説明

ポリアミド繊維、ポリアミド仮撚加工糸及び織編物

【課題】石油を原料としない資源を用い、地球環境に配慮したポリアミド繊維であって、高温での熱水処理後の強度保持率が高く、かつ熱水収縮率が小さく、耐熱性や寸法安定性に優れており、各種の生活用品、産業資材、衣料用途に好適に使用することができるポリアミド繊維、仮撚加工糸及びこれらの繊維を用いた織編物を提供する。
【解決手段】単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたフィラメントであって、130℃、30分間の熱水処理後の強度が3.0cN/dtex以上であり、下記式(1)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上、熱水収縮率が10%以下であるポリアミド繊維。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(B/A)×100・・・(1)
ただし、熱水処理前の強度をA、熱水処理後の強度をBとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温熱水処理に対する耐熱性に優れており、各種の生活用品、産業資材用途、衣料用途に好適に使用することができるポリアミド繊維、ポリアミド仮撚加工糸に関するものであり、さらにはこれらの繊維、仮撚加工糸を用いてなる織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミドを使用した繊維としては、ナイロン6やナイロン66を使用したモノフィラメントやマルチフィラメントがコスト面でも有利であることから多く用いられている。
これらのフィラメントは、通常の環境下で使用する際にはある程度の耐熱性や耐久性を有しているものである。
【0003】
しかしながら、各種の装置内部に設置されるフィルターなど、耐熱性が要求されるような産業資材用途に用いる場合や、高温で染色処理を施す衣料用途に用いる場合、これらの従来からあるポリアミド繊維は、耐熱性に乏しく、高温処理が施されると収縮したり、強度が低下し、劣化するという問題があった。
【0004】
特許文献1にはポリアミドとしてナイロン11を用いた繊維が記載されている。しかしながら、この繊維はポリアミド樹脂中に導電性カーボンブラックを含有するものであり、電気抵抗値の安定性に優れることを特徴とするものであった。つまり、電気抵抗値を安定させるために、ナイロン11樹脂中のカーボンブラックの配列を考慮して延伸、熱処理を行って得られた繊維であって、このため、強度や高温熱水処理後の強度保持率は十分に高いものではなく、耐熱性や耐久性に乏しいものであった。
【0005】
また、近年、石油資源の減少や地球環境の温暖化が問題視されており、世界的規模で環境問題に対する取り組みが行われるようになってきた。そこで、石油を原料としない資源で、再生が可能である植物を原料とする繊維、フィルム等の樹脂製品が提案されている。
【0006】
このような環境に配慮した繊維としては、ポリ乳酸からなる繊維が多く提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、ポリ乳酸からなる繊維は、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド繊維に比べて、強度も耐摩耗性等も低く、産業資材用途には不向きであるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−73923号公報
【特許文献2】特開平12−27030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決し、石油を原料としない資源を用い、地球環境に配慮したポリアミド繊維であって、高温での熱水処理後の強度保持率が高く、かつ熱水収縮率が小さく、耐熱性や寸法安定性に優れており、各種の生活用品、産業資材、衣料用途に好適に使用することができるポリアミド繊維、仮撚加工糸及びこれらの繊維を用いた織編物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の(ア)〜(ウ)を要旨とするものである。
(ア)単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたフィラメントであって、130℃、30分間の熱水処理後の強度が3.0cN/dtex以上であり、下記式(1)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上、熱水収縮率が10%以下であることを特徴とするポリアミド繊維を要旨とするものである。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(B/A)×100・・(1)
ただし、熱水処理前の強度をA、熱水処理後の強度をBとする。
(イ)(ア)に記載のポリアミド繊維からなる仮撚加工糸であって、130℃、30分間の熱水処理後の強度が2.8cN/dtex以上であり、下記式(2)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上、熱水収縮率が7%以下であることを特徴とするポリアミド仮撚加工糸。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(F/E)×100・・(2)
