説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】難燃性に優れるだけでなく、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂100質量部と、(B)メラミンシアヌレート1〜20質量部とを含み、組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの粒子の重心を母点としてボロノイ分割したときに形成される多角形の平均面積(S)が15〜50μmである、ポリアミド樹脂組成物とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、機械特性をはじめとして、成形加工性等において優れた特性を有するため、従来から自動車部品、電子電気部品、工業機械部品等各種部品に広く利用されている。特に靭性に優れることからコネクターやクリップ等のヒンジ部を備える成形品に用いられている。多くの場合、これらの製品には難燃性が要求される。このような難燃性ポリアミド樹脂において、特に環境要求から非ハロゲンの難燃剤を用いることが更に望まれている。
【0003】
このような難燃性ポリアミド樹脂の代表例として、メラミンシアヌレートを用いた難燃性ポリアミド材料が挙げられ、例えば、電気電子分野のコネクターやクリップ等に使用されている(特許文献1及び2参照)。特許文献3及び4では、予めメラミンシアヌレートの濃度の高いマスターバッチを作り、これを成形機等でポリアミド樹脂と混合して成形する方法が提案されている。また、特許文献5及び6では、特定の分散剤をポリアミド樹脂とメラミンシアヌレート混合の段階で配合することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭53−125459号公報
【特許文献2】特開昭53−031759号公報
【特許文献3】特開平08−245875号公報
【特許文献4】特開平11−302533号公報
【特許文献5】特開2000−026721号公報
【特許文献6】特開2003−301104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、メラミンシアヌレートを用いた上記難燃性ポリアミド材料では、メラミンシアヌレートがポリアミド樹脂中に十分に相溶せず、無機充填剤のように分散された形状で組成物中に充填されている。したがって、メラミンシアヌレートを充填したポリアミド樹脂組成物は、その靭性が低下する傾向にある。そして、上記の提案をもってしても、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性といった靭性を十分に満足させることはできない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、難燃性に優れるだけでなく、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、意外にも、ポリアミド樹脂とメラミンシアヌレートを特定の条件で溶融混合することにより組成物中に分散されたメラミンシアヌレートを特定の状態で分散させることが可能になり、この分散形態が、優れた難燃性、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性を与えることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下のものを提供する。
〔1〕
(A)ポリアミド樹脂100質量部と、(B)メラミンシアヌレート1〜20質量部とを含み、
組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの粒子の重心を母点としてボロノイ分割したときに形成される多角形の平均面積(S)が15〜50μm2である、ポリアミド樹脂組成物。
〔2〕
前記組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の60%以下が円相当径1μm以下である、〔1〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔3〕
前記組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の30%以下が円相当径0.5μm以下である、〔1〕又は〔2〕に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔4〕
前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66単位50〜95質量%と、ポリアミド6単位5〜50質量%とを含むポリアミド共重合体である、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔5〕
前記ポリアミド樹脂組成物を厚さ0.7mmの試験片とした、ASTM D638に準拠したウェルド引張伸度が30%以上である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
〔6〕
前記ポリアミド樹脂組成物を厚さ2mmの成形体として、前記厚さ2mmの部位を180度折り曲げるヒンジ試験において、破断までの回数が5,000回以上である、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、難燃性に優れるだけでなく、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性に優れるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ウェルド部を備えた成形品の上面図である。
