説明

ポリアミド樹脂組成物

【目的】 強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性を同時に満足する成形物の製造に有用なポリアミド樹脂組成物を提供する。
【構成】 ポリアミド樹脂、強化剤とカップリング剤またはカップリング剤処理した強化剤、および前記ポリアミド樹脂以外の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂を含有し、該強化剤および該熱可塑性樹脂が実質的に互いに独立して該ポリアミド樹脂中に均一に分散しており、該熱可塑性樹脂の分散平均粒径は約2μ以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はポリアミド樹脂組成物に関する物であり、更に詳しくは強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性を同時に満足する成形物の製造に有用なポリアミド樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】ポリアミド樹脂成形物は優れた機械的、熱的、化学的、電気的特性を有するため従来より自動車部品、電気部品、工業部品等の用途に広く用いられているが、低温での衝撃特性が悪いため種々の衝撃改良樹脂を添加することがよく知られている(例えば特開昭60−238360号)。しかしこの方法では衝撃性は改良されるが強度、剛性、耐熱性が低下する欠点が生じる。前記欠点を防止するため強化剤を添加し強度、剛性、耐熱性を改良することが考えられるがそれらの改良効果は必ずしも十分ではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明はポリアミド樹脂組成物の組成およびモルフオロジー構造を特定化することにより強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性を同時に満足させる成形物の提供を可能にならしめようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記目的を達成するために種々研究の結果、ポリアミド樹脂、強化剤とカップリング剤またはカップリング剤処理した強化剤および前記、ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂を含有し、強化剤およびポリアミド樹脂以外の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂内に互いに実質的に独立して均一に分散しており、該熱可塑性樹脂の分散平均粒径が約2μ以下であるポリアミド樹脂組成物の成形物が強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性を同時に満足することを見出して本発明を完成した。
【0005】本発明のポリアミド樹脂組成物における成分割合は、好ましくは、ポリアミド樹脂98〜30重量部に対しポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂を2〜70重量部、更に好ましくはポリアミド樹脂97〜55重量部に対しポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂を3〜45重量部であり、ポリアミド樹脂とポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂の合計95〜35重量%に対し強化剤は5〜65重量%、好ましくは10〜50重量%である。
【0006】なお強化剤はカップリング剤と併用するか、カップリング剤処理したものを用いるのであるが、カップリング剤量は強化剤100重量部に対し0.05重量部以上、好ましくは0.1重量部以上とするのがよい。
【0007】また本発明組成物は下記のモルフオロジー構造を有する。即ち、強化剤および前記のポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂はポリアミド樹脂内に互いに実質的に独立して均一に分散しており、該熱可塑性樹脂の分散平均粒径は約2μ以下、好ましくは0.5μ以下である。強化剤とポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂は相互に独立して分散している。なおこれらの粒子は部分的あるいは局部的に相互接着していてもよいが強化剤の周囲を該熱可塑性樹脂がかこみこむ接着はよくない。
【0008】このような組成、このようなモルフオロジー構造を有する場合に、樹脂組成物は強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性を同時に満足する成形物とすることができるのである。
【0009】本発明のポリアミド樹脂組成物の成形物は強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性を同時に満足するためこれらの性質が特に要求される用途分野において好ましく用いられる。例えば自動車の外塗、外板、内装部品、具体的にはフエンダー、エアーインティク、ホイルキャップ、スポイラー、ドアハンドル等に、又電動工具部品、電気部品、工業部品等に用いられるが、用途はこれらに限定されるものではない。
