説明

ポリアミド繊維

【課題】強度、耐摩耗性に優れたポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】本発明のポリアミド繊維は、脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とし、曲げ弾性率が1〜250MPaである熱可塑性ポリアミド系エラストマーを0.5〜20質量%含有することを特徴とし、ポリマーブレンド構造からなるポリアミド繊維、及び/または脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とする芯部および鞘部からなる鞘芯構造を有し、少なくとも芯部に熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有するポリアミド繊維である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度と柔軟性を損なうことなく、耐摩耗性に優れたポリアミド繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド繊維は、高強度、高柔軟性、高透明性を有する。そのため、釣り糸、魚網等の水産資材及び抄紙カンバス、ベルト布、カバン地、カーペット、カーマット、カーシート等に広く使用されている。近年、特に、資材においてのニーズが高まっており、盛土補強や最終処分場、河川や海浜の整備、地滑り対策や道路の法面保護などの用途において、多岐に渡って使用されるようになっている。上記の資材としては、用途に応じて織物、編物及び不織布等が選択されており、要求される強度レベルに応じて様々な形態のポリアミド繊維が使用されている。
【0003】
ポリアミド繊維は、上記の特性の他にも、他の素材に比べて耐摩耗性(耐疲労性)が良好であるという利点を有する。しかしながら、厳しい条件下での使用においては、耐摩耗性が不十分である場合がある。たとえば、内部に石を詰めた網や袋などの土木資材用途に使用した際に、製品の内部において詰めた石が流動することによって摩擦や衝撃を受けたり、製品の外部において流石や流木等による摩擦や衝撃を受けたり等、繊維の多方向から負荷がかかる場合がある。このような場合には、毛羽が発生したり、擦り切れたりするという問題があった。
【0004】
また、一般的に、ポリアミド繊維は一軸配向であるため、繊維側面からの摩耗について脆弱であるという問題点があった。すなわち、繊維側面方向からの耐摩耗性を向上させることができれば、その用途はもっと広がることが期待される。
【0005】
従って、より優れた耐摩耗性を有するポリアミド繊維が要求されている。さらに、土木資材用途に用いられる場合は、風雨や波浪などによる岩や土砂との摩擦・日光など、過酷な自然環境に曝されている、そのため、耐摩耗性に加えて、強度や柔軟性に優れたポリアミド繊維が求められていることは言うまでもない。
【0006】
これまでにも、ポリアミド繊維の特徴である高強度、高柔軟性を損なうことなく、耐摩耗性を向上させるべく、種々の検討がなされている。例えば特許文献1では、ポリアミド樹脂に、可塑剤と高分子量ポリエチレンを添加することにより、耐摩耗性が付与されたポリアミドモノフィラメントが提案されている。しかし、特許文献1において用いられたポリエチレンは高分子量であるため、分子が長く、摩擦等によって繊維軸方向に裂けやすい(つまり、フィブリル化が発現しやすい)という問題があった。
【0007】
この問題を解決すべく、特許文献2ではポリエチレンワックスを添加したポリアミドモノフィラメントが提案されている。かかる場合には、耐摩耗性に優れ、フィブリル化が発現しにくいモノフィラメントが得られている。しかし、特許文献2にて用いられたポリエチレンワックスは融点が低いばかりでなく、溶融粘度も低いため、繊維化工程で熱延伸したり、加工時に加熱したりする際に、表面にブリードアウトする傾向にある。そのため、繊維表面にブリードアウトしたポリエチレンワックスが、繊維製造装置のローラ等の表面に付着し、糸切れの原因となるという問題が起こる場合があった。すなわち、操業性において優れるものではなかった。また、得られた繊維を使用するにともない、徐々にポリエチレンワックスが表面にブリードアウトし、耐摩耗性などの性能が経時的に低下するという欠点があった。
【0008】
一方、特許文献3には、ポリアミド系エラストマーとナイロン樹脂の混合物を溶融紡糸したポリマーアロイ繊維素材を一部に含む抄紙用フェルトや、該ポリマーアロイ繊維単独からなる抄紙用フェルトが提案されている。特許文献3の場合には、耐薬品性や耐摩耗性がある程度向上することが報告されている。しかしながら、特許文献3のように、混合するポリアミド系エラストマーが、ハードセグメントがナイロン、ソフトセグメントがポリエーテルからなるブロック共重合体であって、混合するナイロンとポリアミド系エラストマーのメルトインデックス(MI)がともに1〜20g/10minである場合であっても、耐摩耗性能が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−203439号公報
【特許文献2】特開平4−214409号公報