【図2】ウェルド部を備えた成形品の側面図である。
【図3】ヒンジ特性の試験に用いる成形品の上面図である。
【図4】ヒンジ特性の試験に用いる成形品の側面図である。
【図5】実施例1で画像解析に用いたSEM写真である。
【図6】図5のSEM写真を画像解析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0012】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、(A)ポリアミド樹脂100質量部と、(B)メラミンシアヌレート1〜20質量部とを含み、組成物中における(B)メラミンシアヌレートの粒子の重心を母点としてボロノイ分割したときに形成される多角形の平均面積(S)が15〜50μm2である。まず、本実施形態のポリアミド樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0013】
<(A)成分>
本実施形態に用いるポリアミド樹脂としては、特に限定されず、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。例えば、ジアミンとジカルボン酸との縮合重合で得られるポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T(6Tは、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド重合体)、ポリアミド6I(6Iは、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸からなるポリアミド重合体)、ポリアミドMXD6(MXD6は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からなるポリアミド重合体)、ポリアミド9T(9Tは、ノナンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド重合体)、ラクタムの開環重合で得られるポリアミド6、ポリアミド12、ω−アミノカルボン酸の自己重縮合で得られるポリアミド11からなる群より選ばれる少なくとも1種の単独重合体、及び/又はこれらの共重合体若しくはブレンド物等が挙げられる。
【0014】
上記(A)ポリアミド樹脂の中では、機械的特性、耐熱性、結晶化温度、成形性及び成形品外観の観点から、ポリアミド66、ポリアミド6、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド66及びポリアミド6I(6Iは、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸からなるポリアミド重合体)、ポリアミドMXD6(MXD6は、メタキシリレンジアミンとアジピン酸からなるポリアミド重合体)、ポリアミド6T(6Tは、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド重合体)、ポリアミド9T(9Tは、ノナンジアミンとテレフタル酸からなるポリアミド重合体)からなる群より選ばれる単独重合体、共重合体又はブレンド物が好ましい。
【0015】
より好ましい(A)ポリアミド樹脂としては、ポリアミド66単位とポリアミド6単位の共重合体であり、更に好ましくは、ポリアミド66単位が50〜95質量%、ポリアミド6単位が5〜50質量%からなるポリアミド66/6共重合体であり、より更に好ましくは、ポリアミド66単位が80〜90質量%、ポリアミド6単位が10〜20質量%からなるポリアミド66/6共重合である。
【0016】
このようなポリアミド樹脂を用いることにより、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の薄肉ウェルドの引張伸び及びヒンジ特性を一層向上させることができる。
【0017】
(A)ポリアミド樹脂のJIS K6810に準じた98%硫酸中濃度1%、25℃で測定される相対粘度は、1.6〜3.7の範囲が好ましく、2.0〜3.1の範囲がより好ましい。(A)ポリアミド樹脂の相対粘度を1.6以上とすることにより、成形品の靱性や機械的強度を一層向上させることができる。相対粘度を3.7以下とすることにより、成形品の成形加工を一層容易にすることができるとともに、外観の悪化も防止することができる。
【0018】
(A)ポリアミド樹脂は、酢酸銅やヨウ化銅(ヨウ化カリウムを併用してもよい。)を成分として含有する銅化合物を添加することや、ヒンダードフェノール系熱安定剤、ヒンダードアミン系熱安定剤及びリン系熱安定剤等の有機熱安定剤を含有させること等により、熱安定処方することが好ましい。これにより本実施形態のポリアミド樹脂組成物の熱安定性を一層向上させることができる。
【0019】
上記の熱安定処方はいずれの製造工程で実施してもかまわない。例えば、モノマーに酢酸銅、ヨウ化銅及び有機熱安定剤を添加し、その後、重合を行ってもよいし、重合によりポリマーを得た後に、押出機や成形機等を用いた加工工程中で溶融状態のポリアミド樹脂に添加してもかまわない。また、直接ポリマーペレットと混合し、その後、成形加工工程に供してもかまわない。
【0020】
<(B)成分>
本実施形態で用いられる(B)メラミンシアヌレートは、メラミンとシアヌル酸からなる有機塩であり、例えば、メラミンとシアヌル酸が水素結合した構造をとり得る(下記式(1)参照)。また、メラミンシアヌレートはトリアジン環が重なった雲母状の結晶構造をとり得る。なお、不可避不純物として未反応のメラミンやシアヌル酸等を含んでいてもよい。
【0021】
【化1】

【0022】
メラミンシアヌレートの製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造できる。例えば、メラミンとシアヌル酸の当モル反応物となるように、メラミンの水溶液とシアヌル酸の水溶液とを混合させ、生成した沈殿物を濾過することによって得ることができる。
