説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】ガスバリア性および熱安定性に優れ、かつゲル又はフィッシュアイ低減が達成されたポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンと、ジカルボン酸とを重縮合して得られたポリアミドとアルカリ化合物(A)を含むポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物中のアルカリ土類金属濃度の2倍とアルカリ金属濃度の和が9〜30μmol/gであり、かつ不活性ガス雰囲気下、290℃にて180分加熱したポリアミドの重量減少率が1%以下であるポリアミド樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドに関する。詳しくは、熱安定性が高くゲル又はフィッシュアイ生成の少ないポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー主鎖にメタキシリレン基を含有するポリアミドは剛性が高く、成形材料として広く利用されている他、酸素や炭酸ガス等を遮断する性能にも優れており、ボトル、シート、フィルム等の様々な包装材料のガスバリア材としても利用されている。特に、ボトル、シート、フィルム及び繊維等の用途に用いられるポリアミドでは、成形材料用途に用いられるポリアミド以上に異物の混入に対して注意が払われる。これは成形加工品が透明であったり、薄かったりする事、高度で微妙な成形加工技術を必要とする事、異物が成形加工品の機能を損なう恐れが非常に高い事等に起因し、異物の混入により外観不良、異物発生部位に起因した破断等の欠陥発生率の増加と生産性の低下を招く。ポリアミド由来の異物としては、ファインと呼ばれる粉体、フロスと呼ばれる薄膜、熱劣化を受けた黄変物・炭化物、そして、ゲル又はフィッシュアイと呼ばれるゲル状物、等が上げられる。これら異物は生成を防ぐことが一番の対策であるが、やむを得ず生成した場合、ペレット製品から分離除去する必要がある。粉体および薄膜は一般には風選で除かれ、黄変物・炭化物は光学センサーを用いた選別機で除くことができ、様々な分離機器が市販されており、確実な除去効果が期待できる。
【0003】
ゲル又はフィッシュアイは、重合中および成形加工中に分子が熱劣化による損傷を受け、非直鎖の分子成長等の異常反応(三次元ポリマー化など)が起こり、他のポリアミド分子に比べ極端に高分子量化したものと想定される。このため、ゲル又はフィッシュアイの少ないポリアミドを得るため、製造工程において熱履歴を極力少なくする必要があり、また熱安定剤あるいは酸化防止剤を添加する等の工夫がなされる。しかし、これら添加剤の中にはアミド化反応に対し触媒効果を示すものがあり、逆に過剰に重合反応が進行しゲル又はフィッシュアイの増加を招く場合もある。その為、一般的にはさらに反応抑制効果を持つアルカリ化合物を特定量添加することで、反応の促進と抑制のバランスを保ちつつ重合が行われる。
【0004】
溶融重合工程で生成したゲル又はフィッシュアイは、フィルター等で除去することが可能であるが、ゲルは流圧によって微粒化しフィルターを通過してしまう事も多々あり、また高粘度品の製造時に実施する固相重合の際にもゲルは生成する可能性がある為、これらを完全に除去することは不可能に等しい。
【0005】
更にゲル又はフィッシュアイはポリアミドの製造中に生成する以外に、成形加工する際の溶融時においても生成する。ポリアミド製造後の品質評価において、ゲル又はフィッシュアイの生成量に顕著な差が認められないポリアミドを使用しても、成形加工した際に差が現れる場合があり、この原因には、製造後には観測されない様な僅かなポリアミド分子の損傷の差、あるいは異常反応の発生頻度の差が成形加工の際に、スクリュー溝、フィルターあるいはダイ等の滞留部分で一部のポリマーに過剰な熱履歴がかかり増幅されるためと推定される。そのことから、最終的にゲル又はフィッシュアイの少ない成形加工品を得るためには、更にゲルの少ない高品位なポリアミドの製造、滞留部分の極めて少ない成形加工装置の設計が重要である。しかし更にゲルの少ないポリアミドを製造するには、溶融重合時並びに固相重合時においても、製造時の熱履歴の抑制、効果的な安定剤の添加や量のバランス設定、生成したゲル又はフィシュアイの除去が必要であるが、如何なる対応においても、その効果には限界がある。また成形加工装置の設計は、例えば樹脂の接触する金属部位にメッキ処理を施すことによりゲル生成を減らすことが可能であるが、滞留部位の完全に撤廃することは装置の構成上難しく、また各々の成形装置に設備を施す必要があり、汎用性やコスト面で見て実現性に欠ける。特に本発明のキシリレンジアミンを主体とするジアミン成分から成るポリアミドでは、キシリレンジアミンのベンジルメチレン部位がラジカル生成しやすく、熱安定性が低い為、ゲルの発生はなお問題となっている。
【0006】
特許文献1においては、該ポリアミドを成形加工する際に、滑剤、有機リン系安定剤、ヒンダードフェノール類化合物、ヒンダードアミン類化合物から選ばれた少なくとも1種類以上を0.0005〜0.5重量部添加することによりゲル又はフィッシュアイの生成を抑制する方法が提案されている。しかし記載される実施結果に要した添加剤のフィッシュアイ低減の優位性は、実用面から見ると乏しく、また夫々の添加剤を加える具体的なゲル生成抑制の根拠については殆ど言及されておらず、効果自体が不明瞭である。
