説明

ポリアリレート樹脂、およびポリアリレート樹脂組成物

【課題】耐熱性、耐衝撃性、透明性、耐候変色性に優れるポリアリレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明のポリアリレート樹脂は、二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され下記式(I)で表されることを特徴とする。
【化1】


なお、上記式(I)において、Xはハロゲン原子を示すものである。Xがフッ素原子の場合はm=40〜120、Xが塩素原子の場合はm=30〜80、Xが臭素原子の場合はm=20〜60、Xがヨウ素原子の場合はm=15〜45である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性、透明性、耐候変色性に優れるポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業界においては、自動車の燃費向上が最大の課題となっている。このため、自動車を構成する材料を軽量化することを目的として、比重の高い金属や無機材料に替えて、比重の低いプラスチックを自動車部品に応用する試みが盛んに行われている。例えば、自動車に搭載されるランプカバーやレンズ類等の部品などについて、ガラスからプラスチックへの代替が進んでいる。
【0003】
上記のような部品のうち、耐熱変形性の要求が比較的低い部品には、通常、アクリル樹脂が使用され、耐熱変形性の要求が比較的高い部品にはポリカーボネート樹脂が使用されている。しかし、耐熱変形性の要求が高いヘッドライトレンズ、インナーレンズ、フォグライトレンズなどにおいては、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂を使用した場合は、要求される耐熱性を満足できない場合があった。このような事情から、これらの部品には、ポリカーボネート樹脂に替えて、より耐熱性の高いポリアリレート樹脂の応用が期待されている。
【0004】
従来、ポリアリレート樹脂としては、二価フェノール類、特に、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する場合がある)、テレフタル酸およびイソフタル酸とからなるポリアリレート樹脂が、エンジニアリングプラスチックとして用いられている。かかるポリアリレート樹脂は耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れ、加えて透明であるという利点を有する。そのため、このようなポリアリレート樹脂から成形された成形体は、電気・電子機器、機械などの分野にも幅広く応用されている。
【0005】
しかしながら、上記ポリアリレート樹脂は、高い耐熱性と透明性を有するものの、上述したライトの光源などに起因する紫外線によって、著しい変色を来たす場合があるため、その応用は大きく制限されてきた。
【0006】
上記のような問題を解決するために、安定化剤としてベンゾトリアゾール誘導体をポリアリレート樹脂に添加することが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかしながら、この場合は、ポリアリレート樹脂中にベンゾトリアゾール誘導体を均一に分散させることが困難であること、溶融押出や成形の際にベンゾトリアゾール誘導体が揮発してしまうこと、およびランプの部材として使用する際にはランプに起因する熱によりベンゾトリアゾール誘導体が揮散してしまうことにより効果が低下し、実質的にポリアリレート樹脂の紫外線による変色を防ぐことができないという問題があった。
【0007】
また、ポリアリレート樹脂に紫外線吸収剤として、ベンゾトリアゾール誘導体などのベンゾトリアゾール系化合物以外に、ベンゾフェノン系化合物またはトリアジン系化合物を添加することが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この場合においても、上述したベンゾトリアゾール誘導体を用いた場合と同様に、ベンゾフェノン系化合物またはトリアジン系化合物が熱により揮散してしまい、ポリアリレート樹脂の紫外線による変色を防ぐことはできなかった。
【0008】
上記の問題を解決するため、ポリアリレート樹脂の末端に特定の官能基を導入することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。この場合には、紫外線による変色がある程度抑制されているが、その効果は依然として不十分であった。
【0009】
一方、ポリアリレート樹脂が紫外線によって著しく黄色く変色することの原因としては、ポリアリレート樹脂の分子構造に大きく起因していることは周知である。すなわち、ポリアリレート樹脂の分子構造が紫外線によってベンゾフェノン構造に転位するため(光フリース転位)、紫外線吸収能には優れるが、著しい変色が発現するのである。かかる場合には、ポリアリレート樹脂中に存在するすべてのモノマー単位構造で、転位が可能である。そのため、紫外線吸収剤を添加したり、ポリアリレート樹脂の末端に特定の官能基を導入したりする方法では、上記の光フリース転位を抑制するのは困難であった。
【0010】
