説明

ポリアリレート樹脂、およびポリアリレート樹脂組成物

【課題】耐熱性、耐衝撃性に優れ、特に、耐熱性、耐衝撃性を生かした、自動車部品用途で好適に用いられるポリアリレート樹脂を提供する。
【解決手段】二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され、下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。


[なお、式中、l、mおよびnは、l+m+n=100(モル%)であって、l:n=50:50〜70:30(モル比)かつ(l+n):m=75:25〜40:60(モル比)をみたす]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性に優れるポリアリレート樹脂およびポリアリレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業界においては、自動車の燃費向上が最大の課題となっている。このため、自動車を構成する材料を軽量化することを目的として、比重の高い金属や無機材料に替えて、比重の低いプラスチックを自動車部品に応用する試みが盛んに行われている。例えば、自動車に搭載されるランプカバーやレンズ類等の部品などについて、ガラスからプラスチックへの代替が進んでいる。
上記のような部品のうち、耐熱変形性の要求が比較的低い部品には、通常、アクリル樹脂が使用され、耐熱変形性の要求が比較的高い部品にはポリカーボネート樹脂が使用されている。しかし、耐熱変形性の要求が高いヘッドライトレンズ、インナーレンズ、フォグライトレンズなどにおいては、アクリル樹脂やポリカーボネート樹脂を使用した場合は、要求される耐熱性を満足できない場合があった。このような事情から、これらの部品には、ポリカーボネートに替えて、より耐熱性の高いポリアリレート樹脂の応用が期待されている。
【0003】
従来より、ポリアリレート樹脂は、耐熱性が高く、機械的強度や寸法安定性に優れるという利点を有し、自動車分野のみならず、電気・電子機器、機械などの分野にも幅広く使用されてきた。しかしながら、上記耐熱性、機械特性を有するポリアリレート樹脂であっても、ライト光源に近接する場所で用いられた場合、耐熱が不十分となり、大きく変形するなどの問題が発生していた。そのため、上記ポリアリレート樹脂よりさらに耐熱性の高い、ポリエーテルイミドまたはポリエーテルスルホンなどが使用されてきた。
【0004】
耐熱性、機械特性をさらに高めたポリアリレート樹脂を得るために、二価フェノール成分として、ビスフェノールA残基にビフェノール残基、フタル酸残基を導入することが試みられている。しかしながら、界面重合法を用い、前記共重合成分を用いたポリアリレート樹脂を重合することは、反応性の低下をともない、十分に分子量を高めたポリアリレート樹脂とすることはできなかった。
一方、溶融重合法を用いて、ポリアリレート樹脂を重合することも試みられている(例えば、特許文献1〜3参照)。溶融重合法は溶媒への分散をともなわない重合法であるため、界面重合法に比べ優位にポリアリレート樹脂の重合を行うことができたが、分子量の上昇に伴う溶融粘度の増大、加熱溶融によるポリアリレート樹脂の劣化、またそれに伴う着色が重合時の操業性、得られるポリアリレート樹脂の品位を低下させ問題となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−188405号公報
【特許文献2】特開2003−212980号公報
【特許文献3】特開2005−220311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐熱性、耐衝撃性に優れたポリアリレート樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0009】
(1)二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され、下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。
【化1】

[なお、式中、l、mおよびnは、l+m+n=100(モル%)であって、
l:n=50:50〜70:30(モル比)かつ(l+n):m=75:25〜40:60(モル比)をみたす]
(2)インへレント粘度が0.50〜1.00であることを特徴とする(1)のポリアリレート樹脂(A)。
(3)(1)または(2)のポリアリレート樹脂(A)の製造方法であって、水相とジクロロメタン相の2相からなる界面重合法で重合されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)の製造方法。
(4)(1)または(2)のポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを、質量比で(A)/(B)=90/10〜30/70で配合したものであることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
(5)(4)のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性、耐衝撃性に優れたポリアリレート樹脂が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアリレート樹脂(A)は、二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され、下記式(I)で示される芳香族ポリエステルである。
【0012】
【化2】