【0007】
特許文献2では、ポリアミドの滑性を向上させて成形加工時に剪断熱の発生を回避させる為、脂肪酸金属塩および多価アルコール化合物を0.001〜0.015重量部添加することにより、成形加工時のフィッシュアイ生成を抑制する方法が提案されている。ただし、ポリアミドの化学的性質に着目し、熱劣化を抑制することについては一切記載が無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−164109号公報
【特許文献2】特許第3808847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ポリアミドの熱安定性を向上し、ゲル又はフィッシュアイの生成が少ない射出成形材料、フィルム・シート等の包装材料、および繊維用材料として工業的に有用なポリアミドを提供することにある。
【0010】
本発明はガスバリア性に優れ、かつ熱安定性の向上したポリアミド樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
アルカリ化合物は、前記のように、重合時に添加されるリン系化合物の中和剤として使用されている。しかしながら、リン系化合物とのバランスの観点から、ポリアミドの重合時における使用量は制限されている。この点につき、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、ポリアミドの重合後、成形加工時にアルカリ化合物を添加して高濃度化することで、成形加工時におけるゲルの生成を抑制することができ、ポリアミドの溶融滞留状態が長期間続いても、生成するゲル量が少なく、かつ得られた成形品はゲルや着色の少ない外観の良好なものとなることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされるに至ったものである。
【0012】
すなわち本発明は、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンと、ジカルボン酸とを重縮合して得られたポリアミドとアルカリ化合物(A)を含むポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物中のアルカリ土類金属濃度の2倍とアルカリ金属濃度の和が9〜30μmol/gであり、かつ不活性ガス雰囲気下、290℃にて180分加熱した該ポリアミドの重量減少率が1%以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、色調が良好で、かつ成形加工時にもゲル又はフィッシュアイ生成が少なく、成形材料、各種包装材料および繊維材料に利用できる非常に有用なものであり、その工業的価値は非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミドは、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンと、ジカルボン酸を重縮合して得られたポリアミド(以下、「ポリアミド(X)」と称す)である。
【0015】
ポリアミド(X)を構成するジアミンは、メタキシリレンジアミンが70モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。ジアミン中のメタキシリレンジアミンが70モル%以上であると、それから得られるポリアミドは優れたガスバリア性を発現することができる。メタキシリレンジアミン以外に使用できるジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2−メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチル−ヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環族ジアミン;ビス(4−アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、パラキシリレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
ポリアミド(X)を構成するジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸等が例示できるが、これらに限定されるものではない。該ジカルボン酸は、アジピン酸が70モル%以上含まれることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。アジピン酸が70モル%以上であると、ガスバリア性の低下や結晶性の過度の低下を避けることができる。アジピン酸以外に使用できるジカルボン酸としては、炭素数4〜20のα,ω−直鎖状脂肪族ジカルボン酸のうち1種以上が好ましく使用される。
【0017】