そこで、光フリース転位を抑制する方法として、ビスフェノール中のフェノール構造のオルト位に置換基を導入する方法が検討されている。しかしながら、この場合には、例えば、メチル基などの炭化水素基を置換基として使用すると、加熱時に炭化水素基の水素原子が容易に引き抜かれ、メチレンラジカルなどのラジカルが発生する。該ラジカルは同種の他のラジカルと結合する性質があり、それにより分子鎖の開烈や分子間架橋を促進するために、機械的強度の著しい低下と、変色の促進が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭49−22451号公報
【特許文献2】特開昭50−83446号公報
【特許文献3】特開2003−82201号公報
【特許文献4】特開平6−184287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記のような問題点を解決し、耐熱性、耐衝撃性、透明性、耐候変色性に優れたポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、光フリース転位を抑制する方法として、ポリアリレート樹脂中のフェノール構造のオルト位に置換基としてハロゲン原子を導入することで、耐熱性、透明性に優れ、紫外線照射時にも変色が抑制され、さらに耐衝撃性に優れたポリアリレート樹脂を得ることに到達した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
(1)二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。
【0015】
【化1】

なお、上記式(I)において、Xはハロゲン原子を示すものである。Xがフッ素原子の場合はm=40〜120、Xが塩素原子の場合はm=30〜80、Xが臭素原子の場合はm=20〜60、Xがヨウ素原子の場合はm=15〜45である。
(2)インへレント粘度が0.40〜1.00dl/gであり、かつ温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの環境下において300時間経過後のイエローインデックスが9以下であることを特徴とする(1)のポリアリレート樹脂(A)。
(3)(1)又は(2)のポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを、質量比で(A)/(B)=100/0〜30/70で配合することを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
(4)(3)のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、紫外線照射後において黄色に変色することを抑制しうるポリアリレート樹脂を得ることができる。また、本発明のポリアリレート樹脂は、溶融加工時の熱安定性にも優れており、耐熱性、透明性に優れ、紫外線による耐候変色性が要求される用途等で用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアリレート樹脂は、二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成されており、下記式(I)で示される芳香族ポリエステルである。
【0018】
【化2】

上記式(I)に示されるポリアリレート樹脂は、透明性、耐候変色性に優れるものである。
【0019】
なお、上記式(I)において、Xはハロゲン原子を示すものである。
Xがフッ素原子の場合は、溶液粘度を適正な範囲にするという観点から、m=40〜120であることが必要であり、m=50〜110が好ましく、m=60〜100がより好ましい。
【0020】
Xが塩素原子の場合は、溶液粘度を適正な範囲にするというの観点から、m=30〜80であることが必要であり、m=35〜75が好ましく、m=40〜70がより好ましい。
【0021】
Xが臭素原子の場合は、溶液粘度を適正な範囲にするというの観点から、m=20〜60であることが必要であり、m=25〜55が好ましく、m=30〜50がより好ましい。
【0022】
Xがヨウ素原子の場合は、溶液粘度を適正な範囲にするというの観点から、m=15〜45であることが必要であり、m=17〜42が好ましく、m=20〜40がより好ましい。
【0023】
本発明において、二価フェノール残基を得るための二価フェノール単位としては、フェノール構造におけるオルト位の置換基がハロゲン原子であることが必要である。具体的には、以下の化学式(II)〜(V)で示される4種の二価フェノールが挙げられる[(II):2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジフルオロフェニル)プロパン、(III):2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン、(IV):2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、(V):2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジヨードフェニル)プロパン]。入手の容易さを考慮すると、化学式(IV)で示されるフェノールが最良である。また、耐熱性と加工性のバランスの観点からも、化学式(IV)で示される二価フェノールが最良である。
【0024】
【化3】

本発明においては、フェノールのオルト位がハロゲン原子に置換されていることが必要である。なぜなら、ポリアリレート樹脂の耐候変色性の原因は、光フリース転位構造に起因しているからである。光フリース転位の反応機構は定かではないが、以下のようであると推認される。
【0025】
