説明

ポリアミド系複合材料の製造方法

【課題】地球温暖化の原因である二酸化炭素を利用することが可能なポリアミド系複合材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリアミドの原料となるアミノ基及び/又はイミノ基を有する第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液中に二酸化炭素を導入し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめ、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液を得る工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物を重合せしめ、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料であるポリアミド系複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするポリアミド系複合材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド系複合材料の製造方法に関し、より詳しくは、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩とを含むポリアミド系複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素は、地球温暖化の原因である温室効果ガスの1つであり、近年、その排出量の削減が重要な課題となっている。しかしながら、二酸化炭素の排出量をゼロにすることは極めて困難であるため、排出された二酸化炭素を分離・回収する様々な方法が必要となる。このような二酸化炭素の分離・回収方法としては、例えば、液体により吸収させて回収する方法(吸収法)、吸着剤により吸着させた後、脱離させて回収する方法(吸着・脱離法)、分離膜により分離して回収する方法(膜分離法)等が提案されている。
【0003】
例えば、特開2008−168227号公報(特許文献1)には、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−エチル−2−アミノエタノール、及び必要に応じてN−メチルジエタノールアミンを特定の割合で含有する吸収液に二酸化炭素を吸収させた後、脱離させて回収する二酸化炭素の分離回収方法が開示されており、回収した二酸化炭素の用途として、化学品や高分子物質の合成原料、食品冷凍用冷剤が提案されている。しかしながら、このような二酸化炭素の吸収・脱離を利用した方法においては、二酸化炭素を脱離させる際に、熱エネルギーが必要となるという問題があった。また、回収した二酸化炭素を貯蔵する際には、二酸化炭素の再放出を防ぐ手段を講じる必要があった。
【0004】
また、特開2005−97072号公報(特許文献2)には、塩化アンモニウム等の強酸と弱塩基の塩及びアルカリ土類金属含有物質を含有する水溶液に炭酸ガスを接触させてアルカリ土類金属の炭酸塩を生成させる炭酸ガスの固定化方法が開示されており、アルカリ土類金属の炭酸塩である炭酸カルシウムの用途として、プラスチックにおける充填材等が例示されている。さらに、J.Appl.Polym.Sci.、2006年、第100巻、989〜999頁(非特許文献1)には、ポリアミド66と沈降性炭酸カルシウム粒子と溶融混練して得た複合体が高い剛性を示すことが開示されている。
【0005】
一方、有機ポリマーと無機粒子とを含有する組成物は、無機粒子の分散性等の組成物の均一性に依存して、その機械的特性が大きく変化することが知られている。このため、有機ポリマー中の無機粒子の分散性の制御に関する検討や、有機ポリマーと無機粒子の特性を兼ね備えた材料である有機/無機複合材料の開発が盛んに行なわれている。例えば、DICテクニカルレビュー、2008年、第14巻、1〜7頁(非特許文献2)には、ポリアミドとシリカ、アルミナ等の無機酸化物との有機無機ナノ複合体が開示されている。このナノ複合体は、ポリアミドの合成と無機酸化物の合成とを同時に行うことによって、無機酸化物のナノ粒子をポリアミド中に均一に分散させたものである。
【0006】
しかしながら、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料を製造する場合に、前記非特許文献2に記載のナノ複合体の製造方法を適用して、ポリアミドの合成とアルカリ土類金属炭酸塩の合成とを同時に行うと、アルカリ土類金属炭酸塩の合成が酸−塩基中和反応を利用するものであるために制御が容易ではなく、得られる複合材料において、アルカリ土類金属炭酸塩の特性が十分に発現しないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−168227号公報
【特許文献2】特開2005−97072号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Cayer−Barriozら、J.Appl.Polym.Sci.、2006年、第100巻、989〜999頁
【非特許文献2】中嶋道也ら、DICテクニカルレビュー、2008年、第14巻、1〜7頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、地球温暖化の原因である二酸化炭素を利用することが可能なポリアミド系複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヘキサメチレンジアミン等のアミノ基及び/又はイミノ基を有するポリアミド原料化合物が二酸化炭素吸収能を示すこと、また、このポリアミド原料化合物はジカルボン酸等の酸成分の共存下においても二酸化炭素吸収能を示すこと、さらに、アミノ基及び/又はイミノ基を有するポリアミド原料化合物がアミノ酸等のカルボキシル基を有するポリアミド原料化合物やラクタム等のカルボキシル基由来の構成単位を有するポリアミド原料化合物であっても、それらが二酸化炭素吸収能を示すことを見出した。そして、前記ポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素はアルカリ土類金属含有化合物と反応して容易にアルカリ土類金属炭酸塩を形成するとともに、二酸化炭素が脱離した前記ポリアミド原料化合物を、前記アルカリ土類金属炭酸塩の存在下で重合せしめることによってポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のポリアミド系複合材料の製造方法は、
