説明

ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物

【課題】 バリ発生が少なく、流動性(成形性)および機械的特性に優れたPAS樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 (A) ポリアリーレンサルファイド樹脂 100重量部に対し、(B) 1分子中に2個以上のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物0.01〜10重量部を配合する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、本発明はバリ発生が少なく、成形性および機械的特性に優れたポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す)樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド(以下PASと略す)樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有していることから、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。しかしながら、PAS樹脂は、射出成形で得られる成形品にバリが多く発生するため、バリを取り除く後加工仕上げが必要となる根本的な欠点がある。この問題を解決する従来の方法としては、各種アルコキシシラン化合物を添加することが知られている(特開昭55−29526 号公報、特開昭63−251430号公報、特開平1−146955号公報等)。一般的な各種アルコキシシラン化合物とPAS樹脂とは、反応性が高く、機械的特性改良、バリ発生を抑制する効果等が認められている。しかしながら、これら公報に用いられている一般的なアルコキシシラン化合物では、PAS樹脂とアルコキシシラン化合物との溶融混練時の反応性の制御が難しく、この結果、著しい溶融粘度の増大を生じ、成形性を低下させる問題がある。また、溶融粘度、機械的特性のばらつきが大きい問題点も生じる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる問題に鑑み、バリ発生が少なく、流動性(成形性)および機械的特性に優れたPAS樹脂組成物を提供することを目的としたものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、PAS樹脂に特定のアルコキシシラン化合物を配合することにより、バリ発生が少なく、流動性(成形性)、機械的特性が良好な材料を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、(A) ポリアリーレンサルファイド樹脂 100重量部に対し、(B) 1分子中に2個以上のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物0.01〜10重量部を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物に関するものである。
【0005】
【発明の実施の形態】以下本発明の構成成分について詳細に説明する。本発明に用いる(A) 成分としてのPAS樹脂は、繰返し単位として-(Ar-S)-(但しArはアリーレン基)で主として構成されたものである。アリーレン基としては、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p'−ジフェニレンスルフォン基、p,p'−ビフェニレン基、p,p'−ジフェニレンエーテル基、p,p'−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基などが使用できる。この場合、前記のアリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰返し単位を用いたポリマー、すなわちホモポリマーの他に、組成物の加工性という点から、異種繰返し単位を含んだコポリマーが好ましい場合もある。ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレン基を用いた、p−フェニレンサルファイド基を繰返し単位とするものが特に好ましく用いられる。又、コポリマーとしては、前記のアリーレン基からなるアリーレンサルファイド基の中で、相異なる2種以上の組み合わせが使用できるが、中でもp−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが特に好ましく用いられる。この中で、p−フェニレンサルファイド基を70モル%以上、好ましくは80モル%以上含むものが、耐熱性、流動性(成形性)、機械特性等の物性上の点から適当である。又、これらのPAS樹脂の中で、2官能性ハロゲン芳香族化合物を主体とするモノマーから縮重合によって得られる実質的に直鎖状構造の高分子量ポリマーが、特に好ましく使用できるが、直鎖状構造のPAS樹脂以外にも、縮重合させるときに、3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物等のモノマーを少量用いて、部分的に分岐構造または架橋構造を形成させたポリマーも使用できるし、低分子量の直鎖状構造ポリマーを酸素又は酸化剤存在下、高温で加熱して、酸化架橋又は熱架橋により溶融粘度を上昇させ、成形加工性を改良したポリマーも使用可能である。又、(A) 成分のPAS樹脂は、前記直鎖状PAS(310℃・ズリ速度 1200sec-1)における粘度が10〜300 Pa・s を主体とし、その一部(1〜30重量%、好ましくは2〜25重量%)が、比較的高粘度(300 〜3000Pa・s 、好ましくは 500〜2000Pa・s )の分岐又は架橋PAS樹脂との混合系も好適である。又、本発明に用いるPAS樹脂は、重合後、酸洗浄、熱水洗浄、有機溶剤洗浄(或いはこれらの組合せ)を行って副生不純物等を除去精製したものが好ましい。
【0006】次に本発明に用いるアルコキシシラン化合物(B) は、1分子中に2個以上のアルコキシシリル基を有するもので、シリル基1個につき最低1個以上のアルコキシ基を有するシラン化合物であり、1種又は2種以上用いてもかまわない。一般的に用いられる1分子中に1個のアルコキシシリル基しか持たないアルコキシシラン化合物は、PAS樹脂との反応性が高く、溶融混練されたPAS樹脂組成物の溶融粘度が著しく上昇し、流動性(成形性)を低下させるばかりでなく、溶融粘度および機械的物性のばらつきが大きくなるという問題点を生じる。本発明に用いるアルコキシシラン化合物(B) を例示すると、N,N −ビス((メチルジメトキシシリル)プロピル)アミン、N,N −ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミン、N,N −ビス(3−(メチルジメトキシリル)プロピル)エチレンジアミン、N,N −ビス((メチルジメトキシシリル)プロピル)メタクリルアミド、N,N −ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)エチレンジアミン、N,N −ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)メタクリルアミド、N−ジグリシジル−N,N −ビス(3−(メチルジメトキシシリル)プロピル)アミン、N−ジグリシジル−N,N −ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルファン、ビス(トリエトキシシリルエチルトリレン)ポリスルファン、メチルメトキシシリコーン直鎖状オリゴマー、メチルメトキシシリコーン環状オリゴマー、ジメトキシシリコーンオリゴマー、下記一般式(1) で示されるアルコキシシラン化合物が用いられる。この中では、下記一般式(1) で示されるアルコキシシラン化合物が、溶融粘度の上昇が少なく、バリ抑制効果が大きいことから好ましく、例えば、1,3,5−N−トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5 −N−トリス(3−メチルジメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5−N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート等が好ましいものとして挙げられる。
【0007】
【化3】