光フリース転位は、フェノールのオルト位が水素原子の場合に発生し、他の原子に置換されると発生しない。つまり、オルト位を水素以外の原子とすれば、光フリース転位は起こらない。しかしながら、メチル基などの炭化水素基をフェノールのオルト位に置換しようとする場合、フリース転位は起こらないが、炭化水素基の水素が熱または光で引き抜かれやすく、ラジカルを発生する。それにより、架橋構造などが発生するため、該炭化水素基を置換することは困難であった。しかしながら、本発明においては、ハロゲン原子をフェノールのオルト位に置換しているため、光フリース転位が発生しないものと推認される。
【0026】
本発明においては、本発明の効果を阻害しない範囲で、前記のオルト位の置換基がハロゲン原子である二価フェノール(以下、「ハロゲン置換ビスフェノール」と称する場合がある。)にその他の共重合成分を、共重合させることができる。その他の共重合成分としては、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0027】
本発明のポリアリレート樹脂を構成する芳香族ジカルボン酸残基を得るための芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、またはこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、本発明の構造を有するポリアリレート樹脂を合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、イソフタル酸、またはイソフタル酸とテレフタル酸の混合物を用いることが好ましい。
【0028】
また、芳香族ジカルボン酸としてイソフタル酸を用いた場合に、イソフタル酸の一部を、実質的にその特性を損なわない範囲で、その他の脂肪族ジカルボン酸類で置換してもよい。脂肪族ジカルボン酸類としては、特に限定されず、ジカルボキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ドデカン二酸等を挙げることができる。
【0029】
本発明において、ポリアリレート樹脂を重合する方法は、界面重合、溶液重合、溶融重合などが挙げられるが、中でも、界面重合法が好ましい。界面重合法によれば、溶液重合と比較して反応が速く、イソフタル酸成分を重合させるための原料であるイソフタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑えることができるため、高分子量のポリアリレート樹脂を容易に得ることができる。また、界面重合法は、得られる樹脂に優れた粘度コントロール性、低不純物性、透明性を付与しうる重合法である。以下に、一般的な界面重合法によるポリアリレート樹脂の製造方法を詳述する。
【0030】
界面重合は、二価フェノールをアルカリ水溶液に溶解させた水相と、ジカルボン酸成分を重合させるための原料であるジカルボン酸ハライドを水に不溶の有機溶媒に溶解させた有機相とを、触媒の存在下で混合することによっておこなわれる。この界面重合の方法は、W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399(1959)や、特公昭40−1959号公報などに記載されている。
【0031】
本発明における界面重合法について、以下により具体的に説明する。まず、上記水相として2価フェノールのアルカリ水溶液を調製し、次いで、重合触媒、さらに必要に応じて分子量調整剤(末端封止剤)を添加する。さらに、後述の有機相を調製するための溶媒に、イソフタル酸成分を重合させるための原料であるイソフタル酸ハライドを混合して、有機相を調製する。その後、水相の溶液に有機相の溶液を混合し、25℃以下で1〜5時間攪拌しながら界面重合反応を行うことによって、高分子量のポリアリレート樹脂を得ることができる。
【0032】
上記のイソフタル酸ハライドは、特に限定されないが、本発明の構造を有するポリアリレートを合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、イソフタル酸クロライドを用いることが好ましい。
【0033】
アルカリ水溶液を調製するためのアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なかでも、経済的に有利な点および廃液処理の容易な点から水酸化ナトリウムが好ましい。
【0034】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩;トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。なかでも、反応速度が速く、イソフタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑える観点から、トリブチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0035】
分子量調整剤としては、1官能の化合物が挙げられ、具体的には、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノールなどが例示される。なかでも、取扱性の点から、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。なお、分子量調整剤は、ポリアリレート樹脂の重合時に添加されるものである。
【0036】