【0010】本発明におけるポリアミド樹脂とは、分子中に酸アミド結合(−CONH−)を有するものであり、具体的には、ε−カプロラクタム、6−アミノカプロン酸、ω−エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどから得られる重合体または共重合体:ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミンなどのジアミンとテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸とを重縮合して得られる重合体または共重合体もしくはこれらのブレンド物等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0011】上記のポリアミド樹脂のうち、平均分子量9000〜30000のものが好ましい。又ポリアミド樹脂のアミノ末端基、カルボキシル末端基は強化剤のカップリング剤、及びポリアミド樹脂以外の反応性基を有するポリマーと反応し結合するためアミノ末端基量、カルボキシル末端基量は多い方が好ましい。又使用するカップリング剤の種類、量及びポリアミド樹脂以外の反応性基を有するポリマーの反応性基の種類、量により両末端基量のバランスを変更してもよい。
【0012】本発明において使用する強化剤としては繊維状強化剤、フイラー状強化剤があり繊維状強化剤としてはガラス繊維、フイラー状強化剤としてはタルク、マイカ、ワラストナイト、炭酸カルシウム、ウィスカー、シリカ、カオリン、モンモリロナイト、クレー等が挙げられるが本発明は特にこれらに限定されるものではない。これらの強化剤はポリアミド樹脂とポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂95〜35重量%に対し5〜65重量%、好ましくは10〜50重量%添加すればよい。強化剤量が5重量%以下であれば補強効果が少なく反対に65重量%以上であれば成形品がモロくなったり、成形時流動性不良、成形品外観不良が発生し好ましくない。
【0013】強化剤とポリアミド樹脂との結合をよくするために強化剤はカップリング剤と併用するか、カップリング剤処理したものを用いるが、カップリング剤としてはシラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等いずれを使用してもよいが、そのなかでも特にアミノシランカップリング剤、エポキシシランカップリング剤が好ましい。これらのシラン系カップリング剤はポリアミド樹脂のカルボキシル末端基、又はアミノ末端基と反応し強化剤とポリアミド樹脂を化学的に結合させ、強度、弾性率、伸度、耐衝撃性を向上させる働きをする。カップリング剤の添加量は強化剤100重量部に対し0.05重量部以上好ましくは0.1重量部以上とするのがよい。
【0014】本発明におけるポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA),エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA),エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフイン系樹脂;AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン(PS)、アクリル酸エステル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS),スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のビニルポリマー系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリカーボネート(PC),ポリアクリレート(PAR)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリテトラメチレングリコール(PTMG)のブロック共重合体、ポリブチレンテレフタレート(PBT)とポリカプロラクトンのブロック共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリフエニレンオキサイド(PPO)等の樹脂があるがこれらに限定されるものではない。なおこれらの熱可塑性樹脂は二種又はそれ以上併用してもよい。
【0015】本発明におけるポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂の有する反応性基とはポリアミド樹脂の末端基であるアミノ基、カルボキシル基及び主鎖アミド基と反応しうる基であり、具体的にはカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基、イソシアネート基等が例示されるがこれらのなかで酸無水物基が最も反応性に優れている。このようにポリアミド樹脂と反応する反応性基を有する熱可塑性樹脂はポリアミド中に微分散し、微分散するがゆえに粒子間の距離が短くなり耐衝撃性が大幅に改良されるという報告もある〔S , Wu :Polymer26,1855(1985)〕。
