説明

ポリアミド繊維の製造方法

【課題】ポリアミドに樹状ポリエステルを添加し、流動性を向上させる技術において、ポリアミドと樹状ポリエステルとの反応により、低下していた流動性向上効果および長時間紡糸安定性を大幅に向上させる。
【解決手段】芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、上記(P)、(Q)、(R)、および(B)の含有量の合計に対して前記(B)の含有量が7.5〜50モル%である樹状ポリエステルを含有量0.1〜10重量%および酸無水物を含有量0.01〜1重量%となるようにポリアミドに添加したブレンド物を紡糸口金から溶融紡糸することを特徴とするポリアミド繊維の製造方法により達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドに樹状ポリエステルを添加するポリアミド繊維の製造方法であって、ポリアミドを低温で、長時間安定して紡糸する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドなどの熱可塑性ポリマーを用いた繊維は産業上の価値は極めて高く、ポリアミドは耐摩耗性、耐候性および耐久性といった特性を有することから、衣料用途だけでなく、非衣料用途、例えば、自動車部品用、漁業用、資材用、および農業用などといった幅広く利用されている。そして、この製造方法は、主にポリアミドを溶融した後、紡糸口金から押出し、冷却固化後、油剤を付与して巻き取る溶融紡糸が採用されている。このポリアミドを溶融する温度、すなわち紡糸温度はポリアミドの融点や溶融粘度により決定され、紡糸温度は一般に融点以上に設定する必要がある。
【0003】
しかしながら、ポリアミド等の熱可塑性ポリマーは分子量に伴い溶融粘度が増加するため、融点が同じであっても高分子量ポリアミドの紡糸温度は低分子量ポリアミドと比較して、高い紡糸温度を設定する必要がある。一般に熱可塑性ポリマーの熱劣化は融点より高温になるほど、加速度的に進行するため、せっかく高分子量ポリアミドを溶融紡糸機の投じても、分子量およびそれに伴い向上するはずの繊維特性は期待値よりも大きく低下したものとなる場合があった。このため、ポリマーの流動性を向上させ、紡糸温度をなるべく低温にする技術が求められてきた。
この点について、様々な減粘剤などの流動性向上技術が検討されたが、ポリアミド溶融紡糸においては、成功した例は極めて少ない。というのは、これらの減粘剤と言われる添加剤等は、主に低分子量体を添加することによって発現する溶融粘度の低下効果を狙ったものが多い。このため、高温で、かつ複雑な配管を有した溶融紡糸機に適用しても、添加剤が昇華あるいは熱分解のために、効果が著しく低下してしまうためである。
【0004】
従来の検討の中で興味深い技術として、熱可塑性ポリマーに樹状ポリエステルを添加する方法がある。特許文献1には、樹状ポリエステル添加による流動性向上効果により、紡糸温度を5℃以上低温化させることが可能であることが記載されている。
確かに、特許文献1記載の技術は、ブレンド物の流動性が向上するために、紡糸温度の低温化が可能となり、分子量低下抑制に寄与できるものである。しかしながら、特許文献1に記載される技術は実質的にポリエステルに関するものであり、ポリアミドについては考慮されていない。というのは、ポリアミドの分子鎖の末端はアミン基であるため、ポリアミド単独の場合においても、溶融時等にはポリエステルでは見られない特異的な挙動を示すことがある。
【0005】
例えば、ポリアミドは、アミン末端とカルボキシル末端などが脱水縮合することにより、溶融混練中の短時間でも重合反応を起こし、場合によっては投入したポリアミドの分子量と比較して、吐出されるポリマーは逆に分子量が増加したものとなる場合がある。この重合反応は投入ポリマーの含水率により反応速度が大きく影響されるが、ポリアミドは主鎖にアミド基を有するために親水性であり、雰囲気条件の変化よってポリマーの含水率が大きく変動し、重合反応もこれに大きく影響される。このため、生産現場においても雰囲気を精密に制御することが好ましいが、既存設備を活用する際、必ずしも充分な雰囲気制御ができない場合も考えられる。
【0006】
ところで、樹状ポリエステルは効果的な減粘剤であるために、理論的には樹状ポリエステルの添加量により流動性向上効果を制御することができるが、逆に効果が大きい上に、前述したポリアミドの特異性と相まって、例えば、パック圧変動が助長される場合があった。これを抑制するためには、樹状ポリエステルを必要量以上に添加して、ブレンド物の溶融粘度の絶対値を低くすることで見かけ上、パック圧変動を抑制することも考えられるが、過剰に添加した樹状ポリエステルが異物として悪影響を及ぼす場合がある。これは、比較的製品の厚み等が大きい樹脂成形加工品の場合は許容できる場合もあるが、溶融ポリマーの吐出から巻き取り、更に延伸工程にかけて、ダイナミックな伸長変形を行う製糸工程では、過剰添加した樹状ポリエステルに応力が集中してしまい糸切れなどを発生させる要因となる場合がある。特に延伸工程では、延伸性の悪化、力学物性の低下と問題となる場合があった。さらに、実際の生産技術を考えても、第2成分である樹状ポリエステルの添加量を精密に制御するのは、その量に伴って難易度が増すため、マトリクスポリマーと樹状ポリエステルの粒子形状を揃えたり、特殊な添加装置が必要となったりする場合がある上、ブレンド斑などの生産安定性の低下が問題となる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−52150号公報(特許請求の範囲、[0079]欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、樹状ポリエステルを添加するポリアミド低温紡糸技術において、経時的な良流動性効果の変動が抑制されたポリアミド繊維の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の手段により達成される。
【0010】
(1)芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、上記(P)、(Q)、(R)、および(B)の含有量の合計に対して(B)の含有量が7.5〜50モル%である樹状ポリエステルを含有量0.1〜3重量%および酸無水物を含有量0.01〜1重量%となるようにポリアミドに添加したブレンド物を紡糸口金から溶融紡糸することを特徴とするポリアミド繊維の製造方法。
【0011】
(2)酸無水物が無水コハク酸、無水フタル酸であることを特徴とする(1)記載のポリアミド繊維の製造方法。
【0012】
(3)ブレンド物全体に対して、酸化防止剤を0.01〜1重量%添加することを特徴とする(1)あるいは(2)のいずれか1項に記載のポリアミド繊維の製造方法。
【0013】
(4)酸化防止剤がフェノール系化合物であることを特徴とするポリアミド繊維の製造方法。
【0014】
(5)(1)から(4)記載のいずれか1項に記載される製造方法により得られたポリアミド繊維。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、樹状ポリエステルを添加してポリアミドを低温で紡糸技術において、経時的な良流動性化効果の変動を抑制しつつ、良流動化の効果を向上させるものである。これによって、従来技術では困難であった高分子量ポリアミドの低温紡糸が安定して行えるとともに、得られたポリアミド繊維は優れた力学特性を有することとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に用いる樹状ポリエステルは、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、前述(P)、(Q)、(R)および(B)の含有量の合計に対して(B)の含有量が7.5〜50モル%の範囲にある樹状ポリエステルとする必要がある。
【0017】
ここで、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および、芳香族ジカルボニル単位(R)は、それぞれ下式(1)で表される構造単位である。
【0018】
【化1】

【0019】
ここで、R1およびR3は、それぞれ芳香族残基である。R2は、芳香族残基または脂肪族残基である。R1、R2、およびR3は、それぞれ複数の構造単位を含んでも良い。
【0020】
前述の芳香族残基としては、置換または非置換のフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基などが挙げられ、脂肪族残基としてはエチレン、プロピレン、ブチレンなどが挙げられる。R1、R2およびR3は、好ましくは、それぞれ下式(R1)〜(R3)で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種以上の構造単位である。
【0021】
【化2】

【0022】
ただし、式中Yは、水素原子、ハロゲン原子およびアルキル基から選ばれる少なくとも1種である。式中nは2〜8の整数である。ここでアルキル基としては、炭素数1〜4が好ましい。
【0023】
本発明の樹状ポリエステルは、3官能以上の有機残基(B)が、互いにエステル結合またはアミド結合により直接、あるいは、枝構造部分(P)、(Q)または(R)を介して結合した、3分岐の分岐構造を基本骨格としている。分岐構造は、3分岐など単一の基本骨格で形成されていてもよいし、3分岐と4分岐、3分岐と5分岐など複数の基本骨格が共存していてもよい。ポリマーの全てが該基本骨格からなる必要はなく、末端封鎖のために末端に他の構造が含まれても良い。また、樹状ポリエステル中には、(B)の3つ以上の官能基が全て反応している構造、2つだけが反応している構造、および1つだけが反応している構造が混在していてもよい。好ましくは(B)の3つ以上の官能基が全て反応した構造が、(B)全体に対して15モル%以上であることが好ましく、より好ましくは20モル%以上であり、さらに好ましくは30モル%以上である。前述3分岐の基本骨格を模式的に示すと、下式(1)で示される。
