説明

ポリアミド系マット調複層フィルム

【課題】ヘイズが高く、表面が艶消し状態であり、和紙風合いを呈する、高級感のあるポリアミド系マット調複層フィルムを提供する。
【解決手段】ポリアミド系樹脂からなる基材層(A層)の片面に、マット層(B層)が積層されたフィルムであって、B層がポリアミド系樹脂を主成分とする樹脂とJIS K5101に準じて測定される吸油量が220ml/100g以下の微粉末シリカからなり、フィルムのヘイズが40%以上、かつB層の表面光沢度が20%以下であることを特徴とするポリアミド系マット調複層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミド系樹脂によって形成された積層フィルムに関するものであり、より詳しくは、優れたマット調によって高級感を呈し、さらに機械的特性が良好である包装用途に好適なポリアミド系マット調複層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド系樹脂フィルムは、良好な機械的特性、熱的特性及び透明性を有しているため、包装用途、特に食品包装用途に広く用いられている。近年、用途の多様化の中の一用途として、意匠性を高めるために、フィルム表面に細かな凹凸を設けてすりガラス状としたマット調フィルムが求められている。このようなマット調とすることにより、フィルム表面の光沢をなくして(艶消し)内容物をぼかし、さらには和紙風合いを付与することにより、高級感のある包装体が得られる。フィルムにマット調を付与する手段のひとつとしては、フィルムを構成する樹脂中に無機粒子や有機合成樹脂などを含有させる方法が挙げられる(例えば、特許文献1、2)。
【0003】
特許文献1には、特定の二酸化珪素を一定量添加することによってフィルムの表面を艶消し状にする方法が記載されている。これは、フィルムの表面に微小な突起を形成させ、光を乱反射させるという手段である。しかしながら、特許文献1に記載されているフィルムは単層構造であるため、フィルム内部に二酸化珪素によるボイドが発生しやすく、耐屈曲性などの機械的特性の悪化にも繋がる。
【0004】
特許文献2は、特定の粘度差を有するポリアミド樹脂を含有する混合層を設けることにより、フィルムにマット調を付与することが記載されている。しかしながら、この方法で得られたフィルムは、ヘイズ値は良好であるものの、表面の艶消し効果が足りないため光沢度が高く、和紙風合いのような高級感のあるフィルムとはならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−279401号公報
【特許文献2】特開2008−173875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、機械的特性に優れ、かつヘイズが高く、表面が艶消し状態であり、和紙風合いを呈する、高級感のあるポリアミド系マット調複層フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者らは鋭意検討した結果、ポリアミド系樹脂基材層の片面に、特定の微粉末シリカを添加した層を設けることによって、フィルムの機械的特性を損なうことなく、高級感のあるマット調が付与できることを見出した。
本発明の要旨は下記の通りである。
(1)ポリアミド系樹脂からなる基材層(A層)の片面に、マット層(B層)が積層されたフィルムであって、B層がポリアミド系樹脂を主成分とする樹脂とJIS K5101に準じて測定される吸油量が220ml/100g以下の微粉末シリカからなり、フィルムのヘイズが40%以上、かつB層の表面光沢度が20%以下であることを特徴とするポリアミド系マット調複層フィルム。
(2)B層におけるポリアミド系樹脂と微粉末シリカの質量比が98.0/2.0〜95.0/5.0であることを特徴とする(1)に記載のポリアミド系マット調複層フィルム。
(3)B層の厚みが3μm以上であって、かつ複層フィルム厚みの1/2以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリアミド系マット調複層フィルム。
(4)B層の微粉末シリカの平均粒子径が2.0〜5.0μmであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のポリアミド系マット調複層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械的特性に優れ、かつヘイズが高く、表面が艶消し状態であり、和紙風合いを呈する、高級感のあるポリアミド系マット調複層フィルムが提供され、包装用途等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のフィルムは、基材層(A層)とマット層(B層)を有する複層フィルムである。
【0011】