【0008】(但し、X1、X2、X3は、下記一般式(2)で示される1種又は2種以上の基からなる。)
【0009】
【化4】


【0010】(但し、R1、R2は-CH3、-C2H5 から選ばれる1種又は2種であり、R1とR2は同一であっても良い。n は1〜5の整数、m は1〜3の整数である。)又、本発明では、アルコキシシラン化合物(B) の加水分解生成物及び/又は重合物を用いても構わない。アルコキシシラン化合物(B) の配合量としては、ポリアリーレンサルファイド樹脂(A)100重量部に対し、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部が用いられる。配合量が0.01重量部未満では所期の効果が得られず、10重量部を越えると成形時のガス発生量が多くなるだけで、ガス低減効果がこれ以上に良くならず、好ましくない。
【0011】又、本発明の樹脂組成物には、著しく本発明の効果を阻害しない範囲で、一般的に用いられる1分子中に1個のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物を併用しても構わない。例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0012】本発明の樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、寸法安定性(耐変形、そり)、電気的性質等の性能の改良のため無機充填物を配合することもでき、これには目的に応じて繊維状、粉粒状、板状の充填材が用いられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填材はガラス繊維、又はカーボン繊維である。なおポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維物質も使用することができる。一方、粉粒状充填材としてはカーボンブラック、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、硅藻土、ウォラストナイトの如き硅酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナの如き金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムの如き金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。又、板状充填材としてはマイカ、ガラスフレーク、各種の金属箔が挙げられる。これらの無機充填材は一種又は二種以上併用することができる。これらの充填材の使用にあたっては必要ならば、本発明の効果を阻害しない範囲で収束剤又は表面処理剤を使用してもかまわない。この例を示せば、エポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物である。これ等の化合物はあらかじめ表面処理又は収束処理を施して用いるか、又は材料調整の際同時に添加してもよい。無機充填材の使用量は(A) 成分のPAS樹脂 100重量部あたり10〜300 重量部であり、10重量部より過小の場合は機械的強度がやや劣り、過大の場合は成形作業が困難になるほか、成形品の機械的強度にも問題がでる。
【0013】又、本発明の樹脂組成物には、その目的に応じ前記成分の他に、他の熱可塑性樹脂を補助的に少量併用することも可能である。ここで用いられる他の熱可塑性樹脂としては、高温において安定な熱可塑性樹脂であれば、いずれのものでもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸とジオール或いはオキシカルボン酸などからなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン共重合体、グリシジルメタクリレート/オレフィン共重合体、などを挙げることができる。又、これらの熱可塑性樹脂は2種以上混合して使用することもできる。
【0014】更に、本発明に使用する成形品組成物として、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、すなわち難燃剤、染・顔料等の着色剤、酸化防止剤等の安定剤、潤滑剤および結晶化促進剤、結晶核剤等も要求性能に応じ適宜添加することができる。