【特許文献3】特開平3−185193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決し、強度と柔軟性を損なうことなく、耐摩耗性に優れたポリアミド繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、特定の熱可塑性ポリアミド系エラストマーを、特定量含有することにより、強度と柔軟性を損なうことなく、得られるポリアミド繊維の耐摩耗性が顕著に向上することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とし、曲げ弾性率が1〜250MPaである熱可塑性ポリアミド系エラストマーを0.5〜20質量%含有することを特徴とするポリアミド繊維。
(2)熱可塑性ポリアミド系エラストマーが、ハードセグメントがナイロン6、ナイロン11、ナイロン12のいずれかであり、ソフトセグメントがポリアルキレングリコールからなるポリアミド・ポリアルキレングリコールブロック共重合体であることを特徴とする(1)のポリアミド繊維。
(3)脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とする芯部および鞘部からなる芯鞘構造を有し、少なくとも芯部に熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有することを特徴とする(1)または(2)のポリアミド繊維。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリアミド繊維は、特定の熱可塑性ポリアミド系エラストマーを、特定量含有するため、強度、柔軟性を損なうことなく、耐摩耗性が顕著に優れたポリアミド繊維とすることができる。
【0014】
このため、本発明のポリアミド繊維は、強度、柔軟性および耐摩耗性が必要である釣り糸、魚網等の水産資材やロープ、ネット及び植生用資材等の土木建設資材、抄紙カンバス、ベルト布、カバン地、カーペット、カーマット、カーシート等、各種の用途に利用されることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド繊維は、脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とし、熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有するものである。本発明において、主成分とするとは、ポリアミド繊維中に、脂肪族ポリアミド樹脂を50質量%以上含有することをいう。
【0016】
脂肪族ポリアミド樹脂は、主鎖中にアミド結合を有する脂肪族化合物を構成単位とするポリマーであれば特に限定されるものではない。脂肪族ポリアミド樹脂の具体的な例としては、ポリイミノ−1−オキソテトラメチレン(ナイロン4)、ε−カプラミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)ポリウンデカメチレンアジパミド(ナイロン116)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウラミド(ナイロン12)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)ポリメタキシリレンアジパミド(ナイロンMXD6)などが挙げられる。さらに、上記脂肪族ポリアミド樹脂を構成する2種以上の成分からなるポリアミド共重合体、上記脂肪族ポリアミド樹脂および/またはポリアミド共重合体の混合物が挙げられる。中でも、安価で優れた強力と耐久性を有するナイロン6を単独で用いることが好ましい。
【0017】
本発明において、脂肪族ポリアミド樹脂の相対粘度は、強度、柔軟性および耐摩耗性とのバランスの観点から、2.5〜4.0であることが好ましく、2.8〜3.8であることがより好ましい。なお、相対粘度の測定方法については、後述する。
【0018】
本発明における熱可塑性ポリアミド系エラストマーは、強度、柔軟性を損なうことなく、耐摩耗性を向上させる役割を担う。熱可塑性ポリアミド系エラストマーとしては、ポリアミド樹脂を主体とするエラストマーであれば特に限定されないが、脂肪族ポリアミド樹脂との相溶性の観点から、ハードセグメントがポリアミド成分からなり、ソフトセグメントとしてポリアルキレングリコール成分からなるポリアミド・ポリアルキレングリコールブロック共重合体であることが好ましい。
【0019】
ハードセグメントを構成するポリアミド成分としては、ポリイミノ−1−オキソテトラメチレン(ナイロン4)、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)等が挙げられる。ソフトセグメントを構成するポリアルキレングリコール成分としては、ポリエチレングリコール(PEG)やポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)等が挙げられる。
【0020】
中でも、熱可塑性ポリアミド系エラストマーとしては、ハードセグメントがナイロン6、ナイロン11、ナイロン12のいずれかであり、ソフトセグメントがポリアルキレングリコールからなるポリアミド・ポリアルキレングリコールブロック共重合が好ましく、ハードセグメントがナイロン6、ナイロン12のいずれかであり、かつ、ソフトセグメントがポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエチレングリコール(PEG)から選ばれたポリアルキレングリコールからなるポリアミド・ポリアルキレングリコールブロック共重合がより好ましい。このような熱可塑性ポリアミド系エラストマーは、脂肪族ポリアミド樹脂との相溶性に特に優れているため、繊維中で均一に分散されやすくなる。その結果として、耐摩耗性の改良効果が顕著に高くなる。さらにその相溶性が優れていることから、延伸時の熱処理等に起因する、繊維表面への熱可塑性ポリアミド系エラストマーのブリードアウトが抑制されるという効果も合わせて奏される。