前記のジアミン、ジカルボン酸以外にも、ポリアミド(X)を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲でε−カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸、等の脂肪族アミノカルボン酸類;パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸も共重合成分として使用できる。
【0018】
ポリアミド(X)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法、重合条件により製造される。ポリアミド(X)の重縮合時に分子量調節剤として少量のモノアミン、モノカルボン酸を加えてもよい。例えば、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からなるナイロン塩を水の存在下に、加圧状態で昇温し、加えた水および縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法により製造される。また、メタキシリレンジアミンを溶融状態のアジピン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によっても製造される。この場合、反応系を均一な液状状態で保つために、メタキシリレンジアミンをアジピン酸に連続的に加え、その間、反応温度が生成するオリゴアミドおよびポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合が進められる。
【0019】
また、ポリアミド(X)は、溶融重合法により製造された後に、固相重合を行うことによって重縮合を行っても良い。ポリアミド(X)の製造方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法、重合条件により製造される。
【0020】
ポリアミド(X)は、数平均分子量が10000〜50000の範囲内のものが好ましく用いられる。なお、数平均分子量については、本発明のポリアミド樹脂組成物の用途や成形方法により適宜選択される。例えば、フィルム等、製造時にある程度の流動性が求められる場合には数平均分子量が20000〜30000程度のものが、シート等、製造時に溶融強度が必要とされる場合には30000〜45000程度のものが選択されるが、これに限定されるものではない。
【0021】
ポリアミド(X)の数平均分子量については、下式(1)から算出される。
数平均分子量=2×1000000/([COOH]+[NH])・・・・・(1)
(式中、[COOH]はポリアミド(X)中の末端カルボキシル基濃度(μmol/g)を表し、[NH]はポリアミド中の末端アミノ基濃度(μmol/g)を表す。)
本発明では、末端アミノ基濃度は、ポリアミドをフェノール/エタノール混合溶液に溶解したものを希塩酸水溶液で中和滴定して算出した値を用い、末端カルボキシル基濃度は、ポリアミドをベンジルアルコールに溶解したものを水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定して算出した値を用いる。
【0022】
ポリアミド(X)の製造時には、溶融成形時の加工安定性を高める観点及びポリアミドの着色を防止する観点からリン原子含有化合物(B)が使用される。そのため、本発明のポリアミド樹脂組成物中には、リン成分が含まれている。
リン原子含有化合物(B)の好ましい具体例としては、次亜リン酸化合物(ホスフィン酸化合物又は亜ホスホン酸化合物ともいう)や亜リン酸化合物(ホスホン酸化合物ともいう)等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。リン原子含有化合物(B)は金属塩であってもよく、アルカリ金属塩であってもよい。
リン原子含有化合物(B)としては、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、次亜リン酸、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸エチル、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム、フェニル亜ホスホン酸エチル、フェニルホスホン酸、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム、フェニルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等が挙げられる。
【0023】
リン原子含有化合物(B)の添加量は、ポリアミド(X)中のリン原子濃度換算で1〜400ppmであることが好ましく、より好ましくは2〜350ppmであり、さらに好ましくは3〜300ppmである。1ppmを下回る場合、重合中に着色やゲルが発生する傾向にあり好ましくない。また400ppmを超える場合、ポリアミドのゲル化反応が促進したり、リン原子含有化合物(B)の熱劣化物に起因すると考えられるフィルターの目詰まりや、フィッシュアイが成形品中に混入する場合があり、成形品の外観が悪化する傾向があるため好ましくない。
【0024】