【0016】本発明における組成物のモルフオロジー構造として、強化剤およびポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂は互いに実質的に独立してポリアミド樹脂内に均一に微分散(ほぼすべての粒径が約2μ以下)している必要があり、ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂が強化剤の周囲を直接かこむような接着状態にさせないことが必要である。
【0017】強化剤をポリアミド樹脂内に均一分散させなければ強度、剛性、伸度、耐衝撃性が低下し好ましくない。ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂のポリアミド樹脂内の微分散粒径は平均約2μ以下、好ましくは0.5μ以下である。約2μ以上になれば粒子間の距離が長くなり、強度、伸度、耐衝撃性が低下し好ましくない。強化剤とポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂は部分的あるいは局部的接着はよいが強化剤をかこみこむ接着は好ましくない。強化剤を囲みこむ接着がおこれば強化剤を添加する目的である強度、剛性、耐熱性改良効果がうすれ又添加しているポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂内に微分散している量、数が少なくなり(強化剤の周辺に取られてしまう)粒子間の距離が広くなり耐衝撃性が低下する欠点が生じる。
【0018】前記のようなモルフオロジー構造を有する樹脂組成物は単にポリアミド樹脂、強化剤とカップリング剤又はカップリング剤処理強化剤、ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂をブレンド後押出機等で溶融混練する常法では得られ難く、特別の方法によるのが推奨される。即ち、溶融混練機(例えば溶融押出機、溶融反応釜)にポリアミド樹脂とポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂を均一に溶融混練し、ポリアミド樹脂中該熱可塑性樹脂を均一に微分散させた後強化剤(およびカップリング剤)又はカップリング剤処理強化剤を投入しポリアミド樹脂内に強化剤を均一に分散させる。又は溶融混練機でポリアミド樹脂と強化剤(およびカップリング剤)又はカップリング剤処理強化剤を溶融混練しポリアミド樹脂内に均一に強化剤を分散させた後、ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂を投入しポリアミド樹脂内に該熱可塑性樹脂を均一に微分散させる。しかし、本発明ポリアミド組成物の調製はかかる特定のブレンド方法に限られるものではなく、前記の組成およびモルフオロジー構造が得られる限り勿論他のブレンド方法を用いることができる。
【0019】本発明のポリアミド樹脂組成物には、各種用途目的に応じて難燃剤、離型剤、光または熱安定剤、着色剤等を添加することができる。難燃剤としてはハロゲン系難燃剤と三酸化アンチモンの組合わせが良くハロゲン系難燃剤としてはブロム化ポリスチレン、ポリジブロムフエニレンオキサイド、デカブロムジフエニールエーテル等が好ましい。又非ハロゲン系難燃剤としてはメラミンシアヌレート、赤リン等が好ましい。離型剤としてはステアリン酸の金属塩等が好ましい。光または熱安定剤としては、カーボンブラック、ハロゲン化銅とハロゲン化カリウムの組合わせ、ヒンダードフエノール系安定剤、リン系安定剤及びそれらの組合わせ等が好ましい。しかしこれらに限定されるものではない。
【0020】
【実施例】次に実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが本発明がこれら実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
・使用樹脂ポリアミド樹脂:ナイロン6 東洋紡績(株)、銘柄T−803(分子量=16000、アミノ末端量=58meq/Kg、カルボキシ末端量=58meq/Kg)
ポリアミド樹脂:ナイロン66 東洋紡績(株)、銘柄T−662(アミノ末端量48meq/Kg、カルボキシル末端量48meq/Kg)
ポリオレフイン系樹脂:ポリプロピレン(PP)
ビニルポリマー系樹脂:SEBS 旭化成工業(株)、銘柄タフテックH1052反応性基の導入:PP,SEBSそれぞれ100重量部に無水マレイン酸1.5重量部と過酸化物としてパークミルD(F)0.3重量部をそれぞれ加え、この2種の混合物を35φ2軸押出機でそれぞれ押出し冷却後カッティングして酸変性PP、酸変性SEBSのペレットを作製した。
・使用強化剤ワラストナイト:金生興業(株)、銘柄KTK、平均粒子径D50≒3μ(0.5〜8μ)
タルク:林化成(株)、銘柄ミクロン406、平均粒子径D50=4〜6μガラス繊維:旭ファイバーグラス(株)、銘柄CS03MA−411(アミノシラン表面処理品)
・カップリング剤:アミノシラン:日本ユニカ(株)、銘柄A−1100・物性評価方法:引張伸度はASTM D−638に準じる、曲げ強度曲げ弾性率はASTMD−790に準じる。アイゾット衝撃強度(ノッチ付)はASTM D−256に準じる。熱変形温度(4.6Kg/m2 荷重)はASTM D−648に準じる。
・成形品のモルフオロジー観察方法引張テストピースの断面を観察装置:電界放射型走査電子顕微鏡(日立製S−800型)