【0024】
【化3】

【0025】
有機残基(B)の含有量は、前述(P)、(Q)、(R)、および(B)の含有量の合計に対して7.5モル%以上であれば、得られた樹状ポリエステルは樹状構造に起因する効果を十分得ることができる。(B)の含有量が50モル%以下であれば、剪断応答性の低下や流動性向上効果が低下することもなく、ゲル化反応の抑制が可能となる。また、この範囲内であれば、ポリアミド中での樹状ポリエステル分散径を縮小できるため、熱可塑性ポリマーと配合して得られる樹状ポリエステルの流動性向上効果が向上することとなる。(B)の含有量は、好ましくは10〜40モル%であり、高い剪断応答性と、熱可塑性ポリマーに配合した際の流動性向上効果や樹状ポリエステルの分散径が小さくなるという点から15〜35モル%とすることがさらに好ましい。
【0026】
ここで、(B)の含有量は樹状ポリエステルの枝構造および分岐構造を構成する構造単位に対しての値であり、末端構造を構成する残基は含まない。なお、枝構造とは、樹状ポリエステル中での(P)、(Q)、(R)のいずれかを含有してなる直鎖ポリエステル構造であり、分岐構造とは、(B)由来の構造を意味している。
本発明に用いる樹状ポリエステルは、溶融液晶性を示すことが好ましい。ここで溶融液晶性を示すとは、室温から昇温した際に、ある温度域で液晶状態を示すことである。液晶状態とは、剪断下において光学的異方性を示す状態である。
【0027】
溶融液晶性を示すために、基本骨格は、下式(2)で示されるように、有機残基(B)が、枝構造部分(P)、(Q)または(R)により構成される構造単位(D)を介して結合していることが好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
有機残基(B)は、カルボン酸基、ヒドロキシル基、アミノ基を含有する化合物の残基であることが好ましく、フロログルシノール、トリメシン酸、トリメリット酸、無水トリメリット酸、α−レゾルシル酸、4−ヒドロキシ−1,2−ベンゼンジカルボン酸、5−ヒドロキシイソフタル酸の残基が好ましく、さらに好ましくは、トリメシン酸、α−レゾルシル酸の残基であり、最も好ましくはトリメシン酸の残基である。
【0030】
また、樹状ポリエステルの芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、芳香族ジカルボニル単位(R)は、樹状ポリエステルの分岐間の枝構造部分を構成する単位である。p、qおよびrはそれぞれ構造単位(P)、(Q)および(R)の平均含有量(モル比)であり、このp、qおよびrの値は、樹状ポリエステルをペンタフルオロフェノール50重量%:重クロロホルム50重量%の混合溶媒に溶解し、40℃でプロトン核の核磁気共鳴スペクトル分析を行い、それぞれの構造単位に由来するピーク強度比から求めることができる。各構造単位のピーク面積強度比から、平均含有量を算出し、小数点3桁は四捨五入する。
【0031】
pとqの比率およびpとrの比率(p/q、p/r)は、いずれも5/95〜95/5の範囲が好ましく、より好ましくは10/90〜90/10であり、さらに好ましくは20/80〜80/20である。この範囲であれば、液晶性が発現しやすく好ましい。p/qおよびp/rの比率を95/5以下とすることで、樹状ポリエステルの融点を適当な範囲とすることができるため好ましい。また、p/qおよびp/rを5/95以上とすることで樹状ポリエステルの溶融液晶性を発現することができるため好ましい。
【0032】
R1は芳香族オキシカルボニル単位(P)由来の構造単位であり、具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成した構造単位が挙げられる。好ましくはp−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位であり、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位部併用することも可能である。また本発明の効果を損なわない範囲でグリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位を含有しても良い。
【0033】
R2は芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)由来の構造単位であり、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール由来の構造単位が挙げられる。好ましくは、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、およびエチレングリコール由来の構造単位であり、4,4’−ジヒドロキシビフェニルとハイドロキノンもしくは4,4’−ジヒドロキシビフェニルとエチレングリコール由来の構造単位が含まれることは液晶性の制御の点から好ましい。
【0034】
R3は芳香族ジカルボニル単位由来の構造単位(R)であり、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボン酸および4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸由来の構造単位が挙げられる。好ましくはテレフタル酸またはイソフタル酸由来の構造単位であり、特に両者を併用した場合に融点調節がしやすく好ましい。セバシン酸やアジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸由来の構造単位が一部含まれることもある。
【0035】
本発明の樹状ポリエステルの枝構造部分は、主としてポリエステル骨格からなることが好ましいが、カーボネート構造やアミド構造、ウレタン構造などを、特性に大きな影響を与えない程度に導入することも可能である。中でもアミド構造を導入することが好ましい。このような別の結合を導入することで、多種多様な熱可塑性ポリマーに対する相溶性を調整することが可能となるため好ましい。アミド結合の導入の方法としては、p−アミノ安息香酸、m−アミノ安息香酸、p−アミノフェノール、m−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、テトラメチレンジアミンペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂肪族、脂環族、あるいは芳香族のアミン化合物などを共重合する方法が好適に用いられる。中でもp−アミノフェノールまたはp−アミノ安息香酸を共重合する方法が好ましい。
【0036】
樹状ポリエステルの枝構造部分の具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸および6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位およびイソフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、エチレングリコール由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位、4,4’−ジヒドロキシビフェニル由来の構造単位、テレフタル酸由来の構造単位および2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位からなるもの、p−ヒドロキシ安息香酸由来の構造単位、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位、ハイドロキノン由来の構造単位およびテレフタル酸由来の構造単位からなるものが挙げられる。特に好ましいのは、枝構造部分が、下記の構造単位(P−I)、(Q−II)、(Q−III)、(R−IV)および(R−V)から構成されるものである。
【0037】
【化5】

【0038】
枝構造部分が、前述構造単位(P−I)、(Q−II)、(Q−III)、(R−IV)および(R−V)から構成される場合には、構造単位(P−I)の含有量pは、各構造単位の合計p+q+rに対して30〜70モル%が好ましく、より好ましくは45〜60モル%である。
【0039】
また、構造単位(Q−II)の含有量qは、構造単位(Q−II)および(Q−III)の合計含有量qに対して60〜75モル%が好ましく、より好ましくは65〜73モル%である。また、構造単位(R−IV)の含有量rは、構造単位(R−IV)および(R−V)の合計含有量rに対して60〜92モル%が好ましく、より好ましくは60〜70モル%であり、かかる範囲であれば、樹状ポリエステルの作用効果である、せん断応答性や熱可塑性ポリマーへの添加効果が顕著に発現する。
【0040】
前述のように、構造単位(Q−II)および(Q−III)の合計含有量qと(R−IV)および(R−V)の合計含有量rは実質的に等モルであることが好ましいが、いずれかの成分を過剰に加えてもよい。
【0041】
枝構造部分が、前述構造単位(P−I)、(Q−II)、(R−VI)および(R−IV)から構成される場合には、前述構造単位(P−I)の含有量pは、p+q+rに対して30〜90モル%が好ましく、40〜80モル%がより好ましい。
【0042】
また、有機残基(B)の含有量は、樹状ポリエステルを構成する全単量体の含有量に対して7.5モル%以上であり、10モル%以上がより好ましく、さらに好ましくは15モル%以上である。このような場合に、枝構造部分の連鎖長が、樹状ポリエステルが樹状の形態をとるのに適した長さとなるため好ましい。有機残基(B)の含有量は、樹状ポリエステルとして合成可能な範囲として、実質的な上限は、50モル%以下であり、40モル%以下が好ましく、35モル%以下がより好ましい。
【0043】
また本発明の樹状ポリエステルは特性に影響がない範囲で、部分的に架橋構造を有していてもよい。
【0044】