また、ポリアミド(X)の重縮合系内には、リン原子含有化合物(B)と併用してアルカリ金属化合物(C)を添加することが好ましい。重縮合中のポリアミド(X)の着色を防止するためにはリン原子含有化合物(B)を十分な量存在させる必要があるが、場合によっては上述のようにポリアミド(X)のゲル化を招く恐れがあるため、アミド化反応速度を調整するためにもアルカリ金属化合物(C)を共存させることが好ましい。アルカリ金属化合物(C)としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩が好ましい。本発明で用いることのできるアルカリ金属化合物(C)としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウム等が挙げられるが、これらの化合物に限定されることなく用いることができる。
【0025】
重縮合系内にてアルカリ金属化合物(C)を添加する場合、該化合物のモル数をリン原子含有化合物(B)のモル数で除した値が0.5〜1となるようにすることが好ましく、より好ましくは0.55〜0.95であり、さらに好ましくは0.6〜0.9である。この値が0.5を下回る場合、リン原子含有化合物(B)のアミド化反応促進効果を抑制する効果が不足することがあり、場合によってはポリアミド(X)中のゲルが多くなることがある。また1を超えるとリン原子含有化合物(B)のアミド化反応促進効果を抑制しすぎて、重縮合の進行が遅くなり、場合によってはポリアミド(X)製造時の熱履歴が増加してゲルが多くなることがあるので好ましくない。
【0026】
ポリアミド(X)をそのまま成形加工して得られる成形品は、成形開始後は性状および外観の優れたものであるが、長時間の成形加工作業とともにゲル又はフィッシュアイが増加し、製品の品質が不安定となる場合や、フィルム等は破断により装置を停止せざるを得なくなり、生産効率が悪化する。これは溶融混練部からダイス間において、ポリアミドが局所的に滞留し続けることにより、過剰加熱されてゲル化し、かつ生成したゲルが流れ出すために起こると推測される。
【0027】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形加工時に生じるポリアミドのゲル化を防止するために、ポリアミド(X)にアルカリ化合物(A)を混合したものである。アルカリ化合物(A)は、リン原子含有化合物(B)、アルカリ金属化合物(C)およびアルカリ化合物(A)に由来するアルカリ土類金属濃度の2倍とアルカリ金属濃度の和が9μmol/gから30μmol/gとなるように混合することが好ましい。ポリアミド樹脂組成物中に9μmol/g以上存在すると、ポリアミド(X)の熱による変性が遅延し、最終的な変性物と考えられるゲルの生成を抑制すると推測される。濃度が9μmol/gを下回る場合、ポリアミドの熱劣化の抑制効果が不足し、ゲル化を防止できない場合がある。また30μmol/gを超えると、場合によっては着色や白化することがあるため好ましくない。
【0028】
特に本発明ではアルカリ化合物(A)として、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、カルボン酸無水塩、カルボン酸含水塩が好ましく用いられる。水酸化アルカリ金属は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられ、さらにこれらの無水塩、含水塩が使用できる。カルボン酸無水塩やカルボン酸含水塩としては、例えば蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、エイコ酸、ベヘン酸、モンタン酸、トリアコンタン酸などの直鎖飽和脂肪酸;12−ヒドロキシステアリン酸などの脂肪酸誘導体;シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、イソクエン酸、メバロン酸等のヒドロキシ酸;安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、ピロメット酸、トリメリット酸、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族カルボン酸等が挙げられ、さらにカルボン酸と塩を形成する金属としてはナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、ストロンチウム、亜鉛等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。本発明に用いられるアルカリ化合物(A)は、上記のうち1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。特にこの中でも酢酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムにおいて、安価かつゲル抑制効果が高いため好ましい。
【0029】
アルカリ化合物(A)は、ポリアミド(X)を製造する際に添加可能なアルカリ金属化合物(C)と同じ化合物も例示されるが、アルカリ金属化合物(C)を溶融重合時に過剰に添加すると、リン原子含有化合物(B)のアミド化反応促進効果を抑制しすぎて、重縮合の進行が遅くなり、場合によってはポリアミド製造(X)時の熱履歴が増加して、逆にポリアミドのゲルが多くなる。その為、ポリアミド(X)をモノマーからする際に添加するアルカリ金属化合物(C)を増量させることでは、成形加工の際に効果的にゲル生成を防止する役割を果たすことができず、溶融重合時後にアルカリ化合物(A)を添加することが最も好ましい。