【0015】本発明の樹脂組成物の調製は、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により調製することができる。一般的には必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機を使用して溶融混練し、押出して成形用ペレットとすることができる。また、樹脂成分を溶融押出し、その途中でガラス繊維の如き無機成分を添加配合するのも好ましい方法の一つである。
【0016】このようにして得た材料ペレットは、射出成形、押出し成形、真空成形、圧縮成形等、一般に公知の熱可塑性樹脂の成形法を用いて成形することができるが、最も好ましいのは射出成形である。
【0017】
【実施例】次に実施例、比較例で本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例および比較例に用いた各(A) 、(B) 、(B')、無機充填材の具体的物質は以下の通りである。
(A) ポリアリーレンサルファイド(PPS)樹脂呉羽化学工業(株)製、フォートロンKPS(B) 1分子中に2個以上のアルコキシシリル基を持つアルコキシシラン化合物B-1 :1,3,5 −N−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートB-2 :N,N −ビス(3−(トリメトキシシリル)プロピル)アミン(B')1分子中に1個のアルコキシシリル基を持つアルコキシシラン化合物B'-1:γ−アミノプロピルトリエトキシシランB'-2:γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランガラスファイバー日本電気硝子(株)製、13μmφガラスファイバーまた、実施例および比較例で評価した評価方法は以下の通りである。
バリ特性厚さ3mm、直径80mmの円盤(中央ピンゲート)の円周上に厚さ20μmのバリが発生する金型を用いて、以下の成形条件で成形した。バリの長さは、2.5 次元寸法測定器にて測定した。
成形条件 金型温度 :150 ℃ シリンダー温度 :320 ℃ 射出圧力 :成形品の充填が完了する最低の圧力 射出速度 :3m/分流動性厚さ0.2mm 、幅5mmのバーフローにて、流動長を測定した。成形条件は以下の通りである。
シリンダー温度:310 ℃金型温度:150 ℃射出圧力:98MPa引張り強さASTM D-638 に準じて、引張り強さを測定した。
実施例1〜4および比較例1〜4表1に示す各成分をシリンダー温度 320℃の二軸押出機にて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを作り、上記評価を行った。結果を表1に示す。
【0018】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】(A) ポリアリーレンサルファイド樹脂 100重量部に対し、(B) 1分子中に2個以上のアルコキシシリル基を有するアルコキシシラン化合物0.01〜10重量部を配合してなるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】(B) アルコキシシラン化合物が下記一般式(1)で示されるものである請求項1記載のポリアリーレンサルファイド樹脂組成物。
【化1】


(但し、X1、X2、X3は、下記一般式(2)で示される1種又は2種以上の基からなる。)
【化2】


(但し、R1、R2は-CH3、-C2H5 から選ばれる1種又は2種であり、R1とR2は同一であっても良い。n は1〜5の整数、m は1〜3の整数である。)

【公開番号】特開2000−80273(P2000−80273A)
【公開日】平成12年3月21日(2000.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−249523
【出願日】平成10年9月3日(1998.9.3)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】