【0021】
本発明のポリアミド繊維は、前記熱可塑性ポリアミド系エラストマーをポリアミド繊維中に0.5〜20質量%含有することが必要であり、1〜18質量%含有することが好ましく、1.5〜10質量%含有することがより好ましい。繊維中の熱可塑性ポリアミド系エラストマーの含有量が0.5質量%未満であると、繊維の耐摩耗性向上効果が不十分であるため好ましくない。また、20質量%を超えると、繊維の強度が低下したり、紡糸時に糸切れが発生して操業が不安定になったりするため好ましくない。
【0022】
熱可塑性ポリアミド系エラストマーの曲げ弾性率は、1〜250MPaであることが必要であり、5〜200MPaであることが好ましく、10〜180MPaであることがより好ましい。曲げ弾性率が250MPaを越えると、熱可塑性ポリアミド系エラストマーの柔軟性が不足するため、十分な耐摩耗性改良効果が得られない。一方、1MPa未満であると、熱可塑性ポリアミド系エラストマーと脂肪族ポリアミド樹脂の溶融特性に顕著に差異がでてくるため、耐摩耗性が良好な繊維を得ることができない。
【0023】
ポリアミド繊維に、上記のような熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有させることにより耐摩耗性が顕著に向上する理由は明らかではないが、以下の通りであると推測される。すなわち、曲げ応力を他の方向へ分散させる指標である曲げ弾性率を特定の範囲とする熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有することにより、摩耗時に繊維にかかる負荷が、適切に分散され衝撃を吸収する。その結果として、得られるポリアミド繊維の耐摩耗性が向上するものと推定される。
【0024】
本発明においては、柔軟な脂肪族ポリアミド樹脂をポリアミド樹脂として用いると、摩擦時に繊維にかかる負荷が、熱可塑性ポリアミド系エラストマーに直接伝わり、より適切に分散される。そのため、本発明の耐摩耗性向上効果が発揮され得る。そのため、本発明においては、ポリアミド樹脂として、脂肪族ポリアミド樹脂を用いることが必要である。
【0025】
本発明のポリアミド繊維の形態としては、単一の成分からなる単層型の繊維や、芯鞘型の複合繊維等が挙げられる。
単層型の繊維の場合、ポリアミド繊維の断面の形状は、特に限定されるものではなく、丸断面、楕円、三角や四角等の多角形状、中空部を有するものなどが挙げられる。
【0026】
本発明のポリアミド繊維が、芯鞘型の複合繊維である場合には、芯部、鞘部のいずれもが脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とするものである。熱可塑性ポリアミド系エラストマーは、芯部又は鞘部のいずれか一方に含有されていてもよいし、又は両方の成分に含有されていてもよい。耐摩耗性向上効果の観点からは、少なくとも、芯成分に含有されていることが好ましい。
【0027】
芯部および/または鞘部に、上述の熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有する場合、該熱可塑性ポリアミド系エラストマーの繊維全体における含有量が上記の範囲内であることが必要である。
【0028】
本発明のポリアミド繊維が、芯鞘型の複合繊維である場合は、芯部と鞘部の質量比は特に限定されないが、操業性などの観点から、芯部と鞘部の質量比は、芯部/鞘部=5/95〜95/5であることが好ましい。
【0029】
本発明においては、該熱可塑性ポリアミド系エラストマーが繊維表面(鞘部)に存在しない場合であっても(つまり、芯成分のみに含有させた場合であっても)、摩擦時の繊維表面にかかる負荷を芯成分の熱可塑性ポリアミド系エラストマーにて吸収できる。この場合、熱可塑性ポリアミド系エラストマーを、芯成分および鞘成分に含有させた場合と比較しても、耐摩耗性は低下しないという顕著な効果を奏する。加えて、芯成分のみに熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有させた場合には、芯成分および鞘成分に含有させた場合よりも、コスト的にも有利であり、さらに繊維表面に該熱可塑性ポリアミド系エラストマーのブリードアウトが顕著に抑制され、紡糸時の糸切れ、延伸ローラの汚染などが抑制され、操業性が向上するという効果も合わせて奏される。
【0030】
一方、繊維表面(鞘部)に熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有する際には、場合によっては、以下のような問題点がある。たとえば、ポリアミド繊維を形成するポリアミド樹脂と熱可塑性ポリアミド系エラストマーの融点差が大きい場合(例えば、融点差が100℃以上である場合)に、延伸時の熱処理等によって、熱可塑性ポリアミド系エラストマーがポリアミド繊維表面にブリードアウトすることにより、延伸ローラを汚染したり、操業性が悪化したりする場合がある。したがって、本発明のポリアミド繊維が芯鞘型の複合繊維の場合は、芯部のみに熱可塑性ポリアミド系エラストマーが含有されていることが最も好ましい。