【0030】
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法は、ポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)を押出機により溶融混練する工程を含む製造方法であることが好ましい。リン原子含有化合物(B)とアルカリ金属化合物(C)のモルバランス保持を必要としない場合、即ち溶融重合時以降においてアルカリ化合物(A)を溶融混練して得ることが出来れば良い。例えば、予めポリアミド(X)を高濃度のアルカリ化合物(A)と共に押出機等を用いて溶融混練してペレットとした後、該高濃度ポリアミドを無添加ポリアミド(X)とブレンドして成形加工に供しても良く、あるいは、該高濃度ポリアミドを無添加ポリアミド(X)とブレンドして固相重合させた後、そのまま成形加工に供しても良く、あるいは、直接成形加工時にポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)を混練しても良いが、これらの方法に限られるものではない。
【0031】
溶融混練するための装置としては、バッチ式混練機、ニーダー、コニーダー、プラネタリ押出機、単軸もしくは二軸押出機等、公知の種々の押出機が挙げられるが、これらのなかでも混練能力や、生産性に優れる点から単軸押出機や二軸押出機が好ましく用いられる。
【0032】
押出機に、ポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)を供給するには、ベルトフィーダー、スクリューフィーダー、振動フィーダー等を用いることができるが、これらの方法に限られるものではない。また、ポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)は、それぞれ単独のフィーダーを用いて供給しても良く、ドライブレンドして供給しても良い。また、アルカリ化合物(A)は、樹脂組成物中に均一に分散できるのであればその形状に制限はなく、そのまま添加してもよく、加熱し融解させてから添加してもよく、溶剤に溶解してから添加してもよい。粉体をそのまま添加する場合、その粒径は、好ましくは0.01mm〜5.0mm、より好ましくは0.02〜3.0mmである。アルカリ化合物(A)を溶剤に溶解してから添加する場合、押出機に液添加用のフィーダー等の装置を用いて添加することや、タンブラー等で予めブレンドすることもできる。溶剤としては、水や任意の有機溶剤を使用することができる。また、ドライブレンド後のポリアミド(X)とアルカリ化合物(A)との分離を防止するために、粘性のある液体を展着剤としてポリアミド(X)に付着させた後、アルカリ化合物(A)を添加、混合してもよい。展着剤としては特に限定されず、界面活性剤等を用いることができる。
【0033】
本発明ではポリアミド樹脂組成物のゲル生成の抑制効果を、成形時にポリアミド(X)の曝される状態を想定して、高圧化、溶融状態にて一定時間かつ一定温度で加熱したポリアミドのゲル化割合を比較することで評価した。ゲル化割合は、加熱した樹脂をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)中に24時間浸漬すると、ゲル化していない樹脂は該時間以内に完全に溶解するのに対し、ゲル化した樹脂は該時間浸漬後でも膨潤状態に留まって不溶成分として残るので、該不溶成分からゲル化分率を算出し評価を行った。本発明においてゲル化分率とは、上記不溶成分をメンブレンフィルターにて減圧濾過した結果得られる残渣重量に対し、HFIP浸漬前に予め秤量した樹脂重量を分母として除し、百分率で求めた値を言う。ゲル化分率が、成形加工時に添加剤を添加しないポリアミドを用いて求めた値を下回ると、成形加工時においてゲル又はフィッシュアイ生成量を減少させることができる。本発明においてゲル化分率は15%以下であることが好ましく、より好ましくは13%以下、さらに好ましくは10%以下である。
【0034】
また本発明では、さらにポリアミド樹脂組成物の熱安定性の評価を、アルゴンガス雰囲気下、溶融状態にて一定時間かつ一定温度にて過熱した際の重量減少量を比較することで評価した。ポリアミドは加熱が進むと更なる重縮合が進行して水が発生する他、熱により劣化も進行し、二酸化炭素、アンモニア等のポリアミド鎖の分解に由来するガスが経時的に発生するため、重量減少量の比較で熱安定性の評価が可能となる。本発明において最適な条件を調査した結果、180分/290℃での重量減少量が、添加剤を添加しないポリアミドを用いて求めた値を下回ると、ゲル化分率を減少させることを見出した。本発明おいて特に重量減少量は1.0%以下であることが好ましく、より好ましくは0.95%以下、さらに好ましくは0.9%以下である。
【0035】
