平均粒径2.8μm)
ボールミルにより平均粒子径が2.0μmとなるように粉砕したタルクに対し、平均粒子径が2μmの珪フッ化ナトリウムを全量の20質量%となるように混合した。これを磁性ルツボに入れ、電気炉にて850℃で1時間反応させることにより、陽イオン交換容量110meq/100gの膨潤性フッ素雲母(M−2)を得た。
・M−3:合成スメクタイト
コープケミカル社製ルーセンタイトSWN、平均粒径40μm、陽イオン交換容量65meq/100g
・M−4:モンモリロナイト
クニミネ社製クニピアF、平均粒径20μm、陽イオン交換容量115meq/100g
・M−5:ヘクトライト
Elementis Specialities社製BentoneHC、平均粒径75μm、陽イオン交換量:90meq/100g
(2)繊維状補強材
・F−1:ガラス繊維
オーウェンスコーニング社製MAFT692、繊維長3mm、繊維径13μm
・F−2:炭素繊維
三菱レイヨン社製TR06NEB4J、繊維長6mm、繊維径7μm
・F−3:金属繊維
SUS304製、繊維長400μm、繊維径10μm
【0040】
製造例1
膨潤性フッ素雲母(M−1)400gと、ε-カプロラクタム1kgおよび水1kgとを混合して得た溶液中に加え、室温下、ホモミキサーを用いて1.5時間攪拌した。この膨潤性フッ素雲母分散液の全量を、予めε-カプロラクタム9kgおよび85質量%リン酸水溶液50.7g(0.44モル)中に仕込み、これらを95℃で溶融させておいた内容積30リットルのオートクレーブに投入し、撹拌しながら260℃に加熱し、圧力0.7MPaまで昇圧した。その後、徐々に水蒸気を放出しつつ温度260℃、圧力0.7MPaを1時間維持し、さらに1時間かけて常圧まで放圧し、窒素気流下、さらに30分間重合した。
重合が終了した時点で、上記反応生成物をストランド状に払い出し、冷却、固化後、切断してポリアミド樹脂ペレットを得た。次いでこのポリアミド樹脂ペレットを95℃の熱水で8時間精錬した後、乾燥した。
次いで、二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、ポリアミド樹脂ペレット2.1kgとガラス繊維(F−1)0.9kgを、バレル温度250〜270℃、スクリュー回転数200rpm、吐出20kg/hの条件で、ベントを用いながら溶融混練した。ダイより吐出された溶融樹脂をストランド状に引き取り、冷却水で満たしたバットを通過させて冷却固化した後、ペレット状にカッティングしてポリアミド樹脂組成物(P−1)を得た。ポリアミド樹脂組成物(P−1)中、珪酸塩層の含有量は4.4質量部、ガラス繊維の含有量は43質量部、また、ポリアミド樹脂組成物(P−1)のガラス転移温度は45℃であった。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
製造例2〜10
製造例1で用いた層状珪酸塩、繊維状補強材を、表1に記載の層状珪酸塩、繊維状強化材に置き換えるほかは、製造例1と同様の操作を行って、ポリアミド樹脂組成物(P−2)〜(P−10)を得た。その結果を表1に示す。
【0043】
実施例1
ポリアミド樹脂組成物(P−1)を、東芝機械社製射出成形機EC−100を用いて樹脂温度250〜270℃、射出速度100mm/s、保圧15s、冷却時間15秒の条件で射出成形を行い、試験片を得た。なお、金型として、HRC硬度55のSKD−11製金型を用い、金型表面温度0℃となるよう十分に冷却した後、射出成形を行った。評価用試験片を用いて、引張強度、曲げ弾性率の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例2〜10
表2に記載のポリアミド樹脂組成物、金型温度としたほかは、実施例1と同様の操作を行って試験片を得た後、引張強度、曲げ弾性率の測定を行った。なお、実施例8では、樹脂温度270〜290℃とした。その結果を表2に示す。
【0046】
比較例1〜5
表2に記載のポリアミド樹脂組成物、金型温度としたほかは、実施例1と同様の操作を行って試験片を得た後、引張強度、曲げ弾性率の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0047】
表1から明らかなように、実施例1〜4ではすべて引張強度と曲げ弾性率が高く、強度と剛性を両立させたポリアミド樹脂組成物であった。また、金型温度20℃で成形を行った群での対比において、所定のD/tである実施例2、4、8〜10は、D/tが1未満である実施例5〜7に比べ、表面外観に優れた。
【0048】
比較例1および2では金型温度が各ポリアミド樹脂のガラス転移点以上であったために引張強度が劣る結果となった。
比較例3および4では層状珪酸塩を含まないポリアミド樹脂を用いたために、曲げ弾性率が劣り、剛性の不十分なポリアミド樹脂組成物となった。
比較例4と比較例5を比べると、層状珪酸塩を含まないポリアミド樹脂組成物に関しては金型温度が高い比較例5の方が剛性の高い成形体が得られている。これは主にマトリックスとなるポリアミド樹脂の結晶化が促進されたことに起因していると考えられる。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂100質量部に対し、層状珪酸塩0.1〜20質量部、繊維状補強材1〜60質量部含有させてなるポリアミド樹脂組成物の成形体であって、引張強度が145MPa以上であり、かつ曲げ弾性率が9.0GPa以上であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体。
【請求項2】
繊維状補強材がガラス繊維、炭素繊維、金属繊維のいずれか1種以上からなることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物成形体。
【請求項3】
繊維状補強材の繊維径D(μm)と、層状珪酸塩の初期粒子径t(μm)の関係が次式を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物成形体。
1<D/t<20
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法であって、ポリアミド樹脂100質量部に対し、層状珪酸塩0.1〜20質量部、繊維状補強材1〜60質量部含有させてなるポリアミド樹脂組成物を射出成形するにあたり、金型温度をポリアミド樹脂組成物のガラス転移温度未満に保持することを特徴とするポリアミド樹脂組成物成形体の製造方法。



















【公開番号】特開2012−67166(P2012−67166A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212154(P2010−212154)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】