有機相を得るための溶媒としては、水と相溶せず、かつポリアリレート樹脂を溶解する溶媒が挙げられる。具体的には、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶媒;テトラヒドロフランなどが例示され、なかでも、非引火性で製造設備を防爆仕様にしなくても取扱性が良好である点から、ジクロロメタンが好ましい。上記の溶媒に、イソフタル酸ハライドを溶解させて有機相を得ることができる。なお、本発明においては、合成反応を効率性の点から、イソフタル酸ハライドが、塩化メチレンやジクロロメタンなどの有機相を調製するための溶媒に容易に溶解可能である。
【0037】
本発明のポリアリレート樹脂のインへレント粘度(ηinh)は、0.4〜1.00dl/gであることが好ましく、より好ましくは、0.50〜0.80dl/gである。インへレント粘度が0.4dl/g未満であると、ポリアリレート樹脂の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00dl/gを超えると、溶融粘度が非常に高くなり、射出成形および押出成形の際に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。
【0038】
本発明において、インへレント粘度を上述の範囲に制御するためには、重量平均分子量を45,000〜110,000の範囲とすればよい。分子量を制御する方法としては、分子量調整剤を添加する方法などが挙げられる。
【0039】
本発明においては、ポリアリレート樹脂を射出成形に付して得られた厚み2mmの試験片について、温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの条件下でのサンシャインウェザーメーターによる耐候性試験において、300時間経過後において、イエローインデックス(Y1)が、9以下であることが好ましく、より好ましくは8以下、最適には7以下である。
【0040】
本発明のポリアリレート樹脂は、ポリカーボネート樹脂と混合し、ポリアリレート樹脂組成物としてもよい。ポリカーボネート樹脂は前記ポリアリレート樹脂と類似のビスフェノール類残基単位を有するため、ポリアリレート樹脂に対して良好な相溶性を示すため好ましい。
【0041】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂としては、下記一般式(VI)に示されるポリカーボネートであることが好ましい。
【0042】
【化4】

なお、上記式(VI)中のR1〜R4は水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。また、nは30〜50程度であることが好ましい。
【0043】
上記式(VI)で示されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノール残基とカーボネート残基から構成されているポリ炭酸エステル樹脂である。
ポリカーボネート樹脂を構成するためのビスフェノール類残基単位を導入するビスフェノール類としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4‘−ジチオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3'−ジクロロジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。これらの化合物中でも、物性バランスに優れ、ポリアリレート樹脂との相溶性にも優れる観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好ましい。
【0044】
本発明のポリカーボネート樹脂のインへレント粘度(ηinh)は、0.40〜1.00dl/gであることが好ましく、より好ましくは、0.40〜0.80dl/gである。インへレント粘度が0.40dl/g未満であると、ポリアリレート樹脂と混合させて樹脂組成物としたときに、ポリアリレート樹脂の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00dl/gを超えると、溶融粘度が非常に高くなり、射出成形および押出成形の際に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の相溶性のためには、ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂のインヘレント粘度の差は小さい方がよく、例えば、その差は0.1〜0.2dl/gであることが好ましい。インヘレント粘度の差が小さく、十分に相溶化された本発明のポリアリレート樹脂組成物は、より高い衝撃強度を得ることができる。
【0045】
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合割合としては、質量比で、(ポリアリレート樹脂)/(ポリカーボネート樹脂)=100/0〜30/70であることが好ましく、さらに好ましくは90/10〜40/60であり、特に好ましくは90/10〜50/50の範囲である。上記混合割合が30/70を下回ると、得られるポリアリレート樹脂組成物の耐熱性が低く、成形体とした時に熱変形しやすくなる場合がある。
【0046】
本発明においては、ポリアリレート樹脂組成物を射出成形に付して得られた厚み2mmの試験片について、温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの条件下でのサンシャインウェザーメーターによる耐候性試験において、300時間経過後において、イエローインデックス(Y1)が、7以下であることが好ましく、より好ましくは5以下、最適には3以下である。