また、本発明のポリアミド樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン66,6、ポリエステル、ポリオレフィン、フェノキシ樹脂等の他樹脂を一種もしくは複数ブレンドできる。また、ガラス繊維、炭素繊維などの無機充填剤;ガラスフレーク、タルク、カオリン、マイカ、モンモリロナイト、有機化クレイなどの板状無機充填剤、各種エラストマー類などの耐衝撃性改質材、結晶核剤; 脂肪酸アミド系、脂肪酸アマイド系化合物等の滑剤;銅化合物、有機もしくは無機ハロゲン系化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、ヒドラジン系、硫黄系化合物、リン系化合物等の酸化防止剤;着色防止剤、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、離型剤、可塑剤、着色剤、難燃剤などの添加剤、酸素捕捉能を付与する化合物であるコバルト金属、ベンゾキノン類、アントラキノン類、ナフトキノン類を含む化合物等の添加剤を添加することができる。
【0036】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ガスバリア性や透明性に優れ、かつ安定した溶融特性を有する。本発明のポリアミド樹脂組成物は、該樹脂組成物を少なくとも一部に利用して成形品とすることで、シート、フィルム、射出成形ボトル、ブローボトル、射出成形カップ等、種々の包装材料あるいは包装容器とすることができる。これらの包装材料あるいは包装容器の製造方法について特に制限は無く、公知の技術を使用することができる。例えばTダイを備えた押出法や、インフレーションフィルム製法等を用いてフィルムやシートに加工でき、さらに得られた原反フィルムは延伸加工により、延伸フィルム、熱収縮フィルムを得ることができる。また、射出成形法により射出成形カップ、ブロー成形法によりブローボトルとすることができ、また射出成形によりプリフォームを製造した後、ブロー成形によりボトルとすることができる。また、押出ラミネートや、共押出などの方法を用いて他の樹脂、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン6、PETや金属箔、紙等との多層構造のフィルム、シートに加工することができる。加工したフィルムやシートはさらにラップ、あるいは各種形状のパウチ、容器の蓋材、ボトル、カップ、トレイ、チューブ等の包装容器に利用できる。本発明のポリアミド樹脂組成物を利用して得られた包装容器は、ガスバリア性に優れ、かつ透明性に優れたものであり、例えば、炭酸飲料、ジュース、水、牛乳、日本酒、ウイスキー、焼酎、コーヒー、茶、ゼリー飲料、健康飲料等の液体飲料、調味液、ソース、醤油、ドレッシング、液体だし、マヨネーズ、味噌、すり下ろし香辛料等の調味料、ジャム、クリーム、チョコレートペースト等のペースト状食品、液体スープ、煮物、漬物、シチュー等の液体加工食品に代表される液体系食品やそば、うどん、ラーメン等の生麺及びゆで麺、精米、調湿米、無洗米等の調理前の米類や調理された炊飯米、五目飯、赤飯、米粥等の加工米製品類等に代表される高水分食品; 粉末スープ、だしの素等の粉末調味料、乾燥野菜、コーヒー豆、コーヒー粉、お茶、穀物を原料としたお菓子等に代表される低水分食品; その他農薬や殺虫剤等の固体状や溶液状の化学薬品、液体及びペースト状の医薬品、化粧水、化粧クリーム、化粧乳液、整髪料、染毛剤、シャンプー、石鹸、洗剤等、種々の物品を収納することができる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、ガソリンバリア材料として自動車、バイクなどのガソリンタンク、ホース用材料とすることもできる。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、モノフィラメント等の繊維材料とすることもできる。
【実施例】
【0037】
以下実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお本発明における評価のための測定は以下の方法に依った。
(イ)熱重量分析
ポリアミド樹脂組成物10〜15mgを精秤し、熱重量質量分析同時測定装置(TG−DTA2020SA/MS9610:BrukerAXS製)を用い、アルミニウムセル内に静置して、これを機器測定部に設置後、ヘリウム雰囲気下、室温から昇温速度50℃/分として290℃まで上昇させた後、等温保持して、試験開始から180分までの重量減少量を求めた。
(ロ)金属濃度(Na、Ca)定量分析
ポリアミドを白金製るつぼにて灰化し、過塩素酸を加えて蒸発乾固させた後、1.0モル濃度塩酸を加えるか、あるいはポリアミド樹脂組成物を硝酸中、マイクロウェーブにて分解処理した後、原子吸光分析装置(商品名:AA−6650、(株)島津製作所製)及びICP発光分析装置(商品名:ICPE−9000、(株)島津製作所製)を用いて定量した。なお、測定値は重量分率(ppm)として得られるため、原子量及び価数を用いて算出した。
【0038】
<実施例1>
(ポリアミドの溶融重合)