[なお、式中、l、mおよびnは、l+m+n=100(モル%)であって、
l:n=50:50〜70:30(モル比)かつ(l+n):m=75:25〜40:60(モル比)をみたす]
【0013】
本発明において、二価フェノール残基単位は、2,2−ビス(4ーヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する場合がある)と、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(以下、「ビスフェノールTMC」と略称する場合がある)と、4,4−ジヒドロキシ−ビフェニル(以下、「ビフェノール」)との共重合物である。ビスフェノールAは、安価な化合物であり、得られたポリアリレート樹脂(A)の機械特性、特に耐衝撃性に優れているという利点がある。ビスフェノールTMCは、シクロヘキサン環に3個のメチル置換基を有することで、得られたポリアリレート樹脂(A)の溶剤溶解性および耐熱性を向上させることができる。さらに、ビフェノールは剛直な構造のため耐熱性および熱間剛性に優れたポリアリレート樹脂(A)を得ることができる。
【0014】
ビスフェノールAおよびビフェノールの共重合比率は、ビスフェノールAのモル数をl、ビフェノールのモル数をnとして、l:n=50:50〜70:30(モル比)であることが必要である。ビスフェノールAが70モル%を超えると、得られたポリアリレート樹脂(A)の溶剤溶解性が著しく悪化し、重合途中で析出したり、溶液が白濁したりして分子量が十分に上昇しないという問題がある。一方、ビスフェノールAが50モル%未満であると、得られるポリアリレート樹脂(A)の耐衝撃性が劣ることがある。
【0015】
(ビスフェノールAとビフェノールの合計)およびビスフェノールTMCの共重合比率は、ビスフェノールAのモル数をl、ビスフェノールTMCのモル数をm、ビフェノールのモル数をnとして、(l+n):m=80:20〜40:60(モル比)であることが必要であり、75:25〜45:55(モル比)であることが好ましい。ビスフェノールTMCが60モル%を超えると、得られるポリアリレート樹脂(A)の熱間剛性が劣ることがある。一方、ビスフェノールTMCが20モル%未満であると、ポリアリレート樹脂(A)の溶剤溶解性が著しく悪化し、重合途中で析出したり、溶液が白濁したりして分子量が十分に上昇しないという問題がある。
【0016】
本発明において、耐熱性、耐衝撃性に優れたポリアリレート樹脂(A)を得るために、二価フェノール残基単位として、ビスフェノールAとビフェノールを共重合物することが必要であるが、その際、ビスフェノールAとビフェノールの2成分のみを二価フェノール成分として重合すると、重合途中でのビスフェノールA、またはビフェノールの析出の問題があり難しい。ここで、ビスフェノールTMCを用いることで、ビスフェノールAとビフェノールの溶剤溶解性が高まり、ビスフェノールA、ビスフェノールTMCおよびビフェノールの重合反応を速やかに進行させることができる。また、耐熱性、耐衝撃性をバランスよく高め、速やかに共重合を進行させるためには、上記共重合比率とする必要がある。
【0017】
本発明のポリアリレート樹脂(A)を構成するフタル酸残基を得るためのフタル酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、またはこれらの混合物などが挙げられる。なかでも、本発明の構造を有するポリアリレート樹脂(A)を合成する上で、良好な合成反応を進めるためには、イソフタル酸とテレフタル酸の混合物を用いることが好ましい。テレフタル酸とイソフタル酸の混合比率は、性能バランスの観点から、モル比で、テレフタル酸/イソフタル酸=8/2〜2/8であることが好ましく、より好ましくは7/3〜3/7の範囲である。最も好ましいのは、両者の等モル混合物である。
【0018】
また、フタル酸の一部を、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の脂肪族ジカルボン酸類で置き換えてもよい。このような脂肪族ジカルボン酸としては、ジカルボキシメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルタル酸、ドデカン二酸などが挙げられる。
【0019】
本発明において、ポリアリレート樹脂(A)を重合する方法は、界面重合法であることが好ましい。界面重合法によれば、溶液重合法と比較して反応が速く、イソフタル酸残基を重合させるための原料であるイソフタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑えることができるため、高分子量のポリアリレート樹脂(A)を容易に得ることができる。また、界面重合法は、得られる樹脂に粘度コントロール性、低不純物性を付与しうる重合法である。以下に、一般的な界面重合法によるポリアリレート樹脂(A)の製造方法を詳述する。