測定条件:加速電圧6KV試料調整:研磨法、燐タングステン酸(PTA)染色
【0021】比較例 1〜8、実施例 1〜2ポリアミド樹脂としては東洋紡ナイロン6T−803またはナイロン66T−662(略号PA)を、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としてはSEBS(略号P)を、ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂としては酸変性SEBS(略号MP)または酸性変性PPを、強化剤としてはワラストナイト(略号KW)、タルクまたはガラス繊維(略号GF)を用い、カップリング剤としてはアミノシランカップリング剤(略号C)を使用し東芝2軸押出機を使用し表1に示した組成をもってポリアミド組成物のペレットを得た。このペレットを80℃真空乾燥機で16時間乾燥後射出成形し、テストピースを作成した。このテストピースを使用し成形品のモルフオロジー形態の観察、樹脂物性〔曲げ強度、曲げ弾性率、引張伸度、アイゾット衝撃強度(ノッチ付)、熱変形温度〕の関係を調べその結果を表1に示した。
【0022】比較例1はPAを押出機ホッパー口より投入し溶融混練を実施した。
【0023】比較例2はPA,MPを同時にブレンド後押出機ホッパー口より投入し溶融混練を実施した。この樹脂特性値は比較例1と比較すればアイゾット衝撃、伸度は向上したが強度、弾性率、熱変形温度は低下した。成形品のモルフオロジー構造はPA中にMPが微分散(0.1μ前後)接着していた。
【0024】比較例3はPA,KW,Cを同時にブレンド後押出機ホッパー口より投入し溶融混練を実施した。この樹脂特性値は比較例1と比べれば強度、弾性率、熱変形温度は大幅に改良されていたが伸度、アイゾット衝撃は低下した。成形品のモルフオロジー構造はPA中にKWが均一分散接着していた。
【0025】比較例4はPA,KW,C,Pを同時にブレンド後押出機ホッパー口より投入し溶融混練を実施した。この樹脂特性値は強化剤添加の為弾性率、熱変形温度は向上するがPを添加しているにもかかわらずアイゾット衝撃、伸度は低下した。成形品のモルフオロジー構造はPA中にKWは分散接着しているがPは微分散(2μ以下)しておらず5〜70μの粗大粒径になっていた。この理由としてはPはPAと反応する反応性基を含んでいないため微分散せず、微分散しないため伸度、アイゾット衝撃が低下したと考えられる。
【0026】実施例1はPAとMPを同時にブレンドし押出機ホッパー口より投入し、PA,MPを溶融混練しPA中にMPを微分散(分散平均粒径=0.1μ)接着後押出機途中よりKWとCを投入しさらに溶融混練を実施し押出した。この樹脂特性値は強度、弾性率、伸度、アイゾット衝撃、熱変形温度すべてにおいて優れた特性を有していた。強度、弾性率、熱変形温度はKW添加の特性(比較例3)をほぼ保持し、アイゾット衝撃はMP添加の特性(比較例2)以上の効果を示し、KW,MP添加(比較例2,3)両者の優れた特性を保っていた。成形品のモルフオロジー構造は図1の写真に示すごとくPA中にMPが粒子径0.1μ前後で微分散接着しておりMPの粒子間距離は0.1〜0.3μ前後になっていた。PA中のKWは直接PAに分散接着しておりKWの周りにはMPは接着していなかった。なお、図1の写真において白色部はマトリックスのPA、黒色部(点)はSEBS(MP)、中間色部は強化剤のワラストナイト(KW)である。
【0027】実施例2はPA,KW,Cを同時にブレンドし押出機ホッパー口より投入しPA,KW,Cを溶融混練しPA中にKWを分散接着後、押出機途中よりMPを投入しさらに溶融混練を実施し押出した。この樹脂特性、及び成形品のモルフオロジー構造は実施例1のそれとほぼ同じであった。
【0028】比較例5はPA,KW,MP,Cすべてのものを同時にブレンド後押出機ホッパー口より投入し、PA,KW,MP,Cを溶融混練し押出した。この樹脂特性値は強度、弾性率、熱変形温度は大幅に低下し、アイゾット衝撃はやや低下した。成形品のモルフオロジー構造は図2および図3の写真に示すごとくPA中のMPの粒径は0.1〜0.5μ前後に微分散接着しているが、実施例1,2に比べやや大きくなっていた。又粒子間距離は0.2〜1μ前後と実施例1,2に比べ約3倍ほど広くなっていた。この原因としてKWの周囲にMPがおおいかぶさりMPが偏在しているためと、粒径が大きくなったことが考えられる。強度、弾性率、熱変形温度が大幅に低下したのはKWの周囲をMPが囲んでいるため本来のKW添加目的である強度、弾性率、熱変形温度向上作用が低下したためであると考える。
【0029】比較例6はPA,MP,Cを同時にブレンド後押出機ホッパー口より投入、PA,MP,Cを溶融混練後押出機途中よりKWを投入しさらに溶融混練を実施し押出した。この樹脂特性値は強度、伸度、アイゾット衝撃は相当低下し、弾性率、熱変形温度はやや低下した。成形品のモルフオロジー構造は図4の写真に示すごとくPA中のMPの粒径は0.2〜0.4μ前後のものが多く、中には15μ前後の粗大粒径も見られ実施例1,2に比べ相当大きくなっていた。又粒子間距離は1〜2μ前後となり、実施例1,2に比べ約10倍前後ほど広くなっていた。又PA中のKWは分散しているがKWの周囲は空洞が発生しており接着性が悪い。このようなモルフオロジー構造になったのはPA,MP,Cを同時にブレンド後押出機ホッパーより投入溶融混練を実施すればMPの反応性基である無水酸基とCの反応性基であるアミノ基が反応し両者が本来の目的(PAとの反応)を達せず相当失活する為と考えられる。本来であればMPの反応性基である酸無水基はPAのアミノ末端基と反応しPA中にMPが微分散接着し、伸度、アイゾット衝撃を向上させる働きをする。又C中の反応性基であるアミノ基はKWとPAのカルボキシル末端基と反応しPAとKWが化学的に接着(結合し強度、弾性率、伸度を向上させる働きをもつ。