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下ロート及び窒素導入管、ストランドダイを備えた内容積50リットルの反応容器に、精秤したアジピン酸15000g(102.6mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)432.6mg(4.082mmol、ポリアミド中のリン原子濃度として5ppm)、酢酸ナトリウム206.4mg(2.516mmol、次亜リン酸ナトリウム一水和物に対するモル数比として0.62)を入れ、十分に窒素置換した後、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら170℃まで加熱した。これにメタキシリレンジアミン13895g(102.0mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を260℃として40分反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、ストランドダイからポリマーを取り出してこれをペレット化し、約24kgのポリアミドを得た。
(ポリアミドの固相重合)
次いで、窒素ガス導入管、真空ライン、真空ポンプ、内温測定用の熱電対を設けたジャケット付きのタンブルドライヤーに前記ポリアミドを仕込み、一定速度で回転させつつ、タンブルドライヤー内部を純度が99容量%以上の窒素ガスで十分に置換した後、同窒素ガス気流下でタンブルドライヤーを加熱し、約150分かけてペレット温度を150℃に昇温した。ペレット温度が150℃に達した時点で系内の圧力を1torr以下に減圧した。さらに昇温を続け、約70分かけてペレット温度を200℃まで昇温した後、200℃で30〜45分保持した。次いで、系内に純度が99容量%以上の窒素ガスを導入して、タンブルドライヤーを回転させたまま冷却してポリアミド(X1)を得た。
(ポリアミド樹脂組成物の調製)
得られたポリアミド(X1)2kgに対して、2ml蒸留水に溶解した水酸化ナトリウム1000mgを加え、撹拌混合してポリアミド樹脂組成物を得た。
(フィルムの製造)
次いで、25mmφ単軸押出機、600メッシュのフィルターを設けたヘッド、Tダイからなるフィルム押出機、冷却ロール、巻き取り機等を備えた引き取り装置を使用して、押出機から上記ポリアミド樹脂組成物を3kg/hの吐出速度に保持しつつフィルム状に押し出し、引き取り速度を調節して幅15cm、厚み250ミクロンのフィルムとし、巻き取り機にて巻き取った。フィルムは熱重量分析、および金属濃度定量分析を行い、その結果を表1に示す。
(滞留サンプルの作成)
次いで、上記フィルムを直径30mmの同心円状に切り取り、これを四枚作成した。該円状フィルムを重ね、孔径30mmにくり抜いた孔を持つ1mm厚の100×100mmポリテトラフルオロエチレンシートの孔部に重ねたフィルムをはめ込み、さらに該シートを1mm厚の100×100mmポリテトラフルオロエチレンシートにて挟み込んだ。
次いで、中央部に深さ3mmの120mm×120mmの溝を持つ15mm厚×150mm×150mm金属板に、上述のフィルムを挟み込んだテフロン(登録商標)シートを溝の中央に配置し、さらに15mm厚×150mm×150mm金属板にて上から蓋をした後、金属板同士をボルトで固定した。
60T熱プレス機にて該金属板を挟んだ状態で290℃にて24時間加熱を続けた。
加熱終了後に該金属板を取り出して間接水冷し、十分に冷却されてから滞留サンプルを取り出した。
(ゲル化分率の算出)
次いで、上記の滞留サンプルを100mg秤量し、60℃にて30分恒温乾燥機にて乾燥させ、乾燥した滞留サンプルを10mlの純度99%以上のヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に24時間浸漬後、予め秤量した300μm孔径のポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルターを通し減圧濾過した。
メンブレンフィルターに残った残渣をHFIPにて洗浄した後、残渣の付着したフィルターを60℃にて30分恒温乾燥機にて乾燥した。
次いで、乾燥させた残渣とフィルターの総重量を秤量し、予め秤量したフィルター重量との差から、滞留サンプルのHFIP不溶成分量(ゲル量)を算出した。
ゲル化分率は滞留サンプルに対するHFIP不溶成分の重量%として求めた。結果を表1に示す。
【0039】
<実施例2>
実施例1と同様のポリアミド(X1)を用い、水酸化ナトリウムに代わって、炭酸ナトリウムの添加量を1500mgとして添加した以外は実施例1と同様にしてフィルム化と熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。
結果を表1に示す。
【0040】
<実施例3>
実施例1と同様のポリアミド(X1)を用い、水酸化ナトリウムに代わって、酢酸ナトリウムの添加量を2000mgとして添加した以外は実施例1と同様にしてフィルム化と熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。
結果を表1に示す。
【0041】
<実施例4>
実施例1と同様のポリアミド(X1)を用い、水酸化ナトリウムに代わって、ステアリン酸カルシウムの添加量を16000mgとして蒸留水に溶解せずに攪拌混合した以外は実施例1と同様にしてフィルム化し、Na濃度およびCa濃度の定量を原子吸光にて行った。フィルムは実施例1と同様に熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。
結果を表1に示す。
【0042】
<実施例5>