【0020】
界面重合は、二価フェノールをアルカリ水溶液に溶解させた水相と、ジカルボン酸残基を重合させるための原料であるジカルボン酸ハライドを水に不溶の有機溶媒に溶解させた有機相とを、触媒の存在下で混合することによっておこなわれる。この界面重合の方法は、W.M.EARECKSON,J.Poly.Sci.XL399(1959)や、特公昭40−1959号公報などに記載されている。
【0021】
本発明における界面重合法について、以下により具体的に説明する。
まず、上記水相として二価フェノールのアルカリ水溶液を調製し、次いで、重合触媒、さらに必要に応じて分子量調整剤(末端封止剤)を添加する。さらに、後述の有機相を調整するための溶媒に、イソフタル酸残基を重合させるための原料であるイソフタル酸ハライドを混合して、有機相を調整する。その後、水相の溶液に有機相の溶液を混合し、25℃以下で1〜5時間攪拌しながら界面重合反応を行うことによって、高分子量のポリアリレート樹脂(A)を得ることができる。
【0022】
アルカリ水溶液を調製するためのアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。なかでも、経済的に有利な点および廃液処理の容易な点から水酸化ナトリウムが好ましい。
【0023】
重合触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリドデシルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、キノリン、ジメチルアニリン等の第3級アミン;トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド等の第4級アンモニウム塩;トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリフェニルベンジルホスホニウムハライド、テトラフェニルホスホニウムハライド等の第4級ホスホニウム塩などが挙げられる。なかでも、反応速度が速く、イソフタル酸ハライドの加水分解を最小限に抑える観点から、トリブチルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0024】
分子量調整剤としては、1官能の化合物が挙げられ、具体的には、フェノール、クレゾール、p−tert−ブチルフェノールなどが例示される。なかでも、取扱性の点から、p−tert−ブチルフェノールが好ましい。なお、分子量調整剤は、ポリアリレート樹脂(A)の重合時に添加されるものである。
【0025】
有機相を得るための溶媒としては、水と相溶せず、かつポリアリレート樹脂(A)を溶解する溶媒が挙げられる。具体的には、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶媒;テトラヒドロフランなどが例示され、なかでも、非引火性で製造設備を防爆仕様にしなくても取扱性が良好である点ら、ジクロロメタンが好ましい。上記の溶媒に、イソフタル酸ハライドを溶解させて有機相を得ることができる。なお、本発明においては、耐熱変色性に優れるポリアリレート樹脂(A)を得るため、また、合成反応を効率的に行える点から、イソフタル酸ハライドが、ジクロロメタンなどの有機相を調整するための溶媒に容易に溶解可能である。
【0026】
本発明のポリアリレート樹脂(A)のインへレント粘度(ηinh)は、0.50〜1.00であることが好ましく、より好ましくは、0.50〜0.80である。インへレント粘度が0.50未満であると、ポリアリレート樹脂(A)の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00を超えると、溶融粘度が非常に高くなり、射出成形および押出成形の際に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。
【0027】
本発明において、ポリアリレート樹脂(A)のISO 178に準拠して測定される曲げ弾性率は2.3GPa以上であることが好ましい。2.3GPa未満であると、熱間剛性が不足することになり、ライト光源の近接する場所に配置した時に、変形が生じる場合がある。
【0028】
本発明のポリアリレート樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂(B)と混合し、ポリアリレート樹脂組成物としてもよい。ポリカーボネート樹脂(B)は前記ポリアリレート樹脂(A)と類似のビスフェノール類残基単位を有するため、ポリアリレート樹脂(A)に対して良好な相溶性を示すため好ましい。
【0029】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(B)としては、下記一般式(II)に示されるポリカーボネートであることが好ましい。
【0030】
【化3】