ポリアミドの原料となるアミノ基及び/又はイミノ基を有する第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液(好ましくは、pHが7.0〜14.0である溶液)中に二酸化炭素を導入し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめ、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液を得る工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物を重合せしめ、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料であるポリアミド系複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明において、前記アルカリ土類金属としては、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属が好ましく、前記アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の炭酸塩が好ましい。また、前記アルカリ土類金属化合物としては、アルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。
【0013】
また、本発明において、前記第一のポリアミド原料化合物としては、ジアミン、ラクタム及びアミノ酸からなる群から選択される少なくとも一つの化合物が好ましく、前記第一のポリアミド原料化合物がジアミンである場合には、前記ポリアミド系複合材料を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物としてのジアミンと、第二のポリアミド原料化合物としてのジカルボン酸とを共縮重合せしめて前記ポリアミド系複合材料を得ることが好ましく、また、前記第一のポリアミド原料化合物がラクタム又はアミノ酸である場合には、前記ポリアミド系複合材料を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物としてのラクタム又はアミノ酸を重縮合せしめて前記ポリアミド系複合材料を得ることが好ましい。
【0014】
本発明のポリアミド系複合材料の製造方法においては、
前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、アルカリ土類金属含有化合物の非存在下で前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめた後、前記懸濁液を得る工程において、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において得られた溶液(好ましくは、pHが6.0〜11.0である溶液)とアルカリ土類金属含有化合物とを混合することよって、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめてもよいし、
前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、アルカリ土類金属含有化合物の存在下で前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめ、同時に、前記懸濁液を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめてもよい。
【0015】
なお、本発明のポリアミド系複合材料の製造方法によってポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩とが複合化される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のポリアミド系複合材料の製造方法においては、アミノ基及び/又はイミノ基を有するポリアミド原料化合物を含有する溶液中でアルカリ土類金属炭酸塩を生成させるため、生成した炭酸塩の粒子の表面に存在する炭酸イオンがアミノ基やイミノ基と強い相互作用を示し、また、ポリアミド原料化合物中にカルボキシル基やカルボニル基が存在する場合には、炭酸塩の粒子の表面に存在するアルカリ土類金属イオンがこれらの基と相互作用を示すため、アルカリ土類金属炭酸塩と溶媒との表面エネルギーが減少することによって粒子成長が抑制され、微粒子状のアルカリ土類金属炭酸塩が形成されると推察される。そして、このような微粒子状のアルカリ土類金属炭酸塩の表面に存在するアルカリ土類金属イオンはポリアミドのカルボニル基と、炭酸イオンはイミノ基との親和性を示すため、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との密着性が高まり、複合化されると推察される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、地球温暖化の原因である二酸化炭素を利用して、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩とを含むポリアミド系複合材料を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
本発明のポリアミド系複合材料の製造方法は、
ポリアミドの原料となるアミノ基及び/又はイミノ基を有する第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液中に二酸化炭素を導入し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめ、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液を得る工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物を重合せしめ、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料であるポリアミド系複合材料を得る工程と、
を含むものである。
【0019】
ここでは、先ず、本発明に用いられる原料について説明する。
【0020】
<第一のポリアミド原料化合物>
本発明においては、ポリアミドの原料として、アミノ基及び/又はイミノ基を有する第一のポリアミド原料化合物を使用する。このような第一のポリアミド原料化合物としては、ポリアミドの原料として通常用いられるアミノ基及び/又はイミノ基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、アミノ基及び/又はイミノ基を2つ以上有するアミン類、アミノ基及び/又はイミノ基とカルボキシル基とを有するアミノ酸、アミノ基とカルボキシル基との脱水縮合により形成された環構造を有するラクタム等が挙げられる。このような第一のポリアミド原料化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記アミン類としては、下記式(1):
N−R−NH (1)
で表されるジアミン、前記アミノ酸としては、下記式(2):
N−R−COOH (2)
で表されるアミノ酸、前記ラクタムとしては、下記式(3):
【0022】
【化1】

【0023】
で表されるラクタムが好ましい。
【0024】
前記式(1)〜(2)中のRは、アルキレン基又はアリーレン基を表し、前記式(3)中のRはアルキレン基を表す。前記アルキレン基及び前記アリーレン基は置換基を有していてもよい。また、前記アルキレン基は直鎖状のものであっても分枝状のものであってもよい。