【0023】
(B)メラミンシアヌレートの添加量は、(A)ポリアミド樹脂100質量部に対して1〜20質量部である。ポリアミド100質量部に対する好ましいメラミンシアヌレートの添加量は3〜10質量部であり、より好ましくは4〜8質量部である。メラミンシアヌレートを上記範囲の添加量とすることにより、難燃性と靭性のバランスを更に優れたものにすることができる。
【0024】
(A)ポリアミド樹脂に対する(B)メラミンシアヌレートの配合方法は、特に限定されず、メラミンとシアヌル酸をポリマー重合時のポリアミド塩水溶液に添加して、ポリマー重合過程でメラミンシアヌレートを合成する方法でもよく、溶融したポリアミド中にメラミンシアヌレートを添加方法であってもよい。また、押出機内でポリアミド樹脂に配合する方法、ペレット表面にブレンド添加する方法、高濃度のマスターバッチとして添加する方法等の公知の方法を採用することもできる。
【0025】
(分散パラメータ)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、組成物中における(B)メラミンシアヌレートの粒子の重心を母点としてボロノイ分割したときに形成される多角形(ボロノイ多角形)の平均面積が15〜50μm2である。本実施形態では、このボロノイ多角形の平均面積(S)を分散パラメータとして評価する。
【0026】
本実施形態の平均面積(S)は、本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形体の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率2,000倍で観察し、撮影した写真を画像解析することにより、メラミンシアヌレート粒子のボロノイ図を描画後、ボロノイ多角形の平均面積を算出したものである。本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、この平均面積(S)が15〜50μm2であり、好ましくは20〜50μm2であり、更に好ましくは25〜50μm2である。平均面積を上記範囲とすることで、薄肉ウェルド強度やヒンジ特性に優れた組成物を提供することができる。平均面積(S)は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0027】
ここでボロノイ図とは、ある距離空間上の任意の位置に配置された複数個の点(母点)に対して、同一空間上の他の点がどの母点に近いかによって領域分けされた図のことである。具体的には、画像解析によりメラミンシアヌレート粒子の重心を算出後、ボロノイ分割処理することにより、ボロノイ図を描画することができる。
【0028】
(円相当径)
メラミンシアヌレートの円相当径とは、メラミンシアヌレートのSEM観察写真(倍率2,000倍)を画像解析することにより、メラミンシアヌレート粒子1つ1つの粒子の円相当径を算出したものである。円相当径とは、粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径をいう。円相当径は、後述する実施例に記載の方法により求めることができる。
【0029】
組成物中における(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の60%以下が円相当径1μm以下であることが好ましい。また、(B)メラミンシアヌレート全粒子数の30%以下が円相当径0.5μm以下であることが好ましい。そして、組成物中における(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の60%以下が円相当径1μm以下であり、かつ、(B)メラミンシアヌレート全粒子数の30%以下が円相当径0.5μm以下であることがより好ましい。本実施形態において、このようなメラミンシアヌレート粒子の分散形態をとることにより薄肉ウェルド引張伸度やヒンジ特性を向上させることが可能となる。
【0030】
本実施形態において、組成物中における(B)メラミンシアヌレート粒子の全粒子数の50%以上が円相当径1μm以上の粒子であることが好ましく、(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の40%以上が円相当径1μm以上であることがより好ましい。本実施形態において、このようなメラミンシアヌレート粒子の分散形態をとることにより、本実施形態の効果をより優れたものにできるため好ましい。
【0031】
また、(B)メラミンシアヌレートの平均粒子径の上限値は、300μm以下が好ましく、より好ましくは200μm以下である。(B)メラミンシアヌレートの平均粒子径を300μm以下とすることにより、難燃性の低下や応力集中による物性低下を一層効果的に抑えることができる。(B)メラミンシアヌレートの平均粒子径の下限値は、1μm以上が好ましく、より好ましくは2μmである。(B)メラミンシアヌレートの平均粒子径を1μm以上とすることにより、応力緩和による優れた物性を一層効果的に発現することができる。
【0032】
本実施形態において、メラミンシアヌレートの平均粒子径は、例えば、島津製作所社製 レーザ回折式粒度分布測定装置SALD−700を用いて、水中にメラミンシアヌレートを分散させ、光強度が50%となる濃度で超音波を作動させながら測定することができる。このときのメラミンシアヌレートの屈折率は1.72である。
【0033】
組成物中の(B)メラミンシアヌレートの分散形態を上記のように制御する方法は様々であるが、例えば、メラミンシアヌレート粒子あるいはその凝集物を破壊しないように(A)ポリアミド樹脂と(B)メラミンシアヌレートを溶融混合することが好ましい。これにより、組成物中における(B)メラミンシアヌレートの粒子の重心を母点としてボロノイ分割したときに形成される多角形の平均面積(S)が15〜50μm2であることを容易に実現することができる。