ただし、熱水処理前の強度をE、熱水処理後の強度をFとする。
(ウ)(ア)に記載のポリアミド繊維又は(イ)に記載のポリアミド仮撚加工糸を少なくとも一部に用いてなる織編物。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリアミド繊維及び本発明のポリアミド仮撚加工糸は、単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたフィラメントであり、強伸度特性に優れ、高温での熱水処理後の強度保持率が高く、熱水収縮率が小さいものである。このため、本発明のポリアミド繊維及び本発明のポリアミド仮撚加工糸には、染色処理や各種熱処理を高温で施すことが可能であり、染色性や加工性に優れる織編物や不織布等の製品を得ることができる。
そして、本発明のポリアミド繊維及びポリアミド仮撚加工糸は、ナイロン11中に耐熱剤が含有されていることにより、特に紡糸時の操業性が向上し、上記した優れた糸質性能を容易に得ることが可能となる。
本発明のポリアミド仮撚加工糸は、本発明のポリアミド繊維を用いたものであるため、上記したような特性を有するとともに、クリンプ伸長率及びクリンプ弾性率が適切な範囲のものであるので、ポリエステルライクな風合いを有する布帛を得ることが可能となり、各種の衣料用途に好適に使用することができる。
そして、本発明のポリアミド繊維やポリアミド仮撚加工糸を少なくとも一部に用いてなる織編物は、染色性に優れる点から衣料用途に好適に使用することができ、耐熱水性や耐久性等に優れる点から、各種ネットや漁網、釣り糸等の産業資材用途、鞄地、抄紙用キャンバス、フィルター等に好適に使用することができるものである。
さらに、ナイロン11はヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたひまし油を元に、11-アミノウンデカン酸を生成、合成して得られるものであるため、本発明のポリアミド繊維は、石油を原料とするものではなく、地球環境に配慮した繊維である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明のポリアミド繊維は、単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたフィラメントからなるものである。
【0012】
少なくとも繊維表面にナイロン11が配された横断面形状のものとしては、ナイロン11のみを用いた単成分型のものが好ましいが、他の熱可塑性樹脂とナイロン11とを複合した複合型のものであってもよい。複合型の場合は、このような横断面形状のものとするには、鞘部にナイロン11を配した芯鞘型形状のもの、最外層にナイロン11を配した多層形状のものとすることが好ましい。
【0013】
そして、単成分型、複合型ともに丸断面のみでなく、三角、四角等の多角形の異形断面形状であってもよく、中空部を有していてもよい。
【0014】
複合型とする場合は、ナイロン11の割合を50質量%以上とすることが好ましく、中でも60質量%以上とすることが好ましい。ナイロン11の割合が少なすぎると、後述するような高温熱水処理後の強度保持率や熱水収縮率を満足することが困難となりやすい。
【0015】
また、本発明のポリアミド繊維は、単糸の横断面形状が上記のような形状を満足するものであれば、単糸1本のみからなるモノフィラメントでも、複数本の単糸からなるマルチフィラメントであってもよい。さらには、モノフィラメントやマルチフィラメントを短くカットした短繊維であっても、カットせずに用いる長繊維のいずれであってもよい。
【0016】
マルチフィラメントの場合は、単糸繊度0.1〜50dtex、総繊度20〜3000dtexとすることが好ましい。モノフィラメントの場合は、10〜500dtexとすることが好ましい。
【0017】
本発明で用いるナイロン11は、11−アミノウンデカン酸を重縮合することにより得られるものである。そして、11−アミノウンデカン酸は、ヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたひまし油を元に生成されるものであるため、植物由来成分からなるものである。
【0018】
なお、ナイロン11中には、少量であればε−カプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペートなどの他のポリアミド形成単量体を共重合したものでもよく、ナイロン6やナイロン66等の他のポリアミドをブレンドしたものでもよい。
【0019】
また、前記したように、本発明のポリアミド繊維を複合型とする場合に、ナイロン11とともに用いる他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等を用いることができるが、中でも接合面の剥離を防止する観点からポリアミドを用いることが好ましく、特にナイロン6やナイロン66、ナイロン12、ナイロン46等が好ましい。
【0020】
そして、本発明のポリアミド繊維は、130℃、30分間の熱水処理後の強度が3.0cN/dtex以上であり、下記式(1)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上である。
【0021】