【0025】
このようなアルキレン基の炭素数としては特に制限はないが、2〜20が好ましく、4〜16がより好ましく、4〜12が特に好ましい。アルキレン基の炭素数が前記下限未満になると、ジアミン、アミノ酸、及びラクタムの蒸発温度が低くなり、ポリアミド合成に使用することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ジアミン、アミノ酸、及びラクタムの水溶性が低下し、二酸化炭素を吸収しにくくなる傾向にある。
【0026】
前記アリーレン基の炭素数としては特に制限はないが、6〜20が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜12が特に好ましい。アリーレン基の炭素数が前記上限を超えると、ジアミン及びアミノ酸の水溶性が低下し、二酸化炭素を吸収しにくくなる傾向にある。
【0027】
本発明に用いられるジアミンとしては、例えば、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6Iの原料であるヘキサメチレンジアミン、ナイロン9Tの原料であるノナンジアミン、ナイロンM5Tの原料であるメチルペンタジアミン、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドの原料であるp−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0028】
また、アミノ酸としては、例えば、ナイロン6の原料であるε−アミノカプロン酸、タンパク質の原料である、1分子中に2つのカルボキシル基を有するアミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸)、1分子中に2つのアミノ基を有するアミノ酸(リシン、アルギニン、ヒスチジン)、グリシン、アラニン、ロイシン、セリン、システイン、グルタミン、アスパラギン、フェニルアラニン、チロシン等が挙げられる。
【0029】
さらに、ラクタムとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン612の原料であるε−カプロラクタム、ナイロン11の原料であるウンデカンラクタム、ナイロン12、ナイロン612の原料であるラウリルラクタム等が挙げられる。
【0030】
<第二のポリアミド原料化合物>
本発明において、前記第一のポリアミド原料化合物としてジアミン等のアミン類を使用する場合には、ポリアミドの原料として、カルボキシル基を有する第二のポリアミド原料化合物を併用する必要がある。このような第二のポリアミド原料化合物としては、ポリアミドの原料として通常用いられるカルボキシル基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、カルボン酸類が挙げられ、中でも、下記式(4):
HOOC−R−COOH (4)
で表されるジカルボン酸が好ましい。このようなカルボン酸類は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
前記(4)中のRは、アルキレン基又はアリーレン基を表す。前記アルキレン基及び前記アリーレン基は置換基を有していてもよい。また、前記アルキレン基は直鎖状のものであっても分枝状のものであってもよい。
【0032】
このようなアルキレン基の炭素数としては特に制限はないが、2〜20が好ましく、4〜16がより好ましく、4〜12が特に好ましい。アルキレン基の炭素数が前記下限未満になると、ジカルボン酸の蒸発温度が低くなり、ポリアミド合成に使用することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ジカルボン酸の水溶性が低下する傾向にある。
【0033】
前記アリーレン基の炭素数としては特に制限はないが、6〜20が好ましく、6〜16がより好ましく、6〜12が特に好ましい。アリーレン基の炭素数が前記上限を超えると、ジカルボン酸の水溶性が低下する傾向にある。
【0034】
このようなジカルボン酸としては、例えば、ナイロン66の原料であるアジピン酸、ナイロン610の原料であるセバシン酸、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロンM5T、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミドの原料であるテレフタル酸、ナイロン6I、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドの原料であるイソフタル酸等が挙げられる。
【0035】
<アルカリ土類金属含有化合物>
本発明においては、アルカリ土類金属炭酸塩の原料として、二酸化炭素と反応し得るアルカリ土類金属含有化合物を使用する。このようなアルカリ土類金属含有化合物としては、二酸化炭素と反応してアルカリ土類金属炭酸塩を形成するものであれば特に制限されないが、二酸化炭素と反応しやすいという観点から、アルカリ土類金属の水酸化物が好ましい。また、アルカリ土類金属としては、高弾性率、低熱膨張係数、難燃性、高靭性、高強度、高接着性という優れた特性をポリアミドに付与することが可能な炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムが得られるという観点から、カルシウム、マグネシウムが好ましい。このようなアルカリ土類金属は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0036】
<溶媒>
本発明において、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液に用いられる溶媒としては特に制限はないが、前記溶液中に二酸化炭素を導入するという観点から、水が好ましい。このような溶媒においては、アミン類などの溶解度を調整、制御する目的で、アルコールなどの溶媒を混合してもよい。また、二酸化炭素を吸収せしめた後に、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液とアルカリ土類金属含有化合物及び/又は前記第二のポリアミド原料化合物とを混合する場合には、アルカリ土類金属含有化合物及び/又は前記第二のポリアミド原料化合物は溶媒に溶解又は懸濁させて混合することが好ましい。このとき、使用する溶媒としては、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液と混合しやすいという観点から、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液に使用した溶媒と同じ溶媒が好ましい。
【0037】
<ポリアミド系複合材料の製造方法>