【0047】
本発明のポリアリレート樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、5kJ/m以上であることが好ましく、10J/m以上であることがより好ましい。
本発明のポリアリレート樹脂組成物の荷重たわみ温度(荷重:1.8MPa)は、170℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましい。
【0048】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物は耐熱性が高く、また加工温度も高いため、加工に際してはポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物に含まれる水分率を100ppm以下にするまで、十分に乾燥して用いることが好ましい。100ppm以上であると、加工時にポリアリレート樹脂に含まれる水分により、ポリアリレート樹脂が加水分解により分子量低下を起こして、必要な強度特性が得られない。なお、本発明においては、水分率を測定する方法としては加熱減量法、カールフィッシャー法などが挙げられる。
【0049】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物は、任意の方法で各種成形品に成形することができる。成形方法は特に制限されず、通常の射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、溶融キャスティング法などが用いられる。上記の中でも、本発明の耐熱性、透明性、耐候変色性に優れたポリアリート樹脂組成物の特性を、十分に生かして加工が出来るため、射出成形が好ましい。射出成形における成形条件としては、特に限定されないが、シリンダー温度が300〜340℃、金型温度が80〜120℃であることが好ましい。
【0050】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物には、成形品としたときの耐熱変色性をさらに向上させる観点から、ヒンダードアミン系光安定剤を含有させてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量としては、特に制限されず、適宜の量を用いることができる。
【0051】
本発明のポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物には、成形品の耐熱変色性が低下しない範囲内で、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0052】
このようにして得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐熱性、透明性、耐候変色性に優れるため、耐熱性、透明性、経時的な透明性低下、色調変化の抑制要求度の高い成形体用途で用いることができる。特に、耐熱性、透明性を生かした、自動車用のランプカバーおよびレンズ類として好適に用いられる。
【0053】
ポリアリレート樹脂を成形してなる成形体の具体例としては、薄型テレビ、パソコン、携帯電話、モバイル機器等のディスプレー周り、筐体等の電化製品用樹脂部品、ヘッドライトカバー、ランプカバー、リフレクター等の自動車用外装樹脂部品、インストルメントパネル周りの各種照明、表示灯、警告灯のほか、天井、足周り、ドアサイドの室内灯等の自動車用内装樹脂部品が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0055】
1.原料
(1)芳香族ジカルボン酸ハライド
・TPC:テレフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業社製、「テレフタロイルクロライド」)
・IPC:イソフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業社製、「イソフタロイルクロライド」)
・OPC:オルトフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業社製、「オルトフタロイルクロライド」
(2)二価フェノール
・TBA:2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン(東ソー社製、「フレームカット120G」)
・TCA:2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパン
・TFA:2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジフルオロフェニル)プロパン
・TIA:2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジヨードフェニル)プロパン
・BPA:ビスフェノールA[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン](三井化学社製、「ビスフェノールA」)
・TMBPA:2,2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニルプロパン)(本州化学工業社製、「Bis26X−A」)
(3)ポリカーボネート樹脂
・Q−1:(住友ダウ社製、「カリバー200−3」)、インヘレント粘度0.639dl/g