なお、本発明における130℃、30分間の熱水処理は、本発明のポリアミド繊維を用いて筒編地を作成し、この筒編地の状態で温浴中に浸漬させ、130℃、30分間熱水処理するものである。前記処理方法としては、筒編地を温浴中に浸漬させて、130℃、30分間熱水処理する方法であれば特に制限されないが、一例として、テクサム技研製のミニカラー染色機を使用し、水を入れた金属ポット内に前記筒編地を投入し、130℃、30分間処理したのち取り出し、乾燥する方法を挙げることができる。
そして、ポリアミド繊維の強度はJIS L1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔20cm、引っ張り速度20cm/分で測定するものである。熱水処理後のポリアミド繊維の強度を測定する際には、熱水処理した筒編地を解編してポリアミド繊維を取り出し、前記の方法にしたがって測定する。
【0022】
130℃、30分間の熱水処理後の強度は中でも3.5cN/dtex以上であることが好ましく、さらには3.8cN/dtex以上であることが好ましい。
130℃、30分間の熱水処理後の強度が3.0cN/dtex未満であると、耐熱水性に劣るものとなり、染色処理や各種熱処理を高温で施すことができない。
【0023】
そして、下記式(1)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率は、80%以上であることが必要であるが、中でも82%以上であることが好ましく、さらには85%以上であることが好ましい。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(B/A)×100・・・(1)
ただし、熱水処理前の強度をA、熱水処理後の強度をBとする。
【0024】
強度保持率が80%未満であると、高温染色や高温加工を行うと強度の低下が生じ、耐熱性に乏しいものとなる。
【0025】
さらに、本発明のポリアミド繊維は、熱水収縮率が10%以下であり、中でも8%以下であることが好ましい。本発明における熱水収縮率は、JIS L 1013 熱水収縮率 かせ収縮率(A法)に従い、130℃の熱水中に30分間浸漬させて測定、算出するものである。前記処理方法としては、かせを温浴中に浸漬させて、130℃、30分間熱水処理する方法であれば特に制限されないが、一例として、テクサム技研製のミニカラー染色機を使用し、かせの収縮を妨げず、かつかせが絡まないようにガーゼに包んだ試料を、水を入れた金属ポット内に投入し、130℃、30分間処理したのち取り出し、風乾する方法を挙げることができる。
熱水収縮率が10%を超えると、高温染色や高温加工時に生じる収縮が大きく、得られる織編物や不織布等の製品は品位に劣り、寸法安定性にも乏しいものとなる。
【0026】
また、本発明のポリアミド繊維(熱水処理前)の強度は3.0cN/dtex以上、伸度20〜140%であることが好ましい。強度は中でも4.0cN/dtex以上であることが好ましく、伸度は中でも25〜80%であることが好ましい。強度が3.0cN/dtex未満であると、製編織や後加工時に毛羽や糸切れが生じやすく工程通過性が悪くなりやすい。
【0027】
本発明のポリアミド繊維は、単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたフィラメントとし、後述するような紡糸、延伸条件の製造方法により製造することにより、上記のような強伸度、強度保持率や熱水収縮率を有するポリアミド繊維とすることが可能となる。
【0028】
そして、本発明のポリアミド繊維は、耐熱剤が含有されているナイロン11を用いることが好ましく、フィラメント中の耐熱剤の含有量が0.1〜1.0質量%であることが好ましい。ナイロン11中に耐熱剤を含有していることによって、紡糸温度を低くすることができ、かつナイロン11の増粘を抑えることができ、紡糸時に析出されるモノマー量を少なくすることが可能となる。これにより紡糸工程での糸切れがなく、操業性よく紡糸することができ、続く延伸工程において品位、性能の優れた未延伸糸を供給することが可能となる。さらには、耐熱剤を含有していることにより、ポリアミド繊維の耐熱性も向上させることができる。
【0029】
そして、耐熱剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、IRGANOX(チバ・ジャパン社製)を用いることが好ましい。
【0030】
さらに耐熱剤としてリン系加工熱安定剤を併用することが好ましい。リン系加工熱安定剤としては、IRGAFOS(チバ・ジャパン社製)を用いることが好ましい。
【0031】
フィラメント中のこれらの耐熱剤の含有量(複数種類用いる場合は合計量)は中でも0.2〜0.8質量%であることが好ましく、さらには0.2〜0.6質量%であることが好ましい。フィラメント中の耐熱剤の含有量が0.1質量%未満であると、上記したような紡糸操業性の向上効果が乏しくなる。一方、耐熱剤の含有量が1.0質量%を超えると、効果が飽和するのみならず、紡糸時に糸切れが生じる原因となる。
【0032】
なお、本発明におけるナイロン11中には、効果を損なわない範囲であれば、可塑剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、着色剤、顔料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0033】