【0030】比較例7はMPとCを同時にブレンド後押出機ホッパー口より投入しMPとCを溶融混練後押出機途中よりPA,KWを投入しさらに溶融混練を実施し押出した。この樹脂特性値は強度、伸度、アイゾット衝撃が大幅に低下した。成形品のモルフオロジー構造は比較例6とよくにているがKWとPAの接着性がさらに悪いためモルフオロジー観察時KWの脱落あとが多数みられる。
【0031】比較例8の組成物では成形品のモルフオロジー構造は強化剤はPA中に分散しているが、その周囲は巨大なSEBS(粒径10〜70μ)がおおいかぶさっており、微分散したSEBSはほとんどみられなかった。このため樹脂特性値は劣っていた。
【0032】
【表1】


【0033】実施例 3〜5、比較例 9〜10ポリアミド樹脂として東洋紡ナイロン6T−803(略号PA)、東洋紡ナイロン66T−662(略号PA、NY−66、実施例3のみ)、ポリプロピレン(略号PP)、酸変性PP、強化剤としてタルクまたはガラス繊維(略号GE)およびカップリング剤を用い、表2に示した組成のもとに東芝2軸押出機を用い、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを80℃真空乾燥機で16時間乾燥後射出成形し、テストピースを作成した。このテストピースを使用し、成形品のモルフオロジー形態の観察および樹脂特性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0034】実施例3,4および5においては実施例1に準じたブレンド法によった。モルフオロジー構造については、何れの実施例のものも強化剤はポリアミド樹脂中に均一に分散接着しており、PPも微粒子(実施例3及び5では平均約0.3μ、実施例4では平均約0.5μ)としてポリアミド樹脂中に均一に分散し、しかも強化剤のまわりにはPPはほとんど存在しなかった。
【0035】比較例9においては比較例4に準じたブレンド法によった。モルフオロジー構造については、強化剤はポリアミド樹脂中に分散しているが、その周囲にはPPがおおいかぶさっており直接ポリアミド樹脂と接着している状態にはなかった。なおPPの粒子は約0.5〜2μの粒子径のもとにポリアミド樹脂中に分散接着していた。
【0036】比較例10においては実施例4に準じたブレンド法によった(但し、酸変性PPは使用せず)。モルフオロジー構造については、強化剤はポリアミド樹脂中に分散接着していたが、PPは微分散せずポリアミド樹脂中に粒径10〜80μの粗大粒子として存在した。
【0037】
【表2】


【0038】表1及び表2に示された結果から明らかなように、本発明のポリアミド樹脂組成物から得られる成形物は強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性いずれにおいても優れていることが判る。
【0039】
【発明の効果】以上述べた通り、本発明のポリアミド樹脂組成物はポリアミド樹脂、強化剤とカップリング剤又はカップリング剤処理強化剤、ポリアミド樹脂以外の反応性基を有する熱可塑性樹脂を含有し、かつ強化剤および該熱可塑性樹脂は実質的に互いに独立してポリアミド樹脂内に均一に微分散しており、かつ該熱可塑性樹脂の分散平均粒径は約2μ以下であるという特定のモルフオロジー構造を有するから、それから製造した成形物は、強度、剛性、伸度、耐衝撃性、耐熱性いずれにおいても優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の樹脂組成物から得られた成形品の断面組織を示す電子顕微鏡写真(倍率×10000)である。
【図2】比較例5の樹脂組成物から得られた成形品の断面組織を示す電子顕微鏡写真(倍率×10000)である。
【図3】比較例5の樹脂組成物から得られた成形品の他の部分の断面組織を示す電子顕微鏡写真(倍率×10000)である。
【図4】比較例6の樹脂組成物から得られた成形品の断面組織を示す電子顕微鏡写真(倍率×10000)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリアミド樹脂、強化剤とカップリング剤またはカップリング剤処理した強化剤および前記ポリアミド樹脂以外の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂を含有する組成物であって、該強化剤およびポリアミド樹脂以外の反応性官能基を有する熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂中に実質的に互いに独立して均一に分散しており、上記熱可塑性樹脂の分散平均粒径が約2μ以下であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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