【0034】
溶融混合の方法として、例えば、二軸押出機のような高いせん断力を持つ装置よりも、むしろ単軸押出機のように低せん断での溶融混合できる装置が好ましく、混練するためのスクリューとしては圧縮比の高いものよりは低いものを使用し、さらに押出機のスクリュー混練部に用いられるニーディングディスクやダルメージ等の箇所を減らすことも本実施形態のポリアミド樹脂組成物を得るためには重要である。
【0035】
例えば、本実施形態では、スクリュー回転数を上げ、吐出量を下げることにより、上記平均面積(S)を小さくすることができる。また、スクリュー回転数を下げ、吐出量を上げることにより、上記平均面積(S)を大きくすることができる。特に、本実施形態では(B)メラミンシアヌレートを低せん断で(A)ポリアミド樹脂に溶融混合することが好ましい。その作用は定かではないが、本実施形態ではメラミンシアヌレートに与えるせん断を少なくすることで、メラミンシアヌレート粒子の破砕を可能な限り防止して粒子と粒子の距離が保持されることで応力緩和が可能になったものではないかと考えられる(ただし、作用効果はこれに限定されない。)。
【0036】
ポリアミドを溶融させる箇所において、ダルメージ箇所が2段以下の単軸スクリューで溶融混合することが好ましく、スクリュー回転数を低減することにより本実施形態の効果を一層顕著に発現させることができる。かかる観点から、好ましいスクリュー回転数は50〜100回転/分(rpm)である。
【0037】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて本実施形態の目的を損なわない範囲で通常のポリアミド樹脂に用いられる無機充填剤や難燃剤、顔料や着色剤を含有させることができる。さらには、成形性改良剤、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤等の各種添加剤を任意の段階で添加することができる。
【0038】
無機充填剤としては、例えば、ガラス繊維、ワラストナイト、タルク、カオリン、マイカが挙げられる。
難燃剤としては、例えば、臭素化ポリスチレン、ポリリン酸アンモニウムが挙げられる。
顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄が挙げられる。
着色剤としては、例えば、ニグロシン、銅フタロシアニンが挙げられる。
成形性改良剤としては、例えば、ステアリン酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸エステルが挙げられる。
熱安定剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、銅化合物が挙げられる。
光安定剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、銅化合物が挙げられる。
帯電防止剤としては、例えば、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0039】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて本実施形態の目的を損なわない範囲で、ポリアミド樹脂以外の他のポリマーを含有してもよい。このような他のポリマーとしては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアリレート樹脂、各種エラストマー等が挙げられる。
【0040】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物の成形方法は特に限定されず、公知の成形方法(例えば、プレス成形、射出成形、ガスアシスト射出成形、溶着成形、押出成形、吹込成形、フィルム成形、中空成形、多層成形等のプラスチック成形方法)を用いても良好に成形加工ができる。
【0041】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、厚さ0.7mmの試験片(成形体)として、ASTM D638に準拠したウェルド引張伸度が30%以上であることが好ましく、100%以上であることがより好ましい。ウェルド引張伸度は、後述する実施例に記載に方法により測定することができる。
【0042】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、厚さ2mmの成形体とし、厚さ2mmの部位を180度折り曲げるヒンジ試験において、破断までの回数(破断回数)が5,000回以上であることが好ましく、10,000回以上であることがより好ましい。破断回数は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において行った物性評価は以下のように行った。
【0044】
(1)組成物中の(B)メラミンシアヌレートの分散パラメータ
射出成形機(日精樹脂社製、「PS40E−II」)を用いて、シリンダー設定温度255℃、金型温度80℃、スクリュー回転数250rpm、射出時間10秒、冷却時間15秒、背圧20%の条件で射出成形し、図1及び図2に示すような、長さ129mm、幅12.9mm、厚さ0.7mmであり、且つ、ウェルド部12を備えた短冊形の成形品1を得た。図1は、成形品1の上面図であり、図2は、成形品2の側面図である。得られた成形品1のウェルド部12近傍の断面を、ウルトラミクロトームを用いて切削し、切削断面の状態を倍率2,000倍で走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。さらに、画像解析ソフトウェア(「A像くん(登録商標)」、旭化成エンジニアリング社製)を用いて、観察したSEM画像のボロノイ多角形の平均面積(S)を算出し、これを分散パラメータとした。