次に、本発明のポリアミド系複合材料の製造方法について説明する。本発明のポリアミド系複合材料の製造方法は、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液中に二酸化炭素を導入し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる工程と、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめ、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液を得る工程と、前記第一のポリアミド原料化合物を重合せしめ、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料であるポリアミド系複合材料を得る工程と、を含むものである。本発明においては、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程を完了した後、前記懸濁液を得る工程を実施してもよいし(方法(i))、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程と前記懸濁液を得る工程とを同時に実施してもよい(方法(ii))。
【0038】
前記方法(i)としては、先ず、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、前記アルカリ土類金属含有化合物の非存在下で、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめ、次いで、前記懸濁液を得る工程において、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において得られた溶液とアルカリ土類金属含有化合物とを混合することによって、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめる方法が挙げられる。
【0039】
一方、前記方法(ii)としては、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、前記アルカリ土類金属含有化合物の存在下で、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめ、同時に、前記懸濁液を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、系内に存在する前記アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめる方法が挙げられる。
【0040】
このような方法(i)及び(ii)の好適な実施態様としては、それぞれ、以下のような方法(i−1)〜(i−2)及び方法(ii−1)〜(ii−2)が挙げられる。
【0041】
<方法(i−1)>
先ず、前記第一のポリアミド原料化合物を含有し、前記アルカリ土類金属含有化合物を含有しない溶液中に二酸化炭素を導入し、前記アルカリ土類金属含有化合物の非存在下で、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる。なお、二酸化炭素を導入する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で二酸化炭素を導入することが好ましい。また、二酸化炭素を吸収せしめた前記第一のポリアミド原料化合物は、第一のポリアミド原料化合物の炭酸塩として存在していてもよい。
【0042】
二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液のpHとしては、7.0〜14.0が好ましく、7.5〜13.0がより好ましい。二酸化炭素を導入する前の溶液のpHが前記下限未満になると、溶液中に二酸化炭素が溶解しにくく、第一のポリアミド原料化合物による二酸化炭素の吸収量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、二酸化炭素を導入しても溶液のpHが低下しにくいため、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にある。また、容器の腐食や人体(特に、皮膚)への障害が大きい。なお、二酸化炭素を導入する前の溶液のpHは、前記第一のポリアミド原料化合物の濃度を変更することによって調整することができる。
【0043】
また、二酸化炭素を吸収せしめた後の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液(すなわち、二酸化炭素を吸収せしめる工程で得られる溶液)のpHとしては、6.0〜11.0が好ましく、6.5〜10.5がより好ましく、7.0〜10.0が特に好ましい。二酸化炭素を吸収せしめた後の溶液のpHが前記下限未満になると、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液中にアルカリ土類金属含有化合物が残存し、ポリアミドの生成反応が阻害され、しかも、重合できないモノマーが残留する傾向にある。なお、二酸化炭素を吸収せしめた後の溶液のpHは、二酸化炭素の導入量を変更することによって調整することができる。
【0044】
また、この方法(i−1)においては、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液と別に、前記アルカリ土類金属含有化合物と前記第二のポリアミド原料化合物とを含有する溶液を調製する。なお、この溶液は懸濁液であってもよい。また、この溶液(懸濁液を含む)を調製する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で調製することが好ましい。さらに、前記アルカリ土類金属含有化合物と前記第二のポリアミド原料化合物は、互いに反応して塩を形成していてもよい。
【0045】
この溶液(懸濁液を含む)のpHとしては、5.5〜10.0が好ましく、6.0〜9.5がより好ましい。前記溶液のpHが前記下限未満になると、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液中にアルカリ土類金属含有化合物が残存し、ポリアミドの生成反応が阻害され、しかも、重合できないモノマーが残留する傾向にある。なお、前記アルカリ土類金属含有化合物と前記第二のポリアミド原料化合物とを含有する溶液のpHは、前記アルカリ土類金属含有化合物と前記第二のポリアミド原料化合物の濃度を変更することによって調整することができる。
【0046】
次に、このようにして調製した、二酸化炭素を吸収せしめた前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液と、前記アルカリ土類金属含有化合物と前記第二のポリアミド原料化合物とを含有する溶液とを混合する。これにより、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とが反応してアルカリ土類金属炭酸塩が生成し、前記第一のポリアミド原料化合物と前記第二のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液が得られる。なお、前記溶液を混合する際の温度としては特に制限はないが、前記アルカリ土類金属炭酸塩の生成が室温でも進行するため、省エネルギーの観点から、室温で混合することが好ましい。また、前記第一のポリアミド原料化合物と前記第二のポリアミド原料化合物は、互いに反応して塩を形成していてもよい。