本発明において、A層、B層に用いるポリアミド系樹脂は、一般に分子鎖中にアミド基を有する高分子であり、代表的なものとしては、6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、ポリ(メタキシレンアジパミド)等が挙げられる。また、ポリアミドとしては、前述のポリアミドを混合したものでもく、6−ナイロン/6,6−ナイロン、6−ナイロン/6,10ナイロン、6−ナイロン/12−ナイロン、6−ナイロン/6,10−ナイロン/12−ナイロン等の2元以上の共重合体でもよく、さらにはこれらが混合されたものであってもよい。上記のなかでも、6−ナイロンが最も入手しやすく、汎用性が高いため好ましい。なお、A層を構成するポリアミド系樹脂としては、延伸性・酸素バリアとの点から、ポリ(メタキシレンアジパミド)のような芳香族ポリアミドを用いることもできる。
【0012】
ポリアミド系樹脂の分子量の指標となる相対粘度は、機械物性の面から1.5〜5.0の範囲が好ましく、2.5〜4.0の範囲がより好ましい。ここで、相対粘度は96質量%硫酸中、濃度1g/dl、温度25℃で測定された値である。
【0013】
B層に用いる微粉末シリカは、JIS K5101に準じて測定される吸油量が220ml/100g以下である必要があり、好ましくは200ml/100g以下である。前記吸油量が220ml/100gを超えるとポリアミド樹脂中に微粉末シリカの分散性が悪くなり、ヘイズや光沢度が劣るものとなり好ましくない。
【0014】
微粉末シリカを形成する方法としては、特に限定されないが、一般には合成シリカを粉砕し分級する方法が採用されるが、合成時に直接に球状微粒子を形成する方法を採用することも可能である。
【0015】
B層におけるポリアミド系樹脂と微粉末シリカとの質量比は、98.0/2.0〜95.0/5.0であることが好ましい。前記質量比が95.0/5.0未満の場合、フィッシュアイやボイドの発生による機械特性が低下する傾向にある。逆に、98.0/2.0を超える場合、フィルム表面における突起の形成が不十分となり、マット効果が得られない場合がある。
【0016】
B層に用いる微粉末シリカの平均粒子径は2.0μm〜5.0μmの範囲であることが好ましい。2.0μmより小さいとフィルム表面に突起が形成しにくくなる。5.0μmを超えると樹脂中のボイド、機械特性低下の原因となる場合がある。
【0017】
B層において、微粉末シリカのポリアミド樹脂への添加は製造の任意段階で行うことができる。たとえば、ポリアミド樹脂の重合開始前または重合開始後の任意の時期に内部添加する方法、ポリアミド樹脂とシリカを押出機中で溶融混練する方法、ポリアミド樹脂とシリカをドライブレンドする方法が挙げられる。
【0018】
A層には、ポリオレフィン類、ポリアミドエラストマー類、ポリエステルエラストマー類等の耐屈曲ピンホール性改良剤を添加することができる。また、これらのものを複数併用してもよい。
【0019】
A層には必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、帯電防止剤、無機微粒子等の各種の添加剤を1種あるいは2種以上を添加してもよい。
【0020】
A層の表面のアンチブロッキング性を向上させるために、各種無機系滑剤や有機系滑剤が1種あるいは2種以上配合されていてもよい。これらの滑剤としては、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、カオリナイト、ハイドロタルサイト、層状ケイ酸塩、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等が挙げられる。
【0021】
本発明のポリアミド系マット調複層フィルムの総厚みは、特に限定されないが、好ましくは6〜25μm、より好ましくは12〜25μmである。厚みが6μm未満ではポリアミドフィルムの特徴である強靭性が十分発揮されないことがある。25μmを超える場合はフィルムが硬くなり、かつ質量が重くなる。
【0022】
本発明においては、B層の厚みは3μm以上であって、かつ複層フィルム厚みの1/2以下である範囲が好ましい。B層厚みが3μm未満では、B層表面のヘイズや光沢度の面で十分なマット調が得られない。B層厚みが複層フィルムの1/2を超えるとフィルムの機械特性が低下する。
【0023】
本発明において、B層の光沢度は20%以下とする必要があり、15%以下が好ましい。光沢度が20%を超えると、マット調が不十分のため、目的とする和紙風合いが得られない。
【0024】
本発明において、フィルム表面のヘイズは40%以上とする必要がある。40%未満の場合、和紙風合いが得られないため好ましくない。
【0025】
本発明のポリアミド系マット調複層フィルムは、A層側にシーラント層を張り合わせ、ラミネートして使用されることが好ましい。ラミネート方法はドライラミネート、押出ラミネート等、ポリアミドフィルムに通常使用している方法で行うことが可能である。
【0026】
本発明のポリアミド系マット調複層フィルムの製造方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることができるが、中でも樹脂を押出して未延伸フィルムを得て、これを二軸延伸することによって得られる方法が好ましい。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例・比較例における各種物性の評価方法は、次のとおりである。
【0028】
(1)吸油量:
JIS−K5101に準じて測定した。
(2)ヘイズ(%):
日本電色社製ヘイズメーター(NDH 2000)を用い、JIS K 7105に準じて、全光線透過率(Tt)、拡散透過率(Td)の測定を行い、下記式に基づいてヘイズを計算した。