次に、本発明のポリアミド仮撚加工糸について説明する。本発明のポリアミド仮撚加工糸は、上記したような本発明のポリアミド繊維に仮撚加工を施したものである。つまり、単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたマルチフィラメントからなる仮撚加工糸であって、130℃、30分間の熱水処理後の強度が2.8cN/dtex以上であり、下記式(2)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上である。
【0034】
なお、本発明における130℃、30分間の熱水処理は、本発明のポリアミド仮撚加工糸を用いて筒編地を作成し、この筒編地の状態で温浴中に浸漬させ、130℃、30分間熱水処理するものである。そして、ポリアミド仮撚加工糸の強度は、JIS L1013 引張強さ及び伸び率の標準時試験に記載の方法に従い、定速伸長型の試験機を使用し、つかみ間隔25cm、引っ張り速度30cm/分で測定するものである。熱水処理後のポリアミド仮撚加工糸の強度を測定する際には、熱水処理した筒編地を解編してポリアミド仮撚加工糸を取り出し、前記の方法にしたがって測定する。
【0035】
130℃、30分間の熱水処理後の強度は2.8cN/dtex以上であるが、中でも3.0cN/dtex以上であることが好ましく、さらには3.5cN/dtex以上であることが好ましい。
130℃、30分間の熱水処理後の強度が2.8cN/dtex未満であると、耐熱水性に劣るものとなり、染色処理や各種熱処理を高温で施すことができない。
【0036】
そして、下記式(2)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率は、80%以上であることが必要であるが、中でも85%以上であることが好ましく、さらには90%以上であることが好ましい。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(F/E)×100・・・(2)
ただし、熱水処理前の強度をE、熱水処理後の強度をFとする。
【0037】
強度保持率が80%未満であると、高温染色や高温加工を行うと強度の低下が生じ、耐熱性に乏しいものとなる。
【0038】
さらに、本発明のポリアミド仮撚加工糸は、熱水収縮率が7%以下であり、中でも5%以下であることが好ましい。本発明における熱水収縮率は、JIS L 1013 熱水収縮率 かせ収縮率(A法)に従い、130℃の熱水中に30分間浸漬させて測定、算出するものである。
熱水収縮率が7%を超えると、高温染色や高温加工時に生じる収縮が大きく、得られる織編物や不織布等の製品は品位に劣り、寸法安定性にも乏しいものとなる。
【0039】
また、本発明のポリアミド仮撚加工糸(熱水処理前)の強度は3.0cN/dtex以上、伸度20〜60%であることが好ましい。強度は中でも3.2cN/dtex以上であることが好ましく、伸度は中でも25〜50%であることが好ましい。強度が3.0cN/dtex未満であると、製編織や後加工時に毛羽や糸切れが生じやすく工程通過性が悪くなりやすい。
【0040】
本発明のポリアミド仮撚加工糸は本発明のポリアミド繊維を用いることにより、上記のような強度、強度保持率や熱水収縮率を有するポリアミド繊維とすることが可能となる。
【0041】
また、本発明のポリアミド仮撚加工糸は、本発明のポリアミド繊維と同様、耐熱剤が含有されているナイロン11を用いることが好ましく、フィラメント中の耐熱剤の含有量が0.1〜1.0質量%であることが好ましい。
【0042】
さらに、本発明のポリアミド仮撚加工糸は、クリンプ伸長率が40〜65%であることが好ましく、中でも45〜60%であることが好ましい。そして、クリンプ弾性率は20〜40%であることが好ましく、中でも22〜38%であることが好ましい。
【0043】
一般にポリアミド繊維やポリアミド繊維を用いた仮撚加工糸は、ポリアミド特有の特性から、得られる織編物や不織布等はぬめり感があり、軽量感やソフト感に乏しいものである。
【0044】
本発明のポリアミド仮撚加工糸は、上記のようなクリンプ伸長率、クリンプ弾性率を満足することで、ポリエステルライクな風合いを有するものとすることができる。つまり、ポリエチレンテレフタレートを仮撚加工後熱処理した糸(2ヒーター仮撚加工糸)のような膨らみ特性、伸縮特性を有するものとなる。さらには、ポリエチレンテレフタレートでは得られなかった優れた高発色性が得られ、外衣用の衣料用素材として好適に使用することができる。
【0045】
本発明におけるクリンプ伸長率、クリンプ弾性率はDIN 53840Part1に記載の方法に従い、以下のようにして測定する。
1.試料の準備
枠周1.125mの検尺機を用い、0.1cN/dtexの張力を掛けて、仮撚加工糸を綛状に巻き取る。この時、綛繊度が2500dtexになるように巻き取る。試料を枠より取り出し、荷重を掛けないまま、24時間、20℃・65%の湿度の環境下に放置する。
綛繊度が2500dtexになるように巻き取るには、用いる仮撚加工糸の繊度により捲き数を異ならせる(例えば、74dtex〜78dtexの場合16回の綛を作る。また、112.5dtex〜117.5dtexの場合11回の綛をつくる。DIN53840Part1 Tabie1参照)。
また、試料とする仮撚加工糸は、少なくとも24時間、20℃・65%の湿度の環境下に放置してから綛状に巻き取る。