【0045】
(2)(A)ポリアミド樹脂中に分散している(B)メラミンシアヌレート粒子の円相当径とその個数
(1)で用いたSEM画像を画像解析ソフトウェア(「A像くん」(登録商標)、旭化成エンジニアリング社製)を用いて解析することにより、メラミンシアヌレート粒子の円相当径の分布を求めた。具体的には、メラミンシアヌレートの全粒子数(100粒子)に対して1μm以下の粒子個数の割合と0.5μm以下の粒子個数の割合を求めた。
【0046】
(3)薄肉ウェルド引張伸度
(1)で用いたウェルド部12を備えた成形品1について、引張り試験機(オリエンテック社製、テンシロン万能試験機「RTA−1T」)を用いて、チャック間30mmの条件で引張り試験を行った。チャック間を100%としたとき、引っ張った変位差を引張伸度として算出した。その他の条件は、ASTM D638に準じて試験を実施した。20本試験した最小値を試験値とした。
【0047】
(4)ヒンジ特性
射出成形機(日精工業社製、「PS40E」、シリンダー温度260℃、金型温度80℃)を用いて、図3及び図4に示すヒンジ成形品2を成形した。図3は、ヒンジ成形品2の上面図であり、図4はヒンジ成形品2の側面図である。ヒンジ成形品2はヒンジ部22を備えている。23℃、50%RH雰囲気下で自動繰り返しヒンジ試験機(東洋精機社製)を用いて、ヒンジ部22を180°まで折り曲げて、元の位置(0°)の位置に戻す動作を90回/分の速度で繰り返し、破壊するまでの折り曲げ回数を測定した。折り曲げ回数が1万回でも破壊しないものを合格とした。
【0048】
(5)難燃性
(1)で作製した試験片を用いて、JIS K7201に準拠し、酸素濃度24容量%の条件下で難燃性について評価を行い、以下の基準に基づき判定した。
「○」:試験片が4秒以内に消火した(合格)。
「×」:試験片が4秒を越え燃焼し続けた(不合格)。
【0049】
実施例及び比較例で用いた(A)成分は、以下の製造例によって調製したものを用いた。(B)成分は、市販品及び以下の製造例によって調製したものを用いた。
【0050】
(B)成分
CM1:メラミンシアヌレート、三菱化学社製、商品名「MCA−C1」
【0051】
(製造例1)ポリアミド1(PA1)
ポリアミド66/6(90質量%/10質量%)共重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩及びε−カプロラクタム)の50質量%水溶液を30kg作製した。続いて、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。そして、窒素で十分に置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで昇温した。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら、目的の相対粘度になるように重合時間を調整し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、ポリアミド66/6共重合体ペレットを得た。このポリアミド66/6共重合体ペレットを80℃、24時間の条件で真空乾燥した。真空乾燥後のポリアミド66/6共重合体ペレットに関して、JIS K6810に準じた、25℃で測定した相対粘度(ηr)は2.50であった。
【0052】
(製造例2)ポリアミド/メラミンシアヌレート複合体
ポリアミド66/6(90質量%/10質量%)共重合体を形成する重合成分(ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸との等モル塩及びε−カプロラクタム)の50質量%水溶液を30kg作製した後、ポリアミドとメラミンシアヌレートの合計100質量部に対してメラミンシアヌレートが12質量部となるように、メラミンとシアヌル酸を添加した。続いて、撹拌装置を有し、かつ下部に抜出しノズルを有する40リットルのオートクレーブ中に仕込み、50℃の温度下、よく攪拌した。そして、十分窒素で置換した後、撹拌しながら温度を50℃から約270℃まで昇温させた。この際、オートクレーブ内の圧力は、ゲージ圧にして約1.8Mpaになるが、圧力が1.8Mpa以上にならないよう水を系外に除去しながら、目的の相対粘度になるように重合時間を調整し、下部ノズルからストランド状にポリマーを排出し、水冷・カッティングを行い、ポリアミド66/6共重合体複合体100質量部中においてメラミンシアヌレート12質量部を含むポリアミド66/6共重合体複合体ペレットを得た。
このポリアミド66/6共重合体複合体ペレットを80℃、24時間の条件で真空乾燥した。真空乾燥後のポリアミド66/6共重合体複合体ペレットを、ポリアミド66/6共重合体複合体ペレット中に含まれるポリアミド66/6共重合体の98%硫酸中濃度が1%となるように98%硫酸に溶解させ、メラミンシアヌレートが沈殿した上澄み液について、JIS K6810に準じて25℃で相対粘度(ηr)測定した。この相対粘度(ηr)は2.50であった。
【0053】
[実施例1]
製造例1にて得られたポリアミド66/6共重合体ペレット94質量部と、(B)メラミンシアヌレート6.0質量部とを混合し、単軸押出機(田辺プラスチック機械社製、「VS65−36」)、及びダルメージが2箇所で圧縮比が2.1であるスクリューを用いて、270℃、スクリュー回転数100rpm、吐出量100kg/hの条件下で溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。図5は、実施例1で画像解析に用いたSEM写真である。すなわち、図5は、得られたポリアミド樹脂組成物の短冊形の成形品のSEM写真(倍率2,000倍)である。図6は、図5のSEM写真を上記(1)の方法によって画像解析した図である。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