【0047】
このような方法(i−1)においては、第一のポリアミド原料化合物と第二のポリアミド原料化合物とを併用し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめた後にこれらを混合するという観点から、前記第一のポリアミド原料化合物としてはジアミン等のアミン類が、前記第二のポリアミド原料化合物としてはジカルボン酸等のカルボン酸類が用いられる。
【0048】
<方法(i−2)>
先ず、前記第一のポリアミド原料化合物を含有し、前記アルカリ土類金属含有化合物を含有しない溶液中に二酸化炭素を導入し、前記アルカリ土類金属含有化合物の非存在下で、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる。なお、二酸化炭素を導入する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で二酸化炭素を導入することが好ましい。また、二酸化炭素を吸収せしめた前記第一のポリアミド原料化合物は、第一のポリアミド原料化合物の炭酸塩として存在していてもよい。
【0049】
この方法(i−2)において使用可能な前記第一のポリアミド原料化合物の種類については、特に制限はないが、前記第一のポリアミド原料化合物としてジアミン等のアミン類を使用する場合には、第二のポリアミド原料化合物としてジカルボン酸等のカルボン酸類を、二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液に添加する必要がある。この場合、二酸化炭素を導入する前の溶液においては、前記第一のポリアミド原料化合物と前記第二のポリアミド原料化合物は、互いに反応して塩を形成していてもよい。
【0050】
二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液のpHとしては、6.5〜9.0が好ましく、7.0〜8.5がより好ましい。二酸化炭素を導入する前の溶液のpHが前記下限未満になると、溶液中に二酸化炭素が溶解しにくく、第一のポリアミド原料化合物による二酸化炭素の吸収量が減少する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、二酸化炭素を導入しても溶液のpHが低下しにくいため、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にある。なお、二酸化炭素を導入する前の溶液のpHは、前記第一のポリアミド原料化合物の濃度を変更(場合によっては前記第二のポリアミド原料化合物の濃度を併せて変更)することによって調整することができる。
【0051】
また、二酸化炭素を吸収せしめた後の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液(すなわち、二酸化炭素を吸収せしめる工程で得られる溶液)のpHとしては、6.5〜9.0が好ましく、7.0〜8.5がより好ましい。二酸化炭素を吸収せしめた後の溶液のpHが前記下限未満になると、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液中にアルカリ土類金属含有化合物が残存し、ポリアミドの生成反応が阻害され、ポリアミド複合材料の物性が低下する傾向にある。なお、二酸化炭素を吸収せしめた後の溶液のpHは、二酸化炭素の導入量を変更することによって調整することができる。
【0052】
また、この方法(i−2)においては、前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液と別に、前記アルカリ土類金属含有化合物を含有する溶液を調製する。なお、この溶液は懸濁液であってもよい。また、この溶液(懸濁液を含む)を調製する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で調製することが好ましい。
【0053】
この溶液(懸濁液を含む)のpHとしては、7.0〜13.0が好ましく、8.0〜12.0がより好ましい。前記溶液のpHが前記下限未満になると、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液中にアルカリ土類金属含有化合物が残存し、ポリアミドの生成反応が阻害され、ポリアミド複合材料の物性が低下する傾向にある。なお、前記アルカリ土類金属含有化合物を含有する溶液のpHは、前記アルカリ土類金属含有化合物の濃度を変更することによって調整することができる。
【0054】
次に、このようにして調製した、二酸化炭素を吸収せしめた前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液と、前記アルカリ土類金属含有化合物を含有する溶液とを混合する。これにより、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とが反応してアルカリ土類金属炭酸塩が生成し、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液が得られる。なお、前記溶液を混合する際の温度としては特に制限はないが、前記アルカリ土類金属炭酸塩の生成が室温でも進行するため、省エネルギーの観点から、室温で混合することが好ましい。また、得られた懸濁液に前記第二のポリアミド原料化合物が含まれる場合には、前記第二のポリアミド原料化合物は、前記第一のポリアミド原料化合物と反応して塩を形成していてもよい。
【0055】
<方法(ii−1)>
先ず、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属含有化合物とを含有する溶液(懸濁液を含む)中に二酸化炭素を導入し、前記アルカリ土類金属含有化合物の存在下で、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる。なお、二酸化炭素を導入する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で二酸化炭素を導入することが好ましい。また、二酸化炭素を吸収せしめた前記第一のポリアミド原料化合物は、第一のポリアミド原料化合物の炭酸塩として存在していてもよい。
【0056】
この方法(ii−1)においては、二酸化炭素を吸収せしめた溶液中に前記アルカリ土類金属含有化合物が存在するため、吸収された二酸化炭素(炭酸塩を含む)は、このアルカリ土類金属含有化合物と反応してアルカリ土類金属炭酸塩を形成し、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液が得られる。
【0057】