【0031】
なお、上記式(II)中のR1〜R4は水素原子、または炭素数1〜4のアルキル基を示す。また、pは30〜50程度であることが好ましい。
【0032】
上記式(II)で示されるポリカーボネート樹脂(B)は、二価フェノール残基とカーボネート残基から構成されているポリ炭酸エステル樹脂である。
【0033】
ポリカーボネート樹脂(B)を構成するためのビスフェノール類残基単位を導入するビスフェノール類としては、例えば2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロドデカン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4'−ジチオジフェノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3'−ジクロロジフェニルエーテル、4,4'−ジヒドロキシ−2,5−ジヒドロキシジフェニルエーテル等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、あるいは2種類以上混合して使用してもよい。これらの化合物中でも、物性バランスに優れ、ポリアリレート樹脂(A)との相溶性にも優れる観点から、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンが最も好ましい。
【0034】
本発明のポリカーボネート樹脂(B)のインへレント粘度は、0.40〜1.00であることが好ましく、より好ましくは、0.40〜0.80である。インへレント粘度が0.40未満であると、ポリアリレート樹脂(A)と混合させて樹脂組成物としたときに、ポリアリレート樹脂(A)の耐衝撃性が低下する場合がある。一方、インへレント粘度が1.00を超えると、溶融粘度が非常に高くなり、射出成形および押出成形の際に樹脂の流れが悪くなり、実用に耐えられない場合がある。ポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の相溶性のためには、ポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)のインヘレント粘度の差は小さい方がよく、例えば、その差は0.1〜0.2の範囲内であることが好ましい。インヘレント粘度の差が小さく、十分に相溶化された本発明のポリアリレート樹脂組成物は、より高い衝撃強度を得ることができる。
【0035】
ポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の混合割合としては、質量比で、(A)/(B)=90/10〜30/70であることが好ましく、さらに好ましくは90/10〜40/60であり、特に好ましくは90/10〜50/50の範囲である。上記混合割合が30/70を下回ると、得られるポリアリレート樹脂組成物の耐熱性が低く、成形体とした時に熱変形しやすくなる場合がある。
【0036】
本発明のポリアリレート樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、5kJ/m以上であることが好ましく、10kJ/m以上であることがより好ましい。
【0037】
本発明のポリアリレート樹脂組成物の荷重たわみ温度(荷重:1.8MPa)は、200℃以上であることが好ましく、210℃以上であることがより好ましい。
【0038】
本発明のポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物は耐熱性が高く、また加工温度も高いため、加工に際してはポリアリレート樹脂(A)に含まれる水分率を100ppm以下にするまで、十分に乾燥して用いることが好ましい。100ppm以上であると、加工時にポリアリレート樹脂(A)に含まれる水分により、ポリアリレート樹脂(A)が加水分解により分子量低下を起こして、必要な機械特性が得られない。なお、本発明においては、水分率を測定する方法としては、加熱減量法、カールフィッシャー法などが挙げられる。
【0039】
本発明のポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物は、任意の方法で各種成形品に成形することができる。成形方法は特に制限されず、通常の射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、溶融キャスティング法などが用いられる。上記の中でも、耐熱性と機械特性を生かした各種形状の成形体の加工が容易な点で、射出成形法を好ましく用いることができる。射出成形における成形条件としては、特に限定されないが、シリンダー温度が300〜340℃であり、金型温度が80〜120℃であることが好ましい。
【0040】
本発明のポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物には、成形体としたときの耐熱変色性をさらに向上させる観点から、ヒンダードアミン系光安定剤を含有させてもよい。ヒンダードアミン系光安定剤の含有量は、特に制限されず、適宜の量を用いることができる。
【0041】
本発明のポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物には、成形体の耐熱変色性が低下しない範囲内で、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤等の各種添加剤を添加してもよい。
【0042】
このようにして得られたポリアリレート樹脂組成物は、耐熱性、耐衝撃性に優れるため、耐熱性、耐衝撃性の抑制要求度の高い成形体用途で用いることができる。特に、耐熱性、耐衝撃性を生かした、自動車部品用途で好適に用いられる。
【0043】
ポリアリレート樹脂(A)を成形してなる成形体の具体例としては、薄型テレビ、パソコン、携帯電話、モバイル機器等のディスプレー周り、筐体等の電化製品用樹脂部品、ヘッドライト、ランプのリフレクター等の自動車用外装樹脂部品、インストルメントパネル周りの各種照明、表示灯、警告灯のほか、天井、足周り、ドアサイドの室内灯等の自動車用内装樹脂部品が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0045】
1.原料
【0046】
(1)芳香族ジカルボン酸ハライド
・TPC:テレフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業社製テレフタロイルクロライド)