2.クリンプの発現
オーブンに入れる前に0.001cN/dtexの荷重を掛ける。荷重を掛けたまま120℃・10分間加熱する。
荷重をはずし、24時間以上、20℃・65%の湿度の環境下に放置する。
3.直線長さの決定
(1)第1荷重(2.5g)と第2荷重(497.5g)を掛け、10秒後の綛の長さ(G)を計測する。
(2)次いで、第2荷重を取り除き、第1荷重を掛けたまま、10分間後の綛の長さ(Z)を計測する。
(3)次いで、第1荷重を付けたまま、第3荷重(22.5g)を掛け、10秒後の綛の長さ(F)を計測する。
4.クリンプ伸長率、クリンプ弾性率の算出
下記式でクリンプ伸長率、クリンプ弾性率は算出される。
クリンプ伸長率(%)=〔(G−Z)/G〕×100
クリンプ弾性率(%)=〔(G−F)/G〕×100
【0046】
クリンプ伸長率が40%未満であったり、クリンプ弾性率が20%未満であると、上記したような膨らみ特性、伸縮特性を有するポリエステルライクな糸とすることができない。一方、クリンプ伸長率が65%を超えたり、クリンプ弾性率が40%を超えるものであると、伸縮性が強く現れ、膨らみが強く、ナイロン66やナイロン6ライクな糸となり、外衣用の衣料用素材として用いることが適さないものとなる。
【0047】
なお、上記のようなクリンプ伸長率、クリンプ弾性率の仮撚加工糸とするには、仮撚係数29000〜34000〔仮撚係数:T√D 但し、Dは繊度(dtex)、Tは仮撚数(t/m)〕、仮撚温度150〜170℃の条件で仮撚加工を行うことが好ましい。
【0048】
次に、本発明の織編物について説明する。
本発明の織編物は、上記した本発明のポリアミド繊維を少なくとも一部に用いて製編織したものであり、経糸、緯糸のいずれか一方又は両方に本発明のポリアミド繊維を用いた織物、経糸や緯糸の一部に本発明のポリアミド繊維を用いた織物、編糸の全部又は一部に本発明のポリアミド繊維を用いた編物等が挙げられる。
【0049】
本発明の織編物において、本発明のポリアミド繊維の優れた特性による効果を奏するためには、織編物中の40質量%以上、さらには50質量%以上が本発明のポリアミド繊維で構成されていることが好ましい。また、本発明のポリアミド繊維の構成割合が40質量%未満で他に石油由来の原料を多く使用した織編物の場合には、織編物中の植物由来原料の比率が低くなるため、地球環境に配慮した織編物とは言えないものとなる。
【0050】
また、本発明の織編物は、上記した本発明のポリアミド仮撚加工糸を少なくとも一部に用いて製編織したものであり、経糸、緯糸のいずれか一方又は両方に本発明のポリアミド仮撚加工糸を用いた織物、経糸や緯糸の一部に本発明のポリアミド仮撚加工糸を用いた織物、編糸の全部又は一部に本発明のポリアミド仮撚加工糸を用いた編物等が挙げられる。
【0051】
本発明の織編物において、本発明のポリアミド仮撚加工糸の優れた特性による効果を奏するためには、織編物中の40質量%以上、さらには50質量%以上が本発明のポリアミド仮撚加工糸で構成されていることが好ましい。また、本発明のポリアミド仮撚加工糸の構成割合が40質量%未満で他に石油由来の原料を多く使用した織編物の場合には、織編物中の植物由来原料の比率が低くなるため、地球環境に配慮した織編物とは言えないものとなる。
【0052】
本発明の織編物は、本発明のポリアミド繊維やポリアミド仮撚加工糸を用いてなるものであるため、高温で染色処理を施すことができ、染色性に優れる点から衣料用途、中でも外衣用の衣料用途に好適に使用することができる。また、耐熱水性や耐久性等に優れる点から、各種ネットや漁網、鞄地、抄紙用キャンバス、フィルター等に好適に使用することができる。
【0053】
本発明の織編物は、織組織は、平、ツイル、サテンなど、編組織は、天竺、フライスなど、特に制約は無く、サイジング、撚糸を行ってもよい。ただし、ナイロン6やナイロン66などに比べて、伸度が高めである場合には、サイジングや撚糸、あるいは経糸準備などの際の張力としては、0.2cN/dtex以下に調整することが好ましく、0.15cN/dtex以下がより好ましい。
【0054】
また、本発明のポリアミド繊維は、通常のナイロン6やナイロン66に比べて、熱水収縮率が低いため、織編物設計時の密度は、熱水収縮率を考慮して適宜調整すればよい。織物カバーファクター(CF)を例示すると、1000〜2500が好ましく、1500〜2300がより好ましい。カバーファクターとは、織物を構成する糸条の太さと織物密度とによって定められる織物構造の粗密を表す係数であり、下記式で示される。
CF=X・√D+Y・√D
ただし、CF:カバーファクター
X:織物の経糸密度(本/2.54cm)
Y:織物の緯糸密度(本/2.54cm)
D:見かけ繊度(dtex)
【0055】
織物のCFが1000未満であると、織物の空隙が大きくなるため、張り、腰のある織物が得られにくく、織物のCFが2500を超えると、製織がしにくく、得られた織物も硬い風合いとなる傾向にある。
なお、本発明で用いるナイロン11は、通常のナイロン6やナイロン66と比べて比重が軽いため、上記製編織を行うに際し、本発明のポリアミド繊維や仮撚加工糸とともにナイロン11やナイロン6繊維を用いる場合、これらの繊維が本発明の繊維と同じ繊度の場合には、本発明の繊維のほうが直径が大きいものとなる。したがって、これらのことを考慮して最適な織編物の設計を行うことが好ましい。