二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属含有化合物とを含有する溶液のpHとしては、7.5〜14.0が好ましく、8.0〜13.0がより好ましく、8.0〜12.5が特に好ましい。二酸化炭素を導入する前の溶液のpHが前記下限未満になると、溶液中に二酸化炭素が溶解しにくく、第一のポリアミド原料化合物による二酸化炭素の吸収量が減少する傾向にあり、また、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると、二酸化炭素を導入しても溶液のpHが低下しにくいため、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にあり、また、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液中にアルカリ土類金属含有化合物が残存し、ポリアミドの生成反応が阻害され、ポリアミド複合材料の物性が低下する傾向にある。なお、二酸化炭素を導入する前の溶液のpHは、前記第一のポリアミド原料化合物及び前記アルカリ土類金属含有化合物の濃度を変更することによって調整することができる。
【0058】
また、この方法(ii−1)においては、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属含有化合物とを含有する溶液と別に、前記第二のポリアミド原料化合物を含有する溶液を調製する。なお、この溶液は懸濁液であってもよい。また、この溶液(懸濁液を含む)を調製する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で調製することが好ましい。
【0059】
この溶液(懸濁液を含む)のpHとしては、5.0〜14.0が好ましく、6.0〜12.0がより好ましい。前記溶液のpHが前記下限未満になると、二酸化炭素との反応が十分に進行せず、炭酸イオンや重炭酸イオンが残存する傾向にある。なお、前記第二のポリアミド原料化合物を含有する溶液のpHは、前記第二のポリアミド原料化合物の濃度を変更することによって調整することができる。
【0060】
次に、このようにして調製した、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液と、前記第二のポリアミド原料化合物を含有する溶液とを混合する。これにより、前記第一のポリアミド原料化合物と前記第二のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液が得られる。なお、前記溶液を混合する際の温度としては特に制限はないが、前記アルカリ土類金属炭酸塩の生成が室温でも進行するため、省エネルギーの観点から、室温で混合することが好ましい。また、前記第一のポリアミド原料化合物と前記第二のポリアミド原料化合物は、互いに反応して塩を形成していてもよい。
【0061】
このような方法(ii−1)においては、第一のポリアミド原料化合物と第二のポリアミド原料化合物とを併用し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめた後にこれらを混合するという観点から、前記第一のポリアミド原料化合物としてはジアミン等のアミン類が、前記第二のポリアミド原料化合物としてはジカルボン酸等のカルボン酸類が用いられる。
【0062】
<方法(ii−2)>
先ず、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属含有化合物とを含有する溶液中に二酸化炭素を導入し、前記アルカリ土類金属含有化合物の存在下で、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる。なお、二酸化炭素を導入する際の温度としては特に制限はないが、省エネルギーの観点から、室温で二酸化炭素を導入することが好ましい。また、二酸化炭素を吸収せしめた前記第一のポリアミド原料化合物は、第一のポリアミド原料化合物の炭酸塩として存在していてもよい。
【0063】
この方法(ii−2)においては、二酸化炭素を吸収せしめた溶液中に前記アルカリ土類金属含有化合物が存在するため、吸収された二酸化炭素(炭酸塩を含む)は、このアルカリ土類金属含有化合物と反応してアルカリ土類金属炭酸塩を形成し、前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液が得られる。
【0064】
また、この方法(ii−2)において使用可能な前記第一のポリアミド原料化合物の種類については、特に制限はないが、前記第一のポリアミド原料化合物としてジアミン等のアミン類を使用する場合には、第二のポリアミド原料化合物としてジカルボン酸等のカルボン酸類を、二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液に添加する必要がある。この場合、二酸化炭素を導入する前の溶液において、前記第二のポリアミド原料化合物は、前記第一のポリアミド原料化合物と反応して塩を形成していてもよい。また、得られる懸濁液においても、前記第一のポリアミド原料化合物との塩を形成していてもよい。
【0065】
二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属含有化合物とを含有する溶液のpHとしては、7.5〜14.0が好ましく、8.0〜13.0がより好ましく、8.0〜12.5が特に好ましい。二酸化炭素を導入する前の溶液のpHが前記下限未満になると、溶液中に二酸化炭素が溶解しにくく、第一のポリアミド原料化合物による二酸化炭素の吸収量が減少する傾向にあり、また、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると、二酸化炭素を導入しても溶液のpHが低下しにくいため、吸収された二酸化炭素とアルカリ土類金属含有化合物との反応が進行しにくく、アルカリ土類金属炭酸塩の生成速度が低下する傾向にあり、また、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液中にアルカリ土類金属含有化合物が残存し、ポリアミドの生成反応が阻害され、ポリアミド複合材料の物性が低下する傾向にある。なお、二酸化炭素を導入する前の溶液のpHは、前記第一のポリアミド原料化合物及び前記アルカリ土類金属含有化合物の濃度を変更(場合によっては前記第二のポリアミド原料化合物の濃度を併せて変更)することによって調整することができる。
【0066】
本発明のポリアミド系複合材料の製造方法においては、このようにして得られる前記第一のポリアミド原料化合物と前記アルカリ土類金属炭酸塩を含有する懸濁液(場合によっては、前記第二のポリアミド原料化合物を含み、この第二のポリアミド原料化合物は前記第一のポリアミド原料化合物と塩を形成していてもよい)に加熱処理等を施して、前記懸濁液を濃縮する。このときの加熱条件としては懸濁液から溶媒を除去できる条件(温度、時間等)であれば特に制限はない。
【0067】
その後、得られた濃縮物に加熱処理を施すことによって、前記第一のポリアミド原料化合物を重合せしめ、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料であるポリアミド系複合材料を得ることができる。この場合の加熱条件としては、前記第一のポリアミド原料化合物が重合する条件であれば特に制限はなく、通常のポリアミドの合成条件を適用することができ、例えば、150〜300℃で0.5〜10時間加熱することによってポリアミドが形成される。