・IPC:イソフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業社製イソフタロイルクロライド)
【0047】
(2)二価フェノール
・BPA:ビスフェノールA[2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン](三井化学社製ビスフェノールA)
・BPTMC:ビスフェノールTMC[ビスフェノール3,3,5−トリメチルシクロヘキサン](本州化学工業社製BisP−TMC)
・BP:ビフェノール[4,4−ジヒドロキシ−ビフェニル](本州化学工業社製ビフェノール)
・BPAP:ビスフェノールAP[4,4’−(1−フェニルエチリデン)ジフェノール](本州化学工業社製BisP−AP)
・BPZ:ビスフェノールZ[4,4’−シクロへキサン−1,1−ジイルジフェノール](本州化学工業社製Bis−Z)
【0048】
(3)ポリカーボネート樹脂
・Q−1:(住友ダウ社製カリバー200−3)、インヘレント粘度0.639
・Q−2:(住友ダウ社製カリバー200−13)、インヘレント粘度0.492
・Q−3:(住友ダウ社製カリバー200−30)、インヘレント粘度0.440
【0049】
2.試験方法
実施例中の各種の特性値については以下のようにして測定、評価を行った。
【0050】
(1)インへレント粘度
1,1,2,2−テトラクロロエタンを溶媒とし、該溶媒中に実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂(A)を濃度1g/dlで溶解させて溶液を得た。温度25℃の条件で、溶媒の粘度[η]および溶液の粘度[η]を測定し、下記式によりインヘレント粘度を算出した。
(インヘレント粘度)=η/η
【0051】
(2)ポリアリレート樹脂(A)の重合性
界面重合後のポリマー液と、界面重合法により得られたポリアリレート樹脂(A)を目視で観察し、その重合性を以下の基準で評価した。
○:界面重合後のポリマー液が透明であり、かつポリマー液から分離乾燥させたポリアリレート樹脂(A)がトリクロロメタンに溶解する。
△:界面重合後のポリマー液が白濁しており、かつポリマー液から分離乾燥させたポリアリレート樹脂(A)がトリクロロメタンに溶解する。
×:界面重合後のポリマー液が白濁しており、かつポリマー液から分離乾燥させたポリアリレート樹脂(A)がトリクロロメタンに溶解しない。
【0052】
(3)水分率
実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物から作製されたペレット3.0gを、水分気化装置(三菱化学製CA−02型)中で180℃に加熱して水分を蒸発させ、微量水分測定装置(三菱化学製VA−02型)にて、カールフィッシャー試薬を用いた電量滴定法により蒸発水分量を測定して求めた。
【0053】
(4)曲げ弾性率
ISO178に準拠して測定した。
【0054】
(5)シャルピー衝撃強度
上述の射出成形機を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物から、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 179−1に準拠して測定した。
【0055】
(6)荷重たわみ温度
上述の射出成形機を用いて、実施例および比較例で得られたポリアリレート樹脂(A)またはポリアリレート樹脂組成物から、ISO準拠の試験片を所定の成形条件で成形し、ISO 75−1に準拠して、荷重1.8MPaでの荷重たわみ温度を測定した。
【0056】
製造例1
攪拌容器を備えた反応容器中に、二価フェノール残基として、2,2−ビス(4ーヒドロキシフェニル)プロパン8.1kg(36モル)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン8.3kg(27モル)、4,4−ジヒドロキシ−ビフェニル5.0kg(27モル)、分子量調整剤としてp−tert−ブチルフェノール(以下、PTBPと略称する場合がある)(DIC社製PTBP)670g(4.4モル)、アルカリとして水酸化ナトリウム(東ソー社製)8.6kg(213モル)、重合触媒としてベンジル−トリ−n−ブチルアンモニウムクロライド(以下、BTBACと略称する場合がある)(ライオンアクゾ社製BTBAC−50)373g、ハイドロサルアフィトナトリウム(以下、SHSと略称する場合がある)(BASF社製)107gを注入し、さらに反応容器中に水400Lを注入して溶解し、水相とした。
さらに、別の反応容器中で、ジクロロメチレン(トクヤマ社製メチレンクロライド)240Lに、ミックスフタル酸クロライド(イハラニッケイ化学工業社製MPC;テレフタル酸/イソフタル酸=50/50(質量%))18.6kg(91モル)を溶解し、有機相とした。この有機相を、既に攪拌している水相に強攪拌下で添加し、温度を15℃に保って2時間重合反応を行った。この後、攪拌を停止し、デカンテーションにより水相と有機相を分離した。水相を除去した有機相に、純水400Lと酢酸100mLを添加して反応を停止し、さらに15℃で30分間攪拌した。この有機相を純水で5回洗浄し、該有機相をヘキサン400L中に添加してポリマーを沈殿させた。沈殿したポリマーを有機相から分離し、次いで乾燥させて、ポリアリレート樹脂(P−1)を得た。得られたポリアリレート樹脂(P−1)についてH−NMR(日本電子社製ECA500 NMR)を用いて組成分析を行ったところ、二価フェノール残基とフタル酸残基の重合比率は1:1であり、二価フェノール残基とフタル酸残基の混合比率と同一であることが確認された。その結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
製造例2〜19
表1に示す配合に従い、製造例1と同様にして、ポリアリレート樹脂(P−2)〜(P−19)を得た。
【0059】
製造例10、11については、本発明で規定の二価フェノール成分の内、BPAの配合比率が規定を大きく超えたため、重合性が低く、低分子量成分が多く、不完全な重合であった。さらに、製造例10、11については、ポリアリレート樹脂の採取ができなかったため、評価で用いることができなかった。
【0060】
実施例1
製造例1で得られたポリアリレート樹脂(P−1)を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度340〜360℃、金型温度120℃にて、厚み2mm、長さ70mm、幅40mmの成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表2に示す。
【0061】
【表2】