・Q−2:(住友ダウ社製、「カリバー200−13」)、インヘレント粘度0.492dl/g
・Q−3:(住友ダウ社製、「カリバー200−30」)、インヘレント粘度0.440dl/g
【0056】
2.試験方法
実施例中の各種の特性値については以下のようにして測定、評価を行った。
(1)インへレント粘度
1,1,2,2−テトラクロロエタンを溶媒とし、該溶媒中に実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂を濃度1g/dlで溶解させて溶液を得た。温度25℃の条件で、溶媒の粘度[η]および溶液の粘度[η]を測定し、下記式によりインヘレント粘度を算出した。
(インヘレント粘度)=η/η
(2)水分率
実施例および比較例で得られた、ポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から作製されたペレット3.0gを、水分気化装置(三菱化学製、「CA−02型」)中で180℃に加熱して水分を蒸発させ、微量水分測定装置(三菱化学製、「VA−02型」)にて、カールフィッシャー試薬を用いた電量滴定法により蒸発水分量を測定して求めた。
【0057】
(3)イエローインデックス(Y1)
射出成形機(東芝機械社製、「EC100N型」)を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から、厚さ2mmの試験片を成形した。該試験片を、サンシャインウェザーメーターを用いて、温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの条件で耐候試験に付し、300時間経過後のイエローインデックスを、測色器(日本電色株式会社製、商品名「SZ−Σ80型測色機」)を用いて測定した。
【0058】
(4)シャルピー衝撃強度
上述の射出成形機を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 179−1に準拠して測定した。
【0059】
(5)荷重たわみ温度
上述の射出成形機を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂またはポリアリレート樹脂組成物から、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 75−1に準拠して、荷重1.8MPaでの荷重たわみ温度を測定した。
本発明においては、170℃以上であるものを、実用に耐えうるものとした。
【0060】
(製造例1)
攪拌容器を備えた反応容器中に、二価フェノール成分として、2,2−ビス(4ーヒドロキシ3,5−ジブロモフェニル)プロパン79.44kg(146モル)、分子量調整剤としてp−tert−ブチルフェノール(DIC社製、「PTBP」)1.10kg(7.3モル)、アルカリとして水酸化ナトリウム(東ソー社製)12.58kg(314モル)、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(ライオンアクゾ社製、「BTBAC−50」)の50%水溶液610g、ハイドロサルファイトナトリウム(BASF社製)397gを注入し、さらに反応容器中に水1200Lを注入して溶解し、水相とした。
【0061】
さらに、別の反応容器中で、ジクロロメタン(トクヤマ社製、「メチレンクロライド」)720Lに、イソフタル酸クロライド15.2kg(75モル)、テレフタル酸クロライド15.2kg(75モル)の混合物を溶解し、有機相とした。この有機相を、既に攪拌している水相に強攪拌下で添加し、温度を15℃に保って2時間重合反応を行った。この後、攪拌を停止し、デカンテーションにより水相と有機相を分離した。水相を除去した有機相に、純水1200Lと酢酸100mLを添加して反応を停止し、さらに15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄し、該有機相をヘキサン1000L中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを有機相から分離し、次いで120℃で1日間乾燥させて、ポリアリレート樹脂(P−1)を得た。得られたポリアリレート樹脂(P−1)について1H−NMR(日本電子社製、「ECA500 NMR」)を用いて組成分析を行ったところ、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分の重合比率は1:1であり、二価フェノール成分と芳香族ジカルボン酸成分の混合比率と同一であることが確認された。また、ポリアリレート樹脂(P−1)の水分率は90ppmであった。その結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

(製造例2〜11)
表1に示す割合に従い、製造例1と同様にして、ポリアリレート樹脂(P−2)〜(P−11)を得た。評価結果を表1に示す。
【0063】
(実施例1)
製造例1で得られたポリアリレート樹脂(P−1)を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度320〜360℃、金型温度100℃にて、厚み2mm、長さ70mm、幅40mmの成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

(実施例2〜9)