本発明において、樹状ポリエステルの製造方法は、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。前述R1で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、R2で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、および、3官能以上の多官能単量体を反応させる方法であって、該多官能単量体の添加量(モル)が、樹状ポリエステルを構成する全単量体(モル)に対して7.5モル%以上として製造する方法が好ましい。多官能単量体の添加量は、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは15モル%以上である。また、添加量は、樹状ポリエステルとして合成可能な範囲として、実質的な上限は、50モル%以下が好ましく、より好ましくは35モル%以下である。
【0045】
また、前述反応に際して、R1、R2およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体をアシル化した後、3官能の多官能単量体を反応させることも好適に用いられる。また、R1、R2およびR3で表される構造単位から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含む単量体、および、3官能の多官能単量体をアシル化した後、重合反応させる態様も好ましい。
【0046】
前述構造単位(P−I)、(Q−II)、(Q−III)、(R−IV)および(R−V)とトリメシン酸残基から構成される樹状ポリエステルを製造する場合を例に挙げて、好ましい製造方法を説明する。
【0047】
(1)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸およびイソフタル酸から脱酢酸縮重合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱酢酸重合反応させて製造する方法。
【0048】
(2)p−アセトキシ安息香酸、4,4’−ジアセトキシビフェニル、ジアセトキシベンゼン、テレフタル酸、イソフタル酸およびトリメシン酸から脱酢酸縮重合反応によって製造する方法。
【0049】
(3)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸およびイソフタル酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって液晶性ポリエステルオリゴマーを合成し、さらにトリメシン酸を加えて脱酢酸重合反応させて製造する方法。
【0050】
(4)p−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンとテレフタル酸、イソフタル酸およびトリメシン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0051】
(5)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニルエステルおよびイソフタル酸ジフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応により液晶性ポリエステルオリゴマーを合成した後、トリメシン酸を加えて脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0052】
(6)p−ヒドロキシ安息香酸のフェニルエステル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸ジフェニルエステル、イソフタル酸ジフェニルエステルおよびトリメシン酸のフェニルエステルから脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0053】
(7)p−ヒドロキシ安息香酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸にジフェニルカーボネートを反応させて、それぞれフェニルエステルとした後、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンを加え、脱フェノール重縮合反応によって製造する方法。
【0054】
なかでも工業プロセスの効率化という観点から(1)〜(5)の製造方法が好ましく、樹状ポリエステルの鎖長制御と立体規制の点から(4)の製造方法がより好ましい。
【0055】
分子量を上げるためには、トリメシン酸のカルボン酸量に相当する分だけ、ハイドロキノンや4,4’−ジヒドロキシビフェニルなどのジヒドロキシモノマーを、ジカルボン酸モノマーに対して過剰に加え、全単量体におけるカルボン酸と水酸基当量を合わせることが好ましい。
【0056】
脱酢酸重縮合反応を行う場合には、樹状ポリエステルが溶融する温度として、減圧下で反応させ、所定量の酢酸を留出、重縮合反応を完了させる溶融重合法が好ましい。具体的には、所定量のp−ヒドロキシ安息香酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメシン酸および無水酢酸を、攪拌翼および留出管を備え、下部に吐出口を備えた反応容器中に仕込む。混合物を、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら加熱して、水酸基をアセチル化させた後、200〜350℃まで昇温して脱酢酸重縮合反応を行い、酢酸を留出させる。理論留出量の91%まで酢酸を留出させ、反応を完了させる。
【0057】
アセチル化させる条件としては、実際の製造工程を考慮すると反応温度は、130〜170℃の範囲が好ましく、反応時間は、0.5〜6時間が好ましい。
【0058】
重縮合させる温度は、樹状ポリエステルが溶融する温度であり、好ましくは樹状ポリエステルの融点+10℃以上の温度であり、本発明実施の範囲としては、200〜350℃の範囲が好適に用いられる。重縮合させるときの雰囲気は、常圧窒素下でも問題ないが、減圧すると反応が早く進み、系内の残留酢酸が少なくなるため好ましい。減圧度は、0.1mmHg(13.3Pa)〜200mmHg(26600Pa)が好ましく、より好ましくは10mmHg(1330Pa)〜100mmHg(13300Pa)である。なお、アセチル化と重縮合を異なる反応容器で行っても良いが、工業的な利便性を考慮して、アセチル化と重縮合を同一の反応容器で連続して行っても良い。
【0059】
重縮合反応が完了した後、反応容器内を樹状ポリエステルが溶融する温度に保ち、0.01〜1.0kg/cm(0.001〜0.1MPa)に加圧し、反応容器下部に設けられた吐出口より、樹状ポリエステルをストランド状に吐出する。吐出口には断続的に開閉する機構を設け、液滴状に吐出することも可能である。吐出した樹状ポリエステルは、空気中もしくは水中を通過して冷却された後、必要に応じて、カッティングもしくは粉砕される。
【0060】
得られたペレット状、粒状または粉状の樹状ポリエステルは、必要に応じて、熱乾燥や真空乾燥により水、酢酸などを除く。ここで、固相重合をすることも可能であり、重合度の微調整、あるいは、さらに重合度を上げることができる。この固相重合とは、前述により得られた樹状ポリエステルを、窒素気流下、または、減圧下、樹状ポリエステルの融点−5℃〜融点−50℃(例えば、200〜300℃)の温度範囲で1〜50時間加熱する方法が挙げられる。
【0061】
樹状ポリエステルの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を触媒として使用することもできる。
【0062】
本発明の樹状ポリエステルは、数平均分子量は1,000〜40,000であることが好ましく、より好ましくは1,000〜20,000、さらに好ましくは1,000〜10,000であり、最も好ましくは1,000〜5,000の範囲である。なお、この数平均分子量は、樹状ポリエステルが可溶な溶媒、例えばペンタフルオロフェノール/クロロホルム(体積混合比75/25)混合溶媒を溶離液として用いたGPC−LS(ゲル浸透クロマトグラフ−光散乱)法により数平均分子量として測定した値である。
【0063】
本発明で用いる樹状ポリエステルは、分子量を制御するために単官能カルボン酸を重合系中に添加することができる。単官能カルボン酸を添加することにより、過剰な重合反応を抑制し、ゲル化などの副反応の発生を抑制することができる。単官能カルボン酸は、反応性、耐熱性やハンドリング性の観点から、安息香酸またはその誘導体であることが好ましい。具体的には、安息香酸、4−tert−ブチル安息香酸、3−tert−ブチル安息香酸、4−クロロ安息香酸、3−クロロ安息香酸、4−メチル安息香酸、3−メチル安息香酸、2−メチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、3,4−ジメチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、2,6−ジメチル安息香酸、4−エチル安息香酸を添加することが可能である。添加方法は、樹状ポリエステルの重合反応開始前に添加する方法、重合反応途中に添加する方法のいずれかを選択できる。
【0064】
樹状ポリエステルのカルボン酸末端とカルボン酸反応性単官能化合物との反応方法としては、樹状ポリエステルの重合反応途中に添加する方法、樹状ポリエステルの重合反応後に、再溶融または溶媒中に溶解せしめた樹状ポリエステルとカルボン酸反応性単官能化合物とを反応させる方法のいずれかを選択できる。ここで、樹状ポリエステルとの反応性や安全性の観点から、樹状ポリエステルの重合反応後に、再溶融または溶媒中に溶解せしめた樹状ポリエステルとカルボン酸反応性単官能化合物とを反応させる方法を用いることが好ましい。また、熱可塑性ポリマーや充填剤に樹状ポリエステルを配合し、成形加工する際にカルボン酸反応性単官能化合物を同時に配合する方法も好適に用いられる。