【0031】
本発明のポリアミド繊維には、必要に応じて、例えば酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルクなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類、その他従来公知の酸化防止剤、抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤、各種強化繊維類等の各種添加剤が、本発明の効果を損なわない範囲内で添加されていてもよい。
【0032】
本発明のポリアミド繊維は、マルチフィラメント、モノフィラメントのいずれであってもよい。マルチフィラメントの場合、単糸繊度を1〜200dtex、総繊度を30〜3000dtexとすることが好ましい。モノフィラメントの場合は、150〜10000dtexとすることが好ましい。
【0033】
次に、本発明にかかるポリアミド繊維の製造方法の一例を示す。
予め脂肪族ポリアミド樹脂中に熱可塑性ポリアミド系エラストマーを高濃度に含有するマスターチップを作製しておく。次いで、該マスターチップを、紡糸時に脂肪族ポリアミド樹脂に添加・混合し、公知の溶融紡糸装置を用いて、ポリアミド繊維を製造する。芯鞘型複合繊維であるポリアミド繊維を製造する場合は、公知の複合繊維紡糸装置を用いて製造する。
【0034】
具体的には、常用の紡糸装置より溶融紡出し、その溶融紡出糸条を冷却装置で冷却する。次いで、該糸条に紡糸油剤を付与し、引き取りローラで未延伸糸として引き取る。なお、冷却風の温度や風量、引き取りローラの速度等は特に限定されるものではなく、必要に応じて適宜選択される。
【0035】
その後、該未延伸糸を一旦捲き取り、延伸する二工程法に付されてもよいし、糸条を延伸することなく高速で捲き取り、高配向未延伸糸を得る方法に付してもよいし、捲き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法に付されてもよい。各々の方法によって目的とする繊維を得ることができる。
【0036】
延伸を行う際には、1段の延伸方法で行ってもよいし、2段以上の多段延伸方法で行ってもよい。延伸方法や延伸温度、延伸倍率等は、繊維を構成する重合体の種類や所望の強伸度特性等を考慮して適宜選択される。延伸された糸条は、必要に応じて熱処理や弛緩処理が行われていてもよい。
【0037】
ポリアミド繊維がモノフィラメントの場合は、以下のようにして製造される。常用の紡糸装置より溶融紡出し、紡出されたモノフィラメントを液体等で冷却し、次いで、冷却固化したモノフィラメントを一旦巻き取った後、延伸する。又は、冷却したものフィラメントを巻き取ることなく延伸してもよい。延伸は、一段の延伸方法で行ってもよいし、二段以上の多段延伸方法で行ってもよい。延伸方法や延伸温度、延伸倍率等は、繊維を構成する重合体の種類や所望の強伸度特性等を考慮して適宜選択される。延伸された糸条は、必要に応じて熱処理や弛緩処理が行われていてもよい。
【0038】
本発明のポリアミド繊維は、用途に応じて織物、編物及び不織布に加工され、盛土補強や最終処分場、河川や海浜の整備、地滑り対策や道路の法面保護など、高い強度、柔軟性、および耐摩耗性が必要な用途に好適に用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0040】
実施例中の各種の特性値については以下のようにして測定、評価を行った。
(1)脂肪族ポリアミド樹脂の相対粘度
96%硫酸を溶媒とし、該硫酸中に脂肪族ポリアミド樹脂を濃度1g/dlで溶解させて溶液を得た。温度25℃の条件で、硫酸の粘度[η]および溶液の粘度[η]を測定し、下記式により相対粘度を算出した
(相対粘度)=η/η
【0041】
(2)曲げ弾性率
ASTM D 790記載の方法に従って、熱可塑性ポリアミド系エラストマーの曲げ弾性率を測定した。
【0042】
(3)メルトインデックス(MI)
ASTM D−1238法に従って、温度235℃、荷重1000g、2mmダイ、10分で測定した。
【0043】
(4)引張強度、伸度
実施例および比較例で得られたポリアミド繊維を切断し、長さ25cmのサンプルを得た。得られたサンプルを引張試験機(島津製作所社製 商品名「オートグラフAG−1型」)を用いて、引張速度25cm/分にて測定した。
本発明においては、引張強度が6cN/dtex以上であるものが実用に耐え得るものとする。また、伸度が10%以上であるものが、実用に耐え得るものとする。
【0044】
(5)耐摩耗性
実施例および比較例で得られたポリアミド繊維8本を、8打角打製紐機(国分鉄工社製)を用いて製紐した。次いで、得られた製紐品に、繊度1dtex当たり0.018g(例えば、繊度が1400dtexの場合は、8本製紐品において202g)の荷重をかけ、丸やすり(OHI FILE WORK‘S co. LTD社製)(300m/m、12”、丸中目)に、90度の角度で接触させ、1工程330±30mm、摩耗回数30±1回/分の速度条件で往復摩耗させ、製紐品が破断に至るまでの回数を測定した。
【0045】
なお、熱可塑性ポリアミド系エラストマーを配合せずに得た比較例1のポリアミド繊維の耐摩耗性を基準値100とし、その相対値として、実施例1〜13及び比較例2〜3の耐摩耗性を評価した。本発明においては、相対値が120以上であるものが、実用に耐え得るものとする。