【0068】
本発明において、前記第一のポリアミド原料化合物としてジアミン等のアミン類を使用する場合には、前記第二のポリアミド原料化合物としてジカルボン酸等のカルボン酸類を使用し、これらを共縮重合せしめることによって前記ポリアミド系複合材料を得ることができる。また、前記第一のポリアミド原料化合物としてラクタム又はアミノ酸を使用する場合には、これを重縮合せしめることによって前記ポリアミド系複合材料を得ることができる。
【0069】
本発明のポリアミド系複合材料の製造方法によれば、ポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを予め均一に混合したり、合成したポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩とを溶融混練したりする必要がなく、ポリアミド中にアルカリ土類金属炭酸塩が均一に分散した複合材料を得ることが可能となる。このようにして得られるポリアミド系複合材料においては、前記アルカリ土類金属炭酸塩がポリアミドとの親和性が高い微粒子状で高度に分散して含まれているため、従来のポリアミド系複合材料に比べて、無機充填材混入による脆化が抑制され、優れた機械的特性を示す。その結果、従来のポリアミド系複合材料に比べて、無機成分の多いポリアミド系複合材料を製造することが可能となる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
先ず、ヘキサメチレンジアミン水溶液(濃度40質量%、pH12.5)442gに、メカニカルスターラーで撹拌しながら、二酸化炭素(30体積%)と窒素(70体積%)との混合気体を1L/分で導入して二酸化炭素を吸収させた。二酸化炭素の導入を約3.5時間継続した後、二酸化炭素の吸収量が飽和状態になったことを確認し、混合気体の導入を停止した。得られた水溶液(A液とする)のpHは9.28であった。また、二酸化炭素の全吸収量を表1に示す。一方、アジピン酸を含有する水懸濁液(濃度40質量%)558gに水酸化カルシウム113.4gを添加した。得られた水溶液(B液とする)のpHは6.0であった。
【0072】
前記A液と前記B液とを、メカニカルスターラーで撹拌しながら、徐々に混合した。これにより、アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの塩(AH塩)及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液が得られた。この懸濁液のpHは7.0であった。
【0073】
次に、この懸濁液を80℃で加熱濃縮して600gの含水白色固体を得た。この含水白色固体をオートクレーブに入れ、オートクレーブ内を窒素置換した後、220℃、0.9MPaで5時間保持した。次いで、オートクレーブ内の水蒸気を徐々に放出して内圧を常圧に戻した後、260〜280℃で2時間保持した。これにより白色の固体400gを得た。
【0074】
この白色固体の赤外吸収スペクトル及びX線回折スペクトルを測定したところ、ナイロン66と炭酸カルシウムとの複合体であることが確認された。
【0075】
(実施例2)
アジピン酸とヘキサメチレンジアミンとの塩(AH塩)の水溶液(塩濃度40質量%)1kgに水酸化カルシウム113.4gを添加した。得られた水溶液のpHは7.8であった。この水溶液に、メカニカルスターラーで撹拌しながら、二酸化炭素(30体積%)と窒素(70体積%)との混合気体を1L/分で導入して二酸化炭素を吸収させた。二酸化炭素の導入を約3.5時間継続した後、二酸化炭素の吸収量が飽和状態になったことを確認し、混合気体の導入を停止した。これにより、AH塩及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液を得た。この懸濁液のpHは8.3であった。また、二酸化炭素の全吸収量を表1に示す。
【0076】
次に、この懸濁液を80℃で加熱濃縮して630gの含水白色固体を得た。この含水白色固体をオートクレーブに入れ、オートクレーブ内を窒素置換した後、220℃、0.9MPaで5時間保持した。次いで、オートクレーブ内の水蒸気を徐々に放出して内圧を常圧に戻した後、260〜280℃で2時間保持した。これにより白色の固体400gを得た。
【0077】
この白色固体の赤外吸収スペクトル及びX線回折スペクトルを測定したところ、ナイロン66と炭酸カルシウムとの複合体であることが確認された。
【0078】
(実施例3)
AH塩の水溶液の代わりに6−アミノカプロン酸水溶液(濃度40質量%)500gを用い、水酸化カルシウムの添加量を56.7gに変更した以外は実施例2と同様にして6−アミノカプロン酸及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液を得た。この懸濁液のpHは8.6であった。また、二酸化炭素の全吸収量を表1に示す。なお、二酸化炭素導入前の懸濁液のpHは12.3であった。
【0079】
次に、AH塩及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液の代わりに6−アミノカプロン酸及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液を用いた以外は実施例2と同様にして白色の固体160gを得た。
【0080】
この白色固体の赤外吸収スペクトル及びX線回折スペクトルを測定したところ、ナイロン6と炭酸カルシウムとの複合体であることが確認された。
【0081】
(実施例4)
6−アミノカプロン酸水溶液の代わりにε−カプロラクタム水溶液(濃度40質量%)500gを用いた以外は実施例3と同様にしてε−カプロラクタム及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液を得た。この懸濁液のpHは9.3であった。また、二酸化炭素の全吸収量を表1に示す。なお、二酸化炭素導入前の懸濁液のpHは12.6であった。
【0082】
次に、6−アミノカプロン酸及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液の代わりにε−カプロラクタム及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液を用いた以外は実施例3と同様にして白色の固体180gを得た。
【0083】
この白色固体の赤外吸収スペクトル及びX線回折スペクトルを測定したところ、ナイロン6と炭酸カルシウムとの複合体であることが確認された。
【0084】
(比較例1)
水1kgに水酸化カルシウム113.4gを添加した。得られた懸濁液に、メカニカルスターラーで撹拌しながら、二酸化炭素(30体積%)と窒素(70体積%)との混合気体を1L/分で導入して二酸化炭素を吸収させた。二酸化炭素の導入を約3.5時間継続した後、二酸化炭素の吸収量が飽和状態になったことを確認し、混合気体の導入を停止した。このときの二酸化炭素の全吸収量を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