【0065】
本発明に用いる樹状ポリエステルは分子末端のカルボン酸基の量を1×10−4当量/g以下とすると好適である。樹状ポリエステルは主鎖がポリエステルであるため、末端にはカルボン酸基が存在する。一般に、このカルボン酸基はプロトンが電離することにより触媒反応を起こすことが知られている。このような触媒の存在下においては、カルボン酸の触媒反応は樹状ポリエステルの主鎖部分を攻撃(加水分解)するため、これによって生成したカルボン酸基が更に触媒反応を起こす可能性がある。また、このような連鎖的な反応が進むとブレンド物全体の分子量を低下させることとなるため問題となる場合がある。このような現象は滞留時間が短い押出加工(例えば射出成形など)では大きな問題とならない場合が多い。しかしながら、滞留時間が長い溶融紡糸においては無視できない問題となる場合がある。これは、樹状ポリエステルの分子末端のカルボン酸基量を1×10−4当量/g以下することで、前述した悪影響は全く考慮する必要がなくなり、長時間紡糸性の保持に寄与することができる。
【0066】
樹状ポリエステルの分子末端に存在するカルボン酸基量の定量は、中和滴定法によって行うことができる。樹状ポリエステル0.5gをo−クロロフェノールまたはo−クレゾール10mLに90℃に加熱しながら溶解させ、冷却した後、クロロホルム4mLを加える。ブロモフェノールブルー−エタノール溶液(0.2重量%)を数滴加えた後、滴定試薬(0.04M水酸化カリウム−メタノール溶液)をビュレットにて滴下し、中和点に達するまでに滴下した滴定試薬量から樹状ポリエステルの末端カルボン酸量を計算できる。
【0067】
本発明の溶融紡糸方法に用いる樹状ポリエステルの分子末端カルボン酸基量は、カルボン酸反応性単官能化合物を反応せしめることにより低下させることが可能である。また、このような単官能化合物を使用する場合には、樹状ポリエステルの流動性向上の効果を損なうことなく、分子末端のカルボン酸基を低下させることができる。カルボン酸基量を低下させることにより、樹状ポリエステルの滞留安定性や耐加水分解性を向上させることができるのである。ここで、カルボン酸反応性単官能化合物とは、常温または加熱時にカルボン酸と反応し、エステル、アミド、ウレタン、ウレア結合を形成しうる官能基を分子内に1つ有する化合物をいう。
【0068】
本発明の樹状ポリエステルに用いることのできるカルボン酸反応性単官能化合物としては、オルトエステル、オキサゾリン、エポキシド、イソシアネート、カルボジイミド、ジアゾ化合物から選ばれる1種類以上の化合物である。カルボン酸との反応性およびハンドリング性の観点から、オルトエステル、オキサゾリン、エポキシド、イソシアネートが好ましく、中でも樹状ポリエステルの融点を高く維持できるという観点からオルトエステルが特に好ましい。カルボン酸反応性単官能化合物は、単独で使用または2種類以上のカルボン酸反応性単官能化合物を併用しても構わないことは言うまでもない。
【0069】
前述したオルトエステル化合物としては、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリプロピル、オルト酢酸トリブチル、オルト酢酸トリベンジル、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチル、オルト蟻酸トリプロピル、オルト蟻酸トリブチル、オルト蟻酸トリベンジル、オルトプロピオン酸トリメチル、オルトプロピオン酸トリエチル、オルトプロピオン酸トリプロピル、オルトプロピオン酸トリブチル、オルトプロピオン酸トリベンジル、オルト安息香酸トリメチル、オルト安息香酸トリエチル、オルト安息香酸トリプロピル、オルト安息香酸トリブチル、オルト安息香酸トリベンジルが挙げられる。このうち、樹状ポリエステルとの反応性や親和性およびハンドリング性の観点から、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト蟻酸トリメチル、オルト蟻酸トリエチルが好ましく、熱可塑性繊維の特性への影響を予防するとい観点からオルト酢酸トリメチルまたはオルト酢酸トリエチルが特に好ましい。
【0070】
理論的には、前述カルボン酸末端の封鎖に用いるカルボン酸反応性単官能化合物を、封鎖したい末端基に相当する量添加することで末端封鎖が可能である。封鎖したい末端基相当量に対して、末端封鎖に用いる有機化合物を、1.005倍当量以上用いることが好ましい。また、末端封鎖に用いる有機化合物の添加量は2.5倍当量以下であることが好ましい。かかる範囲であれば、樹状ポリエステルの末端封鎖が充分行われ、かつ、カルボン酸基が系中に残存することによるガスの発生を抑制することができる。
【0071】
以上のような樹状ポリエステルは、添加したブレンド物の流動性を向上することができ、紡糸温度を低下できることは公知である。J.Polym.Sci.PartB:Polum.Phys.,vol.34,2433(1996).によると、非相溶系ポリマーブレンドにおけるポリマーの粘度は分子量項+分散相互作用項+スリップ効果項で記述されるが、本発明で用いる樹状ポリエステルは、分子量項については低分子量化、分散相互作用項については樹状構造、スリップ効果項について液晶性の効果により、ブレンド物の流動性を向上させていると考えられる。ちなみに、Macromolecule,vol.38,10571(2005).では樹状ポリエステルのようなハイパーブランチポリマーと通常の直鎖状のポリマーのサイズを同一分子量で比較したところ、ハイパーブランチポリマーは1/5以下の分子サイズとなることが報告されている。
【0072】
本発明に用いる樹状ポリエステルを使用する目的は、この分子量を有しつつ、かつ分子サイズが小さく、ポリアミド中で有機ナノ粒子状に振舞うことが重要ある。高温で紡糸が必要となるポリアミドの紡糸において、耐熱性は重要であり、この耐熱性を付与するためには、数平均分子量で1000〜40,000の分子量が必要となる。本発明に用いる樹状ポリエステルは、前述したように分子サイズが小さく、仮に1000〜40,000の分子量を有していたとしても、ポリアミド中で有機ナノ粒子的な振る舞いをするため、平均して50nm以下という超微分散状態が形成される。このため、本発明の樹状ポリエステルはポリアミド中で有機ナノ粒子的な振る舞いをし、前述した分散相互作用項を大きく低下できるため、流動性を向上できるものと考えられる。本発明はこの樹状ポリエステルの流動性向上効果をポリアミドに適用した技術である。
本発明においては、前述した樹状ポリエステルをブレンド物の総量に対して、0.1〜3重量%添加することが重要である。係る範囲であれば、繊維特性等に影響を与えずに良好な流動性向上効果を得ることができる。特に、高分子量ポリアミド等の高粘度ポリマーの低温紡糸には有効である。また、添加する際のブレンドムラ等を抑制すると言う観点から、樹状ポリエステルの含有量は0.1〜1重量%がより好ましい範囲である。
ここで言うポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66コポリマー、ナイロン56、ナイロン410が挙げられる。また、ナイロン6T/66コポリマー、ナイロン6T/6Iコポリマー、ナイロン6T/M5Tコポリマー、ナイロン6T/12コポリマー、ナイロン66/6T/6Iコポリマーおよびナイロン6T/6コポリマーなどのヘキサメチレンテレフタルアミド単位を有する共重合体も好ましい。中でも、汎用性が高いポリアミドとして、ナイロン6やナイロン66およびこれらの混合物が好ましい。また、環境問題が注目される中、バイオ由来ポリマーであるナイロン56やナイロン410は、環境問題という観点から好ましい。
【0073】
これらポリアミド樹脂の重合度は、サンプル濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度(ηr)として、1.5〜7.0の範囲のものが好ましく、中でも衣料用途においても高強力が必要とされる用途(例えば、薄地織物)や産業用途に実用に耐えうる力学特性を得るという観点から3.5〜7.0の範囲の高分子量ポリアミドがより好ましい。
【0074】
以上のようなポリアミド樹脂に樹状ポリエステルを添加する技術は、ブレンド物自体の溶融粘度を低下することができるため、特に高分子量ポリマーを使用する場合や繊維の高分子量化を行うには非常に有用なものである。しかしながら、樹状ポリエステルをポリアミドに添加する際にはポリアミドのアミン末端を起因とする特異的な現象があることがわかった。この現象は、以下に記載する通りと考える。
【0075】
第1には、ポリアミドのアミン末端に起因する溶融滞留時に見られる増粘現象である。この増粘現象はアミン末端の反応による重合反応およびゲル化挙動があり、いずれも水分率が影響し、パック圧の変動等の生産安定性を低下させる場合がある。
以下の重合反応を例に説明する。
溶融滞留時にアミン基が2つ以上存在すると、アミン基同士が反応し、脱水縮合することによって分子量が増加する。この反応は脱水現象を伴うために、当然ポリアミドの含水率に大きく影響するものである。このため、本発明のように樹状ポリエステルを添加する場合などは、樹状ポリエステルが持ち込む水分もあるため、既存設備では、パック圧等が大きく変動し、生産安定性が低下する場合がある。パック圧を安定させるためには、前述した重合度(粘度)が経時的に変化する場合には、樹状ポリエステルの含有量をそれにあわせて変動させる方法も考えられるが、実際には、特殊な添加装置を設置する必要が生じる等、装置を複雑化させる等の問題がある。
【0076】
第2には、ポリアミドのアミン末端と樹状ポリエステルのエステル結合部の電子的な相互作用にあり、樹状ポリエステルによる良流動化発現に影響を与える。