【0046】
(6)操業性
紡糸時、延伸時において、繊維の状況を目視にて観察し、操業性を以下の基準にて評価した。
◎:紡糸時、延伸時の糸切れもほとんどなく、ローラ等への付着物もほとんど見られなかった。
○:紡糸時、延伸時の糸切れ、ローラ等への付着物がやや見られたが、生産的には問題とならないレベルであった。
×:紡糸時、延伸時の糸切れ、ローラ等への付着物がかなり見られ、生産的には問題となるレベルであった。
本発明においては、○以上であるものが実用に耐え得るものであるとする。
【0047】
実施例1
相対粘度3.5のナイロン6チップ(ユニチカ製、「ナイロン6BRT」)に、ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「Pebax2533」)(ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、融点:134℃、曲げ弾性率:12MPa、MI:10g/10分)1.0質量%をブレンドした。その後、エクストルダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度を285℃で溶融し、紡糸孔を24個有した紡糸口金より吐出させて、15℃の冷却風により冷却しつつ、巻き取り速度610m/分で巻き取り、総繊度が700dtexの丸断面の未延伸糸を得た。
【0048】
次いで、得られた未延伸糸8本を引き揃え、汎用延伸機を用いて、1ローラ(60℃)と2ローラ(90℃)間で延伸倍率(1DR)3.0倍、2ローラと3ローラ(110℃)間でプレートヒーター(185℃)に接触させて総延伸倍率(TDR)4.4倍となるように延伸を行った。得られた延伸糸の繊度及び強伸度を表1に示す。紡糸工程の操業性は良好であり、延伸工程においてもローラ等への熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着はほとんど見られなかった。
【0049】
得られた延伸糸8本を用いて、8打角打製紐機を用いて製紐し、耐摩耗性の評価を行った。得られた製紐品の耐摩耗性評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
なお、表1〜表3において、略記は以下のものを示す。
PTMG:ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体
PEG:ポリエチレングリコールブロック共重合体
【0052】
実施例2〜3
熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、紡糸、延伸を行い、延伸糸を得た。さらに、実施例1と同様にして、製紐品を得た。紡糸工程及び延伸工程において、操業性は良好であった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性評価の結果を表1に示す。
【0053】
実施例4
熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「PebaxMH1657」)(ナイロン6/ポリエチレングリコールブロック共重合体、融点:204℃、曲げ弾性率:80MPa)を用い、表1に示す配合量とし、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行い、延伸糸を得た。紡糸工程での操業性は良好であった。熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量がより好ましい範囲ではなかったため、延伸工程でわずかにローラ上に熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着がやや見られたが、操業性に問題はなかった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性評価の結果を表1に示す。
【0054】
実施例5
ナイロン12(アルケマ社製、商品名「リルサンAESN 0 TL」)チップに、熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「Pebax2533」)(ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、融点:134℃、曲げ弾性率:12MPa、MI:10g/10分)を18.0質量%配合した。その後、エクストルダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度を260℃で溶融し、紡糸孔を24個有した紡糸口金より吐出させて、15℃の冷却風により冷却しつつ、巻き取り速度610m/分で巻き取り、総繊度が530dtexの丸断面の未延伸糸を得た。
【0055】
得られた未延伸糸8本を引き揃え、汎用延伸機を用いて、1ローラ(60℃)と2ローラ(90℃)間で延伸倍率(1DR)3.0倍、2ローラと3ローラ(110℃)間でプレートヒーター(160℃)に接触させて総延伸倍率(TDR)3.3倍となるように延伸を行った。紡糸工程での操業性は良好であった。熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量がより好ましい範囲ではなかったため、延伸工程でわずかにローラ上に熱可塑ポリアミド系エラストマーの付着がやや見られたが、操業性に問題はなかった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性評価の結果を表1に示す。