【0056】
上記で得られた織編物は、常法に従い、精練、プレセット、染色、ファイナルセットされるが、本発明で用いるナイロン11は、融点が185℃近傍にあり、温度が高い場合は風合が硬化する場合があるため、プレセットやファイナルセットの温度は160℃〜180℃が好ましく、カレンダーなどの仕上げを行う場合も温度を上げすぎないようにすることが好ましい。
【0057】
また、染色するに際しては、本発明者らの研究では、ナイロン11はナイロン6やナイロン66に比べて100℃近傍の温度では染色しにくい傾向にあるため、120〜130℃で染色することが好ましい。なお、本発明のポリアミド繊維及びポリアミド仮撚加工糸は、130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上であるため、前記染色温度でも強度低下が少なく、発色性のよさと強度保持を両立することができる。
【0058】
次に、本発明のポリアミド繊維(単一型のマルチフィラメント)の製造方法について一例を用いて説明する。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の耐熱剤を0.1〜1.0質量%含有し、かつ相対粘度が1.6〜2.4のナイロン11を用い、紡糸温度230〜270℃で溶融紡糸する。紡出した糸条を冷却固化した後、3000m/分以上の速度の表面温度30〜80℃の第一ローラで引き取る。第一ローラで引き取った糸条を表面温度100〜180℃の第二ローラで引き取ることによって、ローラ間での延伸倍率1.1〜2.8倍で延伸し、巻取速度3400〜5000m/分で巻き取る。
【0059】
本発明のポリアミド仮撚加工糸の製造方法について一例を用いて説明する。
上記により得られた、本発明のポリアミド繊維を用い、スピンドル回転数:250000〜450000rpm、仮撚数:2000〜5000T/M、延伸倍率:1.0〜1.7倍、ヒーター温度140〜180℃で仮撚加工を行う。
このとき、得られる仮撚加工糸のクリンプ伸長率が40〜65%、クリンプ弾性率は20〜40%となるように、適宜調整すればよいが、仮撚数、延伸倍率、ヒーター温度を高く設定すれば、前記クリンプ伸長率、およびクリンプ弾性率を高くすることができる。
具体的な加工条件の一例としては、90dtex/34f、伸度60%のナイロン11のみからなるマルチフィラメントをピンタイプの仮撚機を用いて仮撚する場合、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数3500T/M、延伸倍率1.2倍、ヒーター温度160℃で仮撚加工を行うことで、本発明のポリアミド仮撚加工糸とすることができる。
なお、本発明において、ポリアミド繊維の繊維表面以外の部分がナイロン6やナイロン66、ポリエステルの場合には、仮撚加工時のヒーター温度が低いと捲縮が弱くなることがあるため、繊維表面が融着しない範囲内でヒーター温度を高くするか、仮撚数や延伸倍率を高くすることも好ましい。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
ポリアミド繊維、ポリアミド仮撚加工糸の熱水処理前後の強度、強度保持率、熱水収縮率、クリンプ伸長率、クリンプ弾性率は前記と同様の方法で測定したものであり、染色性、寸法安定性、風合の評価は以下のように行った。
なお、染色性、寸法安定性及び風合の評価や測定は、布帛の状態で行うものであるため、得られたポリアミド繊維及びポリアミド仮撚加工糸について(実施例1〜9、比較例1〜2においては)これらを評価、測定する際には、以下のような織組織の織物にしてから行った。
織組織:経糸、緯糸ともに得られたポリアミド繊維又はポリアミド仮撚加工糸を用い、経糸密度150本/2.54cm、緯糸密度90本/2.54cmの平織物とした。
〔染色性〕
得られた織物(実施例1〜9、比較例1〜2の繊維を使用した織物)、編物(実施例10、比較例3の編物)の染色の各工程を以下に示す条件で行った。そして染色後の織編物について、マクベス社製MS−2020型分光光度計でその反射率を測定し、CIE Labの色差式から濃度指標を求めた値であるL*値を算出した。さらに、パネラー10人による目視評価を行い、以下のような3段階で評価した。
○・・・色性良好と判断したパネラーが8人以上
△・・・染色性良好と判断したパネラーが5〜7人
×・・・染色性良好と判断したパネラーが4人以下
なお、得られたポリアミド繊維及びポリアミド仮撚加工糸(実施例1〜9、比較例1〜2において)の染色性を評価する際には、上記した織組織の平織物とした後、精練、プレセットを行い、染色を130℃、30分間の条件で行い、ソーピング、フィックス、ファイナルセットを行った後、評価を行った。
・精練
精練剤:サンモールFL(日華化学社製) 1g/l
温度×時間:80℃×20分
・プレセット
温度×時間:160℃×1分
・染色
染料:Mitsui Nylon Black GL (三井BASF社製)5%o.m.f.
均染剤:レベランNKD(丸菱油化社製)2%o.m.f.
酢酸(48%品):0.2ml/l
温度×時間:実施例または比較例中に記載
浴比:1:50
・ソーピング
ソーピング剤:サンモールFL(日華化学社製) 1g/l
温度×時間:80℃×20分
・フィックス
フィックス剤:サンライフE−37 (日華化学社製)1%o.m.f.