樹状ポリエステル添加による良流動化発現は、下記のようなメカニズムが可能性として考えている。すなわち、ポリアミド中に超微分散した樹状ポリエステルが、溶融時におけるせん断を付与された場合に異流動成分として振る舞い、樹状ポリエステルが存在していた部分に自由体積が形成される。この自由体積が生成した周辺の分子鎖は溶融下で可動しやすく、ブレンド物の溶融粘度が低下するといった流動性向上効果が発現する。ポリアミドの分子鎖1本に着目すると、分子鎖間の相互作用(例えば、絡み合い)は分子鎖の末端部分は小さく、可動しやすい。このため、分子鎖末端に樹状ポリエステルが配置されると、前述した効果は、見かけ上、低くなってしまう可能性がある。一方、ポリアミド分子鎖のアミン末端は、プロトンを有しているために、樹状ポリエステルのエステル基と電子的な相互作用(引力)を有している。このため、樹状ポリエステルは、優先的にアミン末端周辺に配置される傾向にあり、これを分子鎖中央部に配置することにより、流動性向上効果を改善できることに着想した。というのは、ポリアミドへの樹状ポリエステル添加技術の検討において、アミン末端量を変更したポリアミドで、樹状ポリエステルの同含有率で比較した場合、高いアミン末端量のポリアミドと比較して、低いアミン末端量のポリアミドは流動性向上効果が高いことを発見したのである。
【0077】
本発明者等は上記したポリアミドに樹状ポリエステルを添加した際に発現する2つの特異現象に着目し、この課題克服を鋭意検討した。結果、酸無水物を樹状ポリエステルに追添加することで、樹状ポリエステルの含有量に対する流動性向上効果を飛躍的に向上できることを見出したのである。このため、樹状ポリエステルの含有量を大幅に低下させても、従来以上の流動性効果が発現する。
本発明の効果により、従来では困難であった超高分子量ポリアミドの低温紡糸を安定的に実施することが可能となった。また、従来技術と比較して、同じ流動性向上効果を得るための樹状ポリエステルの含有量を低下できることから、製品の低コスト化に寄与できる。更に、紡糸温度を低温化および混練押し出し機等のスクリュー負荷電力低下可能にすることから、昨今注目が集まる省エネ、CO削減にも貢献できるのである。
【0078】
本発明においては、樹状ポリエステルに併せて酸無水物を添加することが重要である。ここで言う酸無水物とは、無水安息香酸、無水イソ酪酸、無水イタコン酸、無水オクタン酸、無水グルタル酸、無水コハク酸、無水酢酸、無水ジメチルマレイン酸、無水デカン酸、無水トリメリット酸、無水1,8−ナフタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が挙げられる。中でも反応性や取扱い性の観点から無水コハク酸、無水1,8−ナフタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸が好ましく用いられ、粉体であるために樹状ポリエステルに併せて同時に添加できることや沸点が比較的高いことから、添加する際に揮発する量を抑制でき、添加量相当の効果を得られるということから無水コハク酸、無水フタル酸が特に好ましい。
【0079】
この酸無水物の効果は、以下のように考えられる。
ポリアミドは末端にアミンを有しているために、エステル基を有する樹状ポリエステルは相互作用によって分子末端部に優先的に配置されるものであった。一方、酸無水物によりこのポリアミドのアミン末端を封鎖することにより、この電子的な相互作用を遮断し、樹状ポリエステルをポリアミド中に均等に配置できるようになる。
【0080】
酸無水物は、求電子性であるために、カルボン酸アミドのような活性が高い反応中間体との反応性が高く、溶融滞留中に生成した、あるいは、元から存在するアミン末端と速やかに反応して、イミド化合物のような化学的に非常に安定した構造物となるので、効率よくポリアミドのアミン末端を封鎖することができる。このようにアミン末端を封鎖することで、電子的な相互作用を遮断し、樹状ポリエステルの含有量に対する流動性向上効果を飛躍的に向上させることができる。またその一方で、ポリアミドの溶融紡糸において、アミン末端同士の反応による重合反応等も抑制できることとなるために、パック圧変動抑制による生産安定性(紡糸安定性)が長時間維持できる。
【0081】
ポリアミドに対する酸無水物の反応の評価は、酸無水物添加のブレンド物と未添加のブレンド物の流動性、例えば溶融粘度を比較すれば明確になる。詳細にはブレンド物を溶融紡糸して得たポリアミド繊維のイミド化合物の存在が認められばよく、赤外分光光度計を利用して確認できる。具体的には、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)によって、イミド基C−N伸縮振動に由来する1366cm−1付近のピークを確認することでイミド化合物の生成、すなわち、酸無水物が反応したことを評価することできる。
【0082】
本発明のポリアミド繊維の製造方法は、従来技術の樹状ポリエステルによる流動性向上効果に加えて、酸無水物を追添加することにより、樹状ポリエステルの適用量減らしても優れた流動性向上効果を発揮する。樹状ポリエステルの添加量を抑制できる効果は、生産コスト以外にもポリアミドに対する添加物の総量を低下させることができるために、長時間の安定紡糸は工業的に有効である。また、紡糸の後工程、特に延伸工程においても有効である。すなわち、通常延伸工程においては、長繊維では、一対以上の同方向に周回するローラ間で繊維を延伸して、分子鎖の配向を促進するとともに繊維構造を生成させ、実用に耐えうる力学特性を付与する。この工程においては、一般に、用いる繊維の軟化温度(例えば、ガラス転移点)以上に加熱したローラに接触させることで延伸性を確保する。ポリアミド繊維の場合にも同様に延伸工程を通過させるが、ポリアミドは吸湿によって軟化温度が低下するため、ローラの加熱温度は、室温から100℃程度の範囲で選択される。一方、本発明に用いる樹状ポリエステルにおいては、100℃以上に軟化点が存在するため、樹状ポリエステルを必要以上に添加した場合には、この軟化温度、すなわち延伸温度にミスマッチが生じる。すなわち、100℃以下に延伸温度を設定した場合には、超微分散しているとはいえ、樹状ポリエステルに応力集中が起こり、不当に延伸性が低下してしまう場合があった。一方、樹状ポリエステルの軟化点に延伸温度を設定すると、ローラ上で繊維が融着してしまうために、品位はもちろん、力学特性も不当に低下したポリアミド繊維となる場合があった。本発明の製造方法においては、超高分子量ポリアミドの紡糸においても、樹状ポリエステルの添加量が必要最小限ですむために、延伸温度を精密に制御する必要がなく、通常のポリアミド繊維の条件で延伸できる。
【0083】
酸無水物の含有量は、理論的には、酸無水物を、ポリアミドのアミン末端基に相当する量以上添加することが含有量の基準となり、ポリアミドのアミン末端基量に対して、酸無水物を1.0倍当量以上2.5倍当量以下用いることが重要である。具体的には、ブレンド物の総量に対して、酸無水物を0.01〜1重量%の含有量とすることが重要である。かかる範囲であれば酸無水物がポリアミドのアミン末端と速やかに反応することで、ポリアミドと樹状ポリエステルの反応を抑制することが可能となる。含有量は多量であるほどポリアミドと樹状ポリエステルの反応を抑制し、紡糸中のゲル化等も抑制できるが、酸無水物は反応性の高い化合物であるので、紡糸機の配管や計量部の金属腐食の可能性が考えられる。しかしながら、係る含有量であればブレンド物中の遊離酸無水物量を抑制できるので前述した問題が発生する可能性が極めて低い。通常の溶融紡糸用ポリアミドであればアミン末端量が1.0〜5.0×10−5当量/gであるため、樹状ポリエステルとポリアミドの反応抑制および前述した金属腐食抑制の観点から酸無水物の含有量は0.1〜0.5重量%がより好ましい範囲である。
【0084】
本発明のポリアミド繊維の製造方法では、ブレンド物の耐熱性を向上させる観点から、酸化防止剤を添加することが好ましい。ここで、酸化防止剤としては、フェノール系化合物およびリン系化合物が存在する。ここで、リン系化合物はポリアミドと反応し、重合反応を促進させ、粘度増加する場合がある。このため、本発明に用いる酸化防止剤はフェノール系化合物が好ましい。ここでいうフェノール系化合物としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましく用いられ、中でも、N、N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが好ましく用いられる。酸化防止剤は予めポリアミドあるいは樹状ポリエステルに添加すればよく、その含有量は0.01〜1重量%が好適である。かかる範囲であれば、溶融したブレンド物からブリードアウトすることもないため、目的とする分解物の捕捉、すなわち樹状ポリエステルとポリアミドの反応を効率よく行われ、かつ紡糸性等への影響もない。
【0085】
次に本発明の具体的な製造方法を以下に詳述する。
まず、ポリアミド、芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、上記(P)、(Q)、(R)、および(B)の含有量の合計に対して前記(B)の含有量が7.5〜50モル%である樹状ポリエステルおよび酸無水物を必要に応じて乾燥し、押し出し混練機に導入する。ここで、これらのポリマーの添加方法としては、ドライブレンドによってブレンドしてホッパーに仕込む方法、あるいはサイドフィーダなどで、所定の含有量となるように制御しながら添加する方法がとられる。ここで、酸無水物の効果作用を考えると、樹状ポリエステルに先んじて、酸無水物とポリアミドの混合または/あるいは混練した後に樹状ポリエステルを添加することが好ましい。
ブレンド物を混練する装置としては、ブレンド斑を抑制するために二軸押し出し混練機とすることが好ましい。ここで、ブレンド物を溶融し、そのまま紡糸機に導いても、ポリアミドに樹状ポリエステルまたは/あるいは酸無水物を高濃度に添加してマスターペレットとし、マスターペレットをポリアミドにて希釈する方法(マスターペレット方式)を用いても良い。
【0086】
樹状ポリエステルはポリアミドに比較的容易に超微分散した形態をとるが、押出量20g/分で15mmφ、L/D=30の二軸混練押出機を使用した場合には、スクリュー回転数を100〜400rpmとすることにより超微分散した形態になる。