アジピン酸を含有する水懸濁液(濃度40質量%)1kgに水酸化カルシウム113.4gを添加した。得られた水溶液に、メカニカルスターラーで撹拌しながら、二酸化炭素(30体積%)と窒素(70体積%)との混合気体を1L/分で導入して二酸化炭素を吸収させた。二酸化炭素の導入を約3.5時間継続した後、二酸化炭素の吸収量が飽和状態になったことを確認し、混合気体の導入を停止した。このときの二酸化炭素の全吸収量を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1においてヘキサメチレンジアミン水溶液に吸収された二酸化炭素の量は、二酸化炭素の水への溶解量(ヘキサメチレンジアミン水溶液中の水の量(265g)に対して0.38g)に比べて非常に多く、ヘキサメチレンジアミンによって二酸化炭素が吸収されたことが確認された。そして、A液とB液を混合することによって、AH塩と炭酸カルシウムを含有する懸濁液が得られたことから、ヘキサメチレンジアミンによって吸収された二酸化炭素とB液中の水酸化カルシウムとが反応して炭酸カルシウムが生成したことがわかった。
【0088】
また、実施例2〜4における二酸化炭素の吸収量は、比較例1〜2で吸収された二酸化炭素量に比べて多くなった。このことから、水酸化カルシウムが存在する系においても、ヘキサメチレンジアミン、6−アミノカプロン酸、又はε−カプロラクタムによって二酸化炭素が吸収されたことが確認された。そして、実施例2においてはAH塩と炭酸カルシウムを含有する懸濁液が、実施例3においては6−アミノカプロン酸及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液が、実施例4においてはε−カプロラクタム及び炭酸カルシウムを含有する懸濁液がそれぞれ得られたことから、ヘキサメチレンジアミン等によって吸収された二酸化炭素が水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウムが生成したことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、二酸化炭素を利用して、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩とを含むポリアミド系複合材料を製造することが可能となる。
【0090】
したがって、本発明のポリアミド系複合材料の製造方法は、地球温暖化の原因である二酸化炭素を利用することができるため、環境にやさしいポリアミド系複合材料の製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドの原料となるアミノ基及び/又はイミノ基を有する第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液中に二酸化炭素を導入し、前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめる工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめ、前記第一のポリアミド原料化合物とアルカリ土類金属炭酸塩とを含有する懸濁液を得る工程と、
前記第一のポリアミド原料化合物を重合せしめ、ポリアミドとアルカリ土類金属炭酸塩との複合材料であるポリアミド系複合材料を得る工程と、
を含むことを特徴とするポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属が、カルシウム及びマグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属であり、前記アルカリ土類金属炭酸塩が、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の炭酸塩であることを特徴とする請求項1に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ土類金属化合物がアルカリ土類金属の水酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記第一のポリアミド原料化合物が、ジアミン、ラクタム及びアミノ酸からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記第一のポリアミド原料化合物がジアミンであり、
前記ポリアミド系複合材料を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物としてのジアミンと、第二のポリアミド原料化合物としてのジカルボン酸とを共縮重合せしめて前記ポリアミド系複合材料を得ることを特徴とする請求項4に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記第一のポリアミド原料化合物がラクタム又はアミノ酸であり、
前記ポリアミド系複合材料を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物としてのラクタム又はアミノ酸を重縮合せしめて前記ポリアミド系複合材料を得ることを特徴とする請求項4に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、二酸化炭素を導入する前の前記第一のポリアミド原料化合物を含有する溶液のpHが7.0〜14.0であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、アルカリ土類金属含有化合物の非存在下で前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめた後、
前記懸濁液を得る工程において、前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において得られた溶液とアルカリ土類金属含有化合物とを混合することよって、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において得られる溶液のpHが6.0〜11.0であることを特徴とする請求項8に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記二酸化炭素を吸収せしめる工程において、アルカリ土類金属含有化合物の存在下で前記第一のポリアミド原料化合物に二酸化炭素を吸収せしめ、同時に、前記懸濁液を得る工程において、前記第一のポリアミド原料化合物に吸収された二酸化炭素と、前記アルカリ土類金属含有化合物とを反応せしめることを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載のポリアミド系複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2012−116937(P2012−116937A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267432(P2010−267432)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】