【0056】
実施例6
相対粘度が3.5であるナイロン6チップ(ユニチカ製、ナイロン6BRT)に、熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「Pebax2533」)(ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、融点:134℃、曲げ弾性率:12MPa、MI:10g/10分)を5.0質量%配合した。その後、エクストルダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度を285℃で溶融し、紡糸孔を24個有した紡糸口金より吐出させて、15℃の冷却風により冷却しつつ、巻き取り速度610m/分で巻き取り、総繊度が700dtexの丸断面の未延伸糸を得た。
【0057】
得られた未延伸糸8本を引き揃え、汎用延伸機を用いて、1ローラ(60℃)と2ローラ(90℃)間で延伸倍率(1DR)2.8倍、2ローラと3ローラ(110℃)間でプレートヒーター(185℃)に接触させて総延伸倍率(TDR)4.4倍となるように延伸を行った。紡糸工程及び延伸工程において、操業性は良好であった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度を表1に示す。得られた延伸糸8本を用いて、8打角打製紐機を用いて製紐し、耐摩耗性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0058】
実施例7
熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「Pebax 5533」)(ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、融点:159℃、曲げ弾性率:170MPa、MI:7g/10分)を用い、表1に示すような配合量とし、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行った。紡糸工程での操業性は良好であった。紡糸工程の操業性は良好であり、延伸工程においてもローラ等への熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着はほとんど見られなかった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性評価の結果を表1に示す。
【0059】
比較例1
熱可塑性ポリアミド系エラストマーを配合しない以外は、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行った。得られた延伸糸の繊度及び強伸度を表1に示す。紡糸工程及び延伸工程において、操業性は良好であった。得られた延伸糸8本を用いて、8打角打製紐機を用いて製紐し、得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性の評価を行った。評価結果を表2に示す。なお、上述のように、比較例1における製紐品の耐摩耗性を基準値(100)として、実施例1〜13、比較例2および3における製紐品の耐摩耗性を相対評価した。
【0060】
【表2】

【0061】
比較例2
ポリアミド繊維中の熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量を23質量%とした以外は、実施例1と同様にして紡糸を行った。熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量が過多であったため、溶融ポリマー中にポリアミド系エラストマーが均一に分散しておらず、ノズルから吐出されたポリマーは巻取り中に糸切れが多発し、操業不良であった。
【0062】
比較例3
相対粘度が3.5であるナイロン6(ユニチカ製、商品名「ナイロン6BRT」)チップに、熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「Pebax6333」)(ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、融点:169℃、曲げ弾性率:285MPa、MI:5g/10分)を5.0質量%配合し、実施例1と同様にして紡糸、延伸を行った。紡糸工程の操業性は良好であり、延伸工程においてもローラ等への熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着はほとんど見られなかった。得られた延伸糸8本を用いて、8打角打製紐機を用いて製紐し、得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性の評価結果を表2に示す。
【0063】
実施例8
芯成分及び鞘成分として、相対粘度が3.5であるナイロン6(ユニチカ製、商品名「ナイロン6BRT」)チップに熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「Pebax2533」)(ナイロン12/ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体、融点:134℃、曲げ弾性率:12MPa、MI:10g/10分)を5.0質量%添配合した樹脂を用いた。該樹脂を、それぞれエクストルダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度を285℃とし、24孔の紡糸孔を有する芯鞘型複合紡糸口金より、芯成分:鞘成分の質量比が2:1となるように吐出させ、15℃の冷却風により冷却しつつ、巻き取り速度610m/分の速度で巻き取り、総繊度が700dtexの丸断面の未延伸糸を得た。