押出量を増加する場合には、よりせん断応力をかける方が好ましいため、スクリュー回転数を増加させた方が好適である。ここで、樹状ポリエステルのブレンド率やポリアミドの分子量が異なる品種をいくつかつくるなど汎用性を持たせるためにはマスターペレット方式が好ましい。また、混練直結紡糸の場合には、二軸押し出し混練機では一軸押し出し混練機の場合とは異なり、混練機中で誘起された発泡が仕込み側に抜け難いため、発泡が繊維にまで混入し糸切れが頻発する場合がある。このため、特に高分子量ポリアミドなどの高粘度ポリマー使用する場合には、二軸押し出し混練機の吐出側でベントを行い、泡を抜く操作を行うことが好ましい。なお、マスターペレット方式においてもガット切れが頻発する時はベントを行うことが好ましい。
【0087】
樹脂加工の場合にはガラス繊維などの無機フィラーを多量に混合させることで機械的特性(弾性率向上など)やガスバリア性を向上させることも多いが、繊維化の場合に無機フィラーを混合させると紡糸機内のフィルターで詰まりが発生し濾圧が急上昇し、また紡糸口金孔に無機フィラーが詰まり紡糸不能に陥る場合がある。また、紡糸不能に至らずとも、紡糸口金孔からのポリマーの吐出が安定せず糸切れの頻発や糸斑の悪化などの問題が発生する場合がある。このため、繊維化の場合には樹脂加工とは異なり、無機フィラーは混合しない方が良く、混合したとしてもブレンドポリマー全体に対し0.5重量%未満である。ここで言う無機フィラーとは、80重量%以上が無機物から構成され、円換算の平均直径が10nm以上かつ平均長さが100nm以上のものである。
【0088】
樹状ポリエステルまたは/あるいは酸無水物をマスターペレット化して製造すると、紡糸過程で良好にポリアミドに希釈される。この際には二軸押し出し混練機を用いることがブンレンドの均一性の観点から好ましい。というのは、本発明では樹状ポリエステルまたは/あるいは酸無水物の含有量で良流動化効果の程度が異なる場合もあるため、これらの含有量が経時的に不均一であるとスクリュートルクや先端圧、濾圧、口金背面圧が経時的に変化する場合があるからである。このため、一軸押し出し混練機を用いる場合には、混練温度を低下させてせん断応力を増加させることが効果的であり、加えてダルメージなどの混練機能を付加したり、一軸押し出し混練機吐出付近や紡糸機あるいは紡糸パック内に静止混練器を設け、充分にブレンドを均一化することが好適に用いられる。
【0089】
以上のように樹状ポリエステル、酸無水物および他の添加剤が添加されたブレンド物は溶融され、口金の細孔を通って吐出される。本発明で用いる口金の吐出孔径は、単孔吐出量および紡糸速度の関係から、紡糸ドラフト(=引取速度/吐出線速度)で決定すればよいが、一般に丸孔の場合は0.1〜5.0mmφが目安となる。細繊度の繊維を得る場合や低粘度ポリマーを用いる場合には、0.1〜0.4mmφ、高粘度ポリマーの場合には0.3〜5.0mmφが好適に用いられる。また、計量性を考えれば、吐出孔径2.0mmφ以上の場合は吐出孔の上に孔径を縮小した計量孔を具備していることが好ましい。吐出孔および計量孔のL/D(=孔長/孔径)は用いるポリアミドの溶融粘度にもよるが、0.1〜5.0とすることが目安となり、計量性を考えると、0.5〜3.0が好適に用いられる。
吐出孔のホール数は、同心円配列、千鳥配列や直線配列として口金面内に入るホール数を設定することができるが、ホール数が多すぎる場合には単糸間で冷却ムラができる場合や単糸どうしが干渉してしまい紡糸性を悪化してしまう場合があるので、例えば100mmφの口金であれば、1〜200ホールとすることが好ましい。
【0090】
吐出されたポリマーブレンドはユニフローなどの強制冷却装置によって、冷却固化され、油剤を付与し、巻き取られる。巻き取り条件、すなわち、紡糸速度については、前述した紡糸ドラフトに注意して、目的とするポリアミドの力学特性等によって、実質的には500〜6000m/分が選択される。特に、産業資材用途で高弾性率が必要な場合には、高分子量ポリマーを用い、500〜3000m/分とし、その後高倍率延伸することが好ましい。更に好ましくは、500〜2000m/分である。
【0091】
溶融紡糸により得られたポリアミド繊維は紡糸工程に引き続き延伸工程により分子鎖の配向を高度に高めることにより繊維構造が形成され、実用に耐えうる力学特性を付与することができる。この延伸に関しては、本発明のポリアミド繊維を一旦巻き取って別工程で延伸を施す2工程法、または本発明のポリアミド繊維を引き取って、一旦巻き取ることなく引き続き延伸を行う1工程法(直接紡糸延伸法)などを用いることができる。この延伸方法はローラ延伸およびスチーム延伸が一般的であるが、赤外線光等を照射して延伸する方法のいずれを用いてもよい。
【0092】
この延伸に際しては、特に予熱温度を適切に設定することが好ましい。というのは本発明で用いる樹状ポリエステルはガラス転移温度などの軟化温度が70℃より高い場合があり、例えば、N66の通常の予熱温度である50〜95℃程度では、樹状ポリエステルが延伸過程で異物として振る舞い結果として延伸糸のタフネスの低下を招く場合がある。この影響は、特に高倍率延伸時ほど顕著に現れる。このため、樹状ポリエステルの添加量が1重量%未満と非常に低い場合には問題ないが、樹状ポリエステルの添加量が1重量%以上の場合には予熱温度は樹状ポリエステルのガラス転移温度や軟化温度以上に設定することが好ましい。予熱温度の上限としては、予熱過程で繊維の自発伸長により糸道乱れが発生しない温度とすることが好ましい。この延伸時の予熱温度設定によって延伸糸としたときの力学特性の向上に貢献することができる。
【0093】
一方で、本発明のポリアミド繊維の製造方法においては、樹状ポリエステルの添加量を著しく低下してもその流動性向上効果が保たれるため、必要以上に樹状ポリエステルを含有させる必要がなく、延伸温度を精密に制御する必要がなく、一般のポリアミド繊維の延伸装置があれば、問題なく、所望の力学物性ならびに繊度を有したポリアミド繊維を得ることが可能となる。
【0094】
本発明の製造方法により得られるポリアミド繊維は、強度は2cN/dtex以上が好ましく、産業資材用途で必要とされる力学的特性を考えれば、5cN/dtex以上であることが好ましい。現実的な上限としては20cN/dtexである。
【0095】
また、本発明のポリアミド繊維の弾性率は40〜200cN/dtexであることが好ましい。繊維の弾性率はいわゆる変形、特に繰り返し受ける伸長圧縮に対する耐性を表すものであり、この値が高いと、例えば、産業用途においてポリアミド繊維にとっては過酷な湿潤下で繰り返し伸長圧縮を受けるような使用条件下においても、繊維の伸長変形が抑制され、いわゆるヘタリが抑制されるようになる。このため、本発明の製造方法により得られるポリアミド繊維は、弾性率が40cN/dtex以上であることが好ましく、これ以上であれば、使用条件下での劣化が抑制されることに加えて、織布するなどの後加工における工程通過性が良好なものとなる。また、産業用途において、例えば、タイヤコード、ロープ、フェルトといったような湿潤下において繰り返し伸長圧縮を受ける用途において、優れた性能を発揮する範囲として、弾性率は60cN/dtex以上であることが特に好ましい。ここで得られるポリアミド繊維の実質的な上限は200cN/dtexである。ここで言う弾性率とは、JIS L1013(1999年)に示される条件で荷重−伸長曲線を求め、荷重−伸長曲線の初期立ち上がり部分を直線近似し、その傾きから求められるものである。伸度は延伸糸で2〜60%、特に高強度が必要とされる産業資材分野では2〜25%、衣料用では25〜60%とすることが好ましい。
【0096】
前述したポリアミド繊維は、繊維巻き取りパッケージやトウ、カットファイバー、わた、ファイバーボール、コード、パイル、織編、不織布、紙、液体分散体など多用な繊維製品とすることができる。
【0097】
本発明の製造方法により得たポリアミド繊維は、用途を特に限定することなく使用することができる。衣料用途においては、例えば、アウターなどの織物などに有効である。本発明のポリアミド繊維を使用したアウターにおいてはポリアミドの耐摩耗性が有するために、特に、アウトドア用衣類などに使用される薄地織物においては、4cN/dtex以上の強度とすることで使用できる。この薄地織物用に製造されるポリアミド繊維は低繊度であることが多く、当然、紡糸工程における単孔吐出量も絞って製造することになるため、紡糸時の滞留時間が長くなり、熱分解が問題になる場合があった。一方、本発明の製造方法においては、前述したように樹状ポリエステルおよび酸無水物の添加による流動性向上によって紡糸温度を著しく低下できるため、熱分解が抑制される。
【0098】
また、産業用途においては、タイヤコード、魚網、ロープ、テント、工業用ブラシ、釣り糸などの繰り返し擦過、緊張と緩和が繰り返されるなど過酷な条件下で使用される用途においても有効に使用することができる。
【0099】
タイヤコードでは、タイヤの骨格を形成するカーカスプライからキャッププライなどに使用される。特に、ポリアミド繊維はタイヤのゴムに含まれる加硫促進剤(アミン化合物)への耐性が高いことからキャッププライへの適用される場合が多い。このキャッププライとは自動車が走行中にタイヤには遠心力が作用するため、タイヤは円周方向へ膨らむこととなる。円周方向への膨らみが過度になった場合には、いわゆるバースト現象等を起こすため、安全性への意識の高まりから、この円周方向への膨らみを抑制するキャッププライが汎用的なタイヤにおいても採用されるようになってきた。キャッププライには繰り返しの緊張緩和が加わることに加え、タイヤは走行することにより熱を持つため、特に雨天での走行では雨水あるいは水蒸気がキャッププライを攻撃することになり、レゾルシン−ラテックスなどによりコーティングされてはいるものの、このキャッププライに使用するポリアミド繊維にも優れた力学特性が要求される。本発明の製造方法により得たポリアミド繊維は溶融紡糸時の熱分解が抑制されるために、非常に優れた力学特性を有する(キャッププライでは特に弾性率が重要な力学特性となる)。このタイヤコードに使用するには、強度5.0cN/dtex以上とすることで使用することができる。