【0062】
実施例2〜9
ポリアリレート樹脂の種類を変えた以外は、実施例1と同様にして成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表2に示す。
【0063】
実施例10
二軸押出機(東芝機械社製TEM−41SS型)を用いて、製造例で得られたポリアリレート樹脂(P−1)とポリカーボネート樹脂(Q−1)を、(P−1)/(Q−1)=90/10(質量比)の混合比率で、シリンダー温度300〜340℃、スクリュー回転300rpm、吐出量50kg/hの条件で溶融混練を行った。その後、ストランド状に押し出して、冷却した後、カッティングして、ポリアリレート樹脂組成物を得た。
得られたポリアリレート樹脂組成物を、上述の射出成形機を用いて、シリンダー温度300〜340℃、金型温度100℃にて、厚み2mm、長さ70mm、幅40mmの成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表3に示す。
【0064】
【表3】

【0065】
実施例11〜19
ポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の種類、およびポリアリレート樹脂とポリカーボネート樹脂の混合比率を変えた以外は、実施例8と同様にして成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表3に示す。
【0066】
比較例1〜9
ポリアリレート樹脂(P−12)〜(P−20)について、実施例1と同様にして成形体を作製し、評価に付した。その評価結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
実施例1〜7は、所定の配合にしたがったため、耐熱性、耐衝撃性に優れるポリアリレート樹脂とすることができた。
【0069】
実施例8〜17は、所定の配合にしたがったため、耐熱性、耐衝撃性に優れるポリアリレート樹脂組成物とすることができた。
【0070】
比較例1は、共重合成分としてビフェノールを用いなかったため、耐熱性が劣っていた。
【0071】
比較例2は、ビスフェノールTMCの配合が過少で、重合性が低く、耐衝撃性が劣っていた。
【0072】
比較例3、4は、ビスフェノールAの配合が過少で、ビフェノールの配合が過多であったため、重合性が低く、曲げ弾性率、耐衝撃性が大きく劣った。
【0073】
比較例5は、ビスフェノールAの配合が過少であったため、耐衝撃性が劣っていた。
【0074】
比較例6は、ビスフェノールTMCの配合が過多で、ビスフェノールA、ビフェノールともに過少であったため、耐衝撃性、耐熱性が劣っていた。
【0075】
比較例7は、ビフェノールに代えて、ビスフェノールZを用いため、重合性が低く、耐熱性が劣った。
【0076】
比較例8は、ビスフェノールTMCを用いず、ビフェノールに代えて、ビスフェノールZを用いため、重合性が低く、比較例7に比べ、耐熱性がさらに劣った。
【0077】
比較例9は、ビスフェノールTMCを用いず、ビフェノールに代えて、ビスフェノールAPを用いため、耐衝撃性が大きく劣った。









【特許請求の範囲】
【請求項1】
二価フェノール残基と芳香族ジカルボン酸残基とから構成され、下記式(I)で表されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)。
【化1】

[なお、式中、l、mおよびnは、l+m+n=100(モル%)であって、
l:n=50:50〜70:30(モル比)かつ(l+n):m=75:25〜40:60(モル比)をみたす]
【請求項2】
インへレント粘度が0.50〜1.00であることを特徴とする請求項1記載のポリアリレート樹脂(A)。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアリレート樹脂(A)の製造方法であって、水相とジクロロメタン相の2相からなる界面重合法で重合されることを特徴とするポリアリレート樹脂(A)の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載のポリアリレート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)とを、質量比で(A)/(B)=90/10〜30/70で配合したものであることを特徴とするポリアリレート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載のポリアリレート樹脂組成物を成形してなる成形体。





























【公開番号】特開2013−76042(P2013−76042A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218375(P2011−218375)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】