温度×時間:80℃×20分
・ファイナルセット
温度×時間:160℃×1分
〔寸法安定性〕
上記の染色性の評価にて染色を行った後の織物(実施例1〜9、比較例1〜2の繊維を使用した織物)、編物(実施例10、比較例3の編物)を用い、経方向の測定に用いる試料として、巾方向3cm、長さ方向30cmの試料を、緯方向の測定に用いる試料として、巾方向30cm、長さ方向3cmの試料を、それぞれ準備する。そして、標準状態(20℃、65%RH)に調整された室内に各試料を24時間放置した後、試料長手方向に対応する(例えば、織物の経方向を測定する場合は、経糸に相当する)糸条の本数を数え、次いで、試料を長手方向に吊るすと共に、荷重として〔先に数えた糸条の本数〕×〔該糸条のトータル繊度(dtex)〕×〔1/30〕gfを負荷する。1分間放置後、試料略中央に印間長25cmの印を付し、これをPASとする。
次に、試料から荷重を取り除き、水浴に1分間浸漬させた後、ろ紙の上に5秒間放置して軽く水気を切り、再度上記荷重を負荷し、1分間放置後、先の印間長を測定し、これをPAWとする。
そして、下記式より寸法変化率(%)を算出した。
寸法変化率(%)=(|PAS−PAW|/PAS)×100
なお、織物については、経方向と緯方向の寸法変化率を算出し、両者の平均値とした。編物については、緯方向のみ算出した値とした。
〔風合〕
上記の染色性の評価にて染色を行った後の織物(実施例1〜9、比較例1〜2の繊維を使用した織物)、編物(実施例10、比較例3の編物)の風合いをパネラー10人による官能検査に基づき、以下の3段階で評価した。
○・・・ぬめり感がほとんど感じられないと判断したパネラーが8人以上
△・・・ぬめり感がほとんど感じられないと判断したパネラーが5〜7人
×・・・ぬめり感がほとんど感じられないと判断したパネラーが4人以下
【0061】
実施例1
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01のナイロン11チップを用い、Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤:チバジャパン社製)を0.05質量%、Irgafos168(リン系加工熱安定剤:チバジャパン社製)を0.1質量%添加し、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度250℃で溶融し、孔径が0.3mmの紡糸孔を34個有する紡糸口金より吐出させた。溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3000m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度130℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることによってローラ間で延伸倍率1.5倍で延伸し、巻取速度4400m/分で巻き取り、78dtex/34フィラメントのナイロン11のみからなるポリアミド繊維を得た。
【0062】
実施例2
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01のナイロン11チップを用い、Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤:チバジャパン社製)を0.05質量%、Irgafos168(リン系加工熱安定剤:チバジャパン社製)を0.1質量%添加し、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度250℃で溶融し、孔径が0.3mmの紡糸孔を34個有する紡糸口金より吐出させた。溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3000m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度130℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることによってローラ間で延伸倍率1.5倍で延伸し、巻取速度4400m/分で巻き取り、90dtex/34フィラメントのナイロン11のみからなるポリアミド繊維を得た。
【0063】
実施例3
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01のナイロン11チップを用い、Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤:チバジャパン社製)を0.1質量%、Irgafos168(リン系加工熱安定剤:チバジャパン社製)を0.2質量%添加し、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度250℃で溶融し、孔径が0.2mmの紡糸孔を48個有する紡糸口金より吐出させた。溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3300m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度150℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることによってローラ間で延伸倍率1.3倍で延伸し、巻取速度4200m/分で巻き取り、78dtex/48フィラメントのナイロン11のみからなるポリアミド繊維を得た。
【0064】
実施例4
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01のナイロン11チップを用い、Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤:チバジャパン社製)を0.2質量%、Irgafos168(リン系加工熱安定剤:チバジャパン社製)を0.4質量%添加し、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度250℃で溶融し、孔径が0.15mmの紡糸孔を48個有する紡糸口金より吐出させた。溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3500m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度150℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることによってローラ間で延伸倍率1.2倍で延伸し、巻取速度4100m/分で巻き取り、56dtex/48フィラメントのナイロン11のみからなるポリアミド繊維を得た。
【0065】
比較例1
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.41のナイロン6チップを用い、Irganox1010とIrgafos168を添加せず、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度255℃で溶融し、孔径が0.3mmの紡糸孔を34個有する紡糸口金より吐出させた。溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3200m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度140℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることによってローラ間で延伸倍率1.3倍で延伸し、巻取速度4200m/分で巻き取り、78dtex/34フィラメントのナイロン6のみからなるポリアミド繊維を得た。
【0066】
実施例5