メラミンシアヌレートの添加量が表1の添加量(6.0質量部)になるように、製造例2で得られたポリアミド/メラミンシアヌレート複合体を100質量部と、PA1を100質量部とを混合し、単軸押出機(田辺プラスチック機械社製、「VS65−36」)、及びダルメージが2箇所で圧縮比が2.1のスクリューを用いて、270℃、スクリュー回転数100rpm、吐出量100kg/hの条件下で溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
スクリュー回転数を120rpm、吐出量を113kg/hとした以外は、実施例1と同様に溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例4]
スクリュー回転数を60rpm、吐出量を54kg/hとした以外は、実施例1と同様に溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例5]
メラミンシアヌレートの添加量を2質量部とした以外は、実施例1と同様に溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例6]
メラミンシアヌレートの添加量を18質量部とした以外は、実施例1と同様に溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物の評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1]
製造例1にて得られたポリアミド66/6共重合体ペレット94質量部に対して、(B)メラミンシアヌレートが6.0質量部になるように混合し、単軸押出機(田辺プラスチック機械社製、「VS65−36」)、ダルメージが4箇所で圧縮比2.2のスクリューを用いて、270℃の条件下、スクリュー回転数200rpm、吐出量178kg/hで溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例2]
製造例2で得られたポリアミド/メラミンシアヌレート複合体とPA1をメラミンシアヌレートの添加量が表1の添加量になるように混合し、二軸押出機(東芝機械エンジニアリング社製、「TEM35BS」)を用いて、270℃の条件下、スクリュー回転数200rpm、吐出量40kg/hで溶融混練を行い、ポリアミド樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
実施例1〜6は、燃焼性、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性のいずれもが優れていた。一方、比較例1及び2は、燃焼性、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性の少なくともいずれかが劣っている値であった。以上より、本実施例のポリアミド樹脂組成物は、燃焼性、薄肉ウェルド引張伸度及びヒンジ特性に優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係るポリアミド樹脂組成物は、自動車用、電子電気用、工業機械用等に使用されるヒンジ部を備えるコネクターやクリップ等に利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1・・・成形品、2・・・ヒンジ成形品、12・・・ウェルド部、22・・・ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂100質量部と、(B)メラミンシアヌレート1〜20質量部とを含み、
組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの粒子の重心を母点としてボロノイ分割したときに形成される多角形の平均面積(S)が15〜50μm2である、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の60%以下が円相当径1μm以下である、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記組成物中における前記(B)メラミンシアヌレートの全粒子数の30%以下が円相当径0.5μm以下である、請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)ポリアミド樹脂が、ポリアミド66単位50〜95質量%と、ポリアミド6単位5〜50質量%とを含むポリアミド共重合体である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂組成物を厚さ0.7mmの試験片とした、ASTM D638に準拠したウェルド引張伸度が30%以上である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリアミド樹脂組成物を厚さ2mmの成形体として、前記厚さ2mmの部位を180度折り曲げるヒンジ試験において、破断までの回数が5,000回以上である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−87226(P2013−87226A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230066(P2011−230066)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】