【0064】
得られた未延伸糸8本を引き揃え、汎用の延伸機を用いて、1ローラ(60℃)と2ローラ(90℃)間で延伸倍率(1DR)2.8倍、2ローラと3ローラ(110℃)間でプレートヒーター(185℃)に接触させて総延伸倍率(TDR)4.4倍となるように延伸を行った。紡糸工程の操業性は良好であり、延伸工程においてもローラ等への熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着はほとんど見られなかった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度を表1に示す。得られた延伸糸8本を用いて、8打角打製紐機を用いて製紐し、耐摩耗性の評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0065】
実施例9〜12
鞘部には熱可塑性ポリアミド系エラストマーを配合せず、芯部の熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量を表3に示したように変更した以外は、実施例8と同様にして、紡糸、延伸を行った。紡糸工程の操業性は良好であり、延伸工程においてもローラ等への熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着は全く見られなかった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性評価の結果を表3に示す。
【0066】
実施例13
鞘部には熱可塑性ポリアミド系エラストマーを配合せず、芯成分のみに熱可塑性ポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、商品名「PebaxMH1657」)(ナイロン6/ポリエチレングリコールブロック共重合体、融点:204℃、曲げ弾性率:80MPa)を10.0質量%配合し、実施例4と同様にして、紡糸、延伸を行った。紡糸工程の操業性は良好であり、延伸工程においてもローラ等への熱可塑性ポリアミド系エラストマーの付着は全く見られなかった。得られた延伸糸の繊度、強度、伸度、製紐品の耐摩耗性評価の結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
実施例1〜13で得られたポリアミド繊維は、いずれも優れた操業性、繊度、強度、伸度を有していた。さらに、該ポリアミド繊維より得られた製紐品は、いずれも優れた耐摩耗性を示した。
【0069】
特に、芯部のみに熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有する実施例9〜13においては、実施例1〜8の単層型のポリアミド繊維と比較して、繊維全体における熱可塑性ポリアミド系エラストマーの含有量が少ないにもかかわらず、耐摩耗性の向上効果に優れるものであった。また、該熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量の増加による強度の低下がほとんどなく、さらにはローラ等への付着も全く無いものであった。
【0070】
比較例1は、熱可塑性ポリアミド系エラストマーを配合しなかったため、耐摩耗性向上の効果が見られなかった。
比較例2は、熱可塑性ポリアミド系エラストマーの配合量が多かったため、操業不良となり、ポリアミド繊維を紡糸することができなかった。
【0071】
比較例3は、熱可塑性ポリアミド系エラストマーの曲げ弾性率が250MPaを超えていたため、耐摩耗性の向上効果が低いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とし、かつ曲げ弾性率が1〜250MPaである熱可塑性ポリアミド系エラストマーを0.5〜20質量%含有することを特徴とするポリアミド繊維。
【請求項2】
熱可塑性ポリアミド系エラストマーが、ハードセグメントがナイロン6、ナイロン11、ナイロン12のいずれかであり、ソフトセグメントがポリアルキレングリコールからなるポリアミド・ポリアルキレングリコールブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド繊維。
【請求項3】
脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とする芯部および鞘部からなる芯鞘構造を有し、少なくとも芯部に熱可塑性ポリアミド系エラストマーを含有することを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド繊維。


【公開番号】特開2012−36519(P2012−36519A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175833(P2010−175833)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】