【0100】
魚網は、水中では水中生物の死骸などが発酵などしてアミンが多く存在するため、耐アルカリ性が低いポリエステル系繊維では製品寿命が短くなってしまい、ポリアミド繊維が適用される場合が多い。しかしながら、前述しているようにポリアミド繊維は吸湿性であるため、水中で力学特性および寸法安定性が低下するため、魚網の網目の伸び、力学特性の低下による切れなどの問題があった。この用途においても前述したように溶融紡糸時の熱分解抑制のために本発明の製造方法で得たポリアミド繊維は優れた力学特性を有し、製品寿命が長い優れた魚網となる。魚網においても強度5.0cN/dtex以上とすることで使用される。
【0101】
また、自然環境下で使用されるロープやテントにおいては、ポリアミド繊維は耐摩耗性に優れるため、採用される場合が多いが、当然、このような用途においても本発明の製造方法により得たポリアミド繊維は有効に作用する。
【0102】
本発明の製造方法はマルチフィラメントだけでなく、モノフィラメントとする際にも使用でき、優れた工業用ブラシや釣り糸にもなる。
【0103】
以上のように本発明のポリアミド繊維の特性が特に有効に働く用途について説明したが、当然、一般にポリアミド繊維が用いられる一般衣類、パンストなどの衣料用途、あるいは、シートベルト、エアバック、などの産業用途繊維として使用することが可能である。これらの用途においても、優れた力学特性を発揮し、優れた繊維製品になる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明について実施例を用いて詳細に説明する。なお、実施例中の測定方法は以下の方法を用いた。
【0105】
A.樹状ポリエステルの数平均分子量
樹状ポリエステルの数平均分子量は樹状ポリエステルが可溶な溶媒であるペンタフルオロフェノールを使用して、GPC−MALLS(ゲル浸透クロマトグラフ(ShodexGPC−101)−光散乱検出器(Wyatt製DAWN HELEOS))により、試料濃度0.04%、測定温度23℃で測定した。
【0106】
B.樹状ポリエステルの化学組成比
樹状ポリエステルの化学組成比は核磁気共鳴装置(日本電子製JNM−AL400)を用いて、ペンタフルオロフェノール/重水素化クロロホルム(50/50)混合溶媒に溶解して、40℃でH−NMR測定を行い、ピーク強度比から(P)、(Q)および(R)の化学組成比を算出した。
【0107】
C.ナイロンの相対粘度(ηr)
98%硫酸水溶液にナイロンを溶解し0.01g/mLの濃度に調整した後、オストワルド式粘度計を用いて25℃で測定した。
【0108】
D.チップ含水率
平沼産業社製カールフィッシャー水分計(AQ−2100)を用いた電量滴定法で測定した。試行回数3回の平均値を用いた。
【0109】
E.イミド化合物の評価
採取した繊維を日本バイオ・ラットラボラトリーズ製FT−IRタイプFTS−40にて分析した。その分析結果からイミド基C−N伸縮振動に由来する1366cm−1付近のピークを確認し、酸無水物の反応生成物であるイミド化合物の生成を評価した。
【0110】
F.繊維の単糸繊度
25℃ 55%RHに制御された雰囲気下で、繊維を検尺機によって100mの小綛とし、その重量を100倍することにより、総繊度とした。総繊度をフィラメント数で割ることで、単糸繊度を算出した。
【0111】
G.繊維の力学特性(強度、伸度、弾性率)
25℃ 55%RHに制御された雰囲気下で、初期試料長を未延伸糸の場合は50mm、延伸糸の場合は200mmとし、引っ張り速度は100%mm/分とし、JIS L1013(1999年)に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0112】
参考例1(樹状ポリエステルA−1の合成)
攪拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸66.3g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.41g(0.075モル)、トリメシン酸31.52g(0.15モル)を加えておよび無水酢酸62.48g(フェノール性水酸基合計の1.00当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、280℃まで昇温し、3時間攪拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで加熱および攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出した。
【0113】
得られた樹状ポリエステルを、乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥した後、ブレンダーを用いて粉砕し、得られた樹状ポリエステル粉末を、真空加熱乾燥機を用いて100℃で12時間加熱真空乾燥した。
乾燥後の樹状ポリエステル粉末70gと、カルボン酸反応性単官能化合物としてオルト酢酸エチル31.4g(0.19モル)を、撹拌翼を備えた500mLの反応容器に仕込み、200℃に昇温した。200℃で20分撹拌した後、内容物を冷水中に吐出した。
【0114】
得られた樹状ポリエステル(A−1)について、核磁気共鳴スペクトル分析を行った結果、トリメシン酸残基に対して、p−オキシベンゾエート単位の含量pが2.66、4,4’−ジオキシビフェニル単位とエチレンオキシド単位の含量qが0.66、テレフタレート単位の含量rが0.66であり、p+q+r=4であった。
得られた樹状ポリエステル(A−1)の数平均分子量は2200であり、分子末端カルボン酸基量は0.23×10−6当量/gであった。
【0115】
参考例2(樹状ポリエステルA−2の合成)
攪拌翼および留出管を備えた500mLの反応容器にp−ヒドロキシ安息香酸66.3g(0.48モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル8.38g(0.045モル)、テレフタル酸7.48g(0.045モル)、固有粘度が約0.6dl/gのポリエチレンテレフタレ−ト14.41g(0.075モル)、トリメシン酸31.52g(0.15モル)を加えておよび無水酢酸62.48g(フェノール性水酸基合計の1.00当量)を仕込み、窒素ガス雰囲気下で攪拌しながら145℃で2時間反応させた。その後、280℃まで昇温し、3時間攪拌し、理論留出量の91%の酢酸が留出したところで加熱および攪拌を停止し、内容物を冷水中に吐出し、分子末端を封鎖していない樹状ポリエステル(A−2)を得た。樹状ポリエステルA−2の評価結果を表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
実施例1〜3
乾燥した相対粘度(ηr)4.2の高分子量ナイロン66(N66)98.8重量%、参考例1で合成した樹状ポリエステルA−1を0.4重量%、酸無水物として無水コハク酸を0.3重量%、酸化防止剤としてヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバジャパン社製IR1098)を0.5重量%となるように、別々に計量し、独立に二軸混練機(15mmφ、L/D=15)に仕込んだ。このブレンド物を二軸押出混練機直上で抜き出し、含水分率を調べたところ、250ppmであり、含水率は低いものであった。
二軸押出混練機のスクリュー回転数は100rpmとし、二軸押出混練機の吐出側でベントを行って脱気することにより、泡を消すとともに、押出混練中に発生した水分等を排出させた。
紡糸温度(混練機および紡糸ヘッド)は275℃とし、単孔吐出量は2.0g/分・holeで絶対濾過径10μの金属不織布で濾過した後、丸孔10ホール(φ=0.6mm L/D=1.5)の口金から紡糸を行い、ユニフローの冷却風帯域を通過させた後給油し、速度600m/分としたローラによって巻き取った(実施例1)。同様に紡糸温度を285℃に変更した場合(実施例2)、樹状ポリエステルを参考例2で合成したA−2に変更した場合(実施例3)について実施した。単糸繊度はいずれの場合も33.3dtexであった。吐出および巻取り雰囲気の温湿度は25℃ 55%RHであった。結果を表2に示す。
【0118】
比較例1
樹状ポリエステルはA−1(含有量1重量%)として、酸無水物は未添加および酸化防止剤としてリン系酸化防止剤(旭電化工業社製 アデカスタブAX−71:含有量0.5重量%)としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。結果を表2に示す。
【0119】
比較例2
紡糸温度を290℃とし、N66単独で紡糸したこと以外は全て実施例1に従い実施した。N66チップの含水率は250ppmであった。結果を表2に示す。
本発明の効果のひとつである流動性向上の効果を見るためにパック圧変化を調べると、樹状ポリエステル未添加の比較例2と比較して、実施例1〜3および比較例1はいずれもパック圧が低下していることがわかった。特に実施例1については、紡糸温度を15℃低下しているにも関わらず、比較例2と比較して、12%もパック圧が低下するものであった。
紡糸安定性に着目すると、酸無水物を添加せずにリン系の酸化防止剤を添加した比較例1に関しては、パック圧が5日間で25%も変動し、かつ糸切れが0.3回/日と本発明の実施例1〜3と比較して、長時間紡糸安定性は低下するものであることがわかった。さらに力学特性に着目すると、比較例1および比較例2と比較して、本発明の実施例1〜3は同伸度当たりの強度が向上しており、品位に優れたポリアミド繊維となることがわかる。また、実施例1〜3で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。
【0120】
【表2】

【0121】
実施例4,5