実施例1のポリアミドの調製において、次亜リン酸ナトリウム一水和物の添加量を12980mg(122.4mmol、ポリアミド中のリン原子濃度として150ppm)に、酢酸ナトリウムの添加量を6193mg(75.49mmol、次亜リン酸ナトリウム一水和物に対するモル数比として0.62)に、メタキシリレンジアミンの添加量を13916g(102.2mol)にそれぞれ変更したこと以外は実施例1と同様にして、溶融重合及びペレット化を行い、約24kgのポリアミドを得た。次いで、実施例1と同様にして固相重合を実施してポリアミド(X2)を得た。
得られたポリアミド(X2)2kgに対して、酢酸ナトリウムの添加量を400mgとして添加した以外は実施例1と同様にしてフィルム化と熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。
結果を表1に示す。
【0043】
<実施例6>
実施例5と同様のポリアミド(X2)を用い、酢酸ナトリウムに代わって、ステアリン酸カルシウムの添加量を2000mgとして蒸留水に溶解せずに攪拌混合した以外は実施例1と同様にしてフィルム化し、Na濃度およびCa濃度の定量を原子吸光にて行った。フィルムは実施例1と同様に熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
<比較例1>
実施例1と同様のポリアミド(X1)を用い、酢酸ナトリウムを添加しなかった事以外は実施例1と同様にしてフィルム化と熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。
結果を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
実施例1と同様のポリアミド(X1)を用い、酢酸ナトリウムに代わって、ステアリン酸カルシウムの添加量を4000mgとして蒸留水に溶解せずに攪拌混合した以外は実施例1と同様にしてフィルム化し、Na濃度およびCa濃度の定量を原子吸光にて行った。フィルムは実施例1と同様に熱プレス機による溶融滞留を実施し、滞留サンプルを得、実施例1と同様にHFIPへの不溶成分の分量を測定した。
結果を表1に示す。
【0046】
<比較例3>
実施例1と同様のポリアミド(X1)を用い、酢酸ナトリウムに代わって、ステアリン酸カルシウムの添加量を30000mgとして蒸留水に溶解せずに攪拌混合した以外は実施例1と同様にしてフィルム化した。結果を表1に示す。
【0047】
表1の略称は、それぞれ以下のものを表す。
NaOH:水酸化ナトリウム
NaCO:炭酸ナトリウム
StCa:ステアリン酸カルシウム
AcNa:酢酸ナトリウム
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1および2から明らかなように、ポリアミドにアルカリ化合物(A)を添加し、アルカリ土類金属濃度の2倍とアルカリ金属濃度の和として9μmol/g以上を含有し、かつ重量減少量が1%以下となることによって、熱安定性の優れた製品を得ることができる。15000ppmのステアリン酸カルシウムを添加した場合(比較例3)では成形フィルムの白化が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンと、ジカルボン酸とを重縮合して得られたポリアミドとアルカリ化合物(A)を含むポリアミド樹脂組成物であって、該ポリアミド樹脂組成物中のアルカリ土類金属濃度の2倍とアルカリ金属濃度の和が9〜30μmol/gであり、かつ不活性ガス雰囲気下、290℃にて180分加熱した該ポリアミドの重量減少率が1%以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミドとアルカリ化合物(A)を押出機により溶融混練する工程を含む製造方法で得られたものである請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミドが、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンと、アジピン酸を70モル%以上含むジカルボン酸を重縮合して得られたポリアミドである請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアミドが、メタキシリレンジアミンを70モル%以上含むジアミンと、アジピン酸を70モル%以上、及びイソフタル酸を1〜30モル%含むジカルボン酸を重縮合して得られたポリアミドである請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を押出成形した成形品。
【請求項6】
請求項5に記載の成形品を一軸延伸または二軸延伸した成形品。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を射出成形した成形品。
【請求項8】
請求項7に記載の成形品を延伸ブローした成形品。
【請求項9】
包装材料、包装容器又は繊維材料である請求項5〜8のいずれかに記載の成形品。

【公開番号】特開2011−140619(P2011−140619A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128444(P2010−128444)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】