実施例1で得られたポリアミド繊維を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z−3570T/M、延伸倍率1.06倍、ヒーター温度160℃で仮撚加工を行い、ポリアミド仮撚加工糸を得た。
【0067】
実施例6
実施例2で得られたポリアミド繊維を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z−3570T/M、延伸倍率1.20倍、ヒーター温度160℃で仮撚加工を行い、ポリアミド仮撚加工糸を得た。
【0068】
実施例7
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定)が2.01のナイロン11チップを用い、Irganox1010(ヒンダードフェノール系酸化防止剤:チバジャパン社製)を0.05質量%、Irgafos168(リン系加工熱安定剤:チバジャパン社製)を0.1質量%添加し、水分率を0.05質量%に調整した後、エクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度250℃で溶融し、孔径が0.3mmの紡糸孔を34個有する紡糸口金より吐出させた。
溶融紡糸した糸条に15℃の冷却風を吹付けて冷却し、油剤を付与した後、3100m/分の第一ローラ(引取ローラ:表面温度50℃)で引き取った。続いて、第一ローラで引き取った糸条を表面温度130℃の第二ローラ(加熱ローラ)で引き取ることによってローラ間で延伸倍率1.02倍で延伸し、巻取速度3200m/分で巻き取り、110dtex/24フィラメントのナイロン11のみからなるポリアミド繊維を得た。
上記ポリアミド繊維を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z−3570T/M、延伸倍率1.45倍、ヒーター温度160℃で仮撚加工を行い、ポリアミド仮撚加工糸を得た。
【0069】
実施例8
実施例7と同様のポリアミド繊維を供給糸とし、延伸倍率を1.40倍、ヒーター温度を170℃にして仮撚加工を行った以外は実施例7と同様に行い、ポリアミド仮撚加工糸を得た。
【0070】
実施例9
実施例2で得られたポリアミド繊維を供給糸とし、ディスクタイプの仮撚機を用い、糸速500M/MIN、ディスク(5mm厚)構成Z1−10−1、延伸倍率1.20倍、D/Y1.82、ヒーター温度(ショートヒーター/ロングヒーター)250/250℃で仮撚加工を行い、ポリアミド仮撚加工糸を得た。
【0071】
比較例2
比較例1で得られたポリアミド繊維を供給糸とし、ピンタイプの仮撚機を用い、スピンドル回転数325000rpm、仮撚数Z−3570T/M、延伸倍率1,06倍、ヒーター温度180℃で仮撚加工を行い、ポリアミド仮撚加工糸を得た。
【0072】
実施例10
実施例5で得られたポリアミド仮撚加工糸を用いて、33インチ、28ゲージの丸編機を使用し、ウェール密度58本/2.54cm、コース密度46本/2.54cmでモックロディア組織の編物を作製した。
上記の染色性評価における、精練、プレセットを行った後、130℃、30分間の染色加工を行った。その後、ソーピング、フィックス、ファイナルセットを行い、ウェール密度63本/2.54cm、コース密度50本/2.54cmの編物を得た。
【0073】
比較例3
比較例2で得られたポリアミド仮撚加工糸を用いた以外は、実施例10と同様にして編物(ウェール密度58本/2.54cm、コース密度46本/2.54cmのモックロディア組織の編物)を作製し、染色性評価における各工程での処理を行い、ウェール密度 65本/2.54cm、コース密度53本/2.54cmの編物を得た。
【0074】
実施例1〜4、比較例1のポリアミド繊維、実施例5〜9、比較例2のポリアミド仮撚加工糸、実施例10、比較例3の編物の特性値と評価結果を表1、2に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
表1、2から明らかなように、実施例1〜4のポリアミド繊維、実施例5〜9のポリアミド仮撚加工糸は、強伸度特性に優れ、130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上であり、熱水収縮率が小さいものであった。さらには、実施例5〜9のポリアミド仮撚加工糸はクリンプ伸長率及びクリンプ弾性率が適切な範囲のものであった。このため、これらの繊維と仮撚加工糸から得られた織物及び実施例10の編物は、染色性、寸法安定性、風合いの評価ともに優れており、高温での染色が可能なものであった。
一方、比較例1のポリアミド繊維は、ナイロン6からなるものであったため、130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%未満と低く、熱水収縮率も12%を超えていた。比較例2のポリアミド仮撚加工糸は、比較例1のポリアミド繊維を用いたものであったため、130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%未満と低く、熱水収縮率も7%を超えるものであった。また、クリンプ伸長率及びクリンプ弾性率も本発明の範囲外のものであった。このため、この繊維と仮撚加工糸から得られた織物及び比較例3の編物は、染色性の評価はよいが寸法変化率が大きく、高温での染色が不可能なものであった。また、風合いの評価にも劣っていた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸の横断面形状において少なくとも繊維表面にナイロン11が配されたフィラメントであって、130℃、30分間の熱水処理後の強度が3.0cN/dtex以上であり、下記式(1)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上、熱水収縮率が10%以下であることを特徴とするポリアミド繊維。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(B/A)×100・・(1)
ただし、熱水処理前の強度をA、熱水処理後の強度をBとする。
【請求項2】
ナイロン11中に耐熱剤が含有されており、フィラメント中の耐熱剤の含有量が0.1〜1.0質量%である請求項1記載のポリアミド繊維。
【請求項3】
耐熱剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いる請求項2記載のポリアミド繊維。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド繊維からなる仮撚加工糸であって、130℃、30分間の熱水処理後の強度が2.8cN/dtex以上であり、下記式(2)で算出される130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率が80%以上、熱水収縮率が7%以下であることを特徴とするポリアミド仮撚加工糸。
130℃、30分間の熱水処理後の強度保持率(%)=(F/E)×100・・(2)
ただし、熱水処理前の強度をE、熱水処理後の強度をFとする。
【請求項5】
クリンプ伸長率が40〜65%、クリンプ弾性率が20〜40%である請求項4記載のポリアミド仮撚加工糸。
【請求項6】
請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド繊維を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする織編物。
【請求項7】
請求項4〜6いずれかに記載のポリアミド仮撚加工糸を少なくとも一部に用いてなることを特徴とする織編物。



【公開番号】特開2010−285709(P2010−285709A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139328(P2009−139328)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】