樹状ポリエステルの添加量の影響を見るため、紡糸温度を280℃とし、N66を99.1重量%、樹状ポリエステルA−1の添加量を0.1重量%(実施例4)、N66を89.2重量%、樹状ポリエステルA−1の添加量を10重量%(実施例5)と変更したこと以外は全て実施例1に従い実施した。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。結果を表3に示す。
【0122】
実施例6
酸無水物の添加量の影響を見るため、N66を98.1重量%、無水コハク酸を1.0重量%としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。結果を表3に示す。
比較例1と比較して、実施例4〜6では、紡糸温度が低いにも関わらず、いずれの場合もパック圧が低くなることが確認できた。また、パック圧は5日間を通じて安定しており、糸切れも実施例5を除いては0回であり、実施例5についても0.3回/日と問題のないものであった。力学特性に関しても、実施例4〜6では、樹状ポリエステル未添加で紡糸温度の高い比較例2と比較して、良好(同伸度当たりの強度が向上)であり、品位に優れたポリアミド繊維が得られていることがわかった。また、実施例4〜6で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。
【0123】
【表3】

【0124】
実施例7〜9
酸化防止剤の添加量の影響を見るため、酸化防止剤として、実施例1でも使用したヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を0重量%(実施例7)、0.01重量%(実施例8)、1重量%(実施例9)とし、紡糸温度を280℃としたこと以外は全て実施例1に従い、実施した。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。結果を表4に示す。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤を減少させた実施例7および実施例8において、パック圧変動、糸切れおよび繊維の力学物性は特に問題となるものではなかった。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の添加量を1重量%とした実施例9においては、長時間紡糸安定性にも問題なく、さらに力学特性も優れたポリアミド繊維が得られていることがわかった。また、実施例7〜9で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。
【0125】
実施例10
使用する酸無水物を無水フタル酸(含有量:1.5重量%)とし、紡糸温度を280℃としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。
酸無水物を無水フタル酸とした場合にも、比較例2と比較して、パック圧は低下しており、さらに長時間紡糸安定性も優れたものであった。また、実施例10で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。結果を表4に示す。
【0126】
実施例11
樹状ポリエステルを参考例2で合成した樹状ポリエステルA−2としたこと以外は全て実施例10に従って実施した。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。結果を表4に示す。
樹状ポリエステルをA−2とした場合にも比較例2と比較して、パック圧低下は効果が見られ、実施例10と同等の8.8MPaであった。また、長時間紡糸安定性および力学特性も優れたものであった。また、実施例11で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。
【0127】
【表4】

【0128】
実施例12〜15、比較例3,4
実施例1、実施例3、実施例7、実施例9、比較例1および比較例2で採取したポリアミド繊維を延伸・熱処理した。この時、延伸機としては2ホットローラー型延伸機を用い、フィードローラー(非加熱)、第1ホットローラー、第2ホットローラー、デリバリーローラー(非加熱)と糸を通して延伸・熱処理を行った。第1ホットローラー温度(予熱温度)を50℃、第2ホットローラー温度を100℃とし、第1ホットローラーと第2ホットローラー間の延伸倍率を変化させ、延伸糸の残留伸度が40%程度になるように調整した。表5にはフィードローラーからデリバリーローラーまでの総延伸倍率を示した。延伸時の温湿度は25℃ 55%RHであった。
いずれの未延伸糸においても延伸糸サンプルを少量得るには問題なかったが、比較例1の未延伸糸を用いた比較例3および比較例2の未延伸糸を用いた比較例4においてはそれぞれ8時間の延伸で数回の糸切れが確認された。また、力学特性においては、本発明のポリアミド繊維は優れたものであり、いずれも比較例4と比較して、同伸度当たりの強度が増加したものであった。結果を表5に示す。
【0129】
【表5】

【0130】
実施例16
ηr2.5のナイロン6(N6)99.1重量%、樹状ポリエステルA−1を0.4重量%、酸無水物として無水コハク酸を0.5重量%となるように、別々に計量し、独立に二軸混練機(15mmφ、L/D=15)に仕込んだ。
二軸押出混練機のスクリュー回転数は100rpmとし、二軸押出混練機の吐出側でベントを行い、泡を消した。紡糸温度(混練機および紡糸ヘッド)は245℃とし、単孔吐出量は2.0g/分・holeで絶対濾過径10μの金属不織布で濾過した後、丸孔10ホール(φ=0.3mm L/D=1.5)の口金から紡糸を行い、ユニフローの冷却風帯域を通過させた後給油し、速度600m/分としたローラによって巻き取った。単糸繊度はいずれの場合も33.3dtexであった。吐出および巻取り雰囲気の温湿度は25℃ 55%RHであった。結果を表6に示す。
【0131】
比較例5
紡糸温度を260℃とし、N6単独とした以外は全て実施例16に従い実施した。結果を表6に示す。
本発明の効果のひとつである流動性向上の効果を見るためにパック圧変化を調べると、樹状ポリエステル未添加の比較例5と比較して、紡糸温度を15℃下げているにも関わらず、実施例16ではパック圧が10%も低下するものであり、紡糸安定性も問題なかった。また、実施例16で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。結果を表6に示す。
【0132】
【表6】

【0133】
実施例17
ηr4.0の高分子量ナイロン56(N56)を用い、紡糸温度を270℃としたこと以外は全て実施例1に従い実施した。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。
【0134】
比較例6
紡糸温度285℃、N56単独としたこと以外は全て実施例17に従い実施した。この時、N56チップの含水率は250ppmであった。
【0135】
本発明の効果のひとつである流動性向上の効果を見るために実施例17および比較例6を比較すると、パック圧変化では、実施例17は紡糸温度を15℃低下しているにも関わらず、パック圧が8.8MPaと比較例7(パック圧9.0MPa)と比較してパック圧が3%低下するものであり、パック圧も5日間でほとんど変動せず、安定した紡糸が可能であった。また、実施例17で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。
【0136】
実施例18
ηr3.0のナイロン410(N410)を用い、紡糸温度260℃としたこと以外は全て実施例1に従い紡糸を行った。この時、ブレンド物の含水率は250ppmであった。
【0137】
比較例7
紡糸温度280℃、N410単独としたこと以外は実施例18に従い実施した。この時、N410チップの含水率は250ppmであった。
【0138】
本発明の効果のひとつである流動性向上の効果を見るために実施例18および比較例7を比較すると、パック圧変化では、実施例18は紡糸温度を20℃低下しているにも関わらず、比較例8と同じパック圧(9.0MPa)であり、パック圧は5日間でほとんど変動せず、安定した紡糸が可能であった。また、実施例18で採取したポリアミド繊維のFT−IR解析結果から1366cm−1にピークが確認され、酸無水物の反応が確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族オキシカルボニル単位(P)、芳香族または脂肪族ジオキシ単位(Q)、および芳香族ジカルボニル単位(R)から選ばれる少なくとも1種の構造単位と3官能以上の有機残基(B)とを含み、かつ、上記(P)、(Q)、(R)、および(B)の含有量の合計に対して前記(B)の含有量が7.5〜50モル%である樹状ポリエステルを含有量0.1〜3重量%および酸無水物を含有量0.01〜1重量%となるようにポリアミドに添加したブレンド物を溶融紡糸口金から紡糸することを特徴とするポリアミド繊維の製造方法。
【請求項2】
酸無水物が無水コハク酸、無水フタル酸であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
ブレンド物全体に対して、酸化防止剤を0.01〜1重量%添加することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項4】
酸化防止剤がフェノール系化合物であることを特徴とする請求項3記載のポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4記載のいずれか1項に記載される製造方法により得られたポリアミド繊維。

【公開番号】特開2011−208291(P2011−208291A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74225(P2010−74225)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】