ポリアリレート樹脂の種類を変えた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価に付した。その評価結果を表2に示す。
(実施例10)
二軸押出機(東芝機械社製、「TEM−41SS型」)を用いて、製造例1で得られたポリアリレート樹脂(P−1)とポリカーボネート樹脂(Q−1)を、(A)/(B)=90/10(質量比)の混合比率で、シリンダー温度320〜360℃、スクリュー回転300rpm、吐出量50kg/hの条件で溶融混練を行った。その後、ストランド状に押し出して、冷却した後、カッティングして、ポリアリレート樹脂組成物ペレットを得た。得られたポリアリレート樹脂組成物ペレットにつき、120℃で1日間乾燥を行った後、水分率の測定を行った。水分率は、95ppmであった。
【0065】
得られたポリアリレート樹脂組成物を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度320〜360℃、金型温度100℃にて、厚み2mm、長さ70mm、幅40mmの成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

(実施例11〜23)
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合比率を変えた以外は、実施例10と同様にして成形品を作製し、評価に付した。その評価結果を表3に示す。
【0067】
(比較例1〜6)
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合比率を変えた以外は、実施例1と同様にして成形品を作製し、評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0068】
【表4】

実施例1〜9は、温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの条件下において、300時間経過後であっても、イエローインデックスが9以下であり、耐候変色性に優れるとともに透明性に優れていた。特に、実施例1〜9は、インヘレント粘度が好ましい範囲であるため、300時間経過後であっても、イエローインデックスが4以下であり、耐候変色性が優れており、耐衝撃性にも優れていた。
【0069】
実施例10〜23は、温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの条件下において、300時間経過後であっても、イエローインデックスが7以下であり、耐候変色性に優れるとともに透明性に優れていた。
【0070】
また、実施例10〜12の中で、用いたポリアリレート樹脂(P−1)とインヘレント粘度差の小さいポリカーボネート樹脂(Q−1)を配合した実施例10が、最も樹脂の相溶状態が良く耐衝撃性に優れていた。
【0071】
比較例1は、ハロゲン置換ビスフェノールを含有していないポリアリレート樹脂を用いたため、耐候変色性(透明性)、耐熱性に劣るものであった。
比較例2は、ハロゲン置換ビスフェノールを含有していないポリアリレート樹脂を用いたため、耐候変色性(透明性)、耐衝撃性に劣るものであった。また、耐熱性が顕著に不足しており、荷重たわみ温度を測定することができなかった。
【0072】
比較例3は、ポリアリレート樹脂として、ハロゲン置換ビスフェノールを含有していないポリアリレート樹脂を配合したため耐候変色性(透明性)に劣っていた。
比較例4も、比較例13同様、ポリアリレート樹脂として、ハロゲン置換ビスフェノールを含有していないポリアリレート樹脂を配合したため、耐候変色性(透明性)に劣っていた。また、耐熱性が顕著に不足しており、荷重たわみ温度を測定することができなかった。
【0073】
比較例5は、ハロゲン置換ビスフェノールを含有していないポリアリレート樹脂を配合したため、耐候変色性(透明性)に劣っていた。また、耐熱性に劣っていた。
比較例6は、ハロゲン置換ビスフェノールを含有していないポリアリレート樹脂を配合したため、耐候変色性(透明性)に劣っていた。また、耐熱性に劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。
【化1】

上記式(I)において、Xはハロゲン原子を示すものである。Xがフッ素原子の場合はm=40〜120、Xが塩素原子の場合はm=30〜80、Xが臭素原子の場合はm=20〜60、Xがヨウ素原子の場合はm=15〜45である。
【請求項2】
インへレント粘度が0.40〜1.00dl/gであり、かつ温度63℃、湿度70%RH、降雨サイクル18分/120分、紫外線照射量257W/mの環境下において300時間経過後のイエローインデックスが9以下であることを特徴とする請求項1記載のポリアリレート樹脂(A)。
【請求項3】
請求項1又は2記載のポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを、質量比で(A)/(B)=100/0〜30/70で配合することを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3記載のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2011−68735(P2011−68735A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−219842(P2009−219842)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】