ヘイズ(%)=(Td/Tt)×100
【0029】
(3)光沢度(%)
村上色彩技術研究所社製(GROSS METER GM−26 PRO)を用い、JIS K 7105に準じて、入射角20°で、フィルムの表面を測定した。
【0030】
(4)平均粒子径
レーザー回折式粒度分布測定装置(SALD−2200、株式会社島津製作所製)にて、測定した。
【0031】
[ポリアミド系樹脂]
ポリアミド系樹脂としては、ナイロン6樹脂(ユニチカ社製A1030BRF、融点220℃、相対粘度3.1)を用いた。
【0032】
[シリカ]
シリカ−1:平均粒子径2.7μm、吸油量170ml/100g。
シリカ−2:平均粒子径4.1μm、吸油量220ml/100g。
シリカ−3:平均粒子径3.9μm、吸油量310ml/100g。
【0033】
[実施例1]
<B層を形成する混練樹脂の製造>
池貝製作所製PCM−30を用い、A1030BRF/シリカ−1(質量比)=97.5/2.5のブレンド物を供給口から仕込み、シリンダー温度230℃〜270℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10Kg/hrの条件で溶融混練した。得られた混練物をストランドで押出し、ペレタイザーでカットしてシリカを含有するポリアミドペレットとし、更に真空乾燥(80℃、24hr)を実施した。
<複層延伸フィルムの製造>
次いで、B層を形成する混練樹脂を押出機により溶融させてTダイへ供給するとともに、A層になる樹脂A1030BRFを別の押出機により溶融させてTダイへ供給して、混練樹脂とA1030BRFとを積層しながらシート状吐出し、20℃に温調した金属ドラムに巻き付け、冷却して巻き取ることにより、B層(マット層)とA層(基材層)との2層構造を有する約150μmの厚みの積層フィルム(未延伸フィルム)を製造した。この未延伸フィルムの端部をテンター式同時二軸延伸装置のクリップで保持し、180℃の条件下で、MD方向に3.0倍、TD方向に3.3倍の延伸倍率で同時二軸延伸した後、TD方向の弛緩率を5%として、210℃で4秒間の熱処理を施し、室温まで徐冷し、厚さがB層/A層=5.0/10.0(μm)のポリアミド系マット調複層フィルムを得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
[実施例2と比較例2]
B層のA1030BRF/シリカ−1の質量比を表1に示した比率に変更した以外は、実施例1と同様にポリアミド系マット調複層フィルムを得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0036】
[実施例3]
B層のシリカ種類を表1に示した種類に変更した以外は、実施例1と同様にポリアミド系マット調複層フィルムを得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0037】
[実施例4]
B層/A層の厚み構成を表1に示した構成に変更した以外は、実施例3と同様にポリアミド系マット調複層フィルムを得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
B層のシリカ種類及びA1030BRF/シリカの重量比を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にポリアミド系マット調複層フィルムを得た。物性の評価結果を表1に示す。
【0039】
[比較例3]
B層/A層の厚み構成を表1に示した構成に変更した以外は、実施例1と同様にポリアミド系マット調複層フィルムを得た。物性の評価結果を表1に示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド系樹脂からなる基材層(A層)の片面に、マット層(B層)が積層されたフィルムであって、B層がポリアミド系樹脂を主成分とする樹脂とJIS K5101に準じて測定される吸油量が220ml/100g以下の微粉末シリカからなり、フィルムのヘイズが40%以上、かつB層の表面光沢度が20%以下であることを特徴とするポリアミド系マット調複層フィルム。
【請求項2】
B層におけるポリアミド系樹脂と微粉末シリカの質量比が98.0/2.0〜95.0/5.0であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド系マット調複層フィルム。
【請求項3】
B層の厚みが3μm以上であって、かつ複層フィルム厚みの1/2以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド系マット調複層フィルム。
【請求項4】
B層の微粉末シリカの平均粒子径が2.0〜5.0μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド系マット調複層フィルム。


【公開番号】特開2012−158031(P2012−158031A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18213(P2011−18213)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】